自動分析装置及び自動分析装置用分注ノズル
【課題】サンプルや試薬の持ち帰りが少なく、汚染を防ぎかつサンプルや試薬を正確に分注することができる信頼性に優れた自動分析装置を提供する。
【解決手段】撥水性表面を有するサンプル分注ノズル27を用い、サンプルセル25から、親水性の底面を有する反応セル4にサンプルを分注する。
【解決手段】撥水性表面を有するサンプル分注ノズル27を用い、サンプルセル25から、親水性の底面を有する反応セル4にサンプルを分注する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生化学的な分析や免疫分析などを行う医療診断用の自動分析装置及びそれに用いられる分注ノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
医療診断用の臨床検査においては、血液や尿などの生体サンプル中のタンパク、糖、脂質、酵素、ホルモン、無機イオン、疾患マーカー等の生化学分析や免疫学的分析を行う。またDNAプローブを用いる方法、電気泳動によりDNA等を測定する方法、等の多種多様な分析方法が用いられる。臨床検査では、複数の検査項目を信頼度高くかつ高速に処理する必要があるため、その大部分を自動分析装置で実行している。従来、自動分析装置としては、例えば、血清等のサンプルに所望の試薬を混合して反応させた反応液を分析対象とし、その吸光度を測定することで生化学分析を行う生化学自動分析装置が知られている。この種の生化学自動分析装置は、サンプルや試薬を収納する容器、サンプル及び試薬を注入する反応セル、サンプル及び試薬を反応セルに自動注入する分注機構、反応セル内のサンプル及び試薬を混合する自動攪拌機構、反応中又は反応が終了したサンプルの分光スペクトルを測定する機構、分光スペクトル測定終了後の反応溶液を吸引・排出し反応セルを洗浄する自動洗浄機構等を備えている(例えば特許文献1)。
【0003】
自動分析装置の分野では、サンプル及び試薬の微量化が大きな技術課題となっている。すなわち、分析項目数の増大に伴い、単項目に割くことのできるサンプル量が少量化し、サンプル自体が貴重で多量に準備できない場合もあり、従来は高度な分析とされていた微量サンプルの分析がルーチン的に行われるようになってきた。また、分析内容が高度化するにつれて、一般に試薬が高価となり、コスト面からも試薬微量化への要請がある。このようなサンプル及び試薬の微量化は、反応セルの小型化を進める強い動機でもある。また、反応セルの小型化や必要なサンプル及び試薬の少量化は、分析スループットの向上や低廃液化にも繋がる利点がある。その際、微量のサンプルや試薬を正確に分注する必要がある。
【0004】
ここで、一般的な自動分析装置でのサンプルや試薬の自動注入機構は、分注ノズルや分注プローブなどと呼ばれ、金属やガラスや樹脂からできているのが一般的である。また、一般的な自動分析装置に用いる反応セル(セルや反応容器やウェルとも呼ばれる)はガラス又は合成樹脂(プラスチック)等で形成されるのが一般的である。分注方式の一例としては、特許文献2によると、吸引・吐出方式がある。検体サンプル分注用ノズルを用いて検体サンプルを吸引し、吐出することにより、例えば、採血管等の検体サンプルが収納されている容器から、検体サンプルと試薬を反応させるための反応セルへ、検体サンプルを移動させることができる。
【0005】
検体サンプル分注用ノズルには金属製の再使用可能なものとプラスチック製のディスポーサブルなものがある。ディスポーサブルなノズルは、使用毎に洗浄する必要がない点で便利であるが経済的でない。再使用可能なノズルは経済的であるが、再使用毎に洗浄する必要がある。洗浄が不十分であると、検体サンプルの残滓が付着したノズルを次回に使用することになる。この場合、検体サンプルの残滓が新たに採取した検体サンプルに混入する所謂キャリーオーバーの問題が起きる。
【0006】
分注方式の他の例として、特許文献3に示されるインクジェット方式がある。自動分析装置の分野では、サンプル及び試薬の微量化が一層進む趨勢にあり、また装置の小型化への要請も高まる一方である。サンプルは血清や尿であり、この液状サンプルの分注量は近年、最小分注量が2μLを下回ってきており、ノズルの管径は、0.5mm程度となっている。このように、管径が微小化することにより、容量に対する接触面積の比率が増大し、表面に吸着する物質を制御する必要がある。この場合、複数のサンプルを逐次的に測定するにあたり、ノズルの内面及び外面に吸着した物質を水もしくは界面活性剤を用いた洗浄液により洗浄して用いる。この洗浄は、分注毎に実施する場合と、少なくともある検体サンプルから、次の検体サンプルへ移る場合に実施する場合がある。洗浄方法については、ノズル外壁については水又は洗浄液をかける方法、内面については、ノズル内面の流路背部から水を押し出す方法による。また、一定の期間、例えば一日分の作業が終了した段階で、界面活性剤を含む洗浄液を用いて、吸引吐出を行い洗浄する方法もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第1706358号公報
【特許文献2】特開2001−208762号公報
【特許文献3】特開2000−329771号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
分析するサンプルの微量化に伴い、従来問題とならなかった新たな課題が浮上した。微量のサンプルを分注する際の精度や再現性である。このため例えばステンレススチール(例えばSUS304)などの金属製のサンプル分注ノズルをそのまま用いると、微量のサンプルを分注する際に正確性や再現性が低下した。また、0.5μL以下の微量サンプルの場合、分注とは、ノズルから分注先へのサンプルの「転写」と言える。すなわち、サンプルノズルの先端に形成したサンプルの液滴を分注先、例えばセル底へ転写することが分注である。このように微量のサンプルを分注する場合でも、秤量精度を維持する必要がある。しかしながら、0.5μL以下のサンプルを分注すると分注量のバラツキが発生することを新たな課題として見出した。
【0009】
以下は、事前検討した実験結果である。SUS製のシリンジ針から所定量の水を出し、シクロオレフィンポリマー表面に転写し、シクロオレフィンポリマー表面に転写された水の量を接触角計の画像から読み取った。接触角計には、協和界面科学製Drop Master 500を使用した。所定量の純水の水滴をシリンジ先端に形成させ、シクロオレフィンポリマー表面に純水を転写した。図1に分注量と転写(分注)確率を示す。ここの転写確率とは、所定の分注量の水をシリンジ針先端に形成し、シクロオレフィンポリマー表面に、この水を接触させたときに転写される確率である。実験数は10である。図1の横軸は分注量、縦軸は転写確率(%)である。その結果、分注量が1.5μLの時及び1.0μLの時の転写確率は100%であった。しかし、分注量が0.5μLの時の転写確率は60%であり、分注量が0.4μLになると転写確率は50%であった。つまり、分注量が0.5μLより少なくなると、転写確率が低くなることがわかった。
【0010】
また、分析法の改良に伴い、サンプル中に含まれる物質の濃度がより低い物質を測定する場合においては、サンプル分注ノズルの洗浄が不十分な場合、次サンプルの測定の分注に際してノズルに吸着した物質が遊離し、混入する懸念がある。これを一般的にキャリーオーバーと呼ぶ。キャリーオーバーには、システムの検出レンジによって許容範囲が決定される。すなわち、次サンプルにおいて、測定対象の物質が検出感度以下の濃度である場合、ここに溶離した前サンプルの残渣の量aが、次サンプルの容量Vに対してa/Vの濃度となった場合、これが、検出感度以上となった場合、キャリーオーバーと認められる。
【0011】
しかし、キャリーオーバーする物質の量は、分注ノズルの表面に吸着する量と、吸着した物質が次サンプルに溶出する量との関係で決定されること、さらに、分注ノズル表面の状態が異なる場合には、この関係が崩れる。そこで、付着した検体を洗浄するため、分注ノズルを洗浄する機構が自動分析装置に備わっており、分注ノズルの外壁部を洗浄している。
【0012】
自動分析装置のサンプル分注機構の模式図を図2に示す。サンプル分注機構56はアーム560と支柱562及びサンプル分注ノズル561からなる。分注ノズルがサンプルセル53から血清や尿などのサンプルを吸引し、反応セル51内で吐出することで分注を完了する。その後、必要に応じて洗浄機構59により、サンプル分注ノズル561は洗浄される。
【0013】
こうして運用されている分注機構の目視や、分注量のバラツキを定量した結果、サンプル分注の正確性や再現性を低下させる原因は以下の通りである。図3から図5を用い説明する。図3はサンプル管からのサンプル吸引の様子を模式的に示す図、図4はセルへのサンプル吐出の様子を模式的に示す図、図5は洗浄後のサンプル分注ノズルの様子を模式的に示す図である。図3、図4、図5は、それぞれ原因(1)(2)(3)に対応する模式図である。
【0014】
原因(1):図3に示すとおり、サンプル563をサンプルセル53から吸引して引き上げた時に、付着サンプル564がサンプル分注ノズル561の外壁面に付着すること。
原因(2):図4に示すとおり、吸引したサンプル563をセル51に吐出する際に、全てのサンプルが吐出されずにサンプル分注ノズル561の外壁に付着サンプル565があること。
原因(3):図5に示すとおり、サンプル分注ノズルの561外壁へ洗浄水566が付着すること。
【0015】
また、以上の原因(1)〜(3)のいずれか又は複数により、サンプル分注ノズルの外壁の親水性が上がり、サンプルをセルに転写する際にサンプルがノズル外壁に付着し、ノズルがサンプルを持ち帰り、その後の分注精度の低下を招くことを見出した。
【0016】
将来、サンプル分注量の微量化が進むと、これらはより大きな問題となると予想される。自動分析装置の小型化、サンプル・試薬の少量化というトレンドに対処するためには、上記原因(1)〜(3)の問題を解決する必要がある。本発明は、これらの要請に応えるものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、サンプル分注ノズルの外壁表面を撥水処理し、かつセルの分注される領域を親水化したところ、分注の正確性や再現性が向上することを見出した。サンプル分注ノズルの外壁表面を撥水処理し、かつセルの分注領域を親水化することで、サンプルが確実にセルに転写され、分注精度の低下がない。また、ノズルが撥水性のため、洗浄水の付着がない。ノズルは、外壁表面とともに内壁表面を撥水処理してもよい。撥水処理したノズルと分注領域を親水化処理した反応セルを同時に用いることにより、自動分析装置において微量サンプルを分注する際の分注精度が向上する。
【0018】
