膵癌のバイオマーカーとしてのCXCL4L1
本発明は患者における膵癌のバイオマーカーとしてのCXCL4L1の使用に関する。特に本発明は患者における膵癌および/または膵転移の検出のための方法に関し、該方法は、該患者から得られた生物学的サンプル中のCXCL4L1遺伝子の発現レベルを決定することを含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の属する分野:
本発明は、患者における膵癌のバイオマーカーとしてのCXCL4L1の使用に関する。本発明はさらに膵癌の処置および/または膵転移の予防のための方法に関する。
【0002】
発明の背景
膵癌は膵臓の悪性腫瘍である。毎年、アメリカ合衆国で約35000人がこの疾患で診断され、ほぼ同数のヒトがこの疾患のために死亡する。ヨーロッパでは、60000人以上が毎年この癌のため診断される。それ故、膵癌は、すべての癌の中で最も高い致死率のうちの1つを有し(Jemal et al., 2007)、それ故、この致死の病体に対する効果的な処置を緊急に必要とする主要なヒトの健康問題となっている。
【0003】
血管新生は、毛細血管由来の新規血管形成を含み、この事象は一連の因子によって緊密に制御されている。現在、大人におこる血管新生活性の多くが病理学的であると広く認識されている。それ故、血管新生および浸潤は、癌のような疾患の進行に重要な役割を果たす2つの密接に関連した過程である(Folkman, 1995)。特に、固形腫瘍および他の癌の拡大は決定的に血管新生に依存し(Folkman, 1971)、抗血管新生の戦略を癌治療と結びつける(Folkman, 2001)。一方で、浸潤は腫瘍量の局所的拡大および転移の拡大に要求される。
【0004】
研究された因子の中には、CXC−ケモカインファミリー(血小板因子4に対する古くからの用語法でのPF4)に属し、血小板または巨核球だけでなく単球、T細胞、血管平滑筋細胞および内皮細胞を含む異なる他の細胞型においても合成されるCXCL4がある(Lasagni et al., 2007)。CXCL4またはそのC末端ドメイン(PF4/CTF)由来のペプチドはin vitro(Maione et al., 1990; Jouan et al., 1999; Hagedorn et al., 2001)およびin vivo(Maione et al., 1990; Sharpe et al., 1990; Hagedorn et al., 2001)で有意な抗血管新生活性を示す。それらは、in vivoで様々な腫瘍の成長を抑制し(Tanaka et al., 1997; Maione et al., 1991)、転移を抑制する(Kolber et al., 1995)。この効果はそれらの抗血管新生作用に関連し、腫瘍細胞の増殖には関連しない(Sharpe et al., 1990; Tanaka et al., 1997; Maione et al., 1991; Kolber et al., 1995)。CXCL4は、ex vivoシステムにおいて抗血管新生作用を有することが発見された最初の薬剤の一つである(Maione et al., 1990)が、CXCL4の抗血管新生シグナルを伝達する特異的な受容体のメカニズムは未だほとんど理解されていない。分子の記載された他の効果の中には、特にT細胞に対する免疫調節性の機能がある(Romagnani et al., 2005)。
【0005】
さらに、CXCL4L1と命名されたCXCL4の新規の相同体は、1898年に同定されたが、ごく最近でもこのケモカインの機能的特徴付けについてほとんどデータが報告されていない。これは、血小板に発現しているが、平滑筋細胞および内皮細胞にも発現している。近年この分子の分泌メカニズムが、CXCL4との比較で特徴づけられた(Lasagni et al., 2007)。CXCL4L1は、トランスフェクションされたHEK細胞の培地中にかなりの量が見い出されるが、CXCL4L1は見い出されない。さらに、CXCL4L1は非制御的様式で恒常的に排出されるようだが、CXCL4は有芯顆粒(DCG)からの放出を介して制御的な方法で排出される。これは、CXCL4L1が細胞からの排出および拡散について大変異なるメカニズムを有することを示唆する。
【0006】
また、CXCL4L1はCXCL4よりもさらに効果的な血管新生の有力な阻害剤として特徴づけられた。例えば、国際特許出願 国際公開公報第2006/029487号は、血管新生の予防および/または縮小のための、特に癌のような血管新生疾患または病理学的血管新生を含む血管新生障害または血管新生疾患の、処置または予防のための、CXCL4L1、フラグメント、ならびにCXCL4L1およびCXCL4L1のフラグメントの改変された型に関する。
【0007】
膵癌のこの根源的な治療の面と平行して、重要な必要性がそのような癌の診断にもある。
【0008】
実際に、癌のバイオマーカー分野の主要なゴールは、初期の癌の検出をできるようにする非侵害性の試験の開発である。癌の初期の検出は、長期生存に重要であり、特に膵癌、それは5%未満の5年生存率である世界中の癌死亡の主要な原因である、に関する。それ故、部分的には、癌が通常初期には症状を引き起こさないこと、そして診断の時点では、局所進行性または転移性の疾患を導いているため、膵癌と診断された患者は、典型的には悪い予後である。膵癌は初期のステージにおいて無症状なので、ほとんどの患者は癌が膵臓を超えて広がるまで診断されず、それが以前述べられているような低い長期生存率に大い寄与する。
【0009】
しかしながら、膵癌を含むほとんどの固形腫瘍は初期に検出および処置されれば、しばしば治癒できる。
【0010】
それ故、特に膵癌発生初期の間に膵癌を診断するための方法を開発するニーズが依然として存在している。
【0011】
発明の要約
本発明は、患者の膵癌および/または膵転移を検出する方法に関し、該方法は、該患者から得られた生物学的サンプル中のCXCL4L1遺伝子の発現レベルを決定する事を含む。
【0012】
本発明は、患者から得られた生物学的サンプル中のCXCL4L1遺伝子の発現レベルを決定する事を含む、膵癌を有する該患者における膵癌の病期分類のための方法にも関する。
【0013】
本発明は、患者における膵癌のバイオマーカーとしてのCXCL4L1の使用にも関する。
【0014】
本発明は、膵癌の処置および/または膵臓の転移の予防のために細胞障害性薬物または成長阻害剤のような抗癌剤に結合したCXCL4L1特異的結合分子にも関する。
【0015】
発明の詳細な説明:
本発明者は、CXCL4L1が、初期の正確な膵癌の検出およびCXCL4L1遺伝子の発現レベルと腫瘍のグレードの重症度との間の関連づけのために使用されうるという所見を有する。
【0016】
定義:
用語「CXCL4L1」は本明細書において使用される時、PFAv1、PF4var1、PF4ALTおよびSCYB4V1を含むがそれらに限定されないすべての同義語を含むことを意図する。この用語はそれ故、天然に生じるCXCL4L1、ならびにその変異体および改変型を含む。用語「成熟CXCL4L1タンパク質」は、より長いプロペプチドのプロセシングにより得ることのできる70アミノ酸の成熟CXCL4L1タンパク質を意味する(アクセッションナンバー NP_002611でGenPeptデータベースに提供される)。CXCL4L1をコードする代表的な天然のヌクレオチド配列はGenBankデータベースにアクセッションナンバーNM_002620で提供される。用語「CXCL4L1」はCXCL4タンパク質の霊長類の天然の変異体も含むことにさらに注意されなければならない。例として、霊長類のCXCL4L1タンパク質は、GenBankアクセッションナンバーXM_001102971.1(アカゲザル)およびXP_001156146.1(チンパンジー)で提供される。
【0017】
本明細書において使用される時には、用語「CXCL4L1特異的結合分子」は、CXCL4L1を選択的に認識できるために十分な大きさおよび複雑性を有する分子を意味することを意図する。
【0018】
用語「抗CXCL4L1抗体」は選択的にCXCL4L1を認識する抗体またはそのフラグメントを意味する。
【0019】
本明細書おいて使用される時には、用語「膵癌」は、膵臓の細胞癌、特に膵臓腺癌(例えば膵管腺癌)ならびに膵外分泌部の他の腫瘍(例えば重大な嚢胞腺腫)、腺房細胞癌および(インスリノーマのような)膵臓の神経内分泌腫瘍を意味する。
【0020】
用語「膵転移」は、その技術分野での一般的な意味を有し、膵臓からの他の非隣接臓器または非隣接部位への腫瘍の広がりを意味する。
【0021】
CXCL4L1を発現または過発現し、CXCL4L1阻害剤で処置できる膵転移の例には、転移性の結腸、肺、膵臓、食道および前立腺の癌、メラノーマ、肝細胞癌ならびに神経節またはリンパ節転移を含むがそれらに限定されない。
【0022】
本明細書おいて使用される時には、用語「規定値」は、一般的な対象の集団または選択された対象の集団から得られた生物学的サンプル中のCXCL4L1の量を意味する。例えば、選択された集団は、以前に膵癌の存在を示す兆候または症状を有しなかった個体のような、明らかに健康な対象を含みうる。別の例では、規定値は、確立した膵癌を有する対象から得られたCXCL4L1の量であろう。規定値は、閾値または範囲であり得る。規定値は、明らかに健康な対象と確立した膵癌を有する対象との間の比較計測に基づき確立されうる。
【0023】
用語「患者」または「対象」は、本明細書において使用される時には、サル、チンパンジーおよびヒトを意味する。好ましくは本発明による患者はヒトである。
【0024】
用語「健康な対象」は、本明細書において使用される時には、既知の病気を患う事の全くない、特に膵癌に罹患していない対象の集団を意味する。
【0025】
用語「生物学的サンプル」は、患者由来のすべての生物学的サンプルを意味する。そのようなサンプルの例は、体液、組織、細胞サンプル、臓器、生検などを含む。所望の生物学的サンプルは、膵腫瘍サンプルまたは生検である。所望の生物学的サンプルは、全血、血清または血漿である。
【0026】
用語「バイオマーカー」は、本明細書において使用される時には、一般的に、分子、つまり遺伝子(または該遺伝子をコードする核酸)、タンパク質を意味し、患者由来の生物学的サンプルにおけるその発現は、その技術分野における標準的な方法(および本明細書に開示されている方法)で検出でき、サンプルを得た患者の状態を予測しまたは表す。
【0027】
診断方法およびキット:
本発明は、患者から得られた生物学的サンプル中のCXCL4L1遺伝子の発現レベルを決定する事を含む、該患者の膵癌および/または膵転移を検出する方法に関する。
【0028】
本発明は、患者から得られた生物学的サンプル中のCXCL4L1遺伝子の発現レベルを決定する事を含む、膵癌を有する患者の膵癌の病期分類のための方法にも関する。
【0029】
本発明はさらに、患者から得られた生物学的サンプル中のCXCL4L1遺伝子の発現レベルを決定すること、そして場合により、CXCL4L1遺伝子の発現レベルを、膵癌の所定の病期を表す規定値と比較する事、規定値に対するCXCL4L1遺伝子の発現レベルが、膵癌の進行を示唆し、それ故処置の効率の程度を示唆することを含む、膵癌および/または膵転移を罹患した患者のCXCL4L1アンタゴニストでの処置をモニタリングする方法に関する。
【0030】
特定の態様において、患者は膵管腺癌のような膵癌を罹患している。
【0031】
特定の態様では、本発明の方法に従いCXCL4L1遺伝子の発現レベルを決定する事は、該患者から得られた生物学的サンプル中のCXCL4L1をコードするmRNAの量を決定する事によって実施される。
【0032】
膵腫瘍サンプルは所望のサンプルである。全RNAは、そこから簡単に抽出できる。細胞または組織サンプルはその使用の前に、例えば核酸を入手可能にするために、処置されうる。細胞またはタンパク質の溶解、核酸の濃縮または希釈の技術は当業者に公知である。
【0033】
遺伝子の発現レベルの決定は、様々な技術によって実施できる。一般に、決定された発現レベルは相対的な発現レベルである。
【0034】
さらに好ましくは、決定は、サンプルをプローブ、プライマーまたはリガンドのような選択的試薬と接触させること、そしてそれによりもともとサンプル中にある対象となる核酸の存在を検出または量を測定する事を含む。
【0035】
所望の態様において、発現レベルはmRNAの量を決定することにより決定されうる。
【0036】
mRNAの量を検出する方法は、当業者に周知である。例えば、サンプル(例えば患者から調製される生検)中に含まれる核酸は、最初に標準的な方法に従い、例えば、溶解酵素または化学的溶液を用いて抽出されるか、または製造者の説明書に従い核酸結合レジンによって抽出される。抽出されたmRNAは、それからハイブリダイゼーション(例えばノザンブロット分析)および/または増幅(例えばRT−PCR)により検出される。所望の態様において、CXCL4L1遺伝子の発現レベルはRT−PCRにより決定され、好ましくは定量的または半定量的RT−PCR、さらにもっと好ましくはリアルタイム定量的または半定量的RT−PCRによって決定される。
【0037】
増幅の他の方法は、リガーゼ連鎖反応(LCR)、転写介在増幅(TMA)、鎖置換増幅(SDA)および核酸配列ベース増幅(NASBA)を含む。
【0038】
少なくとも10ヌクレオチドを有し、本明細書において対象となるmRNAに対して配列相補性または相同性を示す核酸は、ハイブリダイゼーションプローブまたは増幅プライマーとして有用性がある。そのような核酸は、同一である必要はないが、典型的には相当するサイズの相同領域に少なくとも約80%の同一性、さらに好ましくは85%の同一性、さらにもっと好ましくは90〜95%の同一性であることは理解される。特定の態様では、ハイブリダイゼーションを検出するために、検出可能な標識のような適切な手段と組み合わせて核酸を使用する事は有利であろう。蛍光の、放射性の、酵素的な、または他のリガンド(例えばアビジン/ビオチン)を含む多種多様の適切な指示薬が、当業者に公知である。
【0039】
プローブは典型的に10〜1000ヌクレオチドの長さの、例えば10〜800の、さらに好ましくは15〜700の、典型的には20〜500の一本鎖核酸を含む。プライマーは典型的には、増幅されるように、対象となる核酸に完全にまたはほぼ完全にマッチするように設計された、長さが10〜25ヌクレオチドの、より短い一本鎖核酸である。プローブおよびプライマーは、それらがハイブリダイズする核酸に特異的である、つまり、それらは好ましくは高ストリンジェンシーハイブリダイゼーション条件下(最も高い融解温度Tm、例えば、50%ホルムアミド、5×または6×SCC。SCCは、0.15MNaCl、0.015Mクエン酸ナトリウムに対応する)で、ハイブリダイズする。
【0040】
上述の増幅および検出方法に使用される核酸プライマーまたはプローブは、キットとして構築されてもよい。そのようなキットには、コンセンサスプライマーおよび分子プローブが含まれる。好ましいキットには、増幅がおこったかどうかを決定するために必要な成分も含む。キットは例えばPCR緩衝液および酵素;ポジティブコントロール配列、反応コントロールプライマー;および特異的な配列を増幅および検出するための説明書も含むであろう。
【0041】
別の態様では、本発明の方法によるCXCL4L1遺伝子の発現レベルの決定は、該患者から得られた生物学的サンプル中のCXCL4L1タンパク質の濃度を計測する事により実施される。
【0042】
好ましい態様では、CXCL4L1タンパク質の濃度は、該患者から得られた血液サンプル、血漿サンプルまたは血清サンプル中、計測される。いったん患者から生物学的サンプルが調製されれば、CXCL4L1の濃度は当業者に公知のいずれかの方法により計測できる。
【0043】
特定の態様では、そのような方法は、生物学的サンプルを、生物学的サンプル中存在するCXCL4L1と選択的に相互作用できる結合パートナーと接触させることを含む。結合パートナーはポリクローナルまたはモノクローナル、好ましくはモノクローナル抗体であり得る。別の態様では結合パートナーはアプタマーであり得る。
【0044】
本発明のポリクローナル抗体またはそのフラグメントは、特に、例えばブタ、ウシ、ウマ、ウサギ、ヤギ、ヒツジおよびマウスから選択される宿主動物に適切な抗原またはエピトープを投与する事により、既知の方法に従って産生できる。当業者に公知の様々なアジュバンドが抗体産生を増強するために使用できる。本発明を実施するのに有用な抗体はポリクローナルであり得るが、モノクローナルが好ましい。
