説明

自動分析装置及び分析方法

【課題】化学成分の濃度や酵素の活性度を測定する際に得られる反応過程データから,異常の有無を高精度に判定する自動分析装置および自動分析方法を提供する。
【解決手段】時間の経過とともに計測される測定値の時系列データをパラメータを有する関数で近似し,近似曲線から得られる指標を用いて測定の異常判定を行う。制御部は、測定データと近似曲線との二乗誤差が小さくなるように近似式のパラメータを算出して前記指標とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,血液,尿などの生体サンプルの定性・定量分析を行う自動分析装置に係り,特に臨床検査用の分析装置の反応をモニタリングする機能を備えた自動分析装置及び分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
臨床検査用の自動分析装置は,試料と試薬を一定量分注して,攪拌反応させる。一定時間にわたり反応液の吸光度を測定し,測定結果に基づき測定対象物質の濃度や活性値などを求める。
【0003】
臨床検査用の分析には,分析装置以外に,分析項目ごとの試薬,試薬を校正するための標準液,分析中の装置および試薬の状態をチェックするために測定する精度管理試料などが必要である。これら装置以外のものが,組み合わされて最終的な分析性能が得られる。
【0004】
分析性能を直接左右する装置内部の因子としては例えばサンプリング機構,試薬分注機構,攪拌機構,光学系,反応容器,恒温槽,などが挙げられる。また,自動分析装置等の装置以外の因子としては試薬,試料,コントロール検体の液性,などが挙げられる。
【0005】
自動分析装置を日常使用する場合には,これら因子を確認して,正常に臨床検査が可能かどうかを判断する必要がある。因子の確認は例えば下記のように実施される。
【0006】
(1)標準液を使用したキャリブレーション
各項目の試薬ボトルごとに校正を実施する。ブランク液と標準液を測定して,原点を決定し,単位濃度あたりの吸光度を算出し,換算係数(Kファクターと以下は略す。)を算出する。一般的には,吸光度の大きさ,Kファクターの経時的な変動を臨床検査技師が確認して,キャリブレーション結果の良否を判断する。
【0007】
(2)精度管理
キャリブレーション後に濃度既知の精度管理試料を測定し,基準値との差を確認する。また,患者検体の測定中には,一定時間ごとに定期的に精度管理試料を測定して,許容値とのずれを確認する。許容値を超えたときに,試薬,装置,いずれかに問題が発生しているとして点検する。
【0008】
試料と試薬との反応中,吸光度が複数回計測され,時系列データとして記録される。この時系列データは反応過程データとも呼ばれる。日常検査におけるデータの確認は反応過程データで行なわれている。その方法は分析法によって異なる。臨床検査の測定法は,分析法によってレート法とエンドポイント法の2種類に分類できる。
【0009】
レート法は主に,試料に含まれる酵素成分の活性を測定するときに使用され,酵素自体の濃度では無くその活性値が測定される。測定方法は,試薬として一定量の基質を添加して,酵素が基質を消費して変化する要素を測定する。酵素反応速度は基質濃度がある程度高いと,理論的上限値に漸近する。生化学項目測定の試薬には十二分の基質が含まれているため,試料と試薬の反応が正常に行なわれていれば,一般に反応は時間変化に対して,計測値が一定量ずつ直線的に変化する。
【0010】
レート法における測定時の従来のデータ異常の検知方法には,リニアリティチェックとABS リミットがある。リニアリティチェックはレート法の分析項目において,吸光度変化の直線性をチェックする。一定の測光範囲の前半と後半の吸光度変化量の差を求め,その差が指定したリニアリティチェック値を超えていた場合に直線ではないと判断する。また,測定する試料の濃度または酵素活性値が異常に高く,試薬の測定可能範囲を超えた場合には試薬中の基質または補酵素が測光時間前に全て消費されて,急激に吸光度値が変化して正しい測定値が得られないため,吸光度の上限または下限の反応吸光限界値(ABSリミット)を設定してデータの異常を検知する。
【0011】
エンドポイント法は主に試料に含まれる蛋白質,脂質などの成分の濃度を測定する。試料中の成分と試薬が反応して生成される物質は時間と共に一定量に漸近するため,計測値も時間と共に一定値に漸近する。
【0012】
エンドポイント法における測定時の従来のデータ異常の検知方法には、プロゾーンチェックがある。IgA(免疫グロブリンA)やCRP(C反応性蛋白)などの免疫比濁法を用いた試薬では、試薬組成分の塩濃度の影響により蛋白質が沈殿物として析出してしまう場合がある。この沈殿物によって反応過程データが揺らぐ場合があり、実際には反応時間の後半部分に現れる場合が多い。濃度演算に用いる測光ポイント部にこの揺らぎが起きた場合には正確に測定値を得ることができない。これをチェックする方法として抗体再添加法と反応速度比法があり、いずれもパラメータで指定した限界値を超えるとアラームを出すという方法がある。
【0013】
また,反応過程データを利用して異常の有無を判定する方法としては,例えば特許文献1,特許文献2に開示される方法が公知である。特許文献1による方法では,予め化学反応モデルを使用し,基準時系列データを生成して記憶しておき,試料の反応過程データを基準時系列データと比較し,乖離が大きかった場合に異常と判定する。特許文献2による方法では,吸光度変化を,予め記憶してある関数により近似し,近似された関数により計算される吸光度変化と,実際に測定された吸光度の乖離の大きさから異常を判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2004−347385号公報
【特許文献2】特開2006−337125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
