説明

自動分析装置及びその動作不良判定方法

【課題】試料分注ユニットの吸引動作が適切に実行されたか否かを判別することができる自動分析装置及びその動作不良判定方法を提供する。
【解決手段】同一試料について複数回の吸引動作を実行する自動分析装置において、試料分注ユニットと、試料容器内の試料の液面を検出する液面センサと、連続する二回の吸引動作のうちの第1の吸引動作開始時に検出された液面高さh0及び試料吸引量から当該第1の吸引動作終了時の液面高さh1を演算する演算部と、演算部で演算された液面高さh1を記憶する記憶部と、第1の吸引動作に続く第2の吸引動作開始に検出された液面高さh2を第1の吸引動作終了時の液面高さh1と比較し、両液面高さh1、h2の差が予め設定した閾値dを超えるか否かで第1又は第2の吸引動作の不良の有無を判定する判定部とを備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同一試料について複数回の吸引動作を実行する自動分析装置及びその試料吸引動作の不良の有無を判定する動作不良判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
患者の血液や尿等の生体試料の成分を分析する臨床検査は、試料と試薬との反応液の色の変化を吸光度変化として測定し、目的成分の定性・定量分析をする方式が一般的である。こうした臨床検査に用いられるのが自動分析装置であるが、この自動分析装置には、試料分注動作中に静電容量を用いた液面センサで試料容器内の試料の液面位置を検出して試料の吸引動作を実行する機能を備えたものがある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−58323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、臨床検査では、検査結果の妥当性の証明に対する要求が強まってきていて、検査工程の自動化が普及した現在に至っては、検査に用いられる自動分析装置の各部の動作が正しく実行されているか否かをチェックすることが求められつつある。
【0005】
しかしながら、病院等の臨床検査に供される血液等の生体試料やその由来となる患者は多様である。例えば、試料の種類やその由来となる患者によって試料容器内の試料の液面状態も様々であり、液面が露出しているものもあれば積層した泡で液面が被覆されているものもある。また、液面上に積層する泡の厚みも一様ではない。
【0006】
静電容量式の液面センサで試料の液面を検出する場合、液面上の泡を液面として検出する結果、試料の液体部分ではなく泡部分を吸引してしまったり、試料の吸引量にばらつきが生じたりし得る。試料の吸引動作においては、分注する試料の質及び量の双方が適切であることが求められる。
【0007】
本発明の目的は、試料分注ユニットの吸引動作が適切に実行されたか否かを判別することができる自動分析装置及びその動作不良判定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、同一試料について複数回の吸引動作を実行する自動分析装置において、試料分注ユニットと、試料容器内の試料の液面を検出する液面センサと、連続する二回の吸引動作のうちの第1の吸引動作開始時に検出された液面高さ及び試料吸引量から当該第1の吸引動作終了時の液面高さを演算する演算手段と、前記演算手段で演算された液面高さを記憶する記憶手段と、前記第1の吸引動作に続く第2の吸引動作開始時に検出された液面高さを前記第1の吸引動作終了時の液面高さと比較し、両液面高さの差が予め設定した閾値を超えるか否かで前記第1又は第2の吸引動作の不良の有無を判定する動作不良判定手段とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、試料分注ユニットの吸引動作が適切に実行されたか否かを判別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明を適用する自動分析装置の一構成例を表す概略図である。
【図2】動作不良判定手段による動作不良判定処理を含めた制御装置による分析装置の試料吸引動作の制御手順の一例を表すフローチャートである。
【図3】試料の状態及びそれに応じた試料吸引動作の挙動の第1の例を模式的に例示した図である。
【図4】試料の状態及びそれに応じた試料吸引動作の挙動の第2の例を模式的に例示した図である。
【図5】試料の状態及びそれに応じた試料吸引動作の挙動の第3の例を模式的に例示した図である。
