説明

膵臓癌を正常な膵臓機能および/または慢性膵炎と識別する方法

【課題】膵臓癌細胞で特異的に発現するマイクロRNAの特定は、膵臓癌(例えば、膵内分泌腫瘍、腺房細胞癌)に伴う特異的なmiRNAの特定に役立ち得る。さらに、これらのmiRNAの推定標的の特定は、それらの病因的役割の解明に役立ち得る。
【解決手段】本明細書において、膵臓癌の診断、予後診断、および治療の方法および組成物を、抗膵臓癌剤を特定する方法と共に提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2007年4月30日に出願された米国仮出願第60/926,933号の優先権を主張し、該仮出願は参照によりその全体で本明細書に援用される。
【0002】
本プロジェクトはCMCに対するNIH助成CA081534およびCA128609により資金を得、米国政府は本プロジェクトに対して一定の権利を有する。
【0003】
コンパクトディスクで提出された「配列表」、表、またはコンピュータプログラム一覧付録の参照、ならびに複製を含むコンパクトディスク上の資料および各コンパクトディスク上のファイルの参照による援用を明記するものとする。
【背景技術】
【0004】
膵臓癌は、米国では、発症数にほぼ等しい年間死亡者数約33,000人の致死性疾患である。病期の移行は低い生存率の一因となる一方、膵臓の導管腺癌の生態は侵攻性局所浸潤、初期転移、ならびに化学療法および放射線への抵抗性の一つである。TP53、KRAS、CDKN2A、およびSMAD4を含む周知の遺伝子変異は、膵臓癌において重要であるが、個々はその侵攻性挙動の主な原因ではない。
【0005】
マイクロRNA(miRNA)は、RNaseIII Dicerによって、細胞質内の70〜100ヌクレオチドヘアピンプレmiRNA前駆体から19〜25ヌクレオチドの成熟形態に切断された小さな非コードRNAである。一本鎖miRNAは完全またはほぼ完全な相補性の3′非翻訳領域で潜在的に数百個の遺伝子のmRNAに結合し、それぞれ標的mRNAの分解または阻害をもたらす。ヒトでは、miRNAの異常な発現は、癌原遺伝子の発現を促進する、または腫瘍抑制遺伝子の発現を阻害することにより、発癌の一因となる。そのような「oncomiR」は、さまざまな血液悪性腫瘍および固形悪性腫瘍において、実証されている5〜7
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Jemal A, Siegel R, Ward E, et al. Cancer statistics, 2006. CA Cancer J Clin. Mar- Apr 2006:56(2): 106-130.
【非特許文献2】Cowgill SM, Muscarella P. The genetics of pancreatic cancer. Am J Surg. Sep 2003;186(3):279-286.
【非特許文献3】Bartel DP. MicroRNAs: genomics, biogenesis, mechanism, and function. Cell. Jan 23 2004;116(2):281-297.
【非特許文献4】Iorio MV, Ferracin M, Liu CG, et al. MicroRNA gene expression deregulation in human breast cancer. Cancer Res. Aug 15 2005;65(16):7065-7070.
【非特許文献5】Calin GA, Ferracin M, Cimmino A, et al. A MicroRNA signature associated with prognosis and progression in chronic lymphocytic leukemia. N Engl J Med. Oct 27 2005;353(17): 1793-1801.
【非特許文献6】Esquela-Kerscher A, Slack FJ. Oncomirs - microRNAs with a role in cancer. Nat Rev Cancer. Apr 2006;6(4):259-269.
【非特許文献7】Volinia S, Calin GA, Liu CG, et al. A microRNA expression signature of human solid tumors defines cancer gene targets. Proc Natl Acad Sci USA. Feb 14,2006; 103(7):2257-2261.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
膵臓癌細胞で特異的に発現するマイクロRNAの特定は、膵臓癌(例えば、膵内分泌腫瘍、腺房細胞癌)に伴う特異的なmiRNAの特定に役立ち得る。さらに、これらのmiRNAの推定標的の特定は、それらの病因的役割の解明に役立ち得る。膵臓癌の診断、予後診断、および治療のための方法および組成物を本明細書に記載する。
本発明のさらなる利点、目的、および特性は、以下に続く明細書で部分的に説明され、当業者にとっては以下の検査により部分的に明らかになるか、または本発明の実施から理解し得るであろう。本発明の目的および利点は、添付の特許請求の範囲で具体的に指摘するとおり、実現および達成し得る。
【課題を解決するための手段】
【0008】
幅広い態様において、本明細書は膵臓癌細胞内の発現レベルの変化に関連する特異的なmiRNAの特定を提供する。
【0009】
別の幅広い態様において、本明細書は被験体が膵臓癌を有するか、または膵臓癌を発症するリスクがあるかどうかを診断する方法であって、該被験体由来の検査試料中の少なくとも1つのmiR遺伝子産物のレベルを測定する工程を含み、対照試料中の対応するmiR遺伝子産物のレベルに対する検査試料中のmiR遺伝子産物のレベルの変化は、被験体が膵臓癌を有すること、または膵臓癌を発症するリスクがあることのいずれかを示す方法を提供する。
【0010】
別の幅広い態様において、本明細書はヒト患者において、正常な膵臓組織および慢性膵炎の少なくとも1つと膵臓癌識別する方法であって、表1a、1b、1c、2a、2b、2c、および3の少なくとも1つからの少なくとも1つのmiR遺伝子産物の組織試料における発現のレベルを検出する工程を含み、差次的発現が正常な膵臓または慢性膵炎ではなく膵臓癌を示す方法を提供する。
【0011】
さらに別の幅広い態様において、本明細書は膵臓癌を有する被験体の予後を判定する方法であって、該被験体由来の検査試料中の少なくとも1つのmiR遺伝子産物のレベルを測定する工程を含み、miR遺伝子産物が膵臓癌における予後不良に関連し、対照試料中の対応するmiR遺伝子産物に対する膵臓の検査試料中の少なくとも1つのmiR遺伝子産物のレベルの変化が予後不良を示す方法を提供する。
【0012】
したがって、1つの方法は被験体が膵臓癌を有するか、または膵臓癌を発症するリスクがあるかどうかを診断する方法を含む。具体的な態様では、被験体由来の検査試料中の少なくとも1つのmiR遺伝子産のレベルを、対照試料中の対応するmiR遺伝子産物のレベルと比較する。対照試料中の対応するmiR遺伝子産物のレベルに対する検査試料中のmiR遺伝子産物のレベルの変化(例えば、増加、減少)は、被験体が膵臓癌を有すること、または膵臓癌を発症するリスクがあることのいずれかを示す。
【0013】
一実施形態では、診断される膵臓癌は膵外分泌腫瘍(例えば、腺癌)である。さらに別の実施形態では、該方法は膵内分泌腫瘍(PET)を膵外分泌腫瘍(例えば、腺癌)と識別することができる。さらに別の実施形態では診断方法を使用して、膵臓癌の任意の種類を診断することができる。
【0014】
一実施形態では被験体が膵臓癌を有するか、または膵臓癌を発症するリスクがあるかどうかを診断する方法を提供する。該方法では、被験体由来の検査試料中の少なくとも1つのmiR遺伝子産物のレベルを、対照試料中の対応するmiR遺伝子産物のレベルと比較する。対照試料中の対応するmiR遺伝子産物のレベルに対する検査試料中のmiR遺伝子産物のレベルの変化(例えば、増加、減少)は、被験体が膵臓腺癌を有すること、または膵臓腺癌を発症するリスクがあることのいずれかを示す。一実施形態では、検査試料中の少なくとも1つのmiR遺伝子産物のレベルは、対照試料中の対応するmiR遺伝子産物のレベルを上回る。
【0015】
一実施形態では、被験体が有する膵臓癌の種類を診断する方法を提供する。該方法では、被験体由来の検査試料中の少なくとも1つのmiR遺伝子産物のレベルを、対照試料中の対応するmiR遺伝子産物のレベルと比較する。対照試料中の対応するmiR遺伝子産物のレベルに対する検査試料中のmiR遺伝子産物のレベルの変化(例えば、増加、減少)は、膵臓癌の種類を示す。
【0016】
一実施形態では、診断される膵臓癌の種類は、腺癌から成る群から選択される。別の実施形態では、検査試料中の少なくとも1つのmiR遺伝子産物のレベルは、対照試料中の対応するmiR遺伝子産物のレベルを上回る。
【0017】
別の実施形態では、検査試料中の少なくとも1つのmiR遺伝子産物のレベルは、対照試料中の対応するmiR遺伝子産物のレベルを上回る。
【0018】
一実施形態では、膵臓癌を有する被験体の予後を判定する方法を提供する。該方法では、膵臓癌の予後不良に関連した、少なくとも1つのmiR遺伝子産物のレベルを、被験体由来の検査試料(例えば、膵臓癌試料)中で測定する。対照試料中の対応するmiR遺伝子産物のレベルに対する検査試料中のmiR遺伝子産物のレベルの変化(例えば、増加、減少)は、予後不良を示す。一実施形態では、検査試料中の少なくとも1つのmiR遺伝子産物のレベルは、対照試料中の対応するmiR遺伝子産物のレベルを上回る。別の実施形態では、測定された少なくとも1つのmiR遺伝子産物は、miR−196a−2[配列番号52]である。さらに別の実施形態では、膵臓癌は、転移および/または高い増殖指数に関連する。
【0019】
一実施形態では、被験体の膵臓癌が転移性であるかどうかを判断する方法を提供する。該方法では、少なくとも1つのmiR遺伝子産物のレベルを、被験体由来の検査試料(膵臓癌試料)中で測定する。対照試料中の対応するmiR遺伝子産物のレベルに対する検査試料中のmiR遺伝子産物のレベルの変化(例えば、増加、減少)は、転移を示す。一実施形態では、検査試料中の少なくとも1つのmiR遺伝子産物のレベルは、対照試料中の対応するmiR遺伝子産物のレベルを上回る。
【0020】
一実施形態では、被験体の膵臓癌が高い増殖指数を有するかどうかを判断する方法を提供する。該方法では、少なくとも1つのmiR遺伝子産物のレベルを被験体からの検査試料(膵臓癌試料)中で測定する。対照試料中の対応するmiR遺伝子産物のレベルに対する、検査試料中のmiR遺伝子産物のレベルの変化(例えば、増加、減少)は、高い増殖指数を示す。一実施形態では、検査試料中の少なくとも1つのmiR遺伝子産物のレベルは、対照試料中の対応するmiR遺伝子産物のレベルを上回る。別の実施形態では、少なくとも1つのmiR遺伝子産物は、miR−196a−2[配列番号52]またはmiR−219[配列番号64]である。
【0021】
一実施形態では、膵臓癌を有する被験体の予後を決定する方法を提供する。該方法では、PDCD4のレベルを被験体由来の検査試料(例えば、膵臓癌試料)中で測定する。対照試料中のPDCD4のレベルに対する検査試料中のPDCD4のレベルの変化(例えば、増加、減少)は、予後不良を示す。一実施形態では、検査試料中のPDCD4のレベルは、対照試料中のPDCD4のレベル未満である。別の実施形態では、膵臓癌は、転移および/または高い増殖指数に関連する。
【0022】
少なくとも1つのmiR遺伝子産物のレベルは、当業者に周知のさまざまな技術(例えば、定量的または半定量的RT−PCR、ノーザンブロット分析、溶液ハイブリダイゼーション検出)を使用して、測定することができる。具体的な実施形態では、被験体から得た検査試料からのRNAを逆転写して、標的オリゴデオキシヌクレオチドのセットを供給し、標的オリゴデオキシヌクレオチドを1つまたは複数のmiRNA特異プローブオリゴヌクレオチド(例えば、miRNA特異プローブオリゴヌクレオチドを含むマイクロアレイ)とハイブリダイズして、検査試料にハイブリダイゼーションプロファイルを提供し、検査試料のハイブリダイゼーションプロファイルを対照試料から生成されたハイブリダイゼーションプロファイルと比較することにより、少なくとも1つのmiR遺伝子産物のレベルを測定することができる。対照試料に対する検査試料中の少なくとも1つのmiRNAのシグナルの変化は、被験体が膵臓癌を有すること、または膵臓癌を発症するリスクがあることのいずれかを示す。一実施形態では、少なくとも1つのmiRNAのシグナルは、対照試料から生成されたシグナルに対して上方制御される。別の実施形態では、少なくとも1つのmiRNAのシグナルは、対照試料から生成されたシグナルに対して、下方制御される。具体的な実施形態では、マイクロアレイは、すべての周知のヒトmiRNAの大部分に、miRNA特異プローブオリゴヌクレオチドを含む。
【0023】
被験体が予後不良の膵臓癌を有するか、または膵臓癌を発症するリスクがあるかどうかを診断する方法も提供する。1つの方法では、膵臓癌の予後不良に関連した少なくとも1つのmiR遺伝子産物のレベルを、被験体から得た検査試料からのRNAを逆転写して、標的オリゴデオキシヌクレオチドのセットを供給することによって、測定する。次いで、標的オリゴデオキシヌクレオチドを1つまたは複数のmiRNA特異プローブオリゴヌクレオチド(例えば、miRNA特異プローブオリゴヌクレオチドを含むマイクロアレイ)とハイブリダイズして、検査試料に関するハイブリダイゼーションプロファイルを提供し、検査試料のハイブリダイゼーションプロファイルを、対照試料から生成されたハイブリダイゼーションプロファイルと比較する。対照試料に対する検査試料中の少なくとも1つのmiRNAのシグナルの変化は、予後不良の膵臓癌を有すること、または膵臓癌を発症するリスクがあることのいずれかを示す。
