説明

自動分析装置および反応容器内の液体の温度異常検出方法

【課題】反応容器内の液体の温度異常を確実に検出することができる自動分析装置および反応容器内の液体の温度異常検出方法を提供する。
【解決手段】吸光度と温度が相関を有する吸光度温度相関試薬を検体および試薬として反応容器へ順次分注する一方、所定のタイミングで反応容器内の吸光度温度相関試薬の吸光度を測定し、吸光度温度相関試薬の相関を与える検量線を用いることにより、光学的な測定から得た吸光度を温度へ換算し、この換算した吸光度温度相関試薬の温度の時間変化の態様に応じて反応容器内の吸光度温度相関試薬の温度異常の有無を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体と試薬とを反応させ、検体の成分を分析する自動分析装置および当該自動分析装置が有する反応容器内の液体の温度異常を検出する反応容器内の液体の温度異常検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、検体と試薬とを反応させ、この反応の結果を光学的に測定することによって検体の成分を分析する自動分析装置においては、反応容器内の液体の温度を一定に保つため、反応容器の周囲に所定温度の恒温液を収容する恒温槽を設けるのが一般的である(例えば、特許文献1を参照)。この技術では、恒温液の温度と反応容器内の液体の温度とがほぼ等しいことが仮定されており、恒温液の温度を制御することによって反応容器内の液体の温度を所望の設定温度に調節している。
【0003】
【特許文献1】特開2000−258425号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、反応容器内の液体の温度は、新たな液体が分注されることによって変化することもあり、恒温液の温度と常に等しいとは限らない。しかしながら、上述した従来技術を適用する場合、恒温液の温度と反応容器内の液体の温度とがほぼ等しいことが仮定されているため、仮に反応容器内の液体に温度異常が生じたとしても、恒温液の温度が正常である限り、その温度異常を検出することができなかった。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、反応容器内の液体の温度異常を確実に検出することができる自動分析装置および反応容器内の液体の温度異常検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る自動分析装置は、検体と試薬とを反応容器内で反応させ、この反応の結果を光学的に測定することによって前記検体の成分を分析する自動分析装置であって、吸光度と温度が相関を有する吸光度温度相関試薬の前記相関を与える検量線を記憶する記憶手段と、検体および試薬として前記吸光度温度相関試薬を適用したときの光学的な測定によって求められる前記吸光度温度相関試薬の吸光度を、前記記憶手段が記憶する前記検量線を用いて温度へ換算する換算手段と、前記換算手段が換算した前記吸光度温度相関試薬の温度の時間変化の態様に応じて前記反応容器内の前記吸光度温度相関試薬の温度異常の有無を判定する判定手段と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
また、本発明に係る自動分析装置は、上記発明において、前記判定手段は、前記換算手段が換算した温度が前記吸光度温度相関試薬を前記反応容器へ分注してから所定の温度範囲に入るまでの時間に基づいて、前記反応容器内の前記吸光度温度相関試薬の温度異常の有無を判定することを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る自動分析装置は、上記発明において、前記判定手段は、前記換算手段が換算した温度のうち前記吸光度温度相関試薬を前記反応容器へ分注してから所定時間経過した後の温度に基づいて、前記反応容器内の前記吸光度温度相関試薬の温度異常の有無を判定することを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る自動分析装置は、上記発明において、前記反応容器が収容する液体の温度を測定する温度測定手段と、前記液体として前記吸光度温度相関試薬を適用したときに前記温度測定手段が測定する温度と前記光学的な測定によって求められる前記吸光度温度相関試薬の吸光度とを用いて前記検量線を作成する検量線作成手段と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る自動分析