説明

膵β細胞保護剤

【課題】慢性的な高血糖による酸化ストレスから膵β細胞を保護し、膵臓疲弊抑制、糖質代謝改善、脂質代謝改善、タンパク質代謝改善、高脂血症予防・改善、血圧上昇抑制、メタボリックシンドローム予防・改善に寄与する膵β細胞保護剤を提供する。
【解決手段】フラボノイド系化合物またはタンニン酸を膵β細胞保護剤の有効成分とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膵臓のインスリン分泌細胞であるβ細胞の、高血糖による酸化ストレスからおこる細胞死を防止し、健常なインスリン分泌を維持するための膵β細胞保護剤に関する。膵β細胞を保護することによりインスリン分泌維持することは、血糖上昇を抑制し糖尿病の予防・改善に資するのみならず、膵臓疲弊抑制、糖質代謝改善、脂質代謝改善、タンパク質代謝改善、高脂血症予防・改善、血圧上昇抑制、メタボリックシンドローム予防・改善等の効果が期待される。
【背景技術】
【0002】
近年、我国においては過食・肥満・運動不足等のライフスタイルの変化により、糖尿病患者数が急速に増加している。糖尿病患者数は平成14年度に行われた厚生省「糖尿病実態調査」によれば、糖尿病が強く疑われる人は740万人(平成9年の調査から50万人増)、糖尿病の可能性を否定できない人を含めると1,620万人(平成9年の調査から150万人増)と推計されている。年齢別では、男女とも50歳以上の糖尿病有病者が極めて多い。また、厚生省長期慢性疾患総合研究事業糖尿病疫学研究班の1999年の報告書に基づいた推計によると、現在の増加傾向がこのまま続くと仮定した場合、2010年の糖尿病有病者は男性約520万人、女性560万人、合計1,080万人となることが予想されている。
【0003】
慢性的な高血糖状態は、グリケーション反応・ミトコンドリア電子伝達系・ヘキソサミン経路を介して、活性酸素種(ROS)の過剰発生を引き起こし強力な酸化ストレスとして作用する。抗酸化系の酵素発現が極めて弱い膵島は、酸化ストレスに対して脆弱なため、膵β細胞のアポートーシスを誘発するだけでなく、PDX-1の発現量低下に伴いインスリン合成・分泌障害をきたす。このような酸化ストレスによる膵β細胞の機能低下は「膵β細胞糖毒性」と呼ばれ、高血糖の更なる悪化を引き起こし、糖尿病病態が遷延化・重篤化される可能性が指摘されている。しかしながら、現在の糖尿病有病者の半数以上が全く治療行為を行っていないのが現状であるため、これらの有病者は元より過食・肥満・運動不足等の生活習慣を持つ人が、日々の食生活の中で高血糖による酸化ストレスを低減し膵島の疲弊を保護するための対策を講じることは必要不可欠である。
【0004】
生体内におけるインスリンの作用を以下にまとめた(非特許文献1)。
骨格筋における、糖取込促進・グリコーゲン合成促進・グリコーゲン分解促進・タンパク合成促進
肝臓における、グリコーゲン合成促進・グリコーゲン分解促進・糖新生酵素発現低下・中性脂肪合成促進
脂肪細胞における、糖取込促進・中性脂肪合成促進・中性脂肪分解抑制・アディポサイトカイン分泌制御
【0005】
インスリンのこれらの作用を鑑みると、膵β細胞を保護し正常なインスリン分泌を維持することは、血糖値の上昇を抑制し糖尿病予防改善として極めて重要であるだけでなく、糖代謝・脂質代謝・タンパク質代謝を改善し、高脂血症予防改善、血圧上昇抑制、メタボリックシンドローム(肥満、耐糖能異常、高脂血症、高血圧などの複数が重複して発症している状態、代謝症候群ともいう)予防・改善にも有効であることは明らかである。これまでに、糖尿病の治療薬や血糖値効果作用を目的とした健康食品は数多く開発されているが、膵β細胞の保護を目的とした健康食品は他に類を見ない。
これまでに知られている膵β細胞保護剤としては、GPR40受容体機能調節化合物(特許文献1、2、4)およびペプチド(特許文献3)、プロブコール(特許文献5)等を挙げることができる。しかしながら、これまで提示されてきた膵β細胞保護剤において、植物由来の
食品原材料から分離した抽出物や成分が無かったことから、医薬品または飲食品などに含有させて安全に摂取することができる食品原材料から分離した抽出物や植物に含有される化合物を有効成分とする膵β細胞保護剤が求められている。
【0006】
また、血糖上昇抑制剤としては、大豆イソフラボン(特許文献10)、ヘスペリジン、ナリンジン、ナリンゲニン、ルチン(特許文献11)が報告されている。フラボノイド、大豆イソフラボン、植物抽出物が膵β細胞保護作用を有するという報告は無い。また、血糖上昇抑制効果を有する植物抽出物はとしては、サラシア・レティキュラータ、トンブリ、タラノキ、サトウダイコン、トチ、ギムネマ、ニガウリ、ナンバンカラスウリ、セネガ、ホウレンソウ、フダンソウ、イノコズチおよびカシュウナッツ(特許文献12)、クワ(特許文献6)、ヨモギ(特許文献7)、ハイビスカス(特許文献8)が報告されている。しかしながら、フラボノイド、タンニン酸およびそれらを含む植物抽出物が膵β細胞保護作用を有するという報告は無い。
