説明

臓器の再生方法

本発明は、障害を有する哺乳動物又は臓器又はその一部に傷害を有する哺乳動物に骨髄移植又は造血幹細胞移植を行ない、臓器又はその一部を再生する方法、障害を治療する方法、及び臓器又はその一部を製造する方法、並びに前記製造方法により得られた臓器又はその一部を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、臓器の再生方法に関する。
【背景技術】
再生医療は、人工的に培養した細胞などを利用し、病気や事故などで失われた臓器や組織を治す治療法である。この治療法は、既存の医薬品に比べ副作用が少ないうえ、アルツハイマー病等の難病の治療に使えるものと期待されている。実用化に最も近いのは皮膚の再生といわれており、真皮から繊維芽細胞を分離して大量培養した後、コラーゲンで作ったシートに細胞をまき、真皮の構造を作ることに成功した例がある。やけどなどで皮膚に損傷を受けた患者にこのシートを移植すれば、患者の皮膚と一体化して皮膚を再生できると考えられる。
また、幹細胞を用いた再生医療も試みられている。幹細胞は、自己増殖能と分化能を合わせもつ未分化な細胞であり、組織又は臓器に成長する源となる細胞であり、ほとんどの臓器又は組織中に存在している。造血幹細胞や神経幹細胞等の種々の幹細胞の中で、ES細胞(Embryonic Stem Cell:胚性幹細胞)は、増殖能力が高くほとんどの種類の組織に分化することができる細胞である。ES細胞は、ヒトでは受精後5〜7日程度、マウスでは3〜4日程度経過した初期胚(受精卵)から作られる細胞である。ES細胞は、様々な細胞へ分化する能力と高い増殖能力を持つため、失われた細胞を再生して補うという新しい治療法(再生医療)への応用が期待される。しかしながら、ES細胞については、受精卵から得るという倫理的な問題点と、必要な細胞のみに分化制御することが現段階では極めて困難であるという二つの大きな問題点がある。そこで、本発明者は、骨髄由来の幹細胞に着目して再生医学研究を進めている。
ところで、肝臓は、広範な再生能を有する唯一の器官である。最近まで、肝臓の再生は肝細胞又は卵細胞によってのみ行なわれると考えられていた。そして、肝組織の毛細胆管の間にある介在部であるヘリング(Herring)管に存在するOval cell(細胆管細胞)は、肝細胞及び胆管細胞への両性分化能を有することが知られている。また、Petersenらは、四塩化炭素及びアリルアルコールの投与後に骨髄由来の細胞が肝細胞に生成し得る可能性が高いことを明らかにした。また、Lagasseらは、チロシン血症のモデルマウスに骨髄移植をすることによって、肝細胞が分化すること、そして肝機能が部分的に改善を認めることを示している(Lagasse E.et al.Nat Med.2000 6(11):1229−1234参照)。
しかしながら、Oval Cellの特徴を持つ幹細胞を、病気の肝組織又は損傷した肝組織の再生に利用したことは証明されていない。さらに、Oval Cellは本当に肝臓組織の幹細胞になり、肝臓組織の再生に主要な役割を果たし得るのか、あるいは、造血幹細胞は病気の肝臓組織をどの程度まで再構成できるのか、そして肝細胞、及び肝臓の他の構成細胞に分化するにはどのような状況が必要なのか、という点は明らかではない。
【発明の開示】
本発明は、臓器の再生方法、治療方法及び製造方法並びに再生した臓器を提供することを目的とする。
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究を行なった結果、障害を有する哺乳動物に骨髄移植を行なうと、そのような障害を有する臓器が高率に再生し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
(1)臓器又はその一部に障害を有する哺乳動物に骨髄移植又は造血幹細胞移植を行うことを特徴とする、前記臓器又はその一部の再生方法。
(2)臓器又はその一部に障害を有する哺乳動物に骨髄移植又は造血幹細胞移植を行い、当該臓器又はその一部を再生させることを特徴とする前記障害の治療方法。
(3)臓器又はその一部に障害を有する哺乳動物に骨髄移植又は造血幹細胞移植を行い、前記臓器又はその一部を再生させ、得られる再生臓器又はその一部を採取することを特徴とする、前記臓器又はその一部の製造方法。
(4)臓器又はその一部に障害を有する哺乳動物に骨髄移植又は造血幹細胞移植を行うことにより再生された臓器又はその一部。
