説明

自動分析装置および分注精度確認方法

【課題】簡易な手法により分注装置の正確性を評価することにより、その分注装置の分注性能を確認する作業者の負担を軽減することができる、自動分析装置および自動分析装置の分注精度確認方法を提供する。
【解決手段】試料または試薬を分注する分注機構18又は19を備え、試料と試薬を反応させることによって試料の成分を分析する自動分析装置1において、分注機構18又は19によって複数の反応容器131に設定量分注された色素液を透過する光の強度を測光部16により測定して、設定分注量毎に前記色素液の評価吸光度を求める処理を行い、予め測定された基準吸光度に対する前記評価吸光度の比率を設定分注量毎に求め、最大比率と最小比率の差分と平均比率から乖離を演算部26で演算し、前記乖離に基づいて、分注機構18又は19の分注精度が許容範囲であるか否かを判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液や体液等の試料を自動的に分析する自動分析装置、および当該自動分析装置が備える分注機構の分注精度を確認する分注精度確認方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、血液や体液等の検体を生化学的または免疫学的に分析するための装置として自動分析装置が知られている。この自動分析装置は、検体を含む試料や試薬を分注するために、プローブやシリンジ等の部品を用いて実現される水分注方式の分注機構を備えている。
【0003】
そのような分注機構では、経時劣化が生じやすい部品の交換が定期的に行われる。部品の交換が行われると、分注機構内部にエアが混入するため、通常は部品交換後に分注機構内部に混入したエアを取り除く作業(エア抜き)を行ってから検体の分析へと移行する。係る作業後の分析において、エア抜きが不完全である場合、分析結果が異常を示すことがあるため、エア抜きが完全に行なわれたかどうかを確認する方法として、濃度が既知の色素原液を当該分析装置の分注装置で分注し、測光装置により吸光度を測定することにより、分析装置の分注精度を確認する方法が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
また、分注装置の分注性能を保持して分析精度の低下を防止するために、分注装置の分注性能の確認方法も確立されている(例えば、非特許文献1を参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2007−327779号公報
【非特許文献1】「汎用自動分析装置の性能確認法マニュアル」、JCCLA、2001、Vol.26
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のような方法の場合、測定に使用する色素原液の量、濃度、および希釈液量を検定する必要があり、かかる検定に多くのコストや時間を要することになる。具体的には、同じ原液を用いたときでも、希釈するときの誤差が作業ごとや作業者ごとによって異なってしまう。このため、必ず希釈誤差が含まれた結果しか得ることはできない。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、簡易な手法により分注装置の分注性能を評価することにより、その分注装置の分注性能を確認する作業者の負担を軽減することができる、自動分析装置および分注精度確認方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の自動分析装置は、試料または試薬を分注する分注機構を備え、試料と試薬を反応させることによって試料の成分を分析する自動分析装置であって、前記分注機構によって反応容器に分注された設定量の色素液を透過する光の強度を測定して、設定分注量毎に前記色素液の評価吸光度を求める測定手段と、予め測定された基準吸光度に対する前記評価吸光度の比率を設置分注量毎に求め、最大比率と最小比率の差分と平均比率から乖離を演算する演算手段と、前記乖離に基づいて、前記分注機構の分注精度が許容範囲であるか否かを判定する判定手段と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の自動分析装置は、試料または試薬を分注する分注機構を備え、試料と試薬を反応させることによって試料の成分を分析する自動分析装置であって、前記分注機構によって反応容器に分注された設定量の色素液