説明

膵臓癌を治療するための組成物および方法

本発明は、癌細胞とPCDH1、CDH3、またはGPR107の発現を阻害するsiRNA組成物を接触させることによって癌細胞の増殖を阻害する方法を特徴とする。癌を治療する方法も本発明の範囲内である。本発明はまた、提供される方法において有用な、核酸配列およびベクターなどの生成物ならびにこれらを含む組成物を特徴とする。本発明はまた、例えば、膵臓癌細胞、特に膵管腺癌(PDACa)といった腫瘍細胞を阻害する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、生物科学の分野、より具体的には癌研究の分野に関する。特に、本発明は、PCDH1、CDH3、またはGPR107をコードする遺伝子の発現を阻害することができる核酸を含む組成物に関する。ある態様においては、前記化合物は、これらの遺伝子に由来するサブシーケンス(subsequence)に対応する低分子干渉RNA(siRNA)である。なお、本願は、2004年3月24日に出願された米国特許仮出願第60/555,809号の恩典を主張し、米国特許仮出願第60/555,809号の内容はその全体が参照として本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
背景技術
膵管腺癌(PDACa)は西側世界において第5位の癌死因であり、任意の悪性腫瘍の中でも最も高い死亡率を有するものの一つであり、5年生存率は4%しかない。米国では、毎年、推定30,700人の患者が膵臓癌と診断され、ほぼ30,000人がこれらの疾患で死亡する。大多数の患者は疾患が進行期で診断され、この段階では、疾患は現行の治療に反応せず、患者は数ヶ月しか生存することができない。外科切除でしか治癒する見込みがないが、治癒の可能性のある切除をPDACa患者の10〜20%しか受けることができず、手術を受けても患者の80〜90%は再発し、この疾患で死亡する。ゲムシタビンを含む化学療法および/または放射線も受けた患者においては手術結果または生活の質がある程度改善されるが、PDACaのあらゆる治療に対しての強力な耐性のために、長期生存への影響は極めてわずかなものであった。現在、大部分の患者の治療技術は一時的緩和に的を絞っている。
【0003】
従って、新規のPDACa分子療法の確立、PDACa治療の新規分子標的を同定することが、現在、膵臓癌治療にとって急を要する問題である。
【0004】
発明の開示
本発明は、PCDH1、CDH3、またはGPR107の発現阻害がPDACaに関与する癌細胞を含む様々な癌細胞の細胞増殖の阻害に有効であるという驚くべき発見に基づいている。本出願において記載される本発明はこの発見に一部基づいている。
【0005】
本発明は、細胞増殖を阻害する方法を提供する。提供される方法の中には、細胞とPCDH1、CDH3、またはGPR107の発現を阻害する低分子干渉RNA(siRNA)を含む組成物を接触させる段階を含む方法がある。本発明はまた、被験体における腫瘍細胞増殖を阻害する方法を提供する。このような方法は、PCDH1、CDH3、またはGPR107由来の配列に特異的にハイブリダイズする低分子干渉RNA(siRNA)を含む組成物を被験体に投与する段階を含む。本発明の別の局面は、生物学的試料の細胞におけるPCDH1遺伝子、CDH3遺伝子、またはGPR107遺伝子の発現を阻害する方法を提供する。遺伝子の発現は、PCDH1遺伝子、CDH3遺伝子、またはGPR107遺伝子の発現を阻害するのに十分な量の二本鎖リボ核酸(RNA)分子を細胞に導入することによって阻害されてもよい。本発明の別の局面は、例えば、提供される方法において有用な、核酸配列およびベクターを含む生成物ならびにこれらを含む組成物に関する。提供される生成物の中には、PCDH1遺伝子、CDH3遺伝子、またはGPR107遺伝子を発現している細胞に導入されるとPCDH1遺伝子、CDH3遺伝子、またはGPR107遺伝子の発現を阻害する特性を有するsiRNA分子がある。このような分子の中には、センス鎖およびアンチセンス鎖を含み、センス鎖がPCDH1、CDH3、またはGPR107標的配列に対応するリボヌクレオチド配列を含み、かつアンチセンス鎖がセンス鎖に相補的なリボヌクレオチド配列を含む分子がある。分子のセンス鎖およびアンチセンス鎖は互いにハイブリダイズして、二本鎖分子を形成する。
【0006】
本明細書で使用する用語「生物」は、少なくとも1つの細胞からなる任意の生き物を意味する。生物は、例えば、真核単細胞のような単純なものでもよく、ヒトを含む哺乳動物のような複雑なものでもよい。
【0007】
本明細書で使用する用語「生物学的試料」は、生物全体、またはその組織、細胞、もしくは構成部分の一部(例えば、体液(血液、粘液、リンパ液、滑液、脳脊髄液、唾液、羊水、臍帯血(amniotic cord blood)、尿、膣液、および精液が挙げられるが、これに限定されない))を意味する。「生物学的試料」は、さらに、生物全体またはその細胞、組織、もしくは構成部分のサブセットから調製されたホモジネート、溶解産物、抽出物、細胞培養物、または組織培養物、あるいはその画分または一部を意味する。最後に、「生物学的試料」は、タンパク質または核酸分子などの細胞成分を含む、生物を増殖させた栄養培地またはゲルなどの培地を意味する。
【0008】
本発明は、細胞増殖を阻害する方法を特徴とする。細胞増殖は、細胞とPCDH1、CDH3、またはGPR107の低分子干渉RNA(siRNA)の組成物を接触させることによって阻害される。さらに、細胞はトランスフェクション促進剤と接触させられる。細胞は、インビトロ、インビボ、またはエクスビボで提供される。被験体は、哺乳動物であり、例えば、ヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、またはウシである。細胞は膵管細胞である。または、細胞は、癌腫細胞または腺癌細胞などの腫瘍細胞(すなわち、癌細胞)である。例えば、細胞は、膵管腺癌細胞である。細胞増殖の阻害とは、処置された細胞が未処置細胞より低速で増殖するか、または生存率が低下することを意味する。細胞増殖は、当技術分野において周知の増殖アッセイによって測定される。
【0009】
用語「siRNA」は、標的mRNAの翻訳を阻止する二本鎖RNA分子を意味する。RNAを転写する鋳型がDNAである技法を含め、細胞にsiRNAを導入する標準的な技法が用いられる。siRNAは、PCDH1センス核酸配列、CDH3センス核酸配列、もしくはGPR107センス核酸配列、PCDH1アンチセンス核酸配列、CDH3アンチセンス核酸配列、もしくはGPR107アンチセンス核酸配列、またはその両方を含む。siRNAは、二種類の相補的な分子を含む場合があり、または1つの転写物が、標的遺伝子に由来するセンス配列および相補的アンチセンス配列の両方を有するように構築される場合もあり、例えば、ヘアピンで、ある態様において、それはマイクロRNA(miRNA)を産生する。
【0010】
前記方法は、例えば、細胞の悪性形質転換の結果として、PCDH1、CDH3、またはGPR107の発現がアップレギュレートされている細胞の遺伝子発現を変化させるために用いられる。標的細胞においてsiRNAとPCDH1転写物、CDH3転写物、またはGPR107転写物が結合すると、細胞によるPCDH1、CDH3、またはGPR107の産生が低下する。オリゴヌクレオチドの長さは少なくとも約10ヌクレオチドであり、天然に生じるPCDH1転写物、CDH3転写物、またはGPR107転写物と同じくらいの長さでもよい。好ましくは、オリゴヌクレオチドの長さは約19〜約25ヌクレオチドである。最も好ましくは、オリゴヌクレオチドの長さは約75ヌクレオチド未満、約50ヌクレオチド未満、または約25ヌクレオチド未満である。哺乳動物細胞のPCDH1、CDH3、またはGPR107の発現を阻害するPCDH1 siRNA、CDH3 siRNA、またはGPR107 siRNAオリゴヌクレオチドの例として、標的配列、例えば、配列番号:22、23、または24のヌクレオチドをそれぞれ含むオリゴヌクレオチドが挙げられる。
【0011】
標的細胞における遺伝子発現を阻害する能力を有する二本鎖RNAを設計する方法は周知である。(例えば、全体が参照として本明細書に組み入れられる、米国特許第6,506,559号を参照のこと)。例えば、siRNAを設計するコンピュータプログラムをAmbionのウェブサイト(http://www.ambion.com/techlib/misc/siRNA_finder.html)から入手することができる。Ambion社により利用可能なこのコンピュータプログラムは、以下のプロトコールに基づいてsiRNA合成のためのヌクレオチド配列を選択する。
【0012】
siRNA標的部位の選択
1.転写物の開始コドンAUGから開始して、下流にあるAAジヌクレオチド配列をスキャンする。siRNA標的候補部位として、AAおよび3'側隣接19ヌクレオチドの各々の出現を記録する。Tuschlら、Targeted mRNA degradation by double-stranded RNA in vitro. Genes Dev 13(24):3191-7(1999)、 は、5'および3'非翻訳領域(UTR)ならびに開始コドン付近の(75塩基以内の)領域は調節タンパク質結合部位を多く含んでいる可能性があるので、これらに対するsiRNAを設計しないように勧めている。UTR結合タンパク質および/または翻訳開始複合体は、siRNAエンドヌクレアーゼ複合体の結合を妨げる可能性がある。
【0013】
2.標的候補部位と適切なゲノムデータベース(ヒト、マウス、ラットなど)を比較し、他のコード配列と有意な相同性を有する全ての標的配列を検討から除外する。www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/のNCBIサーバーに見出されるBLASTを使用することを提唱する。
【0014】
3.合成に適した標的配列を選択する。遺伝子の長さに応じていくつかの標的配列を選択して評価することが典型的である。
【0015】