装置は、上記発明において、複数の前記反応容器を保持する反応容器ホルダと、前記反応容器ホルダの近傍に設けられ、一定の温度を保持する保温手段と、前記保温手段が保持する温度を調節する温度調節手段と、を備え、前記検量線作成手段は、前記保温手段が保持する温度が互いに異なる複数の条件下でそれぞれ測定した前記反応容器内の前記吸光度温度相関試薬の吸光度および温度を用いて前記検量線を作成することを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る自動分析装置は、上記発明において、前記吸光度温度相関試薬は、フェノールレッドであることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る反応容器内の液体の温度異常検出方法は、検体と試薬とを反応容器内で反応させ、この反応の結果を光学的に測定することによって前記検体の成分を分析する自動分析装置が、前記反応容器内の液体の温度異常を検出する反応容器内の液体の温度異常検出方法であって、吸光度と温度が相関を有する吸光度温度相関試薬を検体および試薬として前記反応容器へ順次分注する一方、前記反応容器内の前記吸光度温度相関試薬の吸光度を求める分析動作ステップと、前記吸光度温度相関試薬における吸光度と温度との相関を与える検量線を当該自動分析装置が備える記憶手段から読み出し、この読み出した検量線を用いることにより、前記分析動作ステップで求めた吸光度を温度へ換算する換算ステップと、前記換算ステップで換算した前記吸光度温度相関試薬の温度の時間変化の態様に応じて前記反応容器内の前記吸光度温度相関試薬の温度異常の有無を判定する判定ステップと、を有することを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る反応容器内の液体の温度異常検出方法は、上記発明において、前記判定ステップは、前記換算ステップで換算した温度が前記吸光度温度相関試薬を前記反応容器へ分注してから所定の温度範囲に入るまでの時間に基づいて、前記反応容器内の前記吸光度温度相関試薬の温度異常の有無を判定することを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る反応容器内の液体の温度異常検出方法は、上記発明において、前記判定ステップは、前記換算ステップで換算した温度のうち前記吸光度温度相関試薬を前記反応容器へ分注してから所定時間経過した後の温度に基づいて、前記反応容器内の前記吸光度温度相関試薬の温度異常の有無を判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、吸光度と温度が相関を有する吸光度温度相関試薬を検体および試薬として反応容器へ順次分注する一方、反応容器内の吸光度温度相関試薬の吸光度を求める分析動作を行い、吸光度温度相関試薬における吸光度と温度との相関を与える検量線を用いることにより、分析動作で求めた吸光度を温度へ換算し、この換算した吸光度温度相関試薬の温度の時間変化の態様に応じて反応容器内の吸光度温度相関試薬の温度異常の有無を判定するため、反応容器内の温度を正確に反映させることができる。したがって、反応容器内の液体の温度異常を確実に検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して本発明を実施するための最良の形態(以後、「実施の形態」と称する)を説明する。なお、以下の説明で参照する図面は模式的なものであって、同じ物体を異なる図面で示す場合には、寸法や縮尺等が異なる場合もある。
【0017】
図1は、本発明の一実施の形態に係る自動分析装置の要部の構成を示す図である。同図に示す自動分析装置1は、検体(試料)および試薬を反応容器にそれぞれ分注し、その反応容器内で生じる反応を光学的に測定する測定ユニット101と、測定ユニット101を含む自動分析装置1の制御を行うとともに測定ユニット101における測定結果の分析を行うデータ処理ユニット201とを有し、これら2つのユニットが連携することによって複数の検体の成分の生化学的な分析を自動的かつ連続的に行う装置である。
【0018】
測定ユニット101は、検体を収容する検体容器2が搭載された複数のラック3を収納する検体容器ホルダ4と、試薬容器5を保持して一定温度に保冷する試薬容器ホルダ6と、検体と試薬とを反応させる反応容器7を保持する反応容器ホルダ8と、検体容器ホルダ4に保持される検体容器2が収容する検体を金属性のプローブによって反応容器7へ分注する検体分注部9と、試薬容器ホルダ6に保持される試薬容器5が収容する試薬を金属性のプローブによって反応容器7へ分注する試薬分注部10と、反応容器7内の液体を攪拌する攪拌部11と、光源から照射されて反応容器7を通過した分析光を受光して所定の波長成分の強度等を測定する測光部12と、反応容器7内の液体の温度を測定する温度測定部13と、反応容器7の洗浄を行う洗浄部14と、を備える。
