説明

自動レベル制御装置及びその方法

【課題】 無線周波数信号の立ち上がり時や信号レベルの急激な変動が生じた場合にも、安定した制御を行うことを可能とした自動レベル制御装置を得る。
【解決手段】 検波器6の出力に基づき、微分器8により、無線周波数信号21の瞬時変動を検出する。その瞬時変動をトリガとした一定期間のパルス信号91を得て、サンプルホールド回路12において、このパルス信号91を用いて、自動レベル制御によるフィードバックをこの期間マスクする。すなわち、このパルス信号91の発生の間は、このパルス信号の発生直前の制御信号111をそのまま可変減衰器3の制御信号121として使用する。これにより、無線周波数信号21の立ち上がり時や信号レベルの急激な変動が生じた場合にも、安定した制御を行うことが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動レベル制御装置及びその方法に関し、特にCDMA(Code Division Multiple Access )方式を用いた無線通信装置に用いて好適な自動レベル制御装置及びその方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の自動レベル制御方式を採用した無線通信装置の構成例を、図3にブロック図として示している。図3を参照すると、無線ベースバンド信号1は変調器2と信号処理部11とに入力される。変調器2は無線ベースバンド信号1を無線周波数変調信号21に変換する。可変減衰器3は、増幅器4の温度変動などにより生ずる利得の変動を、印加される減衰量制御電圧111に対応した減衰量を設定することにより補償する。
【0003】
増幅器4は無線周波数信号の電力増幅を行う。カプラ5はこの無線周波数信号を一定比率で分配を行い、分配された出力用信号51を、図示せぬアンテナなどの終端装置へ、また無線信号のレベル監視のためのモニタ用信号52を検波器6へ供給する。検波器6は無線周波数信号の直流検波を行い、無線出力信号のレベルに対応した直流検波電圧61を出力する。
【0004】
バッファ7は直流検波電圧61を干渉増幅した検波電圧71を出力する。バッファ7は回路構成上の都合によっては省略される。積分器10は検波電圧71の高周波成分を除去した積分電圧101を出力する。信号処理部11は無線ベースバンド信号1の振幅を検出、演算し、理想的な基準出力レベルを計算すると共に、積分電圧101である実際の検波電圧と、当該基準出力レベルとを比較し、その差分を補正する補正電圧を、減衰量制御電圧111として出力して可変減衰器3へ供給する。
【0005】
図3の構成において、通常の自動レベル制御時は、温度特性による増幅器4の利得に変動が生じても、信号処理部11により計算された理想電力である基準出力レベルと、検波器6によって検波され積分器10によって適度に平滑化された積分電圧101との差分を補正する信号111を、可変減衰器3に与えることにより、総合的な出力信号51のレベルの安定化を図るようになっている。
【0006】
なお、関連する技術として下記の特許文献1,2に開示の技術がある。
【特許文献1】特開2000−349738号公報
【特許文献2】特開平01−047134号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、図3の構成では、無線周波数変調信号21として、CDMA方式に代表される高多重振幅−位相変調方式を採用した場合においては、この信号21は急激な包絡線変動を有しているため、自動レベル制御の有するフィードバック系の時間遅延や積分回路による検波波形の平滑化により、必ずしも安定した自動レベル制御の安定度が得られているわけではない。
【0008】
その理由を図4の波形図を用いて説明する。変調器2によって生成される信号21の電力−時間波形を図4(A)に示す。このときの出力平均電力はP1としており、図中のaは装置起動時、bは急激な包絡線変動時を示す。図4(B)は、このときの検波電圧である積分電圧101と理想平均電圧とを示しており、積分電圧101は、理想平均電圧との間に差電圧領域を有することになる。
【0009】
このときの理想値との比較は、自動レベル制御回路の有する時間遅延T2を考慮して行う必要がある。これは信号処理部11の演算結果によると、補正電圧(減衰量制御電圧)111として、図4(C)の波形が出力されることになる。その結果、可変減衰器3の電圧制御を受けた無線高周波信号は、増幅器4などの温度変動要因が無いにも関わらず、図4(D)に示す異常波形を出力することになる。
【0010】
つまり、立ち上がり時は、無線周波数信号の電力P2が、包絡線変動がある場合はP3の電力となってしまい、本来出力しようとしている平均電力P1から乖離することになる。よって、この従来例では、振幅変動の大きな変調方式において安定した自動レベル制御を行えないという欠点があり、電波法などに規定される空中線電力の許容値を満たすことが困難となる。
【0011】
