説明

膵臓癌関連遺伝子であるCST6およびGABRP

膵臓癌(PDAC)を検出および診断する目的の方法を本明細書に記載する。1つの態様において、本診断法は、PDAC細胞と正常細胞を識別するCST6またはGABRPの発現レベルを決定する段階を含む。最終的に、本発明は、膵臓癌の治療において有用な治療薬をスクリーニングする方法、膵臓癌を治療する方法、および対象に膵臓癌のワクチン接種をする方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、膵臓癌を予防、治療する方法、ならびに膵臓癌を検出、診断する方法に関する。
【0002】
本出願は、2005年7月27日に提出された米国特許仮出願第60/703,171号の恩典を主張し、それらの内容は全体が参照として本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
膵管腺癌(PDAC)は西側世界において第5位の癌死因であり、任意の悪性腫瘍の中でも最も高い死亡率を示し、5年生存率は4%でしかない(DiMagno EP, et. al., Gastroenterology 1999; 117: 1464-84、Zervos EE, et. al., Cancer Control 2004; 11: 23-31)。米国では、毎年、推定30,700人の患者が膵臓癌と診断され、ほぼ30,000人がこれらの疾患で死亡する(Jemal A, et. al., CA Cancer J Clin 2003; 53: 5-26)。大多数の患者は疾患が進行期で診断され、この段階では、有効な治療は現行には存在しない;外科的切除でしか治癒する見込みはないが、患者の80〜90%は再発し、この疾患で死亡する(DiMagno EP, et. al., Gastroenterology 1999; 117: 1464-84、Zervos EE, et. al., Cancer Control 2004; 11: 23-31)。放射線治療を併用するもしくはしない、5-FUまたはゲムシタビンを含む化学的治療および外科的治療によるいくつかの取り組みは患者の生活の質を改善することができるが(DiMagno EP, et. al., Gastroenterology 1999; 117: 1464-84、Zervos EE, et. al., Cancer Control 2004; 11: 23-31)、極端な悪性および化学療法耐性の性質のため、これらの治療はPDAC患者の長期生存へはほとんど効果が見られない。従って、多くの患者の処置は苦痛緩和に焦点が置かれている(DiMagno EP, et. al., Gastroenterology 1999; 117: 1464-84)。
【0004】
この惨状を打破するため、分子標的を同定することによるPDACに対する新規分子治療の開発は現在、緊急の問題である。これまでに、おおよそ27,000遺伝子からなる網羅的ゲノムcDNAマイクロアレイ法と、測定のための純粋な癌細胞を得るためにレーザーマイクロダイセクション法を併用して、正確なPDACの発現プロファイルが得られた(Nakamura T, et. al., Oncogene 2004; 23: 2385-400)。PDACにおいて過剰発現している遺伝子群のなかで、シスタチンE/M(CST6)(GenBank登録番号 NM_001323、 配列番号41, コードする配列番号42)と、GABA受容体π(GABRP)(GenBank登録番号 NM_014211、 配列番号43、 コードする配列番号44)がこの疾患に対する新規分子標的として調査された。
【0005】
シスタチンはカテプシンB、L、H、そしてSのようなリソーマルシステインプロテアーゼの特異的インヒビターであり、細胞内、細胞外のいずれにおいても機能する(Barrett AJ. Trends Biochem. Sci., 1987; 12: 193-6、Keppler D. Cancer Letter 2005)。それらは可逆的な高親和性複合体を形成することで標的プロテアーゼの触媒機能を制御する。シスタチンスーパーファミリーは3つの異なるサブファミリーに分類され、シスタチンA(ステフィンA)とシスタチンB(ステフィンB)で代表されるファミリー1シスタチンはグリコシル化されず、ジスルフィド結合を持たず、細胞内でのみ機能する。ファミリー2シスタチンC、D、S、SA、SN、E/M、そしてFは二つの鎖内ジスルフィド結合をもち、115-120アミノ酸からなる主に分泌タンパク質である。ファミリー3シスタチンはL-とH-キニノーゲンの構成要素であり、二つのシスタチンドメインとブラジキニン部分を持つ複雑にグリコシル化された細胞内タンパク質である(Barrett AJ. Trends Biochem. Sci., 1987; 12: 193-6、Keppler D. Cancer Letter 2005 May 10)。ファミリー2に属しているシスタチンE/M(CST6)は20-22kDaを持つN-グリコシル化分泌タンパク質であり、原発性および転移性乳癌の間で差異的な転写産物を含む2つの群によって独立して乳癌で下方制御される遺伝子として同定され(Sotiropoulou G, et. al., J Biol. Chem. 1997, 272: 903-10、Ni J, et. al., J Biol Chem. 1997; 272:10853-8)、この分子は細胞外基質のタンパク質分解の制御、または他のメカニズムによって、乳癌の増殖、転移、もしくは浸潤を抑制すると考えられていた(Shridhar R, et. al., Oncogene. 2004; 23: 2206-15、Zhang J, et. al., Cancer Res. 2004; 64: 6957-64)。
【0006】
GABAA受容体は中枢神経系において最速抑制性シナプス伝達を媒介するマルチサブユニットクロライドチャンネルである(Macdonald RL, Olsen RW., Annu Rev Neurosci 1994; 17: 569-602、Owens DF, Kriegstein AR.、Nature Rev Neurosci 2002; 3: 715-27)。それは主にαβγユニットからなり、これまでに報告のあるα1-6サブユニット、β1-3サブユニット、そしてγ1-3サブユニットがある(Macdonald RL, Olsen RW., Annu Rev Neurosci 1994; 17: 569-602、 Owens DF, Kriegstein AR., Nature Rev Neurosci 2002; 3: 715-27)。GABA受容体π(GABRP)サブユニットはこれら既知のGABAA受容体を凝集させることができ、GABAA受容体へのこのサブユニットの取り込みにより、GABAもしくは調節剤に対するGABA受容体の感度を変化させることができる(Hedblom E, Kirkness EF., J Biol Chem 1997; 272: 15346-50、Neelands TR , Macdonald RL , Mol Pharmacol 1999; 56: 598-610)。成熟脳において、GABAは抑制性神経伝達物質として主に機能するが、神経細胞および他の細胞の増殖、遊走および分化へ影響するため、神経系の発達の間の栄養性因子として機能することも可能である(Macdonald RL, Olsen RW., Annu Rev Neurosci 1994; 17: 569-602、Fiszman ML, Brain Res Dev Brain Res 1999; 115: 1-8)。一方、GABAおよびGABA受容体は中枢神経系よりも他の抹消組織において発現し機能しているが(Macdonald RL, Olsen RW., Annu Rev Neurosci 1994; 17: 569-602)、これまでに非神経細胞での正確な機能と分布は明確とされていない。
【0007】
cDNAマイクロアレイ分析によって得られる遺伝子発現プロファイルにより、従来の組織病理学的手法により得られるものよりも個々の癌の性質についての相当な詳説を与えることが可能となる。そのような情報の展望には、新規薬剤の開発と腫瘍性疾患の治療への臨床的戦略を改良するための可能性がある(Petricoin, E. F.et al.,Nat Genet, 32 Suppl: 474-479, 2002)。この目的のため、本発明者らはcDNAマイクロアレイによって得られる各組織からの腫瘍または腫瘍群の発現プロファイルを分析している(Okabe, H.et al., Cancer Res, 61: 2129-2137, 2001、Hasegawa, S.et al., Cancer Res, 62: 7012-7017, 2002、Kaneta, Y.et al.,. Jpn J Cancer Res, 93: 849-856, 2002、Kaneta, Y.et al., Int J Oncol, 23: 681-691, 2003、Kitahara, O.et al., Cancer Res, 61: 3544-3549, 2001、Lin, YM. et al. Oncogene, 21: 4120-4128, 2002、Nagayama, S. et al., Cancer Res, 62: 5859-5866, 2002、Okutsu, J. et al., Mol Cancer Ther, 1: 1035-1042, 2002、Kikuchi, T. et al., Oncogene, 22: 2192-2205, 2003)。
【0008】
膵臓癌における遺伝子発現プロファイルの研究は診断マーカーもしくは予後プロファイルのための候補として有用な遺伝子の同定を可能とする。しかし、腫瘍集団から一次的に得られるこれらのデータは腫瘍発生の間の発現変化を適切に反映し得ない。なぜならば、膵癌細胞は高度な炎症を持つ固形腫瘍であり、様々な細胞構成を含み得るからである。さらには、既に公開されているマイクロアレイデータはおそらく不均一なプロファイルを反映している。
【0009】
発癌メカニズムを解明するために計画された研究により、ある種の抗腫瘍薬剤の分子標的の同定が既に進行している。例えば、Rasに関連する増殖-シグナル伝達経路を阻害するように当初開発されたファルネキシルトランスフェラーゼインヒビター(FTI)(この活性は翻訳後のファルネシル化に依存する)は、動物モデルにおいてRas依存的腫瘍を治療するために有効である(Sun J, et al., Oncogene. 1998 Mar;16(11):1467-73)。同様に、抗癌剤と、原癌遺伝子受容体HER2/neuに拮抗するための抗HER-2モノクローナル抗体であるトラスツズマブとの組み合わせを用いるヒトに対する臨床試験により、乳癌患者の臨床応答および総生存率の改善が得られている(O'Dwyer ME & Druker BJ, Curr Opin Oncol. 2000 Nov;12(6):594-7)。最後に、bcr-abl融合タンパク質を選択的に不活化するチロシンキナーゼインヒビターSTI-571は、bcr-ablチロシンキナーゼの恒常的活性化が白血球の形質転換において重要な役割を果たしている慢性骨髄性白血病を治療するために開発されている。これらの種類の薬剤は、特定の遺伝子産物の発癌活性を抑制するように設計されている(Fang G.et al., (2000). Blood, 96, 2246-2253)。したがって、癌性細胞において一般的に上方制御されている遺伝子産物は、新規抗癌剤を開発するための可能性のある標的として役立であろう。
【0010】
CD8+細胞障害性Tリンパ球(CTL)は、MHCクラスI分子上に提示された腫瘍関連抗原(TAA)に由来するエピトープペプチドを認識して、腫瘍細胞を溶解することが証明されている。TAAの最初の例としてMAGEファミリーが発見されて以来、免疫学的手法を用いて他にも多くのTAAが発見されている(Boon, Int J Cancer 54: 177-80 (1993)、Boon and van der Bruggen, J Exp Med 183: 725-9 (1996)、van der Bruggen et al., Science 254: 1643-7 (1991)、Brichard et al., J Exp Med 178: 489-95 (1993)、Kawakami et al., J Exp Med 180: 347-52 (1994))。新しく発見されたTAAのいくつかは、現在、免疫治療の標的として臨床開発段階にある。これまで発見されたTAAには、MAGE(van der Bruggen et al., Science 254: 1643-7 (1991))、gp100(Kawakami et al., J Exp Med 180: 347-52 (1994))、SART(Shichijo et al., J Exp Med 187: 277-88 (1998))およびNY-ESO-1(Chen et al., Proc Natl Acad Sci USA 94: 1914-8 (1997))が含まれる。一方、腫瘍細胞において特に過剰発現されることが示されている遺伝子産物は、細胞性免疫応答を誘導する標的として認識されることが示されている。そのような遺伝子産物には、p53(Umano et al., Brit J Cancer 84: 1052-7 (2001))、HER2/neu(Tanaka et al., Brit J Cancer 84: 94-9 (2001))、CEA(Nukaya et al., Int J Cancer 80: 92-7 (1999))等が含まれる。
【0011】
TAAに関する基礎および臨床研究における著しい進歩にもかかわらず(Rosenberg et al., Nature Med 4: 321-7 (1998)、Mukherji et al., Proc Natl Acad Sci USA 92: 8078-82 (1995)、Hu et al., Cancer Res 56: 2479-83 (1996))、結腸直腸癌を含む腺癌の治療に現在利用できるのは、ごく限られた数の候補TAAに過ぎない。癌細胞において豊富に発現されると共にその発現が癌細胞に限定されるTAAは、免疫療法の標的として有望な候補薬剤となるであろう。さらに、強力で特異的な抗腫瘍免疫応答を誘導する新規TAAが同定されれば、様々なタイプの癌におけるペプチドワクチン法の臨床利用を促進すると期待される(Boon and van der Bruggen, J Exp Med 183: 725-9 (1996)、van der Bruggen et al., Science 254: 1643-7 (1991)、Brichard et al., J Exp Med 178: 489-95 (1993)、Kawakami et al.,J Exp Med 180: 347-52 (1994)、Shichijo et al., J Exp Med 187: 277-88 (1998)、Chen et al., Proc Natl Acad Sci USA 94: 1914-8 (1997)、Harris, J Natl Cancer Inst 88: 1442-55 (1996)、Butterfield et al., Cancer Res 59: 3134-42 (1999)、Vissers et al., Cancer Res 59: 5554-9 (1999)、van der Burg et al., J Immunol 156: 3308-14 (1996)、Tanaka et al., Cancer Res 57: 4465-8 (1997)、Fujie et al., Int J Cancer 80: 169-72 (1999)、Kikuchi et al., Int J Cancer 81: 459-66 (1999)、Oiso et al., Int J Cancer 81: 387-94 (1999))。
【0012】
特定の健康なドナーからのペプチド刺激された末梢血単核細胞(PBMC)は、ペプチドに応答して著しいレベルのIFN-αを産生するが、51Cr-放出アッセイにおいてHLA-A24または-A0201拘束的に腫瘍細胞に対して細胞障害性を発揮することがまれであることは繰り返し報告されている(Kawano et al., Cancer Res 60: 3550-8 (2000)、Nishizaka et al., Cancer Res 60: 4830-7 (2000)、Tamura et al., Jpn J Cancer Res 92: 762-7 (2001))。しかし、HLA-A24およびHLA-A0201はいずれも、白人のみならず、日本人における一般的なHLA対立遺伝子の一つである(Date et al., Tissue Antigens 47: 93-101 (1996)、Kondo et al., J Immunol 155: 4307-12 (1995)、Kubo et al., J Immunol 152: 3913-24 (1994)、Imanishi et al., Proceeding of the eleventh International Histocompatibility Workshop and Conference Oxford University Press, Oxford, 1065 (1992)、Williams et al., Tissue Antigen 49: 129 (1997))。このように、これらのHLAによって提示される癌の抗原性ペプチドは、日本人および白人における癌の治療において特に有用となる可能性がある。さらに、インビトロでの低親和性CTLの誘導は、通常、高濃度のペプチドの使用によって、高レベルの特異的なペプチド/MHC複合体を、CTLを効果的に活性化する抗原提示細胞(APCs)上に生成する結果であろうことは知られている(Alexander-Miller et al., Proc Natl Acad Sci USA 93: 4102-7 (1996))。
【発明の開示】
【0013】
発明の概要
本発明は、CSTおよびGABRPの発現パターンの発見に基づく。
【0014】
膵管腺癌(PDAC)の治療のための新規分子標的を同定するため、本発明者らは癌細胞集団をレーザーマイクロダイセクションによって純化した後、網羅的ゲノムcDNAマイクロアレイを用いてPDACの正確な遺伝子発現プロファイルを得た。PDACにてトランス活性された遺伝子の機能分析を通じて、シスタチンE/M(CST6)とGABA受容体π(GABRP)は分子レベルでのPDACの治療用薬剤の開発のための候補として同定された。CST6とGABRPの過剰発現は免疫染色法および/もしくはRT-PCRによって確認され、ノーザンブロット法によりCST6とGABRPの発現は成人正常臓器において制限されていることが示された。siRNAによるPDAC細胞株における内在性CST6 およびGABRPの発現のノックダウンによりPDAC細胞の増殖を減衰させたことより、PDAC細胞の生存維持に不可欠な役割を担っていることが示唆された。
【0015】
シスタチンE/M(CST6)はカテプシンMのような標的プロテアーゼの触媒機能を制御するプロテアーゼインヒビターのシスタチンスーパーファミリーに属し、細胞内および細胞外にて機能する。CST6欠損細胞でのCST6の恒常的発現はインビトロでの細胞増殖を促進するうえに、培養液への成熟組み替えCST6の添加によっても容量依存的に細胞増殖を促進することから、分泌されたCST6はオートクライン/パラクラインでPDACの細胞増殖に関連することが示唆された。
【0016】
GABA受容体π(GABRP)はGABAA受容体複合体サブユニットの一つであり、そのGABAA受容体への取り込みによりGABAへの感度を調整することができる。GABA刺激によりGABRPを発現しているPDAC細胞の増殖を促進し、GABAA受容体アンタゴニストはこの促進効果を無効にすることが明らかとなった。一方、GABA刺激はGABRPを発現していないPDAC細胞の増殖には関与しなかった。これらの知見はCST6、GABAおよびGABA受容体πがPDACに対する新規治療方法の開発のための有望な分子標的であると提唱する。
【0017】
本発明では、発明者らはこれまでの報告とは逆に、CST6がPDACのいくつかの集団において過剰発現することを報告し、CST6がオートクライン/パラクラインでPDACの細胞増殖を促進させること、GABA受容体π(GABRP)はPDACのいくつかの集団において過剰発現すること、GABAとGABA受容体πサブユニットはPDACの細胞増殖を促進させること示し、PDAC治療に対する有望な標的であると提唱する。
【0018】
