説明

自動分析装置及び自動分析方法

【課題】試料と試薬を混合し、混合液の経時的な変化を測定する自動分析装置において、反応過程に現れる検体固有の直線範囲を自動的に決定又は予測する技術を提供する。
【解決手段】本発明は、反応過程データを関数で近似し、当該関数に基づいて反応初期及び又は後期の曲線部分を自動的に判定する。曲線部分を除いた直線範囲を検体ごとに決定し、決定した直線範囲の吸光度データを用いて検査値を算出する。また、本発明は、反応過程の途中までに得られた吸光度データに基づいて反応初期の直線開始時刻を自動的に判定し、当該直線終了時刻と事前に予定した直線終了時刻とに基づいて直線範囲を予測し、その結果に基づいて予測値を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液、尿その他の生体サンプルを定性又は定量分析する自動分析装置及び方法に関し、例えば臨床検査時の反応をモニタリングする機能を有する自動分析装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
臨床検査用の自動分析装置は、試料と試薬を一定量分注して反応させた後、一定時間にわたり反応液の吸光度を測定し、測定結果に基づき測定対象物質の検査値(濃度や活性値)等を求める。
【0003】
臨床検査の測定法の一つであるレート法は、主に試料に含まれる酵素成分の活性値を測定するために使用される。測定方法は、試薬として一定量の基質を添加し、酵素が基質を消費して変化する要素を測定する。通常、試薬には十分量の基質が含まれている。このため、試料と試薬の反応が正常に行なわれていれば、一般に反応は時間変化に対して吸光度が一定量ずつ直線的に変化する。レート法ではこの直線の傾き(反応速度)から測定対象物質の活性値を求めている。
【0004】
しかしながら、測定項目、検体の濃度、撹拌の状況、反応温度などの理由から、反応速度が一定(直線)になるまでにラグタイム部と称される曲線部をもつことがある。また、高活性検体等の場合には反応が早く進むことがある。この場合、測定中に試薬の基質が十分量でなくなってしまい、後半の反応速度が一定でなくなることがある。すなわち、後半の反応速度が非直線状(曲線)に変化することがある。
【0005】
このように反応過程データには、反応の開始部と後部に曲線部分が出現することがある。このため、従来装置の場合には、検査値の換算に用いる時間範囲と吸光度限界値(Absリミット)を項目ごとに定める手法を採用する。また、従来装置の中には、リニアリティチェックという直線性のチェック機能を備えるものもある。リニアリティチェックでは、一定の測光範囲について、その前半と後半における吸光度変化量の差が算出され、その差が指定したリニアリティチェック値を超える場合に、直線でないと判断される。直線でないと判断された場合、従来装置は「異常」を通知する。
【0006】
検査値の換算に用いる時間範囲(直線範囲)の決定方法には、特許文献1及び2に開示された方法がある。特許文献1には、隣接する2つの測光ポイント間毎の吸光度差を算出し、それらのうちで一番大きな吸光度差(dmax)を示す測光ポイント間を基準点に定め、その前後の測定範囲の中で吸光度差が基準点の吸光度差(dmax)の80%以上となる区間を直線範囲に決定する方法が開示されている。特許文献2には、換算に用いる範囲幅を一定に設定し、先頭点の測光ポイントから1ポイントずつずらしながら、各範囲内に対応する吸光度の相関係数を最小二乗計算法により算出し、一番相関の良かった範囲を直線範囲に決定する方法が示されている。
【0007】
一方、近年、病院における臨床検査の分野では、患者検体の測定結果をできる限り早急に報告することが求められている。自動分析装置の測定時の反応時間は10分ほどであるが、単に測定時間を短くするだけでは、正確な結果が得られなくなってしまう。例えば反応が不完全な時点で測定を終了し、その時点の吸光度から検査値を測定することになった場合には、正確な結果が得られなくなってしまう。そこで、反応終了時の吸光度を予測して検査値に換算する方法が考えられる。反応終了時の吸光度を予測する方法としては、特許文献3が公知である。特許文献3には、(数1)に示す近似式を用いて反応過程データを近似し、レート法に関しては、予め定めた2点間又は近似式を時間で微分した後に予め定めた1点から直線の傾きを求める方法が示されている。なお、(数1)において、tは時間、yは吸光度を表し、A、B、Kはパラメータである。
(数1) y=A + (B−A)/eKt
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭64−68642号公報
【特許文献2】特開平10−185687号公報
【特許文献3】特開平6−194313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
例えばレート法の主試薬添加後の反応過程データの例を図2の(a)及び(b)に示す。横軸110は時間の経過を示し、縦軸120は吸光度を示す。前述したように、従来装置は、検査項目毎に時間範囲(直線範囲)を定めている。すなわち、直線開始時刻と直線終了時刻を事前に定めている。図中の範囲160は、ある検査項目について予め定められた時間範囲を示す。
【0010】
図2の(a)の符号130、140、150は、同じ項目の異なる検体の吸光度データを示し、範囲135、145、155は各吸光度データのラグタイム部を示す。なお、符号170は予め定められた吸光度の限界値を示す。
【0011】
符号140で示す吸光度データのように、本来の直線部(本来の検査対象)だけが予め定められた時間範囲160に含まれる場合がある一方で、符号150で示す吸光度データのように、ラグタイム部155の一部が予め定められた時間範囲160内に含まれる場合もある。
【0012】
この符号150で示す吸光度データの場合、従来装置のリニアリティチェック機能では、反応過程データに異常があると判断され、その検体は再検査の対象になる。しかし、符号150で示す吸光度データの場合でも、その直線部を正確に判断できさえすれば、再検査は必要ない。また、符号150で示す吸光度データのように、その直線部とラグタイム部155の直線性にそれほどの差がない場合には、リニアリティチェックにおいて異常(ラグタイム部155が直線範囲の測定期間に含まれること)を検出することができず、曲線部の情報を含んだまま直線の傾きが算出されてしまう場合もある。この場合、直線の傾きが精度良く算出されないので検査値の誤差が大きくなる可能性がある。
【0013】
また、符号130で示す吸光度データの場合、予め定められた範囲160で測定結果は直線を示している。しかし、符号130で示す吸光度データは、範囲160の後半部分で吸光度の限界値を超える。このため、符号130で示す吸光度データの検体も再検査の対象となる。しかし、吸光度の限界値を超えた後も、当該検体の吸光度が直線的に変化することが保証できれば、吸光度の限界値を超えた以降のデータも検査値の換算に用いることが可能となり、再検査を減らすことができる。
【0014】
