説明

膵臓癌を処置する方法

処置を必要とする患者にルテニウム錯塩を投与する段階を含む、膵臓癌を処置するための治療法が開示される。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は一般に、癌を処置するための方法、特に、膵臓癌を処置する方法に関連する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
膵臓癌は、癌の最も致死的な形態の一つである。米国において、各年4万人を超える人々が膵臓癌と診断され、かつ診断後5年より長く生存するのはそれらの5%未満である。低い生存率は主として、大抵の膵臓癌が進行期まで診断されないという事実に起因する。膵臓癌は通常、早期では無症候性であり、他方でより後期の症候は非特異的かつ多様であり、早期診断を難しくしている。
【0003】
膵臓癌のための処置の選択肢は限定されている。早期膵臓癌については手術および放射線療法が使用され得るが、進行性または反復性の膵臓癌についてはあまり有効でない。ゲムシタビンの毎週の静脈内投与が有効であることが示され、1998年に米国FDAにより膵臓癌について認可された。米国FDAはまた、以前に化学療法を受けていない進行期の膵臓癌を有する患者について、ゲムシタビンと組み合わせた使用のためにキナーゼ阻害剤エルロチニブを認可している。しかしながら、エルロチニブにより得られる全生存利益の中央値は、わずか4週間未満である。Moore et al., J. Clin. Oncol., 25(15):1960-6 (2007)(非特許文献1)。
【0004】
インダゾリウム トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]およびナトリウム トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]は、大腸癌細胞株SW480およびHT29について、腫瘍細胞の殺傷に有効であることが示されている。Kapitza et al., J. Cancer Res. Clin. Oncol., 131(2):101-10 (2005)(非特許文献2)。しかしながら、それらが膵臓癌を処置するのに有効であるか否かは公知でない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Moore et al., J. Clin. Oncol., 25(15):1960-6 (2007)
【非特許文献2】Kapitza et al., J. Cancer Res. Clin. Oncol., 131(2):101-10 (2005)
【発明の概要】
【0006】
今回、ナトリウム トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]化合物は、膵臓癌の処置に特に有効であることが発見された。驚くべきことに、ナトリウム トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]化合物は、ゲムシタビンおよびエルロチニブなどの薬物に感受性の膵臓細胞株および非感受性の膵臓細胞株の両方において同等に有効であることも発見された。
【0007】
したがって、第一の局面において、本発明は、膵臓癌を有すると特定された患者を、治療的有効量のトランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]またはその薬学的に許容される塩で処置する段階を含む、膵臓癌を処置する方法を提供する。
【0008】
第二の局面において、本発明は、膵臓癌の予防またはその発症の遅延が必要であると特定された患者に、予防的有効量のトランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]またはその薬学的に許容される塩を投与する段階を含む、膵臓癌を予防する方法またはその発症を遅延させる方法を提供する。
【0009】
本発明はさらに、膵臓癌の処置、予防、またはその発症の遅延に有用な医薬を製造するための、トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]またはその薬学的に許容される塩の使用を提供する。
【0010】
また別の局面において、本発明は、治療抵抗性の膵臓癌を有する患者を特定する段階、および治療的有効量のトランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]またはその薬学的に許容される塩で患者を処置する段階を含む、治療抵抗性の膵臓癌を処置する方法を提供する。特定の態様において、患者は、ゲムシタビン、エルロチニブ、マイトマイシンC、および白金剤からなる群より選択される一つまたは複数の薬物を含む処置に対して抵抗性である膵臓癌を有する。
【0011】
本発明の前述および他の利点および特徴、ならびに同一のものが達成される様式は、好ましい例示的な態様を例証する添付の実施例と併せて、以下の本発明の詳細な説明を考慮する際に、より容易に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】膵臓腫瘍細胞株MIA PaCa2に由来する3次元腫瘍モデル(HuBiogel, Vivo Biosciences, Birmingham, AL)において、ナトリウム トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]による用量依存的な増殖阻害(MTTアッセイ)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
発明の詳細な説明
