説明

臓器線維形成に対するパラポックスウイルスovis株の使用

【課題】ヒトにおける臓器線維形成に対する予防的または治療的効果を有する医薬の提供。
【解決手段】D1701株、orf−11、Greek orf 176株、Greek orf 155株、およびNew Zealand(NZ)株から得られたパラポックスウイルスの調製物によって、肝星細胞のコラーゲン産生筋線維芽様型への形質転換を阻害することを利用した、線維形成につながるすべての疾患に共通する最終経路に対する効果を発揮。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトにおける、内臓、例えば肝臓および皮膚並びにそれに付属する構造の両方が冒されることに関連してコラーゲンの沈着の増加を伴う疾患を予防および処置するための不活化されたパラポックスウイルスの使用に関する。本発明は、特に、ウイルス性肝炎またはエタノール誘発性肝疾患の結果としての肝線維形成および肝硬変、および嚢胞性線維形成にも関する。
【0002】
本発明は、特に、パラポックスウイルス ovisの単離体、例えばD1701株、orf−11株、Greek orf 176株、Greek orf 155株およびNew Zealand(NZ)単離体、例えばNZ2、NZ7およびNZ10、およびさらにD1701に由来するBaypamun(登録商標)の使用に関する。
【0003】
初発の株に加えて、本発明はさらに、例えば、WI38等の、継代および/または特定の細胞への適合によって得られるその子孫に関する。完全なウイルスに加えてさらに、本発明はさらに、これらウイルスの一部または断片に関する。一部とは、培養線維芽細胞等の適当な系において、ワクシニア等の適当なベクターを用いて発現するゲノムまたはサブゲノム断片であると理解される。断片とは、クロマトグラフィー等の生化学的な精製によって得られる一部分、または音波処理による破壊等の物理的方法を用いて得られる粒子であると理解される。
【背景技術】
【0004】
パラポックスウイルスが脊椎動物の非特異的な免疫反応を刺激することができることは知られている。化学的に不活化したパラポックスウイルス ovis D1701株の調製物であるBaypamun(登録商標)は、感染性疾患の予防、感染後防御(metaphylaxis)および治療、並びに動物におけるストレス性疾患の予防に用いられる。
【0005】
特許DE 3 504 940 A (Mayr, Anton) は、高エネルギー放射線照射、化学療法、AIDS、免疫抑制、加齢に関連する損傷および解毒作用によって引き起こされた免疫不全などの状態における、Baypamun(登録商標)の望ましい効果を教示しているが、肝線維形成の迅速な寛解は教示していない。DE 3 504 940はさらに、Baypamun(登録商標)が添加剤として癌治療の効力を支援すること、および不十分な母親の免疫防御によって引き起こされる疾患から新生児を守ることを教示している。
【0006】
出発点としての現状の知識水準を考慮すれば、意外にも、不活化したパラポックスウイルスの投与によって肝線維形成を軽減または予防することができることがここに見出された。動物モデルにおいて、中毒性肝傷害に基づく四塩化炭素誘発肝線維形成の場合、および肝臓の炎症が存在しない異種血清誘発肝線維形成の場合にこの効果が見い出された。また、その治療効果の程度も顕著である:肝繊維症に関連するコラーゲンの過剰産生は、四塩化炭素モデルにおいては60%阻害され、血清モデルではほぼ完全に阻害される。長期間の実験から得られたこれらの結果にしたがって、次に、四塩化炭素の迅速投与によって、Baypamun(登録商標)および上記のパラポックスウイルス ovis 株から得られた調製物によって肝星細胞のコラーゲン産生筋線維芽様型への形質転換を阻害することを実証することが可能であった。
【0007】
肝線維形成および/または肝硬変は、異なる病毒、例えばウイルス感染やアルコール中毒によって誘発されるが、その異なる病理メカニズムは共通の最終経路、即ち、コラーゲン産生に入る。上記の非感染モデルから得られた動物実験モデルが実証しているように、不活化したパラポックスウイルスの投与は、意外にも、原因となる病毒に関係なくコラーゲン沈着を阻止する。
【0008】
従って、パラポックスウイルスは、線維形成につながるすべての疾患に共通する最終経路に対して効果を発揮するための新しい治療原理の可能性を開く。
【0009】
この効果は、パラポックスウイルス調製物を使用する場合、そのような調製物がさらなる免疫刺激作用を有することが知られているので、ウイルス性肝線維形成の場合でも、特に有効な治療が達成されることを示唆している。
【0010】