なお、分注方式の他の例としてインクジェット方式があるが、吐出したいサンプル量よりも大きな量をサンプル貯めに一旦保管する必要があるため、微量なサンプルを分注するのに適さない。また、自動分析装置は多種のサンプルを少量ずつ分析するのが通常である。よって、サンプル貯めに一旦サンプルを保管してから吐出するインクジェット方式では、あるサンプルがサンプル貯めへ付着すると、他のサンプルへの汚染を無視できない。また、以上のような汚れが付着したサンプル貯めの洗浄もコスト上昇となる。従って、本発明では、吸引吐出方式の分注機構を中心に述べるが、インクジェット方式など他の分注方式への適用を妨げるものではない。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、サンプル分注ノズルの外壁表面を均一に撥水めっき処理できることから、ノズル外壁表面が均一な撥水性を示す。外壁表面が高い撥水性を示すことから、分注時のサンプルの液切れが良く、サンプルの持ち帰りがない。
【0020】
表面を撥水処理したノズルと分注領域を親水処理したセルを同時に用いることで、自動分析を行う際にサンプル分注の正確性や再現性を高めることができる。ノズル外壁表面へのサンプルの汚染を防止できるので、分析間の相互汚染を防止できデータの信頼性が向上する。これらの効果は、サンプル・試薬の微量化にも寄与し、自動分析装置のランニングコスト低減にも貢献する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】分注量と分注精度の関係を示す図。
【図2】自動分析装置のサンプル分注機構の模式図。
【図3】自動分析における分注の様子を示す図。
【図4】自動分析における分注の様子を示す図。
【図5】自動分析における分注の様子を示す図。
【図6】サンプル分注ノズルの模式図。
【図7】撥水めっき処理したノズル先端の断面図。
【図8】ノズルの模式図。
【図9】反応セルの斜視外観図。
【図10】反応セルの断面図。
【図11】複数の反応セルを一体成型したセルブロックの斜視外観図。
【図12】コロナ放電処理の模式図。
【図13】親水化した反応セル底面の模式図。
【図14】自動分析装置の構成例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
分注ノズル表面の撥水処理と、反応セルの分注領域の親水化処理について説明する。
一部の自動分析装置では、液面を検知し、ノズルの高さを制御するために分注ノズルの先端が導電性を有する必要がある。従って、例えば分注ノズルの素材としてSUS304を選択し、導電性による液面検知機能を必要とする自動分析装置の場合、導電性を保持したまま高撥水性を表面に付与する必要がある。一方、分注ノズル内壁表面又は外壁表面又は両表面に、一般的な薬液コーティングや化学反応による撥水性向上を過剰に行うと、絶縁的な膜形成によって表面の導電性を失うため、液面検知ができなくなる。
【0023】
そこで、発明者らは、ニッケル−フッ素樹脂の共析めっき処理を分注ノズル外壁表面に施すことを思いついた。この方法では、分注ノズル表面にニッケル−テフロンの無電解めっきを行うことで、表面めっき層にニッケルが存在することで高い導電性、そしてフッ素樹脂による高い撥水性、強固な表面との結合の全てを達成できる。表面処理を施す対象は、分注ノズルの内壁表面及び外壁表面が可能であるが、予備実験の結果から外壁表面を均一に撥水めっき処理することで、良好な分注結果が得られた。
【0024】
ニッケル−フッ素樹脂の共析めっき処理を金属表面に行うと、厚さ数マイクロメートルレベルでのめっき層が形成でき、撥水性を大幅に向上できる。実際に、表面にニッケル−フッ素樹脂の共析めっき処理した分注ノズルの表面断面層を電子顕微鏡(SEM)観察したところ、明らかに5マイクロメートル程度のめっき層が観察され、かつ水に対する接触角の大幅な向上が認められ、撥水性が向上した。めっき層を元素分析したところ、SUS表面には元々存在しないフッ素やリンというめっき由来の成分を検出した。なお、めっき処理した分注ノズルは、外観上、傷などがなく自動分析を行う際に、なんら支障がない。
【0025】
以上のように、本発明によれば、自動分析装置用分注ノズルの表面を撥水処理でき、同時に導電性も備えている。また、本発明の分注ノズルを用いれば、サンプル分注の正確性や再現性も高い。導電性のめっき以外にもダイアモンドライクカーボン(DLC)で被覆したノズルや、長鎖アルキル基を有するシランカップリンブ剤を適切な厚さに固定化したノズル、撥水性の分子を蒸着したノズルも使用できる。これらの表面修飾の場合、その膜厚を100nm以下程度に薄くすることで、導電性を維持できる。
【0026】
サンプル分注機構において、上記の撥水処理したノズルと共に、サンプルが分注されるセル表面を親水化しておくことが分注精度向上に有効であることを見出した。複数回の使用を経てノズル外壁にサンプルや洗浄水が付着し、ノズル外壁の親水性が向上しても、サンプルを転写する相手であるセルの分注領域の親水性が高ければ、セルがサンプルを保持することを可能にするからである。特にプラスチック製の反応セルを親水化する方法として、コロナ放電が有効であった。サンプルを分注する領域が親水性であれば、0.2μL程度の微量の検体サンプルを分注した際に、分注ノズルが検体サンプルを持ち帰ることがない。また、親水化する面積を適正化することで、分注精度の更なる向上がある。
【0027】
なお、自動分析の単位時間当たりの分析数(スループット)を向上するため、自動分析装置に使用するサンプル分注ノズルは自動分析装置上に多数装着されることが一般的である。また、分析の正確性、再現性向上のため、撥水処理したノズル表面の撥水性が均一であり、かつノズル間の撥水処理バラツキを抑制することが求められる。同時に、親水化処理したセル表面の親水性の程度が均一であり、かつセル間の親水処理バラツキを抑制することが求められる。上記したノズルの撥水処理及びセルの浸水処理は、これらの要求も満たすことができる。
【0028】
次に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
(1)撥水めっき処理によるサンプル分注ノズル外壁表面の撥水化
自動分析装置用サンプル分注ノズル(以下、“ノズル”と呼称する。)は、ステンレススチール(SUS304)を素材として作製した。ちなみにノズルの素材としては、アルミニウム、SUS、その他金属、ガラス、樹脂などから選択される1種であればかまわない。液面検知をするにはノズル先端に導電性が必要であり、かつ加工性、耐久性、耐腐食性の観点からSUS304を選択することが望ましい。また、ここではサンプル分注ノズルの例を述べるが、試薬分注ノズルに同様の表面処理をしてもよい。
【0029】
本実施例ではSUS304を素材として、加工や曲げや研磨などで作製したサンプル分注ノズルを用いた。図6に断面図を示す。分注ノズル561の1種はL字構造である。L字構造の長手方向の長さL1は、100mmであり、短い距離L2は50mmである。ノズルの先端はテーパ構造となっており、外径d1は例えばφ0.5mmであり、極細先端部の内径d2は0.3mmとなっている。分注ノズルの逆先端部の内径d3は0.5mmである。本実施例では、ノズルの先端はテーパ構造であるが、ノズルの先端はストレート構造でもよい。破線505の位置で、撥水めっき処理後のノズル先端を割断した断面図が図7である。
【0030】
このSUS304製サンプル分注ノズルを用いてサンプルを分注すると、図3〜図5で示したような現象が起こる場合があった。加工、研磨により作成したノズル561がサンプル管からサンプルを所望量吸引し、反応セルにサンプルを吐出する。サンプルを所望量保持したノズルが反応セル底面に接触した後、サンプルを吐出する。その後、ノズルは上方へ引き上げられる。新品のサンプル分注ノズルを用いた場合には、顕在化しないものの、ノズルを使用するにつれて、分注ノズルの外壁が親水化した。そのため、サンプルを吐出した際に、サンプルの一部又は全部がノズル外壁表面に付着し、サンプル付着や洗浄水付着を形成して持ち帰る場合があり、その後の分注精度が狂う場合があった。
【0031】
そこで、ノズル561の外壁表面を撥水めっき処理することとした。耐久性、耐腐食性などの観点で、撥水めっき処理は、単なる薬液の浸漬・塗布・吹き付けによる撥水コーティングよりも強固な撥水性を保持できる。撥水めっき処理には、ニッケル−テフロン共析めっきとよばれる方法を採用した。あらかじめ、SUS表面にニッケルストライクと呼ばれるニッケル粒子の打ち込みをして、その後にニッケル−テフロンの無電解めっきを行っても良い。
【0032】
この撥水めっき処理後のノズル先端の断面図を図7に示す。撥水めっき処理の結果、SUS506の外壁表面上にニッケル層等の下地層507を設け、その表面に撥水層508、めっき層509を設けることができる。このように、多層構造でも最表面が撥水層であれば撥水性を示す。一方、ノズル内壁表面は上記撥水めっき処理を施さずに、SUS表面を保持することができた。SUS内壁表面には鏡面研磨を施すことで、平坦性を向上してもよい。この処理の結果、ノズルの外壁表面は均一な撥水性、内壁表面は均一な親水性とすることができる。
【0033】
なお、ノズルを撥水めっき処理する際に、めっき液へ浸漬する工程があるが、この際にめっき液がノズル内に進入しノズル内壁表面がめっき処理されることが懸念される。そこで、発明者らは図8に示すようなノズルを作成し、外壁表面のみを撥水めっきし、その後、加工することを思いついた。
【0034】
図8に示すノズル70は、前述のノズル561よりも両端にマージン510,511があり、穴をあらかじめ閉じてある。これは、穴あけ前のSUSノズルを利用することで、マージン510とマージン511をSUSとしても良いし、穴あけ後のノズルの両端にゴムや、樹脂などを詰めることで穴を閉じてもよい。このノズル70に、以下のプロセス1〜3により撥水めっき処理した。
プロセス1:両端の穴を閉じたノズル70を撥水めっき処理する。
プロセス2:プロセス1のノズルの両端を切断し、所望の全長を持つ穴あきノズルを作製する。
プロセス3:必要に応じて、両穴の断面を撥水めっき処理する。
【0035】
以上のプロセスにより作製した分注ノズルの外壁表面は撥水性であり、ノズルの内壁表面は元々の金属が有する親水性とすることができる。両端の穴を閉じないノズルを撥水めっき処理した場合、ノズル内部にめっき液が入り込む可能性があり、ノズル内壁表面に不均一に撥水めっき処理される可能性があり、好ましくない場合がある。今回は、外壁表面のみを撥水めっき処理したノズルを作製した。
【0036】
ただし、穴があいたままの状態の分注ノズルでも以下の場合も考えられる。例えば、(1)内壁表面にめっきが多少ついても分注の際には問題とならない。
(2)内壁表面についためっきを研磨で除去する。
(3)内壁表面も均一にめっきする。
(4)両端の穴をマスクして外壁部だけをめっきする。
