説明

自動停止装置付両面スライドファスナー用スライダー

【課題】商品に取り付けたファスナーチエンをスライダーの表裏に取り付けた引手を使って内側、または外側で別々に操作できる自動停止装置付両面スライダーを提供する。
【解決手段】上翼板2、下翼板3、案内柱4から形成した胴体1に対し、前面および表面、裏面において前後に摺動するU字状の作動杆20を胴体1に取り付け、この作動杆20の表面側10、裏面側11の側面に引手装着用の引手ガイド溝21を設けて引手38を装着し、作動杆20の前後への作動に従動する爪杆30の停止爪31を胴体1のエレメントガイド溝6に出没自在に形成し、引手ガイド溝21の前端に引手38の軸部39が当接する前端部22を設け、引手38の前方への移動を阻止するとともに、表裏の引手38が互いに重なり合わないように形成した自動停止装置付両面スライダーであり、特にテントなどに用いて便利である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、スライダーを前後に摺動操作を行うことができる引手を、スライダーの胴体の表面および裏面の両面にそれぞれ個別に取り付け、必要なとき、スライダーを内側または外側から開閉操作を行うことができ、かつスライダーをファスナーチエンの随所で停止させ固定することができる自動停止機構を備えた両面スライドファスナー用スライダーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、スライダー胴体の表側および裏側にそれぞれ引手を装備した両面二枚引手のスライダーは、図12に示すように、胴体の表面側の前後すなわち肩口側と後口側に、一方に停止爪、他方に連動杆を突設した揺動体を嵌め込み、胴体の裏面側には停止爪のない連動杆のみを突設した揺動体を嵌め込み、案内柱に穿設した貫通する溝孔に上下の連動杆を挿入して両者を関連させ、表側の引手を引っ張ると上側の揺動体を持ち上げて停止爪をエレメントガイド溝から後退させ、また裏側の引手を引っ張ると下側の揺動体を持ち上げ、同時に上側の揺動体を押圧し停止爪をエレメントガイド溝から後退させる両面二枚引手のスライダーが知られている。
【0003】
また、図13,14に示すように、引手廻動タイプのスライダーは、引手が胴体の上翼板、下翼板、案内柱の前面を廻動できるU字状ガイド杆を胴体に配し、このU字状ガイド杆は内側に沿って断面T字形の引手ガイド部を設け、この引手ガイド部に一枚の引手を廻動自在に装着し、U字状ガイド杆に設けた長孔に停止杆の突片を差込み、引手をU字状ガイド杆の引手ガイド部に沿って胴体の肩口側(図示の左側)へ引っ張ると、U字状ガイド杆は案内柱に内蔵したスプリングを停止杆のフック片で押圧し、停止杆の停止爪をエレメントガイド溝から後退させることにより、スライダー胴体を前後に摺動させることができる引手廻動タイプのスライダーが知られている。
【特許文献1】実公昭56−37606号公報
【特許文献2】特開2003−93116号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前項で述べた、図12に示す両面二枚引手のスライダーは、引手を装着した揺動体を介して停止爪をエレメントガイド溝から後退させ、スライダーを摺動させるものであるから、部品点数が多く構造が複雑である。特に胴体の裏面側の引手を操作するときは、揺動体を介して停止爪を後退させ摺動させるので、表裏の引手によって停止機構を解除させる作動が表裏で差異があり、表裏の停止機構を同じ効率で作動させるには精度を要求され、この点で問題点がある。
【0005】
また、図13,14に示す引手廻動タイプのスライダーは、一枚の引手を表裏に廻動して操作するときは便利であるが、ファスナーチエンを外側と内側とで個別に操作する必要があるときは、不便である。例えばテントなどの出入口で外側でファスナーチエンの閉鎖操作を行うと引手はテントの外側にあり、テントの内側からはファスナーチエンを開離操作を行うことができない点で問題がある。