図2の(b)に示す符号180も、ある検体のある検査項目に関する吸光度データである。この検体の場合、範囲160の後半に曲線部分が現れる。このため、この検体も、従来装置のリニアリティチェック機能により、再検査の対象に分類されてしまう。しかし、この検体の場合でも、符号180で示す吸光度データの直線範囲だけを抽出することができれば検査値の換算が可能となり、再検査を減らすことができる。
【0015】
因みに、特許文献1のリニアリティチェック機能を符号150で示す吸光度データに適用する場合、一番大きな吸光度差を示す測光ポイントは、図中に円で囲んで示す時点となる。ところが、この時点は、ラグタイム部155と直線部の境である。特許文献1のリニアリティチェック機能では、円で囲んだ測光ポイントを基準として、前後の期間を直線範囲に定める。このことは、本来の直線部でないラグタイム部155が、検査値の換算に用いられることを意味する。すなわち、検査値の誤差が大きくなる可能性がある。
【0016】
また、特許文献2のリニアリティチェック機能の場合にも、換算に使用する範囲幅が一定であるので、範囲幅が長く設定されると直線部でない範囲が検査値の換算に用いられる可能性がある。このため、検査値の誤差がやはり大きくなる可能性がある。その一方で、範囲幅が短く設定された場合、検査値の計算に用いる吸光度データが少なくなり、やはり誤差が大きくなる可能性がある。
【0017】
同様に、反応終了時の吸光度を予測する特許文献3の場合にも、予め定めた範囲(開始時点と終了時点で与えられる)について、反応過程データの直線の傾きを算出することになるため、予め定めた範囲が実測定データの直線範囲の外に位置する場合には、正確な予測値が得られない可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
そこで、本発明は、試料と試薬を混合し、混合液の経時的な変化を測定する自動分析装置において、(a) 試料と試薬の反応過程から複数の測定点データを取得する測定点データ取得部と、(b) 測定点データを処理するデータ処理部と、(c) データ処理部で使用する第1の近似式を格納した記憶部と、(d) データ処理部の処理結果を出力する出力部とを有するものを提案する。ここで、データ処理部では、記憶部に格納された第1の近似式を複数の測定点データに近似する処理と、近似処理の結果得られる第2の近似式に基づいて前記反応過程の直線範囲を決定する処理とを実行する。
【0019】
なお、データ処理部は、所定時刻までに取得された複数の測定点データを用いて第2の近似式を算出し、当該第2の近似式に基づいて反応過程の直線範囲を推定又は予測する機能を有することが望ましい。
【0020】
また、本発明は、試料と試薬を混合した混合液の経時的な変化を、自動分析装置を用いて測定する自動分析方法において、(a) 自動分析装置が、試料と試薬の反応過程から複数の測定点データを取得する処理と、(b) 自動分析装置が、記憶部から読み出した第1の近似式を複数の測定点データに近似する処理と、(c) 自動分析装置が、近似処理の結果得られる第2の近似式に基づいて反応過程の直線範囲を決定する処理とを実行するものを提案する。やはり、所定時刻までに取得された複数の測定点データを用いて第2の近似式を算出し、当該第2の近似式に基づいて反応過程の直線範囲を推定又は予測する処理を有することが望ましい。
【0021】
なお、本発明は、直線範囲の精度指標を算出し、処理結果として出力部に出力する機能を有することが望ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、検査値の換算に用いる直線範囲を検体毎に定めることが可能となる。結果的に検体毎に正確な検査値が得られる。また、従来装置に比して再検査の対象となる検体数を減らすことができる。さらに、所定時刻までに取得された複数の測定点データを用いて第2の近似式を算出し、当該第2の近似式に基づいて反応過程の直線範囲を推定する場合には、直線範囲の決定までに要する時間を短縮することができる。また、直線範囲の精度指標を出力する機能を有する場合には、検査値や予測値の精度保証が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】第1の実施例に係る処理フローチャート。
【図2】レート法の反応過程データ例を説明する図。
【図3】自動分析装置の概略構成例を示す図。
【図4】制御部の内部構成例を示す図。
【図5】検査項目と、試薬の種類と、最適な近似式の関係を記述したテーブル例を示す図。
【図6】ラグタイム部を数値化する方法を説明する図。
【図7】反応後期の曲線部分を数値化する方法を説明する図。
【図8】反応後期の曲線部分を判定する処理フローチャート。
【図9】検体と検査値との関係を記述したテーブル例を示す図。
【図10】第1の実施例を用いて決定される直線範囲例を説明する図。
【図11】第2の実施例に係る処理フローチャート。
【図12】近似式パラメータの分布例を示す図。
【図13】近似式パラメータ比の分布例を示す図。
【図14】第2の実施例を用いて決定される直線範囲例を説明する図。
【図15】第3の実施例に係る処理フローチャート。
【図16】予測値と検査値と精度指標を記述したテーブル例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面に基づいて、本発明の実施例を説明する。なお、後述する装置構成や処理動作の内容は発明を説明するための一例である。本発明には、後述する装置構成や処理動作に既知の技術を組み合わせた発明や後述する装置構成や処理動作の一部を既知の技術と置換した発明も含まれる。
【実施例】
【0025】
[実施例1]
以下、第1の実施例に係る自動分析装置の装置構成及び処理動作を、図面を参照して詳細に説明する。図3に、本発明に係る分析機能を実装する生化学自動分析装置の概略構成を示す。
【0026】
生化学自動分析装置は、サンプルディスク1、試薬ディスク2、反応ディスク3、反応槽4、サンプリング機構5、ピペッティング機構6、攪拌機構7、測光機構8、洗浄機構9、コンピュータ(PC)10、記憶装置12、制御部13、圧電素子ドライバ14、攪拌機構コントローラ15、試料容器16、円形ディスク17,19、試薬ボトル18、保冷庫20、反応容器21、反応容器ホルダ22、駆動機構23、プローブ24,27、支承軸25,28、アーム26,29、固定部31、ノズル33、上下駆動機構34を有している。記憶装置12には、分析パラメータ、各試薬ボトルの分析可能回数、最大分析可能回数、キャリブレーション結果、分析結果等が記憶される。
【0027】
生化学自動分析装置における試料の分析は、サンプリング、試薬分注、撹拌、測光、反応容器の洗浄、濃度換算等のデータ処理の順番に実行される。
【0028】
サンプルディスク1は、制御部13によりコンピュータ10を介して制御される。サンプルディスク1上には、複数の試料容器16が円周上に並んで設置される。試料容器16は、分析順に従ってサンプリングプローブ24の下まで移動される。試料容器16中の検体は、検体サンプリング機構5に連結された試料用ポンプにより反応容器21の中に所定量ずつ分注される。
【0029】
試料が分注された反応容器21は、反応槽4の中を第1試薬の添加位置まで移動される。移動された反応容器16には、試薬分注プローブ27に連結された試薬用ポンプ(図示せず)により試薬容器18から吸引された試薬が所定量だけ加えられる。第1試薬が添加された後、反応容器21は撹拌機構7の位置まで移動され、最初の撹拌が行われる。このような試薬の添加と撹拌が、例えば第1〜第4試薬について行われる。
