説明

自動分析前処理装置及び自動分析前処理装置を備えた自動分析装置

【課題】 カラム内に注入したサンプル溶液の全部を分析対象とすることができる自動分析前処理装置を提供する。
【解決手段】ノズル移動機構33は、指令発生装置50が発生した移動指令に応じてノズルをXYZ方向に移動させる。液体分注装置35は、指令発生装置50が発生した分注指令に応じて定まる吐出速度でノズルから予め定めた量の液体を吐出する。指令発生装置50は、ノズル31をカラム43の内周壁に接触させることなくカラム43の内周壁に沿って周回させながら予め定めた量の液体をカラム内に分注するのに必要な移動指令及び分注指令を同期させて発生する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動分析前処理装置及び自動分析前処理装置を備えた自動分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
微少物質の分析において、高い精度で測定を行うためには、試料の分離・濃縮及び精製といった前処理が必須となる。従来は、この前処理を、外部環境から完全に隔離された状態で、手作業で行っていたので、試料のサンプル数が多くなると、作業者の負担は相当なものとなっていた。そのため自動化が強く望まれていた。自動化に関しては、特開2010−60474号公報(特許文献1)に、全自動で試料の前処理と分析測定を行うことができる質量分析装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−60474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
岩石試料のような高いマトリクスを持つ試料を分析するために、質量分析装置や高速液体クロマトグラフィー(HPLC)での分析が行われている。この分析の前処理では、オープンカラム(カラム)を用いて必要元素を分離抽出する作業が必要となる。この前処理では、試料を溶解した試料溶解溶液(サンプル溶液)を、カラム内に封入したイオン交換樹脂に注入する作業と、サンプル溶液が注入されたイオン交換樹脂に試薬を注入する作業とを行う。しかしながら特許文献1に示されるような従来の前処理装置では、サンプル溶液または試薬をカラム内に注入するノズルを、カラム内で移動させる機構を備えていない。そのためサンプル溶液を注入する際に、サンプル溶液が跳ね返ってカラムのテーパ状部分に付着すると、付着したサンプル溶液をイオン交換樹脂に注入することができず、測定対象となるサンプル溶液の量が減少して正しい分析結果が得られないという問題点が生じる。また、カラム内におけるサンプル溶液の吐出位置と、試薬の吐出位置とが同じであるため、試薬を注入する際に、先にカラムに注入されたサンプル溶液がはね返って、試薬を注入するノズルにサンプル溶液が付着すると、試薬を汚染してしまう問題点が生じる。さらに、従来の装置では試薬を吐出するカラム内の位置を変更できないため、試薬の吐出速度が速すぎると、試薬がカラム内に溜まってしまうことにより、封入したイオン交換樹脂の安定性が乱されたり、イオン交換樹脂内を通過する試薬の速度が速くなることによりイオン交換樹脂内で十分な反応が得られないという問題があった。
【0005】
本発明の目的は、注入したサンプル溶液の全部を分析対象とすることができる自動分析前処理装置を提供することにある。
【0006】
本発明の他の目的は、ノズルの汚れを防止することができる自動分析前処理装置を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、イオン交換樹脂の定常状態が乱されない速度でサンプル溶液または試薬を吐出することができる自動分析前処理装置を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、ノズルをカラムの内周壁に接触させることなくカラムの内周壁に沿って周回させることが可能な自動分析前処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の自動分析前処理装置は、ノズル、ノズル移動機構及び液体分注装置を備えた分注ステージと、カラムステージと、指令発生装置とを備えている。