【図6】試料の状態及びそれに応じた試料吸引動作の挙動の第4の例を模式的に例示した図である。
【図7】試料の状態及びそれに応じた試料吸引動作の挙動の第5の例を模式的に例示した図である。
【図8】試料の状態及びそれに応じた試料吸引動作の挙動の第6の例を模式的に例示した図である。
【図9】同一試料を対象として吸引量の異なる3種類の吸引動作をした場合の圧力と時間の関係を示す説明図である。
【図10】動作不良判定手段で動作不良ありと判定された旨を報知する報知手段の一例を表す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に図面を用いて本発明の実施の形態を説明する。
【0012】
図1は本発明を適用する自動分析装置の一構成例を表す概略図である。
【0013】
図1に示した自動分析装置は、臨床検査に供される生体試料の特定成分の定性分析及び定量分析を行うものであり、同一試料について複数回の吸引動作を実行し得るものである。この自動分析装置は、試料の分析処理を実行する分析装置2と、この分析装置2の動作を制御する制御装置1とを備えており、分析装置2と制御装置1とはインターフェース3を介して接続している。
【0014】
制御装置1は、入力操作を行うための入力部4と、各種演算処理を実行する演算部5と、分析装置2の動作を制御する制御部6と、各種データを記憶する記憶部7と、後述する動作不良判定処理を実行する判定部18と、各種データや後述するアラーム等を表示する表示部19とを備えている。
【0015】
分析装置2は、試料容器8と、この試料容器8の試料を分注する試料分注ユニット9と、多数の試薬ボトル12を収容した試薬ディスク13と、試薬ボトル12の試薬を分注する試薬分注ユニット14と、試料と試薬を混合する反応容器10と、この反応容器10を浸漬するための水を保持する恒温槽17と、反応容器10内の試料及び試薬を攪拌する撹拌機構16と、反応容器10内の試料及び試薬の混合液の吸光度を測定する測光ユニット11とを備えている。
【0016】
試料分注ユニット9には、サンプルプローブ24と、このサンプルプローブ24に試料容器8内の試料を吸い込んだりサンプルプローブ24に吸い込んだ試料を反応容器10に吐出したりする試料分注シリンジ21と、試料容器8内の試料の液面を検出する液面センサ(図示せず)を有する液面検出ユニット23とが備わっている。液面センサとしては、例えばサンプルプローブ24と試料との間の静電容量の変化を検出する一般的な静電容量式のものを用いることができる。また、サンプルプローブ24と試料分注シリンジ21との間には、試料分注ユニット9による試料の吸引圧力を測定する圧力センサ22が設けられている。
【0017】
分析装置2の動作は、インターフェース3を介して制御装置1の制御部6によって制御される。分析装置2による試料測定の基本動作を説明すると、制御装置1は、まず液面検出ユニット23を備えた試料分注ユニット9を駆動して、試料容器8から必要量の試料をサンプルプローブ24内に吸引する。そして、サンプルプローブ24内に吸引された試料を反応容器10に吐出する。同様に、制御装置1は、試薬分注ユニット14を駆動して、試薬ボトル12から必要量の試薬を試薬分注ユニット14のプローブ15内に吸引し反応容器10へ吐出する。次に、制御装置1は、撹拌機構16を駆動して反応容器10内の試料を試薬とともに撹拌した後、反応容器10内の液体、すなわち試料及び試薬の混合液の吸光度を測光ユニット11で測定し、測光ユニット11から入力したデータを演算部5で測定結果に換算する。取得された測定結果は記憶部7に記憶されるとともに、必要に応じて表示部19に表示させることも可能である。また、特に図示していないが、制御装置1にプリンターや記録手段等の出力装置を接続し、出力装置を介して各種データを紙や記憶媒体に適宜出力することもある。
【0018】
図2は判定部18による動作不良判定処理を含めた制御装置1による分析装置2の試料吸引動作の制御手順の一例を表すフローチャートである。
【0019】
図2のフローチャートでは、1つの同一試料に対して2項目を測定する場合の手順を表しており、1項目目の測定に係る第1の吸引動作と2項目目の測定に係る第2の吸引動作の実行手順を含んでいる。
【0020】
<ステップ1−ステップ3>