【0045】
本発明のモノクローナル抗体またはそのフラグメントは、培養下の継代細胞株により抗体分子の産生を提供するいずれかの技術を用いて調製および単離できる。産生および単離の技術は、もともとKohlerおよびMilstein(1975)に記載されたハイブリドーマの技術;ヒトB細胞ハイブリドーマの技術(Cote et al., 1983);およびEBVハイブリドーマの技術(Cole et al. 1985)を含むがそれらに限定されない。例えば文献TW526269はCXCL4L1に対するモノクローナル抗体を開示している。
【0046】
あるいは、一本鎖抗体の産生に関して記載された技術(例えば米国特許第4,946,778号を参照されたい)は、抗CXCL4L1一本鎖抗体を産生するために適応できる。本発明を実施するのに有用な抗体は、完全な抗体分子のペプシン切断により産生できるF(ab')2フラグメントおよびF(ab')2フラグメントのジスルフィド結合を還元する事により産生できるFabフラグメントを含むがそれらに限定されない抗CXCL4L1フラグメントも含む。あるいは、Fabおよび/またはscFv発現ライブラリーが、CXCL4L1に対する所望の特異性を有するフラグメントの素早い同定を可能にするために構築できる。例えば抗体のファージディスプレーが使用できる。そのような方法では、一本鎖Fv(scFv)またはFabフラグメントが適切なバクテリオファージ、例えばM13の表面に発現される。手短かに言えば、タンパク質で免疫された適切な宿主、例えばマウス、の脾臓細胞が取り除かれる。VLおよびVH鎖のコーディング領域はタンパク質に対する所望の抗体を産生する細胞から得られる。これらのコーディング領域はその後ファージ配列の末端に融合される。一度ファージが適当なキャリアー(例えば細菌)に挿入されれば、ファージが抗体フラグメントを提示する。抗体のファージディスプレーは当業者に既知のコンビナトリアル手法によっても提供できる。ファージにより提示された抗体フラグメントは、その後イムノアッセイの部分として使用してもよい。
【0047】
別の態様では、結合パートナーはアプタマーでもよい。アプタマーは分子認識の点から抗体の代替に相当するクラスの分子である。アプタマーは、高いアフィニティーと特異性を有する、実質的にすべてのクラスの標的分子を認識する能力のあるオリゴヌクレオチドまたはオリゴペプチド配列である。そのようなリガンドは、Tuerk C. 1997に記載されているようなランダム配列ライブラリーからなる試験管内進化法(SELEX)を介して単離できる。ランダム配列ライブラリーはDNAのコンビナトリアル化学合成によって得られる。このライブラリーにおいて、各メンバーは、最終的には化学的に改変される独特な配列からなる直線的なオリゴマーである。このクラスの分子の可能な改変、使用および利点は、Jayasena S.D., 1999に概説された。ペプチドアプタマーは、ツーハイブリッド法(Colas et al., 1996)によりコンビナトリアルライブラリーから選択される、E.coliチオレドキシンAのようなプラットフォームタンパク質に提示された構造的に制限された抗体可変領域からなる。
【0048】
抗体またはアプタマーのような本発明の結合パートナーは、蛍光分子、色の基質を産生できる酵素、放射活性物質、または当業者に公知の他のいずれかの標識のような検出可能な分子または物質で標識できる。一般的にシグナルを(直接的または間接的に)提供する標識は当業者に公知である。
【0049】
本明細書において使用される時には、抗体に関して用語「標識された」は、放射活性剤または蛍光(例えばフルオレセインイソチオシアネート(FITC)またはフィコエリトリン(PE)またはインドシアニン(Cy5))のような検出可能な物質を抗体またはアプタマーにカップリングする(つまり物理的に結合する)ことによる抗体またはアプタマーの直接的標識、および検出可能な物質との反応性によるプローブまたは抗体の間接的標識(例えば西洋ワサビペルオキシダーゼ、HRP)を含むことを意図する。本発明の抗体またはアプタマーは当業者に公知のいずれかの方法により放射活性な分子で標識してもよい。例えば放射活性分子はI123、I124、In111、Re186、Re188などのシンチグラフィー研究のための放射活性原子を含むがそれらに限定されない。
【0050】
前述のアッセイは、一般的に、個体支持体中の結合パートナー(つまり抗体またはアプタマー)の結合を含む。本発明の実施に際し使用できる個体支持体はニトロセルロース(例えば、膜またはマイクロタイターウェル形状);ポリ塩化ビニル(例えばシートまたはマイクロタイターウェル);ポリスチレンラテックス(例えばビーズまたはマイクロタイタープレート);フッ化ポリビニリデン;ジアゾ化された紙;ナイロン膜;活性化ビーズ;磁力的に応答するビーズなどのような基材を含む。
【0051】
特に、マイクロタイタープレートのウェルが一連の抗CXCL4L1抗体でコートされる、ELISA法を使用できる。CXCL4L1を含むまたは含む疑いのある生物学的サンプルは、その後コートされたウェルに添加される。抗体−抗原複合体の形成ができるのに十分なインキュベーション時間の後、プレートは非結合部分を除去するために洗浄でき、検出可能に標識された二次的結合分子が添加される。二次的結合分子は、すべての捕獲されたサンプルマーカータンパク質と反応するようにされ、プレートは洗浄され、当業者に周知の方法を用いて二次的結合分子の存在が検出される。ELISAの別の方法は、標識されたCXCL4L1の既知の量に加えてCXCL4L1を含むまたは含む疑いのある生物学的サンプルをコートされたウェルに添加することを含む。抗体−抗原複合体の形成ならびに標識された分子と天然に生じる非標識分子との間の競合を可能にするのに十分なインキュベーション時間の後、プレートは非結合部分を除去するために洗浄できる。例えばHRP結合CXCL4L1の結合により得られた標識の強度は、当業者に周知の方法を用いて検出される。この設定では、一般的なELISAよりも感度がより高く、標識の減少がサンプル中に存在する天然の分子の量と関連する。HRP結合CXCL4L1の場合、HRP基質の添加は検出を可能にする。色の検出は一般的に使用されるがインキュベーション時間が必要で、ところが、ルミノール由来の基質代替物は直接的(インキュベーション時間がない)で非常に感度の高い検出を可能にする。
【0052】
CXCL4L1の濃度は、競合、直接的反応またはサンドイッチ型のアッセイの様なイムノアッセイを含む一般的な免疫診断的技術を用いて計測できる。そのようなアッセイは凝集試験;ELISAのような酵素標識および酵素仲介イムノアッセイ;ビオチン/アビジン型アッセイ;ラジオイムノアッセイ;免疫電気泳動;免疫沈降を含むがそれらに限定されない。
【0053】
CXCL4L1の濃度を測定する事(イムノアッセイに基づく方法で、またはイムノアッセイに基づく方法なしに)は、化合物の分離も含みうる:疎水性に基づくHPLC;大きさに基づく分子ふるいクロマトグラフィー;および使用される特定の固相に対する化合物のアフィニティーに基づく固相アフィニティー。分離した時点で、CXCL4L1は、既知のその化合物の「分離プロファイル」例えば、保持時間に基づき同定でき、標準的な技術を用いて測定できる。
【0054】
あるいは、分離された化合物は、例えば質量分析計によって検出および測定できる。
【0055】
特定の態様では、本発明の方法はさらに、CXCL4L1の濃度を既定の閾値と比較するステップを含みうる。該比較は膵癌を示す。CXCL4L1は膵癌発達の間、特に膵癌発達初期の間に増加する。
【0056】
本発明の更なる面は、患者における膵癌および/または膵転移を検出するための方法に関連し、該方法は、
(i)該患者から得られた生物学的サンプル中のCXCL4L1の濃度を測定し、
(ii)ステップ(i)で測定されたCXCL4L1の濃度を、膵癌に罹患していない対象からの生物学的サンプル中のCXCL4L1の濃度由来の参照値と比較し、ここで、該患者から得られた生物学的サンプル中のCXCL4L1の、該参照値と比較して増加したレベルは、患者が膵癌に罹患していることを示す
のステップを含む。
【0057】
本発明のさらなる面は、患者における、膵癌、特に膵臓腺癌のバイオマーカーとしてのCXCL4L1の使用に関する。
【0058】
本発明のさらなる面は、患者の膵癌を診断するためのCXCL4L1検出キットの使用に関する。
【0059】
本発明の治療法:
本発明の別の面は、膵癌の処置および/または膵転移の予防のための方法および組成物に関する。従って、本発明は、放射性同位体、化学療法剤または他の細胞障害性薬物(つまりTNFα)を膵腫瘍に運搬するための腫瘍標的化剤として使用できるCXCL4L1特異的結合分子に関する。
【0060】
特定の態様では、CXCL4L1特異的結合分子は上述のアプタマーである。
【0061】
別の特定の態様では、CXCL4L1特異的結合分子は、上述の抗体または抗体フラグメントである。
【0062】
本発明によれば、該CXCL4L1特異的結合分子は、細胞障害性薬物または成長阻害剤のような抗癌剤に結合されている。
【0063】
本明細書において使用される時には、「成長阻害剤」は細胞、特に膵癌細胞のin vitroまたはin vivoでの、増殖を阻害する化合物または組成物を意味する。成長阻害剤の例は、細胞サイクル進行を阻害する薬剤、例えば、G1停止およびM期停止を誘導する薬剤を含む。古典的なM期遮断薬はビンカ(ビンクリスチンおよびビンブラスチン)、タキサン、ならびにドキソルビシン、エピルビシン、ダウノルビシン、エトポシドおよびブレオマイシンのようなトポイソメラーゼII阻害剤を含む。G1を止めるこれらの薬剤、例えば、タモキシフェン、プレドニゾン、ダカルバジン、メクロレタミン、シスプラチン、メトトレキサートおよび5フルオロウラシルのようなDNAアルキル化剤はS期停止に波及もする。タキサン(パクリタキセルおよびドセタキセル)は両方ともイチイの木に由来する抗癌剤である。ヨーロッパイチイ由来のドセタキセル(TAXOTERE(登録商標)、Rhone-Poulenc Rorer)は、パクリタキセル(TAXOL(登録商標)、Bristol-Myers Squibb)の半合成類似体である。パクリタキセルおよびドセタキセルはチューブリン二量体からの微小管の集合を促進し、脱重合の阻害により微小管を安定させ、そしてそれは細胞における有糸分裂の阻害となる。
【0064】
用語「細胞障害性薬物」は、本明細書において使用される時には、細胞の機能を阻害もしくは阻止するおよび/または細胞の破壊を引き起こす物質を意味する。その用語は、放射活性アイソトープ(例えばAt211、I131、I125、Y90、Re186、Re188、Sm153、Bi212、P32、およびLuの放射活性アイソトープ)、例えばメトトレキサート、アドリアマイシン、ビンカアルカロイド(ビンクリスチン、ビンブラスチン、エトポシド)、ドキソルビシン、メルファラン、マイトマイシンC、クロラムブシル、ダウノルビシンまたは他の挿入剤のような化学療法剤、核酸分解酵素のような酵素およびそのフラグメント、抗生物質、ならびにそのフラグメントおよび/またはその変異体を含む、例えばゲロニン、リシン、サポリンのような細菌、真菌、植物、または動物起源の小分子毒素もしくは酵素的に活性な毒素のような毒素、ならびに以下に開示された様々な抗腫瘍または抗癌剤を含むことが意図される。他の細胞障害性薬物は以下に記載されている。殺腫瘍性の薬剤は腫瘍細胞の破壊を引き起こす。
【0065】
本発明のCXCL4L1特異的結合分子と細胞障害性薬物または成長阻害剤との結合は、N−スクシンイミジル(2−ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)、スクシンイミジル(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシラート、イミノチオラン(IT)、(アジプイミド酸ジメチルHCLのような)イミドエステルの二機能性誘導体、(スベリン酸ジサクシンイミジルのような)活性エステル、(グルタルアルデヒドのような)アルデヒド、(ビス(p−アジドベンゾイル)ヘキサンジアミンのような)ビスアジド化合物、(ビス(p−ジアゾニウムベンゾイル)エチレンジアミンのような)ビスジアゾニウム誘導体、(トルエン2、6ジイソシアネートのような)ジイソシアナートおよび(1,5ジフルオロ2,4ジニトロベンゼンのような)二活性フッ素化合物を含むがそれらに限定されない、様々な二機能性タンパク質カップリング試薬を用いて作成できる。例えばリシン免疫毒素は、Vitetta et al(1987)に記載されるように調製できる。炭素標識された1−イソチオシアナートベンジルメチルジエチレントリアミンペンタ酢酸(MX−DTPA)は、放射活性を与えられたヌクレオチドの抗体への結合のための代表的なキレート剤である(国際公開公報第94/11026号)。
【0066】
リンカーは細胞障害性薬剤または成長阻害剤の細胞での放出を促進する「切断可能なリンカー」であり得る。例えば、酸不安定リンカー、ペプチダーゼ感受性リンカー、感光性リンカー、ジメチルリンカーまたはジスルフィド含有リンカー(例えば米国特許第5,208,020号を参照されたい)が使用できる。
【0067】
あるいは、本発明のCXCL4L1特異的結合分子(例えば抗体)および細胞障害性薬物または成長阻害剤を含む融合タンパク質は、組み換え技術またはペプチド合成によって作成される。DNAの部分は、互いに隣接しているか、または結合体の所望の特性を破壊しないリンカーペプチドをコードする領域によって分離されている結合体の2つの部分をコードする、それぞれの領域を含むであろう。
【0068】
CXCL4L1特異的結合分子は、プロドラッグ(例えば、ペプチジル化学療法剤、国際公開公報第81/01145号を参照されたい)を活性な抗癌剤(例えば国際公開公報第88/07378号および米国特許第4,975,278号を参照されたい)に変換するプロドラッグ活性化酵素と結合できる。酵素は、プロドラッグをより活性な細胞障害性型に変換するための方法で、プロドラッグに作用できるいずれかの酵素を含む。本発明の方法で有益な酵素は、リン酸塩を含むプロドラッグを遊離型薬剤に変換するために有益なアルカリホスファターゼ;硫酸を含むプロドラッグを遊離型薬剤に変換するために有益なアリルサルファターゼ;非毒性フルオロシトシンを抗癌剤、5−フルオロウラシルに変換するために有益なシトシンデアミナーゼ;ペプチド含有プロドラッグを遊離薬剤に変換するために有益なセラチアプロテアーゼ、サーモリシン、スブチリシン、カルボキシペプチダーゼならびに(カテプシンBおよびLのような)カテプシンのようなプロテアーゼ;D−アミノ酸置換基を含むプロドラッグを変換するために有用なD−アラニルカルボキシペプチダーゼ;グリコシル化されたプロドラッグを遊離薬剤に変換するために有益なO−ガラクトシダーゼおよびノイラミニダーゼのような炭水化物切断酵素;P−ラクタムで誘導体化された薬剤を遊離薬剤に変換するために有益なP−ラクタマーゼ;ならびにアミン窒素においてフェノキシアセチルまたはフェニルアセチル基で誘導体化された薬剤をおのおの遊離薬剤に変換するために有用なペニシリンVアミダーゼまたはペニシリンGアミダーゼのようなペニシリンアミダーゼを含むがそれらに限定されない。酵素は、上述のヘテロ二機能性の架橋試薬の使用のような、当業者に周知の技術によって、抗体に共有結合で結合できる。
【0069】
本発明は、上述のようなCXCL4L1特異的結合分子をそれを必要としている対象に投与するステップを含む、膵癌を処置および/または膵転移を予防する方法にも関する。
【0070】
本発明の更なる面は、膵癌に罹患した患者を処置するための上述のようなCXCL4L1特異的結合分子に関し、該患者は上述のような方法で膵癌に罹患したと診断されている。
【0071】
本発明の更なる面は、それ故、膵癌に罹患している患者を処置するためのCXCL4L1特異的結合分子に関し、ここで該患者は一般的な集団または健康な対象から得られた規定値より高いCXCL4L1遺伝子の発現レベルを有する。
【0072】
上述のようなCXCL4L1特異的結合分子は医薬組成物の形態で投与できる。
【0073】
好ましくは、該阻害剤は、治療上効果的な量投与される。「治療上効果的な量」によって、すべての医学的処置に適応できる合理的な利益/リスク割合で膵癌を処置および/または膵転移を予防するための該CXCL4L1特異的結合分子の十分な量を意味する。
【0074】