CST6とGABRPのヌクレオチド配列とアミノ酸配列は、それぞれ配列番号41、42、43および44で示される。これらの配列はまたGenbank登録番号NM_001323とNM_014211からも入手できる。
【0019】
したがって、本発明は、組織試料のような患者に由来する生物学的試料においてCST6もしくはGABRPの発現レベルを決定することによって、対象における膵臓癌に対する素因を診断または決定する方法を提供する。正常細胞は、膵臓組織から得られた細胞である。変化、例えば遺伝子の正常対照レベルと比較して遺伝子の発現レベルが増加すれば、対象が膵臓癌を有するか、または発症のリスクを有することを示している。
【0020】
本発明において「膵臓癌に対する素因」という語句は、傾向にある患者の状態、膵臓癌に対する傾向、罹患、体質または感受性を持っていることを指す。更に、その語句はまた、対象が膵臓癌になるリスクがあることを指す。
【0021】
本発明において、「対照レベル」という語句は、対照試料において検出されるタンパク質レベルを指し、これには正常対照レベルと膵癌対照レベルが含まれる。対照レベルは、単一の参照集団に由来するか、または複数の発現パターンに由来する単一の発現パターンであり得る。例えば、対照レベルが、以前に検出した細胞由来の発現パターンのデータベースであってもよい。「正常対照レベル」とは、正常で健康な個体または膵臓癌を有しないことがわかっている個体集団において検出された遺伝子発現レベルを指す。正常固体とは膵臓癌の臨床症状を伴わない固体である。一方、「PDAC対照レベル」とは、PDACに罹患している集団において検出されるCST6もしくはGABRPの発現プロファイルを指す。
【0022】
正常対照レベルと比較して被験試料においてCST6もしくはGABRPの発現レベルの増加が検出されれば、(試料を採取した)対象がPDACを有するか、または発症するリスクを有することを示している。
【0023】
または、試料におけるCST6もしくはGABRPのパネルの発現を、同じ遺伝子パネルのPDAC対照レベルと比較することもできる。試料での発現とPDAC対照発現が同等の場合、(試料採取した)対象がPDACを有するか、または発症するリスクを有することを示している。
【0024】
本発明によれば、遺伝子発現レベルは、対照レベルと比較して10%、25%、50%増加または減少した場合に「変化している」と考える。または、遺伝子発現は、対照レベルと比較して少なくとも0.1倍、少なくとも0.2倍、少なくとも1倍、少なくとも2倍、少なくとも5倍または少なくとも10倍、またはそれ以上増加または減少した場合に「増加した」または「減少した」と考える。発現は、例えば、CST6もしくはGABRPプローブによる患者由来組織試料の遺伝子転写物へのハイブリダイゼーションによって検出することによって決定される。
【0025】
本発明によれば、患者由来組織試料は、試験対象、例えばPDACを有することがわかっているか、または疑われる患者からの任意の組織である。例えば、組織は上皮細胞を含む。例えば、組織は、膵管腺癌からの上皮細胞である。
【0026】
本発明はさらに、CST6もしくはGABRPを発現する被験細胞を被験化合物に接触させる段階、およびCST6もしくはGABRPの発現レベルもしくはその遺伝子産物の活性を決定する段階によって、CST6もしくはGABRPの発現または活性を阻害または増強する薬剤を同定する方法を提供する。被験細胞は、膵臓腺癌から得られる上皮細胞のような上皮細胞であり得る。CST6もしくはGABRPの発現レベルもしくはその遺伝子産物の活性を、その遺伝子もしくはその遺伝子産物と対照レベルまたは活性と比較して、減少すれば、被験薬剤がCST6もしくはGABRPのインヒビターであり、PDACの症状を減少させるために利用され得ることを示している。
【0027】
本発明はまた、CST6もしくはGABRPの核酸またはポリペプチドに結合する検出試薬を有するキットを提供する。
【0028】
本発明の治療法には、例えば、アンチセンス組成物もしくは抗体組成物のような、CST6もしくはGABRPのアンタゴニストもしくはインヒビターを対象患者へ投与する段階を含む、対象におけるPDACを治療または予防する方法が含まれる。アンタゴニストもしくはインヒビターは、CST6もしくはGABRPの発現または活性を阻害または減少させるために核酸もしくはタンパク質ともに働きうる。本発明において、アンチセンス組成物は特異的標的遺伝子の発現を減少させる。例えば、アンチセンス組成物は、CST6もしくはGABRP配列と相補的であるヌクレオチドを含み得る。また、本方法には低分子干渉RNA(siRNA)組成物を対象患者に投与する段階が含まれる。本発明において、siRNA組成物は、CST6もしくはGABRPの発現を減少させる。もう一つの方法において、対象患者におけるPDACの治療または予防は、対象患者にリボザイム組成物を投与することによって行われる。本発明において、核酸特異的リボザイム組成物は、CST6もしくはGABRPの発現を減少させる。実際に、CST6もしくはGABRPに対するsiRNAの阻害効果は確認された。例えば、CST6もしくはGABRPに対するsiRNAは実施例の項に、膵臓癌細胞の細胞増殖を阻害することを示した。以上のように、本発明において、CST6またはGABRPは膵臓癌の有望な治療標的となる。
【0029】
本発明にはまた、ワクチンおよびワクチン接種法が含まれる。例えば、対象患者におけるPDACを治療または予防する方法は、CST6もしくはGABRPの核酸がコードするポリペプチドまたはそのようなポリペプチドの免疫学的活性断片を含むワクチンを対象患者に投与することによって行われる。本発明において、免疫学的活性断片は、完全長の天然に存在するタンパク質より長さが短く、完全長によって誘導されるものと同等の免疫応答を誘導するポリペプチドである。例えば、免疫学的活性断片は、長さが少なくとも8残基であって、T細胞またはB細胞のような免疫細胞を刺激する。免疫細胞の刺激は、細胞増殖、サイトカイン(例えば、IL-2)の産生、または抗体の産生を検出することによって測定される。
【0030】
特に定義していなければ、本明細書において用いた科学技術用語は全て、本発明が属する分野の当業者によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書に記述の方法および材料と類似または同等の方法および材料を、本発明の実践または試験において用いることができるが、適した方法および材料を下記に記述する。本明細書において言及した全ての刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献はその全体が参照として本明細書に組み入れられる。本明細書によって、先行発明による公開を先行するために本発明の権利が否定されることを容認するものとして解釈されるべきではない。
【0031】
矛盾する場合には、定義を含めて本明細書が優先する。さらに、材料、方法、および例は、説明するために限られ、制限することを意図しない。
【0032】
本明細書に記述の方法の一つの長所は、膵臓癌の明白な臨床症状を検出する前に疾患が同定されることである。本発明のその他の特徴および長所は、以下の詳細な説明および特許請求の範囲から明らかとなるであろう。
【0033】
発明の詳細な説明
本明細書で用いる場合、「1つの(a)、(an)」および「その(the)」という単語は、別に特記しない限り、「少なくとも1つの」を意味する。本明細書ならびに特許請求の範囲において、特記していない限り、「を含む」という語句は整数または段階、整数の集団または段階群を含むことを意味し、他の整数または段階、整数の集団または段階群を排除することを意味しない。
【0034】
一般的に、膵癌細胞は高度な炎症を持ち、様々な細胞構成を含み得る固形腫瘍である。このため、これまで報告のあるマイクロアレイのデータは不均一なプロファイルを含み得る。
【0035】
本発明は膵臓癌患者より得られた細胞においてCST6もしくはGABRPの発現上昇の知見の一部に基づくものである。
【0036】
本発明において、CST6もしくはGABRPはPDACのマーカーおよびPDAC遺伝子標的として診断利用するために同定され、その発現はPDACの症状を緩和もしくは治療により変化し得る。
【0037】
細胞試料におけるCST6もしくはGABRPの発現を測定することによって、PDACは診断される。同様に、CST6もしくはGABRPの発現を各種薬剤への反応として測定することによって、PDACを治療する薬剤を同定することが可能である。
【0038】
本発明はCST6もしくはGABRPの発現を決定する(例えば、測定する)ことを含む。既知の配列に関するGenBank(登録商標)データベース登録項目に提供された配列情報を用いて、CST6もしくはGABRPを当業者に周知である技術を用いて検出および測定する。例えば、CST6もしくはGABRPに対応する配列データベース登録項目内の配列を用いて、例えばノーザンブロットハイブリダイゼーション解析においてCST6もしくはGABRPに対応する RNA配列を検出するためのプローブを構築する。もう一つの例として、配列を用いて、例えば、逆転写を利用したポリメラーゼ連鎖反応のような増幅に基づく検出法においてPDAC核酸を特異的に増幅するためのプライマーを構築することができる。
【0039】
被験細胞集団、例えば患者由来の組織試料におけるCST6もしくはGABRPの発現レベルを、参照集団におけるCST6もしくはGABRPの発現レベルと比較する。参照細胞集団には、比較されるパラメータが既知である一つまたは複数の細胞、すなわち、膵管腺癌細胞(PDAC細胞)または正常膵管上皮細胞(非PDAC細胞)が含まれる。
【0040】
参照細胞集団と比較した被験細胞集団における遺伝子発現レベルがPDACまたはそれに対する素因を示すか否かは、参照細胞集団の組成に依存する。例えば、参照細胞集団が非PDAC細胞からなる場合、被験細胞集団と参照細胞集団とにおける遺伝子発現パターンが類似であれば、被験細胞集団が非PDACであることを示している。逆に、参照細胞集団がPDAC細胞で構成されている場合、被験細胞集団と参照細胞集団のあいだの遺伝子発現プロファイルが類似であれば、被験細胞集団にPDAC細胞が含まれることを示している。
【0041】
被験細胞集団におけるPDACマーカー遺伝子の発現レベルは、発現レベルが、参照細胞集団における対応するPDACマーカー遺伝子の発現レベルから1.0、1.5、2.0、5.0、10.0倍またはそれ以上参照細胞集団と異なる場合、発現レベルが「変化している」と見なされる。
【0042】
被験細胞集団と参照細胞集団との遺伝子発現の差を、対照核酸、例えばハウスキーピング遺伝子に対して標準化する。例えば、対照核酸は、細胞の癌性または非癌性状態に応じて差がないことが知られている核酸である。被験核酸および参照核酸における対照核酸の発現レベルを用いて、比較される集団におけるシグナルレベルを標準化することができる。対照遺伝子には、例えばβ-アクチン、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ、またはリボソームタンパク質P1が含まれる。
【0043】
被験細胞集団を複数の参照細胞集団と比較する。複数の参照集団のそれぞれは、既知のパラメータが異なってもよい。このように、被験細胞集団を、例えばPDAC細胞を含むことがわかっている第一の参照細胞集団と共に、例えば非PDAC細胞(正常細胞)を含むことがわかっている第二の参照集団と比較してもよい。被験細胞は、PDAC細胞を含むことがわかっているか、または含むことが疑われる対象からの組織タイプまたは細胞試料に含まれる。
【0044】
被験細胞は、生体組織または体液、例えば生物学的液体(血液または喀痰)から得る。例えば、被験細胞は、膵臓組織から精製される。好ましくは、被験細胞集団は上皮細胞を含む。上皮細胞は、膵管腺癌であることがわかっているか、または疑われる組織から得る。
【0045】
参照細胞集団における細胞は、被験細胞と類似の組織タイプに由来する。選択的に、参照細胞集団は、細胞株、例えばPDAC細胞株(陽性対照)または正常な非PDAC細胞株(陰性対照)である。または、対照細胞集団は、アッセイされるパラメータまたは条件が既知である細胞に由来する分子情報のデータベースに由来する。
【0046】
対象は好ましくは哺乳類である。哺乳類は、例えばヒト、ヒト以外の霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、またはウシを含むがこれに限られない。
【0047】
本明細書に開示されるCST6もしくはGABRPの発現は、当技術分野において既知の方法を用いてタンパク質または核酸レベルで決定される。例えば、その配列を特異的に認識するプローブを用いるノーザンハイブリダイゼーション解析は、遺伝子発現を決定するために用いることができる。または、遺伝子発現は、例えばCST6もしくはGABRPの配列に対して特異的なプライマーを用いて、逆転写を利用したPCR分析を用いて測定される。発現はまた、タンパク質レベルで、すなわち本明細書に記載の遺伝子がコードするポリペプチドのレベルまたはその生物学的活性を測定することによっても決定される。そのような方法は当技術分野で周知であり、例えば遺伝子がコードするタンパク質に対する抗体を利用した免疫測定法が含まれるがこれに限られない。遺伝子がコードするタンパク質の生物学的活性も同様に周知である。
【0048】
膵臓癌の診断
本発明において、PDACは、被験細胞集団(すなわち患者に由来する生物学的試料)からCST6もしくはGABRPの発現レベルを測定することによって診断される。好ましくは、被験細胞集団は、上皮細胞、例えば膵臓組織から得た細胞を含む。遺伝子発現はまた、血液、または尿のような他の体液から測定される。他の生物学的試料は、タンパク質レベルを測定するために用いることができる。例えば、診断される対象に由来する血液、血清、または膵液におけるタンパク質レベルは、免疫測定法または生物学的測定法によって測定することができる。
【0049】
CST6もしくはGABRPの発現を、被験細胞または生物学的試料において決定して、測定済みのCST6もしくはGABRPの正常対照レベルの発現と比較する。正常対照レベルは、PDACを有しないことがわかっている集団において典型的に認められるCST6もしくはGABRPの発現プロファイルである。CST6もしくはGABRPの患者由来組織試料における発現レベルが変化(例えば、増加)すれば、対象がPDACを有するか、またはPDAC発症のリスクを有することを示している。例えば、正常対照レベルと比較して被験集団におけるCST6もしくはGABRPのレベルが増加すれば、対象がPDACを有するか、またはPDAC発症のリスクを有することを示している。
【0050】
正常対照レベルと比較して被験集団におけるCST6もしくはGABRPの増加は対象がPDACを有するか、またはPDAC発症のリスクを有することを示している。
【0051】
生物学的試料におけるPDAC関連遺伝子の発現レベルは、PDAC関連遺伝子がコードするタンパク質もしくは一致するmRNAを定量することによって評価される。mRNAの定量方法は当技術分野で既知である。例えば、PDAC関連遺伝子がコードするmRNAのレベルはRT-PCRまたはノーザンブロットによって評価される。PDAC関連遺伝子のヌクレオチド配列は既知であるため、当業者は、PDAC関連遺伝子を定量するためのプライマーもしくはプローブのためのヌクレオチド配列は設計することができる。
【0052】
PDAC関連遺伝子の発現レベルはまた、その遺伝子がコードするタンパク質の定量または活性に基づいて分析される。PDAC関連遺伝子がコードするタンパク質の定量方法は後述される。例えば、免疫測定方法は生物学的材料においてタンパク質の決定に利用される。生物学的材料は、マーカー遺伝子(PDAC関連遺伝子)が膵臓癌患者の試料において発現している限り、タンパク質またはその活性の測定のために生物学的試料として利用される。しかも、血液や尿といった体液もまた分析される。一方、PDAC関連遺伝子がコードするタンパク質の活性の測定のために、分析されるタンパク質の活性にしたがって適切な方法を選択する。
【0053】
生物学的試料におけるPDAC関連遺伝子の発現レベルは正常試料(例えば、非発症患者からの試料)のものと比較し、評価される。その遺伝子の発現レベルが正常試料においてよりも高いと示されたとき、対象はPDACを罹患していると判断される。正常患者と診断された患者からの生物学的試料におけるPDAC関連遺伝子の発現レベルは同時に決定されてもよい。または、発現レベルの正常範囲は、以前に正常集団から回収された試料におけるその遺伝子の発現レベルを分析した結果により決定されてもよい。対象の試料と比較して得られた結果は正常範囲と比較される。つまり、結果が正常範囲内にない場合、その対象はPDACを発症するリスクもしくは罹患していると判定される。
【0054】
本発明において、PDACのような細胞増殖性疾患のための診断剤もまた提供される。本発明の診断剤はPDAC関連遺伝子のポリペプチドまたはポリヌクレオチドに結合する化合物からなる。好ましくは、そのような化合物として、PDAC関連遺伝子のポリヌクレオチドへハイブリダイズするオリゴヌクレオチドもしくは、PDAC関連遺伝子がコードするポリヌクレオチドに結合する抗体が利用され得る。その上、RNA、DNAのようなアプタマーもしくはペプチドアプタマーもまた、そのような化合物として利用される。
【0055】
CST6もしくはGABRPの発現を阻害する薬剤の同定
CST6もしくはGABRPの発現または活性を阻害する薬剤は、CST6もしくはGABRPを発現する被験細胞集団を被験薬剤に接触させ、CST6もしくはGABRPの発現レベルもしくはその遺伝子産物の活性を決定することによって同定される。被験薬剤の非存在下でのCST6もしくはGABRPの発現レベルもしくはその遺伝子産物の活性と比較して、薬剤の存在下で発現もしくは活性レベルが減少すれば、その薬剤がCST6もしくはGABRPのインヒビターであり、PDACを阻害するのに有用であることを示している。
【0056】
被験細胞集団は、CST6もしくはGABRPを発現する任意の細胞である。例えば、被験細胞集団は、膵臓組織に由来する細胞のような、上皮細胞を含む。さらには、被験細胞は、腺癌細胞に由来する不死化細胞株でもあり得る。または、被験細胞は、CST6もしくはGABRPをトランスフェクトした細胞、またはレポーター遺伝子に機能的に結合したCST6もしくはGABRPの調節配列(例えば、プロモーター配列)をトランスフェクトした細胞でもある。
【0057】
対象におけるPDAC治療の有効性の評価
本発明において同定された発現差のあるCST6もしくはGABRPによって、PDACの治療経過をモニターすることもできる。この方法において、被験細胞集団は、PDACの治療を受けている対象から提供される。望むならば、被験細胞集団は、治療前、治療中、または治療後の様々な時点で対象から得られる。細胞集団におけるCST6もしくはGABRPの発現を決定して、PDAC状態が既知である細胞を含む参照細胞集団と比較する。本発明において、参照細胞は関連する治療を受けていない。
【0058】
参照細胞集団がPDAC細胞を含まない場合、被験細胞集団と参照細胞集団におけるCST6もしくはGABRPの発現が類似であれば、治療が有効であることを示している。しかし、正常対照参照細胞集団と比較して、被験細胞集団においてCST6もしくはGABRPの発現の上昇は、あまり好ましくない臨床結果または予後を示している。同様に、参照細胞集団がPDAC細胞を含む場合、参照細胞集団と比較して、被験細胞集団においてCST6もしくはGABRPの発現の下降は、好しい臨床結果または予後を示している、一方、被験細胞集団と癌対照参照細胞集団とが同様のCST6もしくはGABRPの発現を示したとき、あまり好ましくない臨床結果または予後を示している。
【0059】
さらに、治療後の対象由来生物学的試料において測定されたCST6もしくはGABRPの発現レベル(すなわち、治療後レベル)は治療前の対象由来生物学的試料において測定されたCST6もしくはGABRPの発現レベル(すなわち、治療前レベル)と比較される。治療後試料のCST6もしくはGABRPの発現レベルの減少は治療に有効な効果があったことを示し、治療後試料における発現レベルが、増加または不変の場合は、好ましくない臨床結果または予後を示している。
【0060】
本明細書において、「有効」という語句は、治療によって、病理学的に上方制御された遺伝子の発現が減少するか、病理学的に下方制御された遺伝子の発現が増加するか、または対象における膵管腺癌の大きさ、発生率、もしくは転移能が減少することを意味する。治療を予防的に適用する場合、「有効である」とは、治療が膵臓腫瘍の形成を遅らせるかもしくは防止すること、または臨床的なPDACの症状を遅らせるか、予防するか、もしくは軽減することを意味する。膵臓腫瘍の評価は、標準的な臨床プロトコールを用いて行われる。
