説明

臓器、生物組織または生細胞を保存するための媒質

本発明は、高分子量ヒアルロン酸および塩化ナトリウムを含み、動物由来の成分を含まないことを特徴とする、液体栄養ベースを含む、臓器、生物組織、または生細胞を保存するための媒質に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生細胞を保存する技術分野に関する。より正確には、本発明の目的は、生きている臓器、生物組織、および細胞、特に生きているヒト角膜を保存するための新しい媒質である。
【背景技術】
【0002】
臓器移植の分野では、レシピエントへ移植する目的でドナーから臓器を取る場合、移植を成功させるために臓器の生存力を維持し得る臓器用の保存媒質が必要となる。実際に、種々の媒質がしばしば必要である。特にヒト角膜の場合、通常使用する媒質には:
角膜を提供施設から培養施設まで輸送し、同様にその角膜を培養施設から移植施設まで輸送するための輸送媒質、
保存媒質。一般に、保存は4℃または31℃で行われる。この媒質は、媒質期間中、すなわち約4〜5週間の細胞生存力の最適な保存、品質(内皮試験)および無菌性(細菌学、血清学、およびウィルス学試験)に関して最大の安全を保証しなければならない、ならびに
角膜の厚みを減らし、透明にするために移植の約24時間前に使用する水分排出媒質(deturgescence medium)がある。
【0003】
現在使用されている媒質の大半が、動物起源の成分:ウシ胎児血清アルブミン、トランスフェリン、インシュリンなどの動物起源のタンパク質を含んでいる。
【0004】
これらの媒質中には動物起源の成分が存在するため、プリオン病、特にクロイツフェルト−ヤコブ病に関してこれらの医療の安全を保証するのは困難である。さらに、これらの媒質は、感染因子による汚染を受けやすく、完全に再生可能な組成ではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これに関して、本発明は、生細胞の生存力を保存する新しい保存媒質を提供することを目的とする。
【0006】
本発明の別の目的は、含んでいる成分の点で製造するのに安価な保存媒質を提供することである。
【0007】
本発明による保存媒質はまた、品質および無菌性に関して最大の安全を示さなければならない。
【0008】
さらに、これは、完全に合成の、すなわち、組換えおよび化学合成から得られ、したがって非免疫原性であり感染因子に汚染されていない成分から調製することが可能な利点を示す。このため、本発明による保存媒質は、バッチごとに再現可能な厳密な組成を示すことができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
より正確には、本発明は、高分子量のヒアルロン酸および塩化ナトリウムを含み、動物起源の成分を含まない、生きている臓器、生物組織、および細胞のための液体栄養ベースを含む保存媒質に関する。
【0010】
本発明はまた、保存、臓器培養、細胞培養、輸送、ならびに生きている臓器、生物組織、および細胞、特に生きているヒト角膜の水分排出のためのかかる媒質の使用という目的がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
生きている生物学的臓器、細胞、および組織とは、生きている線維芽細胞、内皮細胞、および/または上皮細胞を含めたヒトまたは動物起源の成分を表す。
【0012】
本発明の保存媒質は、補助的治療薬と表すことができる。
【0013】
本発明による保存媒質は、内皮細胞および周囲の組織を保護するものである粘弾性物質(VES)を含む。これらの粘弾性物質は、特に高分子量のヒアルロン酸である。
【0014】
高分子量、すなわち分子量が100万ダルトン以上のヒアルロン酸は、動物起源、尖圭コンジローム抽出物または臍帯血、細菌起源(連鎖球菌の培養物由来)、あるいは野菜起源であってよい。もちろん、本発明による保存媒質は、動物起源の成分を含まないことを考えると、野菜起源の高分子量ヒアルロン酸を含む。特に、本発明の保存媒質は、分子量が10ダルトン以上で20℃でのブルックフィールド粘度が1,500センチポアズである、どちらもLaboratoire Bomann(Groupe Soliance)製の、商標名Cristalhyalで販売されている粉末形態の、または商標名Vitalhyalで販売されている1%水溶液の形の小麦由来の高分子量ヒアルロン酸を用いて調製することになる。
