説明

膵臓癌の治療のためのゲムシタビンと併用した中鎖脂肪酸、その塩およびトリグリセリド

本発明は、ヒトの患者における膵臓癌の治療において、ゲムシタビンおよび場合によりエルロチニブと併用した式Iの中鎖脂肪酸、式IIのトリグリセリド:


(式中nは6〜10である)、その塩またはそれらの混合物の使用に関する。例示的な中鎖脂肪酸/トリグリセリド化合物としては、カプリン酸、カプリン酸ナトリウム、トリカプリン、ラウリン酸、ラウリン酸ナトリウムおよびトリラウリンが挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2007年12月19日に出願された米国特許出願第61/008,129号の優先権を主張するものであり、その開示内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、癌の治療に関する。より詳細には、本発明は、ヒトの患者における膵臓癌の治療のための方法、化合物および組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
癌は、100種類を超える臨床的に異なる形態の疾患を指す。身体のほぼ全ての組織で癌が生じる可能性があり、組織によっては数種類の癌が生じる可能性がある。癌は、細胞の異常増殖によって特徴付けられ、原発組織に浸潤することや他の部位に広がることができる。実際、特定の癌の重症度すなわち悪性度は、癌細胞の浸潤性および転移能力に基づく。すなわち、様々なヒトの癌(例えば、癌腫)は、原発部位または腫瘍からのその転移能力に関してかなり異なり、身体の至るところに転移する。実際には、癌患者の生存に影響するのは腫瘍転移のプロセスである。外科医は原発腫瘍を除去することができるが、転移した癌はあまりに多くの場所に広がっているため外科的治癒が不可能な場合が多い。転移に成功するために、癌細胞は元の場所から離れ、血管またはリンパ管に浸潤し、循環血液中を新しい部位まで移動し、腫瘍を形成しなければならない。
【0004】
12種類の主要な癌は、前立腺癌、乳癌、肺癌、結腸直腸癌、膀胱癌、非ホジキンリンパ腫、子宮癌、黒色腫、腎臓癌、白血病、卵巣癌および膵臓癌である。一般に、転移性癌の治療のために、外科手術、放射線療法、化学療法および免疫療法の4種類の治療法が用いられている。外科手術は、原発腫瘍を除去するためおよび/または例えば、消化管を閉塞している転移を除去して生活の質を向上させるために用いられ得る。また、放射線療法は、腫瘍全体の外科的除去が難しくかつ/または皮膚転移および/またはリンパ節転移の治療が難しい原発腫瘍を治療するために用いられ得る。癌の治療には複数の化学療法薬が利用可能であり、この治療法は、主に薬剤耐性の現象に対処するために、これらの薬剤の併用を必要とする場合が非常に多い。それは、時間と共に生化学プロセスが生じ、それにより、癌の根絶前に癌が特定の化学療法薬にもはや応答しなくなるか、反応しなくなるからである。免疫療法は主にサイトカインまたは治療用癌ワクチンの使用に制限されている。また、これらの治療が収めている成功は限られている。サイトカインによる治療は、致命的毒性によって制限されている。癌ワクチンによる治療は、最初は有望であるが、多くの場合ワクチンが応答する表現型抗原発現における変化によって、通常は時間とともに腫瘍に免疫寛容が生じる。実際には、上述した4種類の癌の治療法は全て、以下の深刻な限界を有する:外科手術(広範囲に及ぶ転移を完全に除去することができない)、放射線(放射線を癌細胞に選択的に当てることができない)、化学療法(急速に増殖する正常細胞の存在下で癌細胞を選択的に死滅させることができない)、および免疫療法(上記のとおり)。このような理由のために、他のより新しい治療的アプローチ(例えば、キナーゼ阻害剤、血管新生抑制剤、遺伝子治療)が研究されているが、相対的に言えば、これらの治療は初期の段階である。従って、有効であり(例えば、腫瘍の大きさまたは転移の広がりを減少させ)、毒性が低く、単独で使用、あるいは膵臓癌を含む癌の治療用の標準的な化学療法薬と併用することができる新規化合物(例えば、非細胞毒性の化学療法薬)がなお求められている。
【0005】
膵臓癌は、膵腺内の悪性腫瘍である。膵腺すなわち膵臓は、胃の背後にある大きな細長い腺である。膵臓の外分泌物または外分泌液は、食物の処理(分解)に必要な消化酵素を含有する。内分泌物または内分泌液すなわちインスリンは、膵臓のβ細胞によって生成され、別の内分泌物すなわちグルカゴンは、膵臓のα細胞によって生成される。インスリンは、血液中の糖の量を減少させ、グルカゴンは血糖を上昇させる。膵臓の外分泌細胞と内分泌細胞は完全に異なる種類の腫瘍を形成する。外分泌腫瘍は最も一般的な種類の膵臓癌を構成する。良性(非癌性)嚢胞および良性腫瘍(嚢胞腺腫)が生じる可能性はあるが、ほとんどの膵臓の外分泌腫瘍は悪性であり、そのおよそ95%が腺癌である。膵臓癌と診断された患者は通常予後不良であり、その主な理由は、通常膵臓癌は原発腫瘍の転移が生じるまで全く症状を引き起こさないことである。癌の診断からの平均生存期間はおよそ3〜6ヶ月であり、5年の生存率は有意に5%未満である。
【0006】
膵臓癌の治療は、疾患の段階すなわち程度によって決まる。根治的膵十二指腸切除術は、特に最小の疾患に対する現在における唯一の治癒の可能性となっている。化学療法は、局所進行疾患に罹患した患者の生存率をいくらか改善させるものではあるが、全体的効果は小さい。また、局所進行性の切除不能な膵臓癌の外科手術または放射線療法は、著しい生存期間の延長には繋がらない。膵臓癌患者の転移が生じた(例えば、癌の最初の診断)後に1年を超えて生存する確率はおよそ3%である。この割合すなわち生存率は、細胞毒性薬ゲムシタビン(ジェムザール:Gemzar(商標))を用いた治療では18%に増加し、ゲムシタビンは、膵臓癌に対する標準的な第一選択の治療法である。ゲムシタビンは、代謝拮抗剤化学療法薬として機能する隣接二フッ素置換デオキシシチジン類似体である。そのため、ゲムシタビンには、癌細胞と急速に分裂する正常細胞との間の特異性の欠如から生じる毒性、およびその結果生じる薬剤耐性の発生という、一般に化学療法薬に関して上術した2つの重要な限界がある。つい最近になって、エルロチニブ(タルセバ:Tarceva(商標))とゲムシタビンとの併用による転移性膵臓癌の治療に対して承認が与えられた。しかし、膵臓癌患者の1年の生存率は、ゲムシタビン単独による治療での18%から、ゲムシタビンとエルロチニブとの併用よって24%までしか増加していない。エルロチニブは、上皮成長因子受容体チロシンキナーゼの低分子量合成阻害剤であり、そのため、上記のより新しい分類の薬剤であるキナーゼ阻害剤に属する。しかし、癌細胞と急速に分裂する正常細胞との区別が不可能であるため、キナーゼ阻害剤は細胞毒性薬のように極めて有毒であり、長期間の使用によって耐性を生じやすい。