【0024】
被験体の膵臓癌を治療する方法であって、少なくとも1つのmiR遺伝子産物が被験体の癌細胞内で無秩序(例えば、下方制御、上方制御)である方法を提供する。少なくとも1つの単離されたmiR遺伝子産物が、膵臓癌細胞において下方制御される場合、該方法には、被験体の癌細胞の増殖が阻害されるように、単離されたmiR遺伝子産物、もしくは、単離された変異体またはその生物学的に活性なフラグメントの有効量を被験体に投与する工程が含まれる。
【0025】
少なくとも1つの単離されたmiR遺伝子産物が、膵臓癌細胞において上方制御される場合、該方法には、被験体の癌細胞の増殖が阻害されるように、少なくとも1つのmiR遺伝子産物の発現を阻害する少なくとも1つの化合物の有効量を被験体に投与する工程が含まれる。
【0026】
関連した実施形態では、被験体の膵臓癌を治療する方法には、まず、被験体由来の膵臓癌細胞内の少なくとも1つのmiR遺伝子産物の量を決定し、そのmiR遺伝子産物のレベルを対照細胞内の対応するmiR遺伝子産物のレベルと比較する工程がさらに含まれる。miR遺伝子産物の発現が膵臓癌内で無秩序(例えば、下方制御、上方制御)である場合、該方法には、膵臓癌細胞内に発現した少なくとも1つのmiR遺伝子産物の量を変化する工程がさらに含まれる。一実施形態では、癌細胞内に発現したmiR遺伝子産物の量は、対照細胞内に発現したmiR遺伝子産物の量未満であり、miR遺伝子産物、もしくは単離された変異体またはその生物学的に活性なフラグメントの有効量が被験体に投与される。別の実施形態では、癌細胞内に発現したmiR遺伝子産物の量は、対照細胞内に発現したmiR遺伝子産物の量を上回り、少なくとも1つのmiR遺伝子の発現を阻害する少なくとも1つの化合物の有効量が被験体に投与される。miR遺伝子の発現を阻害する適切なmiRおよび化合物には、例えば、本明細書に記載するものが含まれる。
【0027】
膵臓癌を治療するための医薬組成物も提供する。一実施形態では、医薬組成物には、少なくとも1つの単離されたmiR遺伝子産物、もしくは、単離された変異体またはその生物学的に活性なフラグメント、および薬学的に許容される担体が含まれる。具体的な実施形態では、少なくとも1つのmiR遺伝子産物は、適切な対照細胞に対する膵臓癌細胞内の発現レベルの減少を有するmiR遺伝子産物に対応する(つまり、下方制御される)。
【0028】
別の実施形態では、医薬組成物には、少なくとも1つのmiR発現阻害化合物および薬学的に許容される担体が含まれる。具体的な実施形態では、少なくとも1つのmiR発現阻害化合物は、その発現が膵臓癌細胞で対照細胞よりも大きいmiR遺伝子産物に特異的である(つまり、上方制御される)。
【0029】
抗膵臓癌剤を特定する方法であって、検査剤を細胞に供給し、細胞内の少なくとも1つのmiR遺伝子産物のレベルを測定する工程を含む方法も提供する。一実施形態では、該方法には、検査剤を細胞に供給し、膵臓癌内の発現レベルの減少に関連する少なくとも1つのmiR遺伝子産物のレベルを測定する工程が含まれる。適切な対照細胞に対する細胞内のmiR遺伝子産物のレベルの増加は、検査剤が抗膵臓癌剤であることを示す。
【0030】
他の実施形態では、該方法には、検査剤を細胞に供給し、膵臓癌細胞内の発現レベルの増加に関連する少なくとも1つのmiR遺伝子産物のレベルを測定する工程が含まれる。適切な対照細胞に対する膵臓癌細胞内の発現レベルの増加に関連するmiR遺伝子産物のレベルの減少は、検査剤が抗膵臓癌剤であることを示す。
【0031】
本発明は、本出願の一部を形成する以下の発明を実施するための形態、図面、および配列記述から、より十分に理解することができる。本明細書に添付した配列記述および配列表は、37CFR§§1.821−1.825に示す、特許明細書に開示するヌクレオチドおよび/またはアミノ酸配列を規定する規則に準拠する。配列記述は、37CFR§§1.821−1.825に記載する、アミノ酸の3文字表記を含み、参照により本明細書に援用される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1A、1Bおよび1Cは、組織の種類間の一対比較で特異的に発現すると認められた、miRNAのセット間の関係を説明するベン図を示し、組織の種類間の一対比較で特異的に発現すると認められたmiRNAのセットを記載する表1a、1b、および1cを示す。 円は、示した一対比較で特異的に発現したmiRNAの総数を含む。交わる領域は、各比較の間で共通する特異的に発現したmiRNAの数を表す。共通のmiRNAを、各セットで、記載する。Np(正常な膵臓)、P(膵臓)、CP(慢性膵炎)。
【図2】図2Aおよび2Bは、特異的に発現したマイクロRNAの分析を示す。図2Aは、リアルタイムRT−PCRで適合した正常な膵臓対照と比較した膵臓癌における、マイクロRNAの相対的な発現を示す。図2Bは、5つの採取したての膵臓癌試料およびmiR−21に対する2つの適合しない正常な膵臓対照のノーザンブロットを示す。
【図3】図3は、miR−196a−2の相対的発現に基づく、膵臓癌の患者のカプランマイヤー全生存曲線を示すグラフである。
【図4A】図4A、は、特異的に発現したmiRNA、膵臓癌(P)、慢性膵炎(CP)、および正常な膵臓機能(NP)に対してクラス予測、ならびにこれらの相対的発現を記載する、表2aを示す。倍率変化は発現における実際の変化として提示される。
【図4B】図4Bは、特異的に発現したmiRNA、膵臓癌(P)、慢性膵炎(CP)、および正常な膵臓機能(NP)に対してクラス予測、ならびにこれらの相対的発現を記載する、表2bを示す。倍率変化は発現における実際の変化として提示される。
【図4C】図4Cは、特異的に発現したmiRNA、膵臓癌(P)、慢性膵炎(CP)、および正常な膵臓機能(NP)に対してクラス予測、ならびにこれらの相対的発現を記載する、表2cを示す。倍率変化は発現における実際の変化として提示される。
【図5】図5は、24ヶ月以内に疾患で死亡するリンパ節陽性患者と比較して、少なくとも24ヶ月生存するリンパ節陽性患者において、SAMによって特異的に発現する成熟したマイクロRNAを含む表3を示す。倍率変化は、発現における実際の変化として提示される。SAM変数は、規定値として設定された(最低0倍変化、100順列、および0.05のsOパーセンタイル)。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明を、本発明の具体的な実施形態に時折言及して記載する。しかし、本発明は、異なる形状で具体化し得、本明細書で説明する実施形態を制限するものと解釈してはならない。逆に、本開示が、徹底的かつ完全であり、当業者に本発明の範囲を十分に伝えるように、これらの実施形態を提供する。
【0034】
特に指示がない限り、本明細書に使用されるすべての専門用語および科学用語は、本発明が属する当該技術における当業者に、一般的に理解される同一の意味を有する。本明細書の発明を実施するための形態に使用される専門用語は、具体的な実施形態のみを記載するためであり、本発明を制限することを意図していない。発明を実施するための形態および添付の特許請求の範囲に使用する、単数形の「a」、「an」、および「the」には、内容が明確に指示しないかぎり、複数形も含まれることを意図する。本明細書に記載したすべての出版物、特許出願、特許明細書、および他の参考資料は、参照によりこれらの全体で援用される。
【0035】
特に指示がない限り、本明細書および特許請求の範囲に使用される成分の数量、分子量等の特性、反応条件等を表すすべての数字は、「約」という用語によって、全ての例において加減されるものと理解されたい。したがって、特に指示がないかぎり、以下の本明細書および特許請求の範囲に説明される数値的特性は、本明細書の実施形態で得られるとされる所望の特性によって異なり得る近似値である。発明の広範囲で説明される数値域およびパラメーターは、近似値であっても、具体的な実施例で説明する数値をできるだけ正確に報告する。しかし、任意の数値は、本質的に、各測定においてみられる誤差から必然的に生じるある種の誤差を含む。
【0036】
発明を実施するための形態に記載されたすべての特許明細書、特許出願(およびそれについて発行する任意の特許明細書、ならびに任意の対応する海外の公開特許明細書)、GenBank、および他の受入番号および関連データ、ならびに出版物の開示は、参照により本明細書に援用される。しかしながら、それは、参照により本明細書に援用される任意の文書が、本発明を教示または開示することを明確に認めていない。
【0037】
本発明は、以下の本発明の実施形態の、発明を実施するための形態および本明細書に含まれる実施例を参照することによって、さらに容易に理解され得る。しかしながら、方法、化合物、および組成物を開示し、記載する前に、本発明は、特定の方法、特定の細胞種類、特定の宿主細胞、または特定の条件等に制限されないものであり、それ自体は、当然ながら異なり得、多くの修正および変化は、当業者に明らかであることを理解されたい。本明細書に使用される専門用語は、具体的な実施形態のみを説明するためであり、制限することを意図しないことも理解されたい。
【0038】
定義
【0039】
「化学的感受性」は、細胞毒性薬によって影響を受ける細胞の傾向を指し、細胞は、そのような薬剤に対して感受性から抵抗性の範囲であり得る。単独、もしくは他の要因または遺伝子発現産物と組み合わせた化学的感受性遺伝子のいずれかの発現は、化学的感受性のマーカーまたは兆候になり得る。
【0040】
「化学的感受性遺伝子」は、タンパク質産物が細胞の化学的感受性から1つまたは複数の細胞毒性薬に影響を及ぼす遺伝子を指す。例えば、連続体であるスケールにしたがって、薬物感受性細胞株内の所与の遺伝子の比較的高い発現は、正相関と考えられ、薬物抵抗性の細胞内の高発現は、逆相関と考えられる。したがって、逆相関は、化学的感受性遺伝子が、癌細胞の薬物への抵抗性に関連することを示し、正相関は、化学的感受性遺伝子が、癌細胞の薬物への感受性に関連することを示す。化学的感受性遺伝子は、それ自体、細胞を1つまたは複数の細胞毒性薬の影響への感受性をより高くする、または抵抗性をより強くし得る、もしくは、化学的感受性に直接影響を及ぼす他の因子に関連し得る。つまり、一部の化学的感受性遺伝子は、細胞に薬物感受性または薬物抵抗性を与えることに直接関与し得る、または関与し得ないが、そのような遺伝子の発現は、化学的感受性に影響を及ぼし得る他の因子の発現に関連し得る。化学的感受性遺伝子の発現は、薬物への細胞の感受性または細胞種類に相関することができ、逆相関は、遺伝子が、薬物への細胞抵抗性に影響を及ぼすことを示し得、正相関は、遺伝子が、薬物への細胞感受性に影響を及ぼすことを示し得る。
【0041】
本明細書は、周知の遺伝子の受入番号を記載し、それによって、遺伝子の全配列は、参照され得、それは特許明細書の本出願において、参照により本明細書に明確に援用されることに留意されたい。
【0042】
「アレイ」または「マイクロアレイ」は、ポリヌクレオチド等のハイブリダイズ可能なアレイ素子の配列を指し、一部の実施形態では、それは、基質上であり得る。ポリヌクレオチドの配列は、順序付けられ得る。一部の実施形態では、少なくとも10個以上の異なるアレイ素子があり、他の実施形態では、少なくとも100個以上のアレイ素子があるように、アレイ素子は、配列される。さらに、それぞれのアレイ素子からのハイブリダイゼーションシグナルは、個別に、識別可能であり得る。一実施形態では、アレイ素子には、核酸分子が含まれる。一部の実施形態では、アレイは、2つ以上の化学的感受性遺伝子にプローブを備え、他の実施形態では、アレイは、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、150、200、250、またはそれ以上の化学的感受性遺伝子にプローブを備える。一部の実施形態では、アレイは、化学的感受性タンパク質以外の産物をコードする遺伝子に、プローブを備える。一部の実施形態では、アレイは、5、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、またはそれ以上の化学的感受性タンパク質以外の産物をコードする遺伝子にプローブを備える。
【0043】
本明細書で使用する「遺伝子」は、生体分子または生体機能に関連したDNAの任意の領域または断片を、広範に指す。したがって、遺伝子には、コード配列が含まれ、発現に必要な調節領域または断片がさらに含まれ得る。遺伝子には、例えば、他のタンパク質に認識配列を形成する非発現DNA断片も含まれ得る。遺伝子は、対象の発生源からクローン化、もしくは、周知または予測配列情報からの合成を含む、さまざまな発生源から得ることができ、所望のパラメーターをコードする配列が含まれ得る。
【0044】
「ハイブリダイゼーション複合体」は、プリンとピリミジンとの間の水素結合の形成による2つの核酸分子との間の複合体を指す。
【0045】
2つ以上の核酸またはポリペプチド配列との関連で本明細書に使用する「同一」または「同一性」率(%)は、最大一致で比較し、整列したときに同一であり得る、または同一であるアミノ酸残基またはヌクレオチドの特定の割合(%)を有し得る、2つ以上の配列または部分列を指す。配列比較では、典型的に、1つの配列は、テスト配列が比較される参照配列となる。配列比較アルゴリズムを使用するとき、テスト配列および参照配列をコンピュータに入力し、必要に応じて、部分列座標を指定し、配列アルゴリズムプログラムパラメーターを指定する。次いで、配列比較アルゴリズムは、指定したプログラムパラメーターに基づき、参照配列に対する1つまたは複数のテスト配列の配列同一性率(%)を算出する。
