説明

自動二輪車用の走行支援方法および走行支援システム

【課題】 技量のあるライダーでもそうでないライダーであっても、適切な走行支援を実行できる自動二輪車用の走行支援方法を提供する。
【解決手段】 自動二輪車の走行情報を利用して走行を支援する方法であって、自動二輪車が所定のカーブを走行する際に(S10)、カーブの走行条件をライダーに通知する工程(S20)を包含し、前記カーブの走行条件として、予め記録しておいた走行情報に基づき算出され、ライダーの技量レベルに対応して変更可能な走行適正値と、実際の走行状態の値との対比結果が前記ライダーに通知される、自動二輪車用の走行支援方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車用の走行支援方法に関する。本発明はまた、自動二輪車用の走行支援システムおよびそのシステムを備えた自動二輪車に関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車の走行を支援するために、道路状況と車両の走行状態に応じて必要な警告をライダーに与える自動二輪車の情報提供装置が提案されており、例えば特許文献1に開示されている。
【0003】
特許文献1に開示された情報提供装置では、通信によって得られた道路情報と各種センサによって検出された車両情報(例えば、車速Vなど)の取り出しが開始される。そして、ECUは、車速Vとカーブの半径R及び重力加速度gを用いて、式 θ=tan−1(V/(g・R))によって車体のバンク角θを算出し、次いで、求められたバンク角θの大きさを判定する。
【0004】
θ<10°の場合は、ランプ番号LNUMを1(青)に設定して、青のLEDランプを点灯し、バンク角θが10°≦θ<20°である場合は、ランプ番号LNUMを2(黄)に設定するとともに、音声信号VoiceNを1(「ピッ注意!」)に設定する。バンク角θが20°≦θである場合は、ランプ番号LNUMを3(赤)に設定し、音声信号VoiceNを2(「ピピ危険!」)に設定すると同時に、リヤブレーキランプを点灯し、バンク角θが10°≦θである場合には、車速Vが判定され、車速Vに応じてそれぞれの色(黄又は赤)のランプの点滅間隔と音声信号の長さ及び音量が設定される。
【0005】
このように、道路状況と車両の走行状況に応じて必要な警告がライダーに所定のタイミングで自動的に与えられるため、ライダーは車両を常に適切に運転することができ、これによってライダーの運転の負担を軽減することができる。
【特許文献1】特開2002−140800号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、バンク角θを算出し、バンク角θの大きさに応じて必要な警告をライダーに与えるようにしているが、自動二輪車におけるバンク角というのは、他の条件(例えば、カーブの曲率、ライダーの技量)に影響されることが大きく、単に、バンク角θの大きさを測定しても、実際には役に立たないことが多い。特に、ある標準的なバンク限界(適正バンク角)を定めて、それをライダーに情報提供しても、技量のあるライダーには甘い設定となってしまい、役に立たず、適切な走行支援にむすびつかない。
【0007】
本発明はかかる諸点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、技量のあるライダーでもそうでないライダーであっても、適切な走行支援を提供することができる自動二輪車用の走行支援方法を提供することにあり、特に、自動二輪車の走行支援のために適切なバンク角を通知できる自動二輪車用の走行支援方法を提供することにある。本発明の他の目的は、そのような走行支援方法を実現するのに好適な自動二輪車用の走行支援システム、および、そのシステムを備えた自動二輪車を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の自動二輪車用の走行支援方法は、自動二輪車の走行情報を利用して走行を支援する方法であって、自動二輪車が所定のカーブを走行する際に、カーブの走行条件をライダーに通知する工程を包含し、前記カーブの走行条件として、予め記録しておいた走行情報に基づき算出され、ライダーの技量レベルに対応して変更可能な走行適正値と、実際の走行状態の値との対比結果が前記ライダーに通知される、自動二輪車用の走行支援方法である。
【0009】
ある好適な実施形態において、前記カーブの走行条件は、画像表示部に表示されて通知される。
【0010】
ある実施形態において、前記カーブの走行条件は、音声により前記ライダーに通知される。
【0011】
ある好適な実施形態において、前記ライダーに通知される前記カーブの走行条件には、最大適正車速および最大適正バンク角が含まれている。
【0012】
前記最大適正バンク角は、左バンク角と右バンク角とで区別されて通知されることが好ましい。
【0013】
ある好適な実施形態において、前記自動二輪車が所定のカーブを走行する際に、前記走行適正値をオーバーした場合には前記ライダーへ警告を発する。
【0014】
ある好適な実施形態において、前記走行適正値は、走行適正車速であり、前記走行適正値は、カーブ深さデータ、タイヤの空気圧データ、下り勾配データ、および、気温データのうちの少なくとも一つによって補正される。
【0015】
ある好適な実施形態において、前記ライダーに通知される前記カーブの走行条件は、加速・減速ポイントについての前記対比結果である。
【0016】
ある好適な実施形態では、前記自動二輪車が所定のカーブを走行する際に、前記走行適正値を超えて走行できた場合に、当該走行データを記録して、走行適正値を更新する工程をさらに包含する。
【0017】
ある好適な実施形態において、前記自動二輪車用の走行支援方法は、異なるライダー毎に区別して実行される。
【0018】
ある好適な実施形態において、前記異なるライダー毎の区別には、第1のライダーが単独の場合と、当該第1のライダーが二人乗りで走行している場合とが区別されている。
【0019】
本発明の自動二輪車用の走行支援システムは、自動二輪車の走行を支援するシステムであり、実際の走行状態の値を計測する実際値計測手段と、予め記録しておいた走行情報と前記実際の走行状態の値とに基づき、カーブの走行条件を算出する演算手段と、自動二輪車が所定のカーブを走行する際に、前記カーブの走行条件をライダーに通知する通知手段と、前記ライダーの技量レベルに合わせて、前記カーブの走行条件を変更する条件設定手段とを備えている。
【0020】
ある好適な実施形態において、前記通知手段は、画像表示装置および音声送受信機の少なくとも一つである。
【0021】
本発明の他の自動二輪車用の走行支援システムは、自動二輪車の走行を支援するシステムであり、自動二輪車の車速を測定する車速センサと、前記自動二輪車のヨーレートを測定するヨーレートセンサと、前記自動二輪車の座標データを取得する座標特定装置と、前記車速センサ、前記ヨーレートセンサおよび前記座標特定装置に接続された制御装置と、前記制御装置に接続され、データを記憶する記憶装置と、前記制御装置に接続され、画像を表示する画像表示装置とを備え、前記記憶装置には、予め記録しておいた走行情報に基づき算出され、ライダーの技量レベルに対応して変更可能な走行適正値データが格納されており、前記制御装置には、前記走行適正値データを変更する設定変更スイッチが接続されており、前記制御装置は、前記走行適正値データを前記画像表示装置に表示させる機能を有している。
【0022】
ある好適な実施形態において、前記座標特定装置は、GPS(Global Positioning System)信号を受信するGPS受信機である。
【0023】
ある好適な実施形態において、前記制御装置は、前記自動二輪車がカーブを走行する際に、前記車速センサによって測定された車速と、前記走行適正値データとを比較する機能を有し、且つ、前記車速が前記走行適正値データを超えた場合に前記画像表示装置に警告を通知する機能を有している。
【0024】
ある好適な実施形態において、前記制御装置は、前記車速が前記走行適正値データを超えた場合の当該車速を、新たな走行適正値データとして更新する機能を有している。
【0025】
ある好適な実施形態において、前記制御装置には、音声送受信機が接続されており、前記制御装置は、前記警告を前記音声送受信機を介してライダーに通知する機能を有している。
【0026】
ある好適な実施形態では、さらに、前記走行適正データを含む情報を記憶可能な外部記憶装置を接続できる構成となっている。
【0027】
本発明の自動二輪車は、上記自動二輪車用の走行支援システムを備えた自動二輪車である。
【0028】
本発明の実施形態に係る自動二輪車の走行情報表示システムは、車体の走行状態を検出するセンサと;このセンサ出力に基づいて、左右バンク角、加減速値、車速及び車体の加減速ポイントの少なくとも一つからなる走行特性値に関連するデータを得、このデータの所定時間毎の値を順次記録して、当該データの履歴を蓄積するデータ処理手段と;この蓄積データに基づき、車体の走行結果に対応させて走行特性値を表示手段に表示するための情報処理を実行する表示処理手段とを備えている。
【0029】
ある実施形態において、前記走行結果は車体が走行した走行経路、又は車体が走行した走行経路のカーブ曲率である。
【0030】
ある実施形態において、前記表示処理手段は、前記走行経路に沿って前記走行特性値を表示するように構成されている。
【0031】
ある実施形態において、前記表示処理手段は、前記走行経路を地図データに重ねて表示するように構成されている。
【0032】
ある実施形態において、前記表示処理手段は、前記走行特性値を比較用走行特性値と隣接させて表示手段に表示可能に構成されている。
【0033】
ある実施形態において、前記比較用走行特性値は、通信手段を介して外部データベースから前記表示処理手段の記憶領域に保存可能に構成されてなるものである。