【0015】
本発明による保存媒質はまた、結晶状の塩化ナトリウムを含む。塩化ナトリウムの機能は、特に、ヒアルロン酸の沈殿を防止することであるが、浸透圧モル濃度の維持にも関係する。
【0016】
特に、本発明による保存媒質は:
80〜4,000mg/l、好ましくは100〜200mg/l、優先的には100〜160mg/lの高分子量ヒアルロン酸、および
4,500〜9,000mg/l、好ましくは5,500〜9,000mg/l、優先的には7,000mg/lの塩化ナトリウムを含む。
【0017】
本発明による媒質は、特に媒質の粘度を増大させる機能を有するポロキサマー188を含むと有利である。
【0018】
Pluronic F68およびLutrol(登録商標)F68とも呼ばれているポロキサマー188は、分子量が7,680〜950g/molで一般式:
HO−(CH−CH−O)−[CH−CH(CH)−O]−(CH−CH−O)−H
(式中、xは約79に等しく、yは約28に等しい)
のポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンポリマー配列である。
【0019】
ポロキサマー188の存在は、本発明による媒質では、前記媒質が臓器の水分排出ならびに生きている組織、細胞、特に、ヒト角膜移植片の輸送および保存に使用するものである場合、特に有利である。本発明による媒質は、好ましくは200〜75,000mg/l、優先的には450〜50,000mg/lのポロキサマー188を含むことになる。
【0020】
現在販売されている角膜を水分排出するための保存媒質は、デキストランを含む。デキストランの機能は、角膜の厚みを減らすことであり、角膜を水分排出するための本発明による媒質に使用することができる。それでも、同様に角膜の厚みを減らすがはるかに細胞毒性が少ないポロキサマー188が、デキストランに比べて好ましい。
【0021】
メチルセルロースは、本発明による保存媒質に含まれていてよいもう一つのVESである。メチルセルロースは植物起源であり、綿フロックまたは木材パルプ由来のセルロース繊維から得られる。これらのセルロース繊維は、塩化メチレンを用いてエーテル化させるために苛性ソーダ溶液で処理する。グルコシド単位当りのメトキシル化した置換基の数に相当する置換の程度は、1.64〜1.92である。特に、本発明の保存媒質を調製するために、ブルックフィールド粘度が4,000センチポアズ(20℃で2%水溶液)で分子量が86,000ダルトンの、SEPPICによりMetoloseSM 400の商標名で販売されているメチルセルロースを使用することができる。本発明による媒質は、210〜5,000mg/l、好ましくは1,900〜2,500mg/l、優先的には2,205mg/lのメチルセルロースを含むことが好ましい。
【0022】
使用したVESは、水の保持による細胞の水和を可能にし、それらが囲んでいる細胞および組織へのある種の接着または付着を示し、したがって化学的攻撃および空気の毒性作用に対して前記囲んでいる細胞および組織を確実に保護する。
【0023】
本発明による保存媒質は、生細胞保存の分野でより一般的に使用されている他の成分も含む。
【0024】
特に、保存媒質は、臓器および細胞培養保存媒質に従来使用されている水性化学的栄養ベースを含む。有名な参考論文は、栄養ベースが以下のものを含むことが記載されている「Le technoscope de biofutur」、第133巻、1994年4月、3〜16頁である:
細胞代謝における役割が窒素および炭素を供給することであるアミノ酸。いくつかの細胞には、13種の必須アミノ酸とは別に特定の要求物がある(例えば、リンパ球にはセリン);