なお、特許文献1の技術においては、包絡線の瞬時ピークによる誤差成分を検出しても、安定した増幅器の温度変動補償を行う自動レベル制御方式が提案されている。本例においては、増幅器の温度変動に着目した差分のみの補正を統計サンプルによる検出値をもって行っているが、デジタル処理が多く、またサンプル数を多数取得する必要があるため、CPUやRAMなどのデバイスを多く使用する必要があるために、回路構成が高額となる他、統計値のサンプルを多く必要とするために、電力補償に時間がかかるという問題がある。
【0012】
また、特許文献2の技術においては、プリアンブル部が出力されている区間を検出し積分器の時定数を切り替えてAGCの追従度を変えて誤差の発生を防ぐ方式が提案されている。しかしながら,本例においては、無線周波数信号がCDMA方式の様な、ユーザデータ多重を行い瞬時ピークが発生しやすい環境においては、電力の補正に誤差を生じるという不具合がある。
【0013】
本発明の目的は、無線周波数信号の立ち上がり時や信号レベルの急激な変動が生じた場合にも、安定した制御を行うことを可能とした自動レベル制御装置及びその方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明による自動レベル制御装置は、無線周波数信号を所定基準レベルに制御する自動レベル制御装置であって、前記無線周波数信号のレベル急変に応答して、所定期間、前記無線周波数信号のレベルの自動制御をホールド制御する制御手段を含むことを特徴とする。
【0015】
本発明による無線通信装置は、上記の自動レベル制御装置を用いたことを特徴とする。
【0016】
本発明による自動レベル制御方法は、無線周波数信号を所定基準レベルに制御する自動レベル制御方法であって、前記無線周波数信号のレベル急変に応答して、所定期間、前記無線周波数信号のレベルの自動制御をホールド制御するステップを含むことを特徴とする。
【0017】
本発明の作用を述べる。検波器の出力に基づき、微分器により、無線周波数信号の瞬時変動を検出し、その瞬時変動をトリガとした一定期間のパルス信号を得て、サンプルホールド回路において、このパルス信号を用いて、自動レベル制御によるフィードバックをこの期間マスクする。すなわち、このパルス信号の発生の間は、このパルス信号の発生直前の制御信号をそのまま可変減衰器の制御信号として使用する。これにより、無線周波数信号の立ち上がり時や信号レベルの急激な変動が生じた場合にも、安定した制御を行うことが可能となるのである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、無線周波数信号の立ち上がり時や信号レベルの急激な変動が生じた場合に、可変減衰器の減衰量を制御する制御信号をマスクするようにしたので、制御信号の誤差検出による急変を防止することができ、よって無線周波数信号の安定したレベル制御が可能になるという効果がある。また、本発明によれば、当該制御信号をマスクするための回路が極めて簡単に構成できるので、無線通信装置の構成が簡単化されまたコスト的にも有利となるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について詳細に説明する。図1は本発明の実施の形態の自動レベル制御装置を適用した無線通信装置の機能ブロック図であり、図3と同等部分は同一符号により示している。図1において、図3と相違する部分のみについて説明する。
【0020】
バッファ7の出力である検波電圧71を入力とする微分器8を設けて、検波電圧71の振幅変動の微分電圧81を抽出する。なお、バッハァ7は必須ではないことは前述したとおりである。この微分器8は回路に直列に挿入したコンデンサにより簡単に実現することができる。この微分器8の動作閾値は、誤差を誘発するレベルにおいて動作するような調整や定数設定が必要である。
【0021】
この微分電圧81を入力とする電圧伸張回路9は、微分電圧81をトリガとしたパルス信号を一定の時間伸張する制御電圧91を出力する。制御電圧91はワンショットマルチバイブレータなどの汎用ICを用いて実現することができる。前述したように、信号処理部11は無線ベースバンド信号1の振幅を検出、演算し、理想的な基準出力レベルを計算すると共に、積分電圧101の実際の検波電圧とを比較し、その差分を補正する補正電圧111を出力する。この補正電圧111の電圧の現出には、D/Aコンバータが一般に必要だが、本図では表記しない。
【0022】
この補正電圧111を入力とするサンプルホールド回路12は、補正電圧111を干渉増幅し、可変減衰器3の減衰量制御電圧121として印加すると共に、制御電圧91の電圧制御の期間(T3時間)、直前に得られた補正電圧111の電圧を保持し、その一定時間の間、補正電圧111の電圧変動を可変減衰器3から切り離す機能(マスク)を有する。
【0023】
このような回路構成により、無線周波数信号21に急激な振幅変動が発生した際には、得られた微分成分により一定時間利得制御を停止させることにより、誤動作の少ない自動レベル制御を提供できる。
【0024】
