自動分析装置用反応セルの製造用電極、その電極を使用した製造方法
【課題】気泡付着が少なく、かつ隣接する反応セル間でサンプル・試薬の相互汚染を防ぐことができる信頼性に優れた反応セルと該反応セルの作製方法及び該反応セルを搭載した自動分析装置を提供する。
【解決手段】生化学自動分析装置において、親水性部分と疎水性部分からなる内壁表面を有することを特徴とする透明樹脂製の自動分析装置用反応セルのコロナ放電による均一で安定な製造方法及び製造用電極。適切な電極配置と適切な電極の使用によるコロナ放電の利用や、コロナ放電時の空気吸引により均一で安定な処理を実現する。
【解決手段】生化学自動分析装置において、親水性部分と疎水性部分からなる内壁表面を有することを特徴とする透明樹脂製の自動分析装置用反応セルのコロナ放電による均一で安定な製造方法及び製造用電極。適切な電極配置と適切な電極の使用によるコロナ放電の利用や、コロナ放電時の空気吸引により均一で安定な処理を実現する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生化学的な分析反応や免疫反応などの医療診断用の自動分析装置に用いる分光測光分析用反応セルの内壁表面の部分的改質方法、改質用電極及び該反応セルを搭載した自動分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医療診断用の臨床検査においては、血液や尿などの生体サンプル中のタンパク、糖、脂質、酵素、ホルモン、無機イオン、疾患マーカー等の生化学分析や免疫学的分析を行う。臨床検査では、複数の検査項目を信頼度高くかつ高速に処理する必要があるため、その大部分を自動分析装置で実行している。従来、自動分析装置としては、例えば、血清等のサンプルに所望の試薬を混合して反応させた反応液を分析対象とし、その吸光度を測定することで生化学分析を行う生化学分析装置が知られている。この種の生化学分析装置は、サンプル及び試薬を収納する容器、サンプル及び試薬を注入する反応セルを備え、サンプル及び試薬を反応セルに自動注入する機構と、反応セル内のサンプル及び試薬を混合する自動攪拌機構、反応中または反応が終了したサンプルの分光スペクトルを測定する機構、分光スペクトル測定を終了後の反応溶液を吸引・排出し反応セルを洗浄する自動洗浄機構等を備えて構成されている(例えば特許文献1)。
【0003】
自動分析装置の分野では、サンプル及び試薬の微量化が大きな技術的課題となっている。すなわち、分析項目数の増大に伴い、単項目に割くことのできるサンプル量が少量化し、サンプル自体が貴重で多量に準備できない場合もあり、従来は高度な分析とされていた微量サンプルの分析がルーチン的に行われるようになってきた。また、分析内容が高度化するにつれて、一般に試薬が高価となり、コスト面からも試薬微量化への要請がある。このようなサンプル及び試薬の微量化は、反応セルの小型化を進める強い動機でもある。また、反応セルの小型化や必要なサンプル及び試薬の少量化は、分析スループットの向上や低廃液化にも繋がる利点がある。
【0004】
ここで、一般的な自動分析装置に用いる反応セル(反応容器とも呼ばれる)はガラスまたは合成樹脂等で形成されるのが一般的である。例えば、特許文献2によると、反応セルの材質としては、吸水率が低く、透湿度が低く、全光線透過率が高く、屈折率が低く、成型収縮率の低い樹脂材料から選ばれる。具体的には、ポリシクロオレフィン、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂から選択される1種が好ましく例示される。また、特許文献2は、合成樹脂製反応セルに関する課題として、生体サンプルと試薬をセル内に流入する際に発生する気泡がセル内壁に付着して測定ができなくなる初期的な検出障害の低減を挙げている。この際、気泡付着の原因としてはセル内壁表面の濡れ性が低いことを挙げている。
【0005】
一般的な合成樹脂(プラスチック、高分子樹脂とも呼ばれる)表面の濡れ性を上げる、すなわち表面を親水化する有効な手段としては、酸素プラズマ処理、オゾン処理、オゾン水処理、コロナ放電処理、UV処理などが知られている。また、非特許文献1によると、高分子樹脂の一種であるポリエチレン表面をコロナ放電処理により酸化することで表面に過酸化物(パーオキサイド)を導入後、グラフトポリマーを形成することで表面改質が可能である。また、特許文献3は、オゾン処理によるプラスチック容器の酸化、親水化を報告している。