ノズル移動機構は、指令発生装置が発生した移動指令に応じてノズルをXYZ方向に移動させる。液体分注装置は、指令発生装置が発生した分注指令に応じて定まる吐出速度でノズルから予め定めた量の液体を吐出する。カラムステージは、ノズルから液体が分注される1以上のカラムを備えている。指令発生装置は、移動指令及び分注指令を発生する。特に本発明の自動分析前処理装置の指令発生装置は、ノズルをカラムの内周壁に接触させることなくカラムの内周壁に沿って周回させながら予め定めた量の液体をカラム内に分注するのに必要な移動指令及び分注指令を同期させて発生する。ここで移動指令及び分注指令を同期させて発生するとは、移動指令と分注指令とを時間的に関連を持って発生することである。このように構成すると、ノズルがカラムの内周壁に接触することがないので、カラムの内周壁に付着した物質によりノズルが汚染されることがない。また、カラムの内周壁に沿って周回するようにノズルを移動させながら液体を吐出させると、カラム内の特定の部分に集中して液体が注入されることがなくなる。そのため、試薬がイオン交換樹脂の一部分を掘削することにより封入したイオン交換樹脂の定常状態が乱されることがなくなる。また内周壁に沿ってノズルを周回させながら予め定めた量の液体をカラム内に分注するので、イオン交換樹脂内を通過する試薬の速度が大きくなることを防ぐことができ、イオン交換樹脂内で試薬を十分に反応させることができる。従って、良好な分析結果を得ることができる。
【0010】
指令発生装置は、ノズルを内周壁に沿って周回させている間にノズルから吐き出された液体が跳ね返らないようにするのに必要なノズルの位置及び移動速度を指令する移動指令と吐出速度を指令する分注指令とを同期して発生させる。このように構成すると、ノズルから吐き出された液体が跳ね返ってノズルに付着することがなくなるので、同じノズルにより吸引されて吐出される同種の液体に、ノズルに付着した跳ね返り液体が混入することがなくなる。
【0011】
本発明で使用するカラムは、ノズルが挿入される開口部を備えた筒状部と、筒状部より径が小さく且つイオン交換樹脂が充填される小径筒状部と、筒状部と小径筒状部との間に位置するテーパ状筒状部とを備えたものとすることができる。この場合には、指令発生装置を、ノズルから吐出された液体がテーパ状筒状部の内周壁上に液体を吐き出すように移動指令を発生するように構成する。このように構成すると、テーパ状筒状部に付着して残留したサンプル溶液を、サンプル溶液注入後に注入する例えば試薬のような別の溶液により洗い流して、イオン交換樹脂に注入させることができる。従って、イオン交換樹脂が充填された小径筒状部にサンプル溶液を注入する際に、サンプル溶液の跳ね返りや、テーパ状筒状部での滞留によりテーパ状筒状部にサンプル溶液が付着しても、付着したサンプル溶液をノズルから吐出する液体で流すことができるので、カラム内に注入したサンプル溶液の全部を分析対象とすることができる。
【0012】
ノズルは、ノズル本体と、このノズル本体の先端に装着されて交換可能なピペットチップとから構成してもよい。このように構成すると、吐出された液体が跳ね返ってピペットチップに付着した場合でも、ノズルの先端に装着したピペットチップを交換するだけで、他の種類のサンプル試薬や溶液を汚染してしまうことを簡単に防止することができる。
【0013】
本発明のより具体的な構成においては、指令発生装置は、吐出速度設定部と、分注量設定部と、分注指令発生部と、距離設定部と、移動指令発生部とを備えている。吐出速度設定部は、ピペットチップからの吐出速度を指令する。分注量設定部は、ピペットチップからの分注量を指令する。分注指令発生部は、設定された吐出速度及び分注量に基づいて分注指令を発生する。距離設定部は、カラムの中心位置からの距離を指令する。移動指令発生部は、設定した吐出速度、分注量及びカラムの中心位置からの距離に基づいてノズルの移動速度を決定する。そして移動指令発生部は、決定した移動速度を含む移動指令を、分注指令と同期するように発生する。このように構成すると、使用するカラムの大きさ、注入する液体の量、吐出速度または分析対象等に変更があっても、ノズルから吐出された液体が跳ね返らないようにするのに必要なノズルの位置及び移動速度を簡単に設定することができる。