標的配列 、例えば、配列番号:22、23、および24のヌクレオチド核酸配列を含む単離された核酸分子、または配列番号22、23、および24のヌクレオチドの核酸配列に相補的な核酸分子も本発明に含まれる。本明細書で使用する「単離された核酸」は、元々の環境(例えば、天然のものであれば自然環境)から取り出された核酸、従って、その天然の状態から人工的に変化させられた核酸である。本発明において、単離された核酸は、DNA、RNA、およびその誘導体を含む。単離された核酸がRNAまたはその誘導体である場合、ヌクレオチド配列内の塩基「t」は「u」に置換されなければならない。本明細書で使用する用語「相補的な」は、核酸分子のヌクレオチド単位間のワトソン-クリック型塩基対またはフーグスティーン型塩基対を意味し、用語「結合する」は、2つの核酸もしくは化合物、または関連する核酸もしくは化合物、またはその組み合わせの間の物理的相互作用または化学的相互作用を意味する。相補的な核酸配列は適切な条件下でハイブリダイズして、ミスマッチをほとんどまたは全く含まない、安定した二重鎖を形成する。本発明の目的に対して、5またはそれ以下のミスマッチを持つ二つの配列は相補的と考えられる。さらに、本発明の単離されたヌクレオチドのセンス鎖およびアンチセンス鎖は、ハイブリダイゼーションによって二本鎖ヌクレオチドまたはヘアピンループ構造を形成することができる。好ましい態様において、このような二重鎖が含むミスマッチは10マッチあたり1以下である。特に好ましい態様において、二重鎖の鎖が完全に相補的な場合、このような二重鎖はミスマッチを含まない。PCDH1、CDH3、またはGPR107に対して核酸分子は長さがそれぞれ3851、3205、または6840ヌクレオチド未満である。例えば、核酸分子は長さが約500ヌクレオチド未満、約200ヌクレオチド未満、または約75ヌクレオチド未満である。本明細書に記載の核酸の1つまたは複数を含むベクターおよびベクターを含む細胞も本発明に含まれる。本発明の単離された核酸は、PCDH1、CDH3、またはGPR107に対するsiRNAまたはsiRNAをコードするDNAに有用である。核酸がsiRNAまたはそのコードDNAに用いられる場合、センス鎖は、好ましくは約19ヌクレオチドより長く、より好ましくは21ヌクレオチドより長い。
【0016】
本発明は、PCDH1、CDH3、またはGPR107をコードする遺伝子が非癌性膵臓組織と比較して膵管腺癌(PDACa)において過剰発現しているという発見に一部基づいている。PCDH1のcDNAは3851ヌクレオチド長であり、CDH3のcDNAは3205ヌクレオチド長であり、GPR107のcDNAは6840ヌクレオチド長である。PCDH1、CDH3、またはGPR107の核酸配列およびポリペプチド配列は、それぞれ、配列番号:1および2、3および4、または5および6に示した。配列データも以下のアクセッション番号を介して入手可能である。
PCDH1(CFUPC): L11370, NM_002587
CDH3: X63629, NM_001793
GPR107: NM_032925, NM_020960, (KIAA1624: R39794) AB046844
【0017】
配列番号:22、23、および24を含むsiRNAのトランスフェクションによって、PDACa細胞株の増殖の阻害がもたらされた。PCDH1(CFUPC)は、カルシウム依存性細胞間接着分子であるカドヘリンスーパーファミリーの中で最大のサブグループである、プロトカドヘリンファミリーに属する。プロトカドヘリンの多くは中枢神経系において高発現しており、かつ神経回路の発達およびシナプス伝達の調節において役割を果たしている可能性が高い(Sano K, Tanihara H, Heimark RL, Obata S, Davidson M, St John T, Taketani S, Suzuki S. Protocadherins: a large family of cadherin-related molecules in central nervous system. EMBO J., 12:2249-56, 1993.Frank M, and Kemler R. Protocadherins. Curr Opin Cell Biol., 14:557-62, 2002)。しかしながら、PCDH1は膵臓癌細胞において豊富にあるが、中枢神経系には存在せず(図3A)、その機能はいまだにわかっていない。
【0018】
CDH3もまたカドヘリンファミリーの古典的な一員であり(Shimoyama Y, Yoshida T, Terada M, Shimosato Y, Abe O, Hirohashi S. Molecular cloning of a human Ca2+-dependent cell-cell adhesion molecule homologous to mouse placental cadherin: its low expression in human placental tissues. J Cell Biol., 109:1787-94. 1989)、カドヘリンは、その保存された細胞内ドメインを介してカテニンおよび細胞骨格と結合し、それによって細胞極性、分化、運動、および細胞増殖を制御するシグナル伝達を媒介する(Christofori G. Changing neighbors, changing behavior: cell adhesion molecules-mediated signaling during tumor progression. EMBO J., 22, 2318-2323, 2003)。しかしながら、E-カドヘリンともN-カドヘリンとも異なり、CDH3の機能はいまだにわかっていない。その発現は乳腺および卵巣において観察され、乳癌および前立腺癌においては発現が消失することが報告されたが、乳癌におけるP-カドヘリンの発現は予後の不良と相関している(Peralta Soler A, Knudsen KA, Salazar H, Han AC, Keshgegian AA. P-cadherin expression in breast carcinoma indicates poor survival. Cancer, 86:1263-1272. 1999)。
【0019】
GPR107(KIAA1624)は、7回膜貫通Gタンパク質共役受容体(GPCR)の1つである。今日の指示薬のかなり多くの割合は1種類またはそれ以上のGPCRsを標的としており、最も主用な治療分野は、数種類のGPCRベースの薬物によって、ある程度満たされている。明らかに、GPCRsは、創薬の可能性という点において最も高い位置にある。GPR107は、ノーザンブロット分析(図3C)において示したように、正常な心臓、胎盤、骨格筋、前立腺、精巣、卵巣、脊髄において無制限に発現している。主要な必須臓器における発現は豊富ではなく、このことは、これらの分子を標的とすることにより人体にはほとんど毒性を示さないことを示唆している。
【0020】
細胞増殖を阻害する方法
本発明は、細胞増殖を阻害すること、すなわち、PCDH1、CDH3、またはGPR107の発現を阻害することによって、癌細胞の増殖を阻害することに関する。PCDH1、CDH3、またはGPR107の発現は、例えば、特異的に、PCDH1、CDH3、またはGPR107遺伝子を標的とする低分子干渉RNA(siRNA)によって阻害される。PCDH1、CDH3、またはGPR107標的としては、例えば、配列番号22、23、および24のヌクレオチドが含まれる。
【0021】
非哺乳動物細胞では、二本鎖RNA(dsRNA)は遺伝子発現に対して強力かつ特異的なサイレンシング効果を及ぼすことが示されており、これはRNA干渉(RNAi)と呼ばれる(Sharp PA. RNAi and double-strand RNA. Genes Dev. 1999 Jan 15;13(2):139-41.)。dsRNAは、RNaseIIIモチーフを含む酵素によって、低分子干渉RNA(siRNA)と呼ばれる20〜30ヌクレオチドのdsRNAに処理される。siRNAは、多成分ヌクレアーゼ複合体と共に相補的mRNAを特異的に標的とする(Hammond SM, Bernstein E, Beach D, Hannon GJ. An RNA-directed nuclease mediates post-transcriptional gene silencing in Drosophila cells. Nature. 2000 Mar 16;404(6775):293-6; Hannon GJ. RNA interference. Nature. 2002 Jul 11;418(6894):244-51.)。哺乳動物細胞において、19個の相補的ヌクレオチドとチミジンまたはウリジンの3'末端非相補的二量体を有する、20または21量体のdsRNAで構成されるsiRNAは、遺伝子発現の全体的な変化を誘導することなく、遺伝子特異的ノックダウン効果を有することが示されている(Elbashir SM, Harborth J, Lendeckel W, Yalcin A, Weber K, Tuschl T. Duplexes of 21-nucleotide RNAs mediate RNA interference in cultured mammalian cells. Nature. 2001 May 24;411(6836):494-8.)。さらに、核内低分子RNA(snRNA)U6またはポリメラーゼIII H1-RNAプロモーターを含むプラスミドは、RNAポリメラーゼIIIのIII型クラスを動員してこのような短いRNAを効果的に生成し、従って、その標的mRNAを構成的に抑制することができる(Miyagishi M, Taira K. U6 promoter-driven siRNAs with four uridine 3' overhangs efficiently suppress targeted gene expression in mammalian cells.Nat Biotechnol. 2002 May;20(5):497-500.; Brummelkamp TR, Bernards R, Agami R. A System for Stable Expression of Short Interfering RNAs in Mammalian Cells Science. 296(5567):550-553, April 19, 2002.)。
【0022】