乳酸の蓄積を制限する必要がある場合は代わりにガラクトースを使用することができるが、グルコースが最も広く使用されている糖類;
そのうち8種が必須であると考えられているビタミン、主にB群;
生理的食塩水の形で供給する、膜電位および浸透圧の維持に重要な役割を果たし、多くの酵素反応における補助因子でもあるイオン;
特に厳密な媒質中で培養を行う場合にますます重要な役割を果たすと思われる微量金属。最も重要なのは、セレン、カドミウム、およびリチウムである。
【0025】
この種のベースは、これらの様々な構成元素から調製することができる。特定の化学的栄養ベースは、液体と固体のどちらの形態でも市販されている:後者は、その後水に溶解させなければならない。特に有用なものは、IMDM(イスコフ改変ダルベッコ媒質、参照:Iscove、N.N.およびMelchers(1978)J.of Exp.Med.147:923〜933)、Stainers、C.P.ら、Nature New Biol.230、52(1971)のMEMアルファ、Clickら、Cell.Immunol.3、264(1972)のクリックRPMI、Parker、R.C.ら、Special Publications、N.Y.Academy of Sciences、5、303、(1957)のCMRL1066媒質、Leibovitz、A.、Am.J.Hyg.78、173(1963)およびMorton、H.J.、In vitro、6、89(1970)のライボビッツL15媒質、Morgan、J.Fら、Proc.Soc.Exp.Biol.Med.73、1(1950)のM199媒質、ならびにBarnes、D.およびSato、G.、Anal.Biochem.102、255(1980)のDMEM/HAM F12媒質、細胞および組織の維持に必要な様々な物質、特に様々な微量元素、アミノ酸、ビタミン、電解質、安定化pH緩衝液、pH指示薬(例えば、フェノールレッド)、およびグルコースまたはガラクトース(L15)を含む水性栄養ベースである。微量元素とは、微量またはそれより多い量で存在する、NaClを除いたすべての金属無機塩を表す。
【0026】
有利な方法では、本発明による保存媒質は、使用する栄養ベースによって主に供給されるアミノ酸、微量元素、ビタミン、電解質、および安定化pH緩衝液をこのように含む。これらの元素が使用するベースに十分な量含まれていない場合、前記元素を補給することになる。
【0027】
本発明による保存媒質は、有利にはそれぞれ独立に、1〜50mg/lのコンドロイチン硫酸、0.1〜25mg/lのヘパラン硫酸、500〜2,000mg/lのアルギン酸、および1,000〜10,000mg/lのヘタスターチを含む。
【0028】
保存媒質をヒト角膜移植に使用することを目的としている場合、乳酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、アスコルビン酸鉄(II)、グルコン酸鉄(II)、ピルビン酸ナトリウム、および塩化カルシウムなど房水中に存在する成分をなるべく含めることになる。
【0029】
特に有利な方法では、本発明による保存媒質は、それぞれ独立に、または組み合わせて:
・好ましくは以下のものから選択した0.01〜350mg/lのビタミン:
酢酸トコフェロール
酢酸レチノール
ヒドロキノン
アスコルビン酸
チアミンB1−HCL
リボフラビンB2
カルシウムD−パントテン酸B5
塩酸ピリドキサールB6
ビオチンB8
葉酸B9
シアンコバラミンB12
ニコチンアミドB3 PP
オロチン酸クロムB13
・好ましくは以下のものから選択した0.01〜650mg/lの微量元素:
CaCl・2H
KCl
CaHPO・2H
NaHPO・H
NaHCO
MgCO・7H
MgSO・7H
FeSO・7H
CuSO・5H
MnCO・4H
MnCl・4H
NaSiO・9H
SeO
NHVO
(NH)6Mo24・4H
SnC1・2H
ZnSO・7H
酸化亜鉛
NiCl・6H
・好ましくは以下のものから選択した0.005〜150mg/lのヌクレオシド:
アデノシン
シチジン
デオキシアデノシン
デオキシシチジン
デオキシグアノシン
グアノシン
