説明

自動分析装置用分注ノズル及びそれを搭載した自動分析装置

【課題】尿や血液などの検体を分析する自動分析装置において、分析測定値が繰り返し使用する分注ノズルによるキャリーオーバの影響を受けないようにする。
【解決手段】分注ノズルの表面を化学吸着したポリエチレングリコール誘導体で被覆することで、生体高分子の吸着を抑制する分子層を形成し、分注ノズルによるキャリーオーバを低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動分析装置用分注ノズル及びそれを搭載した自動分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医療診断用の臨床検査においては、血液や尿などの生体検体中のタンパク、糖、脂質、酵素、ホルモン、無機イオン、疾患マーカー等の生化学分析や免疫学的分析を行う。臨床検査では、複数の検査項目を信頼度高くかつ高速に処理する必要があるため、その大部分を自動分析装置で実行している。自動分析装置としては、例えば、血清等の検体に所望の試薬を混合して反応させた反応溶液を分析対象とし、その吸光度を測定することで生化学分析を行う生化学分析装置が知られている。この種の生化学分析装置は、検体や試薬を収納する容器、検体及び試薬を注入する反応セルを備え、検体及び試薬を反応セルに自動注入する分注ノズルを備えた分注機構と、反応セル内の検体及び試薬を混合する攪拌棒を持つ自動攪拌機構、反応中又は反応が終了した検体の吸光度を計測する機構、計測終了後の反応溶液を吸引・排出し、反応セルを洗浄する自動洗浄機構等を備えている(例えば特許文献1)。
【0003】
こうした自動分析装置では、分注ノズルにより多数の検体及び試薬を次々と分注することが一般的である。例えば検体分注ノズルは、採血管などの検体を収納する容器から所定量の検体を分取して、試薬を反応させる反応セルに検体を吐出する。試薬分注ノズルは、試薬を収納する容器から分取した所定量の試薬を反応セルへ吐出する。この際、分注ノズル表面に残留した被分注液体の成分が次の被分注液体に混入すると、測定結果に影響を及ぼす場合がある。これをキャリーオーバと呼ぶ。
【0004】
キャリーオーバの問題は、近年の自動分析装置の分野における検体及び試薬の微量化の要求と深く関連している。分析項目数の増大に伴い、1つの分析項目に割くことのできる検体量が少量化する。検体自体が貴重で多量に準備できない場合もあり、高感度化への要求もある。また、分析内容が高度化するにつれて、一般に試薬が高価となり、コスト面からも試薬微量化への要請がある。こうした検体及び試薬の微量化への要求の高まりにより分注ノズルの細径化が進み、管の外径は0.5mm程度となっている。ノズル径の微小化は、分注される溶液の体積に対しての表面積の割合を増大させる。このため、分注ノズル表面への物質吸着を制御し、キャリーオーバを低減することの重要性が増している。
【0005】
また、生化学項目と測定濃度範囲の広い免疫項目の分析のための検体を同一容器から採取して測定する場合、分注ノズルによる検体間のキャリーオーバを極力低減することが求められている。
【0006】
キャリーオーバを低減するために、従来は、純水や界面活性剤を含む洗剤による洗浄が実施されてきた(特許文献2)。活性酸素により、付着した検体の残渣を失活させるという方法も知られている(特許文献3)。使い捨て可能なディスポーザブルノズル(ディスポーザブルティップ)を用いる方法も、キャリーオーバに対する解決法の一つとして知られている。
【0007】
なお、表面上に吸着した化学物質の定量や組成解析にはXPS(X線光電子分光法)などが広く用いられており、例えば自己組織化膜などの単分子膜の組成や化学種の定量について解析が行われている(非特許文献1,2)。これと同様に、表面上に残存したタンパク質の定量もXPSにより定量することが可能である(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第1706358号公報
【特許文献2】特開2007−85930号公報
【特許文献3】特許第3330579号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Chemical Reviews, 96, pp.1533-1554(1996)
【非特許文献2】Journal of the American Chemical Society, 115, pp.10714-10721 (1993)
【非特許文献3】The Journal of Physical Chemistry B, 107, pp.6766-6773 (2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
純水や界面活性剤を含む洗剤による洗浄では、タンパク質に代表される生体高分子の洗浄が困難な場合がある。活性酸素により付着した検体の残渣を失活させる方法では、失活した検体の残渣が表面に堆積してしまうため、長期間の使用には耐えられない。また、ディスポーザブルノズルは強度、加工精度の観点から、微細な構造を形成することは難しい。また、ディスポーザブルノズルの使用は大量の廃棄物を出し、環境負荷を増大させてしまうという問題点もある。
【0011】
