説明

膵臓癌関連遺伝子TTLL4

本発明は、膵臓癌の発癌においてTTLL4遺伝子が果たす役割に関連しており、TTLL4遺伝子の1つもしくは複数に対する二本鎖分子、またはこのような二本鎖分子を含有する組成物、ベクター、もしくは細胞を投与することによって膵臓癌を治療または予防するための方法を特徴とする。また、膵臓癌細胞におけるTTLL4の過剰発現に対する化合物の効果を指標として用いて、膵臓癌を治療または予防するための化合物を同定する方法も開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2008年8月27日付で出願された米国特許仮出願第61/190,396号の恩典を主張するものである。その内容全体は参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
本発明は、膵臓癌を検出および診断する方法、ならびに膵臓癌を治療および予防する方法に関する。特に、本発明はTTLL4に関する。
【背景技術】
【0003】
膵管腺癌(PDAC)は、西洋諸国におけるがんによる死因のうち4番目に多いものであり、一般的な悪性病変の中で最も死亡率が高く、5年生存率はわずか5%である(非特許文献1〜2)。2007年、米国においては、37,170例の新たな膵臓癌例が診断されており、およそ等しい数の死亡が膵臓癌に起因すると推定されている(非特許文献3)。PDAC患者の大多数が、現在のところ有効な治療が利用可能でない進行期において診断される。外科的切除術のみが、わずかな治癒の可能性を与えるが、根治手術を受けたPDAC患者の80〜90%が播種性または転移性の疾患により死亡する(非特許文献1〜2)。放射線を伴うまたは伴わない、手術および5−FUまたはゲムシタビンを含む化学療法の近年の進歩は、患者の生活の質を向上させることはできるが(非特許文献1〜2)、極めて高い侵襲性および化学療法抵抗性のため、それらの治療は、PDAC患者の長期生存率に対しては極めて限定された効果しか及ぼさない。従って、ほとんどの患者の管理は、対症療法的な措置に焦点が置かれる(非特許文献1)。この惨憺たる情況を克服するため、優れた分子標的に対する新規分子療法の開発が、緊急の課題である。この方向性で、本発明者らは、がん細胞集団を濃縮するためのレーザーマイクロビームマイクロダイセクションと組み合わせて、約30,000遺伝子からなるゲノムワイドcDNAマイクロアレイを使用して、PDAC細胞の詳細な遺伝子発現プロファイルを以前に作成した(非特許文献4)。
【0004】
TTLL4(tubulin tyrosine ligase−like family member 4)は、TTLホモロジードメインを有するタンパク質の大きなファミリーのメンバーである。このファミリーのメンバーは、チューブリンまたは他の基質への多種多様なアミノ酸の連結、例えば、チロシン化、ポリグリシル化、およびポリグルタミル化を触媒することができる(非特許文献5)。最近、一部のTTLLファミリーメンバーに、チューブリンおよび微小管(MT)関連タンパク質をポリグルタミル化する活性があることが判明した(非特許文献6)。ポリグルタミル化は、最初にチューブリン上で発見された、標的タンパク質上に様々な長さのグルタミン酸側鎖が形成される翻訳後修飾であり、チューブリンの安定性、およびMTとその関連タンパク質との相互作用に影響を及ぼしている可能性が高い(非特許文献5〜6)。さらに、TTLL4およびTTLL5は、いくつかの非チューブリンタンパク質およびチューブリンをポリグルタミル化できることが証明された(非特許文献7)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】DiMagno EP et al., 1999 Gastroenterology 117:1464-84
【非特許文献2】Zervos EE et al., 2004 Cancer Control 11: 23-31
【非特許文献3】Jemal A et al., 2007 CA Cancer J Clin 57: 43-66
【非特許文献4】Nakamura T et al., Oncogene 2004, 23: 2385-400
【非特許文献5】Westermann S et al., Nature Rev Mol Cell Biol 2003, 4: 938-947
【非特許文献6】Janke C et al., Science 2005, 308: 1758-1762
【非特許文献7】van Dijk J, et al., J Bio Chem 2008, 283: 3915-3922
【発明の概要】
【0006】
本発明において、がん細胞におけるTTLL4の過剰発現、およびがんの生存におけるその役割が明らかにされた。本発明者らはまた、TTLL4が、シグナル−足場タンパク質であるPELP1(prolin−glutamic acid−leucine−rich protein 1)のグルタミン酸リッチ伸展領域(glutamate−rich stretch region)をポリグルタミル化し、このポリグルタミル化によってがん細胞におけるPELP1の機能が改変することを証明した。従って、本発明は、がんを検出、診断、治療、および/または予防するための新規な組成物および方法、ならびに有用な剤をスクリーニングするための方法に関する。
【0007】
特に、本発明は、特定の配列(特に、SEQ ID NO:7および8)から構成される二本鎖分子が、がん細胞、特に、膵臓癌細胞の細胞増殖の阻害に有効であるという発見からなされた。具体的には、TTLL4遺伝子を標的とする低分子干渉RNA(siRNA)が本発明によって提供される。これらの二本鎖分子は単離された状態で利用されてもよく、またはベクター内にコードされて、該ベクターから発現されてもよい。従って、本発明の目的は、このような二本鎖分子、ならびにこれらを発現するベクターおよび宿主細胞を提供することである。
【0008】
1つの局面において、本発明は、本発明の二本鎖分子またはベクターを、これを必要とする対象に投与することによって、がん細胞増殖を阻害するための方法およびがんを治療するための方法を提供する。このような方法は、二本鎖分子またはベクターの1つまたは複数から構成される組成物を対象に投与する工程を包含する。
【0009】
別の局面において、本発明は、本発明の二本鎖分子またはベクターの少なくとも1つを含有する、がんを治療するための組成物を提供する。
【0010】
さらに別の局面において、本発明は、患者由来の生物学的試料におけるTTLL4の発現レベルを決定することによって、対象における膵臓癌の素因を診断または決定する方法を提供する。1つまたは複数の遺伝子の正常対照レベルと比較した、それらの遺伝子の発現レベルの増加は、対象が膵臓癌に罹患しているか、または膵臓癌発症のリスクを有することを示す。
【0011】
さらなる局面において、本発明は、膵臓癌を治療および/または予防するための化合物をスクリーニングする方法を提供する。このような化合物はTTLL4遺伝子と結合する、またはTTLL4遺伝子の生物学的活性を低下させる、またはTTLL4遺伝子の発現もしくはTTLL4遺伝子の代用として用いられたレポーター遺伝子の発現を低下させる。さらに、がんの症状を緩和するために、PELP1とTTLL4との間の結合を阻害する化合物が有用である。
【0012】
なおさらなる局面において、本発明は、TTLL4およびPELP1を発現している試験細胞を試験化合物と接触させ、PELP1のポリグルタミル化レベルを低下させる試験化合物を選択することによって、TTLL4によるPELP1のポリグルタミル化を阻害する剤を同定する方法をさらに提供する。
【0013】
さらに本発明は、本発明のポリペプチドを、ポリグルタミル化される基質およびグルタミン酸と、試験剤の存在下、該基質のポリグルタミル化に適した条件下で接触させ、該基質のポリグルタミル化レベルを低下させる試験化合物を選択することによって、膵臓癌を治療および/または予防するための候補剤を同定する方法を提供する。
【0014】
本発明の1つまたは複数の局面がある特定の目的を満たすことができ、その他の1つまたは複数の局面がその他のある特定の目的を満たすことができることが、当業者によって理解されるだろう。各目的は、本発明の全ての局面に、そのすべての点で、同等に当てはまるとは限らない。そのため、先の目的は、本発明のいずれか1つの局面に関して、別の選択肢において考慮され得る。以下の詳細な説明を添付の図面および実施例と共に参照することにより、本発明のこれらおよびその他の目的および特色が、より完全に明白になるだろう。しかしながら、上記の発明の概要および以下の詳細な説明は、いずれも、好ましい態様のものであって、本発明または本発明のその他の別の態様を限定するものではないことを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、PDAC細胞におけるTTLL4の過剰発現を示す。(A)半定量RT−PCRによって、顕微解剖されたPDAC細胞において、同様に顕微解剖された正常膵管細胞(NPD)、正常膵臓全組織(Panc)、ならびに重要な器官(心臓、肺、肝臓、および腎臓)と比較して、TTLL4が過剰発現していることが確認された。TUBAの発現は定量対照として役立った。(B)複数の組織のノーザンブロット分析によって、TTLL4は、ヒト成人器官のうち精巣にのみ発現することが示された。(C)TTLL4発現についてのノーザンブロット分析によって、調べた8種類全てのPDAC細胞株(Panc−1、Mia−PaCa−2、KLM−1、SUIT−2、KP−1N、PK−1、PK−45P、およびPK−59)はTTLL4を発現するのに対して、正常な成人器官は精巣を除いてTTLL4を発現しないことが示された。
【図2】図2は、PDAC細胞の増殖に対するTTLL4−siRNAの効果を示す。(A)RT−PCRによって、Panc−1(左)細胞およびMia−PaCa−2(右)細胞において、si#466およびsi#2692によるTTLL4発現に対するノックダウン効果が確かめられたが、si#2146および陰性対照siEGFPではノックダウン効果は確かめられなかった。β2MGはRNAを定量するのに使用した。(B)TTLL4に対する示されたsiRNA発現ベクターのそれぞれ(si#466およびsi#2692およびsi#2146)、ならびに陰性対照ベクター(siEGFP)でトランスフェクトしたPanc−1(左)細胞およびMia−PaCa−2(右)細胞のコロニー形成アッセイ。ジェネテシンと共に2週間インキュベートした後に、0.1%クリスタルバイオレット染色を用いて細胞を可視化した。(C)TTLL4に対する示されたsiRNA発現ベクター(si#466およびsi#2692およびsi#2146)、ならびに陰性対照ベクター(siEGFP)でトランスフェクトしたPanc−1(左)およびMia−PaCa−2(右)のそれぞれのMTTアッセイ。ジェネテシンと共に6日間インキュベートした後の、それぞれの平均が、SD(標準偏差)を示すエラーバーと共にプロットされている。Y軸上の「ABS」は、マイクロプレートリーダーで測定された、490nmでの吸光度および参照としての630nmでの吸光度を意味する。これらの実験は3回行った。Panc−1(左)およびMia−PaCa−2(右)をsi#466およびsi#2692でトランスフェクトすると、ノックダウン効果が観察されなかったsi#2146およびsiEGFPと比較して、生細胞数の劇的な減少がもたらされた(P<0.001、スチューデントt検定)。
【図3】図3は、TTLL4過剰発現によって細胞増殖が促進されたことを示す。MTTアッセイによって、COS7細胞を野生型TTLL4、酵素失活型(enzyme−dead)TTLL4(E906A)、またはモックでトランスフェクトしてから48時間後の、細胞増殖を評価した。(A)ウエスタンブロット分析によって、野生型TTLL4および酵素失活型TTLL4(E906A)の発現が確かめられた。(B)GT335抗体を用いたウエスタンブロット分析によって、野生型TTLL4の過剰発現はポリグルタミル化を増強するのに対して、酵素失活型TTLL4(E906A)の発現は増強しないことが示された。(C)COS−7細胞を野生型TTLL4、酵素失活型TTLL4(E906A)、またはモックでトランスフェクトしてから48時間後のMTTアッセイによって、モックでトランスフェクトされた細胞の増殖と比較して、野生型TTLL4は細胞増殖を有意に促進するが(P<0.001、スチューデントt検定)、酵素失活型TTLL4(E906A)は細胞増殖を促進しないことが示された。
【図4】図4は、TTLL4が非チューブリンタンパク質であるPELP1をポリグルタミル化することを示す。(A)TTLL4をHela細胞において過剰発現させた場合に、GT335抗体によって、60kDaバンドの近くのα−チューブリンおよびβ−チューブリンを含むいくつかのタンパク質において、増加したレベルのポリグルタミル化が検出された。(B)GT335抗体によって、KLM−1(左)およびMia−PaCa−2(右)細胞株において、いくつかの内在性ポリグルタミル化タンパク質が検出された。TTLL4発現をKLM−1(左)およびMia−PaCa−2(右)細胞株においてノックダウンした場合には、図4Aに示したようにTTLL4の過剰発現でも検出された200kDaバンドのみが、両細胞株に共通して減少した。プロテオミクスの手法によって同定された候補ポリグルタミル化タンパク質のうち(van Dijk et al JBC 2007)、この200kDaバンドは、PELP1(prolin−glutamic acid−leucine−rich protein 1)に相当すると考えられた。(C)TTLL4によるPELP1のポリグルタミル化を確かめるために、TTLL4をHela細胞において過剰発現させた場合に、PELP1を細胞溶解物から免疫沈降し、GT335抗体によってポリグルタミル化PELP1を検出した。TTLL4を過剰発現させた場合に、PELP1のポリグルタミル化レベルは明らかに増加した。(D)TTLL4をKLM−1細胞(左)およびMia−Paca−2細胞(右)においてノックダウンした場合には、GT335抗体を用いたウエスタンブロット分析とそれに続く抗PELP1抗体による免疫沈降によって、PELPIのポリグルタミル化レベルが減少することが証明された。
【図5】図5は、TTLL4との同時形質転換用に設計されたPELP1構築物を示す。(A)PELP1は、いくつかのシグナル伝達分子と相互作用するいくつかの機能ドメインを有する。PELP1は、コドン887とコドン964との間に、高度にグルタミン酸リッチな領域を有する。(B)PELPの完全長構築物、ならびに、グルタミン酸リッチ領域(コドン887−964)またはC末端領域(コドン887−、コドン1003−)をそれぞれ欠いている3種類の欠失構築物(del.887−954、del.887−、およびdel.1003−)を設計した。PELP1構築物をそれぞれ、野生型TTLL4または酵素失活型TTLL4(E906A)と共に同時にトランスフェクトした。
【図6】図6は、TTLL4がPELP1のグルタミン酸リッチ伸展領域をポリグルタミル化することを示す。(A)完全長PELP1(Wt)および2つの欠失構築物(del.887−954、del.887−)を、野生型TTLL4または酵素失活型TTLL4(E906A)と共にHeLa細胞に同時にトランスフェクトした。完全長PELP1を野生型TTLL4と共に同時にトランスフェクトした場合に、GT335によってポリグルタミル化PELP1が検出されたが、グルタミン酸リッチ領域を欠く2つの欠失構築物では検出されなかった。(B)完全長PELP1および3つの欠失構築物(del.887−954、del.887−、およびdel.1003−)を、野生型TTLL4または酵素失活型TTLL4(E906A)と共にHeLa細胞に同時にトランスフェクトした。完全長PELP1またはPELP1 del.1003−を野生型TTLL4と共に同時にトランスフェクトした場合に、GT335抗体によってポリグルタミル化PELP1が検出されたが、グルタミン酸リッチ領域を欠く2つの欠失PELP1構築物(del.887−954、del.887−)では検出されなかった。抗HA抗体を用いるイムノブロットによって、それぞれのPELP1構築物の発現が示され、抗Flag抗体を用いるイムノブロットによって、TTLL4または変異体TTLL4の発現が示された。
【図7】図7は、PELP1とヒストンH3との相互作用を示す。(A)免疫沈降によるPELP1とヒストンH3との相互作用。抗ヒストンH3抗体を用いるウェスタンブロッティングによって、PDAC細胞において、ヒストンH3はPELP1と免疫共沈降することが示された。(B)TTLL4をノックダウンした場合に、PELPとヒストンH3との相互作用は減少した。(C)ヒストンH3のアセチル化レベルは、対照(siEGFP)と比較してTTLL4ノックダウン(siTTLL4)において増加した。
【図8】図8は、PELP1とLAS1L、SENP3、およびTEX10との相互作用を示す。LAS1L、SENP3、およびTEX10は、免疫沈降後の質量分析によって、PELP1相互作用タンパク質の候補として同定された。(A)PELP1−HAベクターおよび/またはLAS1L−Flagベクターを、COS−7細胞に同時にトランスフェクトした。PELP1−HAおよび/またはLAS1L−Flagを含有するタンパク質複合体を、それぞれ、抗HA抗体(中央)または抗Flag抗体(下部)によって細胞抽出物から免疫沈降した。抗HA抗体を用いるウェスタンブロッティングによって、両発現ベクターを同時にトランスフェクトした場合に、PELP1−HAはLAS1L−Flagと免疫共沈降することが示された(左)。抗Flag抗体を用いるウエスタンブロットによって、両発現ベクターを共発現した場合に、LAS1L−FlagはPELP1−HAと免疫共沈降することが示された(右)。(B)PELP1−HAベクターおよび/またはSENP3−FlagベクターをCOS−7細胞に同時にトランスフェクトし、PELP1−HAおよび/またはSENP3−Flagを含有するタンパク質複合体を、それぞれ、抗HA抗体(中央)または抗Flag抗体(下部)によって細胞抽出物から免疫沈降した。(C)PELP1−HAベクターおよび/またはTEX10−FlagベクターをCOS−7細胞に同時にトランスフェクトし、PELP1−HAおよび/またはTEX10−Flagを含有するタンパク質複合体を、それぞれ、抗HA抗体(中央)または抗Flag抗体(下部)によって細胞抽出物から免疫沈降した。
【図9】図9は、PELP1とLAS1LまたはSENP3との相互作用に対するTTLL4の過剰発現の効果またはノックダウンの効果を示す。(A)TTLL4を過剰発現した場合に、PELP1とLAS1Lとの親和性は増加し(上部)、TTLL4をノックダウンした場合に、PELP1とLAS1Lとの親和性は減少している(下部)。(B)TTLL4を過剰発現した場合に、PELP1とSENP3との親和性は減少し(上部)、TTLL4をノックダウンした場合に、PELP1とLAS1Lとの親和性は増加している(下部)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
態様の説明
定義
本明細書で使用する「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」という単語は、他に特記しない限り「少なくとも1つの」を意味する。
【0017】
本明細書で使用する「生物学的試料」という用語は、生物全体、またはその組織、細胞、もしくは成分部分のサブセット(例えば、血液、粘液、リンパ液、滑液、脳脊髄液、唾液、羊水、臍帯血(amniotic cord blood)、尿、腟液、および精液を含むが、これに限定されない、体液)を指す。さらに、「生物学的試料」は、生物全体、またはその細胞、組織、もしくは成分部分のサブセットから調製された、ホモジネート、溶解物、抽出物、細胞培養物、または組織培養物、あるいはその画分または一部を指す。最後に、「生物学的試料」は、タンパク質またはポリヌクレオチドなどの細胞成分を含有する、生物を増殖させた栄養ブロスまたはゲルなどの培地を指す。
【0018】
「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」、「ヌクレオチド」、「核酸」、および「核酸分子」という用語は、核酸残基のポリマーを指すために本明細書において互換的に用いられ、他に特記しない限り、一般的に認められた一文字コードによって言及される。本用語は、1つまたは複数の核酸がエステル結合によって連結した核酸(ヌクレオチド)ポリマーに適用される。核酸ポリマーは、DNA、RNAまたはそれらの組み合わせから構成されてもよく、天然の核酸ポリマーおよび非天然の核酸ポリマーの両方を包含する。
【0019】
「ポリペプチド」、「ペプチド」、および「タンパク質」という用語は、アミノ酸残基のポリマーを指すために本明細書において互換的に用いられる。本用語は、1つまたは複数のアミノ酸残基が修飾残基であるか、または対応する天然アミノ酸の人工的な化学的模倣体などの非天然残基であるアミノ酸ポリマー、ならびに天然アミノ酸ポリマーに適用される。
【0020】
特に定義しない限り、本明細書において用いられる技術用語および科学用語は全て本発明の属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。矛盾する場合には、本明細書が定義を含めて優先される。
【0021】
遺伝子またはタンパク質
本発明は、TTLL4(tubulin tyrosine ligase−like family,member 4)、PELP1(proline,glutamate and leucine rich protein 1)、LAS1L(LAS1−like)、およびSENP3(SUMO1/sentrin/SMT3 specific protease 3)に関しており、これらのポリヌクレオチドまたはポリペプチドは、本発明によって提供される方法、キット、組成物などにおいて利用される。TTLL4、PELP1、LAS1L、およびSENP3の核酸配列およびアミノ酸配列は当業者に公知であり、例えば、GenBank(商標)などのウェブサイトにある遺伝子データベースから入手することができる。
【0022】
TTLL4遺伝子の例示的な核酸配列は、SEQ ID NO:18(GenBankアクセッション番号NM_014640)に示し、TTLL4ポリペプチドの例示的なアミノ酸配列は、SEQ ID NO:19および(GenBankアクセッション番号NP_055455.3)に示しているが、これらに限定されない。PELP1遺伝子の例示的な核酸配列は、SEQ ID NO:20(GenBankアクセッション番号NM_014389.2)に示し、TTLL4ポリペプチドの例示的なアミノ酸配列は、SEQ ID NO:19および(GenBankアクセッション番号NP_055204.2)に示しているが、これらに限定されない。LAS1L遺伝子の例示的な核酸配列は、SEQ ID NO:28(GenBankアクセッション番号NM_031206.3)に示し、LAS1Lポリペプチドの例示的なアミノ酸配列は、SEQ ID NO:29および(GenBankアクセッション番号NP_112483.1)に示しているが、これらに限定されない。SENP3遺伝子の例示的な核酸配列は、SEQ ID NO:30(GenBankアクセッション番号NM_015670.4)に示し、TTLL4ポリペプチドの例示的なアミノ酸配列は、SEQ ID NO:31および(GenBankアクセッション番号NP_056485.2)に示しているが、これらに限定されない。
【0023】
本発明の一局面によると、機能的等価物も本発明の「ポリペプチド」(すなわち、TTLL4ポリペプチド、PELP1ポリペプチド、LAS1LポリペプチドまたはSENP3ポリペプチド)の定義に含まれると見なされる。本明細書において、タンパク質(例えば、TTLL4ポリペプチド)の「機能的等価物」とは、そのタンパク質と等価な生物学的活性を有するポリペプチドである。すなわち、生物学的能力(例えば、以下に示すTTLL4の任意の生物学的能力)を保持している任意のポリペプチドが、本発明において、そのような機能的等価物として使用され得る。そのような機能的等価物には、タンパク質の天然アミノ酸配列に対して、1つまたは複数のアミノ酸が置換されているか、欠失しているか、付加されているか、または挿入されているものが含まれる。あるいは、ポリペプチドは、それぞれのタンパク質の配列に対して少なくとも約80%の相同性(配列同一性とも呼ばれる)、より好ましくは少なくとも約90%〜95%の相同性、しばしば約96%、97%、98%または99%の相同性を有するアミノ酸配列から構成されていてもよい。他の態様において、ポリペプチドは、遺伝子の天然ヌクレオチド配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされていてもよい。
【0024】
本発明のポリペプチドは、それを作製するために使用された細胞もしくは宿主、または利用された精製法に依って、アミノ酸配列、分子量、等電点、糖鎖の有無、または形態における変動を有していてもよい。しかしながら、本発明のヒトタンパク質(すなわち、TTLL4ポリペプチド、PELP1ポリペプチド、LAS1LポリペプチドまたはSENP3ポリペプチド)の機能と等価な機能を有する限り、それは本発明の範囲内である。
【0025】
「ストリンジェントな(ハイブリダイゼーション)条件」という語句は、核酸分子が、その標的配列、典型的には核酸の複雑な混合物中にある標的配列とハイブリダイズするが、他の配列とは検出可能にはハイブリダイズしない条件を指す。ストリンジェントな条件は、配列依存的であり、異なる状況下では異なる。より長い配列は、より高い温度で特異的にハイブリダイズする。核酸のハイブリダイゼーションに関する広範囲にわたる指針は、Tijssen, Techniques in Biochemistry and Molecular Biology--Hybridization with Nucleic Probes, "Overview of principles of hybridization and the strategy of nucleic acid assays" (1993)に見出される。一般的に、ストリンジェントな条件は、規定のイオン強度、pHにおける特定の配列の熱融解点(Tm)よりも約5〜10℃低く選択される。Tmとは、平衡状態で、標的に相補的なプローブの50%が、標的配列とハイブリダイズする(規定のイオン強度、pH、および核濃度での)温度である(標的配列が過剰に存在するので、Tmでは、平衡時に、プローブの50%が占有される)。ホルムアミドなどの脱安定化剤の添加によっても、ストリンジェントな条件を達成することができる。選択的または特異的なハイブリダイゼーションのため、陽性シグナルは、バックグラウンドの少なくとも2倍、好ましくは、バックグラウンドハイブリダイゼーションの10倍である。例示的なストリンジェントなハイブリダイゼーション条件には、以下のものが含まれる:50%ホルムアミド、5×SSC、および1%SDS、42℃でのインキュベーション、または5×SSC、1%SDS、65℃でのインキュベーションと、50℃での0.2×SSCおよび0.1%SDSによる洗浄。
【0026】
本発明との関連において、上記のヒトTTLL4タンパク質、ヒトPELP1タンパク質、ヒトLAS1Lタンパク質、またはヒトSENP3タンパク質と機能的に等価なポリペプチドをコードするDNAを単離するためのハイブリダイゼーションの条件を、当業者はルーチンに選択することができる。例えば、「Rapid−hyb buffer」(Amersham LIFE SCIENCE)を使用して、68℃で30分以上プレハイブリダイゼーションを実施し、標識されたプローブを添加し、68℃で1時間以上加熱することにより、ハイブリダイゼーションを実施することができる。例えば、低ストリンジェントな条件においては、以下の洗浄工程を実施することができる。例示的な低ストリンジェントな条件には、42℃、2×SSC、0.1%SDS、好ましくは、50℃、2×SSC、0.1%SDSが含まれ得る。多くの場合、高ストリンジェンシー条件が好んで使用される。例示的な高ストリンジェンシー条件には、2×SSC、0.01%SDSで20分間、室温での3回の洗浄、次いで1×SSC、0.1%SDSで20分間、37℃での3回の洗浄、および1×SSC、0.1%SDSで20分間、50℃での2回の洗浄が含まれ得る。しかしながら、温度および塩濃度などの幾つかの因子が、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響を及ぼす場合があり、当業者は、必要なストリンジェンシーを達成するために適切に因子を選択することができる。
【0027】
一般的に、タンパク質内の1つまたは複数のアミノ酸の改変は、タンパク質の機能に影響を与えないことが公知である。実際に、ある特定のアミノ酸配列の1つまたは複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入、および/または付加することにより改変されたアミノ酸配列を有する、変異したタンパク質または改変されたタンパク質は、元の生物学的活性を保持することが公知である(Mark et al., Proc Natl Acad Sci USA 81: 5662-6 (1984);Zoller and Smith, Nucleic Acids Res 10:6487-500 (1982);Dalbadie-McFarland et al., Proc Natl Acad Sci USA 79: 6409-13 (1982))。従って、タンパク質の変化が類似の機能を有するタンパク質をもたらす場合、単一のアミノ酸、もしくは少ない比率のアミノ酸を変えるアミノ酸配列に対する個々の付加、欠失、挿入、もしくは置換、または「保存的改変」であるとみなされるものが、本発明との関連において許容可能であることを、当業者は認識するであろう。