本発明は、ナトリウム トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]化合物が膵臓癌を処置するのに特に有効であるという発見に、少なくとも一部基づく。したがって、本発明の第一の局面に応じて、膵臓癌を処置するための方法が提供される。具体的には、本方法は、膵臓癌を有する患者を、治療的有効量のトランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]またはその薬学的に許容される塩で処置する段階を含む。すなわち、本発明は、膵臓癌を有すると特定されたかまたは診断された患者における膵臓癌の処置用の医薬を製造するための、トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]またはその薬学的に許容される塩の使用を対象とする。
【0014】
本発明の本局面の種々の態様において、処置法は、膵臓癌を有すると患者を診断する段階または特定する段階も任意で含む。特定された患者はその後、治療的有効量のトランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)](例えば、ナトリウム トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]またはインダゾリウム トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)])で処置されるかまたは投与される。膵臓癌は、超音波、CTスキャン、MRI、内視鏡超音波、CA19-9(炭水化物抗原19.9)スクリーニング、および生検(例えば、経皮的針生検)を含む当技術分野において公知である任意の従来の診断法で診断され得る。
【0015】
さらに、驚くべきことに、ナトリウム トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]化合物が、ゲムシタビンおよびエルロチニブなどの薬物に感受性の膵臓癌細胞株および非感受性の膵臓癌細胞株の両方において同等に有効であることも発見された。したがって、本発明は、治療抵抗性の膵臓癌を有すると特定された患者を、治療的有効量のトランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)](例えば、ナトリウム トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]またはインダゾリウム トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)])で処置する段階を含む、治療抵抗性の膵臓癌を処置する方法も提供する。特定の態様において、患者は、ゲムシタビン、エルロチニブ、マイトマイシンC、白金剤(例えば、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン)、ドセタキセル、5-FU、およびカペシタビンからなる群より選択される一つまたは複数の薬物を含む処置に対して抵抗性である膵臓癌を有する。すなわち、本発明は、治療抵抗性の膵臓癌、例えば、ゲムシタビン、エルロチニブ、ドセタキセル、マイトマイシンC、白金剤(シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン)、5-FU、およびカペシタビンより選択される一つまたは複数の薬物に対して抵抗性である膵臓癌の処置用の医薬を製造するための、トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]またはその薬学的に許容される塩(例えば、ナトリウム トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]もしくはインダゾリウム トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)])の使用も対象とする。
【0016】
本明細書において使用される「治療抵抗性の膵臓癌」という用語は、トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]を含まない抗新生物処置に対して好ましい応答を示さないか、あるいは、トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]を含まない抗新生物処置に好ましい応答を示した後に反復または再発するかいずれかの膵臓癌を指す。したがって、本明細書において使用される「処置に対して抵抗性の膵臓癌」とは、処置に対して好ましい応答を示さないかまたは抵抗する、あるいは、処置に対して好ましい応答を示した後に反復または再発する膵臓癌を意味する。
【0017】
したがって、いくつかの態様において、本発明の方法において、トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]またはその薬学的に許容される塩が、ゲムシタビン、エルロチニブ、マイトマイシンC、ドセタキセル、白金剤(シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン)、5-FU、およびカペシタビンからなる群より選択される一つまたは複数の薬物を含む処置に対して抵抗性を呈する腫瘍を有する膵臓癌患者を処置するために使用される。換言すると、本方法は、ゲムシタビン、エルロチニブ、マイトマイシンC、ドセタキセル、白金剤(シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン)、5-FU、およびカペシタビンからなる群より選択される一つまたは複数の薬物を含む処置レジメンで以前に処置されている膵臓癌患者で、かつその膵臓癌が処置レジメンに非応答性であるか、または処置レジメンに対して抵抗性が生じていると見出された患者を処置するために使用される。