説明

臨床検査の精度管理システム

【課題】本発明の目的は、全患者試料の測定結果を対象として、測定結果が試薬あるいは装置に由来する測定誤差により徐々に変化していく傾向をリアルタイムに直接的に監視する方法と、これに基づき異常傾向を検知し適切な対処を自動的に行う精度管理システムを提供することである。
【解決手段】自動分析装置あるいは分析部1から出力される測定結果を、測定順データ処理部2で逐次入力し、測定項目ごとのデータ処理を行う。監視部3は測定順データ処理部2でデータ処理された測定項目ごとの結果を蓄積し、入力部5で入力したパラメータ、あるいは、統計処理部6の統計データを使って監視する。異常を検知した場合は、入力部5で入力した指示を実行する。また、監視部3で蓄積したデータ及び異常検知時の指示は、通知部4で画面や音声により通知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液,尿等の生体サンプルの生化学的分析や免疫学的分析を行う自動分析装置、あるいは、それらの自動分析装置の測定結果を集中管理する臨床検査システムに関り、特に、患者試料を用いた施設内部の精度管理業務を簡便にする臨床検査の精度管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
血液等の試料を分析する自動分析装置の測定結果の正確性・精密性は精度管理によって保証される。精度管理では、測定に使用する試薬や装置の状態が一定に保たれていることを管理する。日常の臨床検査において精度管理を行うことにより、試薬あるいは装置に由来する測定誤差を発見し、その対策を行うことができる。
【0003】
一般に精度管理では、値が既知の精度管理用試料の測定結果を利用する。これは、同一試料の測定結果は、測定条件が同じであれば一定の誤差範囲内の値になるはずであるという前提に基づいている。つまり、同一試料の測定を特定のタイミングで実施し、その測定結果の変動を監視することで、試薬や装置の状態の変動を間接的に監視することができる。通常、精度管理用試料の測定は、検査業務開始時や試薬交換時に行ったり、一定あるいはランダムな間隔で行ったりしている。
【0004】
精度管理用試料を用いた精度管理では、精度管理用試料を分析したある時刻から、次に同等の精度管理用試料を分析する時刻までの時間空間において、これら2つの精度管理用試料の測定結果の変動が管理許容範囲内であることを持って、その間に分析された全試料の出力結果データの正確性・精密性を保証しようというものである。この測定間隔をできるだけ短くし保証精度を向上させる改善策として、特許文献1では、精度管理用試料の出力結果だけでなく、検量線を作成するために測定される標準試料の測定結果も精度管理に利用している。精度管理用試料の測定は患者試料の測定の間に挿入されるため、その頻度を増加させると患者試料の測定の単位時間当たりの処理量が低下する。また、精度管理用試料や試薬を消費するためコストアップになる。従って、検量線を作成するために測定される標準試料の測定結果を精度管理に利用することは有益である。
【0005】
一方、患者試料の変動を監視する精度管理方法も存在する。患者試料を利用した精度管理は、特別な試料の測定が不要なため、精度管理用試料やその測定にかかるコストを削減でき、単位時間当たりの測定の処理量を低下させることもないというメリットがある。患者試料を用いた精度管理には、正常者平均法や潜在基準値平均法などがある。正常者平均法は、患者試料の測定結果の分布は患者構成によって変化するが、ある基準範囲内の値を取る測定結果の分布は安定しているという特徴を利用し、基準範囲内の測定結果の平均値を監視することで、試薬や装置状態の変動を見つける方法である。この正常者平均法において、平均を正常に近い測定結果のみに限定して求めることで患者構成の変化に影響されないようにしたものが、潜在基準値平均法である。潜在基準値平均法は、同時に測定されている他の検査項目の値がいずれも基準値以内にある測定結果を正常に近い測定結果と見なし、正常者平均法の平均値を計算し監視する。
【0006】
また、時系列データを分析する手法として、統計データ分析においては移動平均法がある。これは、スムージングにより意味のあるパターンを読み取り易くする。スムージングとは、その時点ごとに不規則に上下する誤差変動を相殺することである。
【0007】
【特許文献1】特開平11−142412号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