【特許文献1】特開2005-15461号公報
【特許文献2】特開2005-35966号公報
【特許文献3】特開2004-275001号公報
【特許文献4】特開2004-277397号公報
【特許文献5】特開2002-128664号公報
【特許文献6】特開2004-256522号公報
【特許文献7】特開2004-67600号公報
【特許文献8】特開2003-252766号公報
【特許文献9】特開2003-196号公報
【特許文献10】特開2003-211号公報
【特許文献11】特表2002-524480号公報
【特許文献12】特開平11-49692号公報
【非特許文献1】インスリン抵抗性, 文光堂, p13, 2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、慢性的な高血糖における酸化ストレスから膵β細胞を保護し、膵臓疲弊抑制、糖質代謝改善、脂質代謝改善、タンパク質代謝改善、高脂血症予防・改善、血圧上昇抑制、メタボリックシンドローム予防・改善に寄与する膵β細胞保護剤、並びにそれを含む飲食品や医薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、アカセチン(acacetin)、6"-O-アセチルダイジン(6"-O-acetyldaidzin)、6"-O-アセチルグリシチン(6"-O-acetylglycitin)、アピゲニン(apigenin)、アストラガリン(astragalin), バイカリン(baicalin), 5,6-ベンゾフラボン(5,6-benzoflavone)、(-)-カテキンガレート((-)-catechin gallate)、シアニジン(cyanidin)、シアニン(cyanin)、ダイゼイン(daidzein)、ダイジン(daidzin)、ジオスメチン(diosmetin)、(-)-エピカテキン((-)-epicatechin)、(-)-エピガロカテキンガレート((-)-epigallocatechin gallate)、ゲニステイン(genistein)、ゲニスチン(genistin)、ゲンクワニン(genkwanin)、α-グルコシルルチン(α-glucosylrutin)、ヘスペレチン(hesperetin)、ヘスペリジンメチルカルコン(hesperidin methyl chalcone)、6"-O-マロニルグリシチン(6"-O-malonylglycitin)、モリン(morin)、ミリシトリン(myricitrin)、ナリンゲニン(naringenin)、ネオヘスペリジンジヒドロカルコン(neohesperidin dihydrochalcone)、フロリジン(phloridzin)、ケルシトリン(quercitrin)などのフラボノイド系化合物、およびタンニン酸(tannic acid)ならびにこれらを含む植物抽出物に優れた膵β細胞保護作用のあることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)フラボノイド系化合物またはタンニン酸を有効成分とする膵β細胞保護剤。
(2)前記フラボノイド系化合物がアカセチン(acacetin)、6"-O-アセチルダイジン(6"-O-acetyldaidzin)、6"-O-アセチルグリシチン(6"-O-acetylglycitin)、アピゲニン(apigenin)、アストラガリン(astragalin)、バイカリン(baicalin)、5,6-ベンゾフラボン(5,6-benzoflavone)、(-)-カテキンガレート((-)-catechin gallate)、シアニジン(cyanidin)、シアニン(cyanin)、ダイゼイン(daidzein)、ダイジン(daidzin)、ジオスメチン(diosmetin)、(-)-エピカテキン((-)-epicatechin)、(-)-エピガロカテキンガレート((-)-epigallocatechin gallate)、ゲニステイン(genistein)、ゲニスチン(genistin)、ゲンクワニン(genkwanin)、α-グルコシルルチン(α-glucosylrutin)、ヘスペレチン(hesperetin)、ヘスペリジンメチルカルコン(hesperidin methyl chalcone)、6"-O-マロニルグリシチン(6"-O-malonylglycitin)、モリン(morin)、ミリシトリン(myricitrin)、ナリンゲニン(naringenin)、ネオヘスペリジンジヒドロカルコン(neohesperidin dihydrochalcone)、フロリジン(phloridzin)またはケルシトリン(quercitrin)である(1)の膵β細胞保護剤。
