説明

自動分析装置用の試薬容器

【課題】回転に伴う当該容器内の波や泡の発生を抑え、正確な量の試薬を吸引することができる自動分析装置用の試薬容器を提供する。
【解決手段】試薬の吸引を行うプローブを挿入するプローブ挿入口13を有する上面部11と、上面部11の外周から該上面部11と略直交する方向に延出する側面部15と、側面部15と上面部11との境界近傍であって側面部15の所定位置を貫通する棒状部材17と、を備え、棒状部材17を中心として回動自在であるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液や体液等の検体を自動的に分析する自動分析装置に適用され、検体との間で反応を生じる試薬を収容する自動分析装置用の試薬容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、血液や体液等の検体を生化学的または免疫学的に分析するための装置として自動分析装置が知られている。この自動分析装置は、反応容器に検体と試薬を加え、その反応容器内で生じる反応を光学的に検出することによって検体の成分等の分析を行う。この分析に用いる試薬は、予め所定の試薬容器に注入される(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
試薬が注入された試薬容器は、複数の試薬容器を収納可能な試薬トレイに収納される。試薬トレイは、自動分析装置の制御部の駆動制御によって回転するテーブル上に装着されており、この試薬トレイに収納された試薬容器から試薬を吸引する際には、吸引用のプローブが所望の試薬を吸引できる位置までテーブルを回転移動した後、プローブを試薬容器内の所定位置まで下降させて試薬の吸引を行う。プローブで吸引した試薬は、その後反応容器に分注される。
【0004】
【特許文献1】特開平8−313535号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、試薬トレイを装着したテーブルを回転すると、そのテーブルの回転動作に追随して試薬容器も回転する。この回転運動を同じように回転する系で観測する場合、試薬容器内の試薬には遠心力が作用して液面が変化する。この液面の変化が容器内壁面との衝突によって増幅され、試薬容器内に波が発生したり泡が立ったりすることがあった。
【0006】
上記の如く試薬液面に波や泡が生じると、静止しているときの液面よりも上方でプローブ先端部に試薬が接触することがある。プローブ先端部には試薬との接触位置に応じて液面を検知する機構が設けられており、いったん試薬と接触したプローブは下降を停止して試薬の吸引を開始するが、波や泡の部分は静止した液面とは異なるため、正確な量の試薬を吸引することが難しかった。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、回転に伴う当該容器内の波や泡の発生を抑え、正確な量の試薬を吸引することを可能にする自動分析装置用の試薬容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、請求項1記載の発明は、検体の分析を行う自動分析装置に適用され、前記検体との間で反応を生じる試薬を収容する自動分析装置用の試薬容器において、当該試薬容器を貫通する棒状部材を備え、前記棒状部材を中心として回動自在であることを特徴とする。
【0009】
請求項2記載の発明は、検体の分析を行う自動分析装置に適用され、前記検体との間で反応を生じる試薬を収容する自動分析装置用の試薬容器において、試薬の吸引を行うプローブを挿入するプローブ挿入口を有する上面部と、前記上面部の外周から該上面部と略直交する方向に延出する側面部と、前記側面部と前記上面部との境界近傍であって前記側面部の所定位置を貫通する棒状部材と、を備え、前記棒状部材を中心として回動自在であることを特徴とする。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の発明において、前記棒状部材は、当該試薬容器の重心を通過する平面のうち、前記重心に作用する重力に平行な平面を通過することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る自動分析装置用の試薬容器によれば、当該試薬容器の表面を貫通する棒状部材を備え、前記棒状部材を中心として回動自在とすることにより、回転に伴う当該試薬容器内の波や泡の発生を抑え、正確な量の試薬を吸引することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の一実施の形態に係る試薬容器の構成を示す説明図である。