説明

膵臓癌の免疫療法剤

【課題】膵臓癌患者の生存期間を延長させる免疫療法剤を提供する。
【解決手段】膵臓癌患者の自己末梢血リンパ球を抗CD3抗体及び抗CD52抗体により刺激することにより培養して得た免疫療法剤であって、膵臓癌患者に対して少なくとも4回投与され、1回あたりの投与量に含まれる活性化リンパ球の数が少なくとも15×10個であって活性化リンパ球のうちCD3CD56NK細胞の比率が少なくとも30%であり、かつ、特定の複数の免疫低下状態のうち、少なくとも一つの状態にある膵臓癌患者に対して投与が開始されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膵臓癌患者のための免疫療法剤に関し、特に患者自身の末梢血リンパ球から培養された活性化リンパ球を主成分とし、活性化リンパ球の中に高比率のCD3CD56NK細胞を含む免疫療法剤に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の癌に対する免疫療法は、公知である。特に、養子免疫療法では、患者自身の末梢血リンパ球を抗体で刺激し培養・増殖させることによりリンパ球を活性化させる。その後、活性化されたリンパ球を、いわば免疫療法剤として当該患者に投与する。活性化リンパ球は、免疫応答機能を有している。活性化リンパ球の中には、腫瘍細胞に対して細胞傷害活性を有するT細胞やNK(natural killer)細胞が含まれている。
【0003】
NK細胞は、ヒトの末梢血リンパ球に10〜20%含まれる大型顆粒リンパ球である。活性化されたNK細胞は、腫瘍細胞やウイルス感染細胞等に対して非特異的な細胞傷害活性あるいは抗体依存性細胞傷害活性(ADCC)を有する。非特異的なNK細胞は、T細胞やB細胞のように抗原による感作を必要しない。従って、NK細胞は、癌組織に誘導されると直ちに分子特異的に腫瘍細胞を攻撃する。活性化されたNK細胞の表面には、腫瘍細胞を標的とすることができるNKG2D、TRAIL (TNF Related Apoptosis Inducing Ligand)などの表面レセプターが発現する。
【0004】
特許文献1〜4は、末梢血リンパ球に含まれる種々の細胞を選択的に増殖させる培養方法を開示している。特許文献1〜3は、比較的高い割合でNK細胞を増殖させる方法に関し、特許文献4は、NK細胞の割合は極少ないかほとんどない方法に関するである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3056230号公報
【特許文献2】特開2002−45174号公報
【特許文献3】特開2006−340698号公報
【特許文献4】特許第3951350号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Heinemann V, et al. BMC Cancer 2008, 8:82
【非特許文献2】Tanaka T, et al Jpn J Clin Oncol 2008, 38:755
【非特許文献3】Okusaka T, et al. Cancer Chemother Pharmacol 2008, 61:615
【非特許文献4】Strumberg D, et al. 2009 Gastrointestinal Cancers Symposium, Abstract #195
【非特許文献5】Nakamura K, et al. Br J Cancer 2006, 94:1575
【非特許文献6】Ueno H, et al. 2007 ASCO, Abstract #4550
【非特許文献7】Lee G, et al. 2008 ASCO, Abstract #15577
【非特許文献8】Kim MY, et al. Jpn J Clin Oncol 2009, 39:49
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1は、培養された活性化リンパ球を用いた免疫療法が3症例記載されている。その対象は、悪性メラノーマ又は肝臓癌である。特許文献2では、培養時に用いる増殖刺激用抗体を用いて腫瘍細胞に対する細胞傷害活性を測定しているが、実際の癌患者への適用例は記載されていない。また、種々の癌に対する免疫療法として、NK細胞を主体としたリンパ球を用いる方法以外にも、T細胞などを主体としたリンパ球を用いる方法(特許文献4)などがある。
【0008】
しかしながら、膵臓癌に対して有効な免疫療法剤は、未だ提示されていない。膵臓癌は、膵臓の構造に起因して、臓器の上皮細胞に発生した癌が臓器外部に浸潤し易く、かつ、全身に転移し易い癌である。そのため、膵臓癌と診断された時点で既に進行癌となっていることが多い。その結果、胃癌や大腸癌などに比べて、切除可能なのは2割前後と少なく、手術後の生存率も低い。因みに、非特許文献1〜8では、膵臓癌患者に対して抗癌剤のみの治療を行った場合の診断後1年間の生存率が報告されている。それらの生存率は、54%である非特許文献5を除いて、ほとんどが15〜33%の範囲内にあり、膵臓癌は予後のきわめて悪い代表的癌腫である。
【0009】