【0028】
タンパク質の活性が維持される限り、アミノ酸変異の数は特に限定されない。しかしながら、アミノ酸配列の5%以下を変えることが一般的に好ましい。従って、好ましい一態様において、そのような変異体において変異させるアミノ酸の数は、一般的には、30アミノ酸以下、好ましくは20アミノ酸以下、より好ましくは10アミノ酸以下、より好ましくは6アミノ酸以下、さらに好ましくは3アミノ酸以下である。
【0029】
変異させるアミノ酸残基は、好ましくは、アミノ酸側鎖の特性が保存される異なるアミノ酸に変異させる(保存的アミノ酸置換として公知のプロセス)。アミノ酸側鎖の特性の例は、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、および以下の官能基または特徴を共通に有する側鎖である:脂肪族側鎖(G、A、V、L、I、P);ヒドロキシル基を含有している側鎖(S、T、Y);硫黄原子を含有している側鎖(C、M);カルボン酸およびアミドを含有している側鎖(D、N、E、Q);塩基を含有している側鎖(R、K、H);ならびに芳香族を含有している側鎖(H、F、Y、W)。機能的に類似したアミノ酸を提供する保存的置換の表は、当技術分野で周知である。例えば、以下の8つの群は、各々、互いに保存的置換であるアミノ酸を含有している:
1)アラニン(A)、グリシン(G);
2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);
3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);
4)アルギニン(R)、リシン(K);
5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);
6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W);
7)セリン(S)、スレオニン(T);および
8)システイン(C)、メチオニン(M)(例えば、Creighton, Proteins 1984を参照されたい)。
このような保存的に改変されたポリペプチドは、本タンパク質に含まれる。しかしながら、本発明はこれらに限定されず、本タンパク質は、本タンパク質の生物学的活性が少なくとも1つ保持される限り、非保存的改変を含む。さらに、改変されたタンパク質は、多型バリアント、種間相同体、およびこれらのタンパク質の対立遺伝子によってコードされるものを除外しない。
【0030】
さらに、本発明との関連において、遺伝子またはポリヌクレオチド(すなわち、TTLL4ポリヌクレオチド、PELP1ポリヌクレオチド、LAS1Lポリヌクレオチド、またはSENP3ポリヌクレオチド)には、前記タンパク質(すなわち、TTLL4ポリペプチド、PELP1ポリペプチド、LAS1Lポリペプチド、またはSENP3ポリペプチド)のそのような機能的等価物をコードするポリヌクレオチドが包含される。前記タンパク質と機能的に等価なポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを単離するためには、ハイブリダイゼーションに加えて、上記情報の配列に基づき合成されたプライマーを使用した、遺伝子増幅法、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法を利用することができる。ヒト遺伝子およびヒトタンパク質と機能的に等価なポリヌクレオチドおよびポリペプチドは、それぞれ、通常、その元のヌクレオチド配列またはアミノ酸配列に対して高い相同性を有する。「高い相同性」とは、典型的には40%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%〜95%以上の相同性を指す。特定のポリヌクレオチドまたはポリペプチドの相同性は、「Wilbur and Lipman, Proc Natl Acad Sci USA 80: 726-30 (1983)」のアルゴリズムに従い、決定され得る。
【0031】
二本鎖分子:
本明細書で使用される場合、「単離された二本鎖分子」という用語は標的遺伝子の発現を阻害する核酸分子を意味し、例えば短鎖干渉RNA(siRNA、例えば二本鎖リボ核酸(dsRNA)または低分子ヘアピン型RNA(shRNA))および短鎖干渉DNA/RNA(siD/R−NA、例えばDNAとRNAとの二本鎖キメラ(dsD/R−NA)またはDNAとRNAとの低分子ヘアピンキメラ(shD/R−NA))を含む。
【0032】
本明細書で使用される場合、「siRNA」という用語は、標的mRNAの翻訳を防ぐ二本鎖RNA分子を指す。DNAが、RNAが転写される鋳型である技術を含む、siRNAを細胞に導入する標準的な技術が用いられる。siRNAは、TTLL4のセンス核酸配列(「センス鎖」とも称される)、TTLL4のアンチセンス核酸配列(「アンチセンス鎖」とも称される)、またはその両方を含む。単一の転写産物が、標的遺伝子のセンス核酸配列および相補的なアンチセンス核酸配列の両方を有するように(例えばヘアピン)、siRNAを構築してもよい。siRNAはdsRNAまたはshRNAのいずれであってもよい。
【0033】
本明細書で使用される場合、「dsRNA」という用語は、互いに相補的な配列から構成され、かつその相補的な配列を介して共にアニーリングして二本鎖RNA分子を形成している、2つのRNA分子の構築物を指す。2つの鎖のヌクレオチド配列は、標的遺伝子配列のタンパク質コード配列から選択される「センス」RNAまたは「アンチセンス」RNAだけでなく、標的遺伝子の非コード領域から選択されるヌクレオチド配列を有するRNA分子も含み得る。
【0034】
本明細書で使用される場合、「shRNA」という用語は、互いに相補的である第1および第2の領域、すなわちセンス鎖およびアンチセンス鎖から構成される、ステム−ループ構造を有するsiRNAを指す。該領域の相補性および配向性の程度は、塩基の対合が領域間で起こるのに十分であり、第1および第2の領域はループ領域によって連結し、該ループは、ループ領域内のヌクレオチド(またはヌクレオチド類似体)間の塩基対合の欠如によって生じる。shRNAのループ領域は、センス鎖とアンチセンス鎖との間に介在する一本鎖領域であり、「介在一本鎖」とも称され得る。
【0035】
本明細書で使用される場合、「siD/R−NA」という用語は、RNAおよびDNAの両方から構成される二本鎖ポリヌクレオチド分子を意味し、RNAおよびDNAのハイブリッドおよびキメラを含み、標的mRNAの翻訳を防ぐ。本明細書において、ハイブリッドは、DNAから構成されるポリヌクレオチドとRNAから構成されるポリヌクレオチドとが互いにハイブリダイズして二本鎖分子を形成する分子を示し、キメラは、二本鎖分子を含む鎖の一方または両方がRNAおよびDNAを含有し得ることを示す。siD/R−NAを細胞に導入する標準的な技術が用いられる。siD/R−NAは、TTLL4のセンス核酸配列(「センス鎖」とも称される)、TTLL4のアンチセンス核酸配列(「アンチセンス鎖」とも称される)、またはその両方を含む。単一の転写産物が、標的遺伝子由来のセンス核酸配列および相補的なアンチセンス核酸配列の両方を有するように(例えばヘアピン)、siD/R−NAを構築してもよい。siD/R−NAはdsD/R−NAまたはshD/R−NAのいずれであってもよい。
【0036】
本明細書で使用される場合、「dsD/R−NA」という用語は、互いに相補的な配列から構成され、かつ該相補的な配列を介して共にアニーリングして二本鎖ポリヌクレオチド分子を形成している、2つの分子の構築物を指す。2つの鎖のヌクレオチド配列は、標的遺伝子配列のタンパク質コード配列から選択される「センス」または「アンチセンス」ポリヌクレオチド配列だけでなく、標的遺伝子の非コード領域から選択されるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドも含み得る。dsD/R−NAを構築する2つの分子の一方または両方が、RNAおよびDNAの両方から構成されるか(キメラ分子)、あるいは、分子の一方がRNAから構成され、もう一方がDNAから構成される(ハイブリッド二本鎖)。
【0037】
本明細書で使用される場合、「shD/R−NA」という用語は、互いに相補的である第1および第2の領域、すなわちセンス鎖およびアンチセンス鎖から構成される、ステム−ループ構造を有するsiD/R−NAを指す。該領域の相補性および配向性の程度は、塩基の対合が領域間で起こるのに十分であり、第1および第2の領域はループ領域によって連結し、該ループは、ループ領域内のヌクレオチド(またはヌクレオチド類似体)間の塩基対合の欠如によって生じる。shD/R−NAのループ領域は、センス鎖とアンチセンス鎖との間に介在する一本鎖領域であり、「介在一本鎖」とも称され得る。
【0038】
本明細書で使用される場合、「単離された核酸」は、その元の環境(例えば、天然物の場合は自然環境)から取り出した核酸であり、従って、その自然状態から合成的に変化させた核酸である。本発明において、単離された核酸の例にはDNA、RNA、およびその誘導体が含まれる。
【0039】
標的mRNAにハイブリダイズする分子である、TTLL4に対する二本鎖分子は、遺伝子の通常一本鎖であるmRNA転写物と結合し、それにより、翻訳に干渉し、従って、タンパク質の発現を阻害することにより、TTLL4遺伝子によってコードされるタンパク質の産生を低減させるかまたは阻害する。本明細書中で証明される通り、PDAC細胞株におけるTTLL4の発現はdsRNAによって阻害された(図2)。従って、本発明は、TTLL4遺伝子を発現している細胞へ導入された場合に、TTLL4遺伝子の発現を阻害することができる単離された二本鎖分子を提供する。二本鎖分子の標的配列は、後述されるものなどのsiRNA設計アルゴリズムによって設計され得る。
【0040】
例えばTTLL4標的配列には、ヌクレオチドであるSEQ ID NO:7(SEQ ID NO:18の466〜485位)、SEQ ID NO:8(SEQ ID NO:18の2692〜2710位)が含まれる。
【0041】
特に、本発明は、以下の[1]〜[18]の二本鎖分子を提供する:
[1]互いにハイブリダイズして二本鎖分子を形成するセンス鎖とこれに相補的なアンチセンス鎖とから構成され、細胞に導入された場合にTTLL4のインビボ発現および細胞増殖を阻害する、単離された二本鎖分子;
[2]SEQ ID NO:7(SEQ ID NO:18の466〜485位)、SEQ ID NO:8(SEQ ID NO:18の2692〜2710位)の中から選択される標的配列に一致するmRNAに対して作用する、[1]に記載の二本鎖分子;
[3]センス鎖が、SEQ ID NO:7および8の中から選択される標的配列に対応する配列を含有している、[2]に記載の二本鎖分子;
[4]約100ヌクレオチド未満の長さを有する、[3]に記載の二本鎖分子;
[5]約75ヌクレオチド未満の長さを有する、[4]に記載の二本鎖分子;
[6]約50ヌクレオチド未満の長さを有する、[5]に記載の二本鎖分子;
[7]約25ヌクレオチド未満の長さを有する、[6]に記載の二本鎖分子;
[8]約19〜約25ヌクレオチドの長さを有する、[7]に記載の二本鎖分子;
[9]介在一本鎖により連結されたセンス鎖およびアンチセンス鎖の両方を有する単一のポリヌクレオチドから構成される、[1]に記載の二本鎖分子;
[10]一般式:5’−[A]−[B]−[A’]−3’を有する、二本鎖分子であって、式中、[A]はSEQ ID NO:7および8の中から選択される標的配列に対応する配列を含むセンス鎖であり、[B]は3個〜23個のヌクレオチドから構成される介在一本鎖であり、かつ[A’]は[A]と相補的な配列を含むアンチセンス鎖である、[9]に記載の二本鎖分子;
[11]RNAから構成される、[1]に記載の二本鎖分子;
[12]DNAおよびRNAの両方から構成される、[1]に記載の二本鎖分子;
[13]DNAポリヌクレオチドとRNAポリヌクレオチドとのハイブリッドである、[12]に記載の二本鎖分子;
[14]センス鎖およびアンチセンス鎖がそれぞれDNAおよびRNAから構成される、[13]に記載の二本鎖分子;
[15]DNAとRNAとのキメラである、[12]に記載の二本鎖分子;
[16]アンチセンス鎖の3’末端に隣接する領域、またはセンス鎖の5'末端に隣接する領域およびアンチセンス鎖の3’末端に隣接する領域の両方がRNAである、[15]に記載の二本鎖分子;
[17]隣接領域が9個〜13個のヌクレオチドから構成される、[16]に記載の二本鎖分子;ならびに
[18]3’オーバーハングを含有する、[2]に記載の二本鎖分子。
【0042】
本発明の二本鎖分子は以下でより詳細に説明される。
【0043】
細胞において標的遺伝子の発現を阻害する能力がある二本鎖分子を設計する方法が知られている(例えば米国特許第6,506,559号(その全体が参照により本明細書に組み入れられる)を参照されたい)。例えば、siRNAを設計するためのコンピュータプログラムは、Ambionのウェブサイトから入手可能である(www.ambion.com/techlib/misc/siRNA_finder.html)。
【0044】
コンピュータプログラムは、以下のプロトコルに基づき、二本鎖分子に対する標的ヌクレオチド配列を選択する。
【0045】
標的部位の選択:
1. 転写産物のAUG開始コドンから始めて、AAジヌクレオチド配列について下流を探索する。潜在的なsiRNA標的部位として、それぞれのAAの存在とその3’側に隣接した19個のヌクレオチドとを記録する。Tuschl et al.は、5’および3’非翻訳領域(UTR)および開始コドン近くの領域(75塩基以内)に対してsiRNAを設計することを避けることを推奨している。これは、これらの領域に調節タンパク質結合部位がより多く存在する可能性があり、UTR結合タンパク質および/または翻訳開始複合体が、siRNAエンドヌクレアーゼ複合体の結合に干渉する可能性があるためである。
2. 潜在的な標的部位と、適当なゲノムデータベース(ヒト、マウス、ラット等)とを比較し、他のコード配列との相同性が大きい任意の標的配列を考慮から外す。基本的には、ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/でのNCBIサーバーにあるBLASTを用いる(Altschul SF et al., Nucleic Acids Res 1997 Sep 1, 25(17):3389-402)。
3. 合成のために適格である標的配列を選択する。評価するために、遺伝子の長さに沿って標的配列を幾つか選択するのが一般的である。
【0046】
上記のプロトコルを使用して、本発明の単離二本鎖分子の標的配列を、TTLL4遺伝子に関して、SEQ ID NO:7および8のように設計した。
【0047】
上述の標的配列を標的とする二本鎖分子をそれぞれ、標的遺伝子を発現している細胞の増殖を抑制する能力について調べた。従って、本発明は、TTLL4遺伝子に関して、SEQ ID NO:7(SEQ ID NO:18の466〜485位)およびSEQ ID NO:8(SEQ ID NO:18の2692〜2710位)の群から選択される配列のいずれかを標的とする二本鎖分子を提供する。
【0048】
本発明の二本鎖分子は単一の標的TTLL4遺伝子配列を対象としてもよく、または複数の標的TTLL4遺伝子配列を対象としてもよい。
【0049】
上述のTTLL4遺伝子の標的配列を標的とする本発明の二本鎖分子は、標的配列の核酸配列および/または該標的配列に相補的な配列のいずれかを含有する単離されたポリヌクレオチドを含む。TTLL4遺伝子を標的とするポリヌクレオチドの例としては、SEQ ID NO:7もしくは8の配列、ならびに/またはこれらのヌクレオチドに相補的な配列を含有するポリヌクレオチドが挙げられる。しかしながら、本発明はこれらの例に限定されず、上述の核酸配列における軽微な改変は、改変された分子がTTLL4遺伝子の発現を抑制する能力を保持する限りは許容可能である。本明細書において、核酸配列と関連して使用される「軽微な改変」という句は、配列に対する核酸の1つ、2つ、または幾つかの置換、欠失、付加、または挿入を示す。
【0050】
本発明との関連において、核酸の置換、欠失、付加、および/または挿入に対し適用される「幾つか」という用語は、3〜7個、好ましくは3〜5個、さらに好ましくは3〜4個、さらに好ましくは3個の核酸残基を意味しうる。
【0051】
本発明によれば、本発明の二本鎖分子は、実施例で利用される方法を用いて、その能力に関して試験することができる。本明細書の以下の実施例では、TTLL4遺伝子のmRNAの様々な部分のセンス鎖、またはそれに対して相補的なアンチセンス鎖から構成される二本鎖分子を、標準的な方法に従って、膵臓癌細胞株(例えば、TTLL4に関してPanc−1、Mia−PaCa−2を用いる)におけるTTLL4遺伝子産物の産生を低減させる能力に関して、インビトロで試験した。さらに、例えば、候補分子の非存在下で培養した細胞と比較した、候補二本鎖分子と接触させた細胞におけるTTLL4遺伝子産物の減少は、例えば、実施例1における「半定量RT−PCR」の項で述べられるTTLL4のmRNAに対するプライマーを用いて、RT−PCRにより検出することができる。インビトロでの細胞ベースのアッセイにおいてTTLL4遺伝子産物の産生を低減させる配列は、続いて、細胞増殖に及ぼすこれらの阻害効果に関して試験することができる。インビトロでの細胞ベースのアッセイにおいて細胞増殖を阻害する配列は、続いて、TTLL4産物の産生の低減およびがん細胞増殖の低減を確認するために、がんを有する動物、例えばヌードマウス異種移植片モデルを用いて、これらのインビボ能力に関して試験することができる。
【0052】
単離されたポリヌクレオチドがRNAまたはそれらの誘導体である場合、ヌクレオチド配列において塩基「t」は「u」に置き換えるものとする。本明細書で使用される場合、「相補性」という用語は、ポリヌクレオチドのヌクレオチドユニット間のワトソンクリック型またはフーグスティーン型の塩基対合を表し、「結合」という用語は、2つのポリヌクレオチド間の物理的なまたは化学的な相互作用を意味する。ポリヌクレオチドが改変ヌクレオチドおよび/または非ホスホジエステル結合を含む場合、これらのポリヌクレオチドもまた同じように互いに結合することができる。一般的に、相補的なポリヌクレオチド配列は、適当な条件下でハイブリダイズして、ほとんどまたは全くミスマッチを含有しない安定二本鎖を形成する。さらに、本発明の単離されたポリヌクレオチドのセンス鎖およびアンチセンス鎖は、ハイブリダイゼーションによって二本鎖分子またはヘアピンループ構造を形成することができる。好ましい態様において、このような二本鎖は10個のマッチ毎にわずか1個のミスマッチしか含有していない。特に好ましい態様では、二本鎖の鎖が完全に相補的である場合、このような二本鎖はミスマッチを含有しない。
【0053】
ポリヌクレオチドは好ましくは、TTLL4に関しては4207ヌクレオチド長未満である。例えば、ポリヌクレオチドは、全ての遺伝子に関して、500ヌクレオチド長未満、200ヌクレオチド長未満、100ヌクレオチド長未満、75ヌクレオチド長未満、50ヌクレオチド長未満、または25ヌクレオチド長未満である。本発明の単離されたポリヌクレオチドは、NM_014640遺伝子に対する二本鎖分子を形成するのに、または該二本鎖分子をコードする鋳型DNAを調製するのに有用である。ポリヌクレオチドが二本鎖分子の形成に使用される場合、ポリヌクレオチドは19ヌクレオチドより長く、好ましくは21ヌクレオチドより長くてもよく、およびより好ましくは、約19〜25ヌクレオチドの長さを有する。あるいは、本発明の二本鎖分子は、センス鎖が、標的配列においてアンチセンス鎖とハイブリダイズすることで、ヌクレオチド対500個未満、200個未満、100個未満、75個未満、50個未満、または25個未満の長さを有する二本鎖分子を形成する、二本鎖分子であってもよい。好ましくは、二本鎖分子はヌクレオチド対約19〜約25個の長さを有する。さらに、二本鎖分子のセンス鎖は、好ましくは500個未満、200個未満、100個未満、75個未満、50個未満、30個未満、27個未満、または25個未満のヌクレオチド、より好ましくは約19〜約25個または27個のヌクレオチドを含んでもよい。
【0054】
本発明の二本鎖分子は、1つまたは複数の修飾ヌクレオチドおよび/または非ホスホジエステル結合を含有し得る。当技術分野において公知の化学修飾は、二本鎖分子の安定性、利用可能性、および/または細胞取り込みを増大させることができる。当業者は、本発明の分子に取り込むことができる他の種類の化学修飾にも気づくであろう(WO03/070744、WO2005/045037)。一態様では、分解耐性の改善または取り込みの改善を与えるために、修飾を用いることができる。このような修飾の例としては、非限定的に、ホスホロチオエート結合、2’−O−メチルリボヌクレオチド(特に二本鎖分子のセンス鎖上)、2’−デオキシ−フルオロリボヌクレオチド、2’−デオキシリボヌクレオチド、「ユニバーサル塩基」ヌクレオチド、5’−C−メチルヌクレオチド、および逆方向デオキシ塩基残基の組み込みが挙げられる(米国特許出願第20060122137号)。
【0055】
別の態様では、二本鎖分子の安定性を向上させるために、または標的指向化効率を増大させるために、修飾を用いることができる。このような修飾の例としては、非限定的に、二本鎖分子の2つの相補鎖間の化学架橋結合、二本鎖分子の鎖の3’または5’末端の化学修飾、糖修飾、核酸塩基修飾および/または骨格修飾、2−フルオロ修飾リボヌクレオチド、ならびに2’−デオキシリボヌクレオチドが挙げられる(WO2004/029212)。別の態様では、標的mRNAにおける、および/または相補的二本鎖分子鎖における相補的ヌクレオチドに対する親和性の増減に修飾を用いることができる(WO2005/044976)。例えば、非修飾ピリミジンヌクレオチドを2−チオピリミジン、5−アルキニルピリミジン、5−メチルピリミジン、または5−プロピルピリミジンに置換することができる。さらに、非修飾プリンを7−デザプリン、7−アルキルプリン、または7−アルケニルプリンに置換することができる。
【0056】
別の態様では、二本鎖分子が3’オーバーハングを有する二本鎖分子である場合、3’末端のヌクレオチドオーバーハングヌクレオチドをデオキシリボヌクレオチドに置き換えることができる(Elbashir SM et al., Genes Dev 2001 Jan 15, 15(2): 188-200)。さらに詳細には、公開文献、例えば米国特許出願第20060234970号が利用可能である。本発明は、これらの例には限定されず、得られた分子が標的遺伝子の発現を阻害する能力を保持していれば、任意の公知の化学修飾を本発明の二本鎖分子に利用することができる。
【0057】
さらに、本発明の二本鎖分子はDNAおよびRNAの両方を含み得る(例えばdsD/R−NAまたはshD/R−NA)。特に、DNA鎖とRNA鎖とのハイブリッドポリヌクレオチドまたはDNA−RNAキメラポリヌクレオチドは安定性の増大を示す。DNAとRNAとの混合物、すなわちDNA鎖(ポリヌクレオチド)およびRNA鎖(ポリヌクレオチド)から構成されるハイブリッド型二本鎖分子、一本鎖(ポリヌクレオチド)の一方または両方上でDNAおよびRNAの両方を含むキメラ型二本鎖分子等を、二本鎖分子の安定性を向上させるために形成することができる。
【0058】
DNA鎖とRNA鎖とのハイブリッドは、標的遺伝子を発現する細胞に導入した場合に該標的遺伝子の発現を阻害することが可能であれば、センス鎖がDNAであり、アンチセンス鎖がRNAであるか、またはその反対のいずれであってもよい。好ましくは、センス鎖のポリヌクレオチドがDNAであり、アンチセンス鎖のポリヌクレオチドがRNAである。また、キメラ型二本鎖分子は、標的遺伝子を発現する細胞に導入した場合に該標的遺伝子の発現を阻害する活性があれば、センス鎖およびアンチセンス鎖の両方がDNAおよびRNAから構成されるか、またはセンス鎖およびアンチセンス鎖のいずれか一方がDNAおよびRNAから構成されるか、のいずれであってもよい。二本鎖分子の安定性を向上するためには、分子は可能な限り多くのDNAを含有する事が好ましいが、標的遺伝子発現の阻害を誘導するためには、分子は発現の十分な阻害を誘導する範囲内でRNAである事が必要である。
【0059】
キメラ型二本鎖分子の好ましい例では、二本鎖分子の上流部分領域(すなわちセンス鎖またはアンチセンス鎖内の標的配列またはその相補配列に隣接する領域)はRNAである。好ましくは、上流部分領域は、センス鎖の5’側(5’末端)およびアンチセンス鎖の3’側(3’末端)を示す。あるいは、センス鎖の5’末端および/またはアンチセンス鎖の3’末端に隣接する領域が、上流部分領域と称される。すなわち、好ましい態様では、アンチセンス鎖の3’末端に隣接する領域、またはセンス鎖の5’末端に隣接する領域およびアンチセンス鎖の3’末端に隣接する領域の両方がRNAから構成される。例えば、本発明のキメラまたはハイブリッド型の二本鎖分子は以下の組み合わせを含む。
センス鎖:5’−[−−−DNA−−−]−3’
3’−(RNA)−[DNA]−5’:アンチセンス鎖、
センス鎖:5’−(RNA)−[DNA]−3’
3’−(RNA)−[DNA]−5’:アンチセンス鎖、および
センス鎖:5’−(RNA)−[DNA]−3’
3’−(−−−RNA−−−)−5’:アンチセンス鎖。
【0060】
上流部分領域は、好ましくは、二本鎖分子のセンス鎖またはアンチセンス鎖内で、標的配列またはこれに対する相補配列の末端から数えて9個〜13個のヌクレオチドから構成されるドメインである。さらに、そのようなキメラ型二本鎖分子の好ましい例としては、ポリヌクレオチドの少なくとも上流半分の領域(センス鎖では5’側領域およびアンチセンス鎖では3’側領域)がRNAであり、もう半分がDNAである、19個〜21個のヌクレオチド鎖長を有するものが挙げられる。そのようなキメラ型二本鎖分子では、アンチセンス鎖全体がRNAである場合、標的遺伝子の発現阻害効果が非常に高くなる(米国特許出願第20050004064号)。
【0061】
本発明において、二本鎖分子は、ヘアピン、例えば低分子ヘアピン型RNA(shRNA)ならびにDNAおよびRNAからなる低分子のヘアピン(shD/R−NA)を形成することができる。shRNAまたはshD/R−NAは、RNA干渉を介して遺伝子発現をサイレンシングするのに使用することができる、タイトなヘアピンターン(tight hairpin turn)を作る、RNAまたはRNAとDNAとの混合物の配列である。shRNAまたはshD/R−NAは、一本鎖上にセンス標的配列とアンチセンス標的配列とを含み、これらの配列はループ配列によって分けられる。一般的に、ヘアピン構造は、細胞機構によってdsRNAまたはdsD/R−NAに切断され、続いてRNA誘導サイレンシング複合体(RISC)と結合する。この複合体は、dsRNAまたはdsD/R−NAの標的配列に適合するmRNAと結合してこれを切断する。
【0062】
任意のヌクレオチド配列から構成されるループ配列は、ヘアピンループ構造を形成するために、センス配列とアンチセンス配列との間に位置し得る。従って、本発明は、一般式5’−[A]−[B]−[A’]−3’(式中、[A]は標的配列に対応する配列を含むセンス鎖であり、[B]は介在一本鎖であり、かつ[A’]は[A]に対する相補配列を含むアンチセンス鎖である)を有する二本鎖分子も提供する。標的配列は、例えば、TTLL4に関して、SEQ ID NO:7または8のヌクレオチドの中から選択され得る。
【0063】
本発明はこれらの例には限定されず、[A]における標的配列は、二本鎖分子が標的となるTTLL4遺伝子の発現を抑制する能力を保持していれば、これらの例から改変された配列であってもよい。[A]領域は[A’]領域とハイブリダイズし、[B]領域から構成されるループを形成する。介在一本鎖部分[B]、すなわちループ配列は、好ましくは3〜23ヌクレオチド長であり得る。例えばループ配列は以下の配列の中から選択することができる(www.ambion.com/techlib/tb/tb_506.html)。さらに、23個のヌクレオチドからなるループ配列は活性siRNAも提供する(Jacque JM et al., Nature 2002 Jul 25, 418(6896): 435-8, Epub 2002 Jun 26):
CCC、CCACC、またはCCACACC:Jacque JM et al., Nature 2002 Jul 25, 418(6896): 435- 8, Epub 2002 Jun 26;
UUCG:Lee NS et al., Nat Biotechnol 2002 May, 20(5): 500-5、Fruscoloni P et al., Proc Natl Acad Sci USA 2003 Feb 18, 100(4): 1639-44, Epub 2003 Feb 10;および
UUCAAGAGA:Dykxhoorn DM et al., Nat Rev Mol Cell Biol 2003 Jun, 4(6): 457-67。
【0064】
ヘアピンループ構造を有する本発明の好ましい二本鎖分子の例は以下に示される。以下の構造では、ループ配列は、AUG、CCC、UUCG、CCACC、CTCGAG、AAGCUU、CCACACC、およびUUCAAGAGAの中から選択することができるが、本発明はこれらに限定されない:

(標的配列SEQ ID NO:7に関する);

(標的配列SEQ ID NO:8に関する)。
【0065】
さらに、二本鎖分子の阻害活性を増強するために、標的配列のセンス鎖および/またはアンチセンス鎖の3’末端に、3’オーバーハングが付加されてもよい。3’オーバーハングを構成するヌクレオチドの好ましい例には「t」および「u」が含まれるが、これに限定されない。付加されるヌクレオチドの数は、通常2個であるが、これに限定されず、2個超、例えば、3個、4個、5個またはそれ以上でもよい。3’オーバーハングは、二本鎖分子のセンス鎖および/またはアンチセンス鎖の3’末端で一本鎖を形成する。二本鎖分子が、ヘアピンループ構造を形成する単一のポリヌクレオチドからなる場合、3’オーバーハング配列は単一のポリヌクレオチドの3’末端に付加されてもよい。
【0066】
二本鎖分子を調製するための方法は特に限定されないが、当技術分野で公知の化学合成方法を使用するのが好ましい。化学合成方法に従って、センスおよびアンチセンスの一本鎖ポリヌクレオチドを別々に合成した後、それらを適当な方法により共にアニーリングして二本鎖分子を得る。アニーリングの具体的な例では、合成一本鎖ポリヌクレオチドは好ましくは少なくとも約3:7、より好ましくは約4:6、最も好ましくは実質的に等モル量(すなわち約5:5のモル比)のモル比で混合される。次に、混合物を二本鎖分子が解離する温度まで加熱した後、徐々に冷ます。アニーリングした二本鎖ポリヌクレオチドは、当技術分野で公知の通常利用される方法によって精製することができる。精製方法の例としては、アガロースゲル電気泳動を利用するか、または残存一本鎖ポリヌクレオチドが、例えば適当な酵素による分解によって任意で取り除かれる方法が挙げられる。
【0067】
TTLL4配列に隣接する調節配列は同一であってもまたは異なっていてもよく、このためこれらの発現は独立に、または時間的にもしくは空間的様式で調節することができる。二本鎖分子は、TTLL4遺伝子鋳型を、例えば低分子核RNA(snRNA)U6由来のRNAポリIII転写ユニットまたはヒトH1 RNAプロモーターを含有するベクターにクローニングすることによって細胞内で転写することができる。
【0068】
本発明の二本鎖分子を含有するベクター:
本明細書に記載の二本鎖分子を1つまたは複数含有するベクター、および該ベクターを含有する細胞も本発明に包含される。
【0069】
具体的には、本発明は、以下の[1]〜[10]のベクターを提供する。
[1]細胞に導入された場合にTTLL4のインビボ発現および細胞増殖を阻害する二本鎖分子をコードするベクターであって、該分子が、互いにハイブリダイズして二本鎖分子を形成するセンス鎖とこれに相補的なアンチセンス鎖とから構成される、ベクター;
[2]SEQ ID NO:7(SEQ ID NO:18の466〜485位)およびSEQ ID NO:8(SEQ ID NO:18の2692〜2710位)の中から選択される標的配列と一致するmRNAに対して作用する二本鎖分子をコードする、[1]に記載のベクター;
[3]センス鎖が、SEQ ID NO:7および8の中から選択される標的配列に対応する配列を含有する、[1]に記載のベクター;
[4]約100ヌクレオチド未満の長さを有する二本鎖分子をコードするベクターであって、二本鎖分子が標的配列においてアンチセンス鎖とハイブリダイズして二本鎖分子を形成する、[3]に記載のベクター;
[5]約75ヌクレオチド未満の長さを有する二本鎖分子をコードするベクターであって、二本鎖分子が標的配列においてアンチセンス鎖とハイブリダイズして二本鎖分子を形成する、[4]に記載のベクター;
[6]約50ヌクレオチド未満の長さを有する二本鎖分子をコードするベクターであって、二本鎖分子が標的配列においてアンチセンス鎖とハイブリダイズして二本鎖分子を形成する、[5]に記載のベクター;
[7]約25ヌクレオチド未満の長さを有する二本鎖分子をコードするベクターであって、二本鎖分子が標的配列においてアンチセンス鎖とハイブリダイズして二本鎖分子を形成する、[6]に記載のベクター;
[8]約19〜約25ヌクレオチドの長さを有する二本鎖分子をコードするベクターであって、二本鎖分子が標的配列においてアンチセンス鎖とハイブリダイズして二本鎖分子を形成する、[7]に記載のベクター;
[9]二本鎖分子が、介在一本鎖により連結されたセンス鎖およびアンチセンス鎖の両方を有する単一のポリヌクレオチドから構成される、[1]に記載のベクター;
[10]一般式:5’−[A]−[B]−[A’]−3’を有する二本鎖分子をコードするベクターであって、式中、[A]は、SEQ ID NO:7および8の中から選択される標的配列に対応する配列を含むセンス鎖であり、[B]は、3〜23個のヌクレオチドから構成される介在一本鎖であり、かつ[A’]は、[A]と相補的な配列を含むアンチセンス鎖である、[9]に記載のベクター。
【0070】
本発明のベクターは、好ましくは、発現可能な形態で本発明の二本鎖分子をコードする。本明細書において、「発現可能な形態で」という語句は、細胞に導入された場合に、ベクターが前記分子を発現するであろうことを示す。好ましい態様では、ベクターは、二本鎖分子の発現に必要な調節要素を含む。そのような本発明のベクターは、本発明の二本鎖分子を生成するのに使用でき、またはがんを治療するための活性成分として直接使用することができる。
【0071】
本発明のベクターは、例えば、両方の鎖が(DNA分子の転写によって)発現されるような方法で調節配列がTTLL4配列と機能的に連結するように、TTLL4配列を発現ベクターにクローニングすることによって生成することができる(Lee NS et al., Nat Biotechnol 2002 May, 20(5): 500-5)。例えば、mRNAに対するアンチセンスであるRNA分子が第1のプロモーター(例えばクローニングされたDNAの3’末端と隣接するプロモーター配列)によって転写され、mRNAに対するセンス鎖であるRNA分子が第2のプロモーター(例えばクローニングされたDNAの5’末端に隣接するプロモーター配列)によって転写される。センス鎖とアンチセンス鎖とがインビボでハイブリダイズし、遺伝子をサイレンシングするための二本鎖分子構築物を生成する。あるいは、二本鎖分子のセンス鎖およびアンチセンス鎖をそれぞれコードする2つのベクター構築物を、センス鎖およびアンチセンス鎖をそれぞれ発現した後、二本鎖分子構築物を形成するために利用する。さらに、クローニングされた配列は二次構造(例えばヘアピン)を有する構築物、すなわち標的遺伝子のセンス配列および相補的なアンチセンス配列の両方を含有するベクターの単一転写産物をコードすることができる。
【0072】
本発明のベクターは、標的細胞のゲノムへの安定した挿入を達成するためにそのようなものを具備することもできる(例えば相同的な組換えカセットベクターの説明に関しては、Thomas KR & Capecchi MR, Cell 1987, 51: 503-12を参照されたい)。例えば、Wolff et al., Science 1990, 247: 1465-8、米国特許第5,580,859号、同第5,589,466号、同第5,804,566号、同第5,739,118号、同第5,736,524号、同第5,679,647号、およびWO98/04720を参照されたい。DNAベースの送達技術の例としては、「ネイキッドDNA」、促進性(ブピバカイン、ポリマー、ペプチド媒介性)送達、カチオン性脂質複合体、および粒子媒介性(「遺伝子銃」)または圧力媒介性の送達が挙げられる(例えば米国特許第5,922,687号を参照されたい)。
【0073】
本発明のベクターは例えば、ウイルスベクターまたは細菌ベクターを含む。発現ベクターの例としては、弱毒化ウイルス宿主、例えばワクシニアまたは鶏痘が挙げられる(例えば米国特許第4,722,848号を参照されたい)。このアプローチは、例えば二本鎖分子をコードするヌクレオチド配列を発現するためのベクターとしてのワクシニアウイルスの使用を含む。標的遺伝子を発現する細胞に導入すると、組換えワクシニアウイルスは前記分子を発現し、それにより細胞の増殖を抑制する。使用することのできるベクターの別の例としてはカルメット・ゲラン桿菌(Bacille Calmette Guerin)(BCG)が挙げられる。BCGベクターはStover et al., Nature 1991, 351: 456-60に記載されている。広範な他のベクターが、二本鎖分子の治療的投与および生成に有用である。例としては、アデノウイルスベクターおよびアデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、チフス菌(Salmonella typhi)ベクター、無毒化炭疽毒素ベクター等が挙げられる。例えば、Shata et al., Mol Med Today 2000, 6: 66-71、Shedlock et al., J Leukoc Biol 2000, 68: 793-806、およびHipp et al., In Vivo 2000, 14: 571-85を参照されたい。
【0074】
本発明の二本鎖分子を使用して、がん細胞の増殖を阻害するかまたは低下させ、がんを治療する方法:
本発明では、TTLL4に対する3種類の異なるdsRNAを、細胞増殖を阻害する能力について試験した。これらの3種類のdsRNAのうち、2種類のdsRNAは、膵臓癌細胞株における遺伝子の発現を効果的にノックダウンすると同時に、細胞増殖を抑制した(図2BおよびC)。これらの結果により、TTLL4が、がん細胞の生存および/または増殖に関与し、TTLL4の発現抑制によってがん細胞増殖が阻害されることが証明される。従って、TTLL4遺伝子に対する二本鎖分子はがんの治療および/または予防に有用であり得る。
【0075】
従って、本発明は、TTLL4の発現の阻害を介して、TTLL4遺伝子の機能障害を誘導することにより、細胞増殖、すなわち、がん細胞増殖を阻害するための方法を提供する。TTLL4遺伝子の発現は、TTLL4遺伝子を特異的に標的とする本発明の前記二本鎖分子のいずれか、または該二本鎖分子のいずれかを発現し得る本発明のベクターによって阻害され得る。
【0076】
本二本鎖分子および本ベクターの、がん性細胞の細胞増殖を阻害するそのような能力は、それらが、がんを治療するための方法に使用され得ることを示す。従って、本遺伝子は正常器官ではほとんど検出されなかったため(図1)、本発明は、有害な作用なしに、TTLL4遺伝子に対する二本鎖分子、または該分子を発現するベクターを投与することによって、がんを有する患者を治療する方法を提供する。
【0077】
具体的には、本発明は、以下の[1]〜[36]の方法を提供する:
[1]互いにハイブリダイズして二本鎖分子を形成するセンス鎖とこれに相補的なアンチセンス鎖とから構成され、かつTTLL4遺伝子を過剰発現している細胞におけるTTLL4の発現および細胞増殖を阻害する単離された二本鎖分子を、少なくとも1つ、投与する工程を含む、がん細胞の増殖を阻害してがんを治療するための方法であって、該がん細胞またはがんがTTLL4遺伝子を発現している、方法;
[2]二本鎖分子が、SEQ ID NO:7(SEQ ID NO:18の466〜485位)およびSEQ ID NO:8(SEQ ID NO:18の2692〜2710位)の中から選択される標的配列に一致するmRNAにおいて作用する、[1]に記載の方法;
[3]前記センス鎖が、SEQ ID NO:7および8の中から選択される標的配列に対応する配列を含有している、[2]に記載の方法;
[4]治療されるがんが膵臓癌である、[1]に記載の方法;
[5]膵臓癌がPDACである、[4]に記載の方法;
[6]複数種の二本鎖分子が投与される、[1]に記載の方法;
[7]二本鎖分子が約100ヌクレオチド未満の長さを有する、[3]に記載の方法;
[8]二本鎖分子が約75ヌクレオチド未満の長さを有する、[7]に記載の方法;
[9]二本鎖分子が約50ヌクレオチド未満の長さを有する、[8]に記載の方法;
[10]二本鎖分子が約25ヌクレオチド未満の長さを有する、[9]に記載の方法;
[11]二本鎖分子が約19〜約25ヌクレオチド長の長さを有する、[10]に記載の方法;
[12]二本鎖分子が、介在一本鎖により連結されたセンス鎖およびアンチセンス鎖の両方を含有している単一のポリヌクレオチドから構成される、[1]に記載の方法;
[13]二本鎖分子が、一般式:5’−[A]−[B]−[A’]−3’を有する方法であって、式中、[A]はSEQ ID NO:7および8の中から選択される標的配列に対応する配列を含有しているセンス鎖であり、[B]は3〜23個のヌクレオチドから構成される介在一本鎖であり、かつ[A’]は[A]に相補的な配列を含有しているアンチセンス鎖である、[12]に記載の方法;
[14]二本鎖分子がRNAである、[1]に記載の方法;
[15]二本鎖分子がDNAおよびRNAの両方を含有している、[1]に記載の方法;
[16]二本鎖分子がDNAポリヌクレオチドとRNAポリヌクレオチドとのハイブリッドである、[15]に記載の方法;
[17]センス鎖ポリヌクレオチドおよびアンチセンス鎖ポリヌクレオチドが、それぞれDNAおよびRNAから構成される、[16]に記載の方法;
[18]二本鎖分子がDNAおよびRNAのキメラである、[15]に記載の方法;
[19]アンチセンス鎖の3’末端に隣接する領域、またはセンス鎖の5’末端に隣接する領域およびアンチセンス鎖の3’末端に隣接する領域の両方が、RNAから構成される、[18]に記載の方法;
[20]隣接領域が9〜13個のヌクレオチドから構成される、[19]に記載の方法;
[21]二本鎖分子が3’オーバーハングを含有している、[1]に記載の方法;
[22]二本鎖分子が、該分子に加えて、トランスフェクション増強剤および薬学的に許容可能な担体を含む組成物に含有されている、[1]に記載の方法;
[23]二本鎖分子がベクターによりコードされる、[1]に記載の方法;
[24]ベクターによりコードされる二本鎖分子が、SEQ ID NO:7(SEQ ID NO:18の455〜485位)およびSEQ ID NO:8(SEQ ID NO:18の2692〜2710位)の中から選択される標的配列に一致するmRNAにおいて作用する、[23]に記載の方法;
[25]ベクターによりコードされる二本鎖分子のセンス鎖が、SEQ ID NO:7および8の中から選択される標的配列に対応する配列を含有している、[24]に記載の方法;
[26]治療されるがんが膵臓癌である、[23]に記載の方法;
[27]膵臓癌がPDACである、[26]に記載の方法;
[28]複数種の二本鎖分子が投与される、[23]に記載の方法;
[29]ベクターによりコードされる二本鎖分子が約100ヌクレオチド未満の長さを有する、[25]に記載の方法;
[30]ベクターによりコードされる二本鎖分子が約75ヌクレオチド未満の長さを有する、[29]に記載の方法;
[31]ベクターによりコードされる二本鎖分子が約50ヌクレオチド未満の長さを有する、[30]に記載の方法;
[32]ベクターによりコードされる二本鎖分子が約25ヌクレオチド未満の長さを有する、[31]に記載の方法;
[33]ベクターによりコードされる二本鎖分子が約19〜約25ヌクレオチド長の長さを有する、[32]に記載の方法;
[34]ベクターによりコードされる二本鎖分子が、介在一本鎖により連結されたセンス鎖およびアンチセンス鎖の両方を含有している単一のポリヌクレオチドから構成される、[23]に記載の方法;
[35]ベクターによりコードされる二本鎖分子が、一般式:5’−[A]−[B]−[A’]−3’を有する方法であって、式中、[A]はSEQ ID NO:7および8の中から選択される標的配列に対応する配列を含有しているセンス鎖であり、[B]は3〜23個のヌクレオチドから構成される介在一本鎖であり、かつ[A’]は[A]に相補的な配列を含有しているアンチセンス鎖である、[34]に記載の方法;ならびに
[36]ベクターによりコードされる二本鎖分子が、該分子に加えて、トランスフェクション増強剤および薬学的に許容可能な担体を含む組成物に含有されている、[23]に記載の方法。
【0078】
本発明の方法を、以下に、より詳細に説明する。
【0079】
TTLL4遺伝子を発現している細胞の増殖は、TTLL4遺伝子に対する二本鎖分子、該分子を発現するベクター、またはそれらを含有している組成物と、細胞を接触させることにより阻害され得る。さらに、細胞をトランスフェクション剤と接触させることもできる。好適なトランスフェクション剤は当技術分野で公知である。「細胞増殖の阻害」という語句は、その細胞が、分子に曝露されていない細胞と比較して、より低い速度で増殖するか、または減少した生存能を有することを示す。細胞増殖は、当技術分野で公知の方法によって、例えば、MTT細胞増殖アッセイを使用して、測定され得る。
【0080】
細胞が本発明の二本鎖分子の標的遺伝子を過剰発現している限り、任意の種類の細胞の増殖を、本方法によって抑制することができる。例示的な細胞には、PDACを含む膵臓癌細胞が含まれる。
【0081】
従って、TTLL4に関連した疾患に罹患しているかまたはそれを発症するリスクを有する患者を、本二本鎖分子の少なくとも1つ、該分子の少なくとも1つを発現する少なくとも1つのベクター、または該分子の少なくとも1つを含有している少なくとも1つの組成物の投与によって治療することができる。例えば、膵臓癌の患者が、本方法によって治療され得る。がんの種類は、診断される腫瘍の特定の種類によって、標準的な方法によって同定され得る。好ましくは、本発明の方法によって治療される患者は、RT−PCRまたはイムノアッセイによって、患者由来の生検試料におけるTTLL4の発現を検出することにより選択される。より好ましくは、本発明の治療の前に、対象由来の生検材料を、当技術分野で公知の方法、例えば、免疫組織化学分析またはRT−PCRによって、TTLL4遺伝子の過剰発現について確認する。
【0082】
細胞増殖を阻害し、それによりがんを治療する本方法によると、複数種の二本鎖分子(またはそれを発現するベクターまたはそれを含有している組成物)を投与する場合、分子は、各々、異なる構造を有し得るが、TTLL4の同一の標的配列に一致するmRNAにおいて作用する。あるいは、複数種の二本鎖分子は、同一の遺伝子の異なる標的配列に一致するmRNAにおいて作用し得る。例えば、本方法は、TTLL4より選択される1つ、2つ、またはそれ以上の標的配列に対する指向性を有する二本鎖分子を利用してもよい。
【0083】
細胞増殖を阻害するために、本発明の二本鎖分子は、該分子と対応するmRNA転写産物との結合を達成する形態で、細胞に直接導入することができる。あるいは、上記のように、二本鎖分子をコードするDNAは、ベクターとして細胞に導入することができる。二本鎖分子およびベクターを細胞に導入するために、トランスフェクション増強剤、例えばFuGENE(Roche diagnostics)、Lipofectamine 2000(Invitrogen)、Oligo−fectamine(Invitrogen)、およびNucleofector(Wako pure Chemical)を利用することができる。
【0084】
治療は、臨床的利点、例えばTTLL4遺伝子の発現の低下、または対象におけるがんのサイズ、有病率、もしくは転移能の減少をもたらす場合に、「有効」とみなされる。治療を予防的に適用する場合、「有効」とは、治療ががんの形成を遅らせるもしくは防ぐか、またはがんの臨床症状を防ぐかもしくは緩和するという意味である。有効性(Efficaciousness)は、特定の腫瘍の種類を診断または治療するための任意の公知の方法に関連して求められる。
【0085】
本発明の二本鎖分子は、準化学量論的な量でTTLL4のmRNAを分解することが理解される。いかなる理論にも束縛されることを望まないが、本発明の二本鎖分子によって、触媒的様式で標的mRNAの分解が起こると考えられている。従って、標準的ながん治療に比べて、有意に少ない二本鎖分子が、治療効果を発揮するためにがん部位またはその近くに送達される必要がある。
【0086】
当業者は、例えば対象の体重、年齢、性別、疾患の種類、症状、および他の状態;投与経路;ならびに投与が局所的または全身的のいずれであるかなどの因子を考慮して、所定の対象に投与されるべき本発明の二本鎖分子の有効量を容易に求めることができる。概して、本発明の二本鎖分子の有効量は、がん部位またはその近くにおいて約1ナノモル(nM)〜約100nM、好ましくは約2nM〜約50nM、より好ましくは約2.5nM〜約10nMである細胞内濃度である。より多くのまたはより少ない量の二本鎖分子を投与することができることが意図される。特定の状況において必要とされる正確な用量は、当業者により容易にかつルーチン的に決定されうる。
【0087】
本方法は、少なくとも1つのTTLL4を発現しているがん、例えば、膵臓癌、特にPDACの成長または転移を阻害するのに使用することができる。特に、膵臓癌の治療には、TTLL4の標的配列(すなわち、SEQ ID NO:7または8)を含有する二本鎖分子が特に好ましい。
【0088】
がんを治療するために、本発明の二本鎖分子は、該二本鎖分子とは異なる薬剤と併用して対象に投与することもできる。あるいは、本発明の二本鎖分子は、がんを治療するために設計された別の治療法と併用して対象に投与することができる。例えば、本発明の二本鎖分子は、がんを治療するまたはがん転移を予防するのに現在利用されている治療法(例えば放射線療法、外科的手術、および化学療法剤、例えばシスプラチン、カルボプラチン、シクロホスファミド、5−フルオロウラシル、アドリアマイシン、ダウノルビシン、またはタモキシフェンを用いた治療)と併用して投与することができる。
【0089】
本方法において、二本鎖分子は、送達試薬と共にネイキッド二本鎖分子として、または該二本鎖分子を発現する組換えプラスミドもしくはウイルスベクターとしてのいずれかで対象に投与することができる。
【0090】
本発明の二本鎖分子と共に投与するのに好適な送達試薬としては、Mirus Transit TKO脂溶性試薬、リポフェクチン、リポフェクタミン、セルフェクチン、またはポリカチオン(例えばポリリシン)、またはリポソームが挙げられる。好ましい送達試薬はリポソームである。
【0091】
リポソームは、特定の組織、例えば膵臓組織への二本鎖分子の送達に役立ち、二本鎖分子の血液半減期も増大させ得る。本発明における使用に好適なリポソームは、標準的な小胞形成脂質から形成され、概してこれには、中性または負に帯電したリン脂質およびステロール、例えばコレステロールが含まれる。一般的には、所望のリポソームサイズおよび血流中におけるリポソームの半減期などの因子を考慮して、脂質の選択が導かれる。リポソームを調製するのに、例えばSzoka et al., Ann Rev Biophys Bioeng 1980, 9: 467、ならびに米国特許第4,235,871号、同第4,501,728号、同第4,837,028号、および同第5,019,369号(その開示全体が参照により本明細書に引用される)で記載されるような様々な方法が知られている。
【0092】
好ましくは、本発明の二本鎖分子を封入するリポソームは、リポソームをがん部位に送達することができるリガンド分子を含む。腫瘍または血管内皮細胞に広まった受容体に結合するリガンド、例えば腫瘍抗原または内皮細胞表面抗原と結合するモノクローナル抗体が好ましい。
【0093】
特に好ましくは、本発明の二本鎖分子を封入するリポソームは、例えばその構造の表面に結合したオプソニン化阻害部分を有することによって、単核マクロファージおよび網内系によるクリアランスを避けるように改変される。一態様では、本発明のリポソームは、オプソニン化阻害部分およびリガンドの両方を含み得る。
【0094】
本発明のリポソームを調製するのに用いるオプソニン化阻害部分は典型的に、リポソーム膜と結合する巨大な親水性ポリマーである。本明細書で使用される場合、オプソニン化阻害部分は、例えば脂質−可溶性アンカーの膜自体へのインターカレーションによって、または膜脂質の活性基への直接結合によって、膜と化学的にまたは物理的に接着する場合に、リポソーム膜と「結合」する。これらのオプソニン化阻害親水性ポリマーは、例えば米国特許第4,920,016号(その開示全体が参照により本明細書に組み入れられる)に記載されるように、マクロファージ−単球系(「MMS」)および網内系(「RES」)によるリポソームの取り込みを有意に低減する保護表面層を形成する。従って、オプソニン化阻害部分を用いて改変されたリポソームは、非改変リポソームよりも非常に長く循環中に留まる。この理由から、そのようなリポソームは「ステルス」リポソームと呼ばれることもある。
【0095】
ステルスリポソームは、多孔性または「漏出性(leaky)」微小血管系によって送り込まれる組織中で集積することが知られている。従って、そのような微小血管系の欠陥を特徴とする標的組織、例えば固形腫瘍は、効率的にこれらのリポソームを集積する。Gabizon et al., Proc Natl Acad Sci USA 1988, 18: 6949-53を参照されたい。さらに、RESによる取り込みの減少が、肝臓および脾臓における有意な集積を防ぐことによって、ステルスリポソームの毒性を低下させる。従って、オプソニン化阻害部分を用いて改変された本発明のリポソームは、本発明の二本鎖分子を腫瘍細胞に送達することができる。
【0096】
リポソームを改変するのに好適なオプソニン化阻害部分は、好ましくは、分子量が約500ダルトン〜約40,000ダルトン、より好ましくは約2,000ダルトン〜約20,000ダルトンの水溶性ポリマーであり得る。そのようなポリマーとしては、ポリエチレングリコール(PEG)またはポリプロピレングリコール(PPG)誘導体;例えばメトキシPEGまたはPPG、およびPEGまたはPPGステアレート;合成ポリマー、例えばポリアクリルアミドまたはポリN−ビニルピロリドン;直鎖、分岐、または樹状のポリアミドアミン;ポリアクリル酸;多価アルコール、例えばカルボン酸基またはアミノ基が化学結合したポリビニルアルコールおよびポリキシリトール、ならびにガングリオシド、例えばガングリオシドGMが挙げられる。PEG、メトキシPEG、もしくはメトキシPPGのコポリマー、またはそれらの誘導体も好適である。さらに、オプソニン化阻害ポリマーは、PEGと、ポリアミノ酸、多糖、ポリアミドアミン、ポリエチレンアミン、またはポリヌクレオチドのいずれかとのブロックコポリマーであり得る。オプソニン化阻害ポリマーは、アミノ酸またはカルボン酸を含有する天然多糖例えばガラクツロン酸、グルクロン酸、マンヌロン酸、ヒアルロン酸、ペクチン酸、ノイラミン酸、アルギン酸、カラゲナン;アミノ化多糖またはオリゴ糖(直鎖状または分岐状);または、例えばカルボン酸基の結果として生じた連結を有するカルボン酸の誘導体と反応させた、カルボキシル化多糖またはカルボキシル化オリゴ糖でもあり得る。
【0097】
好ましくは、オプソニン化阻害部分はPEG、PPG、またはその誘導体である。PEGまたはPEG誘導体を用いて改変したリポソームは「PEG化リポソーム」と呼ばれることもある。
【0098】
オプソニン化阻害部分は、多くの公知の技術のいずれか1つによってリポソーム膜と結合することができる。例えば、PEGのN−ヒドロキシスクシンイミドエステルは、ホスファチジル−エタノールアミン脂質可溶性アンカーと結合し、続いて膜と結合することができる。同様に、デキストランポリマーは、60℃でNa(CN)BHおよび溶媒混合物、例えば30:12の比のテトラヒドロフランおよび水を用いて、還元アミノ化によってステアリルアミン脂質可溶性アンカーで誘導体化することができる。
【0099】
本発明の二本鎖分子を発現するベクターが上記で検討されている。少なくとも1つの本発明の二本鎖分子を発現するそのようなベクターもまた、直接、またはMirus Transit LT1脂溶性試薬、リポフェクチン、リポフェクタミン、セルフェクチン、ポリカチオン(例えばポリリシン)、またはリポソームを含む好適な送達試薬と共に、投与することができる。本発明の二本鎖分子を発現する組換えウイルスベクターを患者のがん領域に送達する方法は当技術分野の技術範囲内である。
【0100】
本発明の二本鎖分子は、二本鎖分子をがん部位に送達するのに好適な任意の手段によって、対象に投与することができる。例えば、二本鎖分子は、遺伝子銃、電気穿孔法、または他の好適な非経口投与経路もしくは腸内投与経路によって投与することができる。
【0101】
好適な腸内投与経路としては、経口、直腸、または鼻腔内送達が挙げられる。
【0102】
好適な非経口投与経路としては、血管内投与(例えば静脈ボーラス注射、静脈注入、動脈内ボーラス注射、動脈内注入、および血管系へのカテーテル点滴注入);周囲組織および組織内への注射(例えば腫瘍周囲および腫瘍内注射);皮下注入を含む皮下注射または皮下沈着(例えば浸透圧ポンプによって);例えばカテーテルもしくは他の留置装置(例えば、多孔性、非孔性、またはゼラチン様の材料を含む、坐剤またはインプラント)による、がん部位の領域またはその近くの領域への直接適用;ならびに吸入が挙げられる。二本鎖分子またはベクターの注射または注入は、がんの部位でまたはその近くで行われることが好ましい。
【0103】
本発明の二本鎖分子は、単回投与または複数回の投与で投与することができる。本発明の二本鎖分子の投与が注入によるものである場合、注入は、単回の持続投与で行うか、または複数回の注入によって送達することができる。薬剤の注射は、がん部位の組織、またはがん部位の近くの組織に直接行うことが好ましい。がん部位の組織にまたはがん部位の近くの組織に薬剤を複数回注射することが特に好ましい。
【0104】
当業者は容易に、本発明の二本鎖分子を所定の対象に投与するのに適当な投与計画を決定することもできる。例えば、二本鎖分子は、例えばがん部位でのまたはその近くでの単回注射または沈着として、対象に1回で投与することができる。あるいは、二本鎖分子は、約3日〜約28日、より好ましくは約7日〜約10日の間、1日1回または2回、対象に投与することができる。好ましい投与計画では、二本鎖分子は1日1回7日間、がん部位にまたはその近くに注射される。投与計画に複数回の投与が含まれる場合、対象に投与される二本鎖分子の有効量は、投与計画全体を通して投与される二本鎖分子の総量を含むことが理解される。
【0105】
本発明の二本鎖分子を含有している組成物:
上記に加えて、本発明は、本二本鎖分子または該分子をコードするベクターのうちの少なくとも1つを含む薬学的組成物も提供する。具体的には、本発明は以下の[1]〜[36]の組成物を提供する:
[1]TTLL4の発現および細胞増殖を阻害する少なくとも1つの単離された二本鎖分子を含む、がん細胞の増殖を阻害してがんを治療するための組成物であって、該がん細胞およびがんがTTLL4遺伝子を発現し、該分子が、互いにハイブリダイズして二本鎖分子を形成するセンス鎖とこれに相補的なアンチセンス鎖とから構成される、組成物;
[2]二本鎖分子が、SEQ ID NO:7(SEQ ID NO:18の466〜485位)およびSEQ ID NO:8(SEQ ID NO:18の2692〜2710位)の中から選択される標的配列に一致するmRNAにおいて作用する、[1]に記載の組成物;
[3]二本鎖分子、センス鎖が、SEQ ID NO:7および8の中から選択される標的配列に対応する配列を含有している、[2]に記載の組成物;
[4]治療されるがんが膵臓癌である、[1]に記載の組成物;
[5]膵臓癌がPDACである、[4]に記載の組成物;
[6]複数種の二本鎖分子を含有している、[1]に記載の組成物;
[7]二本鎖分子が約100ヌクレオチド未満の長さを有する、[3]に記載の組成物;
[8]二本鎖分子が約75ヌクレオチド未満の長さを有する、[7]に記載の組成物;
[9]二本鎖分子が約50ヌクレオチド未満の長さを有する、[8]に記載の組成物;
[10]二本鎖分子が約25ヌクレオチド未満の長さを有する、[9]に記載の組成物;
[11]二本鎖分子が約19〜約25ヌクレオチドの長さを有する、[10]に記載の組成物;
[12]二本鎖分子が、介在一本鎖により連結されたセンス鎖およびアンチセンス鎖を含有している単一のポリヌクレオチドから構成される、[1]に記載の組成物;