他の態様において、本方法は、ゲムシタビン、エルロチニブ、マイトマイシンC、ドセタキセル、白金剤(シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン)、5-FU、およびカペシタビンからなる群より選択される一つまたは複数の薬物を含む処置で以前に処置されたが、膵臓癌が反復または再発した膵臓癌患者、すなわち、一つまたは複数のそのような薬物で以前に処置され、かつその癌が以前に投与された一つまたは複数のそのような薬物に最初は応答性であったが、その後再発していると見出された膵臓癌患者を処置するために使用される。特定の態様において、ゲムシタビンで以前に処置された、すなわち、ゲムシタビンに対して抵抗性を呈するかまたはそれを含む処置後に再発した腫瘍を有する、膵臓癌患者を処置するために、ナトリウム トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]が使用される。他の特定の態様において、エルロチニブで以前に処置された、すなわち、エルロチニブに対して抵抗性を呈するかまたはそれを含む処置後に再発した膵臓癌を有する、膵臓癌患者を処置するために、ナトリウム トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]が使用される。また他の特定の態様において、白金細胞傷害剤(例えば、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、ピコプラチン)で以前に処置された、すなわち、白金細胞傷害剤(例えば、シスプラチン、カルボプラチン、ピコプラチン、またはオキサリプラチン)に対して抵抗性を呈するかまたはそれを含む処置後に再発した膵臓癌を有する、膵臓癌患者を処置するために、ナトリウム トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]が使用される。さらに他の特定の態様において、5-FUまたはカペシタビンで以前に処置された、すなわち、マイトマイシンCに対して抵抗性を呈するかまたはそれを含む処置後に再発した膵臓癌を有する、膵臓癌患者を処置するために、ナトリウム トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]が使用される。さらに他の特定の態様において、マイトマイシンCで以前に処置された、すなわち、マイトマイシンCに対して抵抗性を呈するかまたはそれを含む処置後に再発した膵臓癌を有する、膵臓癌患者を処置するために、ナトリウム トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]が使用される。
【0018】
治療抵抗性の膵臓癌を検出するために、最初の処置を受けた患者は、抵抗性、非応答性、または反復型の膵臓癌の徴候について注意深くモニタリングされ得る。これは、例えば、ゲムシタビン、エルロチニブ、マイトマイシンC、ドセタキセル、白金剤(シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン)、5-FU、およびカペシタビンからなる群より選択される一つまたは複数の薬物を含んでもよい最初の処置に対する、患者の癌の応答性をモニタリングすることにより達成され得る。最初の処置への応答性、応答性の欠如、または癌の再発は、当技術分野において実施される任意の適当な方法により判定され得る。例えば、これは、腫瘍のサイズおよび数の評価により達成され得る。腫瘍のサイズまたは数における増加は、腫瘍が化学療法に応答していないこと、または再発が起きていることを示す。Therasse et al, J. Natl. Cancer Inst. 92:205-216 (2000)において詳細に記載されるような「RECIST」基準に従って、判定がなされ得る。
【0019】
本発明のまた別の局面に従って、予防的有効量のトランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]またはその薬学的に許容される塩(例えば、ナトリウム トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]もしくはインダゾリウム トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)])で、予防または遅延を必要とする患者を処置する段階を含む、膵臓癌を予防するため、もしくはその発症を遅延させるため、または膵臓癌の反復を予防するためもしくは遅延させるための方法が提供される。
【0020】
慢性膵炎を有する人々は膵臓癌を発症するリスクが増加していることが、現在公知である。加えて、遺伝的症候群を有する人々もまた膵臓癌を発症しやすい傾向があり、常染色体劣性の毛細血管拡張性運動失調症およびBRCA2遺伝子またはPALB2遺伝子における常染色体優性の遺伝性変異、STK11における変異によるポイツ-ジェガース症候群、遺伝性非ポリープ性大腸癌(HNPCC)、家族性腺腫性ポリープ症(FAP)、ならびにCDKN2A遺伝子における変異による家族性異型多発母斑黒色腫-膵臓癌症候群(FAMMM-PC)を有する人々を含む。これらの人々はすべて、予防的有効量のトランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]またはその薬学的に許容される塩(例えば、ナトリウム トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]もしくはインダゾリウム トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)])を用いる、膵臓癌を予防するためまたはその発症を遅延させるための本発明の方法についての候補であり得る。加えて、膵臓癌の家族歴を有する患者もまた、膵臓癌を予防するかまたはその発症を遅延させる本方法の適用先として特定され得る。