このように、膵臓癌は極めて進行が速いため、膵臓以外の臓器の癌に対して有効な免疫療法剤であっても、膵臓癌に対しても有効であるとは云えない。本発明の目的は、膵臓癌に対して効果的な免疫療法剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による膵臓癌の免疫療法に用いる免疫療法剤は、以下の構成を有する。
本発明の免疫療法剤は、膵臓癌患者の自己末梢血リンパ球を抗CD3抗体及び抗CD52抗体により刺激することにより培養して得た免疫療法剤である。この免疫療法剤は、膵臓癌患者に対して少なくとも4回投与され、1回あたりの投与量に含まれる活性化リンパ球の数が少なくとも15×10個であって前記活性化リンパ球のうちCD3CD56NK細胞の比率が少なくとも30%であり、かつ、以下の(a)〜(d)からなる免疫低下状態の群のうち、少なくとも一つの状態にある前記膵臓癌患者に対して投与が開始されることを特徴とする。
(a)末梢血中のリンパ球の数が1000/μl未満である。
(b)末梢血中のリンパ球のうちCD3CD56NK細胞の数が200/μl未満である。
(c)末梢血中のCD3CD56NK細胞の活性が30%未満である。
(d)末梢血中のNKG2Dリンパ球の数が400/μl未満である。
【0011】
さらに、末梢血中のCD4リンパ球とCD8リンパ球との比が3を超える膵臓癌患者に対して投与されることが、好適である。
また、投与されるリンパ球の残余部分が、CD4T細胞及びCD8T細胞のうちいずれか又は双方であることが好適である。
また、本発明の免疫療法剤は、抗癌剤と併用されることが好適である。
【発明の効果】
【0012】
発明者は、特許文献3において、末梢血30ml前後からCD16NK細胞を大量増殖させる培養技術を提示した。CD16NK細胞は、CD3CD56NK細胞と同じである。本発明の免疫療法剤は、この培養技術に基づいた大量培養方法により得た活性化リンパ球を主成分とする。この活性化リンパ球は、通常の末梢血リンパ球に比べて高比率の活性化NK細胞すなわちCD3CD56NK細胞を含む。
【0013】
手術の有無に関わらず膵臓癌の患者の多くは、抗癌剤による治療を施される。従来の抗癌剤のみを用いた治療開始後1年間の生存率(以下、"1年生存率"という)は、ほとんどが15〜33%の範囲であった(非特許文献1〜8)。これに対し、本発明の免疫療法剤による治療を施した27症例からなる実施例においては、63%という高い1年生存率が得られた。これは、進行の速い膵臓癌においては、画期的な結果である。これらの実施例中、療法開始後生存期間をみると、抗癌剤を併用したものについては、免疫療法剤のみの場合よりもさらに良好な結果が得られた。
【0014】
本発明は、高比率の活性化NK細胞を含む免疫療法剤を、特定の投与量及び特定の対象患者(特定の免疫低下状態にある膵臓癌患者)に適用することにより、その生存率を大幅に向上させることを実現した。実現された生存率の高さは、膵臓癌において従来から予測される範囲を超えた顕著なものである。
【0015】
ここで、患者の自己末梢血を培養して得られる活性化リンパ球の数及びその中に含まれるNK細胞の比率は、個人差が非常に大きいという問題がある。また、活性化リンパ球の数及びNK細胞の比率が同じであっても、その効果には個人差が大きいという問題もある。従って、個々人において確実に効果が得られるような投与条件の明確な境界値を示すことは、困難である。
【0016】
発明者は、個人単位ではなく患者の集団において、統計的に高い確率で良好な結果を得られる免疫療法剤の投与条件及び患者の免疫状態条件を設定することが、有効であることを見出した。本発明の免疫療法剤の特徴である投与条件及び患者の免疫状態条件は、統計的に高い確率で、膵臓癌の診断後の全生存期間を大幅に延長させることができる指標としての意義がある。
【0017】
本発明では、投与条件及び患者の免疫状態条件を、27症例からなる実施例の中央値に基づいて特定した。上記の1年生存率63%は、全実施例から得られた効果であるから、全実施例の中央値以上の免疫療法剤を投与すれば、さらに高い1年生存率が統計的に得られると期待できる。また、全実施例の中には抗癌剤を併用せずに本発明の免疫療法剤のみを適用した症例も含まれていた。従って、抗癌剤を必ず併用すれば、さらに高い1年生存率が統計的に得ることができると期待される。少なくとも1年生存率63%の実現は、確保されるといえる。
【0018】
この意味で、後述する本発明の"実施例"の概念は、一般的な実施例の概念とは若干異なる。一般的には、実施例とは、特許請求の範囲の要件に該当する症例である。しかしながら、本発明では、"実施例"の中央値に基づいて特許請求の範囲の要件を設定した。その結果、本発明の"実施例"には、必ずしも特許請求の範囲の要件に該当しない症例も含まれている。それらの症例は、参考例というべきかも知れないが、中央値を決定するためには必要な症例であった。よって、本発明の"実施例"とは、特許請求の範囲の要件を設定するために実施された全症例を称している。
【0019】