【0030】
内容物が撹拌された反応容器21は、光源から発せられる光束中に配置される。光束の一部は反応容器21を通過し、一部は内容物で吸収される。吸収の度合いは、例えば多波長光度計で構成される測光機構8により検知される。測光機構8は、時間の経過と共に検出された検体に関する吸収の度合いを測定点データ(吸光度信号)として制御部13に出力する。制御部13は、後述するデータ処理を通じ、測定点データの直線範囲を決定し、その後、検体の検査値(直線範囲の傾き)を算出する。算出された検査値(データ)は記憶装置12に記憶され、コンピュータ10に付属する表示装置に表示される。測光の終了した反応容器21は、洗浄機構9の位置まで搬送され、洗浄の後、次の分析に使用される。
【0031】
次に、制御部13において実行される直線範囲の決定処理手順を説明する。図1に、当該処理手順を示す。なお、図1は、制御部13内で実行される直線範囲の決定プログラムに関わる部分のみを示している。また、図4に、直線範囲の決定プログラムを通じて実現される制御部13の機能ブロックを示す。なお、図4は、当該決定プログラムをハードウェアの観点から表している。図4に示す制御部13は、吸光度データ取得部410、近似式パラメータ算出部420、ラグタイム部判定部425、後半曲線部判定部435、直線範囲内吸光度データ数判定部440、検査値算出部445、これらを相互に接続するデータバス450で構成される。データバス450を通じ、各部は、相互にデータを受け渡すことができる。なお、制御部13を構成する機能ブロックは、制御部13以外のハードウェアやCPUで構成しても良い。勿論、制御部13を構成する機能ブロックは、同一のCPU内にソフトウェアモジュールとして実装しても良い。
【0032】
まず、ある検体に対し、ある検査項目の測定が開始される。この測定開始と同時に、ステップS5において、近似式パラメータ算出部420が、直線範囲の決定に適した近似式(第1の近似式)を選択する。選択対象としての吸光度の時間変化を表す複数の近似式は、記憶装置12に予め記憶されているものとする。近似式パラメータ算出部420は、これら複数の近似式の中から検査項目と試薬の組み合わせに対応した最適な近似式を選択的に読み出す。
【0033】
この実施例の場合、(数2)〜(数5)に示す関数を選択可能な近似式とする。なお、各関数において、tは時刻、xは吸光度を表すものとする。また、a、b、c、d、e、k、p、q、r、u、v、wはパラメータである。
(数2) x=a * t + b + c * exp(-k * t)
(数3) x=a * t + b + e / (t + d)
(数4) x=a * t + b + w / {exp(u * t) + v}
(数5) x=a * t + b + p * log{1 + q * exp(r * t)}
【0034】
例示した4つの関数は、いずれも、時間に比例した成分と、定数成分と、時間変化率が異なる非直線成分で構成される。勿論、これ以外の関数を近似式として用意することも可能である。
【0035】
なお、近似式パラメータ算出部420による近似式の選択は、検査項目と試薬の組み合わせに基づいて自動的に実行される手法を採用しても良いし、ユーザーが自由に選択する手法を採用しても良い。前者の機能の実現には、例えば検査項目と試薬の組み合わせ毎に最も適した近似式をテーブルとして記憶装置12に記憶しておけば良い。近似式パラメータ算出部420は、このテーブルを検査項目と試薬の組み合わせによって検索し、組み合わせに対応した最適な近似式を選択する。図5に、この種のテーブル例を示す。テーブル500は、列510、520及び530で構成される。列510には検査項目が記述され、列520には試薬の種類が記述され、列530には検査項目と試薬の種類に対応付けられた最適な近似式の種類が記述されている。
【0036】
この実施例の場合、近似式パラメータ算出部420は、検査項目と試薬の組み合わせに基づいてテーブル500を検索し、直線範囲の決定に最適な近似式を選択する。なお、テーブル500に記憶された対応関係の内容は、ユーザーが変更可能な構成としても良い。
【0037】
吸光度は、時間の経過と共に複数回測定される。次のステップS10では、吸光度データ取得部410が、1回の測定又は複数回の測定平均の吸光度データを、測光機構8から入力する。すなわち、吸光度データは制御部13に入力される。試薬と検体との反応に伴う色調変化に吸光度が大きく変化する波長(主波長)の光と、吸光度が殆ど変化しない波長(副波長)の光の2波長光を用いる測定方式においては、主波長光の吸光度と、副波長光の吸光度との差を、吸光度データとして入力する。
【0038】
ステップS15では、吸光度データ取得部410が、主反応試薬が添加されたかどうかを判定する。主反応試薬が添加されていないと判定された場合、処理プロセスは、ステップS10に戻り、次の吸光度データの入力が行われる。主反応試薬の添加が判定されるまで、以上の判定動作が繰り返し実行される。ここで、主反応試薬とは、複数の試薬を用いる反応において、主たる吸光度変化をもたらす試薬(通常は最終の試薬)を指す。主反応試薬が添加された場合には、処理プロセスはステップS20に移行する。
【0039】
ステップS20では、入力された吸光度データを、吸光度データ取得部410が記憶装置12に記憶する。
【0040】
ステップS25では、吸光度データ取得部410が、最後の吸光度データが記憶されたか否かを判定する。すなわち、この実施例では、直線範囲の決定前に、予め定めた反応期間に対応する全ての吸光度データが記憶装置12に記憶されることが必要とされる。ここで、最後の吸光度データが記憶装置12に記憶されていないと判定された場合、処理プロセスはステップS10に戻る。このループ動作(吸光度データの入力と記憶)は、必要なデータ数が記憶装置12に記憶されるまで繰り返し実行される。必要なデータ数の蓄積が吸光度データ取得部410により判定された場合、処理プロセスはステップS30に進む。
【0041】
ステップS30では、ステップS5において選択された近似式(第1の近似式)によって表される吸光度の時間変化と、実際の吸光度の時間変化との差がなるべく小さくなるように、近似式パラメータ算出部420が、数式中のパラメータの値を算出する。具体的には、測定結果として記憶された吸光度データと、近似式により算出される対応時点の吸光度データとの二乗誤差がなるべく小さくなるように、数式中のパラメータ値が算出される。その際、各近似式の最終項((数2)〜(数5)の場合であれば、(a*t + b)以降の非直線成分)においては、時刻tが増大するとパラメータ値が“0(ゼロ)”に漸近するように制限する。さらに、各近似式の最終項においては、反応初期の吸光度データに近似式をフィッティングさせるようにパラメータの初期値を設定する。
【0042】
パラメータ値の算出には、既存の最小二乗計算方法が利用可能である。この他、様々な形式の数式に対応可能な方法として、例えば最急降下法により二乗誤差が最小となるパラメータ値を算出する方法もある。この明細書では、各項のパラメータ値を測定結果(吸光度データ)に応じて最適化した後の近似式を第2の近似式と呼び、検査項目と試薬の組み合わせに応じて選択される第1の近似式と区別する。