【0006】
【特許文献1】特許第1706358号公報
【特許文献2】特開2005−30763号公報
【特許文献3】特開2000−346765号公報
【非特許文献1】Journal of Polymer Science: Part A: Polymer Chemistry, Vol.26, 3309-3322.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
自動分析装置の分野では、サンプル及び試薬の微量化が一層進む趨勢にあり、また装置の小型化への要請も高まる一方である。このため従来問題視しなかった新たな課題として以下の2つの問題が浮上した。従来から用いていた反応セルの大きさは気泡に比べ十分大きかったため、気泡が光軸にかかっても実用的な範囲内では吸光度がばらつくことは少なく、トラブルとなることは極めて稀であったが、反応セル容量の微量化を進める実験の中で、気泡の影響が顕在化してくることが分かってきた。この問題の原因は、反応セルの素材に用いている透明樹脂の疎水性である。そこで、反応セルの内壁表面を親水化してみたところ気泡付着が起こらなくなることを確認した。
【0008】
しかし、反応セル内壁表面の親水処理を全面的に実行すると、第二の問題が浮上した。反応セルの内壁を底から一番上の開口部まで親水化すると、検査液が毛管現象で反応セルの縁まで登り、隣接する反応セルの試薬と混ざり合う相互汚染が起こり易くなるのである。
【0009】
また、前記と似た現象であるが、一度使用した反応セルは洗浄終了後順次使用されるが、反応セルの内面に残った反応液の成分が次の分析に混入し、測定データに悪影響する場合がある。この現象をクロスコンタミネーションと呼ぶ。反応液成分で反応セルの内面に残る可能性があるものは、脂質のほかタンパク質や無機イオンなど親水性のものもある。
【0010】
反応セルの小型化は相互汚染を助長する傾向にあり、将来はより大きな問題となると予想される。自動分析装置の小型化、サンプル・試薬の少量化という恒常的なトレンドに対処するためには、上記二つの問題を解決する必要がある。
また、自動分析の単位時間当たりの分析数(スループット)を向上するため、自動分析装置に使用する反応セルは自動分析装置上に多数装着されることが一般的である。従って、上記二つの問題を解決する際には、複数のセルを同時または逐次的に親水化処理できる必要がある。また、分析の正確性、再現性向上のため、反応セル表面の処理した領域の親水性が均一であり、かつ反応セル間の処理バラツキを抑制することが求められる。
【0011】
本発明は、これらの要請に応えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
これらの問題を解決するには、複数の反応セルの内壁を同時または逐次的に親水化する必要があるが、その親水化領域を、反応セルの底から分光分析に必要な高さまでに限定しなければならない。合成樹脂表面を親水化する有効な手段としては、酸素プラズマ処理、オゾン処理、オゾン水処理、コロナ放電処理、UV処理などの候補がある。しかし、これらはいずれも平面形状の物体を処理する目的に向いており、本特許の扱うような特殊な立体構造物(図1参照)の表面に対して一段で目的を達成するような簡単な方法は一般にはなかなか見当たらない。また領域を限定して処理することも容易ではない。例えば、特許文献3において、オゾン処理によるプラスチック容器の酸化、親水化が述べられているが、この方法では、プラスチック容器を部分限定的に酸化処理することはできず、プラスチック容器を部分限定的に親水化することはできない。また、本特許の扱うような特殊な立体構造物(図1参照)の表面は閉空間を形成しており、上記プラズマ処理などでは、閉空間内でプラズマ密度が一定せず、セル内壁表面に均一に処理することも容易ではない。
【0013】
