説明

自動すみ肉溶接方法

【課題】 終端部の角巻き溶接におけるビード形状にばらつきがなく、溶接品質が安定する自動すみ肉溶接方法を提供する。
【解決手段】 溶接始端12にストレートトーチ9a及び9bを移動させ、始端側をセンシングして溶接線を補正する(ステップS1)。始端側のセンシングが終了した後、アークを点火し、始端側角巻き溶接を行う(ステップS2)。始端側角巻き溶接に引き続いて本溶接を行う(ステップS3)。本溶接を終端13の手前で一端停止し、アークを切り、その位置を記憶する(ステップS4)。ストレートトーチ9a及び9bを終端13のまで移動し、トーチ先端部の溶接ワイヤにより終端部をセンシングして溶接線を補正する(ステップS5)。次いで、終端13でアークを再開して終端角巻き溶接を行い、本溶接時にアークを切った終端の手前の位置14、15まで本溶接を行い、ビードを先のビードの端部につなぐ(ステップS6)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下板上に立てられた立板の前記下板との接触部の周囲を長手方向の一端を溶接始端、他端を溶接終端として溶接ロボットの溶接トーチにより自動すみ肉溶接する方法に関し、特に、溶接終端部のビードのばらつきがなく、良好な角巻き溶接及び本溶接を行うことができる自動すみ肉溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下板上に立てられた立板の前記下板との接触部の周囲をすみ肉溶接する際に、前記接触部の長手方向の一端である溶接始端及び他端である溶接終端から前記接触部の両側縁までの間が、角部のすみ肉溶接になり、この部分は通常角巻き溶接といわれる。この角巻き溶接は、溶接ワイヤの狙い位置が少しでもずれると、ビード形状が崩れる難易度の高い溶接である。特に、溶接終端側の角巻き溶接は溶接始端側の角巻き溶接と異なり、ビード形状がばらつき易く、安定な角巻き溶接を行うことは困難である。従って、従来から溶接開始前に下板と立板との接触部である溶接線のセンシングを行い、溶接線の位置を補正させた後、角巻き溶接を行う種々のすみ肉溶接方法が提案されている。
【0003】
図8及び図9は、従来のすみ肉溶接方法を示す説明図であり、図8はその操作フローを示す図、図9は、自動すみ肉溶接方法における溶接部分を示す説明図である。
【0004】
図8及び図9において、この従来技術は、下板と立板との接触部の長手方向の一端を溶接始端、他端を溶接終端とし、溶接始端部を角巻き溶接し、次いで前記接触部の両側縁を本溶接し、その後溶接終端部を角巻き溶接するすみ肉溶接方法であって、前工程の溶接線より溶接終端23に溶接トーチ20a及び20bを移動させた後(ステップS101)、溶接終端部をセンシングして溶接線の位置を補正し(ステップS102)、溶接終端23から溶接始端22へ溶接トーチ20a及び20bを移動させ(ステップS103)、溶接始端部をセンシングして溶接線の位置を補正し(ステップS104)、その後、アークを点火し、溶接始端部の角巻き溶接を行い(ステップS105)、次いで、接触部の両側縁を本溶接し(ステップS106)、溶接終端部を角巻き溶接した後アークを切り(ステップS107)、退避動作によって溶接ロボットを次の溶接線へ移動させる(ステップS108、ステップS109)ものである。
【0005】
しかしながら、上記従来技術には、溶接終端23において、ビード形状が安定せず、溶接線がずれ易いという問題点がある。またこの従来技術は溶接線のずれ発生位置が溶接終端23であることから、作業者が手直しするスペースがなく、ビード不良部の手直しが困難であるという問題点がある。
【0006】
図10は、他の従来技術としてのすみ肉溶接方法(特許文献1:特開昭63−248571号公報)の溶接部分を示す説明図である。この従来技術は、上記従来技術と同様、ツイントーチの溶接ロボットを使用した角巻き溶接を含むすみ肉溶接方法であって、溶接始端32の角巻き溶接時には両溶接トーチ30a及び30bを溶接線方向同一位置で対向させ、本溶接時には、両溶接トーチ30a及び30bに速度差をもたせて一方の溶接トーチ例えば30aに対して他方の溶接トーチ例えば30bを先行又は後行させながら溶接を行い、溶接終端部において、角巻き溶接を行う際、溶接終端33よりも所定長さだけ離れた位置まで溶接し、その後、溶接トーチ30a及び30bを反転させて溶接終了点34a及び34bまで本溶接するものである(特許文献1、公報明細書第3頁右下欄等)。