ここに見出されたBaypamun(登録商標)の強い抗線維形成効果は、抗線維形成物質の同定のための分析において抗線維形成効果を調べるための標準としてBaypamun(登録商標)またはNZ2の調製物を用いることの可能性を開く。
【0011】
不活化したパラポックスウイルスまたは子孫、および上記の株から得られる調製物は、結果として活性の包括的な抗線維形成スペクトルをを有し、それゆえ肝線維形成疾患の予防および治療だけでなく、関連して他の臓器、例えば肺、膵臓、心臓および皮膚の線維形成疾患においても適している。特に好ましいのは、肝線維形成および肝硬変の予防および処置におけるパラポックスウイルスの単離体の使用である。
【0012】
臨床上の問題に依存して、パラポックスウイルスを基礎とする治療剤を全身投与、即ち、例えば、筋肉内、皮下、腹腔内、静脈内、経口または吸入あるいは局所的に投与する。次いで、パラポックスウイルスを精製し、凍結乾燥し、投与の直前に適当な溶媒に懸濁するか、または別の適当な製剤に存在させる、あるいは耐胃液性の経口投与剤型またはその他の経口投与剤型中に存在させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
これに関連して、臨床上の問題の必要に対応した時間的計画に従っていくつかの投与または長期治療が必要になるかもしれない。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、ヒトにおける臓器線維形成に対する予防的または治療的効果を有する医薬の製造のための、D1701株、orf−11、Greek orf 176株、Greek orf 155株、およびNew Zealand (NZ) 株から得られたパラポックスウイルスの単離体の使用に関する。好ましいのは、ヒトにおける臓器線維形成に対する予防的または治療的効果を有する医薬の製造のための、New Zealand (NZ)株、即ちNZ2、NZ7およびNZ10株の使用であって、NZ2株を用いるのが特に好ましい。これに加えて、上記のパラポックスウイルスを継代または適当な細胞に適合させることにより修飾することができ、継代または適合化により得られたそれらパラポックスウイルスを、ヒトにおける臓器線維形成に対する予防的または治療的効果を有する医薬の製造のために使用することができる。これに関連して、継代または順化のために例えばWI−38、MRC−5等のヒト細胞、BK−Kl3A47/RegまたはMDBK等のウシ細胞およびMDOK等のヒツジ細胞を用いることが可能である。さらに、ヒトにおける臓器線維形成に対する予防的または治療的効果を有する医薬の製造のために上記のパラポックスウイルスの一部または断片を使用することも可能である。一部とは、培養線維芽細胞等の適当な系において、ワクシニアウイルス等の適当なベクターを用いて発現するゲノムまたはサブゲノム断片であると理解され、断片とは、発現した、または例えば超音波処理により物理的に破壊されたウイルス粒子の、クロマトグラフィー等の生化学的な精製によって得られる一部分であると理解される。本発明はさらに、ヒトにおける臓器線維形成に対する予防的または治療的効果を有する医薬および医薬調製物の製造のための、他の作用物質と組み合わせた、上記パラポックスウイルス ovis 株または上記の通りにそれから得られる修飾体の使用、およびヒトにおける臓器線維形成に対する予防的または治療的効果を有する医薬および医薬調製物の製造のための、Baypamun(登録商標)のそのままでのまたは他の作用物質を組み合わせた使用に関する。好ましくは、本発明は、上記パラポックスウイルス ovis 株または上記の通りにそれから得られる修飾体の、例えば耐胃液カプセル中での、経口投与のための製剤中の他の試薬との組み合わせの使用に関する。
【0015】
本発明はさらに、Baypamun(登録商標)またはNZ2の調製物の、抗線維形成物質の同定のための分析において抗繊維症効果を調べるための標準としての使用に関する。
【0016】
本明細書に一例として記載したパラポックスウイルス ovis NZ−2は、European Collection of Cell Cultures, Centre for Applied Microbiology and Research, Porton Down, Salisbury, Wiltshire, SP4 0JG, United Kingdomにおいて2001年7月10日に寄託された。受託番号はECACC−01071006である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】CCL4誘発肝線維症に対するPPVO D1701の効果を示す。