そこで、発明者らは、二つの電極の間に対象物を挟んで放電処理するコロナ放電法の応用を思いついた。この方法では、合成樹脂からなる反応セルブロックを外側から取り囲む外部電極と、ユニットセルの一つ一つに挿入される棒状の内部電極との間でコロナ放電を発生させる(図4参照)。この際、セルの分光測光面の外側表裏には外部電極面が近接するので、対向する棒状電極との間で放電し、分光測光面の内壁両面にコロナ放電処理が掛かる。また外部電極をユニットセルのすき間や底面に設置することで、非測光面や底面にもコロナ放電処理を施せる。また必要に応じて、セル外壁の一部又は全部を処理することも可能である。今回は、反応セル内壁の測光面をコロナ放電処理の対象とした。
【0014】
コロナ放電処理は大気などの酸素を含んだ雰囲気中で行うため、合成樹脂表面には酸素原子が導入される。酸素原子は、水酸基、エーテル基、カルボニル基、カルボキシル基といった形態で合成樹脂表面に導入されるが、これらはみな親水性の官能基であるため、もともとの疎水性の高い合成樹脂表面の親水性が向上する。合成樹脂表面の親水性は水の接触角の低下によって測定されるが、上記の方法でコロナ放電処理したセルブロックの内壁は接触角が低下し、親水性が向上していることが判った。また、酸素原子の導入状態が、XPS(X線光電子スペクトル)の測定結果から確認できた。
【0015】
また、放電は内外の電極が対向する領域でのみ起こるので、処理領域を限定できる可能性がある。実際、セル内部に挿入する電極の配置と電極形状を適切化し、セル外部に配置する対向電極の高さを適切化することで、親水化領域は電極が対向する領域即ちコロナ放電の起こる領域だけに限定できることを確認した。即ち、コロナ放電処理によって、透明合成樹脂からなる反応セルの底から所定の高さまでの内壁表面だけを親水化処理することができる。コロナ放電は電極間の距離が近いと起こりやすい性質や、電極表面に突起構造があると放電が起こりやすいことを利用することで、面内に均一な親水性を持つセル表面を構築し、同時にセルロット間の均一性を高めることができる。
【0016】
コロナ放電処理された表面の親水性は、処理によって導入された水酸基、エーテル基、カルボニル基、カルボキシル基に基づくが、処理条件を強化すると、さらに上位の酸化物である過酸化物(パーオキサイド)も生成することが判った。
【0017】
自動分析装置に使用する反応セルは多数装着されることが一般的であることは既に述べた。本発明により、複数のセルをコロナ放電により同時に又は逐次的に親水化処理でき、処理した領域の性質が均一であり、かつセル間の処理バラツキを少なくできた。なお、本発明は複数のセルまたは単数のセルいずれにも適用可能である。
【0018】
なおコロナ放電処理したセルは、外観上全く変化はなく、分光分析に必要な300nm−800nmの波長域の透明性も十分であり、光学特性にも何ら悪影響はない。
【0019】
以上のように、本発明によれば、自動分析装置用反応セルの内壁に安定した親水化処理を、領域を限定して実行することができる。また、本発明の電極と製造法によれば、コロナ放電の立ち上がりが均一であり、処理したセル表面の親水性の均一性や、処理したセルロット間の均一性も高い。また、セルを多数処理した後も、安定して均一に処理、製造できる。従って攪拌における気泡付着の問題を起こさず、セル間の相互汚染の問題も解決し、信頼性と再現性の高い臨床化学検査を実現する自動分析装置を提供できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、気泡吸着を嫌う分光測光面のセル閉口部に近い領域に限定してセル内壁の親水化処理を施すことができ、セル内壁のそれより開口部側の領域を疎水性のまま保持できる。また、セル表面の処理した領域の親水性や酸素濃度は領域内で均一に保たれ、かつ各ロット間の処理領域の親水性や酸素濃度のバラツキが少ない。このため、気泡吸着による分光透過率の変化が発生せず、測定データの精度や再現性が向上する。また、セル開口部領域の疎水性は、試薬やサンプルの濡れ上がりを防止するため、反応セル間のサンプルの相互汚染を防止し、データの信頼性を向上させる。これらの効果は、サンプル・試薬の微量化にも寄与し、自動分析装置のランニングコスト低減にも貢献する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