【0007】
しかしながら、この従来技術は、溶接終端33において溶接トーチ30a及び30bを夫々反転させて各溶接終了点34a及び34bまで戻るように本溶接していることから、溶接終了点34a及び34bにおいてビードの継ぎ部分が乱れた場合に手直し溶接を行い易いという利点があるものの、溶接終端部における角巻き溶接時のビード形状がばらつき易く、溶接品質が安定しないという問題点がある。
【0008】
なお、下板上に立てられた立板の前記下板との接触部を溶接するすみ肉溶接方法は、例えば橋梁を組み立てる際の溶接等に適用されるものであり、多品種少量生産品に適用されることが多い。従って、予めCAD等によって作成された教示プログラムが組み込まれた溶接ロボットであっても、実際の溶接工程の前段に溶接線の位置を補正するセンシング工程が必要となる。
【0009】
【特許文献1】特開昭63−248571号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述した従来技術は、共に、下板上に立てられた立板の前記下板との接触部の長さ方向の一端である溶接始端部を角巻き溶接し、前記接触部の両側縁を本溶接し、その後長さ方向の他端である溶接終端部を角巻き溶接するすみ肉溶接方法に関するものであるが、いずれも角巻き溶接、特に溶接終端部における角巻き溶接のビード形状にばらつきが発生し易く、溶接品質が安定しないという問題点がある。また、特許文献1の従来技術にはシステム全体が煩雑になるという問題点もある。
【0011】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、システム全体及びセンシング操作が煩雑とならず、角巻き溶接、特に溶接終端部における角巻き溶接のビード形状にばらつきがなく、溶接品質が安定した自動すみ肉溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明に係る自動すみ肉溶接方法は、下板上に立てられた立板の前記下板との接触部の周囲を前記接触部の長手方向の一端を溶接始端、他端を溶接終端として自動すみ肉溶接する自動すみ肉溶接方法において、前記溶接始端で溶接ワイヤからアークを発生させて溶接始端から溶接を開始し前記接触部の側縁を本溶接し、この側縁の本溶接の際、溶接終端部の手前の位置で前記溶接トーチを停止させアークを中止する工程と、溶接終端部にて前記溶接トーチにセンシング動作をさせて前記溶接ワイヤによる溶接線の位置を補正する工程と、前記溶接終端でアークを再開した後、前記溶接終端から前記接触部の側縁に至る角部の角巻き溶接を行い、更に前記アーク中止点まで溶接トーチを移動させてビードを継いだ後アークを終了する工程とを有することを特徴とする。
【0013】
この場合において、1対の溶接トーチを使用し、一方の溶接トーチは、前記溶接始端から前記溶接終端まで前記接触部の一方の側縁を含んで溶接し、他方の溶接トーチは、前記溶接始端から前記溶接終端まで前記接触部の他方の側縁を含んで溶接するものとし、前記1対の溶接トーチは、いずれも上記発明の方法で自動すみ肉溶接するようにしてもよい。
【0014】
また、この場合において、前記溶接始端と前記接触部の側縁との間に、前記溶接始端から前記側縁に至る角部があり、溶接始端部にて溶接トーチにセンシング動作をさせて前記溶接ワイヤによる溶接線の位置を補正した後、この始端角部も角巻き溶接するようにしてもよい。
【0015】
更に、この場合において、前記溶接始端から直ちに前記接触部の側縁の溶接に入ることもできる。
【0016】
この場合において、前記溶接終端部の手前の位置でアークを中止させた後、所定の冷却時間経過後、溶接終端でアークを再開して溶接終端部の角巻き溶接を行うことが好ましい
また、この場合において、前記センシングは、溶接ワイヤのタッチセンシングであることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る自動すみ肉溶接方法によれば、溶接終端部の手前で一旦アークを中止させ、溶接終端部にて溶接トーチにセンシング動作をさせて溶接線の位置を補正した後アークを再開して溶接終端部の角巻き溶接を行うようにしたので、溶接終端角巻き溶接を直前に行ったセンシング結果に基づいて行うことができるので、溶接終端角巻き溶接に位置ずれ等が発生することがなく、ビード形状が安定し、溶接品質が向上する。また、システム全体が煩雑化することもない。更に、センシング動作は、溶接開始前は前記溶接始端側のみでよいので、従来のように、溶接終端でセンシングした後、トーチを溶接始端に移動させる必要もない。