【0006】
この発明は、上述の問題点を考慮して発明されたものであり、この発明のうち請求項1記載の発明は、ファスナーチエンの表裏から個別に開閉操作ができ、特にテントなどにファスナーチエンを取り付けて使用するとき、テントの外側または内側から個別にスライダーの開閉操作を行うことができる便利なスライダーであって、スライダーの構造を簡素化し、表裏二枚の引手が操作のとき、確実にスライダーの所定位置に停止し、安定した摺動機能および停止機能が発揮できる両面二枚引手の自動停止装置付スライドファスナー用スライダーを提供することが主たる目的である。
【0007】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明の目的に加え、スライダー胴体に対し、表裏に取り付けた引手を円滑に作動させるため、上下翼板上を直線状にスライドできる形態に形成した自動停止装置付両面スライドファスナー用スライダーを提供することが目的である。
【0008】
請求項3記載の発明は、請求項1記載の発明の目的に加え、スライダー胴体に対し、表裏に取り付けた引手が、表側と裏側とで引き揃わないように配置位置に差異を付け、それに伴い胴体と作動杆の形状も流線型に形成して摺動抵抗を小さくした自動停止装置付両面スライドファスナー用スライダーを提供することが目的である。
【0009】
請求項4記載の発明は、請求項1記載の発明の目的に加え、スライダー胴体の先端における側面の体裁を整え、胴体と作動杆との間に隙間を作らず、他物が食い込むことを未然に防止して円滑に摺動動作が行える自動停止装置付両面スライドファスナー用スライダーを提供することが目的である。
【0010】
請求項5記載の発明は、請求項1記載の発明の目的に加え、スライダー胴体の表裏に取り付けた引手が、所定の軌道から逸脱するのを未然に防ぎ、円滑に摺動動作が行える自動停止装置付両面スライドファスナー用スライダーを提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するため、この発明のうち請求項1記載の発明は、スライダー胴体1が上翼板2、下翼板3これを連結する案内柱4から形成し、このスライダー胴体1に対し、表面側10と裏面側11にそれぞれ引手38を装着するための引手ガイド溝21を設けた作動杆20を前後に摺動できるように形成し、この作動杆20の作動に従動して自動停止機構の爪杆30の停止爪31を胴体1に設けたエレメントガイド溝6に出没できるように形成し、引手ガイド溝21の前端に引手38を確実に停止させる機能を備えた前端部22を形成し、スライダーの表裏から開閉操作ができる自動停止装置付両面スライドファスナー用スライダーを主な構成とするものである。
【0012】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明の構成に加え、作動杆20に刻んで設ける引手ガイド溝21は、スライダー胴体1の上翼板2と下翼板3に対し、平行する直線状を呈するように刻んで設けた自動停止装置付両面スライドファスナー用スライダーである。
【0013】
請求項3記載の発明は、請求項1記載の発明の構成に加え、作動杆20に設ける引手装着用の引手ガイド溝21における前端部22は、表面側10の側面と裏面側11の側面とでは、設置位置が表裏で一致せず異なる形に形成し、それに伴い胴体1および作動杆20の前面の形状を表面側10と裏面側11では曲率を異にした形状に形成した自動停止装置付両面スライドファスナー用スライダーである。
【0014】
請求項4記載の発明は、請求項1記載の発明の構成に加え、作動杆20に設ける引手ガイド溝21と摺動凹部25とは同じ厚さで形成し、摺動凹部25は作動杆20の前側に設け、この摺動凹部25を胴体1の案内柱4の前面に設けた摺動溝14に嵌入して摺動できるように形成した自動停止装置付両面スライドファスナー用スライダーである。
【0015】