などの場合や、ノズル形状にする前の状態で、穴が開いたパイプ段階でめっきし、その後、曲げ・絞り加工することもできる。本実施例では、上記プロセス1〜3の工程で作製したノズルについて詳細を述べる。
【0037】
接触角の測定には、協和界面科学製Drop Master 500を使用した。シリンジで純水0.1μLをノズル外壁表面に滴下し、着滴1秒後の静的接触角を3点法で測定した。測定には、表面を1mmおきに測定を行い、6つの部位での平均値を求めた。その結果、撥水めっき処理したノズルの水に対する接触角は120度であった。一方、撥水めっき処理をする前のSUS304製サンプル分注ノズルの水に対する接触角は90度であったので、撥水めっき処理により撥水性が向上した。
【0038】
【表1】
【0039】
次に、撥水めっき処理したノズルの電子顕微鏡観察及び元素分析をSEM−EDAX(電子顕微鏡による元素分析)によって実施した結果を表2に示す。測定には、(株)日立製作所S2460形装置を使用した。めっきの膜厚を測定するため、ノズルを割断した後、SEM−EDAX観察を行った。
【0040】
【表2】
【0041】
図7と表2に示すようにノズルの外壁最表面層508には、ニッケル、フッ素、リンが存在し、厚さは2μmである。最表面層508の下層の下地層507には、ニッケル、フッ素、リンが存在し、厚さは3μmである。処理を施したSUS層には、SUSの成分由来であるニッケルが存在し、フッ素とリンは存在しない。表1に示した接触角の観点からも、表2に示した元素分析の観点からも、ノズル外壁表面の撥水性が高いことがわかる。処理したセルロット間の均一性が高いことも確認した。
【0042】
シランカップリング処理による分注ノズル外壁表面の撥水化、撥水分子蒸着による分注ノズル外壁表面の撥水化、超撥水電解めっきによる分注ノズル外壁表面の撥水化、ダイアモンドライクカーボン処理による分注ノズル外壁表面の撥水化を行ってもよい。サンプル分注ノズルは、少なくともサンプルに浸漬されるノズル先端部の外壁領域及び端面を撥水処理すればよい。
【0043】
(2)セルの分注領域の親水化
自動分析装置用反応セル(以下、“セル”と呼称する。)を、ポリシクロオレフィンを素材として射出成形によって製作した。ちなみにセル素材としては、ポリシクロオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂から選択される1種を用いることができる。低吸水率、低透湿度、高い全光線透過率、低屈折率、低成型収縮率の観点からポリシクロオレフィン樹脂を選択することが望ましい。ポリシクロオレフィンは、高分子であり、分子の主鎖及び側鎖は、それぞれ炭素−炭素結合と炭素−水素結合から構成されており、主鎖の一部に環状の飽和炭化水素が存在する。自動分析装置においては、個々の単セルの中で検体サンプルと試薬を反応させて、色素の発色やラテックスの凝集現象を複数の特定波長の光透過率の変化によって計測する。
【0044】
個々の単セルは、典型的には、樹脂製の底壁と、底壁の周縁から上方に向け立設された側壁とを備え、上端に開口を有する縦長の容器である。底壁は長方形又は正方形とすることができ、この場合、側壁を構成する4つの部分のうち、対向する一対の(2つの)部分は計測用の光が透過する測光面を形成し、他の、対向する一対の(2つの)部分は計測用の光が透過しない非測光面を形成する。
【0045】
図9に、セルの斜視外観図を示す。セル40には測光面401と非測光面402がある。測定光は矢印の方向から測光面401に入射する。セル40を線A−A’で破断した断面図を図10に示す。
【0046】
セル40は、非測光面外側表面111、非測光面内側表面112、測光面外側表面113、測光面内側表面114、底壁内側表面(底面)115を有する。セルの内壁部の寸法は、非測光面の半分の長さL4が3mm、測光面の長さL5が4mm、高さHが30mm、セル肉厚Tが1mmであり、底壁115により形成される閉口部、及び上方の開口部140を備えている。なお、図11のように複数のセル40を、各セルの開口が同一方向に向くように一列に並べ、一体成形したセルブロック41を使用して、それぞれのセルを表面親水化しても良い。
【0047】
セル40内にエタノール約0.5mLを注入して24時間放置し、エタノールを除去した後、真空デシケーターに入れ乾燥することでセル内側表面を清浄化した。なお、このエタノールによる洗浄を行わずに、以下のコロナ放電処理を行っても、実用上問題ない。
【0048】
図12にコロナ放電部分処理の模式図を示す。樹脂により成形後、洗浄・乾燥したセル40の底面外側に陰極板213を設置した。陰極板は、配線216を介してアース217につながれている。セル40内部にコロナ放電陽極の棒状電極214をセルの底面中心に向かって底面から1mmの高さまで入れた。棒状電極214の下端の径は2mm、長さは50mmであり、配線212を介してコロナ放電電源211につながれている。コロナ放電電源としては、放電パルス数をカウントできるパルス方式の放電源が望ましいが、高周波方式の放電電源でもよい。本実施例ではパルス方式のコロナ放電源を使用した。電圧25kV印加によって、セル底面をコロナ放電処理した。パルス周期は1秒間あたり300パルスとし、処理時間1秒すなわち300パルスの処理を施した。この条件でコロナ放電処理をすると、発生する電圧と電流値から約5ジュールのエネルギーが発生することをオシロスコープで確認した。コロナ放電処理の際の雰囲気ガスは、本実施例は空気で実施したが、窒素雰囲気下でコロナ放電処理してもよい。本実施例では、一つのセルごとにコロナ放電処理したが、セル複数個が一体成形された多連式のセルブロックとして成形した場合には、同時に複数のセルにコロナ放電処理をしてもよい。
【0049】
分注機構の上方から見た様子を図13に示す。分注ノズル先端301の内径をΦ1とし、セル底303の親水化領域304の大きさをSとする。大きさSがノズルの内径面積と等しい場合、すなわち、S=π(Φ1)2の場合に、サンプルを十分に転写できる。また、S>π(Φ1)2の場合でもサンプルをセル底親水化領域に十分に転写できる。分注量に応じて、Sを適切に変えることでさらに効果がある。親水化領域Sの大きさや形状を変えるには、コロナ放電処理をする際に、放電処理したくない部分にセルと同素材でマスクすることで実現できる。
【0050】
本実施例では、底面の親水化領域の面積は、S=π(Φ1)2とし、Φ1=0.3mmとした。接触角の測定には、協和界面科学製Drop Master 500を使用した。改質表面にシリンジを利用して純水1μLを滴下し、着滴1秒後の静的接触角を3点法で測定した。測定には、処理を施したサンプルを3つ用意して測定を行い、その平均値を求めた。その結果、表面改質前のセル表面や非改質部分の接触角は約90度であるのに対し、表面改質することで接触角は75度へと低下した。測定値の最大バラツキ(最大値−最小値)は約3度以下であった。
【0051】
(3)撥水ノズルと親水化セルの組み合わせによる分注可否の検討
分注ノズルを用いて、サンプルをセルに吐出する分注機構において、(1)の撥水性ノズルと、(2)の底面を親水化したセルの組み合わせによる分注性能ついて評価した。用いた分注ノズルは、SUS304製で、内径0.3mm、外径0.5mmである。ノズル表面の接触角を求めるため、ノズル先端に純水を0.2μL滴下した際の接触角を前述した方法で測定した。新品の分注ノズルの接触角は90°であるが、洗浄液での洗浄後に10°に低下する。従って、実機搭載向けのSUS304製ノズルの接触角は10°である。また撥水処理し、接触角が120°の分注ノズルを評価した。
【0052】
一方、サンプルの吐出先(転写先)であるセル表面の接触角は、従来は90°であり、コロナ放電によって親水化したセルの接触角は75°である。これら分注ノズル3種((A)洗浄後SUSノズル、(B)新品SUSノズル、(C)撥水性ノズル)と、分注先のセルとして2種(従来セル、親水化セル)を用いて、それぞれ組み合わせることで分注可否を目視で判断した。分注量としては、0.2μL、0.4μL、0.5μLで検討した。分注ノズルからそれぞれの分注量の水を吐出した状態で、ノズルを1cm/分の速度で下げて、セル底表面に水が触れた時点でノズルを1cm/分の速度で引き上げた。引き上げたノズルの外壁に水が付着し持ち帰った場合には、分注(転写)量が減少する。上述した3種のノズルからそれぞれ所定量の水を出し、シクロオレフィンポリマー表面に転写し、シクロオレフィンポリマー表面に転写された量を接触角計の画像から読み取った。接触角計には、協和界面科学製Drop Master 500を使用した。所定量の純水をシリンジ先端に形成させ、シクロオレフィンポリマー製のセル表面に純水を転写した。評価数は10回であり、そのうち1回でも転写できなかった場合を転写不可と評価した。また、転写できなかった場合のセル表面への転写量を接触角計の画像から見積もった。
【0053】
(A)0.2μL分注の場合
0.2μLの水を分注した場合の分注定量結果を、表3にまとめた。SUS製のシリンジ針から所定量の水を出し、シクロオレフィンポリマー製のセル表面に転写し、セル表面に転写された量を接触角計の画像から読み取った。接触角計には、協和界面科学製Drop Master 500を使用した。所定量の純水をシリンジ先端に形成させ、シクロオレフィンポリマー表面に純水を転写した。以下に結果を示す。
【0054】
(a)洗浄後のSUS製分注ノズル(接触角10°)を用いた場合、サンプル転写先の表面が、親水化セル(接触角75°)でも従来セル(接触角90°)でも分注(転写)できなかった。0.2μLの分注量に対し、セル表面への転写量は、0.1μLであった。
(b)新品のSUS製分注ノズル(接触角90°)を用いた場合、サンプル転写先の表面が、親水化セル(接触角75°)と従来セル(接触角90°)のいずれの場合でも分注できなかった。0.2μLを分注させたかったが、セル表面への転写量は、0.1μLであった。
(c)撥水分注ノズル(接触角120°)を用いた場合、親水化セル(接触角75°)へは完全に分注(転写)できた。0.2μLの分注を狙い、0.2μLの水を完全にセル表面に転写できた。撥水分注ノズル(接触角120°)を用いた場合、従来セル(接触角90°)への転写量は0.1μLであり、転写できなかった。
この結果から、0.2μLの微量の分注には、撥水処理したノズルと親水化したセルを組み合わせたときのみ、転写可能であった。
【0055】
【表3】
【0056】
(B)0.4μL分注の場合
0.4μLの水を分注した場合の分注定量結果を、表4にまとめた。
(a)洗浄後のSUS製分注ノズル(接触角10°)を用いた場合、サンプル転写先の表面が、親水化セル(接触角75°)でも従来セル(接触角90°)でも分注(転写)できなかった。0.4μLを分注させたかったが、セル表面への転写量は、0.3μLであった。