図2の手順を開始すると、制御装置1は、まず1項目目の測定に伴って試料分注ユニット9を駆動し、サンプルプローブ24を試料容器8内に入れて下降させ(ステップ1)、サンプルプローブ24の先端(開口部)を試料容器8内の試料の液面に接触させる(ステップ2)。液面センサからの検出信号によってサンプルプローブ24の先端が試料の液面に接触したことを認識したら、制御装置1は、液面センサの検出信号と試料分注ユニット9への動作指令値とを基に認識した試料液面の高h0を記憶部7に記憶する(ステップ3)。
【0021】
<ステップ4−ステップ6>
また、液面センサからの検出信号によってサンプルプローブ24の先端が試料の液面に接触したことを認識したら、制御装置1は、サンプルプローブ24の下降動作を停止させる(ステップ4)。このとき、液面検知を認識してからサンプルプローブ24の下降停止を指令するまで、及び下降停止を指令してからサンプルプローブ24の下降動作が実際に停止するまでにそれぞれ微小な応答遅れがあるため、下降動作の停止指令があってから微小距離だけサンプルプローブ24は下降する(後の図3等における「サンプルプローブ停止距離」参照)。
【0022】
続いて、制御装置1は、試料分注ユニット9に試料の第1の吸引動作(吸引量=V1)を実行させるとともに、圧力センサ22からの検出信号を入力して第1の吸引動作中の圧力変化量p1(後の図9参照)を計測し(ステップ5)、計測した圧力変化量p1を記憶部7に記憶する(ステップ6)。第1の吸引動作による試料の吸引量V1は1項目目の測定に伴って予め設定された値であり、設定に応じて試料分注シリンジ21の動作を指令したら試料分注シリンジ21の動作を停止して第1の吸引動作を完了する。
【0023】
<ステップ7>
このステップは、前述した動作不良判定処理のうちの一つであり、第1の吸引動作の終了時に試料の液面が有るか否か(サンプルプローブ24の先端が試料の液面に接触していることが液面センサからの信号を基に認識されるか否か)を判定する手順である。本ステップにおいて、サンプルプローブ24が試料液面から離れていて“液面無し”と判定された場合には、第1の吸引動作が不適切であると判定し、ステップ21へ移ってアラームを発生させて本図の手順を終了する。一方、“液面有り”と判定された場合には、続くステップ8へ手順を移す。
【0024】
なお、本ステップで“液面なし”と認識されるに至る事象としては、例えばステップ3の実行時に試料液面の上部に泡の層があって実際の液面ではなく泡の層の表面が同ステップで液面として検出され、かつ、第1の吸引動作で泡を吸引した結果、或いは第1の吸引動作中に泡が弾けて泡の層が消滅又は厚みを大きく減らした結果、第1の吸引動作終了時に液面が検出されなくなるような場合がある。このような場合、第1の吸引動作では所要量の試料が吸引できていないため、例えば図10に例示したように、表示部19の表示画面20に「試料が泡立っています」或いは「吸引動作が正常に行われませんでした」等のアラーム31を表示する。但し、アラームは吸引動作が正常に行われなかったこと又はその理由を操作者に報知するものであるため、このような文字表示による警告の他、音声、警告音、警告灯等も適用され得る。
【0025】
<ステップ8−ステップ9>
ステップ7で“液面有り”と判定された場合、制御装置1は、第1の吸引動作終了時における試料液面の高さh1を演算部5で算出するとともに、算出した液面の高さh1を記憶部7に記憶し(ステップ8)、試料分注ユニット9を駆動して、第1の吸引動作でサンプルプローブ24に吸い込んだ試料を反応容器10に吐出する(ステップ9)。
【0026】
ステップ8における試料液面の高さh1の算出は、例えば次の(式1)による。
h1=h0−(V1/S)・・・(式1)
ここで、h0は記憶部7から読み出した第1の吸引動作開始前の試料の液面高さh0(検出値)、Sは試料容器8の水平断面の断面積、V1は第1の吸引動作における試料の吸引量(設定値)である。
【0027】
<ステップ10−ステップ12>
続いて2項目目の試料吸引動作(第2の吸引動作)の準備に移るが、ステップ10−12は第1の吸引動作に伴うステップ1−ステップ3に対応している。すなわち、制御装置1は、サンプルプローブ24を試料容器8内に入れて下降させて(ステップ10)、サンプルプローブ24の先端を試料容器8内の試料の液面に接触させ(ステップ11)、認識した試料液面の高h2を記憶部7に記憶する(ステップ12)。
【0028】
<ステップ13>
このステップ13も、前述した動作不良判定処理のうちの一つである。本ステップでは、判定部18で、第2の吸引動作開始前に、第1の吸引動作終了時の試料液面の高さh1と第2の吸引動作開始前の試料液面の高さh2を比較し、高さh2が高さh1から変化していないか否かを判定する。具体的には、液面高さh1,h2の差が予め設定したしきい値dよりも小さいかどうかの判定であり、本実施の形態においては次の(式2)で表される条件を満たすか否かを判定する。