進行の速い膵臓癌の癌組織に対して、また免疫機能の低下した生体に対しては、大きい免疫的なインパクトを与えることが必要である。発明者は、免疫療法において、一度にできるだけ大量の活性化リンパ球を投与すること、投与されるリンパ球がCD3CD56NK細胞を少なくとも30%含むこと、かつ少なくとも4回投与されること、が有効であることを見出した。免疫療法剤の1回あたりの投与量に含まれる効果的なリンパ球の数は、少なくとも15×10個である。これは、従来の免疫療法において、一般的に投与されていた活性化リンパ球の数の3倍以上に相当する。
【0020】
投与開始前の膵臓癌患者が、健常者よりも低い免疫状態にある場合に、免疫状態の大幅な改善が見られた。低い免疫状態とは、
(a)末梢血中のリンパ球の数が1000/μl未満である状態、
(b)末梢血中のリンパ球のうちCD3CD56NK細胞の数が200/μl未満である状態、
(c)末梢血中のCD3CD56NK細胞の活性が30%未満である状態、
(d)末梢血中のNKG2Dリンパ球の数が400/μl未満である状態、のうち少なくとも1つに該当する場合である。患者の末梢血を採血してこれらの免疫状態を測定することにより、本発明の免疫療法の開始時期、すなわち免疫療法剤の投与開始時期の判定が可能となる。
【0021】
特に、患者の免疫状態の低下が、上記(a)〜(d)のいずれかの範囲の境界値に到達した時点で、治療を開始することが最も好ましい。患者の免疫状態が健常者と同程度に維持されている場合は、免疫療法剤の投与に起因する免疫的なインパクトは少ないと考えられる(但し、元々免疫状態が良好に維持されていることに起因して、結果的に生存期間が長期となる割合は多くなる)。一方、患者の全身状態の悪化に伴い免疫状態が境界値よりも大きく低下している場合は、免疫療法剤の開始が既に遅すぎることが多いと考えられる。
【0022】
また、末梢血中のCD4リンパ球とCD8リンパ球の比が3を超えることも、免疫低下状態の判断の指標の一つである。
【0023】
さらに、投与されるリンパ球の残余部分が、CD4T細胞及びCD8T細胞のうちいずれか又は双方であることにより、CD3CD56NK細胞との相乗的な改善効果が得られる。細胞傷害活性をもつNKG2Dリンパ球には、NK細胞の他に、CD8T細胞の一部も含まれるからである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の免疫療法剤である活性化リンパ球のフローサイトメトリーの測定結果を示す図である。
【図2】表7の投与リンパ球数を、実施例及び好適例についてそれぞれプロットしたグラフである。
【図3】表7のNK細胞比率を、実施例及び好適例についてそれぞれプロットしたグラフである
【図4】表6の比較例(健常者)の末梢血リンパ球数、並びに、表8の実施例(膵臓癌患者全体)及び好適例(長期生存者)の末梢血リンパ球数を、それぞれプロットしたグラフである。
【図5】表6の比較例(健常者)のNK細胞数、並びに、表8の実施例(膵臓癌患者全体)及び好適例(長期生存者)のNK細胞数を、それぞれプロットしたグラフである。
【図6】表6の比較例(健常者)のNK活性、並びに、表8の実施例(膵臓癌患者全体)及び好適例(長期生存者)のNK活性を、それぞれプロットしたグラフである。
【図7】表6の比較例(健常者)のNKG2D細胞数、並びに、表9の実施例(膵臓癌患者全体)及び好適例(長期生存者)のNKG2D細胞数を、それぞれプロットしたグラフである。
【図8】表6の比較例(健常者)のCD4/CD8比、並びに、表9の実施例(膵臓癌患者全体)及び好適例(長期生存者)のCD4/CD8比を、それぞれプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の免疫療法剤は、膵臓癌患者自身の末梢血リンパ球を培養増殖して得た活性化リンパ球を主成分として含む。以下、免疫療法剤に含まれる活性化リンパ球を、単に「リンパ球」と称する場合がある。活性化リンパ球の中には、活性化NK細胞が含まれている。本発明の免疫療法剤に含まれる活性化NK細胞は、CD3及びCD56の表面マーカーにより識別される。膵臓癌患者から採取した末梢血リンパ球に対して、特許文献3に記載された培養増殖方法を適用することにより、CD3CD56NK細胞を高比率で得ることができる。
【0026】
図1は、本発明の免疫療法剤の一実施例におけるフローサイトメトリーの測定結果を示している。横軸FL1−Hは表面マーカーCD3の、縦軸FL2−Hは表面マーカーCD56の蛍光強度をそれぞれ示している。円で囲んだ部分がCD3CD56NK細胞の存在を示している。この測定結果では、活性化リンパ球が約45%のCD3CD56NK細胞を含んでいる。末梢血リンパ球の培養後の活性化リンパ球に含まれるCD3CD56NK細胞比率には、大きな個人差があり、後述する実施例では、10〜70%の範囲に分散した。各患者における培養後のCD3CD56NK細胞比率は、当該患者の培養前のNK細胞比率よりも高くなった。
【0027】
図1のフローサイトメトリーにおける中央下側のもう一つの点群は、活性化T細胞を示している。活性化T細胞は、主としてCD4T細胞及びCD8T細胞からなる。
【0028】
本発明の免疫療法剤は、膵臓癌の診断後に単独で適用することも可能であるが、抗癌剤と併用することにより、より大きな効果が得られる。