本発明の目的は、ディスポーザブルノズルを使用せずに、表面の清浄度を上げ、キャリーオーバの低減を図った自動分析装置の検体分注ノズル、及びそれを用いた自動分析装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
キャリーオーバを回避する必要性の高い分析項目は、分析成分がタンパク質などの生体高分子であることが多い。よってキャリーオーバ低減のためには、分注ノズルの表面にタンパク質など生体高分子が残存するのを抑制することが解決策となる。本発明では、そのために、検体などの生体分子による非特異吸着を抑制する分子をノズル表面へ固定化した。また、上記分子の固定化に際しては、表面への化学吸着、特に共有結合を利用した。この際、非特異吸着を抑制する分子をノズルの最表面へ固定化できれば、ノズルの材質は限定されない。
【0013】
分注ノズル表面にポリエチレングリコール(PEG)誘導体を化学吸着させ、被覆することでタンパク質など生体由来高分子の吸着を抑制し、上記の課題を解決する。ここで化学吸着とは、共有結合やイオン結合などの化学結合を原因とする、吸着熱が20〜100kcal/mol程度の固体表面での吸着様式のことを意味する。吸着熱が通常10kcal/mol以下のファンデルワールス力を結合力とする物理吸着とは区別される。ポリエチレングリコール誘導体は親水性であり、その立体斥力によりタンパク質などの生体高分子の吸着を抑制する。PEG誘導体は蛋白質の吸着抑制効果が最も高い。これは、一般に非イオン性の水溶性高分子を材料表面にコートすると、物質表面の親水性は向上しながら表面電荷も抑えられるからである。また、このような性質に加えて、PEGは毒性が全くといってよいほどないことも臨床応用に重要である。
【0014】
必要なエチレンオキシド(−C24O−)基の数が2以上であること及び分子が配列するための分子間相互作用が十分であるという要請からPEG誘導体の分子量は100以上であることが望ましい。また、逆に分子間の立体的な斥力が大きすぎると表面へのPEG誘導体の吸着量が低減してしまう。このためPEG誘導体の分子量は20000以下であることが望ましい。被覆するPEG誘導体の化学構造は単一である必要はなく、混合物であっても良い。
【0015】
本発明の自動分析装置は、それぞれが検体を収納する複数の検体容器と、それぞれが試薬を収納する複数の試薬容器と、検体と試薬が注入される複数の反応セルと、検体分注ノズルを備え、検体容器中の検体を反応セルに分注する検体分注機構と、試薬分注ノズルを備え、試薬容器中の試薬を反応セルに分注する試薬分注機構とを有し、検体分注ノズルは、表面に酸化ケイ素層を有し、その酸化ケイ素層に対して、下記一般式
Si−R1−(OCH2CH2n−O−R2(nは2以上の正の整数、R1は炭化水素基、R2はH又はCH3
で示されるポリエチレングリコールを有するケイ素誘導体が化学吸着しているものである。
【0016】
また、本発明による自動分析装置用分注ノズルの製造方法は、
(a) スパッタリング又は薬液塗布及び乾燥を用いて分注ノズルの表面に酸化ケイ素層を形成する工程、
(b) 分注ノズルの表面に形成した酸化ケイ素層を洗浄する工程、
(c) 洗浄した分注ノズルを下記一般式
Si−R−(OCH2CH2n−O−R5(R1、R2、R3はケイ素の置換基、R4は炭化水素基、R5はH又はCH3、nは2以上の正の整数)
で表されるシラノール基前駆体を有するポリエチレングリコール誘導体の溶液に浸漬する工程、
(d) 分注ノズルの処理された表面を溶媒で洗浄する工程、
(e) 洗浄した前記分注ノズルの表面を乾燥する工程を有する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、分注ノズルへのタンパク質などの生体高分子の吸着を抑制することが出来る。そのため分注動作時のキャリーオーバを低減することが可能となり、自動分析装置の分析信頼性が向上する。また、それにより検体や試薬の微量化に寄与し、自動分析装置のランニングコスト低減にも貢献する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】分注ノズルの概略図。
【図2】分注ノズルの断面図。
【図3】工程フロー。
【図4】XPSの結果を示す図。
【図5】XPSの結果を示す図。
【図6】自動分析装置の構成例を示す図。
【図7】液面検知の概念図。
【図8】液面検知の概念図。
【図9】液面検知の概念図。
【図10】液面検知の概念図。
【図11】表面処理を行う機構を有する自動分析装置の構成例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1に分注ノズルの概略図を示す。分注ノズル本体部101には、耐腐食性が高く加工性の良い材料としてステンレススチールが広く用いられている。しかし、ノズルの材料はステンレススチールに限定されず、樹脂例えばポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリ塩化ビニル、ポリアクリレートや、ガラス、その他金属材料(金、プラチナ、銅)、セラミックであれば良い。ここでは、ステンレススチールの分注ノズルの例を示す。分注ノズルは角102で曲げられ、吸引・吐出機構へと接続されている。検体や試薬の吸引時は、中空部103に所定量を吸引する。分注時には検体や試薬に対して分注ノズルの外面も浸漬される。このためポリエチレングリコール(PEG)誘導体が化学吸着し被覆する領域としては、中空部103を持つ分注ノズルの場合、内面、外面及び端部105であり、また、分注ノズルが検体又は試薬を分注する際に検体又は試薬に浸漬する領域104よりも十分に大きい。