【0029】
|h1−h2|<d・・・(式2)
ここで、しきい値dは、例えば液面センサに固有の検出誤差と試料分注ユニット9の動作誤差の和で定めた許容誤差を採用することができる。
【0030】
液面高さh1,h2の間にしきい値d以上の差があって本ステップの判定が満たされない場合には、試料液面上の泡の層の存在等によって第1の吸引動作に動作不良があって正常に試料が吸引されなかったと判定し、ステップ21へ移って図10のようなアラームを出して本図の手順を終了する。一方、液面高さh1,h2の差がしきい値dよりも小さく本ステップの判定が満たされた場合には、続くステップ14へ手順を移す。
【0031】
なお、本ステップを満たさない状態に至る事象としては、例えば第1の吸引動作終了以降に試料液面上の泡が弾けて泡の層が消滅又は厚みを大きく減らした場合、第1の吸引動作終了時に試料液面上の試料液面方向の泡の分布に偏りがあって本ステップまでに泡の層の表面が平坦に変化した場合等が考えられる。前者の場合はh1>h2となるが、後者の場合にはh1<h2となる場合もある。このように、液面高さh1,h2のどちらが大きいかの情報を基に、ステップ13の判定が満たされない状態に至った事象を分析し得るの、したがって、例えば、第1の吸引動作終了時の液面高さh1が大きいときは第2の吸引動作に、第2の吸引動作開始時の液面高さh2が大きいときは第2の吸引動作に動作不良があったと判定する等、h1,h2の大小関係から第1及び第2の吸引動作のどちらに動作不良があったのか、或いは第1又は第2の吸引動作にどのような不良原因が考えられるのか等といった付加情報を、アラーム31で併せて報知したり記憶部7に記憶したりすることもできる。
【0032】
<ステップ14−ステップ16>
続くステップ14−16は第1の吸引動作に伴うステップ4−ステップ6に対応している。すなわち、制御装置1は、サンプルプローブ24の下降動作を停止させ(ステップ14)、試料分注ユニット9に試料の第2の吸引動作(吸引量=V2)を実行させるとともに、圧力センサ22からの検出信号を入力して第2の吸引動作中の圧力変化量p2(後の図9等参照)を計測し(ステップ15)、計測した圧力変化量p2を記憶部7に記憶する(ステップ16)。第2の吸引動作による試料の吸引量V2は2項目目の測定に伴って予め設定された値である。
【0033】
<ステップ17>
このステップ17は第1の吸引動作後の上記ステップ7に対応している。すなわち、本ステップも前述した動作不良判定処理のうちの一つであり、第2の吸引動作の終了時に試料の液面が有るか否か(サンプルプローブ24の先端が試料の液面に接触していることが液面センサからの信号を基に認識されるか否か)を判定する手順である。本ステップにおいて、サンプルプローブ24が試料液面から離れていて“液面無し”と判定された場合には、第2の吸引動作が不適切であると判定し、ステップ21へ移って図10のようなアラームを発生させて本図の手順を終了する。一方、“液面有り”と判定された場合には、続くステップ18へ手順を移す。
【0034】
なお、本ステップで“液面なし”と認識されるに至る事象としては、例えばステップ12の実行時にも試料液面の上部に泡の層が残存していて実際の液面ではなく泡の層の表面が同ステップで液面として検出され、かつ、第2の吸引動作で泡を吸引した結果、或いは第2の吸引動作中に泡が弾けて泡の層が消滅又は厚みを大きく減らした結果、第2の吸引動作終了時に液面が検出されなくなるような場合がある。
【0035】
<ステップ18>
このステップ18は第1の吸引動作後の上記ステップ8に対応している。すなわち、制御装置1は、第2の吸引動作終了時における試料液面の高さh3を演算部5で算出するとともに、算出した液面の高さh3を記憶部7に記憶する。
【0036】
本ステップの試料液面の高さh3の算出は、例えば次の(式3)による。
h3=h2−(V2/S)・・・(式3)
ここで、h2は記憶部7から読み出した第2の吸引動作開始前の試料の液面高さh2(検出値)、Sは試料容器8の水平断面の断面積、V2は第2の吸引動作における試料の吸引量(設定値)である。
【0037】
<ステップ19>
このステップ19は、前述した動作不良判定処理のうちの一つである。本ステップは、第1の吸引動作中の圧力変化量p1と第2の吸引動作中の圧力変化量p2とを比較して両者の間に必要以上に差がないかどうかを判定するものであり、具体的には、圧力変化量p1,p2の差が予め設定したしきい値p0よりも小さいかどうか、すなわち次の(式4)で表される条件を満たすか否かを判定する。