【0029】
1回あたりの投与量に含まれるリンパ球の数は、少なくとも15×10個とすることが好ましい。これは、通常の免疫療法で投与される細胞数の3倍以上に相当する。後述する実施例における最高値は、約18×10個程度であった。投与される活性化リンパ球には、CD3CD56NK細胞が少なくとも30%含まれていることが好ましい。投与回数は、少なくとも4回が効果的である。
【0030】
さらに、本発明の免疫療法剤は、以下の(a)〜(d)からなる免疫低下状態の群うち、少なくとも一つの状態にある膵臓癌患者に対して投与されることが好適である。
(a)末梢血中のリンパ球の数が1000/μl未満である。
(b)末梢血中のリンパ球のうちCD3CD56NK細胞の数が200/μl未満である。
(c)末梢血中のCD3CD56NK細胞の活性が30%未満である。
(d)末梢血中のNKG2Dリンパ球の数が400/μl未満である。
【0031】
後述する実施例において、上記(a)〜(d)の免疫低下状態が、健常者に比べて有意に免疫機能の低い状態といえることを確認した。免疫低下状態にある患者に対して、大量のCD3CD56NK細胞を一度に投与することにより、低下した免疫機能に大きなインパクトを与えることができた。
【0032】
後述する27症例からなる実施例における1年生存率は、63%であった。この1年生存率63%は、従来の膵臓癌の1年生存率よりも格段に良好な結果である。本発明の免疫療法剤における1回あたりの投与量に含まれるリンパ球数及びCD3CD56NK細胞比率は、全実施例おける中央値に基づいてそれぞれ設定された。従って、これらの中央値を最低値として本発明の免疫療法剤を投与することにより、全実施例における結果である63%よりも、さらに高い1年生存率が得られると期待される。なお、中央値は、元々は測定値であるから有効数字を考慮すべきであるが、本発明では、より高い生存率を得るための指標として中央値を採用したので、実際には、その有効数字に関係なく概算的な数値を設定した。
【0033】
さらに、末梢血中のCD4T細胞とCD8T細胞の比が3を超える患者に対して投与されることが、好適である。CD8T細胞の減少もまた、免疫低下状態の指標の一つである。よって、膵臓癌患者では、健常者に比べてCD4T細胞とCD8T細胞の比の数値が大きい傾向がある。
【0034】
免疫療法剤の投与後における長期生存者(療法開始後10か月以上生存)では、投与の前後において、末梢血中のNKG2Dリンパ球の数の著しい増加が見られた。さらに、末梢血中のリンパ球数の増加、NK細胞数の増加、NK活性の増大、及び、CD4/CD8比の低下、も見られた。短期生存者(療法開始後5か月以内死亡)では、投与の前後においてこれらのパラメータに有意差が無かった。この事実から、免疫療法剤の投与によって免疫低下状態から急速に免疫機能が増強されることが、生存期間の延長に繋がることが推察される。
【0035】
末期状態の患者を除いて、免疫療法剤の投与による免疫機能の急速な増強は、個人差が大きい。従って、個々人において確実に効果が得られるような投与条件及び患者の免疫状態条件の明確な境界値を示すことは困難である。しかしながら、上記の投与条件及び患者免疫状態条件に従って免疫療法剤を投与すれば、統計的・確率的には、63%よりも高い1年生存率が得られると期待される。上記の投与条件は、1年生存率63%を示した実施例の集団における中央値に基づくからである。
【実施例】
【0036】
(1)リンパ球の培養増殖方法
以下の工程により、膵臓癌患者の自己末梢血リンパ球の培養増殖を行った。
・工程1:リン酸緩衝液(PBS)20mlに対し、抗CD3抗体(0.1μl/ml、オルソクローンOKT3、ヤンセンファーマ株式会社より入手可能)及び抗CD52抗体(20〜40μl/ml、MABCAMPATH、バイエル社より入手可能)を溶解させた。
・工程2:工程1の溶液を、225cmのフラスコに入れ、4℃で一晩静置させた。
・工程3:固相化した抗CD3抗体及び抗CD52抗体を、PBSで2回洗浄した。
・工程4:膵臓癌患者からヘパリン加末梢血30mlを採取し、Ficoll-Paque Plus(Amersham Pharmacia Biotech株式会社より入手可能)を媒体として用いた密度勾配遠心法により、末梢血単核球(PBMC)を分離した。
・工程5:IL−2(500単位/ml、Chiron社)を含むKBM−NKCGM−1(コージンバイオ株式会社より入手可能)に、工程4で分離したPBMCを0.5〜1×10/mlの濃度で浮遊させ、さらに患者血漿2〜10%を加えて培養液とした。この段階で培養液は60〜120mlになる。この培養液を、工程3で得た固相化抗体を処理した培養フラスコに添加した。その後、5%CO培養器内37℃の環境下で培養した。なお、血漿は健常者から得られた血清で代替してもよい。
・工程6:培養開始から3〜5日目に、多数のコロニーが作られ、芽球化(blast化)したことを確認したところで、培養液をさらに20〜100%追加し、IL−2を500単位/ml添加した。通常この時期は培養開始してから3日目である。