(3)フラボノイド系化合物またはタンニン酸を含む植物抽出物である(1)または(2)の膵β細胞保護剤。
(4)前記植物抽出物が、胚芽除去脱脂大豆、脱脂大豆胚芽、クワ(Morus bombycis)、ヨモギ(Artemisia princeps)、ハイビスカス(Hibiscus sabdariffa)またはリュウキュウベンケイ(Kalanchoe integra)の抽出物である(1)〜(3)のいずれかの膵β細胞保護剤。
(5)フラボノイド系化合物またはタンニン酸が化学合成された化合物である(1)または(2)の膵β細胞保護剤。
(6)(1)〜(5)のいずれかの膵β細胞保護剤を含有する飲食品。
(7)膵β細胞保護のために用いるものであるという表示を付した、(6)の飲食品。
(8)膵臓疲弊抑制、糖質代謝改善、脂質代謝改善、タンパク質代謝改善、高脂血症改善、血圧上昇抑制、メタボリックシンドローム予防・改善から選ばれる少なくともひとつの効果を有する旨の表示を付した、(6)または(7)の飲食品。
(9)(1)〜(5)のいずれかの膵β細胞保護剤を含有する医薬。
(10)膵臓疲弊、糖質代謝異常、脂質代謝異常、タンパク質代謝異常、高脂血症、高血圧、メタボリックシンドロームから選ばれる少なくともひとつの症状を改善するために使用される、(9)の医薬。
【発明の効果】
【0010】
本発明により提供される膵β細胞保護剤は、膵臓疲弊抑制、糖質代謝改善、脂質代謝改善、タンパク質代謝改善、高脂血症改善、血圧上昇抑制、メタボリックシンドローム予防・改善などの効果を有し、膵臓疲弊抑制剤、糖質代謝改善剤、脂質代謝改善剤、タンパク質代謝改善剤、高脂血症改善剤、血圧上昇抑制剤、メタボリックシンドローム予防・改善剤として使用されうる。
さらに、本発明の膵β細胞保護剤の有効成分は、天然物に由来するため、安全性が高く、日常的に摂取することが可能である。従って、飲食品として継続的に摂取することができ、また、医薬品としての利用も可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、フラボノイド系化合物またはタンニン酸を含有した膵β細胞保護剤を提供するものである。ここで、「膵β細胞保護」とは、酸化ストレスなどによる膵β細胞の疲弊や細胞死およびそれに伴うインスリン分泌低下などの症状から、膵β細胞を保護することをいう。
【0012】
フラボノイド系化合物とはフェニルクロマン(phenylchroman, C6-C3-C6)構造を基本構造に持つ芳香族化合物を意味する。具体的には、下記の一般式1〜6で示されるような化合物が挙げられる。なお、本発明の膵β細胞保護剤並びにそれを含む医薬及び飲食品は、複数のフラボノイド系化合物を含むものやフラボノイド系化合物とタンニン酸との組み合わせであってもよい。
【0013】
【化1】

一般式1で表されるフラボノイド系化合物としては、アカセチン、アピゲニン、アストラガリン、バイカリン、ジオスメチン、ゲンクワニン、α-グルコシルルチン、ヘスペレチン、モリン、ミリシトリン、ナリンゲニン、ケルシトリンなどが挙げられる。
各化合物について、一般式1におけるR1〜R10及びXは表1に示すとおりである。
【0014】
【化2】

一般式2で表されるフラボノイド系化合物としては、フロリジン、ネオヘスペリジンジヒドロカルコン、ヘスペリジンメチルカルコンなどが挙げられる。
これらの化合物について、一般式2におけるR1〜R11は表1に示すとおりである。
【0015】
【化3】

一般式3で表されるフラボノイド系化合物としては、シアニジン、シアニンなどが挙げられる。
これらの化合物について、一般式3におけるR1〜R10は表1に示すとおりである。
【0016】
【化4】

一般式4で表されるフラボノイド系化合物としては、(-)-カテキンガレート、(-)-エピカテキン、(-)-エピガロカテキンガレートなどが挙げられる。
これらの化合物について、一般式4におけるR1〜R10は表1に示すとおりである。
【0017】
【化5】

一般式5で表されるフラボノイド系化合物としては、6"-O-アセチルダイジン、6"-O-アセチルグリシチン、ダイゼイン、ダイジン、ゲニステイン、ゲニスチン、6"-O-マロニルグリシンなどが挙げられる。
これらの化合物について、一般式5におけるR1〜R10は表1に示すとおりである。