【0034】
ある実施形態において、前記比較用走行特性値は、標準値、又は同一ドライバの過去の走行限界値、又は他のドライバの走行限界値である。
【0035】
ある実施形態において、前記データ処理手段は、車体の走行軌跡に対応した座標データから走行経路を得るように構成されている。
【0036】
ある実施形態において、前記座標データは、GPSから得られる。
【0037】
本発明の実施形態に係る自動二輪車の情報表示システムは、自動二輪車のライダーへの情報伝達処理手段と、処理結果を表示する表示手段とを備えてなり、前記情報伝達処理手段は、車載センサからの出力情報をメモリに順次記憶するとともに、この記憶値と車体の位置情報とから、車体が走行した走行経路に関する左右のバンク角のメモリマップを形成し、このマップデータに基づいてライダーに対して前記走行経路に対するバンク角を表示手段に表示するように構成されている。
【0038】
ある実施形態において、前記バンク角は、前記ライダーの運転能力に依存した限界バンク角である。
【0039】
ある実施形態において、前記メモリマップは、前記走行路のカーブ曲率に対するバンク角のメモリ領域を備えている。
【0040】
ある実施形態において、前記メモリマップは、前記走行路の座標データに対するバンク角のメモリ領域を備えている。
【0041】
ある実施形態において、前記情報伝達処理手段は、車体の現在のバンク角とメモリマップ上の対応バンク角とを比較し、その比較結果に基づいて、対応バンク角を最新のバンク角によって更新記憶するようにするものである。
【0042】
ある実施形態において、前記情報伝達処理手段は、最新のバンク角が対応する走行路の物理的な限界バンク角を超える場合には、前記メモリマップ上の対応バンク角を更新しないか、又は前記物理的なバンク値以下の範囲で更新するようにするものである。
【0043】
ある実施形態において、前記情報伝達処理手段は、最新のバンク角が前記限界バンク角の近傍にあるときには、前記表示手段に警告表示を行うものである。
【0044】
ある実施形態において、前記限界バンク角は、路面状況、天候状況、運転者の要求の少なくとも一つによって補正される。
【0045】
ある実施形態において、前記限界バンク角は、車載用の地図データによって設定される。
【0046】
ある実施形態において、前記限界バンク角は、通信手段を介して外部のデータベースから前記情報伝達処理手段に設定される。
【0047】
ある実施形態において、前記補正用パラメータは、車載スイッチによって前記情報伝達処理手段に設定可能である。
【0048】
ある実施形態において、前記補正用パラメータは、前記データベースに設定され、前記通信手段を介して前記情報伝達処理手段に設定可能である。
【0049】
ある実施形態において、前記メモリマップは、通信手段を介して前記データベースに設定可能に構成されている。
【0050】
ある実施形態において、前記メモリマップには、前記走行路に対する最高車速が設定されている。
【0051】
ある実施形態において、前記メモリマップには、車体が走行した走行路のコーナー毎に限界バンク角が設定されている。
【0052】
本発明の実施形態に係る自動二輪車の情報表示システムは、自動二輪車のドライバへの情報伝達処理手段と、処理結果を表示する表示手段とを備えてなり、前記情報伝達処理手段は、車載センサからの出力情報をメモリに順次記憶するとともに、この記憶値と車体の位置情報とから、車体が走行した走行経路に関する走行限界値のメモリマップを形成し、このマップデータに基づいてライダーに対して前記走行経路に対する走行限界値を表示手段に表示するように構成されている。
【0053】
ある実施形態において、測定値が前記走行限界値を超える場合には、この走行限界値を測定値で更新記憶するようにされている。
【0054】
ある実施形態において、前記走行経路に対する走行限界値は、走行路毎にそれぞれ記憶される。
【0055】
ある実施形態において、前記走行経路に対する走行限界値は、ライダー毎にそれぞれ記憶される。
【0056】
ある実施形態において、前記走行限界値には、カーブ路における車速、バンク角、減速度、加速度の各最大値の少なくとも一つが含まれている。
【0057】
ある実施形態において、前記メモリマップの同一走行経路に対する走行限界値は、複数記憶されている。
【0058】
ある実施形態において、前記情報伝達処理手段は、前記メモリマップの記憶データを編集できる機能を備えている。
【0059】
ある実施形態において、前記メモリマップの記憶データは、車外の情報処理装置によって編集可能に構成されている。
【0060】
ある実施形態では、同一走行経路に対する複数の記憶データを編集して最適値を設定可能な手段を備えている。
【0061】
本発明の実施形態に係る自動二輪車の情報提示方法は、自動二輪車の走行の際に、バンク角を所定間隔毎にメモリに継続的に記憶し、このバンク角の記憶値から運転熟練度を決定し、運転熟練度毎にバンク角を決め、カーブ半径とバンク角と車体のバンク限界から前記熟練度毎に限界車速を決め、カーブ進入前の走行車体が前記限界車速まで減速されていない場合には、ライダーに対して警告告知をする。
【0062】
ある実施形態において、前記限界車速値は、走行路の特徴、車体の状態、路面状態の少なくとも一つによって補正される。
【0063】
ある実施形態において、前記車体の状態には、車輪の空気圧が含まれる。
【0064】
本発明の実施形態に係る自動二輪車の情報表示システムは、自動二輪車のドライバへの情報伝達処理手段と、処理結果を表示する表示手段とを備えてなり、前記情報伝達処理手段は、車体の走行路の走行限界値を記憶するメモリマップを備えている。
【0065】
ある実施形態において、前記走行限界値は、限界バンク角である。
【0066】
ある実施形態において、前記車体の状態には、車輪の空気圧が含まれる。
【0067】
本発明の実施形態に係る自動二輪車の情報表示システムは、自動二輪車のドライバへの情報伝達処理手段と、処理結果を表示する表示手段とを備えてなり、前記情報伝達処理手段は、車体の走行路での運転状態を継続的に取得し、当該走行路での最大の車体運転特性を求め、これを限界走行値として、走行路と対応させてメモリマップを形成する。
【0068】
ある実施形態において、前記走行限界値は、限界バンク角又は限界車速である。
【0069】
本発明の実施形態に係る自動二輪車の情報表示システムは、自動二輪車のライダーへの情報伝達処理手段と、処理結果を表示する表示手段とを備えてなり、前記情報伝達処理手段は、パラメータを読み込むステップと、ライダーの走行限界値を外部メモリ媒体から読み込むステップと、実測値が走行限界値を超える際には、実測値で走行限界値を書き換えて、これを外部メモリに登録するステップと、を実行するように構成されている。
【0070】
本発明の実施形態に係る自動二輪車の情報表示システムは、自動二輪車のライダーへの情報伝達処理手段と、処理結果を表示する表示手段とを備えてなり、前記情報伝達処理手段は、パラメータを読み込む第1ステップと、ライダーの走行限界値を外部メモリから読み込む第2ステップと、実測値が走行限界値を超える際には、実測値で走行限界値を書き換えて、これを外部メモリに登録する第3ステップと、を実行するように構成されている。
【0071】
ある実施形態において、前記情報伝達処理手段は、前記外部メモリからコーナーの限界車速値を読み込み、実測値がこの限界車速値以上のとき、前記第3ステップを実行するように構成されている。
【0072】
本発明の実施形態に係る自動二輪車の情報表示システムは、自動二輪車のライダーへの情報伝達処理手段と、処理結果を表示する表示手段とを備えてなり、前記情報伝達処理手段は、路線のコーナーに対する当該ライダーの限界バンク角のメモリマップを外部メモリから読み込み、この限界バンク角に基づいて限界車速を求め、この限界車速値と実測車速値とを比較して、その比較結果を前記表示手段に表示するように構成されている。
【0073】
本発明の実施形態に係るプログラムは、上記各手段を自動二輪車の制御用車載マイコンに実施させるためのプログラムである。
【0074】
本発明の実施形態に係る記憶媒体は、上記プログラムが記憶された記憶媒体である。
【発明の効果】
【0075】
本発明の自動二輪車用の走行支援方法によれば、自動二輪車が所定のカーブを走行する際に、カーブの走行条件をライダーに通知し、前記カーブの走行条件として、予め記録しておいた走行情報に基づき算出され、ライダーの技量レベルに対応して変更可能な走行適正値と、実際の走行状態の値との対比結果をライダーに通知するので、技量のあるライダーでもそうでないライダーであっても、適切な走行支援を提供することができる。そして、ライダーに通知されるカーブの走行条件に最大適正車速および最大適正バンク角が含まれている場合には、ライダーの技量レベルに応じて、自動二輪車の走行支援のために適切なバンク角を通知することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の実施形態に係る走行支援方法を説明するためのフローチャートである。
【図2】カーブ曲率のグループ毎に各種走行適正値を振り分けた図(テーブル)である。
【図3】カーブ曲率のグループ毎に各種走行適正値を振り分けた図(テーブル)である。
【図4】本発明の実施形態に係る自動二輪車用の走行支援システム100を示すブロック図である。
【図5】本発明の実施形態に係る自動二輪車用の走行支援システム100を示すブロック図である。
【図6】(a)および(b)は、バンク角θの算出方法を説明するための図である。
【図7】本発明の実施形態に係る自動二輪車用の走行支援システムを備えた自動二輪車200を模式的に示す側面図である。
【図8】自動二輪車用の走行支援システム100を示すブロック図である。