<実施例1>コロナ放電処理による局所的親水化―その1―
自動分析装置用反応セル(以下、“セル”と呼称する。)として、ポリシクロオレフィンを素材として射出成形によって作製した。ちなみにセル素材としては、ポリシクロオレフィン、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂から選択される1種であればかまわない。低吸水率、低透湿度、高い全光線透過率、低屈折率、低成型収縮率の観点からポリシクロオレフィンを選択することが望ましい。
【0022】
本実施例では4個の単セルを一体成形したセルブロックとして形成したものを用いた。図1に、セルブロックの斜視外観図を示す。成型したセルブロック50は、4個の単セル51からなる。セルブロック50の長辺101は60mm、短辺102は10mm、高さ103は40mmである。単セル51を自動分析装置に搭載した際には、サンプルと試薬の反応経過及び反応結果を分光スペクトルにより測定する。個々の単セルには、測定用の光が透過する2つの面(測光面)と測定用の光が透過しない非測光面がある。図2に、単セルを非測光面の長軸で2つに分割した断面図示す。単セルは、非測光面外壁部111、非測光面内壁部112、測光面外壁部113、測光面内壁部114、底面115からなる。この詳細を、図3に単セル断面斜視外観図として示す。単セルの内壁部の寸法は、非測光面の半分の長さ116が3mm、測光面の長さ117が4mm、高さ118が30mm、単セル肉厚150が1mmであり、閉口部130、開口部140を備えている。
【0023】
全ての単セル51内にエタノール500μlを注入して24時間放置し、エタノールを除去した後、真空デシケーターに入れ乾燥することで単セル内壁表面を清浄化した。次にコロナ放電局所処理を施した。なお、上記エタノールによる内壁表面の清浄化は行わずに、コロナ放電局所処理をしても良い。
【0024】
図4に、コロナ放電局所処理の模式図を示す。洗浄・乾燥したセルブロック50の4個の単セル51の測光面を陰極板218で挟み込んだ。陰極板は、配線216を介してアース217につながれている。
【0025】
陰極板の高さを調整することで、セル内壁のコロナ放電処理面の高さを限定することができる。また、陰極板とセルの間に誘電体や絶縁体を挿入しても良い。また、陰極板とセルは密着してもよいし、適切な距離離れていても良い。
【0026】
本実施例では各単セルの底面から14mmまでの内壁が処理されるように陰極板の高さを決めた。その後、各単セル51内部にコロナ放電棒状(円柱状)電極214をそれぞれの単セルの底面中心に向かって底面から1mmの高さまで入れた。コロナ放電棒状電極214の径は最大箇所で2mm、長さは50mmであり、陽極213と配線212を介してコロナ放電源211につながれている。コロナ放電電源としては、ナビタス社製ポリダインを使用した。ついで、大気中において電圧6kV印加によって、単セル内壁部の所望の高さにコロナ放電処理した。この時の電極周辺の構成を矢印219の方向から見た様子を図5に示す。コロナ放電処理される測光面の面内領域での親水性の均一性、及び同時処理されるセル間の均一性を保つために以下の構成により放電処理した。
【0027】
セル51内に棒状電極214を挿入した。棒状電極は金属製で、角柱状でも円柱状でも良い。本実施例ではステンレス製の円柱状電極を使用した。棒状電極214は電極径が大きい領域601と電極径が小さい領域602からなる。領域601と領域602の境界線と同じ高さになるよう、対向電極61と62の高さを調整した。セル底から対向電極上端の距離632とセル底から電極境界線までの距離631を等しくすることで、処理を望むセル内壁を処理した。本実施例では、距離631及び632を14mmとした。なお、領域601の電極エッジは、面取りをR0.5mm程度で施しても良い。
【0028】
一般に電極間距離が近くなるほど、コロナ放電エネルギーが高くなる法則を利用した。電極径が大きい領域の方が、電極径が小さい領域よりも対向電極に近いため、コロナ放電が起こりやすく放電エネルギーが高い。従って、対向電極との距離が近い領域601から対向電極に向かい優先的にコロナ放電が発生する。この際、上記に示したとおり、距離631と距離632が等しいので、放電を所望する領域を均一に処理できる。かつ曖昧に処理される領域を抑制でき、セル内壁表面でコロナ放電処理された領域と未処理の領域とが明瞭に差が付くと考えた。本実施例で使用した電極の領域601の電極径は2mmであり、領域602の電極径は1mmであり、領域601はセル幅610を超えないようにした。