本発明の化合物および組成物の毎日の使用量の全量が、妥当な医学的判断の範囲内で主治医によって決定されることは理解できるであろう。すべての特定の患者に対する特定の治療上効果的な投与量レベルは、処置される疾患および疾患の重症度;使用される特定の化合物の活性;使用される特定の組成物、患者の年齢、体重、一般的な健康、性別および食習慣;投与時間、投与経路および使用される特定の化合物の排出速度;処置の持続;使用される特定のポリペプチドと組み合わせてまたは同時に使用される薬剤;ならびに医療技術において周知の同様の因子を含む様々な因子に依存するであろう。例えば、所望の治療効果を達成するのに必要とされる投与量よりも低いレベルで化合物の投与量を開始し、所望の効果が達成されるまで徐々に投与量を増加させることは、十分に当業者の技能の範囲内である。しかしながら、産物の毎日の投与量は、一日、大人一人当たり0.01〜1000mgの広い範囲を超えて変化しうる。好ましくは、組成物は、処置される患者に対する投与量の症状的調節のために0.01、0.05、0.1、0.5、1.0、2.5、5.0、10.0、15.0、25.0、50.0、100、250および500mgの活性成分を含む。薬物は、典型的には約0.01mgから約500mgの活性成分を含み、好ましくは、1mgから約100mgの活性成分を含む。薬物の効果的な量は通常、一日、体重当たり0.0002mg/kgから約20mg/kg、特に一日、体重当たり約0.001mg/kgから7mg/kgの投与量レベルで供給される。
【0075】
本発明は、さらに以下の図および実施例を背景に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】CXCL4またはCXCL4L1の系統樹。図にみられるように、分岐は進化の最晩期に起こった。チンパンジー、サルおよびヒトのCXCL4またはチンパンジー、サルおよびヒト由来のCXCL4L1はおのおの共にクラスター形成する。
【図2】CXCL4およびCXCL4L1の異なるヒト組織における発現。遺伝子発現は、各々の遺伝子に対する特異的なプライマーでの半定量的リアルタイムPCRによって分析され、ハウスキーピング遺伝子S16の発現と比較された。
【図3】PDAC−CAMモデルにおけるin vitroおよびin vivoでのCXCL4およびCXCL4L1のmRNAの発現分析。A.in vitroでのBxPC3細胞ならびにT1およびT6でのPDAC−CAMモデルにおける、S16の発現と比較されたリアルタイムPCR発現分析。T1でのCXCL4L1 mRNAの相対的レベルには任意に値1が与えられた。B.CXCL4L1またはCXCL4リボプローブでのT6 PDAC−CAMサンプルのパラフィン包埋切片におけるin situハイブリダイゼーション。腫瘍結節は点線で区切られ(アスタリスク*:陽性結節)、CAM表面は実線によって区切られた。スケールバーは50μmである。
【図4】PDAC−CAMモデルにおけるCXCL4L1タンパク質の発現分析。A−B.陽性腫瘍結節を示す、汎CXCL4L1/CXCL4抗体または特異的CXCL4抗体各々でのT6パラフィン包埋切片の免疫標識(アスタリスク*)。スケールバーは50μm。C.CAM腫瘍抽出物は、抗CXCL4/CXCL4L1抗体でインキュベーションされた。免疫沈降物は、その後10%ポリアクリルアミドゲル上で流され、トランスファー後、特異的抗CXCL4L1抗体を用いてウエスタンブロットが実施された。ゲルは2回の独立した実験の代表である。
【図5】マウス膵臓腺癌異種移植モデルにおけるCXCL4L1の発現分析。汎CXCL4/CXCL4L1抗体(A−C)または特異的CXCL4抗体(B−D)での皮下原発腫瘍(A−B)および肺微小転移(C−D)のパラフィン包埋切片の免疫標識。挿入図は、おのおのの微小転移の全体的視野を示す。スケールバーは50μm。
【図6A】ヒト膵臓組織におけるCXCL4L1の発現分析。A.リアルタイムPCRにより分析された24人のヒト患者の膵臓腺癌サンプルにおけるCXCL4L1の相対的発現。ヒト腫瘍におけるCXCL4L1発現は正常な膵臓での発現との比較で与えられる。B−C.免疫標識は、ポリクローナルCXCL4/CXCL4L1(B)またはCXCL4L1のみを認識するMabv1(C)を用いて実施された。B.CXCL4/CXCL4L1 B1−B2、コントロール;パネルB3−B7、異なるステージでの膵臓腺癌;B8、神経節転移。C、C1−C3 正常な膵臓での弱いバックグラウンド染色、C4−9膵癌における強い免疫反応性、C10浸潤細胞における陽性、C11脂肪組織における浸潤細胞、C12陽性リンパ節転移。
【図6B】ヒト膵臓組織におけるCXCL4L1の発現分析。A.リアルタイムPCRにより分析された24人のヒト患者の膵臓腺癌サンプルにおけるCXCL4L1の相対的発現。ヒト腫瘍におけるCXCL4L1発現は正常な膵臓での発現との比較で与えられる。B−C.免疫標識は、ポリクローナルCXCL4/CXCL4L1(B)またはCXCL4L1のみを認識するMabv1(C)を用いて実施された。B.CXCL4/CXCL4L1 B1−B2、コントロール;パネルB3−B7、異なるステージでの膵臓腺癌;B8、神経節転移。C、C1−C3 正常な膵臓での弱いバックグラウンド染色、C4−9膵癌における強い免疫反応性、C10浸潤細胞における陽性、C11脂肪組織における浸潤細胞、C12陽性リンパ節転移。
【図6C】ヒト膵臓組織におけるCXCL4L1の発現分析。A.リアルタイムPCRにより分析された24人のヒト患者の膵臓腺癌サンプルにおけるCXCL4L1の相対的発現。ヒト腫瘍におけるCXCL4L1発現は正常な膵臓での発現との比較で与えられる。B−C.免疫標識は、ポリクローナルCXCL4/CXCL4L1(B)またはCXCL4L1のみを認識するMabv1(C)を用いて実施された。B.CXCL4/CXCL4L1 B1−B2、コントロール;パネルB3−B7、異なるステージでの膵臓腺癌;B8、神経節転移。C、C1−C3 正常な膵臓での弱いバックグラウンド染色、C4−9膵癌における強い免疫反応性、C10浸潤細胞における陽性、C11脂肪組織における浸潤細胞、C12陽性リンパ節転移。
【図7A】内皮細胞におけるCXCL4L1の機能研究;A−B.内皮細胞の増殖、移動、浸潤における組み換えGST−CXCL4(GST−PF4)およびGST−CXCL4L1(GST−PF4v1)タンパク質の活性。BAECおよびHUVEC細胞はFGF2(10ng/ml)および異なる濃度の組み換えタンパク質の存在下培養された。A.48時間の刺激期間の後、細胞増殖は独自にFGF2で処理された細胞との比較により決定された。IC50:50%の細胞増殖阻害を誘導するのに必要なタンパク質濃度;Imax:細胞増殖の完全な阻害に必要なタンパク質濃度。B.18時間の刺激の後、BEAC移動は最初の創傷から覆われた表面のパーセンテージによって決定される。結果は三つ組みで実施された3回の独立した実験の平均±標準偏差である。C.HUVECのFGF−2誘導浸潤に対するCXCL4L1およびCXCL4の効果。左、浸潤細胞のイメージ;右、定量化。
【図7B】A−B.内皮細胞の増殖、移動、浸潤における組み換えGST−CXCL4(GST−PF4)およびGST−CXCL4L1(GST−PF4v1)タンパク質の活性。BAECおよびHUVEC細胞はFGF2(10ng/ml)および異なる濃度の組み換えタンパク質の存在下培養された。A.48時間の刺激期間の後、細胞増殖は独自にFGF2で処理された細胞との比較により決定された。IC50:50%の細胞増殖阻害を誘導するのに必要なタンパク質濃度;Imax:細胞増殖の完全な阻害に必要なタンパク質濃度。B.18時間の刺激の後、BEAC移動は最初の創傷から覆われた表面のパーセンテージによって決定される。結果は三つ組みで実施された3回の独立した実験の平均±標準偏差である。C.HUVECのFGF−2誘導浸潤に対するCXCL4L1およびCXCL4の効果。左、浸潤細胞のイメージ;右、定量化。
【図7C】A−B.内皮細胞の増殖、移動、浸潤における組み換えGST−CXCL4(GST−PF4)およびGST−CXCL4L1(GST−PF4v1)タンパク質の活性。BAECおよびHUVEC細胞はFGF2(10ng/ml)および異なる濃度の組み換えタンパク質の存在下培養された。A.48時間の刺激期間の後、細胞増殖は独自にFGF2で処理された細胞との比較により決定された。IC50:50%の細胞増殖阻害を誘導するのに必要なタンパク質濃度;Imax:細胞増殖の完全な阻害に必要なタンパク質濃度。B.18時間の刺激の後、BEAC移動は最初の創傷から覆われた表面のパーセンテージによって決定される。結果は三つ組みで実施された3回の独立した実験の平均±標準偏差である。C.HUVECのFGF−2誘導浸潤に対するCXCL4L1およびCXCL4の効果。左、浸潤細胞のイメージ;右、定量化。
【図8】膵癌細胞(BXPC3)におけるCXCL4およびCXCL4L1の効果 CXCL4L1(PF4v1)およびCXCL4(PF4)の増殖および浸潤に対する効果。A、ヒト臍帯静脈上皮細胞(HUVEC)の増殖に対する効果。B、C HUVECの浸潤に対する効果。B、浸潤細胞のイメージ、C、浸潤の定量化。
【0077】
実施例:
材料および方法
【0078】
細胞培養およびPDAC−CAMモデル
ヒト膵癌細胞系BxPC3およびウシ大動脈内皮細胞(BAEC)は10%ウシ胎仔血清、抗生物質(ペニシリン/ストレプトマイシン)およびL−グルタミンが追加されたDMEM1g/Lグルコース(Invitrogen, Cergy Pontoise, France)中培養された。ヒト臍帯静脈上皮細胞(HUVEC, Lonza, Levallois-Perret, France)は、2%FBSを含むEGM−2 SingleQuots(Lonza)を追加されたEBM−2(Lonza)中維持された。培養は37℃、5%C02中インキュベーションされた。腫瘍細胞はDr.C.Susini(INSERM U531, Toulouse, France)からの快い贈り物であった。受精鶏卵(Gallus gallus)(EARL Morizeau, Dangers, France)は、かつて記載された通り(Hagedorn et al., 2005)取り扱われた。胎性期10日(E10)において、最終量40μlの無血清培地に希釈された400万のBxPC3細胞は無傷のCAM表面に薄膜として沈着された。
【0079】
マウス異種移植片モデル
メスのRAG−γ/cマウスはBordeaux 1 Universityの飼養施設(「Animalerie Mutualisee Bordeaux I」)に収容され、処置された。すべての動物の処置は施設のガイドラインに従って実施された。20週令の年老いたマウス(n=26)は、ケタミン(150mg/kg)およびキシラジン(15mg/kg)の腹腔内投与で麻酔され、皮下投与により100μlの無血清培地中の3.106 BxPC3細胞で異種移植された。
【0080】
RNA抽出および逆転写反応
細胞または瞬間凍結組織から、全RNAはRNeasy mini kit(Qiagen, Courtaboeuf, France)を用いて抽出された。RNAの質および量はアガロースゲル電気泳動および吸光度測定により評価された。第一鎖cDNAは、Quantitect Reverse Transcription kit(Qiagen)を用いて全RNAの1μgから調製された。
【0081】
リアルタイムPCR
リアルタイムPCRは、SYBRグリーン色素(ABgene, Courtaboeuf, France)を使用しMx3000P thermocycler(Stratagene, La Jolla, CA)で実施された。ヒト特異的プライマーが設計され、Universal Human Reference RNA(Stratagene)を用いて増幅効率が評価された。90〜110%の増幅効率をもつプライマーペアのみが使用された。PCRの特異性は、増幅産物の解離曲線分析およびアガロースゲル電気泳動により検証された。すべてのサンプルは3回の独立した実験の最小値で試験された。
【0082】
in situハイブリダイゼーション
DIG CXCL4およびCXCL4L1ヒトリボプローブは製造業者の説明書に従って合成された(Roche RNA Labeling Kit(SP6/T7)-Roche)。つまり、pCR2.1 TOPO CXCL4_UTRおよびpCR2.1 TOPO CXCL4L1_UTRベクターはXhoI(センスプローブ用)またはBamHI(アンチセンスプローブ用)酵素切断により直鎖化された。転写後、DNAテンプレートは切断され(DNaseI Invitrogen)、その後、リボプローブを塩化リチウムにより沈殿させた。
【0083】
BxPC3小結節を伴うCAMは4℃、PAF4%で一晩固定された。PBSで洗浄後、組織は脱水され、その後パラフィン包埋された。ハイブリダイゼーションの前に、組織切片は再脱水され、プロテイナーゼKによって透過処理され、再度PAF4%で固定された。パラフィン包埋CAM切片は70℃、CXCL4またはCXCL4L1プローブで一晩ハイブリダイゼーションされた。ネガティブコントロールとして、センスプローブでのハイブリダイゼーションが実施された。組織切片はヒツジ血清中インキュベーションされ、洗浄され、抗DIGヒツジ抗体とインキュベーションされた。
【0084】
組織学的検査、免疫組織化学的検査
パラフィン包埋組織は、7μm厚のミクロトーム切片に切断され、組織学的分析、転移の局在および最も代表的な腫瘍領域の選択のためにヘマトキシリン−エオシンで染色された。使用された一次抗体は、ヤギ抗ヒトCXCL4(PF4-AF-795, R&DSystem-Minneapolis)およびCXCL4L1に対するマウスモノクローナル抗体(MabV1, clone 9E11-2D5-2G1)である。この抗体の産生および特徴は他で報告されるであろう(Dubrac et al manuscript in preparation)。対応する二次抗体は、抗ヤギまたは抗マウスHRP結合抗体(Dakocytomation)である。イメージングはNikon DXM Eclipse E600 microscopeを用いて実施された。
【0085】
細胞増殖および細胞死アッセイ
細胞の生存率はWST−1アッセイによって評価された(Roche, Neuilly sur Seine Cedex, France)。アポトーシスの相対的存在量は、製造者の説明書に従って、カスパーゼ3/7活性によって測定される(Apo-one homogeneous assay kit, Promega, Charbonnieres, France)。両方の場合において、細胞は96穴プレートに濃度1×104(HUVEC)または3×103(BxPC3)細胞/ウェルで蒔かれ、一晩接着を可能にした。完全培地は、ゲムシタビン(Laboratoire Lilly, Suresnes, France)および/またはCXCL4L1有りまたは無しの無血清培地で24時間(HUVEC)もしくは48時間(BxPC3)置換された。すべてのアッセイは三つ組みのウェルで実施され、おのおのの実験は3回繰り返された。
【0086】
遊走および浸潤アッセイ
細胞遊走および浸潤アッセイは、24穴培養プレートに設置された孔径8μmのTranswell membrane filter(BD Biosciences、Le Pont-de-Claix, France)を用いて実施された。Transwell membraneの上部の表面は、100μg/mlのgrowth factor−reduced Matrigel matrix(BD Biosciences)で被覆され、またはされなかった。その後、無血清培地中の1×105細胞はおのおののTranswellチャンバーに添加され、37℃で、遊走試験のために6時間、浸潤試験のために24時間、化学遊走物質として下部のチャンバーの無血清培地0、5%FBSにより、上部チャンバーの下側に遊走できるようにした。細胞はメタノール30%、酢酸10%で10分間固定され、クマシンブルー0、1%、メタノール30%、酢酸40%で3分間着色された。膜の上部の表面の細胞は、綿棒で拭う事により除去された。
【0087】
系統発生解析
BLASTでタンパク質のRefseqデータベースに対してCXCL4(PF4)とマッチするペプチドがサーチされ、ペプチド目録が引き出された。ハイライトされた配列は、首尾よくヒトに対して戻った相互BLASTの配列を示す。他の配列は対象となるためリストアップされた。ClustalWプログラムは、すべての種においてCXCL4(PF4)およびCXCL4L1(PF4V1)を示すことが見いだされた12配列に対し実施された。