【0007】
上記内容を鑑みると、化学療法薬の有効性が上昇しかつその毒性が減少する癌治療の新しいアプローチが強く求められる。より詳細には、予後が不良であり、かつ僅か数種類の利用可能な治療の選択肢が、時間とともにその有効性を失わせる毒性の強い薬剤の使用を含むため、転移性膵臓癌の治療法が求められている。従って、予期しない有効性(例えば、腫瘍の大きさまたは転移の広がりの減少)をもたらしながらも、それにより、本来であれば膵臓癌患者にとって最悪な結果に著しい改善を提供するために毒性が制限された薬剤の新規併用からなる新規な治療法によって例示される新しいアプローチが緊急に求められている。
【0008】
本出願人は、中鎖脂肪酸と抗腫瘍活性との関連性を示唆し得る以下の参考文献:Tolnaiら. Can. J. Biochem. Physiol. 39:713-719, 1961;Tolnaiら. Can. J. Biochem. Physiol. 40:1367-1373, 1962;Tolnaiら. Can. J. Biochem. 44:979-981, 1966;Nishikawaら. Chem. Pharm. Bull. Tokyo 24:387-393, 1976;Burtonら. Am. J. Clin. Nutr. 53:10825-10865. 1991;米国特許第5,081,105号;Colquhounら. Gen. Pharmac. 30:191-194. 1998およびFalconerら. Br. J. Cancer 69:826-832. 1994を承知している。しかし、中鎖脂肪酸、その金属塩またはトリグリセリドが膵臓癌の治療に有効であり得るということは本発明の前には知られていなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ヒトの患者における膵臓癌の治療のための新規な方法、化合物および組成物を提供することによって、一般に使用される市販の化学療法剤によって生じる上記2つの限界すなわち薬剤毒性および薬剤耐性に対処する。
【0010】
本発明のさらなる特徴は、本開示、本発明の以下の図面および説明を検討することによって明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ヒトの膵臓癌の治療のための化合物、組成物および治療法に関する。本発明の特定の態様は、膵臓癌の治療における中鎖脂肪酸、その塩、そのトリグリセリドまたはそれらの混合物の使用に関する。
【0012】
本発明の特定の一態様は、ヒトの患者における膵臓癌の治療のための、(i)ゲムシタビンまたは(ii)ゲムシタビンおよびエルロチニブと併用した、式Iまたは式IIで表わされる化合物:
【化1】

(式中、nは6〜10であり、Xは、水素、金属モノカチオン性対イオンまたはジカチオン性対イオンである)の使用に関する。
【0013】
本発明の別の関連する態様は、ヒトの患者における膵臓癌の治療用薬物の製造のための、(i)ゲムシタビンまたは(ii)ゲムシタビンおよびエルロチニブと併用した、上に定義した式Iまたは式IIによって表される化合物の使用に関する。
【0014】
また、本発明は、ヒトの患者における膵臓癌の治療の際に、(i)ゲムシタビンまたは(ii)ゲムシタビンおよびエルロチニブと併用される、上に定義した式Iまたは式IIで表わされる化合物および薬学的に許容される担体を含む化学療法組成物に関する。
【0015】
さらに、本発明は、膵臓癌の治療方法に関し、当該方法は、膵臓癌の治療を必要とするヒトの患者への、(i)ゲムシタビンまたは(ii)ゲムシタビンおよびエルロチニブと併用した、薬理学的に有効な量の上に定義した式Iまたは式IIで表わされる化合物の投与を含む。一実施形態では、式Iまたは式IIで表わされる化合物は、ゲムシタビンの投与と同時に、あるいはゲムシタビンおよびエルロチニブの投与と同時に投与される。別の実施形態では、式Iまたは式IIで表わされる化合物は、ゲムシタビンによる治療周期の開始前またはゲムシタビンおよびエルロチニブによる治療周期の開始前に投与される。式Iまたは式IIで表わされる化合物の投与がヒトの患者における膵臓癌の診断時に開始されると有利である。
【0016】
いくつかの実施形態では、式Iまたは式II中のnは、10、8または6である。金属モノカチオン性対イオンまたはジカチオン性対イオンは、ナトリウム、カリウム、カルシウムおよびマグネシウムからなる群から選択されてもよい。好ましくは、当該化合物は、式I(式中、Xはナトリウムまたはカリウムである)の化合物である。式Iまたは式IIで表わされる化合物の具体例としては、カプリン酸、ラウリン酸、カプリン酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム、カプリン酸トリグリセリド(トリカプリン)、およびラウリン酸トリグリセリド(トリラウリン)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0017】
好ましい実施形態では、カプリン酸および/またはラウリン酸などの中鎖脂肪酸が、膵臓癌の治療のために、ゲムシタビン、エルロチニブまたはその両方などの化学療法剤と併用される。これらの態様によれば、中鎖脂肪酸、その塩またはトリグリセリドを第一選択の治療法剤ゲムシタビンと共に使用することによって、膵臓癌の著しくより有効な治療が提供される。本発明の特定の態様によれば、中鎖脂肪酸、その塩またはトリグリセリドは、改善された予後を提供するようにゲムシタビン抗腫瘍活性と相乗作用する膵臓癌に対する有意な抗腫瘍活性を示す。
【0018】
本発明のさらなる態様が、以下の説明および特許請求の範囲および本明細書中の一般概念から当業者に明らかとなる。
【0019】
本発明が容易に理解され得るように、本発明の実施形態が添付の図面に例として図示されている。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】マウスにおける同系Panc02膵臓腫瘍増殖に対するデカン酸ナトリウムおよびゲムシタビンの経口投与の効果を示す折れ線グラフである。
