説明

膵液による膵管内乳頭粘液性腺癌および膵臓癌の検出法及び検出キット

【課題】膵管内乳頭粘液性腺癌および膵臓癌(特に上皮内癌)の侵襲性が低い方法で精度よく検出し、そのためのキットを提供する。
【解決手段】膵液中のKL-6を測定することにより膵管内乳頭粘液性腺癌または膵臓癌(特に上皮内癌)を検出することを特徴とする膵管内乳頭粘液性腺癌または膵臓癌の検出法。 および該検出法に用いるための、抗KL-6抗体を含む膵管内乳頭粘液性腺癌または膵臓癌の検出キット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膵管内乳頭粘液性腺癌(Intraductal Papillary Mucinous Cartinoma,IPMC)および膵臓癌(特に上皮内癌)の検出法及び検出キットに関する。
【背景技術】
【0002】
膵管内乳頭粘液性腫瘍(Intraductal papillary-mucinous tumor, IPMT)は膵管上皮に発生する腫瘍であり病理組織学的には過形成,腺種,腺癌(IPMC)に分類される。現在IPMTの良悪性の鑑別は超音波内視鏡、超音波細径プローブ、CTなどによる画像診断にて腫瘍の結節径を測定することによりなされている。しかしその診断精度は検査医の技量によるところが多く専門的な技術を要し、その診断精度は高いとはいえない。また細胞診や生検による良悪性の鑑別診断においては良好な成績が得られていない。
【0003】
KL-6は、II型肺胞上皮細胞等に発現する分子量100万以上のシアロ糖タンパク質で、クラスター9に分類されているMUC-1に属するムチンである。血清中のKL-6は、間質性肺炎のマーカーとなることが知られている(非特許文献1、特許文献1)。
【非特許文献1】Kohno N. et al., Chest 96:68-73, 1989
【特許文献1】特開昭62−297755
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、IPMCおよび膵臓癌(特に上皮内癌)を検出する方法及びそのためのキットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、鋭意研究した結果、膵液中のKL-6を測定することにより、IPMCを検出できること、及び、IPMTの良悪性の鑑別が明確に分類できることを見出し、本発明を完成した。また膵臓癌(特に上皮内癌)の診断においても前述のとおり有用な可能性が高い。従って、本発明は、膵液中のKL-6を測定することによりIPMCまたは膵臓癌(特に上皮内癌)を検出することを特徴とする膵管上皮由来の悪性腫瘍(IPMCまたは膵臓癌)の検出法を提供する。
【0006】
また、本発明は、本発明の検出法に用いるための、抗KL-6抗体を含むIPMCまたは膵臓癌(特に上皮内癌)の検出キットを提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、IPMCを、侵襲性が低い方法で精度よく検出でき、また、IPMTの良悪性の鑑別診断が可能である。さらに現在臨床的に診断が困難な浸潤前の膵臓癌(上皮内癌)の存在診断に有用である可能性が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
<1>本発明の検出法
本発明の検出法は、膵液中のKL-6を測定することによりIPMCまたは膵臓癌(特に上皮内癌)を検出することを特徴とする。本発明の検出法は、通常には、膵液中のKL-6を測定する工程、及び、測定結果に基づきIPMCまたは膵臓癌(特に上皮内癌)を検出する工程を含む。
【0009】
膵液中のKL-6の測定は、KL-6の通常の測定法によって行うことができる。例えば、抗KL
-6抗体を用いた免疫学的方法が挙げられる。
【0010】
抗KL-6抗体は、KL-6を抗原として用いて、通常の方法により作成することができる(例えば、Kohno N. et al., Jap. J. Clin. Oncol. 18:203-26, 1988参照)。
【0011】
例えば、哺乳動物(例えばマウス、ハムスター又はウサギ)を、該哺乳動物において免疫応答を引き起こす免疫原の形態のKL-6で免疫することができる。FK-6は、公知の方法により精製することができる。
【0012】
精製されたKL-6又はその一部をアジュバントと共に免疫後、抗血清を得ることができ、所望なら抗血清からポリクローナル抗体を単離することができる。また、モノクローナル抗体を産生するには、抗体産生細胞(リンパ球)を免疫動物より回収し、標準的な細胞融合法によりミエローマ細胞と融合させて細胞を不死化し、ハイブリドーマ細胞を得る。かかる技術は当該技術分野では確立された方法であり、適当なマニュアル(Harlow et al, Antibodies: A Laboratory Mannual, 1998, Cold Spring Harbor Laboratory)に準じて行うことができる。更に、モノクローナル抗体はヒトモノクローナル抗体を産生するためのヒトB細胞ハイブリドーマ法(Kozbar et al., Immunol. Today, 4: 72, 1983)、EBV-ハイブリドーマ法(Cole et al., Monoclonal Antibody inCancer Therapy, 1985, Allen