【0088】
系統樹は、最適な樹を発見するために近隣結合法を用いて1000のブートストラップを用いて構築された。ギャップのある部位は分析から除外され、アライメントは多重置換に関して補正された。
【0089】
ヒト腫瘍サンプル
ヒト腺癌サンプルはProf Martin Schilling(Klinik fur Allgemeine Chirurgie, Viszeral-, Gefaeβ-und Kinderchirurgie, Homburg, Germany)によって提供された。新鮮な腫瘍組織は外科手術中に得られ、直接的に液体窒素中瞬間凍結された。患者は診療所のガイドラインに従って組織分析の前に同意した。
【0090】
結果
CXCL4L1およびCXCL4の系統発生解析
【0091】
CXCL4およびCXCL4L1は相同性が高い。CXCL4との比較でのCXCL4L1の種の発現を分析するために、我々はCXCL4/CXCL4L1とマッチするペプチドをタンパク質のRefseqデータベースに対してBLASTで検索した。CXCL4L1はヒト、サルおよびチンパンジーでのみ発現している。注目すべきは、トリはCXCL4L1もCXCL4も発現していないことである。
【0092】
我々は次にClustalWプログラムを用いて、すべての種のCXCL4およびCXCL4L1を表す12個の配列について系統発生解析を実施し、最適な樹を発見するために近隣結合法を用い、1000のブートストラップと系統樹を構築した(図1)。ギャップのある部位は分析から除外され、アライメントは多重置換に関して修正された。分析からわかるように、CXCL4L1およびCXCL4は、進化の最晩期、サル、チンパンジーおよびヒトの共通の祖先のレベルで分岐した。
【0093】
ヒト組織におけるCXCL4L1またはCXCL4の発現
複数のヒト組織のmRNAにおける定量的PCRはCXCL4L1およびCXCL4に関して異なる発現プロファイルを示唆する(図2)。CXCL4L1が単に、胎児肝、結腸およびある程度脾臓に発現する一方、CXCL4は脾臓に高度に発現している。正常なヒト膵臓は、有意にCXCL4L1およびCXCL4を発現しない。
【0094】
膵臓腺癌におけるCXCL4L1またはCXCL4の発現
トランスクリプトームのプロファイリングはPDAC−CAMモデルにおいてCXCL4L1は同定するがCXCL4を同定しない:ヒトAffymetrixまたはトリAffymetrixマイクロアレーを用いたデュアルトランスクリプトーム分析は、トリ絨毛尿膜へのBxPC3細胞の移植の腫瘍1日目(T1)および腫瘍6日目(T6)の間(胚発生のE11およびE16に対応する)に実施された。我々は、CXCL4ではなくCXCL4L1がT1と比較してT6に高度にアップレギュレーションされた(14.6倍増加)ことを明確に証明した。CXCL4L1はまたヒトAffymetrixアレイにおいてのみ検出され、トリチップが使用された時、トリのオルソログは存在しなかった。この事は、in vivoで腫瘍発生の間、CXCL4L1が腫瘍細胞において誘導される事を示唆した。
【0095】
実験的膵臓腺癌におけるCXCL4L1またはCXCL4の発現分析:この主張を強固にするために、我々はまず実験的膵臓腺癌モデルにおける特異的な発現を確認するために、CXCL4L1およびCXCL4に特異的なプライマーを用いてリアルタイムPCRを実施した。トランスクリプトームの分析にみられるように、qPCR分析は、T1腫瘍と比較した時、T6腫瘍において高度のアップレギュレーション(9.65倍)を明らかにした。培養中のBxPC3細胞には、発現は見られなかった(図3A)。
【0096】
我々はその後、ケモカインのいずれか一種を認識する特異的プローブを用いて、CXCL4との比較により、CXCL4L1の発現をin situハイブリダイゼーションで調べた(図3B)。in situハイブリダイゼーションはCXCL4ではなくCXCL4L1のみがT6腫瘍において発現していることを明確に示した。
【0097】
我々は次にPDAC−CAMモデルの我々の実験的膵臓腫瘍中のタンパク質の発現を調べた。ヒトCXCL4またはCXCL4L1のみを認識する特異的なポリクローナルまたはモノクローナル抗体を用いたCXCL4L1の免疫局在は、T6腫瘍に有意な免疫反応性を示す(図4A)が、BxPC3細胞には示さない(データ不掲載)。さらに、特異的なモノクローナル抗CXCL4L1抗体(MABv1)は、CAM中の膵臓小結節においてCXCL4L1を明瞭に検出する(図4B)。
【0098】
さらに、我々はCXCL4およびCXCL4L1の両方と相互作用できるモノクローナルまたはポリクローナル抗体を用いたウエスタンブロットにおいて7kDaの有意な免疫反応性を検出した。さらに、特異的モノクローナル抗CXCL4L1抗体(MABv1)を用いた時、有意なCXCL4L1免疫反応性が検出された(図4C)。
【0099】
まとめると、これらのデータは、CXCL4ではなくCXCL4L1がトリ絨毛尿膜上に成長する膵腫瘍において高度に過発現していることを示唆する。
【0100】
膵癌のマウスモデルにおける発現分析:CXCL4L1のアップレギュレーションはトリ胎性モデルに特異的ではないことを確認するために、BxPC3細胞は最初にRAG〜g/cマウスの皮下に移植され、原発腫瘍または肺転移が移植後10週間で分析された。組織はその後ヒトCXCL4L1またはCXCL4に対する抗体を用いたqPCRまたは免疫組織化学的検査により分析された。qPCR分析は、CXCL4ではなくCXCL4L1が腫瘍サンプル中に発現している事を明確に示唆する。図5Aに見られるように、我々は次に両方の型を認識するパンCXCL4L1/CXCL4抗体を用いた免疫組織化学的検査を実施した。我々は、原発腫瘍および肺転移の両方において陽性の免疫反応性を明瞭に検出した。この抗体はヒトCXCL4/CXCL4L1に特異的であり、マウスCXCL4と交差反応しない。我々は次に、我々のCXCL4L1に特異的なモノクローナル抗体を用いて免疫組織化学的検査を実施した。再び、我々は、原発腫瘍および肺転移の両方において陽性の免疫反応性を明瞭に検出した(図5B)。これらの結果は、この腫瘍モデルにおける原発腫瘍および肺転移の両方においてCXCL4L1が有意に発現していることを示唆する。
【0101】
ヒト腫瘍サンプル中のCXCL4/CXCL4L1の発現分析:膵腫瘍中のCXCL4L1の発現を確認するために、RNAは24人の腺癌患者サンプルから単離され、特異的なプライマーを用いたqPCRが正常な膵臓との比較により実施された(図6A)。CXCL4L1mRNAの発現はすべての試験された膵腫瘍で検出され、23/24サンプルにおいて様々な過発現レベルで(平均値+5.0)過発現した。我々はCXCL4に対する特異的なプライマーとqPCRも実施した。患者由来の腫瘍サンプルにCXCL4の発現は検出できなかった。これらの結果は異なる患者のサブグループを反映するであろう、ヒト膵癌中での不均一なCXCL4L1の過発現を示唆する。
【0102】
我々は次に、ヒトCXCL4/CXCL4L1に特異的な抗体を用いて膵腫瘍サンプルの免疫組織学的分析を実施した(図6B及び6C)。我々は、ポリクローナル抗CXCL4/CXCL4L1抗体(図6B)または特異的モノクローナル抗体MABv1(図6C)の両方で、正常ヒト膵臓ではなく膵腫瘍サンプルにおける免疫反応性を明確に証明した。驚くべき事に腫瘍のグレードの重症度と共に免疫反応性が上昇し、最も弱い染色をグレード1において、最も強い染色をグレード3の腫瘍において示した。この事は、CXCL4L1が膵臓腺癌において高度に過発現されている事、および発現が組織学的グレードの上昇と共に上昇する事を示唆する。
【0103】
膵癌におけるCXCL4L1またはCXCL4の機能研究
CXCL4L1およびCXCL4の組み換えタンパク質はGST融合タンパク質として相当量精製された。プロテアーゼの切り取りによるGSTの除去は、生物学的活性に対する有意な効果を有さず、切り取りを不必要にする。
【0104】
CXCL4と比較してCXCL4L1の活性を試験するために、BxPC3細胞またはHUVEC細胞は、これらの分子の増加する濃度で刺激され、増殖が測定された。CXCL4L1は、文献に報告されているのと同様に、CXCL4よりも内皮細胞増殖にかなり強い効果(43倍高い)を示した(図7A)。しかしながら、両方のケモカインの効果はBxPC3細胞において認められなかった(図8)。我々は、さらにボイデンチャンバー遊走アッセイを用いて、遊走および浸潤に対するCXCL4L1またはCXCL4の効果を研究した。再び、内皮細胞遊走および浸潤は有意に阻害されたが、BxPC3細胞の遊走は阻害されなかった(図7B、C;図8B、C)。
【0105】
考察
CXCL4L1はヒト、サルおよびチンパンジーにのみ発現し、進化の最晩期にCXCL4から分岐する。腸、肝臓および脾臓を含む複数のヒト組織は、CXCL4L1およびCXCL4を発現するが、正常膵臓組織は、このケモカインの弱い発現を示すか全く発現しないことを示す。しかしながらCXCL4ではなくCXCL4L1が膵癌において有意に過発現し、新規のバイオマーカーに相当する。この事は下記の観察に基づく:
(1)qPCRまたはin situ ハイブリダイゼーションとの組み合わせによるトランスクリプトーム分析は、ヒト膵臓腺癌細胞がトリ絨毛尿膜に移植される時、有意なレベルのCXCL4L1 mRNAを発現するが、CXCL4のmRNAは発現しない事を示唆する。
(2)抗ヒトCXCL4L1/CXCL4または特異的なモノクローナル抗CXCL4L1抗体(Mabv1)を用いた免疫局在性は、トリCAMに移植される時、腫瘍細胞において強い免疫反応性を証明する。
(3)マウスに移植後の原発膵腫瘍は、CXCL4L1 mRNAを発現し、原発腫瘍および転移性腫瘍細胞も陽性の免疫反応性を示す。
(4)ヒト患者由来の膵臓腺癌サンプルはCXCL4L1 mRNAのみを発現し、CXCL4 mRNAは発現せず、強い陽性の免疫反応性を示す。
(5)膵臓腺癌細胞ではなく内皮細胞が外来性CXCL4L1に応答することは、膵腫瘍発生においてCXCL4L1の活性のパラクリンモードを示唆する。さらに、我々の結果は、培養液中の膵臓腺癌細胞がCXCL4L1もCXCL4も発現しないので、CXCL4L1発現のアップレギュレーションは特異的な腫瘍−宿主相互作用によるということを示唆する。
【0106】
CXCL4L1は、シグナル配列をコードするアミノ末端に34%のみの違いを有し、残りの配列に4.3%の違いが認められるCXCL4に対して密接に相同なケモカインである。血小板精製CXCL4L1は細胞遊走においてCXCL4よりも少なくとも50倍強力である事が示された(Stryuf et al. 2004)。我々のデータでは、組み換えCXCL4L1は内皮細胞増殖の阻害においてCXCL4よりも50倍より強力であるが、内皮細胞遊走の阻害においてCXCL4よりも100倍より強力である。さらに、腫瘍発生の阻害が肺において認められ、メラノーマ細胞腫細胞はCXCL4L1により阻害される(Struyf et al., 2007)。さらに、かつてCXCL4L1とCXCL4の分泌およびプロセシングは異なるという事が示された(Lasagni et al., 2007)。CXCL4が有芯顆粒からPKC制御経路を介して制御された方法で排出される一方、CXCL4L1はPKCを介して制御されず、構成的に分泌される。さらに、CXCL4L1またはCXCL4は血小板−巨核球系に発現するだけでなく炎症性細胞(T細胞、白血球、単球)、血管および冠状動脈平滑筋細胞ならびに内皮細胞にも発現する(Lasagni et al., 2007)。これらの結果は、CXCL4L1が血管形成において調節機能を有するかもしれないことを示唆する。
【0107】
実験室で、我々は最初に神経膠腫の浸潤および血管形成によりよい見識をえるため、トリ胚モデルを開発した(Hagedorn et al., 2005)。我々は現在さらにこのモデルを膵管腺癌のために拡大し(PDAC−CAMモデル)、CAMに移植される時、膵腫瘍細胞におけるCXCL4L1の有意なアップレギュレーション、CXCL4の非アップレギュレーションを証明した。驚くべき事に、培養中の腫瘍細胞にはCXCL4L1の発現は見い出されなかった。ヒトCXCL4L1に特異的なプライマーが使用され、CXCL4L1がヒト由来の細胞にのみ発現し他の種には発現しないので、これらの結果は、腫瘍細胞が適切な微小環境におかれる時、腫瘍細胞はCXCL4L1の発現をアップレギュレーションすることを示唆する。さらにCXCL4L1またはCXCL4に特異的なプローブを用いたin situハイブリダイゼーションは、CAMで成長した時、CXCL4L1のみに対して腫瘍に有意なシグナルを示した。さらに、細胞が培養液中成長した時ではなくCAMに移植された時に、CXCL4L1の免疫反応性が腫瘍細胞で検出された。これらの条件下では高い関心のある分子が検出されないかもしれないので、これらの結果は培養液中で行われる複数の分子プロファイリング研究の妥当性に疑問も投げかける。
【0108】
我々は、次に膵腫瘍細胞で異種移植されたマウスを用いてCXCL4L1の発現を研究した。CXCL4L1mRNAを発現するがCXCL4を発現しない原発腫瘍を皮下に移植した。再び、高度の免疫反応性が抗ヒトCXCL4L1/CXCL4またはCXCL4L1抗体を用いて証明された。さらに、有意な免疫反応性も肺転移中に検出された。これらの結果は、アップレギュレーションがトリの微小環境に特異的ではなく、細胞がマウス組織に移植される時にも検出されることを明確に示唆する。
【0109】
我々は最終的にヒト患者由来のサンプルにおいて、CXCL4のmRNAではなくCXCL4L1のmRNAの有意なアップレギュレーションを証明した。mRNAの発現は不均一であり、多分、低、中間、高度のCXCL4L1発現を有する様々な患者グループを示唆する。我々が観察した興味深い発見は、CXCL4L1に対する免疫反応性が組織学的グレードとともに上昇することであった。有意な免疫反応性がリンパ節転移病変にも検出された。これはCXCL4L1が膵癌の新規のバイオマーカーとなり、疾患の進行および処置反応を予測するということを示唆する。
【0110】
さらに、腫瘍環境におけるCXCL4L1の濃度の局所的増加により、膵腫瘍は、治療目的で、細胞障害性薬物または成長阻害剤のような抗癌剤に結合したCXCL4L1特異的結合分子の標的となりうる。
【0111】
【表1】
【技術分野】
【0001】
発明の属する分野:
本発明は、患者における膵癌のバイオマーカーとしてのCXCL4L1の使用に関する。本発明はさらに膵癌の処置および/または膵転移の予防のための方法に関する。
【0002】
発明の背景
膵癌は膵臓の悪性腫瘍である。毎年、アメリカ合衆国で約35000人がこの疾患で診断され、ほぼ同数のヒトがこの疾患のために死亡する。ヨーロッパでは、60000人以上が毎年この癌のため診断される。それ故、膵癌は、すべての癌の中で最も高い致死率のうちの1つを有し(Jemal et al., 2007)、それ故、この致死の病体に対する効果的な処置を緊急に必要とする主要なヒトの健康問題となっている。
【0003】
血管新生は、毛細血管由来の新規血管形成を含み、この事象は一連の因子によって緊密に制御されている。現在、大人におこる血管新生活性の多くが病理学的であると広く認識されている。それ故、血管新生および浸潤は、癌のような疾患の進行に重要な役割を果たす2つの密接に関連した過程である(Folkman, 1995)。特に、固形腫瘍および他の癌の拡大は決定的に血管新生に依存し(Folkman, 1971)、抗血管新生の戦略を癌治療と結びつける(Folkman, 2001)。一方で、浸潤は腫瘍量の局所的拡大および転移の拡大に要求される。
【0004】
研究された因子の中には、CXC−ケモカインファミリー(血小板因子4に対する古くからの用語法でのPF4)に属し、血小板または巨核球だけでなく単球、T細胞、血管平滑筋細胞および内皮細胞を含む異なる他の細胞型においても合成されるCXCL4がある(Lasagni et al., 2007)。CXCL4またはそのC末端ドメイン(PF4/CTF)由来のペプチドはin vitro(Maione et al., 1990; Jouan et al., 1999; Hagedorn et al., 2001)およびin vivo(Maione et al., 1990; Sharpe et al., 1990; Hagedorn et al., 2001)で有意な抗血管新生活性を示す。それらは、in vivoで様々な腫瘍の成長を抑制し(Tanaka et al., 1997; Maione et al., 1991)、転移を抑制する(Kolber et al., 1995)。この効果はそれらの抗血管新生作用に関連し、腫瘍細胞の増殖には関連しない(Sharpe et al., 1990; Tanaka et al., 1997; Maione et al., 1991; Kolber et al., 1995)。CXCL4は、ex vivoシステムにおいて抗血管新生作用を有することが発見された最初の薬剤の一つである(Maione et al., 1990)が、CXCL4の抗血管新生シグナルを伝達する特異的な受容体のメカニズムは未だほとんど理解されていない。分子の記載された他の効果の中には、特にT細胞に対する免疫調節性の機能がある(Romagnani et al., 2005)。