請求項5記載の発明は、請求項1記載の発明の構成に加え、作動杆20に設けた引手ガイド溝21の前端部22と、作動杆20の前側に設けた摺動凹部25とは、連続することなく個別に設け、非連接状に形成した自動停止装置付両面スライドファスナー用スライダーである。
【発明の効果】
【0016】
この出願の発明の効果として、請求項1記載の発明は、上翼板、下翼板、案内柱から形成した胴体に対し、胴体の前面を通って、上翼板、下翼板上を前後に摺動可能に形成した作動杆を取り付け、胴体に作動杆の作動に従動して爪杆の停止爪をエレメントガイド溝に出没可能に形成し、作動杆の表面側の側面と裏面側の側面に引手装着用の引手ガイド溝を刻設して引手を装着し、それぞれの引手ガイド溝の前端に引手の軸部が当接する前端部を具備したことによって、下記の効果を奏する。
【0017】
引手を表面と裏面に別個に作動杆に取り付けているので、スライダーを表面と裏面の引手を利用して別個に操作することができる便利さがある。しかも、それぞれの引手が引手ガイド溝に装着され、その前側で引手の軸部と当接ができる前端部を備えているので、二枚の引手が互いに重なり合うことがなく、また一方側に片寄ることもなく確実に表裏に引手が存在するようにできる。また胴体に対し、作動杆が前後に摺動し、この作動に従動して停止機構の停止爪を胴体のエレメントガイド溝に出没させたので、停止機構を簡素化し確実に自動停止機能を発揮させることができ、特にスライダーをテントなどに利用した場合、テントの外側からファスナーチエンを閉鎖したときでも、テントの内側からファスナーチエンを開離操作することができる自動停止機構を備えた両面二枚引手のスライダーである。
【0018】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明の効果に加え、作動杆に刻設する引手ガイド溝は、胴体の上翼板と下翼板に対し平行な直線状に刻設したことによって引手を胴体の両面で直線状に摺動させるので、引手が胴体の前端、または後端に対し、有効に引張力が作用して胴体を円滑かつ確実に前後に摺動させることができる効果がある。
【0019】
請求項3記載の発明は、請求項1記載の発明の効果に加え、引手ガイド溝の前端部は、表面側の側面と裏面側の側面とでは、設置位置を異にし、それに伴い胴体および作動杆の前端も表面側と裏面側では曲率を異にした形状に形成したことによって、引手ガイド溝の前端部は表面側と裏面側では食い違っているので、表裏の引手は絶対に引き揃うことがないから、引手の把持が容易であり、それに伴って胴体および作動杆の前端も流線型に形成することができ、摺動抵抗を小さくすることができる効果がある。
【0020】
請求項4記載の発明は、請求項1記載の発明の効果に加え、引手ガイド溝と同厚の摺動凹部を作動杆の前側に設け、該摺動凹部を胴体に設けた摺動溝に嵌入し摺動可能に形成したことによって、胴体の先端における側面の体裁を整えることができ、かつ胴体と作動杆との間に間隙を作成しないから、他物が食い込む弊害がなく、スライダーを円滑に摺動させることができる効果がある。
【0021】
請求項5記載の発明は、請求項1記載の発明の効果に加え、引手ガイド溝の前端部と摺動凹部とは、非連接状に形成したことによって、表面側と裏面側に取り付けた引手が、それぞれ直線状に摺動する軌道から逸脱して摺動凹部へ脱出する障害を惹起することがなく、正規の軌道を摺動するから、スライダーの摺動動作が円滑に行うことができる効果があるなど、この発明が奏する効果はきわめて顕著である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