近年,自動分析装置の性能の向上により,微量な検体,試薬を用いても様々な項目で高精度に分析することが可能となっている。その反面,装置各部のわずかな異常や,試料や試薬の微妙な性質の変化などにより正確に分析できない場合がある。臨床検査用の自動分析装置は試料と試薬を反応させた溶液の吸光度を一定間隔で測定し,その時系列吸光度より,吸光度変化率,最終吸光度を測定する。これらのデータより濃度,酵素の活性値を算出する。反応の過程では,自動分析装置がサンプリング,試薬分注,攪拌を実施しており,これらの過程の中に複数の誤差要因を含んでいる。特にこれまでは,攪拌の有無やレベルを定量的に評価できず,判断基準がないため,再現性の良し悪しや測定不良(測定値が不連続となるなど,何らかの不具合があったことが疑われる測定値のこと)の有無などといった評価が曖昧な状況であった。また,試薬プローブの洗浄水による試薬の希釈や使用者が誤って試薬に別の溶液を混入してしまった場合など反応に直接影響を及ぼす要因に対し,自動分析装置から使用者に対し異常を検知し,再検査や装置のメンテナンスを促す必要がある。
【0016】
自動分析装置の使用者である検査技師は,日常の検査業務の中で全反応過程を目視でチェックすることは困難であり,その中でも特に測定値が正常値範囲内にある場合は,反応異常を見落としがちであり,正確性の低い結果を出してしまう可能性がある。
【0017】
特許文献1には化学反応モデルとして下記の式が開示されている。ただしtは時刻,xは吸光度を表し,A0,A1,Kはパラメータである。
【0018】
(数1)x = A0 + A1 exp(-Kt)
また,特許文献2には吸光度変化を近似する関数として(数1)以外に下記の式が開示されている。ただしtは時刻,xは吸光度を表し,A,B,Kはパラメータである。
【0019】
(数2)x = -Kt + B
(数3)x = A / ( 1 + kt ) + B
レート法では反応のごく初期には吸光度が時間に対し曲線的に変化し,時間の経過とともに吸光度の変化は直線的になる。(数1)(数3)ではエンドポイント法のように反応が急激に進行し,定常状態になるような反応過程は精度良く近似できる。一方,レート法のように直線的に反応が進行し,かつ観測している約10分間内に反応は終了せず,吸光度は基質が消化されるまで直線的に上昇または下降し続ける反応過程に対しては,近似の精度が低く,反応性の変化の差を見分けにくいという課題があった。(数2)ではレート法における反応初期の曲線部分の近似が困難であり,曲線部分の形状に影響を与えるような異常の検出は困難であった。
【0020】
例えば,レート法により計測される検査項目の反応過程データを(数1)で示される式により近似した結果を図2,図3に示す。図2は正常な反応過程データ,図3は人為的に攪拌異常を発生させた時の反応過程データである。横軸110は時間の経過を,縦軸120は吸光度を表す。また,記号130は実際に測定された吸光度を表し,曲線140は(数1)により近似された吸光度変化を表す。図2,図3よりわかるように,第一点目の吸光度データの近似式との誤差が大きいことがわかる。また,この例では正常データに対する近似誤差の方が,攪拌異常データに対する近似誤差より大きくなっている。そのため,近似式との誤差の大きさに基き誤差を検出するという従来方法では異常の検出が困難であることがわかる。
【0021】
また,エンドポイント法では測定値は反応前と反応後の吸光度値の差から算出し,反応速度は試料の濃度にほとんど依存しないが,レート法では1分間当たりの吸光度変化量から酵素の活性値を換算するため,測定値と反応速度は一定の比率で変化する。したがって,コントロールなどの標準物質のように濃度が一定の試料のパラメータを比較することによって,装置性能の評価をすることは十分に可能であるが,測定結果がばらばらでかつ濃度が未知の患者検体のデータを評価することは困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記の課題は,試料中に含まれる測定対象物質の濃度または活性度測定において,時間の経過とともに計測される測定値の時系列データが,直線に漸近するまでの変化の特徴を表す指標を計算し,該指標に基き異常の有無を判定することにより解決できる。
【0023】
また,試料中に含まれる測定対象物質の濃度または活性度測定において,時間の経過とともに計測される測定値の時系列データを,直線に漸近する,パラメータを有する関数で近似し,該関数を用いて直線に漸近するまでの吸光度変化の形状特徴を表す指標を計算し,該指標または前記パラメータの値に基き異常の有無を判定することにより解決できる。
【0024】
また,試料中に含まれる測定対象物質の濃度または活性度測定において,時間の経過とともに計測される測定値の時系列データを,パラメータを有する関数で近似し,該関数の時間二次微分が最小になる時点における接線を求め,前記関数が該接線に漸近するまでの吸光度変化の形状特徴を表す指標を計算し,該指標または前記パラメータの値に基き異常の有無を判定することにより解決できる。
【0025】
また,試料中に含まれる測定対象物質の濃度または活性度測定において,時間の経過とともに計測される測定値の時系列データを,tを前記測定値が測定された時刻,xを前記測定値,a, bをパラメータ, h(t,ψ)を複数のパラメータψを含み0に漸近する関数とする時, x = ax + b + h( t, ψ )で表される関数により近似し,パラメータa,b,ψの値に基き異常の有無を判定することにより解決できる。
【0026】
すなわち、本発明は以下を包含する。
(1)反応容器と、反応容器に試料を分注する第1の分注手段と、反応容器に分注された試料と反応させる試薬を分注する第2の分注手段と、反応容器内で試料と試薬とを混合する撹拌手段と、試料と試薬との反応過程における複数の測定点データを取得する測定部と、測定点データを処理するデータ処理部と、データ処理部で用いる関数を格納した記憶部と、データ処理部の処理結果を出力する出力部とを備え、データ処理部は、記憶部に格納された複数の近似式のいずれかを選択して複数の測定点データを近似し、近似曲線から得られる指標を用いて測定の異常判定を行うことを特徴とする自動分析装置。
(2)制御部は、測定データと近似曲線との二乗誤差が小さくなるように近似式のパラメータを算出して前記指標とする、(1)記載の自動分析装置。
(3)記憶部に格納された近似式は、検査項目と前記試薬との組み合わせ毎に定められている(1)記載の自動分析装置。
(4)近似式は、以下の(数4)乃至(数7)のいずれかである、(1)記載の自動分析装置。
【0027】
(数4)x = a * t + b + c * exp( -k * t )