R. Bliss, Inc., pages 77-96)、コンビナトリアル抗体ライブラリーのスクリーニング(Huse et al., Science, 246: 1275, 1989)等他の方法により作製してもよい。
【0013】
抗KL-6抗体は、ポリクローナルでもモノクローナルでもよいが、モノクローナル抗体であることが好ましい。
【0014】
免疫学的方法は、抗KL-6抗体を用いる他は通常の方法と同様でよい。免疫学的方法には、その検出方法によって、放射性物質標識物を用いる方法、ラテックス凝集方法、蛍光標識物を用いる方法、電気化学発光を用いる方法、酵素を用いる方法などがあり、特に限定されるものではないが、本発明の検出法は、安全で簡便なことから酵素免疫測定法(ELISA)または電気化学発光法(ECL)であることが好ましい。
【0015】
ELISAにおいては、その測定方式として様々な方法が知られているが、特に簡便で定量性が高い方法としてペルオキシダーゼを標識酵素として用いたサンドイッチ方式を用いることが好ましい。具体的には、抗KL-6抗体をマイクロプレートやカップの底面などの固相に吸着させる。次に、固相への自然吸着を低減するためにミルクカゼインなどのブロッキングタンパク質を吸着させる。そこへあらかじめ濃度の明らかな標準KL-6溶液と試料(必要により希釈)を加えて一定時間静置する。試料中のKL-6を固相上の抗体に免疫学的に結合させた後に固相を洗浄し、今度はペルオキシダーゼなどの酵素標識した抗体を適当な濃度で加える。一定時間静置して固相上の抗体とKL-6と標識抗体の三者の複合体を固相上に形成させる。その後に固相を洗浄して、過酸化水素とABTS等の酵素基質及び発色剤の混合溶液を添加し標識酵素による発色を得る。酵素反応を、阻害剤の添加などにより停止させた後に、その発色の吸光度をプレートリーダー等の機器により測定する。試料の吸光度と標準品の吸光度を、検量線等を用いて比較することにより試料中のFK-6量を知ることができる。
【0016】
ECLにおいては、上記ELISAの酵素標識した抗体に代えて、ルテニウム等の金属錯体で標識した抗体を用い、電圧を加えてその発光を計測する。
【0017】
以下、固相抗体と標識抗体に同一の抗KL-6マウスモノクローナル抗体(以下、抗KL-6モノクローナル抗体)を用いたサンドイッチ型酵素免疫測定法(Enzyme Immunoassay; EIA)を例として、手順を説明する。
【0018】
(1)抗KL-6モノクローナル抗体を固相化させたカップ内に検体を加える。これにより、KL-6はその量に応じてカップ内の固相抗体と結合する。
(2)次に未反応物を洗浄除去し、酵素標識抗KL-6モノクローナル抗体を加えて反応させる。これにより、結合したKL-6の量に応じた固相抗体−抗原−酵素標識抗体から成るサンドイッチ結合物を形成される。
(3)未反応酵素標識抗体を洗浄除去した後、基質液をカップ内に加える。これにより、結合した酵素標識抗体により基質が分解され発色する。
(4)固相に結合した酵素の活性は検体中のKL-6量を反映しているので、反応液の吸光度を測定し、その値を標準抗原の吸光度と対比することにより検体中のKL-6濃度を測定する。
【0019】
またKL-6濃度は、市販の測定キット、例えばエイテストKL-6(エーザイ社製)を用いて測定してもよい。
【0020】
測定結果に基づくIPMCまたは膵臓癌(特に上皮内癌)の検出は、通常には、KL-6値が健常人の値よりも大きい場合にIPMCまたは膵臓癌(特に上皮内癌)である(またはIPMCおよび膵臓癌(特に上皮内癌)である可能性が高い)と判定することにより行われる。比較においては、健常人における値のばらつきを考慮して、統計的に有意に大きい場合にIPMCであるとしてもよい。カットオフ値を標準偏差などに基づいて定め(例えば、平均値+1標準偏差)、カットオフ値との比較により判定してもよい。
【0021】
本発明の検出法は、造影CT検査によるIPMC検出と組み合わせてもよい。
【0022】
<2>本発明の検出キット
本発明の検出キットは、本発明の検出法に用いるためのIPMCまたは膵臓癌(特に上皮内癌)の検出キットであり、抗KL-6抗体を含むことを特徴とする。
【0023】
本発明の検出キットの構成は、抗KL-6抗体を用いる他は、通常の免疫学的測定キットと同様でよい。抗KL-6抗体については、本発明の検出法に関して説明した通りである。
【0024】
