説明

膵臓癌治療用のCD95シグナル伝達阻害化合物

本発明は膵臓癌細胞中のCD95シグナル伝達阻害化合物に関する。さらに、本発明が意図するのは膵臓癌を予防および/または治療するためのかかる化合物を含む医薬品、ならびに膵臓癌を予防および/または治療する、癌細胞の遊走を予防する、および/または炎症反応を予防および/または治療するための医薬品を製造するためのかかる化合物の使用である。本発明はまた、CD95シグナル伝達阻害化合物を同定する方法、ならびにCD95シグナル伝達阻害化合物を同定する方法の諸ステップと前記阻害化合物を医薬品として製剤するさらなるステップを含む医薬品を製造する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は膵臓癌細胞におけるCD95シグナル伝達阻害化合物に関する。さらに、本発明の意図するところは、膵臓癌を予防および/または治療するためのかかる化合物を含む医薬品、ならびに、膵臓癌の予防および/または治療、癌細胞の遊走の予防、および/または炎症反応の予防および/または治療用の医薬品を製造するためのかかる化合物の使用である。本発明はまた、CD95シグナル伝達阻害化合物を同定する方法、ならびに、CD95シグナル伝達阻害化合物を同定する方法の諸ステップと阻害する化合物を医薬品として製剤するさらなるステップを含むものである医薬品を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CD95(同義語:FasR、Apo-1)は哺乳動物細胞の表面上の受容体であって、そのコグネイトリガンドであるCD95Lの三量体型が結合するとアポトーシスを誘発する能力を有することは公知である(Krammer,P.H. (2000). "CD95's deadly mission in the immune system". Nature 407, 789-795)。さらに、CD95/CD95L系は悪性細胞が利用して、その浸潤および転移能力を増加することが見出されている。この経路では、CD95活性化はPI3経路を活性化することにより浸潤を増加し、メタロプロテイナーゼ発現を増加する(Kleber,S., et al., (2008). "Yes and PI3K bind CD95 to signal invasion of glioblastoma". Cancer Cell 13, 235-248)。
【0003】
神経膠腫モデルでは、CD95活性化の結果は腫瘍のステージに依存することが見出された:すなわち、低グレード(WHOグレードIおよびII)の腫瘍細胞でのみアポトーシスを引き起こしたが、高グレード(グレードIV)腫瘍はアポトーシスに耐性であった。それどころか、高グレード細胞ではCD95活性化によって遊走と浸潤が活性化された(Kleber,S., et al.,(2008). "Yes and PI3K bind CD95 to signal invasion of glioblastoma". Cancer Cell 13, 235-248)。
【0004】
膵臓癌は100,000被験体について1年当たりおよそ10〜13件の発生率であり;これらのうち、95%は膵臓腺癌である。この癌の予後判定は非常に悪く、その理由は主に患者が通常、非常に長い初期無症候期間を有することに因る。その結果、癌がまだ初発部位に限局される間(限局段階)に診断された膵臓癌事例は7%しかなく、それに対して50%超は癌は既に転移した後(遠隔段階)に診断されている。対応する相対的5年間生存率は、それぞれ限局段階で22%、および遠隔段階で2%未満である。
【0005】
治療の意図による外科切除が望ましくない膵臓癌患者にとって、利用しうる治療処置は全くない。ゲムシタビンを用いる化学療法レジメンが工夫されているものの、膵臓癌細胞は耐性が高いので、これらは主に患者の生活の質を改善する対症的な対策として用いられるだけである。様々な化学療法および/または照射療法レジメンの生存に対する影響は数か月の範囲であり、従って予後判定はかかる治療によって有意に改善されるものでない(Pawlik,T.M., et al., (2008). "Evaluating the impact of a single-day multidisciplinary clinic on the management of pancreatic cancer". Ann. Surg. Oncol. 15, 2081-2088.)。従って、当技術分野では膵臓癌の治療法の改善、およびこの癌の治療に有用である確かな化合物が必要とされる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Krammer,P.H. (2000). "CD95's deadly mission in the immune system". Nature 407, 789-795
【非特許文献2】Kleber,S., et al., (2008). "Yes and PI3K bind CD95 to signal invasion of glioblastoma". Cancer Cell 13, 235-248
【非特許文献3】Pawlik,T.M., et al., (2008). "Evaluating the impact of a single-day multidisciplinary clinic on the management of pancreatic cancer". Ann. Surg. Oncol. 15, 2081-2088.
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、まさに、膵臓癌細胞におけるCD95シグナル伝達阻害化合物に関する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】CD95は膵臓腺癌細胞のPI3K経路をトリガーする。膵臓細胞株Colo357、PANC1およびPanD3初代細胞株を、示した濃度のCD95L-T4、スタウロスポリン(St.、1μM)およびゲムシタビンと共にまたは無処理のまま(Co)インキュベートした。24時間後、DNA断片化をFACSにより分析した(上方パネル)。
【図2】CD95は膵臓腺癌細胞のPI3K経路をトリガーする。異なる濃度のCD95L-T4を用いて、示した時点に処理した時の、PanD3、PANC1およびColo357細胞における、AKTおよびERKのリン酸化を示す。P:リン酸化;T:合計。
【図3】CD95は膵臓腺癌細胞における浸潤および翻訳の増加をFADDに非依存的な様式でトリガーする。PI3KおよびMEKインヒビター(それぞれLY2940092およびPD98059)のAKTおよびERKのCD95-誘発リン酸化に与える効果をPANC1およびColo357において示した。PI3Kの阻害はERKリン酸化を増強する。P:リン酸化;T:合計。
【図4】CD95は膵臓腺癌細胞における浸潤および翻訳の増加をFADDに非依存的な様式でトリガーする。CD95L-T4を用いて、示した時点にFADDノックダウンのもとで処理した時の、PANC1細胞における、AKTおよびERKのリン酸化を示す。P:リン酸化;T:合計。
【図5−1】CD95はアダプター分子Sckとタンパク質複合体を形成する。A)Colo357、PANC1およびPanD3からの内因性CD95とSckのSH2とのトランスシグナルSH2-ドメインアレイ結合。B)PANC1およびColo357におけるチロシンリン酸化タンパク質の免疫沈降を示す。CD95刺激時に、Sckチロシンリン酸化は増加する。C)PANC1およびColo357におけるCD95とSckの免疫共沈降を示す。Sckの補充増加が15分間刺激後に観察される。P:リン酸化;T:合計;*:特異的なバンド。
【図5−2】CD95はアダプター分子Sckとタンパク質複合体を形成する。A)Colo357、PANC1およびPanD3からの内因性CD95とSckのSH2とのトランスシグナルSH2-ドメインアレイ結合。B)PANC1およびColo357におけるチロシンリン酸化タンパク質の免疫沈降を示す。CD95刺激時に、Sckチロシンリン酸化は増加する。C)PANC1およびColo357におけるCD95とSckの免疫共沈降を示す。Sckの補充増加が15分間刺激後に観察される。P:リン酸化;T:合計;*:特異的なバンド。