【図2】Baypamun(登録商標)によるHSC形質転換の阻害を示す。
【図3】Baypamun(登録商標)による肝臓における増殖非実質細胞数の減少を示す。
【図4】ブタ血清誘発肝線維症に対するPPVO D1701の効果を示す。
【図5】ブタ血清誘発肝線維症に対するPPVO NZ−2の効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
実施例1
パラポックスウイルス ovis D1701株、Baypamun(登録商標)の効果
方法
Baypamun(登録商標)(乾燥品、化学的に不活化されたパラポックスウイルス ovis D1701株から単離された調製物)を説明書にしたがって注射用水に溶解した(TCID50に基づく力価(50%組織培養感染量)約107/mL)。
【0019】
Baypamun(登録商標)溶液中の量と同量のタンパク量を有するポリゲリン(Polygeline)溶液をプラセボ溶液として対照群の動物に投与した。
【0020】
0.5mLの溶液を各動物に腹腔内投与した。投与は、1週間に3回行ったが2日連続の投与は行わなかった。
【0021】
Baypamun(登録商標)を線維形成の原因が異なる2つの動物モデルで試験した。即ち、四塩化炭素モデルおよびブタ血清モデル。
【0022】
四塩化炭素による長期的処置は、結果として肝硬変を伴う肝線維形成を実験的に誘発するための標準的方法である(McLean EK, McLean AEM, Sutton PM. Instant cirrhosis. Br. J Exp. Pathol. 1969; 50: 502-506)。このモデルは、一般にヒト肝線維形成および肝硬変のモデルであると認識されている。雌性Sprague-Dawleyラットを用いた。四塩化炭素のミクロソーム代謝を最大限に誘導するために、処置の開始1週間前にラットにイソニアジド1g/Lを飲料水と共に与えた。四塩化炭素を0.1mL/100g体重の用量で5日毎に経口投与した(四塩化炭素:ミネラルオイル=1:1)。処置から7週間後に、ラットを屠殺し、試験した。Baypamun(登録商標)による処置を四塩化炭素による処置と平行して行った。
【0023】
異種血清による処置、例えばラット場合におけるブタ血清、は結果として肝硬変を伴う肝線維形成を誘発するための、文献においてよく用いられる同様の方法である。この方法は、他の方法とは異なり、最小限の肝実質細胞に対する損傷および肝実質細胞の感染しか引き起こさない(Bhunchet, E. and Wake, K. (1992): Role of mesenchymal cell populations in porcine serum-induced rat liver fibrosis. Hepatology 16: 1452-1473)。雌性のSprague Dawleyラットを2×、即ち、0.5mLの滅菌ブタ血清 (Sigma)/動物で、1週間ごとに処置し、対照動物については滅菌生理塩化ナトリウム溶液(2×、1週間ごと、0.5mL/動物、腹腔内)を投与した。Baypamun(登録商標)による処置をブタ血清処置と平行して行ったが、同じ日には行わなかった。7週間処置した後、動物を屠殺し、肝臓を摘出してコラーゲンの量を定量した。
【0024】
肝臓組織を試験するために、標準化された円筒形の横断組織(transverse tissue cylinder)(約10×2mm)を肝臓の右前葉から打ち抜いた。肝線維形成によって産生された瘢痕コラーゲンを検出するために、凍結した組織片を0.1%のPicrosiriusレッド溶液で染色した。
【0025】
Fast Greenをコントラスト増幅のための対比染色として用いた。各組織片における肝線維形成の程度を、全体の面積に対するPicrosiriusレッドの面積によって示される面積の百分率として求めた。顕微鏡画像色検出のパラメーターを標準化して実験中は一定に保った。最終倍率50倍で、標準化された31mm2の格子中に64個の桝目が観察された。
【0026】
四塩化炭素を用いたラットの急性処置後の、肝星細胞(HSC; 伊東細胞またはビタミンA貯蔵細胞)の形質転換の程度を測定するために、α−平滑筋活性陽性細胞を免疫組織化学的に検出した。16の小葉中心の248×180μmの領域それぞれの各組織片のぞれぞれにおいて、α−平滑筋活性陽性細胞が最終倍率200倍で確認された。HSCのコラーゲン産生および成長因子産生筋線維芽様細胞への形質転換は、肝線維形成の誘導における重要な段階として知られている。形質転換したHSCは、肝臓における線維形成活性の初期の指標である。
【0027】
半自動化形態計測のために、ライカQuantimed 500MC (Leica Germany)を用いた。