を透過する光の強度を測定して、設定分注量毎に前記色素液の評価吸光度を求める測定手段と、予め測定された基準吸光度に対する前記評価吸光度の比率を設定分注量毎に求め、設定分注量毎に求めた各比率と平均比率の差分を乖離として演算する演算手段と、前記乖離に基づいて、前記分注機構の分注精度が許容範囲であるか否かを判定する判定手段と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の自動分析装置は、試料または試薬を分注する分注機構を備え、試料と試薬を反応させることによって試料の成分を分析する自動分析装置であって、前記分注機構によって反応容器に分注された設定量の色素液を透過する光の強度を測定して、設定分注量毎に前記色素液の評価吸光度を求める測定手段と、予め測定された基準吸光度に対する前記評価吸光度の比率を設定分注量毎に求め、分注量が隣接する比率を直線で結んだときの傾きを求め、各比率を挟み込む2直線の傾きの絶対値の平均を、各設定分注量における乖離として演算する演算手段と、前記乖離に基づいて、前記分注機構の分注精度が許容範囲であるか否かを判定する判定手段と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の自動分析装置は、上記発明において、前記乖離は、少なくとも3点以上選択された設定分注量において求めた比率に基づき演算されることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の自動分析装置は、上記発明において、さらに前記基準吸光度を記憶する記憶部を有することを特徴とする。
【0013】
また、本発明の分注精度確認方法は、試料または試薬を分注する分注機構を備え、試料と試薬を反応させることによって試料の成分を分析する自動分析装置において、前記分注機構の分注精度を確認する自動分析装置の分注精度確認方法であって、前記分注機構によって複数の反応容器に設定量分注された色素液を透過する光の強度を測定して、設定分注量毎に前記色素液の評価吸光度を求める測定ステップと、予め測定された基準吸光度に対する前記評価吸光度の比率を設定分注量毎に求め、最大比率と最小比率の差分と平均比率から乖離を演算する演算ステップと、前記乖離に基づいて、前記分注機構の分注精度が許容範囲であるか否かを判定する判定ステップと、を含むことを特徴とする。
【0014】
また、本発明の分注精度確認方法は、試料または試薬を分注する分注機構を備え、試料と試薬を反応させることによって試料の成分を分析する自動分析装置において、前記分注機構の分注精度を確認する自動分析装置の分注精度確認方法であって、前記分注機構によって複数の反応容器に設定量分注された色素液を透過する光の強度を測定して、設定分注量毎に前記色素液の評価吸光度を求める測定ステップと、予め測定された基準吸光度に対する前記評価吸光度の比率を設定分注量毎に求め、設定分注量毎に求めた各比率と平均比率の差分、または分注量が隣接する比率を直線で結んだときの傾きを求め、各比率を挟み込む2直線の傾きの絶対値の平均を、各設定分注量における乖離として演算する演算ステップと、前記乖離に基づいて、前記分注機構の分注精度が許容範囲であるか否かを判定する判定ステップと、を含むことを特徴とする。
【0015】
また、本発明の分注精度確認方法は、上記の発明において、前記乖離は、少なくとも3点以上選択された設定分注量において求めた比率に基づき演算されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、試料または試薬を分注する分注機構を備え、試料と試薬を反応させることによって試料の成分を分析する自動分析装置において、前記自動分析装置のスタートアップ時や前記分注機構の保守作業後に、前記分注機構によって複数の反応容器に設定量分注された色素液を透過する光の強度を測定して、設定分注量毎に前記色素液の評価吸光度を求める処理を行い、予め測定された基準吸光度に対する前記評価吸光度の比率を設定分注量毎に求め、最大比率と最小比率の差分と平均比率から乖離を演算し、前記乖離に基づいて、前記分注機構の分注精度が許容範囲であるか否かを判定することにより、分注機構の分注性能を確認する作業者の負担を軽減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して本発明の一実施の形態に係る自動分析装置について説明する。図1は、本発明の自動分析装置要部の構成を示す平面図である。同図に示す自動分析装置1は、検体を含む試料の成分を生化学的または免疫学的に分析するものであり、試料および試薬を所定の反応容器に分注し、その反応容器内で生じる反応を光学的に測定することによって分析を行う。自動分析装置1は、分析対象である検体および試薬を反応容器131にそれぞれ分注し、分注した反応容器131内で生じる反応を光学的に測定する測定機構2と、測定機構2を含む自動分析装置1全体の制御を行うとともに測定機構2における測定結果の分析を行う制御機構3とを備える。自動分析装置1は、これらの二つの機構が連携することによって複数の検体の分析を自動的に行う。