【図2】マウスにおける同系Panc02膵臓腫瘍増殖に対するデカン酸ナトリウムおよびデカン酸ナトリウムとゲムシタビンとの併用経口投与の効果を示す折れ線グラフである。
【図3】マウスにおける同系Panc02腫瘍体積に対する治療量以下の用量のゲムシタビン(腹腔内、25mg/kg)と併用したデカン酸ナトリウムの経口投与の効果を示す折れ線グラフである。
【図4】マウスにおける同系Panc02腫瘍体積に対する治療量以下の用量のゲムシタビン(腹腔内、50mg/kg)と併用したデカン酸ナトリウムの経口投与の効果を示す折れ線グラフである。
【図5】同所性同系Panc02膵臓腫瘍を有するマウスの生存率に対するゲムシタビンと併用したデカン酸ナトリウムの経口投与の効果を示す折れ線グラフである。
【図6】マウスにおける同系Panc02膵臓腫瘍増殖に対するドデカン酸ナトリウムおよびゲムシタビンの経口投与の効果を示す折れ線グラフである。
【図7】同所性同系Panc02膵臓腫瘍を有するマウスの生存率に対するゲムシタビンと併用したトリカプリンの経口投与の効果を示す折れ線グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
膵臓癌の治療に対する新規なアプローチの一つは、比較的毒性のないことで知られているが以前には知られていない膵臓癌に対する活性を有する化合物、または一緒に与えられると腫瘍の大きさおよび/または転移の広がりの治療の際に非常に有効であるそのような化合物とゲムシタビンとの併用の発見にある。ゲムシタビンと共に投与される中鎖脂肪酸、その塩またはトリグリセリドは、膵臓癌の治療に有用な化合物の相乗的な併用に対する要求を満たし得る。すなわち、相乗的な抗癌活性を示す中鎖脂肪酸化合物とゲムシタビンとの併用は、治療が困難な侵襲性の癌、すなわち膵臓癌の治療にとって有望な2方面からのアプローチを提供する。この2方面からのアプローチは、2つの異なる作用機序を有する2つの化合物、すなわち細胞毒性薬のゲムシタビンと併用した非細胞毒性の中鎖脂肪酸、その塩またはトリグリセリドが利用されるという事実から生じた。
【0022】
従って、本発明は、一般に使用される市販の化学療法剤によって生じる2つの重要な限界、すなわち薬剤毒性および薬剤耐性に対処する。中鎖脂肪酸、その塩またはトリグリセリドは、ゲムシタビンを含む標準的な化学療法薬よりも著しく毒性が低いため、当該方法、化合物および組成物は、特にヒトの患者における膵臓癌の治療のために化学療法薬耐性を低下させるものである。
【0023】
中鎖脂肪酸とは8〜12個の炭素原子を含有する脂肪酸を指す。従って、11個の炭素原子を含有する中鎖脂肪酸は、C8脂肪酸(オクタン酸つまりカプリル酸)、C10脂肪酸(デカン酸つまりカプリン酸)、およびC12脂肪酸(ドデカン酸つまりラウリン酸)である。これらの脂肪酸は、特にゲムシタビンなどの化学療法薬またはエルロチニブなどのキナーゼ阻害剤と比較すると、極めて毒性のない化合物であることが知られている。例えば、メルクインデックス(The Merck Index)第11版266頁(1989年)には、カプリル酸のLD50(経口、ラット)が10.08g/kgと報告されており、カプリル酸は本質的に有毒化合物ではない。実際、食品医薬品局は、連邦規則集(CFR)の第184部に従って、カプリル酸にGRAS(一般的に安全と認められる食品)の認定を与えている。同様に、第172部(CFR)に従って、遊離脂肪酸(例えば、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸)およびそれらの金属塩は、食物に使用される安全な添加物として承認されている。Dimitrijevicら(J. Pharm. Pharmacol. 53:149-154. 2001)が述べているように、デカン酸ナトリウムは、座薬(rectal drug)製品用の吸収促進剤として日本およびスウェーデンにおいてヒトへの使用が認められている。さらに、中鎖脂肪酸のトリグリセリド(例えば、1分子のグリセリンでエステル化された3分子の中鎖脂肪酸)はヒトの使用に安全な比較的毒性のない化合物であることが立証されている。
【0024】
上述のように、中鎖脂肪酸と抗腫瘍活性との関連性を示唆し得るいくつかの参考文献がある。しかし、これらの参考文献は、式Iまたは式IIの化合物がゲムシタビンまたはゲムシタビンおよびエルロチニブと併用された場合に、特に膵臓癌などの侵襲性癌に対して相乗的な抗腫瘍活性を示し得ることは教示していない。実際には、本発明の前に、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、その金属塩またはトリグリセリドなどの中鎖脂肪酸が膵臓癌の治療にとって有効であり得るということは知られていなかった。比較的毒性のない化合物が単独で使用された場合に哺乳類の膵臓癌に対して有意な抗腫瘍活性を示し得(例えば、カプリン酸、ラウリン酸)、その後、ゲムシタビンと共に使用された場合に相乗的な活性を示し得る(例えば、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸)という前例は全くなかったため、この発見は全く予想外であった。中鎖脂肪酸化合物に関連する有意な抗癌活性の欠如は、これらの化合物によって癌の臨床試験がこれまで成功裏に行われたという報告がないという事実によってさらに支持されている。
【0025】
本発明は8〜12個の炭素原子を有する中鎖脂肪酸、それらの金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩および他の生体適合性土類金属)、それらのトリグリセリドエステル類、および中鎖脂肪酸とグリセリンとのトリエステル類を包含するが、当業者であれば、特定の構造的変更形態が本発明の範囲に含まれ得ることが分かる。例えば、グリセリンがセリノールで置換され、従って、中鎖脂肪酸の2つの分子がセリノールの2つのヒドロキシル基とエステル結合し、かつ中鎖脂肪酸の第3の分子がアミド結合によってセリノールアミノ官能基に結合された中鎖脂肪酸トリグリセリドの類似体は分かりやすい一例を構成する。同様に、中鎖脂肪酸の2つの分子および1つの分子がそれぞれグリセリンとエステル結合している中鎖脂肪酸ジグリセリドおよびモノグリセリドは、他の分かりやすい例を提供する。最後に、当業者であれば、市販の中鎖トリグリセリドの混合物(例えば、様々な割合のC8およびC10脂肪酸のグリセリンエステルの混合物)も分かりやすい例を構成することが分かる。中鎖トリグリセリドのそのような市販の混合物の一例は、コネティカット州ファーミントンのUltimate Nutrition Inc.によって製造されている「Premium MCT Gold(商標)」という製品である。この製品は、67%のトリカプリリンおよび33%のトリカプリンを含有する。