【0028】
OH−プロリンを測定するために、各例について50〜100mgの肝臓組織を乾燥し、6N HClと共に約17時間煮沸した。真空乾燥オーブン内で塩酸を蒸発させた後、残留物を5mLの蒸留水に溶解し、この溶液を濾過した。200μLの濾過した溶液を200μLのエタノールおよび200μLの酸化溶液(7%クロラミンT水和物水溶液、酢酸−クエン酸緩衝液 pH6.0で1:4に希釈)と共に室温で25分間インキュベーションした。その後、400μLのEhrlich試薬(エタノール20mL中の12gの4−ジメチルアミノベンズアルデヒド+エタノール20mL中の濃硫酸2.74mL)を加えた。35℃で3時間インキュベーションした後、573nmで吸光度を測定した。OH−プロリン水溶液(Sigma)を標準希釈列として用いた。肝臓試料中のOH−プロリンの量を肝臓の乾燥重量1gあたりのミリグラム数として計算した。
【0029】
反応性の酸素フリーラジカルの形成をモニターするために、フリーラジカル捕捉剤である還元α−トコフェロール(α−TOC)の濃度を肝臓において測定し、フリーラジカル感受性酵素7−エトキシレゾルフィン脱エチル化酵素(EROD)の活性を血清中で測定した。両パラメーターは、四塩化炭素毒作用に関連して特徴的に下方調節され、組織に対する酸化による傷害の重篤度を見積もることが可能である。
【0030】
動物における肝臓の状態は、いくつかの標準的な血清パラメーターを測定することにより調べることができる:
アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、ホスカリホスファターゼ(AP)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、γ−グルタミルトランスフェラーゼ(GGT)、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GLDH)、および総ビリルビン(TBIL)。
【0031】
結果:
Baypamun(登録商標)での処置により、四塩化炭素処置したラットの肝線維形成による変性の程度が有意に減少する (図1)。さらに、HSC形質転換のほぼ完全な阻害を観察することができる(図2)。Baypamun(登録商標)処置した動物の肝臓における増殖非実質細胞の数は顕著に減少している(図3)。非実質細胞には、同様に線維形成に関与するHSCおよびKupffer細胞が含まれる。
【0032】
肝細胞損傷の血清指標、例えば、ALT、AP、AST、GGT、GLDHおよびTBIL(表1)は、正常化の傾向を示している。
【0033】
対照群およびBaypamun(登録商標)処置群において、ERODとα−トコフェロール濃度が同様に減少したことは、両群における四塩化炭素の毒作用によってもたらされる有毒な反応性の酸素のフリーラジカルの存在の証拠を与える(表1および2)。したがって、Baypamun(登録商標)の解毒作用に起因する「抗線維形成」効果の可能性は除外され得る。
【0034】
血清モデルにおいて、Baypamun(登録商標)は、線維形成のほぼ完全な抑制を示している(図4): Baypamun(登録商標)処置したラットでは、ヒドロキシプロリンの量および肝臓におけるsinusレッド染色領域はいずれも、健康な対照動物においてみられるレベルであったが、血清処置された対照ラットにおいては数倍に増加している。Baypamun群では、ブタ血清処置によって誘導されるコラーゲン量の増加は、対照群において相当する値の10%に過ぎなかった。
【0035】
実施例2
パラポックスウイルス ovis NZ2株
方法
NZ2ウイルスをタンク内で複製させた。このため、BKクローン3A細胞を、細胞が90〜100%コンフルエントになるまで、EMEM2gr+10%FCS中、培養皿にて3〜5日間培養した(37℃)。各タンクにつき、4つの培養細胞皿を接種材料として用い、タンクに培地(EMEM2gr+10%FCS)を2.5Lになるように入れた。37℃にて3〜5日間培養した後(90〜100%コンフルエントの細胞)、培地を血清無添加のEMEM2gに置き換えて、培養細胞をNZ2ウイルス(MOI、0.001〜0.01)で感染させた。
【0036】
CPEが100%に達した後(37℃にて約7〜8日間培養)ウイルスを回収した。このため、ウイルス上清のアリコートを滅菌した培地バッグにいれ−80℃で凍結した。次いで、この懸濁液を培養室中37℃で融解し、ディープベッド濾過(孔サイズ5μm)により細胞を除去した。その後、ウイルス懸濁液を限外濾過(100kDaカットオフ)により20〜40倍に濃縮した。別法として、ウイルスを超遠心により濃縮することができる(Ti45、30000rpm、4℃、60分)。