【0029】
棒状電極をセル底部の中心になるように配置し、棒状電極とセル測光面301、302との距離613、距離614を等しくすることが、2面ある測光面の均一性及び再現性ある処理に重要である。また、セル測光面301と対向電極61の距離611、セル測光面302と対向電極62の距離612である時、距離611と612を等しくすることが、2面ある測光面の均一処理及び再現性ある処理に重要である。本実施例では距離611と612を等しくし、2mmとした。領域602とセルとの距離621、距離622を等しくした。
【0030】
なお、距離611と612の差分が2mm以内であれば、2面ある測光面の均一処理に支障は無い。また、距離613と614の差分が1mm以内であれば、2面ある測光面の均一処理に支障は無いことを確認した。
この時、反応セルの底部外壁や非測光面の外壁に陰極板を設けておけば、反応セルの底面や非測光面にもコロナ放電処理できる。すなわち、陰極板を設置する位置により、コロナ放電処理位置を限定できる。本実施例では、対向電極218と219のみを配置した。
【0031】
図6に、上記方法でコロナ放電局所処理した後の単セルの断面斜視外観図を示す。セル51の測光面内壁部114のうち底面115から境界線119までの部分120にコロナ放電処理できた。この時、境界線119を境目として閉口部130側が親水性、開口部側が疎水性となり、親水性に明確な差がついた。この時、図に示された測光面の対向面の内壁部にも同様にコロナ放電局所処理できた。同様のコロナ放電局所処理は、セルブロックに備わる複数個の単セルの全てに同時に施すことができた。
【0032】
なお、陰極板を測光面のみならず非測光面や底面に設置することで、非測光面や底面にもコロナ放電処理を施すことができる。以下の実施例1〜6では、測光面のみをコロナ放電処理したセルを準備した例を示す。なお、測光面のうち、分光スペクトルを測定する際に光が透過する領域(測光部)に気泡が付着していなければ、検出障害を無くすことができる。
【0033】
表1に、セル内の測光面内壁表面に関して、セル底からの距離に応じた水の接触角を示す。なおコロナ放電処理時間は10秒であるが、適切化した結果1秒以上20秒以下であれば同様の結果である。
【0034】
【表1】
【0035】
接触角の測定には、協和界面科学製Drop Master 500を使用した。処理を施したセル表面にシリンジを利用して純水1μlを滴下し、着滴0.5秒後の静的接触角をθ/2法で測定した。測定には、処理を施したサンプルを6つ用意し、測光面内壁表面のセル底からの距離1mmから2mmおきに測定を行い、6つのサンプル間での平均値を求めた。
その結果、セル底からの距離が15mm以上の場合、コロナ放電処理前のセル表面と同様の結果であり、水との接触角は89度から91度であった。一方、処理を望んだ領域であるセル底からの距離が1mmから13mmの間では、コロナ放電処理をすることにより水との接触角は約40度へ低下した。このように、コロナ放電処理を選択的に施せることを確認した。すなわち、コロナ放電処理によりセル表面に領域を限定して親水性を付与することができる。セル底からの距離14mmを境に親水性に明確な差がついた。
【0036】
次に、コロナ放電処理表面の元素分析をXPS(X線光電子分光)によって実施した結果、表2に酸素原子存在比率(%)を示す。なお、酸素原子存在比率は以下酸素濃度とも記す。以下、測定には、SHIMADZU−CRATOS製X線光電子分光(XPS)装置を使用し、炭素と酸素と窒素の原子存在比率を比較するために、1400eV〜−20eVの範囲で、Pass Energyを20eVとしてワイドスキャンをおこなった。
【0037】
【表2】
【0038】