【図6】SckノックダウンはCD95下流のシグナル伝達を無効にする。A)Sck siRNAは、AKT(左パネル)およびERK(右パネル)のCD95誘発型リン酸化をブロックする。B)SckノックダウンはCD95-PI3K誘発型遊走を無効にする。C)定量-RT-PCRにより効率的に評価されたSckノックダウンを示した。結果は平均±S.D.として表した。** P<0.05。
【図7】in vivoでCD95Lを中和すると、腫瘍体積および転移形成が低下する。初生腫瘍(a)と肝臓転移(c)領域の合計フォトン数を測定することによる、a)およびc)の生物発光強度分析。b)色々な治療グループにおける転移のパーセント。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書で使用する用語「CD95シグナル伝達」は、好ましくは、膵臓癌細胞におけるCD95シグナル伝達経路の一成分から他成分への、少なくとも1つの活性モジュレーションシグナル(activity modulating signal)の伝達に関する。理解されるべきは、本明細書で使用するCD95シグナル伝達は具体的に、前記シグナルがCD95を介して伝達されるかまたは作製され、そして膵臓癌細胞内でCD95とSck(別名:SHC2、Src相同性-2ドメインを含有するトランスフォーミングタンパク質)の相互作用を介して伝達されることを特徴とする、活性モジュレーションシグナルの伝達に関する。CD95シグナル伝達経路の好ましい成分は本明細書において随所に記載されている。好ましくは、活性モジュレーションシグナルは不活化シグナルである。理解されるべきは、しかし、シグナル伝達経路の成分の1つの不活化はまた、全体としてこのシグナル伝達経路の活性化をもたらしうるので、伝達される活性モジュレーションシグナルはまた、阻害シグナルであってもよい。活性モジュレーションシグナルを伝達する方式には、例えば、タンパク質-タンパク質相互作用、異性化の誘導、タンパク質分解プロセシング、細胞内転位置および/または少なくとも1つのユビキチン部分の転位置および/または移動が含まれる。好ましくは、活性モジュレーションシグナルの伝達は、少なくとも1つの小分子基、例えば、硫酸、リン酸、アシル、メチル、またはプレニル基などの伝達を含む。膵臓の腫瘍細胞において、CD95刺激後の分子事象の上流カスケードは、非触媒アダプタータンパク質Sckにより駆動される。CD95刺激は、Sckチロシンリン酸化の増加およびPI3KおよびERKの活性化をもたらし、それにより遊走の増加をもたらす。
【0010】
本発明の文脈における「CD95シグナル伝達経路のシグナル伝達成分」(CD95シグナル伝達成分)は、好ましくは、膵臓癌細胞において本明細書で先に記載したようにCD95を介して伝達されるかまたは作製されるおよびSHCを介して伝達される、活性化シグナルの作製および/または細胞内外の伝達に関わる化学分子である。好ましくは、前記CD95シグナル伝達成分はタンパク質である。より好ましくは、前記シグナル伝達成分は、CD95リガンド、配列番号1、Genbank受託番号:NP_000630.1 GI:4557329;CD95、配列番号2、Genbank受託番号:AAH12479.1 GI:15214692;SFK(Srcファミリーキナーゼ)(Bリンパ様チロシンキナーゼ)、配列番号3、Genbank受託番:NP_001706.2 GI:33469982;Yamaguchi肉腫ウイルス(v-yes-1)癌遺伝子同族体アイソフォームA、配列番号4、Genbank受託番号:NP_002341.1 GI:4505055;Yamaguchi肉腫ウイルス(v-yes-1)癌遺伝子同族体アイソフォームB、配列番号5、Genbank受託番号:NP_001104567.1 GI:162287326;造血性細胞キナーゼアイソフォームp61HCK、配列番号6、Genbank受託番号:NP_002101.2 GI:30795229;プロト-癌遺伝子チロシン-タンパク質キナーゼSRC、配列番号7、Genbank受託番号:NP_938033.1 GI:38202217;プロト-癌遺伝子チロシン-タンパク質キナーゼFGR、配列番号8、Genbank受託番号:NP_001036212.1 GI:112382244;リンパ球特異的タンパク質チロシンキナーゼ前駆体、配列番号9、Genbank受託番号:NP_001036236.1 GI:112789548;プロト-癌遺伝子チロシン-タンパク質キナーゼfyn-アイソフォームc、配列番号10、Genbank受託番号:NP_694593.1 GI:23510364;ウイルス癌遺伝子yes-1同族体1、配列番号11、Genbank受託番号:NP_005424.1 GI:4885661);Grb2(成長因子受容体結合タンパク質-2)(成長因子受容体結合タンパク質2アイソフォーム1)、配列番号12、Genbank受託番号:NP_002077.1 GI:4504111;(成長因子受容体-結合タンパク質2アイソフォーム2)、配列番号13、Genbank受託番号:NP_987102.1 GI:45359859;SOS(セブンレスの息子)(セブンレスの息子同族体 1)、配列番号14、Genbank受託番号:NP_005624.2 GI:15529996;RasファミリーのスモールGTP結合タンパク質(v-Ha-ras Harveyラット肉腫ウイルス癌遺伝子同族体アイソフォーム1)、配列番号15、Genbank受託番号:NP_001123914.1 GI:194363762;v-Ha-ras Harveyラット肉腫ウイルス癌遺伝子同族体アイソフォーム 2、配列番号16、Genbank受託番号:NP_789765.1 GI:34222246;c-K-ras2タンパク質アイソフォームb前駆体、配列番号17、Genbank受託番号:NP_004976.2 GI:15718761;c-K-ras2タンパク質アイソフォームa前駆体、配列番号18、Genbank受託番号:NP_203524.1 GI:15718763;神経芽細胞腫RASウイルス(v-ras)癌遺伝子同族体前駆体 、配列番号19、Genbank受託番号:NP_002515.1 GI:4505451)からなる群より選択される。最も好ましくは、前記CD95シグナル伝達成分はSck(SHC(Src相同性2ドメインを含有する)トランスフォーミングタンパク質2、配列番号20、Genbank受託番号:NP_036567.2 GI:169790811)である。
【0011】
用語「化合物」は化学分子、すなわち有機物または無機物を意味する。有機分子は、公知の分子の化学クラスに属するものであってよい。好ましくは、有機分子は脂質、脂肪酸、プリン、ピリミジン、アルカロイド、アミノ酸、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、生体のアミン、イソプレノイドまたはステロイドである。
【0012】
本明細書で使用する用語「CD95シグナル伝達阻害化合物」は、膵臓癌細胞と接触させると、CD95シグナル伝達成分をコードする少なくとも1つの遺伝子(CD95シグナル伝達遺伝子)の発現におよび/または前記CD95シグナル伝達遺伝子の少なくとも1つの遺伝子産物の安定性に変化を引き起こす化合物に関する。前記変化は、前記膵臓癌細胞が前記化合物に接触させなかった対照細胞から測定上差別化される程度のものである。CD95シグナル伝達の阻害を検出するために確認できるパラメーターとしては、細胞増殖、細胞遊走、細胞によるメタロプロテイナーゼの産生、転移形成、および腫瘍侵襲が挙げられる。CD95シグナル伝達遺伝子の遺伝子産物の活性は、本明細書に記載のCD95シグナル伝達において活性モジュレーションシグナルの伝達に寄与する能力である。CD95シグナル伝達遺伝子の遺伝子産物の安定性は、活性の喪失または崩壊に対する耐性の程度である。遺伝子産物の安定性は、前記分子の分子数または活性が初期値のある特定の分率、例えば0.5、0.2、または0.1へ低下するまでに要する時間を決定することにより測定することができる。例えば、所与の分子集団の量または活性を0.5に低減するために要する時間は半減期であり;従って、半減期の長いほど、安定性が増加することを示す。遺伝子産物の活性または安定性の変化を決定する方法はかかる遺伝子産物の性質に依存しうる;かかる方法としては、例えば、当業者に周知のハイブリダイゼーションまたはPCR方法によりポリ核酸の量を測定する方法、または以下に記載したキナーゼアッセイで特定の酵素活性を測定する方法(例えば、実施例5を参照)を挙げることができる。
【0013】