【0020】
分注ノズルの表面に対してPEG誘導体を化学吸着させる方法としては、下記一般式(1)で示されるような片末端にシラノール基前駆体を有するPEG誘導体を用いる方法がある。一般式(1)のような分子は、一般にシランカップリング剤と呼ばれ、表面水酸基と化学結合により分子を固定化できる。このように非対称な分子を用いることで、分注ノズルの表面上に、整然と単分子膜として固定化できる。両末端が、シラノール基前駆体である場合、両末端で表面にポリエチレングリコール鎖が固定化され、運動の自由度を失い、本来持つ非特異吸着抑制の効果を発揮できない場合があるので好ましくない。
123Si−R4−(OCH2CH2n−O−R5 …(1)
【0021】
1、R2、R3は、ケイ素(Si)の置換基である。一般的に、メトキシ基(MeO)、エトキシ基(EtO)、プロピルオキシ基(PrO)などのエーテル基や又はフッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)などのハロゲンからなり、これらのうちから選ばれたものがケイ素の置換基である。加水分解により、シラノール基に変換され、固体表面の水酸基と結合する。R4は炭化水素基である。R5は親水性の観点からH又はCH3が適する。nは2以上の正の整数である。
【0022】
シラノール(SiOH)基は、酸化ケイ素(SiO2)との親和性が高い。ガラスは、一般的にSiOH基やSiO2層を有している。よって、ガラスで分注ノズルを作製することで、そのままシランカップリング剤を固定化できる。又は、ガラス以外を材料とする分注ノズルの場合には、ノズル表面に酸化ケイ素層やガラス層などをあらかじめ設けることで、シランカップリング剤との化学吸着、共有結合を実現できる。
【0023】
先にも述べたように、自動分析装置の分注ノズルには加工性の良さ、耐食性などの観点を踏まえて、ステンレススチールが広く用いられている。従って、実施の形態ではステンレススチールの最表面に酸化ケイ素層をあらかじめ設けた例を示す。しかし、ステンレススチール表面には水酸基が形成されており、そこを反応点としてシランカップリング剤を直接固定化することも可能である。
【0024】
このように処理された分注ノズルの図1に点線で示した位置での処理部断面図を図2に示す。分注ノズル111は本体部であり、ステンレススチールなどからなる。SiO2層112はノズル111上にスパッタリング又はCVD成膜又は薬液(SOG:Spin On Glass、塗布ガラス)の塗布乾燥により形成される。PEG誘導体層113はSiO2層112に対して化学結合しており、タンパク質などの生体高分子の吸着を抑制する役割を果たす。分注ノズルは中空部114を備えている。形成されたSiO2層に対してアルコールや酸により洗浄を行う。その後、片末端にシラノール基前駆体を有するPEG誘導体の溶液に十分な時間浸漬する。こうして処理された表面ではエチレングルコール鎖に由来する炭素−酸素の1重(C−O)結合の存在をC1s(炭素1s)のXPSの測定結果から確認できた。
【0025】
本発明のノズルでは、ノズル外壁のみにSiO2層を形成し、その最表面にPEG誘導体層を形成した例を示した。なお、ノズル内壁にも同様にSiO2層とPEG誘導体層を形成しても良い。
【0026】
吸着の抑制効果の検証は、タンパク質の吸着量をXPSで測定することにより実施した。具体的にはBSA(ウシ血清アルブミン)の吸着量をN1s(窒素1s) XPSのピーク面積から見積もった。BSAは血清タンパク質の約50〜65%を占める血清アルブミンのモデルとして適している。上記の表面処理を行った基板ではBSAの吸着実験を行った後でもN1sのピーク面積が検出限界以下となることが確認され、従来のステンレススチールやステンレススチールに対してSiO2層を形成したものとは有意な差が認められた。
【0027】
分注ノズルで液面を検知する際には、その静電容量の変化を指標とする電気的計測法が広く用いられている。従って、ステンレススチール製分注ノズル表面に絶縁性のSiO2薄膜層とその表面の有機膜層が形成されていても、液面検知の静電容量変化を検出できた。なお、液面を検知した高さ位置から3mm程度下側でノズルが止まり、液体を吸引する設定とした。本発明では、SiO2層の厚さが約10nmであり、静電容量の変化を容易に検出できる。ノズル表面に何らかの機械的なダメージが加わった場合に、ノズル表面に形成したSiO2層が割れや傷を形成する場合がある。この酸化ケイ素層の割れや傷を静電容量の変化として検出することで、ノズル表面の定期的なメンテナンス実施時期を知らせるセンサを搭載できる。また、上記の表面処理法では簡便にPEG誘導体を化学吸着させることが出来るので、PEG誘導体を化学吸着させる機構を自動分析装置への組み込むことも可能である。本発明の分注ノズルを使用すれば、検体間の汚染に、より敏感である免疫分析装置を生化学自動分析装置と統合することにも役立つ。
【0028】
次に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0029】
<実験例>