【0018】
測定機構2は、血液や体液等の検体を収容する検体容器111を搭載した複数のラック112を収納して順次移送する検体移送部11、緊急用の検体や各種試料を収容する試料容器121を保持する試料テーブル12、試料と試薬が分注される反応容器131を保持する反応テーブル13、および各種試薬を収容する試薬容器141を保持する試薬テーブル14を備える。
【0019】
試料テーブル12、反応テーブル13、および試薬テーブル14は、ステッピングモータを駆動することによって各テーブルの中心を通る鉛直線を回転軸としてそれぞれ回動自在である。各テーブルの上方には開閉自在なカバーが具備される一方、各テーブルの下方には恒温槽が具備される(図示せず)。この結果、カバーを閉じたときにそのカバー内部にくる容器を恒温状態に保ち、そのカバー内部の容器が収容する試料または試薬の蒸発や変性を抑えることができる。
【0020】
測定機構2は、上記各種テーブルに加えて、反応容器131の内部を攪拌して反応容器131内の試料と試薬の反応を促進する攪拌部15、反応容器131に対して所定の光を照射し、この照射した光が反応容器131内を通過した光を受光してその光の強度を測定する測光部16、および測光部16での測定が終了した反応容器131の洗浄を行う洗浄部17を備える。このうち測光部16は、所定の波長の光を発生する光源と、この光源から照射され、反応容器131内の液体を透過した光の強度を電気信号(電流値)に変換する受光部とを備え、受光した光の強度を測定してその液体の吸光度を求める測定手段の少なくとも一部をなす。
【0021】
さらに測定機構2は、試料または試薬を反応容器131に分注する分注機構として、検体容器111または試料容器121が収容する試料を反応容器131に分注する試料分注機構18と、試薬容器141が収容する試薬を反応容器131に分注する試薬分注機構19とを備える。
【0022】
制御機構3は、制御部21と、入力部22と、出力部23と、分析部24と、記憶部25と、演算部26と、判定部27とからなる。制御部21は、検体移送部11、試料テーブル12、反応テーブル13、試薬テーブル14、攪拌部15、測光部16、洗浄部17、試料分注機構18および試薬分注機構19等と接続され、上記各部の作動を制御する。入力部22は、制御部21へ検査項目等を入力する操作を行う部分であり、例えば、キーボードやマウス等が使用される。出力部23は、分析内容や警報等を表示するものであり、ディスプレイパネル等が使用される。なお、入力部22および出力部23は、タッチパネルによって実現するようにしてもよい。
【0023】
分析部24は、制御部21を介して測光部16に接続され、受光部が受光した光量に基づく反応容器131内の液体の吸光度から検体の成分濃度等を分析し、分析結果を制御部21に出力する。記憶部25は、情報を磁気的に記憶するハードディスクと、測定機構2が処理を実行する際にその処理にかかわる各種プログラムをハードディスクからロードして電気的に記憶するメモリとを用いて構成され、検体の分析結果等を含む諸情報を記憶する。また、記憶部25には、試料分注の正確性が担保されているとき、たとえば、当該自動分析装置出荷前に、測光部16により事前に測定された設定分注量毎の色素液の基準吸光度を分析パラメータとともに予め記憶させていてもよい。
【0024】
演算部26および判定部27は、制御部21および記憶部25とともに、本発明の分注精度確認方法を実施するための役割を担う。演算部26は、予め測定された色素液の基準吸光度に対する、測光部16および分析部24により求めた色素液の評価吸光度の比率を設定分注量毎に求め、求めた比率の最大比率と最小比率の差分と平均比率から乖離を演算する。基準吸光度は記憶部25に記憶させたものを使用することができる。判定部27は、前記演算部26で演算した乖離が、所定の許容範囲であるか否かを判定し、判定結果をディスプレイ装置に表示させ、あるいは警報装置によって警報音を発することによってオペレータに告知させてもよい。