この発明における両面二枚引手の自動停止装置付スライドファスナー用スライダーは、図1に示すように胴体1、作動杆20、爪杆30、スプリング36、ピン37、引手38(表面側10、裏面側11)から形成され、これらの部材は金属製である。胴体1は、図2に示すように、上翼板2と下翼板3とを案内柱4で連結し、上翼板2と下翼板3の幅方向の両側にはフランジ5を曲設してこのフランジ5と案内柱4とで囲まれる略Y字状を呈するエレメントガイド溝6を設けるとともに、案内柱4を前面に延ばし、この延長した部分に表裏すなわち上下へ貫通する摺動溝14を設ける。また上翼板2と下翼板3の後口9側に断面T字形の突出部12を設け、上翼板2の中央において前後方向に延びる突条部13を突設し、この突条部13の前側にピン孔15を設け、さらに上翼板2の後口9側に爪杆30の停止爪31が嵌入できる爪孔16を穿設し、案内柱4の前面すなわち肩口8側の中央で摺動溝14に面した部分にスプリング収容部17を設けてスプリング36を収容する。
【0023】
胴体1の突出部12と摺動溝14に嵌挿される全体がU字状で同幅の作動杆20は、図3に示すように上片26と下片27の側面に引手38が直線状に摺動できる引手ガイド溝21を凹設し、この引手ガイド溝21の前後に引手38の摺動を規制する前端部22と後端部23を設け、上片26の前端部22と下片27の前端部22とは、上片26の前端部22が下片27の前端部22より前方へ突出して設置位置を異にし、従ってこれに伴い作動杆20の前面の形状が上片26側が突び出した流線型に形成し、胴体1の前面も流線型に形成する。また作動杆20の前側には胴体1の摺動溝14に収容できる摺動凹部25を設け、この摺動凹部25の内側下部にカム部29を形成して爪杆30の押圧片33を押圧することができ、また上片26で胴体1に穿設したピン孔15に該当する上方に長孔状の孔部28を設けて爪杆30の突片32を嵌挿できるように形成する。作動杆20の上片26と下片27の端部には断面T字形の取付溝24を設けて胴体1の後口9側に設けた突出部12に嵌装することができる。
【0024】
爪杆30は、図4に示すように一端に停止爪31を設け、他端に上方へ突出する突片32と、下方へ突出する押圧片33を設け、突片32と押圧片33の中間にピン孔34を穿設し、ピン孔34は胴体1に設けたピン孔15と合致させてピン37で軸着し、停止爪31は胴体1の爪孔16に嵌挿し、突片32は作動杆20に設けた孔部28に嵌入し、また押圧片33は胴体1のスプリング収容部17に嵌挿したコイル状スプリング36を押圧できるようにスプリング36に当接する。
【0025】
引手38は、図1に示すように、一端に摘み部40を設け、他端に鍵形の軸部39を両側から対設して、作動杆20の上片26と下片27とに凹設した引手ガイド溝21にそれぞれ表面側10の引手38および裏面側11の引手38を嵌入して装着する。
【0026】
各部材を所定の位置に配して組み立てられた両面二枚引手の自動停止装置付スライドファスナー用スライダーの仕様態様を説明すると、表面側10の引手38および裏面側11の引手38に引張力が作用しない通常の状態であれば、図7に示すように爪杆30はスプリング36の弾力によって押圧片33を前側に圧し、その結果停止爪31は胴体1のエレメントガイド溝6へ進出し、ファスナーエレメントに係止してスライダーの摺動はできなくなり、停止状態となる。
【0027】
次に図8に示すように表面側10の引手38または裏面側11の引手38(2点鎖線)を胴体1の後口9側、または作動杆20の後端部23へ向けて引っ張ると作動杆20に設けたカム部29によって、爪杆30の押圧片33を押圧するとともに、スプリング36を圧縮して爪杆30の停止爪31を胴体1のエレメントガイド溝6から後退させ、スライダーをファスナーチエンの開離方向へ摺動させることができ、ファスナーチエンを開口することができる。
【0028】
また、図9に示すように表面側10の引手38または裏面側11の引手38(2点鎖線)を胴体1の肩口8側、または作動杆20の前端部22へ向けて引っ張ると作動杆20が摺動し、作動杆20の上片26に設けた孔部28によって、爪杆30の突片32を押圧して回動し、その結果スプリング36を圧縮して停止爪31を胴体1のエレメントガイド溝6から後退させ、スライダーをファスナーチエンの閉鎖方向へ摺動させることができ、ファスナーチエンを閉鎖させることができる。