【0043】
更に、ステップS30において、近似式パラメータ算出部420は、各時刻について、第2の近似式により算出される吸光度(近似値)と実際に測定された吸光度(実測値)との差(誤差)を算出する。
【0044】
ステップS35では、近似式パラメータ算出部420が、第2の近似式を規定するパラメータ値と、各時刻について算出された近似値と実測値との差(誤差)を記憶装置12に記憶する。
【0045】
次のステップS40では、ラグタイム部判定部425が、反応初期の吸光度が曲線的に変化するラグタイム部分を第2の近似式に基づいて計算する。図6に、ラグタイム部の判定方法を説明する。
【0046】
図6において横軸110は反応開始からの経過時間を示し、縦軸120は吸光度を示す。曲線210は、第2の近似式により求められる吸光度変化の近似曲線を示す。直線220は曲線210が漸近する直線である。また、横軸110上の点230は、曲線210が直線220に十分漸近する時刻(Tlとする)を示し、横軸110の0〜Tlの範囲がラグタイム部に相当する。ラグタイム部の終了時刻が直線開始時刻に相当するので、点230に対応する時刻が直線開始時刻となる。
【0047】
ここで、十分漸近した時刻とは、例えば微小な値εを予め定めておき、曲線210と直線220との差がε以下になった時刻として定義する。εは一定値としても良いし、初期吸光度や吸光度の変化幅に応じて設定しても良い。例えば初期吸光度に定数を乗じた値、又は、初期吸光度と最終吸光度の差に定数を乗じた値をεとしても良い。また、十分漸近した時刻は微小な値δを定めておき、曲線210と直線220の傾きの差がδ以下になった時刻として定義しても良い。この場合、δは一定値としても良いし、直線220の傾きに応じて設定しても良い。例えば直線220の傾きに定数を乗じた値をδとしても良い。
【0048】
ステップS45では、ラグタイム部判定部425が、算出した時刻を直線開始時刻として記憶装置12に記憶する。
【0049】
次のステップS55では、後半曲線部判定部435が、反応過程データの後半に現れる曲線部(以下、「後半曲線部」という。)を判定する。図7と図8を用い、後半曲線部の判定方法を説明する。
【0050】
図7の上図の横軸110は反応開始からの経過時間を表し、縦軸120は吸光度を示す。曲線210は第2の近似式により求められる吸光度変化の近似曲線である。記号180は検体の吸光度データを示す。図7の下図の横軸110は反応開始からの経過時間を示し、縦軸700は誤差を示す。ここでの誤差とは、実測値と近似値の差分値として与えられる。例えば曲線710は実測値から近似値を引いた値の時間変化を示す。反応過程データが減少曲線の場合は、例えば求める誤差は近似値から実測値を引いた値にする。この場合も図7の下図に示すような図となる。(数2)〜(数5)の近似式には後半曲線部を表す式が含まれていないので、記号180のように後半が曲線になった場合、近似曲線210は図7の上図に示すように記号180の反応過程曲線と交差する。よって、図7の下図に示すように、近似値と実測値の差(誤差)の時間変化を図示すると、誤差は曲線の開始時刻で極大を示すことになる。この時刻を、この実施例では、直線終了時刻とする。
【0051】
図8を用い、後半曲線部判定部435で実行される処理動作を説明する。まず、ステップS800において、後半曲線部判定部435は、記憶装置12に記憶された誤差を読み出し、誤差が予め定めた許容範囲内か否かを判定する。判定に使用する許容範囲は、記憶装置12に予め記憶されているものとする。
【0052】
誤差が許容範囲内の場合、後半曲線部判定部435は、ステップS810に進む。ステップS810において、後半曲線部判定部435は、反応過程データの後半部分に曲線部がないと判定する。この場合、直線終了時刻は反応終了時刻となる。ステップS800で誤差が許容範囲外と判定された場合、後半曲線部判定部435は、ステップS820に進む。
【0053】
ステップS820において、後半曲線部判定部435は、図7の下図に示すような誤差の時間変化を監視し、誤差が極大値を示す時刻720(Teとする)を検出する。
【0054】
次のステップS830において、後半曲線部判定部435は、時刻720以降の誤差の分布が単調減少か否かを判定する。単調減少するか否かは、例えば隣り合う時間の誤差の差分の符号が一定か否かで判定することができる。単調減少を示していた場合、図7の上図に示すように後半部分に曲線部があることを示す。従って、後半曲線部判定部435はステップS840に進み、反応過程データの後半に曲線部があると判定する。この場合、直線終了時刻は曲線開始時刻となる。すなわち、図7の時刻720となる。ステップS830で単調減少とならないと判定された場合、後半曲線部判定部435は、ステップS850に進んで測定の「異常」を示す信号を出力する。「異常」を示す信号の出力方法には、アラームを鳴らす方法、図3のコンピュータ10に付属する表示装置に表示する方法等が考えられる。
【0055】
図1の説明に戻る。ステップS55の処理が終了すると、後半曲線部判定部435は、ステップS60に進む。ステップS60において、後半曲線部判定部435は、判定結果として得られた直線終了時刻を記憶装置12に記憶する。
【0056】
ステップS70では、直線範囲内吸光度データ数判定部440が、記憶装置12に記憶された直線開始時刻と直線終了時刻とから直線範囲を決定する。
【0057】
続くステップS75では、直線範囲内吸光度データ数判定部440が、直線範囲内に出現する吸光度データの数が予め定めた閾値以上か否かを判定する。なお、直線式は、例えば(数6)に示すような1次式で表される。(数6)を用いて直線の傾きを求める場合に必要な吸光度データ数の範囲は2個以上である。ただし、(数6)において、tは時刻、xは吸光度、a、bはパラメータを示す。
(数6)x=a * t + b
【0058】
また、信頼できる検査値を算出するために必要な最低限の吸光度データ数を予め実験から定めておいても良い。
【0059】
ところで、ステップS75の判定処理において、直線範囲内の吸光度データ数が閾値より小さいと判定された場合、直線範囲内吸光度データ数判定部440は、ステップS90に進み、測定が「異常」であると判定する。「異常」を示す信号の出力方法には、アラームを鳴らす方法、図3のコンピュータ10に付属する表示装置に表示する方法等が考えられる。
【0060】
一方、ステップS75の判定処理において、直線範囲内の吸光度データ数が閾値以上と判定された場合、直線範囲内吸光度データ数判定部440は、処理プロセスをステップS80に進める。ステップS80においては、検査値算出部445が、直線範囲内の吸光度データと近似する直線式を算出し、その直線式から検査値換算に用いる傾きを算出する。
【0061】
ここでの直線式の算出(傾きを算出する処理に対応する)には、例えば既存の最小二乗計算方法等を利用する。検査値算出部445は、直線範囲内の吸光度データに近似する(数6)で与えられる直線を算出する。すなわち、直線の傾きを算出する。また、検査値算出部445は、傾きから検量線に基づいて検査値を算出することもできる。検量線データは予め記憶装置12に記憶しておく。直線式を算出した直線範囲と直線式パラメータ、算出された検査値は記憶装置12に記憶される。