【0038】
|p1−p2|<p0・・・(式4)
ここで、しきい値p0は、例えば試料分注シリンジ21の動作誤差等で定めた許容誤差を採用することができる。
【0039】
圧力変化量p1,p2の間にしきい値p0以上の差があって本ステップの判定が満たされない場合には、試料液面上の泡の層の存在等によって第1又は第2の吸引動作に不良があって正常に試料が吸引されなかったと判定し、ステップ21へ移って図10のようなアラームを出して本図の手順を終了する。一方、圧力変化量p1,p2の差がしきい値p0よりも小さく本ステップの判定が満たされた場合には、続くステップ20へ手順を移す。
【0040】
なお、本ステップを満たさない状態に至る事象としては、例えば第1の吸引動作終了以降に試料液面上の泡が弾けて泡の層が消滅又は厚みを大きく減らした場合、第1の吸引動作終了時に試料液面上の試料液面方向の泡の分布に偏りがあって本ステップまでに泡の層の表面が平坦に変化した場合等が考えられる。前者の場合はh1>h2となるが、後者の場合にはh1<h2となる場合もある。このように、液面高さh1,h2のどちらが大きいかの情報で、ステップ13の判定が満たされない状態に至った事象を分析し得るので、h1,h2の大小関係から特定した当該事象を第1の吸引動作の不良原因の付加情報として警告とともに報知(例えば表示部19に表示)又は記憶部7に記憶することもできる。
【0041】
ここで、図9を用いてステップ19の判定原理を説明する。図9は同一試料を対象として吸引量の異なる3種類の吸引動作(2.0μL、3.0μL、4.0μL)をした場合の圧力と時間の関係を示す説明図である。
【0042】
図9に示したように、時間0で吸引を開始してから吸引動作が終了するまでの間は圧力が変化するが、吸引量が多いほど吸引開始時の圧力に戻り始めるまでの時間が大きくなる。すなわち、吸引量2.0μL,3.0μL,4.0μLの各吸引動作における吸引開始から圧力が復帰し始めるまでの経過時間をT1,T2,T3とすると、T1<T2<T3となる。
【0043】
一方、各グラフの最下点における圧力(圧力変化量すなわち圧力変化の最大幅)は、吸引量とは無関係にほぼ等しいことが分かる。すなわち、吸引量2.0μL,3.0μL,4.0μLの各吸引動作における圧力変動線の最下点の値をP1,P2,P3とすると、P1=P2=P3となる。
【0044】
したがって、本実施の形態のように同一試料に対して複数回の試料吸引動作を実行する場合、仮に試料吸引動作毎に吸引量が異なっても(図2の例で言えば、例えばV1>V2であっても)、同一試料を対象にして実行する吸引動作はそれぞれ正常に実行されていれば圧力変化量は許容誤差の範囲で等しくなる。したがって、ある吸引動作中の圧力変化量を次の吸引動作中の圧力変化量と比較して、両者の差が許容誤差内であって上記式(4)の条件が満足されれば、両吸引動作は正常に実行されたと推定することができる。反対に、両吸引動作中の圧力変化量に許容誤差を超える差があって上記(式4)の条件が満たされない場合には、前後いずれか又は双方の吸引動作に不良があったものと推定できる。よって、ステップ19の手順を実行することによって、第1及び第2の吸引動作の少なくともいずれかに吸引不良があったかどうかを判定することができる。
【0045】
<ステップ20>
このステップ20は第1の吸引動作後の上記ステップ9に対応している。すなわち、制御装置1は、試料分注ユニット9を駆動して、第2の吸引動作でサンプルプローブ24に吸い込んだ試料を反応容器10に吐出する。
【0046】
ステップ20の手順を終えたら、制御装置1は図2の手順を終了する。但し、測定項目が3項目ある場合、制御装置1は、測定レシピに従ってさらに第3の吸引動作を続け、第2及び第3の吸引動作に関して図2のステップ7,13,17,19に相当する動作不良判定処理を実行する。測定項目が4項目以上ある場合であっても、連続する2回の吸引動作(第3及び第4の吸引動作等)に関し、同じように図2のステップ7,13,17,19に相当する動作不良判定処理を実行する。
【0047】
ここで、病院等の臨床検査に供される血液等の試料やその由来となる患者は多様である。試料の種類やその由来となる患者によって試料容器内の試料の液面状態も様々であり、液面が露出しているものもあれば積層した泡で液面が被覆されているものもある。また、液面上に積層する泡の厚みも一様ではない。試料の状態及びそれに応じた試料吸引動作の挙動の第1−第6の例を図3−図8にそれぞれ模式的に例示する。