【0018】
本願の請求項2に係る自動すみ肉溶接方法によれば、1対の溶接トーチを使用し、一方の溶接トーチは、前記溶接始端から前記溶接終端まで前記接触部の一方の側縁を含んで溶接し、他方の溶接トーチは、前記溶接始端から前記溶接終端まで前記接触部の他方の側縁を含んで溶接するものとし、前記1対の溶接トーチは、いずれも上記発明の方法で自動すみ肉溶接するようにしたので、溶接効率が向上する。
【0019】
本願の請求項3に係る自動すみ肉溶接方法によれば、前記溶接始端と前記接触部の側縁との間に、前記溶接始端から前記側縁に至る角部がある場合に、溶接始端部にて溶接トーチにセンシング動作をさせて前記溶接ワイヤによる溶接線の位置を補正した後、この始端角部にも角巻き溶接するようにしたので、下板と立板との接触部の長手方向両端部に角巻き溶接を行う場合に適用することができる。
【0020】
本願の請求項4に係る自動すみ肉溶接方法によれば、前記溶接始端から直ちに前記接触部の側縁の溶接に入るようにしたので、下板と立板との接触部の長手方向の一端のみに角巻き溶接を行う場合に適用することができる。
【0021】
本願の請求項5に係る自動すみ肉溶接方法によれば、前記溶接終端部の手前の位置でアークを中止させた後、所定の冷却時間経過後、溶接終端でアークを再開して溶接終端部の角巻き溶接を行うようにしたので、本溶接における発熱の影響を受けることがなく、溶接終端部において、高い溶接電流による高強度で型くずれのない角巻き溶接を行うことができる。
【0022】
本願の請求項6に係る自動すみ肉溶接方法によれば、前記センシングを溶接ワイヤタッチセンシングとしたので、ワイヤ癖を考慮したキャリブレーションが可能となり、より正確なセンシング結果が得られ、良好な溶接終端部の角巻き溶接を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明者は、予めセンシングした後角巻き溶接を行っているにもかかわらず、上記従来技術において、特に溶接終端部の角巻き溶接のビード形状にばらつきが生じ、溶接品質が安定しない理由について種々検討したところ、以下のような知見を得た。
【0024】
即ち、センシング後、実際の終端部の角巻き溶接前にワークに歪が発生し、溶接終端側で歪の影響が大きくなって溶接端部位置にずれが発生し、この溶接端部位置のずれが溶接終端部の角巻き溶接の品質低下につながっている。
【0025】
また、センシング時と実際の溶接時とにおけるワイヤの曲がり癖が相違し、このワイヤ曲がり癖の変化が溶接終端部の角巻き溶接の良否に大きく影響する。
【0026】
更に、溶接終端部付近では磁気吹きが発生しやすくなり、アークセンサの狙いが適正位置でない場合があり、これが溶接終端部での角巻き溶接の品質が溶接始端部での角巻き溶接の品質よりも劣る原因となっている。
【0027】
また、溶接終端部の角巻き溶接は溶接始端部の角巻き溶接の場合に比べて位置ずれの影響を大きく受け、位置ずれに対して敏感であることも溶接終端部の角巻き溶接の品質が溶接始端部の角巻き溶接の品質よりも低下しやすい原因になっている。即ち、溶接終端部の角巻き溶接では、少しでも狙い位置がずれるとビード形状が悪くなり易い。端部の角落ちを少なくするための溶接終端部の角巻き溶接条件範囲は溶接始端部の角巻き溶接条件範囲よりも狭く、溶接位置のずれに対して敏感である。
【0028】
本発明者は、このような知見に基づいて角巻き溶接の品質、特に溶接終端部における角巻き溶接の品質を向上させることができる自動すみ肉溶接方法について鋭意研究した結果、下板と立板との接触部の側縁をトーチにより本溶接する際、この本溶接を溶接終端の手前で一旦停止してアークを中止し、この時点で、溶接終端側をセンシングして溶接ロボットによって溶接線の位置を補正し、次いで、溶接終端でアークを再開して溶接終端部を角巻き溶接し、続いて前記本溶接時にアークを中止した位置まで本溶接を行ってビードをつなぐことにより、溶接終端部の角巻き溶接におけるビード形状のばらつきを抑え、溶接品質が安定且つ向上することを見出し、本発明を完成させたものである。