以下に、その理由を図2の波形を用いて説明する。図2(A),(B)は図4(A),(B)と同一波形である。図2(C)を参照すると、検波電圧71が微分器8により微分されて微分波形81が得られる。この微分信号81は、この信号81の立ち上がりをトリガとして、電圧伸長回路9における時定数による伸張時間(T3)分伸張される。サンプルホールド回路12はこのT3の区間、T3直前のタイミングにおける補正電圧111の値を保持し、減衰量制御電圧121として可変減衰器3に印加し続ける。
【0025】
このことにより、信号処理部11による検波電圧の差電圧が生じても、可変減衰器3による電力補正が施されることなく、安定したレベルを出力し続けることができる。電力補正がマスクされた波形を図2(D)に示す。この結果、出力信号51は、図2(E)に示すように、無線周波数信号レベル21が増幅された波形を忠実に出力することができる。
【0026】
以上説明した制御フロー及び回路は、従来回路に、直列コンデンサによる微分器8、汎用ICを使用することによる電圧伸張回路9及びサンプルホールド回路12により比較的簡素に構成することができる。また、本発明の他の実施例として、制御フローや制御思想を信号処理部11のソフト演算内においても実現しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態のブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態の動作を説明する波形図である。
【図3】従来技術のブロック図である。
【図4】図3の従来例の動作を説明する波形図である。
【符号の説明】
【0028】
2 変調器
3 可変減衰器
4 増幅器
5 カプラ
6 検波器
7 バッファ
8 微分器
9 電圧伸長回路
10 積分器
11 信号処理部
12 サンプルホールド回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線周波数信号を所定基準レベルに制御する自動レベル制御装置であって、前記無線周波数信号のレベル急変に応答して、所定期間、前記無線周波数信号のレベルの自動制御をホールド制御する制御手段を含むことを特徴とする自動レベル制御装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記レベル急変に応答して、前記レベル急変直前のレベル制御状態を維持するようにしたことを特徴とする請求項1記載の自動レベル制御装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記レベル急変を検出してこの検出タイミングから前記所定期間パルス信号を出力する手段と、このパルス信号によりレベル制御用の信号をマスクする手段とを有することを特徴とする請求項2記載の自動レベル制御装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記無線周波数信号の検波出力を微分する微分手段と、この微分出力に応答して前記所定期間パルス信号を出力するパルス生成手段と、このパルス信号に応答して前記パルス信号発生直前の前記レベル制御用の信号をホールドするホールド手段とを有することを特徴とする請求項3記載の自動レベル制御装置。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか記載の自動レベル制御装置を含むことを特徴とする無線通信装置。
【請求項6】
CDMA通信方式に用いることを特徴とする請求項5記載の無線通信装置。
【請求項7】
無線周波数信号を所定基準レベルに制御する自動レベル制御方法であって、前記無線周波数信号のレベル急変に応答して、所定期間、前記無線周波数信号のレベルの自動制御をホールド制御する制御ステップを含むことを特徴とする自動レベル制御方法。
【請求項8】
前記制御ステップは、前記レベル急変に応答して、前記レベル急変直前のレベル制御状態を維持するステップを有することを特徴とする請求項7記載の自動レベル制御方法。
【請求項9】
前記制御ステップは、前記レベル急変を検出してこの検出タイミングから前記所定期間パルス信号を出力するステップと、このパルス信号によりレベル制御用の信号をマスクするステップとを有することを特徴とする請求項8記載の自動レベル制御方法。
【請求項10】
前記制御ステップは、前記無線周波数信号の検波出力を微分する微分ステップと、この微分出力に応答して前記所定期間パルス信号を出力するパルス生成ステップと、このパルス信号に応答して前記パルス信号発生直前の前記レベル制御用の信号をホールドするホールドステップとを有することを特徴とする請求項9記載の自動レベル制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−217098(P2006−217098A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−25795(P2005−25795)
【出願日】平成17年2月2日(2005.2.2)
【出願人】(390010179)埼玉日本電気株式会社 (1,228)
【Fターム(参考)】