【0025】
図2は、試料分注機構18の概略構成を模式的に示す説明図である。同図に示す試料分注機構18は、試料の吸引および吐出を行う中空のプローブ181がアーム182に装着されている。このアーム182は、駆動部183の駆動によって動作するものであり、より具体的には、アーム182と駆動部183を連結する連結部184を介して、鉛直方向の昇降および連結部184を通る鉛直軸Oを中心とする回動を自在に行う。
【0026】
プローブ181の先端部181aは先細に成形される一方、プローブ181の上端には後述する洗浄液の流路となる管状のチューブ31が連結されている。このチューブ31のもう一方の端部は、吸引または吐出の際の圧発生手段であるシリンジ185に接続される。このシリンジ185は、シリンダ185aとピストン185bとから成り、ピストン駆動部186の駆動によってピストン185bが移動する。
【0027】
シリンジ185は、チューブ31とは異なる管状のチューブ32にも接続されている。このチューブ32には、注入弁187とポンプ188が順次介在している。チューブ32のシリンジ185に接続されている方と異なる端部は、イオン交換水等の非圧縮性流体から成り、押し出し液の機能を兼ねる洗浄液を収容する洗浄液タンク189内に達している。洗浄液タンク189に収容される洗浄液は、ポンプ188の吸引動作によってチューブ32へと流出し、注入弁187が開いている場合にはシリンジ185へと流入する。駆動部183、ピストン駆動部186、注入弁187、およびポンプ188は、制御部21に電気的に接続されている。
【0028】
試料分注機構18は、試料の吸引または吐出を行う前に、注入弁187を開いてポンプ188で洗浄液を吸引し、プローブ181、シリンジ185、チューブ31および32をその洗浄液で満たした後、注入弁187を閉じてポンプ188の動作を終了する。その後、試料の吸引または吐出を行う際には、ピストン駆動部186が駆動してシリンジ185のピストン185bを移動させることにより、洗浄液を介してプローブ181の先端部181aに適当な吸引圧または吐出圧を印加する。なお、プローブ181の先端部181aでは、洗浄液と試料との間に空気層が介在するため、試料を吸引したときにその試料が洗浄液と混合することはない。
【0029】
試薬分注機構19も試料分注機構18と同様の構成を有しており、プローブ191とアーム192が制御部21の制御のもと動作し、シリンジがプローブ191の先端部に適当な吸引圧または吐出圧を加えることにより、試薬の吸引または吐出を行う。
【0030】
以上説明した試料分注機構18および試薬分注機構19において、プローブ181および191の下端部には、液面を検知する液面検知機能が設けられており、液面の高さが変化しても各プローブ先端の所定長さ分だけが液面から入るように設定されている。
【0031】
次に、図3のフローチャートを用いて、本発明の一実施の形態に係る自動分析装置の試料分注機構18の分注精度確認方法について説明する。
【0032】
まず、試料分注機構18の分注精度を確認するための色素液を収容する試料容器121を試料テーブル12にセットする(ステップS100)。当該色素液は予め測定された基準吸光度を測定する際に、分析パラメータとして設定されたものと同じものが使用される。本実施の形態では、オレンジGを使用しているが、分析光(340〜800nm)の波長において分析に利用しうる吸収をもつものであればよい。本形態で使用する色素液濃度は検定されたものである必要はなく、試料分注機構18の設定分注量および希釈液量を考慮した上で、測定する色素液の濃度が測光部16の測光可能範囲(通常0〜3.0Abs)に入るものであればよい。本実施の形態では、約20Abs程度の濃度のオレンジGを使用する。次に、希釈液を収容する試薬容器141を試薬テーブル14にセットする(ステップS101)。希釈液は、色素液を測光部16の測光可能範囲まで希釈するために使用される。通常、イオン交換水が使用される。希釈液量は、設定分注量(たとえば1〜25μl)のオレンジG(約20Abs)を、イオン交換水(たとえば150μl)で希釈したとき、測光部16の測光可能範囲(通常0〜3.0Abs)に入るように設定する。色素液および希釈液のセット後、試料テーブル12は色素液を収容する試料容器121を試料吸引位置Bまで移送し、色素液の分注量を取得後(ステップS102)、試料分注機構18のプローブ181により試料容器121内の色素液を吸引し、吸引した設定量の色素液を、反応テーブル13上の試料分注位置Cにある反応容器131に吐出する(ステップS103)。色素液の分注量は、記憶部25に予め測定された基準吸光度を設定分注量毎に記憶させている場合、記憶部25から取得させてもよい。