【図9】自動二輪車用の走行支援システム100を示すブロック図である。
【図10】自動二輪車用の走行支援システム100を示すブロック図である。
【図11】自動二輪車の走行経路114からなる走行地図110を作成する工程を説明するための図である。
【図12】走行地図110から走行経路のカーブ曲率118を算出する工程を説明するための図である。
【図13】バンク角データ、加速度データなどの統合データの表示例を示す図である。
【図14】カメラウインド66と地図情報ウインド111等とを融合した表示例を示す図である。
【図15】走行時の画像データ66を含むデータを対比結果として通知させる表示例を示す図である。
【図16】ライダー側から見たハンドル・モニター周りの構造図である。
【図17】(a)は、表示器216の構成を示す正面図であり、(b)は、その側面断面図である。
【図18】表示器216およびその周囲の構成を示す斜視図である。
【図19】走行路の軌跡の映像に重ねて、左右のバンク角の値を連続的に表示した図である。
【図20】車速が車体の走行軌跡にインポーズされた画像を表示した図である。
【図21】コースの走行中の走行特性値を示す画面例である。
【図22】コースの走行中の走行特性値を示す画面例である。
【図23】データを表示させる際の各種パラメータの設定を説明するための図である。
【図24】本発明の実施形態に係る自動二輪車用の走行支援方法を含むフローについて説明するためのフローチャートである。
【図25】本発明の実施形態に係る自動二輪車用の走行支援方法を含むフローについて説明するためのフローチャートである。
【図26】本発明の実施形態に係る自動二輪車用の走行支援方法を含むフローについて説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0077】
10 演算手段
11 地図情報ウインド
12 実際値計測手段
14 通知手段
16 条件設定手段
18 記憶手段
20 制御装置
22 車速センサ
23 ヨーレートセンサ
24 センサ
24 画像表示装置
25 座標特定装置
26 設定変更スイッチ
28 記憶装置
30 データ処理部
32 メモリ
34 表示処理装置
42 センサ
42a ヨーレートセンサ
42b 各種センサ
46 設定スイッチ
46a データ記録スイッチ
46b 車両情報書き出しスイッチ
46c 設定変更スイッチ
48 外部メモリ
50 電源
54 カメラ、マイク入力部
56 AV出力部
60 バンク角表示
61 減速度アイコン
62 加速・減速度表示
63 車速アイコン
64 カーブ指示アイコン
65 ライダーアイコン
66 カメラウインド
68 簡略表記
69 距離・時間アイコン
70 画面
100 走行支援システム
111 地図情報ウインド
112 座標データ
113 取得番号
114 走行経路
115 方位マーク
116 ウインドバー
117 自車位置
118 カーブ曲率
122 GPS受信機
200 自動二輪車
202 前輪
203 後輪
204 ハンドル
205 スクリーン
206 エンジン
207 シート
208 ヘルメット
209 アンテナ
210 DSRCアンテナ
212 検出器
213 DSRC受信機
215 映像回路
216 ディスプレイ(液晶表示装置)
217 トランスミッタ
218 路側マーカー
219 路側アンテナ
220 ナビゲーション装置
222 音声受信機
224 スピーカ
230 メインスイッチ
232 サイドミラー
240 メーターユニット
242 車速計
244 油温計
250 シェード
254 バネ
256 ストッパ
【発明を実施するための最良の形態】
【0078】
本願発明者は、自動二輪車の適切な走行支援を行うためには、単にバンク角の大きさに基づいて警告するだけは足りず、ライダーの技量に応じた適切なバンク角を通知することが大きな技術的意義を有することに想到し、本発明に至った。
【0079】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。以下の図面においては、説明の簡潔化のため、実質的に同一の機能を有する構成要素を同一の参照符号で示す。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0080】
まず、図1を参照しながら、本発明の実施形態に係る自動二輪車の走行情報を利用して走行を支援する方法(自動二輪車用の走行支援方法)について説明する。図1は、本実施形態の走行支援方法を説明するためのフローチャートである。
【0081】
本実施形態の自動二輪車用の走行支援方法では、自動二輪車が所定のカーブを走行する際に、カーブの走行条件をライダーに通知する工程を含んでおり、当該カーブの走行条件として、走行適正値と、実際の走行状態の値(実際値)との対比結果がライダーに通知される。走行適正値は、予め記録しておいた走行情報に基づき算出された値であり、その適正値は、ライダーの技量レベルに対応して変更することができる。
【0082】
具体的には、図1に示すように、自動二輪車がカーブを走行している場合に(S10)、走行適正値と実際値(すなわち、実際の走行状態の値)との対比結果からなるカーブの走行条件がライダーに通知される(S20)。カーブの走行条件は、自動二輪車に搭載された画像表示部に表示されてライダーに通知される。あるいは、カーブの走行条件は、音声によりライダーに通知することもでき、画像表示部の表示による通知と音声による通知とを両方採用することもできる。
【0083】
本実施形態では、ライダーに通知されるカーブの走行条件に、最大適正車速および最大適正バンク角が含まれている。最大適正車速は、そのカーブでの最も大きい適正な車速であり、その最大適正車速は、予め記録しておいた走行情報に基づき算出されたものである。そして、最大適正バンク角は、そのカーブでの最も角度の大きい適切なバンク角であり、これも、予め記録しておいた走行情報に基づき算出されたものである。また、本実施形態では、その最大適正車速および最大適正バンクとともに、実際の車速および実際のバンク角も表示して、ライダーに通知する。
【0084】
なお、そのカーブでの適切な車速(最大適正車速)または適切なバンク角(最大適正バンク角)は、カーブ曲率(R)を1mごとに区分けしたカーブに対応したものでなくても、所定の範囲内のカーブ曲率(例えば、R50m未満、R50m以上R100m未満など)を持ったカーブに対応した適切な車速または適切なバンク角を通知すれば十分かつ適切なことが多い。それは、ライダーは、カーブの大きさを曲率1m単位のように細かく認識しているわけではなく、急なカーブ、浅いカーブのような大きな枠で捉えており、それに対応させれば十分であり、かつ適切であるからである。
【0085】
また、最大適正バンク角は、左バンク角と右バンク角とで区別して通知することが好ましい。これは、ライダーの癖や技量によって、右カーブが得意・不得意、あるいは、左カーブが得意・不得意の傾向があるので、左バンク角と右バンク角とを分けて通知することが好ましいからである。ただし、所定カーブに対する最大適正車速および最大適正バンク角は、左右いずれのカーブに対しても所定の傾向を示すので、左・右カーブを特別に分けないときでも適切な自動二輪車用の走行支援を行うことができる。
【0086】
本実施形態の自動二輪車用の走行支援方法によれば、自動二輪車が所定のカーブを走行する際に、カーブの走行条件として、走行適正値と実際値(実際の走行状態の値)との対比結果をライダーに通知するので、技量のあるライダーでもそうでないライダーであっても、適切な走行支援を提供することができる。
【0087】
すなわち、実際値と対比して通知される走行適正値は、予め記録しておいた走行情報に基づき算出された値であり、ライダーの技量などの特性が反映されたものであるので、標準的な設定をライダーに通知した場合において技量のあるライダーには甘い設定になるとともに、技量のないライダーには走行が困難な設定になってしまうことを抑制することができる。さらに、その走行適正値は、ライダーの技量レベルに対応して変更することができるので、同一のライダーが同一の自動二輪車を使用し続ける場合であっても、ライダーの技量レベルが上がればそれに追随した走行適正値を提供し続けることができる。また、その走行適正値の経過を記録していけば、ライダーの運転技術向上に対する指針としての役割をも持たせた走行支援方法を実現することも可能となる。
【0088】
特に、ライダーに通知されるカーブの走行条件に最大適正車速および最大適正バンク角が含まれている場合には、ライダーの技量レベルに応じた適切なバンク角を通知することが可能となるので、自動二輪車の走行支援にとって非常に有用な情報を提供することができる。
【0089】
ここで、自動二輪車が所定のカーブを走行する際に、走行適正値(例えば、最大適正車速、最大適正バンク角)をオーバーした場合にはライダーへ警告を発する(S30)。ライダーへの警告は、画像表示部の表示による通知でもよいし、音声による通知でもよい。また、両方採用することもできる。この警告により、ライダーの技量を超える走行が行われいることをライダーに知らせることができ、それゆえ、自動二輪車の走行支援となる。
【0090】
そして、自動二輪車が走行適正値を超えて走行できた場合には、当該走行データ(例えば、実際の車速またはバンク角)を記録して、走行適正値を更新する(S40)。すなわち、走行適正値を超えて走行できたことは、いままでの技量では到達できなかった高いレベルのコーナリングを適切に実行できたこととなるので、新たな技量に基づいて走行適正値を更新して設定し直すものである。この工程(S40)より、ライダーの技量レベルに対応して走行適正値を変更することを自動的に行うことが可能となる。ここで、更新(S40)したことを通知するステップを実行してもよく、例えば、画面背景が1秒間色が変わる等の通知や、音声やチャイムなどの通知を行うことができる。なお、所望以上に走行適正値が高いレベルになりすぎたと感じたら、ライダー(ユーザー)が、必要に応じて走行適正値を変更することもできる。