【0021】
膵臓癌の反復を予防する目的または遅延させる目的で、処置されており、かつ寛解にあるかまたは安定もしくは無進行状態にある膵臓癌患者は、膵臓癌の反復または再発を有効に予防するためまたは遅延させるために、予防的有効量のトランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]またはその薬学的に許容される塩(例えば、ナトリウム トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]もしくはインダゾリウム トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)])で処置されてもよい。
【0022】
本発明において、膵臓癌とは、腺癌、腺扁平上皮癌、印環細胞癌、肝様癌、膠様癌、未分化癌、および破骨細胞様巨細胞を伴う未分化癌などの外分泌膵臓癌を指す。
【0023】
本明細書において使用される場合、「...で...を処置する段階」という句またはその言い換えは、患者に化合物を投与する段階、または患者の体内で化合物の形成を引き起こす段階を意味する。
【0024】
本発明の方法に応じて、膵臓癌は、単剤として単独で、あるいは、一つまたは複数の他の抗癌剤との併用で、治療的有効量のトランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]またはその薬学的に許容される塩(例えば、ナトリウム トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]もしくはインダゾリウム トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)])で処置され得る。薬学的に許容される塩の例は、アルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩またはカリウム塩)、インダゾリウム塩などを含む。トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]のアルカリ金属塩、好ましくはナトリウム塩(すなわち、ナトリウム トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]またはカリウム トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)])が特に有用である。
【0025】
トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]のアルカリ金属塩は、当技術分野において公知である任意の方法において作製され得る。例えば、PCT公開公報第WO/2008/154553号は、ナトリウム トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]を作製する効率的な方法を開示する。米国特許第7,338,946号は、インダゾリウム トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]およびインダゾリウム塩を含有する製剤を開示する。
【0026】
トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]の薬学的に許容される塩(例えば、トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]またはインダゾリウム トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)])などの薬学的化合物は、静脈内注射または任意の他の適当な手段を通じて、全体重に基づいて患者の体重の1 kgあたり0.1 mg〜1000 mgの量で投与され得る。活性成分は、一度に投与されてもよく、または、あらかじめ設定された時間の間隔で、例えば、毎日1回もしくは2日毎に1回投与されるように、多数のより少ない用量へ分割されてもよい。上記に示された投与量範囲は例示となるだけであり、かつ本発明の範囲を限定するようには意図されないことが理解されるべきである。治療的有効量の活性化合物は、当業者に明らかであるように、使用される化合物の活性、患者の体における活性化合物の安定性、緩和されるべき症状の重症度、処置される患者の全重量、投与の経路、体による活性化合物の吸収、分布、および排出の容易さ、処置される患者の年齢および感受性などを含むがそれらに限定されない要素と共に変動し得る。投与量は、種々の要素が経時的に変化するにつれて調整され得る。
【0027】
本発明に従って、膵臓癌の処置に有用な医薬を製造するための、トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]またはその薬学的に許容される塩(例えば、ナトリウム トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]もしくはカリウム トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]などのトランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]のアルカリ金属塩、またはインダゾリウム トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)])を有する化合物の使用が提供される。医薬は、例えば、注射可能な形態であり得、例えば、静脈内、皮内、または筋肉内投与に適切であり得る。注射可能な形態は一般に、当技術分野において公知であり、例えば、緩衝化された溶液または懸濁液中にある。
