説明

自動分析装置の分析支援用液体の品質管理方法および自動分析装置

【課題】自動分析装置における分析を支援する分析支援用液体が自動分析装置に供給された後の品質を適確に判定し、分析の精度を適正に維持することができる自動分析装置の分析支援用液体の品質管理方法および自動分析装置を提供する。
【解決手段】試料を分注する試料分注手段、試薬を分注する試薬分注手段、反応容器を洗浄する洗浄手段または希釈液を分注する希釈液分注手段によって試料の分析を支援する分析支援用液体を反応容器に分注し、この分注した分析支援用液体を含む反応容器内の液体に対する光学的な測定を行い(ステップS1)、測定した結果を用いて分析支援用液体の分析データを生成し(ステップS2)、生成した分析データを基準データと比較することによって分析支援用液体の品質を判定する(ステップS3)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料と試薬とを反応させることによって前記試料の分析を行う自動分析装置において、純水を含む液体であって前記試料の分析を支援する液体である分析支援用液体の品質を管理する自動分析装置の分析支援用液体の品質管理方法および自動分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
試料と試薬とを反応させることによってその試料の分析を行う自動分析装置では、試料や試薬を分注する分注機構における圧力伝達用媒体、反応容器の洗浄液、希釈液等の分析支援用液体の少なくとも一部として、イオン交換水や蒸留水などの純水が広く使用されている(例えば、特許文献1を参照)。このような純水は、純水装置から配管系を経由して自動分析装置へ供給され、自動分析装置内の純水タンクに貯留される。
【0003】
分析に不可欠な純水の品質管理は、自動分析装置の信頼性を高める上で重要である。このため、従来は、純水装置の出口付近に水質計を設けておき、この水質計を通過した純水の比抵抗値(または電気伝導率)を測定することによって純水の品質管理を行っていた。
【0004】
【特許文献1】特開平11−94843号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
自動分析装置を長期間にわたって使用する場合、その自動分析装置内の純水タンクや配管系に微生物や細菌などが侵入または発生することによって純水が汚染されることがある。また、自動分析装置の長期間にわたる使用によって配管系の内部にヌメリや黒ずみが生じ、配管系の素材の一部をなす金属部品から金属イオンが溶出したり、その金属部品に錆びが発生したりすることによって純水が汚染されることもある。
【0006】
上記の如く汚染された純水には、試料と試薬との反応を阻害または亢進させる成分が含まれる場合もあるため、そのような成分の量が多くなるにつれて、分析への影響が無視できなくなる可能性がある。実際、血液の生化学検査においては、錆びに含まれる金属イオン(鉄イオン、銅イオン等)が血液中の金属イオンに影響を及ぼす場合があることが知られている。また、血液の免疫検査においては、微生物が産生する酵素が血液中の酵素に影響を及ぼす場合があることが知られている。
【0007】
このことからも明らかなように、自動分析装置内における純水の汚染を検出することは、分析の精度を維持する上で不可欠である。しかしながら、上述した従来技術では、自動分析装置に供給された後の純水の品質を判定しないため、純水が自動分析装置内において分析に影響を及ぼす程度にまで汚染されてしまった場合には、分析の精度を適正に維持することができなくなる恐れがあった。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、自動分析装置における分析を支援する分析支援用液体が自動分析装置に供給された後の品質を適確に判定し、分析の精度を適正に維持することができる自動分析装置の分析支援用液体の品質管理方法および自動分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、請求項1記載の発明は、純水を含む液体であって試料の分析を支援する液体である分析支援用液体を圧力伝達用媒体として前記試料を分注する試料分注手段と、前記分析支援用液体を圧力伝達用媒体として試薬を分注する試薬分注手段と、前記分析支援用液体を洗浄液として前記試料と前記試薬とを混合して反応させる反応容器を洗浄する洗浄手段と、前記分析支援用液体を