【0061】
また、有効性は、PDACを診断または治療する任意の既知の方法に関連して決定される。PDACは、例えば症候性の異常、例えば体重の減少、腹痛、背部痛、食欲不振、悪心、嘔吐および全身倦怠感、虚弱、ならびに黄疸を同定することによって診断される。
【0062】
特定の個体にとって適切なPDAC治療用の治療薬剤の選択
個体における遺伝的構成の差によって、個体が様々な薬剤を代謝する相対的能力に差が起こりうる。対象において代謝されて抗PDAC薬剤として作用する薬剤は、対象の細胞において、癌性状態に特徴的な遺伝子発現パターンから非癌性状態に特徴的な遺伝子発現パターンへの変化を誘導することによって自身を顕在化しうる。したがって、薬剤が対象において適したPDACインヒビターであるか否かを決定するために、選択された対象由来の被験細胞集団において、治療または予防効果が推定されるPDACインヒビターが試験されることにとって、本明細書に開示された発現に差のあるCST6もしくはGABRPは有用である。
【0063】
特定の対象にとって適当であるPDACのインヒビターを同定するために、対象由来の被験細胞集団を治療薬剤に曝露して、CST6もしくはGABRPの発現を測定する。
【0064】
本発明の方法において、被験細胞集団は、CST6もしくはGABRPを発現するPDAC細胞を含む。好ましくは、被験細胞は上皮細胞である。例えば、被験細胞集団を候補薬剤の存在下でインキュベートし、被験試料の遺伝子発現パターンを測定して、一つまたは複数の参照プロファイル、例えばPDAC参照発現プロファイルまたは非PDAC参照発現プロファイルと比較する。
【0065】
PDACを含む参照細胞集団と比較して、被験細胞集団におけるCST6もしくはGABRPの発現が減少すれば、その薬剤に治療効果があることを示している。
【0066】
本発明において、被験薬剤はいかなる化合物または組成物であってよい。例えば、被験薬剤は免疫調節剤でもよいが、これに限らない。
【0067】
治療薬剤を同定するためのスクリーニングアッセイ
CST6もしくはGABRP遺伝子、その遺伝子がコードするタンパク質、もしくはその遺伝子の転写調節領域を利用して、遺伝子の発現もしくは遺伝子がコードするポリペプチドの生物学的活性を変化させる化合物をスクリーニングすることができる。
【0068】
そこで、本発明はCST6もしくはGABRPポリペプチドを利用したPDACの治療もしくは予防のための化合物のスクリーニング方法を提供する。このスクリーニング方法の態様は以下の段階を含む:
a)被験化合物を、CST6もしくはGABRPのポリヌクレオチドがコードするポリペプチドと接触させる段階;
b)ポリペプチドと被験化合物との結合活性を検出する段階;および
c)ポリペプチドへ結合する化合物を選択する段階。
【0069】
スクリーニングに使用されるCST6もしくはGABRPポリペプチドは組換えポリペプチドであっても、天然由来のタンパク質であってもよく、またそれらの部分ペプチドであってもよい。被験化合物と接触させる本発明のポリペプチドは、例えば、精製ポリペプチド、可溶性タンパク質、担体と結合した形態、または他のポリペプチドと融合した融合タンパク質であってもよい。
【0070】
例えばCST6もしくはGABRPポリペプチドを使用してCST6もしくはGABRPポリペプチドへ結合するタンパク質のスクリーニング方法としては、当業者に周知の多くの方法を用いることができる。このようなスクリーニング方法は、例えば、免疫沈降法、具体的には以下の方法で行うことができる。 pSV2neo、pcDNA I、pcDNA3.1、pCAGGSおよびpCD8といった外来遺伝子用の発現ベクターに遺伝子を挿入することにより、CST6もしくはGABRPポリペプチドをコードする遺伝子を宿主(例えば、動物)細胞などで発現させる。発現に使用するプロモーターは一般に使用され得る任意のプロモーターであってよく、これには、例えばSV40初期プロモーター(Rigby in Williamson (ed), Genetic Engineering, vol. 3. Academic Press, London, 83-141 (1982))、EF-αプロモーター(Kim et al., Gene 91: 217-23 (1990))、CAGプロモーター(Niwa et al., Gene 108: 193 (1991))、RSV LTRプロモーター(Cullen, Methods in Enzymology 152: 684-704 (1987))、SRαプロモーター(Takebe et al., Mol Cell Biol 8: 466 (1988))、CMV最初期プロモーター(Seed and Aruffo, Proc Natl Acad Sci USA 84: 3365-9 (1987))、SV40後期プロモーター(Gheysen and Fiers, J Mol Appl Genet 1: 385-94 (1982))、アデノウィルス後期プロモーター(Kaufman et al., Mol Cell Biol 9: 946 (1989))、HSV TKプロモーターなどが含まれる。外来遺伝子を発現させるための宿主細胞への遺伝子の導入は任意の方法に従って行うことができ、これには例えばエレクトロポレーション法(Chu et al., Nucleic Acids Res 15: 1311-26 (1987))、リン酸カルシウム法(Chen and Okayama, Mol Cell Biol 7: 2745-52 (1987))、DEAEデキストラン法(Lopata et al., Nucleic Acids Res 12: 5707-17 (1984)、Sussman and Milman, Mol Cell Biol 4: 1641-3 (1984))、リポフェクチン法(Derijard B., Cell 76: 1025-37 (1994)、Lamb et al., Nature Genetics 5: 22-30 (1993)、Rabindran et al., Science 259: 230-4 (1993))などがある。CST6もしくはGABRP遺伝子がコードするポリペプチドは、特異性が判明しているモノクロナール抗体の認識部位(エピトープ)をそのポリペプチドのN末端またはC末端に導入することにより、モノクロナール抗体のエピトープを含む融合タンパク質として発現させることができる。市販のエピトープ抗体システムを用いることもできる(Experimental Medicine 13: 85-90 (1995))。マルチクローニング部位を用いることにより、例えばβ-ガラクトシダーゼ、マルトース結合タンパク質、グルタチオンS-トランスフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)などとの融合タンパク質を発現し得るベクターが市販されている。
【0071】
融合によってCST6もしくはGABRPポリペプチドの性質を変えないように、数個〜数十個のアミノ酸からなる小さなエピトープのみを導入することによって調製された融合タンパク質も報告されている。ポリヒスチジン(Hisタグ)、インフルエンザ凝集素HA、ヒトc-myc、FLAG、水疱性口内炎ウィルス糖タンパク質(VSV-GP)、T7遺伝子10タンパク質(T7-tag)ヒト単純ヘルペスウィルス糖タンパク(HSVタグ)、Eタグ(モノクローナルファージ上のエピトープ)などのエピトープ、およびそれらを認識するモノクロナール抗体を、CST6もしくはGABRPポリペプチドに結合するタンパク質をスクリーニングするためのエピトープ−抗体システムとして用いることができる(Experimental Medicine 13: 85-90 (1995))。
【0072】
免疫沈降では、適切な界面活性剤を用いて調製した細胞溶解物にこれらの抗体を添加することにより、免疫複合体を形成させる。免疫複合体は、CST6もしくはGABRPポリペプチド、そのポリペプチドとの結合能を含むポリペプチド、および抗体からなる。上記のエピトープに対する抗体を用いること以外にも、CST6もしくはGABRPポリペプチドに対する抗体を用いて免疫沈降を行うこともでき、これらの抗体は上記の通りに調製することができる。
【0073】
抗体がマウスIgG抗体である場合、免疫複合体は、例えばプロテインAセファロースまたはプロテインGセファロースによって沈降させることができる。CST6もしくはGABRP遺伝子がコードするポリペプチドをGSTなどのエピトープとの融合タンパク質として調整する場合には、これらのエピトープと特異的に結合する物質、例えばグルタチオン-セファロース4Bなどを用いて、CST6もしくはGABRPポリペプチドに対する抗体を用いる場合と同じ様式で免疫複合体を形成させることができる。
【0074】
免疫沈降は、例えば、文献(Harlow and Lane, Antibodies, 511-52, Cold Spring Harbor Laboratory publications, New York (1988))の中の方法に基づいてまたは従って行い得る。
【0075】
SDS-PAGEは免疫沈降したタンパク質の解析に一般的に用いられており、結合したタンパク質は、適切な濃度のゲルを用いてタンパク質の分子量によって解析することができる。CST6もしくはGABRPポリペプチドに結合したタンパク質をクマシー染色または銀染色などの一般的な染色法によって検出することは困難であるため、タンパク質の検出感度は、放射性同位体である35S-メチオニンまたは35S-システインを含む培養液中で細胞を培養し、細胞内のタンパク質を標識した上でタンパク質を検出することによって改善することができる。タンパク質の分子量が明らかになった時点で、標的タンパク質をSDS-ポリアクリルアミドゲルから直接精製して、その配列を決定することができる。
【0076】
ポリペプチドを使用してCST6もしくはGABRPポリペプチドに結合するタンパク質をスクリーニングする方法としては、例えばウェスト-ウェスタンブロット解析(Skolnik et al., Cell 65: 83-90 (1991))を用いることができる。具体的には、本CST6もしくはGABRPポリペプチドに結合するタンパク質は、CST6もしくはGABRPポリペプチドに結合するタンパク質を発現すると予想される細胞、組織、器官(例えば、CST6では胎盤または甲状腺、GABRPでは気管、前立腺または胃などの組織)、または培養細胞(たとえば、CST6ではPK-59またはPK-1、GABRPではKLM-1またはPK-45P)からファージベクター(例えばZAP)を用いてcDNAライブラリーを調製し、LB-アガロース上でタンパク質を発現させ、発現したタンパク質をフィルターに固定し、そのフィルターに精製し、標識したCST6もしくはGABRPポリペプチドを反応させ、CST6もしくはGABRPポリペプチドに結合したタンパク質を発現するプラークを標識により検出することによって得ることができる。本発明のポリペプチドは、ビオチンとアビジンとの結合を利用することにより、またはCST6もしくはGABRPポリペプチド、またはCST6もしくはGABRPポリペプチドに融合させたペプチドもしくはポリペプチド(例えば、GST)に特異的に結合する抗体を利用することにより標識し得る。放射性同位体または蛍光などを使用する方法を用いてもよい。
【0077】
または、本発明のスクリーニング法の別の態様においては、細胞を利用するツーハイブリッドシステムを使用することができる(「MATCHMAKERツーハイブリッドシステム」、「哺乳動物用MATCHMAKERツーハイブリッドアッセイキット」、「MATCHMAKERワンハイブリッドシステム」(Clontech);「HybriZAPツーハイブリッドベクターシステム」(Stratagene);参考文献「Dalton and Treisman, Cell 68: 597-612 (1992)」、「Fields and Sternglanz, Trends Genet 10: 286-92 (1994)」)。
【0078】
ツーハイブリッドシステムでは、本発明のポリペプチドをSRF結合領域またはGAL4結合領域と融合させて、酵母細胞で発現させる。本発明のポリペプチドに結合するタンパク質を発現すると予想される細胞からライブラリーが発現した際にVP16またはGAL4転写活性化領域と融合するように、cDNAライブラリーを調製する。続いてcDNAライブラリーを上記の酵母細胞に導入し、検出された陽性クローンからライブラリーに由来するcDNAを単離する(本発明のポリペプチドに結合するタンパク質が酵母細胞で発現された場合、この2つの結合によってレポーター遺伝子が活性化され、陽性クローンが検出されるようになる)。cDNAがコードするタンパク質は上記のようにして単離したcDNAを大腸菌に導入してタンパク質を発現させることによって調製することができる。
【0079】
レポーター遺伝子としては、HIS3遺伝子のほかに、例えばAde2遺伝子、lacZ遺伝子、CAT遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子などを用いることができる。
【0080】
CST6もしくはGABRPがコードするポリペプチドに結合する化合物を、アフィニティークロマトグラフィーを用いてスクリーニングすることもできる。例えば、本発明のポリペプチドをアフィニティーカラムの担体上に固定し、本発明のポリペプチドに結合し得るタンパク質を含む被験化合物をカラムに入れる。本明細書における被験化合物は、例えば細胞抽出物、細胞溶解物などであってもよい。被験化合物のローディング後にカラムを洗浄し、本発明のポリペプチドに結合した化合物を調製することができる。
【0081】
被験化合物がタンパク質である場合には、得られたタンパク質のアミノ酸配列を解析して、その配列にもとづいてオリゴDNAを合成し、そのオリゴDNAをプローブとして用いてcDNAライブラリーをスクリーニングして、対象タンパク質をコードするDNAを取得する。
【0082】
表面プラズモン共鳴現象を用いたバイオセンサーを、結合した化合物を検出または定量するための手段として本発明において用いることができる。このようなバイオセンサーを用いると、標識することなく、ごく微量のポリペプチドのみで、本発明のポリペプチドと被験化合物との相互作用を表面プラズモン共鳴シグナルとしてリアルタイムに観察することができる(例えば、BIAcore、Pharmacia)。このため、BIAcoreなどのバイオセンサーを用いることで、本発明のポリペプチドと被験化合物との結合を評価することが可能である。
【0083】
固定化されたCST6もしくはGABRPポリペプチドを合成化合物、または天然物質バンク、またはランダムファージペプチドディスプレイライブラリーに暴露した際に結合する分子をスクリーニングする方法、およびCST6もしくはGABRPタンパク質に結合するタンパク質のみならず化合物(アゴニストおよびアンタゴニストを含む)を単離するためのコンビナトリアルケミストリー技術に基づくハイスループットスクリーニング法(Wrighton et al., Science 273: 458-64 (1996); Verdine, Nature 384: 11-13 (1996); Hogan, Nature 384: 17-9 (1996))は当業者に周知である。
【0084】
または、本発明はCST6もしくはGABRPがコードするポリペプチドを用いて、PDACを治療または予防するための化合物をスクリーニングする以下の段階を含む方法を提供する:
(a) 被験化合物をCST6もしくはGABRPがコードするポリペプチドと接触させる段階;
(b) 段階(a)のポリペプチドの生物学的活性を検出する段階;および
(c) CST6もしくはGABRPがコードするポリペプチドの生物学的活性を、被験化合物の非存在下で検出される上記のポリペプチドの生物学的活性と比較して抑制する被験化合物を選択する段階。
【0085】
CST6もしくはGABRPタンパク質はPDAC細胞の細胞増殖を促進する活性を有するため、この活性を指標として用いて、この活性を阻害する化合物をスクリーニングすることができる。
【0086】
CST6もしくはGABRPタンパク質の生物学的活性を含む限り、任意のポリペプチドをスクリーニングに使用することができる。このような生物学的活性には、ヒトCST6もしくはGABRPタンパク質の細胞増殖活性が含まれる。例えば、ヒトCST6もしくはGABRPタンパク質を用いることができ、これらのタンパク質と機能的に同等なポリペプチドを用いることもできる。このようなポリペプチドは、細胞によって内因的にまたは外因的に発現させてもよい。
【0087】
このスクリーニングによって単離された化合物は、CST6もしくはGABRP遺伝子がコードするポリペプチドのアゴニストまたはアンタゴニストの候補である。「アゴニスト」という語句は、ポリペプチドとの結合によってその機能を活性化する分子を指す。さらに、その語句はまた、CST6もしくはGABRPをコードする遺伝子の発現を活性化もしくは増強させる分子をも指す。同様に、「アンタゴニスト」という語句は、ポリペプチドとの結合によってその機能を阻害する分子を指す。さらに、その語句はまた、CST6もしくはGABRPをコードする遺伝子の発現を阻害もしくは減少させる分子をも指す。その上、このスクリーニングによって単離された化合物は、CST6もしくはGABRPポリペプチドと分子(DNAおよびタンパク質を含む)とのインビボでの相互作用を阻害する化合物の候補である。
【0088】
本方法において検出しようとする生物学的活性が細胞増殖である場合には、実施例に記載されるように、例えば、CST6もしくはGABRポリペプチドを発現する細胞を調製し、この細胞を被験化合物の存在下で培養して、細胞増殖の速度を決定し、細胞周期などを測定し、さらにはコロニー形成活性を測定することにより、それを検出することができる。
【0089】
さらなる態様において、本発明は、PDACを治療または予防するための化合物をスクリーニングする方法を提供する。上に詳述した通り、CST6もしくはGABRの発現レベルを調節することにより、PDACの発症および進行を制御することができる。したがって、PDACの治療または予防に用いられ得る化合物は、CST6もしくはGABRPの発現レベルを指標として用いるスクリーニングによって同定することができる。本発明において、このようなスクリーニングは例えば以下の段階を含み得る:
a) 被験化合物を、CST6もしくはGABRPの発現する細胞と接触させる段階;および
b) CST6もしくはGABRPの発現レベルを、対照と比較して低下させる候補化合物を選択する段階。
【0090】
CST6もしくはGABRPを発現する細胞には、例えば、PDACから樹立された細胞株が含まれる;このような細胞を、本発明の上記のスクリーニングに用いることができる(例えば、CST6ではPK-59またはPK-1、GABRPではKLM-1またはPK-45P)。発現レベルは、当業者に周知の方法によって評価することができる。本スクリーニング方法において、CST6もしくはGABRPの発現レベルを低下させる化合物は、PDACの治療または予防に用いる候補薬剤として選択され得る。
【0091】
または、本発明のスクリーニング方法は以下の段階を含み得る:
a) 被験化合物を、CST6もしくはGABRPの転写制御領域およびその転写制御領域の調節下で発現されるレポーター遺伝子を含むベクターを導入した細胞と接触させる段階;
b) レポーター遺伝子の発現レベルまたは活性を測定する段階;および
c) レポーター遺伝子の発現または活性を低下させる化合物を選択する段階。
【0092】
適切なレポーター遺伝子および宿主細胞は、当技術分野において周知である。スクリーニングに必要なレポーター構築物は、マーカー遺伝子の転写制御領域を用いて調製することができる。マーカー遺伝子の転写制御領域が当業者に周知である場合には、その公知配列情報を用いてレポーター構築物を調製することができる。マーカー遺伝子の転写制御領域が未知である場合には、マーカー遺伝子のヌクレオチド配列情報に基づいて、転写制御領域を含むヌクレオチド部分をゲノムライブラリーから単離し得る。
【0093】
タンパク質の結合に用いる支持体の例には、アガロース、セルロース、およびデキストランなどの不溶性多糖類、ならびにポリアクリルアミド、ポリスチレン、およびシリコンなどの合成樹脂が含まれる。上記の材料から調製された市販のビーズおよびプレート(例えば、マルチウェルプレート、バイオセンサーチップなど)を用いることが好ましい。ビーズを用いる場合には、それらをカラムに充填してもよい。
【0094】
タンパク質の支持体への結合は、化学的結合および物理的吸着などの慣行的方法に従って行うことができる。または、タンパク質は、タンパク質を特異的に認識する抗体を介して支持体に結合させてもよい。さらに、アビジンおよびビオチンを用いて、タンパク質を支持体に結合させることもできる。