同図に示す試薬容器1は、略三角柱形状をなしており、略二等辺三角形をなす二つの表面のうち、使用時に上方に位置する表面である上面部11は、試薬容器1内部に注入されている試薬の吸引を行う吸引用のプローブを挿入するプローブ挿入口13を有する。また、上面部11の外周からその上面部11と略直交する方向に延出する側面部15には、上面部11との境界近傍の所定位置(2箇所)に孔部が設けられ、この孔部と径が略同一の棒状部材17がそれらの孔部に挿通され、側面部15を貫通する。この棒状部材17は、試薬容器1の重心(質量中心)を通過する平面のうち、この重心に作用する重力に平行な平面(鉛直平面)を通過し、側面部15に固着される。したがって試薬容器1は、棒状部材17を中心として回動自在である。
【0013】
この試薬容器1は、複数の検体の生化学的または免疫学的な分析を行う自動分析装置に適用される。図2は、試薬容器1が適用される自動分析装置要部の構成を示す説明図である。同図に示す自動分析装置100は、血液や体液等の検体を収容する検体容器3を搭載した検体用ラック31を移送する検体移送部101、検体と試薬を反応させる反応容器5を載置し、それらの反応容器5に検体や試薬を順次分注するために反応容器5を所定の位置まで回転する反応テーブル103、および検体容器3に収容される検体を吸引して反応容器5に分注する検体分注部111を備える。
【0014】
検体分注部111は、検体容器3からの検体の吸引と、その検体の反応容器5への分注とを行う細管状のプローブ113、およびプローブ113を所定位置に配置するアーム115を有する。このうちアーム115の先端部には、プローブ113が鉛直方向を指向して連結される。このアーム115は、制御部(図示せず)の駆動制御によって鉛直方向の上下の昇降および当該アーム115の基端部を通過する鉛直方向の軸を中心とする回転を自在に行うことができる。
【0015】
自動分析装置100は、試薬容器1に注入される試薬を反応容器5に分注するための試薬分注機構を二つ有する。この二つの試薬分注機構のうちの一方は、複数の試薬容器1を軸O(図2の平面と直交)を中心として対称に配置して収納する試薬トレイ7a、この試薬トレイ7aを制御部の駆動制御によって回転させる回転テーブル105a、および試薬トレイ7aに収納する試薬容器1のいずれかに注入される試薬を吸引して反応容器5に分注する試薬分注部121aを備える。
【0016】
試薬分注部121aは、試薬容器1からの試薬の吸引と、吸引した試薬の反応容器5への注入とを行う細管状のプローブ123a、およびプローブ123aを所定位置に配置するアーム125aを有する。このうちアーム125aの先端部には、プローブ123aが鉛直方向を指向して連結される。このアーム125aは、上述したアーム115と同様、制御部の駆動制御によって鉛直方向の上下の昇降および当該アーム125aの基端部を通過する鉛直方向の軸を中心とする回転を自在に行うことができる。
【0017】
自動分析装置100が有するもう一方の試薬分注機構は、試薬トレイ7b、回転テーブル105b、および試薬分注部121b(プローブ123b、アーム125bを含む)を備える。ここで、上述した試薬分注機構の部位と符号の数字が同じ部位は、その機能構成も同一であるが、二つの試薬分注機構の構成要素を区別するために、各部位が有する符号の末尾に記号「a」または「b」を付与している。
【0018】
ところで、プローブ113、123a、および123bの下端部には、液面を検知する液面検知機能が設けられており、液面の高さが変化しても各プローブ先端の所定長さ分だけが液面から入るように設定されている。これにより、各プローブによる検体または試薬の分注精度を保つと同時に、プローブ自身の汚れを防止することができる。
【0019】
自動分析装置100は、反応容器で生じる反応によって放射される光を受光し、この受光した光の強度を測定するために光電子倍増管等を用いて実現される測光手段を備える。また、自動分析装置100は、検体移送部101、反応テーブル103、回転テーブル105aおよび105b、検体分注部111、並びに試薬分注部121aおよび121bなどを含む各部位の駆動制御を行うとともに、測光手段の測定結果に基づいて検体の成分の分析を行うため、演算および制御機能を有するCPU(Central Processing Unit)等によって実現される制御部を備える。さらに、自動分析装置100は、分析に必要な各種情報を入力するためキーボートやマウス等によって実現される入力手段と、分析結果等を出力表示するためディスプレイ等によって実現される表示手段とを備える。