ここで、上記(1)〜(3)記載の方法及び(4)記載の臓器又はその一部において、骨髄移植に使用される細胞としては骨髄細胞が挙げられ、造血幹細胞としては、例えば末梢血又は臍帯血由来のもの(例えば末梢血幹細胞又は臍帯血幹細胞)が挙げられる。また、障害としては、例えば機能障害又は物理的若しくは化学的傷害が挙げられる。哺乳動物は特に限定されるものではないが、例えば新生哺乳動物を用いることができる。臓器は、肝臓、心臓、脳、肺、腎臓、腸、膵臓、眼、骨及び歯からなる群から選択される少なくとも1つである。
【図面の簡単な説明】
図1は、肝臓の再生を示す写真である。
図2は、肝臓の切除断端における再生を示す写真である。
図3は、心臓内膜における骨髄幹細胞由来の多数の細胞の分化と個々の心筋細胞の描出を示す写真である。
図4は、一片の冠状断面に4〜6個ほどの心筋細胞が存在することを示す写真である。
図5は、冠状断面を各々心筋細胞の存在について解析を行い、3Dイメージを作製して、骨髄幹細胞由来心筋細胞が心臓全体に渡って多数分布することを空間的に示す写真である。
図6は、心筋細胞をコネクシン43及びトロポニン1cで染色した結果を示す写真、並びにGFPポジティブ筋細胞をNomarsky imagingによって観察した結果を示す写真である。
図7は、肺及び気管支上皮細胞が、骨髄由来に再生することを示す写真である。
図8は、腎臓のメザンギウム細胞の再生を示す写真である。
図9は、小腸の細胞の再生を示す写真である。
図10は、骨における、骨細胞及び骨芽細胞の再生を示す写真である。
図11は、歯肉及び歯の再生を示す写真である。
図12は、眼の表層の再生を示す写真である。
図13は、眼の角膜上皮の再生を示す写真である。
図14は、脳神経細胞の再生を示す写真である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、臓器又はその一部に障害を有する哺乳動物に骨髄移植、あるいは末梢血幹細胞移植などの造血幹細胞移植を行なうことにより、造血細胞を当該臓器の細胞に高率かつ広範囲にわたって分化させ、再生させることを示すものである。
従来、心臓、脳においては、生後、分裂や再生をしないと考えられてきた。本発明は、哺乳動物の傷害モデル作製及び造血幹細胞移植を行なうことにより、臓器を作製(再生)させることに初めて成功したものである。
さらに、新生児マウスの臓器が一旦成熟すると、各組織(肝臓、心臓など)においては、それぞれの組織の幹細胞が十分にその機能を発揮するために、造血幹細胞が傷害組織を再生させるよりも、組織に既に存在する幹細胞が再生の主要な役割を果たすと考えられる。そこで、本発明者は、新生児の幼若な環境に着目した。体内の諸臓器が急速に増大する生直後には、組織を構成する各細胞の増殖が著しい。そこに、造血幹細胞を移植することによって組織に利用される確率が高いこと、また幼若で可塑性に富む環境を持つ可能性が高いことから、新生児移植を施すとともに、再生を見る上での傷害モデル作製を併せて行った。
本発明者は、造血幹細胞の多能性を用いた再生医療を実現するために、まず肝臓の再生を考えた。高率かつ純粋な再生型肝臓を作製するために、レシピエントである新生児の肝臓の部分切除を行なった上で骨髄移植(特に骨髄中の幹細胞移植)を施行した。このレシピエントの肝臓を解析すると、多数の肝細胞がドナー由来の造血幹細胞から分化してきたことが分かった。その結果、造血幹細胞を用いた肝臓の再生が可能となった。このように、造血幹細胞の分化能力は障害を有する患者に対しても発揮されることが分かった。本発明は、このような知見に基づいて完成されたものであり、各種臓器において造血幹細胞を用いた再生医療の開発につながるものである。
1.哺乳動物
本発明において使用される哺乳動物はとしては、例えばブタ、ウシ、ウマ、サル、イヌ、ヒツジ、ヤギ、ラット、マウスなどが挙げられる。モデル動物が豊富であり、近交系が確立してある点でマウスが好ましく、また実際の再生医療への応用に適している点でブタが好ましい。ヒトへの臨床応用もあり得るが、この場合はインフォームドコンセントを得た後、医師による厳重な管理の下に患者を選択する。本発明に使用される新生哺乳動物は、特に限定されるものではなく、好ましくは生後4日以内、より好ましくは生後2日以内である。
2.臓器又はその一部
本発明において、「臓器」とは、生体内において生命活動を営むのに必要なすべての組織又は器官をいい、その一部(細胞、組織等)も含まれる。