[13]二本鎖分子が、一般式:5’−[A]−[B]−[A’]−3’を有する組成物であって、式中、[A]はSEQ ID NO:7および8の中から選択される標的配列に対応する配列を含有しているセンス鎖配列であり、[B]は3〜23個のヌクレオチドからなる介在一本鎖であり、かつ[A’]は[A]に相補的な配列を含有しているアンチセンス鎖である、[12]に記載の組成物;
[14]二本鎖分子がRNAである、[1]に記載の組成物;
[15]二本鎖分子がDNAおよび/またはRNAである、[1]に記載の組成物;
[16]二本鎖分子がDNAポリヌクレオチドとRNAポリヌクレオチドとのハイブリッドである、[15]に記載の組成物;
[17]センス鎖ポリヌクレオチドおよびアンチセンス鎖ポリヌクレオチドが、それぞれDNAおよびRNAから構成される、[16]に記載の組成物;
[18]二本鎖分子がDNAおよびRNAのキメラである、[15]に記載の組成物;
[19]アンチセンス鎖の3’末端に隣接する領域、またはセンス鎖の5’末端に隣接する領域およびアンチセンス鎖の3’末端に隣接する領域の両方が、RNAから構成される、[18]に記載の組成物;
[20]隣接領域が9〜13個のヌクレオチドから構成される、[19]に記載の組成物;
[21]二本鎖分子が3’オーバーハングを含有している、[1]に記載の組成物;
[22]トランスフェクション増強剤および薬学的に許容可能な担体を含む、[1]に記載の組成物;
[23]二本鎖分子がベクターによりコードされ、かつ組成物に含有されている、[1]に記載の組成物;
[24]ベクターによりコードされる二本鎖分子が、SEQ ID NO:7(SEQ ID NO:18の466〜485位)およびSEQ ID NO:8(SEQ ID NO:18の2692〜2710位)の中から選択される標的配列に一致するmRNAにおいて作用する、[23]に記載の組成物;
[25]ベクターによりコードされる二本鎖分子のセンス鎖が、SEQ ID NO:7および8の中から選択される標的配列に対応する配列を含有している、[24]に記載の組成物;
[26]治療されるがんが膵臓癌である、[23]に記載の組成物;
[27]膵臓癌がPDACである、[26]に記載の組成物;
[28]複数種の二本鎖分子が投与される、[23]に記載の組成物;
[29]ベクターによりコードされる二本鎖分子が約100ヌクレオチド未満の長さを有する、[25]に記載の組成物;
[30]ベクターによりコードされる二本鎖分子が約75ヌクレオチド未満の長さを有する、[29]に記載の組成物;
[31]ベクターによりコードされる二本鎖分子が約50ヌクレオチド未満の長さを有する、[30]に記載の組成物;
[32]ベクターによりコードされる二本鎖分子が約25ヌクレオチド未満の長さを有する、[31]に記載の組成物;
[33]ベクターによりコードされる二本鎖分子が約19〜約25ヌクレオチド長の長さを有する、[32]に記載の組成物;
[34]ベクターによりコードされる二本鎖分子が、介在一本鎖により連結されたセンス鎖およびアンチセンス鎖の両方を含有している単一のポリヌクレオチドから構成される、[23]に記載の組成物;
[35]二本鎖分子が、一般式:5’−[A]−[B]−[A’]−3’を有する組成物であって、式中、[A]はSEQ ID NO:7および8の中から選択される標的配列に対応する配列を含有しているセンス鎖であり、[B]は3〜23個のヌクレオチドから構成される介在一本鎖であり、かつ[A’]は[A]に相補的な配列を含有しているアンチセンス鎖である、[23]に記載の組成物;ならびに
[36]トランスフェクション増強剤および薬学的に許容可能な担体を含む、[23]に記載の組成物。
【0106】
本発明の好適な組成物は以下でより詳細に説明される。
【0107】
本発明の二本鎖分子は、好ましくは、当技術分野で公知の技術に従って、対象に投与する前に薬学的組成物として調合することができる。本発明の薬学的組成物は、少なくとも無菌でありかつパイロジェンを含まないことを特徴とする。本明細書で使用される場合、「薬学的製剤」は、ヒトおよび獣医学的使用のための製剤を含む。本発明の薬学的組成物を調製する方法は、例えばRemington's Pharmaceutical Science, 17th ed., Mack Publishing Company, Easton, Pa.(1985)(その開示全体が参照により本明細書に組み入れられる)に記載のように当技術分野の技術範囲内である。
【0108】
本発明の薬学的製剤は、生理学的に許容可能な担体媒体と混合して、本発明の二本鎖分子もしくはこれをコードするベクターの少なくとも1つ(例えば0.1重量%〜90重量%)、または該分子の生理学的に許容可能な塩を含有する。好ましい生理学的に許容可能な担体媒体は、水、緩衝水、通常の生理食塩水、0.4%生理食塩水、0.3%グリシン、ヒアルロン酸等である。
【0109】
本発明によれば、組成物は、複数種の二本鎖分子を含有することができ、それらの分子のそれぞれが、TTLL4の同じ標的配列または異なる標的配列に対する指向性を有し得る。例えば、組成物は、TTLL4に対する指向性を有する二本鎖分子を含有することができる。あるいは、例えば組成物は、TTLL4の1つ、2つ、またはそれ以上の標的配列に対する指向性を有する二本鎖分子を含有することができる。
【0110】
さらに本発明の組成物は、1つまたは複数の二本鎖分子をコードするベクターを含有することができる。例えばベクターは、1つ、2つ、または幾つかの種類の本発明の二本鎖分子をコードすることができる。あるいは、本発明の組成物は、複数種類のベクターを含有することができ、それらのベクターのそれぞれは異なる二本鎖分子をコードする。
【0111】
さらに、本二本鎖分子は、本組成物中にリポソームとして含有され得る。リポソームの詳細に関しては、「本発明の二本鎖分子を使用して、がん細胞の増殖を阻害するかまたは低下させ、がんを治療する方法」の項を参照されたい。
【0112】
本発明の薬学的組成物は、従来の薬学的賦形剤および/または添加剤も含み得る。好適な薬学的賦形剤としては、安定剤、抗酸化剤、浸透圧調整剤、緩衝剤、およびpH調整剤が挙げられる。好適な添加剤としては、生理学的に生体適合性がある緩衝剤(例えば塩酸トロメタミン)、キレート剤(chelant)の添加物(例えばDTPAもしくはDTPA−ビスアミド)もしくはカルシウムキレート錯体(例えばカルシウムDTPA、CaNaDTPA−ビスアミド)、または任意でカルシウム塩もしくはナトリウム塩の添加物(例えば塩化カルシウム、アスコルビン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、もしくは乳酸カルシウム)が挙げられる。本発明の薬学的組成物は、液体形態での使用のために包装されていても、または凍結乾燥されていてもよい。
【0113】
固体組成物には、従来の非毒性固体担体、例えば医薬品グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、タルカム、セルロース、グルコース、スクロース、炭酸マグネシウム等を使用することができる。
【0114】
例えば、経口投与用の固体薬学的組成物は、上記で列挙された担体および賦形剤のいずれかと、10%〜95%、好ましくは25%〜75%の1つまたは複数の本発明の二本鎖分子とを含み得る。エアロゾル(吸入)投与用の薬学的組成物は、上記のようにリポソームに封入された0.01重量%〜20重量%、好ましくは1重量%〜10重量%の1つまたは複数の本発明の二本鎖分子と、噴霧剤とを含み得る。所望に応じて、担体、例えば鼻腔内送達ではレシチンが含まれ得る。
【0115】
上記に加えて、本組成物は、本二本鎖分子のインビボ機能を阻害しない限り、他の薬学的に活性のある成分を含有することができる。例えば組成物は、がんを治療するのに従来使用される化学療法剤を含有することができる。
【0116】
別の態様において、本発明はまた、TTLL4の発現を特徴とする膵臓癌の治療のための薬学的組成物の製造における、本発明の二本鎖核酸分子の使用を提供する。例えば、本発明は、TTLL4を発現している膵臓癌の治療のための薬学的組成物の製造のための、細胞におけるTTLL4遺伝子の発現を阻害する二本鎖核酸分子の使用に関し、該分子は、互いにハイブリダイズして二本鎖核酸分子を形成するセンス鎖とこれに相補的なアンチセンス鎖とを含み、かつSEQ ID NO:7および8の中から選択される配列を標的とする。
【0117】
あるいは、本発明は、TTLL4遺伝子を過剰発現している細胞におけるTTLL4の発現を阻害する二本鎖核酸分子と共に薬学的または生理学的に許容可能な担体を調合する工程を含む、TTLL4の発現を特徴とする膵臓癌の治療のための薬学的組成物を製造するための方法またはプロセスをさらに提供し、該分子は、活性成分として、互いにハイブリダイズして二本鎖核酸分子を形成するセンス鎖とこれに相補的なアンチセンス鎖とを含み、かつSEQ ID NO:7および8の中から選択される配列を標的とする。
【0118】
別の態様において、本発明はまた、活性成分を薬学的または生理学的に許容可能な担体と混和する工程を含む、TTLL4の発現を特徴とする膵臓癌の治療のための薬学的組成物を製造するための方法またはプロセスを提供し、該活性成分は、TTLL4遺伝子を過剰発現している細胞におけるTTLL4の発現を阻害する二本鎖核酸分子であり、該分子は、互いにハイブリダイズして二本鎖核酸分子を形成するセンス鎖とこれに相補的なアンチセンス鎖とを含み、かつSEQ ID NO:7および8の中から選択される配列を標的とする。
【0119】
膵臓癌を診断するための方法:
TTLL4の発現は、膵臓癌細胞において特異的に上昇することが見出された(図1)。従って、本明細書において同定される遺伝子ならびにその転写産物および翻訳産物はがんのマーカーとして診断に利用可能であり、細胞試料中のTTLL4の発現を測定することによって、対象由来の試料と正常試料との間でTTLL4の発現レベルを比較することにより、がんを診断または検出することができる。具体的には、本発明は、対象におけるTTLL4の発現レベルを決定することによってがんを診断または検出するための方法を提供する。本方法によって診断することができるがんは、好ましくは膵臓癌、より好ましくはPDACでもよい。
【0120】
あるいは、本発明は、対象由来の膵臓組織試料におけるがん細胞を検出または同定するための方法を提供する。前記方法は、対象由来の生物学的試料におけるTTLL4遺伝子の発現レベルを決定する工程を含み、前記遺伝子の正常対照レベルと比較した前記発現レベルの増加が、該組織におけるがん細胞の存在または疑いを示す。
【0121】
本発明によれば、対象の状態を調べるための中間結果を提供することができる。医師、看護師、またはその他の実務者が、対象が疾患に罹患していることを診断するのを補助するために、このような中間結果は、付加的な情報と組み合わされてもよい。または、本発明は、対象由来の組織においてがん性細胞を検出するのに用いられてもよく、対象が疾患に罹患していることを診断するのに有用な情報を医師に提供するのに用いられてもよい。
【0122】
例えば、本発明によれば、対象から得られた組織におけるがん細胞の存在に関して疑いがある場合、組織病理、公知の血中腫瘍マーカーのレベル、および対象の臨床経過などを含む、疾患の異なる局面に加えて、TTLL4遺伝子の発現レベルを考慮することによって、臨床判断に達することができる。例えば、いくつかの周知の血中膵臓癌診断マーカーは、BFP、CA19−9、CA72−4、CA125、CA130、CEA、DUPAN−2、IAP、KMO−1、NCC−ST−439、NSE、sICAM−1、SLX、Span−1、STN、TPA、YH−206、エラスターゼIである。すなわち、本発明のこの特定の態様において、遺伝子発現分析の結果は、対象の疾患状態のさらなる診断のための中間結果として役立つ。
【0123】
具体的には、本発明は、以下の[1]〜[10]の方法を提供する。
[1]対象由来の生物学的試料におけるTTLL4の発現レベルを決定する工程を含む、対象における膵臓癌を検出または診断する方法であって、TTLL4の正常対照レベルと比較した前記レベルの増加が、前記対象が膵臓癌に罹患しているかまたは膵臓癌を発症するリスクを有していることを示す、方法;
[2]前記増加が、正常対照レベルよりも少なくとも10%大きい、[1]に記載の方法;
[3]発現レベルが、以下の中から選択される方法によって検出される、[1]に記載の方法:
(a)TTLL4の配列を含むmRNAを検出する方法、
(b)TTLL4のアミノ酸配列を含むタンパク質を検出する方法、および
(c)TTLL4のアミノ酸配列を含むタンパク質の生物学的活性を検出する方法;
[4]膵臓癌がPDACである、[1]に記載の方法;
[5]発現レベルが、遺伝子の遺伝子転写物に対するプローブのハイブリダイゼーションを検出することによって決定される、[3]に記載の方法;
[6]発現レベルが、遺伝子によりコードされるタンパク質に対する抗体の結合を、遺伝子の発現レベルとして検出することによって決定される、[3]に記載の方法;
[7]生物学的試料が、生検試料、痰、胸水、または血液を含む、[1]に記載の方法;
[8]対象由来の生物学的試料が上皮細胞を含む、[1]に記載の方法;
[9]対象由来の生物学的試料ががん細胞を含む、[1]に記載の方法;
[10]対象由来の生物学的試料ががん性上皮細胞を含む、[1]に記載の方法。
【0124】
がんを診断する方法を以下でさらに詳細に説明する。
【0125】
本方法によって診断される対象は、好ましくは、哺乳動物である。例示的な哺乳動物には、例えば、ヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、およびウシが含まれるが、これらに限定されない。
【0126】
診断を実施するためには、診断すべき対象から生物学的試料を収集することが好ましい。TTLL4の目的の転写産物または翻訳産物を含む限り、任意の生物学的材料を、決定のための生物学的試料として使用することができる。生物学的試料には、がんを診断することが望まれるかまたはがんに罹患していることが疑われる体組織、ならびに生検試料、血液、痰、胸水および尿などの体液が含まれるが、これらに限定されない。好ましくは、生物学的試料は、上皮細胞、より好ましくは、がん性上皮細胞、またはがん性であることが疑われる組織に由来する上皮細胞を含む細胞集団を含有している。さらに、必要であれば、得られた体組織および体液から細胞を精製し、次いで、それを生物学的試料として使用してもよい。
【0127】
本発明によると、対象由来の生物学的試料におけるTTLL4の発現レベルが決定される。当技術分野で公知の方法を使用して、転写(核酸)産物レベルで、発現レベルを決定することができる。例えば、TTLL4のmRNAを、ハイブリダイゼーション法(例えば、ノーザンハイブリダイゼーション)によってプローブを使用して定量することができる。検出は、チップ上またはアレイ上で実施されてもよい。アレイの使用は、TTLL4を含む複数の遺伝子(例えば、様々ながん特異的遺伝子)の発現レベルを検出するために好ましい。当業者は、TTLL4の配列情報(SEQ ID NO:18、GenBankアクセッション番号:NM_014640)を利用して、そのようなプローブを調製することができる。例えば、TTLL4のcDNAをプローブとして使用することができる。必要であれば、色素、蛍光、および同位体などの好適な標識によりプローブを標識し、ハイブリダイズした標識の強度として、遺伝子の発現レベルを検出してもよい。
【0128】
さらに、増幅に基づく検出法(例えば、RT−PCR)により、プライマーを使用して、TTLL4の転写産物を定量することもできる。そのようなプライマーも、利用可能な遺伝子の配列情報に基づき調製され得る。例えば、実施例で使用されるプライマー(SEQ ID NO:1、2、5および6)が、RT−PCRまたはノーザンブロットによる検出のために利用され得るが、本発明はそれらに限定されない。
【0129】
特に、本発明の方法のために使用されるプローブまたはプライマーは、ストリンジェントな条件、中程度にストリンジェントな条件、または低ストリンジェントな条件の下で、TTLL4のmRNAとハイブリダイズする。本明細書で使用される場合、「ストリンジェントな(ハイブリダイゼーション)条件」という語句は、プローブまたはプライマーが、その標的配列とハイブリダイズするが、他の配列とはハイブリダイズしない条件を指す。ストリンジェントな条件は、配列依存的であり、異なる状況下では異なる。より長い配列の特異的なハイブリダイゼーションは、より短い配列よりも高い温度で観察される。一般的に、ストリンジェントな条件の温度は、規定のイオン強度およびpHでの特定の配列の熱融解点(Tm)よりも約5℃低く選択される。Tmとは、平衡時に、標的配列に相補的なプローブの50%が標的配列とハイブリダイズする(規定のイオン強度、pH、および核酸濃度における)温度である。概して標的配列が過剰に存在するので、Tmでは、平衡時に、プローブの50%が占有される。典型的には、ストリンジェントな条件は、塩濃度が、pH7.0〜8.3で、約1.0M未満のナトリウムイオン、典型的には、約0.01〜1.0Mのナトリウムイオン(またはその他の塩)であり、温度が、短いプローブまたはプライマー(例えば、10〜50ヌクレオチド)の場合には少なくとも約30℃であり、より長いプローブまたはプライマーの場合には少なくとも約60℃であるものである。ホルムアミドなどの脱安定化剤の添加によっても、ストリンジェントな条件を達成することができる。
【0130】
あるいは、本発明の診断のために、翻訳産物を検出することもできる。例えば、TTLL4タンパク質の量を決定することができる。翻訳産物として該タンパク質の量を決定する方法には、該タンパク質を特異的に認識する抗体を使用するイムノアッセイ法が含まれる。抗体はモノクローナルであってもよいしまたはポリクローナルであってもよい。さらに、断片がTTLL4タンパク質との結合能を保持している限り、抗体の任意の断片または改変(例えば、キメラ抗体、scFv、Fab、F(ab’)2、Fv等)を、検出のために使用することができる。タンパク質の検出のためのこれらの種類の抗体を調製する方法は、当技術分野で周知であり、本発明においては、そのような抗体およびそれらの等価物を調製するために、任意の方法を利用することができる。
【0131】
翻訳産物に基づきTTLL4遺伝子の発現レベルを検出する別の方法として、TTLL4タンパク質に対する抗体を使用した免疫組織化学分析を介して染色の強度を観察することができる。すなわち、強い染色の観察は、増加したタンパク質の存在を示し、同時に、TTLL4遺伝子の高い発現レベルを示す。
【0132】
あるいは、翻訳産物は、その生物学的活性に基づいて検出されてもよい。具体的には、TTLL4タンパク質は、本明細書においてがん細胞の増殖に関与することが証明された。従って、生物学的試料に存在するTTLL4タンパク質の指標として、がん細胞増殖を促進するTTLL4タンパク質の能力を使用することができる。あるいは、TTLL4タンパク質の生物学的活性として、ポリグルタミル化活性を検出してもよい。例えば、試料中のポリグルタミル化活性は、該試料を、ポリグルタミル化される基質および補因子であるグルタミン酸とインキュベートすることによって検出することができる。基質の好ましい例には、グルタミン酸リッチドメインを含有するポリペプチド、例えば、SEQ ID NO:23に相当するポリペプチドが含まれるが、これに限定されない。より好ましくは、基質は、PELP1ポリペプチドまたはその機能的等価物でもよい。インキュベーション後、TTLL4によりポリグルタミル化された基質は、抗ポリグルタミル化抗体によって検出することができる。
【0133】
さらに、診断の正確性を改善するために、TTLL4遺伝子の発現レベルに加えて、他のがん関連遺伝子、例えば、膵臓癌において異なって発現されることが公知の遺伝子の発現レベルも決定することができる。
【0134】
生物学的試料におけるTTLL4遺伝子を含むがんマーカー遺伝子の発現レベルは、対応するがんマーカー遺伝子の対照レベルから、例えば、10%、25%、もしくは50%増加している場合;または1.1倍超、1.5倍超、2.0倍超、5.0倍超、10.0倍超、もしくはそれ以上に増加している場合、増加していると見なされ得る。
【0135】
疾患状態(がん性であるか非がん性であるか)が既知である対象から以前に収集され保管されていた試料を使用することによって、試験生物学的試料と同時に対照レベルを決定することができる。あるいは、疾患状態が既知である対象由来の試料において以前に決定されたTTLL4遺伝子の発現レベルを分析することによって得られた結果に基づき、統計的方法によって対照レベルを決定してもよい。さらに、対照レベルは、以前に試験された細胞からの発現パターンのデータベースであってもよい。さらに、本発明の一局面によると、複数の参照試料から決定された複数の対照レベルと、生物学的試料におけるTTLL4遺伝子の発現レベルを比較してもよい。患者由来の生物学的試料のものと類似した組織型に由来する参照試料から決定された対照レベルを使用することが好ましい。さらに、疾患状態が既知である集団におけるTTLL4遺伝子の発現レベルの標準値を使用することが好ましい。標準値は、当技術分野で公知の任意の方法によって入手され得る。例えば、平均値±2S.D.または平均値±3S.D.の範囲を、標準値として使用することができる。
【0136】
本発明との関連において、がん性でないことが既知の生物学的試料から決定された対照レベルは、「正常対照レベル」と呼ばれる。他方、対照レベルががん性生物学的試料から決定される場合、それは「がん性対照レベル」と呼ばれる。
【0137】
TTLL4遺伝子の発現レベルが正常対照レベルと比較して増加しているか、またはがん性対照レベルと類似している場合、対象は、がんに罹患しているかまたはがんを発症するリスクを有すると診断され得る。さらに、複数のがん関連遺伝子の発現レベルが比較される場合、試料とがん性である参照との間の遺伝子発現パターンの類似性は、対象が、がんに罹患しているかまたはがんを発症するリスクを有することを示す。
【0138】
試験生物学的試料の発現レベルと対照レベルとの間の差は、細胞のがん性状態または非がん性状態によって発現レベルが異ならないことが既知の対照核酸、例えば、ハウスキーピング遺伝子の発現レベルに対して標準化され得る。例示的な対照遺伝子には、β−アクチン、グリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ、およびリボソームタンパク質P1が含まれるが、これらに限定されない。
【0139】
がんを診断するためのキット:
本発明は、がんを診断するためのキットを提供する。好ましくは、がんは膵臓癌、より好ましくはPDACである。具体的には、キットは、以下の群から選択され得る、対象由来の生物学的試料におけるTTLL4遺伝子の発現を検出するための試薬を少なくとも1つ含む:
(a)TTLL4遺伝子のmRNAを検出するための試薬;
(b)TTLL4タンパク質を検出するための試薬;および
(c)TTLL4タンパク質の生物学的活性を検出するための試薬。
【0140】
TTLL4遺伝子のmRNAを検出するための好適な試薬には、TTLL4のmRNAの一部に相補的な配列を有するオリゴヌクレオチドなどの、TTLL4のmRNAに特異的に結合するかまたはTTLL4のmRNAを特異的に同定する核酸が含まれる。これらの種類のオリゴヌクレオチドの例は、TTLL4のmRNAに特異的なプライマーおよびプローブである。当技術分野で周知の方法に基づき、これらの種類のオリゴヌクレオチドを調製することができる。必要であれば、TTLL4のmRNAを検出するための試薬を、固体マトリックス上に固定化してもよい。さらに、TTLL4のmRNAを検出するための複数の試薬が、キットに含まれていてもよい。
【0141】
他方、TTLL4タンパク質を検出するための好適な試薬には、TTLL4タンパク質に対する抗体が含まれる。抗体はモノクローナルであってもよいしまたはポリクローナルであってもよい。さらに、断片がTTLL4タンパク質との結合能を保持している限り、抗体の任意の断片または改変(例えば、キメラ抗体、scFv、Fab、F(ab’)2、Fv等)を、試薬として使用することができる。タンパク質の検出のためのこれらの種類の抗体を調製する方法は、当技術分野で周知であり、本発明においては、そのような抗体およびそれらの等価物を調製するために、任意の方法を利用することができる。さらに、直接結合または間接標識技術を介して、シグナル生成分子によって抗体を標識してもよい。標識、および抗体を標識して抗体とその標的との結合を検出する方法は、当技術分野で周知であり、任意の標識および方法を本発明のために利用することができる。さらに、TTLL4タンパク質を検出するための複数の試薬が、キットに含まれていてもよい。
【0142】
さらに、生物学的活性は、例えば、生物学的試料中に発現されたTTLL4タンパク質による細胞増殖活性を測定することによって決定することができる。例えば、細胞を、対象由来の生物学的試料の存在下で培養し、次いで、増殖速度を検出するか、または細胞周期もしくはコロニー形成能を測定することによって、生物学的試料の細胞増殖活性を決定することができる。必要であれば、TTLL4のmRNAを検出するため試薬を固体マトリックス上に固定化してもよい。さらに、TTLL4タンパク質の生物学的活性を検出するための複数の試薬がキットに含まれてもよい。例えば、生物学的活性は、ポリグルタミル化活性を測定することによって決定されてもよい。従って、生物学的活性を検出するための試薬は、ポリグルタミル化される基質、補因子であるグルタミン酸、および抗ポリグルタミル化抗体などのポリグルタミル化を検出するための試薬を含んでもよい。基質の例には、グルタミン酸リッチドメインを含有するポリペプチド、例えば、SEQ ID NO:23に相当するポリペプチドが含まれるが、これに限定されない。より好ましくは、基質は、PELP1ポリペプチドまたはその機能的等価物でもよい。
【0143】
キットは、前記試薬を複数含有していてもよい。さらに、キットは、TTLL4遺伝子に対するプローブまたはTTLL4タンパク質に対する抗体を結合させるための固体マトリックスおよび試薬、細胞を培養するための培地および容器、陽性および陰性の対照試薬、ならびにTTLL4タンパク質に対する抗体を検出するための二次抗体を含んでいてもよい。例えば、膵臓癌に罹患しているかまたは罹患していない対象から入手された組織試料が、有用な対照試薬として役立ち得る。本発明のキットは、緩衝液、希釈剤、フィルター、針、注射器、および使用のための説明を含む添付文書(例えば、文書、テープ、CD−ROM等)を含む、商業的見地および使用者の見地から望ましいその他の材料をさらに含んでいてもよい。これらの試薬等は、ラベルを有する容器に含まれ得る。好適な容器には、ボトル、バイアル、および試験管が含まれる。容器は、ガラス、またはプラスチックなどの多様な材料から形成されていてよい。
【0144】
本発明の一態様として、試薬がTTLL4のmRNAに対するプローブである場合、少なくとも1つの検出部位が形成されるよう、該試薬を多孔質ストリップなどの固体マトリックスの上に固定化することができる。多孔質ストリップの測定領域または検出領域は、核酸(プローブ)を各々が含有している複数の部位を含んでいてもよい。テストストリップは、陰性対照および/または陽性対照のための部位も含有していてもよい。あるいは、対照部位は、テストストリップから分離されたストリップの上に位置していてもよい。任意で、異なる検出部位は、固定化された核酸を、異なる量、含有していてもよい。すなわち、第1の検出部位に、より高い量を含有し、その後の部位に、より少ない量を含有していてもよい。試験試料の添加時、検出可能シグナルを示す部位の数が、試料中に存在するTTLL4のmRNAの量の定量的な指標を提供する。検出部位は、任意の適切に検出可能な形で配置され得、典型的には、テストストリップ幅にわたるバーまたはドットの形である。
【0145】
本発明のキットは、さらに、陽性対照試料またはTTLL4標準試料を含んでいてもよい。TTLL4陽性血液試料を収集することにより本発明の陽性対照試料を調製してもよく、次いで、これらのTTLL4レベルをアッセイする。あるいは、陽性試料またはTTLL4標準物が形成されるよう、精製されたTTLL4タンパク質またはTTLL4ポリヌクレオチドを、TTLL4を含まない血清に添加することもできる。本発明において、精製されたTTLL4は、組換えタンパク質であり得る。陽性対照試料のTTLL4レベルは、例えば、カットオフ値より大きい。
【0146】
抗がん化合物のスクリーニング:
本発明との関連において、本スクリーニング法により同定される剤は、任意の化合物、または幾つかの化合物を含む組成物であってもよい。さらに、本発明のスクリーニング法によって細胞またはタンパク質に曝露される試験剤は、単一の化合物であっても、または化合物の組み合わせであってもよい。化合物の組み合わせを前記方法において使用する場合には、化合物を逐次的に接触させてもよいし、または同時に接触させてもよい。
【0147】
任意の試験剤、例えば、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物産物、海洋生物抽出物、植物抽出物、精製されたタンパク質または粗タンパク質、ペプチド、非ペプチド化合物、合成微小分子化合物(アンチセンスRNA、siRNA、リボザイムおよびアプタマー等などの核酸構築物を含む)、および天然化合物を、本発明のスクリーニング法において使用することができる。本発明の試験剤は、(1)生物学的ライブラリ、(2)空間的にアドレス可能なパラレルな固相または液相のライブラリ、(3)デコンボリューションを必要とする合成ライブラリ法、(4)「一ビーズ一化合物」ライブラリ法、および(5)アフィニティークロマトグラフィー選択を使用する合成ライブラリ法を含む、当技術分野で公知のコンビナトリアルライブラリ法の多数のアプローチのいずれかを使用して入手され得る。アフィニティークロマトグラフィー選択を使用する生物学的ライブラリ法はペプチドライブラリに限定されるが、他の4つのアプローチは化合物のペプチドライブラリ、非ペプチドオリゴマーライブラリ、または低分子ライブラリに適用可能である(Lam, Anticancer Drug Des 1997, 12: 145-67)。分子ライブラリの合成法の例は、当技術分野で見い出され得る(DeWitt et al., Proc Natl Acad Sci USA 1993, 90: 6909-13;Erb et al., Proc Natl Acad Sci USA 1994, 91: 11422-6;Zuckermann et al., J Med Chem 37: 2678-85, 1994;Cho et al., Science 1993, 261: 1303-5;Carell et al., Angew Chem Int Ed Engl 1994, 33: 2059;Carell et al., Angew Chem Int Ed Engl 1994, 33: 2061;Gallop et al., J Med Chem 1994, 37: 1233-51)。化合物のライブラリは、溶液中(Houghten, Bio/Techniques 1992, 13: 412-21を参照されたい)、またはビーズ上(Lam, Nature 1991, 354: 82-4)、チップ上(Fodor, Nature 1993, 364: 555-6)、細菌上(米国特許第5,223,409号)、胞子上(米国特許第5,571,698号;第5,403,484号、および第5,223,409号)、プラスミド上(Cull et al., Proc Natl Acad Sci USA 1992, 89: 1865-9)、もしくはファージ上(Scott and Smith, Science 1990, 249: 386-90;Devlin, Science 1990, 249: 404-6;Cwirla et al., Proc Natl Acad Sci USA 1990, 87: 6378-82;Felici, J Mol Biol 1991, 222: 301-10;米国特許出願第2002103360号)に提示され得る。
【0148】
本スクリーニング法のいずれかによってスクリーニングされた化合物の構造の一部が、付加、欠失、および/または置換により変換された化合物は、本発明のスクリーニング法によって入手される剤に含まれる。
【0149】