ウリジン
チミジン
・800〜4,000mg/lのアミノ酸、
・500〜9,000mg/lの単糖類、好ましくはグルコースおよび/またはガラクトース、
・全濃度0.001〜75,000mg/lでの他の元素、特に:
酢酸ナトリウム(3H0)
クエン酸ナトリウム
乳酸ナトリウム
ピルビン酸ナトリウム
グルコン酸鉄(II)
亜セレン酸ナトリウム
ポロキサマー188
オレイン酸
リノール酸
リノレン酸
パルミチン酸
ツイーン80
を含む。
【0030】
本発明による保存媒質は、液体または半固体形態であってよい。これは、細胞保護を助けるのに十分有効な粘度を示す。有利な方法では、本発明による保存媒質のブルックフィールド粘度は、20℃で1〜15センチポアズ(cps)、好ましくは2.5〜10cpsの範囲である。したがって、本発明による保存媒質は、その粘度のため注入不可能である。
【0031】
本発明による媒質の浸透圧モル濃度も重要であり、特に300〜465mOsm±40の範囲である。媒質の浸透圧モル濃度は、特にNaCl濃度によって決まる。本発明による媒質が保存または輸送を目的としている場合、その浸透圧モル濃度は、有利には300〜360mOsm±40の範囲のはずであり;水分排出を目的としている場合、その浸透圧モル濃度が350〜465mOsm±40であると有利である。現在販売されている保存媒質の浸透圧モル濃度はより低い。本発明の利点の1つは、輸送、保存、および水分排出のための単一媒質を提供できることである。
【0032】
本発明による保存媒質は、様々な成分を混合することによって調製する。好ましくは、ヒアルロン酸の液体生物学的栄養ベースへの溶解を改善するためには、後者を塩化ナトリウムと混合し、次いでメチルセルロースをすでに含んでいる栄養ベースに加えることになる。
【0033】
本発明による保存媒質は、動物起源の成分を含まない。事実、一方では、生きている臓器、生物組織、および生細胞の保存のために現在まで使用されてきた大部分の媒質に反して、本発明による媒質は、ウシ胎児血清アルブミンも、ラクトフェリンも、トランスフェリンも、インシュリンも、他の動物起源のタンパク質も含まない。さらに、その合成に動物起源の原料を利用しない高分子量ヒアルロン酸およびメチルセルロースを使用している。したがって、このような保存媒質は、フランス公衆衛生規定の条項L.1263−1で定義されている補助的治療薬に関する法律に容易に準拠することができる。動物起源の成分を含まない保存媒質の使用により、保存細胞の医療保障を向上することができる。
【0034】
本発明による保存媒質は、生きている臓器、生物組織、および細胞、特に生きているヒト角膜の保存、臓器培養、細胞培養、凍結、輸送、および水分排出に使用することができる。本発明による保存媒質は、特に−196℃〜37℃の範囲の温度で使用可能である。
【0035】
本発明による保存媒質は、想定した用途に応じて適合させることができる。
【0036】
例えば、本発明による媒質が術前の水分排出に使用するものである場合、有利にはポロキサマー188を200〜75,000mg/l、優先的には450〜50,000mg/lの濃度で含むことになる。
【0037】
媒質が生細胞の凍結に使用するものである場合、媒質中に存在する水の一部を凍結防止効果があるジメチルスルホキシド(DMSO)と置き換えることができる。
【実施例】
【0038】
以下の実施例は、本発明を例示しているが、決して限定するものではない。以下の実施例は、Laboratoire Bowman(Groupe Soliance)によって商標名Cristalhyalで販売されている粉末形態のヒアルロン酸、SEPPICにより商標名メトローズSM 4000で販売されているメチルセルロース、およびSigma Aldrichによって販売されているNaClを使用している。実施例1から3(保存媒質)は、IMDMベースの体積が74%であり、実施例4から7(水分排出媒質)は、IMDMベースの体積が88%である。
【0039】
浸透圧モル濃度は、基準M85501に従ってFisher Bioblock Scientificから販売されている浸透圧計で測定している(キー操作による自動零点[蒸留水]および標準[300mOsm/kg]較正;応答時間1分)。