【0095】
タンパク質間の結合は、緩衝液がタンパク質間の結合を阻害しない限りは、例えばリン酸緩衝液およびTris緩衝液などの緩衝液中で行われるが、これらに限定されない。
【0096】
本発明において、表面プラズモン共鳴現象を使用するバイオセンサーを、結合したタンパク質を検出または定量するための手段として用いることもできる。このようなバイオセンサーを用いると、ごく微量のポリペプチドのみを用いて、標識を行わずに、タンパク質間の相互作用を表面プラズモン共鳴シグナルとしてリアルタイムに観察することができる(例えば、BIAcore、Pharmacia)。
【0097】
または、CST6もしくはGABRPポリペプチドを標識し、結合したタンパク質の標識を用いて、結合したタンパク質を検出または測定することもできる。具体的には、タンパク質の一方をあらかじめ標識した後に、標識したタンパク質を被験化合物の存在下でもう一方のタンパク質と接触させ、次いで洗浄後に結合したタンパク質を標識によって検出または測定する。
【0098】
本方法におけるタンパク質の標識には、放射性同位体(例えば、3H、14C、32P、33P、35S、125I、131I)、酵素(例えば、アルカリホスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、β-グルコシダーゼ)、蛍光物質(例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミン)、およびビオチン/アビジンなどの標識物質を用いることができる。タンパク質を放射性同位体で標識する場合には、検出または測定は液体シンチレーションによって行い得る。または、酵素で標識したタンパク質は、呈色のような基質の酵素的変化を吸光光度計で検出するために酵素の基質を添加することにより、検出または測定し得る。さらに、蛍光物質を標識として用いる場合には、蛍光光度計を用いて結合したタンパク質を検出または測定し得る。
【0099】
本スクリーニングに抗体を用いる場合には、抗体を上記の標識物質のいずれかで標識し、標識物質に基づいて検出または測定することが好ましい。または、CST6もしくはGABRPポリペプチドに対する抗体を一次抗体として使用して、標識物質で標識した二次抗体によって検出してもよい。さらに、本発明のスクリーニングにおいてタンパク質に結合した抗体は、プロテインGまたはプロテインAカラムを用いて検出または測定することもできる。
【0100】
または、本発明のスクリーニング法の別の態様においては、細胞を利用するツーハイブリッドシステムを使用することができる(「MATCHMAKERツーハイブリッドシステム」、「哺乳動物用MATCHMAKERツーハイブリッドアッセイキット」、「MATCHMAKERワンハイブリッドシステム」(Clontech);「HybriZAPツーハイブリッドベクターシステム」(Stratagene);参考文献「Dalton and Treisman, Cell 68: 597-612 (1992)」、「Fields and Sternglanz, Trends Genet 10: 286-92 (1994)」)。
【0101】
ツーハイブリッドシステムでは、本発明のCST6もしくはGABRPポリペプチドをSRF結合領域またはGAL4結合領域と融合させて、酵母細胞で発現させる。
【0102】
レポーター遺伝子としては、HIS3遺伝子のほかに、例えばAde2遺伝子、lacZ遺伝子、CAT遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子などを用いることができる。
【0103】
本発明において、GABAA受容体アンタゴニストであるビククリンメチオダイド(BMI)によりGABRP陽性PDAC細胞株の細胞増殖を抑制した。従って、GABAA受容体アンタゴニストはPDACの治療と予防剤として使用され得る。このため、本発明はGABAA受容体アンタゴニスト(GABRA)の薬学的有効量を投与する段階を含む、対象における膵臓癌の治療または予防の方法を提供する。また、本発明は薬学的に許容される担体とGABAA受容体アンタゴニスト(GABRA)の薬学的有効量を活性成分として含む、膵癌の治療または予防のための組成物をも提供する。本発明において、好ましいGABAA受容体アンタゴニスト(GABRA)はビククリンまたは薬学的許容されるその四価アンモニウム塩である。特に、ビククリンのメチオダイド、メトブロマイド、メトクロライドまたはメトキサイドは薬学的許容されるビククリン四価アンモニウム塩に含まれる。ビククリン(CAS登録番号19730-80-4)は自明なタイプAガンマ-アミノブチル酸受容体アンタゴニストである(Kardos J. et al., Eur. J. Pharmacol. 337/1, 83-86, 1997, Oct. 15)。しかし、ビククリンによるPDACの細胞増殖抑制は新規手法である。
【0104】
その上、GABAA受容体アンタゴニストはPDACの治療または予防のために使用され得る。そこで、本発明はPDACの治療または予防のための化合物のスクリーニング方法を提供する。このスクリーニング方法の態様は以下の段階を含む:
(a)被験化合物の存在下でGABRPとGABAもしくはその類似体を接触させ、GABAもしくはその類似体へのGABRPの結合活性を測定する段階;
(b)被験化合物の非存在下での検出と比較して(a)の段階における結合活性を減少させる化合物を選択する段階。
【0105】
本発明において、GABAという語句は神経伝達物質であるガンマアミノブチル酸を指す。GABAは成熟脳において主に抑制性神経伝達物質として機能する。神経細胞およびその他の細胞の増殖、遊走および分化へ影響するため、神経系発達の間の栄養要素としても機能する。本発明において「類似体」とは天然および人工的に合成された化合物を含み、配位子の生理学的な活性を阻害する、もしくは配位子として同様の生理学の活性を持つ配位子の派生物を指す。
【0106】
GABRPは天然タンパク質だけでなく遺伝子組み換え技術によって得られる組み換えタンパク質をも調製される。例えば、天然タンパク質は親和性クロマトグラフィーによって調製される。一方、組み換えタンパク質はGABRPをコードするDNAをトランスフェクトした培養細胞によってタンパク質を発現させ、回収することで調製される。
【0107】
GABAもしくはその類似体とGABRPの結合活性はGABAもしくはその類似体と接触させ標識を利用して検出される(例えば、その結合量は放射能もしくは蛍光強度によって決定される)。または、細胞表面のGABRPへの被験化合物の結合による細胞の変化を指標として利用する。
【0108】
細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物の産物、海洋生物からの抽出物、植物抽出物、精製タンパク質または粗タンパク質、ペプチド、非ペプチド化合物、合成微小分子化合物、および天然化合物を含む任意の被験化合物を、本発明のスクリーニング法に用いることができる。本発明の被験化合物は、(1) 生物学的ライブラリー、(2) 空間的に位置づけ可能な平行固相または液相ライブラリー、(3) 逆重畳を必要とする合成ライブラリー法、(4) 「1ビーズ1化合物」ライブラリー法、および(5) アフィニティークロマトグラフィー選択を用いる合成ライブラリー法を含む、当技術分野で公知のコンビナトリアルライブラリー法における任意の多くの方法で入手することもできる。アフィニティークロマトグラフィー選択を用いる生物学的ライブラリー法はペプチドライブラリーに限定されるが、他の4つの方法はペプチド、非ペプチドオリゴマー、または化合物の低分子ライブラリーに適用可能である(Lam (1997) Anticancer Drug Des. 12: 145-67)。分子ライブラリーを合成する方法の例は、当技術分野において見い出すことができる(DeWitt et al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 6909、Erb et al. (1994) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91: 11422、Zuckermann et al. (1994) J. Med. Chem. 37: 2678、Cho et al. (1993) Science 261: 1303、Carell et al. (1994) Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33: 2059、Carell et al. (1994) Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33: 2061、Gallop et al. (1994) J. Med. Chem. 37: 1233)。化合物のライブラリーは、溶液中に提示してもよく(Houghten (1992) Biotechniques 13: 412を参照されたい)、またはビーズ(Lam (1991) Nature 354: 82)、チップ(Fodor (1993) Nature 364: 555)、細菌(米国特許第5,223,409号)、胞子(米国特許第5,571,698号;同第5,403,484号、および同第5,223,409号)、プラスミド(Cull et al. (1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 1865-9)、もしくはファージ(Scott and Smith (1990) Science 249: 386-90;Delvin (1990) Science 249: 404-6、Cwirla et al. (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87: 6378-82、Felici (1991) J. Mol. Biol. 222: 301-10、米国特許出願第2002103360号)上に提示してもよい。
【0109】
本発明のスクリーニングによって単離された化合物は、CST6もしくはGABRPポリペプチドの活性を阻害する薬物を開発するための候補となり、例えばPDACのような細胞増殖性疾患の治療または予防に適用することができる。本発明のスクリーニング方法によって得られる化合物の構造の一部が、付加、欠失、および/または置換によって変換された化合物もまた、本発明のスクリーニング法によって得られる化合物に含まれる。
【0110】
PDACを治療または予防するための薬学的組成物
本発明のスクリーニング方法によって選別されるいくつかの化合物を含む膵臓癌を治療または予防する組成物が本発明によって提供される。
【0111】
本発明の方法によって単離された化合物を、ヒトおよび他の哺乳動物、例えばマウス、ラット、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、サル、ヒヒ、およびチンパンジーに薬剤として投与する場合、単離された化合物は直接投与することもできるし、または公知の薬学的調製法を用いて剤形に製剤化することもできる。例えば、必要に応じて、薬物は、糖衣錠、カプセル剤、エリキシル剤およびマイクロカプセルとして経口摂取されるか、または水もしくは他の任意の薬学的に許容される液体との滅菌溶液もしくは懸濁液の注射剤形で非経口摂取されうる。例えば、化合物は、薬学的に許容される担体または媒体、具体的には滅菌水、生理食塩液、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定化剤、着香料、賦形剤、溶剤、保存剤、結合剤などと共に混合され、一般的に許容される投薬実施に必要な単位投与剤形となる。これらの調製物に含まれる活性成分の量は指示範囲内の適した用量である。
【0112】
錠剤およびカプセル剤に混合することができる添加剤として、ゼラチン、コーンスターチ、トラガカントゴム、およびアラビアゴムのような結合剤;結晶セルロースのような賦形剤;コーンスターチ、ゼラチンおよびアルギン酸のような膨張剤;ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤;ショ糖、乳糖、またはサッカリンのような甘味料;ならびにペパーミント、アカモノ油、およびチェリーのような着香料があるが、これらに限られない。単位投与剤形がカプセル剤である場合、油のような液体担体も同様に上記の成分に含めることができる。注射用滅菌混合物は、注射用蒸留水のような溶剤を用いて通常の投薬実施に従って調製することができる。
【0113】
生理食塩水、グルコース、ならびにD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、および塩化ナトリウムのような補助剤を含む他の等張液は、注射用水溶液として用いることができる。これらは、例えば、エタノールのようなアルコール、プロピレングリコールおよびポリエチレングリコールのような多価アルコール、ポリソルベート80(登録商標)およびHCO-50のような非イオン性界面活性剤のような適切な溶解剤と共に用いることができる。
【0114】
ゴマ油または大豆油を油脂性液体として用いることができ、かつ安息香酸ベンジルまたはベンジルアルコールを溶解剤として共に用いてもよく、リン酸緩衝液および酢酸ナトリウム緩衝液のような緩衝液;塩酸プロカインのような鎮痛剤;ベンジルアルコールおよびフェノールのような安定化剤、ならびに抗酸化剤と共に調製してもよい。調製された注射剤は適したアンプルに充填してもよい。
【0115】
当業者に周知の方法を用いて、本発明の薬学的組成物を患者に、例えば動脈内、静脈内、または経皮注射として投与してもよく、同様に鼻腔内、気管支内、筋肉内、または経口投与としても投与してもよい。投与の用量および方法は、患者の体重および年齢ならびに投与法に応じて変化する;しかし、当業者は、適した投与法を日常的に選択することができる。該化合物がDNAによってコードされうる場合、DNAを遺伝子治療のベクターに挿入して、治療を行うためにベクターを患者に投与することができる。投与の用量および方法は、患者の体重、年齢、および症状に応じて変化するが、当業者はそれらを適切に選択することができる。
【0116】
例えば、本発明のタンパク質に結合してその活性を調節する化合物の用量は、症状に依存するが、用量は、正常な成人(体重60 kg)に経口投与する場合、約0.1 mg〜約100 mg/日、好ましくは約1.0 mg〜約50 mg/日、より好ましくは約1.0 mg〜約20 mg/日である。
【0117】
正常な成人(体重60 kg)に注射剤形で非経口投与する場合、患者、標的臓器、症状および投与法によって多少の差があるが、約0.01 mg〜約30 mg/日、好ましくは約0.1〜約20 mg/日、およびより好ましくは約0.1〜約10 mg/日を静脈内注射することが都合がよい。同様に、他の動物の場合においても、体重60 kgに変換した量を投与することが可能である。
【0118】
膵臓癌を有する対象の予後の評価
本発明によって、被験細胞集団におけるCST6もしくはGABRPの発現を、全病期にわたる患者に由来する参照細胞集団におけるCST6もしくはGABRPの発現と比較する段階を含む、PDAC罹患対象の予後を評価する方法も同様に提供される。被験細胞集団と参照細胞集団におけるCST6もしくはGABRPの遺伝子発現を比較することによって、または対象に由来する被験細胞集団における経時的な遺伝子発現パターンを比較することによって、対象の予後を評価することができる。
【0119】
例えば、正常対照と比較して、CST6もしくはGABRPの発現の増加は、予後があまり好ましくないことを示している。逆に、正常対照と比較してCST6もしくはGABRPの発現が同等であれば、対象にとってより好ましい予後を示している。好ましくは、対象の予後は、CST6もしくはGABRPの発現プロファイルを比較することによって評価することができる。
【0120】
キット
本発明はまた、PDAC検出試薬、例えば、CST6もしくはGABRP核酸の一部に相補的なオリゴヌクレオチド配列のようなCST6もしくはGABRP核酸に特異的に結合、またはこれを同定する核酸、DNA、RNAまたはペプチドアプタマー、またはCST6もしくはGABRPがコードするタンパク質へ結合する抗体が含まれる。検出試薬は、キットの形態で共に包装される。例えば、検出試薬は、核酸または抗体(固相マトリクスに結合させるか、またはそれらをマトリクスに結合させるための試薬とは別に包装される)、対照試薬(陽性および/または陰性)、ならびに/または検出標識のようなもので、異なる容器に包装され得る。アッセイを行うための説明書(例えば、書面、テープ、VCR、CD-ROM等)がキットに含まれ得る。キットの評価形式は、当技術分野で既知のノーザンハイブリダイゼーションまたはサンドイッチELISAであってもよい。
【0121】
例えば、PDAC検出試薬は、少なくとも一つのPDAC検出部位を形成するために多孔性ストリップのような固相マトリクスに固定され得る。多孔性ストリップの測定または検出領域には、核酸を含む多数の部位が含まれてもよい。試験ストリップはまた、陰性および/または陽性対照のための部位を含んでもよい。または、対照部位は、試験ストリップとは異なるストリップに存在し得る。任意で、異なる検出部位は異なる量の固定された核酸を含んでもよく、すなわち最初の検出部位はより多い量を含み、その後の部位ではより少ない量を含んでもよい。被験試料の付加による、検出可能なシグナルを示す部位の数は、試料に存在するPDACの量の定量的な指標として提供される。検出部位は、適切な検出可能な形状で構成されてもよく、典型的には試験ストリップの幅に及ぶ棒状またはドットの形状である。
【0122】
膵臓癌を阻害する方法
本発明は、CST6もしくはGABRPの発現(もしくはその遺伝子産物の活性)を減少させることによって、対象におけるPDACの症状を治療または軽減する方法を提供する。適切な治療用化合物は、PDAC発症のリスクを有する(または罹患しやすい)対象に対して予防的または治療的に投与される。そのような対象は、標準的な臨床的方法を用いて、またはCST6もしくはGABRPの異常なレベルの発現もしくはその遺伝子産物の異常な活性を検出することによって同定される。本発明において、適切な治療薬剤には、例えば、細胞周期調節、細胞増殖のインヒビターが含まれる。
【0123】
または、本発明の治療法には、PDAC細胞が由来する同じ組織型の正常細胞と比較して、膵臓細胞においてその発現が異常に増加しているCST6もしくはGABRP(「上方制御される」または「過剰発現される」遺伝子)の遺伝子産物の発現、機能、またはその両者を減少させる段階が含まれ得る。発現は、当業者に周知のいくつかの方法によって阻害され得る。例えば、過剰発現された遺伝子の発現を阻害またはこれに拮抗する核酸、例えば過剰発現された遺伝子の発現を妨害するアンチセンスオリゴヌクレオチドまたは低分子干渉RNAを対象に投与することによって発現は阻害される。
【0124】
もちろん、治療または軽減の方法の態様を記載した本明細書は、対象におけるPDACの症状を治療または軽減させる薬学的組成物を調製するために記載されたものとして、CST6もしくはGABRPの発現(またはその遺伝子産物の活性)を減少させる化合物の使用に対して必要に応じて変更して適用される。そのような化合物は例えば、アンチセンス、siRNA、抗体、アプタマーまたはリボザイム化合物を含み得る。
【0125】
アンチセンス核酸およびsiRNA
上述したように、CST6もしくはGABRPのヌクレオチド配列に対応するアンチセンス核酸を用いて、CST6もしくはGABRPの発現レベルを減少させることができる。膵臓癌において上方制御されているCST6もしくはGABRPに対応するアンチセンス核酸は、膵臓癌の治療において有用である。具体的には、本発明のアンチセンス核酸は、CST6もしくはGABRPの核酸またはそれに対応するmRNAに結合して、遺伝子の転写もしくは翻訳を阻害し、mRNAの分解を促進し、および/またはCST6もしくはGABRPがコードするタンパク質の発現を抑制して、最終的にタンパク質の機能を抑制することによって作用し得る。本明細書において用いられる「アンチセンス核酸」という語句は、アンチセンス核酸が標的配列に特異的にハイブリダイズすることができる限り、標的配列と完全に相補的であるヌクレオチドおよび一つまたはそれ以上のヌクレオチドのミスマッチを有するヌクレオチドの双方を含む。例えば、本発明のアンチセンス核酸には、少なくとも15個連続したヌクレオチドの長さにおいて、少なくとも70%またはそれ以上、好ましくは80%またはそれ以上、より好ましくは90%またはそれ以上、さらにより好ましくは95%またはそれ以上の相同性を有するポリヌクレオチドが含まれる。当技術分野で周知のアルゴリズムを用いて相同性を決定することができる。