【0091】
また、カーブのコーナリングで最も大きなポイントとなるのは、あるカーブ曲率(例えば、R50m)を有するカーブにおける最高車速であるので、工程S20の時に、実測値と対比する走行適正値を走行適正車速(最高適正車速)とし、それをオーバーする場合にライダーへ警告を発すること(S30)も好ましい。また、走行適正値は、カーブ深さ、タイヤの空気圧、下り勾配、気温(凍結状態)によって変化し得るので、そのようなパラメータを考慮して、より現実的なものへの補正を行っておくことが好適である。
【0092】
なお、走行適正値の補正は、時間帯(夜、昼、薄暮など)のパラメータや、一週間の曜日、対向車が多い特定日または時のパラメータに基づいて行ってもよく、さらには、ライダーの年齢や、反応速度の自己診断結果に基づくものをパラメータとして用いて行ってもよい。また、ライダーに通知されるカーブの走行条件を、加速・減速ポイントについてのものとして、その加速・減速ポイントをライダーに通知することも可能である。
【0093】
図1に示した工程S10〜S20、あるいは、工程S10〜S30又はS40は、異なるライダー毎に区別して実行することも可能である。また、同一のライダーであっても、第1のライダーが単独の場合と、当該第1のライダーが二人乗りで走行している場合とで区別して実行することもできる。場合によっては、路面ごと(ドライ・ウエットなど)に区別して実行してもよい。
【0094】
図2は、所定のカーブのカーブ曲率(R)を複数の区分のグループに分類し、カーブ曲率のグループ毎に、各種走行適正値(車速V、バンク角θ、減速度α1、加速度α2)を振り分けたテーブルの一例である。各種走行適正値は、実際に走行したデータに基づいている。なお、図2に示した例では、カーブ曲率が50m単位ごとのグループとなるように分けている。
【0095】
図2におけるカーブ曲率のグループは、<R50(R50m未満)、<R100(R50m以上R100m未満)、<R150(R100m以上R150m未満)、<R200(R150m以上R200m未満)、<R300(R200m以上R300m未満)、R300≦(R300m以上)に分けられている。なお、R200以上は、50m単位を複数重ねており(この例では、50m×2)、R300以上は、全ての50m単位のものを一つのグループにまとめている。
【0096】
図2に示したテーブルでは、例えば、各曲率グループにおいて、最も大きいバンク角θが表示されている。そして、このデータからは、所定の曲率のカーブにおいてどれくらい大きくバンクすることができるかということ(すなわち、最大適正バンク角)を把握することができる。また、図2に示したテーブルには、バンク角θの他に、自動二輪車の車速(V)、減速度(α1)、加速度(α2)も記載されている。これらの項目も、各曲率グループで最も大きい値のもの(例えば、最大適正車速)を表示させている。
【0097】
本実施形態において、50m単位ごとのグループで分けたのは、次の理由による。まず、ライダーの識別能力上、カーブ曲率を細かくしてもその差異を判断できないことが経験的に知られており、現在の道路などの曲率の表示単位が10mであるので、それを考慮して、50m程度の分類が適当と判断したことによる。また、道路幅を3.5mとして考えても、通り方によっては実際の曲率には幅が出てしまうし、コース取りはカーブの深さ、40°(40度)、90°(90度)、135°(135度)などにも影響を受け、さらに、多段階カーブなども考えると大雑把な傾向を掴んで比較するレベルで十分だからという理由もある。
【0098】
このテーブルの値と、実際の走行状態の値(実際値)とを対比して、その結果をライダーに通知すれば(S20)、自動二輪車の走行支援を行うことができ、また警告(S30)も行うことができる。そして、このテーブルの値を超える走行がなされた場合、これらの値(走行適正値)は更新されていくことになる(S40)。
【0099】
対比結果の通知(S20)は、走行適正値(例えば、最大適正車速)と実際値(例えば、実際の車速)とを画像表示部に併記して示すことによって行うこともできるし、実際値(例えば、実際の車速)が走行適正値(例えば、最大適正車速)を超えたらその表示(数字など)を点滅させるようにしてライダーに通知して、対比結果の通知(S20)と警告(S30)とを同時に実行することも可能である。
【0100】
さらに、警告(S30)には積極的に音声通知を用い、対比結果の通知(S20)には積極的に画面表示の通知を用いる等の分け方をしてもよい。なお、音声による警告の場合、音質・声の種類を異なるものを用いて警告の度合いや、警告の注意力を向上させるようなことを実行してもよい。
【0101】
上述したように、バンク角や車速などの走行適正値(例えば、最大適正バンク角や最大適正車速)は、異なる路面ごとに区別して処理することが可能であり、図2に示した例では、路面Aと路面Bとに分けて処理することができる。例えば、路面Aをドライとし、路面Bをウエットとすることができる。路面の区別は、さらに細かく分類することができ、例えば、アスファルト、ダート、雨路面、雪路面、凍結路面などである。
【0102】
さらに、異なるライダーごとに区別して記録・処理することもできる。図2に示した例では、ライダー1とライダー2とを分けて記録・処理している。ライダー1とライダー2とは、異なる人物であるのが典型例であるが、自動二輪車を運転するライダーが同じでも、ライダー1とライダー2と区別して蓄積してもよい。例えば、ライダーが単独の場合と、ライダーが二人乗りで走行している場合とに区別して記録・処理することができる。
【0103】
加えて、バンク角θは、左バンク角と右バンク角とに分けて記録・処理することができる。図3は、左バンク角Lと右バンク角Rとを分けた例を示している。これは、ライダーによっては、左バンクと右バンクとで得手・不得手があり、それを反映するために、左と右とを別々に記憶・処理するものである。
【0104】
次に、図4を参照しながら、上述した自動二輪車用の走行支援方法を実行するためのシステムについて説明する。図4は、本実施形態の自動二輪車用の走行支援システム100の構成を示すブロック図である。
【0105】
図4に示した自動二輪車用の走行支援システム100は、自動二輪車における実際の走行状態の値(実際値)を計測する実際値計測手段12と、その実際値と予め記録しておいた走行情報とに基づいてカーブの走行条件を算出する演算手段10と、自動二輪車が所定のカーブを走行する際にカーブの走行条件をライダーに通知する通知手段14と、ライダーの技量レベルに合わせてカーブの走行条件を変更する条件設定手段16とを備えている。
【0106】
演算手段10には、記憶手段18が接続されており、記憶手段18には、実際値データおよび走行情報データや、演算手段10による演算結果データなどが格納される。条件設定手段16は、例えば、タッチパネル等の入力装置によって構成されており、演算手段10に接続されて、条件の設定操作や条件の変更操作を行うことができる。通知手段14は、画像表示装置および音声送受信機の少なくとも一つであり、演算手段10に接続されている。
【0107】
演算手段10は、制御装置(例えば、マイクロ・プロセッサ・ユニット)から構成されており、通知手段14を介してライダーにカーブの走行条件を通知する処理(S20)を実行することできる。実際値計測手段12からの実測値に基づいて、通知手段14を介してライダーに警告する処理(S30)を行うことも可能であり、加えて、走行情報(特に、走行適正値)の更新(S40)も行うことができる。
【0108】
図4に示した自動二輪車用の走行支援システム100は、例えば、図5に示すように構築することができる。図5に示した自動二輪車用の走行支援システム100は、自動二輪車の車速を測定する車速センサ22と、自動二輪車のヨーレートを測定するヨーレートセンサ23と、自動二輪車の座標データを取得する座標特定装置(例えば、GPS装置)25と、車速センサ22、ヨーレートセンサ23および座標特定装置25に接続された制御装置20とを備えている。制御装置20には、データを記憶する記憶装置(メモリ)28が接続されており、また、画像を表示する画像表示装置(例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ)24も接続されている。
【0109】
記憶装置28には、予め記録しておいた走行情報に基づき算出され、ライダーの技量レベルに対応して変更可能な走行適正値データ(例えば、図2又は図3中のテーブルの値)が格納されている。制御装置20には、走行適正値データを変更する設定変更スイッチ26が接続されており、制御装置20は、走行適正値データを画像表示装置24に表示させる機能を有している。
【0110】
ここで、制御装置20は演算手段10に対応し、車速センサ22およびヨーレートセンサ23は実際値計測手段12に対応する。実際値計測手段12として、さらに加速度センサなどの他のセンサを使用することも可能である。また、画像表示装置24は、通知手段14に対応し、設定変更スイッチ26は、条件設定手段16に対応する。
【0111】
車速センサ22およびヨーレートセンサ23からは、車速Vおよびバンク角θを得ることができる。これについて、図6(a)および(b)を参照しながら簡単に説明する。
【0112】
まず、図6(a)に示すように、車両200がバンク角θで走行している場合、図6(b)に示すように、車両200(ライダーも含む)の質量をMとすると、車両200の重心に加わる重力(Mg)と遠心力(MV/R)との間には、以下のような関係が成り立つ。
【0113】
Mgtanθ=MV/R(Vは車速、Rは旋回半径)・・・(1)