細胞増殖は、細胞と、PCDH1のsiRNA、CDH3のsiRNA、またはGPR107のsiRNAを含む組成物を接触させることによって阻害される。細胞は、さらに、トランスフェクション剤と接触させられる。適切なトランスフェクション剤は当技術分野において周知である。細胞増殖の阻害とは、組成物に曝露されていない細胞と比較して、細胞が低速で増殖するか、または生存率が低下することを意味する。細胞増殖は、当技術分野において周知の方法(例えば、MTT細胞増殖アッセイ)によって測定される。
【0023】
PCDH1 siRNA、CDH3 siRNA、またはGPR107 siRNAは、単一の標的PCDH1遺伝子配列、標的CDH3遺伝子配列、または標的GPR107遺伝子配列に向けられる。または、siRNAは、複数の標的PCDH1遺伝子配列、標的CDH3遺伝子配列、または標的GPR107遺伝子配列に向けられる。例えば、組成物は、2、3、4、もしくは5種類、またはそれ以上のPCDH1標的配列、CDH3標的配列、またはGPR107標的配列に対するPCDH1 siRNA、CDH3 siRNA、またはGPR107 siRNAを含む。PCDH1、CDH3、またはGPR107によって、標的配列とは、PCDH1遺伝子、CDH3遺伝子、またはGPR107遺伝子の一部と同一のヌクレオチド配列を意味する。標的配列は、ヒトPCDH1遺伝子、CDH3遺伝子、またはGPR107遺伝子の5'非翻訳(UT)領域、オープンリーディングフレーム(ORF)、または3'非翻訳領域を含んでもよい。または、siRNAは、PCDH1遺伝子、CDH3遺伝子、またはGPR107遺伝子の発現の上流モジュレーターまたは下流モジュレーターに相補的な核酸配列である。上流モジュレーターまたは下流モジュレーターの例として、PCDH1遺伝子プロモーター、CDH3遺伝子プロモーター、またはGPR107遺伝子プロモーターに結合する転写因子、PCDH1ポリペプチド、CDH3ポリペプチド、またはGPR107ポリペプチドと相互作用するキナーゼまたはホスファターゼ、PCDH1プロモーター、CDH3プロモーター、またはGPR107プロモーターまたはエンハンサーが挙げられる。標的mRNAにハイブリダイズするPCDH1 siRNA、CDH3 siRNA、またはGPR107 siRNAは通常、一本鎖mRNA転写物に結合し、それによってタンパク質の翻訳を妨げ、従って、発現を妨げることによって、PCDH1遺伝子、CDH3遺伝子、またはGPR107遺伝子によりコードされるPCDH1ポリペプチド、CDH3ポリペプチド、またはGPR107ポリペプチド生成物の産生を減少または阻害する。従って、本発明のsiRNA分子は、ストリンジェントな条件下で、PCDH1、CDH3、またはGPR107遺伝子に由来するmRNAまたはcDNAと特異的にハイブリダイズする能力によって定義することができる。本発明の目的で、用語「ハイブリダイズする」または「特異的にハイブリダイズする」は、2つの核酸分子が「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」の下でハイブリダイズする能力をいうために用いられる。句「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」は、一般的に、複雑な核酸混合物中で、核酸分子がその標的配列とハイブリダイズするが、他の配列とは検出可能にハイブリダイズしない条件を意味する。ストリンジェントな条件は配列依存的であり、様々な状況において異なる。配列が長いほど、高い温度で特異的にハイブリダイズする。核酸ハイブリダイゼーションの広範囲にわたる指針は、Tijssen, Techniques in Biochemistry and Molecular Biology--Hybridization with Nucleic Probes,「Overview of principles of hybridization and the strategy of nucleic acid assays」(1993)に記載されている。一般的に、ストリンジェントな条件は、定義されたイオン強度、pHで特定の配列の融点(Tm)より約5〜10℃低くなるように選択される。Tmは、(定義されたイオン強度、pH、および核酸濃度の下で)、標的に相補的なプローブの50%が標的配列に平衡状態でハイブリダイズする温度である(Tmで、標的配列が過剰に存在する時、プローブの50%が平衡状態で占有される)。ストリンジェントな条件はまた、ホルムアミドなどの不安定化剤を添加することによって達成してもよい。選択的または特異的ハイブリダイゼーションのために、陽性シグナルはバックグラウンドの少なくとも2倍、好ましくはバックグラウンドハイブリダイゼーションの10倍である。例示的なストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は以下のようなものでもよい:50%ホルムアミド、5xSSC、および1%SDS、42℃でのインキュベーション、または5xSSC、1%SDS、65℃でのインキュベーション、0.2xSSC、および0.1%SDS、50℃での洗浄。
【0024】
本発明のsiRNAは、長さが約500ヌクレオチド未満、約200ヌクレオチド未満、約100ヌクレオチド未満、約50ヌクレオチド未満、または約25ヌクレオチド未満である。好ましくは、siRNAは長さが約19〜約25ヌクレオチドである。PCDH1 siRNA、CDH3 siRNA、またはGPR107 siRNAを生成するための核酸配列の例は、それぞれ標的配列である配列番号:22、23、または24のヌクレオチド配列を含む。さらに、siRNAの阻害活性を増強するために、標的配列のアンチセンス鎖の3'末端にヌクレオチド「u」を付加することができる。付加される「u」の数は少なくとも約2個であり、一般的に約2個から約10個であり、好ましくは約2個から約5個である。付加された「u」は、siRNAのアンチセンス鎖の3'末端で一本鎖を形成する。
【0025】
細胞は、PCDH1、CDH3、またはGPR107を発現または過剰発現する任意の細胞である。細胞は、例えば、膵管細胞のような上皮細胞である。または、細胞は、癌腫、腺癌、芽腫、白血病、骨髄腫、または肉腫などの腫瘍細胞である。細胞は膵管腺癌である。
【0026】
PCDH1 siRNA、CDH3 siRNA、またはGPR107 siRNAは、mRNA転写物に結合可能な形で細胞に直接導入される。または、PCDH1 siRNA、CDH3 siRNA、またはGPR107 siRNAをコードするDNAはベクターの中にある。
【0027】
ベクターは、例えば、両方の鎖の(DNA分子の転写による)発現が可能なように、作動可能に連結された調節配列にPCDH1配列、CDH3配列、またはGPR107配列が隣接するように発現ベクターにPCDH1標的配列、CDH3標的配列、またはGPR107標的配列をクローニングすることによって作成される(Lee,N.S.,Dohjima,T.,Bauer,G.,Li,H.,Li,M.-J.,Ehsani,A.,Salvaterra,P.,and Rossi,J.(2002)Expression of small interfering RNAs targeted against HIV-1 rev transcripts in human cells. Nature Biotechnology 20:500-505.)。PCDH1 mRNA、CDH3 mRNA、またはGPR107 mRNAに対するアンチセンスであるRNA分子は第1のプロモーター(例えば、クローニングされたDNAの3'側にあるプロモーター配列)によって転写され、PCDH1 mRNA、CDH3 mRNA、またはGPR107 mRNAのセンス鎖であるRNA分子は第2のプロモーター(例えば、クローニングされたDNAの5'側にあるプロモーター配列)によって転写される。センス鎖およびアンチセンス鎖はインビボでハイブリダイズして、PCDH1遺伝子、CDH3遺伝子、またはGPR107遺伝子のサイレンシングのためのsiRNA構築物を生じる。または、siRNA構築物のセンス鎖およびアンチセンス鎖を生成するために、2種類の構築物が用いられる。クローニングされたPCDH1、CDH3、またはGPR107は、二次構造、例えば、ヘアピンを有する構築物をコードしてもよく、この場合、1つの転写物が、標的遺伝子からのセンス配列と相補的アンチセンス配列の両方を有する。
【0028】
ヘアピンループ構造を形成するために、任意のヌクレオチド配列からなるループ配列をセンス配列とアンチセンス配列の間に配置してもよい。従って、本発明はまた、一般式5'-[A]-[B]-[A']-3'を有するsiRNAも提供し、式中、[A]は、PCDH1、CDH3、またはGPR107由来のmRNAまたはcDNAに特異的にハイブリダイズする配列に対応するリボヌクレオチド配列である。より好ましい態様においては、[A]は配列番号:22、23、および24のヌクレオチドからなる群より選択される配列に対応するリボヌクレオチド配列であり、
[B]は、3個から23個のヌクレオチドからなるリボヌクレオチド配列であり、ならびに
[A']は、[A]の相補配列からなるリボヌクレオチド配列である。
【0029】
領域[A]は[A']にハイブリダイズし、次いで、領域[B]からなるループが形成される。ループ配列は、好ましくは、長さが約3個から約23個のヌクレオチドであってよい。ループ配列は、例えば、以下の配列からなる群より選択することができる(http://www.ambion.com/techlib/tb/tb_506.html)。さらに、23個のヌクレオチドからなるループ配列から活性型siRNAが得られる(Jacque,J.-M., Triques,K., and Stevenson,M.(2002) Modulation of HIV-1 replication by RNA interference.Nature 418:435-438)。
【0030】
CCC、CCACC、またはCCACACC:Jacque, J. M., Triques, K., and Stevenson, M(2002) Modulation of HIV-1 replication by RNA interference. Nature, Vol. 418:435-438.