【0062】
次のステップS85において、検査値算出部445は、算出された検査値を出力する。検査値の出力方法には、図3のコンピュータ10に付属する表示装置に表示する等が考えられる。表示例を図9に示す。図9に示す測定結果の表示画面は、列900から960で構成される。列900には検体IDが記述され、列910には検査値が記述される。列905には直線範囲の決定に使用した近似式(第1の近似式)が記述される。列920には検査値の換算に用いた直線範囲の開始時刻(直線開示時刻)が記述される。列930には検査値の換算に用いた直線範囲の終了時刻(直線終了時刻)が記述される。列940には検査値の換算に用いた直線範囲内に出現する吸光度データ数が記述される。列950,列960には検査値の換算に用いた直線範囲とその吸光度データ数とで検査値を算出した場合の精度指標が記述されている。精度指標には、例えばCV値を用いる。CV値はキャリブレーション用の検体等、検査値が明確になっている検体を用いて実験を行い、予め定めておけば良い。実験では、様々な直線開始時刻と直線終了時刻の組み合わせ(吸光度データ数)についてCV値(分散や標準偏差等ばらつきを表す値)を算出しておけば良い。精度指標の他の例としては,例えば吸光度データ数の平均値とばらつき(分散や標準偏差等)を用いる。吸光度データ数の平均値とばらつきは,直近に測定した一般(患者)検体やキャリブレーション用検体などの結果から,項目ごとに算出すれば良い。なお,算出に用いる検体,検体数,期間はユーザーが自由に選択できるようにすれば良い。通常、直線範囲内の吸光度データ数が多いほど、検出値の信頼性は一般的に高くなる。
【0063】
以上説明した第1の実施例においては、図1に示す処理の全てを制御部13で実行する例を説明した。しかし、制御部13以外の処理装置を使用して、同様の処理を実行することも可能である。例えばコンピュータ(PC)10内で実行されるソフトウェア処理として図1の処理を実行することも可能である。また、記憶装置12としてコンピュータ(PC)10内部の記憶装置を使用することも可能である。
【0064】
以上説明した第1の実施例により直線範囲を決定した例を、図10の(a)及び(b)に示す。(a)及び(b)の横軸110は反応開始からの経過時間を示し、縦軸120は吸光度を示す。時刻1000は、本実施例を通じて決定された直線開始時刻を示し、時刻1020は本実施例を通じて決定された直線終了時刻を示す。範囲1030は本実施例により決定された直線範囲を表す。なお、図10の(a)はラグタイムのある反応過程データの例であり、図10の(b)は反応過程の後半に曲線のある反応過程データの例を示している。どちらの場合も、曲線部を除いた直線部だけを直線範囲と決定できることが確認できた。
【0065】
以上の通り、本実施例で説明した直線範囲の決定機能の採用により、検査値の換算に用いる直線範囲を検体ごとに決定することができる。そのため、従来装置に比して、精度の高い検査値を得ることが可能となる。同時に、再検査を減らすことが可能となる。更に、検査値換算に用いた直線範囲、吸光度データ数、参考CV値や参考吸光度データ平均値等の精度指標も出力することができるため、検体ごとの検査値の精度保証が可能となる。
【0066】
[実施例2]
次に、第2の実施例に係る自動分析装置を、図面を参照しながら説明する。本実施例の場合も、自動分析装置は生化学自動分析装置であるものとする。従って、その装置構成は、第1の実施例と同じである。すなわち、図3に示す装置構成を有している。また、制御部13以外の動作は、第1の実施例と同じである。従って、制御部13以外の詳細な説明は省略する。
【0067】
以下、制御部13の処理動作を、本実施例に特有の処理動作を中心に説明する。本実施例の場合、制御部13は、図11に示す処理手順に基づいて直線範囲を決定する。なお、図11のうち図1に示した処理と同じ処理を行う処理ステップには同じ符号を付して示す。
【0068】
第2の実施例の場合、制御部13は、反応過程の全ての吸光度データが測定されるのを待つことなく、吸光度データの測定動作と並行的に直線範囲の開始点の決定処理を開始する。
【0069】
図11に示す処理プロセスのうちステップS5からステップS20までの処理は、図1におけるステップS5からステップS20までの処理と同一である。
【0070】
次のステップS1100では、近似式パラメータ算出部420が、現在までに取得された吸光度データに基づいて近似式パラメータとパラメータ変化値を算出する。近似式パラメータの算出方法は、図1に示すステップS30と同一である。ただし、第1の実施例では、反応過程の最後の吸光度データが取得されてから、取得した全ての吸光度データを用いて直線範囲を算出したのに対し、この第2の実施例の場合には、吸光度データが取得される度に近似式パラメータとパラメータ変化値を順次算出する。
【0071】
ここで、パラメータ変化値とは、近似式パラメータの時間変化を数値化した値のことであり、算出には直線部の傾きを表す近似式パラメータを使用する。例えば第2の近似式が(数2)〜(数5)のいずれかの形式で与えられる場合、近似式パラメータaを使用する。パラメータの変化を数値化する方法には、様々な方法が利用可能である。例えば一回前に算出されたパラメータ値との差を算出する方法、一回前に算出されたパラメータとの比を算出する方法等を利用できる。なお、この実施例では直線部の傾きを与えるパラメータにのみ着目しているが、その他のパラメータ、例えば非直線部のパラメータの変化に着目しても良い。また、直線部と非直線部の両方のパラメータの変化に着目しても良い。
【0072】
ステップS1110では、近似式パラメータ算出部420が、算出した近似式パラメータとパラメータ変化値を記憶装置12に記憶する。
【0073】
次のステップS40とステップS45は、図1に示すステップS40とステップS45と同じである。この実施例の場合、パラメータ変化値が許容範囲以下となるタイミングをラグタイム部の終了時点と判定する。
【0074】
次のステップS1120では、後半曲線部判定部435が、算出されたパラメータ変化値が予め定めた範囲内か否かを判定し、反応過程データの後半曲線部の判定を行う。図12と図13を用いて後半曲線部の判定方法を説明する。
【0075】
図12は、直線の傾きを表す近似式パラメータとして、例えば(数2)〜(数5)のパラメータaを用いた場合の経時変化を示す。横軸110は反応開始からの経過時間を示し、縦軸1200は近似式パラメータaの値を示す。記号1210は、各時刻に算出された近似式パラメータaの値を示している。近似式パラメータaがほぼ一定の間は反応過程データが直線上に位置することが分かり、近似式パラメータaが一定値から外れると反応過程データが曲線に沿って変化していることが分かる。
【0076】
例えばパラメータ変化値に近似式パラメータaを用いる場合、後半曲線部判定部435は、近似式パラメータaが一定と判断された場合、後半曲線部判定部435は、直線と判断してステップS25に進む。一方、近似式パラメータaが変化したと判定された場合、後半曲線部判定部435は、直線範囲が終了したと判断してステップS1130に進む。
【0077】