【0046】
核酸またはタンパク質との関連で本明細書に使用する「単離された」は、実質的に、核酸またはタンパク質が、他の細胞成分を含まず、それにより、それが自然状態にあることを意味する。乾燥または水溶液のいずれかであり得るが、均質な状態にあることが好ましい。典型的には、純度および均一性は、ポリアクリルアミドゲル電気泳動または高速液体クロマトグラフィ等の分析化学技術を使用して決定される。調製中に存在する主要な分子種であるタンパク質は、実質的に精製される。単離された遺伝子は、該遺伝子に隣接し、対象となる該遺伝子以外のタンパク質をコードするオープンリーディングフレームから分離される。
【0047】
化学的感受性遺伝子に言及して本明細書に使用する「マーカー」または「バイオマーカー」は、化学的感受性の指標を意味する。マーカーは、細胞毒性薬への細胞の化学的感受性に直接的または間接的に影響を及ぼし得る、または化学的感受性に影響を及ぼす他の因子に関連し得る。
【0048】
本明細書に使用する「核酸」は、一本鎖または二本鎖のいずれかの形状のデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチド、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチドポリマー、およびこれらのフラグメントを指す。核酸は、天然または合成起源の二本鎖または一本鎖であり、炭水化物、脂質、タンパク質、他の核酸、または他の物質から分離またはこれらと組み合わされ得、転換等の特定の活性を行う、または、ペプチド核酸(PNA)等の有用な組成物を形成し得る。特に制限しない限り、該用語には、参照核酸と同様の結合特性を有し、天然に存在するヌクレオチドと同様の方法で代謝され得る、天然ヌクレオチドの周知のアナログを含む核酸が含まれる。特に指示がない限り、特定の核酸配列には、保存的に修正されたこれらの変異体(例えば、縮重コドン置換)および相補配列、ならびに明確に指示した配列も暗黙に含まれる。特に、縮重コドン置換は、1つまたは複数の選択した(またはすべての)コドンの第3の位置が、混合性塩基残基および/またはデオキシイノシン残基で置換される配列を生成して達成し得る(Batzerら(1991)Nucleic Acid Res.19:5081、Ohtsukaら(1985)J.Biol.Chem.260:2605−2608、Cassolら(1992)Mol.Cell.Probes 8:91−98)。核酸という用語は、遺伝子、cDNA、および遺伝子によってコードされるmRNAと相互に使用される。
【0049】
「オリゴヌクレオチド」または「オリゴ」は、核酸であり、実質的に、増幅プライマー、プライマー、オリゴマー、素子、標的、およびプローブの用語と同等であり、二本鎖または一本鎖のいずれかであり得る。
【0050】
「複数」は、少なくとも2つ以上の員の群を指す。
【0051】
「ポリヌクレオチド」は、25〜3,500ヌクレオチドの長さを有する核酸を指す。
【0052】
「プローブ」または「ポリヌクレオチドプローブ」は、ストリンジェントな条件下で標的配列の標的領域とハイブリダイズし、ポリヌクレオチドプローブ/標的複合体を形成することが可能な核酸を指す。プローブは、15連続ヌクレオチドの長さであるポリヌクレオチドを含む。プローブは、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、5、6、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100ポリヌクレオチドの長さであり得る。一部の実施形態では、プローブは、70ヌクレオチドの長さである。プローブは、標的領域に100%未満相補的であり得、標的領域に100%相補的であるプローブと比較して、1つまたは複数の欠失、挿入、または置換の形の配列変異を含み得る。
【0053】
核酸またはタンパク質との関連で本明細書に使用する、「精製された」は、核酸またはタンパク質が、電気泳動ゲル中に実質的に1つのバンドを生じることを意味する。特に、それは、核酸またはタンパク質が、任意の他の核酸またはタンパク質種の存在に対して、少なくとも50、55、60、65、70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100%の純度であることを意味する。
【0054】
「試料」は、核酸分子を含有する生物から得た物質等の物質の単離された試料を意味する。試料には、体液、細胞、細胞、染色体、細胞小器官、または細胞から単離された膜からの抽出物、溶液中または基質に結合したゲノムDNA、RNA、またはcDNA、もしくは、これらの生物組織または生検が含まれ得る。試料は、任意の体液(血液、尿、唾液、痰、胃液等)、培養細胞、生検、または他の組織標本から採取し得る。
【0055】
サウザンハイブリダイゼーションおよびノーザンハイブリダイゼーション等の核酸ハイブリダイゼーション実験との関係における、「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」および「ストリンジェントなハイブリダイゼーション洗浄条件」は、配列依存性であり、異なる環境パラメーター下で異なる。より長い配列を有する核酸は、特に、より高温でハイブリダイズされる。核酸のハイブリダイゼーションの広範囲の手引きは、Tijssen(1993)Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology−Hybridaization with Nucleic Acid Probes part I chapter 2 「Overview of principles of hybridazation and the strategy of nucleic acid probe assays,」Elsevier, N.Y.に見られる。概して、高ストリンジェントなハイブリダイゼーションおよび洗浄条件は、規定のイオン濃度およびpHでの特定の配列の熱融解点(T)よりも5℃低い温度で選択される。典型的に、「ストリンジェントな条件」下で、プローブは、他の配列ではなく、その標的配列とハイブリダイズする。Tは、50%の標的配列が完全に整合されたプローブとハイブリダイズする温度(規定したイオン濃度およびpHの)である。非常にストリンジェントな条件は、特定のプローブのTと同等になるように選択される。サウザンまたはノーザンブロット内のフィルター上の100個を超える相補的残基を有する相補的核酸のハイブリダイゼーションのストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の例は、一晩行われるハイブリダイゼーションで、42℃の1mgのヘパリンを含む50%ホルムアミドである。高ストリンジェントな洗浄条件の例は、15分間の72℃の0.15MNaclである。ストリンジェントな洗浄条件の例は、15分間の65℃の0.2×SSC洗浄である(Sambrook,infra.,for a description of SSC buffer参照)。高ストリンジェンシー洗浄は、時々、バックグラウンドプローブシグナルを除去するために、低ストリンジェンシー洗浄により開始される。例えば、100個を超えるヌクレオチドの二本鎖の中ストリンジェンシー洗浄の例は、15分間の45℃での1×SSCである。例えば、100ヌクレオチド以上の二本鎖の低ストリンジェンシー洗浄の例は、15分間の40℃の4〜6×SSCである。ショートプローブ(例えば、10〜15ヌクレオチド)では、ストリンジェントな条件は、典型的に、1.0MNaイオン未満の塩濃度、典型的には、pH7.0〜8.3の0.01〜1.0MNaイオン濃度(または他の塩)を伴い、温度は、典型的には、少なくとも30℃である。ストリンジェントな条件は、ホルムアミド等の不安定化剤の添加によって達成することもできる。一般的に、特定のハイブリダイゼーション分析の非関連プローブで認められたものの2倍(またはそれよりも高い)のシグナル対雑音比は、特定のハイブリダイゼーションの検出を示す。ストリンジェントな条件下で互いにハイブリダイズしない核酸は、これらがコードするポリペプチドが実質的に類似する場合は、さらに実質的に類似する。これは、例えば、核酸のコピーが遺伝コードにより認められた最大コドン縮退を使用して作成された場合に生じる。
【0056】
「基質」は、核酸分子またはタンパク質が塗布される、もしくは結合される剛質または半剛質担体等の担体を指し、膜、フィルター、チップ、スライド、ウエハー、ファイバー、電磁または非電磁ビーズ、ゲル、キャピラリーまたは他のチューブ、プレート、ポリマー、および微粒子、ならびに他の種類の担体が含まれ、これらは、ウェル、溝、ピン、チャネル、および細孔を含む、さまざまな表層形式を有し得る。
【0057】
本明細書に使用する、「標的ポリヌクレオチド」は、ポリヌクレオチドプローブが、塩基対合によりハイブリダイズすることができる核酸を指し、化学的感受性のマーカーであるタンパク質をコードする遺伝子のすべてまたはそのフラグメントが含まれる。一部の例では、標的の配列およびプローブは、整列されたときに、100%相補的(不適合なし)であり得る。他の例において、最大10%の不適合があり得る。標的ポリヌクレオチドは、ポリヌクレオチド試料が調製される細胞または組織内のすべての転写遺伝子および発現遺伝子の発現産物をコードする試料中のすべてのポリヌクレオチドの部分集合を表す。標的ポリヌクレオチドの遺伝子産物は、化学的感受性のマーカーであり、その一部は、薬物送達を仲介して化学的感受性に直接影響を及ぼし得る。あるいは、それらは、感受性または抵抗性を、間接的にもたらす、または影響を及ぼす細胞特性を管理する、またはそれに影響を及ぼし得る。例えば、これらのタンパク質は、電気化学勾配を確立または維持することにより、もしくは、細胞に必要な栄養素を供給することにより、機能し得る。あるいは、それらは、より間接的に関与し得、化学的感受性に直接影響を及ぼす他の因子と併せて発現する。
【0058】
「標的領域」は、化学的感受性のマーカーであるタンパク質をコードする遺伝子またはオリゴヌクレオチド等の標的配列のすべてまたは一部を含む、一続きの連続ヌクレオチドを意味する。標的領域は、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、5、6、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、200、またはそれ以上のポリヌクレオチドの長さであり得る。一部の実施形態では、標的領域は、70ヌクレオチドの長さであり、二次構造が不足している。OLIGO4.06ソフトウエア(National Biosciences,Plymouth Minn.)、LASERGENEソフトウエア(DNASTAR,Madison Wis.)、MACDNASIS(Hitachi Software Enginnering Co.,San Francisco,Calif.)等のコンピュータソフトウエアプログラムを使用して標的領域を特定し得る。
【0059】
当業者に周知の多くの方法のいずれかにしたがい、DNAまたはRNAを、試料から単離することができる。例えば、核酸の精製方法は、Tijssen(1993) Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology:Hybridaization With Nucleic Probes,Part I.Theory and Nucleic Preparation,Elsevier,New York N.Y.に記載されている。ある場合では、RNA全体は、TRIZOL試薬(Life Technologies,Gaithersburg Md.)を使用して単離され、mRNAは、オリゴd(T)カラムクロマトグラフィーまたはグラスビーズを使用して単離される。あるいは、ポリヌクレオチド試料がmRNAに由来するとき、ポリヌクレオチドは、mRNAから逆転写されたcDNA、そのcDNAから転写されたRNA、そのcDNAから増幅したDNA、増幅したDNAから転写されたRNA等であり得る。ポリヌクレオチドがDNAに由来するときは、ポリヌクレオチドは、DNAから増幅したDNA、またはDNAから逆転写されたRNAであり得る。
【0060】
ポリヌクレオチドの試料中の標的ポリヌクレオチド転写物の相対量を測定するための適切な方法は、ノーザンブロット、RT−PCRまたはリアルタイムPCR、もしくはRNaseプロテクションアッセイである。標的ポリヌクレオチドの転写物の測定を容易にするために、さまざまなアレイのいずれかを使用することができる。
【0061】
標的ポリヌクレオチドは、ハイブリダイズされたプローブ/標的ポリヌクレオチド複合体の検出を可能にするために、1つ以上の標識部分で標識し得る。標識部分は、分光学的、光化学的、生化学的、バイオ電子的、免疫化学的、電気的、または化学的方法によって検出することができる組成物を含むことができる。標識部分には、P32、P33、またはS35等の放射線同位体、化学発光化合物、標識結合タンパク質、重金属原子、蛍光マーカーおよび染料等の分光学的マーカー、磁気標識、結合した酵素、質量分析タグ、スピン標識、電子移動ドナーおよび受容体等が含まれる。
【0062】
ハイブリダイゼーション複合体
【0063】