・工程7:工程6で培養液を追加してから対数増殖期に入った1〜3日目に(多くは1日目)、活性化リンパ球を含んだ培養液を、KBM−NKCGM−1B(1リットル入りバッグ)に注入した。通常、これを2〜3バッグに分注した。分注後3〜4日間隔で1バッグあたり、KBM−NKCGM−1を100〜300ml、及び、IL−2を10〜20万単位、添加した。
・工程8:培養開始14〜21日目(22日以上は、活性が低下することが多いため)に、バッグから培養液を遠心管に移し、これを600Gで10分遠心した。遠心管からペレットを残して上清を吸引した後、ペレットにPBSを加え洗浄し、再び遠心操作をおこなった。この作業を2〜3回繰り返し、培養リンパ球をよく洗浄した。最後に、ペレットを集め、生理的食塩水100mlに浮遊させ、これにヒト血清アルブミン2〜4%添加した。最後に、無菌テスト、エンドトキシンテストが陰性であることを確認した。
(なお、得られたリンパ球浮遊液は、調整後4時間以内に、患者の末梢静脈より30〜60分間で投与した。)
・工程9(成分解析):生理的食塩水に浮遊させたリンパ球は、所定の数の細胞をエッペンドルフチューブに取り、これに所定の標識抗体を加え、定法により細胞を染色した。染色した細胞はただちにフローサイトメトリーで解析し、CD3CD56NK細胞、CD4T細胞及びCD8T細胞の比率を求めた(図1参照)。
【0037】
(2)培養増殖後の活性化リンパ球の特徴
培養増殖後の活性化リンパ球のフローサイトメトリーにより、次の結果が得られた。
活性化リンパ球に含まれるNK細胞及びT細胞の細胞表面には、CXCR3ケモカイン受容体、NKG2D、TRAILの高発現が見られた。NK細胞には、特異的な活性化受容体NKp30、NKp44、NKp46の発現が見られた。また、癌患者で低下ないし陰性化するシグナル伝達分子CD3ζ鎖、DAP12、FcεR1の再発現が見られた。 また、NK細胞には、持続的IFNγ産生があり、少なくとも3週間の培養まで、細胞傷害活性(K562を標的にした定法による)が高く維持される。具体的には、21日目の培養リンパ球からNK細胞を純化し、この細胞傷害活性を測定すると、50%lysisのE/T ratioは1.07と高活性であった(低い値ほど高活性であることを示す)。因みに、CD3抗体で培養した活性化Tリンパ球では71.45であった。
【0038】
(3)膵臓癌患者への投与方法
上記のリンパ球の培養増殖方法における工程8の後、4時間以内に、生理的食塩水浮遊リンパ球を、患者の末梢静脈より30〜60分間で投与した。
【0039】
(4)免疫療法剤による膵臓癌患者の治療結果
(4−1)全生存期間及び療法後生存期間の結果
表1の上欄は、本発明の免疫療法剤を投与した膵臓病患者(実施例)の全生存期間と1年生存率の結果を示す。膵臓癌の最初の診断後から2009年4月時点までの全症例の診療記録に基づく。いずれも、4回以上の免疫療法剤の投与を行った。3回以下の投与の症例では、ECOG PS(Eastern Cooperative Oncology Group performance status、以下"PS"と省略)が3〜4で全身状態が悪く末期状態であったことから、免疫療法を始めて2ヶ月以内に死亡したため、実施例には含めなかった。実施例の27症例のうち、21症例が抗癌剤を併用した。6症例は、抗癌剤なしで本発明の免疫療法剤のみを用いた。
【0040】
表1の下欄の比較例8件は、抗癌剤のみにより治療した膵臓病患者の全生存期間と1年生存率の結果を示す(非特許文献1〜8にそれぞれ記載)。比較例で用いられた抗癌剤は、塩酸ゲムシタビン(GEM)又はS−1、あるいはその併用である。
【0041】
表1に見られるように、実施例(27症例)の全生存期間は、中央値が14.0か月であり、1年生存率は63%であった。これに対し、比較例ではその多くが1年生存率15〜33%の範囲内であり、最高値は54%の1件のみであった。実施例27症例のうち、"抗がん剤併用あり"、"膵臓切除なし"、"膵臓切除なしでかつPSが0〜1"、"PSが2〜3"、及び"転移あり(ステージIVb)"の各サブグループについて、それぞれ全生存期間と1年生存率を算出したところ、いずれも比較例より良好な結果が得られた。この結果から、本発明の免疫療法剤を投与することにより、さらに好適には免疫療法剤と抗癌剤を併用することにより、抗癌剤単独の投与よりも全生存期間を延長させ1年生存率を高められることが実証された。
【0042】
【表1】

【0043】
表2の(a)は、表1に示した実施例(27症例)と、投与回数が3回以下の比較例(9症例)の詳細データを示す。表2の比較例のうち8症例は、免疫療法の開始時に既にPS3〜4であり、末期状態であったため、投与回数が少ないうちに死亡した症例である。実施例の全生存期間は14.0か月であり、免疫療法後生存期間は9.0か月であった。実施例の免疫療法後生存期間は、比較例のそれよりも明らかに長かった(有意差p=0.00001、Mann-Whitney検定)。
【0044】