【0040】
粘度は、基準M57571に従ってFisher Bioblock Scientificから販売されている、1cps基準M57510から始まる低粘度アダプターを備えた粘度計で測定している(速度、選択した移動相、cpsおよび範囲%における粘度、ならびに温度の同時表示;ブルックフィールド互換;移動相は試料に直接投入する)。
【0041】
実施例1:実施例1の媒質は、輸送および保存に使用すると有利である。
高分子量ヒアルロン酸 100mg/l
メチルセルロース 2,205mg/l
NaCl 6,985mg/l
アミノ酸 1,838mg/l
微量元素 5,390mg/l
グルコース 4,500mg/l
炭水化物 1,167mg/l
ヌクレオシド 10mg/l
ビタミン 163mg/l
脂肪酸エステル 46mg/l
緩衝液 8,982mg/l
pH 7.3
浸透圧モル濃度 394mOsm
粘度 5cps(ブルックフィールド、20℃)
【0042】
実施例2:実施例2の媒質は、輸送および保存に使用すると有利である。
高分子量ヒアルロン酸 100mg/l
メチルセルロース 2,205mg/l
NaCl 5,585mg/l
アミノ酸 1,838mg/l
微量元素 5,390mg/l
グルコース 4,500mg/l
炭水化物 1,167mg/l
ヌクレオシド 10mg/l
ビタミン 163mg/l
脂肪酸エステル 46mg/l
緩衝液 8,982mg/l
pH 7.3
浸透圧モル濃度 372mOsm
粘度 5cps(ブルックフィールド、20℃)
【0043】
実施例3:実施例3の媒質は、輸送および保存に使用すると有利である。
高分子量ヒアルロン酸 160mg/l
ポロキサマー188 2,205mg/l
NaCl 5,585mg/l
アミノ酸 1,838mg/l
微量元素 5,390mg/l
グルコース 4,500mg/l
炭水化物 1,167mg/l
ヌクレオシド 10mg/l
ビタミン 163mg/l
脂肪酸エステル 46mg/l
緩衝液 8,982mg/l
pH 7.3
浸透圧モル濃度 305mOsm
粘度 1.5cps(ブルックフィールド、20℃)
【0044】
実施例4:実施例4の媒質は、水分排出に使用すると有利である。
高分子量ヒアルロン酸 100mg/l
メチルセルロース 2,205mg/l
デキストラン 50,000mg/l
NaCl 6,895mg/l
アミノ酸 1,838mg/l
微量元素 5,390mg/l
グルコース 4,500mg/l
炭水化物 1,167mg/l
ヌクレオシド 10mg/l
ビタミン 163mg/l
脂肪酸エステル 46mg/l
緩衝液 8,982mg/l
pH 7.3
浸透圧モル濃度 694mOsm
粘度 10cps(ブルックフィールド、20℃)
【0045】
実施例5:実施例5の媒質は、水分排出に使用すると有利である。
高分子量ヒアルロン酸 100mg/l
メチルセルロース 2,205mg/l
デキストラン 50,000mg/l
NaCl 5,585mg/l
アミノ酸 1,838mg/l
微量元素 5,390mg/l
グルコース 4,500mg/l
炭水化物 1,167mg/l
ヌクレオシド 10mg/l
ビタミン 163mg/l
脂肪酸エステル 46mg/l
緩衝液 8,982mg/l
pH 7.3
浸透圧モル濃度 585mOsm
粘度 10cps(ブルックフィールド、20℃)
【0046】
実施例6:実施例6の媒質は、水分排出に使用すると有利である。
高分子量ヒアルロン酸 160mg/l
デキストラン 50,000mg/l
NaCl 5,585mg/l
アミノ酸 1,838mg/l
微量元素 5,390mg/l
グルコース 4,500mg/l
炭水化物 1,167mg/l
ヌクレオシド 10mg/l
ビタミン 163mg/l
脂肪酸エステル 46mg/l
緩衝液 8,982mg/l
pH 7.3
浸透圧モル濃度 595mOsm
粘度 8.5cps(ブルックフィールド、20℃)
【0047】