含む希釈液を分注する希釈液分注手段とを備え、前記試料の分析を行う自動分析装置において、前記分析支援用液体の品質を管理する自動分析装置の分析支援用液体の品質管理方法であって、前記分析支援用液体を、前記試料分注手段、前記試薬分注手段、前記洗浄手段または前記希釈液分注手段によって前記反応容器に分注する分注ステップと、前記分注ステップで分注した前記分析支援用液体を含む前記反応容器内の液体に対する光学的な測定を行う測光ステップと、前記測光ステップで測定した結果を用いて前記分析支援用液体の分析データを生成するデータ生成ステップと、前記データ生成ステップで生成した分析データを基準データと比較することによって前記分析支援用液体の品質を判定する品質判定ステップと、を有することを特徴とする。
【0010】
この発明における「純水」とは、イオン交換水、逆浸透膜投下水、蒸留水、精製水など、自動分析装置の分析支援用液体として使用可能なものを指す。また、この発明における「液体」には、微量の固体成分を含有する液体も含まれる。
【0011】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記測光ステップで光学的な測定を受ける前記反応容器内の液体は、前記分析支援用液体と検査項目に応じた試薬との混合液であることを特徴とする。
【0012】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明において、前記品質判定ステップで前記分析支援用液体の品質に異常があると判定した場合、前記試料に対して行う分析のうち少なくとも前記異常に関連した検査項目の分析を中止する制御を行う制御ステップをさらに有することを特徴とする。
【0013】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項記載の発明において、前記品質判定ステップで判定した結果を含む情報を出力する出力ステップをさらに有することを特徴とする。
【0014】
請求項5記載の発明に係る自動分析装置は、純水を含む液体であって試料の分析を支援する液体である分析支援用液体を圧力伝達用媒体として前記試料を分注する試料分注手段と、前記分析支援用液体を圧力伝達用媒体として試薬を分注する試薬分注手段と、前記分析支援用液体を洗浄液として前記試料と前記試薬とを混合して反応させる反応容器を洗浄する洗浄手段と、前記分析支援用液体を含む希釈液を分注する希釈液分注手段と、前記試料分注手段、前記試薬分注手段、前記洗浄手段または前記希釈液分注手段によって前記反応容器に分注された前記分析支援用液体を含む液体に対する光学的な測定を行う測光手段と、前記測光手段で測定した結果を用いて前記分析支援用液体の分析データを生成するデータ生成手段と、前記データ生成手段で生成した分析データを基準データと比較することによって前記分析支援用液体の品質を判定する品質判定手段と、を備えたことを特徴とする。
【0015】
この発明における「純水」とは、イオン交換水、逆浸透膜投下水、蒸留水、精製水など、自動分析装置の分析支援用液体として使用可能なものを指す。また、この発明における「液体」には、微量の固体成分を含有する液体も含まれる。
【0016】
請求項6記載の発明は、請求項5記載の発明において、前記測光手段によって光学的な測定を受ける前記反応容器内の液体は、前記分析支援用液体と検査項目に応じた試薬との混合液であることを特徴とする。
【0017】
請求項7記載の発明は、請求項6記載の発明において、前記品質判定手段で前記分析支援用液体の品質に異常があると判定した場合、前記試料に対して行う分析のうち少なくとも前記異常に関連した検査項目の分析を中止する制御を行う制御手段をさらに備えたこと特徴とする。
【0018】
請求項8記載の発明は、請求項5〜7のいずれか一項記載の発明において、前記品質判定手段で判定した結果を含む情報を出力する出力手段をさらに備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、試料を分注する試料分注手段、試薬を分注する試薬分注手段、反応容器を洗浄する洗浄手段または希釈液を分注する希釈液分注手段によって試料の分析を支援する分析支援用液体を反応容器に分注し、この分注した分析支援用液体を含む反応容器内の液体に対する光学的な測定を行い、測定した結果を用いて分析支援用液体の分析データを生成し、生成した分析データを基準データと比較することによって分析支援用液体の品質を判定することにより、自動分析装置における分析を支援する分析支援用液体が自動分析装置に供給された後の品質を適確に判定し、分析の精度を適正に維持することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して本発明を実施するための最良の形態(以後、「実施の形態」と称する)を説明する。