【0031】
UUCG:Lee,N.S., Dohjima,T., Bauer,G., Li,H., Li,M.-J., Ehsani,A., Salvaterra,P., and Rossi,J.(2002) Expression of small interfering RNAs targeted against HIV-1 rev transcripts in human cells. Nature Biotechnology 20:500-505. Fruscoloni, P., Zamboni, M., and Tocchini-Valentini, G.P.(2003) Exonucleolytic degradation of double-stranded RNA by an activity in Xenopus laevis germinal vesicles. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100(4): 1639-1644.
【0032】
UUCAAGAGA: Dykxhoorn, D. M., Novina, C. D., and Sharp, P. A. (2002) Killing the messenger: Short RNAs that silence gene expression. Nature Reviews Molecular Cell Biology 4: 457-467.
【0033】
例えば、本発明のヘアピンループ構造を有する好ましいsiRNAを以下に示す。以下の構造において、ループ配列は、CCC、UUCG、CCACC、CCACACC、およびUUCAAGAGAからなる群より選択することができる。好ましいループ配列はUUCAAGAGA(DNAでは「ttcaagaga」(配列番号:35))である。
GACAUCAAUGACAACACAC-[B]-GUGUGUUGUCAUUGAUGUC(配列番号:22の標的配列の場合)
GGAGACAGGCUGGUUGUUG-[B]-CAACAACCAGCCUGUCUCC(配列番号:23の標的配列の場合)
GUGGCUCUACCAGCUCCUG-[B]-CAGGAGCUGGUAGAGCCAC(配列番号:24の標的配列の場合)
【0034】
PCDH1、CDH3、またはGPR107の発現を独立して調節できるように、または時間的もしくは空間的に調節できるように、PCDH1配列、CDH3配列、またはGPR107配列に隣接する調節配列は同一であるか、または異なる。siRNAは、PCDH1遺伝子、CDH3遺伝子、またはGPR107遺伝子の鋳型を、例えば、核内低分子RNA(snRNA)U6に由来するRNAポリメラーゼIII転写単位またはヒトH1 RNAプロモーターを含むベクターにクローニングすることによって細胞内で転写される。ベクターを細胞に導入するために、トランスフェクション促進剤を使用することができる。FuGENE(Roche Diagnostics)、Lipofectamine 2000(Invitrogen)、Oligofectamine(Invitrogen)、およびNucleofector(和光純薬工業)がトランスフェクション促進剤として有用である。
【0035】
オリゴヌクレオチド、およびPCDH1 mRNA、CDH3 mRNA、またはGPR107 mRNAの様々な部分に相補的なオリゴヌクレオチドを、腫瘍細胞(例えば、膵管腺癌(PDACa)細胞株といった膵臓細胞株を使用する)のPCDH1、CDH3、またはGPR107の産生を減少させる能力について、標準的な方法に従ってインビトロで試験した。候補組成物の非存在下で培養した細胞と比較して、候補siRNA組成物と接触させた細胞ではPCDH1遺伝子、CDH3遺伝子、またはGPR107遺伝子産物が減少することを、PCDH1特異的抗体、CDH3特異的抗体、もしくはGPR107特異的抗体または他の検出法を用いて検出する。次いで、インビトロ細胞アッセイまたは無細胞アッセイにおいてPCDH1、CDH3、またはGPR107の産生を減少させる配列を、細胞増殖に対する阻害作用について試験する。悪性新生物を有する動物におけるPCDH1、CDH3、またはGPR107産生の減少および腫瘍細胞増殖の低下を確かめるために、インビトロ細胞アッセイにおいて細胞増殖を阻害する配列をラットまたはマウスにおいてインビボで試験する。
【0036】
悪性腫瘍を治療する方法
PCDH1、CDH3、またはGPR107の過剰発現を特徴とする腫瘍を有する患者は、PCDH1 siRNA、CDH3 siRNA、またはGPR107 siRNAの投与によって治療される。siRNA療法は、例えば、膵管腺癌(PDACa)を罹患しているか、または発症する危険性のある患者におけるPCDH1、CDH3、またはGPR107の発現を阻害するために用いられる。このような患者は、特定の腫瘍型の標準的な方法によって特定される。膵管腺癌(PDACa)は、例えば、CT、MRI、ERCP、MRCP、コンピューター断層撮影、または超音波によって診断される。被験体におけるPCDH1、CDH3、またはGPR107の発現の低下、または腫瘍のサイズ、罹患率、もしくは転移可能性の減少などの臨床上の利益につながれば、治療は有効である。治療が予防目的で用いられる場合、「有効な」は、治療が腫瘍の形成を遅延もしくは阻止するか、または腫瘍の臨床症状を阻止もしくは緩和することを意味する。有効性は、特定の腫瘍型を診断または治療する任意の既知の方法と共同して確かめられる。
【0037】
siRNA療法は、本発明のsiRNAをコードする標準的なベクターおよび/または、合成siRNA分子を送達することによるなどの遺伝子送達システムによってsiRNAを患者に投与することによって実施される。一般的に、合成siRNA分子は、インビボでヌクレアーゼ分解を阻止するために化学的に安定化される。化学的に安定化されたRNA分子を調製する方法は当技術分野において周知である。一般的に、このような分子は、リボヌクレアーゼの働きを阻止するために、修飾されたバックボーンおよびヌクレオチドを含む。他の修飾も可能であり、例えば、コレステロール結合型siRNAは、改善された薬理学的特性を示している(Song et al. Nature Med. 9:347-351 (2003))。適切な遺伝子送達システムとして、リポソーム、受容体媒介送達システム、またはウイルスベクター(例えば、特に、ヘルペスウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、およびアデノ随伴ウイルス)を挙げることができる。治療用核酸組成物は薬学的に許容される担体中に製剤化される。治療用組成物は前記の遺伝子送達システムを含んでも良い。薬学的に許容される担体は、動物への投与に適した生物学的に適合する賦形剤(vehicle)(例えば、生理食塩水)である。化合物の治療有効量は、医学的に望ましい結果(例えば、治療された動物におけるPCDH1遺伝子産物、CDH3遺伝子産物、またはGPR107遺伝子産物の産生の低下、細胞成長(例えば、増殖の低下、または腫瘍増殖の低下)を生じることが可能な量である。
【0038】
PCDH1 siRNA、CDH3 siRNA、またはGPR107 siRNA組成物を送達するために、静脈内送達経路、皮下送達経路、筋肉内送達経路、および腹腔内送達経路などの非経口投与を使用することができる。膵臓腫瘍の治療には、腹腔動脈、脾動脈、または総肝動脈への直接注入が有用である。
【0039】
任意の患者への投与量は、患者の大きさ、体表面積、年齢、投与しようとする特定の核酸、性別、投与時間および経路、身体全体の健康、ならびに同時に投与されている他の薬物などの多くの要因に左右される。核酸を静脈内投与する場合の投与量は、約106コピーから1022コピーの核酸分子である。
【0040】
ポリヌクレオチドは、標準的な方法(例えば、筋肉もしくは皮膚などの組織の間隙への注射、循環もしくは体腔への導入、または吸入もしくは吹送(insufflation))によって投与される。ポリヌクレオチドは、薬学的に許容される液体担体(例えば、水溶性または部分的に水溶性の液体担体)と共に動物に注射されるか、または別の方法で送達される。ポリヌクレオチドは、リポソーム(例えば、カチオン性リポソームまたはアニオン性リポソーム)と結合される。ポリヌクレオチドは、標的細胞による発現に必要な遺伝情報(例えば、プロモーター)を含む。
【0041】
特に定義しない限り、本明細書で使用する全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者に一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本発明の実施または試験において、本明細書に記載のものと同様のまたは等価な方法および材料を使用することができるが、適切な方法および材料を以下で説明する。本明細書で述べた全ての刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献は、その全体が参照として本明細書に組み入れられる。抵触する場合、定義を含め、本明細書が優先する。さらに、材料、方法、および実施例は例示にすぎず、限定を目的としない。
【0042】
発明を実施するための最良の形態
本発明を以下の実施例においてさらに説明する。以下の実施例は、特許請求の範囲に記載の本発明の範囲を限定しない。
【0043】
[実施例1] 一般的方法
細胞株および組織標本
ヒト膵臓細胞株PK45P、KLM1、およびMIA-PaCa2(ATCC番号:CRL-1420)を、東北大学加齢医学研究所、付属医用細胞資源センターから入手した。これらの細胞は全て公的に入手することができる。
【0044】
cDNAマイクロアレイを用いたPDACa細胞における過剰発現遺伝子の単離