変性ポリヌクレオチドプローブおよび変性相補的標識ポリヌクレオチドは、ハイブリダイゼーションにより、塩基対合を介して安定した二本鎖を形成する。ハイブリダイゼーション方法は、当業者に周知である(例えば、Ausubel(1997);Short Protocols in Molecular Biology,John Wiley&Sons,New York N.Y..,units2.8−2.11、3.18−3.19、および4−6−4.9を参照)。条件を、正確に相補的な標的およびポリヌクレオチドプローブが、ハイブリダイズすることができる、つまり、それぞれの塩基対が、その相補的な塩基対と相互作用しなければならない、ハイブリダイゼーションに選択することができる。あるいは、条件を、標的およびポリヌクレオチドプローブが不適合であるが、ハイブリダイズすることが依然可能である条件に選択することができる。適切な条件を、例えば、プレハイブリダイゼーション溶液、ハイブリダイゼーション溶液、および洗浄溶液中の塩濃度を変化させることにより、または、ハイブリダイゼーション温度および洗浄温度を変化させることにより、選択することができる。一部の膜で、ホルムアミドを、プレハイブリダイゼーション溶液およびハイブリダイゼーション溶液に添加して温度を低下させることができる。
【0064】
ハイブリダイゼーション条件は、Berger and Kimmel(1987) Guide to Molecular Cloning Techiniques,Methods in Enzymology,vol 152,Academic Pressに記載されるとおり、核酸結合複合体またはプローブの融解温度(T)に基づく。本明細書に使用する、「ストリンジェントな」条件という用語は、Tm−5(プローブの融解温度より5℃低い温度)〜Tmより20℃低い温度の範囲で生じる「ストリンジェンシー」である。本明細書に使用する、「高ストリンジェントな」条件は、少なくとも0.2×SSC緩衝液および少なくとも65℃を使用する。当該技術において認識されるとおり、ストリンジェンシー条件は、プローブの長さおよび本質、つまりDNAまたはRNA、標的配列の長さおよび本質、ハイブリダイゼーション溶液の塩およびホルムアミド、硫酸デキストラン、ならびにポリエチレングリコール等の他の成分の濃度等の多くの因子を変化させて達成することができる。これらの因子のすべては、上述の条件に同等であるストリンジェンシー条件を生じるために変化し得る。
【0065】
ハイブリダイゼーションは、一部の不適合を含む標的プローブとポリヌクレオチドプローブとの間のハイブリダイゼーションを可能にして、標的ポリヌクレオチド/プローブ複合体を形成する、37℃の0.005%トリトンX−100を有する6×SSPE等の緩衝液を使用し、低ストリンジェンシーで実施することができる。その後の洗浄は、確実に相補配列を含む、これらの標的/プローブ複合体のみのハイブリダイゼーションを維持するように、50℃の0.005%トリトンX−100を有する0.5×SSPE等の緩衝液でさらに高いストリンジェンシーで実施することができる。あるいは、ハイブリダイゼーションは、60℃の5xSSC/0.2%SDS等の緩衝液で実施することができ、洗浄を、2×SSC/0.2%SDSに続き、0.1×SSCで実施する。バックグラウンドシグナルは、ドデシル硫酸、サルコシルまたはトリトンX−100等の洗剤、もしくはサケ精子DNA等の遮断薬の使用により減少させることができる。
【0066】
アレイ構築
【0067】
核酸配列を、アレイ、例えばマイクロアレイの構築に使用することができる。マイクロアレイの構築方法および該マイクロアレイの使用は、当該技術において周知であり、これらの例は、米国特許第5,445,934号、同第5,744,305号、同第5,700,637号、および同第5,945,334号で確認することができ、これらのそれぞれの全体の開示は、参照することにより本明細書に組み込まれる。マイクロアレイは、核酸プローブのアレイ、ペプチドまたはオリゴペプチドプローブのアレイ、もしくは、キメラプローブ−ペプチド核酸(PNA)プローブのアレイであってもよい。当業者は、収集した情報の使用を認識するであろう。
【0068】
1つの具体的な例である、インサイツ合成されたオリゴヌクレオチドのAffymetrix GeneChipシステムは、厳密な品質管理基準の多くの研究用途で幅広く使用される(Rouse R.and Hardiman G.,「Microarray technology―an intellectual property retrospective」 Pharmacogenomics 5:623−632(2003))。現在、Affymetrix GeneChipは、アレイ上で特定されるように、それぞれの遺伝子配列に完全な適合および単一ヌクレオチド不適合の両方を含む、11個の25−オリゴマープローブ対セットを使用する。光誘発化学合成プロセス(フォトソリグラフィー技術)を使用して、高密度のグラスオリゴプローブアレイセット(>1,000,000の25−オリゴマープローブ)をハイブリダイゼーションチャンバーとなる約3×3cmのプラスチックカートリッジ内に構築することができる。ハイブリダイズされるリボ核酸を単離し、増幅し、断片化し、蛍光レポーター基で標識し、培養後に蛍光染料で染色した。光は、蛍光レポーター基がプローブに結合するときのみ、蛍光レポーター基から放出される。オリゴプローブに不適合の単一塩基対と比較して、完全整合のオリゴプローブから放出された光の強度は、次にバイオインフォマティックスソフトウエア(http://www.affymetrix.com)で分析されるスキャナー内で検出される。GeneChipシステムは、異なる実験および研究所間でのデータ比較を可能にする、アレイ製造およびデータ分析の標準基盤を提供する。
【0069】
本明細書にさらに記載するとおり、本明細書に従うマイクロアレイは、さまざまな目的に使用することができ、患者の遺伝子発現プロファイルに基づく、患者の薬物への抵抗性または感受性の検査を含むが、それに限定されない。
【0070】
治療剤への反応を予測する方法
【0071】
別の態様では、本明細書は、治療剤を用いた治療への患者の反応を予測する方法を提供する。該方法には、患者から得たポリヌクレオチド試料を、ポリヌクレオチドプローブに接触させて、1つの標的ポリヌクレオチド、または一部の実施形態では、複数の標的ポリヌクレオチドの発現のレベルを測定する工程が含まれる。次いで、標的ポリヌクレオチドの発現レベルを使用して、薬物−遺伝子相関と比較される患者の発現プロファイルを提供し、患者に発現した薬物と遺伝子との正相関は、患者が薬物に敏感であることを示し、患者に発現した薬物と遺伝子との逆相関は、患者が薬物に反応しないことを示す。
【0072】
新しい治療剤を特定する方法
【0073】
本明細書は、患者のACE活性を調節する新しい薬剤を特定し、特徴付ける方法も提供する。該方法には、被験体由来の細胞試料を薬剤で処理し、その後、化学的感受性のマーカーである、本明細書に記載するSNP等の遺伝子の発現における、任意の変化を判断する工程が含まれる。
【0074】
該方法には、対照の遺伝子発現プロファイルを、処理した細胞と比較して、薬剤が、化学的感受性または化学的抵抗性遺伝子のいずれかの発現を変化させるかどうかを判断する工程がさらに含まれる。一部の実施形態では、細胞の分離培養を、異なる用量の候補薬剤に曝露する。薬剤の化学的感受性を変化させる能力の有効性は、標準のアレイを使用して検査することができる。試料が既知の薬剤と共に新たに特定された薬剤で処理されるアッセイを実施して、薬剤を検査する。既知の治療剤の選択は、遺伝子間、またはその発現が新たな薬剤に影響を受ける遺伝子間の遺伝子−薬剤相関に基づき判断される。化学的感受性をACEに調節する新しい薬剤を特定し、特徴付ける方法も提供する。該方法には、被験体からの細胞の試料を、遺伝子発現と薬効との間の相関分析により、化学的感受性に関与するACE活性を抑制することが可能な薬剤で処理する工程が含まれる。
【0075】
培養液中で維持されることが可能な任意の細胞株を、本方法に使用し得る。一部の実施形態では、細胞株は、ヒト細胞株である。一方法にしたがい、上述のとおり、RNAをそのような細胞から抽出し、cDNAに変換し、プローブが適用されるアレイに適用する。
【0076】
膵臓腺癌におけるmiRNAの発現パターン
【0077】
1つの具体的な態様では、本明細書は、さまざまな目標を達成する、膵臓腺癌におけるmiRNA発現の網羅的パターンを提供する。miRNAは、正常な膵臓を、膵臓癌と識別することができると定義される。膵臓癌は慢性膵炎を背景にしばしば生じるため、慢性膵炎標本を第2の対照として使用する。miRNA発現の個々のパターンを使用して、長期生存する可能性の高い患者を、より短い生存期間の患者と区別する。その発現が生存期間と相関し得るmiRNA(複数)を特定する。
【0078】
本明細書に相互に使用する、「miR遺伝子産物」、「マイクロRNA」、「miR」、または「miRNA」は、miR遺伝子からの未処理または処理されたRNA転写物を指す。miR遺伝子産物は、タンパク質に変換されないため、「miR遺伝子産物」という用語には、タンパク質は含まれない。未処理のmiR遺伝子転写物は、「miR前駆体」とも呼ばれ、典型的に、約70〜100ヌクレオチドの長さのRNA転写物を含む。miR前駆体は、RNAse(例えば、Dicer、Argonaut、RNAse III(例えば、大腸菌RNAse III))での消化により、活性19〜25ヌクレオチドRNA分子に処理することができる。この活性19〜25ヌクレオチドRNA分子は、「処理された」miR遺伝子転写物、または「成熟」miRNAとも呼ばれる。
【0079】
活性19〜25ヌクレオチドRNA分子は、自然処理ルート(例えば、無傷細胞または細胞溶解物を使用して)を通って、または合成処理ルート(例えば、単離されたDicer、Argonaut、またはRNAse III等の単離されたプロセシング酵素を使用して)により、miR前駆体から得ることができる。活性19〜25ヌクレオチドRNA分子は、miR前駆体から処理される必要はなく、生物学的または化学的合成によって、直接精製することもできることを理解されたい。マイクロRNAが、その名称で本明細書に言及されるときは、特に指示がない限り、該名称は、前駆体および成熟形態の両方に相当する。
【0080】
本明細書は、被験体が膵臓癌を有するか、または膵臓癌を発症するリスクがあるかどうかを診断する方法であって、被験体からの検査試料中の少なくとも1つのmiR遺伝子産物のレベルを測定し、検査試料中のmiR遺伝子産物のレベルを、対照試料中の対応するmiR遺伝子産物のレベルと比較する工程が含まれる方法を提供する。本明細書に使用する「被験体」は、膵臓癌を有するか、または膵臓癌を有する疑いのある任意の哺乳類であってもよい。好適な実施形態では、被験体は、膵臓癌を有するか、または膵臓癌を有する疑いのあるヒトである。
【0081】
膵臓癌は、任意の形態の膵臓癌、例えば、異なる組織学の膵臓癌(例えば、外分泌腫瘍、内分泌腫瘍、癌腫、リンパ腫)であってもよい。一実施形態では、診断される膵臓癌は、膵臓腺癌である。さらに別の実施形態では、診断される膵臓癌は、膵内分泌腫瘍(PET)および膵外分泌腫瘍(例えば、腺癌)から成る群から選択される。さらに、本明細書に記載するとおり、膵臓癌は、特定の予後(例えば、低生存率、急速な進行)と関連し得る。
【実施例】
【0082】
本明細書に開示する発明がより効果的に理解され得るように、実施例を以下に提供する。これらの実施例は、図示のみを目的とし、本発明を、任意の方法で制限するものと解釈するものではないことを理解するものとする。これらの実施例を通し、特に記載する場合を除き、Maniatisら、Molecular Cloning−A Laboratory Manual,2nd ed., Cold Spring Harbor Press(1989)に記載される方法に従い、市販される試薬を使用して、分子クローニング反応、および他の標準の組み換えDNA技術を行った。
【0083】
標的細胞中のゲノム量を変化させる方法および組成物を提供する。該方法では、miRNAの活性を、標的細胞中のゲノム量を変化させるのに十分な方法、例えば、miRNA制御薬剤を標的細胞内に導入して変化させる。該方法を実施する上で使用する医薬組成物、キット、およびシステムも提供する。該発明は、膵臓疾患を罹患する被験体の治療を含む、さまざまな用途における使用を発見する。
【0084】
本発明をさらに記載する前に、本発明は、記載する特定の実施形態に制限されず、これらは、当然ながら異なり得ることを理解するものとする。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ制限されるため、本明細書に使用する専門用語は、特定の実施形態のみを記述する目的であり、制限することを目的としないことも理解するものとする。
【0085】
値域が提供される場合では、内容が明確に指示しない限り、下限値の単位の10乗の、その範囲の上限と下限との間のそれぞれの媒介値、および記載された範囲内の他の別に記載された値または媒介値が、本発明内に含まれることを理解する。これらのより小さい領域の上限および下限値は、より小さい領域に単独に含まれ得、記載した範囲内の特に除外した任意の制限を条件として、本発明内に独立して含まれる。記載した領域が、1つまたは両方の制限値を含む場合は、制限値を含むこれらのいずれかまたは両方を除く範囲も、本発明に含まれる。
【0086】
本明細書に記述する方法は、論理的に可能な記述した事象の任意の順序、ならびに事象の記載した順序で行い得る。
【0087】
特に記載がない限り、本明細書に使用するすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する当該技術の当業者に一般的に理解される意味と同一の意味を有する。本明細書に記載するものと同様または同等のいかなる方法および材料は、本発明を実施またはテストする上で使用することもできるが、好適な方法および材料を今から記載する。
【0088】
本明細書に記載するすべての出版物を、参照することにより本明細書に組み込み、出版物が引用されるものと関連する方法および/または材料を開示および記載する。
【0089】