【0014】
本発明は、上述したいずれかの自動分析前処理装置を備えた自動分析装置として把握することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の自動分析前処理装置の実施の形態の一例の概略図である。
【図2】図1の実施の形態で用いるカラムの一例を示す図である。
【図3】コントローラの表示部に表示される画像の一例を示す図である。
【図4】コントローラ及び制御部の内部に分割して配置された指令発生装置の信号処理回路の主要部の構成の一部を示すブロック図である。
【図5】分析前処理を行う場合の一例を示すフローチャートを示す図である。
【図6】(A)及び(B)はサンプル溶液を吐出する高さの一例を示す図である。
【図7】カラムの内周壁に接触させることなく内周壁に沿って周回しながらノズルが溶液をカラムに吐出する状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。図1は本発明の自動分析前処理装置の実施の形態の一例の概略図である。なお、理解を容易にするため、図1には自動分析処理装置の一部を省略して示している。図1に示すように、自動分析前処理装置1は、表示部Dを備えたコントローラ3と、制御部5と、装置本体7とを有している。コントローラ3は、装置本体7の各部の動作について設定すべき項目を表示部Dに表示する。コントローラ3には図示しない設定用の入力部が設けられている。制御部5は、コントローラ3で設定された項目に従って装置本体7の各部の動作を制御する。本実施の形態の装置本体7は、ノズルユニット11と、図1の左下領域に示したX軸方向に延びるレール13と、Y軸方向に延びる一対のレール15と、試薬ステージ17と、サンプルステージ19と、ピペットチップラック21と、カラムステージ23と、液回収ステージ25とを備えている。
【0017】
ノズルユニット11は、図示しない駆動源により、X軸方向に移動可能にレール13に取り付けられている。レール13は、図示しない駆動源により一対のレール15に沿ってY軸方向に移動可能にレール15に設けられている。ノズルユニット11は、ノズル本体27及びノズル本体27の先端に交換可能に装着されたピペットチップ29とからなるノズル31を備えている。ノズル31は、図示しない駆動源によりZ軸方向に移動可能にレール32に取り付けられている。またノズルユニット11の内部には、ノズルから液体を吐出するためのポンプを備えた液体分注装置35(図4参照)が設けられている。このような構成により、ノズルユニット11は、レール13とレール15とにより囲まれる平面(X−Y平面)内を移動可能であり、レール32と組み合わされてXYZ方向に移動可能となっている。また、ノズルユニット11を所定の位置に移動させるだけでなく、ノズル31から液体を吐出する動作を行っているときに、ノズルユニット11を周回移動させる動作が可能である。本実施の形態においては、ノズルユニット11と、レール13と、レール15と、レール32とにより、ノズル移動機構33が構成されている。なお、ノズルユニット11の駆動源、レール13の駆動源及びノズル31の駆動源には、リニアモータやラックアンドピニオン等の公知の直動機構を採用することができる。
【0018】
試薬ステージ17は、最大で8本の試薬ボトル37を置くことができるように構成されている。試薬ボトル37の内部には、試薬が入っている。なお本実施の形態の試薬ステージ17では、8本の試薬ボトル37のうち、手前の2本の試薬ボトルを加熱することができるように構成されている。
【0019】
サンプルステージ19には、サンプル容器39が配置される。本実施の形態のサンプルステージ19は、最大で10個のサンプル容器39を配置することが可能な10個のサンプル容器孔(図示せず)の列を1列有している。サンプル容器39の内部には、測定対象である試料を粉末にしたものを、高濃度の混酸により分解溶液化したサンプル溶液(試料溶液)が予め入っている。サンプルステージ19は、2枚の縦板24を介して液回収ステージ25の上方に配置されている。