ここで、車両200の水平面内での回転角速度(ヨーレイト)をωとすると、
V=Rω ・・・(2)
と表すことができるので、式(1)(2)より、バンク角θは、
θ=tan−1(Vω/g) ・・・(3)
となる。すなわち、バンク角θは、式(3)を用いて、車両200の車速Vとヨーレートωとの値から自動的に求めることができる。本実施形態では、車速センサ22およびヨーレートセンサ23から、車速Vとヨーレートωを取得して、それを制御装置20にて演算してバンク角θを求める。
【0114】
また、図5に示した自動二輪車用の走行支援システム100には、座標特定装置25が設けられているので、自車の位置を座標にて特定することが可能となっている。本実施形態では、座標の特定は、GPS(Global Positioning System)を利用して自車の位置データを得ることによって実行される。GPSは、地球の周回軌道を回る衛星から発信される信号の到達時間から、現在地の緯度・経度を特定するシステムである。衛星からの三角測量がシステムの基本となっており、正確な位置を特定するには4衛星以上が必要となる。また、GPSの誤差を補正して小さくするために、ディファレンシャルGPSサービス(位置情報補正サービス)により、高精度での位置データを得ることが好ましい。
座標特定装置25を設けていることにより、走行支援システム100にナビゲーションシステムの機能も追加することができる。なお、バンク角θを求めるには、上記式(3)を用いずに、式(1)から、車両200の車速Vと旋回半径Rを求めてバンク角θを得ることもでき、その場合、旋回半径Rは、ナビゲーションシステムによるマップデータから求めることが可能である。
【0115】
なお、座標特定装置25は、インフラの環境を考慮すると、GPS信号を受信するGPS受信機を用いることが好ましく、また便利であるが、座標データを取得するための座標特定装置25としては、GPS受信機の他に、他のものを使用することができる。例えば、インフラが整っていれば、携帯電話通信、無線LAN通信、路車間通信の受信機を用いて座標位置を特定することができる。
【0116】
加えて、画像認識装置を座標特定装置25として働かせることも可能である。例えば、白線や周囲の建物などでコースまたはポイントを識別して、その識別によって座標を特定することができる。基点となる看板・標識などがあれば、更に識別は容易になる。また、一本道であれば、スタート位置さえ確認することができれば、積算計算でおおよその地図上の位置を特定することができる。さらに、ヨーレートからもコーナーのどの位置にいるかを容易に推定することができる。なお、ライダー自身が基点位置をスイッチで入力することで、座標位置を特定する手法もある。
【0117】
次に、図7および図8を参照しながら、本実施形態の構成をさらに詳述する。図7は、本実施形態の自動二輪車用の走行支援システム100を備えた自動二輪車200の一例を模式的に示す図であり、図8は、本実施形態の自動二輪車用の走行支援システム100の一例を示すブロック図である。
【0118】
図7に示した自動二輪車200は、スクータ型の自動二輪車であり、前輪202、後輪203、ハンドル204、スクリーン205、駆動源であるユニットスイング式エンジン206、およびシート207から構成されている。シート207上には、頭部にヘルメット208を装着したライダーが座っている。なお、本実施形態では、自動二輪車200として、スクータ型自動二輪車を例示したが、スクータ型に限らず、他の自動二輪車でもよい。また、本明細書において「自動二輪車」とは、モーターサイクルの意味であり、具体的には、車体を傾動させて旋回可能な車両のことをいう。したがって、前輪および後輪の少なくとも一方を2輪以上にして、タイヤの数のカウントで三輪車・四輪車(またはそれ以上)としても、それは「自動二輪車」に含まれ得、また、それについてバンク角θを計測・算出することが可能である。
【0119】
自動二輪車200には、本実施形態の自動二輪車用の走行支援システム100の制御部(図4中の演算手段10、図5中の制御装置20)となるエレクトロニックコントロールユニット(ECU)120と、座標特定装置25となるGPS受信機122が設けられている。
【0120】
さらに自動二輪車200には、アンテナ209、DSRC(Dedicated Short−Range Communication)アンテナ210、検出器212及びDSRC受信機213と、音声・映像回路215、ディスプレイ装置216、トランスミッタ217も設けられている。
【0121】
アンテナ209は、道路上に設置された路側マーカー218からの信号を受信するものであり、車体後部に設置された検出器212を介してDSRC受信機213に電気的に接続されている。DSRCアンテナ210は、電柱等に設置されたDSRC路側アンテナ219からの信号を受信するものであり、DSRC受信機213に接続されている。
【0122】
DSRC受信機213とGPS受信機122とは、ECU120に電気的に接続されている。本実施形態の自動二輪車用の走行支援システム100の制御部の動作は、ECU120によって行うことができる。ECU120は、車体前部に設置された音声・映像回路215にも接続されている。また、ECU120には、自動二輪車200の走行状態を検出する車載のセンサ(例えば、エンジン回転数を検出する回転センサ、スロットルバルブの開度を検出するスロットル開度センサ、ブレーキレバーの開度を検出するブレーキセンサ、車体の傾斜角を検出するためのヨーレートセンサ等)及び車載のナビゲーション装置220が接続されている。
【0123】
音声・映像回路215には、各種メータ類と共に車体前部に配置されたディスプレイ装置216と、車体前部に配置されたトランスミッタ217とが接続されている。ヘルメット208には、音声受信機222、および、音声受信機222に接続された左右のスピーカ224が内蔵されている。
【0124】
まず、上述したように、ECU120は、自動二輪車200の位置情報をGPS受信機122によって得ることができる。さらに、図7に示した構成では、自動二輪車200はDSRCの機能も備えており、それにより道路情報も得ることが可能である。以下、それについて簡単に説明する。
【0125】
スクータ型自動二輪車200が路側マーカー218を通過した場合、アンテナ209が路側マーカー218からの信号を受信して、これを検出器212を介してDSRC受信機213に送信する。次いで、DSRC受信機213は、その信号をECU120に対して出力する。路側マーカー218から発信される信号は、道路情報の提供の開始位置と終了位置をECU120に知らせる。ECU120は、情報提供の開始を検知すると、DSRC路側アンテナ219から発信される各種道路情報を受け取る。DSRC路側アンテナ219から発信される交差点、横断歩道、カーブや坂道等の存在を示す信号は、DSRCアンテナ210によって受信されて、DSRC受信機213に送信される。次いで、DSRC受信機213から、各種道路情報がECU120に入力される。
【0126】
ECU120は、GPS受信機122から入力された情報(位置情報)、DSRC受信機213から入力された道路情報、または、ナビゲーション装置220によって検出された車体の走行状態とから、車体の走行経過に対応する車体の走行特性値を求めてメモリマップを作成することができ、これをECUのメモリに設定記憶している。
図8に示した例では、ECU120は、データ処理部30とメモリ32と表示処理装置34から構成されている。ECU120内のデータ処理部30には、センサ42からの検出信号と、GPSやDSRC44からの路線・道路・位置信号とが入力される。データ処理部30の処理結果は、メモリマップとしてメモリ32内に設定記憶される。なお、図8中のセンサ42およびGPS44は、図5に示したセンサ22,23および座標特定装置25に対応し、そして、ECU120内のデータ処理部30およびメモリ32は、図5中の制御装置20および記憶装置28に対応する。
【0127】
メモリ32内のデータは、表示処理装置34によって表示処理されてディスプレイ216に表示され、あるいは、音声処理されてヘルメット208の音声出力手段224に音声出力される。メモリ32内のデータを表示させた例が、図2および図3の表示例である。なお、データ処理部30に表示処理や音声処理の機能を持たせることも可能である。
【0128】
さらに、データ処理部30には、各種設定スイッチ46を接続しておくことができる。また、データ処理部30は、外部メモリ48(CDROM、CD−RW、フラッシュメモリ、コンパクトフラッシュ(登録商標)、あるいは、通信手段を介して接続可能なサーバやデータベースなど)に接続することが可能である。
【0129】
ECU120を含むシステムによって、データライブラリを作成することができる。換言すると、自動二輪車の走行情報蓄積を行うことができる。データ処理部30は、センサ42からの各種データを単位時間毎(例えば、100msec毎)にサンプリングし、このサンプリング値からリアルタイム或いは走行終了後に、バンク角、車速、加減速のポイントを含む車体走行特性値を求めこれをメモリ32に記録する。また、車体の走行経路の走行軌跡(座標データ)の所定間隔毎に、バンク角、加速又は減速がされたポイント、車速、加速値、減速値が記憶される。車体の位置情報はGPS44(122)から得られる。さらに、ナビゲーション装置220の地図データと重ねて、路線に対応させた形での車体走行特性値が記録されたメモリマップ(ライブラリ)を得ることも可能である。
【0130】
本実施形態では、路線のコーナー曲率毎に車体走行特性値を定めるようにしている。具体的には、○○○高速道路の×××丁目のコーナ(R<100)の限界バンク値(適正バンク値)、加減速値、限界車速(適正車速)、加減速位置をメモリマップに設定する。限界バンク値の限界と表記したのは、二輪者のライダーはコーナーを自身の最良の運転技術で曲がろうとしていることを前提としたためであり、その意味では、適正バンク角と言い直しても良い。この説明は、限界車速についても同様に当てはまる。