cDNAマイクロアレイスライドの製作はすでに報告されている(Ono K, Tanaka T, Tsunoda T, Kitahara O, Kihara C, Okamoto A, Ochiai K, Takagi T, and Nakamura Y. Cancer Res., 60: 5007-5011, 2000)。各発現プロファイル分析について、実験的変動を減らすために、約23,040個のDNAスポットを含むcDNAマイクロアレイスライド二組を調製した。簡単に述べると、18例の膵臓癌組織からマイクロダイセクションしたPDACa細胞および正常膵管上皮から、総RNAを精製した。T7-based RNA増幅を行って、マイクロアレイ実験に十分なRNAを得た。PDACa細胞および正常管上皮からの増幅RNAアリコートを、逆転写によって、それぞれCy5-dCTPおよびCy3-dCTPで標識した(Amersham Biosciences)。ハイブリダイゼーション、洗浄、および検出は以前に記載されたように行った(Ono K, Tanaka T, Tsunoda T, Kitahara O, Kihara C, Okamoto A, Ochiai K, Takagi T, and Nakamura Y. Cancer Res., 60: 5007-5011, 2000)。次に、アップレギュレートしている遺伝子のうち、3種類の遺伝子PCDH1、CDH3、およびGPR107に的を絞ったが、それは50%を超える参考となる癌においてその発現比が5.0を超え、29の正常なヒト組織における本発明者らの以前の遺伝子発現データによると、主要な正常必須臓器におけるそれらの発現レベルが比較的低かったからである。(Saito-Hisaminato A, Katagiri T, Kakiuchi S, Nakamura T, Tsunoda T, Nakamura Y. Genome-wide profiling of gene expression in 29 normal human tissues with a cDNA microarray. DNA Res., 9: 35-45, 2002)。
【0045】
PCDH1およびCDH3の半定量RT-PCR
マイクロダイセクションしたPDACa細胞および正常膵管上皮細胞からのRNAを、T7-basedインビトロ転写(Epicentre Technologies)による2ラウンドの増幅にかけ、一本鎖cDNAに合成した。次のPCR増幅のために、それぞれの一本鎖cDNAの適切な希釈液を、定量対照としてβ-アクチン(ACTB)をモニタリングすることで調製した。本発明者らが使用したプライマー配列は、
PCDH1については、
5’-AGAAGGAGACCAAGGACCTGTAT-3’ (配列番号:7) および
5’-AGAACTTTATTGTCAGGGTCAAGG-3’ (配列番号:8)
CDH3については、
5’-CTGAAGGCGGCTAACACAGAC-3’ (配列番号:9) および
5’-TACACGATTGTCCTCACCCTTC-3’ (配列番号:10)
ACTBについては、
5’-CATCCACGAAACTACCTTCAACT-3’ (配列番号:11) および
5’-TCTCCTTAGAGAGAAGTGGGGTG-3’ (配列番号:12)
を使用した。全ての反応に、94℃2分間の初回変性、それに続く、94℃30秒間、58℃30秒間、および72℃1分間の21サイクル(ACTBの場合)または28〜32サイクル(PCDH1およびCDH3の場合)を、GeneAmp PCR system 9700 (PE Applied Biosystems)において行った。
【0046】
免疫組織化学
ホルマリンで固定し、パラフィンで包埋したPDACa切片を、CDH3発現用のマウス抗CDH3モノクローナル抗体(BD Transduction Laboratories)を用いて免疫染色した。抗原の回復のために、脱パラフィン組織切片を10mMクエン酸塩緩衝液,pH6.0に入れ、オートクレーブ内で15分間、108℃に加熱した。切片を、CDH3用一次抗体の1:10希釈液または1:100希釈液とそれぞれ、加湿チャンバー内で室温で1時間インキュベートし、ペルオキシダーゼ標識デキストランポリマーを使用し、次にジアミノベンジジン(DAKO Envision Plus System; DAKO Corporation, Carpinteria, CA)によって発色させた。切片をヘマトキシリンで対比染色した。負の対照のために、一次抗体を除いた。
【0047】
ノーザンブロット分析
前記のプライマーによって増幅された[α32P]dCTP標識PCR産物と、Human multiple-tissue Northern blots(Clontech)をハイブリダイズさせた。プレハイブリダイゼーション、ハイブリダイゼーション、および洗浄は製造業者の推奨に従って行った。増感スクリーンを用いて、ブロットを-80℃で5日間オートラジオグラフにかけた。
【0048】
psiU6BXプラスミドの構築
siRNAをコードするDNA断片を、以下のプラスミド配列(配列番号:26)の(-)で示されたヌクレオチド485〜490のギャップに挿入した。

GACGGATCGGGAGATCTCCCGATCCCCTATGGTGCACTCTCAGTACAATCTGCTCTGGAT
CCACTAGTAACGGCCGCCAGTGTGCTGGAATTCGGCTTGGGGATCAGCGTTTGAGTAAGA
GCCCGCGTCTGAACCCTCCGCGCCGCCCCGGCCCCAGTGGAAAGACGCGCAGGCAAAACG
CACCACGTGACGGAGCGTGACCGCGCGCCGAGCGCGCGCCAAGGTCGGGCAGGAAGAGGG
CCTATTTCCCATGATTCCTTCATATTTGCATATACGATACAAGGCTGTTAGAGAGATAAT
TAGAATTAATTTGACTGTAAACACAAAGATATTAGTACAAAATACGTGACGTAGAAAGTA
ATAATTTCTTGGGTAGTTTGCAGTTTTAAAATTATGTTTTAAAATGGACTATCATATGCT
TACCGTAACTTGAAAGTATTTCGATTTCTTGGCTTTATATATCTTGTGGAAAGGACGAAA
CACC------TTTTTACATCAGGTTGTTTTTCTGTTTGGTTTTTTTTTTACACCACGTTT
ATACGCCGGTGCACGGTTTACCACTGAAAACACCTTTCATCTACAGGTGATATCTTTTAA
CACAAATAAAATGTAGTAGTCCTAGGAGACGGAATAGAAGGAGGTGGGGCCTAAAGCCGA
ATTCTGCAGATATCCATCACACTGGCGGCCGCTCGAGTGAGGCGGAAAGAACCAGCTGGG
GCTCTAGGGGGTATCCCCACGCGCCCTGTAGCGGCGCATTAAGCGCGGCGGGTGTGGTGG
TTACGCGCAGCGTGACCGCTACACTTGCCAGCGCCCTAGCGCCCGCTCCTTTCGCTTTCT
TCCCTTCCTTTCTCGCCACGTTCGCCGGCTTTCCCCGTCAAGCTCTAAATCGGGGGCTCC
CTTTAGGGTTCCGATTTAGTGCTTTACGGCACCTCGACCCCAAAAAACTTGATTAGGGTG
ATGGTTCACGTAGTGGGCCATCGCCCTGATAGACGGTTTTTCGCCCTTTGACGTTGGAGT
CCACGTTCTTTAATAGTGGACTCTTGTTCCAAACTGGAACAACACTCAACCCTATCTCGG
TCTATTCTTTTGATTTATAAGGGATTTTGCCGATTTCGGCCTATTGGTTAAAAAATGAGC
TGATTTAACAAAAATTTAACGCGAATTAATTCTGTGGAATGTGTGTCAGTTAGGGTGTGG
AAAGTCCCCAGGCTCCCCAGCAGGCAGAAGTATGCAAAGCATGCATCTCAATTAGTCAGC
AACCAGGTGTGGAAAGTCCCCAGGCTCCCCAGCAGGCAGAAGTATGCAAAGCATGCATCT
CAATTAGTCAGCAACCATAGTCCCGCCCCTAACTCCGCCCATCCCGCCCCTAACTCCGCC
CAGTTCCGCCCATTCTCCGCCCCATGGCTGACTAATTTTTTTTATTTATGCAGAGGCCGA
GGCCGCCTCTGCCTCTGAGCTATTCCAGAAGTAGTGAGGAGGCTTTTTTGGAGGCCTAGG
CTTTTGCAAAAAGCTCCCGGGAGCTTGTATATCCATTTTCGGATCTGATCAAGAGACAGG
ATGAGGATCGTTTCGCATGATTGAACAAGATGGATTGCACGCAGGTTCTCCGGCCGCTTG
GGTGGAGAGGCTATTCGGCTATGACTGGGCACAACAGACAATCGGCTGCTCTGATGCCGC
CGTGTTCCGGCTGTCAGCGCAGGGGCGCCCGGTTCTTTTTGTCAAGACCGACCTGTCCGG
TGCCCTGAATGAACTGCAGGACGAGGCAGCGCGGCTATCGTGGCTGGCCACGACGGGCGT
TCCTTGCGCAGCTGTGCTCGACGTTGTCACTGAAGCGGGAAGGGACTGGCTGCTATTGGG
CGAAGTGCCGGGGCAGGATCTCCTGTCATCTCACCTTGCTCCTGCCGAGAAAGTATCCAT
CATGGCTGATGCAATGCGGCGGCTGCATACGCTTGATCCGGCTACCTGCCCATTCGACCA
CCAAGCGAAACATCGCATCGAGCGAGCACGTACTCGGATGGAAGCCGGTCTTGTCGATCA
GGATGATCTGGACGAAGAGCATCAGGGGCTCGCGCCAGCCGAACTGTTCGCCAGGCTCAA
GGCGCGCATGCCCGACGGCGAGGATCTCGTCGTGACCCATGGCGATGCCTGCTTGCCGAA
TATCATGGTGGAAAATGGCCGCTTTTCTGGATTCATCGACTGTGGCCGGCTGGGTGTGGC
GGACCGCTATCAGGACATAGCGTTGGCTACCCGTGATATTGCTGAAGAGCTTGGCGGCGA