【0020】
ピペットチップラック21には、交換用のピペットチップ29が多数配置されている。 カラムステージ23には、ノズル本体27の先端に装着されたピペットチップ29から液体が分注されるカラムが配置される。なお図1には、カラムステージ23にカラム43(図2参照)を配置していない状態を示している。本実施の形態のカラムステージ23は、10個のカラム43を配置することが可能な10個のカラム挿入孔45の列を1列有している。カラムステージ23は、サンプルステージ19と一体的に形成されて、液回収ステージ25の上方に配置されている。またカラムステージ23は、サンプル容器孔の列とカラム挿入孔45の列とが、平行となるように構成されている。後述するように、10個のカラム挿入孔45は、それぞれ液回収ステージ25の回収容器47と上下方向に整列している。本実施の形態においては、サンプルステージ19とカラムステージ23とを一体的に形成しているが、それぞれ別のステージとして構成してもよいのは勿論である。
【0021】
図2は、本実施の形態で使用するカラム43の外形を示す図である。本実施の形態で用いるカラム43は、ノズル31のピペットチップ29が挿入される開口部を備えた筒状部43aと、筒状部43aより径が小さく且つイオン交換樹脂が充填される小径筒状部43bと、筒状部43aと小径筒状部43bとの間に位置するテーパ状筒状部43cとを備えている。
【0022】
液回収ステージ25には、カラムステージ23に設置された10個のカラム43をそれぞれ通過した液体を回収する30個の回収容器47が3列に並んで配置されている。カラムステージ23と液回収ステージ25とは、1個のカラム43の下に1個の回収容器47が位置するように構成されている。なお液回収ステージ25には、不要となって回収しない廃液を集める廃液槽を設けてもよい。本実施の形態では、液回収ステージ25がカラム43を通過した液体を、3列に並んだ回収容器47にそれぞれ回収するため、及び回収した回収容器47を回収・交換する作業を容易にするために、Y軸方向にスライドできるように構成されている。
【0023】
また本実施の形態の液回収ステージ25はさらに、カラム43を通過した液を確実に回収容器47に回収するために、カラム43の先端を回収容器47内に挿入できるようにZ軸方向に移動可能に構成されている。カラム43の先端を回収容器47内に挿入する際には、液回収ステージ25をZ軸方向の上方位置に変位させ、回収容器47を回収する際には、液回収ステージ25をZ軸方向の下方位置に変位させる。液回収ステージ25をY軸方向及びZ軸方向に移動させる構成は、本発明の要旨とは関係なく、公知の構成を採用することができるので、説明を省略する。
【0024】
図3はコントローラ3の表示部Dに表示される表示画像の一例を示す図である。この表示部Dは、液晶タッチパネルにより構成されており、選択は表示部上のボタン枠内をタッチすることにより実行される。また数値の設定は、選択後に図示しないテンキーを用いて入力される。本実施の形態においては、一番目の工程についての設定を行う場合を示している。図3の左側の欄に示すように、吸引側の工程において、「吸引側」のボタン枠内をタッチすることにより、吸引側の設定が選択される。なお「サンプル容器」のボタン枠の下の数字の「1」は試薬ボトルの選択が1番のボトルであることを示している。そして以下の項目を設定することができる。
【0025】
「容器の選択」:ノズル31のピペットチップ29から試薬を吸引する試薬ボトル37またはサンプル溶液を吸引するサンプル容器39を選択。
【0026】
「分注量」:1回の処理においてカラム43に注入される対象液体(サンプル溶液、試薬)の総量。
【0027】
「吸引速度」:ピペットチップ29が試薬ボトル37またはサンプル容器39から液体を吸引する速度。
【0028】
「吸引高さ」:吸引時におけるサンプル容器39の底からピペットチップ29の先端までの距離。
【0029】