【0029】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は、本実施形態に適用される溶接ロボットを示す斜視図である。この溶接ロボットは、対向する2つのトーチを設けた多関節ツイントーチ型の溶接ロボットである。被溶接物である下板1とその上面に立てられた立板2の左右両側に夫々直線状のレール3が互いに平行に配置されている。この2本のレール3上には、被溶接物を跨ぐように走行台車4が掛け渡されており、この走行台車4はレール3に沿った方向(X方向)に移動可能となっている。走行台車4の上部水平部分にはスライダ5がレール3に直交する方向(Y方向)に移動可能に搭載されている。
【0030】
スライダ5には鉛直方向に延びる旋回軸6が旋回可能に支持されている。軸6の下端にはロボット支持部材7を介して1対の溶接ロボット8a及び8bが設けられている。溶接ロボット8a及び8bの先端部には夫々溶接トーチ9a及び9bが固定されている。溶接ロボット8a及び8bはロボット制御盤10bによって制御され、走行台車4とスライダ5はスライダ制御盤10aによって制御される。
【0031】
このような溶接ロボットを使用したすみ肉溶接は以下のように行われる。図2は、本実施形態に係る自動すみ肉溶接方法の操作フローを示す図であり、図3は、下板1の平面に立てられた立板2の下板1との接触面の周囲の溶接線を示す説明図である。以下、図1乃至図3に基づいて本実施形態のすみ肉溶接方法について説明する。
【0032】
図1乃至図3において、先ず、例えば溶接トーチ9aの溶接ワイヤ先端を下板1の上面に下降させ、下板1検知で溶接トーチ9aの溶接ワイヤ先端を停止し、これによって下板1の位置を記憶する。次いで、溶接トーチ9aの溶接ワイヤ先端を立板2方向に移動させ、立板2検知で停止させ、これによって立板2の位置を記憶する。次に、溶接トーチ9aの溶接ワイヤ先端を溶接始端の角部より外側で下板面より上部、立板面より内側へ移動させ、始端角部方向に移動させて角部端面検知で停止させ、これを溶接始端として記憶する(ステップS1)。
【0033】
溶接始端のセンシングが終了した後、図2及び図3に基づいてアークを開始し、溶接始端部の角巻き溶接を行う(ステップ2)。溶接始端部の角巻き溶接に引き続いて下板1と立板2との接触部の両側部に対して本溶接を行う(ステップ3)。このとき本溶接を終端の手前、例えば3cm手前で一端停止し、アークを中止し、本溶接中止点14及び15をロボット制御盤10bの例えば記憶部に記憶する(ステップ4)。
【0034】
本溶接を一旦停止した後、所定のワーク冷却時間、例えば20秒をおいて又は続けて溶接トーチ9a及び9bを終端13まで移動させ、トーチ先端部の溶接ワイヤにより溶接終端側をセンシングする(ステップ5)。溶接終端側のセンシングは溶接始端側のセンシングに準じて同様に行われる。溶接終端側のセンシング時間をワーク冷却時間と兼ねてもよい。
【0035】
次いで、溶接終端13でアークを再開して溶接終端部の角巻き溶接を行い、上記本溶接時にアークを中止した溶接終端の手前の本溶接中止点14及び15まで本溶接を行い、ビードを本溶接中止点14及び15につないでアークを切る(ステップ6)。
【0036】
本溶接を一旦停止した後、溶接トーチ9a及び9bを溶接終端13まで移動し、トーチ先端部の溶接ワイヤを使用してセンシングし、その後、アークを再開して溶接終端部の角巻き溶接を行うことにより、溶接終端部のセンシング時にワークが冷却されるので、アーク再開後の溶接電流値を高めることができ、溶接終端部の角巻き溶接におけるビードが安定し、溶接品質が向上する。ワーク冷却時間を別途確保した場合も同様である。なお、溶接電流が低いと溶接線の僅かなずれによってビード形状にばらつきが生じやすくなる。
【0037】
このようにして立板2の下板1との接触部の周囲を溶接した後、溶接トーチ9a及び9bは退避動作に移行し(ステップ7)、その後、次の溶接線に移動する(ステップ8)。
【0038】
本実施形態によれば、本溶接を終端13の手前で停止し、本溶接中止点14、15を記憶し、次いで終端側をセンシングした後、終端角巻き溶接を行うようにしたので、終端角巻き溶接をその直前のセンシングで得られた溶接線に従って行うことができるので、溶接中の歪等によるビード形状のばらつき、溶接不良を回避することができる。
【0039】
また、本実施形態によれば、溶接終端部を角巻き溶接する直前に、前記溶接終端部を溶接ワイヤを使用してワイヤセンシングするので、溶接始端部の角巻き溶接及び本溶接の間に溶接ワイヤの曲がり癖が変化したとしても、変化した曲がり癖を有する溶接ワイヤで溶接終端部をセンシングすることができる。これによって、溶接終端部において直前のセンシング結果に基づいた良好な角巻き溶接を行うことができる。
【0040】