臓器としては、例えば消化器系、呼吸器系、泌尿器系、生殖器、心臓血管系、リンパ系、感覚器系、中枢神経系、骨格系、筋の各種組織又は器官が含まれる。
上記臓器は、例えば以下のものを挙げることができる。但し、これらに限定されるものではない。
消化器系:口腔、咽頭、食道、胃、小腸、大腸、肝臓、膵臓
呼吸器系:気管、気管支、肺、胸膜
泌尿器系:腎臓、尿管、膀胱
生殖器:内生殖器、外生殖器
心臓血管系:心臓、動脈、静脈
リンパ系:リンパ管、リンパ節、脾臓、胸腺
感覚器系:視覚器(眼:眼球、副眼器等)、聴覚器(鼓膜等)
中枢神経系:脳(大脳、間脳、中脳、小脳)、延髄、脊髄
骨格系:頭蓋骨、脊柱、肋骨、胸骨、上肢骨、上腕骨、下肢骨、大腿骨等
筋:骨格筋、平滑筋等
その他:皮膚、歯、歯肉
3.臓器の障害
本発明において、「障害」とは、上記の臓器又はその一部に生じている機能障害又は物理的若しくは化学的傷害をいう。ここでいう「一部」とは、傷害を加えても臓器の機能が維持されている程度の量を意味し、臓器により異なる。例えば肝臓の場合は全体の0.1〜50%、好ましくは10〜30%が本発明において切除し得る「一部」となる。機能障害とは,国際障害分類によれば、著しい変異や喪失などの心身機能又は身体構造上の問題を意味し、疾患によって上記臓器又はその一部に異常が生じた病態も含まれる。「物理的若しくは化学的障害」とは、臓器又はその一部の物理的又は化学的な損傷を意味し、メスで切除すること、針で刺すこと、ピンセットでつまみ剥がすこと、高濃度酸素への暴露、レーザー照射、放射線照射による場合などが含まれる。生検用に組織を採取するときの傷も「障害」に含まれる。
例えば、肝臓の場合はメスによる肝葉の切除、心臓の場合は心腔穿針を行うことによる貫壁性傷害、脳の場合は脳室周囲への直接針刺しによる傷害、肺の場合は高濃度酸素に暴露することによる上皮傷害等が挙げられる。上記臓器に傷害を加えるには、外科的手術、内視鏡又は腹腔鏡を用いた手術等の公知方法により行なうことができる。
4.骨髄移植又は造血幹細胞移植
本発明において施行される細胞移植は、移植細胞の種類により骨髄移植、末梢血幹細胞移植及び臍帯血幹細胞移植に分類される。従って、本発明において使用の対象となる細胞は、骨髄細胞、末梢血幹細胞及び臍帯血幹細胞である。
骨髄は、骨組織の内部の破骨細胞によって形成された骨髄腔に存在する組織であり、主要な造血組織である。骨髄にはすべての血球系(赤血球、顆粒球、単球−マクロファージ、巨核球−血小板、マスト細胞、リンパ球)の前駆細胞が存在し、成熟分化した後に末梢血液中に放出される。これらの前駆細胞は造血幹細胞に由来する。末梢血幹細胞は、化学療法(抗がん剤の投与)後や、白血球の増殖を引き起こす顆粒球刺激因子の投与後に血液中に放出される。臍帯血幹細胞は、へその緒の血液中に存在する造血幹細胞である。
本発明において骨髄移植を採用する場合、骨髄移植に用いる哺乳動物由来の骨髄細胞としては、ヒトを含むすべての哺乳動物の骨髄細胞が挙げられる。この場合、ドナー(骨髄提供者)は、レシピエント(骨髄受容者)と同種でも異種でもよい。
骨髄細胞は、骨髄穿刺等の公知の方法により採取することができる。得られた骨髄細胞をそのまま使用することもでき、浮遊性細胞を使用することもできる。浮遊性細胞を使用する場合は、細胞培養液(好ましくは10%の牛胎児血清を含む動物細胞培養用培地)に懸濁した後、プラスチックシャーレ上に播種し培養する。この操作により、接着性の細胞はシャーレに接着するため、浮遊性の細胞のみが採取可能となる。このようにして得られた浮遊性細胞を含む培養液を遠心分離し、浮遊細胞のみを回収することができる。なお、動物細胞培養用培地としては、DMEM、RPMI−1640、HamF12培養液又はこれらの混合物が挙げられる。また、本発明においては骨髄中の造血幹細胞又は間葉系幹細胞のみを移植することも可能であり、これらの造血幹細胞及び間葉系幹細胞も、本発明における骨髄移植の「骨髄細胞」に含まれる。
本発明において、末梢血幹細胞又は臍帯血幹細胞移植を採用する場合、末梢血幹細胞及び臍帯血幹細胞は、公知の方法を用いて採取することができる。末梢血幹細胞又は臍帯血幹細胞移植に用いる哺乳動物由来の幹細胞としては、ヒトを含むすべての哺乳動物の幹細胞が挙げられる。この場合も、ドナーは、骨髄移植と同様レシピエントと同種でも異種でもよい。
本発明においては、骨髄細胞(骨髄中の造血幹細胞、間葉系幹細胞を含む)、末梢血幹細胞、臍帯血幹細胞から、目的や必要に応じてCD34細胞、CD34CD38細胞、Side Population(SP)細胞、単核球などを選択することも可能である。