本明細書に使用されるとおり、また添付の特許請求の範囲において、単数形の「a」、「an」、および「the」は、内容が明確に指示しない限り、複数形の言及を含むことに留意しなければならない。特許請求の範囲は、いかなる任意の要素を除外するように作成され得ることにさらに留意する。そのため、本説明は、特許請求の範囲の要素の記述、または「否定的な」限定の使用に関連する、「単に」、「のみ」等のそのような独占的用語の使用の先行詩となることを意図する。
【0090】
本明細書に記載した出版物は、単に、本発明の出願日前の開示のために提供される。本明細書には、本発明が先願発明によってそのような出版物に先行する権利はないという認証と解釈されるものは何もない。さらに、提供する出版物の日付は、実際の出版日と異なり得、単独に確認する必要があり得る。
【0091】
上に要約するとおり、本発明は、標的細胞中の標的ゲノムの量を変化させる方法および組成物を提供する。本発明のさらなる記載において、該方法をまずより詳細に記載し、続いて、本発明が使用を見出す、さまざまな代表的な適用、ならびに、本発明を実施する上で使用を見出すキットの検討を記載する。
【0092】
導管腺癌のmiRNA
【0093】
発生学的、生理学的、および発癌性プロセスの網羅的マイクロRNA(miRNA)発現パターンが記載されているが、膵臓の導管腺癌におけるmiRNAの役割の記載は不足している。したがって、一態様では、膵臓癌におけるmiRNAの発現パターンの定義を提供し、それを正常な膵臓および慢性膵炎のそれと比較する。
【0094】
概して、摘出した膵臓癌から採取され、正常な隣接する膵臓ならびに慢性膵炎標本と整合したRNAを、miRNAマイクロアレイにハイブリダイズした。マイクロアレイの有意性分析(SAM)およびマイクロアレイの予測分析(PAM)を開始し、組織の種類および予後の前兆となるmiRNAを特定し、複数のテストに調節されたt検定を使用して、p値を算出した。カプランマイヤー生存曲線を平均miRNA発現(高対低)を閾値にして構成し、ログランク分析で比較した。
【0095】
患者集団は、膵臓の導管腺癌(N=65)または慢性膵炎(N=42)を有する継続患者から成る。根治的膵臓全摘出を含んだ治療介入をすべての患者に行った。膵臓癌を有する患者は、化学療法を受けていなかった。
【0096】
膵臓癌を、正常な膵臓機能および/または慢性膵炎と識別することができ、長期(つまり>24ヶ月)生存を示すmiRNA発現パターンを特定する特異的に発現したmiRNAが特定された。
【0097】
クロス検証により、90%の試料において、正常な膵臓を膵臓癌と正確に分類した、発現が増加した21個のmiRNAおよび発現が減少した4個のmiRNAを特定した。15個の過剰発現したmiRNAおよび9個の低発現したmiRNAは、93%の正確さで、膵臓癌を慢性膵炎と識別した。6個のmiRNAのサブグループは、リンパ節陽性疾患の長期(つまり>24ヶ月)生存者を、24ヶ月以内に死亡する患者と識別することができた。最後に、miR−196a−2の高発現は、低い生存(平均14.3ヶ月[95%CI12.4〜16.2]対26.5[95%CI23.4〜29.6]、p=0.009)を示すことが分かった。
【0098】
膵臓癌は、それを、正常な膵臓機能および慢性膵炎と識別し得る明確なmiRNA発現パターンを有し得る。明確なmiRNA発現パターンは、長期生存者を、短期生存者と識別するのに有用である。
【0099】
材料および方法
【0100】
組織試料
【0101】
オハイオ州立大学の施設内治験審査委員会によって適用除外とされた後に、2000年1月〜2005年12月までの膵臓の導管腺癌の切除を行った65人の継続患者、および慢性膵炎を有する42人の継続患者からの標本を、オハイオ州立大学病理学部のアーカイバルファイルから特定した。すべての症例は、一人の病理学者によって再検討され、診断が確認された。膵臓癌および整合した良性の隣接の膵臓、または慢性膵炎の顕微切断されたパラフィンブロックから3個の2mmの核を得た。良性の隣接した膵臓は、すべての膵臓癌標本から入手可能である。
【0102】
マイクロRNAマイクロアレイ
【0103】
組織核を3分間50℃のキシレンで脱パラフィン化した。製造者の手順にしたがい、RecoverAllキット(Ambion Inc.,Austin,TX)を使用して、総RNAの抽出を行った。miRNAマイクロアレイチップ上のRNA標識およびハイブリダイゼーションを前述のとおり行った。簡単に、それぞれの試料からの5μgの総RNAを、ビオチン末端標識された無作為の八量体オリゴヌクレオチドプライマーを使用して逆転写した。複製で発見された326個のヒトmiRNA遺伝子および249個のマウスmiRNA遺伝子を含む約1100miRNAプローブを含む、カスタムmiRNAマイクロアレイチップ(OSU_CCCバージョン3.0)上で、ビオチン標識されたcDNAのハイブリダイゼーションを行った。ハイブリダイゼーションチップを洗浄し、処理して、Axon4000B(Axon Instruments,Sunnyvale,CA)上に接合し、その上でスキャンされたストレプトアビジン−Alexa647によりビオチン含有転写物を検出した。
【0104】
統計およびバイオインフォマティックス分析
【0105】
マイクロアレイ画像を、GENEPLEX PRO6.0(Axon Instruments)を使用して分析した。それぞれのmiRNAの複製スポットの平均値をバックグラウンド減算し、正常化し、さらなる分析にかけた。正常化を、チップ当たりの平均値正常化方法および平均値アレイを使用して行った。最後に、少なくとも、データセット内の最小クラスの出来るだけ多くの試料に存在すると測定されたmiRNAを選択した(25%)。不在コールは、統計分析前に、4.5(log2スケール)に閾値とされ、システムにおいて検出可能な平均最小強度レベルを示す。95%を上回るブランクプローブ(つまり、負の制御)は、4.5の閾値を下回る。膵臓癌と正常な膵臓、膵臓癌と慢性膵炎、および慢性膵炎と正常な膵臓との間に特異的に発現したmiRNAを、2に設定した発現内の識別閾、0.05(規定値)に設定したsOパーセンタイル、および100(規定値)に設定した順列を有する、マイクロアレイの有意性分析(SAM)3.0アプリケーションを使用して特定した。SAMは、すべての測定の標準偏差に対する、発現の変化に基づいて、それぞれの遺伝子に対するスコアを算出する。特異的に発現した成熟miRNAのみを報告する。miRNAの痕跡を、最短短縮重心を実施するマイクロアレイの予測分析(PAM)で判断した10。予測誤差を、10倍交差検証方法で算出した。階層分析では、正常な膵臓と膵臓癌との間のSAMおよびPAMにより特定されたマイクロRNAの平均連結クラスタリングを使用した(Cluster3.0)。ツリー可視化に、Java(登録商標) Treeview1.0を使用した。
【0106】
生存分析を行い、カプランマイヤー生存曲線を作成するために、閾値としてmiRNA発現のそれぞれの平均レベルを使用して、試料を2つのクラス(高発現および低発現)に分割し、miRNAチップ上で測定されたmiRNAレベルを離散変数に変換した。生存曲線をログランク分析で比較した。95%の信頼性で有意性を容認した。
【0107】
定量RT−PCR
【0108】
単一チューブのTaqMan miRNAアッセイを使用して、製造者の手順に従って、Applied Biosystems社のReal−TimePCR器具(Applied Biosystems,Foster City,CA)上の成熟miRNAを検出し、定量化した。正常化を、小さな核RNAU6で行った(RNU6B;Applied Biosystems)。テンプレートなしの対照およびRTマイナス対照を含む、すべてのRT反応を、Gene AmpPCR9700Thermocycler(Applied Biosystems)で行った。遺伝子発現レベルを、ABI Prism7900HT Sequence検出システム(Applied Biosystems)を使用して定量化した。テンプレートなしの対照を含み、相対的なリアルタイムPCRを3回実施した。相対的発現を、比較C方法を使用して算出した。
【0109】
同様に、TaqMan遺伝子発現アッセイを、Applied Biosystems社から入手したKRAS発現決定に対して、(予め指定された、予め最適化された)プライマーおよびプローブを使用して行った。アッセイに、試料毎に150ナノグラムのRNAを使用し、18Sを使用して、すべてのRNA試料を正常化した。
【0110】
組織マイクロアレイ(TMA)
【0111】
TMA作成の本発明者らの方法を記載している11。簡単に、2つの組織核(それぞれ直径2mm)を、精密器具(Beecher Instruments,Silver Spring,MD)を使用して、マイクロRNA分析でRNAを得るために使用したそれぞれのパラフィンブロックから穿孔し、それぞれの受容TMAブロックに移動した。パラフィン組み込み組織を4ミクロンで切断し、正電荷のスライド上に置き、次いで、30分間40℃に加熱した。パラフィンおよび核を平滑にした後、アレイを15分間4℃に冷却した。
【0112】
免疫組織化学(IHC)
【0113】
免疫組織化学の方法を記載している11。TP53(カタログ#M7001、クローンDO−7、Dako,Carpinteria,CA)、CDKN2(カタログ#CMC802、クローンJC2、Cell Marque Corp.,Rocklin,CA)、およびSMAD4/DPC4(カタログ#sc−7966、クローンB−8、Santa Cruz Biotechnology,Inc.,Santa Cruz,CA)に対する一次抗体を、それぞれ、1:50、1:20、および1:100の希釈物に使用した。スライドを、エタノール溶液を介して無水化され、カバースリップされたRichard Allenヘマトキシリン中で対比染色した。正および負の制御を適切に染色した。
【0114】
TP53の染色は、少なくとも5%の細胞内に核染色がみられる場合、正であると考えられる。少なくとも5%の細胞内の核および細胞質染色は、CDKN2では正であると考えられ、SMAD4/DPC4に対する細胞の10%未満の核および細胞質染色は、発現欠失と考えられた。すべての染色を、腫瘍病期および臨床的特長に左右されない単独の病理学者(WLF)が解釈した。
【0115】
結果
【0116】
miRNAマイクロアレイを使用して、特異的に発現したmiRNAを、膵臓癌と整合した隣接の正常な膵臓、膵臓癌と慢性膵炎、慢性膵炎と正常な膵臓との間で特定した。SAMは、正常な膵臓と比較して、膵臓癌において上方制御された31個のmiRNA、および下方制御された3個のmiRNAを特定した。膵臓癌の試料を慢性膵炎と比較したとき、3個のmiRNAは、癌において、過剰発現し、4個のmiRNAは、低発現した。最後に、16個のmiRNAは、正常な膵臓と比較して減少した発現と比較して、慢性膵炎における発現の増加を示した。
【0117】
表2a、2b、および2c(それぞれ、図4A、4B、および4Cに示す)は、特異的に発現したmiRNAを、SAMによる発現における少なくとも2倍の変化およびPAMによってクラス予測として特定されたさらなるmiRNAと共に記載する(以下参照)。3分の1のmiRNAは、膵臓癌を正常な膵臓と、また、分化癌を、慢性膵炎と識別することが認められた(表1a、1b、1cも示す図1A〜C)。3つのグループ試料のすべてにおいて、miRNAは共通しなかった。
【0118】
図1A、1B、および1Cは、組織の種類間の一対比較によって特異的に発現することが認められたmiRNAのセットの間の関係を例示するベン図を示し、組織の種類間の一対比較によって特異的に発現することが認められたmiRNAのセットを記載する表1a、1b、および1cを示す。
【0119】
円は、示した一対比較において特異的に発現したmiRNAの総数を含む。交差する領域は、それぞれの比較において共通の、特異的に発現したmiRNAの数を表す。共通のmiRNAを、それぞれのセットに記載する。NP、正常な膵臓:P。膵臓癌;CP、慢性膵炎
【0120】
慢性膵炎、正常な膵臓、および膵臓癌の間で特異的に発現したmiRNAに基づくクラスター分析は、それぞれの試料の種類間の一般的な区別を示す(データは示さない)。発現パターンは、これらの良性組織と膵臓癌との間のより明確な区別を有する、慢性膵炎と正常な膵臓との間で最も類似しているように思われた。ほとんどの膵臓癌は、正常な膵臓と慢性膵炎試料でクラスター化される8個の癌のグループを含む一部を除き、互いにクラスター化される。この後述のグループは、統計的に有意ではないが、50%長い生存率の癌の残余(平均23.1ヶ月[95%のCI19.6〜26.6]対15.2[95%のCI10.9〜19.5]、p=0.15)と同様の臨床病理学的特性を有する。8個の腫瘍のこのグループは、他の膵臓癌と比較して、miR−21発現の著しく低いレベルを有した(平均10.9対8.3。p=0.0003)。
【0121】
PAMは、miRNA発現レベルに基づく組織種類によって、それぞれの試料の分類を可能にした(表2a、2b、2cを示す図4A、4B、4C)。90%の試料中において、21個の過剰発現したmiRNAおよび4個の低発現したmiRNAの部分集合を特定し、相互検証テストにより膵臓癌を、正常な膵臓と正確に識別することができた。慢性膵炎と膵臓癌との比較が行われたときに、試料を、癌において15個の過剰発現したmiRNAおよび9個の低発現したmiRNAに基づいて、正確に93%分類した。
【0122】
慢性膵炎と正常な膵臓との比較により、発現が増加した15個のmiRNAおよび発現が減少した2個のmiRNAが特定された。この発現パターンは、すべての試料において、慢性膵炎を正常な膵臓と正確に識別した。最後に、95%の膵臓癌の試料は、慢性膵炎と正常な膵臓の両方と互いに比較したとき、正確に分類された。
【0123】