表2の(b)は、(a)の実施例のうち、2009年4月時点の生存者12症例の詳細データである。12症例中、10症例に転移があるものの、全生存期間の中央値は18.0か月であり、免疫療法後生存期間は平均13.5か月である。これらの症例の中には、後述する免疫療法後生存期間が10.0か月以上の患者(長期生存者)が含まれている。これらの長期生存者では、急速かつ大きな免疫機能の回復が見られた(後述)。
【0045】
【表2】

【0046】
表3は、実施例(27症例)について、免疫療法開始時のPSと、免疫療法後の生存期間をまとめた表である。PS0〜1の第1群とPS2〜3の第2群に分けて比較している。”CI”は、信頼区間を示す。第1群と第2群は、全生存期間で中央値に差がみられるが、免疫療法後生存期間を含め、Mann-Whitney検定による有意差はなかった。PS2〜3は、PS0〜1に比べて全身状態は悪いが、後述するように抗癌剤との併用が可能であれば、PS0〜1とほぼ同等の効果が得られることが判明した。
【0047】
【表3】

【0048】
表4は、実施例(27症例)について、免疫療法開始時の抗癌剤使用状況と生存期間の関係を示す表である。
第1群は、"抗癌剤無し"又は"抗癌剤無効後"である。第2群は、"抗癌剤と免疫療法剤の同時併用"である。第1群と第2群では、全生存期間に差はなかったが、免疫療法後生存期間には、有意差(p<0.05、Welch法によるt検定)が認められた。このことは、本発明の免疫療法剤と抗癌剤の併用が相乗効果をもたらし、生存期間の延長に寄与することを示している。なお、第1群についても、表1の比較例の抗癌剤のみの場合に比べて、遙かに良好な結果となっており、免疫療法剤のみであっても十分な効果が得られた。
【0049】
さらに、表4の第2群については、抗癌剤の種類別の生存期間を調べた。症例数が少ないために統計的検討はできなかったが、GEM単独よりも、TS−1単独の方が全生存期間の中央値が長かった。さらに、TS−1単独よりもGEMとTS−1併用の方が全生存期間の中央値が長かった。
【0050】
【表4】

【0051】
表5は、実施例(27症例)と、長期生存者の詳細データをまとめた表である。長期生存者(LST:Long Survival Time)とは、実施例のうち、免疫療法開始後10.0か月以上生存した11症例をいう。長期生存者は、実施例の中で特に良好な結果が得られたという意味で、”好適例”と称することとする。(この”好適例”の意味は、結果のみに基づいており、実施条件は他の実施例と同様であるので、一般的な好適例の意味とは若干異なる。言い換えるならば、”参考好適例”である。)
【0052】
表5に示されるように、実施例と好適例の間には、臨床的背景(進行度、PS、切除の有無、抗癌剤併用)における大きな差は認められなかった。このことは、好適例の患者が、それ以外の実施例の患者に比べて、臨床的に格別良好な状態にあったのではないことを意味する。すなわち、このことは、表1の本発明の実施例における全生存期間及び1年生存率の大幅な向上が、臨床状態の良好な患者に由来するものではないことを裏付けている。表1の本発明の実施例の良好な結果は、所定の投与条件及び所定の患者免疫状態の条件に従って免疫療法剤を投与するという本発明の構成により、もたらされたものである。
【0053】
【表5】

【0054】
(4−2)実施例における免疫的変化の測定
<測定方法>
膵臓癌患者の実施例(27症例)のうち、測定可能であった24症例について、本発明の免疫療法剤の投与前後の免疫的変化を測定した。但し、一部の測定項目については、測定できない場合があった。
免疫療法剤による治療開始直前に末梢血を採血し、4回以上の免疫療法剤の投与による治療を行い、治療後の6か月以内に1〜2か月間隔で末梢血を採血した。
【0055】
測定項目は、以下の通りである。
・毎回の投与リンパ球数
・毎回の投与リンパ球に含まれるCD3CD56NK細胞比率
・末梢血中のリンパ球数
・末梢血中のCD3CD56NK細胞数
・末梢血中のNK活性
・末梢血中のNKG2Dリンパ球数
・末梢血中のCD4/CD8比
【0056】
投与リンパ球数及びそのNK細胞比率、並びに、治療前後の末梢血リンパ球数、末梢血NK細胞数、末梢血NKG2Dリンパ球数、及びCED4/CD8比については、全血法を用い、蛍光標識により抗体染色し、フローサイトメトリーにより測定した。
NK活性については、51Crにより標識した腫瘍細胞K562に対する細胞傷害活性を測定する方法(SRL社に外注)を用いた。
毎回の投与リンパ球数及びそのNK細胞比率は、平均することにより、1回あたりの数値をそれぞれ算出した。
治療後の末梢血について複数回測定した場合は、治療開始直前の測定値に対して最も変化の大きかった値を比較対象とした。
【0057】
正常対照として、年齢を合致させた健常者24名(中央値年齢61歳、範囲53〜72歳)についても、末梢血を採血し、実施例と同じ項目の測定を行った。それらの結果を、表6の比較例1〜24とした。
【0058】
<比較例(健常者)の測定結果>
表6は、比較例(健常者)1〜24の末梢血の測定結果をまとめた表である。表6の各項目の測定値をプロットしたグラフは、後述する図4〜図8中にそれぞれ示している。
【0059】
【表6】

【0060】
<実施例(膵臓癌患者)の測定結果>
・投与リンパ球数及びNK細胞比率