図13は、図12に示すパラメータの分布に基づいて、一回前に算出されたパラメータとの比を、パラメータ変化値として数値化する場合を示す。横軸110は反応開始からの経過時間を示し、縦軸1300はパラメータ比を示す。記号1310は、各時刻の一回前に算出されたパラメータとの比の値を示す。図13に示すように、反応過程データが直線を示す場合は、パラメータ比は1に近い値となり、直線を示さなくなった場合にはパラメータ比は1から離れた値となる。
【0078】
例えばパラメータ変化値にパラメータ比を用いる場合、後半曲線部判定部435は、予め定められた許容範囲1320を記憶装置12から読み出して、ステップS1120の判定処理に使用する。ここで、パラメータ比が許容範囲内であると判定された場合、後半曲線部判定部435は、直線と判断してステップS25に進む。一方、パラメータ比が許容範囲外と判定された場合、後半曲線部判定部435は、直線範囲が終了したと判断してステップS1130に進む。
【0079】
処理プロセスがステップS25に進んだ場合、吸光度データ取得部410は、入力された吸光度データが最後の吸光度データか否かを判定する。最後の吸光度データでないと判定された場合、吸光度データ取得部410は、処理プロセスをステップS10に戻す。一方、ステップS25において、必要なデータ数が蓄積されたと判定された場合、吸光度データ取得部410は、処理プロセスをステップS70に進める。
【0080】
なお、ステップS1130に進んでいた場合、後半曲線部判定部435は、判定された直線終了時刻を記憶装置12に記憶し、その後、ステップS70に処理プロセスを進める。
【0081】
ステップS70〜ステップS90は、図1に示すステップS70〜ステップS90の処理と同じである。
【0082】
以上説明した第2の実施例では、ラグタイム部の判定(すなわち、直線開始時刻の判定)に、第1の実施例と同じ手法を適用する場合について説明した。しかし、本実施例のステップS1120で説明した後半曲線判定方法を、ラグタイム部の判定に用いることも可能である。その場合、パラメータ変化値が、予め定めた許容範囲外から許容範囲内に転じた時刻を直線開始時刻と判定すれば良い。
【0083】
以上述べた第2の実施例では、図11に示す処理を制御部13で行う例を説明したが、装置の他の部分で処理を行うことも可能である。例えばコンピュータ(PC)10内においてソフトウェアとして図11の処理を実行することも可能である。また、記憶装置12としてコンピュータ(PC)10内部の記憶装置を使用することも可能である。
【0084】
図14に、本実施例で説明した処理手法を用いて直線範囲を決定した例を示す。横軸110は反応開始からの経過時間を示し、縦軸120は吸光度を示す。時刻1400は本実施例により決定された直線開始時刻を示し、時刻1410は本実施例により決定された直線終了時刻を示し、範囲1420は本実施例により決定された直線範囲を示す。図14に示すように、曲線部を除いた直線部だけを直線範囲と決定できることが確認できた。
【0085】
以上説明したように、第2の実施例を用いることにより、検査値の換算に使用する直線範囲を検体ごとに決定することができる。そのため、従来装置に比して、精度の高い検査値を得ることが可能となる。同時に、再検査を減らすことが可能となる。また、最終吸光度データを得る以前に後半の曲線部を判定できるので処理時間の短縮が可能となる。
【0086】
また、第1の実施例と同様に、検査値換算に用いた直線範囲、吸光度データ数、参考CV値や参考吸光度データ平均値等の精度指標も出力することができるため、検体ごとの検査値の精度保証が可能となる。
【0087】
[実施例3]
次に、第3の実施例に係る自動分析装置を、図面を参照しながら説明する。本実施例の場合も、自動分析装置は生化学自動分析装置であるものとする。従って、その装置構成は、第1の実施例と同じである。すなわち、図3に示す装置構成を有している。また、制御部13以外の動作は、第1の実施例と同じである。従って、制御部13以外の詳細な説明は省略する。
【0088】
以下、制御部13の処理動作を、本実施例に特有の処理動作を中心に説明する。本実施例の場合、制御部13は、図15に示す処理手順に基づいて直線範囲を決定する。なお、図15のうち図1に示した処理と同じ処理を行う処理ステップには同じ符号を付して示す。
【0089】
第3の実施例の場合、制御部13は、反応過程が終了するまでに(全ての吸光度データが測定される前に)、検査値を予測的に算出することを特徴とする。
【0090】
図15に示す処理プロセスのうちステップS5からステップS20までの処理は、図1におけるステップS5からステップS20までの処理と同一である。
【0091】
次のステップS1500では、吸光度データ取得部410が、予測時点の吸光度データが記憶されたか否かを判定する。予測時点は、検査点の予測値(以下、「予測検出点」という。)を算出するために反応過程の中間に定める点である。ここでの予測時点は、検査項目に関係なく1つの時点に定めても良いし、検査項目毎に最適な予測時点を定めても良い。予測時点は、記憶装置12に予め記憶されている。
【0092】
予測時点の吸光度データが記憶されていない場合、吸光度データ取得部410は、処理プロセスをステップS10に戻し、予測時点に達するまで、吸光度データの入力と記憶を繰り返す。一方、予測時点の吸光度データが記憶された場合、吸光度データ取得部410は、処理プロセスをステップS1510に進める。
【0093】
ステップS1510では、近似式パラメータ算出部420が、図1のステップS30と同じ方法で近似式パラメータ値を算出する。すなわち、本実施例では、反応過程の開始から予測時点までに取得された吸光度データだけに基づいて第2の近似式を算出する。
【0094】
次のステップS1520では、近似式パラメータ算出部420が、算出した近似式パラメータ値を記憶装置12に記憶する。
【0095】
次のステップS40は、図1のステップS40と同一である。すなわち、算出された第2の近似式に基づいて、ラグタイム部判定部425が、反応過程データのラグタイム部を算出する。
【0096】
次のステップS1540では、ラグタイム部判定部425が、算出されたラグタイム部の長さが予め定めた範囲内か否かを判定する。この処理ステップは、反応過程データが、検出値の予測に適するか否かを判定するために実行される。ラグタイム部の範囲は項目毎に予め実験的に定めておき、記憶装置12に記憶させておく。判定されたラグタイム部が予め定めた範囲内に存在する場合、ラグタイム部判定部425は、処理プロセスをステップS1560に進める。判定されたラグタイム部が予め定めた範囲外の場合、ラグタイム部判定部425は、処理プロセスをステップS1550に進める。
【0097】
ステップS1550に処理プロセスが進んだ場合、ラグタイム部判定部425は、予測処理による検査値の算出を停止し、反応過程の全ての吸光度データが取得されるまで、吸光度データの蓄積を継続する。すなわち、予測時点以降もバックグラウンドで進められていた吸光度データの取得を、全ての反応過程が終了するまで継続する。
【0098】
ステップS1550に続くステップS1555では、前述した第1の実施例や第2の実施例と同じ処理手法にて、検体の検査値が実測データに基づいて算出され、出力される。
【0099】
一方、ステップS1540からステップS1560に進んだ場合、ラグタイム部判定部425は、算出されたラグタイム部の終了時刻、すなわち直線開始時刻を記憶装置12に記憶する。