【0018】
【化6】

一般式6で表されるフラボノイド系化合物としては、5,6,-ベンゾフラボンなどが挙げられる。
この化合物について、一般式6におけるR1〜R11は表1に示すとおりである。
【0019】
【化7】

タンニン酸は式7で示される。
【0020】
【表1】

【0021】
これらのフラボノイド系化合物またはタンニン酸は化学合成されたものでもよいが、植物などに含まれるものであってもよい。植物に含まれるフラボノイド系化合物またはタンニン酸を用いる場合、フラボノイド系化合物またはタンニン酸は必ずしも精製されたものを用いる必要はなく、フラボノイド系化合物またはタンニン酸を含む抽出画分を用いてもよい。フラボノイド系化合物もしくはタンニン酸またはそれを含む植物抽出物を得る原料としては、これらを含む植物の成熟した、または未成熟の果実、果皮、種子、葉、茎、葉柄、枝、根、花、全体等が用いられるが、その中でも葉または果実が好ましく用いられる
。また、抽出物には、植物体自体を乾燥させた乾燥物、粉砕物、植物体自体を圧搾抽出することによって得られる搾汁、粗抽出物、抽出物の精製物など全てが含まれる。
以下に、フラボノイド系化合物またはタンニン酸を含む植物を例示する。ただし、フラボノイド系化合物またはタンニン酸を含むものである限り、下記の植物には限定されない。
【0022】
後述の参考例および図7に示すように、胚芽除去脱脂大豆および脱脂大豆胚芽はダイジン、ダイゼイン、ゲニスチンおよびゲニステインを含有する。
また、クワ(Morus bombycis)がケルシトリン、アストラガリンおよびタンニン酸を含有することが、Electrophoresis 2003, 24, 1236-1241およびArch Pharm Res. 1999 Feb;22(1):81-5.に開示されている。
また、ヨモギ(Artemisia princeps)がタンニン酸を含有することがFitoterapia 73(7-8):557-63(2002)および薬学雑誌1986 Oct;106(10):894-9に開示されている。
また、ハイビスカス(Hibiscus sabdariffa)がエピガロカテキンガレートおよびシアニジンを含有することがMOLECULAR CARCINOGENESIS 43:86-99 (2005)およびJ Clin Pharmacol. 2005 Feb;45(2):203-10.に開示されている。
さらに、リュウキュウベンケイ(Kalanchoe integra)がケルシトリンおよびアストラガリンを含有することがPhytochemistry 24(66):2829-2835 (2005)に開示されている。
したがって、フラボノイド系化合物またはタンニン酸を含むこれらの植物の抽出物を膵β細胞保護剤として用いることができる。
【0023】
本発明における抽出物の製造方法は特に限定されないが、例えば、上記フラボノイド系化合物またはタンニン酸を含む植物体を水または有機溶剤あるいはそれらの混合溶剤で抽出した後、得られた抽出物を更に有機溶剤を用いた分配による精製あるいは吸着樹脂による精製を行った場合に、質のよい抽出物が得られる。得られた上記フラボノイド系化合物またはタンニン酸含有抽出物は、適宜濃縮、精製、滅菌、乾燥等を施して使用される。ここで用いられる有機溶剤としては、例えば、酢酸エチル、グリセリン、1,3-ブチレングリコール、クロロホルム、ジクロロメタン等が挙げられる。好ましくは非水溶性の酢酸エチルなどを用いる。また、抽出する際の温度としては、室温あるいは加熱下で抽出してもよく、通常、1〜100℃、好ましくは20〜90℃で抽出する。
抽出物の濃縮、乾燥は抽出液そのままを濃縮、乾燥してもよく、賦型剤(例えば、乳糖、ショ糖、澱粉、サイクロデキストリン等)を添加して実施してもよい。
上記の製造方法によって、上記フラボノイド系化合物またはタンニン酸の含有量が5〜90重量%、特に10〜40重量%である、上記フラボノイド系化合物またはタンニン酸含有植物体の抽出物が得られる。こうして得られた抽出物は水溶性が高いため、製剤が容易であるという利点も有する。また、経口で投与した場合には、この有効成分である抽出物は沈殿しにくいため、小腸まで到達しやすく、吸収もされやすいため、高い効果が期待できる。
【0024】
また、本発明は、上記膵β細胞保護剤を含有する飲食品を提供する。
特に、フラボノイド系化合物もしくはタンニン酸を含有する植物またはその抽出物を用いた場合、本発明の膵β細胞保護剤は安全性に優れており、飲食品の形態で簡便に使用することができる。