表7は、実施例(膵臓癌患者)27症例のうち、測定を行った24症例について、1回あたりの投与リンパ球数、NK細胞率、全生存期間、及び療法開始後生存期間をまとめた表である。(実施例のうち初期の3症例については、免疫的測定ができなかった。)
表7中、番号を太枠で囲った実施例は、好適例(長期生存者)の11症例である(以下の表においても同様)。
【0061】
図2は、表7の投与リンパ球数を、実施例及び好適例についてそれぞれプロットしたグラフである。"M"は、中央値を示す(以下の図も同様)。
実施例全体の投与リンパ球数は、10.4×10〜17.6×10/回の範囲に分布し、中央値は、14.8×10/回である。自己末梢血の培養増殖により得られるリンパ球数は、個人のバラツキが大きいため、投与リンパ球数の好適な数値範囲を明確に特定することは困難である。しかしながら、表1及び表2で示した通り、実施例全体の1年生存率は63%と、抗癌剤のみの治療に比べて高率であった。従って、少なくとも中央値の14.8×10/回すなわち約15×10/回のリンパ球を投与することにより、統計的には、1年生存率63%を上回る効果が得られると推察される。よって、本発明の効果をほぼ確実に得るための投与リンパ球数の下限値として、全実施例の中央値を採用することとし、投与リンパ球数を少なくとも15×10/回と設定した。
【0062】
図3は、表7のNK細胞比率を、実施例及び好適例についてそれぞれプロットしたグラフである。実施例全体のNK細胞比率は、1.9〜69.9%と広範囲に分布し、中央値は、31.8%すなわち約30%である。投与リンパ球数と同様に、NK細胞比率も個人のバラツキが非常に大きい。従って、本発明の効果をほぼ確実に得るための好適なNK細胞比率の下限値として、全実施例の中央値を採用することとし、NK細胞比率を少なくとも30%と設定した。
【0063】
なお、投与リンパ球数及びNK細胞比率において、実施例全体と、そのサブグループである長期生存者との間には、有意差はなかった(Kruskal-Wallis検定)。このことは、投与リンパ球数及びNK細胞比率の設定において、実施例全体の測定値を用いたことの妥当性を示している。
【0064】
【表7】

【0065】
・末梢血中のリンパ球数
表8の左欄は、実施例(膵臓癌患者)24症例の治療前後の末梢血リンパ球数の測定値である。
図4は、表6の比較例(健常者)の末梢血リンパ球数、並びに、表8の実施例(膵臓癌患者全体)及び好適例(長期生存者)の末梢血リンパ球数を、それぞれプロットしたグラフである。
【0066】
免疫療法前の実施例は、比較例よりもリンパ球数が減少していた(有意差p<0.001、Mann-Whitney検定)。免疫療法前の実施例の中央値は、1000/μlであった。この臨床結果から得た中央値を、免疫療法の開始時を判断する指標の一つとして用いることができる。例えば、患者の末梢血リンパ球数が1000/μl未満となったとき、免疫低下状態にあると判定して免疫療法を開始する。
【0067】
免疫療法後の実施例のリンパ球数は、免疫療法前よりも上昇した(有意差p<0.01、Wilcoxon検定)。免疫療法後の実施例は、比較例とほぼ同レベルとなった。
【0068】
好適例では、免疫療法前のリンパ球数が比較的良好に保たれた症例が多く、免疫療法後はさらに上昇した(有意差p<0.01、Wilcoxon検定)。好適例の11症例中10症例が1800/μl以上であったが、比較例とは有意差はなかった。
【0069】
・末梢血中のCD3CD56NK細胞数
表8の中央欄は実施例(膵臓癌患者)24症例の治療前後のNK細胞数の測定値である。
図5は、表6の比較例(健常者)のNK細胞数、並びに、表8の実施例(膵臓癌患者全体)及び好適例(長期生存者)のNK細胞数を、それぞれプロットしたグラフである。
【0070】
免疫療法前の実施例は、比較例よりもNK細胞数が減少していた(有意差p<0.001、Mann-Whitney検定)。比較例のほとんどは200〜400/μlであった。これに対し、免疫療法前の実施例の中央値は169/μlすなわち約200/μlであった。この臨床結果から得た中央値を、免疫療法の開始時を判断する指標の一つとして用いることができる。例えば、患者のNK細胞数が200/μl未満となったとき、免疫低下状態にあると判定して免疫療法を開始する。
【0071】
免疫療法後の実施例のNK細胞数は、免疫療法前よりも上昇した(有意差p<0.01、Wilcoxon検定)。免疫療法後の実施例のうち8症例は、400/μlを上回った。これら8症例中の5症例が、長期生存者であった。これは、急速な免疫機能の改善が生存期間の延長に寄与することを示している。
【0072】
・末梢血中のNK活性
表8の右欄は実施例(膵臓癌患者)22症例の治療前後のNK活性の測定値である。
図6は、表6の比較例(健常者)のNK活性、並びに、表8の実施例(膵臓癌患者全体)及び好適例(長期生存者)のNK活性を、それぞれプロットしたグラフである。
【0073】