好ましくは、CD95シグナル伝達阻害化合物は、前記CD95シグナル伝達遺伝子または遺伝子産物の少なくとも1つの機能をネガティブに干渉、すなわち阻害し、好ましくは、前記少なくとも1つの遺伝子の少なくとも1つの産物の活性および/または安定性を減少することを意味する。しかし、単一のCD95シグナル伝達成分の発現もしくは活性化の増加は、本明細書に詳述したCD95シグナル伝達の全体的阻害をもたらしうるので、CD95シグナル伝達阻害化合物はまた、前記CD95シグナル伝達遺伝子もしくはその遺伝子産物の少なくとも1つの機能を活性化しうる。
【0014】
理解されるべきは、遺伝子またはその遺伝子産物の機能のモジュレーションは機能の統計的に有意なモジュレーションを意味する、すなわち、遺伝子またはその遺伝子産物の機能の適度な変化を意味しうるのであって、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、または50%以上の量、活性、または半減期の変化を意味する。また、CD95シグナル伝達の阻害の場合、CD95シグナル伝達を媒介する成分をコードする遺伝子の一機能の阻害は、機能性CD95シグナル伝達を持たない細胞の少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%の分率をもたらす程度までが適当である。モジュレーションが統計的に有意であるかどうかは、さらなる面倒なしに、好ましくは、標準統計学、例えば、信頼区間の決定、p-値決定、スチューデントのt検定、マン-ホイットニー検定を応用することにより当業者は決定することができ、好ましい信頼区間は、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%である。p-値は好ましくは、0.1、0.05、0.01、0.005、または0.0001である。
【0015】
本発明の意図することは、好適な化合物を好ましい人工の化学ライブラリーをスクリーニングすることにより取得し、このライブラリーを、例えば、コンビナトリアル化学手法によるかまたは、例えば、生物(古細菌、細菌、真菌、植物、または動物など)からの抽出物を分留することにより得た自然化合物ライブラリーのスクリーニングにより得ることである。好適な化合物はまた、例えば分子モデリング手法に基づくin silicoスクリーニング法により作製することができる。
【0016】
好ましくは、CD95シグナル伝達遺伝子の機能をモジュレーションする化合物は遊走アッセイなどのアッセイを用いるかまたは下流の標的、例えばERKもしくはAKTのリン酸化の誘発を測定することにより同定する。より好ましくは、前記技法は、ハイスループットスクリーニング系に用いられる(例えば、Liu et al. (2004), Am. J. Pharmacogenomics 4(4), 263 - 276を参照)。
【0017】
好ましくは、CD95シグナル伝達阻害化合物は、RNA干渉(RNAi)剤、リボザイム、DNAザイム、阻害性抗体、およびアプタマーから成るリストより選択される。かかる化合物を得る方法は当技術分野で周知である(例えば、Bhindi et al. (2007), Am. J. Path. 171, 1079 - 1088、および本明細書の残部を参照)。
「RNA干渉」は選択した標的遺伝子の転写後の配列特異的遺伝子サイレンシングを意味する。本発明の文脈におけるRNAi剤は、好ましくは、前記CD95シグナル伝達遺伝子から転写したRNA(標的RNA)の分解によりまたは前記標的RNAの翻訳の阻害により、CD95シグナル伝達遺伝子の発現を低減する。標的RNAは好ましくはCD95シグナル伝達成分をコードするmRNAである、しかしながら、いずれの型のRNAも本発明のRNAi法に包含される。理解されるべきは、本明細書で使用するサイレンシングは、必ずしも全事例における遺伝子発現の完全な無効化を意味しない。RNAiは、好ましくは、RNAi無しでの対照の発現レベルと比較して、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%だけ、遺伝子発現を低減する。
【0018】
RNAiは細胞内で、標的RNAと配列が相同性であるdsRNAの存在を必要とする。用語「dsRNA」は、2つの相補的およびアンチパラレルな核酸鎖を含む二重鎖構造を有するRNAを意味する。dsRNAを形成するRNA鎖のヌクレオチド数は同じでもまたは異なってもよく、その際、dsRNAの鎖の1つが標的RNAであってもよい。しかし、本発明はまた、dsRNAが同じRNA分子上の2つの配列区間の間で形成されることも意図する。
【0019】
RNAiを用いて本発明のCD95シグナル伝達遺伝子の発現をin vivoで阻害することができる。従ってRNAiを、本発明のCD95シグナル伝達遺伝子の少なくとも1つの発現の改変に付随する膵臓癌の治療手法に用いることができる。かかる治療手法のために、CD95シグナル伝達遺伝子発現の変化に悩まされる宿主の標的細胞中に、siRNA用の発現構築物を導入することができる。従って、siRNAを他の治療手法と効率的に組み合わせることができる。
【0020】
哺乳動物を含む動物において遺伝子をサイレンシングするためのRNAiの使用に関する方法は当技術分野で公知である(例えば、Hammond et al. (2001), Nature Rev. Genet. 2, 110-119;Bernstein et al. (2001), Nature 409, 363-366;WO 9932619;およびElbashir et al. (2001), Nature 411: 494-498を参照)。
【0021】
本明細書で使用する用語「RNAi剤」は、好ましくは、本明細書に記載のsiRNA剤またはmiRNA剤を意味する。本発明のRNAi剤は標的RNAと安定して相互作用するために十分な長さと相補性である、すなわち、標的RNAと少なくとも15、少なくとも17、少なくとも19、少なくとも21、少なくとも22個のヌクレオチド相補性を有する。「安定して相互作用する」は、RNAi剤または細胞により産生されるその産物と標的RNAとの相互作用であって、生理条件下で標的RNA中の相補性ヌクレオチドと水素結合を形成することによる前記相互作用を意味する。
【0022】
RNAi剤の全ヌクレオチドが標的RNAとの相互作用において必ずしも完全なワットソン‐クリック塩基対を示すのでなく;2つのRNA鎖は実質的に相補的であってもよい。好ましくはRNAi剤とRNA標的との間の相補性は100%であるが、所望であれば、それより低く、好ましくは、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%であってもよい。例えば、21個の塩基のうちの19個の塩基が塩基対合していてもよい。様々な対立遺伝子変異体の間の区別が所望である場合のいくつかの例では、他の対立遺伝子配列から標的配列を効率的に識別するために、CD95シグナル伝達遺伝子との100%相補性を必要としうる。対立遺伝子標的の間で選択する場合、選択の長さも重要な因子である;何故ならこれは%相補性と対立遺伝子間相違を差別化する能力に関わる他の因子であるからである。
【0023】
本明細書で使用する用語「siRNA剤」は次のa)〜c)を包含する:a)塩基対合した、すなわち、相補性ヌクレオチドで水素結合を形成する少なくとも15、少なくとも17、少なくとも19、少なくとも21個の継続ヌクレオチドから成るdsRNA;b)スモール干渉RNA(siRNA)分子またはsiRNA分子を含む分子であって、siRNAが1本鎖RNA分子で、好ましくは、15個以上のヌクレオチド、好ましくは、15〜49個のヌクレオチドの長さ、より好ましくは17〜30個のヌクレオチド、そして最も好ましくは17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、および30個のヌクレオチドの長さである前記分子;c)好ましくは、発現制御配列と機能的に連結されたa)またはb)をコードするポリ核酸。このように、CD95シグナル伝達遺伝子の発現を阻害するsiRNA剤の機能は、前記発現制御配列によりモジュレーションすることができる。好ましい発現制御配列は、外因性刺激により調節できるもの、例えば、その活性をテトラサイクリンにより調節できるtetオペレーター、または熱誘導プロモーターである。あるいはまた、さらに、siRNA剤の組織特異的発現を可能にする1以上の発現制御配列を用いることができる。
【0024】