マイクロアレイの所見を確認するために、定量的リアルタイムPCRを、miR−21、miR−155、miR−221、miR−222、miR−181a、miR−181b、およびmiR−181dの、8個の膵臓癌試料、および8個の整合された正常な膵臓対照で行った。
【0124】
これらのmiRNAのすべては、正常な膵臓に対して、腫瘍試料において過剰発現した(図2A)。
【0125】
5個のさらなる採取したての膵臓癌試料中のmiR−21のノーザンブロット分析は、2個の非整合された採取したての正常な膵臓対照と比較して、発現の増加も確認した(図2B)。
【0126】
miRNA発現の生存への影響を判断するために、本発明者らのマイクロアレイデータを、2つの方法を使用して分析した。まず、miRNA発現の絶対レベルが、リンパ節陽性疾患を有する短期生存者と長期生存者を識別できるかどうかを判断したかった。切除後2年間まだ生存する、領域のリンパ節へ転移する膵臓癌を有する患者は、しばしば、長期生存者として考えられることから、24ヶ月を超えて生存するリンパ節陽性患者のマイクロアレイデータを、24ヶ月以内に疾患により死亡する患者のそれと比較した。SAMは、図5の表3に示すとおり、より長い生存期間の患者において特異的に過剰発現した6個のmiRNAを特定した。
【0127】
次に、miRNAの相対的発現に基づく生存期間を判断したかった。マイクロアレイ上のそれぞれのmiRNAの平均発現に対する、高発現または低発現の二項変数を使用して、カプランメイヤー生存曲線を生じ、ログランク分析で比較した。これに基づき、対象となる2個のmiRNAである、miR−196a−2[配列番号62]およびmiR−219[配列番号64]を特定した。
【0128】
高いmiR−196a−2発現を有する腫瘍は、低発現(p=0.009)の腫瘍の26.5ヶ月(95%のCI23.4〜29.6)と比較して、14.3ヶ月の平均生存期間(95%のCI12.4〜16.2)を有した。75%の腫瘍で見られた、高いmiR−196a−2発現は、低発現の64%と比較して、17%の2年間の生存をもたらした(図3)。
【0129】
高いmiR−196a−2発現を有する患者における平均生存期間は、それぞれ、25%および49%の2年間の生存期間(p=0.067)で、低発現を有する患者における23.8ヶ月(95%CI18.7〜28.9)の平均生存期間と比較して、13.6ヶ月(95%のCI11.8〜15.4)であった。それぞれ、33%および12.5%の2年間および5年間の生存期間を有する、すべての患者の平均生存期間は、15.5ヶ月(95%のCI9.9〜21.1)であった。顕著な結節状態、Tステージ、および組織学的悪性度は、生存期間を示さなかった(データの図示なし)。
【0130】
次いで、生存期間およびマイクロRNA発現を有する膵臓癌に見られた一般的な遺伝子的異常の発現を相互に関連付けようとした。TP53発現の増加は、54個のうち31個(57%)の腫瘍に認められた。CDKN2発現の欠失は、56個のうち49個(88%)の腫瘍に認められ、SMAD4/DPC4発現は、56個のうち39個(70%)で欠失した。miR−196a−2を含む、表3(図5に示す)に記載する生存期間またはマイクロRNAのいずれかで、相互関係は認められなかった。さらに、KRAS突然変異体を、遺伝子発現分析により評価された10個のうち8個(80%)の腫瘍内で特定したが、マイクロRNA発現と相互に関連しなかった。
【0131】
考察
【0132】
異常なmiRNA発現パターンを、さまざまな血液学および固形臓器悪性腫瘍において記載してきた。特定したのは、95%の正確さで、膵臓の導管腺癌を、正常な膵臓および慢性膵炎と識別することができる、miRNA網羅的発現パターンである。ならびに、miRNA、生存期間に著しく影響を与え得るmiR−196a−2を特定した。
【0133】
この一連の実験では、2つの対照、隣接する正常な膵臓および慢性膵炎を比較用に選択した。本発明者らの腫瘍試料を顕微切断したが、膵臓癌に一般的な周辺の炎症性変化の悪影響は、不可避である。さらに、正常な膵臓と比較して、癌において過剰発現することが認められた、7個のmiRNA(miR−99、miR−100、miR−100−1/2、miR−125a、miR−125b−1、miR−199a−1、miR−199a−2)のみが、慢性膵炎においても過剰発現した。
【0134】
癌および慢性膵炎におけるこれらのmiRNAの過剰発現は、腫瘍性成長の一般的な誘発事象を示唆し得、悪影響の可能性を除外することができない。一般的に、正常な膵臓機能および慢性膵炎は、少しを除き膵臓癌から大きく分離したままで互いにクラスターする傾向があった。興味深いことに、8個の癌の1つのグループは、良性の膵臓試料とクラスターしなかった。このグループの患者は、他の患者と比較して、生存期間において著しい向上を有さなかったが、彼らの2年間の平均生存期間は、膵臓癌のほとんどの報告よりも長い。
【0135】
このより小さいグループ内で注目すべきものは、これらの8個の癌において、残りの癌またはほとんどの良性の膵臓において見られるものよりも低かったmiR−23、miR−103、およびmiR−107のクラスターである(データの図示なし)。とりわけ、これらのmiRNAは、近年、低酸素誘導因子(HIF)依存性機構を介する癌細胞内の低酸素症によって誘発されることが発見された12。実際、記載した低酸素関連miRNAのほとんどは、膵臓癌において特異的に過剰発現する。HIFと膵臓癌の悪性度における関連を考えると、miRNAに関連したこれらの低酸素の発現の減少は、患者の部分集合における生存期間の重要性を証明し得る。
【0136】
悪性腫瘍に一般的に関連したさまざまなmiRNAを、著しく無秩序なため、膵臓癌において特定した。最も顕著なものとして、miR−21およびmiR−155は、正常な膵臓および慢性膵炎に対して、膵臓癌において一意的に過剰発現した。miR−21は、アポトーシスを予防する上で重要な役割を担い、したがって、癌原遺伝子13として機能することを示唆しており、肺、胃、胸、結腸、および前立腺、ならびに、膵臓の神経内分泌腫瘍において発現する癌において過剰発現することが認められている4,7。新生組織形成におけるmiR−21の役割は、完全に解明されていないが、miRNA特異的アンチセンスオリゴヌクレオチドを使用するその阻害は、ゲムシタビンへの胆管癌細胞のインビトロ感受性を増加する14。miR−155は、びまん性大B細胞型リンパ腫、ならびにホジキンリンパ腫およびバーキットリンパ腫15,16の活性化されたB−細胞型と関連しながら、結腸癌、肺癌、および乳癌等の固形腫瘍においても過剰発現する4,7。遺伝子導入マウスの白血病誘発に関与することも認められている17
【0137】
正常な膵臓および慢性膵炎と比較したときに、膵臓癌において最も一貫して高く発現したmiRNAは、miR−221であった。この関連は、以前に、胃腸腫瘍において認められていなかったが、miR−221発現は、甲状腺癌において重要であり、血管形成において役割を果たすことを示唆する18,19。本発明者らが研究した膵臓癌において過剰発現することも認められたmiR―222と共に作用して、miR−221は、幹細胞因子キットの受容体を標的にする。
【0138】
極端に少ないmiRNAは、膵臓癌において下方制御されていた。これらの顕著なものは、膵臓外分泌腺ではなく、膵島において豊富であると認められたmiR−375であった20。このmiRNAは、すべて膵臓外分泌腺に由来し、それにより介在する島の閉塞をもたらすため、それらが、膵臓癌において著しく低発現するであろうことは明白である。
【0139】
40個の膵内分泌腫瘍(PET)および4個の腺房細胞癌のmiRNAの発現パターンを、正常な膵臓と比較する21。その研究において、87個のmiRNAは、腫瘍において特異的に過剰発現し、8個は、正常な膵臓に対して低発現した。これは、導管由来の膵臓腺癌で特定された31個の過剰発現したmiRNAおよび3個の低発現したmiRNAを著しく超過する。導管腺癌と比較して、PETの導出における差異を考えて、miRNA発現におけるこの多種多様さは、意外ではない。アフィメトリクス遺伝子アレイを使用した、同様の所見が報告されている22。導管腺癌における本発明者らの所見と同様に、miR−21は、PETにおいて重要であるように思える。しかしながら、内分泌腫瘍において、miR−21は、Ki67の増殖指数の増加で示される湿潤性の腫瘍および肝転移の存在と相関する。同様に、miR−21の発現は、本明細書に報告する8個の癌において著しく低下し、良性の膵臓標本とクラスターし、腫瘍の湿潤性における役割を示唆した。一方、miR−155は、正常な膵臓に対して、PETで低発現したが、導管腺癌で過剰発現することが発見された。この場合もやはり、この相違は、2つの腫瘍種類間の起始細胞の相違を強調する。
【0140】
一般的に、膵臓癌と関連する予後不良を考えて、長期生存者(つまり、24ヶ月を超える)および短期生存者と考えられる高リスクの患者を識別することができる、miRNAの発現プロファイルを特定しようとした。6個のmiRNAのグループを特定した(図5、表3)。
【0141】
miR−127は、染色体14上のCpG島内に位置し、前立腺癌および結腸癌において鎮まるとみられるため、興味深い23。本発明者らの膵臓癌において、miR−127の発現は、ほぼ半分の腫瘍において増加し、残りの半分において減少した。miR−127の発現のみは、生存期間に著しく影響を及ぼさないが、図5−表3に記載する他のmiRNAと使用されたときに、それを使用して、長期生存者を予測することができる。
【0142】
生存期間を有意に予測した、1つのmiRNA、miR−196a−2のみを特定した。このmiRNAは、「長期」および「短期」生存者の定性的区別を識別するために、SAMによって特定されなかった。悪性腫瘍との直接の関連は、miR−196に対して記載されていないが、膵臓内分泌を含む25、動物のさまざまな重要な発達プログラムに関与するホメオボックスファミリークラスターであるHOXB8と完全に相互作用し、分解するように思われる24。本発明者らの患者において、75%の腫瘍は、グループの平均以上のレベルでmiR−196a−2を発現した。このmiRNAは、膵臓癌を、正常な膵臓または慢性膵炎と識別するのに役立たなかったが、生存期間の有用な予測因子になり得る。
【0143】
使用した試料は、膵臓癌にみられるTP53、CDKN2、SMAD4およびKRASの4つの最も一般的な遺伝子異常の分析で示すとおり、典型的な導管腺癌の代表である。対象のこれらの遺伝子における変化は、文献に記載される変化と同様であった26−28。初期の報告と同様に、これらの腫瘍抑制遺伝子および癌抑制遺伝子は、本発明者らの患者の生存と相関せず、miRNA発現とも相関しなかった。
【0144】
これらの結果は、現在、膵臓腺癌におけるmiRNAの網羅的発現パターンを示すと考えられる。そのようなパターンを使用して、発現不明の転移性腫瘍を有する患者の治療を進める、または、本来ならば普通の組織学および免疫組織化学分析では予測できない、良性新生物と悪性新生物を識別するのに役立つことができる。このデータは、誰が積極的治療を受けるべき、または受けないべきかを判断するときに、臨床医にとって役立つために、予後が良い、または悪い患者を識別するのに有用にもなり得る。マイクロRNAの発現パターンが臨床的にどのように使用することができるかという、これらの診断例および予後例以外に、マイクロRNAのさまざまな経路における複数の遺伝子に影響を及ぼす能力によって、これらは、抗腫瘍治療に有用になる。
【0145】
用途
【0146】
上述の方法は、本明細書に記載する代表的な種類である、さまざまな異なる用途における使用を見出した。
【0147】
実用性
【0148】
該方法は、標的ゲノムを含む、標的細胞または宿主内の標的ゲノム量の減少が望ましい、さまざまな異なる状態の治療における使用を見出す。多くの実施形態では、該方法は、膵臓癌媒介の病状を患う宿主の治療における使用を見出す。治療するということは、宿主を悩ます病状に関連した症状の改善が少なくとも達成されることを意味し、改善を広範の意味で使用し、治療される病状に関連したパラメーター、例えば症状の程度において、少なくとも軽減することを指す。そのため、治療には、宿主が、もはや、病状または少なくとも病状を特徴付ける症状を患わないように、病的状態、または少なくともそれに関連した症状が、完全に抑制される、例えば、発症することを予防する、または停止する、例えば、終了する状況が含まれる。
【0149】
さまざまな宿主は、該方法に従い、治療可能である。概して、そのような宿主は、「哺乳類」または「哺乳類動物」であり、これらの用語は、肉食動物(例えば、イヌおよびネコ)、齧歯目(例えば、マウス、モルモット、およびラット)、および霊長類(例えば、ヒト、チンパンジー、およびサル)を含む、哺乳類である生物を表すように広範に使用される。多くの実施形態では、宿主はヒトである。
【0150】
本発明は、正常な膵臓の転移性悪性膵臓癌および慢性膵炎からの組織内の遺伝子発現を検査して、膵臓癌に関連した遺伝子発現における網羅的変化を特定する。
【0151】
本発明は、有用な診断マーカー、ならびにそれを使用して病状、病気の進行、薬物毒性、薬効、および薬物代謝を監視することができるマーカーとなる、発現プロファイルも特定する。
【0152】
本発明には、患者において膵臓癌の有無を診断する方法が含まれ、表1−2からの2つ以上の遺伝子の組織試料中の発現レベルを検出する工程を含み、表1−2の遺伝子の差次的発現は、膵臓癌を示す。一部の実施形態では、1つ以上の遺伝子は、表2に記載される遺伝子を含む群から選択され得る。
【0153】
本発明には、膵臓癌の進行を検出する方法、および/または癌性疾患を、慢性炎症と識別する方法も含まれる。例えば、本発明の方法には、患者における膵臓癌の進行を検出する工程が含まれ、その工程には、表1−2からの2つ以上の遺伝子の組織試料中の発現レベルを検出する工程が含まれ、表1−2の遺伝子の差次的発現は、膵臓癌の進行を示す。一部の実施形態では、1つ以上の遺伝子は、表2に記載される遺伝子を含む群から選択され得る。