表2に示すように、セル底からの距離が15mm以上の場合、コロナ放電処理前のセル表面と同様、酸素の原子存在率は検出下限以下の0原子%であった。一方、処理を望んだ領域であるセル底からの距離が1mmから13mmの間では、酸素原子存在率は平均12原子%であった。コロナ放電処理によって酸素が導入され、ポリシクロオレフィンが酸化され、親水化されている。
【0039】
次に処理面内での均一性、処理したセルロット間での均一性について述べる。上記の方法で処理したセル10個それぞれの親水性領域(6箇所)を接触角測定した結果、セル底から14mmまでの接触角は平均で40度、標準偏差(σ)が1度であった。なお、親水性領域の接触角の平均値と標準偏差(σ)の合計が、85度以下であれば自動分析装置用反応セルとして十分な性質を有していることを確認した。同様にセル親水性領域の酸素濃度のバラツキについても、XPS測定の結果、平均値12原子%であり、標準偏差(σ)は約0.6原子%であった。
【0040】
表1に示した接触角の低減の観点からも、表2に示したXPSの酸素原子存在率の観点からも、処理を望んだ領域の親水性の均一性が高いことがわかる。処理したセルロット間の均一性についても確認できた。
【0041】
次に、コロナ放電処理したセルに純水150μlを注水した際の気泡付着の有無を調べた結果、気泡付着は起こらなかった。したがって、セル内壁部の一部にコロナ放電処理を施すことで、安定な親水化処理可能であることを確認できた。また、コロナ放電処理しなかった部分の接触角は90度のままであり、コロナ放電未処理のセル表面と同様であった。すなわち、反応セル内壁にコロナ放電処理を選択的に施すことができ、安定な親水性部分と疎水性部分を内壁部に有する反応セルを作製できた。
【0042】
次に、10秒間のコロナ放電処理したセルを室温放置した後のセル内に水を150μl注入した際の気泡付着の有無を調べた。表3に経過日数と日数経過後の気泡付着の有無を示す。
【0043】
【表3】
【0044】
経過日数0日、60日でセル内に水を150μl注入した際には、気泡付着が無く、経過日数が120日、180日でも気泡付着が無いことを確認した。従って、本発明により作製した反応セルは長期の保管後にも使用可能である。
【0045】
本実施例の反応セルは、自動分析装置用反応セルとして、気泡付着が起こらず、攪拌安定性と透明性を有しており、かつセル間のサンプル・試薬の相互汚染を防止できることを確認した。
【0046】
また、図4に示したコロナ放電処理は他の形状のセルブロックに対しても可能である。図7に示すように、セル91の複数で測光面92を共用するセルブロック90では、測光面の親水化したい領域の外壁を陰極板218で挟むことで、セル内壁のコロナ放電処理面の高さを限定し、コロナ処理を行うことができる。測光面を親水化しておくことで、測光領域を光が透過し溶液を検出する際に、気泡が付着せず安定な測定を実施できる。電極配置、電極形状、電極間距離を先に述べた通りに適正化することで実施でき、同様の反応セルを作製できる。
<実施例2>コロナ放電処理による局所的親水化―その2―
実施例1と同様にコロナ放電処理によるセル内壁部の局所的親水化を施した。用いた棒状電極214は、実施例1と同様に円柱状のものを使用し、領域602の電極径は実施例1と同様1mmとした。本実施例2では、電極径が大きい領域601を図8にしめすような山型領域603とする電極を使用することとした。一般にフラット構造よりも局所的に突起があるほうが、電界集中しやすくコロナ放電強度が強いので、処理するセルロット間で放電の立ち上がりタイミングがばらつかず、処理したセルの親水性がセルロット間でばらつかない。本実施例では溝深さ641を0.3mmとし、ピッチ(溝の間隔)642を0.5mmとすることとした。図8A―A’での断面線の一部を図9に示す。なお、この溝深さとピッチは上記に限定されず、色々な溝深さとピッチを組み合わせることができる。実施例1と同様な電極配置、挿入位置、電極間距離とすることで、セル表面の閉口部側が親水性、開口部側が疎水性となり、親水性に明確な差がついた。同様のコロナ放電局所処理は、セルブロックに備わる複数個の単セルの全てに同時に施すことができた。山型電極を使用したことで、放電のロット間バラツキが低減でき、処理後のセルを評価したところ、実施例1と同様に接触角のバラツキや酸素濃度のバラツキを低減できた。
【0047】