図1は、本発明の一実施の形態に係る自動分析装置要部の構成を模式的に示す図である。同図に示す自動分析装置1は、試料と試薬とを所定の容器にそれぞれ分注し、その容器内の液体に対して光学的な測定を行う測定機構101と、この測定機構101を含む自動分析装置1の制御を行うとともに測定機構101における測定結果の分析を行う制御分析機構102とを有し、これら二つの機構が連携することによって複数の検体の生化学的な分析を自動的かつ連続的に行う装置である。なお、ここでいう「液体」には、微量の固体成分を含有する液体も含まれる。
【0021】
最初に、自動分析装置1の測定機構101について説明する。測定機構101は、主として一般検体を収容する検体容器111が搭載された複数のラック112を収納して順次移送する検体移送部11と、一般検体以外の各種検体(検量線作成用のスタンダード検体、精度管理検体、緊急検体、STAT検体、再検査用検体等)を収容する検体容器121を保持する検体容器保持部12と、試薬容器131を保持する試薬容器保持部13と、試料(検体)と試薬とを反応させる容器である反応容器141を保持する反応容器保持部14と、反応容器141の内部に収容された液体を攪拌する攪拌部15と、反応容器141内を通過した光の波長成分ごとの強度等を測定する測光部16と、を備える。
【0022】
また、測定機構101は、検体移送部11上の検体容器111や検体容器保持部12上の検体容器121に収容された検体等の試料を反応容器141に分注する試料分注部17と、試薬容器保持部13上の試薬容器131に収容された試薬を反応容器141に分注する試薬分注部18と、反応容器141の洗浄を行う洗浄部19と、反応容器141内の液体を希釈する希釈液を分注する希釈液分注部20と、を備える。
【0023】
検体容器111および121には、内部に収容する検体を識別する識別情報をバーコードまたは2次元コード等の情報コードにコード化して記録した情報コード記録媒体がそれぞれ貼付されている(図示せず)。同様に、試薬容器131にも、内部に収容する試薬を識別する識別情報を情報コードにコード化して記録した情報コード記録媒体が貼付されている(図示せず)。このため、測定機構101には、検体容器111に貼付された情報コードを読み取る情報コード読取部CR1、検体容器121に貼付された情報コードを読み取る情報コード読取部CR2、および試薬容器131に貼付された情報コードを読み取る情報コード読取部CR3が設けられている。
【0024】
検体容器保持部12、試薬容器保持部13、および反応容器保持部14は、検体容器121、試薬容器131および反応容器141をそれぞれ収容保持するホイールと、このホイールの底面中心に取り付けられ、その中心を通る鉛直線を回転軸としてホイールを回転させる駆動手段とを有する(図示せず)。
【0025】
各容器保持部の内部は一定の温度に保たれている。例えば、試薬容器保持部13内は、試薬の劣化や変性を抑制するために室温よりも低温に設定される。また、反応容器保持部14内は、人間の体温と同程度の温度に設定される。
【0026】
測光部16は、白色光を照射する光源と、反応容器141を透過してきた白色光を分光する分光光学系と、分光光学系で分光した光を成分ごとに受光して電気信号に変換する受光素子とを有する。
【0027】
図2は、試料分注部17の構成を模式的に示す図である。同図に示す試料分注部17は、試料の吸引および吐出を行うために先細の先端を有する中空のプローブ171と、このプローブ171の鉛直方向の昇降および水平方向の回転を行うアーム等を有するプローブ駆動部172と、プローブ171に圧力を伝達する圧力伝達用媒体としてプローブ171による試料の吸引、吐出を支援する洗浄液Lqの流路をなすチューブ31(配管系の一部)と、試料を吸引または吐出するためにプローブ171に加えられる圧力であってチューブ31内の洗浄液Lqを介して加えられる圧力を発生するシリンジ173と、を備える。
【0028】
シリンジ173はシリンダ173aとピストン173bとを有し、ピストン駆動部174によってピストン173bがシリンダ173aの内部を摺動しながら移動することにより、シリンダ173a内部の洗浄液Lqに対して加える圧力を変化させる。