(数5)x = a * t + b + e / ( t + d )
(数6)x = a * t + b + w / { exp( u * t ) + v }
(数7)x = a * t + b + p * log{ 1 + q * exp( r * t ) }
(5)複数の測定点データを近似した近似曲線において、反応開始時の近似曲線の接線を第1の直線、近似曲線に漸近する直線を第2の直線としたとき、下記1.乃至4.の形状特徴量のうちいずれかひとつ以上を指標として用い、異常判定を行う、(1)記載の自動分析装置。
【0028】
1.前記第1、第2の直線が交差する時刻
2.前記第2の直線が予め定めた閾値以下に漸近した時刻
3.反応開始時刻の前記第1、第2の直線の値の差
4.前記第1、第2の直線の傾きの差
(6)記憶部は、正常状態における反応過程データから得られた形状特徴量と、異常状態における反応過程データから得られた形状特徴量の分布データを有し、測定データから求められた形状特徴量をあてはめて異常判定を行う、(5)記載の自動分析装置。
(7)記憶部は、異常の種類と形状特徴量を用いた判定式を組み合わせたデータを有し、データ処理部は異常種類の判定を行う、(5)記載の自動分析装置。
(8)異常の種類は、撹拌手段の撹拌異常、分注手段の分注異常、試薬の異常のいずれかである、(6)記載の自動分析装置。
(9)異常判定は、反応開始から予め設定した時間間隔で行う、(1)記載の自動分析装置。
(10)記憶部は、複数の測定データの指標と形状特徴量とを有し、異常判定を、複数の測定データのうち特定条件のデータを選択して行う、(1)記載の自動分析装置。
(11)記憶部は、複数の測定データの指標と形状特徴量とを有し、異常判定を、複数の測定データの指標と形状特徴量の分布に基づいて行う、(1)記載の自動分析装置。
(12)近似曲線の時間二次微分の絶対値が最小になる時点における接線を求め、接線を用いて近似曲線の指標を計算し,指標に基づいて異常判定を行う、(1)記載の自動分析装置。
(13)近似式として、時間の経過とともに計測される測定値の時系列データを,tを前記測定値が測定された時刻,xを前記測定値,a,bをパラメータ,h(t,ψ)を複数のパラメータψを含み0に漸近する関数とする時,
x = ax + b + h( t, ψ )
で表される関数を用い,パラメータa,b,ψを前記指標として異常判定を行う、(12)記載の自動分析装置。
(14)測定部は、反応容器に光を照射する光源と、反応容器を透過した光を検出する検出部とを備えている、(1)記載の自動分析装置。
(15)試料と試薬との反応過程における測定点データを取得する測定部と、測定点データを処理するデータ処理部と、データ処理部で用いる関数を格納した記憶部とを用いた分析方法であって、測定部は、試料と試薬との反応過程における複数の測定点データを取得し、データ処理部は、記憶部に格納された複数の近似式のいずれかを選択して複数の測定点データを近似し、近似曲線から得られる指標を用いて測定の異常判定を行う分析方法。
【0029】
図4は一般的に用いられる2液法によるレート分析の場合の,反応液の吸光度変化を模式的に示した図である。横軸110は時間の経過を表し,縦軸120は吸光度を表す。曲線150が吸光度の変化を表す。反応容器中の試料は,まず最初に第一試薬と混合される(時間t0)。次いでこの混合液が適切な温度でインキュベーションされる。この間に測定波長に影響しない副反応などが進行し,副反応が終了した時点t1において第二試薬が添加・攪拌されて,主反応が開始,測定波長の吸光度は増加または減少方向に変化する。主反応は時点t1より開始するが,この反応の速度は必ずしも最初から一定ではなく,ある時間(図,時間t2)後からほぼ一定となる(反応が定常状態となり,吸光度の変化は直線になる)。この反応開始から一定になるまでの時間t1〜t2を一般にラグタイムと称している。
このラグタイムは,測定項目や試薬の組成,攪拌の状況,反応温度,検体の濃度などによって異なる。例えばγGT(γグルタミルトランスフェラーゼ)やLD(乳酸脱水素酵素)などはラグタイムは大きいが,ALP(アルカリ性フォスファターゼ)やAST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)などは小さい。これは,酵素の活性の違いや液性,攪拌の状況などによって異なるためである。このようにラグタイムは試料と試薬との反応性に大きく由来しているため,ラグタイムが定常反応になるまでの時間やカーブの度合いを定量化することによってその項目の反応性を評価することが可能となる。
【0030】
本発明は,反応過程データから得られた近似式を利用し,装置異常,試薬劣化,精度管理を連続的および単独の検査毎にチェックできる指標を提供するものである。本発明によって近似式を求めることによって,各測定結果の反応過程におけるラグタイムの時間や大きさ,直線との乖離度などを評価するパラメータを数値化する。得られたパラメータは試薬や項目に依存するため,この数値を指標として反応が最適な状態で進行したかどうかを評価する。尚、用いる反応過程データとしては、吸光度データ等に限られず、その他、反応過程において測定できる値等を用いてもよい。
【発明の効果】
【0031】
本発明の評価方法を用いることによって,コントロールや標準液のみでなく,濃度が未知である患者検体の測定結果を一つ一つ評価することが可能となる。検体ごとに測定の評価が可能となれば,コントロールのデータから,測定データの信頼性を保証することが可能となる。装置の異常が反応過程データに影響する因子について日常の検査データからその異常をチェックすることが可能になり,装置の性能維持に貢献することができる。
【0032】
攪拌の影響としては,例えば攪拌が停止した場合,反応速度が変化し,反応過程データのカーブも変化する。コントロール検体,標準液などの濃度既知の検体において,反応過程カーブの変化を計算し,モニターすることは経時的な攪拌機構の性能をチェックすることになり,攪拌機構のメンテナンス,交換の必要性を自動分析装置側から,積極的に装置使用者に知らせることが可能になる。評価が曖昧であった攪拌の有無やレベルを定量化することができ,ラグタイムは第2試薬添加後の攪拌直後の反応過程をモニターすることからも最適な攪拌の条件を設定することができる。したがって,攪拌機構の異常検知のみならず,項目ごと,試薬ごとの最適パラメータを検証・決定することが可能になる。