【0033】
その後、色素液が吐出された反応容器131を反応テーブル13上の試薬分注位置Eまで移送し、試薬テーブル14により希釈液を収容する試薬容器141を試薬吸引位置Dまで移送後、試薬分注機構19は試薬容器141内の希釈液を所定量吸引し、反応テーブル13上の試薬分注位置Eに移送された反応容器131に吸引した希釈液を吐出する(ステップS104)。その後、当該反応容器131を反応テーブル13上の攪拌位置Fまで移送し、攪拌部15による反応容器131内の液体の攪拌後(ステップS105)、反応容器131を反応テーブル13上の測光位置Gに移送する。測光部16は、反応容器131内の希釈された色素液に光源から所定の光を照射し、その色素液を通過した光を受光部にて受光し、この受光した光の強度を測定する(ステップS106)。
【0034】
上記の色素液の分析処理は、試料分注機構18により分注される色素液の分注量を変えて、所定の回数(規定回数)だけ繰り返し行なう。各分析処理における色素液の分注量は、分注の度に入力するか、記憶部25に記憶させている場合は記憶部25から取得する(ステップS102)。分析処理の回数(分析回数)が規定回数に達していない場合(ステップS107、No)には、ステップS102〜ステップS106の処理は分注量毎に繰り返し行う。分析回数が規定回数に達したとき(ステップS107、Yes)、演算部26は、予め測定された基準吸光度に対する評価吸光度の比率を設定分注量毎に求め、最大比率と最小比率の差分と平均比率から乖離を演算する(ステップS108)。乖離が許容範囲内の場合(ステップS109、Yes)、試料分注機構18の分注精度は正常であると判断され、検体の分析(本分析)が開始されるが(ステップS110)、乖離が許容範囲内でない場合(ステップS109、No)には、試料分注機構18の分注精度は異常と判断し、分析動作を停止する(ステップS111)。この場合には、ディスプレイ、プリンタ、またはマイクロフォン等によって実現される自動分析装置1の出力部23から警告を表示したり音声による警告を出力してもよい。
【0035】
次に、最大比率と最小比率の差分と平均比率から求められる乖離As1について実際の分析例を用いて説明する。前記乖離As1は、基準吸光度に対する評価吸光度の比率を設定分注量毎に求め、求めた各比率の最大比率と最小比率の差分と各比率の平均比率から求める。前記乖離As1は、分注精度を確認するために行なった本形態の方法において、分注処理全体の分注精度を表すものであり、演算した乖離As1は、試料分注機構18の分注処理全体の分注精度の可否を判断するための指標となる。
【0036】
表1に示すように、色素液の基準吸光度は設定分注量毎に予め測定されている。設定される分注量は、当該試料分注機構18の本分析において、実際に分注が行なわれる分注量に対応して設定されたものである。前記基準吸光度は、試料分注機構18の分注正確性が担保されているとき、たとえば、当該自動分析装置出荷前に、当該装置の測光部16により予め測定されたものであり、表2に示す分析パラメータとともに記憶部25に記憶させることもできるし、データとして個別に有していてもよい。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
表1の例では、色素液設定分注量は1、2、3、5、10、15、25μlであり、個々の分注量毎に基準吸光度が測定されている。使用される色素液(オレンジG)の吸光度(20Abs)、実分注量、および希釈液量(150μl)は検定の必要がなく、基準吸光度の取得は容易に行ないうる。
【0040】
表1の色素液設定分注量において分析作業者は評価吸光度を測定し、試料分注機構18の分注精度を確認する。分注精度をより正確に確認するためには、より多くの設定分注量において評価吸光度を測定することが好ましいが、上記の設定分注量から少なくとも3点以上の分注量を選択して評価吸光度を測定し、設定分注量毎に基準吸光度に対する比率を求め、求めた比率の最大比率と最小比率の差分と平均比率から乖離を演算することにより、分注精度を確認する。表3に、連続運転後の自動分析装置において、設定された分注量の色素液を試料分注装置18により反応容器131に分注し、試薬分注装置19により希釈液150μlを同じ反応容器131に分注した後、測光部16で前記色素液の評価吸光度を測定する。測定した結果を表3に示す。