【0026】
化学療法で使用される場合、中鎖脂肪酸、その金属塩またはトリグリセリドは原末(raw chemical)として単独で、あるいはゲムシタビンまたはゲムシタビン+エルロチニブと共に投与し得ることが可能であるが、原薬のいずれかを医薬製剤つまり医薬組成物として提供することも同様に可能である。これらの組成物としては、固体、液体、油、乳濁液、ゲル、エアロゾル、吸入薬、カプセル、ピル、パッチおよび坐薬が挙げられるが、これらに限定されない。
【0027】
非毒性組成物は、マンニトール、ラクトース、トレハロース、澱粉、ステアリン酸マグネシウム、滑石、セルロース、カルボキシメチルセルロース、グルコース、スクロース、ゼラチン、グリセリン、炭酸マグネシウム、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、リン酸ナトリウムおよびグリシン(ただし、これらに限定されない)などの通常用いられる賦形剤のいずれかを組み込むことによって形成される。全ての方法は、1つまたは複数の原薬を1つまたは複数の副成分を構成する担体と会合させるステップを含む。
【0028】
本明細書で使用される「薬学的に許容される」という用語は、過度の毒性、不適合性、不安定性、刺激、アレルギー反応など生じさせずにヒトの組織と接触させて使用するのに適し、かつ適切なリスクベネフィット比に見合った薬剤、薬物、不活性成分などを指す。この用語は、好ましくは、連邦政府または州政府の規制当局によって承認されたか承認可能な化合物または組成物、あるいは動物、より詳細にはヒトでの使用のために米国薬局方または他の一般に認識されている薬局方に記載されている化合物または組成物を指す。「薬学的に許容される溶媒」という用語は、化合物と一緒に投与される物質(例えば、希釈剤、アジュバント、賦形剤または担体)を指し、この物質は、カプリン酸またはラウリン酸、その金属塩またはトリグリセリドなどの中鎖脂肪酸(これらに限定されない)を含む本発明の化合物の生理学的効果を干渉しない。「医薬組成物」という用語は、少なくとも1つの化合物およびこの化合物と一緒に患者に投与される少なくとも1つの薬学的に許容される溶媒を指す。
【0029】
任意の疾患または障害を「治療する」または任意の疾患または障害の「治療」とは、いくつかの実施形態では、少なくとも1つの疾患または障害を改善する(すなわち、疾患またはその臨床症状の少なくとも1つの進行を停止または低下させる)ことを指す。特定の実施形態では、「治療する」または「治療」とは、患者によって認識され得るか認識され得ない少なくとも1つの物理的パラメータを改善することを指す。特定の実施形態では、「治療する」または「治療」とは、疾患または障害を物理的に抑制すること(例えば、認識可能な症状の安定化)、生理学的に抑制すること(例えば、物理的パラメータの安定化)またはその両方を指す。特定の実施形態では、「治療する」または「治療」とは、疾患または障害の発症を遅らせることを指す。いくつかの実施形態では「治療する」または「治療」とは、より詳細には膵臓癌(ただし、これに限定されない)を含む癌を指し、腫瘍増殖の減速、腫瘍の大きさの減少、癌細胞増殖の減少、転移の阻止または減少、癌に罹患した患者の平均余命または生存率の上昇、患者に投与される毒性化学療法薬の減少(ただし、これらに限定されない)などを含む、治療における成功のあらゆる兆候または癌に関連する病状または状態の改善を包含する。「治療する」または「治療」という用語は、原発腫瘍(膵臓)の部位または別の器官に転移している既存の膵臓癌の任意の治療、および哺乳類における癌(例えば、膵臓から他の器官への転移)の予防を含む。本明細書において治療という場合、癌、より詳細には樹立した膵臓癌の予防にまで及ぶ。従って、例えば、本発明の化合物および組成物は、原発腫瘍の外科的除去の後、外科手術の前、または強力な化学療法の前、あるいは患者が寛解期にある場合にでさえ使用することができる。
【0030】
本発明のカプリン酸またはラウリン酸、その塩またはトリグリセリドは、当業者に知られている方法(ニュージャージー州ローウェーのメルク社発行メルクインデックス)によってカプリン酸またはラウリン酸、その塩またはトリグリセリドおよび薬学的に許容される担体を用いて製剤化し得る。
【0031】
好ましい一実施形態では、当該医薬組成物は、膵臓癌の治療で使用される経口投与、舌下投与、直腸内投与、局所投与または吸入投与(鼻腔用スプレー)、筋肉内投与、皮内投与、皮下投与あるいは静脈内投与に適した任意の組成物の形態である。
【0032】
本発明は、上記疾患の治療方法を提供し、当該方法は、治療的に有効な量の本発明の化合物またはそれを含む組成物を上記治療を必要とする対象、好ましくはヒトの対象に投与することを含む。当然のことながら、治療での使用に必要な本発明の組成物の量は、投与経路、治療される膵臓癌の程度または段階、患者の年齢および状態によって異なり、最終的には主治医の判断に委ねられる。本明細書で使用される「治療的に有効な量」または「薬理学的に有効な量」とは、化合物の量が、疾患の治療のために患者に投与される場合に、疾患のそのような治療を達成するのに十分であることを意味する。「治療的に有効な量」は、化合物、疾患およびその重症度、および治療または予防される疾患に罹患した患者の年齢、体重などによって異なる。in vivoマウス試験で観察される(例えば、添付の実施例で観察される)化合物の毒性の相対的欠如によって、標準的な癌の治療法と比較すると、標準的な治療法で勧められる使用よりも自由な予防的使用が可能である。併用療法において投与される化合物の用量は、最終的には腫瘍学者の判断に委ねられる。ただし、一般に、併用療法における中鎖トリグリセリド、その金属塩またはトリグリセリドの用量は、1日あたり約10mg/kg〜約90mg/kgの範囲である。より好ましくは、その範囲は、1日あたり30mg/kg〜60mg/kgである。所望の用量は、好都合には、単回投与で、あるいは適切な間隔でなされる分割投与、例えば、患者の膵臓癌の治療を達成するために、つまり治療をもたらすために必要に応じて1日あたり2回、3回またはそれ以上の投与として与えられ得る。