免疫療法前の実施例は、比較例よりもNK活性が減少していた(有意差p<0.001、Mann-Whitney検定)。免疫療法前の実施例の中央値は、28%すなわち約30%であった。この臨床結果から得た中央値を、免疫療法の開始時を判断する指標の一つとして用いることができる。例えば、患者のNK活性が30%未満となったとき、免疫低下状態にあると判定して免疫療法を開始する。
【0074】
免疫療法後の実施例のNK活性は、免疫療法前よりも上昇した(有意差p<0.01、Wilcoxon検定)。中央値は、28%から43%へ上昇した。
【0075】
【表8】

【0076】
・末梢血中のNKG2Dリンパ球数
表9の左欄は実施例(膵臓癌患者)24症例の治療前後のNKG2D細胞数の測定値である。NKG2D細胞には、全てのNK細胞と、T細胞の一部が含まれる。
図7は、表6の比較例(健常者)のNKG2D細胞数、並びに、表9の実施例(膵臓癌患者全体)及び好適例(長期生存者)のNKG2D細胞数を、それぞれプロットしたグラフである。
【0077】
免疫療法前の実施例は、比較例よりもNKG2D細胞数が減少していた(有意差p<0.001、Mann-Whitney検定)。免疫療法前の実施例の中央値は、403/μlすなわち約400/μlであった。この臨床結果から得た中央値を、免疫療法の開始時を判断する指標の一つとして用いることができる。例えば、患者のNKG2D細胞数が400/μl未満となったとき、免疫低下状態にあると判定して免疫療法を開始する。
【0078】
免疫療法後の実施例のNKG2D細胞数は、免疫療法前よりも上昇した(有意差p<0.01、Wilcoxon検定)。中央値は、403/μlから783/μlへ上昇した。NKG2D細胞の増加は、NK細胞のみの増加ではなく、T細胞の増加にもよる。長期生存者では、免疫療法の前後で中央値が約3倍となり、比較例よりも有意に高かった(p<0.01、Mann-Whitney検定)。長期生存者11症例中、9症例が800/μl以上であった。NKG2D細胞数が800/μl以上に増加することが、生存期間の延長に寄与することが示唆された。
【0079】
・末梢血中のCD4/CD8比
表9の右欄は実施例(膵臓癌患者)24症例の治療前後のCD4/CD8比の測定値である。癌患者では、CD8T細胞が健常者よりも低下する傾向があり、その結果、CD4/CD8比が健常者よりも小さくなる傾向がある。
【0080】
図8は、表6の比較例(健常者)のCD4/CD8比、並びに、表9の実施例(膵臓癌患者全体)及び好適例(長期生存者)のCD4/CD8比を、それぞれプロットしたグラフである。
【0081】
免疫療法前の実施例は、統計的には比較例との有意差はみられなかった(ns、Mann-Whitney検定)。しかしながら、個々の症例では、CD4/CD8比が健常者に比べて高くなる例が多かった。免疫療法前の実施例の中央値は、3.1すなわち約3であった。免疫療法の開始時を判断する指標の一つとして用いる場合は、CD4/CD8比が3を超える場合が目安となる。
【0082】
免疫療法後の実施例のCD4/CD8比は、免疫療法前よりも半減した(有意差p<0.001、Wilcoxon検定)。長期生存者でも、CD4/CD8比が免疫療法前よりも半減した(有意差p<0.0001、Wilcoxon検定)。これは、CD8T細胞の増加とCD4T細胞の減少によると考えられる。
【0083】
【表9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
膵臓癌患者の自己末梢血リンパ球を、抗CD3抗体及び抗CD52抗体により刺激することにより培養して得た免疫療法剤であって、
前記膵臓癌患者に対して少なくとも4回投与され、1回あたりの投与量に含まれる活性化リンパ球の数が少なくとも15×10個であって前記活性化リンパ球のうちCD3CD56NK細胞の比率が少なくとも30%であり、かつ、以下の(a)〜(d)からなる免疫低下状態の群のうち、少なくとも一つの状態にある前記膵臓癌患者に対して投与が開始されることを特徴とする膵臓癌の免疫療法剤。
(a)末梢血中のリンパ球の数が1000/μl未満である。
(b)末梢血中のリンパ球のうちCD3CD56NK細胞の数が200/μl未満である。
(c)末梢血中のCD3CD56NK細胞の活性が30%未満である。
(d)末梢血中のNKG2Dリンパ球の数が400/μl未満である。
【請求項2】
末梢血中のCD4リンパ球とCD8リンパ球の比が3を超える患者に対して投与されることを特徴とする請求項1に記載の膵臓癌の免疫療法剤。
【請求項3】
投与される前記リンパ球の残余部分が、CD4T細胞及びCD8T細胞のうちいずれか又は双方であることを特徴とする請求項1に記載の膵臓癌の免疫療法剤。
【請求項4】
抗癌剤と併用されることを特徴とする請求項1の膵臓癌の免疫療法剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−1315(P2011−1315A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−146739(P2009−146739)
【出願日】平成21年6月19日(2009.6.19)
【出願人】(509174392)株式会社セレックス (1)
【出願人】(397052136)
【Fターム(参考)】