【0037】
濃縮により達成された、懸濁液に存在するウイルスの力価を、BKクローン3A細胞に対して滴定を行うことにより決定した。ウイルス力価をFCS無添加EMEMを用いて6.0に調整した後、58℃で2時間ウイルスを熱不活化させた。不活化をBKクローン3A細胞に対する不活化管理を行うことによりチェックした。
【0038】
パラポックスウイルス ovis NZ2株を、ラットにおけるブタ血清誘発肝線維形成の実施例1で用いたモデルにおいて試験した:
雌性Sprague Dawleyラットを、0.5mLの滅菌ブタ血清(Sigma)/動物を用いて2 x にて1週間ごとに腹腔内処置し、対照動物を滅菌生理塩化ナトリウム溶液(2×、1週間ごと、0.5mL/動物、腹腔内)で処置した。NZ2株をそれぞれ1.5×105および5.0×105のTCID50/動物の用量で1週間に3回投与した(投与体積:0.5mL/動物)。低用量については、出発物質を培地 (Eagle最小必須培地、Sigma)で希釈した。対照動物を培地で処置した。血清処置NZ2株での処置と平行して行ったが、同日には行わなかった。処理の7週間後、動物を屠殺し、および肝臓を摘出した;肝線維形成は、形態計測およびOH−プロリン量の両方を定量した。このための方法は、既に実施例1に記載されている。
【0039】
結果:
コラーゲン投与の結果を図5に示す。意外にも、NZ2株による処置は肝線維形成の発症を抑制することが可能である:健康な動物と比較して、血清処置した対照動物は、OH−プロリンおよびsinusレッド染色されたコラーゲン量の顕著な増加を示す。この増加は、NZ2により用量依存的に減少する。効果の程度もまた顕著である:5×105TCID50の用量により、肝臓におけるコラーゲン量の増加が対照の値の10%未満に減少した。組織学的調製物の定性試験は、コラーゲン中隔(collagen septa)を有する動物の割合が、1.5×105TClD50の群で93%(14/15)から33%(5/15)、5.0×105TClD50の群では0%に減少したことを示した。
【0040】
実施例3
経口投与後のPPVOの抗線維化効果
PPVOを、耐胃液カプセル内の凍結乾燥品として製剤化した (Elanco, Indianapolis, USA)。
各例6匹の実験動物の4つの群を以下のとおり処置した:1つの対照群(グループ1)には、耐胃液カプセルのみ(PPVOなし)を経口投与し、さらに滅菌塩化ナトリウム溶液(0.5mL/動物)を腹腔内注射した。グループ2には、耐胃液カプセル(PPVOなし)を0.5mL/動物の四塩化炭素と一緒に経口投与し、0.5mLの生理塩化ナトリウム溶液を腹腔内注射した。グループ3の動物にも同じく、耐胃液カプセル(PPVOなし)を0.5mL/動物の四塩化炭素と一緒に経口投与した。さらに、グループ3の動物には、注射用水0.5mL中のPPVO D1701 (用量: 5×106 TCID50/動物)を腹腔内注射した。グループ4には、PPVO D1701 (用量: 5×106 TCID50/動物、耐胃液カプセル中で製剤化)を0.5mLの四塩化炭素と一緒に経口投与した。グループ4の動物にはさらに0.5mLの滅菌塩化ナトリウム溶液を腹腔内投与した。
【0041】
48時間後、肝臓を摘出し、各動物についてα−平滑筋アクチン(α―SMA)陽性小葉中心領域を組織化学的に測定し、代表的な組織片において測定された面積全体の百分率を求めた(Johnson S J, Hines JE, Burt AD. Phenotypic modulation of perisinusoidal cells following acute liver injury: a quantitative analysis. Int. J Exp. Path. 1992; 73: 765-772)。この数値は、肝星細胞の形質転換の程度を示すものである。
【0042】
上記の記載にしたがって、実験を2回行った。最初の実験の結果を表3に示し、2回目の実験の結果を表4に示す。
【0043】
1回目の実験では、PPVO D1701を腹腔内投与した動物(グループ3)の肝臓組織におけるα−SMA陽性小葉中心領域の割合はなぜか(そしてそのほかの実験での経験とは異なり)PPVOを投与しなかった動物よりも高かった。この理由のため、2回目の実験を反復実験として行った。
【0044】
両実験において、対照群と比較して、約50%の形質転換の阻害(グループ2の各例において)が、PPVO D1701の経口投与後、一致した且つ顕著な結果として観察された(グループ4の各例)。2回目の実験では、PPVO D1701の経口投与(グループ4)後の阻害は、PPVO D1701を腹腔内投与した場合に観察されたのと同程度であった(グループ3)。