【0019】
図2は、測定ユニット101における反応容器ホルダ8とその周辺の構成を示す図である。反応容器ホルダ8は、円盤状の表面を有し、その表面の円周に沿って複数の反応容器7を保持する回転テーブル81と、回転テーブル81を回転自在に軸支する軸部82と、軸部82を回動させる駆動部83と、を備える。回転テーブル81は、熱伝導性がよい金属などの材料を用いて形成され、反応容器7を保持する保持部811を複数有する。保持部811には、測光部12が反応容器7へ向けて投光する分析光を透過するための窓部812が、回転テーブル81の表面の径方向に沿って2箇所設けられている。駆動部83は、回転制御部15によって制御される。
【0020】
反応容器ホルダ8の下方には、回転テーブル81の円周に沿って周回する円環状の恒温槽16が設けられている。恒温槽16は熱伝導性がよい材料からなる。恒温槽16の内部で円環状に周回して連通している中空部には恒温液Hが収容されている。恒温槽16は、反応容器ホルダ8の保持部811の外周を包囲するように周回している凹部161を有する。このため、凹部161から保持部811を介して反応容器7へ熱が伝わり、反応容器7の内部の液体の温度が恒温液Hの温度へ近づく。恒温槽16には、測光部12の光源が投光する分析光を透過するための窓部が恒温槽16の円環の径方向に沿って2箇所設けられている(図示せず)。恒温槽16および恒温液Hは、反応容器ホルダ8の近傍に設けられて一定の温度を保持する保温手段の少なくとも一部の機能を具備する。
【0021】
恒温液Hの温度は温度センサ17によって測定される。温度センサ17の測定結果は温度制御部18へ送られる。温度制御部18は、温度センサ17の測定結果に基づいて加熱用のヒータ19の駆動制御を行う。ヒータ19は、温度制御部18の制御の下で恒温槽16を加熱し、恒温液Hの温度を調整する。自動分析装置1が通常の検体の分析を行う際の恒温液Hの設定温度は、人間の体温程度(37℃程度)である。温度制御部18およびヒータ19は、保温手段が保持する温度を調節する温度調節手段の少なくとも一部の機能を具備する。
【0022】
図3は、温度測定部13の要部の構成を示す図である。温度測定部13は、反応容器7の内部の温度を測定するサーミスタ131と、先端部でサーミスタ131を支持するアーム132と、アーム132の基端部を支持し、上下動可能な支軸133と、支軸133を上下動させる駆動部134と有する。駆動部134は、駆動制御部20によって制御される。サーミスタ131は支軸133の上下動に伴って上下動し、直下のポジションに位置する反応容器7の内部(液体収容部分)に対して進退自在である。
【0023】
データ処理ユニット201は、キーボードやマウスなどを有し、検体の分析に必要な情報や自動分析装置1の操作情報が入力される入力部21と、ディスプレイやプリンタを有し、検体の分析に関する情報等を出力する出力部22と、測定ユニット101における測定結果に基づいて反応容器7内部の液体の吸光度を算出したり、吸光度の算出結果と検量線や分析パラメータ等の各種情報とを用いて反応容器7内部の液体の成分を算出したりするデータ生成部23と、吸光度と温度が相関を有する吸光度温度相関試薬の検量線を作成する検量線作成部24と、検体および試薬を吸光度温度相関試薬とする分析動作の際に測定した吸光度を検量線作成部24で作成した検量線を用いて温度に換算する換算部25と、換算部25で換算した温度の時間変化の態様に応じて反応容器7内の吸光度温度相関試薬の温度異常の有無を判定する判定部26と、自動分析装置1の動作制御を行う制御部27と、各種情報を記憶する記憶部28と、を備える。このうち、制御部27は、測定ユニット101の回転制御部15、温度制御部18および駆動制御部20と連携している。また、記憶部28は、検量線作成部24で作成した検量線、判定部26で参照する判定条件、検体や試薬に関する情報および検体の分析結果を含む情報を記憶する。
【0024】
以上の構成を有するデータ処理ユニット201において、検量線作成部24、換算部25、判定部26および記憶部28は、検量線作成手段、換算手段、判定手段および記憶手段の少なくとも一部の機能をそれぞれ有している。データ処理ユニット201は、CPU,ROM,RAM等を具備したコンピュータによって実現される。