本発明の「飲食品」は、飲食品全般を意味するが、いわゆる健康食品を含む一般食品の他、厚生労働省の保健機能食品制度に規定される特定保健用食品や栄養機能食品等の保険機能食品などの保険機能食品をも含むものであり、さらにサプリメント、飼料、食品添加物等も本発明の飲食品に包含される。
【0025】
本発明の膵β細胞保護剤を飲食品に使用するには、特に困難は無く、例えば、上記フラボノイド化合物もしくはタンニン酸またはその含有植物抽出物および上記植物体抽出物をそのまま、あるいは種々の栄養成分とともに、食肉加工品、水産加工品、パン、乳製品、
菓子、ゼリー、清涼飲料、水、牛乳、等の飲食品の原料に混ぜて飲食品を製造することができる。また、本発明の膵β細胞保護剤を健康食品、食品添加物、栄養補助食品などとして使用する場合、例えば慣用の手段を用いて、錠剤、カプセル、散剤、顆粒、懸濁剤、チュアブル剤、シロップ剤等の形態に調製することができる。さらに、このような飲食品を保健機能食品として提供することも可能であり、この保健機能食品には、膵β細胞保護のために用いるものであるという表示を付した飲食品、特に特定保健用飲食品なども含まれる。後述の実施例に示すように、本発明の膵β細胞保護剤は膵臓疲弊抑制、糖質代謝改善、脂質代謝改善、タンパク質代謝改善、高脂血症改善、血圧上昇抑制、メタボリックシンドローム予防・改善などの効果を併せ持っているため、これらの効果に関する表示を付することもできる。
上記飲食品における上記フラボノイド系化合物またはタンニン酸の配合量は、添加形態及び投与形態によっても異なり広い範囲から選択できるが、通常、0.5〜100重量%、好ましくは5〜90重量%配合するのが望ましい。
また、本発明の膵β細胞保護剤は飼料用途にも適用することができ、家禽や家畜等には、通常の飼料原料に配合して摂取させ又は投与することができる。
【0026】
また、上記フラボノイド系化合物またはタンニン酸含有植物自体あるいはその抽出物および上記植物体自体あるいはその抽出物を含有させる場合、それらの配合量は、添加形態及び投与形態によっても異なるが、広い範囲から選択でき、例えば飲食品の場合には、溶媒抽出乾燥物換算で、1〜100重量%、特に10〜90重量%以上配合するのが望ましい。この場合、飲食品中のフラボノイド系化合物またはタンニン酸の含量として0.5〜100重量%、好ましくは5〜90重量%となるようにすることが望ましい。
【0027】
本発明を医薬として使用する場合には、その形態は特に限定されるものではなく、上記フラボノイド系化合物またはタンニン酸単味で、または、例えば錠剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、カプセル剤、注射剤、溶液剤、懸濁剤、乳剤、クリーム剤、坐剤等として、経口又は非経口(例、局所、直腸、静脈投与等)で投与することができる。これらは、薬理学的に許容される担体や添加剤を用いて自体公知の方法により各種製剤として製剤化することができる。
用いられる製剤用担体としては、例えば、乳糖、ブドウ糖、D−マンニトール、澱粉、結晶セルロース、炭酸カルシウム、カオリン、デンプン、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、エタノール、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム塩、ステアリン酸マグネシウム、タルク、アセチルセルロース、白糖、酸化チタン、安息香酸、パラオキシ安息香酸エステル、デヒドロ酢酸ナトリウム、アラビアゴム、トラガント、メチルセルロース、卵黄、界面活性剤、白糖、単シロップ、クエン酸、蒸留水、エタノール、グリセリン、プロピレングリコール、マクロゴール、リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸ナトリウム、ブドウ糖、塩化ナトリウム、フェノール、チメロサール、パラオキシ安息香酸エステル、亜硫酸水素ナトリウム等があり、製剤の形に応じて、本発明の剤または医薬に含有して使用される。
上記医薬の場合には製剤中に上記フラボノイド系化合物またはタンニン酸を0.5〜100重量%、好ましくは5〜90重量%配合するのが望ましい。また、上記フラボノイド系化合物またはタンニン酸含有植物自体あるいはその抽出物および上記植物体自体あるいはその抽出物を含有させる場合、その配合量は、溶媒抽出乾燥物換算で、製剤中に1〜100重量%、好ましくは10〜90重量%配合するのが望ましい。この場合、医薬中のフラボノイド系化合物またはタンニン酸の含量として0.5〜100重量%、好ましくは5〜90重量%となるようにすることが望ましい。
【0028】