(b)新品のSUS製分注ノズル(接触角90°)を用いた場合、サンプル転写先の表面が、親水化セル(接触角75°)でも従来セル(接触角90°)でも分注できなかった。0.4μLを分注させたかったが、セル表面への転写量は、0.3μLであった。
(c)撥水性の分注ノズル(接触角120°)を用いた場合、親水化セル(接触角75°)へは完全に分注(転写)できた。0.4μLの分注を狙い、0.4μLの水を完全にセル表面に転写できた。撥水分注ノズル(接触角120°)を用いた場合、従来セル(接触角90°)への転写量は0.3μLであり、転写できなかった。
この結果から、0.4μLの微量の分注には、撥水処理したノズルと親水化したセルを組み合わせたときのみ、転写可能であった。
【0057】
【表4】
【0058】
ここで、実験の比較例として、0.5μLの分注実験の例を以下に示す。
(C)0.5μL分注の場合
0.5μLの水を分注した場合の分注定量結果を、表5にまとめた。
(a)洗浄後のSUS製分注ノズル(接触角10°)を用いた場合、サンプル転写先の表面が、親水化セル(接触角75°)の場合、転写可能であった。0.5μLの分注(転写)を狙い、0.5μLを完全に転写できた。一方、転写先が従来セル(接触角90°)の場合には分注(転写)できなかった。0.5μLを分注させたかったが、セル表面への転写量は、0.4μLであった。
(b)新品のSUS製分注ノズル(接触角90°)を用いた場合、サンプル転写先の表面が、親水化セル(接触角75°)及び従来セル(接触角90°)のいずれの場合でも分注できた。0.5μLの分注(転写)を狙い、0.5μLを完全に転写できた。しかし、SUS304製のノズルに表面撥水処理せず用いた場合、実際上は数回の使用で、洗浄後のノズルと同じ状態(接触角10°)となる。従って、実際上は従来のセルに対しては転写できなかった。
(c)撥水性のノズル(接触角120°)を用いた場合、親水化セル(接触角75°)へは完全に分注(転写)できた。0.5μLの分注を狙い、0.5μLの水を完全にセル表面に転写できた。撥水分注ノズル(接触角120°)を用いた場合、従来セル(接触角90°)への転写量は0.5μLであり、転写できた。
【0059】
【表5】
【0060】
上記の(A)〜(C)の実験結果から、0.4μL以下の微量分注には、撥水処理したノズルと親水化したセルを組み合わせることで、転写可能であった。なお、この実験に用いる分注ノズルに関しては、径が細いほどセル底面に問題なく転写できた。特に0.4μL以下の液滴を分注するには、ノズルの内径が0.5mm以下でかつノズルの外径が1.0mm以下であることで達成できた。
【0061】
(4)外壁面が撥水性のサンプル分注ノズルと底面を親水化したセルを同時に使用した自動分析装置
上記(1)で作製した「外壁面が撥水性で内壁面が親水性のサンプル分注ノズル」と上記(2)で作製した「底面を親水化したセル」を同時に使用した自動分析の実施例を述べる。図14は、本発明による自動分析装置の構成例を示す図である。
【0062】
サンプル収納部機構1には、一つ以上のサンプルセル25が配置されている。ここでは、ディスク状のサンプル収納部機構であるサンプルディスク機構を示したが、サンプルラック又はサンプルホルダー状の形態であってもよい。またここで言うサンプルは、反応セルで反応させるために使用する被検査溶液のことを指し、採集検体原液でもよく、またそれを希釈や前処理等の加工処理をした溶液であってもよい。サンプルセル25内のサンプルは、サンプル供給用分注機構2の撥水性サンプル分注ノズル27によって抽出され、所定の反応セルに注入される。この撥水性サンプル分注ノズル27は、上記(1)で説明したように、外壁表面が撥水めっき処理され撥水性であり、内壁表面が金属で親水性である。試薬ディスク機構5は、多数の試薬容器6を備えている。また、機構5には、試薬供給用分注機構7が配置されており、試薬は、この機構7の試薬分注ノズル28によって、吸引され所定の反応セルに注入される。試薬分注ノズルも、先端を撥水めっき処理したものを用いてもよい。本実施例では、ノズル27と同様に外壁面を撥水めっき処理したものを用いた。10は分光光度計、26は集光フィルタつき光源であり、分光光度計10と集光フィルタつき光源26の間に、測定対象を収容する反応ディスク3が配置される。この反応ディスク3の外周上には、底面が親水化された反応セル4が120個設置されている。また、反応ディスク3の全体は、恒温槽9によって、所定の温度に保持されている。11は反応セル洗浄機構であり、洗浄剤容器13から洗浄剤は供給される。
【0063】
19はコンピュータ、23はインターフェース、18はLog変換器及びA/D変換器、17は試薬用ピペッタ、16は洗浄水ポンプ、15はサンプル用ピペッタである。また、20はプリンタ、21はCRT、22は記憶装置としてのフロッピーディスクやハードディスク、24は操作パネルである。サンプルディスク機構は駆動部100により、試薬ディスク機構は駆動部101により、反応ディスクは駆動部102により、それぞれインターフェースを介して制御並びに駆動されている。また自動分析装置の各部はインターフェースを介してコンピュータにより制御される。
【0064】
上述の構成において、操作者は、操作パネル24を用いて分析依頼情報の入力を行う。操作者が入力した分析依頼情報は、マイクロコンピュータ19内のメモリに記憶される。サンプルセル25に入れられ、サンプルディスク収納部機構1の所定の位置にセットされた測定対象サンプルは、マイクロコンピュータ19のメモリに記憶された分析依頼情報に従って、サンプルピペッタ15及びサンプル供給用分注機構2のノズル27によって、反応セルに所定量分注される。サンプル分注ノズル27は水洗浄される。当該反応セルに試薬供給用分注機構7の試薬ノズル28によって、所定量の試薬が分注される。試薬ノズル28は水洗浄された後、次の反応セルのための試薬を分注する。サンプルと試薬の混合液は、撹拌機構8の攪拌棒29や超音波素子によって撹拌される。撹拌機構8は順次、次の反応セルの混合液を撹拌する。
【0065】
反応セル4は恒温槽9により一定温度に保持されており、反応と測光容器の両方を兼ねる。反応の過程は集光フィルタつき光源26から光を供給し、一定時間ごとに反応溶液が分光光度計10によって測光され、設定された1つ又は1つ以上の波長を用いて混合液の吸光度は測定される。測定の際、集光フィルタつき光源を用いることで、反応セルの親水性部分のみを選択的に光透過させることができる。
【0066】
以上のように、撥水性のサンプル分注ノズルと底面を親水化したセルを用いることで、0.4μL以下のサンプル分注を可能にし、精度良く分注(転写)可能であり、その後の分析精度が高い。したがって、反応セルに入れるサンプルや試薬の量を大幅に減らすことができ、ランニングコスト低減の観点から有用である。本発明の撥水処理を施した分注ノズルと親水処理を施した反応セルを使用することで、試薬とサンプル溶液を合わせた反応溶液量を従来のステンレススチール製分注ノズルと従来の反応セルを使用した場合に比較して、1/2又はそれ以下に低減して自動分析を実施できた。
【0067】
測定された吸光度は、Log変換器及びA/D変換器18、インターフェース23を介してコンピュータ19に取り込まれる。取り込まれた吸光度は濃度値に換算され、濃度値はフロッピーディスクやハードディスク22に保存したり、プリンタ20に出力される。また、CRT21に検査データを表示させることもできる。測定が終了した反応セル4は反応セル洗浄機構(ノズルアーム)11により水洗浄される。洗浄の終了した反応セルは吸引ノズル12により水を吸引された後、次の分析に順次使用される。
【0068】
このように撥水処理部分を有する分注ノズルと底面を親水化したセルを搭載して自動分析を行った結果、従来の検体付着や洗浄水の付着を十分に低減でき、相互汚染やキャリーオーバーが起こらずに安定な自動分析を実施できる。また、確実に検体をセル底面に転写でき、高い分注精度を保つことができる。同時にこのノズルが導電性を有しており、反応液や検体の液面を検知する機能を有している。
【符号の説明】
【0069】
1…サンプル収納部機構、2…サンプル供給用分注機構、3…反応ディスク、4…反応セル、5…試薬ディスク機構、6…試薬容器、7…試薬供給用分注機構、25…サンプルセル、27…サンプル分注ノズル、28…試薬ノズル、40…セル、41…セルブロック、51…反応セル、53…サンプルセル、56…サンプル分注機構、59…洗浄機構、70…サンプル分注ノズル、100…駆動部、101…駆動部、102…駆動部、211…コロナ放電源、213…底面用電極、214…棒状電極、303…セル底、304…親水化領域、506…SUS、507…下地層、508…撥水層、509…めっき層、560…アーム、561…サンプル分注ノズル、562…支柱、563…サンプル、564…付着サンプル、53…サンプルセル、565…付着サンプル、566…付着洗浄水
【技術分野】
【0001】
本発明は、生化学的な分析や免疫分析などを行う医療診断用の自動分析装置及びそれに用いられる分注ノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
医療診断用の臨床検査においては、血液や尿などの生体サンプル中のタンパク、糖、脂質、酵素、ホルモン、無機イオン、疾患マーカー等の生化学分析や免疫学的分析を行う。またDNAプローブを用いる方法、電気泳動によりDNA等を測定する方法、等の多種多様な分析方法が用いられる。臨床検査では、複数の検査項目を信頼度高くかつ高速に処理する必要があるため、その大部分を自動分析装置で実行している。従来、自動分析装置としては、例えば、血清等のサンプルに所望の試薬を混合して反応させた反応液を分析対象とし、その吸光度を測定することで生化学分析を行う生化学自動分析装置が知られている。この種の生化学自動分析装置は、サンプルや試薬を収納する容器、サンプル及び試薬を注入する反応セル、サンプル及び試薬を反応セルに自動注入する分注機構、反応セル内のサンプル及び試薬を混合する自動攪拌機構、反応中又は反応が終了したサンプルの分光スペクトルを測定する機構、分光スペクトル測定終了後の反応溶液を吸引・排出し反応セルを洗浄する自動洗浄機構等を備えている(例えば特許文献1)。
【0003】
自動分析装置の分野では、サンプル及び試薬の微量化が大きな技術課題となっている。すなわち、分析項目数の増大に伴い、単項目に割くことのできるサンプル量が少量化し、サンプル自体が貴重で多量に準備できない場合もあり、従来は高度な分析とされていた微量サンプルの分析がルーチン的に行われるようになってきた。また、分析内容が高度化するにつれて、一般に試薬が高価となり、コスト面からも試薬微量化への要請がある。このようなサンプル及び試薬の微量化は、反応セルの小型化を進める強い動機でもある。また、反応セルの小型化や必要なサンプル及び試薬の少量化は、分析スループットの向上や低廃液化にも繋がる利点がある。その際、微量のサンプルや試薬を正確に分注する必要がある。