しかし本発明はまた、RNAi剤がmiRNA剤であることも意図する。本明細書で使用する用語「miRNA剤」は次のa)〜d)を包含する。a)pri-マイクロRNA、すなわち、塩基非対合のヌクレオチドの区間(「ループ」)により分離された、同じmRNA分子上の相補性配列と塩基対合した少なくとも30、少なくとも40、少なくとも50、少なくとも60、少なくとも70個のヌクレオチド(「ステム」)をdsRNAとして含むmRNA。b)pre-マイクロRNA、すなわち、ループにより分離された、同じRNA分子のヌクレオチドにより形成された少なくとも19、少なくとも20、少なくとも21、少なくとも22、少なくとも23、少なくとも24、少なくとも25個の塩基対合したヌクレオチドの区間(ステム)を含むdsRNA分子。c)マイクロRNA(miRNA)、すなわち2つのRNA鎖上に少なくとも15、少なくとも17、少なくとも18、少なくとも19、少なくとも21ヌクレオチドを含むdsRNA。d)好ましくは、前記ポリ核酸が先に記載した発現制御配列と機能的に連結している、a)またはb)をコードするポリ核酸。
【0025】
本明細書で使用する用語「リボザイム」は標的RNA分子と特異的にハイブリダイズするRNA分子であって、前記標的RNA分子中の1以上のリン酸ジエステル結合の加水分解を触媒し、標的RNAを細胞酵素により分解する前記RNA分子を意味する。ハンマーヘッドリボザイム、ヘアピンリボザイム、またはRNase Pの様な好適な触媒特性を示すRNA配列が当技術分野で公知である(例えば、Doherty and Doudna (2001)、Annu. Rev. Biophys. Biomol. Struct. 30, 457 - 475を参照)。配列特異性および、従って、標的RNA特異性は、相補的、アンチパラレルRNA鎖のワットソン-クリック塩基対合を用いて、リボザイムの標的RNAとの特異的結合により達成される。目的のRNA配列を指向するリボザイムを作製する方法は当技術分野で公知である(例えば、Citti and Rainaldi (2005), Curr. Gene Ther. 5(1), 11 - 24を参照)。
【0026】
用語「DNAザイム」は、リボザイムと同じ結合および触媒特性を有する一本鎖分子を意味するが、前記DNAザイムはリボヌクレオチドの代わりにデオキシリボヌクレオチドを含むものである。in vitro選択の様な、DNAザイムを作製する方法は当業者に公知である(Achenbach et al. (2004) Curr. Pharm. Biotechnol. 5(4), 321 - 336)。
しかし、本発明が意図するのはまた、このリボザイムまたはDNAザイムが前記リボザイムまたはDNAザイムの安定性、特異性または触媒特性を改変する、改変ヌクレオチドもしくは化合物を含むことである。理解されるべきは、本明細書で使用する「触媒する」は必ずしも、リボザイムまたはDNAザイム1分子当たり1を超える加水分解事象の促進を意味するものでない。
【0027】
本明細書で使用する用語「抗体」は、免疫グロブリン(Ig)とも呼ばれるγグロブリンタンパク質のサブグループ由来の分子を意味する。抗体は、好ましくは、いずれかのサブタイプ、すなわち、IgA、IgD、IgE、IgMまたは、より好ましくは、IgGでありうる。本発明のCD95シグナル伝達遺伝子がコードするポリペプチドに対する抗体は、精製したポリペプチドまたはそれから抗原として誘導された好適な断片を用いて公知の方法により調製することができる。抗原として好適である断片は、当技術分野で周知の抗原性を決定するアルゴリズムにより同定することができる。かかる断片は、CD95シグナル伝達遺伝子がコードするポリペプチドからタンパク質分解消化により得てもよくまたは合成ペプチドであってもよい。好ましくは、本発明の抗体はモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、1本鎖抗体、ヒトもしくはヒト化抗体またはそれらの霊長類化、キメラ化抗体またはそれらの断片である。また、本発明の抗体として包含されるのは、二特異的または三特異的抗体、合成抗体、抗体フラグメント、例えば、Fab、FvまたはscFvフラグメントなど、またはこのいずれかの化学的に改変された誘導体である。本発明の抗体は、好ましくは、本発明のポリペプチドの1つと特異的に結合する(すなわち、他のポリペプチドまたはペプチドと交差反応しない)。特異的結合は、様々な周知の技法により試験することができる。
【0028】
抗体またはそのフラグメントは、例えば、Harlow and Lane "Antibodies, A Laboratory Manual(抗体、実験室マニュアル)", CSH Press, Cold Spring Harbor, 1988に記載の方法を用いて得ることができる。モノクローナル抗体は、Koehler and Milstein, Nature 256 (1975), 495、ならびにGalfre, Meth. Enzymol. 73 (1981), 3に元来記載された技法(マウスまたは他のげっ歯類骨髄腫細胞を免疫感作した哺乳動物由来の脾臓細胞と融合するステップを含むものである)により調製することができる。
【0029】
用語「阻害抗体」は、本発明で言及されるCD95シグナル伝達遺伝子によりコードされるポリペプチドの活性を阻害する抗体に関する。前記阻害は好ましくは、本発明のポリペプチドの活性中心へまたは相互作用部位への、阻害抗体の結合により引き起こされ、前記阻害抗体で処置した細胞におけるCD95シグナル伝達の阻害を引き起こすものである。当業者には、具体的なタンパク質に対する阻害抗体を得る手段と方法は、例えば、Rosen and Koshland (1988), Anal. Biochem. 170(1), 31 - 37が報じた方法の様に公知である。理解されるべきは、本明細書で用いた阻害は必ずしも全事例における活性の完全な消滅を意味するものでない。阻害抗体は、好ましくは、CD95シグナル伝達を、参照と比較して、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、または少なくとも50%だけ低減する。
【0030】
本発明の文脈において、「アプタマー」は、本発明のCD95シグナル伝達遺伝子の1つによりコードされたポリペプチドと特異的に結合しかつ前記CD95シグナル伝達遺伝子の1つによりコードされたポリペプチドの活性および/または安定性を改変するオリゴ核酸またはペプチドである。ペプチドアプタマーは、好ましくは、8〜80個のアミノ酸、より好ましくは10〜50個のアミノ酸、そして最も好ましくは15〜30個のアミノ酸を含むペプチドである。それらは、例えば、ベーカー酵母のような好適な宿主系の無作為化ペプチド発現ライブラリーから単離することができる(例えば、Klenenz et al. (2002), Cell. Mol. Life Sci. 59, 1993 - 1998を参照)。ペプチドアプタマーは、好ましくは、遊離ペプチドとして使用する;本発明のペプチドアプタマーにはまた、化学的に改変されたペプチドアプタマー、例えば、改変されたアミノ酸を含有するペプチドアプタマーまたは、例えば、ビオチン化された、またはフルオレセインもしくはCy3などのフルオロフォアとカップリングされた、例えば、ジスルフィド結合によりまたはホチキスで留めることにより立体配置的に制限された(Walensky 2004, Science 305(5689): 1466-1470)、または細胞貫入ペプチドまたはタンパク質形質導入ドメインと連結された(Snyder 2004, Pharm Res 21(3): 389-393)ペプチドアプタマーが含まれる。かかる改変はペプチドアプタマーの生物学的特性、例えば、細胞貫入、結合、安定性を改善することができるかまたは検出標識として用いることができる。本発明のペプチドアプタマーは遺伝子組換えにより製造してもよいしまたは化学的に合成してもよい。ペプチアプタマーは精製または検出用のタグとして役立つさらなるアミノ酸を含んでもよい。さらに、本発明のペプチドアプタマーは融合ポリペプチドから成ってもよく、その場合、融合パートナーは例えば、ペプチドアプタマーを規定したコンフォーメーションに固定する「足場(スカフォールド)」として役立ててもよい。変異体または改変されたペプチドアプタマーは、好ましくは、ペプチドアプタマーの生物学活性を保持する、すなわち、これらは本発明のCD95シグナル伝達遺伝子の1つがコードするポリペプチドと特異的に結合することができる。これらの特性は、下記の実施例に記載したアッセイにより試験することができる。
【0031】