【0126】
本発明のアンチセンス核酸は、タンパク質をコードするDNAまたはmRNAに結合し、転写または翻訳を阻害し、mRNAの分解を促進し、タンパク質の発現を抑制し、タンパク質の機能を抑制することによって、CST6もしくはGABRPがコードするタンパク質を産生する細胞に作用する。
【0127】
本発明のアンチセンス核酸は、核酸に対して不活性である適切な基剤と混合することによって、リニメントまたは湿布剤のような外用調製物として調製することができる。
【0128】
同様に、必要に応じて、アンチセンス核酸へ、賦形剤、等張剤、溶解剤、安定化剤、保存剤、鎮痛剤等を加えることによって、錠剤、粉剤、顆粒剤、カプセル剤、リポソームカプセル、注射剤、溶液、点鼻液、および凍結乾燥剤として調製することができる。これらは以下の既知の方法によって調製することができる。
【0129】
本発明のアンチセンス核酸は、患部に直接塗布すること、または患部に達するように血管に注入することによって、患者に投与される。アンチセンス封入剤も、持続性および膜透過性を増加させるために使用される。例えば、リポソーム、ポリ-L-リジン、脂質、コレステロール、リポフェクチンまたはこれらの誘導体が含まれるが、これに限られない。
【0130】
本発明のアンチセンス核酸の用量は、患者の病態に応じて適切に調節して、所望の量で用いることができる。例えば、0.1〜100 mg/kg、好ましくは0.1〜50 mg/kgの用量範囲を投与することができる。
【0131】
本発明のアンチセンス核酸は、本発明のタンパク質の発現を阻害するため、本発明のタンパク質の生物学的活性を抑制するのに有用である。同様に、本発明のアンチセンス核酸を含む発現抑制剤は、本発明のタンパク質の生物学的活性を抑制できるため有用である。
【0132】
本発明のアンチセンス核酸には、修飾オリゴヌクレオチドが含まれる。例えば、チオエート化オリゴヌクレオチドを用いることで、オリゴヌクレオチドにヌクレアーゼ抵抗性を付与してもよい。
【0133】
同様に、CST6もしくはGABRPに対するsiRNAを用いて、CST6もしくはGABRPの発現レベルを減少させることができる。「siRNA」という語句は、標的mRNAの翻訳を防止する二本鎖RNA分子を指す。siRNAを細胞に導入するためには標準的な方法が用いられ、これらの技術には、DNAがRNAを転写する鋳型となる技術が含まれる。本発明において、siRNAは、CST6もしくはGABRPのような、上方制御されたマーカー遺伝子に対するセンス核酸配列およびアンチセンス核酸配列を含む。siRNAは、単一の転写物が、標的遺伝子のセンス配列および相補的なアンチセンス配列の双方を有するように、例えばヘアピン型のように構築される。
【0134】
CST6もしくはGABRPのsiRNAは、標的mRNAにハイブリダイズすることで、正常な一本鎖mRNA転写産物と会合し、タンパク質の翻訳および発現を阻害することによって、CST6もしくはGABRPがコードするポリペプチドの産生を減少または阻害する。したがって、本発明のsiRNA分子は、ストリンジェントな条件下でCST6もしくはGABRPのmRNAに特異的にハイブリダイズする能力によって特徴づけられる。本発明の目的において、「ハイブリダイズする」または「特異的にハイブリダイズする」という語句は、2つの核酸分子が「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」下でハイブリダイズする能力を指す。「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」という語句は、典型的には核酸の複合混合物中で核酸分子がその標的配列にハイブリダイズするが、他の配列に対するハイブリダイズが検出できないような条件を指す。ストリンジェントな条件は配列に依存し、種々の状況によって異なる。より高温で、配列が長いほど特異的にハイブリダイズする。核酸のハイブリダイゼーションに関する著名な手引きは、Tijssen, Techniques in Biochemistry and Molecular Biology--Hybridization with Nucleic Probes, 「Overview of principles of hybridization and the strategy of nucleic acid assays」(1993)に記載されている。一般に、ストリンジェントな条件として、規定のイオン強度pHにおいては、特定の配列に対する融解温度(Tm)よりも約5〜10℃低くなるように選択される。Tmとは、標的に相補的なプローブの50%が、平衡状態で(標的配列が過剰に存在する場合、Tmでは、プローブの50%が平衡状態で占有されている)、標的配列に(規定のイオン強度、pH、および核酸濃度の基で)ハイブリダイズする温度である。ストリンジェントな条件はまた、ホルムアミドなどの不安定化剤の添加によっても達成され得る。選択的または特異的なハイブリダイゼーションにとって、陽性シグナルとはバックグラウンドの少なくとも2倍、好ましくはバックグラウンドハイブリダイゼーションの10倍である。例示的なストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、以下であり得る:50%ホルムアミド、5×SSC、および1% SDS中での42℃におけるインキュベーション、または5×SSC、1% SDS中での65℃におけるインキュベーション、0.2×SSCおよび0.1% SDS中での50℃における洗浄を伴う。
【0135】
本発明において、siRNAは好ましくは、500、200、100、50、もしくは25ヌクレオチド長またはそれ未満である。より好ましくは、siRNAは19〜25ヌクレオチド長である。CST6もしくはGABRPのsiRNA調製物のための核酸配列には、例えば、標的配列として配列番号:15、19、23、27または31のヌクレオチド配列が含まれる。RNAもしくはその誘導体において、塩基「t」はヌクレオチド配列では「u」と置き換えるべきである。また、例えば、本発明により、以下の配列を含む二重鎖RNA分子を提供する;
5'- gugguucccuggcagaacu-3’ (配列番号: 15)、
5'- gaugggcaggauuguugau-3’ (配列番号: 19)、
5'- uaucaucaacagcuccauc-3’ (配列番号: 23)、
5'- ccccaguaauguugaucac-3’ (配列番号: 27)、または
5'-aggaaguagaagaagucag-3’ (配列番号: 31)。
siRNAの阻害活性を増強する目的で、ヌクレオチド「u」を標的配列のアンチセンス鎖の3'末端に付加することができる。付加する「u」の数は、少なくとも2個、一般的には2〜10個、好ましくは2〜5個である。付加された「u」は、siRNAのアンチセンス鎖の3'末端において一本鎖を形成する。
【0136】
CST6もしくはGABRPのsiRNAは、mRNA転写産物と結合し得る形態で、細胞内に直接導入することができる。これらの態様において、本発明のsiRNA分子は典型的には、アンチセンス分子に対して上記のような修飾がされる。その他の修飾もまた可能であり、例えば、コレステロール結合siRNAは薬理学的特性を改善することが示されている(Song et al. Nature Med. 9:347-51(2003))。または、siRNAをコードするDNAを、ベクターに含めて送達してもよい。
【0137】
ベクターは、例えば、両鎖の発現が(DNA分子の転写により)可能となる様式で、CST6もしくはGABRP標的配列に隣接する機能的に連結された制御配列を有する発現ベクター中にその配列をクローニングすることによって作製してもよい(Lee, N.S., et al.,(2002) Nature Biotechnology 20:500-5)。CST6もしくはGABRPのmRNAに対するアンチセンス鎖であるRNA分子を第1のプロモーター(例えば、クローニングされたDNAの3'側にあるプロモーター配列)によって転写させ、CST6もしくはGABRPのmRNAに対してセンス鎖であるRNA分子を第2のプロモーター(例えば、クローニングされたDNAの5'側にあるプロモーター配列)によって転写させる。そのセンス鎖とアンチセンス鎖は、CST6もしくはGABRPをサイレンシングするためのsiRNA構築物を発生させるためにインビボでハイブリダイズされる。または、2つの構築物を利用して、siRNA構築物のセンス鎖およびアンチセンス鎖を作製することもできる。クローニングされたCST6もしくはGABRPは、例えばヘアピンのような二次構造を有する構築物をコードすることも可能であり、このとき、単一の転写産物が標的遺伝子由来のセンス配列および相補的アンチセンス配列の両方を有する。
【0138】
ヘアピンループ構造を形成させる目的で、任意のヌクレオチド配列からなるループ配列をセンス配列とアンチセンス配列との間に配置することができる。したがって、本発明はまた、一般式5'-[A]-[B]-[A']-3'を有するsiRNAを提供し、式中、[A]は、CST6もしくはGABRPのmRNAまたはcDNAに特異的にハイブリダイズする配列に対応するリボヌクレオチド配列である。好ましい態様において、
[A]はCST6もしくはGABRPの配列に対応するリボヌクレオチド配列であり、
[B]は3〜23ヌクレオチドからなるリボヌクレオチド配列であり、
[A']は[A]の相補配列からなるリボヌクレオチド配列である。
領域[A]は[A']とハイブリダイズし、次いで領域[B]からなるループが形成される。ループ配列は、好ましくは3〜23ヌクレオチド長であり得る。例えば、ループ配列は以下の配列からなる群より選択され得る(http://www.ambion.com/techlib/tb/tb_506.html)。さらに、23ヌクレオチドからなるループ配列もまた、活性siRNAを提供する(Jacque, J.-M., et al.,(2002) Nature 418:435-8)。
CCC、CCACC、またはCCACACC:Jacque, J. M, et al.,(2002) Nature, 418:435-8。
UUCG:Lee, N.S., et al.,(2002) Nature Biotechnology 20:500-5、Fruscoloni, P., et al.,(2003) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100(4):1639-44。
UUCAAGAGA:Dykxhoorn, D. M., et al.,(2002) Nature Reviews Molecular Cell Biology 4:457-67。
【0139】
または、ループ配列は、CCC、UUCG、CCACC、CCACACC、およびUUCAAGAGAからなる群より選択され得る。好ましいループ配列は、UUCAAGAGA(DNAでは「ttcaagaga」)である。本発明において使用のための適切な例示されるヘアピンsiRNAは以下のものを含む:
CST6-siRNAに対して
5’-gugguucccuggcagaacu -[b]- aguucugccagggaaccac-3’ (配列番号15を標的配列とする)
GABRP-siRNAに対して
5’-gaugggcaggauuguugau -[b]- aucaacaauccugcccauc-3’ (配列番号19を標的配列とする)
5’-uaucaucaacagcuccauc -[b]- gauggagcuguugaugaua-3’ (配列番号23を標的配列とする)
5’-ccccaguaauguugaucac -[b]- gugaucaacauuacugggg-3’ (配列番号27を標的配列とする)
5’-aggaaguagaagaagucag -[b]- cugacuucuucuacuuccu-3’ (配列番号31を標的配列とする)。
【0140】
適切なsiRNAのヌクレオチド配列は、アンビオン(Ambion)のウェブサイト(http://www.ambion.com/techlib/misc/siRNA_finder.html)から入手できるsiRNA設計コンピュータープログラムを用いて設計される。コンピュータープログラムは、以下のプロトコールに基づいてsiRNA合成のためのヌクレオチド配列を選択する。
【0141】
siRNA標的部位の選択:
1.対象となる転写物のAUG開始コドンから始めて、AAジヌクレオチド配列を求めて下流にスキャンする。潜在的なsiRNA標的部位として、各AAおよび3'隣接ヌクレオチド19個の出現を記録する。Tuschlらは、調節タンパク質結合部位を多く含み得る領域として、5'および3'非翻訳領域(UTR)および開始コドン近傍(75塩基以内)の領域に対してsiRNAを設計しないことを推奨している。UTR-結合タンパク質および/または翻訳開始複合体は、siRNAエンドヌクレアーゼ複合体の結合を妨害しえる。
2.潜在的な標的部位をヒトゲノムデータベースと比較して、他のコード配列と有意な相同性を有する標的配列も検討から除外する。相同性検索は、NCBIサーバー、www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/において見出されるBLASTを用いて行うことができる。
3.合成のために適格な標的配列を選択する。アンビオンでは、好ましくは、評価すべき遺伝子の長さに沿っていくつかの標的配列を選択することができる。
【0142】
CST6もしくはGABRP遺伝子に隣接する調節配列は、それらの発現が独立に、もしくは時間的もしくは空間的様式で調節されることが可能なように、同一または異なる場合もある。siRNAは、CST6もしくはGABRPの鋳型をそれぞれ、例えば核内低分子RNA(snRNA)U6またはヒトH1 RNAプロモーター由来のRNAポリメラーゼIII転写ユニットを含むベクター中にクローニングすることにより、細胞内で転写される。ベクターを細胞に導入するために、トランスフェクション促進剤を使用することができる。FuGENE(Rochediagnostices)、Lipofectamine 2000(Invitrogen)、Oligofectamine(Invitrogen)、およびNucleofector(和光純薬工業)は、トランスフェクション促進剤として有用である。
【0143】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNAは、本発明のポリペプチドの発現を阻害することで、本発明のポリペプチドの生物学的活性を抑制するために有用である。同様に、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNAを含む発現インヒビターは、それらが本発明のポリペプチドの生物学的活性を阻害できるという点において有用である。したがって、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNAを含む組成物は、膵臓癌を治療するのに有用である。
【0144】
抗体:
または、PDACにおいて過剰発現しているCST6もしくはGABRPの遺伝子産物の機能は、その遺伝子産物へ結合する、さもなければその機能を抑制する化合物を投与することで抑制される。例えば、その化合物はCST6もしくはGABRPの遺伝子産物へ結合する抗体である。
【0145】
本発明は、抗体、特にCST6もしくはGABRPがコードするタンパク質に対する抗体、またはその抗体の断片を用いることに言及する。本明細書において用いられるように、「抗体」という語句は、抗体を合成するために用いられる抗原(すなわち、上方制御されたマーカー遺伝子産物)またはそれに近縁の抗原のみと相互作用する(すなわち結合する)、特異的構造を有する免疫グロブリン分子を指す。さらに抗体は、それがCST6もしくはGABRPがコードするタンパク質に結合する限り、抗体断片または修飾抗体であってもよい。例えば、抗体断片は、Fab、F(ab')2、Fv、またはHおよびL鎖からのFv断片が適当なリンカーによって連結されている一本鎖Fv(scFv)であってもよい(Huston, J.S.ら、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 85:5879〜5883(1988))。より詳細には、抗体断片は、抗体をパパインまたはペプシンのような酵素によって処理することで産生し得る。または、抗体断片をコードする遺伝子を構築して、発現ベクターに挿入し、適当な宿主細胞において発現させてもよい(例えば、Co M. S. et al. J. Immunol. 152:2968-2976 (1994)、 Better M. and Horwitz A. H. Methods Enzymol. 178:476-496 (1989)、Pluckthun A. and Skerra A. Methods Enzymol. 178:497-515 (1989)、Lamoyi E. Methods Enzymol. 121:652-663 (1986)、Rousseaux J. et al. Methods Enzymol. 121:663-669 (1986)、Bird R. E. and Walker B. W. Trends Biotechnol. 9:132-137 (1991)を参照されたい)。
【0146】
抗体は、ポリエチレングリコール(PEG)のような多様な分子に結合させることによって修飾してもよい。本発明は、そのような修飾抗体を提供する。修飾抗体は、抗体を化学修飾することによって得られる。これらの修飾法は、当技術分野で慣例的である。
【0147】
または、抗体は、ヒト以外の抗体に由来する可変領域とヒト抗体に由来する定常領域とのキメラ抗体、またはヒト以外の抗体に由来する相補性決定領域(CDR)、ヒト抗体に由来するフレームワーク領域(FR)、および定常領域を含むヒト化抗体を含み得る。そのような抗体は、既知の技術を用いて調製することができる。ヒト化は齧歯類のCDRまたはCDR配列を一致するヒト抗体の配列へ置き換えることによって行い得る(例えば、Verhoeyen et al., Science 239:1534-1536 (1988)を参照されたい)。したがって、そのようなヒト化抗体はキメラ抗体であり、実質的には完全なヒト可変領域より短いものがヒト以外の種の一致する配列によって置き換えられている。
【0148】
ヒトフレームワーク領域および定常領域に加えてヒト可変領域をも含む完全ヒト抗体を用いることもできる。このような抗体は、当技術分野で周知の多様な技術を用いて作製することができる。例えば、インビトロ法では、バクテリオファージ上に提示されたヒト抗体断片の組換えライブラリーの使用を含む(例えば、Hoogenboom & Winter, J. Mol. Biol. 227:381 (1992))。同様に、ヒト免疫グロブリン座位をトランスジェニック動物、例えば、内因性免疫グロブリン遺伝子が部分的または完全に不活性化されたマウスに導入することによってヒト抗体を作製することもできる。この方法は例えば、米国特許第6,150,584号、第5,545,807号、第5,545,806号、第5,569,825号、第5,625,126号、第5,633,425号、第5,661,016号に記載されている。
【0149】
PDACの症状の治療または軽減するための本発明で用いられる抗体はまた、一本鎖抗体でもよい。一本鎖抗体の作製を記載した技術(とりわけ米国特許第 4,946,778号を参照されたい)は本発明のポリペプチドまたはその一部に対する一本鎖抗体を生産することに応用できる。
【0150】
癌細胞において起こる特異的な分子変化に対する癌治療は、進行乳癌の治療としてトラスツズマブ(ハーセプチン)、慢性骨髄性白血病のためのイマチニブメシレート(グリベック)、非小細胞肺癌(NSCLC)のためのゲフィチニブ(イレッサ)、ならびにB細胞リンパ腫およびマントル細胞リンパ腫のためのリツキシマブ(抗CD20 mAb)のような抗癌剤の臨床開発および規制認可によって確認されている(Ciardiello F.et al., Clin Cancer Res. 2001 Oct;7(10):2958-70. Review、Slamon DJ.et al., N Engl J Med. 2001 Mar 15;344(11):783-92、Rehwald U.et al., Blood. 2003 Jan 15;101(2):420-424、 Fang G.et al., (2000). Blood, 96, 2246-2253)。これらの薬剤は、形質転換した細胞のみを標的とすることから、臨床的に有効であり、従来の抗癌剤と比べより寛容的である。したがって、そのような薬剤は、癌患者の生存および生活の質を改善するのみならず、分子標的癌治療の考え方が正当であることを証明している。さらに、標的特異的薬剤は、標準的な化学療法と併用して用いた場合に、その有効性を増強することができる(Gianni L. (2002). Oncology, 63 Suppl 1, 47-56.; Klejman A.et al., (2002). Oncogene, 21, 5868-5876)。したがって、将来の癌治療はおそらく、従来の薬剤を血管新生および浸潤性のような腫瘍細胞の異なる特徴をねらった標的特異的薬剤と併用することを含むであろう。