本発明の医薬において、上記フラボノイド系化合物またはタンニン酸の投与量は患者の病態、年齢、投与方法などによって異なるが、成人の1日量として通常0.01〜20 g/day程
度、好ましくは0.05〜10 g/day程度、より好ましくは0.1〜3 g/day程度とし、これを必要に応じて1〜5回に分割して投与する。
本発明の医薬は、例えば、膵臓疲弊、糖質代謝異常、脂質代謝異常、タンパク質代謝異常、高脂血症、高血圧、メタボリックシンドロームから選ばれる少なくともひとつの症状を改善するために使用することができる。
【0029】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に例示するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0030】
実施例1:D-ribose誘発高血糖モデル培養系を用いたインスリン分泌活性の評価
ハムスター由来膵β細胞株であるHIT-T15細胞株(大日本製薬)を用いた高血糖モデル作製し各種フラボノイド系化合物またはタンニン酸の評価を行った。この系では、通常の培地Ham F-12(Gibco)にグルコースよりもグリケーション反応を起こしやすい還元糖であるD-riboseを添加し、膵β細胞株にグリケーションおよび酸化ストレスを誘導し、高血糖状態で認められる膵β細胞障害によく似た現象を引き起こすのが特徴である。膵β細胞保護の指標として、培養最終日におけるインスリンの分泌量を測定した。
各種フラボノイド系化合物またはタンニン酸の評価は、200 μlの30 mM D-ribose含有Ham F-12に1μlの50 μM各種フラボノイド系化合物(和光純薬)またはタンニン酸のDMSO溶液を添加し、37℃の5% CO2インキュベータ内で72時間培養した。その後、培養液を10 mM D-glucose含有100 μl KRB bufferと交換し、1時間後のKRB buffer中のインスリン濃度をインスリン測定キット(森永生科学研究所)を用いて測定した。コントロールとして、D-riboseを含まない200 μl Ham F-12に1 μlのDMSOを添加した系、またネガティブコントロールとして200 μlの30 mM D-ribose含有Ham F-12に1 μlのDMSOを添加した系を用いて同様にインスリン分泌量の測定を行い、被験試料存在下でのコントロールに対する割合(%)を算出し、膵β細胞保護作用の評価を行った。結果は、図1に示される通りである。
その結果、ネガティブコントロールではD-ribose曝露によりインスリン分泌活性が低下しているが、アカセチン、6"-O-アセチルダイジン、6"-O-アセチルグリシチン、アピゲニン、アストラガリン、バイカリン、5,6-ベンゾフラボン、(-)-カテキンガレート、シアニジン、シアニン、ダイゼイン、ダイジン、ジオスメチン、(-)-エピカテキン、(-)-エピガロカテキンガレート、ゲニステイン、ゲニスチン、ゲンクワニン、α-グルコシルルチン、ヘスペレチン、ヘスペリジンメチルカルコン、6"-O-マロニルグリシチン、モリン、ミリシトリン、ナリンゲニン、ネオヘスペリジンジヒドロカルコン、フロリジン、ケルシトリン、およびタンニン酸を加えたときはインスリン分泌活性が回復した。また、これらのフラボノイド系化合物またはタンニン酸の効果は、比較対象物質であるN-acetyl-cysteine(NAC)よりも高かった。なお、NACは膵β細胞保護作用のある物質として報告されている(PNAS 99(19): 12363-12368, 2002)。
また、同様に最終濃度50 μg/mlのクワ葉・ヨモギ葉・ハイビスカス花弁・リュウキュウベンケイ葉の抽出物DMSO溶液のインスリン分泌活性を測定したところ、それぞれポジティブコントロールの10〜40%のインスリン分泌活性を示した(図2)。これらの結果は、いずれも膵β細胞HIT-T15細胞の機能を保護したためと考えられる。
【0031】
実施例2:STZ誘発糖尿病モデルマウスを用いた血糖値上昇抑制効果の評価
雄性C57BL/6Jマウス7週令(日本チャールズリバー)に、5日間、100 mg/kgのゲニステイン、または1 g/kg/dayの胚芽除去脱脂大豆、脱脂大豆胚芽、クワ葉、ヨモギ葉、ハイビスカス花弁、リュウキュウベンケイ葉抽出物のCMC(0.5% カルボキシルメチルセルロース)溶液を経口投与した後、直ちに40 mg/kg/dayのSTZ(streptozotocin)5 mMクエン酸溶液(pH4.5)を腹腔内投与することによって、STZ由来の酸化ストレスによる膵臓の段階的な疲弊を引き起こし、各種抽出物の膵β細胞保護作用を調べた。膵β細胞保護作用の指標として血糖値を測定した。結果は、図3〜4に示される通りである。