骨髄、末梢血又は臍帯血から移植用細胞(造血幹細胞)を分離するには、既知の表面抗原を用いて細胞を標識した後に、フローサイトメトリーによるソーティングで必要とする造血幹細胞のみを95%以上の純度で分離することが可能である。骨髄細胞から間葉系幹細胞を分離するには、付着細胞を上記培養において分離することが可能である。また、抗体を用いた分離方法も可能である。なお、間葉系幹細胞はES細胞に近い能力を有することが分かっており、骨、軟骨、脂肪、心臓、神経、肝臓の細胞などになることが確認され、「第二の万能細胞」として注目を浴びている。末梢血幹細胞は、アフェレーシス(成分献血)により取得することができる。
臓器の一部傷害から移植までの時間は、傷害直後から1週間、好ましくは直後から96時間(4日)以内であり、さらに好ましくは直後から48時間(2日)以内である。
上記の通り調製した骨髄細胞又は造血幹細胞を、障害を有する哺乳動物又は予め臓器の一部に傷害を加えたレシピエント(哺乳動物)に移植する。移植方法は以下の通りである。
まず、移植前処置を行なう。すなわち、移植の48時間前から直前までに、大量の抗ガン剤投与や全身の放射線照射を行い、レシピエント中の骨髄細胞等をほぼ完全に破壊する。移植当日は、ドナーから提供された骨髄液、末梢血幹細胞、臍帯血幹細胞等をレシピエントの静脈に点滴で注入する。
レシピエントは正常な血液成分が造られて安定するまで無菌室で管理する。また、移植後に、拒絶反応、GVH病(移植片対宿主病)、重度の感染症などにより早期死亡することがあるため、随時経過を観察し、必要に応じて免疫抑制剤、抗生物質等を投与する。
5.臓器再生
上記の通り施行された骨髄移植又は造血幹細胞移植後に、臓器を再生させる。「再生」とは、傷害を加えた部分からドナー由来の細胞により構成される新たな細胞、組織又は器官が新生することを意味する。再生期間は臓器により異なるため、再生の有無を適宜観察して目的とする大きさまで再生させる。例えば肝臓を30%切除した場合は、48時間から数週の単位で再生させる。この場合、切除することによって、移植した幹細胞が傷害部位に集積して、再生後も分化、増殖を続けるものと考えられる。心臓の場合は、肝臓のように切除を行うことが不可能であるが、新生児における心腔穿刺は十分な傷害と考えられる。その再生に要する期間は、数時間から2週ほどである。心臓の再生過程においては、幹細胞が明らかな心筋の形態を有するか否かの確認、あるいは心筋の形態を有するまでの時間を検討することが好ましい。
臓器がドナー由来であるか否かの検査は、公知の任意の手法を採用することができる。例えば、ドナーの骨髄細胞等をGFP(Green Fluorescence Protein)等で標識しておいて、その標識がレシピエントの臓器に発現するかどうかを観察すればよい。各臓器がドナー由来として再生したか否かの判断は、形態的に大きさが一つの指標になるものの、免疫染色がもっとも直接的であり、確実な鑑別法である。
目的とする大きさの臓器に成長(再生)した場合は、臨床応用のときはそのまま生着させる。あるいは、実験動物を使用したときは、当該動物から手術等により臓器を採取する。但し、目的とする大きさに再生するまで待つ必要はなく、必要に応じて、再生の途中で一部の組織又は細胞を回収することが可能である。
本発明において肝臓を再生する場合は、肝細胞のみならず、肝星状細胞、クッパー細胞、内皮細胞及び胆管細胞もまた、骨髄由来幹細胞等から得ることが可能である。そして、肝臓の再生部分は、ドナー由来の細胞を有しており、高度に純粋である。上記の通り採取された臓器は、ドナー(骨髄移植の場合は骨髄移植に於ける骨髄提供者)の臓器移植等に使用される。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例にその技術的範囲が限定されるものではない。
実施例1 肝臓の再生
(1)マウス
GFP(緑色蛍光蛋白質)トランスジェニックマウス(GFPマウスという)は、ActinプロモーターにGFPをコードするDNAを導入して作製した(Okabe M.et al.FEBS Lett.1997;407(3):313−319)。このGFPマウスは、骨髄移植のドナーとして使用した。GFPは、生体におけるどのような細胞にも発現するため、このマウス由来の細胞がレシピエントに移植されると、GFP陽性細胞を見つけることによって、ドナー由来の細胞を明らかにすることが可能である。