ATGGGCTGACCGCTTCCTCGTGCTTTACGGTATCGCCGCTCCCGATTCGCAGCGCATCGC
CTTCTATCGCCTTCTTGACGAGTTCTTCTGAGCGGGACTCTGGGGTTCGAAATGACCGAC
CAAGCGACGCCCAACCTGCCATCACGAGATTTCGATTCCACCGCCGCCTTCTATGAAAGG
TTGGGCTTCGGAATCGTTTTCCGGGACGCCGGCTGGATGATCCTCCAGCGCGGGGATCTC
ATGCTGGAGTTCTTCGCCCACCCCAACTTGTTTATTGCAGCTTATAATGGTTACAAATAA
AGCAATAGCATCACAAATTTCACAAATAAAGCATTTTTTTCACTGCATTCTAGTTGTGGT
TTGTCCAAACTCATCAATGTATCTTATCATGTCTGTATACCGTCGACCTCTAGCTAGAGC
TTGGCGTAATCATGGTCATAGCTGTTTCCTGTGTGAAATTGTTATCCGCTCACAATTCCA
CACAACATACGAGCCGGAAGCATAAAGTGTAAAGCCTGGGGTGCCTAATGAGTGAGCTAA
CTCACATTAATTGCGTTGCGCTCACTGCCCGCTTTCCAGTCGGGAAACCTGTCGTGCCAG
CTGCATTAATGAATCGGCCAACGCGCGGGGAGAGGCGGTTTGCGTATTGGGCGCTCTTCC
GCTTCCTCGCTCACTGACTCGCTGCGCTCGGTCGTTCGGCTGCGGCGAGCGGTATCAGCT
CACTCAAAGGCGGTAATACGGTTATCCACAGAATCAGGGGATAACGCAGGAAAGAACATG
TGAGCAAAAGGCCAGCAAAAGGCCAGGAACCGTAAAAAGGCCGCGTTGCTGGCGTTTTTC
CATAGGCTCCGCCCCCCTGACGAGCATCACAAAAATCGACGCTCAAGTCAGAGGTGGCGA
AACCCGACAGGACTATAAAGATACCAGGCGTTTCCCCCTGGAAGCTCCCTCGTGCGCTCT
CCTGTTCCGACCCTGCCGCTTACCGGATACCTGTCCGCCTTTCTCCCTTCGGGAAGCGTG
GCGCTTTCTCATAGCTCACGCTGTAGGTATCTCAGTTCGGTGTAGGTCGTTCGCTCCAAG
CTGGGCTGTGTGCACGAACCCCCCGTTCAGCCCGACCGCTGCGCCTTATCCGGTAACTAT
CGTCTTGAGTCCAACCCGGTAAGACACGACTTATCGCCACTGGCAGCAGCCACTGGTAAC
AGGATTAGCAGAGCGAGGTATGTAGGCGGTGCTACAGAGTTCTTGAAGTGGTGGCCTAAC
TACGGCTACACTAGAAGAACAGTATTTGGTATCTGCGCTCTGCTGAAGCCAGTTACCTTC
GGAAAAAGAGTTGGTAGCTCTTGATCCGGCAAACAAACCACCGCTGGTAGCGGTTTTTTT
GTTTGCAAGCAGCAGATTACGCGCAGAAAAAAAGGATCTCAAGAAGATCCTTTGATCTTT
TCTACGGGGTCTGACGCTCAGTGGAACGAAAACTCACGTTAAGGGATTTTGGTCATGAGA
TTATCAAAAAGGATCTTCACCTAGATCCTTTTAAATTAAAAATGAAGTTTTAAATCAATC
TAAAGTATATATGAGTAAACTTGGTCTGACAGTTACCAATGCTTAATCAGTGAGGCACCT
ATCTCAGCGATCTGTCTATTTCGTTCATCCATAGTTGCCTGACTCCCCGTCGTGTAGATA
ACTACGATACGGGAGGGCTTACCATCTGGCCCCAGTGCTGCAATGATACCGCGAGACCCA
CGCTCACCGGCTCCAGATTTATCAGCAATAAACCAGCCAGCCGGAAGGGCCGAGCGCAGA
AGTGGTCCTGCAACTTTATCCGCCTCCATCCAGTCTATTAATTGTTGCCGGGAAGCTAGA
GTAAGTAGTTCGCCAGTTAATAGTTTGCGCAACGTTGTTGCCATTGCTACAGGCATCGTG
GTGTCACGCTCGTCGTTTGGTATGGCTTCATTCAGCTCCGGTTCCCAACGATCAAGGCGA
GTTACATGATCCCCCATGTTGTGCAAAAAAGCGGTTAGCTCCTTCGGTCCTCCGATCGTT
GTCAGAAGTAAGTTGGCCGCAGTGTTATCACTCATGGTTATGGCAGCACTGCATAATTCT
CTTACTGTCATGCCATCCGTAAGATGCTTTTCTGTGACTGGTGAGTACTCAACCAAGTCA
TTCTGAGAATAGTGTATGCGGCGACCGAGTTGCTCTTGCCCGGCGTCAATACGGGATAAT
ACCGCGCCACATAGCAGAACTTTAAAAGTGCTCATCATTGGAAAACGTTCTTCGGGGCGA
AAACTCTCAAGGATCTTACCGCTGTTGAGATCCAGTTCGATGTAACCCACTCGTGCACCC
AACTGATCTTCAGCATCTTTTACTTTCACCAGCGTTTCTGGGTGAGCAAAAACAGGAAGG
CAAAATGCCGCAAAAAAGGGAATAAGGGCGACACGGAAATGTTGAATACTCATACTCTTC
CTTTTTCAATATTATTGAAGCATTTATCAGGGTTATTGTCTCATGAGCGGATACATATTT
GAATGTATTTAGAAAAATAAACAAATAGGGGTTCCGCGCACATTTCCCCGAAAAGTGCCA
CCTGACGTC
【0049】
snRNA U6遺伝子はRNAポリメラーゼIIIによって転写され、3'末端にウリジンを有する短い転写物を生じることが報告されている。プロモーター領域を含むsnRNA U6遺伝子のゲノム断片を、一組のプライマー:
5'-GGGGATCAGCGTTTGAGTAA-3' (配列番号:27)、および
5'-TAGGCCCCACCTCCTTCTAT-3' (配列番号:28)
ならびに鋳型としてヒト胎盤DNAを用いてPCR増幅した。産物を精製し、TAクローニングキットを供給業者(Invitrogen)のプロトコールに従って使用し、pCRプラスミドベクターにクローニングした。一組のプライマー:
5'-TGCGGATCCAGAGCAGATTGTACTGAGAGT-3' (配列番号:29)および
5'-CTCTATCTCGAGTGAGGCGGAAAGAACCA-3' (配列番号:30)
を用いてPCR増幅したsnRNA U6遺伝子を含むBamHI,XhoI断片を精製し、pcDNA3.1(+)プラスミドのヌクレオチド1257位から56位の断片にクローニングした。連結されたDNAを、プライマー:
5'-TTTAAGCTTGAAGACTATTTTTACATCAGGTTGTTTTTCT-3' (配列番号:31)および
5'-TTTAAGCTTGAAGACACGGTGTTTCGTCCTTTCCACA-3' (配列番号:32)
を使用するPCRの鋳型として使用した。産物をHindIIIで消化し、その後に自己連結させて、psiU6BXベクタープラスミドを生成した。対照として、
5'-CACCGAAGCAGCACGACTTCTTCTTCAAGAGAGAAGAAGTCGTGCTGCTTC-3'(配列番号:33)および
5'-AAAAGAAGCAGCACGACTTCTTCTCTCTTGAAGAAGAAGTCGTGCTGCTTC-3'(配列番号:34)
からなる二本鎖オリゴヌクレオチドをpsiU6BXベクターのBbsI部位にクローニングすることによって、psiU6BX-EGFPを調製した。
【0050】
siRNA発現構築物
siRNAのヌクレオチド配列は、Ambionのウェブサイト(http://www.ambion.com/techlib/misc/siRNA_finder.html)から入手可能なsiRNA設計コンピュータプログラムを用いて設計した。簡単に述べると、siRNA合成用のヌクレオチド配列は、以下のプロトコールを用いて選択される。
【0051】
siRNA標的部位の選択:
1.各遺伝子の転写物の開始コドンAUGから開始して、下流にあるAAジヌクレオチド配列をスキャンする。siRNA標的候補部位として、AAおよび3'側隣接19ヌクレオチドの各々の出現を記録する。Tuschlらは、5'および3'非翻訳領域(UTR)ならびに開始コドン付近の(75塩基以内の)領域は調節タンパク質結合部位を多く含んでいる可能性があるので、これらに対するsiRNAを設計しないように勧めていない。UTR結合タンパク質および/または翻訳開始複合体はsiRNAエンドヌクレアーゼ複合体の結合を妨げる可能性がある。
【0052】
2.標的候補部位と適切なゲノムデータベース(ヒト、マウス、ラットなど)を比較して、他のコード配列と有意な相同性を有する標的配列を除く。
【0053】
3.合成に適した標的配列を選択する。遺伝子の長さに応じていくつかの標的配列を評価のために選択する。PCDH1 siRNA、CDH3 siRNA、またはGPR107 siRNAに用いられるオリゴヌクレオチドを以下に示す。それぞれのオリゴヌクレオチドは、この標的配列のセンスヌクレオチド配列とアンチセンスヌクレオチド配列との組み合わせである。ヘアピンループ構造および標的配列のヌクレオチド配列を、それぞれ、配列番号:19から配列番号:21、および配列番号:22から配列番号:24に示した(それぞれのヘアピンループ構造配列からエンドヌクレアーゼ認識部位を除いた)。
【0054】
PCDH1用のsiRNA発現ベクターの挿入配列
410si:
5’-CACCGACATCAATGACAACACACTTCAAGAGAGTGTGTTGTCATTGATGTC-3’ (配列番号: 13) および