【0025】
図4は、自動分析装置1が行う検量線作成処理の概要を示すフローチャートである。図4において、自動分析装置1は、まず恒温槽16内の恒温液Hの温度を設定温度に調節する(ステップS1)。このステップS1で調節される恒温液Hの温度は、通常分析の際に設定される温度T0とたかだか±0.5℃程度の差を有するに過ぎない。なお、温度T0は、人間の体温程度(例えば、37℃程度)である。
【0026】
試薬分注部10は、恒温液Hの温度が設定値に達した後、吸光度温度相関試薬を反応容器7へ分注する(ステップS2)。吸光度温度相関試薬は、吸光度と温度が相関を有するものであり、例えばフェノールレッドを適用することができる。以下、吸光度温度相関試薬としてフェノールレッドを適用する場合を説明する。
【0027】
吸光度温度相関試薬であるフェノールレッドが分注された反応容器7は、反応容器ホルダ8の回動によって温度測定部13の直下のポジションへ移送される。温度測定部13は、反応容器ホルダ8が静止した後、支軸133が下降してサーミスタ131を反応容器7の内部まで進入させることにより、反応容器7内のフェノールレッドの温度を測定する(ステップS3)。なお、ステップS2で反応容器7にフェノールレッドを分注してからステップS3で温度を測定するまでの時間は、反応容器7内のフェノールレッドの温度が恒温液Hの温度と略等しくなるのに必要な時間として予め設定される。
【0028】
この後、自動分析装置1は、吸光度温度相関試薬の測光および吸光度の算出を行う(ステップS4)。具体的には、ステップS3の後、反応容器ホルダ8が、温度測定部13でフェノールレッドの温度を測定した反応容器7を移送して測光部12を通過させる。測光部12は、通過した反応容器7を透過する光の強度を測定し、この測定結果をデータ生成部23へ送る。データ生成部23は、測光部12の測定結果を用いることによってフェノールレッドの吸光度を算出し、この算出した吸光度を温度測定部13で測定した温度と対応付けて記憶部28へ格納する。
【0029】
自動分析装置1は、恒温液Hの温度を予め複数設定しており、設定した温度ごとにステップS1〜S4の処理を繰り返し行い、吸光度および温度の組を複数求める。このため、自動分析装置1は、恒温液Hに対する全ての設定温度での測定処理が終了していなければ(ステップS5,No)、ステップS1に戻って処理を繰り返す。他方、恒温液Hに対する全ての設定温度での測定処理が終了した場合(ステップS5,Yes)には、検量線作成部24が測定結果を用いて検量線を作成する(ステップS6)。
【0030】
図5は、検量線作成部24が作成した検量線の例を示す図である。図5では、横軸が吸光度を表すとともに、縦軸が温度を表している。検量線Lは、上述したステップS1〜S4の処理を2回行うことによって得られたものであり、黒点は実測値を示している。検量線Lは直線であり、温度が下がると吸光度が上がる性質を有している。このように、フェノールレッドは、通常分析時の恒温液Hの設定温度T0の近傍において、吸光度と温度の関係が直線性を示すことが知られている。このため、吸光度温度相関試薬としてフェノールレッドを適用する場合、吸光度と温度の測定値の組を少なくとも2組求めれば、この求めた2組に対応する2点を通過する直線が検量線となる。したがって、吸光度温度相関試薬としてフェノールレッドを適用すれば、検量線作成部24における検量線作成処理が容易となる。なお、検量線は直線に限られるわけではなく、曲線でもかまわない。検量線が曲線である場合には、恒温液Hの設定温度の数を3個以上とするのが好ましい。
【0031】
次に、自動分析装置1が作成した検量線を用いて行う反応容器内の液体の温度異常検出方法について、図6に示すフローチャートを参照して説明する。
【0032】
まず、自動分析装置1は、検体、第1および第2試薬を全てフェノールレッドとして通常の分析動作と同様の分析動作を行う(ステップS11)。具体的には、試薬分注部10が第1試薬としてフェノールレッドを分注した後、検体分注部9が検体としてフェノールレッドを分注し、試薬分注部10が第2試薬としてフェノールレッドを分注する。反応容器7へ分注する量は、第1試薬、第2試薬、検体の順に少ない。特に、検体として分注するフェノールレッドの量は、第1試薬として分注するフェノールレッドの量と比較して微量である。なお、試薬容器ホルダ6は試薬を低温で保冷しているため、第1および第2試薬として分注されるフェノールレッドは、検体として分注される常温のフェノールレッドよりも低温である。