【0004】
ここで、一般的な自動分析装置でのサンプルや試薬の自動注入機構は、分注ノズルや分注プローブなどと呼ばれ、金属やガラスや樹脂からできているのが一般的である。また、一般的な自動分析装置に用いる反応セル(セルや反応容器やウェルとも呼ばれる)はガラス又は合成樹脂(プラスチック)等で形成されるのが一般的である。分注方式の一例としては、特許文献2によると、吸引・吐出方式がある。検体サンプル分注用ノズルを用いて検体サンプルを吸引し、吐出することにより、例えば、採血管等の検体サンプルが収納されている容器から、検体サンプルと試薬を反応させるための反応セルへ、検体サンプルを移動させることができる。
【0005】
検体サンプル分注用ノズルには金属製の再使用可能なものとプラスチック製のディスポーサブルなものがある。ディスポーサブルなノズルは、使用毎に洗浄する必要がない点で便利であるが経済的でない。再使用可能なノズルは経済的であるが、再使用毎に洗浄する必要がある。洗浄が不十分であると、検体サンプルの残滓が付着したノズルを次回に使用することになる。この場合、検体サンプルの残滓が新たに採取した検体サンプルに混入する所謂キャリーオーバーの問題が起きる。
【0006】
分注方式の他の例として、特許文献3に示されるインクジェット方式がある。自動分析装置の分野では、サンプル及び試薬の微量化が一層進む趨勢にあり、また装置の小型化への要請も高まる一方である。サンプルは血清や尿であり、この液状サンプルの分注量は近年、最小分注量が2μLを下回ってきており、ノズルの管径は、0.5mm程度となっている。このように、管径が微小化することにより、容量に対する接触面積の比率が増大し、表面に吸着する物質を制御する必要がある。この場合、複数のサンプルを逐次的に測定するにあたり、ノズルの内面及び外面に吸着した物質を水もしくは界面活性剤を用いた洗浄液により洗浄して用いる。この洗浄は、分注毎に実施する場合と、少なくともある検体サンプルから、次の検体サンプルへ移る場合に実施する場合がある。洗浄方法については、ノズル外壁については水又は洗浄液をかける方法、内面については、ノズル内面の流路背部から水を押し出す方法による。また、一定の期間、例えば一日分の作業が終了した段階で、界面活性剤を含む洗浄液を用いて、吸引吐出を行い洗浄する方法もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第1706358号公報
【特許文献2】特開2001−208762号公報
【特許文献3】特開2000−329771号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
分析するサンプルの微量化に伴い、従来問題とならなかった新たな課題が浮上した。微量のサンプルを分注する際の精度や再現性である。このため例えばステンレススチール(例えばSUS304)などの金属製のサンプル分注ノズルをそのまま用いると、微量のサンプルを分注する際に正確性や再現性が低下した。また、0.5μL以下の微量サンプルの場合、分注とは、ノズルから分注先へのサンプルの「転写」と言える。すなわち、サンプルノズルの先端に形成したサンプルの液滴を分注先、例えばセル底へ転写することが分注である。このように微量のサンプルを分注する場合でも、秤量精度を維持する必要がある。しかしながら、0.5μL以下のサンプルを分注すると分注量のバラツキが発生することを新たな課題として見出した。
【0009】
以下は、事前検討した実験結果である。SUS製のシリンジ針から所定量の水を出し、シクロオレフィンポリマー表面に転写し、シクロオレフィンポリマー表面に転写された水の量を接触角計の画像から読み取った。接触角計には、協和界面科学製Drop Master 500を使用した。所定量の純水の水滴をシリンジ先端に形成させ、シクロオレフィンポリマー表面に純水を転写した。図1に分注量と転写(分注)確率を示す。ここの転写確率とは、所定の分注量の水をシリンジ針先端に形成し、シクロオレフィンポリマー表面に、この水を接触させたときに転写される確率である。実験数は10である。図1の横軸は分注量、縦軸は転写確率(%)である。その結果、分注量が1.5μLの時及び1.0μLの時の転写確率は100%であった。しかし、分注量が0.5μLの時の転写確率は60%であり、分注量が0.4μLになると転写確率は50%であった。つまり、分注量が0.5μLより少なくなると、転写確率が低くなることがわかった。
【0010】
また、分析法の改良に伴い、サンプル中に含まれる物質の濃度がより低い物質を測定する場合においては、サンプル分注ノズルの洗浄が不十分な場合、次サンプルの測定の分注に際してノズルに吸着した物質が遊離し、混入する懸念がある。これを一般的にキャリーオーバーと呼ぶ。キャリーオーバーには、システムの検出レンジによって許容範囲が決定される。すなわち、次サンプルにおいて、測定対象の物質が検出感度以下の濃度である場合、ここに溶離した前サンプルの残渣の量aが、次サンプルの容量Vに対してa/Vの濃度となった場合、これが、検出感度以上となった場合、キャリーオーバーと認められる。
【0011】
しかし、キャリーオーバーする物質の量は、分注ノズルの表面に吸着する量と、吸着した物質が次サンプルに溶出する量との関係で決定されること、さらに、分注ノズル表面の状態が異なる場合には、この関係が崩れる。そこで、付着した検体を洗浄するため、分注ノズルを洗浄する機構が自動分析装置に備わっており、分注ノズルの外壁部を洗浄している。
【0012】
自動分析装置のサンプル分注機構の模式図を図2に示す。サンプル分注機構56はアーム560と支柱562及びサンプル分注ノズル561からなる。分注ノズルがサンプルセル53から血清や尿などのサンプルを吸引し、反応セル51内で吐出することで分注を完了する。その後、必要に応じて洗浄機構59により、サンプル分注ノズル561は洗浄される。
【0013】
こうして運用されている分注機構の目視や、分注量のバラツキを定量した結果、サンプル分注の正確性や再現性を低下させる原因は以下の通りである。図3から図5を用い説明する。図3はサンプル管からのサンプル吸引の様子を模式的に示す図、図4はセルへのサンプル吐出の様子を模式的に示す図、図5は洗浄後のサンプル分注ノズルの様子を模式的に示す図である。図3、図4、図5は、それぞれ原因(1)(2)(3)に対応する模式図である。
【0014】
原因(1):図3に示すとおり、サンプル563をサンプルセル53から吸引して引き上げた時に、付着サンプル564がサンプル分注ノズル561の外壁面に付着すること。
原因(2):図4に示すとおり、吸引したサンプル563をセル51に吐出する際に、全てのサンプルが吐出されずにサンプル分注ノズル561の外壁に付着サンプル565があること。
原因(3):図5に示すとおり、サンプル分注ノズルの561外壁へ洗浄水566が付着すること。
【0015】
また、以上の原因(1)〜(3)のいずれか又は複数により、サンプル分注ノズルの外壁の親水性が上がり、サンプルをセルに転写する際にサンプルがノズル外壁に付着し、ノズルがサンプルを持ち帰り、その後の分注精度の低下を招くことを見出した。
【0016】
将来、サンプル分注量の微量化が進むと、これらはより大きな問題となると予想される。自動分析装置の小型化、サンプル・試薬の少量化というトレンドに対処するためには、上記原因(1)〜(3)の問題を解決する必要がある。本発明は、これらの要請に応えるものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、サンプル分注ノズルの外壁表面を撥水処理し、かつセルの分注される領域を親水化したところ、分注の正確性や再現性が向上することを見出した。サンプル分注ノズルの外壁表面を撥水処理し、かつセルの分注領域を親水化することで、サンプルが確実にセルに転写され、分注精度の低下がない。また、ノズルが撥水性のため、洗浄水の付着がない。ノズルは、外壁表面とともに内壁表面を撥水処理してもよい。撥水処理したノズルと分注領域を親水化処理した反応セルを同時に用いることにより、自動分析装置において微量サンプルを分注する際の分注精度が向上する。
【0018】
なお、分注方式の他の例としてインクジェット方式があるが、吐出したいサンプル量よりも大きな量をサンプル貯めに一旦保管する必要があるため、微量なサンプルを分注するのに適さない。また、自動分析装置は多種のサンプルを少量ずつ分析するのが通常である。よって、サンプル貯めに一旦サンプルを保管してから吐出するインクジェット方式では、あるサンプルがサンプル貯めへ付着すると、他のサンプルへの汚染を無視できない。また、以上のような汚れが付着したサンプル貯めの洗浄もコスト上昇となる。従って、本発明では、吸引吐出方式の分注機構を中心に述べるが、インクジェット方式など他の分注方式への適用を妨げるものではない。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、サンプル分注ノズルの外壁表面を均一に撥水めっき処理できることから、ノズル外壁表面が均一な撥水性を示す。外壁表面が高い撥水性を示すことから、分注時のサンプルの液切れが良く、サンプルの持ち帰りがない。
【0020】
表面を撥水処理したノズルと分注領域を親水処理したセルを同時に用いることで、自動分析を行う際にサンプル分注の正確性や再現性を高めることができる。ノズル外壁表面へのサンプルの汚染を防止できるので、分析間の相互汚染を防止できデータの信頼性が向上する。これらの効果は、サンプル・試薬の微量化にも寄与し、自動分析装置のランニングコスト低減にも貢献する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】分注量と分注精度の関係を示す図。
【図2】自動分析装置のサンプル分注機構の模式図。
【図3】自動分析における分注の様子を示す図。
【図4】自動分析における分注の様子を示す図。
【図5】自動分析における分注の様子を示す図。
【図6】サンプル分注ノズルの模式図。
【図7】撥水めっき処理したノズル先端の断面図。
【図8】ノズルの模式図。
【図9】反応セルの斜視外観図。
【図10】反応セルの断面図。
【図11】複数の反応セルを一体成型したセルブロックの斜視外観図。
【図12】コロナ放電処理の模式図。
【図13】親水化した反応セル底面の模式図。
【図14】自動分析装置の構成例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
分注ノズル表面の撥水処理と、反応セルの分注領域の親水化処理について説明する。