実施例7:実施例7の媒質は、水分排出に使用すると有利である。
高分子量ヒアルロン酸 160mg/l
ポロキサマー188 50,000mg/l
NaCl 5,585mg/l
アミノ酸 1,838mg/l
微量元素 5,390mg/l
グルコース 4,500mg/l
炭水化物 1,167mg/l
ヌクレオシド 10mg/l
ビタミン 163mg/l
脂肪酸エステル 46mg/l
緩衝液 8,982mg/l
pH 7.3
浸透圧モル濃度 376mOsm
粘度 5cps(ブルックフィールド、20℃)
【0048】
(材料および方法)
保存順序
ドナーの死後24時間以内に科学的なヒト角膜(科学的研究に提供された臓器)を採取する。ドナーは、同じドナー由来の2つの角膜の比較可能性を維持するために、眼内手術を受けるべきではない。取り出した後、対のそれぞれの角膜を輸送媒質50mlに浸漬する。参照媒質(Inosol(登録商標)、Chauvin−Opsia/Baush and Lomb、Toulouse、フランス)または本発明による媒質(実施例1から3)のいずれかを使用する。角膜を含む密封したフラスコをすぐに31℃の乾燥機に入れる。臓器培養物の保存2日目には、後述の手順に従って内皮細胞密度(ECD)を測定する。次いで角膜を、新しい100mlフラスコ中の同じ種類の媒質中に再度浸し、フラスコ壁およびフラスコ底に沈殿した沈降物と接触するのを防止するために縫合糸と懸濁させる。14日間保存した後、角膜を新しい100mlフラスコに移す。欧州における最高推奨期間である30日間保存した後、新しいECD測定を行い、所与の保存期間について細胞損失を計算する。次いで角膜を、その厚みを減らすことを目的とした「水分排出」媒質50mlに浸漬する。Exosol(登録商標)(Chauvin−Opsia/Baush and Lomb)あるいは50,000mg/lのデキストランまたは50,000mg/lのポロキサマー188に対応する本発明による媒質(実施例4から7)のいずれかを使用する。48時間後、バックライトをあてた、徐々に太くなる8本の黒線のグリッドに位置を合わせて同じ対の2つの角膜を並んで撮影する。この写真は、角膜透明度の記録となる。超音波厚度計(Tomey AL−2000、東京、日本)によって角膜の厚さを尖部で測定する。3回目のECD測定は、細胞膜を染色する目的でpH4.5のリン酸緩衝液中4%アリザリンレッド(Sigma)と一緒に45秒間のインキュベーションを行った後に実施する。この重要ではない染色は、その細胞毒性のために、保存の最後にしか利用できない。
【0049】
全体の手順は、保存媒質の性質に関して盲検で行う。
【0050】
盲検分析を保証する手順
2種類の保存および水分排出媒質を同一容器(125ml Nalgeneフラスコ)内に詰め、保存にもECD測定にも関与しない人が番号を付ける。無作為化表に基づいた番号付けシステムにより、予期しないフラスコの番号に従って媒質の識別が行われる。
【0051】
ECD測定手順
BSS(平衡塩類溶液、Alcon、Kaysersberg、フランス)を用いて角膜をすすいだ後、内皮を0.4%トリパンブルー(Sigma)で1分間覆い、次いで0.9%塩化ナトリウムで4分間すすぐ。次いで、角膜内皮を、Br J Ophthalmol 2002年、86、306〜11頁および531〜6頁のGain P.らによって記載されている内皮モザイク分析器のプロトタイプと一体になった光学顕微鏡下で、10倍で観察する。内皮の異なる領域の像を10個取込み、後で分析するためにコンピューターのハードディスクにアーカイブする。それぞれの分析には、300個以上の細胞が関与する。
【0052】
(結果)
ドナーの特徴
ドナーは、年齢が57〜90歳の範囲で平均年齢が74.4歳の女性6人および男性10人である。角膜の死と剥離の間の遅れは4.5〜44時間で、遅れの平均は20時間である。
【0053】
結果
【0054】
【表1】

【0055】
%での全損失:Opsia媒質:30.5ならびに本発明による実施例1および4由来の媒質:17.3
【0056】
【表2】

【0057】