精度管理用試料を用いた精度管理は、再現性を見ることにより精密性を保証する方法であり必要不可欠である。しかし、精度管理用試料を用いた精度管理だけでは、試薬あるいは装置に由来する測定誤差により徐々に測定結果の取りうる値が変化していく傾向を監視するのは不十分である。すなわち、精度管理用試料を用いた精度管理は、精度管理用試料を測定したある時点から、次に精度管理用試料を測定する時点までの時間空間における測定結果については直接的には監視していない。このため、この時間空間内に測定結果に許容できない変化が発生していた場合でも、次の精度管理用試料の測定結果を確認するまでは測定が継続されてしまうという問題がある。あるいは、この時間空間に測定結果に許容できない変化が発生したが、何らかの原因で許容範囲内に戻った場合、検査技師がこの変化を確実に発見することは困難だという問題がある。
【0009】
一方、患者試料を用いた精度管理では、精度管理用試料を用いた精度管理に比べ直接的に監視する測定結果の量は増える。しかし、患者試料を用いた精度管理方法である正常者平均法や潜在基準値平均法では、監視対象とする測定結果は基準値内の値を取る測定結果のみとするため、監視する時間空間が患者構成の偏りの影響を受ける。また、監視対象データが全体分布のどの位置かを見るだけで、その前の複数のデータがどのようであったかという時系列の推移を追うことは困難である。このため、試薬あるいは装置に由来する測定誤差により徐々に測定結果の取りうる値が変化していく傾向を監視するのには、精度が不十分である。
【0010】
また従来、精度管理における異常傾向の検知及びその対処は、検査技師が適宜行っている。しかし昨今の臨床検査室では、検査技師は常時一つの装置を監視しているわけでない。このため、異常を発見するタイミングが遅れ無駄な測定を継続してしまったり、作業者によって判断基準が異なってしまったりする。
【0011】
本発明の目的は、全患者試料の測定結果を対象として、測定結果が試薬あるいは装置に由来する測定誤差により徐々に変化していく傾向をリアルタイムに直接的に監視するとともに異常傾向を検知し適切な対処を自動的に行う精度管理システムを提供することで、精度管理の信頼性を向上させ、人手による判断の違いと発見の遅延による無駄な測定の継続を排除することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明の精度管理システムは、全患者試料の測定順の測定結果を対象として測定結果が試薬あるいは装置に由来する測定誤差により徐々に変化していく傾向をリアルタイムに直接的に監視する機能と、自動的な異常傾向検知と適切な対処実行機能を具備することを特徴とするものである。
【0013】
まず全患者試料の測定結果を対象として測定結果が試薬あるいは装置に由来する測定誤差により徐々に変化していく傾向をリアルタイムに監視する機能は、項目ごとの測定順の測定結果の時系列変化を計算し監視することで達成する。例えば、項目ごとの測定結果が出力されるたびに一定期間分の過去時系列データについて移動平均を求める計算処理を行う。
【0014】
そして、予め設定された各々の監視許容範囲を予め設定された回数連続して超えたことを検知し、予め設定された対処を行うことで、自動的な異常傾向検知と適切な対処実行を達成する。
【0015】
精度管理の経過や対処実施は、画面や音声でユーザに通知する。また、監視許容範囲等は、過去の時系列データを統計処理した結果を利用できるようにし、異常時の処理とともにユーザが設定できるようにしておく。
【0016】
以上により、全患者試料の測定結果を対象に、試薬あるいは装置に由来する測定誤差により徐々に変化していく傾向をリアルタイムに直接的に監視し、自動的な異常傾向検知と適切な対処実行が可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、全患者試料の測定結果を時系列で監視することが可能となり、より信頼性の高い精度管理を測定効率とコストを維持したまま実現可能となる。さらに、試薬あるいは装置に由来する異常傾向の検知と適切な対処を自動で行うことができるようになるため、無駄な測定の継続及び再測定を排除することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の精度管理システムの構成を、図1を使って説明する。1は自動分析装置あるいは分析部であり、測定結果を出力する。2の測定順データ処理部は、自動分析装置あるいは分析部1から出力される患者試料の測定結果を出力順に逐次入力し、測定項目ごとのデータ処理を行う。また、測定順にデータを記憶する測定順データ記憶部を備える。監視部3は測定順データ処理部2のデータ記憶部に記憶されたデータを測定項目ごとにデータ処理した結果を蓄積し、入力部5で入力した閾値(パラメータ)、あるいは、統計処理部6の統計データを使って監視する。異常を検知した場合は、入力部5で入力した指示を実行する。また、監視部3で蓄積したデータ及び異常検知時の指示は、通知部4で画面や音声により通知される。
【0019】
図1の精度管理システムにおいて、測定順データ処理部2は、自動分析装置あるいは分析部1から患者試料の測定結果を出力順に入力する。測定順データ処理部2は、入力した測定結果を測定項目ごとに分け、精度管理のための時系列データを生成する。そして、この時系列データを監視部3で監視し、試薬あるいは装置に由来する異常を検知する。なお、測定順データ記憶部は監視部3に備えられても良い。以下の説明では、監視部に測定順データ記憶部を備えた例を説明する。