【0029】
この両面二枚引手の自動停止装置付スライドファスナー用スライダーは、図10,11に示すようにテント42の出入口の開閉部43に取り付け使用する場合を説明すると、ファスナーチエンを閉鎖したときスライダーがテント42の下方に位置するようにファスナーチエンを取り付けると、テント42から出た人が開閉部43を外側から閉鎖しても、内部に居る人は内側のスライダーの引手を把持し上方へ引き上げるとファスナーチエンを開離させ開閉部43を開口させることができる。ファスナーチエンをテント42の内部に居る人が閉鎖した場合、外部の人は外側のスライダーの引手を把持して上方へ引き上げるとファスナーチエンを開離させ開閉部43を開口させることができる。従来技術のような引手廻動タイプのスライダーであれば、引手は一方側のみに位置しているため、このような状態であれば利用することができない。
【実施例1】
【0030】
この発明における両面二枚引手つまり表裏にそれぞれ引手38を備えた自動停止装置付スライドファスナー用スライダーは、前項で述べたとおり、図1および図7に示すように、胴体1、作動杆20、爪杆30、スプリング36、ピン37、引手38から形成され、引手38は胴体1の表面側10と裏面側11に配される二枚の引手38から形成する。これらの部材は金属製であり、胴体1、作動杆20、引手38は亜鉛合金またはアルミニウム合金をダイカスト成形し、爪杆30は銅合金またはステンレス鋼をプレス成形して形成する。
【0031】
胴体1は、図2に示すように、上翼板2と下翼板3とを肩口8側で案内柱4によって上下を連結し、上翼板2と下翼板3の両側縁部にフランジ5を互いに近接する内方へ曲設し、上翼板2のフランジ5を高く、下翼板3のフランジ5は低く形成して、このフランジ5と案内柱4とで囲まれ略Y字状を呈するコイル状ファスナーエレメントをガイドするエレメントガイド溝を設ける。ここで、上翼板2側は表面側10、下翼板3側を裏面側11とした場合上翼板2と下翼板3とのフランジ5を同高に形成し、単体の金属エレメントまたは樹脂の射出成形エレメントに適したエレメントガイド溝6に形成することもできる。
【0032】
胴体1の案内柱4の前面を前方へ延ばし、この延長した部分に全体が表裏すなわち上下へ貫通する摺動溝14を設ける。この延長部分は、上翼板2、下翼板3の肩口8側よりも前方に位置する部分をさす。上翼板2の表面中央に案内柱4の延長部分を含めた全長にわたって背の低い突条部13を設け、上翼板2における後口9側の所定個所に突条部13の表面に断面T字形を呈する突出部12を突設し、この突出部12から肩口8側へ向けて全長にわたって突条部13の中央を切欠して爪杆30が嵌入できるように形成するとともに、突条部13の前側すなわち延長部分に幅方向に貫通する円形のピン孔15を設ける。また胴体1の後口9側における突出部12の基部に、爪杆30の停止爪31が嵌入できる爪孔16をエレメントガイド溝6へ向け貫通する形で設ける。さらに案内柱4の前面すなわち肩口8側の厚さ方向中央で摺動溝14に面した部分にコイル状スプリング36が収容できるスプリング収容部17を設ける。また下翼板3の後口9側にも上翼板2と同様に所定個所に断面T字形を呈する突出部12を表面へ突出する形で設ける。
【0033】
作動杆20は、上翼板2、延長部分の前面、下翼板3に連続し一方が開口する全体がU字状であり、上翼板2に水平な上片26(表面側10)と、下翼板3に水平な下片27(裏面側11)とを有し、これらの上片26と下片27とが屈曲部によって連結されており、この作動杆20は、胴体1の案内柱4の延長部分とほぼ同幅で、延長部分を被覆できる幅寸法で形成している。この作動杆20は、胴体1の上翼板2と下翼板3との後口側に設けた突出部12と、胴体1の前面に設けた摺動溝14とに嵌挿されて、前後方向に摺動自在に取り付けられる。図3に示すように、作動杆20は、上片26と下片27との側面に引手38が直線状に移動できる引手ガイド溝21を凹状に刻設し、この引手ガイド溝21の前後位置に、引手38の摺動を規制する前端部22と後端部23とを設けている。