【0033】
試薬が劣化した,試薬プローブ内で洗浄水により希釈された場合,反応速度に影響する。本発明によれば,反応の緩慢度を数値化できるため,反応異常を検知することが可能となる。試薬性能の評価が可能になり,日常の検査における人為的ミスによる試薬劣化の検知を行うことができ,誤ったデータ出力の見落としを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の第1の実施例の処理フローを表す図。
【図2】(数1)により正常の場合の反応過程データを関数近似した例を示す図。
【図3】(数1)により異常の場合の反応過程データを関数近似した例を示す図。
【図4】レート法の反応過程データの概略を示す図。
【図5】本発明を適用した自動分析装置の構成の概略を示す図。
【図6】本発明により反応過程データを関数近似した例を示す図。
【図7】反応初期の曲線部分の形状特徴を数値化する方法を説明する図。
【図8】本発明により求めた反応過程曲線の形状特徴量の分布の例を示す図。
【図9】検査項目と試薬の種類の組み合わせに対し最適な近似式の種類を記述したテーブルの例を示す図。
【図10】異常の種類ごとに異常を判定するための判定式を記述したテーブルの例を示す図。
【図11】本発明の第2の実施例の処理フローを表す図。
【図12】本発明の第3の実施例の処理フローを表す図。
【図13】反応初期の曲線部分の形状特徴を数値化する方法を説明する図。
【図14】制御部13内の構成例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0035】
以下,本発明の第1の実施例を図面を参照して詳細に説明する。図5は本発明を適用した生化学自動分析装置の構成の概略を示す図である。1はサンプルディスク,2は試薬ディスク,3は反応ディスク,4は反応槽,5はサンプリング機構,6はピペッティング機構,7は攪拌機構,8は測光機構,9は洗浄機構,10はコンピュータ(PC),12は記憶装置、13は制御部,14は圧電素子ドライバ,15は攪拌機構コントローラ,16は試料容器,17,19は円形ディスク,18は試薬ボトル,20は保冷庫,21は反応容器,22は反応容器ホルダ,23は駆動機構,24,27はプローブ,25,28は支承軸,26,29はアーム,31は固定部,33はノズル,34は上下駆動機構である。記憶部12では分析パラメータ,各試薬ボトルの分析可能回数,最大分析可能回数,キャリブレーション結果,分析結果等を記憶している。 試料の分析は下記のようにサンプリング,試薬分注,撹拌,測光,反応容器の洗浄,濃度換算等のデータ処理の順番に実施される。
【0036】
サンプルディスク1は,制御部13によりコンピュータ10を介して制御される。サンプルディスク1上には,複数の試料容器16が円周上に並んで設置されており,分析される試料の順番に従ってサンプリングプローブ24の下まで移動する。試料容器16中の検体は,検体サンプリング機構5に連結された試料用ポンプにより反応容器21の中に所定量分注される。
【0037】
試料を分注された反応容器21は,反応槽4の中を第一試薬添加位置まで移動する。移動した反応容器16には,試薬分注プローブ6に連結された試薬用ポンプ(図示せず)により試薬容器18から吸引された試薬が所定量加えられる。第一試薬添加後の反応容器21は,撹拌機構7の位置まで移動し,最初の撹拌が行われる。このような試薬の添加−撹拌が,例えば第一〜第四試薬について行われる。
【0038】
内容物が撹拌された反応容器21は光源から発した光束中を通過し,この時の吸光度は多波長光度計の測光機構8により検知される。検知された前記吸光度信号は制御部13に入り,検体の濃度に変換される。また,制御部13では同時に吸光度に基づいた異常の判定を行う。
【0039】
濃度変換されたデータは,記憶装置12に記憶され,コンピュータ10に付属する表示装置に表示される。測光の終了した前記反応容器21は,洗浄機構9の位置まで移動し洗浄され,次の分析に供される。
【0040】
次に,制御部13において吸光度に基づき異常を判定する処理の詳細を図1を参照して説明する。図1は制御部13内の,異常判定に関わる部分の処理ステップを示す図である。また、図14は制御部13内で、図1に示す処理を実行する部分の構成例を示す図である。入出力モジュール51、近似計算モジュール52、異常判定モジュール53、はデータバス54を介して接続されており、相互にデータの受け渡しを行うことができる。入出力モジュール51は測光機構8、コンピュータ(PC)10、記憶装置12とのデータの受け渡しを行う。また、各モジュールは別のハードウェア、CPUで構成しても良いが、同一のCPU内にソフトウェアモジュールとして実装しても良い。
【0041】
まず,ある検体に対し,ある検査項目の測定が開始されると同時に,ステップS5において近似計算モジュール52が、入出力モジュール51を介して記憶装置12に記憶されている吸光度の時間変化を表す複数の近似式の中から,検査項目と試薬の組み合わせに対応した最適な近似式を選択し読み出す。選択は、検査項目と試薬とから自動で判別するようにしておけばよい。近似式としては例えば(数4)〜(数7)に示す関数を予め記憶装置12に記憶しておく。ただしtは時間,xは吸光度を表す。また,a,b,c,d,e,k,p,q,r,u,v,wはパラメータである。また,検査項目と試薬の組み合わせごとに最も適した近似式をテーブルとして記憶しておき,テーブルを利用して検査項目と試薬の組み合わせに対応した最適な近似式を選択するようにしてもよい。
【0042】
(数4)x = a * t + b + c * exp( -k * t )
(数5)x = a * t + b + e / ( t + d )
(数6)x = a * t + b + w / { exp( u * t ) + v }
(数7)x = a * t + b + p * log{ 1 + q * exp( r * t ) }
例えば,予め図9に示すような,検査項目と,用いる試薬の組み合わせに対し,最適な近似式を記述したテーブル500を記憶装置12に記憶しておく。列510には検査項目が記述されており,列520には試薬の種類が記述されている。列530には,検査項目と試薬の種類に対し,最適な近似式の種類が記述されている。検査項目と試薬の組み合わせから,ステップS5ではテーブル500を用いて最適な近似式を選択する。なお,このテーブルの内容はユーザーが変更可能な構成としても良い。