【0100】
次のステップS70とステップS75は、図1のステップS70及びステップS75と同じである。ただし、ステップS70では、直線終了時刻として記憶装置12に記憶されている予測時点を用いる。従って、ステップS1560において直線開始時刻が確定すると、検体の直線範囲も自動的に確定する。
【0101】
ステップS75では、直線範囲内吸光度データ数判定部440が、吸光度データ数が予め定めた数値の範囲内か否かを判定する。ここで、吸光度データ数が予め定めた数値の範囲外と判定された場合、直線範囲内吸光度データ数判定部440は、処理プロセスをステップS1550に移す。すなわち、予測処理を停止する。一方、吸光度データ数が範囲内の場合、直線範囲内吸光度データ数判定部440は、処理をステップS1570に移す。
【0102】
ステップS1570では、検査値算出部445が、直線範囲内の吸光度データに近似する直線式を算出し、当該直線式から検査値換算に用いる傾きを算出する。例えば既存の最小二乗計算方法等を利用し、直線範囲内の吸光度データに近似するように、(数6)で与えられる直線のパラメータを算出する。すなわち、直線の傾きを算出する。
【0103】
ステップS1580では、検査値算出部445が、近似直線の傾きから検量線に基づいて検査値の予測値を算出する。検量線データは記憶装置12から読み出す。その後、検査値算出部445は、直線式の算出に用いた直線範囲と直線式パラメータ、算出された予測値を記憶装置12に記憶する。
【0104】
次のステップS1590では、検査値算出部445は、算出された予測値を出力する。検査値の出力方法には、図3のコンピュータ10に付属する表示装置に表示する方法等が考えられる。表示例を図16に示す。図16に示す測定結果の表示画面は、列900、905、910、920、930、940、950、960、1605、1620、1630、1640、1650、1660、1670で構成される。列900には検体IDが記述され、列905には予測や検査値の出力に用いた近似式(第1の近似式)が記述される。列1605には予測値が記述され、列1620には予測に用いた直線の開始時刻(直線開始時刻)が記述される。列1630には予測に用いた直線の終了時刻(直線終了時刻)が記述され、列1640には予測に用いた直線範囲内の吸光度データ数が記述される。列1650,列1660,列1670には予測に用いた直線範囲の吸光度データで予測値を算出した場合の精度指標が記述される。精度指標には、例えばCV値を用いる。CV値はキャリブレーション用の検体等、検査値が明確になっている検体を用いて実験を行い、予め定めておけば良い。実験では、様々な直線開始時刻と直線終了時刻の組み合わせ(吸光度データ数)で予測した時のCV値(分散や標準偏差等のばらつきを表す値)を算出しておけば良い。精度指標の他の例としては、例えば吸光度データ数の平均値とばらつき(分散や標準偏差等)を用いる。吸光度データ数の平均値とばらつきは、直近に測定した一般(患者)検体やキャリブレーション用検体などの予測結果から、項目ごとに算出すれば良い。なお、算出に用いる検体,検体数,期間はユーザーが自由に選択できるようにすれば良い。更に、精度指標の他の例としては、例えば正答率(一致率)を用いる。正答率は、直近に測定した一般検体やキャリブレーション用検体などから得られた予測値と検査値の結果から、項目ごと、吸光度データ数ごとに算出すれば良い。なお、算出に用いる検体,検体数,期間はユーザーが自由に選択できるようにすれば良い。
【0105】
なお、図15のステップS1550に処理が進んだ場合、予測値ではなく検査値の出力となる。その場合は、結果を図16の列910〜960に記述するようにすれば良い。列910〜960は、第1の実施例と同じであるので詳細な説明は省略する。
【0106】
以上説明した第3の実施例においては、予測値を出力した場合には通常の検査値を出力しない場合について説明した。しかしながら、予測と通常の測定を同時に行い、通常の測定から得られた検査値と予測値の両方を出力する方式を採用しても良い。ここで、通常の測定には、第1の実施例や第2の実施例で説明した処理を用いれば良い。この場合の出力例は図16の検体ID3に示すように、予測値に関する列1605〜列1670と検査値に関する列910〜列960の両方を記述するようにすれば良い。
【0107】
以上説明した第3の実施例では、図15に示す処理の全てを制御部13で実行する例を説明した。しかし、制御部13以外の処理装置を使用して、同様の処理を実行することも可能である。例えばコンピュータ(PC)10内においてソフトウェアとして図15の処理を実行することも可能である。また、記憶装置12としてコンピュータ(PC)10内部の記憶装置を使用することも可能である。
【0108】
以上説明したように、第3の実施例では、予測に用いる吸光度データは直線部のみとなるので近似精度が向上し、精度の良い予測が可能となる。また、直線範囲を検体ごとに決定するので、検体ごとにより高い精度で予測値を出力することができる。また、予測処理では反応過程の終了を待つ必要がない。従って、予測値が出力されるまでの時間を短縮することができる。さらに、予測に用いた直線範囲、吸光度データ数、参考CV値や参考正答率等の精度指標を出力するので、検体ごとの予測値の精度保証が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0109】
第1及び第2の実施例で説明した通り、本発明を適用した自動分析装置では、レート法により測定される検査項目に関し、精度の良い検査値を提供することが可能になり、検査の信頼性向上に貢献することができる。また、第3の実施例で説明した通り、本発明を適用した自動分析装置では、レート法により測定される検査項目に関し、精度の良い予測が可能になり、検査時間短縮に貢献することができる。
【符号の説明】
【0110】
1:サンプルディスク、2:試薬ディスク、3:反応ディスク、4:反応槽、5:サンプリング機構、6:ピペッティング機構、7:攪拌機構、8:測光機構、9:洗浄機構、10:コンピュータ(PC)、12:記憶装置、13:制御部、14:圧電素子ドライバ、15:攪拌機構コントローラ、16:試料容器、17:円形ディスク、18:試薬ボトル、19:円形ディスク、20:保冷庫、21:反応容器、22:反応容器ホルダ、23:駆動機構、24:プローブ、25:支承軸、26:アーム、27:プローブ、28:支承軸、29:アーム、31:固定部、33:ノズル、34:上下駆動機構、110:横軸(時間の経過)、120:縦軸(吸光度)、130:符号(各時点の吸光度)、135:範囲(ラグタイム部)、140:符号(各時点の吸光度)、145:範囲(ラグタイム部)、150:符号(各時点の吸光度)、155:範囲(ラグタイム部)、160:時間範囲(検査値換算に用いる範囲)、180:符号(各時点の吸光度)、210:曲線(近似式より算出された吸光度を表す曲線)、220:直線(反応過程データを近似した曲線が漸近する直線)、230:点(反応過程データを近似した曲線210が直線220に十分漸近した時間)、410:吸光度データ取得部、420:近似式パラメータ算出部、425:ラグタイム部判定部、435:後半曲線部判定部、440:直線範囲内吸光度データ数判定