【0154】
一部の態様では、本発明は、膵臓癌を有する患者の治療を監視する方法を提供し、その方法には、患者に医薬組成物を投与し、患者からの細胞または組織試料から遺伝子発現プロファイルを作成し、患者の遺伝子発現プロファイルを、正常な膵臓細胞を含む、細胞集団からの遺伝子発現、または膵臓癌細胞を含む細胞集団からの遺伝子発現プロファイル、もしくは、その両方と比較する工程が含まれる。一部の実施形態では、遺伝子プロファイルには、表1〜3の1つ以上の遺伝子の発現レベルが含まれる。他の実施形態では、1つ以上の遺伝子は、表3に記載された遺伝子から成る群から選択され得る。
【0155】
別の態様では、本発明は、膵臓癌を有する患者を治療する方法を提供し、その方法には、組成物が、表1〜3の少なくとも1つの遺伝子の発現を変化する、医薬組成物を患者に投与し、腫瘍細胞を含む、患者からの細胞または組織試料からの遺伝子発現プロファイルを作成し、患者の発現プロファイルを、膵臓癌組織を含む、未処理の細胞集団からの遺伝子発現プロファイルと比較する工程が含まれる。一部の実施形態では、1つ以上の遺伝子は、表3に記載された遺伝子から成る群から選択され得る。
【0156】
一態様では、本発明は、患者における膵臓癌を診断する方法を提供し、その方法には、表1〜3からの2つ以上の遺伝子の組織試料中の発現レベルを検出する工程が含まれ、表1〜3からの遺伝子の差次的発現は、膵臓癌を示す。一部の実施形態では、1つ以上の遺伝子は、表3に記載された遺伝子から成る群から選択され得る。
【0157】
別の態様では、本発明は、患者における膵臓癌の進行を検出する方法を提供し、その方法には、表1〜3からの2つ以上の遺伝子の組織試料中の発現レベルを検出する工程が含まれ、表1〜3からの遺伝子の差次的発現は、膵臓癌の進行を示す。一部の実施形態では、1つ以上の遺伝子は、表3に記載された遺伝子から成る群から選択され得る。
【0158】
関連した態様では、本発明は、転移性膵臓腫瘍を有する患者の治療を監視する方法を提供し、その方法には、医薬組成物を患者に投与し、患者からの細胞または組織試料からの遺伝子発現プロファイルを作成し、患者の遺伝子プロファイルを正常な膵臓細胞を含む、細胞集団からの遺伝子発現、または転移性膵臓腫瘍細胞を含む、細胞集団からの遺伝子発現プロファイル、もしくは、その両方と比較する工程が含まれる。一部の実施形態では、本発明の方法には、表1〜3に記載された遺伝子から選択された1つ以上の遺伝子の発現レベルを検出する工程が含まれ得る。特定の実施形態では、1つ以上の遺伝子は、表3に記載された遺伝子から成る群から選択され得る。
【0159】
一部の実施形態では、本発明は、転移性の膵臓腫瘍を有する患者を治療する方法を提供し、その方法には、組成物が、表1〜3の少なくとも1つの遺伝子の発現を変化する、医薬組成物を患者に投与し、転移性膵臓腫瘍細胞を含む、患者からの細胞または組織試料から遺伝子発現プロファイルを作成し、患者の発現プロファイルを、転移性膵臓腫瘍細胞を含む、未処理の細胞集団からの遺伝子発現プロファイルと比較する工程が含まれる。一部の実施形態では、1つ以上の遺伝子は、表3に記載された遺伝子から成る群から選択され得る。
【0160】
本発明には、患者における膵臓癌を、他の膵臓疾患と識別する方法も含まれ、その方法には、表1〜3からの2つ以上の遺伝子の組織試料中の発現レベルを検出する工程が含まれ、表1〜3からの遺伝子の差次的発現は、別の膵臓疾患ではなく、膵臓癌を示す。
【0161】
本発明には、膵臓癌の発病または進行を調節することが可能な薬剤をスクリーングする方法がさらに含まれ、その方法には、細胞を薬剤に曝露し、表1〜3からの2つ以上の遺伝子の発現レベルを検出する工程が含まれる。一部の実施形態では、1つ以上の遺伝子は、表3に記載された遺伝子から成る群から選択され得る。
【0162】
上述の本発明のいずれかの方法には、表からの少なくとも2つの遺伝子の検出が含まれ得る。特定の実施形態では、方法は、すべて、またはほぼすべての表の遺伝子を検出し得る。一部の実施形態では、1つ以上の遺伝子は、表1〜3に記載された遺伝子から成る群から選択され得る。
【0163】
本発明には、少なくとも2つのオリゴヌクレオチドを含む、組成物がさらに含まれ、それぞれのオリゴヌクレオチドには、表1〜3の遺伝子に特異的にハイブリダイズする配列、ならびに、少なくとも2つのプローブを含む、固体支持体が含まれ、それぞれのプローブには、表1〜3の遺伝子に特異的にハイブリダイズする配列が含まれる。一部の実施形態では、1つ以上の遺伝子は、表3に記載された遺伝子から成る群から選択され得る。
【0164】
本発明には、表1〜3の少なくとも2つの遺伝子を含む一連の遺伝子の膵臓組織における発現レベルを特定する、情報を含むデータベース、および情報を見るためのユーザーインターフェースを備える、コンピュータシステムがさらに含まれる。一部の実施形態では、1つ以上の遺伝子は、表3に記載された遺伝子から成る群から選択され得る。データベースには、遺伝子の配列情報、正常な膵臓組織および悪性組織(転移性および非転移性)における一連の遺伝子の発現レベルを特定する情報がさらに含まれ得、GenBank等の外部のデータベース、全米バイオテクノロジー情報センター、つまりNCBI(ncbi.nlm.nih.gov/Entrez/)により維持されるデータベースへのリンクを含み得る。本発明に使用され得る、他の外部のデータベースには、化学情報検索サービス機関(stnweb.cas.org/)およびインサイトジェノミクス社(incyte.com/sequence/index.shtml)から提供されるデータベースが含まれる。
【0165】
本発明には、本発明の1つまたは複数の方法を実施するのに有用なキットがさらに含まれる。一部の実施形態では、キットには、そこに付着した1つまたは複数のオリゴヌクレオチドを有する1つまたは複数の固体支持体を含み得る。固体支持体は、高密度のオリゴヌクレオチドアレイであり得る。キットには、アレイと使用する1つまたは複数の試薬、1つまたは複数のシグナル検出器および/またはアレイ処理器、1つまたは複数の遺伝子発現データベース、ならびに1つまたは複数の分析およびデータベース管理ソフトウエアパッケージがさらに含まれ得る。
【0166】
本発明には、開示したコンピュータシステムを使用して、表1〜3の少なくとも1つの遺伝子の組織または細胞内の発現レベルを特定する情報を提供する方法等のデータベースを使用する方法がさらに含まれ得、該方法には、組織または細胞における、表1〜3の少なくとも1つの遺伝子の発現レベルを、データベースの遺伝子の発現レベルと比較する工程が含まれる。一部の実施形態では、1つまたは複数の遺伝子は、表3に記載された遺伝子から成る群から選択され得る。
【0167】
本発明は、細胞の状態、つまり、正常対癌性によって特異的に発現し得る遺伝子の発現レベルを検出するための組成物および方法を提供する。本明細書に使用する、「発現レベルを検出する」という表現には、発現レベルを定量化する方法、ならびに対象の遺伝子が少しでも発現したかどうかを決定する方法が含まれる。したがって、発現の量の定量化を必ずしも提供しないで、肯定的または否定的結果を提供するアッセイは、その表現が本明細書に使用されるとおり、「発現のレベルを検出する」ことを必要とするアッセイである。
【0168】
医薬組成物
【0169】
該方法に使用したmiRNA化合物を含む、医薬組成物も提供する。したがって、例えば、薬学的に許容される塩形態の化合物は、上述のとおり、該方法に使用される経口または非経口投与に製剤することができる。
【0170】
例証として、化合物を、従来の医薬担体および賦形剤(つまり、媒体)と混合し、水溶液、錠剤、カプセル、エリキシル剤、懸濁剤、シロップ、ウエハー等の形態で使用することができる。特定の実施形態では、そのような医薬組成物には、約0.1〜約90重量パーセントの活性化合物、さらに一般的には、約1〜約30重量パーセントの活性化合物が含まれる。医薬組成物には、一般的な担体および賦形剤が含まれ得る。制限されない例には、コーンスターチまたはゼラチン、乳糖、ブドウ糖、ショ糖、微結晶性セルロース、カオリン、マンニトール、第二リン酸カルシウム、塩化ナトリウム、およびアルギン酸が含まれる。一般的に本発明の製剤に使用される崩壊薬には、クロスカルメロース、微結晶性セルロース、コーンスターチ、デンプングリコール酸ナトリウム、およびアルギン酸が含まれる。
【0171】
液体組成物は、概して、適切な液体担体に溶解した化合物または薬学的に許容される塩の懸濁剤または溶液から成る。制限されない例には、懸濁化剤、防腐剤、界面活性剤、湿潤剤、香味剤または着色剤とともに、エタノール、グリセリン、ソルビトール、ポリエチレングリコール、油、または水等の非水溶媒が含まれる。さらに、液剤は、再構成可能な粉末から調製することができる。
【0172】
例えば、活性化合物、懸濁化剤、ショ糖、および甘味料を含む、粉末は、水で再構成して、懸濁剤を形成することができ、シロップは、有効成分、ショ糖、および甘味料を含む粉末から調製することができる。
【0173】
錠剤の形態の組成物を、固体組成物を調製するために通常使用される任意の適切な医薬担体を使用して調製することができる。そのような担体の制限されない例には、ステアリン酸マグネシウム、スターチ、乳糖、ショ糖、微結晶性セルロース、および結合剤、例えば、ポリビニルピロリドンが含まれる。錠剤は、カラーフィルムコーティング、または担体の一部として含まれるカラーと共に供給することもできる。また、活性化合物は、親水性または疎水性マトリクスを含む錠剤として、制御放出製剤で製剤することができる。
【0174】
カプセルの形態の組成物を、通常のカプセル化手順を使用して、例えば、活性化合物および賦形剤をハードゼラチンカプセルに組み込んで調製することができる。あるいは、活性化合物および高分子量のポリエチレングリコールの半固体マトリクスを調製し、ハードゼラチンカプセルに充填することができる、もしくは、ポリエチレングリコール中の活性化合物の溶液または食用油中の懸濁剤、例えば、流動パラフィンまたはヤシ油を調製して、ソフトゼラチンカプセルに充填することができる。
【0175】
含有可能な錠剤結合剤は、アカシア、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン(ポビドン)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ショ糖、スターチ、およびエチルセルロースである。使用することができる潤滑剤には、ステアリン酸マグネシウムまたは他の金属ステアリン酸塩、ステアリン酸、シリコーン溶液、タルク、ワックス、油、およびコロイドシリカが含まれる。ペパーミント、冬緑油、チェリー香味剤等の香味剤を使用することもできる。さらに、より魅力的な外観の剤形にし、製品の特定に役立つように、着色剤を添加することが望ましいことがある。非経口で与えられたときに活性である、本発明の化合物およびこれらの薬学的に許容される塩は、筋肉内、髄腔内、または静脈内投与用に製剤することができる。筋肉内または髄腔内投与の一般的な組成物は、油、例えば、ラッカセイ油またはゴマ油に溶解した有効成分の懸濁剤または溶液の組成物である。静脈内または髄腔内投与の一般的な組成物は、例えば、有効成分およびブドウ糖または塩化ナトリウム、あるいは、ブドウ糖および塩化ナトリウムの混合物を含む、無菌等張水溶液である。他の例は、乳酸加リンゲル液、乳酸加リンゲル+ブドウ糖液、ノルモゾル−Mおよびブドウ糖、Isolyte E、アシル化リンゲル液等である。任意に、共溶媒、例えば、ポリエチレングリコール、キレート剤、例えば、エチレンジアミン四酢酸、および抗酸化剤、例えば、メタ重亜硫酸ナトリウムは、製剤に含まれ得る。あるいは、投与直前に、溶液を、凍結乾燥し、次いで、適切な溶媒で再構成することができる。直腸投与で活性である、本発明の化合物およびこれらの薬学的に許容される塩を、座薬として製剤することができる。一般的な座薬製剤は、概して、ゼラチンまたはココアバター、もしくは他の低融点植物または合成ろうまたは脂肪等の結合剤および/または潤滑剤とともに、有効成分から成り得る。局所性投与で活性である、本発明の化合物およびこれらの薬学的に許容される塩は経皮的組成物または経皮的送達装置(「パッチ」)として製剤することができる。そのような組成物には、例えば、バッキング、活性化合物保有宿主、制御膜、ライナーおよびコンタクト粘着剤が含まれる。そのような経皮的パッチを使用して、制御した量の本発明の化合物の連続または不連続注入を提供し得る。パッチは、医薬品の連続、脈動、または要望に応じた送達用に構成され得る。任意に、医薬組成物は、緩衝液、界面活性剤、抗酸化剤、粘度変性剤、防腐剤等の他の薬学的に許容される成分を含み得る。本発明の製剤に使用するのに適した他の成分は、Remington′s Pharmaceutical Sciences,Mace Publishing Company, Philadelphia, Pa.,第17版(1985)で見ることができる。
【0176】
キット
【0177】
1つまたは複数の上述の方法を実施するための試薬およびこれらのキットも提供する。該試薬およびこれらのキットは、大きく異なり得る。一般的に、キットは、少なくとも、上述のmiRNA剤を含む。キットは、キット内のmiRNA剤と混合、またはそれから分離し得る、例えば、2つの成分がキット内の同一または個別の容器内にあり得る場合、薬学的に許容される送達媒体も含み得る。
【0178】