【0033】
ステップS11における自動分析装置1の分析動作の過程で、反応容器ホルダ8は所定の回転動作を繰り返すため、測光部12が設けられているポジションを一定の周期で通過する。測光部12は、分析動作の最中に分析光を常に投光しているため、分析光の光路を通過する反応容器7を透過した光の強度を全て測定する。したがって、測光部12は、一連の分析動作が完了するまでの間に、個々の反応容器7に対して複数回の測定を行う。測光部12が測定したデータは、データ処理ユニット201に送られ、データ生成部23における吸光度の算出に用いられる。データ生成部23が算出した吸光度は、記憶部28に格納される。
【0034】
上述した分析動作に続いて、換算部25は、データ生成部23が算出したフェノールレッドの全ての吸光度を、記憶部28で記憶している検量線を用いることによって温度へ換算する(ステップS12)。
【0035】
図7は、換算部25が吸光度を換算したフェノールレッドの温度Tと時間tの関係を示す図である。同図に示す曲線Cは、反応容器7に第1試薬としてのフェノールレッドが分注されてからの反応容器7内のフェノールレッドの温度を時系列に沿って並べたものである。曲線C上の黒点は測定結果に対応する点であり、測光部12(測光ポイント)を通過した時間における吸光度の温度換算値を与えている。以下では、説明の便宜上、検体、第1試薬および第2試薬という表現を用いるが、これらは全てフェノールレッドである。
【0036】
試薬分注部10が時間t1に第1試薬を反応容器7へ分注すると、分注された第1試薬は恒温槽16によって温められ、恒温液Hの設定温度T0へ近づいていく。その後、時間tS(tS>t1)に検体分注部9が検体を反応容器7に分注する。常温である検体の分注量は第1試薬の分注量と比較して微量であるため、検体の分注による反応容器7内の温度変化は小さい。したがって、反応容器7内のフェノールレッドは、検体の分注前後において、設定温度T0近傍の温度でほぼ一定となる。この後、時間t2(t2>tS)に試薬分注部10が第2試薬を反応容器7に分注すると、第2試薬の温度は設定温度T0よりも低温であるため、一時的に反応容器7の内部の液体の温度が下降する。その後、反応容器7内のフェノールレッドの温度は、恒温槽16に温められることによって再び上昇して設定温度T0付近まで達した後、ほぼ一定となる。
【0037】
ステップS12の後、判定部26は、曲線Cを参照して反応容器7内のフェノールレッドの温度異常の有無を判定する(ステップS13)。具体的には、判定部26は、フェノールレッドの温度(換算値)Tが以下の3つの条件を満足する場合、反応容器7内のフェノールレッドの温度が正常であると判定する。
(1)第1試薬を分注してからT0−ΔT≦T≦T0+ΔTを満たすまでに要する時間Δt1が所定値Δt01以下である(Δt1<Δt01)。
(2)第2試薬を分注してからT0−ΔT≦T≦T0+ΔTを満たすまでに要する時間Δt2が所定値Δt02以下である(Δt2<Δt02)。
(3)曲線Cが生成されている時間帯のうち、第1試薬を分注してから所定時間Δt01が経過するまでの時間帯および第2試薬を分注してから所定時間Δt02が経過するまでの時間帯を除き、T0−ΔT≦T≦T0+ΔTである。
なお、条件(1)〜(3)においては、第1試薬および第2試薬を分注した直後の温度がT0−ΔTよりも小さいことが前提されている。また、所定の定数ΔTはたかだか0.5℃程度であることが望ましい。
【0038】
判定部26が判定した結果、上述した条件(1)〜(3)のうちいずれか一つでも満足しない場合、判定部26は、反応容器7内のフェノールレッドに温度異常があると判定する(ステップS14,Yes)。この場合には、出力部22が、反応容器7内のフェノールレッドの温度に異常があることを報知する情報を出力する(ステップS15)。オペレータは、出力部22から出力された情報に基づいて自動分析装置1のメインテナンス等を行うこととなる。
【0039】
一方、判定部26が判定した結果、上述した条件(1)〜(3)を満足する場合、判定部26は、反応容器7内のフェノールレッドの温度が正常であると判定する(ステップS14,No)。この場合、自動分析装置1は一連の温度異常検知処理を終了するが、引き続き一般検体等の分析動作へ自動的に移行するようにしてもよい。
【0040】
なお、ステップS13で判定部26が判定を行う際の判定条件を、条件(1)〜(3)のうちのいずれか1つとすることも可能であるし、条件(1)〜(3)のうちのいずれか2つとすることも可能である。