一部の自動分析装置では、液面を検知し、ノズルの高さを制御するために分注ノズルの先端が導電性を有する必要がある。従って、例えば分注ノズルの素材としてSUS304を選択し、導電性による液面検知機能を必要とする自動分析装置の場合、導電性を保持したまま高撥水性を表面に付与する必要がある。一方、分注ノズル内壁表面又は外壁表面又は両表面に、一般的な薬液コーティングや化学反応による撥水性向上を過剰に行うと、絶縁的な膜形成によって表面の導電性を失うため、液面検知ができなくなる。
【0023】
そこで、発明者らは、ニッケル−フッ素樹脂の共析めっき処理を分注ノズル外壁表面に施すことを思いついた。この方法では、分注ノズル表面にニッケル−テフロンの無電解めっきを行うことで、表面めっき層にニッケルが存在することで高い導電性、そしてフッ素樹脂による高い撥水性、強固な表面との結合の全てを達成できる。表面処理を施す対象は、分注ノズルの内壁表面及び外壁表面が可能であるが、予備実験の結果から外壁表面を均一に撥水めっき処理することで、良好な分注結果が得られた。
【0024】
ニッケル−フッ素樹脂の共析めっき処理を金属表面に行うと、厚さ数マイクロメートルレベルでのめっき層が形成でき、撥水性を大幅に向上できる。実際に、表面にニッケル−フッ素樹脂の共析めっき処理した分注ノズルの表面断面層を電子顕微鏡(SEM)観察したところ、明らかに5マイクロメートル程度のめっき層が観察され、かつ水に対する接触角の大幅な向上が認められ、撥水性が向上した。めっき層を元素分析したところ、SUS表面には元々存在しないフッ素やリンというめっき由来の成分を検出した。なお、めっき処理した分注ノズルは、外観上、傷などがなく自動分析を行う際に、なんら支障がない。
【0025】
以上のように、本発明によれば、自動分析装置用分注ノズルの表面を撥水処理でき、同時に導電性も備えている。また、本発明の分注ノズルを用いれば、サンプル分注の正確性や再現性も高い。導電性のめっき以外にもダイアモンドライクカーボン(DLC)で被覆したノズルや、長鎖アルキル基を有するシランカップリンブ剤を適切な厚さに固定化したノズル、撥水性の分子を蒸着したノズルも使用できる。これらの表面修飾の場合、その膜厚を100nm以下程度に薄くすることで、導電性を維持できる。
【0026】
サンプル分注機構において、上記の撥水処理したノズルと共に、サンプルが分注されるセル表面を親水化しておくことが分注精度向上に有効であることを見出した。複数回の使用を経てノズル外壁にサンプルや洗浄水が付着し、ノズル外壁の親水性が向上しても、サンプルを転写する相手であるセルの分注領域の親水性が高ければ、セルがサンプルを保持することを可能にするからである。特にプラスチック製の反応セルを親水化する方法として、コロナ放電が有効であった。サンプルを分注する領域が親水性であれば、0.2μL程度の微量の検体サンプルを分注した際に、分注ノズルが検体サンプルを持ち帰ることがない。また、親水化する面積を適正化することで、分注精度の更なる向上がある。
【0027】
なお、自動分析の単位時間当たりの分析数(スループット)を向上するため、自動分析装置に使用するサンプル分注ノズルは自動分析装置上に多数装着されることが一般的である。また、分析の正確性、再現性向上のため、撥水処理したノズル表面の撥水性が均一であり、かつノズル間の撥水処理バラツキを抑制することが求められる。同時に、親水化処理したセル表面の親水性の程度が均一であり、かつセル間の親水処理バラツキを抑制することが求められる。上記したノズルの撥水処理及びセルの浸水処理は、これらの要求も満たすことができる。
【0028】
次に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
(1)撥水めっき処理によるサンプル分注ノズル外壁表面の撥水化
自動分析装置用サンプル分注ノズル(以下、“ノズル”と呼称する。)は、ステンレススチール(SUS304)を素材として作製した。ちなみにノズルの素材としては、アルミニウム、SUS、その他金属、ガラス、樹脂などから選択される1種であればかまわない。液面検知をするにはノズル先端に導電性が必要であり、かつ加工性、耐久性、耐腐食性の観点からSUS304を選択することが望ましい。また、ここではサンプル分注ノズルの例を述べるが、試薬分注ノズルに同様の表面処理をしてもよい。
【0029】
本実施例ではSUS304を素材として、加工や曲げや研磨などで作製したサンプル分注ノズルを用いた。図6に断面図を示す。分注ノズル561の1種はL字構造である。L字構造の長手方向の長さL1は、100mmであり、短い距離L2は50mmである。ノズルの先端はテーパ構造となっており、外径d1は例えばφ0.5mmであり、極細先端部の内径d2は0.3mmとなっている。分注ノズルの逆先端部の内径d3は0.5mmである。本実施例では、ノズルの先端はテーパ構造であるが、ノズルの先端はストレート構造でもよい。破線505の位置で、撥水めっき処理後のノズル先端を割断した断面図が図7である。
【0030】
このSUS304製サンプル分注ノズルを用いてサンプルを分注すると、図3〜図5で示したような現象が起こる場合があった。加工、研磨により作成したノズル561がサンプル管からサンプルを所望量吸引し、反応セルにサンプルを吐出する。サンプルを所望量保持したノズルが反応セル底面に接触した後、サンプルを吐出する。その後、ノズルは上方へ引き上げられる。新品のサンプル分注ノズルを用いた場合には、顕在化しないものの、ノズルを使用するにつれて、分注ノズルの外壁が親水化した。そのため、サンプルを吐出した際に、サンプルの一部又は全部がノズル外壁表面に付着し、サンプル付着や洗浄水付着を形成して持ち帰る場合があり、その後の分注精度が狂う場合があった。
【0031】
そこで、ノズル561の外壁表面を撥水めっき処理することとした。耐久性、耐腐食性などの観点で、撥水めっき処理は、単なる薬液の浸漬・塗布・吹き付けによる撥水コーティングよりも強固な撥水性を保持できる。撥水めっき処理には、ニッケル−テフロン共析めっきとよばれる方法を採用した。あらかじめ、SUS表面にニッケルストライクと呼ばれるニッケル粒子の打ち込みをして、その後にニッケル−テフロンの無電解めっきを行っても良い。
【0032】
この撥水めっき処理後のノズル先端の断面図を図7に示す。撥水めっき処理の結果、SUS506の外壁表面上にニッケル層等の下地層507を設け、その表面に撥水層508、めっき層509を設けることができる。このように、多層構造でも最表面が撥水層であれば撥水性を示す。一方、ノズル内壁表面は上記撥水めっき処理を施さずに、SUS表面を保持することができた。SUS内壁表面には鏡面研磨を施すことで、平坦性を向上してもよい。この処理の結果、ノズルの外壁表面は均一な撥水性、内壁表面は均一な親水性とすることができる。
【0033】
なお、ノズルを撥水めっき処理する際に、めっき液へ浸漬する工程があるが、この際にめっき液がノズル内に進入しノズル内壁表面がめっき処理されることが懸念される。そこで、発明者らは図8に示すようなノズルを作成し、外壁表面のみを撥水めっきし、その後、加工することを思いついた。
【0034】
図8に示すノズル70は、前述のノズル561よりも両端にマージン510,511があり、穴をあらかじめ閉じてある。これは、穴あけ前のSUSノズルを利用することで、マージン510とマージン511をSUSとしても良いし、穴あけ後のノズルの両端にゴムや、樹脂などを詰めることで穴を閉じてもよい。このノズル70に、以下のプロセス1〜3により撥水めっき処理した。
プロセス1:両端の穴を閉じたノズル70を撥水めっき処理する。
プロセス2:プロセス1のノズルの両端を切断し、所望の全長を持つ穴あきノズルを作製する。
プロセス3:必要に応じて、両穴の断面を撥水めっき処理する。
【0035】
以上のプロセスにより作製した分注ノズルの外壁表面は撥水性であり、ノズルの内壁表面は元々の金属が有する親水性とすることができる。両端の穴を閉じないノズルを撥水めっき処理した場合、ノズル内部にめっき液が入り込む可能性があり、ノズル内壁表面に不均一に撥水めっき処理される可能性があり、好ましくない場合がある。今回は、外壁表面のみを撥水めっき処理したノズルを作製した。
【0036】
ただし、穴があいたままの状態の分注ノズルでも以下の場合も考えられる。例えば、(1)内壁表面にめっきが多少ついても分注の際には問題とならない。
(2)内壁表面についためっきを研磨で除去する。
(3)内壁表面も均一にめっきする。
(4)両端の穴をマスクして外壁部だけをめっきする。
などの場合や、ノズル形状にする前の状態で、穴が開いたパイプ段階でめっきし、その後、曲げ・絞り加工することもできる。本実施例では、上記プロセス1〜3の工程で作製したノズルについて詳細を述べる。
【0037】
接触角の測定には、協和界面科学製Drop Master 500を使用した。シリンジで純水0.1μLをノズル外壁表面に滴下し、着滴1秒後の静的接触角を3点法で測定した。測定には、表面を1mmおきに測定を行い、6つの部位での平均値を求めた。その結果、撥水めっき処理したノズルの水に対する接触角は120度であった。一方、撥水めっき処理をする前のSUS304製サンプル分注ノズルの水に対する接触角は90度であったので、撥水めっき処理により撥水性が向上した。
【0038】
【表1】
【0039】
次に、撥水めっき処理したノズルの電子顕微鏡観察及び元素分析をSEM−EDAX(電子顕微鏡による元素分析)によって実施した結果を表2に示す。測定には、(株)日立製作所S2460形装置を使用した。めっきの膜厚を測定するため、ノズルを割断した後、SEM−EDAX観察を行った。
【0040】
【表2】
【0041】
図7と表2に示すようにノズルの外壁最表面層508には、ニッケル、フッ素、リンが存在し、厚さは2μmである。最表面層508の下層の下地層507には、ニッケル、フッ素、リンが存在し、厚さは3μmである。処理を施したSUS層には、SUSの成分由来であるニッケルが存在し、フッ素とリンは存在しない。表1に示した接触角の観点からも、表2に示した元素分析の観点からも、ノズル外壁表面の撥水性が高いことがわかる。処理したセルロット間の均一性が高いことも確認した。
【0042】
シランカップリング処理による分注ノズル外壁表面の撥水化、撥水分子蒸着による分注ノズル外壁表面の撥水化、超撥水電解めっきによる分注ノズル外壁表面の撥水化、ダイアモンドライクカーボン処理による分注ノズル外壁表面の撥水化を行ってもよい。サンプル分注ノズルは、少なくともサンプルに浸漬されるノズル先端部の外壁領域及び端面を撥水処理すればよい。
【0043】
(2)セルの分注領域の親水化
自動分析装置用反応セル(以下、“セル”と呼称する。)を、ポリシクロオレフィンを素材として射出成形によって製作した。ちなみにセル素材としては、ポリシクロオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂から選択される1種を用いることができる。低吸水率、低透湿度、高い全光線透過率、低屈折率、低成型収縮率の観点からポリシクロオレフィン樹脂を選択することが望ましい。ポリシクロオレフィンは、高分子であり、分子の主鎖及び側鎖は、それぞれ炭素−炭素結合と炭素−水素結合から構成されており、主鎖の一部に環状の飽和炭化水素が存在する。自動分析装置においては、個々の単セルの中で検体サンプルと試薬を反応させて、色素の発色やラテックスの凝集現象を複数の特定波長の光透過率の変化によって計測する。