【0041】
【表3】

【0042】
上記の分析は、表2に示す基準吸光度測定時の分析パラメータで行われ、色素液は基準吸光度測定時と同じオレンジG、希釈水はイオン交換水が使用される。評価吸光度測定に使用されるオレンジGの濃度は、基準吸光度測定時と同程度(19Abs)であれば使用可能であり、検定の必要はない。希釈液量も当該濃度の色素液を希釈液で希釈したとき、本自動分析装置1の測光部16の測光可能範囲(通常0〜3.0Abs)に入る濃度であればよく、希釈液量(149μl)も検定の必要はない。本方法では分析に要する色素液の濃度は厳密である必要がなく、また濃度および量の検定を要しないという点で、分析作業者の負担を軽減するとともに、検定の工程を省略できるためヒューマンエラーやメカエラーを防止できる。
【0043】
上記の分析により得られた評価吸光度(表3)により、予め測定された基準吸光度(表1)に対する評価吸光度の比率を設定分注量毎に算出し、求めた比率の最大比率と最小比率の差分と平均比率から乖離As1を求める。乖離As1は、上述したとおり、試料分注装置18の分注処理全体の設定分注量からの乖離を表すものであり、式に表すと下記式(1)のようになる。
As1(%)=(最大比率−最小比率)÷平均比率×100 (1)
【0044】
式(1)により求めた乖離As1が、試料分注機構18の分注精度の許容範囲内であるか否かを判定部27により判定する。許容範囲は、分析試料に応じて個別に定めることも可能であるが、自動分析装置1の試料分注正確性規格は±1.5%であり、これを許容範囲として使用してもよい。前記乖離As1が、試料分注正確性規格の3%(±1.5%)を超えた場合は試料分注正確性に異常があると判定される。
【0045】
表1および3の基準吸光度および評価吸光度から乖離As1を求める。最大比率は1.0266、最小比率は0.9480であり、平均比率は0.9669であるから、乖離As1は、
8.13(%)=(1.0266−0.9480)÷0.9669×100
となる。表3の評価吸光度から演算した乖離As1は試料分注正確性規格の3.0%を超えるため、当該分注に用いた試料分注機構18の分注精度は許容範囲外と判定され、試料分注異常の警告がディスプレイパネルや音声で出されることになる。
【0046】
本形態にかかる分注性能の確認方法は、分注機構の分注精度を確認する作業者の負担を軽減することができるとともに、当該方法の使用により、試料分注機構18の分注精度を容易に確認できるため、分注精度の確認を頻繁に行なうことができるため、ひいては分析精度の低下を防止することも可能になる。
【0047】
また、上述の形態の変形例として、設定分注量毎に求められる乖離であって、設定分注量毎に求めた各比率と平均比率の差分である乖離As2を用いて、分性性能を確認する方法が例示される。かかる方法では、例えば自動分析装置1の本分析において、分注量に応じて分注プローブの使い分けが行なわれているような場合に、異常の有る分注量を明示して警告できるので、異常のある分注プローブを特定できるなど、その後の処置が容易となる利点を有する。
【0048】
乖離As2は、乖離As1と同様に、基準吸光度に対する評価吸光度の比率を設定分注量毎に求め、求めた比率の平均を算出する。設定分注量毎に求めた比率の平均比率からの乖離(平均比率−各設定分注量における比率)が乖離As2であり、当該乖離As2が、設定の許容範囲内であるか否かにより分注精度の可否が判定される。許容範囲は前記乖離As1と同様に試料分注正確性規格の±1.5%を使用してもよく、また分注プローブ毎や分注量毎に許容範囲を設定してもよい。
【0049】