【0048】
図3は試料液面上に泡の層がなく試料液面が露出した状態を表している。本図においては、吸引動作に伴って状態1→状態2→状態3と進捗していく例を表している。
【0049】
本例の場合、吸引前の時点で試料液面が露出しているので、サンプルプローブ24を下降させていく過程で液面センサによって検出される液面高さは試料液面(試料の液体部分の表面)である(状態1)。状態1は図2のフローチャートにおけるステップ3,12の実行時の状態に相当し、ステップ3,12で検出される試料液面の高さh0,h2が状態1の図に表示した吸引前における試料液面の高さH1に相当する。
【0050】
試料液面が検出されたらサンプルプローブ24の下降動作を停止するが、サンプルプローブ24の液面への接触が検出されてから実際にサンプルプローブ24の下降動作が停止するまでにサンプルプローブ24は微小距離(サンプルプローブ停止距離)だけ下降し、先端をサンプルプローブ停止距離だけ試料に差し込んで停止する結果、サンプルプローブ24の先端の高さはH1よりも低位置の高さH2になる(状態2)。状態2は図2のフローチャートにおけるステップ4,14の実行時の状態に相当する。
【0051】
その後、状態2で試料吸引動作を開始して完了すると、試料容器8内の試料がサンプルプローブ24に吸い込まれ、吸引量に応じて液位が下がる(状態3)。状態3は図2のフローチャートにおけるステップ5,15の実行後の状態に相当し、ステップ8,18で算出される試料液面の高さh1,h3が状態3の図に表示した吸引後の試料液面高さH3に相当する。本例ではH3はH2よりも高位置である。
【0052】
本例の吸引動作は理想的なものであり、試料吸引動作に問題はない。
【0053】
例えば図2のフローチャートにおいて、第1の吸引動作が本例の状態で実行された場合、ステップ7の判定が満たされる。また、状態3の時点で液面上に泡の層がないので、ステップ8で算出される第1の吸引動作後の液面高さh1は、ステップ12で算出される第2の吸引動作前の液面高さh2と理論上は許容誤差の範囲内で一致するため、ステップ13の判定も満たされる。第2の吸引動作後のステップ17の判定もステップ7と同様に満たされる。また、第1及び第2の吸引動作ともサンプルプローブ24の先端が試料に浸漬した状態で完了するため、両吸引動作中の圧力変化量p1,p2は同じように推移するため、ステップ19の判定も満たされる。すなわち、アラームが出されることなく、正常に図2の手順を実行し終えることができる。
【0054】
図4及び図5は試料液面上に泡の層があって試料液面が泡で覆われた状態を表しており、特に図4の例は泡の層の厚さがサンプルプローブ停止距離と同程度の場合、図5の例は泡の層の厚さがサンプルプローブ停止距離よりも大きい場合を例示している。
【0055】
図4及び図5の例のどちらであっても、吸引前の時点で試料液面が泡の層で覆われているため、サンプルプローブ24を下降させていく過程で液面センサによって泡の層の表面の高さが液面高さH1として検出されてしまう(状態1)。そして、図4の例では実際の液面高さがサンプルプローブ24の停止高さH2にほぼ一致(試料液面に先端を接触させた状態でサンプルプローブ24の下降動作が停止)し、図5の例に至ってはサンプルプローブ24の下降動作が停止してもなおプローブ先端が液面に到達しない(各状態2)。
【0056】
その後、試料吸引動作を実行すると、図4の例では液面上の泡と表層の微量の試料を吸引し、図5の例では泡の層の大部分を吸引したとする。或いは、泡の層は吸引されて消滅する場合に限らず、泡が弾けて消滅する場合もある。いずれにしても、図4の例及び図5の例の双方において、吸引動作後にサンプルプローブ24は液面にも泡の層にも接触していない(各状態3)。この場合、図4の例、図5の例とも当該吸引動作で主に泡を吸引した結果、所要量の試料を吸引できていない可能性が高い。
【0057】
例えば図2のフローチャートにおいて、第1又は第2の吸引動作が図4又は図5の例の状態で実行された場合、吸引後に液面が検出されないのでステップ7又はステップ17の判定が満たされず、アラームを伴って処理が中止される。
【0058】
図6及び図7は試料液面上に泡の層があって試料液面が泡で覆われた状態を表しており、それぞれ状態1,2は図4及び図5の例の状態1,2と同じである。
【0059】