【0041】
また、自動分析装置1がステップS11〜S15の処理を所定の周期で定期的に行うようにすることも可能である。
【0042】
また、分析動作における検体の分注量が試薬の分注量と比較して非常に少ないことに鑑み、ステップS11で検体の分注を行わないようにしてもよい。これにより、試薬容器ホルダ6よりも容器のセットが煩雑な検体容器ホルダ4にフェノールレッドを収容する検体容器2をセットしないで済み、温度異常検出処理をより簡単に行うことができる。
【0043】
以上説明した本発明の一実施の形態によれば、吸光度と温度が相関を有する吸光度温度相関試薬を検体および試薬として反応容器へ順次分注する一方、反応容器内の吸光度温度相関試薬の吸光度を求める分析動作を行い、吸光度温度相関試薬における吸光度と温度との相関を与える検量線を用いることにより、分析動作で求めた吸光度を温度へ換算し、この換算した吸光度温度相関試薬の温度の時間変化の態様に応じて反応容器内の吸光度温度相関試薬の温度異常の有無を判定するため、反応容器内の温度を正確に反映させることができる。したがって、反応容器内の液体の温度異常を確実に検出することができる。
【0044】
また、本実施の形態によれば、一連の分析動作を行う際の反応容器内の液体の温度状態の時間的な推移を把握しているため、複数の条件下で液体の温度異常を検知することができ、より精度が高い液体の温度異常検知を行うことができる。
【0045】
また、本実施の形態によれば、自動分析装置が検量線を自動的に作成するため、検量線作成用の装置を別に用意する必要がない。加えて、検量線を作成する際のユーザの負担も少なくて済む。
【0046】
また、本実施の形態によれば、吸光度温度相関試薬として分析の際の設定温度付近における吸光度と温度との関係が線型であるフェノールレッドを用いているため、検量線の作成が容易である。
【0047】
ここまで、本発明を実施するための最良の形態を説明してきたが、本発明は上述した一実施の形態によってのみ限定されるべきものではない。例えば、複数の反応容器7に対して検体および試薬としてのフェノールレッドを順次分注することによって温度異常検知処理を行うことも可能である。この場合には、判定部26における判定条件を次のように設定してもよい。
(4)各反応容器7内のフェノールレッドに対して吸光度から換算した温度Tが、第1試薬を分注してから所定時間経過した時点で全てT0−ΔT'≦T≦T0+ΔT'を満たす。ここでΔT'は、上述したΔTと同程度の値である。
【0048】
また、本発明に係る自動分析装置は、反応容器ホルダの保持部を恒温液に直接浸漬する構成を有する場合にも適用可能である。
【0049】
このように、本発明は、ここでは記載していない様々な実施の形態等を含みうるものであり、特許請求の範囲により特定される技術的思想を逸脱しない範囲内において種々の設計変更等を施すことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の一実施の形態に係る自動分析装置の要部の構成を示す図である。
【図2】反応容器ホルダとその周辺の構成を示す図である。
【図3】温度測定部の要部の構成を示す図である。
【図4】本発明の一実施の形態に係る自動分析装置が行う検量線作成処理の概要を示すフローチャートである。
【図5】本発明の一実施の形態に係る自動分析装置が作成した検量線の例を示す図である。
【図6】本発明の一実施の形態に係る反応容器内の液体の温度異常検出方法の処理の概要を示すフローチャートである。
【図7】反応容器内のフェノールレッドの温度(吸光度からの換算値)の時間変化を示す図である。
【符号の説明】
【0051】
1 自動分析装置
2 検体容器
3 ラック
4 検体容器ホルダ
5 試薬容器
6 試薬容器ホルダ
7 反応容器
8 反応容器ホルダ
9 検体分注部
10 試薬分注部
11 攪拌部
12 測光部
13 温度測定部
14 洗浄部
15 回転制御部
16 恒温槽
17 温度センサ
18 温度制御部
19 ヒータ
20 駆動制御部
21 入力部
22 出力部
23 データ生成部
24 検量線作成部
25 換算部
26 判定部
27 制御部
28 記憶部
81 回転テーブル
82 軸部
83、134 駆動部
101 測定ユニット
131 サーミスタ
132 アーム
133 支軸
161 凹部
201 データ処理ユニット
811 保持部
812 窓部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体と試薬とを反応容器内で反応させ、この反応の結果を光学的に測定することによって前記検体の成分を分析する自動分析装置であって、