さらに、上述の形態の変形例として、設定分注量毎に求められる乖離であって、基準吸光度に対する評価吸光度の比率を設定分注量毎に求め、分注量が隣接する比率を直線で結んだときの傾きを求め、各比率を挟み込む2直線の傾きの絶対値の平均を、各設定分注量における乖離As3として演算し、当該乖離に基づき分注性能を確認する方法が例示される。乖離As1と同様に、まず基準吸光度に対する評価吸光度の比率を設定分注量毎に求め、色素液設定分注量と比率の関係を表す折れ線グラフ(設定分注量−比率特性図)を作成する。図4に、色素液の設定分注量と比率の関係を表す折れ線グラフを示す。各分注量の比率を挟み込む2直線の傾きの絶対値の平均から乖離As3を求め、前記乖離As3が、設定の許容範囲内であるか否かにより分注精度を判定する。隣合う点を2つ以上持たない分注量(1および25μl)は、1および25μlの間で直線を引いたものとして傾きを求め乖離As3を算出してもよく、隣り合わない他の分注量との間で乖離As3を算出してもよい。本変形例においても、乖離が設定分注量毎に求められるので、分注量に応じて分注プローブの使い分けが行なわれているような場合に、異常の有る分注量を明示して警告できるという利点を有する。
【0050】
上記では、試料分注機構18の分注精度の確認方法について説明したが、試薬分注機構19の分注精度の確認も本方法で行ないうる。かかる場合には、図5のフローチャートに示すように、色素液を収容する試薬容器141を試薬テーブル14に(ステップS200)、希釈液を収容する試料容器121を試料テーブル12にセットし(ステップS201)、試薬分注機構19で分注する色素液量を取得後(ステップS202)、同様の工程を行うことにより試薬分注機構19の分注精度を確認する(ステップS203〜S211)。試薬分注機構19についても、分注する範囲における基準吸光度を設定分注量毎に予め測定し、設定分注量毎に評価吸光度を測光部16により測定して、基準吸光度に対する評価吸光度の比率を設定分注量毎に求め、求めた比率に基づき上記のいずれかの乖離を演算して、当該乖離に基づき試薬分注機構19の分注精度を確認しうる。
【0051】
さらに、2つの試薬分注機構を有する自動分析装置においても、色素液と希釈液の分注を行う分注機構を選択して本形態の方法を実施することにより、分注精度を確認しうる。
【0052】
以上説明した本発明の一実施の形態によれば、分注機構における分注精度を確認してから検体の分析を行うことにより、分析の信頼性を向上させることが可能となる。また、分注機構の部品交換後のエア侵入に起因するデータの誤測定を回避することができ、保守作業後の部品交換および保守作業を行う作業者の負担を軽減することができる。
【0053】
なお、本発明は、以上説明した一実施の形態に限定されるものではなく、ここでは記載していないさまざまな実施の形態等を含みうるものである。すなわち、本発明は、特許請求の範囲により特定される技術的思想を逸脱しない範囲内において種々の設計変更等を施すことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の一実施の形態に係る自動分析装置要部の構成を示す平面図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係る自動分析装置の試料分注機構の概略構成を示す説明図である。
【図3】本発明の一実施の形態に係る自動分析装置の分注精度確認方法の処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】本発明の一実施の形態に係る自動分析装置の分注精度確認方法における、試料の設定分注量とその比率について表すグラフである。
【図5】本発明の一実施の形態の変形例に係る自動分析装置の分注精度確認方法の処理の流れを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0055】
1 自動分析装置
2 測定機構
3 制御機構
11 検体移送部
12 試料テーブル
13 反応テーブル
14 試薬テーブル
15 攪拌部
16 測光部
17 洗浄部
18 試料分注機構
19 試薬分注機構
21 制御部
22 入力部
23 出力部
24 分析部
25 記憶部
26 演算部
27 判定部
31、32 チューブ
111 検体容器
112 ラック
121 試料容器
131 反応容器
141 試薬容器
181、191 プローブ
181a 先端部
182、192 アーム
183 駆動部
184 連結部
185 シリンジ
185a シリンダ
185b ピストン
186 ピストン駆動部
187 注入弁
188 ポンプ
189 洗浄液タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料または試薬を分注する分注機構を備え、試料と試薬を反応させることによって試料の成分を分析する自動分析装置であって、