【0034】
引手ガイド溝21は作動杆20の幅方向両側に形成されており、作動杆20より一段低く、かつ胴体1の延長部分よりも幅が小さく形成される。ここで、上片26の前端部22と下片27の前端部22とは、図5に示すように、上片26の前端部22が下片27の前端部22よりも前方へ飛び出した形に設け、上下で設置位置を異にしている。つまり、上片26の後端部23と下片27の後端部23とは同位置にしているので、上片26の引手ガイド溝21の長さは、下片27の引手ガイド溝21よりも長く形成されている。これに伴い、作動杆20の前面である屈曲部の形状が、上方が飛び出した流線型である屈曲部の頂点が上翼板2側に位置するように形成している。また胴体1の延長部前方も同様の流線型に形成している。
【0035】
それぞれの引手ガイド溝21の前端部22に、後述する引手38の軸部39が当接した状態で、前方側へ倒伏した時、前端部22が上下で設置位置を異にしていても、引手は平行状に間隙が生ずる形となる。これは、前端部22の端面から作動杆20前面までの寸法を、軸部39と摘み部40との隙間により小さくすることで、上記のように平行状とでき、表裏で同じ引手を利用することから、前方側に倒伏した引手が引き揃わない(引手38の端部が表裏でずれている)ようにできる。上記したものは好ましい実施例であって、前端部22の設置位置を同じにすることもでき、この場合、胴体1の延長部前端および作動杆20は前端は曲率が同じ形状とできる。
【0036】
作動杆20の前方内側に胴体1の摺動溝14に収容できる摺動凹部25を設け、この摺動凹部25は、前記引手ガイド溝21の幅方向の厚さと同等である。図6に示すように、作動杆20は断面T字状をしており、摺動凹部25は、胴体1の延長部に形成した摺動溝14に収容され、摺動溝14の内面と摺接する部分で、この摺動凹部25の内側下部に内方へ突出するカム部29を設けて、爪杆30に設けた押圧片33を押圧し、また上片26で胴体1に設けたピン孔15の上方に、長孔状の孔部28を設けて爪杆30の突片32を嵌挿できる形に形成する。作動杆20の上片26と下片27の端部の内面に断面T字形を呈する取付溝24を設けて、胴体1の上翼板2および下翼板3の後口9側に設けた突出部12に嵌装することができる。
【0037】
爪杆30は、図4に示すように一端に下向きの停止爪31を設け、他端に上向きに突出する突片32と、下向きに突出する押圧片33とを設け、突片32と押圧片33の中間部分にピン孔34を設け、ピン孔34は胴体1に設けたピン孔15と合致させてピン37によって、爪杆30を回動自在に軸着する。停止爪31は胴体1の爪孔16に嵌挿して、常時はエレメントガイド溝6に向けて突出し、ファスナーエレメントに係止して固定する。上向きの突片32は作動杆20の上片26に設けた孔部28に嵌入して作動杆20の作動を規制する。また押圧片33は胴体1のスプリング収容部17に収容したコイル状スプリング36の前面を押圧できるようにスプリング36に当接する。
【0038】
引手38は、図1に示すように、一端に摘み部40を設け、他端に鍵形の軸部39を両側から対向する形で設け、作動杆20の上片26と下片27における側面に凹設した引手ガイド溝21に、それぞれ表面側10の引手38および裏面側11の引手38を嵌め込み、前後に摺動できるように形成する。なお引手38の形状は任意に形成する。軸部39は、中間部に間隙があり、その間隙は引手ガイド溝21の幅方向の厚さよりも広い寸法であるため、両側から対向する軸部39によって、引手ガイド溝21を挟むようにして装着される。
【0039】