【0029】
シリンジ173には、洗浄液Lqの別の流路であって配管系の一部をなすチューブ32が接続されている。このチューブ32には、洗浄液Lqの流れを制御する電磁弁175、および洗浄液Lqの吸排動作が行われるポンプ176が順次介在している。チューブ32のシリンジ173に接続される側と異なる端部は、洗浄液Lqを収容する洗浄液タンク177内に到達している。
【0030】
分析支援用液体である洗浄液Lqとしては、イオン交換水、逆浸透膜投下水、蒸留水、または精製水などの純水が適用される。このような純水は、自動分析装置1の外部に設けられる純水装置によって生成され、所定の配管系を経由して洗浄液タンク177に供給されている(純水装置および配管系は図示せず)。
【0031】
以上の構成を有する試料分注部17におけるプローブ171の移動やプローブ171における検体の吸引および吐出を含む動作は、制御分析機構102が有する制御部26によって制御される。
【0032】
試薬分注部18は、試料分注部17と同様の構成を有する。また、洗浄部19のうち洗浄液Lqを吐出する部分の構成も、試料分注部17の構成と同様である。さらに、希釈液分注部20も試料分注部17と同様の構成を有しており(ただし、この場合のプローブ駆動部は水平方向の回転機能を具備しなくてもよい)、洗浄液Lqを希釈液として反応容器141への洗浄液Lqの吐出を行う。本実施の形態では、試薬分注部18、洗浄部19、および希釈液分注部20で使用する洗浄液Lqは、全て洗浄液タンク177から供給される。
【0033】
なお、生化学的な分析を行う際には一つの検体に対して2種類の試薬を用いることが多いため、第1試薬用の試薬容器保持部13と第2試薬用の試薬容器保持部13とを別個に設けてもよい。この場合には、個々の試薬容器保持部13に対応した試薬分注部18を2個設ければよい。より一般には、試薬容器保持部13や試薬分注部18を複数個設けることもできる。
【0034】
また、検体、試薬または希釈液の分注後の適当なタイミングで複数の反応容器141内の液体の攪拌を同時に行うために、攪拌部15を複数個設けてもよい。
【0035】
ところで、図1では、測定機構101の主要な構成要素を模式的に示すことを主眼としているため、構成要素間の位置関係は必ずしも正確ではない。正確な構成要素間の位置関係は、試薬容器保持部13の数や分注動作のインターバルにおける反応容器保持部14のホイールの回転態様などの各種条件に応じて定められるべき設計的事項である。
【0036】
次に、引き続き図1を参照して、自動分析装置1の制御分析機構102について説明する。制御分析機構102は、検体の分析に必要な情報や自動分析装置1の動作を指示する動作指示信号などを含む情報の入力を受ける入力部21と、検体の分析に関する情報を出力する出力部22と、測定機構101における測定結果に基づいて検体の分析データを生成するデータ生成部23と、データ生成部23で生成した分析データを用いて分析支援用液体の品質を判定する品質判定部24と、検体の分析に関する情報や自動分析装置1に関する情報を含む各種情報を記憶する記憶部25と、制御分析機構102内の各機能または各手段の制御を行うとともに測定機構101の駆動制御を行う制御部26と、を備える。
【0037】
入力部21は、キーボードやマウスを有する。また、入力部21として、トラックボール、トラックパッドなどのポインティングデバイスや、音声入力用のマイクロフォン等のユーザインターフェースをさらに具備してもよい。
【0038】
出力部22は、各種情報を表示する液晶、プラズマ、有機EL、CRT等のディスプレイ装置を有する。また、出力部22として、音声出力用のスピーカや、紙などに情報を印刷して出力するプリンタを具備させてもよい。
【0039】
データ生成部23は、測定機構101の測光部16から受信した測定結果の分析演算を行う。この分析演算では、測光部16から送られてくる測定結果に基づいて反応容器141内の液体の吸光度を算出したり、吸光度の算出結果と検量線や分析パラメータ等の各種情報とを用いて反応容器141内の液体の成分を定量的に求める成分量算出処理等を行ったりすることにより、検体ごとの分析データを生成する。このようにして生成された分析データは、出力部22から出力される一方、記憶部25に書き込まれて記憶される。
【0040】