さらに、スクリーニングされた試験剤がタンパク質である場合、タンパク質をコードするDNAを入手するためには、タンパク質の全アミノ酸配列を決定して、タンパク質をコードする核酸配列を推定することもできるし、または入手されたタンパク質の部分アミノ酸配列を分析して、その配列に基づきオリゴDNAをプローブとして調製し、そのプローブを用いてcDNAライブラリをスクリーニングして、タンパク質をコードするDNAを入手することもできる。入手されたDNAは、がんを治療または予防するための候補である試験剤の調製における有用性に関して確認される。
【0150】
本明細書に記載されるスクリーニングにおいて有用な試験剤は、TTLL4タンパク質に特異的に結合する抗体であってもよく、またはインビボで元のタンパク質の生物学的活性を欠くその部分ペプチドに特異的に結合する抗体であってもよい。
【0151】
試験剤ライブラリの構築は当技術分野で周知であるが、本スクリーニング法のための試験剤の同定およびそのような剤のライブラリの構築に関するさらなる指針を以下に提供する。
【0152】
(i)分子モデリング:
試験剤ライブラリの構築は、求められる特性を有することが既知の化合物の分子構造、および/またはTTLL4の分子構造の知識により容易になる。さらなる評価のために好適な試験剤を予備スクリーニングするための1つのアプローチは、試験剤とその標的との間の相互作用のコンピュータモデリングである。
【0153】
コンピュータモデリング技術により、選択された分子の三次元原子構造の可視化、およびその分子と相互作用する新たな化合物の合理的設計が可能になる。三次元構築物は、典型的には、選択された分子のX線結晶学的分析またはNMRイメージングからのデータに依存する。分子動力学は力場データを必要とする。コンピュータグラフィックスシステムは、新たな化合物が標的分子にどのように結合するかを予測可能にし、結合特異性を完全にするための化合物および標的分子の構造の実験的操作を可能にする。一方または両方に軽微な変化が加えられた場合に、分子−化合物相互作用がどのようになるかを予測するには、分子力学ソフトウェアおよび計算集約型コンピュータが必要とされ、それらは、通常、分子設計プログラムと使用者との間のユーザーフレンドリーなメニュー方式のインターフェースと連結される。
【0154】
上記に概説された分子モデリングシステムの例には、CHARMmプログラムおよびQUANTAプログラム、Polygen Corporation,Waltham,Massが含まれる。CHARMmは、エネルギー最小化および分子動力学の機能を実行する。QUANTAは、分子構造の構築、グラフィックモデリング、および分析を実行する。QUANTAは、相互作用的構築、改変、可視化、および分子の互いの挙動の分析を可能にする。
【0155】
Rotivinen et al. Acta Pharmaceutica Fennica 1988, 97: 159-66;Ripka, New Scientist 1988, 54-8;McKinlay & Rossmann, Annu Rev Pharmacol Toxiciol 1989, 29: 111-22;Perry & Davies, Prog Clin Biol Res 1989, 291: 189-93;Lewis & Dean, Proc R Soc Lond 1989, 236: 125-40, 141-62;および核酸成分のモデル受容体に関するAskew et al., J Am Chem Soc 1989, 111: 1082-90などの多数の論文において、特定のタンパク質と相互作用する薬物のコンピュータモデリングが概説されている。
【0156】
化学物質をスクリーニングし図示するその他のコンピュータプログラムは、BioDesign, Inc.(Pasadena,Calif.)、Allelix, Inc.(Mississauga,Ontario,Canada)、およびHypercube, Inc.(Cambridge,Ontario)などの会社から入手可能である。例えば、DesJarlais et al., J Med Chem 1988, 31: 722-9;Meng et al., J Computer Chem 1992, 13: 505-24;Meng et al., Proteins 1993, 17: 266-78;Shoichet et al., Science 1993, 259: 1445-50を参照されたい。
【0157】
推定の阻害剤が同定されたならば、以下に詳述されるように、同定された推定の阻害剤の化学構造に基づき、多数のバリアントを構築するため、コンビナトリアルケミストリー技術を利用することができる。その結果得られた推定の阻害剤すなわち「試験剤」のライブラリは、膵臓癌を治療もしくは予防する試験剤を同定するため、本発明の方法を使用してスクリーニングされ得る。
【0158】
(ii)コンビナトリアル化学合成:
試験剤のコンビナトリアルライブラリは、既知の阻害剤に存在しているコア構造の知識を含む、合理的薬物設計プログラムの一部として作製され得る。このアプローチにより、ハイスループットスクリーニングを容易にする適度のサイズにライブラリを維持することが可能になる。あるいは、ライブラリを構成する分子ファミリーの全順列を簡便に合成することにより、単純な、特に短い、重合体分子ライブラリを構築することもできる。この後者のアプローチの一例は、6アミノ酸長の全ペプチドのライブラリである。そのようなペプチドライブラリは、6アミノ酸配列のあらゆる順列を含み得る。この種類のライブラリは、線形コンビナトリアルケミカルライブラリと称される。
【0159】
コンビナトリアルケミカルライブラリの調製は、当業者に周知であり、化学合成または生物学的合成のいずれかにより作製され得る。コンビナトリアルケミカルライブラリには、ペプチドライブラリ(例えば、米国特許第5,010,175号;Furka, Int J Pept Prot Res 1991, 37: 487-93;Houghten et al., Nature 1991, 354: 84-6を参照されたい)が含まれるが、これらに限定されない。化学的多様性ライブラリを作製するためのその他の化学を使用することもできる。そのような化学には、ペプチド(例えば、PCT公報WO91/19735)、コードされたペプチド(例えば、WO93/20242)、ランダムバイオオリゴマー(例えば、WO92/00091)、ベンゾジアゼピン(例えば、米国特許第5,288,514号)、ヒダントイン、ベンゾジアゼピン、およびジペプチドなどのダイバーソマー(diversomers)(DeWitt et al., Proc Natl Acad Sci USA 1993, 90: 6909-13)、ビニロガス(vinylogous)ポリペプチド(Hagihara et al., J Amer Chem Soc 1992, 114: 6568)、グルコース足場を有する非ペプチド性ペプチド模倣体(Hirschmann et al., J Amer Chem Soc 1992, 114: 9217-8)、低分子化合物ライブラリの類似有機合成(Chen et al., J. Amer Chem Soc 1994, 116: 2661)、オリゴカルバメート(Cho et al., Science 1993, 261: 1303)、および/またはペプチジルホスホネート(Campbell et al., J Org Chem 1994, 59: 658)、核酸ライブラリ(Ausubel, Current Protocols in Molecular Biology 1995 supplement;Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 1989, Cold Spring Harbor Laboratory, New York, USAを参照されたい)、ペプチド核酸ライブラリ(例えば、米国特許第5,539,083号を参照されたい)、抗体ライブラリ(例えば、Vaughan et al., Nature Biotechnology 1996, 14(3): 309-14およびPCT/US96/10287を参照されたい)、炭水化物ライブラリ(例えば、Liang et al., Science 1996, 274: 1520-22;米国特許第5,593,853号を参照されたい)、ならびに有機低分子ライブラリ(例えば、ベンゾジアゼピン、Gordon EM. Curr Opin Biotechnol. 1995 Dec 1; 6(6): 624-31.;イソプレノイド、米国特許第5,569,588号;チアゾリジノンおよびメタチアザノン、米国特許第5,549,974号;ピロリジン、米国特許第5,525,735号および第5,519,134号;モルホリノ化合物、米国特許第5,506,337号;ベンゾジアゼピン、米国特許第5,288,514号等を参照されたい)が含まれるが、これらに限定されない。
【0160】
コンビナトリアルライブラリの調製のための装置は市販されている(例えば、357 MPS、390 MPS(Advanced Chem Tech, Louisville KY)、Symphony(Rainin, Woburn, MA)、433A(Applied Biosystems, Foster City, CA)、9050 Plus(Millipore, Bedford, MA)を参照されたい)。さらに、コンビナトリアルライブラリ自体も多数市販されている(例えば、ComGenex, Princeton, N.J.、Tripos, Inc., St. Louis, MO、3D Pharmaceuticals, Exton, PA、Martek Biosciences, Columbia, MD等を参照されたい)。
【0161】
(iii)その他の候補:
もう1つのアプローチは、ライブラリを作製するために組換えバクテリオファージを使用する。「ファージ法」(Scott & Smith, Science 1990, 249: 386-90;Cwirla et al., Proc Natl Acad Sci USA 1990, 87: 6378-82;Devlin et al., Science 1990, 249: 404-6)を使用すれば、極めて大きいライブラリを構築することができる(例えば、106〜108個の化学物質)。第2のアプローチは、主として化学的な方法を使用し、Geysenの方法(Geysen et al., Molecular Immunology 1986, 23: 709-15;Geysen et al., J Immunologic Method 1987, 102: 259-74);およびFodorらの方法(Science 1991, 251: 767-73)がその例である。Furkaら(14th International Congress of Biochemistry 1988, Volume #5, Abstract FR: 013; Furka, Int J Peptide Protein Res 1991, 37: 487-93)、Houghten(米国特許第4,631,211号)、およびRutterら(米国特許第5,010,175号)は、アゴニストまたはアンタゴニストとして試験され得るペプチドの混合物を作製する方法を記載している。
【0162】
アプタマーは、特定の分子標的に強固に結合する核酸から構成された巨大分子である。TuerkおよびGold(Science. 249:505-510 (1990))は、アプタマーの選択のためのSELEX(Systematic Evolution of Ligands by Exponential Enrichment)法を開示している。SELEX法においては、核酸分子の大きなライブラリ(例えば、1015個の異なる分子)をスクリーニングに使用することができる。
【0163】
TTLL4と結合する化合物のスクリーニング:
本発明において、正常器官では発現が見られないにも関わらず、膵臓癌においてTTLL4の過剰発現が検出された(図1)。従って、TTLL4遺伝子、該遺伝子によりコードされるタンパク質を使用して、TTLL4と結合する化合物をスクリーニングする方法を、本発明は提供する。膵臓癌におけるTTLL4の発現のため、TTLL4と結合する化合物は、TTL4を発現しているがん細胞の増殖を抑制することが期待され、従って、TTLL4に関連するがんを治療または予防するのに有用である。ここで前記がんは膵臓癌である。従って、本発明はまた、TTLL4ポリペプチドを使用して、がん細胞の増殖を抑制する化合物をスクリーニングするための方法およびがんを治療または予防するための化合物をスクリーニングするための方法を提供する。具体的には、このスクリーニング法の1つの態様は、以下の工程を含む:
(a)試験化合物を、TTLL4のポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドと接触させる工程;
(b)前記ポリペプチドと試験化合物との間の結合活性を検出する工程;および
(c)前記ポリペプチドと結合する試験化合物を選択する工程。
【0164】
本発明の方法を、以下に、より詳細に説明する。
【0165】
スクリーニングに使用されるTTLL4ポリペプチドは、組換えポリペプチドもしくは自然界由来のタンパク質、またはそれらの部分ペプチドであり得る。試験化合物と接触させられるポリペプチドは、例えば、精製されたポリペプチド、可溶性タンパク質、担体と結合した形態、または他のポリペプチドと融合した融合タンパク質であり得る。
【0166】
タンパク質、例えば、TTLL4ポリペプチドに結合するタンパク質を、TTLL4ポリペプチドを使用してスクリーニングする方法として、当業者に周知の多くの方法を使用することができる。そのようなスクリーニングは、例えば、免疫沈降法により、特に、以下のように実施され得る。TTLL4ポリペプチドをコードする遺伝子を、pSV2neo、pcDNA I、pcDNA3.1、pCAGGS、およびpCD8などの外来遺伝子の発現ベクターに挿入することにより、宿主(例えば、動物)細胞等において発現させる。
【0167】
発現に使用されるプロモーターは、一般に使用され得る任意のプロモーターであってよく、例えば、SV40初期プロモーター(Rigby in Williamson (ed.), Genetic Engineering, vol. 3. Academic Press, London, 83-141 (1982))、EF−αプロモーター(Kim et al., Gene 91: 217-23 (1990))、CAGプロモーター(Niwa et al., Gene 108: 193 (1991))、RSV LTRプロモーター(Cullen, Methods in Enzymology 152: 684-704 (1987))、SRαプロモーター(Takebe et al., Mol Cell Biol 8: 466 (1988))、CMV前初期プロモーター(Seed and Aruffo, Proc Natl Acad Sci USA 84: 3365-9 (1987))、SV40後期プロモーター(Gheysen and Fiers, J Mol Appl Genet 1: 385-94 (1982))、アデノウイルス後期プロモーター(Kaufman et al., Mol Cell Biol 9: 946 (1989))、HSV TKプロモーター等を含み得る。
【0168】
外来遺伝子を発現させるための宿主細胞への遺伝子の導入は、任意の方法、例えば、エレクトロポレーション法(Chu et al., Nucleic Acids Res 15: 1311-26 (1987))、リン酸カルシウム法(Chen and Okayama, Mol Cell Biol 7: 2745-52 (1987))、DEAEデキストラン法(Lopata et al., Nucleic Acids Res 12: 5707-17 (1984);Sussman and Milman, Mol Cell Biol 4: 1641-3 (1984))、リポフェクチン法(Derijard B., Cell 76: 1025-37 (1994);Lamb et al., Nature Genetics 5: 22-30 (1993):Rabindran et al., Science 259: 230-4 (1993))等に従い実施され得る。
【0169】
ポリペプチドのN末端またはC末端に、特異性が明らかなモノクローナル抗体のエピトープを導入することにより、モノクローナル抗体の認識部位(エピトープ)を含む融合タンパク質として、TTLL4遺伝子によりコードされるポリペプチドを発現させることができる。市販のエピトープ−抗体システムを使用することができる(Experimental Medicine 13: 85-90 (1995))。マルチクローニング部位の使用により、例えば、β−ガラクトシダーゼ、マルトース結合タンパク質、グルタチオンS−トランスフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)等との融合タンパク質を発現し得るベクターが、市販されている。また、融合によりTTLL4ポリペプチドの特性が変化しないよう、数個〜十数個のアミノ酸からなる小さなエピトープのみを導入することにより調製された融合タンパク質も報告されている。ポリヒスチジン(His−タグ)、インフルエンザ凝集HA、ヒトc−myc、FLAG、水疱性口内炎ウイルス糖タンパク質(VSV−GP)、T7遺伝子10タンパク質(T7−タグ)、ヒト単純ヘルペスウイルス糖タンパク質(HSV−タグ)、E−タグ(モノクローナルファージ上のエピトープ)などのエピトープと、これらを認識するモノクローナル抗体とを、TTLL4ポリペプチドに結合するタンパク質をスクリーニングするためのエピトープ−抗体システムとして使用することができる(Experimental Medicine 13: 85-90 (1995))。
【0170】
免疫沈降においては、適切な界面活性剤を使用して調製された細胞溶解物に、これらの抗体を添加することにより、免疫複合体が形成される。免疫複合体は、TTLL4ポリペプチド、該ポリペプチドとの結合能を有するポリペプチド、および抗体からなる。免疫沈降は、上記エピトープに対する抗体を使用する以外に、TTLL4ポリペプチドに対する、上記のように調製され得る抗体を使用して実施されてもよい。抗体がマウスIgG抗体である場合、例えば、プロテインAセファロースまたはプロテインGセファロースにより、免疫複合体を沈降させることができる。TTLL4遺伝子によりコードされるポリペプチドが、GSTなどのエピトープとの融合タンパク質として調製される場合には、グルタチオン−セファロース4Bなどのこれらのエピトープと特異的に結合する物質を使用して、TTLL4ポリペプチドに対する抗体を使用する場合と同様に免疫複合体を形成させることができる。
【0171】
免疫沈降は、例えば、文献中の方法に従ってまたは準じて実施され得る(Harlow and Lane, Antibodies, 511-52, Cold Spring Harbor Laboratory publications, New York (1988))。
【0172】
免疫沈降したタンパク質の分析には、SDS−PAGEが一般に使用され、結合したタンパク質は、適切な濃度を有するゲルを使用して、タンパク質の分子量により分析され得る。TTLL4ポリペプチドに結合したタンパク質は、クーマシー染色または銀染色などの一般の染色法によって検出することが困難であるため、細胞を、放射性同位体35S−メチオニンまたは35S−システインを含有している培養培地中で培養し、細胞内のタンパク質を標識し、タンパク質を検出することにより、タンパク質の検出感度を改善することができる。タンパク質の分子量が明らかである場合には、標的タンパク質をSDS−ポリアクリルアミドゲルから直接精製し、その配列を決定することができる。
【0173】
TTLL4ポリペプチドに結合するタンパク質を、該ポリペプチドを使用してスクリーニングする方法として、例えば、ウエストウエスタンブロット分析(Skolnik et al., Cell 65: 83-90 (1991))を使用することができる。具体的には、TTLL4ポリペプチドに結合するタンパク質を発現すると期待される培養細胞(たとえば、Panc−1、MiaPaCa2)から、cDNAライブラリを、ファージベクター(例えば、ZAP)を使用して調製し、LB−アガロース上でタンパク質を発現させ、発現されたタンパク質をフィルター上に固定し、精製され標識されたTTLL4ポリペプチドを上記フィルターと反応させ、TTLL4ポリペプチドに結合したタンパク質を発現しているプラークを標識によって検出することにより、TTLL4ポリペプチドに結合するタンパク質を得ることができる。本発明のポリペプチドは、ビオチンとアビジンとの間の結合を利用するか、またはTTLL4ポリペプチドと特異的に結合する抗体、もしくはTTLL4ポリペプチドと融合されるペプチドもしくはポリペプチド(例えば、GST)を利用することにより、標識され得る。放射性同位体または蛍光等を使用する方法も、使用することができる。
【0174】
あるいは、本発明のスクリーニング方法の別の態様において、細胞を利用するツーハイブリッドシステムを使用してもよい(「MATCHMAKER Two−Hybrid system」、「Mammalian MATCHMAKER Two−Hybrid Assay Kit」、「MATCHMAKER one−Hybrid system」(Clontech);「HybriZAP Two−Hybrid Vector System」(Stratagene);参考文献「Dalton and Treisman, Cell 68: 597-612 (1992)」、「Fields and Sternglanz, Trends Genet 10: 286-92 (1994)」)。
【0175】
ツーハイブリッドシステムにおいては、本発明のポリペプチドをSRF結合領域またはGAL4結合領域に融合させ、酵母細胞において発現させる。本発明のポリペプチドに結合するタンパク質を発現すると期待される細胞からのcDNAライブラリを、ライブラリが、発現された場合にVP16またはGAL4の転写活性化領域に融合するよう、調製する。次いで、cDNAライブラリを上記酵母細胞に導入し、ライブラリに由来するcDNAを、検出された陽性クローンから単離する(本発明のポリペプチドに結合するタンパク質が酵母細胞において発現される場合、その2つの結合がレポーター遺伝子を活性化し、陽性クローンを検出可能にする)。上記の単離されたcDNAを大腸菌に導入し、タンパク質を発現させることにより、cDNAによりコードされるタンパク質を調製することができる。レポーター遺伝子としては、HIS3遺伝子に加えて、例えば、Ade2遺伝子、lacZ遺伝子、CAT遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子等も使用することができる。
【0176】
アフィニティークロマトグラフィーを使用して、TTLL4遺伝子によりコードされるポリペプチドに結合する化合物をスクリーニングすることもできる。例えば、本発明のポリペプチドをアフィニティカラムの担体上に固定化し、本発明のポリペプチドに結合可能なタンパク質を含有している試験化合物をカラムに適用することができる。本明細書中の試験化合物は、例えば、細胞抽出物、細胞溶解物等であり得る。試験化合物を負荷した後、カラムを洗浄し、本発明のポリペプチドに結合した化合物を調製することができる。試験化合物がタンパク質である場合には、入手されたタンパク質のアミノ酸配列を分析し、配列に基づきオリゴDNAを合成し、オリゴDNAをプローブとして使用してcDNAライブラリをスクリーニングして、タンパク質をコードするDNAを入手する。
【0177】
本発明においては、結合した化合物を検出または定量する手段として、表面プラズモン共鳴現象を使用するバイオセンサーを使用してもよい。このようなバイオセンサーを使用する場合、極微量のポリペプチドのみを使用して、標識することなく、本発明のポリペプチドと試験化合物との間の相互作用を、表面プラズモン共鳴シグナルとしてリアルタイムで観察することができる(例えば、BIAcore、Pharmacia)。従って、BIAcoreなどのバイオセンサーを使用して、本発明のポリペプチドと試験化合物との間の結合を評価することが可能である。
【0178】
タンパク質だけでなく、TTLL4タンパク質に結合する化学化合物(アゴニストおよびアンタゴニストを含む)も単離するための、固定化されたTTLL4ポリペプチドを合成化学化合物または天然物質バンクまたはランダムファージペプチドディスプレイライブラリに曝露した場合に結合する分子をスクリーニングする方法、およびコンビナトリアルケミストリー技術に基づくハイスループットを使用したスクリーニング法(Wrighton et al., Science 273: 458-64 (1996);Verdine, Nature 384: 11-13 (1996);Hogan, Nature 384: 17-9 (1996))が当業者に周知である。
【0179】
TTLL4の生物学的活性を抑制する化合物のスクリーニング:
本発明において、TTLL4タンパク質は、膵臓癌細胞の細胞増殖を促進する活性(図3B)およびポリグルタミル化活性(図4B、5B)を有する。これらの生物学的活性を使用して、本発明は、TTLL4を発現しているがん細胞の増殖を抑制する化合物をスクリーニングするための方法、ならびに、がん、特に、TTLL4に関連するがんを治療または予防するための化合物をスクリーニングするための方法を提供する。ここで、がんは膵臓癌である。従って、本発明は、以下のような工程を含む、TTLL4遺伝子によりコードされるポリペプチドを使用して、がんを治療または予防するための化合物をスクリーニングする方法を提供する:
(a)試験化合物を、TTLL4のポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドと接触させる工程;
(b)工程(a)のポリペプチドの生物学的活性を検出する工程;および
(c)試験化合物の非存在下で検出されるポリペプチドの生物学的活性と比較して、TTLL4ポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドの生物学的活性を抑制する該試験化合物を選択する工程。
【0180】
本発明によると、生物学的活性(たとえば細胞増殖を促進する活性またはポリグルタミル化活性)の抑制に関する試験化合物の治療効果、またはTTLL4に関連するがん(例えば、膵臓癌)を治療もしくは予防するための候補化合物の治療効果を、評価することができる。従って、本発明は、以下のような工程を含む、TTLL4ポリペプチドまたはその断片を使用して、細胞増殖を抑制するための候補化合物、またはTTLL4に関連するがんを治療もしくは予防するための候補化合物をスクリーニングする方法も提供する:
(a)試験化合物を、TTLL4ポリペプチドまたはその機能的断片と接触させる工程;および
(b)工程(a)のポリペプチドまたは断片の生物学的活性を検出する工程;および
(c)(b)の生物学的活性を試験剤または試験化合物の治療効果と相関させる工程。
【0181】
本発明において、治療効果は、TTLL4ポリペプチドまたはその機能的断片の生物学的活性と相関し得る。例えば、試験化合物が、試験化合物の非存在下で検出されるレベルと比較して、TTLL4ポリペプチドまたはその機能的断片の生物学的活性を抑制または阻害する場合には、その試験化合物を、治療効果を有する候補化合物として同定または選択することができる。あるいは、試験化合物が、試験化合物の非存在下で検出されるレベルと比較して、TTLL4ポリペプチドまたはその機能的断片の生物学的活性を抑制または阻害しない場合には、その試験化合物を、有意な治療効果を有さない剤または化合物として同定することができる。
【0182】
本発明の方法を、以下に、より詳細に説明する。
【0183】
TTLL4タンパク質の生物学的活性を含む限り、任意のポリペプチドをスクリーニングに使用することができる。そのような生物学的活性には、TTLL4タンパク質の細胞増殖活性が含まれる。例えば、TTLL4タンパク質を使用することができ、これらのタンパク質と機能的に等価なポリペプチドも使用することができる。そのようなポリペプチドは、細胞により内因的にまたは外因的に発現され得る。
【0184】
このスクリーニングにより単離される化合物は、TTLL4遺伝子によりコードされるポリペプチドのアンタゴニストの候補である。「アンタゴニスト」という用語は、ポリペプチドに結合することにより、その機能を阻害する分子を指す。この用語は、TTLL4をコードする遺伝子の発現を低下させるかまたは阻害する分子も指す。さらに、このスクリーニングにより単離される化合物は、TTLL4ポリペプチドと他の分子(DNAおよびタンパク質を含む)とのインビボ相互作用を阻害する化合物の候補である。
【0185】
本方法において検出される生物学的活性が細胞増殖である場合、それは、例えば、TTLL4ポリペプチドを発現している細胞を調製し、試験化合物の存在下で該細胞を培養し、細胞周期等を測定して細胞増殖速度を決定することにより、および、例えば図2Bに示されるコロニー形成活性を測定することにより、検出され得る。TTLL4を発現している細胞の増殖速度を低下させる化合物を、膵臓癌を治療または予防するための候補化合物として選択する。
【0186】
より具体的には、方法は、以下の工程を含む:
(a)試験化合物を、TTLL4を過剰発現している細胞と接触させる工程;
(b)細胞増殖活性を測定する工程;および
(c)試験化合物の非存在下での細胞増殖活性と比較して、細胞増殖活性を低下させる試験化合物を選択する工程。
【0187】
好ましい態様において、本発明の方法は、以下の工程をさらに含んでもよい:
(d)TTLL4を全くまたはほとんど発現していない細胞に対して効果を及ぼさない試験化合物を選択する工程。
【0188】
本方法において検出される生物学的活性がポリグルタミル化活性である場合、ポリグルタミル化活性は、ポリペプチドを、基質(例えば、PELP1)および補因子(例えば、グルタミン酸)と、該基質のポリグルタミル化に好適な条件下で接触させ、該基質のポリグルタミル化レベルを検出することにより決定することができる。
【0189】
より具体的には、前記方法は、以下の工程を含む:
[1]TTLL4ポリペプチドまたはその機能的等価物を、ポリグルタミル化される基質、および補因子であるグルタミン酸と、試験化合物の存在下で、該基質のポリグルタミル化が可能な条件下で接触させる工程;
[2]基質のポリグルタミル化レベルを検出する工程;
[3]対照と比較して、ポリグルタミル化レベルを低下させる候補化合物を選択する工程;
[4]TTLL4ポリペプチドの機能的等価物が、SEQ ID NO:22に相当するTTLドメインを含む、[1]に記載の方法;
[5]基質が、SEQ ID NO:23に相当するグルタミン酸リッチドメインを含むポリペプチドである、[1]に記載の方法;および
[6]基質がPELP1である、[5]に記載の方法。
【0190】
さらに、ポリグルタミル化活性を検出する本方法は、例えば、TTLL4ポリペプチドを発現する細胞を調製し、試験化合物の存在下で該細胞を培養し、例えば図4および5に示されるポリグルタミル化領域との特異的な抗体の結合を使用することで、PELP1のポリグルタミル化レベルを決定することにより、行うことができる。
【0191】
より具体的には、本方法は、以下の工程を含む:
[1]試験化合物を、TTLL4およびPELP1を発現している細胞と接触させる工程;
[2]PELP1のポリグルタミル化レベルを検出する工程;および
[3]試験化合物の非存在下でのポリグルタミル化と比較して、ポリグルタミル化を低下させる試験化合物を選択する工程。
【0192】
本発明において、TTLL4ポリペプチド、またはSEQ ID NO:22などのTTLドメインを含むポリペプチドのポリグルタミル化活性は、当技術分野で公知の方法により決定することができる。例えば、TTLL4および基質を、好適なアッセイ条件下で、標識グルタミン酸と共にインキュベートすることができる。このような好適なアッセイ条件には細胞溶解物の添加が含まれる。好ましくは、PELP1、またはSEQ ID NO:23などのグルタミン酸リッチドメインを含むポリペプチドを基質として使用することができる。基質への放射標識の移動は、例えば、SDS−PAGE電気泳動およびフルオログラフィーによって検出することができる。または、前記の反応後に、濾過によって基質を標識グルタミン酸から分離し、フィルター上に保持される放射標識の量をシンチレーション測定によって定量することができる。グルタミン酸に取り付けることができる他の好適な標識、例えば、色素産生性標識および蛍光標識、ならびにこれらの標識の基質への移動を検出する方法は当技術分野において公知である。