【0151】
これらの調節法は、エクスビボまたはインビトロで(例えば、細胞を薬剤と共に培養することによって)、またはインビボで(例えば対象に薬剤を投与することによって)行われる。この方法は、発現差のある遺伝子の異常な発現またはその遺伝子産物の活性を相殺する治療として、タンパク質もしくはタンパク質の組み合わせ、または核酸分子もしくは核酸分子の組み合わせを投与することを含む。
【0152】
遺伝子または遺伝子産物の発現レベルまたは生物学的活性の増加(疾患または障害を有しない対象と比較して)を特徴とする疾患または障害は、過剰発現された遺伝子または複数の遺伝子の活性に拮抗する(すなわち、減少または阻害する)治療物質によって治療してもよい。活性に拮抗する治療物質は治療的または予防的に投与されることができる。
【0153】
または、本発明において利用されうる治療物質には、例えば、(i)過剰発現された遺伝子のポリペプチド、またはその類似体、誘導体、断片、もしくは相同体、(ii)過剰発現された遺伝子または遺伝子産物に対する抗体、(iii)過剰発現された遺伝子をコードする核酸、(iv)アンチセンス核酸または「機能欠損」核酸(すなわち、過剰発現した遺伝子の核酸内への異種挿入による);(v)低分子干渉RNA(siRNA);または(vi)調節因子(すなわち、過剰発現ポリペプチドとその結合パートナーとの相互作用を変化させるインヒビターおよびアンタゴニスト)などが含まれる。機能欠損アンチセンス分子は、相同的組み換えによってポリペプチドの内因性の機能を「ノックアウト」するために利用される(例えば、Capecchi、Science 244:1288〜1292(1989)を参照されたい)。
【0154】
レベルの増加は、ペプチドおよび/またはRNAを定量することによって、患者の組織試料を得て(例えば、生検組織から)、これをRNAまたはペプチドレベル、発現されたペプチドの構造および/または活性(またはその発現が変化している遺伝子のmRNA)に関してインビトロで分析することによって、容易に検出することができる。当技術分野において周知である方法には、免疫測定法(例えば、ウェスタンブロット解析、免疫沈降後のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)ポリアクリルアミドゲル電気泳動、免疫細胞化学等)、および/またはmRNAの発現を検出するハイブリダイゼーション分析(例えば、ノーザンアッセイ、ドットブロット、インサイチューハイブリダイゼーション等)が含まれるが、これらに限定されない。
【0155】
予防的投与は、疾患もしくは障害が予防、またはその進行が遅れるように、疾患の明白な臨床症状の兆候が現れる前に行われる。
【0156】
本発明の治療法には、発現差のある遺伝子の遺伝子産物の活性の一つまたは複数を調節する薬剤に細胞を接触させる段階が含まれ得る。タンパク質活性を調節する薬剤の例として、核酸、タンパク質、それらのタンパク質の天然に存在する同起源の配位子、ペプチド、ペプチド模倣体、または他の低分子が含まれるが、これに限定されない。
【0157】
膵臓癌に対するワクチン:
本発明はまた、CST6もしくはGABRPの核酸がコードするポリペプチド、もしくは該ポリペプチドの免疫学的活性断片、またはポリペプチドもしくはその断片をコードするポリヌクレオチドを含むワクチンを対象に投与する段階を含む、対象における膵臓癌を治療または予防する方法にも関する。
【0158】
もちろん、本発明はまた、CST6もしくはGABRPの核酸がコードするポリペプチド、もしくは該ポリペプチドの免疫学的活性断片、またはポリペプチドもしくはその断片をコードするポリヌクレオチドを対象における膵臓癌を治療または予防するためのワクチン組成物の調製のために使用することにも関する。
【0159】
ポリペプチドの投与は、対象において抗腫瘍免疫を誘導する。抗腫瘍免疫を誘導するために、CST6もしくはGABRPの核酸がコードするポリペプチド、もしくは該ポリペプチドの免疫学的活性断片、またはポリペプチドもしくはその断片をコードするポリヌクレオチドをその必要に応じて対象へ投与する。さらに、CST6もしくはGABRPの核酸がコードするポリペプチドは膵臓癌の浸潤に対して抗腫瘍免疫を導入し得る。ポリペプチドまたはその免疫学的活性断片はPDACに対するワクチンとして有用である。場合によっては、タンパク質またはその断片は、T細胞受容体(TCR)に結合した形で投与してもよく、またはマクロファージ、樹状細胞(DC)、もしくはB細胞のような抗原提示細胞(APC)によって提示された形で投与してもよい。DCの強い抗原提示能のため、APCの中では、DCを用いることが最も好ましい。
【0160】
本発明において、PDACに対するワクチンとは、動物に接種すると抗腫瘍免疫を誘導する機能を有する物質を指す。本発明によると、CST6もしくはGABRPがコードするポリペプチドまたはその断片は、CST6もしくはGABRPを発現するPDAC細胞に対して強力かつ特異的な免疫応答を誘導し得るHLA-A24またはHLA-A*0201拘束性エピトープペプチドであることが示唆された。このように、本発明はまた、ポリペプチドを用いて抗腫瘍免疫を誘導する方法も含む。一般的に、抗腫瘍免疫には、以下のような免疫応答が含まれる:
−腫瘍に対する細胞障害性リンパ球の誘導、
−腫瘍を認識する抗体の誘導、および
−抗腫瘍サイトカイン産生の誘導。
【0161】
したがって、あるタンパク質が、動物への接種時にこれらの免疫応答のいずれか一つを誘導する場合、そのタンパク質は、抗腫瘍免疫誘導効果を有すると判定される。タンパク質による抗腫瘍免疫の誘導は、宿主におけるタンパク質に対する免疫系の反応をインビボまたはインビトロで観察することによって検出することができる。
【0162】
例えば、細胞障害性Tリンパ球の誘導を検出する方法は周知である。具体的には、生体内に入る外来物質は、抗原提示細胞(APC)の作用によってT細胞およびB細胞に提示される。APCによって提示された抗原に対して抗原特異的に応答するT細胞は、抗原による刺激によって細胞障害性T細胞(または細胞障害性Tリンパ球;CTL)に分化した後増殖する(これはT細胞の活性化と呼ばれる)。したがって、あるペプチドによるCTL誘導は、APCによるT細胞へのペプチドの提示およびCTLの誘導を検出することによって評価することができる。さらに、APCは、CD4+ T細胞、CD8+ T細胞、マクロファージ、好酸球、およびNK細胞を活性化する効果を有する。CD4+ T細胞およびCD8+ T細胞も同様に抗腫瘍免疫において重要であることから、ペプチドの抗腫瘍免疫誘導作用は、これらの細胞の活性化効果を指標として用いて評価することができる。
【0163】
APCとして樹状細胞(DC)を用いてCTLの誘導作用を評価する方法は、当技術分野で周知である。DCは、APCの中でも最も強力なCTL誘導作用を有する代表的なAPCである。この方法では、被験ポリペプチドをまずDCに接触させて、このDCをT細胞に接触させる。DCに接触させた後に、対象細胞に対して細胞障害作用を有するT細胞が検出されれば、被験ポリペプチドが細胞障害性T細胞の誘導活性を有することを示している。腫瘍に対するCTLの活性は、例えば51Cr標識腫瘍細胞の溶解を指標として用いて検出することができる。または、3H-チミジン取り込み活性またはLDH(乳糖デヒドロゲナーゼ)放出を指標として用いて腫瘍細胞の損傷の程度を評価する方法も同様に周知である。
【0164】
DCとは別に、末梢血単核球(PBMC)も同様にAPCとして用いてもよい。CTLの誘導は、GM-CSFおよびIL-4の存在下でPBMCを培養することによって増強されうることが報告されている。同様に、CTLは、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)およびIL-7の存在下でPBMCを培養することによって誘導されることが示されている。
【0165】
これらの方法によってCTL誘導活性を有することが確認された被験ポリペプチドは、DC活性化効果およびその後のCTL誘導活性を有するポリペプチドである。したがって、腫瘍細胞に対してCTLを誘導するポリペプチドは、腫瘍に対するワクチンとして有用である。さらに、ポリペプチドに接触させることによって腫瘍に対するCTLの誘導能を獲得したAPCは、腫瘍に対するワクチンとして有用である。さらに、APCによるポリペプチド抗原の提示により細胞障害性を獲得したCTLも同様に、腫瘍に対するワクチンとして用いることができる。APCおよびCTLによる抗腫瘍免疫を用いるそのような腫瘍の治療法は、細胞免疫療法と呼ばれる。
【0166】
一般的に、細胞免疫療法のためにポリペプチドを用いる場合、CTL誘導効率は、異なる構造を有する複数のポリペプチドを組み合わせて、それらをDCに接触させることによって増加することが知られている。したがって、DCをタンパク質断片によって刺激する場合、複数のタイプの断片の混合物を用いることが有利である。
【0167】
または、ポリペプチドによる抗腫瘍免疫の誘導は、腫瘍に対する抗体産生の誘導を観察することによって確認することができる。例えば、ポリペプチドに対する抗体が、そのポリペプチドで免疫した実験動物において誘導される場合、そして腫瘍細胞の増殖がそれらの抗体によって抑制される場合、ポリペプチドは、抗腫瘍免疫の誘導能を有すると判定することができる。
【0168】
抗腫瘍免疫は本発明のワクチンを投与することによって誘導され、抗腫瘍免疫の誘導によって、PDACを治療および予防することができる。癌の治療または癌の発症の予防には、癌性細胞の増殖の阻害、癌の退縮、および癌の発生抑制のような段階のいずれかが含まれる。癌を有する個体の死亡率の低下、血液中の腫瘍マーカーの減少、癌に伴う検出可能な症状の軽減等も同様に、癌の治療または予防に含まれる。そのような治療および予防効果は好ましくは統計学的に有意である。例えば、細胞増殖疾患に対するワクチンの治療または予防効果を、ワクチン投与を行わない対照と比較する観察において、5%またはそれ未満は有意水準である。例えば、スチューデントのt-検定、マン-ホイットニーのU検定、またはANOVAを統計解析に用いてもよい。
【0169】
免疫学的活性を有する上記のタンパク質またはそのタンパク質をコードするベクターをアジュバントと併用してもよい。アジュバントは、免疫学的活性を有するタンパク質と共に(または連続して)投与した場合にタンパク質に対する免疫応答を増強する化合物を指す。アジュバントの例には、コレラ毒素、サルモネラ毒素、ミョウバン等が含まれるがこれらに限定されない。さらに、本発明のワクチンは、薬学的に許容される担体と適当に組み合わせてもよい。そのような担体の例は、滅菌水、生理食塩液、リン酸緩衝液、培養液等である。さらに、ワクチンは必要に応じて、安定化剤、懸濁剤、保存剤、界面活性剤等を含んでもよい。ワクチンは、全身または局所投与される。ワクチン投与は、1回投与によって行ってもよく、または複数回投与によって追加刺激してもよい。
【0170】
本発明のワクチンとしてAPCまたはCTLを用いる場合、腫瘍を例えばエクスビボ法によって治療または予防することができる。より詳細には、治療または予防を受ける対象のPBMCを採取して、細胞をエクスビボでポリペプチドに接触させて、APCまたはCTLの誘導後、細胞を対象に投与してもよい。APCはまた、ポリペプチドをコードするベクターをエクスビボでPBMCに導入することによって誘導することができる。インビトロで誘導されたAPCまたはCTLは、投与前にクローニングすることができる。標的細胞を障害する高い活性を有する細胞をクローニングして増殖させることによって、細胞免疫療法をより効率よく行うことができる。さらに、このようにして単離されたAPCおよびCTLを用いて、細胞が由来する個体に対してのみならず、他の個体からの類似のタイプの腫瘍に対する細胞免疫療法のために用いてもよい。
【0171】
さらに、本発明のポリペプチドの薬学的有効量を含む、癌のような細胞増殖疾患を治療または予防するための薬学的組成物が提供される。薬学的組成物は、抗腫瘍免疫を惹起するために用いてもよい。
【0172】
PDACを阻害するための薬学的組成物
本発明において、薬学的製剤には、経口、直腸内、鼻腔内、局所(口腔内および舌下を含む)、膣内、もしくは非経口(筋肉内、皮下、および静脈内を含む)投与に適した製剤、または吸入もしくは吹入による投与に適した製剤が含まれる。好ましくは、投与は静脈内である。製剤は任意で個別の用量単位に包装される。
【0173】
経口投与に適した薬学的製剤には、それぞれが活性成分の規定量を含むカプセル剤、カシェ剤、または錠剤が含まれる。製剤にはまた、粉剤、顆粒剤、または溶液、懸濁液、または乳液が含まれる。活性成分は、任意でボーラス舐剤またはペーストとして投与される。経口投与用の錠剤およびカプセル剤は、結合剤、充填剤、潤滑剤、崩壊剤、および/または湿潤剤のような通常の賦形剤を含んでもよい。錠剤は、任意で一つまたは複数の製剤成分との圧縮または成形によって作製してもよい。圧縮錠は、粉剤または顆粒剤のような流動状の活性成分を、任意で結合剤、潤滑剤、不活性希釈剤、潤滑剤、表面活性剤、および/または分散剤と混合して、適した装置において圧縮することによって調製してもよい。成形錠剤は、不活性液体希釈剤によって湿らせた粉末化合物の混合物を適した機械において成形することによって作製してもよい。錠剤は、当技術分野で周知の方法に従ってコーティングしてもよい。経口液体調製物は、例えば、水性もしくは油性懸濁液、溶液、乳液、シロップ剤、もしくはエリキシル剤の形であってもよく、または使用前に水もしくは他の適した溶剤によって構成するための乾燥製品として提供してもよい。そのような液体調製物は、懸濁剤、乳化剤、非水性溶剤(食用油が含まれてもよい)、または保存剤のような通常の添加剤を含んでもよい。錠剤は任意で、活性成分の徐放または制御放出を提供するように調製してもよい。錠剤の包装は、毎月服用される錠剤1錠を含んでよい。
【0174】
非経口投与用製剤には、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤および意図する対象となるレシピエントの血液と製剤を等張にする溶質を含んでもよい水性および非水性滅菌注射剤、ならびに懸濁剤および/または濃化剤を含んでもよい水性および非水性滅菌懸濁液が含まれる。製剤は、単位用量または複数回用量容器、例えば密封アンプルおよびバイアルに入れてもよく、滅菌液体担体、例えば生理食塩液、注射用水を使用直前に加えるだけでよい凍結乾燥状態で保存してもよい。または、製剤は、連続注入用であってもよい。即時調合注射溶液および懸濁液は、既に記述した種類の滅菌粉末、顆粒、および錠剤から調製してもよい。
【0175】
直腸投与用製剤には、カカオバターまたはポリエチレングリコールのような標準的な担体を含む坐剤が含まれる。口内への、例えば口腔内または舌下への局所投与用製剤には、ショ糖およびアカシアまたはトラガカントのような着香基剤に活性成分を含むトローチ剤、ならびにゼラチンとグリセリンまたはショ糖とアカシアのような基剤に活性成分を含む香錠が含まれる。鼻腔内投与の場合、本発明の化合物を液体スプレー、もしくは分散性の粉末として、または点鼻剤の形態で用いてもよい。点鼻剤は、一つまたは複数の分散剤、溶解剤、または懸濁剤を含む水性または非水性基剤によって調製してもよい。
【0176】
吸入による投与の場合、吸入器、ネブライザー、加圧パックまたはエアロゾルスプレーなど他の都合のよい送達の手段によって化合物を都合よく送達することができる。加圧パックは、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素、または他の適したガスのような適した噴射剤を含んでもよい。加圧エアロゾルの場合、用量単位は、一定量を送達するための弁を提供することによって決定してもよい。
【0177】
あるいは、吸入または吹入による投与の場合、化合物は、乾燥粉末組成物、例えば化合物と、乳糖またはデンプンのような適した粉末基剤との粉末混合物の形状をとってもよい。粉末組成物は、単位投与剤形、例えば、粉末が吸入器または吹入器を利用して投与されうるカプセル剤、カートリッジ、ゼラチンまたはブリスターパックの形としてもよい。
【0178】
他の製剤には、治療薬剤を放出する埋め込み可能装置および接着パッチが含まれる。
【0179】
望むならば、活性成分を持続的に放出するように適合された上記の製剤を用いてもよい。薬学的組成物はまた、抗菌剤、免疫抑制剤、または保存剤のような他の活性成分を含んでもよい。
【0180】
上記で特に言及した成分の他に、本発明の製剤には、当該製剤のタイプに関して当技術分野において通常の他の薬剤が含まれてもよいと理解すべきであり、例えば経口投与に適した製剤は着香料を含んでもよい。
【0181】
好ましい単位投与製剤は、下記に引用するように、活性成分の有効量またはその適当な分画を含む製剤である。
【0182】
上記の条件のそれぞれに関して、組成物、例えばポリペプチドおよび有機化合物は、約0.1〜約250 mg/kg/日の用量で経口または注射によって投与される。成人ヒトの用量範囲は一般的に、約5 mg〜約17.5 g/日、好ましくは約5 mg〜約10 g/日、および最も好ましくは約100 mg〜約3 g/日である。錠剤または個別の単位で提供される他の単位投与剤形は、便宜上、同一単位量を複数回投与した量で有効性を示すような単位量、例えば約5 mg〜約500 mg、通常約100 mg〜約500 mgを含み得る。
【0183】
用いられる用量は、対象の年齢および性別、治療される正確な障害、およびその重症度を含む多数の要因によって左右されると考えられる。同様に、投与経路も、病態およびその重症度に依存して変化してもよい。任意の事象において、正しく、最適な容量は当業者によって上記の要因を加味し、慣習的に算出され得る。
【0184】
本発明はさらに、請求の範囲に記述される本発明の範囲を制限しない以下の実施例において説明される。以下の実施例は、PDAC細胞において発現に差のある遺伝子の同定および特徴付けを説明する。
【0185】
実施例
材料と方法
細胞株
PDAC細胞株KLM-1、SUIT-2、KP-1N、PK-1、PK-45PおよびPK-59は東北大学医用細胞資源センター(日本、仙台)から提供を受け、Cos7はアメリカ培養細胞系統保存機関 (ATCC、ロクバイル、メリーランド州)から購入した。MIAPaCa-2およびPanc-1はアメリカ培養細胞系統保存機関 (ATCC、ロクバイル、メリーランド州)から購入した。全ての細胞株は10%ウシ胎児血清(Cansera International、オンタリオ州、カナダ)と1%抗菌/抗真菌溶液(Sigma-Aldorich)を添加したRPMI1640(Sigma-Aldorich、セントルイス、ミズーリ州)で培養された。細胞は5% CO2を含む加湿空気の雰囲気中において37℃で維持した。
【0186】
半定量的RT-PCR
膵臓癌組織からのPDAC細胞と正常管上皮細胞の純化は以前報告した(Nakamura T, et. al., Oncogene 2004; 23: 2385-400)。純化した膵臓癌組織からのPDAC細胞と正常管上皮細胞のRNAは、T7に基づくインビトロの転写(Epicentre Technologies、マディソン、ウィスコンシン州)を用いてRNA増幅を2巡させ、一本鎖cDNAを合成した。ヒト膵臓癌細胞株からの全RNAはTrizol試薬(Invitrogen、カールスバッド、カリフォルニア州)を用いて製造者推薦手引書に従って抽出された。抽出RNAはDNaseI(Roche Diagnostic、マンハイム、ドイツ)で処理し、オリゴ(dT)プライマーを用いてSuperscriptII逆転写酵素(Invitrogen)で一本鎖cDNAへ逆転写された。本発明者らは定量対照としてα-tubulin (TUBA)をモニターすることによって、その後のPCR増幅に対するそれぞれの一本鎖cDNAの適切な希釈率を決定した。プライマー配列は、TUBAに対して5’-AAGGATTATGAGGAGGTTGGTGT -3’ (配列番号1)および5’-CTTGGGTCTGTAACAAAGCATTC -3’ (配列番号2)、CST6に対して5’- GGCAGCAACAGCATCTACTACTT-3’ (配列番号3)および5’-ACAGTTGTGCTTTAGGAGCTGAG -3’ (配列番号4)、GABRPに対して5’-CTCTCCAAATCCAGCCAGAG-3’ (配列番号5)および5’-ATGATTGGCTCATACAACCACA-3’ (配列番号6)、GAD1に対して5’- TGCATTTGTGAGCCAAAGAG-3’ (配列番号7)および5’-CCTTAGGTTTCAGCTAAGCGAG-3’ (配列番号8)を使用した。全ての反応は94℃で2分間の初期変性を行い、その後、94℃で30秒間を23サイクル(TUBAの場合)、28サイクル(CST6およびGABRPの場合)または30サイクル(GAD1の場合)、そして72℃で一分間をGeneAmp PCR system9700(PE Applied Biosystems, Foster, CA)を用いて行った。