【0020】
図3は、回転テーブル105aに装着される試薬トレイ7aの概略構成を示す上面図であり、図4は、図3のB−B線断面図である。これらの図に示す試薬トレイ7aは、中空円盤状をなす底面部71と、この底面部71の内周部に当該底面部71に垂直な方向に延出して中空円筒形状をなす内壁部73とを有する。この内壁部73の上端には、底面部71と平行に内壁部73から若干突出する突出部75が設けられる。
【0021】
試薬トレイ7aにおいて試薬容器1を収納する欠切部分は、底面部71の中空円盤の中心を通り底面部71に垂直な軸を中心として放射状に広がる側壁部77を境界として互いに隣接しており、この側壁部77の上端部には、試薬容器1を収納する際に棒状部材17を載置する軸受79が穿設されている。なお、図3に示す試薬トレイ7aは試薬容器1を12個収納するが、これはあくまでも一例に過ぎない。また、試薬トレイ7bも試薬トレイ7aと同じ構成を有する。
【0022】
図5は、試薬容器1の試薬トレイ7aへの取り付けの概要を示すとともに、試薬分注部121a要部の構成を示す部分分解斜視図である。同図に示すように、試薬容器1を試薬トレイ7aに取り付けて収納する際には、棒状部材17を軸受79に載置する。このとき、試薬容器1の取り付け時の内周側を若干下方に傾けて上面部11の内周先端付近を突出部75の鉛直下側に入り込ませた後、棒状部材17を軸受79に載置する。その後、試薬容器1から手を離すと、上面部11は略水平方向を指向し、上面部11の内周先端が突出部75の下面に当接した状態で静止する。このように静止するのは、棒状部材17の位置が、試薬容器1の重心を含む鉛直平面を通過するからである。図6は、試薬容器1を試薬トレイ7aに取り付けて収納したときの状態を示す図3のA−A線部分断面図である。
【0023】
図7は、自動分析装置100の動作の一環として、回転テーブル105aが回転するときの状態を示す図であり、図6と同じ切断面から見た部分断面図である。回転テーブル105aとともに回転する非慣性系(回転の中心軸O)から試薬容器1の運動を観測する場合、試薬容器1には重力に加えて回転に起因する遠心力が外向きに作用する。また、試薬容器1内部の試薬も外周方向に遠心力を受けるため、この遠心力に起因して試薬が移動すると、試薬容器1を外周方向に押す力も生じる。この結果、試薬容器1は、棒状部材17を中心として底面部が外周方向を向くように回転し、回転テーブル105aが静止している時の位置(図7の破線)よりも傾斜する。
【0024】
ところで、試薬容器が試薬トレイに対して固定的に収納される場合などでは、試薬容器内部の試薬の液面は遠心力によって外周に行くほど上昇する。これに対して本実施の形態では、試薬を収容する試薬容器1自体も試薬の液面変化に追随する形で試薬トレイ7aまたは7bに対して移動するため、液面の変化量が従来の場合と比較して少なくなる。したがって、内部の試薬液面の変化に伴って生じる波や泡の発生も少なくなる。
【0025】
回転テーブル105aによる回転動作が終了した後、試薬容器1には遠心力が作用しなくなり、上面部11が水平となる元の状態(図6に示す状態)に戻る。この状態に達するにあたり、試薬容器1は、棒状部材17を中心として図7に示す回転方向と反対側に回転しようとするが、上面部11の先端が突出部75に衝突するため、その反対側への回転が停止する。これに対し、回転によって移動した分の試薬は元の位置に戻ろうとして、試薬容器1内で内周側に移動する方向に慣性を得る。このため、急遽停止した試薬容器1の内周側の壁面に液面が衝突することによって新たな波が発生したり、液面の移動によって生じる波が増幅される可能性がある。このような波の発生を回避するため、この実施の形態では、試薬容器1の内周側の壁面を曲線形状にして表面積を大きくしている。これにより、試薬液面の位置が元に戻る際に生じ得る波の発生を抑えることが可能となる。
【0026】
なお、突出部75の下面(または上面部11のうち突出部75の下面に当接する部分)に適当な緩衝部材を貼付するなどしておき、回転終了直後に試薬容器1の上端部内周側が突出部75に衝突したときの衝撃を吸収するようにしておけば、内部の試薬液面の変化をさらに抑えることができ、より好ましい。
【0027】
以上説明した本発明の一実施の形態によれば、試薬容器の重心を考慮した上で回転の中心軸となる棒状部材を側面部の所定位置に貫通し、この棒状部材の周りに回動可能な構成とすることにより、回転に伴う試薬容器内の波や泡の発生を抑え、プローブによって正確な量の試薬を吸引することが可能になる。
【0028】