【0028】
本発明の別の局面に従って、容器中にトランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]またはその薬学的に許容される塩(例えば、ナトリウム トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]もしくはカリウム トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]などのトランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]のアルカリ金属塩、またはインダゾリウム トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)])を含有する化合物の単位剤形、および任意で、本発明に応じた方法、例えば、膵臓癌を処置する段階、予防する段階、もしくはその発症を遅延させる段階、または、膵臓癌の反復を予防する段階もしくは遅延させる段階、または治療抵抗性の膵臓癌を処置する段階においてキットを使用するための指示書を含む、薬学的キットが提供される。当業者に明らかであるように、単位剤形における治療用化合物の量は、本発明の方法において患者に使用される投与量により決定される。キットにおいて、トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]またはその薬学的に許容される塩(例えば、ナトリウム トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]もしくはカリウム トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]などのトランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]のアルカリ金属塩、またはインダゾリウム トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)])を有する化合物は、アンプル中で、例えば、25 mgの量の凍結乾燥形態であり得る。診療所において、凍結乾燥形態は緩衝液中に溶解され、かつ本発明に応じた処置を必要とする患者に投与され得る。
【実施例】
【0029】
ナトリウム トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]化合物を、膵臓腫瘍細胞株MIA PaCa2に由来する3次元腫瘍モデルにおいて試験した。具体的には、細胞をトリプシン処理し、洗浄し、トリパンブルー排除により計数した。その後、20,000細胞/10μlのHuBiogel(4 mg/mL)を混合することにより腫瘍ビーズを調製した(参照により本明細書に組み入れられる米国特許出願第10/546,506号を参照されたい)。3-D腫瘍ビーズを72時間、完全培地(10%FBS)と共にマルチウェルプレートにて、37℃インキュベーター+5%CO2において培養した。ミニ腫瘍を、培地中の種々の濃度の試験ナトリウム トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]化合物(最終0.2〜0.3%DMSO)または対照(DMSO)で処置した。培養培地を除去し、かつ薬物化合物またはDMSOを含む新鮮な培地で置換することにより、繰り返しの薬物処置を行った。3日目に、MTTアッセイおよびカルセインAMでの生細胞染色を行った(5ビーズ/アッセイセット)。
【0030】
ナトリウム トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]は、生細胞染色/画像解析において有効な用量依存的腫瘍殺傷を呈し、かつ有意に腫瘍増殖活性を阻害した。図1を参照されたい。MS-Excelプログラムを用いて、データセットの統計解析(平均、T検定、GI-50)を行った。T検定の結果を下記の表1に示す。平均GI-50(50%の増殖阻害に必要とされる薬物濃度)は35.73μMである。
【0031】
【表1】

【0032】
実施例2
ナトリウム トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]の活性を試験するために、ヒト膵臓癌細胞株PANC-1およびCapan-1を用いてATCC's MTT Cell Proliferation Assay(登録商標)を行った。本研究のために、保存培養株を70〜80%コンフルエントに増殖させた。表示された細胞株に対するナトリウム トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]の抗増殖活性を、ATCC's MTT Cell Proliferation Assay(カタログ番号30-1010K)を用いてインビトロで評価した。PANC-1細胞は、10%のFBSおよび1%のpen/strep/グルタミンを含むDMEM培地中で増殖させた。Capan-1細胞は、IMDM培地、20%のFBS、および1%のpen/strep/グルタミンを用いて増殖させた。Panc 1およびCapan-1細胞プレートを、それぞれ6000細胞/ウェルおよび15,000細胞/ウェルで播種し、1,000μM、またはその4倍希釈のシリーズ(250μM、62.5μM、など)のナトリウム トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]で処置した。処置後72時間で、各ウェルより100μlの培地を除去し、10μl MTT試薬を各ウェルに添加した。プレートを37℃で4時間、平板でインキュベーションし、その後、100μlの界面活性剤を添加した。プレートを一晩、室温、暗所で放置し、SoftMax(登録商標)Pro(version 5.2, Molecular Devices)を用いてプレートリーダー上で読み取った。