【0043】
吸光度は,時間の経過と共に複数回測定されるが,ステップS10では入出力モジュール51が、1回の測定または複数回の測定平均の吸光度データを,測光機構8より計算手段を有する制御部13に入力する。試薬と検体との反応に伴う色調変化に吸光度が大きく変化する波長(主波長)の光と,吸光度が殆ど変化しない波長(副波長)の光の2波長光を用いる測定方式においては,主波長光の吸光度と,副波長光の吸光度との差を,吸光度データとして入力する。ステップS15では入出力モジュール51が、入力された吸光度データを記憶装置12に記憶する。ステップS20では,以下の処理に必要なだけの吸光度データが記憶されたかどうかを入出力モジュール51が判定し,記憶されていない場合には処理をS10に戻し,必要なデータ数が記憶されるまで,吸光度データの入力,記憶を繰り返す。必要なデータ数が蓄積された場合には処理をステップS25に移す。
【0044】
ステップS25ではステップS5において選択した近似式によって表される吸光度の時間変化と,実際の吸光度の時間変化がなるべく小さくなるように、近似計算モジュール52が数式中のパラメータの値を算出する。具体的には,計測し記憶された吸光度データと,近似式により算出される吸光度との,二乗誤差がなるべく小さくなるように数式中のパラメータ値を定める。パラメータ値の算出には既存の最小二乗計算方法が利用可能であるが,様々な形式の数式に対応可能な方法としては,例えば最急降下法により,二乗誤差が最小となるパラメータ値を算出する。複数の試薬を用いる反応では,主たる吸光度変化をもたらす試薬(通常は最終の試薬)を添加した後,吸光度の大きな変化が始まる。この場合には,主たる吸光度変化をもたらす試薬が添加された後のデータのみを,パラメータ値算出に用いる。
【0045】
本発明により異常検出を行うためには,ステップS25で正常なデータに対しては,近似式により算出される吸光度と,実際に計測された吸光度との差が十分に小さくなることが必要である。前述した従来技術による近似式では,図2,図3に示すように反応初期の曲線部分の近似精度が悪いという課題があった。しかしながら,(数4)〜(数7)を使用することにより,初期の曲線部分も精度良く近似することが可能になる。例えば(数5)を用い,図2に示す反応過程データと同じデータを近似した結果を図6に示す。図2と比較し,第一点目の吸光度データに対する近似精度が改善されていることが分かる。
【0046】
次にステップS30において,反応初期の吸光度が曲線的に変化する部分の,吸光度変化パターンの特徴を示す数値(形状特徴量)を近似計算モジュール52により計算する。形状特徴量の例を,図7を参照して説明する。図7において横軸110は反応開始からの時間の経過を表し,縦軸120は吸光度を表す。曲線140は近似式により求められる吸光度変化の近似曲線を表す。直線160は反応開始時点における曲線140の接線であり,直線170は曲線140が漸近する直線である。また,横軸110上の点180は直線160と直線170が交差する時刻を表す。横軸110上の点190は,曲線140が直線170に十分漸近する時刻を表す。
【0047】
十分漸近した時刻は,例えば微小な値εを予め定めておき,曲線140と直線170との差がε以下になった時刻として定義する。εは一定値としても良いし,初期吸光度や吸光度の変化幅に応じて設定しても良い。例えば初期吸光度に定数を乗じた値,あるいは初期吸光度と最終吸光度の差に定数を乗じた値をεとしても良い。また,十分漸近した時刻は微小な値δを定めておき,曲線140と直線170の傾きの差がδ以下になった時刻として定義しても良い。この場合,δは一定値としても良いし,直線170の傾きに応じて設定しても良い。例えば直線170の傾きに定数を乗じた値をδとしても良い。
【0048】
縦軸上の点200は直線170が縦軸と交差する点を表し,縦軸上の点210は曲線140が縦軸と交差する点を表す。形状特徴量としては,例えば以下の4種類の値を計算する。

(1)横軸110上の点180が示す時刻(Tcとする)
(2)横軸110上の点190が示す時刻(Tlとする)
(3)縦軸120上の点200によって表される吸光度と点210によって表される吸光度との差(D0とする)
(4)直線160の傾きと直線170の傾きの差(G0とする)
これらの値は,レート法における反応過程データの,ラグタイム部分の曲線形状を数値化したものである。例えばTlはラグタイムの長さに相当し,Tc,D0,G0はラグタイム部分と漸近直線との乖離の大きさを表す値となる。これらの値により,従来人間が感覚的にとらえていたラグタイムの大きさを定量的に扱うことが可能となる。
【0049】
次にステップS35において,異常判定モジュール53が,ステップS30で求めた形状特徴量に基き異常を判定するための判定式を記憶装置12から読み込む。予め大量の正常,異常データを用いて最適な判定式を定義しておき,例えば図10に示す形式のテーブル600を記憶装置12に記憶しておく。列610には異常の種類を記述し,列620には異常を判定するための判定式を記述する。列620の判定式中,p0〜p3,q0〜q3,r0〜r3,s0〜s3,v0〜v3は予め定めた定数である。この例では,ステップS35で求めたTc,Tl,D0,D1の4値を用い,線形の判別式で判定する例を示しているが,例えば他の形状特徴量や,あるいは近似式中のパラメータの値そのものを用いても良い。近似式中のパラメータ値が形状特徴に応じて変化するため,形状特徴量としてパラメータ値そのものを用いることも可能である。また,判別式も線形でなくても良く,例えば論理式により記述しても良い。
【0050】
次にステップS40において,異常判定モジュール53が,ステップS35で選択した判定式に基き異常を判定する。正常状態における反応過程データから求めたTl,D0の値の分布と,人為的に攪拌異常を発生させた状態における反応過程データから求めたTl,D0の分布を図8に示す。横軸310はD0の値を表し,縦軸320はTlの値を表す。記号330は正常状態における反応過程データから求めたD0,Tlの分布を表し,記号340は攪拌異常状態における反応過程データから求めたD0,Tlの分布を表す。例えば直線350の左側に位置するデータを正常,右側に位置するデータを異常,と判定することにより,攪拌異常を検出することが可能となる。異常と正常とを判別するための直線は,判別分析などの既知の方法を用いて求めることができる。