【0131】
このメモリマップは、ECU120内のメモリ32に記憶され、または外部メモリ48に記憶される。同一経路を再走行した場合で、限界バンク角(適正バンク角)などの走行結果値が走行前の値を超える場合には、走行後の値で記憶値を更新するようにすることができる。また、外部メモリ48がサーバを備える運転支援センターである場合には、複数の運転者毎の限界走行値(適正走行値)をこれに登録できる。そして、運転支援センターは、様々なサービスをライダーに提供可能である。例えば、最優秀ライダーの限界値(適正値)をドライバに発信可能である。また、運転支援センターは、気候や路面状況や道路混雑状況によって限界値(適正値)を補正して、これをドライバに発信することも可能である。運転支援センターは、路線のコーナーの曲率やバイクの構造上から定まる物理的な限界値(適正値)をドライバに発信することも可能である。
【0132】
次に、図7および図8に示した本実施形態の構成をブロック図で表すと、図9に示すようになる。図9に示した構成例では、設定スイッチ46として、GPSデータ記録スイッチ46a、車両情報書き出しスイッチ46b、設定変更スイッチ46cが表記されており、また、センサ42として、ヨーレートセンサ42a、車速センサなどの各種センサ42bが表記されている。さらに、電源50、CCDカメラ(撮像素子)やマイク入力部54、AV出力部56も表記されている。なお、画像・音声ユニット215と図8中の表示処理装置34とを同一の装置で兼ねることも可能である。
【0133】
また、本実施形態の走行支援方法を実現する上では、DSRC受信機210は特に必要ないので、その場合には、図9に示した構成は、図10に示した構成にすることができる。加えて、CCDカメラ(または、CMOSイメージセンサのような他の撮像素子)54、マイク入力部54、音声送受信機217、222などもオプションとして扱うことができる。ここで、音声送受信機217、222を双方向なものにして、ライダーからの音声もデータとして記憶できるようにしてもよい。
【0134】
また、本実施形態の構成によれば、GPSによって得られた座標データを用いて自動二輪車の走行経路からなる走行地図を作成したり、走行地図から走行経路のカーブ曲率を算出したりすることも可能である。
【0135】
図11は、自動二輪車の走行経路114からなる走行地図110を作成する工程を説明するための図であり、図12は、走行地図110から走行経路のカーブ曲率118を算出する工程を説明するための図である。
【0136】
自動二輪車が走行している場合、図11に示すように所定時間毎(例えば、100ミリ秒毎)にGPS座標データ112を取得し、その点(ノード)を時系列的に結ぶと(または、GPS座標データ112の取得番号113の順に結ぶと)、自動二輪車の走行経路114が得られ、走行経路114からなる走行地図110が作成される。
【0137】
図11に示した例では、所定の取得番号113が付されたGPS座標データ112が、ウインド画面111内に表示されており、ウインド画面111には、方位マーク115が配置されているとともに、画像編集用のウインドバー116が設けられている。
【0138】
図11に示した走行地図110の点(ノード)112を画像処理により修正して、走行経路114を滑らかにすると、図12に示す走行地図110が得られる。そして、この走行地図110の走行経路114からカーブ曲率118を求めることができる。また、GPS座標データ112から下り勾配・上り勾配の情報も求めることができるので、勾配情報(この例では、下り)119を表示させることも可能である。
【0139】
この走行経路114は、実際に自動二輪車が走行した経路であるので、カーブ曲率118は、ナビゲーションシステムに用いられる電子地図から求めたカーブ曲率よりも正確である。また、そもそも電子地図には正確なカーブ曲率データは含まれていないことが多いので、本実施形態の手法によって、カーブ曲率を自動的に求めることができるのはそれ自体で技術的価値を有している。そして、この走行地図110に基づくカーブ曲率118は、自動二輪車の走行特性を反映したものとなっている。すなわち、乗用車等の四輪車の場合、車幅と道路幅の関係から考えて電子地図から概算で算出したカーブ曲率と実際のカーブ曲率との差が大きな問題となることはないが、自動二輪車の場合には、実際に走行するルートによってカーブ曲率が異なるものとなるので、それゆえ、自動二輪車の走行特性を反映したカーブ曲率118が得られることは技術的意義が大きい。
【0140】
さらに、図12に示したようなデータと、バンク角データ、加速度データなどを統合して、走行支援に用いることも可能である。そのような統合データの表示例を図13に示す。図13に示した表示例では、自車位置117、走行経路114、方位マーク115等が表示された地図情報ウインド111と、バンク角表示60、加速・減速度表示62が表されている。加えて、カーブ指示アイコン64も表示されている。勿論、車速を併記することも可能である。
【0141】
このように、各データを数値またはグラフ・チャートの形で統合すると、お互いの情報の関係が一目でわかるので、自動二輪車の走行支援にとってより適切な情報をライダーに提供することが可能となる。図13に示したような画面例で、図1中の通知工程(S20)や警告工程(S30)を実行するには、走行適正値を実際値が超えたら、各種アイコンが点滅したり、色が付いたりするようにすればよい。なお、図13に示した例で、走行適正値を実際値との両者を重ねて表示するような方式を採用してもよい。
【0142】
そして、図13に示したようなデータと、走行時の画像データ(撮像データ)とを融合させて蓄積することもできる。図14は、図9および図10中のCCDカメラ54で撮像した走行時の画像データを表示するカメラウインド66と、地図情報ウインド111等とを融合したものの表示例である。走行時の画像データは、動画データに限らず、静止画データであっても構わない。なお、図14に示した例では、バンク角表示60、加速・減速度表示62は、車速表示も含めて簡略表記68で表されている。
【0143】
このように、走行時の画像データ(66)もリンクすると、走行時画像と測定データの数値・グラフ・チャートとを組み合わせて、ライダーに提供することができるので、自動二輪車の走行支援のための情報の質を向上させることができ、また、走行時の画像があることによって、数値等だけの提供よりもさらに直感的にライダーに有用な情報を伝えることが可能となる。さらに、走行時の画像データがあれば、ライダーの技量の検証もより容易になる。
【0144】
図15は、走行時の画像データ66も対比結果として示した例を表している。図15に示した例では、加速度・減速度アイコン61も表示されており、表示されている「B」はブレーキングポイントで、一方が「A」が表示されるとアクセルポイントとなる。また、車速アイコン63、ライダーアイコン65、距離・時間アイコン69も対比して表示されている。
【0145】
なお、図13、図14または図15に示した走行支援データは、通信手段を介して、リアルタイムでインターネット等に配信することが可能であり、特に、走行時画像をリアルタイムで配信すると、より臨場感ある走行支援データを提供することができる。
【0146】
自動二輪車用の走行支援システム(または、自動二輪車用の走行情報取得システム)のスイッチ配置等は、図16のようにすることができる。図16は、ライダー側から見たハンドル・モニター周りの構造図である。図16に示した例では、ハンドル204の奥に、表示器(モニター)216が設けられている。表示器216の周りの車体には、スクリーン(風よけスクリーン)205およびサイドミラー232が取り付けられている。表示器216の下側に、GPSデータ記録スイッチ46aおよび車両情報書き出しスイッチ(ドライブレコーダ機能をオン・オフするための車両情報データ取得スイッチ)46bが設けられている。なお、その周囲には、エンジンをオン・オフするためのメインスイッチキーの230も配置されている。
【0147】
表示器(モニター)216は、例えば、図17(a)に示すような構成にすることができる。表示器216は、メーターユニット240として構成されており、液晶表示装置216と、車速計242、燃料計・油温計244とを含んでいる。なお、液晶表示装置216は、有機EL表示装置のような他の画像表示装置であってもよい。液晶表示装置216の周囲には、ボタン式スイッチ252が設けられている。ここでのスイッチ252は、例えば、メニュー送りスイッチ252a、ライダー1・2選択スイッチ/カーブサービスオン・オフスイッチ252b、音声モード切替スイッチ252c、路面選択スイッチ252d、データ表示/決定スイッチ252eなどであり得る。
【0148】
図17(a)に示した例では、液晶表示装置216を覆うようなシェード250が設けられている。その斜視図を模式的に示すと、図18に示すようになる。シェード250は、図17(b)に示すように可動式となっており、シェード250を矢印251の方に押すと、回転中心点258を中心として回転して、液晶表示装置216の表示画面部分を覆うことができる。シェード250の固定・開放は、切り欠き253a、バネ254、ストッパ256によって行われている。なお、切り欠き253bは、途中で保持するために使うものである。
【0149】
自動二輪車の場合、メータ表示部が直接露出しているので、ライダーの身長により視点も異なり、通常のメータカウル(メータカバー)では太陽光の入射を遮る範囲が狭く、光が当たると液晶画面表示内容が見えにくくなることが多い。本実施形態の構成では、液晶表示装置216の周囲にシェード250を設けているので、そのような見えにくさを抑制することができる。また、本実施形態のシェード(表示ディスプレイ用カバー)250は、横からの太陽光の入射も効果的に防ぐことができる。