吸光度と温度が相関を有する吸光度温度相関試薬の前記相関を与える検量線を記憶する記憶手段と、
検体および試薬として前記吸光度温度相関試薬を適用したときの光学的な測定によって求められる前記吸光度温度相関試薬の吸光度を、前記記憶手段が記憶する前記検量線を用いて温度に換算する換算手段と、
前記換算手段が換算した前記吸光度温度相関試薬の温度の時間変化の態様に応じて前記反応容器内の前記吸光度温度相関試薬の温度異常の有無を判定する判定手段と、
を備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項2】
前記判定手段は、
前記換算手段が換算した温度が前記吸光度温度相関試薬を前記反応容器へ分注してから所定の温度範囲に入るまでの時間に基づいて、前記反応容器内の前記吸光度温度相関試薬の温度異常の有無を判定することを特徴とする請求項1記載の自動分析装置。
【請求項3】
前記判定手段は、
前記換算手段が換算した温度のうち前記吸光度温度相関試薬を前記反応容器へ分注してから所定時間経過した後の温度に基づいて、前記反応容器内の前記吸光度温度相関試薬の温度異常の有無を判定することを特徴とする請求項1または2記載の自動分析装置。
【請求項4】
前記反応容器が収容する液体の温度を測定する温度測定手段と、
前記液体として前記吸光度温度相関試薬を適用したときに前記温度測定手段が測定する温度と前記光学的な測定によって求められる前記吸光度温度相関試薬の吸光度とを用いて前記検量線を作成する検量線作成手段と、
を備えたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の自動分析装置。
【請求項5】
複数の前記反応容器を保持する反応容器ホルダと、
前記反応容器ホルダの近傍に設けられ、一定の温度を保持する保温手段と、
前記保温手段が保持する温度を調節する温度調節手段と、
を備え、
前記検量線作成手段は、前記保温手段が保持する温度が互いに異なる複数の条件下でそれぞれ測定した前記反応容器内の前記吸光度温度相関試薬の吸光度および温度を用いて前記検量線を作成することを特徴とする請求項4記載の自動分析装置。
【請求項6】
前記吸光度温度相関試薬は、フェノールレッドであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項記載の自動分析装置。
【請求項7】
検体と試薬とを反応容器内で反応させ、この反応の結果を光学的に測定することによって前記検体の成分を分析する自動分析装置が、前記反応容器内の液体の温度異常を検出する反応容器内の液体の温度異常検出方法であって、
吸光度と温度が相関を有する吸光度温度相関試薬を検体および試薬として前記反応容器へ順次分注する一方、前記反応容器内の前記吸光度温度相関試薬の吸光度を求める分析動作ステップと、
前記吸光度温度相関試薬における吸光度と温度との相関を与える検量線を当該自動分析装置が備える記憶手段から読み出し、この読み出した検量線を用いることにより、前記分析動作ステップで求めた吸光度を温度へ換算する換算ステップと、
前記換算ステップで換算した前記吸光度温度相関試薬の温度の時間変化の態様に応じて前記反応容器内の前記吸光度温度相関試薬の温度異常の有無を判定する判定ステップと、
を有することを特徴とする反応容器内の液体の温度異常検出方法。
【請求項8】
前記判定ステップは、
前記換算ステップで換算した温度が前記吸光度温度相関試薬を前記反応容器へ分注してから所定の温度範囲に入るまでの時間に基づいて、前記反応容器内の前記吸光度温度相関試薬の温度異常の有無を判定することを特徴とする請求項7記載の反応容器内の液体の温度異常検出方法。
【請求項9】
前記判定ステップは、
前記換算ステップで換算した温度のうち前記吸光度温度相関試薬を前記反応容器へ分注してから所定時間経過した後の温度に基づいて、前記反応容器内の前記吸光度温度相関試薬の温度異常の有無を判定することを特徴とする請求項7または8記載の反応容器内の液体の温度異常検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−168674(P2009−168674A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−8248(P2008−8248)
【出願日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】