スライダーの組立ては、胴体1の案内柱4の前面に設けたスプリング収容部17にコイル状スプリング36を収容し、爪杆30を胴体1の上翼板2の上側に設けた空洞部分および案内柱4の前側に設けた摺動溝14内に収容し、停止爪31を爪孔16へ差し込み、下向きの押圧片33がコイル状スプリング36に当接する形で配し、胴体1のピン孔15と爪杆30のピン孔34とを合致させてピン37を挿通し、爪杆30を回動自在に軸支する。その上で作動杆20を胴体1の肩口8側から後口9側へ向けて差込み、胴体1の摺動溝14に摺動凹部25を嵌め込み、かつ作動杆20の上片26に設けた孔部28に爪杆30の突片32を差し込み、作動杆20の上片26および下片27に設けた断面T字形の取付溝24を胴体1の上翼板2および下翼板3に設けた断面T字形の突出部12に嵌挿して固定する。そして作動杆20の上片26と下片27の側面に形成した凹状の引手ガイド溝21に、引手38の先端に設けた対向する軸部39を嵌装して、引手38を前後に摺動できるように形成し、作動杆20を引手38の前後動によって作動できるように形成してスライダーを組立てる。
【0040】
スライダーを組立てた状態において、引手ガイド溝21の前端部22と胴体1の延長部分とによって、引手38が前方へ移動することを規制し、表裏の引手が重ならないようにしている。このため、延長部分の作動杆20の摺動面前端は、作動杆20が前方に摺動した状態での引手ガイド溝21の前端部22よりも前方に位置している。また、引手ガイド溝21の上下片26,27のそれぞれの前端部22および後端部23は、上片26、下片27におけるスライダー胴体1との摺動面で、この摺動面の延長線よりも胴体1側に形成しないようにしている。つまり、上片26が摺動する突条部13との境界線および、下片27が摺動する下翼板3との境界線を越えないようにしている。これによって、作動杆20の摺動時に前端部22が胴体1の延長部分に接触することがなく、その摺動移動の邪魔とならない。ここで、摺動面前端は上下翼板2,3に水平な部分の端部位置である。
【0041】
スライダーの使用態様は、表面側10の引手38および裏面側11の引手38に引張力が作用しない場合であれば、図7に示すように、爪杆30はスプリング36の弾発力によって押圧片33を圧し、その結果停止爪31は胴体1のエレメントガイド溝6へ進出し、ファスナーエレメントと係止してスライダーの摺動はできない形で停止状態となる。
【0042】
次に図8に示すように、表面側10の引手38または裏面側11の引手38を仮想線(二点鎖線で表示)の状態で作動杆20の後端部23へ向けて引っ張ると作動杆20に設けたカム部29によって、爪杆30の押圧片33を押圧するとともに、スプリング36を圧縮して爪杆30の停止爪31を胴体1のエレメントガイド溝6から後退すなわち上方へ退避させて、スライダーをファスナーチエンの開離方向へ摺動させ、ファスナーチエンを開口させることができる。
【0043】
また、図9に示すように、表面側10の引手38または裏面側11の引手38を仮想線の状態で作動杆20の前端部22へ向けて引っ張ると、作動杆20の上片26に設けた孔部28によって爪杆30の突片32を押圧し、爪杆30を回動して押圧片33によってスプリング36を圧縮し、停止爪31を胴体1のエレメントガイド溝6から後退させ、スライダーをファスナーチエンの閉鎖方向へ摺動させ、ファスナーチエンを閉鎖させることができる。
【0044】
このスライダーをテントに用いる例を説明すると、図10,11に示すようにテント42の出入口の開閉部43にファスナーチエンを取り付けるが、このときスライダーは下方に位置するようにしてファスナーチエンが閉鎖状態で取り付け、テント42内から外側に出た人が開閉部43のファスナーチエンを外側から閉鎖しても、内部に居る人は内側のスライダーの引手38を把持し、上方へ引き上げるとファスナーチエンを開離させ開閉部43を開口させることができる。
【0045】
ファスナーチエンをテント42の内部に居る人が閉鎖した場合、外部の人は外側のスライダーの引手38を把持して上方へ引き上げると、ファスナーチエンを開離させ開閉部43を開口させることができる。従ってファスナーチエンを外側と内側で操作して開閉できるから大変便利であり、引手廻動タイプのスライダーであれば、このような状態では利用することができない。