【0150】
さらに、本実施形態のストッパ256は、シェード250が閉じた時にロックする機能を有しており、例えば、メインスイッチキー230の回転と連動させたものにすることができる。すなわち、シートロックなどと同様な機構によりシェード250のロックおよびロック解除を行うことができる。このようにシェード250をメインスイッチ230と連動させると、液晶表示面へのいたずらを防止する機能も持たせることができる。
【0151】
また、本実施形態の走行支援方法は次のようにして実行することもできる。
【0152】
図19は、走行路の軌跡の映像に重ねて、左右のバンク角の値を連続的に表示したものである。ライン150は、車体の走行経路(走行軌跡)であり、ライン152は、ライダー1のバンク角の変化であり、ライン154は、ライダー2のバンク角の変化である。バンク角の変化曲線と走行経路の進行方向との間の座標的な差がバンク角の大きさに相当し、その幅が走行経路の左右のどちらにあるかによってバンク角の方向が判別される。
【0153】
ここで、例えば、ライダー1のデータを実際値とし、ライダー2のデータを走行適正値とすれば、図1に示した通知工程(S20)を行うことができる。もちろん、これ以外に走行適正値を表示させて、ライダー1、ライダー2のデータを実際値や参考値として、対比結果を表示(通知)させることも可能である。
【0154】
このような表示は、視覚的に、ライダーにバンク角とカーブ(走行経路)との情報をわかりやすく提供できるので非常に技術的意義が大きい。バンク角のデータは、同一走行路を車体が走行した際には、順次メモリに更新されても良いし、走行日時毎のバンク角のデータをメモリに設定しておくようにしても良い。
【0155】
図20は、バンク角に代えて車速が車体の走行軌跡にインポーズされた画像を示している。図20に示した画像では、車速の変化グラフ156と走行経路150との差が車速に対応している。この表示もまた、視覚的に、ライダーに車速と走行経路との情報をわかりやすく提供できるので非常に技術的意義が大きい。図20に示した例でも、走行適正値(最大適正車速)を併記して、通知工程(S20)を実行することができる。
【0156】
なお、ライダーは走行中だけでなく、走行後にも、ディスプレイ装置を走行結果表示(図19および/または図20の表示)のモードにすることによって、今の走りの精度または熟練度を当該表示にて画面に表示させることができる。この時、過去の走行結果を今の走行結果に重ねて表示させれば、運転向上度を認識することもできる。これらの走行軌跡を地図データと重ねれば、ナビゲーション装置の画面に走行結果を重ねて表示することが可能となる。また、走行前に路線の限界値データ(適正値データ)を確認することもできる。
【0157】
図21は、他の表示形態を示す画面例であり、コースが特定され、このコースの走行中の走行特性値(限界走行値)が数字として示されている。なお、ライダー1とライダー2との区別をわかりやすくするために色をわけて表示してもよい。また、ライダー1及びライダー2は別人であっても、本人であっても良い。この数値は車体のメモリから読み出しても、外部メモリから読み出すようにしても良い。上述したように、ライダー2を走行適正値にすることができ、図22では、標準値(最大値)とライダー1とのデータが比較されている。したがって、自分の限界値が標準値と比較してどうであったかを確認することができる。
【0158】
上述したように、データ処理部(例えば、図8中の「30」)は、ライダー毎とコーナーの曲率毎に走行限界値をメモリマップから読み出し、これをデータ表示処理部を介してディスプレイに表示することができる。バンク角は前記特性式に基づいてカーブ曲率Rより計算される。加減速値は車速値より計算される。カーブ曲率は、ナビ、GPSデータMAPより計算することも可能である。
【0159】
データを表示させる際の各種パラメータの設定は、例えば、図23に示すように行うことができる。画面70は、タッチパネルの例であり、画面70中の「表示」は、データ(例えば、図21や図22に対応)を表示するためのボタンであり、一方、「設定」は、メモリマップに登録されている限界走行値(適正走行値)を補正するパラメータを設定するためのボタンである。
【0160】
表示ボタンを押すと、例えば、表示画面71がディスプレイ装置に表示される。一方、設定ボタンを押すと、まず、画面72が表示されて、「ピー」という単音にするか、「右カーブあり」というような音声にするかが選択される。
【0161】
次いで、「次」のボタンを押すとライダー2名分の設定が可能な画面74が表示される。ここで「ライダー2」を2名乗車(タンデム)の設定にする等の使い分けも可能である。次に、画面76が表示されて、路面設定パラメータを選択することができる。例えば、オンロード・オフロード、または、ドライ・ウエットなどのように路面状況によってパラメータを設定できる。パラメータとしては、昼夜、薄暮などの時間要素も設定可能である。
【0162】
その後、画面78が表示されて、パラメータで補正された走行限界値で書き換えるか、これをクリアするかが選択される。補正パラメータには、カーブの深さ、タイヤ空気圧、温度、下り勾配、凍結の有無などがある。
【0163】
また、メモリマップの更新は、次のようにして実行することができる。
【0164】
ライダーが二輪車を走行させようとする際に、ディスプレイに既述の表示画面を表示させる。次いで必要な設定を行い、二輪車を始動させるとナビゲーション画面が表示され、現在のバンク角が計算されて、地図の画面中に左右のバンク角値が表示される。その時の画面例は、例えば、図13のようなものであり得、車体の走行位置、バンク角、曲率半径、勾配、カーブの方向(カーブアイコン)、加速・減速度などが地図情報とともに表示される。
【0165】
二輪車の現在の走行位置が走行限界値のマップに近い場合には、マップを表示して現在値をディスプレイに映し出す。マップのカーブから現在地の進行方向でもっとも近いカーブの開始点との距離、到達時間を計算し、この到達時間が数秒以内であればディスプレイにカーブのアイコンを表示して、運転者にカーブの到達を予告する。マップから限界車速値(適正車速値)が読み出され、必要に応じて補正係数を乗じる。これはカーブの深さなどによって補正される。
【0166】
次いで、限界車速値(最大適正走行値)と実測値が比較されて、実測値がこれを超える場合には、アイコンを点滅したり、音声情報によって運転者にこれを告知する。データ処理手段は、メモリのワークRAM内にあるマップデータから走行している道路のRでの走行限界値(バンク角など)を読み込み、走行限界値を実測値が上回っていれば、ワークRAMの限界値テーブルを更新する。
【0167】
次いで、車両がマップの終点まで到達したら、データ処理手段はECUのワークメモリのデータを外部メモリのテーブルに書き込む。車両の停止が数分以上、又は車両が終点より10m以上過ぎていることのいずれかの条件が成立したら、この書き込み動作を行う。一方、この条件が成立しない場合には、走行限界値の実測を継続する。このようにして、カーブの途中でサンプリングが終了しないようにしている。
【0168】
実測車速値が限界車速値以下の場合には、実測走行性値が限界走行値を超えていることは無いので、外部メモリの更新を行わない。たとえ実測車速値が限界者速値を越えても、バンク角が限界バンク角を超えていなければ外部メモリの更新は行わない。
【0169】
データ処理手段は、メモリマップ上の限界走行値を利用することにより、運転者に種々の警告・予告を与える処理を実行可能である。たとえば、路線に登録されている走行限界値と実測値とを比較して、実測値が限界値に近づいていることの告知、限界走行値がそもそも理論的な限界値以下である場合には、運転者には実測値よりもより大きなバンク角・車速での走行が可能である旨の告知などである。また、未走行のルートであれば、ナビゲーションの地図データからコーナーの曲率を求め、データマップ上の同一曲率の限界走行値を未走行ルートに対して仮設定することもできる。
【0170】
なお、マップデータは、パソコンなどで編集し、これを外部メモリに登録することもできる。また、インターネット回線を通じて、運転支援センターのホームページにアクセスすることによって、必要なメモリマップを二輪車のコントローラにダウンロードすることができる。
【0171】
次に、図24から図26を参照しながら、本実施形態の自動二輪車用の走行支援方法のフローについて説明する。
【0172】
図24は、フロー全体の概略を説明するためのフローチャートであり、一方、図25および図26は、図24のフローを詳細にしたフローチャートである。
【0173】
まず、フロー開始(START)の後、パラメータ設定(S100)を行う。パラメータ設定では、上述したように、タッチパネルやボタンスイッチを用いて、ライダー、路面などのパラメータの設定を行う。次に、車両データを書き込みを実行する場合(S110)、車両に搭載している各種センサによる計測値を取得して、取得データの書き込みを行う(S111)。次いで、地図データを取得するときには(S120)、GPSカーブサービスのためのデータ取得を実行し、GPSデータに基づく地図データを作成する(S121)。最後に、カーブサービスを実行したい場合に(S130)、上述したようなカーブ支援サービス(自動二輪車用の走行支援方法)を提供する(S131)。走行が終了すれば、あるいは、任意にサービスを停止した場合に、フローは終了する(END)。
【0174】
次に、図25および図26による詳細な例を説明する。
【0175】