【0044】
個々の単セルは、典型的には、樹脂製の底壁と、底壁の周縁から上方に向け立設された側壁とを備え、上端に開口を有する縦長の容器である。底壁は長方形又は正方形とすることができ、この場合、側壁を構成する4つの部分のうち、対向する一対の(2つの)部分は計測用の光が透過する測光面を形成し、他の、対向する一対の(2つの)部分は計測用の光が透過しない非測光面を形成する。
【0045】
図9に、セルの斜視外観図を示す。セル40には測光面401と非測光面402がある。測定光は矢印の方向から測光面401に入射する。セル40を線A−A’で破断した断面図を図10に示す。
【0046】
セル40は、非測光面外側表面111、非測光面内側表面112、測光面外側表面113、測光面内側表面114、底壁内側表面(底面)115を有する。セルの内壁部の寸法は、非測光面の半分の長さL4が3mm、測光面の長さL5が4mm、高さHが30mm、セル肉厚Tが1mmであり、底壁115により形成される閉口部、及び上方の開口部140を備えている。なお、図11のように複数のセル40を、各セルの開口が同一方向に向くように一列に並べ、一体成形したセルブロック41を使用して、それぞれのセルを表面親水化しても良い。
【0047】
セル40内にエタノール約0.5mLを注入して24時間放置し、エタノールを除去した後、真空デシケーターに入れ乾燥することでセル内側表面を清浄化した。なお、このエタノールによる洗浄を行わずに、以下のコロナ放電処理を行っても、実用上問題ない。
【0048】
図12にコロナ放電部分処理の模式図を示す。樹脂により成形後、洗浄・乾燥したセル40の底面外側に陰極板213を設置した。陰極板は、配線216を介してアース217につながれている。セル40内部にコロナ放電陽極の棒状電極214をセルの底面中心に向かって底面から1mmの高さまで入れた。棒状電極214の下端の径は2mm、長さは50mmであり、配線212を介してコロナ放電電源211につながれている。コロナ放電電源としては、放電パルス数をカウントできるパルス方式の放電源が望ましいが、高周波方式の放電電源でもよい。本実施例ではパルス方式のコロナ放電源を使用した。電圧25kV印加によって、セル底面をコロナ放電処理した。パルス周期は1秒間あたり300パルスとし、処理時間1秒すなわち300パルスの処理を施した。この条件でコロナ放電処理をすると、発生する電圧と電流値から約5ジュールのエネルギーが発生することをオシロスコープで確認した。コロナ放電処理の際の雰囲気ガスは、本実施例は空気で実施したが、窒素雰囲気下でコロナ放電処理してもよい。本実施例では、一つのセルごとにコロナ放電処理したが、セル複数個が一体成形された多連式のセルブロックとして成形した場合には、同時に複数のセルにコロナ放電処理をしてもよい。
【0049】
分注機構の上方から見た様子を図13に示す。分注ノズル先端301の内径をΦ1とし、セル底303の親水化領域304の大きさをSとする。大きさSがノズルの内径面積と等しい場合、すなわち、S=π(Φ1)2の場合に、サンプルを十分に転写できる。また、S>π(Φ1)2の場合でもサンプルをセル底親水化領域に十分に転写できる。分注量に応じて、Sを適切に変えることでさらに効果がある。親水化領域Sの大きさや形状を変えるには、コロナ放電処理をする際に、放電処理したくない部分にセルと同素材でマスクすることで実現できる。
【0050】
本実施例では、底面の親水化領域の面積は、S=π(Φ1)2とし、Φ1=0.3mmとした。接触角の測定には、協和界面科学製Drop Master 500を使用した。改質表面にシリンジを利用して純水1μLを滴下し、着滴1秒後の静的接触角を3点法で測定した。測定には、処理を施したサンプルを3つ用意して測定を行い、その平均値を求めた。その結果、表面改質前のセル表面や非改質部分の接触角は約90度であるのに対し、表面改質することで接触角は75度へと低下した。測定値の最大バラツキ(最大値−最小値)は約3度以下であった。
【0051】
(3)撥水ノズルと親水化セルの組み合わせによる分注可否の検討
分注ノズルを用いて、サンプルをセルに吐出する分注機構において、(1)の撥水性ノズルと、(2)の底面を親水化したセルの組み合わせによる分注性能ついて評価した。用いた分注ノズルは、SUS304製で、内径0.3mm、外径0.5mmである。ノズル表面の接触角を求めるため、ノズル先端に純水を0.2μL滴下した際の接触角を前述した方法で測定した。新品の分注ノズルの接触角は90°であるが、洗浄液での洗浄後に10°に低下する。従って、実機搭載向けのSUS304製ノズルの接触角は10°である。また撥水処理し、接触角が120°の分注ノズルを評価した。
【0052】
一方、サンプルの吐出先(転写先)であるセル表面の接触角は、従来は90°であり、コロナ放電によって親水化したセルの接触角は75°である。これら分注ノズル3種((A)洗浄後SUSノズル、(B)新品SUSノズル、(C)撥水性ノズル)と、分注先のセルとして2種(従来セル、親水化セル)を用いて、それぞれ組み合わせることで分注可否を目視で判断した。分注量としては、0.2μL、0.4μL、0.5μLで検討した。分注ノズルからそれぞれの分注量の水を吐出した状態で、ノズルを1cm/分の速度で下げて、セル底表面に水が触れた時点でノズルを1cm/分の速度で引き上げた。引き上げたノズルの外壁に水が付着し持ち帰った場合には、分注(転写)量が減少する。上述した3種のノズルからそれぞれ所定量の水を出し、シクロオレフィンポリマー表面に転写し、シクロオレフィンポリマー表面に転写された量を接触角計の画像から読み取った。接触角計には、協和界面科学製Drop Master 500を使用した。所定量の純水をシリンジ先端に形成させ、シクロオレフィンポリマー製のセル表面に純水を転写した。評価数は10回であり、そのうち1回でも転写できなかった場合を転写不可と評価した。また、転写できなかった場合のセル表面への転写量を接触角計の画像から見積もった。
【0053】
(A)0.2μL分注の場合
0.2μLの水を分注した場合の分注定量結果を、表3にまとめた。SUS製のシリンジ針から所定量の水を出し、シクロオレフィンポリマー製のセル表面に転写し、セル表面に転写された量を接触角計の画像から読み取った。接触角計には、協和界面科学製Drop Master 500を使用した。所定量の純水をシリンジ先端に形成させ、シクロオレフィンポリマー表面に純水を転写した。以下に結果を示す。
【0054】
(a)洗浄後のSUS製分注ノズル(接触角10°)を用いた場合、サンプル転写先の表面が、親水化セル(接触角75°)でも従来セル(接触角90°)でも分注(転写)できなかった。0.2μLの分注量に対し、セル表面への転写量は、0.1μLであった。
(b)新品のSUS製分注ノズル(接触角90°)を用いた場合、サンプル転写先の表面が、親水化セル(接触角75°)と従来セル(接触角90°)のいずれの場合でも分注できなかった。0.2μLを分注させたかったが、セル表面への転写量は、0.1μLであった。
(c)撥水分注ノズル(接触角120°)を用いた場合、親水化セル(接触角75°)へは完全に分注(転写)できた。0.2μLの分注を狙い、0.2μLの水を完全にセル表面に転写できた。撥水分注ノズル(接触角120°)を用いた場合、従来セル(接触角90°)への転写量は0.1μLであり、転写できなかった。
この結果から、0.2μLの微量の分注には、撥水処理したノズルと親水化したセルを組み合わせたときのみ、転写可能であった。
【0055】
【表3】
【0056】
(B)0.4μL分注の場合
0.4μLの水を分注した場合の分注定量結果を、表4にまとめた。
(a)洗浄後のSUS製分注ノズル(接触角10°)を用いた場合、サンプル転写先の表面が、親水化セル(接触角75°)でも従来セル(接触角90°)でも分注(転写)できなかった。0.4μLを分注させたかったが、セル表面への転写量は、0.3μLであった。
(b)新品のSUS製分注ノズル(接触角90°)を用いた場合、サンプル転写先の表面が、親水化セル(接触角75°)でも従来セル(接触角90°)でも分注できなかった。0.4μLを分注させたかったが、セル表面への転写量は、0.3μLであった。
(c)撥水性の分注ノズル(接触角120°)を用いた場合、親水化セル(接触角75°)へは完全に分注(転写)できた。0.4μLの分注を狙い、0.4μLの水を完全にセル表面に転写できた。撥水分注ノズル(接触角120°)を用いた場合、従来セル(接触角90°)への転写量は0.3μLであり、転写できなかった。
この結果から、0.4μLの微量の分注には、撥水処理したノズルと親水化したセルを組み合わせたときのみ、転写可能であった。
【0057】
【表4】
【0058】
ここで、実験の比較例として、0.5μLの分注実験の例を以下に示す。
(C)0.5μL分注の場合
0.5μLの水を分注した場合の分注定量結果を、表5にまとめた。
(a)洗浄後のSUS製分注ノズル(接触角10°)を用いた場合、サンプル転写先の表面が、親水化セル(接触角75°)の場合、転写可能であった。0.5μLの分注(転写)を狙い、0.5μLを完全に転写できた。一方、転写先が従来セル(接触角90°)の場合には分注(転写)できなかった。0.5μLを分注させたかったが、セル表面への転写量は、0.4μLであった。
(b)新品のSUS製分注ノズル(接触角90°)を用いた場合、サンプル転写先の表面が、親水化セル(接触角75°)及び従来セル(接触角90°)のいずれの場合でも分注できた。0.5μLの分注(転写)を狙い、0.5μLを完全に転写できた。しかし、SUS304製のノズルに表面撥水処理せず用いた場合、実際上は数回の使用で、洗浄後のノズルと同じ状態(接触角10°)となる。従って、実際上は従来のセルに対しては転写できなかった。
(c)撥水性のノズル(接触角120°)を用いた場合、親水化セル(接触角75°)へは完全に分注(転写)できた。0.5μLの分注を狙い、0.5μLの水を完全にセル表面に転写できた。撥水分注ノズル(接触角120°)を用いた場合、従来セル(接触角90°)への転写量は0.5μLであり、転写できた。
【0059】
【表5】
【0060】
上記の(A)〜(C)の実験結果から、0.4μL以下の微量分注には、撥水処理したノズルと親水化したセルを組み合わせることで、転写可能であった。なお、この実験に用いる分注ノズルに関しては、径が細いほどセル底面に問題なく転写できた。特に0.4μL以下の液滴を分注するには、ノズルの内径が0.5mm以下でかつノズルの外径が1.0mm以下であることで達成できた。