C57/BL6マウスはチャールズリバージャパン(Charles River Japan)より購入した。このマウスは、骨髄移植のレシピエントとして使用した。
上記両マウスは、九州大学の動物施設において、所定の管理下で飼育した。
(2)骨髄細胞の調製
移植用細胞はGFPマウスから調製した。すなわち、GFPマウスを解剖後、大腿部と脛骨から骨髄細胞を回収した。回収したドナー細胞は、25ゲージ針と40μmメッシュフィルターを繰り返し通すことによって単一細胞懸濁液とした。造血前駆細胞を単離するために、細胞を、B220、CD3、Gr−1、Mac−1及びTER119などの抗体とともに4℃で30分間培養した。その後、2%牛胎児血清(FCS)含有PBSで洗浄後、骨髄細胞をヒツジ−抗ラット免疫磁気ビーズ(ヒツジ−抗ラットIgG結合Dynabeads,M−450 DYNAL Great Neck,NY)とともに培養した。上記ビーズに結合していない細胞は、さらにSca−1(+)細胞を分離するために回収した。Sca−1はマウスの造血幹細胞に最も重要なマーカーの一つであるため、GFPマウスの全骨髄細胞からLin(−)Sca−1(+)細胞を分離した。Sca−1(+)細胞のポジティブセレクションはラット−抗マウスSca−1抗体を結合させたマイクロビーズで行った。Lin(−)Sca−1(+)細胞は50μlのPBSに懸濁した。
(3)部分的肝切除
生後24時間以内の新生児マウス(C57/BL6)を、ケタミンクロライド200μgを腹腔内注射して麻酔した。皮膚に1cm切り込みを入れた後、おおよそ肝葉の半分(全体の約10−25%)を取り除いた。皮膚と腹膜はナイロン糸を用いて縫合した。
(4)造血細胞の移植
新生児マウス(C57/BL6)を500Gyの全射放射線照射で処置した。新生児レシピエントマウスに放射線照射して6時間以内(肝切除後24時間以内)に、上記のように調製したGFPマウス由来のLin(−)Sca−1(+)細胞5000個を、各新生児C57/BL6マウスの各々に顔面静脈を通して移植した。
(5)造血細胞のキメラ現象の実験
移植後2ヶ月から8ヶ月目に、末梢血を後眼窩静脈叢から回収し、骨髄細胞はレシピエントマウスの下肢から回収した。
ドナーマウス由来の細胞は、FACS Calibur(Becton Dickinson)を用いてGFP陽性として検出した。ドナー由来細胞の系統発現のために、末梢血又は骨髄細胞をB220、CD3、Gr−1、Mac−1及びTER119で染色した。
(6)肝臓での分化の解析
骨髄移植後3日〜60日目のマウスをイソフルラン吸引で麻酔した後、頚椎脱臼して安楽死させた。解剖直後、肝臓を4%パラホルムアルデヒド(PFA)中、室温で30分間固定した。固定した組織を等級化アルコールで脱水し、ビブラトームで50μmの厚さにスライスした。また、全体の組織を4%パラホルムアルデヒド(PFA)中、4℃で10分間固定し、OCT(Optimal Cutting Temperature)化合物(10.24% polyvinyl alcohol,4.26% polyethylene glycol 85.5% nonreactive ingredients)中で凍結した。このサンプルは4〜6μmの薄い切片用に用いた。
(7)免疫蛍光
組織切片を厚さによって下記のとおり調製した。50μmの厚さの切片を抗体によって染色し、各々の切片を4℃で一晩、一次抗体とともにインキュベートした。2時間で2回PBSで洗浄後、切片をCy−3(Jackson Immunoresearch)と結合した2次抗体と反応させた。
また、4〜6μmの厚さの切片を抗体で染色し、各々の切片を1時間室温で1次抗体とともに反応させた。洗浄後、組織切片を、Cy−3結合2次抗体とともにインキュベートした。
免疫染色は、共焦点顕微鏡(オリンパス社製)で注意深く分析した。
(8)結果
(i)キメラ現象の分析
Lin(−)Sca−1(+)細胞を各々、新生児レシピエントマウスに移植し、レシピエントの造血細胞キメラ現象を分析した。全てのレシピエントマウスはドナー細胞タイプのキメラ現象が70%以上見られた。
また、ドナー由来細胞をレシピエント骨髄細胞から分離し、2次新生児レシピエントマウスに移植した。2次レシピエントマウスにおいてもドナー型のキメラ現象が認められた。このことは、骨髄細胞が自己再生能力を持った造血幹細胞を含んでいることを意味するものである。