その結果、ゲニステイン、胚芽除去脱脂大豆、脱脂大豆胚芽、クワ葉、ヨモギ葉、ハイビスカス花弁、リュウキュウベンケイ葉抽出物を投与したマウスは、STZのみを投与したマウスより、血糖値の上昇を低く抑えた。これは、STZによる膵β細胞の疲弊を保護したためと考えられる。
【0032】
実施例3:過食モデルdb/dbマウスを用いた糖代謝・脂質代謝・タンパク質代謝改善効果の評価
食欲抑制ホルモンであるレプチンの受容体異常マウスであるdb/dbマウスは、過食、肥満、インスリン抵抗性により、膵β細胞の萎縮、壊死をきたすモデルである。一週間の予備飼育後、雄性db/dbマウス6週令(日本チャールズリバー)に、2%ハイビスカス抽出物およびダイゼイン・ゲニステイン高含有物として2%発酵大豆抽出物(キッコーマン、SoyAct)を5週間自由摂食させた。5週目に、12時間絶食した後剖検を行い、血糖値、血中中性脂肪濃度(TG)、血中総コレステロール濃度(TCHO)、脂肪重量(皮下脂肪+副睾丸周囲脂肪+腎周囲脂肪)の測定を行い、膵β細胞の保護効果による糖代謝・脂質代謝改善効果の評価を行った。餌の組成を表2に示す。
【0033】
【表2】

【0034】
2%ハイビスカス抽出物および2%発酵大豆抽出物の摂食によって、血糖値の上昇が抑制された。また、この他の効果として、2%ハイビスカス抽出物の摂食群ではTGの増加が抑制され、2%発酵大豆抽出物の摂食群ではTCHOおよび皮下脂肪重量の増加抑制効果が認められた(図5)。従って、ハイビスカスおよびダイゼイン・ゲニステインは、糖代謝改善効果のみならず脂質代謝の改善効果も有することが確認された。
【0035】
実施例4:ゲニステインの膵β細胞内活性酸素種(ROS)発生抑制効果の評価
実施例1と同様の方法で膵β細胞株HIT-T15細胞を培養し、コンフルーエントに達したところで30 mM D-ribose含有Ham F-12培地に交換するとともに実施例1で最も効果の高かった50 μM ゲニステインを添加した。比較のため、実施例1同様のインスリン分泌活性評価で効果が認められなかった50 μM ケルセチン(quercetin)の評価も行った。48時間後、ROS検出用蛍光プローブであるCM-H2DCFDA (MolecularProbes)を10 μMになるように添加し、30分間インキュベートした。その後、PBSを用いて細胞を洗浄し、ピペッティングにより細胞を剥がしPBSに懸濁させ、フローサイトメーター(Becton Dicknson、FACSCalibur)に供し細胞の蛍光強度の測定を行った(図6)。
その結果、ゲニステイン添加系の細胞の蛍光強度は、コントロール(Ham F-12培地のみ)の蛍光強度とネガティブコントロール(D-riboseのみの添加)の蛍光強度のほぼ中間に位置し、ネガティブコントロールに比べて細胞内のROSの発生を抑えていることが認めら
れた。また、比較として用いたケルセチンでは蛍光強度はネガティブコントロールとほぼ等しくROSの発生を抑制する効果の無いことが分かった。
【0036】
参考例:胚芽除去脱脂大豆および脱脂大豆胚芽におけるフラボノイド化合物の分析
胚芽除去脱脂大豆および脱脂大豆胚芽に含有されるダイジン・ダイゼイン・ゲニスチン・ゲニステインの分析はフォトダイオードアレー検出器HPLCを用いて行った。分析条件は以下の通りである。
カラム Shiseido Fine Chemical 5C18 Paked Column (4.6mm I.D. × 250 mm)
カラム温度 30℃
流速 1 ml/min
送液 0.1% TFA-CH3CN (0-50%),0.1% TFA-H2O (100-50%), 55 min

その結果、胚芽除去脱脂大豆および脱脂大豆胚芽のメタノール抽出物はダイジン、ダイゼイン、ゲニスチンおよびゲニステインを含有していることがわかった(図7)。
【0037】
参考例2:クワ葉、ヨモギ葉、ハイビスカス花弁、リュウキュウベンケイ葉からのフラボノイド含有画分の抽出
クワ葉、ヨモギ葉、ハイビスカス花弁、リュウキュウベンケイ葉からのフラボノイド含有画分の抽出は、図8に示す手順で行った。すなわち、それぞれの植物素材を90℃の水に30分間浸し、室温(25℃)まで冷却後、等量の酢酸エチルと激しく混合し酢酸エチル層をフラボノイド画分とした。このフラボノイド画分を遠心真空乾燥機を用いて乾燥させそれぞれの植物素材の抽出物とし、いずれもDMSOに溶解して用いた。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】実施例1の各種フラボノイド系化合物またはタンニン酸のインスリン分泌活性回復作用の結果を示すグラフである。