【0193】
あるいは、TTLL4のポリグルタミル化活性は、非標識グルタミン酸とポリグルタミル化を選択的に認識する試薬とを使用して決定することができる。例えば、TTLL4、ポリグルタミル化される基質、およびグルタミン酸を、該基質のポリグルタミル化が可能な条件下でインキュベーションした後に、ポリグルタミル化された基質を免疫学的方法によって検出することができる。ポリグルタミル化した基質を認識する抗体を使用する任意の免疫学的技法を、検出に使用することができる。例えば、ポリグルタミル化に対する抗体(GT335抗体: Wolff A et al., 1992 Eur J Cell Biol 59:425-432)が利用できる。本発明には、メチル化ヒストンを認識する抗体を用いたELISAまたはイムノブロッティングを使用することができる。
【0194】
さらに、本発明は、TTLL4に関連するがんを治療するか、またはTTLL4を発現しているがん細胞の増殖を阻害するための化合物をスクリーニングするためのキットを提供する。ここで、化合物はポリグルタミル化活性を低下させる。具体的には、キットは、以下の成分を含む:
(a)TTLL4ポリペプチドまたはその機能的等価物;
(b)(a)のポリペプチドによるポリグルタミル化が可能な基質;
(c)グルタミン酸;および
(d)基質のポリグルタミル化を検出するための試薬。
【0195】
TTLL4の好適なポリペプチド機能的等価物は、SEQ ID NO:22のポリペプチドに対応するTTLドメインを含む。他方で、ポリグルタミル化が可能な好適な基質には、PELP1およびその機能的等価物が含まれる。PELP1の機能的等価物は、SEQ ID NO:23のアミノ酸配列などのグルタミン酸リッチドメインを含む。本発明において、ポリグルタミル化の検出に好適な試薬は抗体である。抗体はモノクローナル抗体であるかまたはポリクローナル抗体であってもよい。さらに、断片がポリグルタミル化タンパク質との結合能を保持している限り、抗体の任意の断片または改変(例えば、キメラ抗体、scFv、Fab、F(ab’)2、Fvなど)を試薬として使用することができる。タンパク質の検出のためのこれらの種類の抗体を調製する方法は、当技術分野において周知であり、本発明においては、このような抗体およびその等価物を調製するために、任意の方法を利用することができる。さらに、直接結合または間接標識技術を介して、シグナル生成分子によって抗体を標識してもよい。標識、および抗体を標識して抗体とその標的との結合を検出するための方法は当技術分野において周知であり、本発明のために任意の標識および方法を利用することができる。さらに、ポリグルタミル化を検出するための複数の試薬が、キットに含まれていてもよい。
【0196】
本明細書において定義される「生物学的活性を抑制する」とは、化合物の非存在下と比較した、TTLL4の生物学的活性の、好ましくは少なくとも10%の抑制、より好ましくは少なくとも25%、50%、または75%の抑制、および最も好ましくは少なくとも90%の抑制である。
【0197】
TTLL4の発現を変える化合物のスクリーニング:
本発明において、siRNAによるTTLL4の発現の減少は、がん細胞増殖の阻害をもたらす(図2C)。従って、本発明は、TTLL4の発現を阻害する化合物をスクリーニングする方法を提供する。TTLL4の発現を阻害する化合物は、TTLL4を発現しているがん細胞の増殖を抑制すると期待され、従って、TTLL4に関連するがんを治療または予防するのに有用である。従って、本発明はまた、がん細胞の増殖を抑制する化合物をスクリーニングするための方法、およびがんを治療または予防するための化合物をスクリーニングするための方法を提供する。本発明との関連において、このようなスクリーニングは、例えば、以下の工程を含み得る:
(a)候補化合物を、TTLL4を発現している細胞と接触させる工程;および
(b)対照と比較して、TTLL4の発現レベルを低下させる候補化合物を選択する工程。
【0198】
本発明によれば、TTLL4の発現レベルの抑制に対する試験化合物の治療効果、またはTTLL4に関連するがん(例えば、膵臓癌)を治療もしくは予防するための候補化合物の治療効果を評価することができる。従って、本発明はまた、以下の工程を含む、TTLL4の発現レベルを抑制するための候補化合物、またはTTLL4に関連するがんを治療もしくは予防するための候補化合物をスクリーニングする方法も提供する:
(a)候補化合物を、TTLL4を発現している細胞と接触させる工程;
(b)TTLL4の発現レベルを評価する工程;および
(c)(b)のTTLL4の発現レベルを、試験化合物の治療効果と相関させる工程。
【0199】
本発明において、治療効果は、TTLL4の発現レベルと相関し得る。例えば、試験化合物の非存在下で検出されるレベルと比較して、試験化合物がTTLL4の発現レベルを低下させる場合には、その試験化合物を、治療効果を有する候補化合物として同定または選択することができる。または、試験化合物の非存在下で検出されるレベルと比較して、試験化合物がTTLL4の発現レベルを低下させない場合、その試験化合物を、有意な治療効果を有さない剤または化合物として同定することができる。
【0200】
本発明の方法を、以下に、より詳細に説明する。
【0201】
TTLL4を発現する細胞には、例えば、膵臓癌から樹立した細胞株が含まれる。このような細胞は、上記の本発明のスクリーニングのために使用することができる(例えば、Panc−1、MiaPaCa2)。発現レベルは、当業者に周知の方法、例えば、RT−PCR、ノーザンブロットアッセイ、ウエスタンブロットアッセイ、免疫染色、およびフローサイトメトリー分析により推定され得る。本明細書において定義される「発現レベルを低下させる」とは、化合物の非存在下でのTTLL4の発現レベルと比較した、TTLL4の発現レベルの、好ましくは少なくとも10%の低下であり、より好ましくは少なくとも25%、50%、または75%低下したレベルであり、および最も好ましくは少なくとも95%低下したレベルである。本明細書における化合物には、化学化合物、二本鎖ヌクレオチドなどが含まれる。二本鎖ヌクレオチドの調製は前記説明にある。スクリーニング方法において、TTLL4の発現レベルを低下させる化合物を、膵臓癌の治療または予防に使用される候補化合物として選択することができる。
【0202】
あるいは、本発明のスクリーニング方法は、以下の工程を含んでもよい:
(a)TTLL4転写調節領域と該転写調節領域の制御下で発現されるレポーター遺伝子とを含むベクターが導入された細胞に、候補化合物を接触させる工程;
(b)レポーター遺伝子の発現または活性を測定する工程;および
(c)レポーター遺伝子の発現または活性を低下させる候補化合物を選択する工程。
【0203】
好適なレポーター遺伝子および宿主細胞は、当技術分野で周知である。例えばレポーター遺伝子は、ルシフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)、Discosoma sp.赤色蛍光タンパク質(DsRed)、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、lacZ、およびβグルクロニダーゼ(GUS)であり、宿主細胞はCOS7、HEK293、HeLa等である。スクリーニングに必要とされるレポーター構築物は、レポーター遺伝子配列をTTLL4の転写調節領域と接続することにより調製され得る。本明細書中のTTLL4の転写調節領域は、転写開始部位から少なくとも500bp上流、好ましくは1000bp、より好ましくは5000bpまたは10000bp上流までの領域である。転写調節領域を含有しているヌクレオチドセグメントは、ゲノムライブラリから単離してもよいし、またはPCRによって増幅させてもよい。スクリーニングに必要とされるレポーター構築物は、レポーター遺伝子配列をこれらの遺伝子のいずれか1つの転写調節領域と接続することにより調製され得る。転写調節領域を同定するための方法、およびアッセイプロトコルも周知である(Molecular Cloning third edition chapter 17, 2001, Cold Springs Harbor Laboratory Press)。
【0204】
レポーター構築物を含有しているベクターを、宿主細胞に導入し、レポーター遺伝子の発現または活性を、当技術分野で周知の方法により(例えば、ルミノメーター、吸光度計、フローサイトメーター等を使用して)検出する。本明細書中で定義される「発現または活性を低下させる」とは、化合物の非存在下と比較した、レポーター遺伝子の発現または活性の、好ましくは少なくとも10%の低下、より好ましくは少なくとも25%、50%、または75%の低下、および最も好ましくは95%の低下である。
【0205】
TTLL4とPELP1との間の結合を減少させる化合物のスクリーニング:
本発明では、TTLL4とPELP1との間の相互作用を免疫沈降により示している(図4D)。さらに、TTLL4はPELP1をポリグルタミル化する(図4D)。従って、本発明は、TTLL4とPELP1との間の結合を阻害する化合物をスクリーニングする方法を提供する。TTLL4とPELP1との間の結合を阻害する化合物は、TTLL4を発現しているがん細胞の増殖を抑制すると期待され、従って、TTLL4に関連するがんを治療または予防するのに有用である。従って、本発明はまた、TTLL4とPELP1との間の結合を阻害して、がん細胞の増殖を抑制する化合物をスクリーニングするための方法、およびがんを治療または予防するための化合物をスクリーニングするための方法を提供する。
【0206】
より具体的には、前記方法は、以下の工程を含む:
(a)TTLL4ポリペプチドまたはその機能的等価物を、PELP1またはその機能的等価物と、試験化合物の存在下で接触させる工程;
(b)該ポリペプチド間の結合を検出する工程;および
(c)該ポリペプチド間の結合を阻害する試験化合物を選択する工程。
【0207】
本明細書において、本明細書で使用する「TTLL4ポリペプチドの機能的等価物」という語句は、PELP1結合ドメインのアミノ酸配列を含むポリペプチドを指す。同様に、「PELP1ポリペプチドの機能的等価物」という用語は、TTLL4結合ドメインのアミノ酸配列を含むポリペプチドを指す。
【0208】
本発明の方法を、以下に、さらに詳細に説明する。
【0209】
TTLL4とPELP1との間の結合を阻害する化合物をスクリーニングする方法として、当業者に周知の多くの方法を使用することができる。このようなスクリーニングはインビトロアッセイシステムとして実施することができる。より具体的には、最初に、TTLL4ポリペプチドを支持体に結合させ、そこに、試験化合物と共にPELP1ポリペプチドを添加する。次に、混合物をインキュベートし、洗浄して、支持体に結合したPELP1ポリペプチドを検出および/または測定する。有望な候補化合物は、PELP1ポリペプチドを検出する量を低下させることができる。反対に、PELP1ポリペプチドを支持体に結合させて、TTLL4ポリペプチドを添加してもよい。ここで、TTLL4およびPELP1は、天然タンパク質としてだけではなく、遺伝子組換え技術によって調製された組換えタンパク質としても調製されてよい。天然タンパク質は、例えば、アフィニティークロマトグラフィーによって調製することができる。他方で、組換えタンパク質は、TTLL4またはPELP1をコードするDNAで形質転換した細胞を培養して、細胞内でタンパク質を発現させ、次いでそれを回収することによって調製されてもよい。
【0210】
タンパク質の結合に使用することができる支持体の例には、不溶性多糖、例えば、アガロース、セルロース、およびデキストラン;ならびに合成樹脂、例えば、ポリアクリルアミド、ポリスチレン、およびケイ素が含まれる。好ましくは、上記の材料から調製された市販のビーズおよびプレート(例えば、マルチウェルプレート、バイオセンサーチップなど)を使用することができる。ビーズを使用する場合、ビーズはカラムに充填されていてもよい。あるいは、磁気ビーズの使用も当技術分野において公知であり、磁気によって、ビーズ上に結合したタンパク質を容易に単離するのを可能にする。
【0211】
タンパク質の支持体への結合は、ルーチンな方法、例えば、化学結合および物理吸着に従って行うことができる。あるいは、タンパク質を特異的に認識する抗体を介して、該タンパク質を支持体に結合してもよい。さらに、タンパク質の支持体への結合は、アビジンおよびビオチンによって行うこともできる。タンパク質間の結合は、緩衝液がタンパク質間の結合を阻害しない限り、例えばリン酸緩衝液およびTris緩衝液などの緩衝液中で行われるが、これに限定されない。
【0212】
本発明においては、結合したタンパク質を検出または定量するための手段として、表面プラズモン共鳴現象を使用するバイオセンサーを使用してもよい。このようなバイオセンサーを使用する場合、極微量のポリペプチドのみを使用して、標識することなく、タンパク質間の相互作用を表面プラズモン共鳴シグナルとしてリアルタイムで観察することができる(例えば、BIAcore、Pharmacia)。従って、BIAcoreなどのバイオセンサーを使用して、TTLL4とPELP1との間の結合を評価することが可能である。
【0213】
あるいは、TTLL4またはPELP1は標識されていてもよく、該ポリペプチドの標識を、結合活性を検出または測定するために使用してもよい。具体的には、ポリペプチドの1つを前標識した後、標識したポリペプチドを他のポリペプチドと、試験化合物の存在下で接触させ、次いで、洗浄後の該標識に従って、結合したポリペプチドを検出または測定する。本方法においてタンパク質を標識するために、放射性同位体(例えば、H、14C、32P、33P、35S、125I、131I)、酵素(例えば、アルカリホスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、b−グルコシダーゼ)、蛍光物質(例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミン)、およびビオチン/アビジンなどの標識物質を使用してもよい。タンパク質が放射性同位体で標識される場合、検出または測定は液体シンチレーションによって行うことができる。あるいは、酵素で標識されたタンパク質は、酵素の基質を添加して該基質の酵素的変化、例えば、吸光光度計を用いて発色を検出することにより、検出または測定することができる。さらに、蛍光物質が標識として用いられる場合、結合したタンパク質は、蛍光光度計を用いて検出または測定され得る。
【0214】
さらに、TTLL4とPELP1との間の結合は、TTLL4に対する抗体またはPELP1に対する抗体を用いて検出または測定することもできる。例えば、支持体上に固定化されたTTLL4ポリペプチドを、試験化合物およびPELP1ポリペプチドと接触させた後、混合物をインキュベートおよび洗浄し、PELP1ポリペプチドに対する抗体を用いて検出または測定を行うことができる。
【0215】
あるいは、PELP1ポリペプチドが支持体上に固定化されていてもよく、TTLL4に対する抗体が抗体として用いられてもよい。本スクリーニングにおいて抗体を使用する場合、抗体は、好ましくは、上述の標識物質の1つを用いて標識され、該標識物質に基づいて検出または測定される。あるいは、TTLL4ポリペプチドに対する抗体またはPELP1ポリペプチドに対する抗体を、標識物質で標識された二次抗体を用いて検出される一次抗体として、用いてもよい。さらに、本発明のスクリーニングにおいてタンパク質に結合する抗体は、プロテインGカラムまたはプロテインAカラムを用いて検出または測定されてもよい。
【0216】
あるいは、本発明のスクリーニング方法の別の態様において、細胞を利用するツーハイブリッドシステムを使用してもよい(「MATCHMAKER Two−Hybrid system」、「Mammalian MATCHMAKER Two−Hybrid Assay Kit」、「MATCHMAKER one−Hybrid system」(Clontech);「HybriZAP Two−Hybrid Vector System」(Stratagene);参考文献「Dalton and Treisman, Cell 68: 597-612 (1992)」、「Fields and Sternglanz, Trends Genet 10: 286-92 (1994)」)。
【0217】
ツーハイブリッドシステムにおいては、例えば、TTLL4ポリペプチドをSRF結合領域またはGAL4結合領域に融合させ、酵母細胞において発現させる。PELP1ポリペプチドに結合するTTLL4ポリペプチドに結合するPELP1ポリペプチドを、VP16またはGAL4転写活性化領域に融合させ、同様に前記酵母細胞において、試験化合物の存在下で発現させる。あるいは、TTLL4ポリペプチドを、SRF結合領域またはGAL4結合領域に融合させ、PELP1ポリペプチドを、VP16またはGAL4転写活性化領域に融合させてもよい。その2つが結合するとレポーター遺伝子が活性化されて、陽性クローンが検出可能になる。レポーター遺伝子としては、HIS3遺伝子に加えて、例えば、Ade2遺伝子、lacZ遺伝子、CAT遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子等を使用することができる。
【0218】
PELP1とLAS1LまたはSENP3との間の結合を調整する化合物のスクリーニング:
本発明では、PELP1とLAS1LまたはSENP3との間の相互作用を免疫沈降により示している(図8)。さらに、対照と比較して、TTLL4の過剰発現によって、PELP1と結合しているLAS1Lの量が上昇し、TTLL4の発現抑制によって、PELP1と結合しているLAS1Lの量が低下した(図9A)。他方では、対照と比較して、TTLL4の過剰発現によって、PELP1と結合しているSENP3の量が低下し、TTLL4の発現抑制によって、PELP1と結合しているSENP3の量が上昇した(図9B)。従って、PELP1とLAS1LまたはSENP3との間の結合活性は、TTLL4の生物学的活性の指標として使用することができる。PELP1とLAS1LまたはSENP3との間の結合を調整する化合物は、TTLL4を発現しているがん細胞の増殖を抑制すると期待され、従って、TTLL4に関連するがんを治療または予防するのに有用である。従って、本発明はまた、PELP1とLAS1LまたはSENP3(およびTTLL4とPELP1)との間の結合を阻害して、がん細胞の増殖を抑制する化合物をスクリーニングするための方法、ならびにがんを治療または予防するための化合物をスクリーニングするための方法も提供する。
【0219】
より具体的には、前記方法は、以下の工程を含む:
(a)PELP1ポリペプチドまたはその機能的等価物を、LAS1Lまたはその機能的等価物と、TTLL4ポリペプチドまたはその機能的等価物および試験化合物の存在下で接触させる工程;
(b)PELP1ポリペプチドまたはその機能的等価物とLAS1Lまたは機能的等価物との間の結合を検出する工程;ならびに
(c)該ポリペプチド間の結合を阻害する試験化合物を選択する工程。
【0220】
あるいは、前記方法は、以下の工程を含む:
(a)PELP1ポリペプチドまたはその機能的等価物を、SENP3またはその機能的等価物と、TTLL4ポリペプチドまたはその機能的等価物および試験化合物の存在下で接触させる工程;
(b)PELP1ポリペプチドまたはその機能的等価物とSENP3または機能的等価物との間の結合を検出する工程;ならびに
(c)該ポリペプチド間の結合を増強する試験化合物を選択する工程。
【0221】
TTLL4ポリペプチドの機能的等価物の例には、SEQ ID NO:22に相当するTTLドメインのアミノ酸配列を有するポリペプチドが含まれ、PELP1ポリペプチドの機能的等価物の例には、SEQ ID NO:23に相当するグルタミン酸リッチドメインのアミノ酸配列を有するポリペプチドが含まれる。
【0222】
本発明の方法を、以下に、さらに詳細に説明する。
【0223】
PELP1とLAS1LまたはSENP3との間の結合を調整する化合物をスクリーニングする方法として、当業者に周知の多くの方法を使用することができる。このようなスクリーニングはインビトロアッセイシステムとして実施することができる。より具体的には、最初に、PELP1ポリペプチドを支持体に結合させ、そこに、TTLL4ポリペプチドおよび試験化合物と共に、LAS1LまたはSENP3ポリペプチドを添加する。好ましくは、これらと共にグルタミン酸をさらに添加してもよい。次に、混合物をインキュベートし、洗浄して、支持体に結合したLAS1LまたはSENP3ポリペプチドを検出および/または測定する。LAS1Lポリペプチドが添加される場合、有望な候補化合物は、LSA1Lポリペプチドを検出する量を低下させることができる。他方で、SENP3ポリペプチドが添加される場合、有望な候補化合物は、NENP3ポリペプチドを検出する量を増加させることができる。あるいは、LAS1LまたはSENP3ポリペプチドを支持体に結合させてもよく、これにPELP1ポリペプチドを添加してもよい。
【0224】
TTLL4、PELP1、LAS1L、およびSENP3ポリペプチドは、天然タンパク質としてだけではなく、これらのヌクレオチド配列に基づく遺伝子組換え技術によって調製された組換えタンパク質としても調製されてよい。天然タンパク質は、例えば、アフィニティークロマトグラフィーによって調製することができる。他方で、組換えタンパク質は、TTLL4、PELP1、LAS1L、またはSENP3をコードするDNAで形質転換した細胞を培養して、細胞内でタンパク質を発現させ、次いでそれを回収することによって調製されてもよい。
【0225】
タンパク質の結合に使用することができる支持体の例には、不溶性多糖、例えば、アガロース、セルロース、およびデキストラン;ならびに合成樹脂、例えば、ポリアクリルアミド、ポリスチレン、およびケイ素が含まれる。好ましくは、上記の材料から調製された市販のビーズおよびプレート(例えば、マルチウェルプレート、バイオセンサーチップなど)を使用することができる。ビーズを使用する場合、ビーズはカラムに充填されていてもよい。あるいは、磁気ビーズの使用も当技術分野において公知であり、磁気によって、ビーズ上に結合したタンパク質を容易に単離するのを可能にする。
【0226】
タンパク質の支持体への結合は、ルーチンな方法、例えば、化学結合および物理吸着に従って行うことができる。あるいは、タンパク質を特異的に認識する抗体を介して、該タンパク質を支持体に結合してもよい。さらに、タンパク質の支持体への結合は、アビジンおよびビオチンによって行うこともできる。タンパク質間の結合は、緩衝液がタンパク質間の結合を阻害しない限り、例えばリン酸緩衝液およびTris緩衝液などの緩衝液中で行われるが、これに限定されない。
【0227】
本発明においては、結合したタンパク質を検出または定量するための手段として、表面プラズモン共鳴現象を使用するバイオセンサーを使用してもよい。このようなバイオセンサーを使用する場合、極微量のポリペプチドのみを使用して、標識することなく、タンパク質間の相互作用を表面プラズモン共鳴シグナルとしてリアルタイムで観察することができる(例えば、BIAcore、Pharmacia)。従って、BIAcoreなどのバイオセンサーを使用して、PELP1とLAS1LまたはSENP3との間の結合を評価することが可能である。
【0228】
あるいは、PELP1またはLAS1LまたはSENP3は標識されていてもよく、該ポリペプチドの標識を、結合活性を検出または測定するために使用してもよい。具体的には、ポリペプチドの1つを前標識した後、標識したポリペプチドを他のポリペプチドと、TTLL4および試験化合物の存在下で接触させ、次いで、洗浄後の該標識に従って、結合したポリペプチドを検出または測定する。本方法においてタンパク質を標識するために、放射性同位体(例えば、H、14C、32P、33P、35S、125I、131I)、酵素(例えば、アルカリホスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、b−グルコシダーゼ)、蛍光物質(例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミン)、およびビオチン/アビジンなどの標識物質を使用してもよい。タンパク質が放射性同位体で標識される場合、検出または測定は液体シンチレーションによって行うことができる。あるいは、酵素で標識されたタンパク質は、酵素の基質を添加して該基質の酵素的変化、例えば、吸光光度計を用いて発色を検出することにより、検出または測定することができる。さらに、蛍光物質が標識として用いられる場合、結合したタンパク質は、蛍光光度計を用いて検出または測定され得る。
【0229】
さらに、ポリペプチド間の結合はまた、PELP1に対する抗体、またはLAS1Lに対する抗体もしくはSENP3に対する抗体を用いて検出または測定することもできる。例えば、支持体上に固定化されたPELP1ポリペプチドに結合しているLAS1LまたはSENP3ポリペプチドは、それぞれ、抗LAS1L抗体または抗SENP3抗体によって検出することができる。反対に、支持体上に固定化されたLAS1LまたはSENP3ポリペプチドに結合しているPELP1ポリペプチドは、抗PELP1抗体によって検出することができる。本スクリーニングにおいて抗体を使用する場合、抗体は、好ましくは、上述の標識物質の1つを用いて標識され、該標識物質に基づいて検出または測定される。あるいは、前記ポリペプチドに対する抗体を、標識物質で標識された二次抗体を用いて検出される一次抗体として、用いてもよい。さらに、本発明のスクリーニングにおいてタンパク質に結合する抗体は、プロテインGカラムまたはプロテインAカラムを用いて検出または測定されてもよい。
【0230】
本発明によれば、(i)TTLL4とPELP1との間の結合、または(ii)PELP1とLAS1LもしくはSENP3との間の結合の阻害に対する試験化合物の治療効果、あるいはがん(例えば、膵臓癌)を治療または予防するための候補化合物の治療効果を評価することができる。従って、本発明はまた、上記の(i)または(ii)の結合を抑制する候補化合物をスクリーニングするための方法、ならびにがん(例えば、膵臓癌)を治療または予防するための候補化合物をスクリーニングするための方法も提供する。
【0231】
より具体的には、前記方法は、以下の工程を含む:
(a1)TTLL4ポリペプチドもしくはその機能的等価物を、PELP1もしくはその機能的等価物と、試験化合物の存在下で接触させる工程;または
(a2)PELP1ポリペプチドもしくはその機能的等価物を、LAS1LもしくはSENP3またはそれらの機能的等価物と、TTLL4ポリペプチドもしくはその機能的等価物および試験化合物の存在下で接触させる工程;ならびに
(b)(i)TTLL4とPELP1との間の結合レベル、または(ii)PELP1とLAS1LもしくはSENP3との間の結合レベルを検出する工程;ならびに
(c)(b)の結合レベルを、試験化合物の非存在下で検出される結合レベルと比較する工程;ならびに
(d)(b)の結合レベルを、試験化合物の治療効果と相関させる工程。
【0232】
本発明において、治療効果は、(ii)TTLL4とPELP1との間の結合、または(ii)PELP1とLAS1LもしくはSENP3との間の結合と相関し得る。例えば、試験化合物の非存在下で検出されるレベルと比較して、試験化合物が上述のポリペプチド間の結合を阻害する場合には、その試験化合物を、治療効果を有する候補化合物として同定または選択することができる。あるいは、試験化合物の非存在下で検出されるレベルと比較して、試験化合物が上述のポリペプチド間の結合を阻害しない場合には、その試験化合物を、有意な治療効果を有さない剤または化合物として同定することができる。
【0233】
(i)TTLL4ポリペプチドに結合する候補化合物;(ii)TTLL4ポリペプチドの生物学的活性を抑制する候補化合物;(iii)TTLL4の発現レベルを低下させる候補化合物;(iv)TTLL4とPELP1との間の結合を阻害する候補化合物;(v)TTLL4による基質のポリグルタミル化を阻害する候補化合物;(v)PELP1とLAS1LまたはSENP3との間の結合を調節する候補化合物を、スクリーニングすることによって、がん(例えば、膵臓癌)を治療または予防する可能性を有する候補化合物を同定することができる。これらの候補化合物ががんを治療または予防する可能性は、がん治療剤を同定するための第2のスクリーニングおよび/またはさらなるスクリーニングによって評価され得る。例えば、TTLL4ポリペプチドと結合する化合物が上記のがんの活性を阻害する場合、このような化合物はTTLL4特異的な治療効果を有すると結論付けることができる。
【0234】
本発明の局面を以下の実施例で説明するが、これらは特許請求の範囲に記載された本発明の範囲を限定する意図はない。
【0235】
他に規定のない限り、本明細書中で使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者により一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載のものと同様または同等の方法および材料を本発明の実施または試験に使用することができるが、好適な方法および材料を以下で説明する。
【0236】
本発明を以下の実施例でさらに説明するが、これは特許請求の範囲に記載される本発明の範囲を限定しない。
【実施例】
【0237】
I.材料および方法
1.細胞株
PDAC細胞株KLM−1、SUIT−2、KP−1N、PK−1、PK−45P、およびPK−59は、東北大学医用細胞資源センター(仙台、日本)から提供された。PDAC細胞株MIA−PaCa−2およびPanc−1ならびにCOS−7およびHeLaは、アメリカンタイプカルチャーコレクション(American Type Culture Collection (ATCC)、Rockville、MD)から購入した。細胞株KLM−1、SUIT−2、PK−1、PK−45P、PK−59、およびPanc−1は、RPMI1640(Sigma−Aldorich、St. Louis、MO)中で増殖させ、MIA−PaCa−2、COS−7、およびHeLaは、ダルベッコ変法イーグル培地(Sigma−Aldrich)中で増殖させた。全て、10%ウシ胎仔血清および1%抗生物質/抗真菌溶液(Sigma−Aldrich)を含んでいた。細胞を、37℃、5%COを含む加湿空気雰囲気中で維持した。凍結PDAC組織およびパラフィン包埋PDAC組織は、適切なインフォームドコンセントの下で、大阪府立成人病センターにおいて切除された手術検体から得た。これらの臨床試料を用いた本研究は、東京大学医科学研究所および大阪府立成人病センターの治験審査委員会によって承認された。
【0238】
2.半定量RT−PCR
凍結PDAC組織からのPDAC細胞および正常膵管上皮細胞の精製は、以前に述べた(Nakamura T et al., Oncogene 2004, 23:2385-400)。精製されたPDAC細胞および正常膵管上皮細胞に由来するRNAを、2回の、T7に基づくインビトロ転写を用いたRNA増幅(Epicentre Technologies, Madison, WI, USA)に供した。Trizol試薬(Invitrogen)を用いて製造業者の推奨に従って、ヒトPDAC細胞株由来の全RNAを抽出した。抽出されたRNAを、DNaseI(Roche Diagnostic, Mannheim, Germany)で処理し、Superscript II逆転写酵素(Invitrogen)と共にオリゴ(dT)プライマーを用いて、一本鎖cDNAへ逆転写した。チューブリンβ(TUBA)を定量対照としてモニタリングすることによって、その後のPCR増幅のための、各一本鎖cDNAの適切な希釈物を調製した。プライマー配列セットは、TUBAについては