【0005】
さらに、CXCL4L1と命名されたCXCL4の新規の相同体は、1898年に同定されたが、ごく最近でもこのケモカインの機能的特徴付けについてほとんどデータが報告されていない。これは、血小板に発現しているが、平滑筋細胞および内皮細胞にも発現している。近年この分子の分泌メカニズムが、CXCL4との比較で特徴づけられた(Lasagni et al., 2007)。CXCL4L1は、トランスフェクションされたHEK細胞の培地中にかなりの量が見い出されるが、CXCL4L1は見い出されない。さらに、CXCL4L1は非制御的様式で恒常的に排出されるようだが、CXCL4は有芯顆粒(DCG)からの放出を介して制御的な方法で排出される。これは、CXCL4L1が細胞からの排出および拡散について大変異なるメカニズムを有することを示唆する。
【0006】
また、CXCL4L1はCXCL4よりもさらに効果的な血管新生の有力な阻害剤として特徴づけられた。例えば、国際特許出願 国際公開公報第2006/029487号は、血管新生の予防および/または縮小のための、特に癌のような血管新生疾患または病理学的血管新生を含む血管新生障害または血管新生疾患の、処置または予防のための、CXCL4L1、フラグメント、ならびにCXCL4L1およびCXCL4L1のフラグメントの改変された型に関する。
【0007】
膵癌のこの根源的な治療の面と平行して、重要な必要性がそのような癌の診断にもある。
【0008】
実際に、癌のバイオマーカー分野の主要なゴールは、初期の癌の検出をできるようにする非侵害性の試験の開発である。癌の初期の検出は、長期生存に重要であり、特に膵癌、それは5%未満の5年生存率である世界中の癌死亡の主要な原因である、に関する。それ故、部分的には、癌が通常初期には症状を引き起こさないこと、そして診断の時点では、局所進行性または転移性の疾患を導いているため、膵癌と診断された患者は、典型的には悪い予後である。膵癌は初期のステージにおいて無症状なので、ほとんどの患者は癌が膵臓を超えて広がるまで診断されず、それが以前述べられているような低い長期生存率に大い寄与する。
【0009】
しかしながら、膵癌を含むほとんどの固形腫瘍は初期に検出および処置されれば、しばしば治癒できる。
【0010】
それ故、特に膵癌発生初期の間に膵癌を診断するための方法を開発するニーズが依然として存在している。
【0011】
発明の要約
本発明は、患者の膵癌および/または膵転移を検出する方法に関し、該方法は、該患者から得られた生物学的サンプル中のCXCL4L1遺伝子の発現レベルを決定する事を含む。
【0012】
本発明は、患者から得られた生物学的サンプル中のCXCL4L1遺伝子の発現レベルを決定する事を含む、膵癌を有する該患者における膵癌の病期分類のための方法にも関する。
【0013】
本発明は、患者における膵癌のバイオマーカーとしてのCXCL4L1の使用にも関する。
【0014】
本発明は、膵癌の処置および/または膵臓の転移の予防のために細胞障害性薬物または成長阻害剤のような抗癌剤に結合したCXCL4L1特異的結合分子にも関する。
【0015】
発明の詳細な説明:
本発明者は、CXCL4L1が、初期の正確な膵癌の検出およびCXCL4L1遺伝子の発現レベルと腫瘍のグレードの重症度との間の関連づけのために使用されうるという所見を有する。
【0016】
定義:
用語「CXCL4L1」は本明細書において使用される時、PFAv1、PF4var1、PF4ALTおよびSCYB4V1を含むがそれらに限定されないすべての同義語を含むことを意図する。この用語はそれ故、天然に生じるCXCL4L1、ならびにその変異体および改変型を含む。用語「成熟CXCL4L1タンパク質」は、より長いプロペプチドのプロセシングにより得ることのできる70アミノ酸の成熟CXCL4L1タンパク質を意味する(アクセッションナンバー NP_002611でGenPeptデータベースに提供される)。CXCL4L1をコードする代表的な天然のヌクレオチド配列はGenBankデータベースにアクセッションナンバーNM_002620で提供される。用語「CXCL4L1」はCXCL4タンパク質の霊長類の天然の変異体も含むことにさらに注意されなければならない。例として、霊長類のCXCL4L1タンパク質は、GenBankアクセッションナンバーXM_001102971.1(アカゲザル)およびXP_001156146.1(チンパンジー)で提供される。
【0017】
本明細書において使用される時には、用語「CXCL4L1特異的結合分子」は、CXCL4L1を選択的に認識できるために十分な大きさおよび複雑性を有する分子を意味することを意図する。
【0018】
用語「抗CXCL4L1抗体」は選択的にCXCL4L1を認識する抗体またはそのフラグメントを意味する。
【0019】
本明細書おいて使用される時には、用語「膵癌」は、膵臓の細胞癌、特に膵臓腺癌(例えば膵管腺癌)ならびに膵外分泌部の他の腫瘍(例えば重大な嚢胞腺腫)、腺房細胞癌および(インスリノーマのような)膵臓の神経内分泌腫瘍を意味する。
【0020】
用語「膵転移」は、その技術分野での一般的な意味を有し、膵臓からの他の非隣接臓器または非隣接部位への腫瘍の広がりを意味する。
【0021】
CXCL4L1を発現または過発現し、CXCL4L1阻害剤で処置できる膵転移の例には、転移性の結腸、肺、膵臓、食道および前立腺の癌、メラノーマ、肝細胞癌ならびに神経節またはリンパ節転移を含むがそれらに限定されない。
【0022】
本明細書おいて使用される時には、用語「規定値」は、一般的な対象の集団または選択された対象の集団から得られた生物学的サンプル中のCXCL4L1の量を意味する。例えば、選択された集団は、以前に膵癌の存在を示す兆候または症状を有しなかった個体のような、明らかに健康な対象を含みうる。別の例では、規定値は、確立した膵癌を有する対象から得られたCXCL4L1の量であろう。規定値は、閾値または範囲であり得る。規定値は、明らかに健康な対象と確立した膵癌を有する対象との間の比較計測に基づき確立されうる。
【0023】
用語「患者」または「対象」は、本明細書において使用される時には、サル、チンパンジーおよびヒトを意味する。好ましくは本発明による患者はヒトである。
【0024】
用語「健康な対象」は、本明細書において使用される時には、既知の病気を患う事の全くない、特に膵癌に罹患していない対象の集団を意味する。
【0025】
用語「生物学的サンプル」は、患者由来のすべての生物学的サンプルを意味する。そのようなサンプルの例は、体液、組織、細胞サンプル、臓器、生検などを含む。所望の生物学的サンプルは、膵腫瘍サンプルまたは生検である。所望の生物学的サンプルは、全血、血清または血漿である。
【0026】
用語「バイオマーカー」は、本明細書において使用される時には、一般的に、分子、つまり遺伝子(または該遺伝子をコードする核酸)、タンパク質を意味し、患者由来の生物学的サンプルにおけるその発現は、その技術分野における標準的な方法(および本明細書に開示されている方法)で検出でき、サンプルを得た患者の状態を予測しまたは表す。
【0027】
診断方法およびキット:
本発明は、患者から得られた生物学的サンプル中のCXCL4L1遺伝子の発現レベルを決定する事を含む、該患者の膵癌および/または膵転移を検出する方法に関する。
【0028】
本発明は、患者から得られた生物学的サンプル中のCXCL4L1遺伝子の発現レベルを決定する事を含む、膵癌を有する患者の膵癌の病期分類のための方法にも関する。
【0029】
本発明はさらに、患者から得られた生物学的サンプル中のCXCL4L1遺伝子の発現レベルを決定すること、そして場合により、CXCL4L1遺伝子の発現レベルを、膵癌の所定の病期を表す規定値と比較する事、規定値に対するCXCL4L1遺伝子の発現レベルが、膵癌の進行を示唆し、それ故処置の効率の程度を示唆することを含む、膵癌および/または膵転移を罹患した患者のCXCL4L1アンタゴニストでの処置をモニタリングする方法に関する。
【0030】
特定の態様において、患者は膵管腺癌のような膵癌を罹患している。
【0031】
特定の態様では、本発明の方法に従いCXCL4L1遺伝子の発現レベルを決定する事は、該患者から得られた生物学的サンプル中のCXCL4L1をコードするmRNAの量を決定する事によって実施される。
【0032】
膵腫瘍サンプルは所望のサンプルである。全RNAは、そこから簡単に抽出できる。細胞または組織サンプルはその使用の前に、例えば核酸を入手可能にするために、処置されうる。細胞またはタンパク質の溶解、核酸の濃縮または希釈の技術は当業者に公知である。
【0033】
遺伝子の発現レベルの決定は、様々な技術によって実施できる。一般に、決定された発現レベルは相対的な発現レベルである。
【0034】
さらに好ましくは、決定は、サンプルをプローブ、プライマーまたはリガンドのような選択的試薬と接触させること、そしてそれによりもともとサンプル中にある対象となる核酸の存在を検出または量を測定する事を含む。
【0035】
所望の態様において、発現レベルはmRNAの量を決定することにより決定されうる。
【0036】
mRNAの量を検出する方法は、当業者に周知である。例えば、サンプル(例えば患者から調製される生検)中に含まれる核酸は、最初に標準的な方法に従い、例えば、溶解酵素または化学的溶液を用いて抽出されるか、または製造者の説明書に従い核酸結合レジンによって抽出される。抽出されたmRNAは、それからハイブリダイゼーション(例えばノザンブロット分析)および/または増幅(例えばRT−PCR)により検出される。所望の態様において、CXCL4L1遺伝子の発現レベルはRT−PCRにより決定され、好ましくは定量的または半定量的RT−PCR、さらにもっと好ましくはリアルタイム定量的または半定量的RT−PCRによって決定される。
【0037】
増幅の他の方法は、リガーゼ連鎖反応(LCR)、転写介在増幅(TMA)、鎖置換増幅(SDA)および核酸配列ベース増幅(NASBA)を含む。
【0038】
少なくとも10ヌクレオチドを有し、本明細書において対象となるmRNAに対して配列相補性または相同性を示す核酸は、ハイブリダイゼーションプローブまたは増幅プライマーとして有用性がある。そのような核酸は、同一である必要はないが、典型的には相当するサイズの相同領域に少なくとも約80%の同一性、さらに好ましくは85%の同一性、さらにもっと好ましくは90〜95%の同一性であることは理解される。特定の態様では、ハイブリダイゼーションを検出するために、検出可能な標識のような適切な手段と組み合わせて核酸を使用する事は有利であろう。蛍光の、放射性の、酵素的な、または他のリガンド(例えばアビジン/ビオチン)を含む多種多様の適切な指示薬が、当業者に公知である。
【0039】
プローブは典型的に10〜1000ヌクレオチドの長さの、例えば10〜800の、さらに好ましくは15〜700の、典型的には20〜500の一本鎖核酸を含む。プライマーは典型的には、増幅されるように、対象となる核酸に完全にまたはほぼ完全にマッチするように設計された、長さが10〜25ヌクレオチドの、より短い一本鎖核酸である。プローブおよびプライマーは、それらがハイブリダイズする核酸に特異的である、つまり、それらは好ましくは高ストリンジェンシーハイブリダイゼーション条件下(最も高い融解温度Tm、例えば、50%ホルムアミド、5×または6×SCC。SCCは、0.15MNaCl、0.015Mクエン酸ナトリウムに対応する)で、ハイブリダイズする。
【0040】
上述の増幅および検出方法に使用される核酸プライマーまたはプローブは、キットとして構築されてもよい。そのようなキットには、コンセンサスプライマーおよび分子プローブが含まれる。好ましいキットには、増幅がおこったかどうかを決定するために必要な成分も含む。キットは例えばPCR緩衝液および酵素;ポジティブコントロール配列、反応コントロールプライマー;および特異的な配列を増幅および検出するための説明書も含むであろう。
【0041】
別の態様では、本発明の方法によるCXCL4L1遺伝子の発現レベルの決定は、該患者から得られた生物学的サンプル中のCXCL4L1タンパク質の濃度を計測する事により実施される。
【0042】
好ましい態様では、CXCL4L1タンパク質の濃度は、該患者から得られた血液サンプル、血漿サンプルまたは血清サンプル中、計測される。いったん患者から生物学的サンプルが調製されれば、CXCL4L1の濃度は当業者に公知のいずれかの方法により計測できる。
【0043】
特定の態様では、そのような方法は、生物学的サンプルを、生物学的サンプル中存在するCXCL4L1と選択的に相互作用できる結合パートナーと接触させることを含む。結合パートナーはポリクローナルまたはモノクローナル、好ましくはモノクローナル抗体であり得る。別の態様では結合パートナーはアプタマーであり得る。
【0044】
本発明のポリクローナル抗体またはそのフラグメントは、特に、例えばブタ、ウシ、ウマ、ウサギ、ヤギ、ヒツジおよびマウスから選択される宿主動物に適切な抗原またはエピトープを投与する事により、既知の方法に従って産生できる。当業者に公知の様々なアジュバンドが抗体産生を増強するために使用できる。本発明を実施するのに有用な抗体はポリクローナルであり得るが、モノクローナルが好ましい。
【0045】
本発明のモノクローナル抗体またはそのフラグメントは、培養下の継代細胞株により抗体分子の産生を提供するいずれかの技術を用いて調製および単離できる。産生および単離の技術は、もともとKohlerおよびMilstein(1975)に記載されたハイブリドーマの技術;ヒトB細胞ハイブリドーマの技術(Cote et al., 1983);およびEBVハイブリドーマの技術(Cole et al. 1985)を含むがそれらに限定されない。例えば文献TW526269はCXCL4L1に対するモノクローナル抗体を開示している。
【0046】
あるいは、一本鎖抗体の産生に関して記載された技術(例えば米国特許第4,946,778号を参照されたい)は、抗CXCL4L1一本鎖抗体を産生するために適応できる。本発明を実施するのに有用な抗体は、完全な抗体分子のペプシン切断により産生できるF(ab')2フラグメントおよびF(ab')2フラグメントのジスルフィド結合を還元する事により産生できるFabフラグメントを含むがそれらに限定されない抗CXCL4L1フラグメントも含む。あるいは、Fabおよび/またはscFv発現ライブラリーが、CXCL4L1に対する所望の特異性を有するフラグメントの素早い同定を可能にするために構築できる。例えば抗体のファージディスプレーが使用できる。そのような方法では、一本鎖Fv(scFv)またはFabフラグメントが適切なバクテリオファージ、例えばM13の表面に発現される。手短かに言えば、タンパク質で免疫された適切な宿主、例えばマウス、の脾臓細胞が取り除かれる。VLおよびVH鎖のコーディング領域はタンパク質に対する所望の抗体を産生する細胞から得られる。これらのコーディング領域はその後ファージ配列の末端に融合される。一度ファージが適当なキャリアー(例えば細菌)に挿入されれば、ファージが抗体フラグメントを提示する。抗体のファージディスプレーは当業者に既知のコンビナトリアル手法によっても提供できる。ファージにより提示された抗体フラグメントは、その後イムノアッセイの部分として使用してもよい。
【0047】