RNAまたはDNAアプタマーは、ポリペプチドの三次元表面と特異的に結合して、前記ポリペプチドの機能を阻害できるRNAまたはDNA分子である。RNAまたはDNAアプタマーは、例えば、in vitro 選択、例えば、指数関数的濃縮によるリガンドの体系的進化(SELEX)によって得ることができる。RNAおよびDNAアプタマーの開発と使用に関する方法は当技術分野で公知である(例えば、Ulrich (2006), Handb. Exp. Pharmacol. 173, 305 - 326 and Ulrich (2005), Med. Chem. 1(2), 199 - 208を参照)。
【0032】
また本発明のCD95シグナル伝達阻害化合物として包含されるのは、定常免疫グロブリンドメインの少なくとも一部分を含む異種第2ドメインと融合した、CD95のリガンド結合ドメインを含む少なくとも1つの第1ドメインを含む融合タンパク質である。融合タンパク質は単量体タンパク質または多量体タンパク質、例えば、二量体、三量体、または四量体タンパク質であってもよい。多量体は、上記の融合タンパク質分子だけから成るもの、すなわち、ホモ二量体、ホモ三量体、ホモ四量体などであってもよい。しかし、本発明はまた、多量体は他のタンパク質も同様に含んでもよいと考えている。多量体化は融合タンパク質の定常免疫グロブリン領域を介して促進することができる。しかし、融合タンパク質はまた、多量体化を媒介するさらなるドメイン、例えばテネイシン三量体化ドメインを含んでもよい。好ましい実施形態においては、第1と第2ドメインが融合領域で少なくとも1つのアミノ酸だけ重複する。
【0033】
本発明の文脈における「癌」は、体細胞(「癌細胞」)のグループによる無制御の増殖により特徴付けられる動物、好ましくはヒトの疾患を意味する。この無制御の増殖には、周辺組織への進入および破壊ならびにおそらくは癌細胞の身体の他位置への伝播を伴いうる。用語「膵臓癌」は、癌を形成する細胞が哺乳動物、好ましくは、ヒトの膵臓の部分であるかまたはそれに起源する癌を意味する。最も好ましくは、膵臓癌は膵臓起源の腺癌である。
【0034】
有利なことに、本発明の関係するところで、膵臓癌細胞のCD95シグナル伝達の阻害は、前記膵臓癌細胞の遊走、および、従って転移可能性の減少をもたらすことが見出されている。従って、本発明の化合物は膵臓癌細胞による組織浸潤および転移形成の予防に好適である。
【0035】
以上記載した定義は必要に応じ変更を加えて以下に適用されるものとする。
【0036】
さらに、本発明はまた、膵臓癌を予防および/または治療するための上記化合物を含む医薬品に関する。
【0037】
本明細書で使用する用語「医薬品」は本発明の化合物および、任意に、1以上の製薬上許容される担体を含む。本発明の化合物は製薬上許容される塩として製剤することができる。許容される塩には、酢酸塩、メチルエステル、塩酸塩、硫酸塩、塩化物などが含まれる。医薬品は、好ましくは、局所または全身に投与される。薬物投与に通常用いられる好適な投与経路は、腫瘍中に、腫瘍周囲に、経口、静脈内、または非経口投与ならびに吸入である。しかし、化合物の性質および作用様式に応じて、医薬品を他の経路により投与してもよい。例えば、ポリヌクレオチド化合物は、遺伝子治療においてウイルスベクター、ウイルスまたはリポソームを用いて投与することができる。
【0038】
さらに、本化合物を他の薬物と組み合わせて、共通の医薬品でまたは別の医薬品として投与してもよく、前記別の医薬品は部品のキットの形態で提供してもよい。
【0039】
本化合物は、好ましくは、慣用の手順に従って、その薬物を標準医薬品担体と組み合わせることにより調製した慣用の投与剤形で投与される。これらの手順は、所望の調製に好適な成分の混合、造粒および圧縮または溶解が関わりうる。製薬上許容される担体または希釈剤の形態および特性は、組み合わせるべき活性成分の量、投与経路および他の周知の変数の要件に応じることは理解されよう。
【0040】
担体は、製剤の他成分と共存しうるおよびその受給者に有害でないという意味で容認できなければならない。使用する医薬品担体は、例えば、固体、ゲルまたは液体であってもよい。固体担体の例は、ラクトース、白土、スクロース、タルク、ゼラチン、寒天、ペクチン、アカシア、マグネシウムステアリン酸エステル、ステアリン酸などである。液担体の例は、リン酸緩衝生理食塩水溶液、シロップ、ピーナッツ油およびオリーブ油などの油、水、乳濁液、様々なタイプの湿潤剤、無菌溶液などである。同様に、担体または希釈剤は当技術分野で周知の時間遅延材料、例えば、モノ-ステアリン酸グリセリルまたはジステアリン酸グリセリル、単独またはワックス併用を含みうる。前記好適な担体には、上記のものおよび当技術分野で周知の他のものが含まれ、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company, Easton, Pennsylvaniaを参照されたい。
【0041】
希釈剤は、その組み合わせの生物学的活性に影響を与えないように選択する。
【0042】
希釈剤の例は、蒸留水、生理食塩水、リンゲル液、ブドウ糖液、およびハンクス液である。さらに、医薬品または製剤はまた、他の担体、アジュバント、または無毒性、非治療用、非免疫原性の安定剤などを含む。
【0043】
治療有効用量は、本明細書で言及した疾患または症状に随伴する症候を予防、改善または治療する本発明の医薬品に用いる化合物の量を意味する。かかる化合物の治療効力および毒性は、細胞培養または実験動物における標準医薬品手順、例えば、ED50(集団の50%に治療上有効な用量)およびLD50(集団の50%に致死的な用量)により決定することができる。治療効力と毒性の間の用量比が治療指数であり、比LD50/ED50として表すことができる。
【0044】
投薬レジメンは、担当医師および他の臨床因子により;好ましくは上記の方法のいずれかに従って決定することができる。医療技術分野で周知のように、一患者に対する投薬は多数の因子に応じて行われ、前記因子には患者のサイズ、身体表面積、年齢、投与する具体的な化合物、性別、時間および投与経路、健康状態、および同時に投与される他の薬物が含まれる。進行状況は周期的評価によりモニターすることができる。典型的な用量は、例えば、1〜1000μgの範囲にあるが、とりわけ上述した因子を考慮して、この例示の範囲以下または以上も想定しうる。一般に、医薬品の正規な投与としてのレジメンは1μg〜10mg単位/日の範囲である。もしレジメンが連続注入であれば、それぞれ1μg〜10mg単位/kg体重/分の範囲であろう。進行状況は定期的な評価によりモニターすることができる。しかし、被験体および投与様式に応じて、物質投与の量は広範囲に変わり得るのであって、約0.01mg/kg体重〜約10mg/kg体重を提供する。
【0045】
本明細書で言及する医薬品と製剤を、本明細書に記載した疾患または症状を治療もしくは改善もしくは予防するために、少なくとも1回投与する。しかし、前記医薬品を、1回以上、例えば、毎日1〜4回、日数を限らずに投与してもよい。
【0046】
具体的な医薬品は、医薬品技術分野で周知の方式で調製され、そして本明細書で言及した少なくとも1つの活性化合物を添加物でまたはさもなくば、製薬上許容される担体または希釈剤と一緒に含むものである。これらの具体的な医薬品を作るために、活性化合物を、通常、担体または希釈剤と混合するか、またはカプセル、小袋、カシェ、紙または他の好適な容器またはビヒクルに封じ込めるかまたは封入するであろう。得られる製剤を投与様式に適合させる、すなわち、錠剤、カプセル、座剤、溶液、懸濁液などの剤形にする。考えられる受給者による用量調節を見込んで、投薬推奨事項を処方者またはユーザー取扱説明書に記載しなければならない。
【0047】
用語「治療」は本明細書で言及した疾患(膵臓癌)またはそれに随伴する症候群の有意な程度の改善を意味する。本明細書で使用する前記治療はまた、本明細書で言及した疾患について健康の完全な回復を含むものである。理解されるべきは、本発明で使用する治療は治療する全ての被験体において有効でないかも知れない。しかし、この用語は本明細書で言及した疾患を患う被験体の統計的有意な部分が首尾よく治療されることを必要とする。一部分が統計的に有意であるかどうかは、当業者が様々な周知の統計的評価ツール、例えば、信頼区間の決定、p値決定、スチューデントt検定、マン-ホイットニー検定などを用いることにより、さらに手間をかけることなく、確認することができる。好ましい信頼区間は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%である。p-値は好ましくは、0.1、0.05、0.01、0.005、または0.0001である。好ましくは、本治療は所与のコホートまたは集団の被験体の少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%について有効であるべきである。