GFP陽性細胞の分布と外観を同定するために、解剖直後、蛍光顕微鏡を用いて低倍率と高倍率で肝臓を観察した(図1)。その結果、骨髄幹細胞由来のGFP陽性細胞は肝臓全体に広がっていた。このことは、切除断端から再生した肝臓が高率に骨髄幹細胞由来であることを示すものである。GFP陽性細胞の大多数は紡錘形であったが、数パーセントのドナー細胞は形態学的に肝細胞のようであった。また、多数のGFP陽性紡錘細胞は中心静脈の周囲に分布した(図1)。
図1Aにおいて、右下の視野に見える蛍光を発するものが、肝臓の再生肝葉である。他の肝葉と比べて、GFPが強陽性であることがわかる。図1Bは、再生肝臓の外観を示す。再生肝臓は、通常の肝臓と同様の外観を有している。図1C及びDは、再生肝臓を強拡大にて観察した所見である。
(ii)肝臓の再生
再生した葉片は、肝切除の切り端において、強いGFP蛍光強度を示した(図2A、C)。図2において、A及びCは、肝臓の切除断端においてGFP陽性細胞が集蔟している様子を示す図であり、B及びDは肝細胞をアルブミン抗体で染色した図である。CはAの強拡大図、DはBの強拡大図である。図2に示すように、再生した葉片はドナー由来の正常の肝葉であり、ドナー由来細胞が高い純度で存在していた。また、B及びDの結果より、細胞が陽性(黄色)を示すことにより、アルブミン陽性細胞が高率で存在することが示され、機能的にもアルブミンを産生する正常肝細胞であることが証明された。
実施例2 心臓の再生
(1)マウス及び骨髄細胞
マウスの飼育・管理及び骨髄細胞の調製は、実施例1と同様に行なった。
(2)心臓の一部傷害
生直後〜3日目のレシピエントマウス(C57/BL6)を開胸せずに、29ゲージの針で心筋を刺して損傷させた。手技の成功は、心腔内の血液の逆流により容易に確かめることが可能であった。
(3)造血細胞の移植
マウスの前処置(放射線照射)及び造血細胞の移植は、実施例1と同様に行なった。
(4)心臓での分化の解析
(i)心臓組織の調製
レシピエントマウスをイソフルラン吸入で麻酔した後、頚脱臼して安楽死させた。解剖後すぐに心臓組織を4%パラホルムアルデヒドで固定した(室温で30分)。固定した組織は等級化アルコールで脱水した後、Vibratome(″microslicer DTK−1000″,DSK社)で50μmの切片にした。また、4〜6μmの薄い切片用に、全体の組織を4%パラフィルムアルデヒド(PFA)中で固定し(4℃で10分間)、OCT化合物中で凍結させた。組織を十分に凍結させた後、Cryostat(″CM3050S″Leica社)で6μmの切片にスライスした。
(ii)免疫染色
各心臓切片を以下の抗体で染色した。心筋細胞の同定をするために、心臓切片をトロポニン1C(Connexin 43)、筋節アクチン、コネクシン43(Connexin 43)、又はNkx2.5で染色した。厚い切片を抗体で染色した場合は、各切片は1次抗体とともに4℃で一晩インキュベートした。PBSを用いて2時間で2回洗浄後、切片を、Cy−3(Jackson Immunoresearch)と結合した2次抗体と反応させた。
薄い切片を抗体で染色した場合は、各切片は室温で1時間、1次抗体とインキュベートした。洗浄後、組織切片は、Cy−3結合2次抗体とインキュベートした。
免疫染色を共焦点顕微鏡(オリンパス社)で分析した。
(5)結果
各新生児レシピエントマウスに5×10個のLin(−)骨髄細胞を移植し、移植後2ヶ月又は5ヶ月において、レシピエントの造血細胞キメラ化を分析した。その結果、すべてのレシピエントマウスでドナー細胞型のキメラ化が70%以上見られた。また、ドナー由来細胞はレシピエント骨髄細胞から分離し、2次レシピエント新生児マウスに移植した。2次レシピエントマウスにおいても、ドナー由来の細胞が認められた。このことは、1次レシピエントにおいて生着した骨髄細胞は、自己再生能を有する造血幹細胞を含んでいるといえる。
さらに、心臓穿刺と造血幹細胞移植を行ってから2ヶ月後に、心臓組織のキメラ化と分化転換の分析を行った。
初めに、全組織を488nm励起波長の蛍光顕微鏡下で観察した。心膜については、GFPポジティブ細胞が冠状動脈に沿って同定された。組織を矢状に切断した後、多数の細胞は心筋線維に沿って、GFPポジティブ領域が見出された(図3)。多くのGFPポジティブ細胞は紡錘系の外見で存在した(図3)。図3において、Aは、心臓内膜を蛍光実体顕微鏡下で観察したときの画像である。多数のGFP陽性細胞(骨髄由来細胞)が認められる。B、C及びDは、GFP陽性細胞のうち、横紋を明確に有する心筋細胞を示す図である。そして、再度蛍光観察を行なっても上記と同様の結果が得られ、細胞のGFP陽性結果は再現性を持っており、多くの筋細胞は心臓損傷モデルとして利用できることが分かった。また、図4に示すように、一つの断面においてドナー由来の心筋細胞が複数個観察された(矢印1〜4)。それぞれを拡大すると、明らかな横紋筋の形態を示した(図4)。