吸引前撹拌の「撹拌量」:サッキング(吸引・吐出を繰り返す動作)による撹拌時の吸引吐出量。
【0030】
吸引前撹拌の「撹拌速度」:サッキングによる撹拌時の吸引吐出速度。
【0031】
吸引前撹拌の「撹拌回数」:サッキングの回数。
【0032】
また、図3の右側の欄に示すように、吐出側の工程において、以下の項目を設定することができる。
【0033】
「容器の選択」:廃液槽、回収容器の列またはサンプル容器の選択。廃液槽または回収容器の列を選択した場合は、カラム下に廃液槽または回収容器の列を配置し、カラムに吸引した液体を吐出する。サンプル容器を選択した場合は、サンプル容器に吸引した液体を吐出する。
【0034】
「吐出速度」:1回の処理においてカラム43に注入される対象液体(サンプル溶液、試薬)総量の平均分注速度
「分割分注量」:ピペットチップ29からの吐出操作1回当たりの分注量。
【0035】
「吐出高さ」:ピペットチップ29の先端とカラム43内のイオン交換樹脂との間の距離(ピペットチップ29の先端のカラム内樹脂表面からの高さ)。または、ピペットチップ29の先端とサンプル容器39の底との間の距離。
【0036】
「吐出位置」:カラム43の中心位置から横方向にオフセットしたピペットチップ29の先端の位置。
【0037】
「チップ交換」:分注操作ごとのピペットチップの交換の有無。
【0038】
「カラム高さ」:カラム43の先端を回収容器47等に入れる深さ。
【0039】
なお、本発明を実施する場合においては、少なくとも、吐出速度、分注量及びカラムの中心位置からの距離を設定できればよいが、その他の項目について設定してもよいのは勿論である。したがって上述した項目以外の項目についても設定できるようにコントローラを構成してもよいのはもちろんである。
【0040】
図4は、本実施の形態の自動分析前処理装置1のコントローラ3及び制御部5の内部に構成要素が分けて配置された指令発生装置50の構成の主要部を示すブロック図である。この指令発生装置50は、コントローラ3内に、吐出速度設定部51、分注量設定部53及び距離設定部55を少なくとも備えている。なお図4には図示していないが、上記設定項目のすべてについて、同様の設定部が構成されている。制御部5は、分注指令発生部57及び移動指令発生部59を少なくとも備えている。本実施の形態において、吐出速度設定部51は、図3に示した「吐出速度」を指示する指令を分注指令発生部57及び移動指令発生部59に出力する。分注量設定部53は、図3に示した「分注量」を指示する指令を分注指令発生部57及び移動指令発生部59に出力する。また距離設定部55は、図3の「吐出位置」を指示する指令を移動指令発生部59に出力する。分注指令発生部57は、吐出速度設定部51から指令された吐出速度と、分注量設定部53から指令された分注量とに基づいて、分注指令を発生する。具体的には、液体分注装置35が、分注量設定部53から指令された分注量の液体を、吐出速度設定部51から指令された吐出速度で吐出するように図示しないポンプを駆動する。なお、コントローラ3で設定した分注量が多い場合には、設定した分注量がピペットチップで吸引できる量を超えてしまい、1回の分注操作では設定した分注量を分注できない場合がある。また、設定した分注量が多い場合に、1回の操作で設定した分注量を分注させると、吐出速度が速くなりすぎて、分注する容器内の樹脂の定常状態を乱す原因となることがある。そこで本実施の形態の分注指令発生部57は、分注量設定部53から指令された分注量が多い場合には、1回の分注操作で分注する分注量を少なくして、複数回にわたって分注するような分注指令を発生するようにしてもよい。この場合には、指令された分注量を1回の分注で吐出する分割分注量で割った値の回数だけ、分注操作を繰り返せばよい。例えば、分注量が7000μlであり、分割分注量を200μlと設定した場合には、分割分注回数は35回となる。ノズルユニット11内に設けられた液体分注装置35は、分注指令に応じて定まる吐出速度でノズルの先端に装着されたピペットチップ29から分注量または分割分注量の液体を吐出するように図示しないポンプを駆動する。
【0041】