【0051】
ステップS45ではステップS40で判定された異常,正常の判定結果を異常判定モジュール53からコンピュータ10へ出力する。
【0052】
上記のステップS35,S40では,判定すべき異常の種類ごとに異なる判定式を用いる例について説明したが,本発明はこの方法に限定されるわけではない。例えばニューラルネットワーク等の既存のパターン認識技術を用い,形状特徴量あるいは近似式のパラメータ値を用い,正常あるいは異常の種類を一度に判定してもよい。また,異常の種類は特定せずに,正常ではないことを判定しても良い。この場合,予め正常状態で多数の近似式パラメータ,形状特徴量を求め,それらの分布を求めておく。ステップS40では,ステップS25で求めた近似式パラメータ,ステップS30で求めた形状特徴量と,前記の正常状態での近似式パラメータ,形状特徴量分布を比較し,異常の有無を判定する。例えば,ステップS25で求めた近似式パラメータ,S30で求めた形状特徴量と,予め求めた分布とのマハラノビス距離を計算し,マハラノビス距離が一定値以上の場合には異常と判定する。
【0053】
以上述べた第1の実施例では,図1に示す処理は制御部13で行う例を説明したが,装置の他の部分で処理を行うことも可能である。例えばコンピュータ(PC)10内においてソフトウェアとして図1の処理を実行することも可能である。また,記憶装置12として,コンピュータ(PC)10内部の記憶装置を使用することも可能である。
【0054】
また,以上述べた第1の実施例では,近似式として(数4)〜(数7)を用いる例について説明したが,本発明に用いることができる近似式は(数4)〜(数7)に限定されない。より一般的に下記の式で表されるような直線に漸近する数式であれば同様に用いることが可能である。ただしtを時刻,xを吸光度,a, bをパラメータ, h(t,ψ)を複数のパラメータψを含み0に漸近する関数とする。
【0055】
(数8)x = ax + b + h( t, ψ )

以上述べた第1の実施例では,日々の日常の検査,あるいはキャリブレーション用の検体を用いた検査で得られる反応過程データから,攪拌異常,分注異常,試薬異常等の様々な異常を,一回の検査ごとに高精度で検出することが可能となる。
【実施例2】
【0056】
次に,本発明の第2の実施例を図面を参照して詳細に説明する。第2の実施例による生化学自動分析装置も,第1の実施例と同じく構成の概略は図5により示される。制御部13以外の動作は第1の実施例と同じであるので,詳細な説明は省略する。
【0057】
次に,制御部13において吸光度に基づき異常を判定する処理の詳細を図11を参照して説明する。図11は制御部13内の,異常判定に関わる部分の処理ステップを示す図である。なお,図1に示した第1の実施例における制御部13での異常判定処理と同じ処理を行う処理ステップには同じ符合を付してある。ステップS5からステップS30までの処理は,図1に示す第1の実施例のステップS5からステップS30までの処理と同一であるので,説明は省略する。
【0058】
ステップS110では,ステップS25で求めた近似式パラメータ,およびステップS30で求めた形状特徴量を記憶装置12記憶する。ステップS115では,異常判定モジュール53が異常判定を実施するか否かを判断する。S115による異常判定実施有無の判断は,例えば一定時間ごとに判定を実施するようにしても良い。この場合,予め異常判定を行う時間間隔を指定しておき,ステップS115では前回異常判定を実施してからの経過時間を調べ,経過時間が設定された時間間隔を超えた場合に異常判定を実施すると判断する。
【0059】
また,一定回数検査が実施されるごとに異常判定を実施しても良い。この場合には予め異常判定を行う検査回数の間隔を指定しておき,ステップS115では前回異常判定を実施してからの検査回数を調べ,検査回数が設定された回数を超えた場合に,異常判定を実施すると判断する。
【0060】
また,ユーザーの指示によって異常判定を実施するか否かを判断しても良い。この場合,ステップS115ではユーザーからコンピュータ10に対し異常判定実施の指示があったか否かを異常判定モジュール53が調べ,指示があった場合には異常判定を実施すると判断する。
【0061】
ステップS120では,ステップ110において記憶装置12に記憶された近似式パラメータ,形状特徴量を異常判定モジュール53へ読み込む。
【0062】
ステップS120では,記憶されている全データを読み込んでも良いし,また,特定の条件を満たすデータを選択的に読み込んでも良い。選択的に読み込む場合は,例えばある特定の検査項目のデータ,あるいはある特定の検査項目で,かつ検査結果の値がある特定の範囲内にあるデータのみを読み込んでも良い。また,キャリブレーターや精度管理試料のデータのみを読み込んでも良い。特定の条件のデータのみを選択的に使用することにより,より高精度に異常を検出することが可能になる。
【0063】
ステップS125では,ステップS120で読み込んだ近似式パラメータ,形状特徴量に基き,異常判定モジュール53が異常の判定を行う。例えばステップS120で読み込んだ近似式パラメータ,形状特徴量の分布を求め,分布の形状が正常な状態により測定して得られた近似式パラメータ,形状特徴量分布と異なるか否かを調べ,異なっている場合には異常と判定する。分布形状が異なっているか否かの判定には既存の統計的検定などの技術が利用可能である。このように,複数のデータ(近似式パラメータ,形状特徴量)を用いて判定することにより,単一のデータによる異常判定ではわかりにくい装置や試薬の異常を判定することが可能となる。
【0064】
ステップS130では,ステップS125での判定結果を異常判定モジュール53からコンピュータ10へ出力する。
【0065】
以上述べた第2の実施例では,日常の検査,あるいはキャリブレーターや精度管理試料を用いた検査で得られる反応過程データから,攪拌機構,分注機構,試薬性能等の様々な変化を高精度で検出することが可能となる。また,実施例1では単一のデータ(近似式パラメータ,形状特徴量)を用いて判定を行っているのに対し,第2の実施例では複数のデータを用いて判定を行っているため,単一のデータからでは判定が難しい異常状態も検出することが可能である。