最初に、解析の信頼性を高めるため、平面基板を用いて効果の検証を行った。用いた基板は、10nmの厚さの酸化ケイ素(SiO2)層を最表面層に有するSUS基板である。基板の大きさは10mm×10mm×0.5mmで、効果の検証のための測定面は10mm×10mmの面を用いた。
【0030】
(PEG誘導体が吸着した基板の作成)
実験の工程フローを図3に示す。
工程1.SUS表面にSiO2層を形成。
まず、ステンレススチール(SUS)表面に残存する油脂を除去するため、アルカリ性の溶剤で脱脂した。その後、酸素(O)を反応性ガス、Arを放電ガスとする、DCマグネトロンスパッタリング装置を用い、Siをスパッタリングした。SiO2の成膜条件は以下の通りである。チャンバ内の到達真空度は、5×10-5Torrであり、ヒーター設定温度は423Kとした。その結果、SiO2の成膜速度は、0.2nm/秒である。こうして、SUS表面にSiO2層を10nm形成した。なお、スパッタリングでなく、薬液(SOG:Spin On Glass、塗布ガラス)の塗布乾燥によってもSiO2層は形成できる。
【0031】
工程2.工程1にて形成されたSiO2層を洗浄。
具体的には、基板をエタノール中で15分間超音波洗浄した。この状態で、水に対する接触角を協和界面科学製Drop Master 500により測定した。基板表面にシリンジを利用して純水0.5μLを滴下し、着滴から1秒後の静的接触角を3点法で測定した。その結果、基板の接触角は10±1°であった。これにより表面が清浄となっていることを確認した。
【0032】
工程3.ポリエチレングリコール誘導体を含む溶液に浸漬。
具体的には、工程2までで清浄化処理された基板を2−メトキシポリエチレンオキシプロピルトリメトキシシラン(2-[METHOXY(POLYETHYLENEOXY)PROPYL]TRIMETHOXYSILANE)により、シランカップリング処理した。2−メトキシポリエチレンオキシプロピルトリメトキシシランの3mMトルエン溶液を調整し、そこに濃塩酸(約35%)を0.8mL/Lの濃度になるよう滴下し攪拌した。こうして調整したシランカップリング剤の溶液に工程2で調整した基板を30分間浸漬した。
【0033】
2−メトキシポリエチレンオキシプロピルトリメトキシシラン(2-[METHOXY(POLYETHYLENEOXY)PROPYL]TRIMETHOXYSILANE)は、分子量460から590のものを含み、エチレングリコール鎖が6から9ユニット備わっている。ここで、2−メトキシポリエチレンオキシプロピルトリメトキシシランの化学式を以下に示す。
(CH3O)3Si−C36−(OCH2CH26-9−OCH3 …(2)
【0034】
工程4.洗浄及び乾燥
基板を溶液から引き上げ、トルエンで1回洗浄、エタノールで2回洗浄後、水洗を2回行い、2分間、水中で超音波洗浄した。その後、窒素ブローで乾燥した。以下、このようにして作製された基板をPEG溶液浸漬基板ともいう。
本発明による表面処理の効果を検証するために、参照用として以下の2枚の基板を用意した。
【0035】
(参照基板1. SiO2膜を形成したSUS基板の作成)
まず、1枚目の参照基板の処理手順について説明する。先に述べた工程1の方法で、ステンレススチール基板にスパッタリングによりSiO2膜を形成した。このSiO2層の膜厚は10nmとした。次に、この板をエタノール中で15分間超音波洗浄した。この状態で水に対する接触角を上記と同様の方法により測定した。その結果、基板の水に対する接触角は10±1°であった。これにより表面が清浄となっていることを確認した。このSiO2膜を形成した基板を参照基板1とした。
【0036】
(参照基板2. ステンレススチール基板の作成)
2枚目の参照基板としてステンレススチール基板を用意し、1%NaOH水溶液で15分間超音波洗浄し、その後にエタノールで15分間超音波洗浄を行った。この洗浄を行ったステンレススチール基板を参照基板2とした。
【0037】
BSA吸着試験
生体高分子の吸着抑制効果の検証は、BSA(ウシ血清アルブミン)の吸着試験によって行った。まずBSAの2.5g/L溶液を用意した。溶媒としてはダルベッコリン酸緩衝溶液を用いた。作成した溶液に、準備した基板を30分間浸漬した。基板を引き上げ後、まずダルベッコリン酸緩衝溶液で十分に洗浄した。次いで、純水で十分に洗浄した。最後に窒素ブローにより乾燥させた。
【0038】
こうしてBSAを吸着試験した3枚の基板についてXPS測定を行い、表面組成を定量分析した。XPSの測定はPHI社製QuanteraSXMで行った。X線源としては単色化Al(1486.6eV)を用いた。検出領域はΦ100μmとし、取り出し角は45°とした。
【0039】
ワイドスキャン(結合エネルギー(Biding Energy)0〜1275eV、エネルギーステップ1.0eV)で測定した結果、参照基板2からはFe(鉄)及びCr(クロム)が検出された。PEG溶液浸漬基板及び参照基板1からは、ケイ素(Si)及び酸素(O)が検出された。これにより、SiO2の薄膜を形成した2枚の基板では、いずれも表面が酸化ケイ素によりコーティングされていることを確認した。
【0040】
炭素の結合状態を検討するためにC1s(炭素1s)のナロースキャンを、結合エネルギーが278eVから296eVの範囲をエネルギーステップ0.1eVで測定した。
【0041】