さらに、心筋細胞の免疫蛍光分析を行なった結果、多数のドナー起源の筋細胞は、損傷面に一致した心尖から心臓全体にかけて観察された(図5)。図5は、断面を40枚重ねたことによる立体画像である。中心に左心室が見られるが、その他の分散した黄色から赤のドットが骨髄由来心筋細胞である(図5の矢印)。
また、心臓の切片をコネクシン43及びトロポニン1cで染色し、免疫学的分析を行なった。その結果、各抗体染色パターンが観察された(図6)。図6において、上段のパネルCは、Troponin 1Cによる免疫染色を行った結果を示す図である。AはGFP染色のみの結果であり、BはAとCを合成したものである。これらの結果より、確かに心筋細胞特異的マーカーの発現が確かめられた。同様に、図6の中段のパネルFは、Connexin 43による染色を施行した結果を示す図である。Dは移植骨髄細胞由来を示すGFP陽性の心筋細胞を示す結果であり、EはDとFを合成したものである。これらの結果より、心筋細胞が骨髄由来の細胞であることが確認された。このことは、心筋細胞の幾つかが、損傷後、骨髄由来の幹細胞から分化できることを示すものである。
さらに形態学的分析をするために、GFPポジティブ筋細胞をNomarsky imagingによって観察した(図6下段パネル)。図6下段のパネルは、細胞の輪郭と周囲の細胞との関係を示した図である。図より、輪郭も明らかになり、ドナー由来の骨髄細胞が心筋細胞として確かに正常に組み込まれたことが判明した。
上記のことより、形態学的にも免疫学的にも、心筋細胞が確かに骨髄由来の細胞であることが確かめられた。
実施例3 その他の臓器の再生
(1)マウス及び骨髄細胞
マウスの飼育・管理及び骨髄細胞の調製は、実施例1と同様に行なった。また、マウスの前処置(放射線照射)及び造血細胞の移植(骨髄移植)についても、実施例1と同様に行なった。
(2)傷害モデルの作製
(2−1)肺の傷害モデル
高濃度酸素への暴露又はLPS(内毒素)の投与により、肺胞上皮細胞を傷害した。
(2−2)腎臓の傷害モデル
抗Thy−1抗体によりメザンギウム細胞を傷害した。
(2−3)小腸の傷害モデル
放射線照射によって、放射線腸炎を誘発させた。
(2−4)骨の傷害モデル
放射線照射をおこなった。
(2−5)歯及び歯肉の傷害モデル
歯肉部位を直接、針で傷害するか、その部位に細胞を注入した。
(2−6)眼の傷害モデル
放射線照射をおこなった
(2−7)脳の傷害モデル
生直後〜3日目のレシピエントマウス(C57/BL6)を麻酔したうえで、脳室周囲にそのままドナー由来の細胞を移植した。
(3)分化の解析
肺については気管支上皮細胞、腎臓についてはメザンギウム細胞、小腸については上皮様細胞、骨については骨皮質、歯及び歯肉ついては歯表層及び歯肉の細胞、眼については眼の表層及び角膜実質、脳についてはNeuron及びGliaの形態を示す細胞が、それぞれ分化再生しているかどうかを検討した。
(4)結果
(4−1)肺
肺及び気管支上皮細胞のいずれも、ドナーの骨髄に由来して再生することが示されたGFP陽性細胞は、Cytokeratinによって二重染色することで上皮細胞であることが確認された(図7)。
(4−2)腎臓
図8において、Aは3つのGFP陽性細胞が観察された図である。Bはcollagen4にて染色した結果を示す図である。CはA及びBの画像を合成したものであり、腎臓のメザンギウム細胞と同定された。Dは、他の場所でもA〜Cと同様にドナー由来の細胞を同定した図である。
(4−3)小腸
腸管の管腔近くにドナー由来上皮様細胞が再生した(図9)。図9において、AはGFP陽性細胞が観察された図である。BはPan−cytokeratinにて染色した結果を示す図である。CはA及びBの画像を合成した図である。
(4−4)骨
骨皮質においてドナー由来の細胞が観察された(図10)。図10は骨皮質と骨髄腔の図であり、Aは弱拡大、Bは強拡大の図である。OCは骨細胞、OBは骨芽細胞を表す。
(4−5)歯及び歯肉