品質判定部24は、データ生成部23で生成した分析データと記憶部25で記憶する基準データとを比較することによって洗浄液Lqの品質を判定する。
【0041】
記憶部25は、さまざまな情報を磁気的に記憶するハードディスクと、自動分析装置1が処理を実行する際にその処理に係るプログラムをハードディスクからロードして電気的に記録するメモリとを用いて実現され、分析項目、検体情報、試薬の種類、検体や試薬の分注量、試料や試薬の有効期限、分析に使用する検量線に関する情報、検量線の有効期限、各分析項目の参照値や許容値などの分析に必要なパラメータ、データ生成部23で生成した分析データなどを記憶、管理する。
【0042】
記憶部25が記憶するプログラムには、本実施の形態に係る自動分析装置の分析支援用液体の品質管理方法(後述)を自動分析装置1に実行させるプログラムも含まれる。また、記憶部25は、フレキシブルディスク、CD−ROM、DVD−ROM、フラッシュメモリ等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録された情報を読み取る補助記憶装置を具備してもよく、そのような記録媒体に対して前述したプログラムを記録しておくことも可能である。
【0043】
制御部26は、制御および演算機能を有するCPU(Central Processing Unit)等によって実現され、記憶部25で記憶されるプログラムを記憶部25から読み出すことによって自動分析装置1の各種動作の制御および演算を実行する。
【0044】
以上の機能構成を有する制御分析機構102は、一または複数のコンピュータを用いて実現される。このうち、制御分析機構102が複数のコンピュータを用いて実現される場合には、制御分析機構102が有する各機能を異なるコンピュータに適宜分散し、コンピュータ同士を直接的に接続するか、または通信ネットワーク(インターネット、イントラネット、専用回線網、LAN、電話網、等)を介して相互に接続すればよい。
【0045】
次に、本実施の形態に係る自動分析装置の分析支援用液体の品質管理方法の処理の概要を、図3に示すフローチャートを参照して説明する。なお、以下の説明においては、自動分析装置1が処理を実行するものとして説明を行うが、本実施の形態に係る自動分析装置の分析支援用液体の品質管理方法を実行する自動分析装置の構成は上述したものに限られるわけではない。
【0046】
まず、分析支援用液体である洗浄液Lqを検体に見立てて測定を行う(ステップS1)。具体的には、洗浄液Lqと試薬とを反応容器141に分注し、この分注した後の反応容器141内の液体(洗浄液Lqと試薬との混合液)に対して測光部16が光学的な測定を行う。ここでの測光部16による測定は、反応容器保持部14を回転させている間に行われる。
【0047】
このステップS1で分注する洗浄液Lqは、試料分注部17、試薬分注部18、洗浄部19、または希釈液分注部20のいずれかが有するプローブ内に充填されたものである。かかる洗浄液Lqを分注する際には、該当するプローブ内の洗浄液Lqを反応容器141に直接吐出するようにしてもよいし、該当するプローブ内の洗浄液Lqを空の検体容器121または反応容器141へいったん吐出した後、この吐出した洗浄液Lqを通常の検体と同様にプローブで所定量だけ吸引し、反応容器141へ吐出するようにしてもよい。
【0048】
ステップS1の処理は、通常の検体の分析動作と同様に、互いに異なる複数の検査項目に対して行うことが可能である。この場合の分注動作は検査項目によって異なり、例えば洗浄液Lqの分注に先立って試薬を分注する場合もあれば、2種類の試薬を分注する間に試料としての洗浄液Lqを分注する場合もある。また、洗浄液Lqのみを分注する場合もある。このため、分注および測光の各タイミングは、制御部26によって検査項目ごとに制御されている。
【0049】
その後、ステップS1で得た測定結果を用いることにより、データ生成部23が検査項目ごとの分析データを生成する(ステップS2)。このステップS2における分析データの生成処理は、通常の検体に対する分析データの生成処理と同様に行う。
【0050】
次に、品質判定部24が、ステップS3で生成した分析データを所定の基準データと比較することによって洗浄液Lqの品質を判定する(ステップS3)。その後、この判定結果を出力部22で出力する(ステップS4)。
【0051】