別の態様では、結合パートナーはアプタマーでもよい。アプタマーは分子認識の点から抗体の代替に相当するクラスの分子である。アプタマーは、高いアフィニティーと特異性を有する、実質的にすべてのクラスの標的分子を認識する能力のあるオリゴヌクレオチドまたはオリゴペプチド配列である。そのようなリガンドは、Tuerk C. 1997に記載されているようなランダム配列ライブラリーからなる試験管内進化法(SELEX)を介して単離できる。ランダム配列ライブラリーはDNAのコンビナトリアル化学合成によって得られる。このライブラリーにおいて、各メンバーは、最終的には化学的に改変される独特な配列からなる直線的なオリゴマーである。このクラスの分子の可能な改変、使用および利点は、Jayasena S.D., 1999に概説された。ペプチドアプタマーは、ツーハイブリッド法(Colas et al., 1996)によりコンビナトリアルライブラリーから選択される、E.coliチオレドキシンAのようなプラットフォームタンパク質に提示された構造的に制限された抗体可変領域からなる。
【0048】
抗体またはアプタマーのような本発明の結合パートナーは、蛍光分子、色の基質を産生できる酵素、放射活性物質、または当業者に公知の他のいずれかの標識のような検出可能な分子または物質で標識できる。一般的にシグナルを(直接的または間接的に)提供する標識は当業者に公知である。
【0049】
本明細書において使用される時には、抗体に関して用語「標識された」は、放射活性剤または蛍光(例えばフルオレセインイソチオシアネート(FITC)またはフィコエリトリン(PE)またはインドシアニン(Cy5))のような検出可能な物質を抗体またはアプタマーにカップリングする(つまり物理的に結合する)ことによる抗体またはアプタマーの直接的標識、および検出可能な物質との反応性によるプローブまたは抗体の間接的標識(例えば西洋ワサビペルオキシダーゼ、HRP)を含むことを意図する。本発明の抗体またはアプタマーは当業者に公知のいずれかの方法により放射活性な分子で標識してもよい。例えば放射活性分子はI123、I124、In111、Re186、Re188などのシンチグラフィー研究のための放射活性原子を含むがそれらに限定されない。
【0050】
前述のアッセイは、一般的に、個体支持体中の結合パートナー(つまり抗体またはアプタマー)の結合を含む。本発明の実施に際し使用できる個体支持体はニトロセルロース(例えば、膜またはマイクロタイターウェル形状);ポリ塩化ビニル(例えばシートまたはマイクロタイターウェル);ポリスチレンラテックス(例えばビーズまたはマイクロタイタープレート);フッ化ポリビニリデン;ジアゾ化された紙;ナイロン膜;活性化ビーズ;磁力的に応答するビーズなどのような基材を含む。
【0051】
特に、マイクロタイタープレートのウェルが一連の抗CXCL4L1抗体でコートされる、ELISA法を使用できる。CXCL4L1を含むまたは含む疑いのある生物学的サンプルは、その後コートされたウェルに添加される。抗体−抗原複合体の形成ができるのに十分なインキュベーション時間の後、プレートは非結合部分を除去するために洗浄でき、検出可能に標識された二次的結合分子が添加される。二次的結合分子は、すべての捕獲されたサンプルマーカータンパク質と反応するようにされ、プレートは洗浄され、当業者に周知の方法を用いて二次的結合分子の存在が検出される。ELISAの別の方法は、標識されたCXCL4L1の既知の量に加えてCXCL4L1を含むまたは含む疑いのある生物学的サンプルをコートされたウェルに添加することを含む。抗体−抗原複合体の形成ならびに標識された分子と天然に生じる非標識分子との間の競合を可能にするのに十分なインキュベーション時間の後、プレートは非結合部分を除去するために洗浄できる。例えばHRP結合CXCL4L1の結合により得られた標識の強度は、当業者に周知の方法を用いて検出される。この設定では、一般的なELISAよりも感度がより高く、標識の減少がサンプル中に存在する天然の分子の量と関連する。HRP結合CXCL4L1の場合、HRP基質の添加は検出を可能にする。色の検出は一般的に使用されるがインキュベーション時間が必要で、ところが、ルミノール由来の基質代替物は直接的(インキュベーション時間がない)で非常に感度の高い検出を可能にする。
【0052】
CXCL4L1の濃度は、競合、直接的反応またはサンドイッチ型のアッセイの様なイムノアッセイを含む一般的な免疫診断的技術を用いて計測できる。そのようなアッセイは凝集試験;ELISAのような酵素標識および酵素仲介イムノアッセイ;ビオチン/アビジン型アッセイ;ラジオイムノアッセイ;免疫電気泳動;免疫沈降を含むがそれらに限定されない。
【0053】
CXCL4L1の濃度を測定する事(イムノアッセイに基づく方法で、またはイムノアッセイに基づく方法なしに)は、化合物の分離も含みうる:疎水性に基づくHPLC;大きさに基づく分子ふるいクロマトグラフィー;および使用される特定の固相に対する化合物のアフィニティーに基づく固相アフィニティー。分離した時点で、CXCL4L1は、既知のその化合物の「分離プロファイル」例えば、保持時間に基づき同定でき、標準的な技術を用いて測定できる。
【0054】
あるいは、分離された化合物は、例えば質量分析計によって検出および測定できる。
【0055】
特定の態様では、本発明の方法はさらに、CXCL4L1の濃度を既定の閾値と比較するステップを含みうる。該比較は膵癌を示す。CXCL4L1は膵癌発達の間、特に膵癌発達初期の間に増加する。
【0056】
本発明の更なる面は、患者における膵癌および/または膵転移を検出するための方法に関連し、該方法は、
(i)該患者から得られた生物学的サンプル中のCXCL4L1の濃度を測定し、
(ii)ステップ(i)で測定されたCXCL4L1の濃度を、膵癌に罹患していない対象からの生物学的サンプル中のCXCL4L1の濃度由来の参照値と比較し、ここで、該患者から得られた生物学的サンプル中のCXCL4L1の、該参照値と比較して増加したレベルは、患者が膵癌に罹患していることを示す
のステップを含む。
【0057】
本発明のさらなる面は、患者における、膵癌、特に膵臓腺癌のバイオマーカーとしてのCXCL4L1の使用に関する。
【0058】
本発明のさらなる面は、患者の膵癌を診断するためのCXCL4L1検出キットの使用に関する。
【0059】
本発明の治療法:
本発明の別の面は、膵癌の処置および/または膵転移の予防のための方法および組成物に関する。従って、本発明は、放射性同位体、化学療法剤または他の細胞障害性薬物(つまりTNFα)を膵腫瘍に運搬するための腫瘍標的化剤として使用できるCXCL4L1特異的結合分子に関する。
【0060】
特定の態様では、CXCL4L1特異的結合分子は上述のアプタマーである。
【0061】
別の特定の態様では、CXCL4L1特異的結合分子は、上述の抗体または抗体フラグメントである。
【0062】
本発明によれば、該CXCL4L1特異的結合分子は、細胞障害性薬物または成長阻害剤のような抗癌剤に結合されている。
【0063】
本明細書において使用される時には、「成長阻害剤」は細胞、特に膵癌細胞のin vitroまたはin vivoでの、増殖を阻害する化合物または組成物を意味する。成長阻害剤の例は、細胞サイクル進行を阻害する薬剤、例えば、G1停止およびM期停止を誘導する薬剤を含む。古典的なM期遮断薬はビンカ(ビンクリスチンおよびビンブラスチン)、タキサン、ならびにドキソルビシン、エピルビシン、ダウノルビシン、エトポシドおよびブレオマイシンのようなトポイソメラーゼII阻害剤を含む。G1を止めるこれらの薬剤、例えば、タモキシフェン、プレドニゾン、ダカルバジン、メクロレタミン、シスプラチン、メトトレキサートおよび5フルオロウラシルのようなDNAアルキル化剤はS期停止に波及もする。タキサン(パクリタキセルおよびドセタキセル)は両方ともイチイの木に由来する抗癌剤である。ヨーロッパイチイ由来のドセタキセル(TAXOTERE(登録商標)、Rhone-Poulenc Rorer)は、パクリタキセル(TAXOL(登録商標)、Bristol-Myers Squibb)の半合成類似体である。パクリタキセルおよびドセタキセルはチューブリン二量体からの微小管の集合を促進し、脱重合の阻害により微小管を安定させ、そしてそれは細胞における有糸分裂の阻害となる。
【0064】
用語「細胞障害性薬物」は、本明細書において使用される時には、細胞の機能を阻害もしくは阻止するおよび/または細胞の破壊を引き起こす物質を意味する。その用語は、放射活性アイソトープ(例えばAt211、I131、I125、Y90、Re186、Re188、Sm153、Bi212、P32、およびLuの放射活性アイソトープ)、例えばメトトレキサート、アドリアマイシン、ビンカアルカロイド(ビンクリスチン、ビンブラスチン、エトポシド)、ドキソルビシン、メルファラン、マイトマイシンC、クロラムブシル、ダウノルビシンまたは他の挿入剤のような化学療法剤、核酸分解酵素のような酵素およびそのフラグメント、抗生物質、ならびにそのフラグメントおよび/またはその変異体を含む、例えばゲロニン、リシン、サポリンのような細菌、真菌、植物、または動物起源の小分子毒素もしくは酵素的に活性な毒素のような毒素、ならびに以下に開示された様々な抗腫瘍または抗癌剤を含むことが意図される。他の細胞障害性薬物は以下に記載されている。殺腫瘍性の薬剤は腫瘍細胞の破壊を引き起こす。
【0065】
本発明のCXCL4L1特異的結合分子と細胞障害性薬物または成長阻害剤との結合は、N−スクシンイミジル(2−ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)、スクシンイミジル(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシラート、イミノチオラン(IT)、(アジプイミド酸ジメチルHCLのような)イミドエステルの二機能性誘導体、(スベリン酸ジサクシンイミジルのような)活性エステル、(グルタルアルデヒドのような)アルデヒド、(ビス(p−アジドベンゾイル)ヘキサンジアミンのような)ビスアジド化合物、(ビス(p−ジアゾニウムベンゾイル)エチレンジアミンのような)ビスジアゾニウム誘導体、(トルエン2、6ジイソシアネートのような)ジイソシアナートおよび(1,5ジフルオロ2,4ジニトロベンゼンのような)二活性フッ素化合物を含むがそれらに限定されない、様々な二機能性タンパク質カップリング試薬を用いて作成できる。例えばリシン免疫毒素は、Vitetta et al(1987)に記載されるように調製できる。炭素標識された1−イソチオシアナートベンジルメチルジエチレントリアミンペンタ酢酸(MX−DTPA)は、放射活性を与えられたヌクレオチドの抗体への結合のための代表的なキレート剤である(国際公開公報第94/11026号)。
【0066】
リンカーは細胞障害性薬剤または成長阻害剤の細胞での放出を促進する「切断可能なリンカー」であり得る。例えば、酸不安定リンカー、ペプチダーゼ感受性リンカー、感光性リンカー、ジメチルリンカーまたはジスルフィド含有リンカー(例えば米国特許第5,208,020号を参照されたい)が使用できる。
【0067】
あるいは、本発明のCXCL4L1特異的結合分子(例えば抗体)および細胞障害性薬物または成長阻害剤を含む融合タンパク質は、組み換え技術またはペプチド合成によって作成される。DNAの部分は、互いに隣接しているか、または結合体の所望の特性を破壊しないリンカーペプチドをコードする領域によって分離されている結合体の2つの部分をコードする、それぞれの領域を含むであろう。
【0068】
CXCL4L1特異的結合分子は、プロドラッグ(例えば、ペプチジル化学療法剤、国際公開公報第81/01145号を参照されたい)を活性な抗癌剤(例えば国際公開公報第88/07378号および米国特許第4,975,278号を参照されたい)に変換するプロドラッグ活性化酵素と結合できる。酵素は、プロドラッグをより活性な細胞障害性型に変換するための方法で、プロドラッグに作用できるいずれかの酵素を含む。本発明の方法で有益な酵素は、リン酸塩を含むプロドラッグを遊離型薬剤に変換するために有益なアルカリホスファターゼ;硫酸を含むプロドラッグを遊離型薬剤に変換するために有益なアリルサルファターゼ;非毒性フルオロシトシンを抗癌剤、5−フルオロウラシルに変換するために有益なシトシンデアミナーゼ;ペプチド含有プロドラッグを遊離薬剤に変換するために有益なセラチアプロテアーゼ、サーモリシン、スブチリシン、カルボキシペプチダーゼならびに(カテプシンBおよびLのような)カテプシンのようなプロテアーゼ;D−アミノ酸置換基を含むプロドラッグを変換するために有用なD−アラニルカルボキシペプチダーゼ;グリコシル化されたプロドラッグを遊離薬剤に変換するために有益なO−ガラクトシダーゼおよびノイラミニダーゼのような炭水化物切断酵素;P−ラクタムで誘導体化された薬剤を遊離薬剤に変換するために有益なP−ラクタマーゼ;ならびにアミン窒素においてフェノキシアセチルまたはフェニルアセチル基で誘導体化された薬剤をおのおの遊離薬剤に変換するために有用なペニシリンVアミダーゼまたはペニシリンGアミダーゼのようなペニシリンアミダーゼを含むがそれらに限定されない。酵素は、上述のヘテロ二機能性の架橋試薬の使用のような、当業者に周知の技術によって、抗体に共有結合で結合できる。
【0069】
本発明は、上述のようなCXCL4L1特異的結合分子をそれを必要としている対象に投与するステップを含む、膵癌を処置および/または膵転移を予防する方法にも関する。
【0070】
本発明の更なる面は、膵癌に罹患した患者を処置するための上述のようなCXCL4L1特異的結合分子に関し、該患者は上述のような方法で膵癌に罹患したと診断されている。
【0071】
本発明の更なる面は、それ故、膵癌に罹患している患者を処置するためのCXCL4L1特異的結合分子に関し、ここで該患者は一般的な集団または健康な対象から得られた規定値より高いCXCL4L1遺伝子の発現レベルを有する。
【0072】
上述のようなCXCL4L1特異的結合分子は医薬組成物の形態で投与できる。
【0073】
好ましくは、該阻害剤は、治療上効果的な量投与される。「治療上効果的な量」によって、すべての医学的処置に適応できる合理的な利益/リスク割合で膵癌を処置および/または膵転移を予防するための該CXCL4L1特異的結合分子の十分な量を意味する。
【0074】
本発明の化合物および組成物の毎日の使用量の全量が、妥当な医学的判断の範囲内で主治医によって決定されることは理解できるであろう。すべての特定の患者に対する特定の治療上効果的な投与量レベルは、処置される疾患および疾患の重症度;使用される特定の化合物の活性;使用される特定の組成物、患者の年齢、体重、一般的な健康、性別および食習慣;投与時間、投与経路および使用される特定の化合物の排出速度;処置の持続;使用される特定のポリペプチドと組み合わせてまたは同時に使用される薬剤;ならびに医療技術において周知の同様の因子を含む様々な因子に依存するであろう。例えば、所望の治療効果を達成するのに必要とされる投与量よりも低いレベルで化合物の投与量を開始し、所望の効果が達成されるまで徐々に投与量を増加させることは、十分に当業者の技能の範囲内である。しかしながら、産物の毎日の投与量は、一日、大人一人当たり0.01〜1000mgの広い範囲を超えて変化しうる。好ましくは、組成物は、処置される患者に対する投与量の症状的調節のために0.01、0.05、0.1、0.5、1.0、2.5、5.0、10.0、15.0、25.0、50.0、100、250および500mgの活性成分を含む。薬物は、典型的には約0.01mgから約500mgの活性成分を含み、好ましくは、1mgから約100mgの活性成分を含む。薬物の効果的な量は通常、一日、体重当たり0.0002mg/kgから約20mg/kg、特に一日、体重当たり約0.001mg/kgから7mg/kgの投与量レベルで供給される。
【0075】
本発明は、さらに以下の図および実施例を背景に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】CXCL4またはCXCL4L1の系統樹。図にみられるように、分岐は進化の最晩期に起こった。チンパンジー、サルおよびヒトのCXCL4またはチンパンジー、サルおよびヒト由来のCXCL4L1はおのおの共にクラスター形成する。
【図2】CXCL4およびCXCL4L1の異なるヒト組織における発現。遺伝子発現は、各々の遺伝子に対する特異的なプライマーでの半定量的リアルタイムPCRによって分析され、ハウスキーピング遺伝子S16の発現と比較された。
【図3】PDAC−CAMモデルにおけるin vitroおよびin vivoでのCXCL4およびCXCL4L1のmRNAの発現分析。A.in vitroでのBxPC3細胞ならびにT1およびT6でのPDAC−CAMモデルにおける、S16の発現と比較されたリアルタイムPCR発現分析。T1でのCXCL4L1 mRNAの相対的レベルには任意に値1が与えられた。B.CXCL4L1またはCXCL4リボプローブでのT6 PDAC−CAMサンプルのパラフィン包埋切片におけるin situハイブリダイゼーション。腫瘍結節は点線で区切られ(アスタリスク*:陽性結節)、CAM表面は実線によって区切られた。スケールバーは50μmである。