移動指令発生部59は、吐出速度設定部51から指令された吐出速度、分注量設定部53から指令された分注量及び距離設定部55から指令された距離(吐出位置)とに基づいて移動指令を発生する。具体的には、移動指令発生部59は、吐出される容器の中心から、距離設定部55で設定した距離(周回動作の半径R)の分だけノズルを移動させる第1の移動指令を発生する。特に吐出される容器が、図2に示すようなカラムである場合には、(筒状部43aの内径−ピペットチップの外径)>設定した距離>小径筒状部43bの外径となるように「吐出位置」の数値を設定すると、カラム43のテーパ状筒状部43cの内周壁上に液が吐出されることになる。また、本実施の形態の移動指令発生部59は、ノズル31をカラム43の内周壁に沿って周回させている間に、ノズルから吐出された液体が跳ね返らないようにするのに必要なノズルの位置及び移動速度(ノズルの周回速度)を指令する第2の移動指令を第1の移動指令に続いてノズル移動機構33に出力する。本実施の形態において、ノズルの位置は、図3に示す「吐出高さ」及び「吐出位置」の設定値により決定される。移動速度(周回速度)は、吐出速度設定部51で設定した吐出速度、分注量設定部53から指令される分注量及び距離設定部55から指令される距離(吐出位置)に基づいて決定される。具体的な例としては、設定したノズル吐出速度をV、設定した分注量または分割分注量をL、設定した距離をRとすると、移動速度=2πR・(V/L)とすることができる。そして、移動指令発生部59は、ノズル31(ピペットチップ29)が液体を吐出しているときに、カラム43の内周壁に接触させずに内周壁に沿ってノズルを周回させる第2の移動指令をノズル移動機構33に出力する。なお図3に示したコントローラ3において、「吐出位置」として「0」が設定されている場合には、ノズル移動機構33はノズル31を周回させることなく、カラム43の中心に固定する。なお移動指令発生部59は、第2の移動指令を分注指令と同期するように発生する。そのため、分注指令発生部57が、1つのカラムに複数回にわたって分注するような分注指令を発生している場合、移動指令発生部59は、分割分注する回数分だけ、同じ移動指令を発生する。なお本実施の形態で用いる指令発生装置50は、ピペットチップ29の交換、ピペットチップによる液体の吸引等の分析前処理に必要な他の作業を実行するのに必要な各種の指令を発生することができる。
【0042】
図5は、本実施の形態の自動分析前処理装置を利用して分析前処理を行う場合の動作の流れを示すフローチャートである。図5の例ではまず、ステップST1において、ティーチングを行う。ティーチングとは、図1の予め装置本体7内に配置されたカラム43、ピペットチップラック21内のピペットチップ29、試薬ボトル37、サンプル容器39及び回収容器47の位置についての位置情報をノズル移動機構33のメモリ部に記憶させるための操作である。なお液回収ステージ25の各回収容器または廃液槽の位置についてのティーチングも併せて行う。次に、コントローラ3の表示部に表示された設定項目を設定する(ステップST2)。次いで、「吐出側 容器選択」及び「カラム高さ」で設定した内容に従って、液回収ステージ25をY軸方向及びZ軸方向に移動させる(ステップST3)。液回収ステージ25の移動が完了すると、ノズルユニット11をピペットチップラック21上に移動させて、ノズル本体27の先端にピペットチップ29を装着する(ステップST4)。ピペットチップ29を装着したノズルユニット11は、「容器の選択」で選択した容器の直上に移動し、選択した容器の中の液体中にピペットチップの先端を挿入する。ピペットチップは、選択した容器の中心に、サンプル容器を選択した場合は「吸引高さ」で設定した高さまで、試薬ボトルを選択した場合は試薬液面下まで挿入される(ステップST5)。なお、吸引前に溶液を攪拌することが「吸引前撹拌 撹拌量」、「吸引前撹拌 撹拌速度」及び「吸引前撹拌 撹拌回数」で指定されている場合には、吸引前に液体を攪拌する。容器の中の液体中に挿入されたピペットチップ29は、「分割分注量」で設定した量の液体(サンプル溶液または試薬等)を吸引する(ステップST6)。