【0187】
ノーザンブロット解析
PDAC細胞7株(KLM-1、PK-59、PK-45P、MIAPaCa-2、Panc-1、PK-1およびSUIT-2)およびいくつかの成人正常組織(BD Bioscience、パロアルト、カリフォルニア州)からの1μgのpolyA+RNAを膜へブロッティングした。この癌細胞株とヒト多組織ノーザンブロット(BD Biosciences)はMega Label kit(Amersham、ピスカタウェイ、ニュージャージー州)で32P標識したGABRPで16時間ハイブリダイズした。CST6のcDNAプローブは5’- GGCAGCAACAGCATCTACTACTT-3’ (配列番号9)および5’- ACAGTTGTGCTTTAGGAGCTGAG-3’ (配列番号10)のプライマーを用いて255塩基PCR産物として作製され、GABRPのcDNAプローブは5’-AAGGACTCTGAGGCTTTATTCCC-3’ (配列番号11)および5’-ATGATTGGCTCATACAACCACA-3’ (配列番号12)のプライマーを用いて958塩基PCR産物として作製された。プレハイブリダイゼーション、ハイブリダイゼーションおよび洗浄は製造者推薦の手法に従って行われた。ブロットは10日間-80℃でオートラジオグラフィーによって行われた。
【0188】
CST6タンパク質への特異的抗体の作製
シグナルペプチドを欠損しているヒトCST6タンパク質をコードするcDNA断片は、プライマーとして下線に示されるようにそれぞれBamHIおよびEcoRI制限領域を含む5’-CGC GGA TCC GCC GCA GGA GCG CAT GGT CGG-3’ (配列番号13)および5’-CCG GAA TTC TCA CAT CTG CAC ACA GTT GTG -3’ (配列番号14)を用いてPCRによって増幅された。産物はクローニングされpET28bベクター(Novagen、マディソン、ウィスコンシン州)へ導入し、TALON(登録商標) Superflow Metal Affinity Resin (BD Biosciences、フランクリンレイクス、ニュージャージー州)で提供者プロトコールに沿った条件下で精製できるようN末端に6Hisタグを有する融合タンパクとして作製された。この組み換えCST6-6Hisはウサギへ免疫され;その結果としてポリクローナル抗体が6-ヒスチジン融合CST6タンパク質を抱合したAffi-gel 10(Bio-Rad Laboratories、ハーキュリーズ、カリフォルニア州)を用いて親和精製された。
【0189】
免疫組織染色法
慣習的なPDAC組織切片は適切なインフォームドコンセントの下に摘出された外科的標本より得られた。切片は脱パラフィン処理し、pH6.0のクエン酸緩衝液中で15分間108℃によりオートクレーブされた。内在性過酸化酵素活性はPeroxidase Blocking Reagent(Dako Cytomation、カーピンテリア、カリフォルニア州)で30分間インキュベートすることで消失された。ブロッキングのためウシ胎児血清でインキュベートした後、切片は1時間室温においてウサギ抗CST6ポリクローナル抗体(1:5000希釈)とともにインキュベートされた。PBSで洗浄後、免疫検出は過酸化酵素標識抗ウサギ免疫グロブリン(Envision kit, Dako Cytomation)で行われた。最後に、反応物は3, 3’-diaminobenzidine (Dako Cytomation)で展開された。対比染色はヘマトキシリンで行われた。
【0190】
CST6またはGABRP特異的低分子干渉RNA(siRNA)発現構築物
PDAC細胞における内在性CST6およびGABRP発現を下方制御するため、psiU6BX3.0ベクターは、従来の報告のように(Taniuchi K, et. al., Cancer Res 2005; 65: 105-12)、標的遺伝子に対するショートヘアピンRNAを発現させるために用いられた。U6プロモーターは、終止シグナルとして5個のチミジンおよびジェネテシン(Invitrogen)による選択のためのneoカセットとともに、遺伝子特異的配列(標的転写物の19塩基配列はその逆相補鎖との間をTTCAAGAGAである短いスペーサーによって分けられた)の上流にクローニングされた。標的配列として、CST6-#448として5’-GTGGTTCCCTGGCAGAACT-3’ (配列番号15)、GABRP-si6として5’-GATGGGCAGGATTGTTGAT-3’ (配列番号19)、GABRP-si7として5’-TATCATCAACAGCTCCATC-3’ (配列番号23)、GABRP-si8として5’-CCCCAGTAATGTTGATCAC-3’ (配列番号27)、GABRP-si10として5’-AGGAAGTAGAAGAAGTCAG-3’ (配列番号31)および陰性対照のEGFPとして5’-GAAGCAGCACGACTTCTTC-3’ (配列番号35)を用いた。本実験におけるsiRNA配列は以下に示す。

【0191】
ヒトPDAC細胞株であるPK-1、PK-59、PK-45PおよびKLM-1細胞は、10cmディッシュに培養され、製造者の説明書に基づきFuGENE6 (Roche)を用いてCST6 およびGABRPおよびEGFPに対するsiRNA発現ベクターをトランスフェクトされた。細胞は0.15 mg/ml (PK-59), 0.2 mg/ml (PK-1) or 500 μg/ml (PK-45P, KLM-1)のジェネテシンを9日間処理することによって選択された。あらかじめ上記のプライマーを用いたRT-PCRによってCST6は3日目、GABRPは7日目のノックダウン効果を分析するため10-cmディッシュから細胞を回収した。ジェネテシンを含む適切な培地における14日間の培養の後、細胞は100%メタノールにより固定されコロニー形成試験のため0.1%クリスタルバイオレット-H2Oによって染色された。MTT分析の場合、細胞生存率はCell-counting kit-8(DOJINDO, Kumamoto, Japan)を用いて測定された。吸光度は490nmと参照として630nmでmicroplate Reder 550(Bio-Rad)を用いて測定された。
【0192】
CST6過剰発現細胞の作製と増殖分析
CST6のオープンリーディングフレームをコードするcDNAは次のプライマーを用いてPCRによって増幅された;5’-GGGGTACCGAATGGCGCGTTCGAACCTCC -3’ (配列番号39) and 5’- CCGGAATTCCATCTGCACACAGTTGTGCT -3’ (配列番号40) (KpnIおよびEcoRI領域はそれぞれ下線で示した)。PCR増幅産物はpcDNA3.1/myc-His A(+)ベクター(Invitrogen)へクローニングされた。プラスミドは製造者推薦の手法に従ってFuGENE6 (Roche)を用いてCST6非発現PDAC細胞株であるKLM-1へトランスフェクトした。細胞集団は0.5 mg/mlジェネテシン(Invitrogen)により選択され、限界希釈法によってクローン化したKLM-1細胞はサブクローニングされた。これらのクローン細胞においてMycタグCST6発現は抗Myc抗体(Santa Cruz Biotechnology、サンタクルーズ、カリフォルニア州)と抗βアクチン抗体(Sigma)を用いてウェスタンブロット法によって評価され、3つのCST6恒常的発現クローンを得た(KLM1-CST6)。対照KLM-1細胞もまたpcDNA3.1/myc-His A(+)ベクターでトランスフェクトされ樹立された(KLM1-Mock)。これらの樹立されたクローンの増殖曲線はCell counting kit-8(DOJINDO)を用いて測定された。
【0193】
CST6オートクライン/パラクライン分析
哺乳動物細胞で発生した成熟組み換えヒトCST6はR&D system (ミネアポリス、ミネソタ州)から購入された。成熟組み換えヒトCST6はCOS7細胞へいくつかの濃度(0、0.02、0.2および2 ng/ml)で2%FBSを含む培養液に添加した。それぞれの濃度のCST6の存在下の増殖曲線はCell counting kit-8(DOJINDO)を用いて測定された。
【0194】
PDAC細胞増殖におけるGABA刺激とGABA受容体アンタゴニストによる調節の影響
GABRP陽性細胞株であるKLM-1およびPK-45P、GABRP陰性細胞株であるPK-59およびKP-1Nは一連の濃度(0、1、10、100 μM)で6日間GABA(Sigma)とインキュベーションした。さらに、GABA媒介経路を阻害するため、それらの細胞を250μMのGABAA受容体アンタゴニストBMI(ビククリンメチオダイド、Sigma)または1mMのGABAB受容体アンタゴニストCGP-35348(Sigma)とインキュベートした。細胞生存率は6日間これらの薬剤に曝露された後、Cell counting kit-8(DOJINDO)と、吸光度490nmおよび参照として630nmにおいてmicroplate Reder 550(Bio-Rad)を用いて測定された。
【0195】
結果
PDAC細胞におけるCST6の過剰発現
網羅的ゲノムcDNAマイクロアレイ分析(Nakamura T, et. al., Oncogene 2004; 23: 2385-400)によりPDAC細胞において上方制御されている数ある遺伝子の中で、本発明者らはこの研究の中でCST6に注目した。マイクロアレイデータにより示されたCST6の過剰発現を9個のマイクロダイセクションされたPDAC細胞集団のうち8個においてRT-PCRによって確認した(図1A)。CST6のcDNA断片をプローブとして用いてノーザンブロット分析したところ、胎盤と甲状腺で発現している約0.6kbの転写物が確認された;他の生命維持に重要な組織である肺、心臓、肝臓および腎臓では発現が見られなかった(図1B)。作製したCST6特異的ポリクローナル抗体を用いた組織切片における免疫組織染色解析により、CST6は正常な膵管および膵腺細胞ではほとんど染色されなかったが、10個のPDAC組織のうち6個で強い染色像が得られた(図1C)。
【0196】
PDAC細胞増殖におけるCST6-siRNAの効果
本発明者らはCST6 mRNA配列に特異的ないくつかのsiRNA発現ベクターを構築し、CST6を内在的に高発現しているPDAC細胞株であるPK-1およびPK-59へトランスフェクションした。#488を使用した場合、RT-PCRにてノックダウン効果が確認された(図2A)。PK-59を用いたコロニー形成試験(図2B)およびMTT分析(図 2C)により、陰性対照としてEGFPを用いたところ明らかなノックダウン効果は見られなかったが、#488をトランスフェクションした細胞では大幅な細胞数の減少が確認された。同様の効果はPK-1細胞株においても見られた(図2A、BおよびC)。一方、効果のあるsiRNAは、CST6を発現していないPDAC細胞株であるKLM-1の細胞生存率には影響を与えなかった(データ未公開)。
【0197】
CST6の過剰発現によるPDAC細胞増殖の促進
PDAC細胞におけるCST6過剰発現の生物学的効果を調べるために、本発明者らは、RT-PCRではほとんどCST6の発現が確認できないKLM-1を用いて恒常的かつ安定的に野生型CST6を発現する細胞株を樹立した。図3Aに示されるように、3つのKLM-1クローン(CST6-1、-2および-3)における高発現が抗myc抗体を用いたウェスタンブロット解析にて確認されたが、3つのKLM1偽クローン(Mock-1、-2および-3)ではその発現は検出されなかった。本発明者らはまた、KLM1-CST6クローンの培養上清においても多量のCST6プロテインを確認した(データ未公開)。MTT分析は、これら3つのKLM1-CST6クローンがインビトロでKLM1偽クローンより増殖が早いことを明確に示しており(図3B)、このことは、PDAC細胞におけるCST6過剰発現が細胞増殖を促進し、腫瘍形成へ作用することを示唆している。
【0198】
分泌CST6による細胞増殖促進
CST6は分泌タンパク質であり主に細胞外で機能している。分泌CST6の細胞増殖における効果を調べるため、成熟ヒト組み換えCST6のいくつかの濃度(0.02から2 ng/ml)について細胞増殖分析を行った。この組み換えCST6タンパク質は哺乳動物細胞で作製され、N-グリコシル化により評価された。図4に示したように、培地へCST6タンパク質を添加することにより容量依存的な細胞増殖が明らかに促進された。これより、分泌CST6は細胞外でオートクライン/パラクライン様式で細胞増殖を促進することが示された。
【0199】
PDAC細胞におけるGABRPおよびGAD1の過剰発現
網羅的ゲノムcDNAマイクロアレイ分析(Nakamura T, et. al., Oncogene 2004; 23: 2385-400)によりPDAC細胞において上方制御されている数ある遺伝子の中で、本発明者らはこの研究の中でGABRPに注目した。マイクロアレイデータにより示されたGABRPの過剰発現は9個のマイクロダイセクションされたPDAC細胞集団のうち5個においてRT-PCRにより確認された(図5A)。GABRPのcDNA断片をプローブとして用いてノーザンブロット分析したところ、気管、前立腺および胃で発現する約3.3kbの転写物が確認された;他の生命維持に重要な組織である肺、心臓、肝臓および腎臓では発現が見られなかった(図5B)。本発明者らはまた、いくつかのPDAC細胞株のGABRP発現を分析し、図5Bに示されたように、GABRPはKLM-1、PK-25PおよびPK-1で明らかに発現しているが、生命維持に重要な組織である心臓、肺、肝臓、腎臓および脳では発現が見られなかった。さらに、膵臓癌組織での局所的なGABA産生を調べるために、主にニューロンでGABAの産生を触媒するグルタミン酸脱炭酸酵素1(GAD1)もまたPDAC細胞、正常膵管細胞および正常膵臓においてRT-PCRにより解析された。図5Cに示されたように、GAD1の発現はGABRPと同様にPDAC細胞で上方制御されていることから、PDAC細胞自身によりGABAが産生されていることが示唆された。
【0200】
PDAC細胞増殖におけるGABRP-siRNAの効果
本発明者らはGABRPのmRNA配列に特異的な数個のsiRNA発現ベクターを構築し、内在性にGABRPを高発現しているPDAC細胞株であるKLM-1およびPK-45Pへトランスフェクションした。本発明者らはsi6、si7、si8およびsi10をトランスフェクションした場合、RT-PCRによりノックダウン効果が確認されたが、陰性対照のsiEGFPでは見られなかった(図6A)。KLM-1を用いたコロニー形成試験(図6B)およびMTT分析(図6C)により、si6、si7、si8およびsi10をトランスフェクションした細胞では大幅な細胞数の減少が示されたが、陰性対照としてsiEGFPを用いたところ明らかなノックダウン効果は見られなかった。同様の効果がPK-45P細胞株においても見られた(図6A、6Bおよび6C、右図)。
【0201】
PDAC細胞増殖におけるGABA刺激とGABA受容体アンタゴニストによる調節の影響
PDAC細胞におけるGABAとGABRP発現の機能を調べるため、GABRP陽性または陰性PDAC細胞株をいくつかの濃度のGABAとともにインキュベーションした。図7Aに示したように、培養液へのGABAの添加により、約50%の細胞増殖促進効果でGABRP陽性PDAC細胞株であるKLM-1およびPK-45P(上図)で増殖が容量依存的に促進されたが、GABRP陰性PDAC細胞株であるPK-59およびKP-1N(下図)では細胞増殖が促進されなかった。次に、GABRP陽性細胞株における、GABA刺激増殖に対する既知のGABAアンタゴニストの影響を解析した。GABAA受容体アンタゴニストであるBMIはGABA刺激細胞増殖を阻害したが、GABAB受容体アンタゴニストではGABA刺激細胞増殖の阻害を示さなかった(図7B上図)。一方、GABRP陰性PDAC細胞株はGABAまたはGABA受容体アンタゴニストに無反応であった(図7B下図)。GABAA受容体アンタゴニストであるBMI単一処理による細胞外GABAの拮抗により、GAD1を発現し、内在性GABAを産生するであろう(データ未公開)KLM-1およびPK-59細胞の細胞増殖を抑制した(図7B上図)。これは、KLM-1およびPK-59細胞において、GABA-GABAA受容体の内在性のオートクライン/パラクライン効果がBMIによって消失されたためであると考えられた。
【0202】
網羅的ゲノムcDNAマイクロアレイ分析(Nakamura T, et. al., Oncogene 2004; 23: 2385-400)によりPDAC細胞において上方制御されている数ある遺伝子の中で、本発明者らはCST6に注目した。免疫組織化学的な分析により、CST6はPDACのいくつかの集団(60%)において過剰発現が示され、RNAとタンパク質の発現解析により、生命維持に必要な成熟正常組織(肺、心臓、肝臓および腎臓)では非常に低発現であったことが示された。これらの知見は最小副作用で新規治療法の分子標的を選択する上で必須であり、CST6はその発現パターンからPDAC治療の有望な分子標的であり得る。
【0203】
本発明者らはまた、分泌CST6或いは過剰発現CST6がインビトロで細胞増殖を促進すること、また逆に、PDAC細胞におけるsiRNAによるCST6の減少により増殖または生存を減弱させることを示した。いくつかの研究では、CST6は乳癌で下方制御されおり、乳癌の増殖と同様に浸潤や転移を抑制すると示唆されていた(Shridhar R, et. al., Oncogene. 2004; 23: 2206-15、Zhang J, et. al., Cancer Res. 2004; 64: 6957-64)。このことは、本発明での知見とは一致していない。しかし、CST6が頭頚部癌で上方制御され、癌細胞での抗アポトーシスと転移促進に関連することを示した報告もある(Vigneswaran N, et. al., Oral Oncology 2003; 39: 559-68)。また、ラットCST6の上方制御により神経細胞の分化と発達に寄与することも報告されている(Hong J, et. al., J Neurochem. 2002; 81: 922-34)。
【0204】
機能的にCST6はシステインプロテアーゼのインヒビターであり、実際にカテプシンB(Ni J, et. al., J Biol Chem. 1997; 272:10853-8、Hong J, et. al., J Neurochem. 2002; 81: 922-34)、TNF誘導性アポトーシスに関連するリソーマルプロテアーゼ(Guicciardi ME, et. al., J Clin Invest. 2000; 106: 1127-37、Foghsgaard L, et. al., J Cell Biol. 2001; 153: 999-1010)を阻害する。これらは、CST6が潜在的に抗アポトーシス能を有することを示している。しかし、このカテプシンBに関連するアポトーシス経路は細胞内で起こるが、図4で示したように分泌CST6に細胞増殖能があることから、細胞増殖におけるCST6の効果は受容体-配位子相互作用も含まれ得る。さらに、この癌細胞において機能するCST6の受容体の同定が必要となるであろう。その特性が知られているシスタチンファミリーメンバーであるシスタチンC(CST3)は細胞増殖を刺激し(Tavera C, et. al., Biochem Biophys Res Commun. 1992; 182: 1082-8)、TGF-β受容体アンタゴニストとして機能し(Sokol JP, et. al., Mol Cancer Res. 2004; 2:183-95)、細胞増殖と癌浸潤におけるTGF-β経路に含まれる。シスタチンCはFGF-2と共にオートクライン/パラクラインの補助因子として神経幹細胞の増殖を刺激するため(Taupin P, et. al., Neuron. 2000; 28: 385-97)、そのプロテアーゼ阻害活性は神経幹細胞の増殖効果には必須ではない。このことより、シスタチンファミリーのプロテアーゼインヒビターとしての機能以外が細胞増殖促進に関与すると示唆されている。