図4は、出力部22における洗浄液Lqの品質判定結果の表示出力例を示す図である。同図に示すテーブルTは、試料分注部17のプローブ171内に充填された洗浄液Lqに対して、基準データにおける正常範囲が互いに異なるA〜Eの5種類の検査項目について品質判定を行った場合の判定結果の表示出力例を示している。この場合、検査項目Cのみが正常範囲から外れている。したがって、検査項目CのみがNG(異常)であり、その他の検査項目A,B,DおよびEはOK(正常)と表示されている。
【0052】
この後、ステップS3における品質判定において異常と判定された検査項目がなければ(ステップS5でNo)、一連の分析支援用液体の品質管理処理を終了する。他方、ステップS3における品質判定において、図4に示す検査項目Cのように異常と判定された検査項目がある場合(ステップS5でYes)には、続くステップS6に進む。
【0053】
ステップS6では、分析支援用液体の品質管理処理の後で行う通常の検体の分析を全ての検査項目に対して中止するか否かの判定を行う。通常の検体の分析を全ての検査項目に対して中止する場合(ステップS6でYes)には、制御部26が全ての項目の分析を中止する設定を行う(ステップS7)。これにより、自動分析装置1は動作が停止する。この場合には、自動分析装置1の動作が停止した後、ユーザが洗浄液Lqの交換や、洗浄液タンク177ならびにチューブ31および32の清掃等のメインテナンスを行うこととなる。
【0054】
これに対して、通常の検体の分析を全ての検査項目に対して中止しない場合(ステップS6でNo)には、制御部26が所定のルールに基づいた設定を行う(ステップS8)。ここでの所定のルールとしては、例えば異常と判定された検査項目のみ通常の検体の分析を中止するようにすることができる。また、異常と判定された検査項目の数または種類に応じて、以後に行うべき分析動作を設定するようにしてもよい。
【0055】
ところで、以上説明した自動分析装置の分析支援用液体の品質管理方法を、自動分析装置1に電源を入れてスタンバイ状態になったときに自動的に実行するような設定としておけば、定期的に分析支援用液体の品質管理を行うことができるのでより好ましい。
【0056】
また、上述した自動分析装置の分析支援用液体の品質管理方法を、通常の検体の分析を所定回数または所定時間行うたびに定期的に実行するような設定としておいてもよいし、ユーザが入力部21から操作信号を入力することによって随時実行することが可能な設定としておいてもよい。
【0057】
なお、ステップS3における品質判定の結果、異常と判定された検査項目がある場合(ステップS5でYes)、出力部22がその後の自動分析装置1の動作の選択をユーザに促す内容を含む情報を表示出力するようにしてもよい。この場合、自動分析装置1は、入力部21からユーザによって入力された内容に応じた動作を行うこととなる。
【0058】
このように、分析支援用液体である洗浄液Lqの品質に異常が判明した場合、自動分析装置1が取り得る動作制御パターンを複数設けておくことにより、分析データの信頼性を確保した上で、分析の効率をも考慮した自動分析装置1の運用を実現することが可能となる。
【0059】
以上説明した本発明の一実施の形態によれば、試料を分注する試料分注手段、試薬を分注する試薬分注手段、反応容器を洗浄する洗浄手段または希釈液を分注する希釈液分注手段によって試料の分析を支援する分析支援用液体を反応容器に分注し、この分注した分析支援用液体を含む反応容器内の液体に対する光学的な測定を行い、測定した結果を用いて分析支援用液体の分析データを生成し、生成した分析データを基準データと比較することによって分析支援用液体の品質を判定することにより、自動分析装置における分析を支援する分析支援用液体が自動分析装置に供給された後の品質を適確に判定し、分析の精度を適正に維持することが可能となる。
【0060】
また、本実施の形態によれば、自動分析装置で使用される分析支援用液体の使用直前の最終的な状態での品質が分析データに影響するか否かを分析データとして測定し、異常がある場合にはその異常に応じた動作制御および異常内容のユーザへの告知を行うことにより、分析支援用液体の品質に異常がある状態を放置したまま分析を実行することを防止するとともに、分析データに異常が発生するのを未然に防止することができる。この結果、従来のように、分析データに異常が発生した後、その原因が分析支援用液体の劣化にあることを特定するまでに費やされる労力と時間の無駄をなくすことができ、より効率的な分析を実現することができる。
【0061】