【0020】
測定順データ処理部2での集計処理で使用するパラメータは、測定項目ごとの移動平均を求める際の対象データ個数である。監視部3で使用するパラメータは、管理上限値と管理下限値,異常検知時の指示である。これらは、ユーザによって入力部5から設定することができる。入力部5の一例を図2に示す。まず、対象データ個数をユーザが入力する。そして、測定項目ごとの測定結果に対して移動平均を計算した結果を監視するための管理上限と管理下限をユーザが入力する。この時、図3に示すような統計処理部6が出力する統計情報を参考に決める。さらに、管理範囲を超えた場合の指示をユーザが入力する。
【0021】
監視部3は、測定順データ処理部2で逐次生成される精度管理のための時系列データを測定項目ごとに蓄積する。そして過去データからの推移を監視する。もし入力部5で入力済みの管理上限あるいは管理下限を超えたデータが連続して数個(3−5個程度)現れた場合は、これを異常と認め、入力部5で予め入力した指示を起動する。ちなみに、異常を判断する際のデータの連続個数は、ユーザが入力部5で入力できるようにしても良い。
【0022】
監視部3で蓄積した測定項目ごとの精度管理のためのデータは、時系列順に図4に示すような表示で通知部(表示手段)4に表示する。このような精度管理図により、患者試料の測定結果が低値側あるいは高値側に推移していく様子をユーザに通知する。監視部3により異常を検知した場合は、該当する時系列データの色を変えてプロットする。また、音声で通知する。
【0023】
監視部3で蓄積した測定項目ごとの精度管理のためのデータの表し方は、図5に示すようなものでも良い。これは、監視データの値により表示色を変え、色の変わり具合で傾向を表現するものである。基準値±0.5SDを薄緑色とし、基準値を0.5SDずつ離れていくにしたがい表示色を変えていく。そして、管理上限あるいは管理下限を超えた時点で例えば赤色で表示する。この表現では、日を跨いだ大量の監視データを対象に、その傾向を見る場合に適している。
【0024】
以上のような構成にすることにより、全患者試料の測定項目毎の測定順の測定結果を対象とした精度管理が可能となる。さらに、予め設定された内容で異常検知および検知時の指示が自動的に実施されるのでユーザが監視する必要がなくなり、信頼性の高い管理を効率的に行える効果がある。監視対象データは画面や音声で理解し易く表現されるため、ユーザへの注意を容易に喚起できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施例として示した精度管理システムのブロック図。
【図2】本発明の実施例であるパラメータ及び指令を入力する画面を示す図。
【図3】本発明の実施例である過去特定期間のデータを母集団とし統計処理した結果を示す図。
【図4】本発明の実施例である精度管理データの表示例1。
【図5】本発明の実施例である精度管理データの表示例2。
【符号の説明】
【0026】
1…自動分析装置または自動分析装置の分析部、2…測定順データ処理部、3…監視部、4…通知部、5…入力部、6…統計処理部。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料の測定結果を測定項目毎に測定順に記録する測定順データ記憶部と、
上記測定順データ記憶部のデータを予め定めた閾値と比較する監視部と、
上記監視部で使用する閾値を入力する入力手段と、
上記監視部で使用する閾値を決定するために、前記測定順データ記憶部に記憶された試料の測定結果の標準偏差値,平均値,中央値,最頻値,最大値,最小値,変動係数の少なくとも1つを算出する統計処理部と、
を備えたことを特徴とする臨床検査の精度管理システム。
【請求項2】
請求項1記載の精度管理システムにおいて、
更に、前記監視部が測定結果が予め定めた閾値と比較して異常傾向を検知した場合、前記測定順データ記憶部に記憶された測定結果とともに異常を知らせるアラームを画面表示する表示手段を備えたことを特徴とする臨床検査の精度管理システム。
【請求項3】
請求項2記載の精度管理システムにおいて、
入力手段は、閾値の上限値,閾値の下限値、及び異常傾向を検知した場合の対処方法を入力できることを特徴とする臨床検査の精度管理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−248090(P2007−248090A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−68483(P2006−68483)
【出願日】平成18年3月14日(2006.3.14)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】