【0205】
以上より、本発明者らはPDAC細胞でのCST6の過剰発現と、この過剰発現がオートクライン/パラクライン様式により癌細胞増殖を促進していることを示した。低分子や抗体による分泌CST6の中和によって、癌細胞の生存のためのCST6の機能を阻害することは、致命的なPDACに対する分子治療の有望で新しい手法を提供することができる。
【0206】
網羅的ゲノムcDNAマイクロアレイ分析(Nakamura T, et. al., Oncogene 2004; 23: 2385-400)によりPDAC細胞において上方制御されている数ある遺伝子の中で、本発明者らはGABA受容体π(GABRP)に注目した。GABA受容体π(GABRP)の発現はマイクロダイセクションされた細胞を用いたRT-PCRによりPDACの約半数において確認され、ノーザンブロット法により、成人正常組織の限られた部位にのみ発現していることが確認された。このことは、GABRPがその発現パターンより最小の副作用でPDACの治療するための有望な分子標的であることを示す。
【0207】
成熟脳において、GABAとGABA受容体は主に抑制性神経伝達物質として機能しており、神経幹細胞やその他の細胞において増殖、遊走および分化へ影響するため、神経系の発達の間の栄養性因子としても作用している(Macdonald RL, Olsen RW., Annu Rev Neurosci 1994; 17: 569-602、Fiszman ML, Brain Res Dev Brain Res 1999; 115: 1-8)。しかし、GABAとGABA受容体は非神経組織においても発現しており、非神経細胞における明確な機能はこれまで知られていない(Macdonald RL, Olsen RW., Annu Rev Neurosci 1994; 17: 569-602)。AzumaらはGABAとGABAB受容体経路はMMP産生の制御を通して前立腺癌の転移または浸潤に関与することを報告した(Azuma H, Cancer Res. 2003; 63: 8090-6)。一方、ノルエピネフリン誘導経路と関連する大腸癌転移をGABAにより抑制することができたとの他の報告がある(Joseph J, et. al.,Cancer Res. 2002; 62: 6467-9)。このため、GABA経路が癌細胞にとって積極的もしくは消極的に働くか否かは議論の余地がある、しかし、本知見において、πサブユニットを含むGABAおよびGABAA受容体複合体は、明らかにPDAC細胞増殖を促進し得る。さらに、GABA誘導酵素であるGAD1もまた、本実施例で示すように、PDAC細胞で上方制御されており、GABAの局部的濃度はPDAC組織において高レベルにあると予想される。GABAはまた、癌細胞増殖を促進するため膵臓癌組織でオートクライン/パラクライン様式で機能し得る。
【0208】
以上より、低分子または特異的抗体によってGABAAへ統合されたGABRPまたはPDAC細胞生存におけるGABA機能を阻害することは、致命的なPDACの分子治療への有望な新しい手法となり得る。本発明において、古典的なGABAA受容体アンタゴニストであるBMIはインビトロで癌細胞増殖を抑制した。BMIはGABAAβサブユニットを阻害するため、その阻害活性は一般的なGABAA受容体(αβγ複合体)の全ての種類へ影響を与えてしまい、癌細胞への特異性には欠ける。PDACのGABA経路を標的とした分子治療が正常組織、特に中枢神経系を損なわないようGABA受容体πサブユニット(GABRP)への特異的な拮抗薬または抗体の開発が望まれる。
【0209】
産業上の利用可能性
網羅的ゲノムcDNAマイクロアレイから得られた、本明細書に記載の膵臓癌の遺伝子発現解析によって、癌の予防および治療の標的となる特異的遺伝子が同定された。これら発現差のある遺伝子サブセットの発現に基づいて、本発明は、膵臓癌を同定または検出するための分子診断マーカーを提供する。
【0210】
本明細書に記載の方法はまた、膵臓癌の予防、診断、および治療のさらなる分子標的の同定に有用である。本明細書において報告したデータは、膵臓癌の包括的な理解を増大させて、新規診断戦略の開発を促進し、治療薬および予防剤の分子標的を同定する手がかりを提供する。そのような情報は、膵臓の腫瘍形成のより深い理解に寄与し、膵臓癌を診断、治療、および究極的には予防するための新規戦略を開発するための指標を提供する。
【0211】
本明細書において引用した全ての特許、特許出願、および刊行物は、その全体が参照として本明細書に組み入れられる。
【0212】
さらに、特定の態様を参照して本発明を詳細に説明してきたが、上記の説明は、例示的かつ説明的な性質のものであって、本発明およびその好ましい態様を例示することを意図していることが理解されるべきである。当業者は、日常的な実験を通して、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、その範囲内で様々な変更および修正がなされ得ることを容易に理解すると考えられる。したがって、本発明は上記の説明によって規定されるのではなく、添付の特許請求の範囲およびそれらの同等物によって規定されることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0213】
【図1】PDAC細胞におけるシスタチンE/M(CST6)の過剰発現を示す。(A)マイクロダイセンクションしたPDAC細胞(1から9)と同様にマイクロダイセクションされた正常膵管上皮細胞(N)を比較したCST6ならびにTUBAのmRNAに対するRT-PCR。(B)CST6は胎盤ならびに甲状腺組織において限局的な発現を示したノーザンブロット解析。(C)免疫組織染色における、作製した抗CST6抗体を用いたPDAC細胞で観察される強い染色像(左図の矢頭、倍率400倍)。CST6の陽性染色は細胞質で観察された。正常膵臓組織において、腺房細胞および正常管上皮細胞では非常に弱い染色が示された。
【図2】PDAC細胞の増殖のCST6-siRNAの効果を示す。(A)PDAC細胞株であるPK-1およびPK-59におけるCST6のsiRNAのノックダウン効果。半定量的RT-PCRはCST6に対するsiRNA発現ベクター(#488)と陰性対照ベクター(#EGFP)をトランスフェクションした細胞を用いて行われた。β2-MGはRNAを定量化するために用いた。(B)CST6に対するsiRNA発現ベクター(#488)と陰性対照ベクター(#EGFP)をトランスフェクションしたPK-1およびPK-59のコロニー形成試験。ジェネテシンと14日間インキュベーションした後、細胞は0.1%クリスタルバイオレット染色で可視化された。(C)CST6に対するsiRNA発現ベクター(#488)と陰性対照ベクター(#EGFP)をトランスフェクションしたPK-1およびPK-59細胞のMTT分析。ジェネテシンと14日間インキュベーションした後、それぞれの平均値がSD(標準偏差)を示すエラーバーと共にプロットされている。Y軸のABSは、マイクロプレートリーダーで測定された630nmの参照に対する490nmの吸光度を示す。これらの実験は3回行われた。**はP値<0.01を示す(スチューデントのt検定)。
【図3】CST6の過剰発現による細胞増殖促進を示す。(A)高レベルでの外来CST6の発現または偽ベクターをトランスフェクションしたKLM-1のウェスタンブロット解析。CST6発現の外来的導入は抗mycモノクロナール抗体で評価された。β-アクチンはローディング対照として用いた。(B)高レベルでの外来CST6の発現または偽ベクターをトランスフェクションしたKLM-1のインビトロでの増殖速度。XおよびY軸はシードしてからの日数と対照として一日目の吸光度と比較することによる直径の吸光度で算出した相対増殖速度を示す。それぞれの平均値はSDを示すエラーバーとともにプロットされる。これらの試験は全て3回おこなわれた。**はP値<0.01を示す(スチューデントのt検定)。
【図4】組み替えCST6タンパク質によって刺激された細胞増殖を示す。COS7細胞は2%FBSを添加された一連の濃度(0、0.02、0.2および2 ng/ml)の成熟組み替えCST6とインキュベートされた。Y軸は対照として0ng/mlのCST6の吸光度と比較することで算出された6日目の相対増殖速度を示す。それぞれの平均値はSDを示すエラーバーとともにプロットされる。これらの試験は全て3回おこなわれた。**はP値<0.01を示す(スチューデントのt検定)。
【図5】PDAC細胞におけるGABA受容体πサブユニット(GABRP)とGAD1の過剰発現を示す。(A)マイクロダイセンクションしたPDAC細胞とマイクロダイセクションされた正常膵管上皮細胞(N.P)および正常生命維持に必須な組織とを比較したGABRPならびにTUBAのmRNA発現に対するRT-PCR。(B)多組織ノーザンブロット解析は気管、前立腺および胃に3.3kbのバンドをわずかに認めたが、他の正常成人組織にはGABRPの発現は認めなかった。PDAC細胞株であるKLM-1、PK-45PおよびPK-1はGABRPを高レベルで発現した。(C)マイクロダイセンクションしたPDAC細胞とマイクロダイセクションされた正常膵管上皮細胞(N.P)、全膵臓および脳とを比較したGAD1ならびにTUBAのmRNA発現に対するRT-PCR。
【図6】PDAC細胞の増殖へのGABRP-siRNAの効果を示す。(A)KLM-1(左図)およびPK-45P(右図)におけるGABRPのsiRNAのノックダウン効果。半定量的RT-PCRはGABRPに対するsiRNA発現ベクター(si6、si7、si8およびsi10)と同様に陰性対照ベクター(siEGFP)をトランスフェクションした細胞を用いて行われ、si6、si7、si8およびsi10ではノックダウン効果が確認されたが、陰性対照であるsiEGFPでは確認されなかった。(B)GABRPに対するsiRNA発現ベクター(si6、si7、si8およびsi10)と陰性対照ベクター(siEGFP)をトランスフェクションしたKLM-1(左図)およびPK-45P(右図)のコロニー形成試験。ジェネテシンと2週間インキュベーションした後、細胞は0.1%クリスタルバイオレット染色で可視化された。(C)GABRPに対するsiRNA発現ベクター(si6、si7、si8およびsi10)と陰性対照ベクター(siEGFP)をトランスフェクションしたKLM-1(左図)およびPK-45P(右図)細胞のMTT分析。ジェネテシンと2週間インキュベーションした後、それぞれの平均値がSD(標準偏差)を示すエラーバーと共にプロットされている。Y軸のABSは、マイクロプレートリーダーで測定された630nmの参照に対する490nmの吸光度を示す。これらの実験は3回行われた。
【図7】PDAC細胞へのGABA刺激とGABA受容体アンタゴニストによる調節の影響を示す。(A)GABRP陽性細胞株であるKLM-1およびPK-45P(上図)、およびGABRP陰性細胞株であるPK-59およびKP-1N(下図)は6日間一連の濃度(0、1、10、100 μM)でGABAとインキュベーションされた。Y軸は対照として0ng/mlのGABAの吸光度と比較して算出された6日目の相対的な細胞増殖速度を示す。それぞれの平均値はSDを示すエラーバーとともにプロットされる。これらの試験は全て3回おこなわれた。**はP値<0.01を示す(スチューデントのt検定)。(B)GABRP陽性細胞株であるKLM-1およびPK-45P(上図)、およびGABRP陰性細胞株であるPK-59およびKP-1N(下図)は、100μMのGABAの存在下もしくは非存在下でGABAA受容体アンタゴニストであるBMIを250μMまたはGABAB受容体アンタゴニストであるCGP-35348を1mMでインキュベーションされた。細胞生存率はこれらの薬剤への曝露6日後に測定され、Y軸は対照として0ng/mlのGABAおよび薬剤無しでの吸光度と比較して算出された6日目の相対的な細胞増殖速度を示す。それぞれの平均値はSDを示すエラーバーとともにプロットされる。これらの試験は全て3回おこなわれた。**はP値<0.01を示す(スチューデントのt検定)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者由来の生物学的試料においてCST6もしくはGABRPの発現レベルを測定する段階を含み、該遺伝子の正常対照レベルと比較して該試料での発現レベルが増加すれば、該対象が膵臓癌の発症のリスクを有すること、または膵臓癌を有することを示す段階を含む、該対象が膵臓癌を有するか、または膵臓癌を発症する素因を有するかを診断する方法。
【請求項2】
該試料の発現レベルが正常対照レベルより少なくとも10%大きい、請求項1記載の方法。
【請求項3】
遺伝子発現レベルが、以下からなる群より選択されるいずれか一つの方法によって決定される、請求項1記載の方法:
(a)CST6もしくはGABRPのmRNAの検出;
(b)CST6もしくはGABRPがコードするタンパク質の検出;および
(c)CST6もしくはGABRPの生物学的活性の検出。
【請求項4】
患者由来の生物学的試料が上皮細胞を含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
患者由来の生物学的試料が膵臓癌細胞を含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
患者由来の生物学的試料が膵臓癌細胞由来の上皮細胞を含む、請求項1記載の方法。
【請求項7】
以下の段階を含む、膵臓癌を治療または予防するための化合物をスクリーニングする方法:
a)CST6もしくはGABRPのポリヌクレオチドがコードするポリペプチドに被験化合物を接触させる段階;
b)ポリペプチドと被験化合物との結合活性を検出する段階;および
c)ポリペプチドに結合する被験化合物を選択する段階。
【請求項8】
以下の段階を含む、膵臓癌を治療または予防するための化合物をスクリーニングする方法:
a)CST6もしくはGABRPを発現する細胞に候補化合物を接触させる段階;および
b)被験化合物の非存在下において検出される該ペプチドの発現レベルと比較して、CST6もしくはGABRPの発現レベルを低下させる候補化合物を選択する段階。
【請求項9】
該細胞が膵臓癌細胞を含む、請求項8記載の方法。
【請求項10】
以下の段階を含む、膵臓癌を治療または予防するための化合物をスクリーニングする方法:
a)CST6もしくはGABRPのポリヌクレオチドがコードするポリペプチドに被験化合物を接触させる段階;
b)段階(a)のポリペプチドの生物学的活性を検出する段階;および
c)被験化合物の非存在下において検出される該ペプチドの生物学的活性と比較して、CST6もしくはGABRPのポリヌクレオチドがコードするポリペプチドの生物学的活性を抑制する被験化合物を選択する段階。
【請求項11】
以下の段階を含む、膵臓癌を治療または予防するための化合物をスクリーニングする方法:
a)CST6もしくはGABRPの転写調節領域と、転写調節領域の制御下で発現されるレポーター遺伝子とを含むベクターが導入されている細胞に候補化合物を接触させる段階;
b)レポーター遺伝子の活性または発現を測定する段階;および
c)対照と比較して、該レポーター遺伝子の活性または発現レベルを低下させる候補化合物を選択する段階。
【請求項12】
(a)CST6もしくはGABRP、または(b)CST6もしくはGABRPがコードするポリペプチドに結合する検出試薬を含むキット。
【請求項13】
CST6もしくはGABRPのコード配列と相補的なヌクレオチド配列を含むアンチセンス組成物を対象に投与する段階を含む、対象における膵臓癌を治療または予防する方法。
【請求項14】
CST6もしくはGABRPの発現を低下させるsiRNA組成物を対象に投与する段階を含む、対象における膵臓癌を治療または予防する方法。
【請求項15】
siRNAが配列番号:15、19、23、27または31のヌクレオチド配列を含むセンス鎖を含む、請求項14記載の方法。
【請求項16】
siRNAが、一般式
5’-[A]-[B]-[A’]-3’
を有し、式中
[A]は、配列番号:15、19、23、27または31の配列に対応するリボヌクレオチド配列であり、
[B]は、3〜23ヌクレオチドからなるリボヌクレオチドループ配列であり、かつ
[A’]は[A]の相補配列からなるリボヌクレオチド配列である、
請求項15記載の方法。
【請求項17】
CST6もしくはGABRPのタンパク質に結合する抗体またはその免疫学的活性断片の薬学的有効量を対象に投与する段階を含む、対象における膵臓癌を治療または予防する方法。
【請求項18】
(a)CST6もしくはGABRPの核酸がコードするポリペプチド、(b)該ポリペプチドの免疫学的活性断片、もしくは(c)ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むワクチンを対象に投与することを含む、対象における膵臓癌を治療または予防する方法。
【請求項19】
CST6もしくはGABRPがコードするポリペプチド、そのポリヌクレオチド、もしくはそのポリヌクレオチドを含むベクターを抗原提示細胞へ接触させる段階を含む、抗腫瘍免疫を誘導する方法。
【請求項20】
対象へ抗原提示細胞を投与する段階を含む、請求項19記載の抗腫瘍免疫を誘導する方法。
【請求項21】
請求項7〜11のいずれか一項記載の方法によって得られる化合物を投与する段階を含む、対象における膵臓癌を治療または予防する方法。
【請求項22】
CST6もしくはGABRPのポリヌクレオチドに対するアンチセンスポリヌクレオチドまたはsiRNAの薬学的有効量を含む、膵臓癌を治療または予防するための組成物。
【請求項23】
siRNAが配列番号:15、19、23、27または31のヌクレオチド配列を含むセンス鎖を含む、請求項22記載の組成物。
【請求項24】
siRNAが、一般式
5’-[A]-[B]-[A’]-3’
を有し、式中
[A]は、配列番号:15、19、23、27または31の配列に対応するリボヌクレオチド配列であり、
[B]は、3〜23ヌクレオチドからなるリボヌクレオチドループ配列であり、かつ
[A’]は[A]の相補配列からなるリボヌクレオチド配列である、
請求項23記載の組成物。
【請求項25】
CST6もしくはGABRPがコードするタンパク質に結合する抗体またはその断片の薬学的有効量を含む、膵臓癌を治療または予防するための組成物。
【請求項26】
活性成分として請求項7〜11のいずれか一項記載の方法によって選択される化合物の薬学的有効量と、薬学的に許容される担体とを含む、膵臓癌を治療または予防するための組成物。
【請求項27】
以下の段階を含む、膵臓癌を治療または予防するための化合物をスクリーニングする方法:
(a)被験化合物の存在下でGABRPとGABAもしくはその類似体を接触させ、GABAもしくはその類似体へのGABRPの結合活性を検出する段階;
(b)被験化合物の非存在下での検出と比較して(a)の段階における結合活性を減少させる化合物を選択する段階。
【請求項28】
請求項27記載の方法によって得られる化合物を投与する段階を含む、対象における膵臓癌を治療または予防する方法。
【請求項29】
GABAA受容体(GABRA)アンタゴニストの薬学的有効量を投与する段階を含む、対象における膵臓癌を治療または予防する方法。
【請求項30】
GABAA受容体(GABRA)アンタゴニストがビククリン、またはその薬学的に許容される四価アンモニウム塩を含む、請求項29記載の方法。
【請求項31】
活性成分としてのGABAA受容体(GABRA)アンタゴニストの薬学的有効量と、薬学的に許容される担体とを含む、膵臓癌を治療または予防するための組成物。
【請求項32】
GABAA受容体(GABRA)アンタゴニストがビククリン、またはその薬学的に許容される四価アンモニウム塩を含む、請求項31記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2009−505632(P2009−505632A)
【公表日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−503160(P2008−503160)
【出願日】平成18年7月14日(2006.7.14)
【国際出願番号】PCT/JP2006/314444
【国際公開番号】WO2007/013360
【国際公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(502240113)オンコセラピー・サイエンス株式会社 (142)
【Fターム(参考)】