【図4】PDAC−CAMモデルにおけるCXCL4L1タンパク質の発現分析。A−B.陽性腫瘍結節を示す、汎CXCL4L1/CXCL4抗体または特異的CXCL4抗体各々でのT6パラフィン包埋切片の免疫標識(アスタリスク*)。スケールバーは50μm。C.CAM腫瘍抽出物は、抗CXCL4/CXCL4L1抗体でインキュベーションされた。免疫沈降物は、その後10%ポリアクリルアミドゲル上で流され、トランスファー後、特異的抗CXCL4L1抗体を用いてウエスタンブロットが実施された。ゲルは2回の独立した実験の代表である。
【図5】マウス膵臓腺癌異種移植モデルにおけるCXCL4L1の発現分析。汎CXCL4/CXCL4L1抗体(A−C)または特異的CXCL4抗体(B−D)での皮下原発腫瘍(A−B)および肺微小転移(C−D)のパラフィン包埋切片の免疫標識。挿入図は、おのおのの微小転移の全体的視野を示す。スケールバーは50μm。
【図6A】ヒト膵臓組織におけるCXCL4L1の発現分析。A.リアルタイムPCRにより分析された24人のヒト患者の膵臓腺癌サンプルにおけるCXCL4L1の相対的発現。ヒト腫瘍におけるCXCL4L1発現は正常な膵臓での発現との比較で与えられる。B−C.免疫標識は、ポリクローナルCXCL4/CXCL4L1(B)またはCXCL4L1のみを認識するMabv1(C)を用いて実施された。B.CXCL4/CXCL4L1 B1−B2、コントロール;パネルB3−B7、異なるステージでの膵臓腺癌;B8、神経節転移。C、C1−C3 正常な膵臓での弱いバックグラウンド染色、C4−9膵癌における強い免疫反応性、C10浸潤細胞における陽性、C11脂肪組織における浸潤細胞、C12陽性リンパ節転移。
【図6B】ヒト膵臓組織におけるCXCL4L1の発現分析。A.リアルタイムPCRにより分析された24人のヒト患者の膵臓腺癌サンプルにおけるCXCL4L1の相対的発現。ヒト腫瘍におけるCXCL4L1発現は正常な膵臓での発現との比較で与えられる。B−C.免疫標識は、ポリクローナルCXCL4/CXCL4L1(B)またはCXCL4L1のみを認識するMabv1(C)を用いて実施された。B.CXCL4/CXCL4L1 B1−B2、コントロール;パネルB3−B7、異なるステージでの膵臓腺癌;B8、神経節転移。C、C1−C3 正常な膵臓での弱いバックグラウンド染色、C4−9膵癌における強い免疫反応性、C10浸潤細胞における陽性、C11脂肪組織における浸潤細胞、C12陽性リンパ節転移。
【図6C】ヒト膵臓組織におけるCXCL4L1の発現分析。A.リアルタイムPCRにより分析された24人のヒト患者の膵臓腺癌サンプルにおけるCXCL4L1の相対的発現。ヒト腫瘍におけるCXCL4L1発現は正常な膵臓での発現との比較で与えられる。B−C.免疫標識は、ポリクローナルCXCL4/CXCL4L1(B)またはCXCL4L1のみを認識するMabv1(C)を用いて実施された。B.CXCL4/CXCL4L1 B1−B2、コントロール;パネルB3−B7、異なるステージでの膵臓腺癌;B8、神経節転移。C、C1−C3 正常な膵臓での弱いバックグラウンド染色、C4−9膵癌における強い免疫反応性、C10浸潤細胞における陽性、C11脂肪組織における浸潤細胞、C12陽性リンパ節転移。
【図7A】内皮細胞におけるCXCL4L1の機能研究;A−B.内皮細胞の増殖、移動、浸潤における組み換えGST−CXCL4(GST−PF4)およびGST−CXCL4L1(GST−PF4v1)タンパク質の活性。BAECおよびHUVEC細胞はFGF2(10ng/ml)および異なる濃度の組み換えタンパク質の存在下培養された。A.48時間の刺激期間の後、細胞増殖は独自にFGF2で処理された細胞との比較により決定された。IC50:50%の細胞増殖阻害を誘導するのに必要なタンパク質濃度;Imax:細胞増殖の完全な阻害に必要なタンパク質濃度。B.18時間の刺激の後、BEAC移動は最初の創傷から覆われた表面のパーセンテージによって決定される。結果は三つ組みで実施された3回の独立した実験の平均±標準偏差である。C.HUVECのFGF−2誘導浸潤に対するCXCL4L1およびCXCL4の効果。左、浸潤細胞のイメージ;右、定量化。
【図7B】A−B.内皮細胞の増殖、移動、浸潤における組み換えGST−CXCL4(GST−PF4)およびGST−CXCL4L1(GST−PF4v1)タンパク質の活性。BAECおよびHUVEC細胞はFGF2(10ng/ml)および異なる濃度の組み換えタンパク質の存在下培養された。A.48時間の刺激期間の後、細胞増殖は独自にFGF2で処理された細胞との比較により決定された。IC50:50%の細胞増殖阻害を誘導するのに必要なタンパク質濃度;Imax:細胞増殖の完全な阻害に必要なタンパク質濃度。B.18時間の刺激の後、BEAC移動は最初の創傷から覆われた表面のパーセンテージによって決定される。結果は三つ組みで実施された3回の独立した実験の平均±標準偏差である。C.HUVECのFGF−2誘導浸潤に対するCXCL4L1およびCXCL4の効果。左、浸潤細胞のイメージ;右、定量化。
【図7C】A−B.内皮細胞の増殖、移動、浸潤における組み換えGST−CXCL4(GST−PF4)およびGST−CXCL4L1(GST−PF4v1)タンパク質の活性。BAECおよびHUVEC細胞はFGF2(10ng/ml)および異なる濃度の組み換えタンパク質の存在下培養された。A.48時間の刺激期間の後、細胞増殖は独自にFGF2で処理された細胞との比較により決定された。IC50:50%の細胞増殖阻害を誘導するのに必要なタンパク質濃度;Imax:細胞増殖の完全な阻害に必要なタンパク質濃度。B.18時間の刺激の後、BEAC移動は最初の創傷から覆われた表面のパーセンテージによって決定される。結果は三つ組みで実施された3回の独立した実験の平均±標準偏差である。C.HUVECのFGF−2誘導浸潤に対するCXCL4L1およびCXCL4の効果。左、浸潤細胞のイメージ;右、定量化。
【図8】膵癌細胞(BXPC3)におけるCXCL4およびCXCL4L1の効果 CXCL4L1(PF4v1)およびCXCL4(PF4)の増殖および浸潤に対する効果。A、ヒト臍帯静脈上皮細胞(HUVEC)の増殖に対する効果。B、C HUVECの浸潤に対する効果。B、浸潤細胞のイメージ、C、浸潤の定量化。
【0077】
実施例:
材料および方法
【0078】
細胞培養およびPDAC−CAMモデル
ヒト膵癌細胞系BxPC3およびウシ大動脈内皮細胞(BAEC)は10%ウシ胎仔血清、抗生物質(ペニシリン/ストレプトマイシン)およびL−グルタミンが追加されたDMEM1g/Lグルコース(Invitrogen, Cergy Pontoise, France)中培養された。ヒト臍帯静脈上皮細胞(HUVEC, Lonza, Levallois-Perret, France)は、2%FBSを含むEGM−2 SingleQuots(Lonza)を追加されたEBM−2(Lonza)中維持された。培養は37℃、5%C02中インキュベーションされた。腫瘍細胞はDr.C.Susini(INSERM U531, Toulouse, France)からの快い贈り物であった。受精鶏卵(Gallus gallus)(EARL Morizeau, Dangers, France)は、かつて記載された通り(Hagedorn et al., 2005)取り扱われた。胎性期10日(E10)において、最終量40μlの無血清培地に希釈された400万のBxPC3細胞は無傷のCAM表面に薄膜として沈着された。
【0079】
マウス異種移植片モデル
メスのRAG−γ/cマウスはBordeaux 1 Universityの飼養施設(「Animalerie Mutualisee Bordeaux I」)に収容され、処置された。すべての動物の処置は施設のガイドラインに従って実施された。20週令の年老いたマウス(n=26)は、ケタミン(150mg/kg)およびキシラジン(15mg/kg)の腹腔内投与で麻酔され、皮下投与により100μlの無血清培地中の3.106 BxPC3細胞で異種移植された。
【0080】
RNA抽出および逆転写反応
細胞または瞬間凍結組織から、全RNAはRNeasy mini kit(Qiagen, Courtaboeuf, France)を用いて抽出された。RNAの質および量はアガロースゲル電気泳動および吸光度測定により評価された。第一鎖cDNAは、Quantitect Reverse Transcription kit(Qiagen)を用いて全RNAの1μgから調製された。
【0081】
リアルタイムPCR
リアルタイムPCRは、SYBRグリーン色素(ABgene, Courtaboeuf, France)を使用しMx3000P thermocycler(Stratagene, La Jolla, CA)で実施された。ヒト特異的プライマーが設計され、Universal Human Reference RNA(Stratagene)を用いて増幅効率が評価された。90〜110%の増幅効率をもつプライマーペアのみが使用された。PCRの特異性は、増幅産物の解離曲線分析およびアガロースゲル電気泳動により検証された。すべてのサンプルは3回の独立した実験の最小値で試験された。
【0082】
in situハイブリダイゼーション
DIG CXCL4およびCXCL4L1ヒトリボプローブは製造業者の説明書に従って合成された(Roche RNA Labeling Kit(SP6/T7)-Roche)。つまり、pCR2.1 TOPO CXCL4_UTRおよびpCR2.1 TOPO CXCL4L1_UTRベクターはXhoI(センスプローブ用)またはBamHI(アンチセンスプローブ用)酵素切断により直鎖化された。転写後、DNAテンプレートは切断され(DNaseI Invitrogen)、その後、リボプローブを塩化リチウムにより沈殿させた。
【0083】
BxPC3小結節を伴うCAMは4℃、PAF4%で一晩固定された。PBSで洗浄後、組織は脱水され、その後パラフィン包埋された。ハイブリダイゼーションの前に、組織切片は再脱水され、プロテイナーゼKによって透過処理され、再度PAF4%で固定された。パラフィン包埋CAM切片は70℃、CXCL4またはCXCL4L1プローブで一晩ハイブリダイゼーションされた。ネガティブコントロールとして、センスプローブでのハイブリダイゼーションが実施された。組織切片はヒツジ血清中インキュベーションされ、洗浄され、抗DIGヒツジ抗体とインキュベーションされた。
【0084】
組織学的検査、免疫組織化学的検査
パラフィン包埋組織は、7μm厚のミクロトーム切片に切断され、組織学的分析、転移の局在および最も代表的な腫瘍領域の選択のためにヘマトキシリン−エオシンで染色された。使用された一次抗体は、ヤギ抗ヒトCXCL4(PF4-AF-795, R&DSystem-Minneapolis)およびCXCL4L1に対するマウスモノクローナル抗体(MabV1, clone 9E11-2D5-2G1)である。この抗体の産生および特徴は他で報告されるであろう(Dubrac et al manuscript in preparation)。対応する二次抗体は、抗ヤギまたは抗マウスHRP結合抗体(Dakocytomation)である。イメージングはNikon DXM Eclipse E600 microscopeを用いて実施された。
【0085】
細胞増殖および細胞死アッセイ
細胞の生存率はWST−1アッセイによって評価された(Roche, Neuilly sur Seine Cedex, France)。アポトーシスの相対的存在量は、製造者の説明書に従って、カスパーゼ3/7活性によって測定される(Apo-one homogeneous assay kit, Promega, Charbonnieres, France)。両方の場合において、細胞は96穴プレートに濃度1×104(HUVEC)または3×103(BxPC3)細胞/ウェルで蒔かれ、一晩接着を可能にした。完全培地は、ゲムシタビン(Laboratoire Lilly, Suresnes, France)および/またはCXCL4L1有りまたは無しの無血清培地で24時間(HUVEC)もしくは48時間(BxPC3)置換された。すべてのアッセイは三つ組みのウェルで実施され、おのおのの実験は3回繰り返された。
【0086】
遊走および浸潤アッセイ
細胞遊走および浸潤アッセイは、24穴培養プレートに設置された孔径8μmのTranswell membrane filter(BD Biosciences、Le Pont-de-Claix, France)を用いて実施された。Transwell membraneの上部の表面は、100μg/mlのgrowth factor−reduced Matrigel matrix(BD Biosciences)で被覆され、またはされなかった。その後、無血清培地中の1×105細胞はおのおののTranswellチャンバーに添加され、37℃で、遊走試験のために6時間、浸潤試験のために24時間、化学遊走物質として下部のチャンバーの無血清培地0、5%FBSにより、上部チャンバーの下側に遊走できるようにした。細胞はメタノール30%、酢酸10%で10分間固定され、クマシンブルー0、1%、メタノール30%、酢酸40%で3分間着色された。膜の上部の表面の細胞は、綿棒で拭う事により除去された。
【0087】
系統発生解析
BLASTでタンパク質のRefseqデータベースに対してCXCL4(PF4)とマッチするペプチドがサーチされ、ペプチド目録が引き出された。ハイライトされた配列は、首尾よくヒトに対して戻った相互BLASTの配列を示す。他の配列は対象となるためリストアップされた。ClustalWプログラムは、すべての種においてCXCL4(PF4)およびCXCL4L1(PF4V1)を示すことが見いだされた12配列に対し実施された。
【0088】
系統樹は、最適な樹を発見するために近隣結合法を用いて1000のブートストラップを用いて構築された。ギャップのある部位は分析から除外され、アライメントは多重置換に関して補正された。
【0089】
ヒト腫瘍サンプル
ヒト腺癌サンプルはProf Martin Schilling(Klinik fur Allgemeine Chirurgie, Viszeral-, Gefaeβ-und Kinderchirurgie, Homburg, Germany)によって提供された。新鮮な腫瘍組織は外科手術中に得られ、直接的に液体窒素中瞬間凍結された。患者は診療所のガイドラインに従って組織分析の前に同意した。
【0090】
結果
CXCL4L1およびCXCL4の系統発生解析
【0091】
CXCL4およびCXCL4L1は相同性が高い。CXCL4との比較でのCXCL4L1の種の発現を分析するために、我々はCXCL4/CXCL4L1とマッチするペプチドをタンパク質のRefseqデータベースに対してBLASTで検索した。CXCL4L1はヒト、サルおよびチンパンジーでのみ発現している。注目すべきは、トリはCXCL4L1もCXCL4も発現していないことである。
【0092】
我々は次にClustalWプログラムを用いて、すべての種のCXCL4およびCXCL4L1を表す12個の配列について系統発生解析を実施し、最適な樹を発見するために近隣結合法を用い、1000のブートストラップと系統樹を構築した(図1)。ギャップのある部位は分析から除外され、アライメントは多重置換に関して修正された。分析からわかるように、CXCL4L1およびCXCL4は、進化の最晩期、サル、チンパンジーおよびヒトの共通の祖先のレベルで分岐した。
【0093】
ヒト組織におけるCXCL4L1またはCXCL4の発現
複数のヒト組織のmRNAにおける定量的PCRはCXCL4L1およびCXCL4に関して異なる発現プロファイルを示唆する(図2)。CXCL4L1が単に、胎児肝、結腸およびある程度脾臓に発現する一方、CXCL4は脾臓に高度に発現している。正常なヒト膵臓は、有意にCXCL4L1およびCXCL4を発現しない。
【0094】
膵臓腺癌におけるCXCL4L1またはCXCL4の発現