図6及び図7の各例では、吸引動作後も依然として液面上に泡の層が残存しており、吸引後の泡の層の表面の高さH3が、図6の例では吸引前の液面高さH1(検出値)と吸引量(設定値)とから算出される吸引後の液面高さよりも依然として許容誤差の範囲を超えて高く、図7の例では算出される吸引後の液面高さにH3が偶然にほぼ一致するものとする。
【0060】
図6及び図7の例の場合も、図4及び図5の例と同じく主に泡を吸引することから所要量の試料を吸引できていない可能性が高い。しかし、例えば図2の手順を適用しても、第1又は第2の吸引動作が図4又は図5の例の状態で実行されると、吸引後に液面が検出されるのでステップ7又はステップ17の判定が満たされてしまうため、液面センサによる液面の有無の検出によってのみでは吸引エラーを認識することができない。
【0061】
それに対し、本実施の形態の場合、図6の例に図2の手順を適用すると、ステップ7の判定は満たされるが、ステップ8で算出される吸引後の液面高さと実際の吸引後の泡の層の高さH3との間に許容誤差を超えた差があるため、第2の吸引動作に入る際にステップ12でH3が試料の液面高さh2として検出され、ステップ13の処理が実行される結果、ステップ13の判定が満たされずにアラームを伴って処理が中止される。
【0062】
一方、図7の例に図2の手順を適用した場合、ステップ7の判定が満たされ、ステップ8で算出される吸引後の液面高さが実際の吸引後の泡の層の高さH3に偶然一致するためステップ13の判定をも満たされてしまう。仮に第2の吸引動作後に図4又は図5の状態3のようになった場合にはステップ17の判定でエラーを認識して処理を中止し得るが、液面が検出された場合にはステップ17の判定をも満たし得る。しかし、第1の吸引動作で主に泡を吸引したような場合、吸引初期の泡の層の有無、泡の層の厚み、及び液面とプローブ先端の位置関係等を含めて第2の吸引動作と条件が一致することは普通ないので、第1及び第2の吸引動作中の圧力変化量p1,p2の間に誤差の範囲を超えて差が生じるのが通常である。そのため、図7のような稀なケースでも、ステップ19の判定でエラーを認識して処理を中止し得る。
【0063】
以上のように、本実施の形態においては、静電容量式の液面センサでは単純に検出できないような試料吸引動作の不良を検出することができる。したがって、試料分注ユニットの吸引動作が適切に実行されたか否か、すなわち適正な質の試料が適正量だけ吸引できたか否かを判別することができ、測定結果の信頼性を向上させることができる。
【0064】
なお、本実施の形態では、ステップ13,19の双方の処理を実行する例を図2で説明したが、ステップ13,19の処理はそれぞれ単独でも、静電容量式の液面センサでは単純に検出できないような試料吸引動作の不良を検出することができる。したがって、ステップ13,19のいずれかの処理を省略しても、従来に比べて測定結果の信頼性を向上させることができる。
【0065】
なお、試料液面が泡の層で覆われていても、その泡の層が図8に示したようにサンプルプローブ停止距離に対して一定以上薄く、停止したサンプルプローブ24の先端の高さH2が所要量の試料(液体成分)を吸引できるだけ液面よりも低位置になる場合には、図2の手順を適用しても、第1の吸引動作前に液面高さを検出してから第2の吸引動作前に液面高さを検出するまでの間に泡が弾けて泡の層の厚みが許容誤差を超えて薄くなるとステップ13でエラー終了する場合こそあり得るが、さもなければ必要以上にエラー終了することはない。
【符号の説明】
【0066】
5 演算部(演算手段)
7 記憶部(記憶手段)
9 試料分注ユニット
18 判定部(動作不良判定手段)
21 試料分注用シリンジ
22 圧力センサ
23 液面出ユニット
24 サンプルプローブ
31 アラーム(報知手段)
d 閾値
h0−h3 液面高さ
V1,V2 試料吸引量
p1,p2 圧力変化量
p0 閾値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一試料について複数回の吸引動作を実行する自動分析装置において、
試料分注ユニットと、
試料容器内の試料の液面を検出する液面センサと、
連続する二回の吸引動作のうちの第1の吸引動作開始時に検出された液面高さ及び試料吸引量から当該第1の吸引動作終了時の液面高さを演算する演算手段と、
前記演算手段で演算された液面高さを記憶する記憶手段と、
前記第1の吸引動作に続く第2の吸引動作開始時に検出された液面高さを前記第1の吸引動作終了時の液面高さと比較し、両液面高さの差が予め設定した閾値を超えるか否かで前記第1又は第2の吸引動作の不良の有無を判定する動作不良判定手段と