ピペットチップ29が液体を吸引すると、ノズルユニット11は、カラム43直上、あるいは「吐出側 容器選択」で「サンプル容器」を選択した場合は、サンプル容器の直上に移動する。ここで、「吐出側 容器選択」で「サンプル容器」以外が選択され、「吐出位置」で0以外の数値が設定されている場合には、カラム43の中心から設定された数値の分だけ外側にずらした位置にノズル31を移動する。「吐出位置」で0が設定されている場合には、カラムまたはサンプル容器の中心にノズルを移動する。そして、ピペットチップ29の先端を、「吐出高さ」で設定した高さまで、選択したカラムまたはサンプル容器の中に挿入する(ステップST7)。「吐出高さ」で設定する高さは、選択するカラムまたはサンプル容器の形状、選択したカラムまたはサンプル容器内に入っている物質、吐出する液体の性質に応じて適宜に設定することができる。例えば図6(A)に示すように、サンプル溶液を吐出する場合には、吐出するサンプル溶液の全部がイオン交換樹脂内に導入されるように、できるだけイオン交換樹脂に近い位置、即ち吐出高さをなるべく低い位置に設定する。また、図6(B)に示すように、試薬を吐出する場合には、サンプル溶液をイオン交換樹脂に導入する際に、サンプル溶液が跳ね返ること等によってテーパ状筒状部43cに付着したサンプル溶液を、試薬により洗い流してイオン交換樹脂内に導入できるように、イオン交換樹脂から離れたテーパ状筒状部43cの内周壁上に吐出できるように、吐出高さを設定する。テーパ状筒状部43c上の内周壁上に吐出するとことにより、ピペットチップ29からの液滴がイオン交換樹脂に当たってイオン交換樹脂の表面が乱されることはない。
【0043】
容器内に挿入されたピペットチップ29からは、吐出速度設定部51で設定した吐出速度で、吸引した液体が吐出される。「吐出側 容器選択」で「サンプル容器」以外が選択され、「吐出位置」で0以外の数値が設定されている場合には、図7に示すように「吐出位置」で設定した数値をカラムの中心からの半径Rとする円を描くように、カラム43の周壁に沿ってノズル31が回転しながら液体を吐出する(ステップST8)。液体の吐出が終わって、図3の表示部Dにおいて、「チップ交換」が「有」に設定されている場合には、ピペットチップを図示しないピペットチップOFF位置に移動させて、チップをはずす(ステップST9)。なお、「チップ交換」が「無」に設定されている場合には、チップは交換されない。分析前処理が終了していない場合は、ステップST3〜ステップST9を繰り返して次の工程を行うこととなる。また、分析前処理の途中で、設定項目で設定した内容を変更してもよい。また、複数回の工程についての設定項目の設定をまとめて行ってもよい。
【0044】
上記はサンプル溶液をカラムに注液する場合を例にして説明したが、カラムに試薬を注液する場合にも、上記と同様にして行えばよい。またサンプル溶液の注液と試薬の注液を連続して行うようにしてもよいのは勿論である。
【0045】
本実施例においては、カラムとして、開口部を備えた筒状部と、イオン交換樹脂が充填される小径筒状部と、筒状部と小径筒状部との間に位置するテーパ状筒状部とを備えたカラムを使用しているが、本発明で使用するカラムの形状は、上記実施例で使用したカラムの形状に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によれば、ノズルをカラムの内周壁に接触させることなくカラムの内周壁に沿って周回させながら予め定めた量の液体をカラム内に分注するのに必要な移動指令及び分注指令を同期させて発生する。そのため、ノズルがカラムの内周壁に接触することがないので、カラムの内周壁に付着した物質によりノズルが汚染されることがない。また、カラムの内周壁に沿って周回するようにノズルを移動させながら液体を吐出させることができるので、カラム内の特定の部分に集中して液体が注入されることがなくなる。そのため、試薬がイオン交換樹脂の一部分を掘削することにより封入したイオン交換樹脂の定常状態が乱されることがなくなる。またイオン交換樹脂内を通過する試薬の速度が速くなることを防ぐことができるので、イオン交換樹脂内で試薬を十分に反応させることができる。従って、良好な分析結果を得ることができる。