さらに、本実施の形態によれば、分析支援用液体に対する測定結果が分析データとして得られるため、通常の検体の分析への影響度を明確に判定することが可能となる。
【0062】
加えて、本実施の形態によれば、従来の自動分析装置に対して新たな構成要素を付加する必要がなく、品質管理に関わる測定自体も通常の検体の分析動作と同じなので、自動分析装置内の分析支援用液体の品質を容易に管理することができる。
【0063】
ここまで、本発明を実施するための最良の形態を詳述してきたが、本発明は上述した一実施の形態によってのみ限定されるべきものではない。
【0064】
本発明は、検体の成分を免疫学的に分析する自動分析装置に対しても適用可能である。例えば、抗原抗体反応に基づく不均一系反応を用いた検体の免疫学的な分析を行う際には、B/F洗浄などを行う生理食塩水等のバッファ液を使用する。このため、不均一系反応を用いた免疫分析用の自動分析装置に対して本発明を適用する場合、バッファ液を生成する前の純水を分析支援用液体として品質管理処理を行ってもよいし、バッファ液自体を分析支援用液体として品質管理処理を行ってもよい。なお、この場合の自動分析装置は、B/F洗浄を行うB/F洗浄部、および測光部として発光物質の発光量をカウントする光電子増倍管が必要となる。これらの点を除く自動分析装置の構成は、上述した自動分析装置の構成とほぼ同様である。
【0065】
以下、免疫分析を行う場合の一例として、アルカリフォスファターゼ(ALP)という酵素を標識物質として用いることによってHBsAgの感染症検査を行う場合を説明する。HBsAgの感染症検査では、陽性と陰性の判定境界値であるカットオフ値(基準データに含まれる)は3800カウントに設定される。バッファ液を生成する際に使用する純水にはALPが本来含まれていないため、ALPに発光試薬を加えた時の発光量を与えるカウント値は、正常な場合300カウント程度となる(ここでの数値は、HBsAgの感染症検査における一例を示したものに過ぎない)。
【0066】
しかしながら、ALPは天然界にも多く存在しており、人の手などにも付着しやすい。このため、人の手などに付着したALPによって純水が汚染されてしまう可能性がある。その場合、汚染された純水に発光試薬を加えた後のカウント値は、数千カウント程度まで増加することもあり得る。したがって、天然界に存在するALPによって純水が汚染されると、分析データがカットオフ値を超え、本体は陰性である検体を陽性と誤判定してしまう恐れが生じる。
【0067】
このように、免疫学的な分析では微量の成分を高感度に測定するため、たとえ外部からの汚染物質の量が微量であったとしても、測定値に与える影響は多大なものとなり、場合によっては誤判定してしまうレベルとなり得る。
【0068】
本実施の形態によれば、上述した免疫学的な分析のように高感度の測定が要求される場合であっても、純水等の分析支援用液体の品質異常を適確に検知することができるので、分析データの誤判定を未然に防止することが可能となり、分析の精度を適正に維持することができる。
【0069】
以上の説明からも明らかなように、本発明は、ここでは記載していないさまざまな実施の形態等を含みうるものであり、特許請求の範囲により特定される技術的思想を逸脱しない範囲内において種々の設計変更等を施すことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の一実施の形態に係る自動分析装置要部の構成を模式的に示す図である。
【図2】試料分注部の構成を模式的に示す図である。
【図3】本発明の一実施の形態に係る自動分析装置の分析支援用液体の品質管理方法の概要を示すフローチャートである。
【図4】分析支援用液体の品質判定結果の出力部における表示出力例を示す図である。
【符号の説明】
【0071】
1 自動分析装置
11 検体移送部
12 検体容器保持部
13 試薬容器保持部
14 反応容器保持部
15 攪拌部
16 測光部
17 試料分注部(試料分注手段)
18 試薬分注部(試薬分注手段)
19 洗浄部(洗浄手段)
20 希釈液分注部(希釈液分注手段)
21 入力部
22 出力部(出力手段)
23 データ生成部
24 品質判定部
25 記憶部
26 制御部(制御手段)
31、32 チューブ
101 測定機構
102 制御分析機構
111、121 検体容器
112 ラック
131 試薬容器
141 反応容器
171 プローブ
172 プローブ駆動部
173 シリンジ
173a シリンダ
173b ピストン
174 ピストン駆動部