%での全損失:Opsia媒質:30.2ならびに本発明による実施例2および5由来の媒質:17.2
【0058】
【表3】

【0059】
%での全損失:Opsia媒質:38ならびに本発明による実施例3および6由来の媒質:7.6
【0060】
【表4】

【0061】
%での全損失:Opsia媒質:31.5ならびに本発明による実施例3および7由来の媒質:20.8
【0062】
(考察)
本研究の結論としては、発明者らは、角膜バンクで使用されている参照媒質で得られたものよりも有意に高い内皮の生存を30日間以上保証することができる、動物起源の成分を少しも含まない厳密な媒質を開発した。平均してさらに約16.9%の内皮細胞の元手が得られ、この結果は保存品質の劇的な改善であるため、この点は最も重要である。このような増加により、現在まで可能であったものよりもレシピエントの内皮予備量がより多くなり得る。レシピエントにとって、この予備量は、介入性の現象(外傷、拒絶反応、眼球内手術)へのより優れた耐性および移植片が透明なままである期間の増大も表す。
【0063】
得られた結果に基づき、ポロキサマー188はデキストランよりも細胞毒性が低いと思われる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体栄養ベースを含む、生きている臓器、生物組織、および細胞のための保存媒質であって、高分子量ヒアルロン酸および塩化ナトリウムを含み、動物起源の成分を含まない保存媒質。
【請求項2】
80〜4,000mg/l、好ましくは100〜200mg/l、優先的には100〜160mg/lの高分子量ヒアルロン酸、および
4,500〜9,000mg/l、好ましくは5,500〜9,000mg/l、優先的には7,000mg/lの塩化ナトリウム
を含む、請求項1に記載の保存媒質。
【請求項3】
ポロキサマー188をさらに含む、請求項1または2に記載の保存媒質。
【請求項4】
200〜75,000mg/l、好ましくは450〜50,000mg/lのポロキサマー188を含む、請求項3に記載の保存媒質。
【請求項5】
メチルセルロースをさらに含む、請求項1から4の一項に記載の保存媒質。
【請求項6】
210〜5,000mg/l、好ましくは1,900〜2,500mg/l、優先的には2,205mg/lのメチルセルロースを含む、請求項5に記載の保存媒質。
【請求項7】
300〜465mOsm±40mOsmの浸透圧モル濃度を示す、請求項1から6の一項に記載の保存媒質。
【請求項8】
20℃において1〜15センチポアズ、好ましくは2.5〜10センチポアズの範囲のブルックフィールド粘度を示す、請求項1から7の一項に記載の保存媒質。
【請求項9】
微量元素、アミノ酸、ビタミン、および安定化pH緩衝液を含む、請求項1から8の一項に記載の保存媒質。
【請求項10】
デキストランを含まない、請求項1から9の一項に記載の保存媒質。
【請求項11】
生きているヒト角膜を保存するための、請求項1から10の一項に記載の保存媒質の使用。
【請求項12】
生きている臓器、生物組織、および細胞、特に生きているヒト角膜を臓器培養するための、請求項1から10の一項に記載の保存媒質の使用。
【請求項13】
生きている臓器、生物組織、および細胞、特に生きているヒト角膜を輸送するための、請求項1から10の一項に記載の保存媒質の使用。
【請求項14】
生きている臓器、生物組織、および細胞、特に生きているヒト角膜を水分排出するための、請求項1から10の一項に記載の保存媒質の使用。

【公表番号】特表2007−514640(P2007−514640A)
【公表日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−518252(P2006−518252)
【出願日】平成16年3月23日(2004.3.23)
【国際出願番号】PCT/FR2004/000712
【国際公開番号】WO2005/013690
【国際公開日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(506006212)
【Fターム(参考)】