本発明の検出キットは、固相に固定された抗KL-6抗体、及び、酵素により標識されている抗KL-6抗体を含むことが好ましい。固相としては、通常のサンドイッチ法に使用されるものが挙げられ、形状や材質は特に限定されない。具体的には、マイクロタイタープレート、カップなどが挙げられる。抗体の固相への固定は、通常の方法に従って行うことができる。標識としては、通常のサンドイッチ法に使用されるものが挙げられ、例えば、放射性物質、ラテックス、蛍光物質、化学発光物質、金属コロイド粒子、酵素、ECLに用いる金属錯体などが挙げられる。本発明の検出キットにおいては、標識は酵素または金属錯体であることが好ましい。標識と抗体との結合は、通常の方法に従って行うことができる。本発明の検出キットにおける抗体は溶液とされたものでも、凍結乾燥されたものであってもよい。
【0025】
本発明の検出キットは、抗KL-6抗体の他に、免疫学的測定キットが通常に含む構成要素を含んでもよい。このような構成要素としては、標準抗原、試料希釈液、固相抗体(例えば、抗体を固相化したカップ)、反応用緩衝液、洗浄液、及び、標識抗体(例えば、酵素で標識した抗体)の1種または2種以上が挙げられる。標識が酵素の場合には、さらに酵素反応に必要な構成要素(例えば、酵素基質、発色剤、反応停止液など)を含んでもよい。
【0026】
本発明の検出キットは、IPMCの診断薬として使用できる。
【0027】
本発明の実施例を以下に示すが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0028】
各種膵臓疾患患者の膵液19検体(膵炎3例、IPMT12例、IPMC2例、膵癌2例)における、KL-6、CA19-9及びCEAを測定した。
【0029】
検体は、側視型十二指腸内視鏡を用い、十二指腸主乳頭に「コントアERCPカニュレ3086」を挿入し、膵管内にあることをレントゲン透視及び吸引で黄色の胆汁が引けないことにより確認し、5〜10分程度弱い陰圧をかけて3ml程度採取した。
【0030】
KL-6は、エイテストKL-6(エーザイ社製)にて測定した。CA19-9は、CA19-9 RIAキット「TFB」(FUJI REBIO DIAGNOSTICS社製)にて測定した。CEAは、アーキテクトCEA(ダイナボット社製)にて測定した。
【0031】
結果を図1〜3に示す。それぞれ図2及び3に示す、CA19-9及びCEAの測定値は、膵炎、IPMT、IPMC及び膵癌で分布が重なっており診断の指標することは難しいと考えられた。これに対し図1に示すKL-6の測定値は、膵炎、IPMTと比べてIPMC及び膵癌、特にIPMCで高値を示し、IPMC及び膵癌の指標として有用であると考えられた。KL-6値を指標とすることにより、IPMC及び膵癌が明確に検出できること、IPMTの良悪性を明確に診断できることが判明した。
【実施例2】
【0032】
更に各種膵臓疾患患者の症例数を増やして(膵炎10例、IPMT14例、IPMC4例、膵癌13例)、膵液検体におけるKL-6を測定した。結果を図4に示す。なお、実施例1における膵炎の検体のうち、検体が適切に採取されていないことが判明した1例、及び、慢性膵炎の特殊型(groove pancreatitis)と判明した1例は除外した。
【0033】
カットオフ値を膵炎患者の最高値が超えない10U/mlに設定すると、IPMTで1/14例が、IPMCで4/4例が、膵癌で5/13例がカットオフ値以上の値を示した。KL-6が高値を示す患者はIPMCあるいは膵癌であり、KL-6は特異性高くIPMC及び膵癌を検出できることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】膵液中KL-6値の分布(実施例1)
【図2】膵液中CEA値の分布
【図3】膵液中CA19-9値の分布
【図4】膵液中KL-6値の分布(実施例2)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膵液中のKL-6を測定することにより膵管内乳頭粘液性腺癌または膵臓癌を検出することを特徴とする膵管内乳頭粘液性腺癌または膵臓癌の検出法。
【請求項2】
請求項1に記載の検出法に用いるための、抗KL-6抗体を含む膵管内乳頭粘液性腺癌または膵臓癌の検出キット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−308576(P2006−308576A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−96894(P2006−96894)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 日本消化器病学会雑誌 第103巻臨時増刊号(総会) 財団法人日本消化器病学会 平成18年3月20日
【出願人】(000000217)エーザイ株式会社 (102)
【Fターム(参考)】