【0033】
別の実施形態では、当該医薬組成物は、経腸投与、粘膜投与(舌下投与、肺内投与および直腸内投与を含む)に適した形態、あるいは非経口投与(筋肉内投与、皮内投与、皮下投与および静脈内投与を含む)に適した形態である。当該製剤は、適切な場合、好都合には分離した投与単位で与えられてもよく、薬学分野で周知の方法のうちのいずれかによって調製してもよい。全ての方法は、原薬を液体担体または微粉化した固体担体またはその両方と会合させ、次いで、必要であれば、その生成物を所望の形態に成形するステップを含む。所望であれば、原薬を徐放するように構成された上記製剤を用いてもよい。当業界で周知の徐放性製剤としては、生体適合性ポリマー(例えば、あらゆる胃の不調を回避するための原薬の腸溶性コーティング)、リポソーム、静脈内ボーラスまたは持続点滴が挙げられる。
【0034】
特定の実施形態では、本発明に係る化合物および組成物は、少なくとも1つの他の化学療法薬との併用療法で使用することができる。特定の実施形態では、本発明の化合物は、別の化学療法薬の投与と同時に投与することができる。特定の実施形態では、本発明の化合物は、別の化学療法薬の投与の前または後に投与することができる。少なくとも1つの他の化学療法薬は、同じかまたは異なる疾患、障害または状態(例えば、膵臓癌)の治療に有効であってもよい。本発明の方法は、併用投与が本発明の1つまたは複数の化合物の治療的有効性を阻害せずかつ/または有害な併用効果を生じないものであれば、本発明の1つまたは複数の化合物または医薬組成物および1つまたは複数の他の化学療法薬の投与を含む。
【0035】
特定の実施形態では、本発明の組成物は、別の化学療法薬の投与と同時に投与することができ、その別の化学療法薬は、本発明の化合物を含有する組成物と同じ医薬組成物の一部であってもよいし、あるいは本発明の化合物を含有する組成物とは異なる組成物中に存在していてもよい。特定の実施形態では、本発明の化合物は、別の化学療法薬の投与の前または後に投与することができる。併用療法の特定の実施形態では、併用療法は、例えば、特定の薬剤に関連する有害な副作用を最小に抑えるために、本発明の組成物の投与と別の化学療法薬を含む組成物の投与とを交互に行うことも含む。本発明の化合物が、毒性(ただし、これに限定されない)を含む有害な副作用を生じ得る可能性のある別の化学療法薬と同時に投与される場合、化学療法薬は、有利なことには、有害な副作用が引き起こされる閾値を下回る用量で投与することができる。
【0036】
特定の実施形態では、医薬組成物は、放出、生物学的利用能、治療的有効性、治療的効力および安定性などを促進、調整および/または制御する物質をさらに含むことができる。例えば、本発明の化合物の治療的有効性を促進するために、当該化合物は、消化管からの化合物の吸収または拡散を増加させるため、あるいは体循環中の薬剤の分解を抑制するための1つまたは複数の活性剤を同時投与することができる。特定の実施形態では、本発明の少なくとも1つの化合物は、式Iまたは式IIの化合物(例えば、カプリン酸、ラウリン酸、カプリン酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム、カプリン酸トリグリセリド(トリカプリン)およびラウリン酸トリグリセリド(トリラウリン))の治療的有効性を促進する薬理作用を有する活性剤と同時投与することができる。
【0037】
例えば、化学療法に適用される本発明の特定の実施形態によれば、カプリン酸またはラウリン酸、その塩またはトリグリセリドは、化学療法前、化学療法中または化学療法後(例えば、ゲムシタビンおよび/またはエルロチニブまたは膵臓癌の治療に適し得る任意の他の細胞毒性薬の投与前、投与中および/または投与後)に投与することができる。
【0038】
当業者であれば、本明細書に記載の具体的な手順、実施形態、特許請求の範囲および実施例に関する多くの均等物を認識しているか日常の実験のみを用いて確認することができるであろう。そのような均等物は、本発明の範囲内であるとみなされ、かつ本明細書に添付の特許請求の範囲に包含されるものである。本願全体を通して引用されている全ての参考文献、交付済み特許および公開特許出願の内容は、参照により本明細書に組み込まれる。本発明は、以下の実施例によってさらに示されるが、さらに限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例】
【0039】
以下に説明する実施例は、本発明の特定の代表的な化合物の例示的な使用を提供する。また、in vitro細胞毒性およびin vivo有効性について本発明の化合物をアッセイする例示的な方法も提供する。
【0040】
実施例1:膵臓癌細胞に対してアッセイした化合物のin vitro細胞毒性
このアッセイは、本発明の化合物の細胞毒性に対する効果を測定するために行なった。化合物の存在または非存在下でPanc02細胞をRPMI−1640馴化培地でインキュベートした。24時間のインキュベーション後、50μlの3−(4,5−ジメチル−2−チアジル)−2,5−ジフェニル−2H−テトラゾリウムブロミド(MTT;2mg/ml)を添加し、さらに4時間インキュベートした。その上澄みを捨て、100μlのジメチルスルホキシド(DMSO)を添加した。ELISA Tecan Sunrise(商標)プレートリーダーを用いて570nmでの吸光度を測定した。対照群は化合物を含まない細胞で構成されていたが、それを100%生細胞と呼ぶ。Prismソフトウェアを用いてIC50を測定した。表1は、24時間の細胞培養後の膵臓癌細胞(Panc02)に対する化合物の効果(IC50)を示す。
【表1】


以上のように、試験した3つの化合物全てがPanc02細胞に対して抗腫瘍活性を有する。
【0041】
実施例2:Panc02マウス膵臓癌モデルにおけるゲムシタビンと併用したデカン酸ナトリウムの抗腫瘍効果の検証