まず、図25に示すように、開始後(START)、パラメータの読み込みを行う(S200)。ここでは、ライダー、路面、音声の種別を行う。次に、ライダーの走行限界値(適正限界値)を外部メモリ媒体から読み込む(S210)。例えば、図2および図3に示したようなテーブルを読み込む。ここには最高適正車速(Vmax)データも含まれている。なお、外部メモリ媒体からの読み込みは通信を利用して行ってもよい。
【0176】
その後、タイヤ空気圧/温度の検出、および、気温の検出を行う(S220)。この検出により、タイヤ補正値を決定したり、気温による補正値を決定したりする。例えば、タイヤ空気圧P1<90kPaの場合、または、温度t1<20℃や温度t1≧80℃の場合、タイヤ補正係数として90%(通常は100%)を決定する。あるいは、凍結判定を行って、0℃以下の時に、気温凍結補正データとして80%(通常は100%)を設定する。
【0177】
さらに、現在の車速V1を検出し(S221)、GPS経度x、緯度yを検出したりする(S222)。そして、現在位置に最も近い道路線形マップの取り出し(S223)とともに、バンク角、加速度を計算して表示する(S230)。ここで、マップのノード(構成点)を結ぶ線、または、カーブ上から所定距離内(例えば、10m以内)かどうかにより、現在位置がマップ上に近いかどうか判断する(S240)。そして、近い場合には、マップを表示して現在位置を示す(S241)。
【0178】
次いで、マップのカーブR1〜Rnから現在位置の進行方向で最も近いカーブ開始点との距離、到達時間を計算する(S242)。ここで、到達時間が所定時間内(例えば、5秒前以内)の場合かどうかを判断し(S250)、その場合、カーブアイコンを表示する(S260)。そして、Vmaxに補正係数を掛けたV2を算出する(S270)。補正係数は、例えば、カーブの深さ補正(C2)、タイヤ補正(C3)、下り勾配補正(C4)、気温補正(C5)などを挙げることができる。上述したタイヤ補正(C3)および気温補正(C4)以外のカーブの深さ補正(C2)の場合、カーブの深さが≦45°のときは補正係数100%で、≦90°、≦135°、135<のときは補正係数をそれぞれ95%、90%、80%のように設定することができ、一方、下り勾配補正(C4)の場合、下り勾配5%以上の時、95%(通常は100%)のように設定することができる。
【0179】
その後、図26に示すように、補正後の限界車速V2と現在の車速V1とを比較する(S300)。V2<V1であれば、アイコン点滅、音声情報提供などによりライダーに通知する(S310)。次いで、一時メモリに存在する現在サービス中の走行限界値(走行適正値)を取り出し(S320)、走行限界値が計測値を上回っているか判断する(S330)。上回っている場合(yes)、一時メモリの限界値テーブルを更新する(S340)。なお、ここで一時メモリとは、適宜書換が行われるメモリのことを意味している。
【0180】
限界値テーブルの更新(S340)とともに、S300およびS330において「no」の場合、マップの終点まで到達したかを判断する(S350)。到達していない場合には、車速0の停止が5分以上か?又はマップから10m以上遠いか?を判断する(S360)。S350およびS360で「yes」の場合、取得した限界値データを外部メモリのテーブルに書き込む(S370)。S370の後、および、S360で「no」の場合、再び、図22の「B」の位置からスタートすることができる。なお、図25および図26中の「A」「B」「C」は互いのものに飛ぶ印として表している。
【0181】
以上、本発明を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、勿論、種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0182】
本発明によれば、技量のあるライダーでもそうでないライダーであっても、適切な走行支援を実行できる自動二輪車用の走行支援方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動二輪車の走行情報を利用して走行を支援する方法であって、
自動二輪車が所定のカーブを走行する際に、カーブの走行条件をライダーに通知する工程を包含し、
前記カーブの走行条件として、予め記録しておいた走行情報に基づき算出され、ライダーの技量レベルに対応して変更可能な走行適正値と、実際の走行状態の値との対比結果が前記ライダーに通知される、自動二輪車用の走行支援方法。
【請求項2】
前記カーブの走行条件は、画像表示部に表示されて通知される、請求項1に記載の自動二輪車用の走行支援方法。
【請求項3】
前記カーブの走行条件は、音声により前記ライダーに通知される、請求項1に記載の自動二輪車用の走行支援方法。
【請求項4】
前記ライダーに通知される前記カーブの走行条件には、最大適正車速および最大適正バンク角が含まれている、請求項1に記載の自動二輪車用の走行支援方法。
【請求項5】
前記最大適正バンク角は、左バンク角と右バンク角とで区別されて通知される、請求項4に記載の自動二輪車用の走行支援方法。
【請求項6】
前記自動二輪車が所定のカーブを走行する際に、前記走行適正値をオーバーした場合には前記ライダーへ警告を発する、請求項1に記載の自動二輪車用の走行支援方法。
【請求項7】
前記走行適正値は、走行適正車速であり、
前記走行適正値は、カーブ深さデータ、タイヤの空気圧データ、下り勾配データ、および、気温データのうちの少なくとも一つによって補正される、請求項6に記載の自動二輪車用の走行支援方法。
【請求項8】
前記ライダーに通知される前記カーブの走行条件は、加速・減速ポイントについての前記対比結果である、請求項1に記載の自動二輪車用の走行支援方法。
【請求項9】
前記自動二輪車が所定のカーブを走行する際に、前記走行適正値を超えて走行できた場合に、当該走行データを記録して、走行適正値を更新する工程をさらに包含する、請求項1から7の何れか一つに記載の自動二輪車用の走行支援方法。
【請求項10】
前記自動二輪車用の走行支援方法は、異なるライダー毎に区別して実行される、請求項1から9の何れか一つに記載の自動二輪車用の走行支援方法。
【請求項11】
前記異なるライダー毎の区別には、第1のライダーが単独の場合と、当該第1のライダーが二人乗りで走行している場合とが区別されている、請求項10に記載の自動二輪車用の走行支援方法。
【請求項12】
自動二輪車の走行を支援するシステムであって、
実際の走行状態の値を計測する実際値計測手段と、
予め記録しておいた走行情報と前記実際の走行状態の値とに基づき、カーブの走行条件を算出する演算手段と、
自動二輪車が所定のカーブを走行する際に、前記カーブの走行条件をライダーに通知する通知手段と、
前記ライダーの技量レベルに合わせて、前記カーブの走行条件を変更する条件設定手段と
を備えている、自動二輪車用の走行支援システム。
【請求項13】
前記通知手段は、画像表示装置および音声送受信機の少なくとも一つである、請求項12に記載の自動二輪車用の走行支援システム。
【請求項14】
自動二輪車の走行を支援するシステムであって、
自動二輪車の車速を測定する車速センサと、
前記自動二輪車のヨーレートを測定するヨーレートセンサと、
前記自動二輪車の座標データを取得する座標特定装置と、
前記車速センサ、前記ヨーレートセンサおよび前記座標特定装置に接続された制御装置と、
前記制御装置に接続され、データを記憶する記憶装置と、
前記制御装置に接続され、画像を表示する画像表示装置と
を備え、
前記記憶装置には、予め記録しておいた走行情報に基づき算出され、ライダーの技量レベルに対応して変更可能な走行適正値データが格納されており、
前記制御装置には、前記走行適正値データを変更する設定変更スイッチが接続されており、
前記制御装置は、前記走行適正値データを前記画像表示装置に表示させる機能を有している、自動二輪車用の走行支援システム。
【請求項15】
前記座標特定装置は、GPS(Global Positioning System)信号を受信するGPS受信機である、請求項14に記載の自動二輪車用の走行支援システム。
【請求項16】
前記制御装置は、前記自動二輪車がカーブを走行する際に、前記車速センサによって測定された車速と、前記走行適正値データとを比較する機能を有し、且つ、前記車速が前記走行適正値データを超えた場合に前記画像表示装置に警告を通知する機能を有している、請求項14に記載の自動二輪車用の走行支援システム。
【請求項17】
前記制御装置は、前記車速が前記走行適正値データを超えた場合の当該車速を、新たな走行適正値データとして更新する機能を有している、請求項16に記載の自動二輪車用の走行支援システム。
【請求項18】
前記制御装置には、音声送受信機が接続されており、
前記制御装置は、前記警告を前記音声送受信機を介してライダーに通知する機能を有している、請求項16に記載の自動二輪車用の走行支援システム。
【請求項19】
さらに、前記走行適正データを含む情報を記憶可能な外部記憶装置を接続できる構成となっている、請求項14から18の何れか一つに記載の自動二輪車用の走行支援システム。
【請求項20】
請求項12から19の何れか一つに記載の自動二輪車用の走行支援システムを備えた自動二輪車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【国際公開番号】WO2005/038746
【国際公開日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【発行日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514740(P2005−514740)
【国際出願番号】PCT/JP2004/014654
【国際出願日】平成16年10月5日(2004.10.5)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】