を備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項2】
請求項1の自動分析装置において、
前記分注ユニットによる試料の吸引圧力を測定する圧力センサと、
前記圧力センサにより検出された圧力変化量を記憶する記憶手段と、
前記第1の吸引動作終了時の液面高さと第2の吸引動作開始時の液面高さとの差が前記閾値以下であった場合に、前記第1及び第2の吸引動作時の圧力変化量を比較し、両圧力変化量の差が予め設定した閾値を超えるか否かで前記第1又は第2の吸引動作の不良の有無をさらに判定する動作不良判定手段と
を備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項3】
請求項1又は2の自動分析装置において、
前記動作不良判定手段で動作不良ありと判定された場合にその旨を報知する報知手段を備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項4】
請求項1−3のいずれかの自動分析装置において、
前記動作不良判定手段は、前記第1の吸引動作終了時の液面高さと第2の吸引動作開始時の液面高さとの差が前記閾値を超えた場合、前記第1の吸引動作終了時の液面高さが大きいときは前記第1の吸引動作に、前記第2の吸引動作開始時の液面高さが大きいときは前記第2の吸引動作に動作不良があったと判定することを特徴とする自動分析装置。
【請求項5】
請求項2−4のいずれかの自動分析装置において、
前記圧力センサは、サンプルプローブと試料分注用シリンジとの間に配置されていることを特徴とする自動分析装置。
【請求項6】
請求項1−5のいずれかの自動分析装置において、
前記液面センサは、静電容量式のセンサであることを特徴とする自動分析装置。
【請求項7】
同一試料について複数回の吸引動作を実行する自動分析装置において、
試料分注ユニットと、
前記分注ユニットによる試料の吸引圧力を測定する圧力センサと、
前記圧力センサにより検出された圧力変化量を記憶する記憶手段と、
連続する二回の吸引動作時の圧力変化量を比較し、両圧力変化量の差が予め設定した閾値を超えるか否かで前記第1又は第2の吸引動作の不良の有無を判定する動作不良判定手段と
を備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項8】
同一試料について複数回の吸引動作を実行する自動分析装置の動作不良判定方法において、
連続する二回の吸引動作のうちの第1の吸引動作開始時に検出された液面高さ及び試料吸引量から当該第1の吸引動作終了時の液面高さを演算し、
前記第1の吸引動作に続く第2の吸引動作開始時に検出された液面高さを前記第1の吸引動作終了時の液面高さと比較し、両液面高さの差が予め設定した閾値を超えるか否かで前記第1又は第2の吸引動作の不良の有無を判定する
ことを特徴とする自動分析装置の動作不良判定方法。
【請求項9】
請求項8の自動分析装置の動作不良判定方法において、
前記第1の吸引動作終了時の液面高さと第2の吸引動作開始時の液面高さとの差が前記閾値以下であった場合に、前記第1及び第2の吸引動作時の圧力変化量を比較し、両圧力変化量の差が予め設定した閾値を超えるか否かで前記第1又は第2の吸引動作の不良の有無をさらに判定する
ことを特徴とする自動分析装置の動作不良判定方法。
【請求項10】
請求項8又は9の自動分析装置の動作不良判定方法において、
前記第1の吸引動作終了時の液面高さと第2の吸引動作開始時の液面高さとの差が前記閾値を超えた場合、前記第1の吸引動作終了時の液面高さが大きいときは前記第1の吸引動作に、前記第2の吸引動作開始時の液面高さが大きいときは前記第2の吸引動作に動作不良があったと判定することを特徴とする自動分析装置の動作不良判定方法。
【請求項11】
同一試料について複数回の吸引動作を実行する自動分析装置の動作不良判定方法において、
連続する二回の吸引動作時の圧力変化量を比較し、両圧力変化量の差が予め設定した閾値を超えるか否かで前記第1又は第2の吸引動作の不良の有無を判定する
ことを特徴とする自動分析装置の動作不良判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−68432(P2013−68432A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−205295(P2011−205295)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】