【図2】実施例1の植物抽出物のインスリン分泌活性回復作用の結果を示すグラフである。
【図3】リュウキュウベンケイ葉の血糖値上昇抑制作用の結果を示すグラフである。
【図4】実施例2のハイビスカス花弁・クワ葉・ヨモギ葉・胚芽除去脱脂大豆・脱脂大豆胚芽・ゲニステインの血糖値上昇抑制作用の結果を示すグラフである。
【図5】db/dbマウスにおける血糖値・TG・TCHO・皮下脂肪重量の測定結果を示すグラフである。
【図6】フラボノイド系化合物(ゲニステイン、ケルセチン)のROS発生抑制活性を示すグラフである。
【図7】胚芽除去大豆におけるフラボノイド系化合物の分析結果を示す図である。
【図8】クワ葉、ヨモギ葉、ハイビスカス花弁、リュウキュウベンケイ葉からのフラボノイド含有画分の抽出方法を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラボノイド系化合物またはタンニン酸を有効成分とする膵β細胞保護剤。
【請求項2】
前記フラボノイド系化合物がアカセチン(acacetin)、6"-O-アセチルダイジン(6"-O-acetyldaidzin)、6"-O-アセチルグリシチン(6"-O-acetylglycitin)、アピゲニン(apigenin)、アストラガリン(astragalin)、バイカリン(baicalin)、5,6-ベンゾフラボン(5,6-benzoflavone)、(-)-カテキンガレート((-)-catechin gallate)、シアニジン(cyanidin)、シアニン(cyanin)、ダイゼイン(daidzein)、ダイジン(daidzin)、ジオスメチン(diosmetin)、(-)-エピカテキン((-)-epicatechin)、(-)-エピガロカテキンガレート((-)-epigallocatechin gallate)、ゲニステイン(genistein)、ゲニスチン(genistin)、ゲンクワニン(genkwanin)、α-グルコシルルチン(α-glucosylrutin)、ヘスペレチン(hesperetin)、ヘスペリジンメチルカルコン(hesperidin methyl chalcone)、6"-O-マロニルグリシチン(6"-O-malonylglycitin)、モリン(morin)、ミリシトリン(myricitrin)、ナリンゲニン(naringenin)、ネオヘスペリジンジヒドロカルコン(neohesperidin dihydrochalcone)、フロリジン(phloridzin)またはケルシトリン(quercitrin)である請求項1に記載の膵β細胞保護剤。
【請求項3】
フラボノイド系化合物またはタンニン酸を含む植物抽出物である請求項1または2に記載の膵β細胞保護剤。
【請求項4】
前記植物抽出物が、胚芽除去脱脂大豆、脱脂大豆胚芽、クワ(Morus bombycis)、ヨモギ(Artemisia princeps)、ハイビスカス(Hibiscus sabdariffa)またはリュウキュウベンケイ(Kalanchoe integra)の抽出物である請求項1〜3のいずれか一項に記載の膵β細胞保護剤。
【請求項5】
フラボノイド系化合物またはタンニン酸が化学合成された化合物である請求項1または2に記載の膵β細胞保護剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の膵β細胞保護剤を含有する飲食品。
【請求項7】
膵β細胞保護のために用いるものであるという表示を付した、請求項6に記載の飲食品。
【請求項8】
膵臓疲弊抑制、糖質代謝改善、脂質代謝改善、タンパク質代謝改善、高脂血症改善、血圧上昇抑制、メタボリックシンドローム予防・改善から選ばれる少なくともひとつの効果を有する旨の表示を付した、請求項6または7に記載の飲食品。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の膵β細胞保護剤を含有する医薬。
【請求項10】
膵臓疲弊、糖質代謝異常、脂質代謝異常、タンパク質代謝異常、高脂血症、高血圧、メタボリックシンドロームから選ばれる少なくともひとつの症状を改善するために使用される、請求項9に記載の医薬。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−7452(P2008−7452A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−178549(P2006−178549)
【出願日】平成18年6月28日(2006.6.28)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】