同系Panc02は、NCI(0507232)から入手した膵臓腺癌腫瘍細胞株である。Panc02細胞は、Ki−Ras、p53、HerNEUおよびCDKに対して陽性であった。Panc02を10%ウシ胎仔血清を含有するRPMI−1640中で培養した。0日目に、50μlの7.5×10Panc02生細胞を皮内注射して生後6〜8週齢のC57BU/6マウスにおいて局所腫瘍を形成させた。次いで、腫瘍を確認するために、徒手的触診によってこの動物を連続的に観察した。次いで、溶媒(陰性対照)またはデカン酸ナトリウムの経口投与によってマウスを毎日処置し、21日、28日目、35日目および42日目にゲムシタビン(50mg/kg)の腹腔内注射を行なった。36日目〜50日目の間にマウスを屠殺した。式0.4(a×b)(式中、「a」は腫瘍の外径であり、「b」は垂直内径であった)を用いて、ノギスによる二次元直径測定によって、連続的な腫瘍体積を得た。一般に、接種後3〜5日で腫瘍を触知できた。腫瘍増殖の割合は、中鎖脂肪酸、そのナトリウム塩またはトリグリセリドあるいは溶媒(対照)による処置の1日目に観察される膵臓腫瘍増殖に対する特定の日の膵臓腫瘍増殖の割合として報告される。T/Cは、処置された腫瘍増殖(%)/対照腫瘍増殖(%)として定義される。
【0042】
図1は、膵臓Panc02癌におけるデカン酸ナトリウム(100mg/kg)の経口投与およびゲムシタビン(静脈注射、50mg/kg)の抗腫瘍効果を示す。ゲムシタビンは、27日目〜34日目に腫瘍増殖の有意な阻害(p<0.05)を引き起こし、その際のT/Cは55〜78%であった。デカン酸ナトリウムは、23日目〜44日目に腫瘍増殖の有意な阻害(p<0.05)を引き起こし、その際のT/Cは26%〜58%であった。この阻害はゲムシタビンで観察される阻害に匹敵する。
【0043】
図2は、膵臓Panc02癌における、デカン酸ナトリウム(100、200および400mg/kg)の経口投与およびゲムシタビン(静脈注射)とデカン酸ナトリウム(経口)を併用した抗腫瘍効果を示す。ゲムシタビンは、23日目〜37日目に腫瘍増殖の有意な阻害(p<0.05)を引き起こした。23日目、25日目および37日目に観察されたT/Cは<40%であった。デカン酸ナトリウムは、用量依存的に腫瘍増殖の有意な阻害(p<0.05)を引き起こした。400mg/kgの濃度のデカン酸ナトリウムが使用された際には、腫瘍増殖阻害において対照と比較される有意なp値(p<0.05)が23日目〜37日目に観察された。23日目および25日目に観察されたT/Cは、<40%であった。併用療法(ゲムシタビン+デカン酸ナトリウム、400mg/kg)は、腫瘍増殖の有意な阻害p値(p<0.05)を引き起こし、23日目〜37日目におけるT/Cは<40%であった。併用療法によって引き起こされる腫瘍増殖の阻害は、23日目、25日目および30〜39日目でのゲムシタビン単独療法と比較すると有意(p<0.05)であった。37日目にマウスを屠殺した。
【0044】
図2は、ゲムシタビン単独療法に対して、ゲムシタビンと標準的な薬剤とデカン酸ナトリウムとの併用によって有意な抗腫瘍効果が観察されることを示す。さらに、相乗的な活性がない場合には統計的有意性が観察されないと思われるため、この有意な抗癌作用は、ゲムシタビンとデカン酸ナトリウムとの予期しないまたは相乗的な効果の結果である。さらに、濃度を上昇させたゲムシタビンの使用では死亡が観察されるため、この活性は再現されない。
【0045】
図3は、膵臓Panc02癌における治療量以下の用量のゲムシタビン(25mg/kg)と併用したデカン酸ナトリウムの21日目〜32日目の抗腫瘍効果を示す。25mg/kgのゲムシタビンは、39日目に腫瘍増殖の有意な阻害(p<0.05)を引き起こし、その際に治療活性は見られなかった(T/C>40)。25mg/kgのデカン酸ナトリウムとゲムシタビンとの併用は、25日目〜44日目に腫瘍増殖の有意な阻害(p<0.05)を引き起こし、25日目および28日目のT/Cは<40であった。さらに、併用療法(デカン酸ナトリウム+ゲムシタビン、25mg/kg)によって引き起こされる腫瘍増殖の阻害は、25日目〜32日目でのゲムシタビン単独療法と比較すると有意(p<0.05)であった。このデータは、25日目〜32日目におけるゲムシタビンとデカン酸ナトリウムとの相乗的な活性を明確に示している。
【0046】
図1および図2に記載されている実施例とは異なり、PBI−1402またはゲムシタビン単独で処置された動物は、処置の初期段階では抗癌活性を示さなかった。この実験(図3)における活性の欠如はおそらく、36日目までの腫瘍の低侵襲的増殖と、ゲムシタビンが抗癌活性を示すその後の36日目〜45日目における指数関数的増殖とを反映している。
【0047】
図4は、膵臓Panc02癌における21日目〜36日目での治療量以下の用量のゲムシタビン(10mg/kg)と併用したデカン酸ナトリウムの抗腫瘍効果を示す。10mg/kgのゲムシタビンは、41日目に腫瘍増殖の有意な阻害(p<0.05)を引き起こし、T/C<40は全く観察されなかった。10mg/kgのデカン酸ナトリウムとゲムシタビンとの併用は、25日目、32日目および39日目〜44日目に腫瘍増殖の有意な阻害(p<0.05)を引き起こし、25日目のT/Cは<40であった。さらに、併用療法(デカン酸ナトリウム+ゲムシタビン、10mg/kg)によって引き起こされる腫瘍増殖の阻害は、25日目および36日目でのゲムシタビン単独療法と比較すると有意(p<0.05)であった。このデータは、25日目〜36日目でのゲムシタビンとデカン酸ナトリウムとの相乗的な活性を明確に示している。
【0048】
図1および図2に記載されている実施例とは異なり、PBI−1402またはゲムシタビン単独で処置された動物は、処置の初期では抗癌活性を示さなかった。この実験(図4)における活性の欠如は、36日目までの腫瘍の低侵襲的増殖と、ゲムシタビンが抗癌活性を示すその後の36日目〜45日目における指数関数的増殖とを反映している。
【0049】
実施例3:Panc02マウス同所性膵臓癌モデルにおけるゲムシタビンと併用したデカン酸ナトリウムの抗腫瘍効果の検証
0日目に、1mlあたり50μlの1×10Panc02生細胞を膵臓に注入して生後6〜8週齢のC57BL/6マウスにおいて同所性腫瘍を形成させた。次いで、溶媒(陰性対照)またはデカン酸ナトリウムの経口投与によってマウスを毎日処置し、1週間に1回(1日目、8日目、15日目等)ゲムシタビン(50mg/kg)の腹腔内注射を行なった。実験のエンドポイント(死亡)は、マウスが腹水による腹部膨脹を発症するか、瀕死行動を示した時点として定義され、その時点でこの動物を安楽死させて調べた。