5’-AAAAGACATCAATGACAACACACTCTCTTGAAGTGTGTTGTCATTGATGTC-3’ (配列番号: 14)
CDH3用のsiRNA発現ベクターの挿入配列
si24:
5’-CACCGGAGACAGGCTGGTTGTTGTTCAAGAGACAACAACCAGCCTGTCTCC-3’ (配列番号: 15) および
5’-AAAAGGAGACAGGCTGGTTGTTGTCTCTTGAACAACAACCAGCCTGTCTCC-3’ (配列番号: 16)
GPR107用のsiRNA発現ベクターの挿入配列
1003si:
5’-CACCGTGGCTCTACCAGCTCCTGTTCAAGAGACAGGAGCTGGTAGAGCCAC-3’ (配列番号: 17) および
5’-AAAAGTGGCTCTACCAGCTCCTGTCTCTTGAACAGGAGCTGGTAGAGCCAC-3’ (配列番号: 18)
対照用のsiRNA発現ベクターの挿入配列
EGFPsi: (対照)
5’- CACCGAAGCAGCACGACTTCTTCTTCAAGAGAGAAGAAGTCGTGCTGCTTC -3’ (配列番号: 33) および
5’-AAAAGAAGCAGCACGACTTCTTCTCTCTTGAAGAAGAAGTCGTGCTGCTTC-3’ (配列番号: 34)
【0055】
それぞれの配列の配列番号を表1に列挙した。
【表1】

【0056】
コロニー形成/MTTアッセイ
ヒトPDACa細胞株PK45P、KLM1、およびMIA-PaCa2を10cmディッシュ(5X105細胞/ディッシュ)にプレートし、Lipofectamine 2000(Invitrogen)またはFuGENE6(Roche)を使用し、製造業者の説明書に従って、EGFP標的配列(EGFP)を含むpsiU6BXおよび標的配列を含むpsiU6BXでトランスフェクトした。細胞を500mg/mlジェネティシンで1週間選択し、予備の細胞をトランスフェクションの48時間後に採取し、PCDH1、CDH3、およびGPR107に及ぼすノックダウン効果を確認するためにRT-PCRで分析した。RT-PCRのプライマーは前記で述べたものと同じであった。これらの細胞もそれぞれ、コロニー形成を評価するためにギムザ液で染色し、細胞数を評価するためにMTTアッセイを行った。
【0057】
[実施例2]
siRNAによるPCDH1、CDH3、またはGPR107遺伝子の発現低下および癌細胞の増殖抑制
これまでの研究において、レーザーマイクロダイセクションと、27,000の遺伝子がスポットされているゲノムワイドcDNAマイクロアレイを組み合わせることによって、PDACaの正確な発現プロファイルが作成された。本発明者らは、PDACaの起源と考えられた正常膵管上皮の発現パターンと比較して、PDACa細胞においてアップレギュレートしている遺伝子として、200を超える遺伝子を同定した(Nakamura T, Furukawa Y, Nakagawa H, Tsunoda T, Ohigashi H, Murata K, Ishikawa O, Ohgaki, Kashimura N, Miyamoto M, Hirano S, Kondo S, Katoh H, Nakamura Y, and Katagiri T. Genome-wide cDNA microarray analysis of gene-expression profiles in pancreatic cancers using populations of tumor cells and normal ductal epithelium cells selected for purity by laser microdissection. Oncogene, 2004 Feb 9, Epub ahead of print)。これらのPDACa細胞発現プロファイルに基づいて、本発明者らは3種類の過剰発現遺伝子を選択し、マイクロダイセクションされたPDACa細胞からのcDNAを用いたRT-PCR(図1A,B)または免疫組織化学(図2)によって、PCDH1およびCDH3はPDACaにおいて過剰発現していることが確認された。
【0058】
(1)PCDH1(プロトカドヘリン1)(GenBankアクセッション番号NM_002587;配列番号1、2)
PDACa細胞に及ぼすPCDH1の増殖効果または生存効果を調べるために、本発明者らは、哺乳動物ベクターをベースとするRNA干渉(RNAi)法によって、PDACa細胞株におけるPCDH1の内因性発現を特異的にノックダウンした。PCDH1は、ノーザンブロット分析(図3A)において示したように、正常な心臓、胎盤、前立腺において無制限に発現している。主要な必須臓器における発現は豊富でなく、このことは、これらの分子を標的とすることにより人体にはほとんど毒性を示さないことを示唆している。
【0059】
siRNA産生ベクターのトランスフェクションによって、PCDH1用に設計されたsiRNA、410siにおいて、内因性発現が明らかに低下した(図4A)。siRNAによる、PCDH1 mRNAに及ぼす、このノックダウン効果は、コロニー形成アッセイ(図4B)およびMTTアッセイ(図4C)における著しい増殖抑制をもたらした。これらの発見から、PDACa細胞におけるPCDH1の過剰発現は癌細胞生存能と関連していることが強く示唆された。PCDH1および他のプロトカドヘリンは、そのカドヘリンドメインによって細胞表面上での同種親和性の相互作用を有し、細胞骨格コンホメーション、細胞運動、または細胞増殖のための細胞間シグナル伝達を調節することが裏付けられている(Sano K, Tanihara H, Heimark RL, Obata S, Davidson M, St John T, Taketani S, Suzuki S. Protocadherins: a large family of cadherin-related molecules in central nervous system. EMBO J., 12:2249-56, 1993, Frank M, and Kemler R. Protocadherins. Curr Opin Cell Biol., 14:557-62, 2002.)。本発明者らのデータによれば、PCDH1は、細胞間接着におけるその同種親和性の相互作用を介して、膵臓癌細胞増殖の正のシグナルを調節している可能性が高い。
【0060】
(2)CDH3(P-カドヘリン)(GenBankアクセッション番号NM_001793;配列番号3,4)
本発明者らは、RT-PCR(図1B)および免疫組織化学(図2)によってPDACa細胞におけるCDH3過剰発現を確認し、またマイクロアレイデータおよびRT-PCR(図1B)によれば、CDH3の過剰発現は、本発明者らのPDACaプロファイルにおける200を超えるアップレギュレート遺伝子の中で最も優勢なパターンの1つであった。CDH3は、ノーザンブロット分析(図3B)に示されたように、正常な胸腺、前立腺、卵巣、気管において無制限に発現している。これは主要な必須臓器における発現は豊富ではなく、このことは、これらの分子の標的化がヒト身体での毒性につながらないと予想されることを示唆している。
【0061】
PDACa細胞に及ぼすCDH3の増殖効果または生存効果を調べるために、本発明者らは、哺乳動物ベクターをベースとするRNA干渉(RNAi)法によって、PDACa細胞株におけるCDH3の内因性発現を特異的にノックダウンした。siRNA産生ベクターのトランスフェクションによって、CDH3用に設計されたsiRNA、si24において、内因性発現が明らかに低下した(図5A)。siRNAによる、CDH3 mRNAに及ぼす、このノックダウン効果は、コロニー形成アッセイ(図5B)およびMTTアッセイ(図5C)における著しい増殖抑制をもたらした。これらの発見から、PDACa細胞におけるCDH3の過剰発現は癌細胞生存能ならびに細胞間相互作用と関連し、この分子は、細胞間相互作用からのシグナル伝達に関与している可能性があることが強く示唆された。PDACaは悪性度が極めて高く、PDACaにおけるCDH3の高発現は、その悪性度および転移能とも関連している可能性がある。
【0062】
(3)GPR107(Gタンパク質共役受容体107)(GenBankアクセッション番号AB046844;配列番号5,6)
本発明者らは、機能とリガンドが未知のこのオーファンGPCRを膵臓癌の標的として同定した。GPR107は、ノーザンブロット分析(図3C)において示されたように、正常な心臓、胎盤、骨格筋、精巣、卵巣、脊髄において無制限に発現している。PDACa細胞に及ぼすGPR107の増殖効果または生存効果を調べるために、本発明者らは、siRNAによって、PDACa細胞株におけるGPR107の内因性発現を特異的にノックダウンした。siRNA産生ベクターのトランスフェクションによって、GPR107用に設計されたsiRNA、1003siにおいて内因性発現が明らかに低下した(図6A)。siRNAによる、GPR107 mRNAに及ぼすこのノックダウン効果は、コロニー形成アッセイ(図6B)およびMTTアッセイ(図6C)における増殖抑制をもたらした。これらの発見から、PDACa細胞におけるGPR107の過剰発現は癌細胞生存能と関連していることが強く示唆された。
【0063】
結論として、本発明者らは、PDACa細胞において過剰発現する3種類の膜型分子を同定し、これらの分子は全て癌細胞増殖に関連している可能性が高く、このことは、これらの膜型分子が致命的な膵臓癌の治療に理想的な標的分子であることを示唆した。
【0064】
産業上の利用可能性
本発明者らは、PCDH1遺伝子、CDH3遺伝子、またはGPR107遺伝子を特異的標的とする低分子干渉RNA(siRNA)によって細胞増殖が抑制されることを示した。従って、この新規siRNAは抗癌剤を開発するための有用な標的である。例えば、PCDH1、CDH3、またはGPR107の発現を遮断するか、またはそれらの活性を阻止する薬剤は、抗癌剤として、例えば、膵管腺癌(PDACa)といった膵臓癌を特に治療するための抗癌剤として治療上有用性を見出しうる。
【0065】