【0048】
用語「予防」は、一被験体における、ある特定の期間に対する本明細書で言及した疾患(膵臓癌)または症候群に関する、健康の保持を意味する。前記期間は投与された薬物化合物の量および被験体の個別因子に依存することは理解されるであろう。予防は、本発明による化合物で治療した全ての被験体において有効でありえないことは理解されるべきである。しかしこの用語は、コホートまたは集団の被験体の統計的に有意な部分が本明細書で言及した疾患または症候群を患うことから効果的に予防されることを要する。好ましくは、被験体のコホートまたは集団はこの関係領域において、通常、すなわち、本発明による予防対策なしでは、本明細書で言及した疾患または症候群を発生しうると想定される。ある部分が統計的に有意であるかどうかは、さらに手間をかけることなく、当業者が上記の様々な周知の統計評価ツールを用いることにより確認することができる。好ましくは、予防は、所与のコホートまたは集団の被験体の少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%について有効であるべきである。
【0049】
本明細書で使用する用語「癌細胞の遊走」は、癌細胞の初発腫瘍部位から身体の随所への、好ましくは、初発腫瘍部位から血管またはリンパ管中への、および/または、血管またはリンパ管から正常組織中への能動的な運動に関する。癌細胞の遊走は例えば、間葉またはアメーバ様運動により促進される。
【0050】
本明細書で使用する用語「炎症反応」は、膵臓癌細胞を含む組織における正常細胞および/または癌細胞により作られたミクロ環境の変化に関するものであって、前記変化は癌細胞の遊走および/または癌細胞による周囲組織の浸潤を促進する。ミクロ環境のかかる変化は、例えば、セレクチンの産生、ケモカインおよび/またはプロテアーゼの放出などを含みうる。さらに、ミクロ環境の前記変化はまた、血管透過性および/または潅流の増加を含むものである。好ましくは、炎症反応は膵臓癌に関連する炎症反応である。
【0051】
さらに、本発明はまた、CD95シグナル伝達阻害化合物を同定する方法であって、a)機能性CD95シグナル伝達経路を含む細胞を候補薬と接触させるステップ、b)細胞増殖、細胞遊走、および分化から選択される少なくとも1つのパラメーターに与える効果を確認するステップ、および、c)ステップb)で確認した前記効果を前記候補薬の非存在で観察した効果と比較するステップを含むものである前記方法に関する。理解されるべきは、本発明の方法はCD95シグナル伝達の候補インヒビター(それが常に、CD95シグナル伝達化合物だけを阻害するという意味の特異的インヒビターである必要はない)の同定を可能にし;例えば細胞代謝の一般的インヒビターを見出すことができる。当技術分野では、候補化合物のリストから特異的インヒビターを同定する方法は公知であり;好ましくは特異的インヒビターを、CD95シグナル伝達遺伝子産物の改変、好ましくはリン酸化状態を、候補化合物と接触させた細胞と前記化合物と接触させなかった細胞および不活性であることがわかっている候補化合物の誘導体と接触させた細胞を比較することにより同定する、例えば、図5Aを参照されたい。より好ましくは、AKT1キナーゼ(配列番号21、Genbank受託番号:NP_001014432.1GI:62241015)、AKT2キナーゼ(配列番号22、Genbank受託番号:NP_001617.1GI:4502023)、AKT3キナーゼアイソフォーム1(配列番号23、Genbank受託番号:NP_005456.1GI:4885549)、およびAKT3キナーゼアイソフォーム2(配列番号24、Genbank受託番号:NP_859029.1GI:32307163)からなるリストから選択されるSckおよび/またはAktキナーゼのリン酸化状態を確認する。最も好ましくは、その化合物がCD95とのSck結合を防止するかどうかを確認する(例えば、実施例5)。結合低下は、2つのタンパク質の相互作用を阻止する化合物によってまたは細胞におけるSckの全量の減少を引き起こす化合物によって引き起こりうる。さらに、本発明の方法は、in vivoで、例えば、膵臓癌の非ヒト動物モデル(実施例7)またはin vitroで培養膵臓癌細胞(実施例6、図6)を用いることにより実施することができる。さらに、SckとCD95の間の特異的結合の確認は、無細胞系で、SckおよびCD95を含む細胞抽出物を用いて確認することができる。
【0052】
本明細書で使用する用語「接触させる」は候補化合物を細胞と密接させてその化合物が細胞と相互作用できる、および/または細胞の表面の少なくとも1つの受容体と結合する、および/またはエンドサイトーシスが起こる、および/または細胞によりピノサイトースが起こる、および/または他の経路により細胞に進入させることと関係がある。好ましくは、接触は化合物の適当な量を好適な溶媒に溶解または分散し、こうして得た溶液または分散液を細胞を含む培養基質と混合することにより達成する。本明細書はまた、候補化合物を含む溶液または分散液が他の物質、例えば、トランスフェクション剤(例えばカチオン脂質、カチオンポリマー、またはリン酸カルシウム)などを含んでもよいと意図する。
【0053】
本明細書で使用する用語「機能性CD95シグナル伝達経路を含む細胞」は、以上記載した膵臓癌細胞におけるCD95シグナル伝達経路に含まれるタンパク質、例えばCD95、SFK、SHC、Grb2、SOS、およびRasを含む細胞に関する。好ましくは、前記細胞は膵臓癌細胞である。
【0054】
用語「候補化合物」は、好ましくは、膵臓癌細胞におけるCD95シグナル伝達を阻害すると疑われる化合物に関する。好ましくは、前記候補化合物は膵臓癌においてCD95、SFK、SHC、Grb2、SOS、またはRasによるシグナル伝達を阻害すると疑われる化合物である。当業者は、本発明のCD95シグナル伝達阻害化合物を同定して候補化合物用の化学または自然化合物ライブラリーをスクリーニングする方法を適合するやり方を知っている。好ましくは、高度に自動化したハイスループットシステムを用いてかかるスクリーニングを実施する。より好ましくは、前記化合物はRNAi剤、リボザイム、DNAザイム、阻害抗体、または先に本明細書で詳述したCD95シグナル伝達成分の少なくとも1つを阻害するアプタマーである。
【0055】
他の好ましい実施形態において、本発明は医薬品を製造する方法であって、CD95シグナル伝達阻害化合物を同定する方法の諸ステップおよび前記阻害する化合物を先に本明細書で記載した医薬品として製剤するさらなるステップを含む前記方法に関する。
【0056】
本明細書に引用した全ての参考文献は参照により、それらの全ての開示内容および本明細書に具体的に記載した開示内容について、本明細書に組み込まれる。
【0057】
以下の実施例は単に本発明を説明するものである。これらは、少しでも、本発明の範囲を限定すると解釈してはならない。
【実施例】
【0058】
(実施例1)
非アポトーシス経路を活性化に導くCD95の新規の役割は中枢神経系および免疫細胞に限定されるのかを研究した。CD95による非アポトーシス経路の活性化についての仮説および広い知識を得るために、膵臓腫瘍細胞においてこの系を研究した。最初に、色々な細胞株、PANC1およびColo357、ならびに幹様細胞株PanD3を、それらのアポトーシス感受性について特徴付けた。PanD3細胞は患者の腫瘍バイオプシーから単離し、幹細胞条件のもとで培養した。PanD3細胞は実際、典型的な幹細胞特性、例えば、球を形成する能力、膵臓幹細胞マーカー(例えば、CD24、CD44およびESA)の発現、ならびにさらにin vivoで腫瘍を形成する一般的能力を示した。図1に示したように、PANC1およびPanD3細胞は一般に、DNA断片化分析およびFACS測定により測定した高濃度のリガンドにおいても、CD95系が誘発するアポトーシスに対する耐性がある。他方、Colo357細胞は、非常に低濃度でもCD95Lに対して高い感受性を示した(図1)。
【0059】
(実施例2)