【0050】
膵臓へのPanc02細胞の同所性注入後、全ての動物が触診可能な腫瘍を発症する。マウスは、腹部の腫瘍転移によって腹水を生じた。腫瘍の転移は、主に肝臓、胆管、脾臓、横隔膜および腸間膜で観察された。図5は、同所性膵臓Panc2癌モデルにおける、ゲムシタビン単独療法と比較した、ゲムシタビン(静脈注射)と併用したデカン酸ナトリウム(200mg/kg)の経口投与の抗腫瘍効果を示す。ゲムシタビンおよびゲムシタビンとデカン酸ナトリウムとの併用で処置されたマウスは、溶媒(対照)が与えられたマウスと比較すると、長い生存期間を示した。平均生存期間は、対照マウスにおける48日と比較すると、ゲムシタビンで処置されたマウスでは71日であった。デカン酸ナトリウムが与えられたゲムシタビンで処置されたマウスは、平均88日間生存した。
【0051】
表2は、対照群対処置群におけるマウスの生存率を示す。58日目では、ゲムシタビン処置群およびゲムシタビン+デカン酸ナトリウム処置群それぞれにおける86%および75%の生存率と比較すると、対照群では生存が全く観察されなかった。72日目〜87日目では、併用療法(ゲムシタビン+デカン酸ナトリウム)での処置によって、ゲムシタビン単独療法と比較すると、ほぼ2倍近くにマウスの生存率が上昇している。92日目では、ゲムシタビン+デカン酸ナトリウム処置群で観察された25%の生存率と比較すると、ゲムシタビン処置群では全てのマウスが死亡している。併用療法における残りのマウスは治療100日後でもなお生存していた。
【表2】

【0052】
実施例4:Panc02マウス膵臓癌モデルにおけるゲムシタビンと併用したドデカン酸ナトリウムの抗腫瘍効果の検証
膵臓Panc02癌におけるドデカン酸ナトリウムおよびゲムシタビンの効果は実施例2に記載した方法で測定した。
【0053】
図6は、膵臓Panc02癌におけるドデカン酸ナトリウム(200mg/kg)の経口投与およびゲムシタビン(静脈注射、50mg/kg)の抗腫瘍効果を示す。ゲムシタビンは、44日目に腫瘍増殖の有意な阻害(p<0.05)を引き起こし、その際のT/Cは、64%〜77%であった。ドデカン酸ナトリウムは、44日目に腫瘍増殖の有意な阻害(p<0.05)を引き起こし、その際のT/Cは64%〜74%であった。併用療法(ゲムシタビン+ドデカン酸ナトリウム、200mg/kg)は、腫瘍増殖の有意な阻害(p<0.05)を引き起こし、16日目〜44日目のT/Cは<40%であった。
【0054】
図6は、ゲムシタビン単独療法と比較してゲムシタビンと標準的な薬剤とドデカン酸ナトリウムとの併用によって有意な抗腫瘍効果が観察されることを示している。さらに、相乗的な活性がない場合には統計的有意性が観察されないと思われるため、この有意な抗癌作用は、ゲムシタビンとデカン酸ナトリウムとの予期しないまたは相乗的な効果の結果である。さらに、濃度を上昇させたゲムシタビンの使用では死亡が観察されるため、この活性は再現されない。
【0055】
実施例5:Panc02マウス同所性膵臓癌モデルにおけるゲムシタビンと併用したトリカプリンの抗腫瘍効果の検証
同所性膵臓Panc02癌におけるゲムシタビンおよびゲムシタビンと併用したトリカプリンの効果は、実施例3に記載した方法で測定した。
【0056】
図7は、同所性膵臓Panc2癌モデルにおける、ゲムシタビン単独療法と比較した、ゲムシタビン(静脈注射、50mg/kg)と併用したトリカプリン(600mg/kg)の経口投与の抗腫瘍効果を示す。ゲムシタビンおよびゲムシタビンとトリカプリンとの併用によって処置されたマウスは、溶媒(対照)が与えられたマウスと比較すると、長い生存期間を示した。平均生存期間は、対照マウスにおける52日と比較すると、ゲムシタビンで処置されたマウスでは53.5日であった。トリカプリンが与えられたゲムシタビンで処置されたマウスは、平均64日間生存した。
【0057】
本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が関連する当業者によって一般に理解されている意味と同じ意味を有する。便宜上、本明細書で使用される特定の用語および語句の意味が規定されている。
【0058】
参照により本明細書に組み込まれる出版物、特許および特許出願における用語の定義が本明細書に記載されている定義に反する限りにおいて、本明細書の定義が適用される。本明細書に使用されているセクションの見出しは、単に構成上の目的のためのものであり、開示されている主題を限定するものとして解釈されるものではない。
【0059】
「1つ(a)」、「1つ(an)」および「その(the)」という単数形はその内容が明らかに別の意味を定義していない限り複数の指示対象も含むことに留意されたい。従って、例えば、「化合物(a compound)」を含有する組成物という場合は2つまたは3つ以上の化合物の混合物を含む。また、「または」という用語は一般に、その内容が明らかに別の意味を定義していない限り「および/または」を含むように用いられることにも留意されたい。
【0060】
特許請求の範囲の意味およびその法律上の均等物の範囲内にある全ての変更形態および代替形態はそれらの範囲に包含されるものである。「〜を含む(comprising)という」移行句を用いる請求項は、当該請求項の範囲に含まれる他の要素を含むことができる。また、本発明は、「〜を含む」という用語の代わりに「本質的に〜からなる(consisting essentially of)」という移行句(すなわち、本発明の実施に大きな影響を与えない場合には、当該請求項の範囲に含まれる他の要素を含むことができる)および「〜からなる(consisting)」という移行句(すなわち、本発明に通常関連付けられている不純物または重要でない行為以外では当該請求項に記載されている要素のみが認められる)を用いるそのような特許請求の範囲によっても説明されている。この3種類の移行句はいずれも本発明を特許請求するために使用することができる。
【0061】
当然のことながら、本明細書に記載されている要素は、特許請求の範囲に明確に記載されていない場合には特許請求されている発明を限定するものとして解釈されるべきではない。従って、特許請求の範囲は、特許請求の範囲に読み込まれる本明細書からの限定の代わりに与えられる法的保護の範囲を決定するための基準である。対照的に、先行技術は、特許請求されている本発明を予期するか、または新規性を損なう具体的な実施形態の範囲まで本発明から明らかに除外されている。