従来、試薬容器の回転に伴う試薬の波や泡の発生に関しては、回転してからプローブを試薬容器に挿入して吸引するまでに波や泡の発生が終了する程度の時間間隔を設けることによってそれらの発生を回避することも考えられたが、この場合には、多量の検体の分析を迅速に行うという自動分析装置の利点が損なわれてしまうという問題が新たに生じた。これに対して本実施の形態では、回転動作を変更しないので、分析に要する時間を変えずに、精度のよい検体の分析を実現することができる。
【0029】
また、この実施の形態によれば、試薬容器の容量が大きくなっても液面の揺れが大きくならずに済む上、高速な回転動作の場合にも波や泡の発生を抑えることができる。したがって、大容量の試薬容器を高速回転させても信頼性の高い分析データを得ることができ、自動分析装置において一度に分析し得る検体数の増加と、それらの検体の分析作業の迅速化を高精度で実現することができる。
【0030】
ここまで、本発明の好ましい一実施の形態を詳述してきたが、本発明はこの実施の形態によってのみ限定されるものではない。例えば、試薬容器の側面部を貫通する棒状部材の位置は、試薬容器の重心を含む鉛直平面に平行で、その鉛直平面よりも試薬トレイ収納時に内周側に来る平面を通過するようにしてもよい。この場合には、試薬容器を試薬トレイに収納して上面部を水平に保つときに棒状部材の周りにモーメントが生じるが、その上面部の内周先端が試薬トレイの突出部の下面に当接するため、棒状部材の周りのモーメントに起因する回転が生じることはない。
【0031】
また、試薬容器の形状は、略三角柱形状以外でもよく、例えば、略矩形状、略楕円体状、略台形状などでもよい。この試薬容器の形状に応じて、試薬トレイの形状も変更を受ける。なお、試薬トレイの形状については、略三角柱形状の試薬容器を収納する場合であっても上述した構成に限られるわけではない。
【0032】
このように、本発明は、ここでは記載していないさまざまな実施の形態等を含みうるものであり、特許請求の範囲により特定される技術的思想を逸脱しない範囲内において種々の設計変更等を施すことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施の形態に係る試薬容器の構成を示す斜視図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係る試薬容器が適用される自動分析装置の構成を示す説明図である。
【図3】試薬トレイの構成を示す上面図である。
【図4】図3のB−B線断面図である。
【図5】本発明の一実施の形態に係る試薬容器の試薬トレイへの取り付けの概要を説明する部分分解斜視図である。
【図6】図2のA−A線部分断面図である。
【図7】試薬容器が回転しているときの試薬容器の状態を示す部分断面図である。
【符号の説明】
【0034】
1 試薬容器
3 検体容器
5 反応容器
7a、7b 試薬トレイ
11 上面部
13 プローブ挿入口
15 側面部
17 棒状部材
31 検体用ラック
71 底面部
73 内壁部
75 突出部
77 側壁部
79 軸受
100 自動分析装置
101 検体移送部
103 反応テーブル
105a、105b 回転テーブル
111 検体分注部
113、123a、123b プローブ
115、125a、125b アーム
121a、121b 試薬分注部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体の分析を行う自動分析装置に適用され、前記検体との間で反応を生じる試薬を収容する自動分析装置用の試薬容器において、
当該試薬容器を貫通する棒状部材を備え、
前記棒状部材を中心として回動自在であることを特徴とする自動分析装置用の試薬容器。
【請求項2】
検体の分析を行う自動分析装置に適用され、前記検体との間で反応を生じる試薬を収容する自動分析装置用の試薬容器において、
試薬の吸引を行うプローブを挿入するプローブ挿入口を有する上面部と、
前記上面部の外周から該上面部と略直交する方向に延出する側面部と、
前記側面部と前記上面部との境界近傍であって前記側面部の所定位置を貫通する棒状部材と、
を備え、
前記棒状部材を中心として回動自在であることを特徴とする自動分析装置用の試薬容器。
【請求項3】
前記棒状部材は、
当該試薬容器の重心を通過する平面のうち、前記重心に作用する重力に平行な平面を通過することを特徴とする請求項1または2記載の自動分析装置用の試薬容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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