BSA吸着試験後の結果を比較する。PEG溶液浸漬基板及び参照基板1の測定結果を図4に示す。PEG溶液浸漬基板の測定結果は、破線310で示す。矢印311の範囲はC−C、C−H結合、矢印312の範囲はC−O結合、矢印313の範囲はC=O、O=C−O、CO3結合の検出される範囲である。また、矢印314の範囲は、ガラスに由来するカリウム2pのピークである。図4に示されるように、C−C,C−H結合のピークの他に、C−O結合に帰属されるピークが強く観測された。これは分子内のエチレングリコール鎖に由来するC−O結合を反映している。
【0042】
一方、参照基板1の測定結果は、実線315で示す。矢印316の範囲はC−C、C−H結合、矢印317の範囲はC−O結合、矢印318の範囲はC=O、O=C−O、CO3結合の検出される範囲である。また、矢印319の範囲は、ガラスに由来するカリウム2pのピークである。
【0043】
図から明らかな通り、PEG溶液浸漬基板では、矢印312の範囲で検出されるC−O結合がSiO2膜を形成しただけの参照基板1よりも十分に大きいことがわかる。したがって、PEG溶液浸漬基板には、PEG誘導体がきちんと固定化されていることが確認できた。
【0044】
次に、基板ごとのBSA吸着量比較について説明する。BSAのステンレススチール表面への吸着についてはXPSにより、BSA中の窒素原子(N)に対応するN1sピークにより定量分析が可能である。ここでN1sピークはBSAに含まれているアミン、アミドに帰属される。そこで本実施例ではBSAの基板ごとの相対吸着量をN1s量により定量し、基板表面へのタンパク質吸着に対する抑制効果を検証した。
【0045】
結果を図5に示す。細線321がPEG溶液浸漬基板のスペクトル、太線322が参照基板1のスペクトル、破線323が参照基板2のスペクトルである。BSAが吸着した、SiO2層を有する基板(参照基板1)の表面及びステンレススチール基板(参照基板2)の表面では、結合エネルギー400eV付近にピークを持つ対称形のN1sのピークが観察された。
【0046】
N1sのピーク面積の解析は、バックグラウンドを395eVから405eVまでを直線で差し引くことで行った。各元素のピーク面積から求まるN1sの表面元素濃度(原子%)を表1に示す。表1では、2−メトキシポリエチレンオキシプロピルトリメトキシシラン溶液に浸漬した基板をPEG溶液浸漬基板、SiO2のみを有する参照基板1をSiO2/SUS基板、参照基板2はステンレススチール基板とした。
【0047】
【表1】

【0048】
SiO2膜を形成したSUS基板での窒素比率は5.0%であり、PEG溶液浸漬基板ではN1sは検出限界以下となった。また、ステンレススチール基板では、窒素の表面元素濃度が3.0%であった。本測定での検出限界(窒素の含有量で0.1%)を考慮すると、PEG溶液浸漬基板では、SiO2膜を形成した基板に対してBSAの吸着量が1/50以下となり、BSAの吸着を抑制できることを確認した。また、PEG溶液浸漬基板では、ステンレススチール基板に対してBSAの吸着量が1/30以下となり、BSAの吸着を抑制できることを確認した。
【0049】
以上の結果から、ステンレススチール上にSiO2層を形成し、2−メトキシポリエチレンオキシプロピルトリメトキシシラン(2-[METHOXY(POLYETHYLENEOXY)PROPYL]TRIMETHOXYSILANE)分子を化学吸着させることで、分注ノズル表面のタンパク質に代表される生体高分子の吸着が大幅に抑制されることが示された。
【0050】
エチレングリコール鎖を有するシランカップリング剤の一例として、上記化学式(2)で表される分子を利用したが、本発明で利用できる分子は上記化学式(2)に限定されるものではない。化学式(2)は、エチレングリコール鎖(エチレンオキシド基)の数が6から9の混合物である。必要なエチレンオキシド基の数が2以上であること及び分子が配列するための分子間相互作用が十分であるという要請から、PEG誘導体の分子量は100以上であることが望ましい。また、逆に分子間の立体的な斥力が大きすぎると表面へのPEG誘導体の吸着量が低減してしまう。このためPEG誘導体の分子量は20000以下であることが望ましい。被覆するPEG誘導体の化学構造は単一である必要はなく混合物であっても良い。
【0051】
また、この分子のシラノール基と逆側の末端は、水酸基(OH)でも、エーテル基(O−R、R:アルキル基)でもよい。プロピル基(C36)は一般に炭化水素基で良。従って、本発明のノズル表面に有効なのは、以下の一般式(3)で示される分子である。
123Si−R4−(OCH2CH2n−O−R5 …(3)
【0052】
1、R2、R3は、ケイ素(Si)の置換基である。一般的に、メトキシ基(MeO)、エトキシ基(EtO)、プロピルオキシ基(PrO)などのエーテル基や又はフッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)などのハロゲンからなり、これらのうちから選ばれたものがケイ素の置換基である。加水分解により、シラノール基に変換され、固体表面の水酸基と結合する。R4は炭化水素基である。R5は親水性の観点からH又はCH3が適する。蛋白質の吸着抑制には、ポリエチレングリコール鎖を有していることが有用であり、その他の部分、例えばR4は炭化水素基以外にエーテル基、カルボキシル基、カルボニル基、エステル基、アミド基などでもよい。nは2以上の正の整数である。
【0053】
<実施例1>