前記分注機構によって反応容器に分注された設定量の色素液を透過する光の強度を測定して、設定分注量毎に前記色素液の評価吸光度を求める測定手段と、
予め測定された基準吸光度に対する前記評価吸光度の比率を設定分注量毎に求め、最大比率と最小比率の差分と平均比率から乖離を演算する演算手段と、
前記乖離に基づいて、前記分注機構の分注精度が許容範囲であるか否かを判定する判定手段と、
を備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項2】
試料または試薬を分注する分注機構を備え、試料と試薬を反応させることによって試料の成分を分析する自動分析装置であって、
前記分注機構によって反応容器に分注された設定量の色素液を透過する光の強度を測定して、設定分注量毎に前記色素液の評価吸光度を求める測定手段と、
予め測定された基準吸光度に対する前記評価吸光度の比率を設定分注量毎に求め、設定分注量毎に求めた各比率と平均比率の差分を、各設定分注量における乖離として演算する演算手段と、
前記乖離に基づいて、前記分注機構の分注精度が許容範囲であるか否かを判定する判定手段と、
を備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項3】
試料または試薬を分注する分注機構を備え、試料と試薬を反応させることによって試料の成分を分析する自動分析装置であって、
前記分注機構によって反応容器に分注された設定量の色素液を透過する光の強度を測定して、設定分注量毎に前記色素液の評価吸光度を求める測定手段と、
予め測定された基準吸光度に対する前記評価吸光度の比率を設定分注量毎に求め、分注量が隣接する比率を直線で結んだときの傾きを求め、各比率を挟み込む2直線の傾きの絶対値の平均を、各設定分注量における乖離として演算する演算手段と、
前記乖離に基づいて、前記分注機構の分注精度が許容範囲であるか否かを判定する判定手段と、
を備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項4】
前記乖離は、少なくとも3点以上選択された設定分注量において求めた比率に基づき演算されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の自動分析装置。
【請求項5】
さらに前記基準吸光度を記憶する記憶部を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の自動分析装置。
【請求項6】
試料または試薬を分注する分注機構を備え、試料と試薬を反応させることによって試料の成分を分析する自動分析装置において、前記分注機構の分注精度を確認する自動分析装置の分注精度確認方法であって、
前記分注機構によって反応容器に設定量分注された色素液を透過する光の強度を測定して、設定分注量毎に前記色素液の評価吸光度を求める測定ステップと、
予め測定された基準吸光度に対する前記評価吸光度の比率を設定分注量毎に求め、最大比率と最小比率の差分と平均比率から乖離を演算する演算ステップと、
前記乖離に基づいて、前記分注機構の分注精度が許容範囲であるか否かを判定する判定ステップと、
を含むことを特徴とする分注精度確認方法。
【請求項7】
試料または試薬を分注する分注機構を備え、試料と試薬を反応させることによって試料の成分を分析する自動分析装置において、前記分注機構の分注精度を確認する自動分析装置の分注精度確認方法であって、
前記分注機構によって反応容器に設定量分注された色素液を透過する光の強度を測定して、設定分注量毎に前記色素液の評価吸光度を求める測定ステップと、
予め測定された基準吸光度に対する前記評価吸光度の比率を設定分注量毎に求め、設定分注量毎に求めた各比率と平均比率との差分、または分注量が隣接する比率を直線で結んだときの傾きを求め、各比率を挟み込む2直線の傾きの絶対値の平均を、各設定分注量における乖離として演算する演算ステップと、
前記乖離に基づいて、前記分注機構の分注精度が許容範囲であるか否かを判定する判定ステップと、
を含むことを特徴とする分注精度確認方法。
【請求項8】
前記乖離は、少なくとも3点以上選択された設定分注量において求めた比率に基づき演算されることを特徴とする請求項6または7に記載の分注精度確認方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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