トランスクリプトームのプロファイリングはPDAC−CAMモデルにおいてCXCL4L1は同定するがCXCL4を同定しない:ヒトAffymetrixまたはトリAffymetrixマイクロアレーを用いたデュアルトランスクリプトーム分析は、トリ絨毛尿膜へのBxPC3細胞の移植の腫瘍1日目(T1)および腫瘍6日目(T6)の間(胚発生のE11およびE16に対応する)に実施された。我々は、CXCL4ではなくCXCL4L1がT1と比較してT6に高度にアップレギュレーションされた(14.6倍増加)ことを明確に証明した。CXCL4L1はまたヒトAffymetrixアレイにおいてのみ検出され、トリチップが使用された時、トリのオルソログは存在しなかった。この事は、in vivoで腫瘍発生の間、CXCL4L1が腫瘍細胞において誘導される事を示唆した。
【0095】
実験的膵臓腺癌におけるCXCL4L1またはCXCL4の発現分析:この主張を強固にするために、我々はまず実験的膵臓腺癌モデルにおける特異的な発現を確認するために、CXCL4L1およびCXCL4に特異的なプライマーを用いてリアルタイムPCRを実施した。トランスクリプトームの分析にみられるように、qPCR分析は、T1腫瘍と比較した時、T6腫瘍において高度のアップレギュレーション(9.65倍)を明らかにした。培養中のBxPC3細胞には、発現は見られなかった(図3A)。
【0096】
我々はその後、ケモカインのいずれか一種を認識する特異的プローブを用いて、CXCL4との比較により、CXCL4L1の発現をin situハイブリダイゼーションで調べた(図3B)。in situハイブリダイゼーションはCXCL4ではなくCXCL4L1のみがT6腫瘍において発現していることを明確に示した。
【0097】
我々は次にPDAC−CAMモデルの我々の実験的膵臓腫瘍中のタンパク質の発現を調べた。ヒトCXCL4またはCXCL4L1のみを認識する特異的なポリクローナルまたはモノクローナル抗体を用いたCXCL4L1の免疫局在は、T6腫瘍に有意な免疫反応性を示す(図4A)が、BxPC3細胞には示さない(データ不掲載)。さらに、特異的なモノクローナル抗CXCL4L1抗体(MABv1)は、CAM中の膵臓小結節においてCXCL4L1を明瞭に検出する(図4B)。
【0098】
さらに、我々はCXCL4およびCXCL4L1の両方と相互作用できるモノクローナルまたはポリクローナル抗体を用いたウエスタンブロットにおいて7kDaの有意な免疫反応性を検出した。さらに、特異的モノクローナル抗CXCL4L1抗体(MABv1)を用いた時、有意なCXCL4L1免疫反応性が検出された(図4C)。
【0099】
まとめると、これらのデータは、CXCL4ではなくCXCL4L1がトリ絨毛尿膜上に成長する膵腫瘍において高度に過発現していることを示唆する。
【0100】
膵癌のマウスモデルにおける発現分析:CXCL4L1のアップレギュレーションはトリ胎性モデルに特異的ではないことを確認するために、BxPC3細胞は最初にRAG〜g/cマウスの皮下に移植され、原発腫瘍または肺転移が移植後10週間で分析された。組織はその後ヒトCXCL4L1またはCXCL4に対する抗体を用いたqPCRまたは免疫組織化学的検査により分析された。qPCR分析は、CXCL4ではなくCXCL4L1が腫瘍サンプル中に発現している事を明確に示唆する。図5Aに見られるように、我々は次に両方の型を認識するパンCXCL4L1/CXCL4抗体を用いた免疫組織化学的検査を実施した。我々は、原発腫瘍および肺転移の両方において陽性の免疫反応性を明瞭に検出した。この抗体はヒトCXCL4/CXCL4L1に特異的であり、マウスCXCL4と交差反応しない。我々は次に、我々のCXCL4L1に特異的なモノクローナル抗体を用いて免疫組織化学的検査を実施した。再び、我々は、原発腫瘍および肺転移の両方において陽性の免疫反応性を明瞭に検出した(図5B)。これらの結果は、この腫瘍モデルにおける原発腫瘍および肺転移の両方においてCXCL4L1が有意に発現していることを示唆する。
【0101】
ヒト腫瘍サンプル中のCXCL4/CXCL4L1の発現分析:膵腫瘍中のCXCL4L1の発現を確認するために、RNAは24人の腺癌患者サンプルから単離され、特異的なプライマーを用いたqPCRが正常な膵臓との比較により実施された(図6A)。CXCL4L1mRNAの発現はすべての試験された膵腫瘍で検出され、23/24サンプルにおいて様々な過発現レベルで(平均値+5.0)過発現した。我々はCXCL4に対する特異的なプライマーとqPCRも実施した。患者由来の腫瘍サンプルにCXCL4の発現は検出できなかった。これらの結果は異なる患者のサブグループを反映するであろう、ヒト膵癌中での不均一なCXCL4L1の過発現を示唆する。
【0102】
我々は次に、ヒトCXCL4/CXCL4L1に特異的な抗体を用いて膵腫瘍サンプルの免疫組織学的分析を実施した(図6B及び6C)。我々は、ポリクローナル抗CXCL4/CXCL4L1抗体(図6B)または特異的モノクローナル抗体MABv1(図6C)の両方で、正常ヒト膵臓ではなく膵腫瘍サンプルにおける免疫反応性を明確に証明した。驚くべき事に腫瘍のグレードの重症度と共に免疫反応性が上昇し、最も弱い染色をグレード1において、最も強い染色をグレード3の腫瘍において示した。この事は、CXCL4L1が膵臓腺癌において高度に過発現されている事、および発現が組織学的グレードの上昇と共に上昇する事を示唆する。
【0103】
膵癌におけるCXCL4L1またはCXCL4の機能研究
CXCL4L1およびCXCL4の組み換えタンパク質はGST融合タンパク質として相当量精製された。プロテアーゼの切り取りによるGSTの除去は、生物学的活性に対する有意な効果を有さず、切り取りを不必要にする。
【0104】
CXCL4と比較してCXCL4L1の活性を試験するために、BxPC3細胞またはHUVEC細胞は、これらの分子の増加する濃度で刺激され、増殖が測定された。CXCL4L1は、文献に報告されているのと同様に、CXCL4よりも内皮細胞増殖にかなり強い効果(43倍高い)を示した(図7A)。しかしながら、両方のケモカインの効果はBxPC3細胞において認められなかった(図8)。我々は、さらにボイデンチャンバー遊走アッセイを用いて、遊走および浸潤に対するCXCL4L1またはCXCL4の効果を研究した。再び、内皮細胞遊走および浸潤は有意に阻害されたが、BxPC3細胞の遊走は阻害されなかった(図7B、C;図8B、C)。
【0105】
考察
CXCL4L1はヒト、サルおよびチンパンジーにのみ発現し、進化の最晩期にCXCL4から分岐する。腸、肝臓および脾臓を含む複数のヒト組織は、CXCL4L1およびCXCL4を発現するが、正常膵臓組織は、このケモカインの弱い発現を示すか全く発現しないことを示す。しかしながらCXCL4ではなくCXCL4L1が膵癌において有意に過発現し、新規のバイオマーカーに相当する。この事は下記の観察に基づく:
(1)qPCRまたはin situ ハイブリダイゼーションとの組み合わせによるトランスクリプトーム分析は、ヒト膵臓腺癌細胞がトリ絨毛尿膜に移植される時、有意なレベルのCXCL4L1 mRNAを発現するが、CXCL4のmRNAは発現しない事を示唆する。
(2)抗ヒトCXCL4L1/CXCL4または特異的なモノクローナル抗CXCL4L1抗体(Mabv1)を用いた免疫局在性は、トリCAMに移植される時、腫瘍細胞において強い免疫反応性を証明する。
(3)マウスに移植後の原発膵腫瘍は、CXCL4L1 mRNAを発現し、原発腫瘍および転移性腫瘍細胞も陽性の免疫反応性を示す。
(4)ヒト患者由来の膵臓腺癌サンプルはCXCL4L1 mRNAのみを発現し、CXCL4 mRNAは発現せず、強い陽性の免疫反応性を示す。
(5)膵臓腺癌細胞ではなく内皮細胞が外来性CXCL4L1に応答することは、膵腫瘍発生においてCXCL4L1の活性のパラクリンモードを示唆する。さらに、我々の結果は、培養液中の膵臓腺癌細胞がCXCL4L1もCXCL4も発現しないので、CXCL4L1発現のアップレギュレーションは特異的な腫瘍−宿主相互作用によるということを示唆する。
【0106】
CXCL4L1は、シグナル配列をコードするアミノ末端に34%のみの違いを有し、残りの配列に4.3%の違いが認められるCXCL4に対して密接に相同なケモカインである。血小板精製CXCL4L1は細胞遊走においてCXCL4よりも少なくとも50倍強力である事が示された(Stryuf et al. 2004)。我々のデータでは、組み換えCXCL4L1は内皮細胞増殖の阻害においてCXCL4よりも50倍より強力であるが、内皮細胞遊走の阻害においてCXCL4よりも100倍より強力である。さらに、腫瘍発生の阻害が肺において認められ、メラノーマ細胞腫細胞はCXCL4L1により阻害される(Struyf et al., 2007)。さらに、かつてCXCL4L1とCXCL4の分泌およびプロセシングは異なるという事が示された(Lasagni et al., 2007)。CXCL4が有芯顆粒からPKC制御経路を介して制御された方法で排出される一方、CXCL4L1はPKCを介して制御されず、構成的に分泌される。さらに、CXCL4L1またはCXCL4は血小板−巨核球系に発現するだけでなく炎症性細胞(T細胞、白血球、単球)、血管および冠状動脈平滑筋細胞ならびに内皮細胞にも発現する(Lasagni et al., 2007)。これらの結果は、CXCL4L1が血管形成において調節機能を有するかもしれないことを示唆する。
【0107】
実験室で、我々は最初に神経膠腫の浸潤および血管形成によりよい見識をえるため、トリ胚モデルを開発した(Hagedorn et al., 2005)。我々は現在さらにこのモデルを膵管腺癌のために拡大し(PDAC−CAMモデル)、CAMに移植される時、膵腫瘍細胞におけるCXCL4L1の有意なアップレギュレーション、CXCL4の非アップレギュレーションを証明した。驚くべき事に、培養中の腫瘍細胞にはCXCL4L1の発現は見い出されなかった。ヒトCXCL4L1に特異的なプライマーが使用され、CXCL4L1がヒト由来の細胞にのみ発現し他の種には発現しないので、これらの結果は、腫瘍細胞が適切な微小環境におかれる時、腫瘍細胞はCXCL4L1の発現をアップレギュレーションすることを示唆する。さらにCXCL4L1またはCXCL4に特異的なプローブを用いたin situハイブリダイゼーションは、CAMで成長した時、CXCL4L1のみに対して腫瘍に有意なシグナルを示した。さらに、細胞が培養液中成長した時ではなくCAMに移植された時に、CXCL4L1の免疫反応性が腫瘍細胞で検出された。これらの条件下では高い関心のある分子が検出されないかもしれないので、これらの結果は培養液中で行われる複数の分子プロファイリング研究の妥当性に疑問も投げかける。
【0108】
我々は、次に膵腫瘍細胞で異種移植されたマウスを用いてCXCL4L1の発現を研究した。CXCL4L1mRNAを発現するがCXCL4を発現しない原発腫瘍を皮下に移植した。再び、高度の免疫反応性が抗ヒトCXCL4L1/CXCL4またはCXCL4L1抗体を用いて証明された。さらに、有意な免疫反応性も肺転移中に検出された。これらの結果は、アップレギュレーションがトリの微小環境に特異的ではなく、細胞がマウス組織に移植される時にも検出されることを明確に示唆する。
【0109】
我々は最終的にヒト患者由来のサンプルにおいて、CXCL4のmRNAではなくCXCL4L1のmRNAの有意なアップレギュレーションを証明した。mRNAの発現は不均一であり、多分、低、中間、高度のCXCL4L1発現を有する様々な患者グループを示唆する。我々が観察した興味深い発見は、CXCL4L1に対する免疫反応性が組織学的グレードとともに上昇することであった。有意な免疫反応性がリンパ節転移病変にも検出された。これはCXCL4L1が膵癌の新規のバイオマーカーとなり、疾患の進行および処置反応を予測するということを示唆する。
【0110】
さらに、腫瘍環境におけるCXCL4L1の濃度の局所的増加により、膵腫瘍は、治療目的で、細胞障害性薬物または成長阻害剤のような抗癌剤に結合したCXCL4L1特異的結合分子の標的となりうる。
【0111】
【表1】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者から得られた生物学的サンプル中のCXCL4L1遺伝子の発現レベルを決定することを含む、該患者における膵癌および/または膵転移を検出する方法。
【請求項2】
患者から得られた生物学的サンプル中のCXCL4L1遺伝子の発現レベルを決定することを含む、膵癌を有する該患者における膵癌の病期を分類する方法。
【請求項3】
CXCL4L1遺伝子の発現レベルがCXCL4L1 mRNAの量を測定することにより決定され、生物学的サンプルが組織サンプルである、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
組織サンプルが膵腫瘍サンプルである請求項3記載の方法。
【請求項5】
CXCL4L1遺伝子の発現レベルが患者から得られた生物学的サンプル中のCXCL4L1タンパク質の濃度を測定する事により決定される、請求項1または2記載の方法。
【請求項6】
生物学的サンプルが血液サンプル、血清サンプルまたは血漿サンプルである請求項5記載の方法。
【請求項7】
膵癌が膵臓腺癌である請求項1〜6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
CXCL4L1の患者における膵癌のバイオマーカーとしての使用。
【請求項9】
膵癌の処置および/または膵転移の予防のための、細胞障害性薬剤または成長阻害剤のような抗癌剤に結合したCXCL4L1特異的結合分子。
【請求項10】
CXCL4L1特異的結合分子が抗CXCL4L1抗体である請求項9記載のCXCL4L1特異的結合分子。
【請求項1】
患者から得られた生物学的サンプル中のCXCL4L1遺伝子の発現レベルを決定することを含む、該患者における膵癌および/または膵転移を検出する方法。
【請求項2】
患者から得られた生物学的サンプル中のCXCL4L1遺伝子の発現レベルを決定することを含む、膵癌を有する該患者における膵癌の病期を分類する方法。
【請求項3】
CXCL4L1遺伝子の発現レベルがCXCL4L1 mRNAの量を測定することにより決定され、生物学的サンプルが組織サンプルである、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
組織サンプルが膵腫瘍サンプルである請求項3記載の方法。
【請求項5】
CXCL4L1遺伝子の発現レベルが患者から得られた生物学的サンプル中のCXCL4L1タンパク質の濃度を測定する事により決定される、請求項1または2記載の方法。
【請求項6】
生物学的サンプルが血液サンプル、血清サンプルまたは血漿サンプルである請求項5記載の方法。
【請求項7】
膵癌が膵臓腺癌である請求項1〜6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
CXCL4L1の患者における膵癌のバイオマーカーとしての使用。
【請求項9】
膵癌の処置および/または膵転移の予防のための、細胞障害性薬剤または成長阻害剤のような抗癌剤に結合したCXCL4L1特異的結合分子。
【請求項10】
CXCL4L1特異的結合分子が抗CXCL4L1抗体である請求項9記載のCXCL4L1特異的結合分子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図8】
【公表番号】特表2012−509683(P2012−509683A)
【公表日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−537960(P2011−537960)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【国際出願番号】PCT/EP2009/065805
【国際公開番号】WO2010/060920
【国際公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(591100596)アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル (59)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【国際出願番号】PCT/EP2009/065805
【国際公開番号】WO2010/060920
【国際公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(591100596)アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル (59)
【Fターム(参考)】
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