本実施例では、分注ノズルに実験例と同様の処理を行う場合について説明する。まずステンレススチール製分注ノズルの表面に、実験例と同様の方法でスパッタリングによりSiO2層を形成した。処理する領域は、図1の分注ノズルの端部105及び検体に浸漬される領域104とした。本実施例では、処理されたノズル先端部の外径は0.5mm、内径は0.3mmであり、先端10mmの領域にSiO2層を10nmの厚さに形成した。分注ノズル全面を処理することも可能であるが、処理する領域を浸漬される部分に限定することでコストを低減することが出来る。
【0054】
次に、SiO2層を形成した分注ノズルの表面をエタノールで15分間超音波洗浄した。この際、超音波によりノズルが損傷しないように、支持台を設けて容器と接しない配置にした。
【0055】
清浄化処理を終えた分注ノズルを、PEG誘導体の溶液に浸漬した。具体的には、2−メトキシポリエチレンオキシプロピルトリメトキシシランの3mMトルエン溶液を調整し、そこに濃塩酸(約35%)を0.8mL/Lの濃度になるよう滴下した。こうして調整したシランカップリング剤溶液に洗浄した分注ノズルを30分間浸漬した。分注ノズルを溶液から引き上げ、トルエンで1回洗浄、エタノールで2回洗浄後、水洗を2回し、2分間の水中で超音波洗浄した。その後、窒素ブローで乾燥した。
【0056】
効果の検証は、実験例と同様に、BSAの表面残存量の測定をXPSで行った。その結果、分注後の分注ノズル表面に残存するタンパク質が従来のステンレススチール製のノズルと比較して1/50以下(実験例で述べたXPS測定の検出限界以下)に低減されることを確認した。
【0057】
<実施例2>
図6は、本発明による自動分析装置の構成例を示す図であり、次にその基本構成を述べる。検体収納部機構1には、一つ以上の検体容器25が配置されている。ここでは、ディスク状の機構部に搭載された検体収納部機構である検体ディスク機構の例で説明するが、検体収納部機構の他の形態としては自動分析装置で一般的に用いられている検体ラック又は検体ホルダー状の形態であってもよい。またここで言う検体とは、反応容器で反応させるために使用する被検査溶液のことを指し、採集検体原液でもよく、またそれを希釈や前処理等の加工処理をした溶液であってもよい。検体容器25内の検体は、検体供給用分注機構2の検体分注ノズル27によって抽出され、所定の反応容器に注入される。検体分注ノズルは、実施例1に記述した方法で2−メトキシポリエチレンオキシプロピルトリメトキシシラン(2-[METHOXY(POLYETHYLENEOXY)PROPYL]TRIMETHOXYSILANE)により表面処理した。試薬ディスク機構5は、多数の試薬容器6を備えている。また、機構5には、試薬供給用分注機構7が配置されており、試薬は、この機構7の試薬分注ノズル28によって、吸引され所定の反応セルに注入される。10は分光光度計、26は集光フィルタつき光源であり、分光光度計10と集光フィルタつき光源26の間に、測定対象を収容する反応ディスク3が配置される。この反応ディスク3の外周上には、例えば、120個の反応セル4が設置されている。また、反応ディスク3の全体は、恒温槽9によって、所定の温度に保持されている。11は反応セル洗浄機構であり、洗浄剤容器13から洗浄剤が供給され、セル内の吸引は吸引ノズル12で行う。
【0058】
19はコンピュータ、23はインターフェース、18はLog変換器及びA/D変換器、17は試薬用ピペッタ、16は洗浄水ポンプ、15は検体用ピペッタである。また、20はプリンタ、21はCRT、22は記憶装置としてのフロッピーディスクやハードディスク、24は操作パネルである。検体ディスク機構は駆動部200により、試薬ディスク機構は駆動部201により、反応ディスクは駆動部202により、それぞれインターフェースを介して制御並びに駆動されている。また自動分析装置の各部はインターフェースを介してコンピュータ19により制御される。
【0059】
上述の構成において、操作者は、操作パネル24を用いて分析依頼情報の入力を行う。操作者が入力した分析依頼情報は、マイクロコンピュータ19内のメモリに記憶される。検体容器25に入れられ、検体収納部機構1の所定の位置にセットされた測定対象検体はマイクロコンピュータ19のメモリに記憶された分析依頼情報に従って、検体ピペッタ15及び検体供給用分注機構2の表面処理された検体分注ノズル27によって、反応セルに所定量分注される。表面処理された検体分注ノズル27は水洗浄され、次の検体の分注に使用される。
【0060】
この時、2−メトキシポリエチレンオキシプロピルトリメトキシシランで被覆された検体分注ノズル27を用いることでタンパク質に代表される生体高分子の吸着を抑制し、検体間のキャリーオーバを従来のステンレススチール製分注ノズルに比較して1/2以下に低減することができた。キャリーオーバは洗浄した後での比較である。したがって、キャリーオーバをさらに低下させることは難しいにもかかわらず、ノズルに表面処理することで、キャリーオーバ率を低下できたことは著しい進歩である。またこの時、2−メトキシポリエチレンオキシプロピルトリメトキシシランが単分子膜を形成しており、かつノズル表面のSiO2層が10nmと薄いため、静電容量の変化を用いて液面検知を行うことが出来る。反応セルに試薬供給用分注機構7の試薬分注ノズル28によって、所定量の試薬が分注される。試薬分注ノズル28は水洗浄された後、次の反応セルのための試薬を分注する。検体と試薬の混合液は、撹拌機構8の攪拌棒29によって撹拌される。撹拌機構8は順次、次の反応セルの混合液を撹拌する。