【0033】
吸光度データを以下のように解析した:SoftMax(登録商標)Pro(version 5.2, Molecular Devices)を用いて、IC50の計算のために、吸光度値を対照に対する割合に変換し、試験剤濃度に対してプロットした。対照に対する割合を計算する前に、すべてのウェルからプレートブランクシグナルの平均を差し引いた。各試験ウェルについて吸光度値を薬物なし対照(11列の値;細胞+媒体対照)の平均で割り、かつ100をかけることにより、対照に対する割合(パーセント値)を計算した。IC50値を得るための4-パラメータ方程式およびS字形用量応答曲線を描く他のパラメータを用いて、化合物濃度と対照に対する割合とのプロットを解析した。
【0034】
試験剤についてのIC50値を、以下の4パラメータ-算定方程式:

(式中、「最高値」は対照吸光度の最大%(100%)であり、「最低値」は最も高い剤濃度での対照吸光度の最小%(ゼロまで)であり、Yは対照に対する吸光度の割合であり、Xは試験剤濃度であり、IC50は対照細胞と比較して50%、細胞増殖を阻害する剤の濃度であり、nは曲線の傾きである)を用いて、データを曲線に適合させることにより概算した。PANC-1およびCapan-1細胞株におけるナトリウム トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]のIC50は、それぞれ30.6μMおよび45.2μMであった。
【0035】
【表2】

【0036】
PANC-1細胞は、ゲムシタビンおよびエルロチニブの両方に対して抵抗性であることが公知である。Guo et al., Tumori., 95:796-803 (2009);Durkin et al., Am. J. Surg., 186:431-436 (2003)を参照されたい。従って、ナトリウム トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]化合物は、ゲムシタビンおよびエルロチニブに対して抵抗性の細胞において活性を有する。
【0037】
本明細書において言及されるすべての刊行物および特許出願は、本発明が属する技術分野における当業者の水準を示す。すべての刊行物および特許出願は、あたかも各個々の刊行物または特許出願が参照により組み入れられるように具体的にかつ個別に示されるのと同一の程度で、参照により本明細書に組み入れられる。刊行物および特許出願の単なる言及は、それらが本出願の先行技術であることの承認を必ずしも構成しない。
【0038】
前述の発明は、理解の明瞭さの目的で例証および実施例を介していくらか詳細に説明されているが、ある特定の変化および改変が、添付の特許請求の範囲内で実施されてもよいことが明らかであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膵臓癌の処置用の医薬を製造するための、トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]の薬学的に許容される塩の治療的有効量の使用。
【請求項2】
膵臓癌の予防用またはその発症の遅延用の医薬を製造するための、トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]の薬学的に許容される塩の治療的有効量の使用。
【請求項3】
治療抵抗性の膵臓癌の処置用、予防用、またはその発症の遅延用の医薬を製造するための、トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]の薬学的に許容される塩の治療的有効量の使用。
【請求項4】
患者が、ゲムシタビンおよびエルロチニブのうちの一つまたは複数を含む処置に対して抵抗性である、請求項3記載の使用。
【請求項5】
患者が、ゲムシタビンおよびエルロチニブのうちの一つまたは複数を含む処置で以前に処置され、かつそれに応答性でなかった、請求項3記載の使用。
【請求項6】
患者が、ゲムシタビンおよびエルロチニブのうちの一つまたは複数を含む以前の処置後に再発した膵臓癌を有する、請求項3記載の使用。
【請求項7】
以前の処置がゲムシタビンを含む、請求項4〜6のいずれか一項記載の使用。
【請求項8】
以前の処置がエルロチニブを含む、請求項4〜6のいずれか一項記載の使用。
【請求項9】
薬学的に許容される塩が、トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]のアルカリ金属塩であり、ナトリウム トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテナート(III)]である、請求項1〜8のいずれか一項記載の使用。

【図1】
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【公表番号】特表2013−513614(P2013−513614A)
【公表日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543299(P2012−543299)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【国際出願番号】PCT/US2010/059785
【国際公開番号】WO2011/072181
【国際公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(509023584)ニッキ ファーマ インク. (7)
【Fターム(参考)】