本発明を、詳細にかつ本発明の特定の態様を参照して説明してきたが、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、本発明に様々な変更および改変を加えることができることは当業者に明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】RT-PCRによるPDACa細胞におけるPCDH1(A)およびCDH3(B)の過剰発現の確認結果を示した写真である。同じ個体からマイクロダイセクションした正常膵管上皮細胞(正常)と必須臓器(肺、心臓、肝臓、腎臓、および骨髄)を半定量RT-PCRによって比較した。
【図2】PDACa組織における免疫組織化学の結果を示した写真である。CDH3タンパク質の過剰発現は膵管腺癌において観察されたが、正常膵管では観察されなかった。
【図3】正常成人組織における、それぞれの膵臓癌標的遺伝子の発現パターンを示したノーザンブロット分析の写真である。(A)PCDH1、(B)CDH3、および(C)GPR107。
【図4】siRNAによるPDACa細胞PK-45Pにおける内因性PCDH1のノックダウン効果を示した写真である。図4(A)はRT-PCR結果を示している。siRNA発現ベクター410siのトランスフェクションによってPCDH1 mRNAのノックダウン効果が確認されたが、EGFPsiでは確認されなかった。410siは、PCDH1 mRNA配列に対して特異的に設計され、EGFPは、EGFP mRNA配列に対して設計された。RNAをトランスフェクションの48時間後に採取し、分析した。投与cDNAを標準化するために、ACTBを使用した。図4(B)はコロニー形成アッセイ結果を示した写真である。RT-PCRによってPCDH1を効果的にノックダウンすることが確認された410siを用いたトランスフェクションの1週間後に、細胞のコロニー数が著しく減少することが示された。図4(C)はMTTアッセイ結果を示す棒グラフである。これもまた、410siでトランスフェクトされた増殖細胞の数は著しく減少するが、EGFPsiでは減少しないことを示した。
【図5】siRNAによるPDACa細胞KLM-1における内因性CDH3のノックダウン効果を示した写真である。図5(A)はRT-PCR結果を示している。siRNA発現ベクターsi24のトランスフェクションによってCDH3 mRNAのノックダウン効果が確認されたが、EGFPsiでは確認されなかった。si24は、CDH3 mRNA配列に対して特異的に設計され、EGFPsiは、EGFP mRNA配列に対して設計された。RNAをトランスフェクションの48時間後に採取し、分析した。投与cDNAを標準化するために、ACTBを使用した。図5(B)は、コロニー形成アッセイ結果を示した写真である。RT-PCRによってCDH3を効果的にノックダウンすることが確認されたsi24を用いたトランスフェクションの1週間後に、細胞のコロニー数が著しく減少することが示された。図5(C)はMTTアッセイ結果を示した棒グラフである。これもまた、si24でトランスフェクトされた増殖細胞の数は著しく減少するが、EGFPsiでは減少しないことを示した。
【図6】siRNAによるPDACa細胞KLM-1における内因性GPR107のノックダウン効果を示した写真である。図6(A)はRT-PCR結果を示している。siRNA発現ベクター1003siのトランスフェクションによってGPR107 mRNAノックダウン効果が確認されたが、EGFPsiでは確認されなかった。1003siは、GPR107 mRNA配列に対して特異的に設計され、EGFPsiは、EGFP mRNA配列に対して設計された。RNAをトランスフェクションの48時間後に採取し、分析した。投与cDNAを標準化するために、ACTBを使用した。図6(B)は、コロニー形成アッセイ結果を示した写真である。RT-PCRによってGPR107を効果的にノックダウンすることが確認された1003siを用いたトランスフェクションの1週間後に、細胞のコロニー数が減少することが示された。図6(C)はMTTアッセイ結果を示した棒グラフである。これもまた、1003siでトランスフェクトされた増殖細胞の数は減少するが、EGFPsiでは減少しないことを示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PCDH1、CDH3、またはGPR107の発現を阻害する低分子干渉RNA(siRNA)を含む組成物を被検体に投与する工程を含む、被検体における膵臓癌を治療または予防する方法。
【請求項2】
siRNAが、PCDH1、CDH3、またはGPR107に由来する配列に特異的にハイブリダイズするセンス核酸配列およびアンチセンス核酸配列を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
膵臓癌が膵管腺癌(PDACa)である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
siRNAが、標的配列として配列番号:22、23、および24からなる群より選択される配列に対応するリボヌクレオチド配列を含む、請求項2記載の方法。
【請求項5】
siRNAが一般式5'-[A]-[B]-[A']-3'を有し、式中、[A]が、配列番号:22、23、および24のヌクレオチドからなる群より選択される配列に対応するリボヌクレオチド配列であり、[B]が、3〜23個のヌクレオチドからなるリボヌクレオチドループ配列であり、[A']が、[A]の相補配列からなるリボヌクレオチド配列である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
組成物がトランスフェクション促進剤を含む、請求項1記載の方法。
【請求項7】
センス鎖およびアンチセンス鎖を含む二本鎖分子であって、センス鎖は、配列番号:22、23、および24からなる群より選択される標的配列に対応するリボヌクレオチド配列を含み、アンチセンス鎖は、該センス鎖に相補的なリボヌクレオチド配列を含み、該センス鎖および該アンチセンス鎖は互いにハイブリダイズして該二本鎖分子を形成し、かつ該二本鎖分子は、PCDH1遺伝子、CDH3遺伝子、またはGPR107遺伝子を発現している細胞に導入されると、該遺伝子の発現を阻害する、二本鎖分子。
【請求項8】
標的配列が、配列番号:1、3、および5の群より選択されるヌクレオチド配列に由来する少なくとも約10個の連続したヌクレオチドを含む、請求項7記載の二本鎖分子。
【請求項9】
標的配列が、配列番号:1、3、および5の群より選択されるヌクレオチド配列に由来する約19〜約25個の連続したヌクレオチドを含む、請求項8記載の二本鎖分子。
【請求項10】
一本鎖リボヌクレオチド配列を介して連結しているセンス鎖およびアンチセンス鎖からなる1本のリボヌクレオチド転写物である、請求項9記載の二本鎖分子。
【請求項11】
約100ヌクレオチド長未満のオリゴヌクレオチドである、請求項8記載の二本鎖分子。
【請求項12】
約75ヌクレオチド長未満のオリゴヌクレオチドである、請求項11記載の二本鎖分子。
【請求項13】
約50ヌクレオチド長未満のオリゴヌクレオチドである、請求項12記載の二本鎖分子。
【請求項14】
約25ヌクレオチド長未満のオリゴヌクレオチドである、請求項13記載の二本鎖分子。
【請求項15】
約19〜約25ヌクレオチド長のオリゴヌクレオチドである、請求項14記載の二本鎖ポリヌクレオチド。
【請求項16】
請求項8記載の二本鎖分子をコードするベクター。
【請求項17】
二次構造を有する転写物をコードし、かつセンス鎖およびアンチセンス鎖を含む、請求項16記載のベクター。
【請求項18】
転写物が、センス鎖およびアンチセンス鎖を連結する一本鎖リボヌクレオチド配列をさらに含む、請求項17記載のベクター。
【請求項19】
センス鎖核酸とアンチセンス鎖核酸の組み合わせを含むポリヌクレオチドを含むベクターであって、該センス鎖核酸は配列番号:22、23、および24のヌクレオチド配列を含み、該アンチセンス鎖核酸はセンス鎖に相補的な配列からなる、ベクター。
【請求項20】
ポリヌクレオチドが一般式
5'-[A]-[B]-[A']-3'
を有し、式中、[A]が、配列番号:22、23、および24のヌクレオチド配列であり、[B]が、3〜23個のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列であり、[A']が、[A]に相補的なヌクレオチド配列である、請求項19記載のベクター。
【請求項21】
活性成分として、PCDH1、CDH3、またはGPR107の発現を阻害する、薬学的に有効な量の低分子干渉RNA(siRNA)および、薬学的に許容される担体を含む、膵臓癌を治療または予防するための薬学的組成物。
【請求項22】
siRNAが、標的配列として配列番号:22、23、および24からなる群より選択されるヌクレオチド配列を含む、請求項21記載の薬学的組成物。
【請求項23】
siRNAが一般式
5'-[A]-[B]-[A']-3'
を有し、式中、[A]が、配列番号:22、23、および24のヌクレオチド配列に対応するリボヌクレオチド配列であり、[B]が、3〜23個のヌクレオチドからなるリボヌクレオチド配列であり、[A']が、[A]に相補的なリボヌクレオチド配列である、請求項22記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2007−530431(P2007−530431A)
【公表日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−525966(P2006−525966)
【出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【国際出願番号】PCT/JP2005/005619
【国際公開番号】WO2005/090572
【国際公開日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(502240113)オンコセラピー・サイエンス株式会社 (142)
【Fターム(参考)】