【0061】
検体分注用ノズル27の表面処理には、他にも実験例に一般式(1)で示した一連の分子群から選ばれる少なくとも一つの分子の溶液を用いることが出来る。
【0062】
ここで、この装置に搭載されている液面検知の原理を説明する。搭載液面検知の原理には、静電容量方式を採用している。静電容量方式では、ノズルとグラウンド(本実施例の場合ではセル底が相当)間の静電容量値を測定する。誘電率の高い物質に接触した際に、静電容量が空気中に比べて大きくなることを利用している。
【0063】
図7に静電容量方式による液面検知の概念図を示す。表面修飾をしていない金属ノズルを使用した場合である。金属ノズル410が、検体容器412中の検体413に触れていない。検体容器が接する装置本体411をグラウンドとした場合、ノズルとグラウンド間の静電容量は、空気の静電容量C0と水の静電容量C1で決まる。この際の合計の静電容量Cは、C=(C0×C1)/(C0+C1)である。
【0064】
一方、図8にノズルが液面に触れた場合の概念図を示す。金属ノズル410が、検体容器412中の液体413に触れている。検体容器が装置本体411をグラウンドとした場合、ノズルとグラウンド間の静電容量はC1である。
【0065】
この方式を利用することで、本実施例のSiO2を被覆したノズルでも液面検知が可能である。図9に、酸化ケイ素を被覆したノズルでの液面検知の例を示す。酸化ケイ素層414を有する金属ノズル410が、検体容器412中の液体413に触れていない場合を示す。検体容器が接する装置本体411をグラウンドとする。酸化ケイ素(SiO2)層の静電容量をCとする。SiO2を被覆したノズルが空気中にある場合の静電容量をCxとすると、1/Cx=1/C0+1/C1+1/Cとなる。
【0066】
一方、図10に、酸化ケイ素層414を有する金属ノズル410が、検体容器412中の液体413に触れている場合を示す。検体ボトルが接する装置本体411をグラウンドとする。酸化ケイ素(SiO2)層の静電容量をCとする。SiO2を被覆したノズルが液面に触れている場合の静電容量をCyとすると、1/Cy=1/C1+1/Cとなり、空気中の静電容量Cxと異なることから液面を検知できる。
【0067】
何らかの衝撃や接触で、このノズルのSiO2層が割れた場合、金属ノズルが空気と直接触れるため、SiO2層の静電容量Cを無視できる。すると、静電容量が大幅に変化するので、ノズル上のSiO2層の傷や割れを検知できる。SiO2層の傷や割れが生じた場合、そこをきっかけとしてキャリーオーバが増加することがあり得る。したがって、SiO2層の傷や割れを検知できることは重要である。また、初期値からの静電容量のズレがある閾値を超えた場合や、ノズル交換に伴う初期値の変更も記憶する記憶媒体32がある。
【0068】
本実施例の自動分析装置には、この静電容量の変化を検知する検知機構31、ノズルの交換時期や分析正確性を知らせるインジケータ30が搭載されている。このインジケータは正常時には青色を示し、静電容量の変化を常に測定しており、ノズル表面の酸化ケイ素層に割れや傷等の異常が発生した際には、静電容量の変化からその異常を検知し、インターフェースを介してインジケータ30を例えば赤色に表示して報知する。また、この際に分析したサンプルについては、装置上で記憶しており、ノズル交換後に分析データを再取得するプログラムを内蔵している。
【0069】
<実施例3>
図11に、本実施例で用いる自動分析装置の概略図を示す。本実施例では、図6に示した自動分析装置の構成に、第一処理液槽401と第二処理液槽402が追加されている。また図11の分注ノズル27はステンレススチール製分注ノズルであり、表面にSiO2層を10nm形成したものを用いた。
【0070】
まず、検体分注ノズル27を第一処理液槽401に回転移動し、下降して第一処理液に浸漬する。この際の浸漬領域は、分注時に検体分注ノズル27が検体に浸漬する領域よりも十分に大きい。第一処理液としては、PEG誘導体として2−メトキシポリエチレンオキシプロピルトリメトキシシランや、実験例に一般式(1)で示した一連の分子群から選ばれる少なくとも一つの分子の溶液を用いることが出来る。ここでは2−メトキシポリエチレンオキシプロピルトリメトキシシランの2mMトルエン溶液を用いた。浸漬する時間は、浸漬頻度に応じて変化する。例えば分注に際して毎回浸漬する場合には1秒程度で十分である。また、一日の分析終了後に浸漬する場合には30分間程度浸漬する。次に、分注ノズル27を第二処理液槽402に回転移動し、下降して第二処理液に浸漬する。この際、浸漬領域は、先の第一処理液に浸漬した領域よりも十分に大きい。第二処理液槽402で用いる溶液としては、先の第一処理液槽401での処理液に溶媒として用いられたトルエンを用いる。
【0071】
以上の第二処理液槽402での動作により、第一処理液槽401で処理した際に余剰に付着した2−メトキシポリエチレンオキシプロピルトリメトキシシランを除去することが出来る。そののち検体を分注することで、タンパク質に代表される生体高分子の吸着を抑制し、キャリーオーバを従来のステンレススチール製分注ノズルに比較して1/2以下に低減することが出来る。キャリーオーバは洗浄した後での比較である。したがって、キャリーオーバをさらに低下させることは難しいにもかかわらず、ノズルに表面処理することで、キャリーオーバ率を低下できたことは著しい進歩である。