【0062】
さらに、請求項の限定間の特定の関係は、そのような関係が当該請求項内に明確に記載されていない限りは意図されていない(例えば、生成物の請求項中の成分の構成または方法の請求項中のステップの順番は、明確に限定するものであると記載されていない限り、当該請求項を限定するものではない)。本明細書に開示されている全ての可能な併用および個々の要素の置換は、本発明の態様であるとみなされ、同様に、本発明に記載の一般概念は本発明の一部であるとみなされる。
【0063】
上記記載から、当業者には、本発明の精神または基本的な特徴から逸脱せずに、本発明を他の具体的な形態で具現化することができることは明らかであろう。本発明に与えられる法的保護の範囲が本明細書ではなく添付の特許請求の範囲によって示されているため、記載の実施形態は限定的なものとしてではなく単に例示としてみなされるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトの患者における膵臓癌の治療のための、(i)ゲムシタビンまたは(ii)ゲムシタビンおよびエルロチニブと併用した式Iまたは式IIによって表される化合物:
【化1】

(式中、nは6〜10であり、Xは、水素、金属モノカチオン性対イオンまたはジカチオン性対イオンである)の使用。
【請求項2】
ヒトの患者における膵臓癌の治療用薬物を製造するための、(i)ゲムシタビンまたは(ii)ゲムシタビンおよびエルロチニブと併用した式Iまたは式IIによって表される化合物:
【化2】

(式中、nは、6〜10であり、Xは、水素、金属モノカチオン性対イオンまたはジカチオン性対イオンである)の使用。
【請求項3】
前記金属モノカチオン性対イオンまたはジカチオン性対イオンが、ナトリウム、カリウム、カルシウムおよびマグネシウムからなる群から選択される、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
前記化合物がカプリン酸またはラウリン酸である、請求項1または2に記載の使用。
【請求項5】
前記化合物がカプリン酸ナトリウムまたはラウリン酸ナトリウムである、請求項1または2に記載の使用。
【請求項6】
前記化合物がカプリン酸トリグリセリド(トリカプリン)またはラウリン酸トリグリセリド(トリラウリン)である、請求項1または2に記載の使用。
【請求項7】
ヒトの患者における膵臓癌の治療の際に使用される、(i)ゲムシタビンまたは(ii)ゲムシタビンおよびエルロチニブと併用した式Iまたは式IIで表わされる化合物:
【化3】

(式中、nは6〜10であり、Xは、水素、金属モノカチオン性対イオンまたはジカチオン性対イオンである)および薬学的に許容される担体を含む化学療法組成物。
【請求項8】
前記金属モノカチオン性対イオンまたはジカチオン性対イオンが、ナトリウム、カリウム、カルシウムおよびマグネシウムからなる群から選択される、請求項7に記載の化学療法組成物。
【請求項9】
前記化合物がカプリン酸またはラウリン酸である、請求項7に記載の化学療法組成物。
【請求項10】
前記化合物がカプリン酸ナトリウムまたはラウリン酸ナトリウムである、請求項7に記載の化学療法組成物。
【請求項11】
前記化合物がカプリン酸トリグリセリド(トリカプリン)またはラウリン酸トリグリセリド(トリラウリン)である、請求項7に記載の化学療法組成物。
【請求項12】
膵臓癌の治療方法であって、
前記治療を必要とするヒトの患者に(i)ゲムシタビンまたは(ii)ゲムシタビンおよびエルロチニブと併用した薬理学的に有効な量の式Iまたは式IIで表わされる化合物:
【化4】

(式中、nは6〜10であり、Xは、水素、金属モノカチオン性対イオンまたはジカチオン性対イオンである)を投与することを含む方法。
【請求項13】
前記金属モノカチオン性対イオンまたはジカチオン性対イオンが、ナトリウム、カリウム、カルシウムおよびマグネシウムからなる群から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
投与される前記化合物が、式I(式中、Xはナトリウムまたはカリウムである)の化合物である、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
投与される前記化合物がカプリン酸またはラウリン酸である、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
投与される前記化合物がカプリン酸ナトリウムまたはラウリン酸ナトリウムである、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
投与される前記化合物がカプリン酸トリグリセリド(トリカプリン)またはラウリン酸トリグリセリド(トリラウリン)である、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
式Iまたは式IIで表わされる前記化合物が、ゲムシタビンの投与と同時に、あるいはゲムシタビンおよびエルロチニブの投与と同時に投与される、請求項12に記載の方法。
【請求項19】
式Iまたは式IIで表わされる前記化合物が、ゲムシタビンによる治療周期の開始前またはゲムシタビンおよびエルロチニブによる治療周期の開始前に投与される、請求項12に記載の方法。
【請求項20】
式Iまたは式IIで表わされる前記化合物の投与が、前記ヒトの患者における膵臓癌の診断時に開始される、請求項19に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2011−506492(P2011−506492A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−538291(P2010−538291)
【出願日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際出願番号】PCT/CA2008/002190
【国際公開番号】WO2009/076761
【国際公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(510172848)プロメティック・バイオサイエンシーズ・インコーポレイテッド (4)
【氏名又は名称原語表記】ProMetic BioSciences Inc.
【Fターム(参考)】