【符号の説明】
【0047】
1 自動分析前処理装置
3 コントローラ
5 制御部
7 装置本体
11 ノズルユニット
13 レール
15 レール
17 試薬ステージ
19 サンプルステージ
21 ピペットチップラック
23 カラムステージ
24 縦板
25 液回収ステージ
27 ノズル本体
29 ピペットチップ
31 ノズル
32 レール
33 ノズル移動機構
35 液体分注装置
37 試薬ボトル
39 サンプル容器
43 カラム
45 カラム挿入孔
47 回収容器
50 指令発生装置
51 吐出速度設定部
53 分注量設定部
55 距離設定部
57 分注指令発生部
59 移動指令発生部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルと、移動指令に応じて前記ノズルをXYZ方向に移動させるノズル移動機構と、分注指令に応じて定まる吐出速度で前記ノズルから予め定めた量の液体を吐出する液体分注装置とを備えた分注ステージと、
前記ノズルから前記液体が分注される1以上のカラムを備えたカラムステージと、
前記移動指令及び前記分注指令を発生する指令発生装置とを備えた自動分析前処理装置であって、
前記指令発生装置は、前記ノズルを前記カラムの内周壁に接触させることなく前記内周壁に沿って周回させながら前記予め定めた量の液体を前記カラム内に分注するのに必要な前記移動指令及び前記分注指令を同期させて発生することを特徴とする自動分析前処理装置。
【請求項2】
前記指令発生装置は、前記ノズルを前記内周壁に沿って周回させている間に前記ノズルから吐出された前記液体が跳ね返らないようにするのに必要な前記ノズルの位置及び移動速度を指令する前記移動指令と前記吐出速度を指令する前記分注指令とを同期して発生することを特徴とする請求項1に記載の自動分析前処理装置。
【請求項3】
前記カラムは、前記ノズルが挿入される開口部を備えた筒状部と、前記筒状部より径が小さく且つイオン交換樹脂が充填される小径筒状部と、前記筒状部と前記小径筒状部との間に位置するテーパ状筒状部とを備えており、
前記指令発生装置は、前記ノズルから吐出された前記液体が前記テーパ状筒状部の内周壁上に前記液体を吐出するように前記移動指令を発生する請求項1または2に記載の自動分析前処理装置。
【請求項4】
前記ノズルは、ノズル本体と該ノズル本体の先端に装着されるピペットチップとから構成されており、
前記ピペットチップは、交換可能である請求項1,2または3に記載の自動分析前処理装置。
【請求項5】
前記ノズルは、ノズル本体と該ノズル本体の先端に装着されるピペットチップとから構成されており、
前記ピペットチップは、交換可能であり、
前記指令発生装置は、
前記ピペットチップからの吐出速度を指令する吐出速度設定部と、
前記ピペットチップからの分注量を指令する分注量設定部と、
設定された前記吐出速度及び前記分注量に基づいて前記分注指令を発生する分注指令発生部と、
前記カラムの中心位置からの距離を指令する距離設定部と、
設定した前記吐出速度、前記分注量及び前記距離に基づいて前記ノズルの前記移動速度を決定し前記分注指令と同期して前記移動指令を発生する移動指令発生部とを備えている請求項2に記載の自動分析前処理装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つに記載の自動分析前処理装置を備えた自動分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−93311(P2012−93311A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−242584(P2010−242584)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(504194878)独立行政法人海洋研究開発機構 (110)
【出願人】(592204347)ホーユーテック株式会社 (4)
【Fターム(参考)】