CD95の非アポトーシス経路下流を効率的に刺激するには低濃度のCD95Lで充分であり、かつこれらの経路は高濃度により阻害されることが知られている。先に記載した非アポトーシス経路の活性化を評価するために、CD95刺激の効果をさらにウェスタンブロットにより特徴付けた。CD95刺激は下流の非アポトーシス経路、例えばPI3KおよびERKを効率的に活性化するが、いくつかの差異が本研究で用いた異なる細胞系で観察することができた。CD95LはPanD3とPANC1のPI3KおよびERK経路の両方を強く活性化するが、Colo357細胞におけるPI3Kの活性化は全く弱かった(図2)。
【0060】
(実施例3)
膵臓細胞株のいくつかが示した二重系の活性化が興味深いので、両経路の間の可能なクロストークを、公知のERKとPI3Kのインヒビターに対するColo357とPANC1の応答を比較することにより研究することに決めた。この点については、PI3Kの阻害はPI3KとERK経路を接続するネガティブフィードバックループを開放するようであった。従って、PI3Kを阻害すると、ERKリン酸化が両方の細胞株で増加した(図3)。
【0061】
(実施例4)
次にFADDノックダウン実験を行って、アダプター分子FADD(DISC形成および究極的にアポトーシスに導く事象の分子カスケードにおいてCD95に補充される第1分子)のERK活性化における関与を排除した。先の結果と一致して、FADDノックダウンはこれらの経路の活性化を阻害しなかったので、アポトーシス機構はPI3KおよびERK活性化にとって必要でないと思われる(図4)。
【0062】
(実施例5)
その後、CD95がPI3KとERKの両方を活性化することができる分子機構を特徴付けた。この目的のためにSH2アレイを用いて潜在アダプタータンパク質をスクリーニングし、そして細胞溶解液を先に確立したプロトコルで刺激した。示したように、CD95はSckからのSH2ドメインと強く結合する(図5A)。Sckはリン酸化できる複数のチロシン残基を持つ、従ってホスホチロシン特異的抗体を用いかつその後のSckに対する抗体による免疫沈降を探索する免疫沈降実験を実施した。CD95刺激を受けると、Sckはチロシン残基のリン酸化が増加した(図5B)。さらに、CD95の免疫沈降はSckのCD95複合体との結合を示し、従って、膵臓細胞におけるPAC形成に関わる新規分子を規定する(図5C)。
【0063】
(実施例6)
免疫共沈降実験はSckのCD95との物理的会合およびこのアダプタータンパク質のさらなるチロシンリン酸化を証明したものの、シグナル伝達におけるSckの実際の役割は疑問であった。潜在機能の役割を研究するために、ノックダウン実験を行い、PI3Kの下流標的、AKTのリン酸化を評価することに決めた。SckノックダウンはAKTのCD95L誘発リン酸化を完全に無効化し(図6AおよびC)、従って事象のシグナル伝達カスケードにおいてSckはAKTの上流に位置する。さらにSckノックダウンは膵臓細胞のCD95L誘発型遊走を効率的にブロックした(図6BおよびC)。
【0064】
(実施例7):in vivo実験
膵臓中への同所注入:全ての動物実験はドイツ癌研究センターの制度ガイドラインに従いかつカールスルーエ市規制当局(Regierungspraesidium Karlsruhe)の認可を受けて行った。
【0065】
8〜10週齢の雌C57Bl6Aマウスを用い、ルシフェラーゼ含有レンチウイルスベクターで安定して感染したマウス膵臓細胞株Panc02を同所移植した。概略を説明すると、104 Panc02細胞を膵臓頭部中に注射した。移植の3および7日後、マウスに50μgの中和したCD95-Fcタンパク質を静脈注射した。腫瘍を14日間増殖させた。
【0066】
生物発光イメージング:第14日に、マウスにルシフェリン(150μg/g体重)を腹腔内注射(i.p.)し、in vivoイメージングシステム(IVIS100;Xenogen)上に置いた。マウスが肝臓と肺にも転移するかどうかを試験するため、ルシフェリン投与の5分後に犠牲にした。肺と肝臓を調製した。
【0067】
生物発光シグナルをルシフェリン投与後、5分間、10秒間隔でモニターした。シグナル強度を、測定したバックグランド発光を差し引いた後の目的領域内の全検出フォトン計数の合計として数値化した。
【0068】
結果:CD95系のin vivoブロッキングは、腫瘍体積および転移形成を低減する。
【0069】
CD95/CD95Lのin vivoでの役割を研究するために、膵臓癌の同所マウスモデルを用いた。移植の3および7日後、マウスをCD95L中和化タンパク質で処理した。腫瘍サイズおよび転移形成を生物発光イメージング技法によりモニターした。
【0070】
CD95-Fcタンパク質で処理したマウス中の腫瘍サイズは、NaCl-処理した動物と比較して小さかった(図7a)。CD95-Fcタンパク質の肝臓転移に与える影響はいっそう高かった。CD95-Fcタンパク質-処理グループの動物の16%だけが肝臓転移を示し、動物の70%が肝臓転移を発生したNaCl処理グループと比較してサイズも小さかった(図7bおよび7c)。
【0071】
全体的にみて、これらのin vivoデータは膵管腺癌(PDAC)における腫瘍形成および転移に対するCD95/CD95L-系の重要性を強調するものである。
【0072】
(実施例8)細胞培養

(実施例9)ノックダウン実験
ノックダウン実験は、リポフェクタミン2000(登録商標)(Invitrogen Life Technologies)での一過性トランスフェクションにより取扱説明書に従って行った。遊走実験は、オンターゲットプラスSMARTプールで確証されたSckまたはFADDに対するsiRNA(Sck、Dharmacon/ThermoFisher、L-031192-00;FADD、Dharmacon/ThermoFisher、L-003800-00)、およびオフターゲット効果を排除するネガティブ対照としてsiRNAの非標的化プール(Dharmacon/ThermoFisher、D-001810-10-05)を用いて実施した。異なるsiRNAで一過性トランスフェクションした後、細胞を72時間培養し、次いでCD95LT4(20ng/ml)で処理し、遊走を処理後36時間に二次元遊走アッセイで分析した。ノックダウン効率は定量リアルタイムPCRにより制御した。
【0073】
(実施例10)SDS PAGE
タンパク質濃度の定量
タンパク質抽出は先に記載の通り行った。タンパク質濃度はBCAタンパク質アッセイを用いて、ウシ血清アルブミン(BSA)の標準化濃度と比較することにより測定した。
【0074】
SDS-PAGE
サンプルバッファー中の組織からの等量のタンパク質(検出に用いた抗体に応じて20〜50μg)を、10〜15%ポリアクリルアミドゲル上のドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)により分離した。調製後、ゲルの重合を、N,N,N,N-テトラメチルエチレンジアミン(TEMED)と過硫酸アンモニウム(APS)溶液を加えることにより開始した。流し込んだゲルに蒸留水を重ねて30分間重合させた。次いで、水をろ紙で除去し、同じやり方で積み重ねるゲルを流し入れる。その後、タンパク質サンプルを装填し、電気泳動を100Vにて30〜60分間実施した。
【0075】
(実施例11)ウェスタンブロット
タンパク質をエレクトロブロットによりポリアクリルアミドゲルからニトロセルロース膜へ移した。ゲルと膜を吸収紙のシートの間に置いて、電気泳動槽中のトランスバッファーに浸漬した。ブロットは60mAにて1〜2時間4℃にて行った。移送後、ニトロセルロース膜上の非特異的結合部位を、5%スキムミルク粉末を含むPBS-Tween中の1時間のインキュベーションによりブロックした。洗浄後、膜を一晩4℃にて一次抗体(通常、5%スキムミルク粉末を含むPBS-Tweenで希釈したもの)とシェーカー上でインキュベートした。完全に洗浄した後、抗体結合を西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)結合した二次抗体を介して(これと膜を1時間インキュベートして)可視化した。HRPシグナルをECL溶液とのインキュベーションにより検出し、続いてAmersham Hyperfim X線フィルムへ曝した。タンパク質抽出および免疫ブロットを先に記載の通り実施した。膜を次の抗体で探索した:リン酸化AKT(P-Ser473-AKT、1:1000、Cell signalling #9271)、合計AKT(T-AKT、1:1000、Cell Signalling #9272)、FADD(抗-FADDマウスモノクローナルAb、クローン1F7、1:1000、Millipore #05-486)、リン酸化ERK(P-ERK、1:1000、Santa Cruz Biotechnologies #sc-7383)、合計ERK(T-ERK、1:1000、Santa Cruz Biotechnologies #sc-154)、Sck(Sck、1:1000、Santa Cruz Biotechnologies #sc-33807)、および抗-ホスホチロシン、クローン4G10(pY、1:1000、Upstate/Millipore 05-321)。