【0066】
また,以上述べた第2の実施例では,図1に示す処理は制御部13で行う例を説明したが,装置の他の部分で処理を行うことも可能である。例えばコンピュータ(PC)10内においてソフトウェアとして図11の処理を実行することも可能である。また,記憶装置12として,コンピュータ(PC)10内部の記憶装置を使用することも可能である。
【実施例3】
【0067】
次に,本発明の第3の実施例を図面を参照して詳細に説明する。第3の実施例による生化学自動分析装置も,第1の実施例と同じく構成の概略は図5により示される。制御部13以外の動作は第1の実施例と同じであるので,詳細な説明は省略する。
【0068】
次に,制御部13において吸光度に基づき異常を判定する処理の詳細を図12を参照して説明する。図12は制御部13内の,異常判定に関わる部分の処理ステップを示す図である。なお,図1に示した第1の実施例における制御部13での異常判定処理と同じ処理を行う処理ステップには同じ符合を付してある。
【0069】
第1の実施例においては,反応過程データを近似する式として直線に漸近する関数を使用したが,本実施例では近似に用いる関数は特に限定しない。ここでは近似に用いる関数を(数9)により表現する。ただしtは時間,xは吸光度,Φは複数のパラメータを表す。
【0070】
(数9) x = f( t, Φ )

例えばf( t, Φ )として(数10)に示すようにtの2次関数を用いる場合Φはa0,a1,a2を表す。
【0071】
(数10) f( t, Φ ) = a0 + a1 * t + a2 * t * t
ステップS10からS25までの処理は,図1に示す第1の実施例における処理と同一のため,詳細な説明は省略する。ステップS210では近似計算モジュール52が,ステップS25で求めた近似パラメータを(数9)に代入した式(以下近似式)の時間2次微分の絶対値が最小(好ましくは0)になる時刻Tvを求める。ただし,ここでは反応の開始時点を時刻0とする。ステップS220では,時刻Tvにおける(数9)の接線を求める。
【0072】
次にステップS230において,近似計算モジュール52が,反応初期の吸光度が曲線的に変化する部分の,吸光度変化パターンの特徴を示す数値(形状特徴量)を計算する。形状特徴量の例を,図13を参照して説明する。図13において横軸110は反応開始からの時間の経過を表し,縦軸120は吸光度を表す。曲線140は近似式により求められる吸光度変化の近似曲線を表す。直線160は反応開始時点における曲線140の接線であり,直線410はステップS220において求めた時刻tvにおける接線である。また,横軸110上の点420は直線160と接線410が交差する時刻を表す。横軸110上の点430は,ステップS210で求めた時刻Tvを表す。縦軸上の点400は接線410が縦軸と交差する点を表し,縦軸上の点210は曲線140が縦軸と交差する点を表す。 形状特徴量としては,例えば以下の4種類の値を計算して用いる。
(1)横軸110上の点420が示す時刻(Tdとする)
(2)横軸110上の点430が示す時刻(Tv)
(3)縦軸120上の点400によって表される吸光度と点210によって表される吸光度との差(E0とする)
(4)直線160の傾きと接線410の傾きの差(H0とする)
これらの値は,レート法における反応過程データの,ラグタイム部分の曲線形状を数値化したものである。例えばTvはラグタイムの長さに相当し,Td,E0,H0はラグタイム部分と漸近直線との乖離の大きさを表す値となる。これらの値により,従来人間が感覚的にとらえていたラグタイムの大きさを定量的に扱うことが可能となる。
【0073】
ステップS35,S40,S45は,第1の実施例において形状特徴量Tc,Tl,D0,H0を本実施例による形状特徴量Td,Tv,E0,H0に置き換えると第1の実施例におけるステップS35,S40,S45と同一の処理であるので,説明は省略する。
【0074】
レート法により計測が行われる際に得られる反応過程データは,時間の経過と共に直線的に変化するようになった後,再度曲線的に変化するようになる場合がある。本実施例はそのような場合にも好適な結果を得ることができる。
【0075】
以上述べた第3の実施例では,図1に示す処理は制御部13で行う例を説明したが,装置の他の部分で処理を行うことも可能である。例えばコンピュータ(PC)10内においてソフトウェアとして図12の処理を実行することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0076】
第1〜第3の実施例で説明した通り,本発明を適用した自動分析装置では,日常の検査データから装置,試薬等の異常をチェックすることが可能になり,装置の性能維持に貢献することができる。
【符号の説明】
【0077】
1:サンプルディスク、2:試薬ディスク、3:反応ディスク、4:反応槽、5:サンプリング機構、6:ピペッティング機構、7:攪拌機構、8:測光機構、9:洗浄機構、10:コンピュータ(PC)、12:記憶装置、13:制御部、14:圧電素子ドライバ、15:攪拌機構コントローラ、16:試料容器、17:円形ディスク、18:試薬ボトル、19:円形ディスク、20:保冷庫、21:反応容器、22:反応容器ホルダ、23:駆動機構、24:プローブ、25:支承軸、26:アーム、27:プローブ、28:支承軸、29:アーム、31:固定部、33:ノズル、34:上下駆動機構、51:入出力モジュール、52:近似計算モジュール、53:異常判定モジュール、54:記憶装置、55:データバス、110:時間の経過を表す軸、120:吸光度を表す軸、130:各時点において計測された吸光度を表す記号、140:近似式による算出された吸光度を表す曲線、150:レート法による吸光度変化を模式的に示す曲線、160:反応過程データを近似した曲線の,反応開始時点における接線、170:反応過程データを近似した曲線が漸近する直線、180:直線160と直線170が交差する時刻を表す点、190:反応過程データを近似した曲線140が,直線170に十分漸近した時刻を表す点、200:直線170が縦軸120と交差する点、210:曲線140が縦軸120と交差する点、310:D0の値を表す軸、320:Tlの値を表す軸、330:正常状態における反応過程データから求めたD0,Tlの分布を表す記号、340:攪拌異常状態における反応過程データから求めたD0,Tlの分布を表す記号、350:正常と攪拌異常を識別する境界線、400:接線410が縦軸と交差する点、410:反応過程データを近似した曲線140の時間2次微分が最小となる時刻Tvにおける曲線140の接線、420:直線160と接線410が交差する時刻を表す点、430:反応過程データを近似した曲線140の時間2次微分が最小となる時刻Tvを表す点、500:検査項目と,用いる試薬の組み合わせに対し,最適な近似式を記述したテーブル、510:検査項目を記述した列、520:試薬の種類を記述した列、530:近似式の種類を記述した列、600:検出する異常の種類ごとに判定方法を記述したテーブル、610:検出する異常の種類を記述した列、620:判定方法を記述した列