更に、本実施形態によれば、終端側をセンシングしている間に、本溶接で加熱されたワークが冷却されるので、アークを再開した後の終端側角巻き溶接時の溶接電流を例えば200A(アンペア)程度に高くすることができるので、溶接終端側角巻き溶接において、僅かな溶接線のずれに起因するビード形状のばらつきを回避することができる。また、このように、終端センシング時間をワークの冷却時間と兼ねることができるので、タクトの無駄をなくすことができる。しかし、アークを再開する前に、別途ワーク冷却時間を設けることもできる。
【0041】
また、本実施形態によれば、溶接開始時には終端側センシングを行わないので、溶接開始時の終端側から始端側への溶接トーチの移動がなくなるので、タクトがそれだけ向上する。また、溶接開始時のセンシング動作の煩雑さを解消することもできる。
【0042】
本実施形態によれば、本溶接を終端の手前で停止し、その位置を記憶し、終端角巻き溶接を行った後、本溶接を行ってビードを連結するようにしたので、本溶接中止点であるビード連結部14及び15が終端から離れた位置となる。従って、ビード連結部に手直しが必要な場合にも容易に対応できる。また、耐アンダーカット性が向上する。
【0043】
図4及び図5は、夫々本実施形態で得られた終端角巻き溶接部を示す模式図であり、図6は従来技術によって溶接品質がばらつくことによって得られた溶接不良の場合の終端角巻き溶接部を示す模式図である。図4及び図5において、本実施形態によれば、終端角巻き溶接部分のビード幅が均一でその形状に乱れがないことが分かる。またビード接続部分における段差が小さく、全体として良好なすみ肉溶接が行われたことが分かる。これに対して、図6の従来技術では、終端側角巻き溶接におけるねらい位置にばらつきがあり、ねらい位置がずれた場合には角巻きビード形状がくずれている。またビード連結部に大きな段差がある。
【0044】
上記実施形態において、溶接ロボットとして天吊りタイプの多関節ツイン溶接システムを使用した場合について説明したが、本発明で使用する溶接ロボットはこれに限定されるものではなく、種々の溶接ロボットを使用することができる。
【0045】
図7は、本発明に適用される別の溶接ロボットを示す斜視図である。図7において、この溶接ロボットは、対向する2つのトーチを設けたツイントーチ型の溶接ロボットである。被溶接物である下板41とその上面に立てられた立板42の左右両側に夫々直線状のレール43が互いに平行に配置されている。この2本のレール43上には、被溶接物を跨ぐように溶接台車44が掛け渡されており、この溶接台車44はレール43に沿った方向(X方向)に移動可能となっている。溶接台車44の上部水平部分にはトーチ台車45がレール43に直交する方向(Y方向)に移動可能に搭載されている。
【0046】
トーチ台車45には鉛直方向に延びるトーチ支持軸46が上下方向(Z方向)に移動可能に支持されている。トーチ支持軸46の下端にトーチ旋回機構47が取り付けられており、このトーチ旋回機構47の左右には夫々に平行に移動可能なスライダ48a及び48bが設けられている。スライダ48a及び48bには夫々垂直軸49a及び49bを介して溶接トーチ50a及び50bが固定されている。この溶接ロボットは溶接台車44上に設けられた制御部51によって制御される。
【0047】
上記実施形態において、ツイントーチ型の溶接ロボットを使用して、下板1と立板2との接触部の溶接始端と溶接終端の両方の角部に角巻き溶接を施す自動すみ肉溶接方法について説明したが、本発明の自動すみ肉溶接方法はこれに限定されるものではなく、シングルトーチ型の溶接ロボットを使用して下板1と立板2との接触部の一方の側縁を本溶接し、溶接端部については角巻き溶接を行い、次いで、他方の側縁に対して同様の本溶接及び角巻き溶接をすることもできる。この場合において、他方の側縁を溶接する際の溶接始端と溶接終端を前記一方の側縁を溶接する場合の溶接始端及び溶接終端と同じにすることもでき、また逆にすることもできる。
【0048】
また、本発明は、下板1と立板2との接触部の長手方向の一端が、別の部材に当接又は近接していること等により、一端の角部のみに角巻き溶接を行う場合にも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の自動すみ肉溶接方法は、角巻き溶接、特に終端側角巻き溶接におけるビードのばらつきをなくし、溶接品質を安定させることができるものであり、橋梁の製造をはじめとする下板上に立てられた立板の前記下板との当接面の周囲を溶接するすみ肉溶接の分野で、特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施形態に適用される溶接ロボットを示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係るすみ肉溶接方法のフロー図である。