【0072】
以上の実施例1〜3においても、実験例と同様に、PEG誘導体は必要なエチレンオキシド基の数が2以上であること及び分子が配列するための分子間相互作用が十分であるという要請から、分子量は100以上であることが望ましい。また、逆に分子間の立体的な斥力が大きすぎると表面へのPEG誘導体の吸着量が低減してしまう。このため、PEG誘導体の分子量は20000以下であることが望ましい。被覆するPEG誘導体の化学構造は単一である必要はなく混合物であっても良い。
【0073】
以上の実施例では検体分注ノズルにおけるキャリーオーバを問題としたが、攪拌棒などキャリーオーバの要因となりうる全ての部材において、本発明の処理を行うことで、同様の効果が得られる。
【0074】
本発明によれば、分注ノズル表面へのタンパク質などの生体高分子の非特異吸着を劇的に低減し、キャリーオーバの抑制を図ることで、自動分析装置の信頼性の向上に貢献することが出来る。また、このため検体微量化、試薬の微量化にも貢献し、ランニングコストや環境負荷の低減をすることが出来る。
【符号の説明】
【0075】
1…検体収納部機構、2…検体供給用分注機構、3…反応ディスク、4…反応セル、5…試薬ディスク機構、6…試薬容器、7…試薬供給用分注機構、8…撹拌機構、9…恒温槽、10…分光光度計、11…反応セル洗浄機構、12…吸引ノズル、13…洗浄剤容器、15…検体用ピペッタ、16…洗浄水ポンプ、17…試薬用ピペッタ、25…検体容器、26…集光フィルタつき光源、27…検体分注ノズル、28…試薬分注ノズル、29…撹拌棒、30…インジケータ、31…検知機構、32…記憶媒体、101…分注ノズル本体部、111…分注ノズル本体部、112…金薄膜層、113…親水性分子層、200…駆動部、201…駆動部、202…駆動部、401…第一処理液槽、402…第二処理液槽、403…分注ノズル洗浄槽、410…分注ノズル、411…装置本体、412…検体容器、413…検体、414…酸化ケイ素層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれが検体を収納する複数の検体容器と、
それぞれが試薬を収納する複数の試薬容器と、
検体と試薬が注入される複数の反応セルと、
検体分注ノズルを備え、前記検体容器中の検体を前記反応セルに分注する検体分注機構と、
試薬分注ノズルを備え、前記試薬容器中の試薬を前記反応セルに分注する試薬分注機構とを有し、
前記検体分注ノズルは、表面に酸化ケイ素層を有し、その酸化ケイ素層に対して、下記一般式
Si−R1−(OCH2CH2n−O−R2(nは2以上の正の整数、R1は炭化水素基、R2はH又はCH3
で示されるポリエチレングリコールを有するケイ素誘導体が化学吸着していることを特徴とする自動分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の自動分析装置において、前記検体分注ノズルと前記反応セル間の静電容量を測定する手段と、前記静電容量の変化をもとに前記検体分注ノズル表面の酸化ケイ素層の異常を検知する機構と、異常を検知したときそれを表示するインジケータを備えることを特徴とする自動分析装置。
【請求項3】
請求項1に記載の自動分析装置において、前記ポリエチレングリコール誘導体が化学吸着している前記検体分注ノズルの領域は、分注動作時に前記検体分注ノズルが検体に浸漬される領域よりも大きいことを特徴とする自動分析装置。
【請求項4】
請求項1に記載の自動分析装置において、前記検体分注ノズルに対して前記ポリエチレングリコール誘導体を化学吸着処理する機構を備えることを特徴とする自動分析装置。
【請求項5】
請求項1に記載の自動分析装置において、前記ポリエチレングリコール誘導体が、2−メトキシポリエチレンオキシシラン誘導体であることを特徴とする自動分析装置。
【請求項6】
検体容器中の検体を反応セルに分注するのに用いられる自動分析装置用分注ノズルの製造方法において、
スパッタリング又は薬液塗布及び乾燥を用いて分注ノズルの表面に酸化ケイ素層を形成する工程と、
前記分注ノズルの表面に形成した酸化ケイ素層を洗浄する工程と、
洗浄した前記分注ノズルを下記一般式
Si−R−(OCH2CH2n−O−R5(R1、R2、R3はケイ素の置換基、R4は炭化水素基、R5はH又はCH3、nは2以上の正の整数)
で表されるシラノール基前駆体を有するポリエチレングリコール誘導体の溶液に浸漬する工程と、
前記分注ノズルの処理された表面を溶媒で洗浄する工程と、
前記洗浄した前記分注ノズルの表面を乾燥する工程と
を有することを特徴とする自動分析装置用分注ノズルの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2011−122964(P2011−122964A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−281539(P2009−281539)
【出願日】平成21年12月11日(2009.12.11)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.フロッピー
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】