【0076】
ブロットストリッピング
抗体複合体をニトロセルロース膜から除去するために、膜を1Mグリシンで3回、pH 1.8で洗浄した。完全なPBS-Tweenでの洗浄と非特異的結合部位のブロッキングの後、膜を先の記載の通り再探索した。
【0077】
(実施例12)免疫沈降
少なくとも1 x 107細胞を20ng/mlのCD95L-T4で、示した時間、37℃にて処理するかまたは無処理のままとし、PBSとホスファターゼインヒビター(NaF、NaN3、pNPP、NaPPi、β-グリセロリン酸、それぞれ10mMおよび1mMオルトバナジン酸)で2回洗浄し、次いでバッファーA[20mM Tris/HCl、pH7.5、150mM NaCl、2mM EDTA、1mMフェニルメチルスルホニルフルオリド、プロテアーゼインヒビターカクテル(Roche)、1% Triton X-100(Serva、Heidelberg、Germany)、10%グリセロール、およびホスファターゼインヒビター(NaF、NaN3、pNPP、NaPPi、β-グリセロリン酸、それぞれ10mMおよび1mMオルトバナジン酸)]に溶解した。タンパク質濃度をBCAキット(Pierce)を用いて測定した。500μgのタンパク質を入力として用いて所望のタンパク質を一晩それぞれの抗体、40μlタンパク質-Aセファロースおよび対応するアイソタイプ対照を用いて免疫沈降した。ビーズを5回、20体積の溶解バッファーで洗浄した。免疫沈降物を40μlの2 x Laemmliバッファーと混合し、10%SDS-PAGEで分析した。次いで、ゲルを記載の通りウェスタンブロットセクション上にブロットした。
【0078】
(実施例13)アポトーシスの検出(Nicolettiアッセイ)
DNA断片化を定量するために、トリプシン/EDTA(Gibco)で脱離した細胞を200 x gで遠心分離し、70%エタノールで-20℃にて1時間固定した。固定した細胞をヨウ化プロピジウム溶液(50μg/ml;0.0025%クエン酸ナトリウムおよび0.0025%Triton-X-100)で1時間または一晩4℃にて染色し、FACSにより分析した。
【0079】
(実施例14)SH2アレイ
トランスシグナルSH2ドメインアレイ(Panomics)を製造業者の取扱説明書に従って実施した。全細胞溶解液をハイブリダイゼーションするために、細胞を先に記載の通り収穫した。溶解液を次いで5μgの抗-Apo1抗体と共にインキュベートし、次いでSH2-アレイ膜とハイブリダイズさせた。洗浄後、アレイをストレプトアビジン-HRPとインキュベートし、そして現像した。
【0080】
(実施例15)膵臓細胞の遊走
膵臓細胞の遊走を、2チャンバー遊走アッセイにてin vitro評価した。トランスウエルインサート[8μm(BD#353097)孔径]をコラーゲンでコーティングした。
【0081】
1 x 105細胞を上側チャンバー上の300μl培地にまいた。細胞を無処理のままとするかまたはCD95L-T4 20ng/mlで処理して上側チャンバーへ移した。遊走した細胞数を処理後36時間計数した。
【0082】
(実施例16)統計解析
遊走およびmRNA発現データの統計解析を、ノンパラメトリック・スチューデントt検定を用いて実施し、処理グループと対照の間の差異を比較した。信頼区間は95%で決定し、* P値<0.05、** P値<0.01、*** P値<0.005を統計的に有意とみなした。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膵臓癌細胞におけるCD95シグナル伝達を阻害する化合物。
【請求項2】
前記化合物がRNAi剤、リボザイム、DNAザイム、阻害抗体、およびアプタマーからなる群より選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記化合物がSckを阻害する、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
前記化合物がCD95、CD95リガンド、SFK(Srcファミリーキナーゼ)、Sck(Src相同性-2ドメインを含有するトランスフォーミングタンパク質)、Grb2(成長因子受容体結合タンパク質-2)、SOS(セブンレスの息子)、およびスモールGTP結合タンパク質Rasからなる群より選択されるシグナル伝達成分の1つのドミナントネガティブ誘導体である、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項5】
前記化合物が(i)CD95のリガンド結合ドメインを含む少なくとも1つの第1ドメインと融合した、(ii)定常免疫グロブリンドメインの少なくとも一部分を含む異種第2ドメインを含む融合タンパク質である、請求項1に記載の化合物。
【請求項6】
前記融合タンパク質が(i)CD95のリガンド結合ドメインを含む少なくとも1つの第1ドメインと融合した、(ii)定常免疫グロブリンドメインの少なくとも一部分を含む異種第2ドメインを含む融合タンパク質であり、融合領域の第1ドメインと第2ドメインの間に少なくとも1つのアミノ酸重複が存在する、請求項5に記載の化合物。
【請求項7】
膵臓癌を予防および/または治療するための、請求項1〜6のいずれか1項に記載の化合物を含む医薬品。
【請求項8】
膵臓癌を予防および/または治療するための、癌細胞の遊走を予防するための、ならびに/あるいは、炎症反応を予防および/または治療するための、医薬品を製造するための請求項1〜6のいずれか1項に記載の化合物の使用。
【請求項9】
膵臓癌を治療するのに好適な化合物を同定する方法であって、
a)機能性CD95シグナル伝達経路を含む細胞を候補化合物と接触させるステップ、
b)細胞増殖、細胞遊走、細胞分化、Sckリン酸化、CD95とのSck結合、およびAktリン酸化から選択される少なくとも1つのパラメーターに対する効果を確認するステップ、ならびに、
c)ステップb)で確認した前記効果を候補化合物の非存在のもとで観察される効果と比較するステップ、
を含む、上記方法。
【請求項10】
ステップb)においてCD95とのSck結合を確認する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
CD95とのSck結合の低下は前記化合物が膵臓癌を治療するのに好適であることを示す、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記細胞が膵臓癌細胞である、請求項9〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
候補薬剤がCD95、CD95リガンド、SFK、Sck、Grb2、SOS、またはRasを阻害すると思われる薬剤である、請求項9〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記薬剤がRNAi剤、リボザイム、DNAザイム、阻害抗体、およびアプタマーからなる群より選択される、請求項9〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
請求項9〜14のいずれか1項に記載の方法の諸ステップと前記阻害化合物を医薬品として製剤するさらなるステップを含む、医薬品を製造する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2013−510831(P2013−510831A)
【公表日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−538358(P2012−538358)
【出願日】平成22年11月15日(2010.11.15)
【国際出願番号】PCT/EP2010/067491
【国際公開番号】WO2011/058175
【国際公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(512113803)
【出願人】(512127143)ルプレヒト−カールス−ウニベルジテート ハイデルベルク (2)
【Fターム(参考)】