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応容器と、
前記反応容器に試料を分注する第1の分注手段と、
前記反応容器に分注された試料と反応させる試薬を分注する第2の分注手段と、
前記反応容器内で前記試料と前記試薬とを混合する撹拌手段と、
前記試料と前記試薬との反応過程における複数の測定点データを取得する測定部と、
前記測定点データを処理するデータ処理部と、
前記データ処理部で用いる関数を格納した記憶部と、
前記データ処理部の処理結果を出力する出力部とを備え、
前記データ処理部は、前記記憶部に格納された複数の近似式のいずれかを選択して前記複数の測定点データを近似し、近似曲線から得られる指標を用いて測定の異常判定を行うことを特徴とする自動分析装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記測定データと前記近似曲線との二乗誤差が小さくなるように近似式のパラメータを算出して前記指標とすることを特徴とする請求項1記載の自動分析装置。
【請求項3】
前記記憶部に格納された近似式は、検査項目と前記試薬との組み合わせ毎に定められていることを特徴とする請求項1記載の自動分析装置。
【請求項4】
前記近似式は、以下の(数4)乃至(数7)のいずれかであることを特徴とする請求項1記載の自動分析装置。
(数4)x = a * t + b + c * exp( -k * t )
(数5)x = a * t + b + e / ( t + d )
(数6)x = a * t + b + w / { exp( u * t ) + v }
(数7)x = a * t + b + p * log{ 1 + q * exp( r * t ) }
【請求項5】
前記複数の測定点データを近似した近似曲線において、反応開始時の前記近似曲線の接線を第1の直線、前記近似曲線に漸近する直線を第2の直線としたとき、(1)乃至(4)の形状特徴量のうちいずれかひとつ以上を前記指標として用い、異常判定を行うことを特徴とする請求項1記載の自動分析装置。
(1)前記第1、第2の直線が交差する時刻
(2)前記第2の直線が予め定めた閾値以下に漸近した時刻
(3)反応開始時刻の前記第1、第2の直線の値の差
(4)前記第1、第2の直線の傾きの差
【請求項6】
前記記憶部は、正常状態における反応過程データから得られた形状特徴量と、異常状態における反応過程データから得られた形状特徴量の分布データを有し、測定データから求められた形状特徴量をあてはめて異常判定を行うことを特徴とする請求項5記載の自動分析装置。
【請求項7】
前記記憶部は、異常の種類と前記形状特徴量を用いた判定式を組み合わせたデータを有し、前記データ処理部は異常種類の判定を行うことを特徴とする請求項5記載の自動分析装置。
【請求項8】
前記異常の種類は、前記撹拌手段の撹拌異常、前記分注手段の分注異常、前記試薬の異常のいずれかであることを特徴とする請求項6記載の自動分析装置。
【請求項9】
前記異常判定は、反応開始から予め設定した時間間隔で行うことを特徴とする自動分析装置。
【請求項10】
前記記憶部は、複数の測定データの指標と形状特徴量とを有し、前記異常判定を、前記複数の測定データのうち特定条件のデータを選択して行うことを特徴とする請求項1記載の自動分析装置。
【請求項11】
前記記憶部は、複数の測定データの指標と形状特徴量とを有し、前記異常判定を、複数の測定データの指標と形状特徴量の分布に基づいて行うことを特徴とする請求項1記載の自動分析装置。
【請求項12】
前記近似曲線の時間二次微分の絶対値が最小になる時点における接線を求め、前記接線を用いて前記近似曲線の指標を計算し,前記指標に基づいて異常判定を行うことを特徴とする請求項1記載の自動分析装置。
【請求項13】
前記近似式として、時間の経過とともに計測される測定値の時系列データを,tを前記測定値が測定された時刻,xを前記測定値,a,bをパラメータ,h(t,ψ)を複数のパラメータψを含み0に漸近する関数とする時,
x = ax + b + h( t, ψ )
で表される関数を用い,パラメータa,b,ψを前記指標として異常判定を行うことを特徴とする請求項12記載の自動分析装置。
【請求項14】
前記測定部は、前記反応容器に光を照射する光源と、前記反応容器を透過した光を検出する検出部とを備えたことを特徴とする請求項1に記載の自動分析装置。
【請求項15】
試料と試薬との反応過程における測定点データを取得する測定部と、前記測定点データを処理するデータ処理部と、前記データ処理部で用いる関数を格納した記憶部とを用いた分析方法であって、
前記測定部は、試料と試薬との反応過程における複数の測定点データを取得し、
前記データ処理部は、前記記憶部に格納された複数の近似式のいずれかを選択して前記複数の測定点データを近似し、近似曲線から得られる指標を用いて測定の異常判定を行うことを特徴とする分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−271095(P2010−271095A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−121531(P2009−121531)
【出願日】平成21年5月20日(2009.5.20)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】