【0045】
これらの結果から、PPVOは、経口投与後、抗線維化効果も示すことが推論される。
【表1】

ALT:アラニンアミノトランスフェラーゼ GLDH:グルタミン酸デヒドロゲナーゼ
AST:アスパラギン酸 TBIL:総ビリルビンアミノトランスフェラーゼ
AP:アルカリホスファターゼ EROD:7−エトキシレゾルフィン脱エチル化酵素
GGT:γ−グルタミルトランスフェラーゼ
【0046】
【表2】

【0047】
表3
四塩化炭素の線維形成用量の投与後の、肝星細胞の形質転換に対する腹腔内投与または経口投与の後のPPVOの影響 (1回目の実験)
【表3】

【0048】
表4
四塩化炭素の線維形成用量の投与後の、肝星細胞の形質転換に対する腹腔内投与または経口投与後のPPVOの影響(2回目の実験)
【表4】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトにおける臓器線維形成に対して予防的または治療的効果を有する医薬を製造するためのパラポックスウイルスの単離体の使用。
【請求項2】
ヒトにおける臓器線維形成に対して予防的または治療的効果を有する医薬を製造するための、パラポックスウイルス、例えばD1701株、orf−11、Greek orf 176株、Greek orf 155株およびNew Zealand(NZ)株、の単離体の使用。
【請求項3】
ヒトにおける臓器線維形成に対して予防的または治療的効果を有する医薬を製造するために用いられるNew Zealand(NZ)株が、NZ2、NZ7およびNZ10株であることを特徴とする、請求項1〜2に記載のパラポックスウイルスの単離体の使用。
【請求項4】
ヒトにおける臓器線維形成に対して予防的または治療的効果を有する医薬を製造するための請求項1〜3に記載のパラポックスウイルスの使用であって、細胞に適合させるためパラポックスウイルスが継代または順化することにより修飾されている、使用。
【請求項5】
ヒトにおける臓器線維形成に対して予防的または治療的効果を有する医薬を製造するための請求項1〜3に記載のパラポックスウイルスの使用であって、細胞に適合させるためパラポックスウイルスが継代または順化することにより修飾されており、継代または順化にWI−38またはMRC-5等のヒト細胞、BK−Kl3A47/RegまたはMDBK等のウシ細胞およびMDOK等のヒツジ細胞を用いることを特徴とする使用。
【請求項6】
ヒトにおける臓器線維形成に対して予防的または治療的効果を有する医薬を製造するための請求項1〜5に記載のウイルスの一部または断片の使用であって、一部が、培養線維芽細胞等の適当な系においてワクシニアウイルス等の適当なベクターの助けをかりて発現するゲノムまたはサブゲノム断片であると理解され、断片が、発現したまたは物理的に破壊したウイルス粒子のクロマトグラフィー等の生化学的精製によって得られる一部分であると理解されることを特徴とする使用。
【請求項7】
ヒトにおける臓器線維形成に対して予防的または治療的効果を有する医薬および医薬調製物を製造するための、他の治療法と組み合わせた請求項1〜6に記載の1つの単離体の使用。
【請求項8】
ヒトにおける臓器線維形成に対して予防的または治療的効果を有する医薬および医薬調製物を製造するための、Parapox ovis D1701のそのままでのまたは他の治療法と組み合わせた使用。
【請求項9】
抗繊維症物質を同定するための分析において抗線維形成効果を調べるための標準としての、Parapox ovis D1701またはNZ2の調製物の使用。
【請求項10】
医薬調製物および医薬が経口投与に適していることを特徴とする、請求項8に記載のParapox ovis D1701の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−214492(P2012−214492A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−145847(P2012−145847)
【出願日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【分割の表示】特願2002−508473(P2002−508473)の分割
【原出願日】平成13年7月11日(2001.7.11)
【出願人】(506207901)アイキュリス・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト (30)
【氏名又は名称原語表記】AiCuris GmbH & Co. KG
【Fターム(参考)】