、TTLL4については

であった。全ての反応は、GeneAmp PCR system 9700(PE Applied Biosystems, Foster, CA, USA)での、94℃で2分間の初期変性とそれに続く、94℃で30秒間、58℃で30秒間、および72℃で1分間の23サイクル(TUBAの場合)、29サイクル(TTLL4の場合)を含んでいた。
【0239】
3.ノーザンブロッティング分析
RNeasy Miniキット(QIAGEN, Valencia, CA)を用いて、8種類のPDAC細胞株に由来する1μgのポリA+RNAを得た。mRNA Purification Kit(GE Healthcare, Piscataway, NJ)を用いて製造業者のプロトコルに従って、これらのmRNAを精製した。膵臓癌細胞株(KLM−1、PK−59、PK−45P、MIAPaCa−2、Panc−1、PK−1、SUIT−2、およびKP−1N)ならびに7種の成人正常組織(BD Bioscience, Palo Alto, CAから入手した心臓、肺、肝臓、腎臓、脳、精巣、および膵臓)に由来する、1μgの各mRNAを1%変性アガロースゲル上で分離し、ナイロンメンブレン上にトランスファーした。このノーザンブロットメンブレンおよびヒトMTNブロットメンブレン(Multiple Tissue Northern blot, BD Bioscience)を、Mega Label kit(GE Healthcare, Piscataway, NJ)を用いて標識した32P標識GABRPプローブと、16時間ハイブリダイズさせた。TTLL4のプローブcDNAは、プライマー

を用いて、474bpのPCR産物として調製した。プレハイブリダイゼーション、ハイブリダイゼーション、および洗浄は製造業者の説明書に従って実施した。ブロットを、−80℃で10日間オートラジオグラフにかけた。
【0240】
4.TTLL4に特異的な低分子干渉RNA(siRNA)発現ベクター
PDAC細胞における内在性TTLL4の発現をノックダウンするために、psiU6BX3.0ベクターを、以前に記載したように(Taniuchi K et al., 2005 Cancer Res 65 : 105-12)、標的遺伝子に対する低分子ヘアピン型RNAの発現のために使用した。U6プロモーターを、遺伝子特異的配列(短いスペーサーTTCAAGAGAによって同配列の逆相補鎖から分離された、標的転写物由来の19nt配列)の上流に、終結シグナルである5個のチミジン、およびジェネテシン(Sigma−Aldrich)による選択用のneoカセットと共にクローニングした。TTLL4の標的配列は、

および、陰性対照としての

であった。ヒトPDAC細胞株Panc−1またはMiaPaca2を10cmディッシュ上に播種し、FuGENE6(Roche)を用いて製造業者の説明書に従って、これらのsiRNA発現ベクターでトランスフェクトした後に、1000μg/ml(Panc−1の場合)または800μg/ml(MIAPaCa2の場合)のジェネティシン(GIBCO)で選択を行った。7日後、上記のプライマーを用いたRT−PCRによってTTLL4に対するノックダウン効果を分析するため、10cmディッシュから細胞を採集した。ジェネテシンを含有する適切な培地において12日間培養した後、コロニー形成アッセイのために、該細胞を100%メタノールで固定し、0.1%のクリスタルバイオレット−HOで染色した。MTTアッセイでは、トランスフェクションの6日後に、Cell−counting kit−8(同仁化学研究所、熊本、日本)を用いて、細胞生存率を測定した。Microplate Reader 550(Bio−Rad, Hercules, CA)を用いて、吸光度を490nm、および参照として630nmで測定した。
【0241】
5.TTLL4用およびPELP1用の発現構築物
ヒトTTLL4をコードする完全長cDNAについては、フォワードプライマー:

およびリバースプライマー:

によってPCR産物を増幅し、pCAGGSベクターのEcoR1部位およびNot1部位にクローニングし、配列決定した。酵素のポリグルタミル化活性を失っていると報告された酵素失活型TTLL4変異体(E906A)は(van Dijk J et al., 2007 Mol Cell 26: 437-48)、QuikChange XL Site−Directed Mutagenesis kit(STRATAGENE)およびプライマー

を用いて作製した。完全長Hisタグ付きPELP1発現ベクターは、Dr. Ratna K. Vadlamudi(Vadlamudi RK et al., 2005 Cancer Res 65:7724-7732)の厚意により提供された。PELP1の変異体del887−については、フォワードプライマー:

およびリバースプライマー:

によってPCR産物を増幅し、pCAGGSベクターのEcoR1部位およびNot1部位にクローニングし、配列決定した。PELP1の変異体del887−964については、変異体del887−のインサートと、フォワードプライマー:

およびリバースプライマー:

によって増幅したPCR産物とを連結し、pCAGGSベクターのEcoR1部位およびNot1部位にクローニングし、配列決定した。PELP1の変異体del1003−については、フォワードプライマー:

およびリバースプライマー:

によってPCR産物を増幅し、pCAGGSベクターのEcoR1部位およびNot1部位にクローニングし、配列決定した。
【0242】
6.細胞増殖アッセイ
COS7細胞を10cmディッシュ上に播種し、8ugの野生型TTLL4、変異体TTLL4(E906A)、または空のベクターを用いてトランスフェクトした。トランスフェクションの48時間後に、上記のMTTアッセイによって細胞生存率を評価した。
【0243】
7.ウエスタンブロット分析および免疫沈降
COS−7細胞またはHela細胞をTTLL4発現ベクターおよび/またはPELP1発現ベクターを用いてトランスフェクトし、MIAPaCa−2細胞を、内在性TTLL4を下方制御するためにsi196二本鎖(

:SEQ ID NO:7の標的配列に対する)を用いて、または陰性対照としてsiEGFP二本鎖(

:SEQ ID NO:10の標的配列に対する)を用いて、トランスフェクトした。トランスフェクションの48時間後に、細胞を収集した。前記細胞を、0.4%NP−40溶解緩衝液[0.4% NP−40、150mM NaCl、50mM Tris−HCl、Protease Inhibitor Cocktail Set III(Calbiochem, San Diego, CA, USA)、pH8.0]で溶解し、細胞溶解物を、SDS−PAGE、および抗HA抗体(3F10, Roche, Basel, Switzerland)、抗FLAG M2抗体(SIGMA)、抗PELP1抗体(A300−180A, BETHYL)、または抗ポリグルタミル化GT335抗体(Wolff A et al.,1992 Eur J Cell Biol 59: 425-432)を用いたウエスタンブロット分析に供した。免疫沈降のために、細胞を、溶解緩衝液(50mM Tris−HCl[pH7.0]、250mMスクロース、1mM DTT、10mM EDTA、1mM EGTA、5mM MgCl)で溶解し、抗PELP1抗体(A300−876A, BETHYL)によって細胞溶解物を免疫沈降し、これらの免疫沈降産物を上記のウエスタンブロット分析に供した。
【0244】
8.ヒストンH3相互作用および修飾
PK1細胞またはHeLa細胞を0.4%NP−40溶解緩衝液で溶解し、細胞溶解物を抗PELP1抗体(A300−876A, Bethyl)により免疫沈降し、これらの免疫沈降した複合体を、ヒストンH3抗体(ab1791, abcam, Cambridge, UK)を用いたウエスタンブロット分析に供した。抗アセチル−ヒストンH3 Ab(06−599, Millipore, Bedford, MA, USA)を用いたウエスタンブロット分析によって、ヒストンH3のアセチル化およびメチル化を評価した。
【0245】
9.PELP1相互作用タンパク質の免疫沈降および質量分析(LC−MS/MS)
PK−1細胞を収集し、ホモジネート緩衝液(0.25Mスクロース、10mM Tris−HCl、1mM EDTA、Protease Inhibitor Cocktail Set III、pH7.4)で溶解し、核画分を分離するために、2,300gで、4℃で10分間遠心分離した。ペレットをPBSで2回洗浄し、0.4%NP−40溶解緩衝液で溶解し、氷上で30分間インキュベートした。溶解物を、5μgの抗PELP1抗体(Bethyl)またはウサギIgG(Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA)と共に4℃で1.5時間インキュベートした。免疫複合体を、50μlのプロテインG Sepharose(Invitrogen)と共に1時間インキュベートし、溶解緩衝液で洗浄した。共沈降したタンパク質を7.5%SDS−PAGEゲルで分離し、銀染色キット(Invitrogen)を用いて染色した。PELP1抗体との沈降物に特異的に現われるが、ウサギIgGとの沈降物には現われないバンドを切り出し、これをLC/MS/MS分析によって分析した。切り出されたバンドを、50mMの炭酸水素アンモニウム(Sigma)を含む10mM tris(2−カルボキシエチル)ホスフィン(Sigma)で、37℃で30分間還元し、50mMの炭酸水素アンモニウムを含む50mMのヨードアセトアミド(Sigma)で、暗所25℃で45分間アルキル化した。ブタトリプシン(Promega, San Luis Obispo, CA)を1:20の最終の酵素対タンパク質比で添加した。消化を37℃で16時間行った。結果として生じたペプチド混合物を、300nl/分の全流速で、30分で、0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)中5.4から29.2%アセトニトリルまでという直線勾配を用いて、100μmx150mm HiQ−Sil C18W−3カラム(KYA Technologies、東京、日本)上で分離した。溶出ペプチドを、マトリックス溶液(70%アセトニトリル、0.1%TFA中の4mg/mlのα−シアノ−4−ヒドロキシ−ケイ皮酸(SIGMA)、0.08mg/mlのクエン酸アンモニウム)と自動的に混合し、MaP(KYA Technologies)によってMALDIターゲットプレート上にスポッティングした。質量分析を、4800 Plus MALDI/TOF/TOF Analyzer(Applied Biosystems/MDS Sciex)上で行った。MS/MSピークリストを、Protein Pilotバージョン2.0.1ソフトウェア(Applied Biosystems/MDS Sciex)によって作成し、タンパク質データベース検索のためにローカルMASCOTサーチエンジンバージョン2.2.03(Matrix Science)にエクスポートした。
【0246】
10.SENP3およびLAS1LとのPELP1の相互作用
PELP1とSENP3またはLAS1Lタンパク質との相互作用を確かめるために、PELP1−HA発現ベクターとSENP3−Flag発現ベクターまたはLAS1L−Flag発現ベクターとを、COS−7細胞に同時にトランスフェクトした。ヒトSENP3をコードする完全長cDNAについては、フォワードプライマー:

およびリバースプライマー:

によってPCR産物を増幅し、pCAGGSn3FCベクターのNot1部位およびXho1部位にクローニングし、配列決定した。ヒトLAS1Lをコードする完全長cDNAについては、フォワードプライマー:

およびリバースプライマー:

によってPCR産物を増幅し、pCAGGSn3FCベクターのEcoR1部位およびNot1部位にクローニングし、配列決定した。トランスフェクトされた細胞を前記のように溶解し、ラット抗HA抗体(Roche, クローン3F10)またはFlag M2アガロース親和性ゲル(Sigma)を用いて免疫沈降した。PELP1−HAとSENP3−FlagまたはLAS1L−Flagタンパク質との相互作用を調べるために、これらの免疫複合体を、ウサギ抗FLAG抗体または抗HA抗体を用いたウェスタンブロッティングによって分析した。
【0247】
II.結果
1.PDAC細胞におけるTTLL4の過剰発現
PDAC細胞のゲノムワイドcDNAマイクロアレイ分析によってスクリーニングされた多数のトランス活性化された遺伝子(Nakamura T et al., 2004 Oncogene 23:2385-400)の中で、本研究についてはTTLL4に焦点を当てた。RT−PCRによって、顕微解剖された9つのPDAC細胞集団のうち4集団において、TTLL4過剰発現が確認された(図1A)。プローブとしてTTLL4のcDNA断片を用いたノーザンブロット分析によって、精巣にのみ約4kbの転写物が同定され、肺、心臓、肝臓、腎臓、および脳を含む他の器官には発現は観察されなかった(図1B)。本発明者らはまた、8種類のPDAC細胞株においてTTLL4発現を調べ、調べたPDAC細胞株の全てにおいてTTLL4の発現が見出された(図1C)。
【0248】
2.PDAC細胞の増殖に対するTTLL4−siRNAの効果
PDAC細胞におけるTTLL4発現の生物学的意義を調べるために、TTLL4転写物に特異的な3種類のsiRNA発現ベクター(si#466、si#2692,およびsi#2146)を構築し、内因的に高レベルのTTLL4を発現しているPanc−1細胞(左)またはMia−Paca−2細胞(右)にトランスフェクトした。si#466およびsi#2692をPanc−1細胞にトランスフェクトした場合には、RT−PCRによってノックダウン効果が観察されたが、si#2146または陰性対照siEGFPをトランスフェクトした場合には観察されなかった(図2A左)。Panc−1を用いたコロニー形成アッセイ(図2B左)およびMTTアッセイ(図2C左)により、ノックダウン効果が観察されなかったsi#2146およびsiEGFPを用いてトランスフェクトされた細胞の数と比較して、si#466およびsi#2692を用いてトランスフェクトされた細胞の数の、劇的な低下が明らかになった。これらのsiRNA発現ベクターをMia−Paca−2細胞にトランスフェクトした場合にも、同様の結果が得られた(図2A、B、およびC、右)。
【0249】
3.TTLL4過剰発現は細胞増殖を促進した
がん遺伝子としてのTTLL4の可能性を調べるために、野生型TTLL4または酵素失活型TTLL4(E906A)をCOS7細胞において過剰発現させ(図3A)、これらの過剰発現による増殖促進効果を評価した。ポリグルタミン酸側鎖を特異的に検出できるGT335抗体(Wolff A et al., Eur J Cell Biol 1992, 59: 425-432)を用いたウエスタンブロット分析(図3B)によって、野生型TTLL4の過剰発現はポリグルタミル化を増強するのに対して、酵素失活型TTLL4(E906A)は増強しないことが証明された。MTTアッセイ(図3C)によって、モックでトランスフェクトされた細胞の増殖と比較して、野生型TTLL4は細胞増殖を有意に促進するが、酵素失活型TTLL4(E906A)は細胞増殖を促進しないことが証明された。これらの結果から、TTLL4は、そのポリグルタミル化酵素活性を介して細胞増殖を促進できることが示された。
【0250】
4.TTLL4は非チューブリンタンパク質であるPELP1をポリグルタミル化した
プロテオミクスの手法によって、TTLLファミリーメンバーによるポリグルタミル化の推定基質がいくつか同定された(van Dijk J et al., J Bio Chem 2004, 283:3915-3922)。最初に、TTLL4をHela細胞において過剰発現させ、ポリグルタミル化特異的抗体:GT335抗体(Wolff A et al., Eur J Cell Biol 1992, 59: 425-432)による検出によってタンパク質を比較した。GT335抗体によって、60kDaバンドの近くのα−チューブリンおよびβ−チューブリンを含むいくつかのタンパク質において、増加したレベルのポリグルタミル化が検出された(図4A)。次に、TTLL4ノックダウンにおけるポリグルタミル化のパターンの変化を、PDAC細胞においてGT335を用いてチェックした。GT335抗体によって、60kDaバンドの近くのα−チューブリンおよびβ−チューブリンを含むいくつかのポリグルタミル化タンパク質が、Mia−PaCa−2細胞株(図4B右)およびKLM−1細胞株(図4B左)において検出された。Mia−PaCa−2細胞株およびKLM−1細胞株においてTTLL4をノックダウンした場合には、TTLL4の過剰発現でも検出された200kDaバンド(図4A矢印)のみが、両細胞株に共通して減少した(図4B)。プロテオミクスの手法によって同定された候補ポリグルタミル化タンパク質(van Dijk J et al., 2008 J Bio Chem 283:3915-3922)のうち、この200kDaバンドは、PELP1(prolin−glutamic acid−leucine−rich protein 1)に相当すると考えられた。TTLL4によるPELP1のポリグルタミル化を確かめるために、TTLL4を過剰発現させた場合に(図4C)、またはTTLL4をノックダウンした場合時に(図4D)、PELP1を細胞溶解物から免疫沈降した。図4Cおよび4Dに示したように、GT335抗体を用いたウエスタンブロット分析によって、PELP1のポリグルタミル化レベルがTTLL4発現と高度に一致することが確認された。このことは、PELP1はTTLL4によってポリグルタミル化され得ることを示している。
【0251】
5.PELP1のグルタミン酸リッチ伸展領域のポリグルタミル化
ポリグルタミル化は、チューブリンおよびNAPのグルタミン酸リッチ伸展領域内で、側鎖という様式で起こると考えられる。PELP1は自身のC末端領域に、PELP1のポリグルタミル化領域の候補である、高度にグルタミン酸リッチな領域を有していた(コドン887−964の77%がグルタミン酸で占められる、図5A)。PELP1のこの領域のポリグルタミル化を確かめるために、図5Bに示したように、3種類のPELP1欠失構築物(del887−、del887−964、およびdel1003−)を構築した。(コドン887−を欠く)PELP1del887−および(コドン887−964を欠く)PELIP1del887−964の構築物は、グルタミン酸リッチ領域を欠いている。これらのPELP1構築物をそれぞれ、野生型TTLL4発現ベクターまたは酵素失活型TTLL4発現ベクターと共に同時にトランスフェクトした。完全長PELP1または欠失構築物PELP1del1003−を野生型TTLL4と共に同時にトランスフェクトした場合に、GT335抗体によってポリグルタミル化PELP1が検出された(図6B)。これに対して、グルタミン酸リッチ領域を欠く他の部分的PELP1または酵素失活型TTLL4を同時にトランスフェクトした場合には、この2つの変異体PELP1では検出されなかった(図6A、6B)。これらの知見は、PELP1が、C末端領域にある高度にグルタミン酸リッチな領域(コドン887−964)においてポリグルタミル化される可能性があることを示唆した。
【0252】
6.PELP1複合体はヒストンH3と相互作用することができた;PELP1複合体はクロマチンリモデリングに関与し得る
PELP1のグルタミン酸リッチ伸展領域とヒストンとの相互作用が報告されている(Nair SS et al., 2004 Cancer Res 64: 6416-23, Choi YB et al., 2004 J Biol Chem 279: 50930-41)。PELP1とヒストンH3との間の相互作用はPDAC細胞における免疫沈降でも確認された(図7A)。PELP1のポリグルタミル化がPELP1とヒストンH3との間の相互作用にどのように関与し得るかを調べるために、TTLL4をHeLa細胞においてノックダウンした場合に、細胞溶解物からPELP1の免疫沈降を行い、PELP1とヒストンH3との間の相互作用を調べた。図7Bに示したように、PELP1とヒストンH3との相互作用は、対照(siEGFP)と比較して、TTLL4のノックダウン(siTTLL4)において減少した。PELP1は、HDAC2(ヒストンデアセチラーゼ2)と相互作用して、ヒストン修飾およびクロマチンリモデリングを調節する大きな複合体を形成する可能性がある。従って、TTLL4のノックダウンにおける、ヒストンH3のアセチル化およびメチル化の状態を評価した。再度、TTLL4のノックダウンによってPELP1のポリグルタミル化が減少し、図7Cに示したように、ヒストンH3のアセチル化レベルは、対照(siEGFP)と比較してTTLL4のノックダウン(siTTLL4)において増加した。TTLL4のノックダウンにおいて、いくつかのH3の部位におけるメチル化の状態は変化しなかった(データ示さず)。
【0253】
7.PELP1はSENP3およびLAS1Lと相互作用し、PELP1のポリグルタミル化は、この相互作用に影響を及ぼし得た
PELP1タンパク質は、エストロゲン受容体、SRC、p85などの様々なタンパク質と相互作用し、足場タンパク質として、いくつかのシグナル伝達経路に関与することが示されている(Vadlamudi RK, Kumar R. Nucl Recept Signal; 5: e004)。PDAC細胞におけるPELP1ポリグルタミル化の機能をさらに明らかにするために、最初に、がん細胞においてPELP1と相互作用している新規なタンパク質を同定することを試みた。抗PELP1抗体によって、PDAC細胞の溶解物からタンパク質複合体を免疫沈降し、LC−MS/MS分析によって、LAS1L(LAS1−like)、SENP3(SUMO/sentrin/SMT3 specific protease 3)、およびTEX10(testis expressed 10)が、PDAC細胞においてPELP1タンパク質と相互作用している候補タンパク質であると同定した。
【0254】
第2に、PELP1とこれらの候補タンパク質との相互作用を確認するために、PELP1−HAを発現するベクター、LAS1L−Flagを発現するベクターのいずれか1つ、または両ベクターを一緒に、COS−7細胞にトランスフェクトし、PELP1および/またはLAS1L−Flagを含有するタンパク質複合体を、抗HA抗体(図8A中央)または抗Flag抗体(図8A下部)により細胞抽出物から免疫沈降した。抗HA抗体を用いたウエスタンブロットによって、両発現ベクターを同時にトランスフェクトした場合に、PELP1−HAがLAS1L−Flagと免疫共沈降することが示された(図8A左)。さらに、抗Flag抗体を用いたウエスタンブロットによって、両発現ベクターを共発現した場合に、LAS1L−FlagがPELP1−HAと免疫共沈降することが示された(図8A右)。同様の手法によって、PELP1とSENP3との間の相互作用も確認された(図8B)。PELP1−HAタンパク質はTEX10−Flagタンパク質と免疫共沈降するが、逆の場合では免疫共沈降しないことが確かめられた(図8C)。
【0255】
第3に、PELP1のポリグルタミル化がPELP1とLAS1LまたはSENP3との相互作用にどのように影響を及ぼし得るのかをさらに調べるために、PELP1−HA発現ベクターとLAS1L発現ベクターまたはSENP3発現ベクターとを、野生型TTLL4または酵素失活型TTLL4(E906A)発現ベクターと共に同時にトランスフェクトし、タンパク質複合体を、抗HA抗体(PELP1−HA)によって免疫沈降した。図9Aの上部に示したように、野生型TTLL4の過剰発現におけるPELP1とLAS1Lとの相互作用は、酵素失活型TTLL4の過剰発現と比較して、増強した。これと一致して、図9Aの下部に示したように、TTLL4のノックダウン(siTTLL4)において、PELP1とLAS1Lとの相互作用は減少した。他方で、野生型TTLL4の過剰発現におけるPELP1とSENP3との相互作用は、酵素失活型TTLL4の過剰発現と比較して減少し(図9B上部)、TTLL4のノックダウンによって、PELP1とSENP3との相互作用は増強した(図9B下部)。これらは、PELP1のポリグルタミル化が、PELP1とLAS1LおよびSENP3との相互作用ならびにこれらのタンパク質複合体の機能に影響を及ぼし得ることを示唆した。
【0256】
考察
本発明において、膵臓癌治療の発展のための新規な分子標的が同定された。図1に示したように、TTLL4は、正常な成人器官の中で精巣および膵臓癌細胞において発現している。これらの結果は、副作用が最小限である新規な治療アプローチのための分子標的を選択するのに重要であろう。この局面において、TTLL4は膵臓癌治療のための有望な分子標的である。
【0257】
TTLL4およびその酵素活性はがん細胞の生存および増殖において重要な役割を果たすこと、およびTTLL4はがん遺伝子として作用することが証明された。最も重要なことには、TTLL4は発癌性の足場タンパク質であるPELP1をポリグルタミル化すること(Vadlamudi RK et al., Cancer Res 2005, 65: 7724-7732; Rajhans R et al., Cancer Res 2007, 67: 5505-512; Cheskis BJ et al., Steroid 2008, 73: 901-905)、およびTTLL4はPELP1および他のタンパク質のポリグルタミル化を介してがん遺伝子として機能することが示された。PELP1は、がん細胞増殖のいくつかの重要な分子、例えば、Src、エストロゲン受容体、p85 PI3Kと相互作用すると思われ(Vadlamudi RK et al., Cancer Res 2005, 65: 7724-7732; Rajhans R et al., Cancer Res 2007, 67: 5505-512; Cheskis BJ et al., Steroid 2008,73: 901-905)、いくつかのシグナル伝達経路はPELP1の足場においてクロストークすると思われる。
【0258】
さらに、PELP1はヒストンH3と相互作用し、PELP1のポリグルタミル化がPELP1とヒストンH3との相互作用およびヒストンH3のアセチル化に影響を及ぼすことが示唆された。PELP1およびその相互作用タンパク質であるLAS1L、SENP3、およびTEX10は、MLL1−WDR5複合体のメンバーとして含まれ得る(Dou Y et al., Cell 2005, 121: 873-85; Dou Y et al., Nat Struct Mol Biol 2006, 13: 713-9)。前記複合体は、ヒストンメチルトランスフェラーゼ活性およびヒストンアセチルトランスフェラーゼ活性の両方を有することが報告されており、これらのヒストン修飾の活性は、標的転写を調節するために高度に協調していると考えられる(Cheskis BJ et al., Steroid 2008,73: 901-905; Dou Y et al., Cell 2005、121: 873-85)。PELP1のポリグルタミル化はまた、PELP1とこれらの相互作用タンパク質との親和性およびヒストンH3のアセチル化レベルに影響を及ぼしている可能性がある。
【0259】
理論に拘束されるつもりはないが、グルタミン酸は、負電荷を有する酸性アミノ酸であることに留意されたい。ポリグルタミル化によって標的タンパク質の電荷が変化し得、従って、タンパク質の高次構造が劇的に変化して、タンパク質機能またはタンパク質間相互作用に変化をもたらす可能性がある。
【0260】
産業上の利用可能性
ゲノムワイドcDNAマイクロアレイを通して得られた、本明細書に記載された膵臓癌の遺伝子発現分析により、がんの予防および治療のための標的として特異的な遺伝子が同定された。異なって発現するこれらの遺伝子のサブセットの発現に基づき、本発明は、がんの同定および検出のための分子診断マーカーを提供する。
【0261】
また、本明細書に記載された方法は、がんの予防、診断および治療のためのさらなる分子標的の同定において有用である。本明細書に報告されたデータは、がんの包括的な理解を増し、新規診断戦略の開発を容易にし、治療薬および予防剤用の分子標的の同定のための手掛かりを提供する。本発明は、膵臓腫瘍形成のより深い理解に寄与し、がんの診断、治療、および最終的には予防のための新規戦略を開発するための指標を提供する。
【0262】
本明細書中に引用された全ての特許、特許出願、および公開は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0263】
さらに、詳細にかつ具体的な態様を参照しながら本発明を説明したが、上記の説明は本質的に例示的かつ説明的なものであって、本発明およびその好ましい態様を例示するためのものであることを理解されたい。ルーチンな実験を通して、本発明の本旨および範囲から逸脱することなく、様々な変更および修正がなされ得ることを、当業者は容易に認識するだろう。従って、本発明は、上記の説明によって定義されるのではなく、添付の特許請求の範囲およびそれらの等価物によって定義されるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象由来の生物学的試料におけるTTLL4遺伝子の発現レベルを決定する工程を含む、対象におけるがんを検出または診断する方法であって、TTLL4の正常対照レベルと比較した該レベルの増加が、該対象ががんに罹患しているかまたはがんを発症するリスクを有していることを示し、該発現レベルが、以下からなる群より選択されるいずれか一つの方法によって決定される、方法:
(a)TTLL4遺伝子のmRNAを検出する方法、
(b)TTLL4遺伝子によってコードされるタンパク質を検出する方法、および
(c)TTLL4遺伝子によってコードされるタンパク質の生物学的活性を検出する方法。
【請求項2】
前記増加が、正常対照レベルよりも少なくとも10%大きい、請求項1記載の方法。
【請求項3】
がんが膵臓癌である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
以下からなる群より選択される試薬を含む、がんを検出または診断するためのキット:
(a)TTLL4遺伝子のmRNAを検出するための試薬;
(b)TTLL4遺伝子によってコードされるタンパク質を検出するための試薬;および
(c)TTLL4遺伝子によってコードされるタンパク質の生物学的活性を検出するための試薬。
【請求項5】
試薬が、TTLL4遺伝子の遺伝子転写物に対するプローブである、請求項4記載のキット。
【請求項6】
試薬が、TTLL4遺伝子によってコードされるタンパク質に対する抗体である、請求項4記載のキット。
【請求項7】
がんが膵臓癌である、請求項4記載のキット。
【請求項8】
細胞に導入された場合にTTLL4遺伝子のインビボ発現および細胞増殖を阻害する単離された二本鎖分子であって、該分子が、互いにハイブリダイズして二本鎖分子を形成するセンス鎖とこれに相補的なアンチセンス鎖とを含み、該センス配列が、SEQ ID NO:7および8からなる群より選択されるヌクレオチド配列に対応するヌクレオチド配列を含む、単離された二本鎖分子。
【請求項9】
約19〜約25ヌクレオチド長のオリゴヌクレオチドである、請求項8記載の二本鎖分子。
【請求項10】
介在一本鎖により連結されたセンス鎖およびアンチセンス鎖の両方を含む単一のポリヌクレオチドからなる、請求項8記載の二本鎖分子。
【請求項11】
下記一般式を有する、請求項10記載の二本鎖分子:
5’−[A]−[B]−[A’]−3’
式中、[A]は、SEQ ID NO:7および8からなる群より選択される標的配列に対応する配列を含むセンス鎖であり、[B]は、3〜23個のヌクレオチドからなる介在一本鎖であり、かつ[A’]は、[A]に対する相補配列を含むアンチセンス鎖である。
【請求項12】
請求項8〜11のいずれか一項記載の二本鎖分子をコードするベクター。
【請求項13】
TTLL4遺伝子に対する二本鎖分子またはこれをコードするベクターの薬学的有効量と、薬学的に許容可能な担体とを対象に投与する工程を含む、対象におけるがんを治療または予防する方法であって、該二本鎖分子が、TTLL4遺伝子のインビボ発現および細胞増殖を阻害し、該二本鎖分子が、互いにハイブリダイズして二本鎖分子を形成するセンス鎖とこれに相補的なアンチセンス鎖とを含み、該二本鎖分子の標的配列が、TTLL4遺伝子のうちの連続した部分に対応するヌクレオチド配列を含む、方法。
【請求項14】
二本鎖分子の標的配列が、SEQ ID NO:7および8からなる群より選択されるヌクレオチド配列を含む、請求項13記載の方法。
【請求項15】
治療されるがんが膵臓癌である、請求項13記載の方法。
【請求項16】
TTLL4遺伝子に対する二本鎖分子またはこれをコードするベクターの薬学的有効量と、薬学的に許容可能な担体とを含む、がんを治療または予防するための組成物であって、該二本鎖分子が、TTLL4遺伝子のインビボ発現および細胞増殖を阻害し、該二本鎖分子が、互いにハイブリダイズして二本鎖分子を形成するセンス鎖とこれに相補的なアンチセンス鎖とを含み、該二本鎖分子の標的配列が、TTLL4遺伝子のうちの連続した部分に対応するヌクレオチド配列を含む、組成物。
【請求項17】
二本鎖分子の標的配列が、SEQ ID NO:7および8からなる群より選択されるヌクレオチド配列を含む、請求項16記載の組成物。
【請求項18】
治療されるがんが膵臓癌である、請求項16記載の組成物。
【請求項19】
膵臓癌がPDACである、請求項18記載の組成物。
【請求項20】
以下の工程を含む、TTLL4に関連するがんを治療もしくは予防するか、またはTTLL4を発現しているがん細胞の増殖を阻害するための候補化合物をスクリーニングする方法:
(a)試験化合物を、TTLL4ポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドと接触させる工程;
(b)該ポリペプチドと試験化合物との間の結合活性を検出する工程;および
(c)該ポリペプチドに結合する試験化合物を選択する工程。
【請求項21】
以下の工程を含む、TTLL4に関連するがんを治療もしくは予防するか、またはTTLL4を発現しているがん細胞の増殖を阻害するための候補化合物をスクリーニングする方法:
(a)試験化合物を、TTLL4ポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドと接触させる工程;
(b)工程(a)のポリペプチドの生物学的活性を検出する工程;および
(c)試験化合物の非存在下で検出されるTTLL4ポリペプチドの生物学的活性と比較して、該ポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドの生物学的活性を抑制する試験化合物を選択する工程。
【請求項22】
生物学的活性が、細胞増殖の促進およびポリグルタミル化活性からなる群より選択される、請求項21記載の方法。
【請求項23】
以下の工程を含む、TTLL4に関連するがんを治療もしくは予防するか、またはTTLL4を発現しているがん細胞の増殖を阻害するための候補化合物をスクリーニングする方法:
(a)試験化合物を、TTLL4を発現している細胞と接触させる工程;および
(b)試験化合物の非存在下で検出されるTTLL4発現レベルと比較して、該発現レベルを低下させる試験化合物を選択する工程。
【請求項24】
以下の工程を含む、TTLL4に関連するがんを治療もしくは予防するか、またはTTLL4を発現しているがん細胞の増殖を阻害するための候補化合物をスクリーニングする方法:
(a)TTLL4転写調節領域と該転写調節領域の制御下で発現されるレポーター遺伝子とを含むベクターが導入された細胞に、試験化合物を接触させる工程;
(b)レポーター遺伝子の発現または活性を測定する工程;および
(c)試験化合物の非存在下で検出されるレポーター遺伝子の発現または活性と比較して、レポーター遺伝子の発現レベルまたは活性レベルを低下させる試験化合物を選択する工程。
【請求項25】
以下の工程を含む、TTLL4に関連するがんを治療もしくは予防するか、またはTTLL4を発現しているがん細胞の増殖を阻害するための候補化合物をスクリーニングする方法:
(a)TTLL4ポリペプチドまたはその機能的等価物を、PELP1ポリペプチドまたはその機能的等価物と、試験化合物の存在下で接触させる工程;
(b)該ポリペプチド間の結合を検出する工程;および
(c)該ポリペプチド間の結合を阻害する試験化合物を選択する工程。
【請求項26】
TTLL4ポリペプチドの機能的等価物がPELP1結合ドメインを含む、請求項25記載の方法。
【請求項27】
PELP1ポリペプチドの機能的等価物がTTLL4結合ドメインを含む、請求項25記載の方法。
【請求項28】
以下の工程を含む、TTLL4に関連するがんを治療もしくは予防するか、またはTTLL4を発現しているがん細胞の増殖を阻害するための候補化合物をスクリーニングする方法:
(a)TTLL4ポリペプチドまたはその機能的等価物を、ポリグルタミル化される基質、および補因子であるグルタミン酸と、試験化合物の存在下で、該基質のポリグルタミル化に好適な条件下で接触させる工程;
(b)該基質のポリグルタミル化レベルを検出する工程;および
(c)試験化合物の非存在下で検出されるポリグルタミル化レベルと比較して、ポリグルタミル化レベルを低下させる試験化合物を選択する工程。
【請求項29】
TTLL4ポリペプチドの機能的等価物が、SEQ ID NO:22に相当するTTLドメインを含む、請求項28記載の方法。
【請求項30】
前記基質が、SEQ ID NO:23に相当するグルタミン酸リッチドメインを含むポリペプチドである、請求項28記載の方法。
【請求項31】
前記基質がPELP1である、請求項28記載の方法。
【請求項32】
以下の工程を含む、TTLL4に関連するがんを治療もしくは予防するか、またはTTLL4を発現しているがん細胞の増殖を阻害するための候補化合物をスクリーニングする方法:
(a)PELP1ポリペプチドまたはその機能的等価物を、LAS1Lまたはその機能的等価物と、TTLL4ポリペプチドまたはその機能的等価物および試験化合物の存在下で、接触させる工程;
(b)PELP1ポリペプチドとLASILポリペプチドとの間の結合活性を検出する工程;ならびに
(c)試験化合物の非存在下でのPELP1ポリペプチドとLASILポリペプチドとの間の結合活性と比較して、PELP1ポリペプチドとLASILポリペプチドとの間の結合活性を阻害する試験化合物を選択する工程。
【請求項33】
以下の工程を含む、TTLL4に関連するがんを治療もしくは予防するか、またはTTLL4を発現しているがん細胞の増殖を阻害するための候補化合物をスクリーニングする方法:
(a)PELP1ポリペプチドまたはその機能的等価物を、SENP3またはその機能的等価物と、TTLL4ポリペプチドまたはその機能的等価物および試験化合物の存在下で、接触させる工程;
(b)PELP1ポリペプチドとSENP3ポリペプチドとの間の結合活性を検出する工程;ならびに
(c)試験化合物の非存在下でのPELP1ポリペプチドとSENP3ポリペプチドとの間の結合活性と比較して、PELP1ポリペプチドとSENP3ポリペプチドとの間の結合活性を増強する試験化合物を選択する工程。
【請求項34】
TTLL4ポリペプチドの機能的等価物が、SEQ ID NO:22に相当するTTLドメインを含む、請求項32または33記載の方法。
【請求項35】
PELP1ポリペプチドの機能的等価物が、SEQ ID NO:23に相当するグルタミン酸リッチドメインを含む、請求項32または33記載の方法。
【請求項36】
がんが膵臓癌である、請求項20〜35のいずれか一項記載の方法。
【請求項37】
以下の成分を含む、TTLL4に関連するがんを治療するか、またはTTLL4を発現しているがん細胞の増殖を阻害するための候補化合物をスクリーニングするためのキットであって、該化合物がポリグルタミル化活性を低下させる、キット:
(a)TTLL4ポリペプチドまたはその機能的等価物;
(b)(a)のポリペプチドによるポリグルタミル化が可能な基質;
(c)グルタミン酸;および
(d)基質のポリグルタミル化を検出するための試薬。
【請求項38】
TTLL4ポリペプチドの機能的等価物が、SEQ ID NO:22に相当するTTLドメインを含む、請求項37記載のキット。
【請求項39】
前記基質が、SEQ ID NO:23に相当するグルタミン酸リッチドメインを含むポリペプチドである、請求項37記載のキット。
【請求項40】
(d)の試薬が抗ポリグルタミル化抗体である、請求項37記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2012−501167(P2012−501167A)
【公表日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−509341(P2011−509341)
【出願日】平成21年8月21日(2009.8.21)
【国際出願番号】PCT/JP2009/004031
【国際公開番号】WO2010/023856
【国際公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(502240113)オンコセラピー・サイエンス株式会社 (142)
【Fターム(参考)】