部、445:検査値算出部、450:データバス、500:テーブル(検査項目/試薬/最適な近似式)、510:列(検査項目)、520:列(試薬の種類)、530:列(近似式の種類)、700:縦軸(誤差)、710:曲線(各時点の誤差を表す曲線)、720:時刻(誤差の極大値を示す時刻)、900:列(検体ID)、905:列(近似式の種類)、910:列(検査値)、920:列(直線開始時刻)、930:列(直線終了時刻)、940:列(直線範囲内の吸光度データ数)、950:列(精度指標1)、960:列(精度指標2)、1000:時刻(直線開始時刻)、1020:時刻(直線終了時刻)、1030:範囲(直線範囲)、1200:縦軸(近似式パラメータの値)、1210:記号(各時点における近似式パラメータの算出値)、1300:縦軸(近似式パラメータの比)、1310:記号(各時点における近似式パラメータの比の算出値)、1320:許容範囲、1400:時刻(直線開始時刻)、1410:時刻(直線終了時刻)、1420:範囲(直線範囲)、1610:列(予測値)、1620:列(予測に用いた直線開始時刻)、1630:列(予測に用いた直線終了時刻)、1640:列(予測に用いた直線範囲内の吸光度データ数)、1650:列(精度指標1)、1660:列(精度指標2)、1670:列(精度指標3)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料と試薬を混合し、混合液の経時的な変化を測定する自動分析装置において、
前記試料と前記試薬の反応過程から複数の測定点データを取得する測定点データ取得部と、
前記測定点データを処理するデータ処理部と、
前記データ処理部で使用する第1の近似式を格納した記憶部と、
前記データ処理部の処理結果を出力する出力部と、を有し、
前記データ処理部は、前記記憶部に格納された第1の近似式を前記複数の測定点データに近似する処理と、近似処理の結果得られる第2の近似式に基づいて前記反応過程の直線範囲を決定する処理とを実行する
ことを特徴とする自動分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の自動分析装置において、
前記データ処理部は、所定時刻までに取得された前記複数の測定点データを用いて前記第2の近似式を算出し、当該第2の近似式に基づいて前記反応過程の直線範囲を推定する
ことを特徴とする自動分析装置。
【請求項3】
請求項2に記載の自動分析装置において、
前記データ処理部は、前記第2の近似式が漸近する直線を算出し、当該直線に前記第2の近似式が基準値以下に達した時刻を直線開始時刻とし、当該直線開始時刻と事前に定めた直線終了時刻との間の期間を直線範囲として推定する
ことを特徴とする自動分析装置。
【請求項4】
請求項2に記載の自動分析装置において、
前記記憶部は、前記直線開始時刻の基準範囲を記憶し、
前記データ処理部は、前記直線範囲の推定値と前記基準範囲を比較し、比較結果に基づいて直線範囲の推定が可能か否かを判定する
ことを特徴とする自動分析装置。
【請求項5】
請求項2に記載の自動分析装置において、
前記記憶部は、前記直線範囲が含むべき前記測定点データの数の基準値を記憶し、
前記データ処理部は、信号処理を通じて推定した前記直線範囲に含まれる測定点データの数をカウントする処理と、カウントされた前記測定点データの数と前記基準値とを比較し、直線範囲の推定が可能か否かを判定する処理とを有する
ことを特徴とする自動分析装置。
【請求項6】
請求項1に記載の自動分析装置において、
前記第1の近似式は、以下に示す数1〜数4のいずれか1つである
ことを特徴とする自動分析装置。
数1:x = a * t + b + c * exp( -k * t )
数2:x = a * t + b + e / ( t + d )
数3:x = a * t + b + w / { exp( u * t ) + v }
数4:x = a * t + b + p * log{ 1 + q * exp( r * t ) }
ただし、tは時刻、xは吸光度、a、b、c、d、e、k、p、q、r、u、v、wはパラメータである。
【請求項7】
請求項1に記載の自動分析装置において、
前記データ処理部は、前記第2の近似式が漸近する直線を算出し、当該直線に前記第2の近似式が基準値以下に達した時刻を直線開始時刻に決定する
ことを特徴とする自動分析装置。
【請求項8】
請求項1に記載の自動分析装置において、
前記データ処理部は、直線開始時刻以降の測定点データと前記第2の近似式が漸近する直線との差分値を算出し、当該差分値の経時変化に基づいて直線終了時刻を決定する
ことを特徴とする自動分析装置。
【請求項9】
請求項1に記載の自動分析装置において、
前記データ処理部は、各時点までに取得された複数の測定点データを用いて前記第2の近似式を逐次算出する処理と、逐次算出される前記第2の近似式のうち少なくとも1つのパラメータの変化が許容範囲以下に小さくなった時点を直線開始時刻に決定する
ことを特徴とする自動分析装置。
【請求項10】
請求項1に記載の自動分析装置において、
前記データ処理部は、直線開始時刻の決定後も、各時点までに取得された複数の測定点データを用いて前記第2の近似式を逐次算出する処理と、逐次算出される前記第2の近似式のうち少なくとも1つのパラメータに閾値を越える変化が検出された時点を直線終了時刻に決定する
ことを特徴とする自動分析装置。
【請求項11】
請求項10に記載の自動分析装置において、
前記1つのパラメータは、前記第2の近似式を規定する直線成分の傾きを与えるパラメータである
ことを特徴とする自動分析装置。
【請求項12】
請求項1に記載の自動分析装置において、
前記記憶部は、前記直線範囲が含むべき前記測定点データの数の基準値を記憶し、
前記データ処理部は、信号処理を通じて決定した直線範囲に含まれる測定点データの数をカウントする処理と、カウントされた前記測定点データの数と前記基準値とを比較して決定された直線範囲に関する異常の有無を判定する処理とを有する
ことを特徴とする自動分析装置。
【請求項13】
請求項1に記載の自動分析装置において、
前記データ処理部は、決定された前記直線範囲の精度指標を算出する処理と、算出された前記精度指標を前記出力部に出力する処理とを有する
ことを特徴とする自動分析装置。
【請求項14】
試料と試薬を混合した混合液の経時的な変化を、自動分析装置を用いて測定する自動分析方法において、
前記自動分析装置が、前記試料と前記試薬の反応過程から複数の測定点データを取得する処理と、
前記自動分析装置が、記憶部から読み出した第1の近似式を前記複数の測定点データに近似する処理と、
前記自動分析装置が、近似処理の結果得られる第2の近似式に基づいて前記反応過程の直線範囲を決定する処理と
を有することを特徴とする自動分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−226909(P2011−226909A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−96770(P2010−96770)
【出願日】平成22年4月20日(2010.4.20)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】