【図3】本発明の実施形態に係るすみ肉溶接部分を示す説明図である。
【図4】本発明の実施形態で得られた終端角巻溶接部を示す模式図である。
【図5】本発明の実施形態で得られた終端角巻溶接部を示す模式図である。
【図6】従来技術で得られた溶接不良の場合の終端角巻溶接部を示す模式図である。
【図7】本発明に適用される別の溶接ロボットを示す斜視図である。
【図8】従来技術の説明図である。
【図9】従来技術の説明図である。
【図10】他の従来技術の説明図である。
【符号の説明】
【0051】
1:下板
2:立板
3:レール
4:走行台車
5:スライダ
6:旋回軸
7:ロボット支持部材
8a、8b:溶接ロボット
9a、9b:溶接トーチ
10a:スライダ制御盤
10b:ロボット制御盤
12:溶接始端
13:溶接終端
14、15:本溶接中止点(ビード連結部)
20a、20b:溶接トーチ
22:溶接始端
23:溶接終端
30a、30b:溶接トーチ
32:溶接始端
33:溶接終端
34a、34b:溶接終了点
41:下板
42:立板
43:レール
44:溶接台車
45:トーチ台車
46:トーチ支持軸
47:トーチ旋回機構
48a、48b:スライダ
49a、49b:垂直軸
50a、50b:溶接トーチ
51:制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下板上に立てられた立板の前記下板との接触部の周囲を前記接触部の長手方向の一端を溶接始端、他端を溶接終端として自動すみ肉溶接する自動すみ肉溶接方法において、前記溶接始端で溶接ワイヤからアークを発生させて溶接始端から溶接を開始し前記接触部の側縁を本溶接し、この側縁の本溶接の際、溶接終端部の手前の位置で前記溶接トーチを停止させアークを中止する工程と、溶接終端部にて前記溶接トーチにセンシング動作をさせて前記溶接ワイヤによる溶接線の位置を補正する工程と、前記溶接終端でアークを再開した後、前記溶接終端から前記接触部の側縁に至る角部の角巻き溶接を行い、更に前記アーク中止点まで溶接トーチを移動させてビードを継いだ後アークを終了する工程とを有することを特徴とする自動すみ肉溶接方法。
【請求項2】
1対の溶接トーチを使用し、一方の溶接トーチは、前記溶接始端から前記溶接終端まで前記接触部の一方の側縁を含んで溶接し、他方の溶接トーチは、前記溶接始端から前記溶接終端まで前記接触部の他方の側縁を含んで溶接する際、前記1対の溶接トーチは、いずれも前記請求項1に記載の方法で自動すみ肉溶接することを特徴とする請求項1に記載の自動すみ肉溶接方法。
【請求項3】
前記溶接始端と前記接触部の側縁との間に、前記溶接始端から前記側縁に至る角部があり、溶接始端部にて溶接トーチにセンシング動作をさせて前記溶接ワイヤによる溶接線の位置を補正した後、この始端角部も角巻き溶接することを特徴とする請求項1又は2に記載の自動すみ肉溶接方法。
【請求項4】
前記溶接始端から直ちに前記接触部の側縁の溶接に入ることを特徴とする請求項1又は2に記載の自動すみ肉溶接方法。
【請求項5】
前記溶接終端部の手前の位置でアークを中止させた後、所定の冷却時間経過後、溶接終端でアークを再開して溶接終端部の角巻き溶接を行うことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の自動すみ肉溶接方法。
【請求項6】
前記センシングは、溶接ワイヤのタッチセンシングであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の自動すみ肉溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−122937(P2006−122937A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−313151(P2004−313151)
【出願日】平成16年10月27日(2004.10.27)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】