175 電磁弁
176 ポンプ
177 洗浄液タンク
CR1、CR2、CR3 情報コード読取部
Lq 洗浄液(分析支援用液体)
T テーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
純水を含む液体であって試料の分析を支援する液体である分析支援用液体を圧力伝達用媒体として前記試料を分注する試料分注手段と、前記分析支援用液体を圧力伝達用媒体として試薬を分注する試薬分注手段と、前記分析支援用液体を洗浄液として前記試料と前記試薬とを混合して反応させる反応容器を洗浄する洗浄手段と、前記分析支援用液体を含む希釈液を分注する希釈液分注手段とを備え、前記試料の分析を行う自動分析装置において、前記分析支援用液体の品質を管理する自動分析装置の分析支援用液体の品質管理方法であって、
前記分析支援用液体を、前記試料分注手段、前記試薬分注手段、前記洗浄手段または前記希釈液分注手段によって前記反応容器に分注する分注ステップと、
前記分注ステップで分注した前記分析支援用液体を含む前記反応容器内の液体に対する光学的な測定を行う測光ステップと、
前記測光ステップで測定した結果を用いて前記分析支援用液体の分析データを生成するデータ生成ステップと、
前記データ生成ステップで生成した分析データを基準データと比較することによって前記分析支援用液体の品質を判定する品質判定ステップと、
を有することを特徴とする自動分析装置の分析支援用液体の品質管理方法。
【請求項2】
前記測光ステップで光学的な測定を受ける前記反応容器内の液体は、前記分析支援用液体と検査項目に応じた試薬との混合液であることを特徴とする請求項1記載の自動分析装置の分析支援用液体の品質管理方法。
【請求項3】
前記品質判定ステップで前記分析支援用液体の品質に異常があると判定した場合、前記試料に対して行う分析のうち少なくとも前記異常に関連した検査項目の分析を中止する制御を行う制御ステップをさらに有することを特徴とする請求項2記載の自動分析装置の分析支援用液体の品質管理方法。
【請求項4】
前記品質判定ステップで判定した結果を含む情報を出力する出力ステップをさらに有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の自動分析装置の分析支援用液体の品質管理方法。
【請求項5】
純水を含む液体であって試料の分析を支援する液体である分析支援用液体を圧力伝達用媒体として前記試料を分注する試料分注手段と、
前記分析支援用液体を圧力伝達用媒体として試薬を分注する試薬分注手段と、
前記分析支援用液体を洗浄液として前記試料と前記試薬とを混合して反応させる反応容器を洗浄する洗浄手段と、
前記分析支援用液体を含む希釈液を分注する希釈液分注手段と、
前記試料分注手段、前記試薬分注手段、前記洗浄手段または前記希釈液分注手段によって前記反応容器に分注された前記分析支援用液体を含む液体に対する光学的な測定を行う測光手段と、
前記測光手段で測定した結果を用いて前記分析支援用液体の分析データを生成するデータ生成手段と、
前記データ生成手段で生成した分析データを基準データと比較することによって前記分析支援用液体の品質を判定する品質判定手段と、
を備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項6】
前記測光手段によって光学的な測定を受ける前記反応容器内の液体は、前記分析支援用液体と検査項目に応じた試薬との混合液であることを特徴とする請求項5記載の自動分析装置。
【請求項7】
前記品質判定手段で前記分析支援用液体の品質に異常があると判定した場合、前記試料に対して行う分析のうち少なくとも前記異常に関連した検査項目の分析を中止する制御を行う制御手段をさらに備えたこと特徴とする請求項6記載の自動分析装置。
【請求項8】
前記品質判定手段で判定した結果を含む情報を出力する出力手段をさらに備えたことを特徴とする請求項5〜7のいずれか一項記載の自動分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−285708(P2007−285708A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−109719(P2006−109719)
【出願日】平成18年4月12日(2006.4.12)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】