【産業上の利用可能性】
【0046】
この発明の両側二枚引手の自動停止装置付スライドファスナー用スライダーは、テントにおける出入口および窓にファスナーチエンを取り付けて使用する。またトラックの幌に用いてもよく、ファスナーチエンを表側および裏側の両面から別個に操作する物品に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】実施例1に基づく両面二枚引手の自動停止装置付スライドファスナー用スライダーの斜視図である。
【図2】同上のスライダーの胴体の断面図である。
【図3】同上のスライダーの作動杆の正面図である。
【図4】同上のスライダーの爪杆の正面図である。
【図5】同上のスライダーの前側の部分拡大図である。
【図6】同上のスライダーの前側の部分断面図である。
【図7】同上のスライダーの作用を示す停止状態におけるスライダーの断面図である。
【図8】同上のスライダーの作用を示す引手を後口側へ引っ張った状態におけるスライダーの断面図である。
【図9】同上のスライダーの作用を示す引手を肩口側へ引っ張った状態におけるスライダーの断面図である。
【図10】同上のスライダーをテントの出入口に用いたテントの全体図である。
【図11】同上のスライダーをファスナーチエンに取り付け、引手を垂下した状態図である。
【図12】公知の両面二枚引手の自動停止装置付スライダーの断面図である。
【図13】公知の引手廻動タイプのスライダーの正面図である。
【図14】同上スライダーの断面図である。
【符号の説明】
【0048】
1 胴体
2 上翼板
3 下翼板
4 案内柱
6 エレメントガイド溝
10 表面側
11 裏面側
20 作動杆
21 引手ガイド溝
22 前端部
25 摺動凹部
30 爪杆
31 停止爪
38 引手
39 軸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上翼板2、下翼板3、案内柱4から形成した胴体1に対し、胴体1の前面を通って、上翼板2、下翼板3上を前後に摺動可能に形成した作動杆20を取り付け、胴体1に作動杆20の作動に従動して爪杆30の停止爪31をエレメントガイド溝6に出没可能に形成し、作動杆20の表面側10の側面と裏面側11の側面に引手装着用の引手ガイド溝21を刻設して引手38を装着し、それぞれの引手ガイド溝21の前端に引手38の軸部39が当接する前端部22を具備してなることを特徴とする自動停止装置付両面スライドファスナー用スライダー。
【請求項2】
作動杆20に刻設する引手ガイド溝21は、胴体1の上翼板2と下翼板3に対し平行な直線状に刻設してなる請求項1記載の自動停止装置付両面スライドファスナー用スライダー。
【請求項3】
引手ガイド溝21の前端部22は、表面側10の側面と裏面側11の側面とでは、設置位置を異にし、それに伴い胴体1および作動杆20の前端も表面側10と裏面側11では曲率を異にした形状に形成してなる請求項1記載の自動停止装置付両面スライドファスナー用スライダー。
【請求項4】
引手ガイド溝21と同厚の摺動凹部25を作動杆20の前側に設け、該摺動凹部25を胴体1に設けた摺動溝14に嵌入し摺動可能に形成してなる請求項1記載の自動停止装置付両面スライドファスナー用スライダー。
【請求項5】
引手ガイド溝21の前端部22と摺動凹部25とは、非連接状に形成してなる請求項1記載の自動停止装置付両面スライドファスナー用スライダー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−229002(P2008−229002A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−73166(P2007−73166)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(000006828)YKK株式会社 (263)
【Fターム(参考)】