【0061】
(4)外壁面が撥水性のサンプル分注ノズルと底面を親水化したセルを同時に使用した自動分析装置
上記(1)で作製した「外壁面が撥水性で内壁面が親水性のサンプル分注ノズル」と上記(2)で作製した「底面を親水化したセル」を同時に使用した自動分析の実施例を述べる。図14は、本発明による自動分析装置の構成例を示す図である。
【0062】
サンプル収納部機構1には、一つ以上のサンプルセル25が配置されている。ここでは、ディスク状のサンプル収納部機構であるサンプルディスク機構を示したが、サンプルラック又はサンプルホルダー状の形態であってもよい。またここで言うサンプルは、反応セルで反応させるために使用する被検査溶液のことを指し、採集検体原液でもよく、またそれを希釈や前処理等の加工処理をした溶液であってもよい。サンプルセル25内のサンプルは、サンプル供給用分注機構2の撥水性サンプル分注ノズル27によって抽出され、所定の反応セルに注入される。この撥水性サンプル分注ノズル27は、上記(1)で説明したように、外壁表面が撥水めっき処理され撥水性であり、内壁表面が金属で親水性である。試薬ディスク機構5は、多数の試薬容器6を備えている。また、機構5には、試薬供給用分注機構7が配置されており、試薬は、この機構7の試薬分注ノズル28によって、吸引され所定の反応セルに注入される。試薬分注ノズルも、先端を撥水めっき処理したものを用いてもよい。本実施例では、ノズル27と同様に外壁面を撥水めっき処理したものを用いた。10は分光光度計、26は集光フィルタつき光源であり、分光光度計10と集光フィルタつき光源26の間に、測定対象を収容する反応ディスク3が配置される。この反応ディスク3の外周上には、底面が親水化された反応セル4が120個設置されている。また、反応ディスク3の全体は、恒温槽9によって、所定の温度に保持されている。11は反応セル洗浄機構であり、洗浄剤容器13から洗浄剤は供給される。
【0063】
19はコンピュータ、23はインターフェース、18はLog変換器及びA/D変換器、17は試薬用ピペッタ、16は洗浄水ポンプ、15はサンプル用ピペッタである。また、20はプリンタ、21はCRT、22は記憶装置としてのフロッピーディスクやハードディスク、24は操作パネルである。サンプルディスク機構は駆動部100により、試薬ディスク機構は駆動部101により、反応ディスクは駆動部102により、それぞれインターフェースを介して制御並びに駆動されている。また自動分析装置の各部はインターフェースを介してコンピュータにより制御される。
【0064】
上述の構成において、操作者は、操作パネル24を用いて分析依頼情報の入力を行う。操作者が入力した分析依頼情報は、マイクロコンピュータ19内のメモリに記憶される。サンプルセル25に入れられ、サンプルディスク収納部機構1の所定の位置にセットされた測定対象サンプルは、マイクロコンピュータ19のメモリに記憶された分析依頼情報に従って、サンプルピペッタ15及びサンプル供給用分注機構2のノズル27によって、反応セルに所定量分注される。サンプル分注ノズル27は水洗浄される。当該反応セルに試薬供給用分注機構7の試薬ノズル28によって、所定量の試薬が分注される。試薬ノズル28は水洗浄された後、次の反応セルのための試薬を分注する。サンプルと試薬の混合液は、撹拌機構8の攪拌棒29や超音波素子によって撹拌される。撹拌機構8は順次、次の反応セルの混合液を撹拌する。
【0065】
反応セル4は恒温槽9により一定温度に保持されており、反応と測光容器の両方を兼ねる。反応の過程は集光フィルタつき光源26から光を供給し、一定時間ごとに反応溶液が分光光度計10によって測光され、設定された1つ又は1つ以上の波長を用いて混合液の吸光度は測定される。測定の際、集光フィルタつき光源を用いることで、反応セルの親水性部分のみを選択的に光透過させることができる。
【0066】
以上のように、撥水性のサンプル分注ノズルと底面を親水化したセルを用いることで、0.4μL以下のサンプル分注を可能にし、精度良く分注(転写)可能であり、その後の分析精度が高い。したがって、反応セルに入れるサンプルや試薬の量を大幅に減らすことができ、ランニングコスト低減の観点から有用である。本発明の撥水処理を施した分注ノズルと親水処理を施した反応セルを使用することで、試薬とサンプル溶液を合わせた反応溶液量を従来のステンレススチール製分注ノズルと従来の反応セルを使用した場合に比較して、1/2又はそれ以下に低減して自動分析を実施できた。
【0067】
測定された吸光度は、Log変換器及びA/D変換器18、インターフェース23を介してコンピュータ19に取り込まれる。取り込まれた吸光度は濃度値に換算され、濃度値はフロッピーディスクやハードディスク22に保存したり、プリンタ20に出力される。また、CRT21に検査データを表示させることもできる。測定が終了した反応セル4は反応セル洗浄機構(ノズルアーム)11により水洗浄される。洗浄の終了した反応セルは吸引ノズル12により水を吸引された後、次の分析に順次使用される。
【0068】
このように撥水処理部分を有する分注ノズルと底面を親水化したセルを搭載して自動分析を行った結果、従来の検体付着や洗浄水の付着を十分に低減でき、相互汚染やキャリーオーバーが起こらずに安定な自動分析を実施できる。また、確実に検体をセル底面に転写でき、高い分注精度を保つことができる。同時にこのノズルが導電性を有しており、反応液や検体の液面を検知する機能を有している。
【符号の説明】
【0069】
1…サンプル収納部機構、2…サンプル供給用分注機構、3…反応ディスク、4…反応セル、5…試薬ディスク機構、6…試薬容器、7…試薬供給用分注機構、25…サンプルセル、27…サンプル分注ノズル、28…試薬ノズル、40…セル、41…セルブロック、51…反応セル、53…サンプルセル、56…サンプル分注機構、59…洗浄機構、70…サンプル分注ノズル、100…駆動部、101…駆動部、102…駆動部、211…コロナ放電源、213…底面用電極、214…棒状電極、303…セル底、304…親水化領域、506…SUS、507…下地層、508…撥水層、509…めっき層、560…アーム、561…サンプル分注ノズル、562…支柱、563…サンプル、564…付着サンプル、53…サンプルセル、565…付着サンプル、566…付着洗浄水
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプルを入れるサンプルセルと、試薬を入れる試薬容器と、サンプル及び試薬が注入される反応セルと、前記サンプルセル中の試薬を前記反応セルに分注するサンプル分注機構と、前記試薬容器中の試薬を前記反応セルに分注する試薬分注機構とを有する自動分析装置において、
前記サンプル分注機構は撥水性の表面を有するサンプル分注ノズルを備え、前記反応セルは親水性の底面を有することを特徴とする自動分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の自動分析装置において、前記反応セル底面の親水性領域は前記サンプル分注ノズルの内径より大きいもしくは等しいことを特徴とする自動分析装置。
【請求項3】
請求項1に記載の自動分析装置において、前記サンプル分注ノズルは先端部分の表面及び端面が撥水性であることを特徴とする自動分析装置。
【請求項4】
請求項1に記載の自動分析装置において、前記サンプル分注機構によるサンプル分注量は0.4μL以下であることを特徴とする自動分析装置。
【請求項5】
自動分析装置用に用いられるサンプル分注ノズルであって、ノズルの先端表面が撥水性でかつ導電性を有することを特徴とするサンプル分注ノズル。
【請求項6】
請求項5に記載のサンプル分注ノズルにおいて、前記ノズルの先端外壁表面が撥水性でかつ導電性を有し、先端内壁表面が親水性であることを特徴とするサンプル分注ノズル。
【請求項7】
請求項5に記載の分注ノズルであって、前記ノズル先端表面の撥水性部分の組成にフッ素と炭素とニッケルを含むことを特徴とするサンプル分注ノズル。
【請求項8】
請求項5に記載の分注ノズルであって、前記ノズルは先端部分の内径が0.5mm以下であり、外径が1.0mm以下であることを特徴とするサンプル分注ノズル。
【請求項1】
サンプルを入れるサンプルセルと、試薬を入れる試薬容器と、サンプル及び試薬が注入される反応セルと、前記サンプルセル中の試薬を前記反応セルに分注するサンプル分注機構と、前記試薬容器中の試薬を前記反応セルに分注する試薬分注機構とを有する自動分析装置において、
前記サンプル分注機構は撥水性の表面を有するサンプル分注ノズルを備え、前記反応セルは親水性の底面を有することを特徴とする自動分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の自動分析装置において、前記反応セル底面の親水性領域は前記サンプル分注ノズルの内径より大きいもしくは等しいことを特徴とする自動分析装置。
【請求項3】
請求項1に記載の自動分析装置において、前記サンプル分注ノズルは先端部分の表面及び端面が撥水性であることを特徴とする自動分析装置。
【請求項4】
請求項1に記載の自動分析装置において、前記サンプル分注機構によるサンプル分注量は0.4μL以下であることを特徴とする自動分析装置。
【請求項5】
自動分析装置用に用いられるサンプル分注ノズルであって、ノズルの先端表面が撥水性でかつ導電性を有することを特徴とするサンプル分注ノズル。
【請求項6】
請求項5に記載のサンプル分注ノズルにおいて、前記ノズルの先端外壁表面が撥水性でかつ導電性を有し、先端内壁表面が親水性であることを特徴とするサンプル分注ノズル。
【請求項7】
請求項5に記載の分注ノズルであって、前記ノズル先端表面の撥水性部分の組成にフッ素と炭素とニッケルを含むことを特徴とするサンプル分注ノズル。
【請求項8】
請求項5に記載の分注ノズルであって、前記ノズルは先端部分の内径が0.5mm以下であり、外径が1.0mm以下であることを特徴とするサンプル分注ノズル。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−230566(P2010−230566A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−79897(P2009−79897)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
2.フロッピー
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
2.フロッピー
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
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