上述の構成要素に加え、該キットは、該方法を実施するための説明書をさらに含む。これらの説明書は、さまざまな形態で、該キットに存在し得、その1つまたは複数は、キットに存在し得る。存在し得るこれらの説明書の1つの形態は、適切な媒体または基質、例えば、情報が印刷される一枚または複数の紙上、キットの包装内、添付文書内等の印刷された情報である。さらに別の手段は、情報が記憶されている、コンピュータが読取可能な媒体、例えば、ディスケット、CD等であり得る。存在し得る、さらに別の手段は、インターネットを介して使用し、離れたサイトの情報にアクセスし得る、ウェブサイトアドレスである。キットには、任意の便利な手段が存在する。
【0179】
システム
【0180】
上述の該方法の実施における使用を見出すシステムも提供する。例えば、該方法を実施するためのシステムには、miRNA剤を含む、1つまたは複数の医薬品の製剤が含まれ得る。本明細書に使用する、「システム」という用語は、該方法を実施する目的で集められた構成要素(例えば、単一組成物内に存在する、または異種組成物として存在する活性剤、送達媒体等)の集まりを指す。例えば、本発明に従い、集められ、被験体に共投与された、個別に得られた活性剤および送達媒体は、本発明に従うシステムである。
【0181】
前述の実施形態および利点は、単に例示であり、本発明を制限するものと解釈されてはならない。本発明の教示は、他の種類の装置に容易に適用することができる。本発明の記載は、図示することを意図し、特許請求の範囲を制限するものではない。多くの変更、修正、および変化は、当業者には明らかであろう。特許請求の範囲では、手段および機能の項目は、記載した機能を実行して、本明細書に記載する構造、および構造的等価物だけでなく、等価構造も網羅することを意図する。
【0182】
本明細書に参照するすべての科学的および特許出版物は、参照により本明細書に援用される。発明は、今まで記載した発明を実施するための形態および実施例で記載されており、当業者は、本発明がさまざまな実施形態で実施することができ、前述の詳細な説明および実施例は、図示目的であり、以下の特許請求の範囲を制限しないことを理解するであろう。
【0183】
【表1】

【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体が膵臓癌を有するか、または膵臓癌を発症するリスクがあるかどうかを診断する方法であって、前記被験体由来の検査試料中の少なくとも1つのmiR遺伝子産物のレベルを測定する工程を含み、対照試料中の対応するmiR遺伝子産物のレベルに対する検査試料中のmiR遺伝子産物のレベルにおける変化は、被験体が膵臓癌を有すること、または膵臓癌を発症するリスクがあることを示す、方法。
【請求項2】
ヒト患者において、正常な膵臓組織および慢性膵炎の少なくとも1つと膵臓癌を識別する方法であって、表1a、1b、1c、2a、2b、2c、および3の少なくとも1つからの少なくとも1つのmiR遺伝子産物の組織試料における発現レベルを検出する工程を含み、差次的発現が正常な膵臓または慢性膵炎ではなく、膵臓癌を示す、方法。
【請求項3】
膵臓癌を有する被験体の予後を判定する方法であって、前記被験体由来の検査試料中の少なくとも1つのmiR遺伝子産物のレベルを測定する工程を含み、miR遺伝子産物が膵臓癌の予後不良に関連し、対照試料中の対応するmiR遺伝子産物のレベルに対する前記膵臓の検査試料中の少なくとも1つのmiR遺伝子産物の変化が予後不良を示す、方法。
【請求項4】
ヒト患者において、膵臓癌を診断する方法であって、
a)患者由来の組織試料から、表1a、1b、1c、2a、2b、2c、および3の少なくとも1つからの1つまたは複数のmiR遺伝子産物の発現のレベルを検出する工程と、
b)工程(a)で検出した遺伝子発現を表1a、1b、1c、2a、2b、2c、および3のデータの部分を含むデータベースと比較する工程とを含み、
工程(a)で検出したmiR遺伝子産物の差次的発現が膵臓癌を示す、方法。
【請求項5】
ヒト患者において、膵臓癌を診断する方法であって、
a)表1a、1b、1c、2a、2b、2c、および3の少なくとも1つからの1つまたは複数のmiR遺伝子産物の膵臓組織試料中の発現レベルを検出する工程と、
b)検出した発現レベルを膵臓癌組織試料中の1つまたは複数のmiR遺伝子産物の発現レベルと比較し、それにより、患者において、膵臓癌を診断する工程とを含む、方法。
【請求項6】
被験体が膵臓癌を有するか、または膵臓癌を発症するリスクがあるかどうかを診断する方法であって、
(1)被験体から得た検査試料からのRNAを逆転写して、標的オリゴデオキシヌクレオチドのセットを供給する工程と、
(2)標的オリゴデオキシヌクレオチドを、miRNA特異的プローブオリゴヌクレオチドを含むマイクロアレイにハイブリダイズして、検査試料に関するハイブリダイゼーションプロファイルを提供する工程と、
(3)検査試料のハイブリダイゼーションプロファイルを対照試料から生成されたハイブリダイゼーションプロファイルと比較する工程とを含み、
少なくとも1つのmiRNAのシグナルにおける変化は、被験体が膵臓癌を有すること、または膵臓癌を発症するリスクがあることを示す、方法。
【請求項7】
被験体が、被験体において、予後不良の膵臓癌を有するか、または膵臓癌を発症するリスクがあるかどうかを診断する方法であって、
(1)被験体から得た検査試料からのRNAを逆転写して、標的オリゴデオキシヌクレオチドのセットを供給する工程と、
(2)標的オリゴデオキシヌクレオチドをmiRNA特異的プローブオリゴヌクレオチドを含むマイクロアレイにハイブリダイズして、前記検査試料に関するハイブリダイゼーションプロファイルを提供する工程と、
(3)検査試料のハイブリダイゼーションプロファイルを対照試料から生成されたハイブリダイゼーションプロファイルと比較する工程とを含み、
シグナルにおける変化は、被験体が予後不良の膵臓癌を有すること、または膵臓癌を発症するリスクがあることを示す、方法。
【請求項8】
膵臓癌を有する被験体において、対照細胞に対して、被験体の癌細胞中の少なくとも1つのmiR遺伝子産物が下方制御、または上方制御される膵臓癌を治療する方法であって、
(1)少なくとも1つのmiR遺伝子産物が、癌細胞において下方制御される場合、被験体において癌細胞の増殖を阻害するように、少なくとも1つの単離されたmiR遺伝子産物、もしくは単離された変異体またはその生物学的に活性なフラグメントの有効量を被験体に投与する工程、または、
(2)少なくとも1つのmiR遺伝子産物が、癌細胞において上方制御される場合、被験体において癌細胞の増殖を阻害するように、少なくとも1つのmiR遺伝子産物の発現を阻害する少なくとも1つの化合物の有効量を被験体に投与する工程を含む、方法。
【請求項9】
被験体において、膵臓癌を治療する方法であって、
a)対照細胞に対して、膵臓癌細胞における少なくとも1つのmiR遺伝子産物の量を測定する工程と、
b)
(i)該癌細胞に発現したmiR遺伝子産物の量が対照細胞に発現したmiR遺伝子産物の量未満である場合、少なくとも1つの単離されたmiR遺伝子産物、またはその単離された変異体もしくは生物学的に活性なフラグメントの有効量を被験体に投与する工程、あるいは、
(ii)該癌細胞に発現したmiR遺伝子産物の量が、対照細胞に発現したmiR遺伝子産物の量を上回る場合、該少なくとも1つのmiR遺伝子産物の発現を阻害する少なくとも1つの化合物の有効量を被験体に投与する工程
により膵臓癌細胞において発現したmiR遺伝子産物の量を変化させる工程とを含む、方法。
【請求項10】
検査試料中の少なくとも1つのmiR遺伝子産物のレベルが、対照試料中の対応するmiR遺伝子産物のレベル未満である、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
検査試料中の少なくとも1つのmiR遺伝子産物のレベルが、対照試料中の対応するmiR遺伝子産物のレベルを上回る、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
表1a、1b、1c、2a、2b、2c、および3の1つまたは複数からの1つまたは複数のmiR遺伝子産物の発現レベルを検出する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
表1a、1b、1c、2a、2b、2c、および3の1つまたは複数の遺伝子情報と該発現のレベルを比較する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
該データベースが、表1a、1b、1c、2a、2b、2c、および3からのデータのすべてを含む、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
該データベースが、表1a、1b、1c、2a、2b、2c、および3に由来するmiR遺伝子産物のすべてに関する遺伝子発現情報を含む、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
該少なくとも1つのmiR遺伝子産物が、miR−21、miR−221、miR−222、miR−181a、miR−181b、miR−181d、およびmiR−155、ならびにこれらの組み合わせを含む、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
1つまたは複数のmiR遺伝子産物を使用して、長期生存者を識別する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
該少なくとも1つのmiR遺伝子産物が、miR−196a−2およびmiR−219の1つまたは複数を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項19】
miR−196a−2およびmiR−219の少なくとも1つのシグナルにおける変化が、被験体が予後不良の膵臓癌を有する、または膵臓癌を発症するリスクがあることを示す、請求項13に記載の方法。
【請求項20】
マイクロアレイが、miR196a−2、miR−219、およびこれらの組み合わせに対する、少なくとも1つのmiRNA特異的プローブオリゴヌクレオチドを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項21】
膵外分泌腫瘍と膵内分泌腫瘍を識別するのに有用な前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
該膵臓癌が、膵臓腺癌である、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
該膵臓癌が、導管腺癌である、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
少なくとも1つのmiRNAのシグナルが、対照試料から生成されたシグナルに対して、下方制御される、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
少なくとも1つのmiRNAのシグナルが、対照試料から生成されたシグナルに対して、上方制御される、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
miR遺伝子産物が、該miR遺伝子産物に相補的であるアンチセンスオリゴヌクレオチドを含む、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
膵臓癌を治療するための医薬組成物であって、少なくとも1つの単離されたmiR遺伝子産物、またはその単離された変異体もしくは生物学的に活性なフラグメント、および薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物。
【請求項28】
該少なくとも1つの単離されたmiR遺伝子産物が、対照細胞に対して下方制御されるmiR遺伝子産物に対応する、前述の請求項のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項29】
膵臓癌を治療するための医薬組成物であって、少なくとも1つのmiR発現阻害化合物および薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物。
【請求項30】
該少なくとも1つのmiR発現阻害化合物が、対照細胞に対して膵臓癌細胞において上方制御されるmiR遺伝子産物に特異的である、前述の請求項のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項31】
抗膵臓癌剤を特定する方法であって、検査剤を細胞に供給する工程および膵臓癌細胞における発現レベルの変化に関連する少なくとも1つのmiR遺伝子産物のレベルを測定する工程を含み、対照細胞に対する該細胞中のmiR遺伝子産物のレベルの変化により、検査剤が抗膵臓癌剤であることを示す、方法。
【請求項32】
表1a、1b、1c、2a、2b、2c、および3に示す膵臓の導管腺癌を正常な膵臓および慢性膵炎の1つまたは複数と識別するためのmiRNAの網羅的発現パターンのバイオマーカー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−527235(P2010−527235A)
【公表日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−506300(P2010−506300)
【出願日】平成20年4月29日(2008.4.29)
【国際出願番号】PCT/US2008/005503
【国際公開番号】WO2008/136971
【国際公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(593172050)ジ・オハイオ・ステイト・ユニバーシティ・リサーチ・ファウンデイション (33)
【氏名又は名称原語表記】THE OHIO STATE UNIVERSITY RESEARCH FOUNDATION
【Fターム(参考)】