歯及び歯肉においても再生が認められた(図11)。図11において、Aは歯肉の細胞の図、Bは歯表層に近いところの細胞の図である。Gの部分が歯肉中のGFP陽性細胞である。
(4−6)眼
眼の表層及び角膜上皮において、再生が認められた。(図12、13)。図12において、Aは骨髄移植を施行しなかったコントロールであり、GFP蛍光は認められない。Bは骨髄移植したレシピエントの眼であり、GFP蛍光が認められた。また、図13は角膜内の細胞であり、ドナー由来の細胞(GFP蛍光発色)が認められた。
(4−7)脳
神経突起様の構造物を有する細胞の再生が認められた(図14)。
脳における解析の結果、ドナーの骨髄由来で神経細胞が分化していることが分かった。
【産業上の利用可能性】
本発明により、組織の再生方法が提供される。本発明の方法によれば、臓器に障害を有する哺乳動物に造血細胞移植をすることにより臓器が再生され、また臓器に傷害を加えることでその後に骨髄等に由来する組織構成細胞を構築することができる。そして、構築された細胞を取り出して人工組織として移植する治療法に繋げることができる。さらに、傷害を加えて疾患動物モデルを作製することによって、その傷害部位を中心に骨髄等に由来する正常細胞に置換させることも可能である。従って、本発明の方法は、より広汎な再生医療に有用である。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
臓器又はその一部に障害を有する哺乳動物に骨髄移植又は造血幹細胞移植を行うことを特徴とする、前記臓器又はその一部の再生方法。
【請求項2】
造血幹細胞が、末梢血造血幹細胞又は臍帯血造血幹細胞である請求項1記載の方法。
【請求項3】
臓器又はその一部に障害を有する哺乳動物に骨髄移植又は造血幹細胞移植を行い、当該臓器又はその一部を再生させることを特徴とする前記障害の治療方法。
【請求項4】
造血幹細胞が、末梢血造血幹細胞又は臍帯血造血幹細胞である請求項3記載の方法。
【請求項5】
臓器又はその一部に障害を有する哺乳動物に骨髄移植又は造血幹細胞移植を行い、前記臓器又はその一部を再生させ、得られる再生臓器又はその一部を採取することを特徴とする前記臓器又はその一部の製造方法。
【請求項6】
造血幹細胞が、末梢血造血幹細胞又は臍帯血造血幹細胞である請求項5記載の方法。
【請求項7】
障害が、機能障害又は物理的若しくは化学的傷害である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
再生した臓器又はその一部がドナー由来のものである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
哺乳動物が新生哺乳動物である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
臓器が、肝臓、心臓、脳、肺、腎臓、腸、すい臓、眼、骨及び歯からなる群から選択される少なくとも1つである請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
臓器又はその一部に障害を有する哺乳動物に骨髄移植又は造血細胞移植を行うことにより再生された臓器又はその一部。
【請求項12】
造血幹細胞が、末梢血造血幹細胞又は臍帯血造血幹細胞である請求項11記載の臓器又はその一部。
【請求項13】
障害が、機能障害又は物理的若しくは化学的傷害である、請求項11又は12記載の臓器又はその一部。
【請求項14】
再生した臓器又はその一部がドナー由来のものである、請求項11〜13のいずれか1項に記載の臓器又はその一部。
【請求項15】
哺乳動物が新生哺乳動物である、請求項11〜14のいずれか1項に記載の臓器又はその一部。
【請求項16】
臓器が、肝臓、心臓、脳、肺、腎臓、腸、膵臓、眼、骨及び歯からなる群から選択される少なくとも1つである請求項11〜15のいずれか1項に記載の臓器又はその一部。

【国際公開番号】WO2004/045666
【国際公開日】平成16年6月3日(2004.6.3)
【発行日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−553180(P2004−553180)
【国際出願番号】PCT/JP2003/014581
【国際出願日】平成15年11月17日(2003.11.17)
【出願人】(800000035)株式会社産学連携機構九州 (34)
【出願人】(502415401)
【Fターム(参考)】