また、図4に示したコロナ放電処理は他の形状のセルブロックに対しても可能である。図7に示すように、セル91の複数で測光面92を共用するセルブロック90では、測光面の親水化したい領域の外壁を陰極板218で挟むことで、セル内壁のコロナ放電処理面の高さを限定し、コロナ処理を行うことができる。測光面を親水化しておくことで、測光領域を光が透過し溶液を検出する際に、気泡が付着せず安定な測定を実施できる。電極配置、電極形状、電極間距離を先に述べた通りにすることで実施でき、同様の反応セルを作製できる。
【0048】
本実施例の反応セルは、自動分析装置用反応セルとして、気泡付着が起こらず、攪拌安定性と透明性を有しており、かつセル間のサンプル・試薬の相互汚染を防止できることを確認した。
<実施例3>コロナ放電処理による局所的親水化―その3―
実施例1と同様にコロナ放電処理によるセル内壁部の局所的親水化を施した。用いた棒状電極214は、実施例1と同様に円柱状のものを使用し、領域602の電極径は実施例1と同様1mmとした。本実施例3では、電極径が大きい領域601を図10に示すようなあやめ型領域604を有する電極を使用することとした。一般にフラット構造よりも局所的に突起があるほうが、電界集中しやすくコロナ放電強度が強いので、処理するセルロット間で放電の立ち上がりタイミングがばらつかず、処理したセルの親水性がセルロット間でばらつかない。図9に示すような格子状又は網目状の刻み目は、一般にローレット加工により達成できるので、利用した。
【0049】
図10中のA−A’で示す線で断面の一部をあらわした場合の模式図を図11に示す。本実施例では溝深さ651を0.3mmとし、ピッチ(溝の間隔)652を0.5mmとすることとした。図9中のB−B’で示す線で断面の一部をあらわした場合の模式図を図12に示す。本実施例では溝深さ653を0.3mmとし、ピッチ(溝の間隔)654を0.5mmとすることとした。なお、この溝深さとピッチは上記に限定されるものではない。実施例1と同様な電極配置、挿入位置、電極間距離とすることで、セル表面の閉口部側が親水性、開口部側が疎水性となり、親水性に明確な差がついた。同様のコロナ放電局所処理は、セルブロックに備わる複数個の単セルの全てに同時に施すことができた。実施例2と同様に電極表面に突起を有するあやめ型電極を使用したことで、放電のロット間バラツキが低減でき、処理後のセルを評価したところ、実施例1と同様に接触角のバラツキや酸素濃度のバラツキを低減できた。
【0050】
また、図4に示したコロナ放電処理は他の形状のセルブロックに対しても可能である。図7に示すように、セル91の複数で測光面92を共用するセルブロック90では、測光面の親水化したい領域の外壁を陰極板218で挟むことで、セル内壁のコロナ放電処理面の高さを限定し、コロナ処理を行うことができる。測光面を親水化しておくことで、測光領域を光が透過し溶液を検出する際に、気泡が付着せず安定な測定を実施できる。電極配置、電極形状、電極間距離を先に述べた通りにすることで実施でき、同様の反応セルを作製できる。
【0051】
本実施例の反応セルは、自動分析装置用反応セルとして、気泡付着が起こらず、攪拌安定性と透明性を有しており、かつセル間のサンプル・試薬の相互汚染を防止できることを確認した。
<実施例4>コロナ放電処理による局所的親水化―その4―
実施例1と同様にコロナ放電処理によるセル内壁部の局所的親水化を施した。用いた棒状電極を図13に示す。円柱状の棒状電極70を使用し、径が0.1mmの中空領域702、吸引口701を備えている。なお、本実施例で使用する電極径は、実施例1と同様に大きい電極領域704と小さい電極領域705を有する電極とした。なお、本実施例では、中空領域と吸引口があれば、1種の電極径でストレート型を使用してもよい。実施例1と同様に適切な電極配置、適切な挿入位置、適切な電極間距離にした。さらに、放電時にダイヤフラムポンプを利用して、吸引口と中空領域を介して、空気を流速20cc/分で吸引することで、矢印703に示す方向で空気の流れを作り、コロナ放電でできたプラズマがセル表面の所望の処理領域をはみ出さないようにした。その結果、セル表面の閉口部側が親水性、開口部側が疎水性となり、親水性に明確な差がついた。同様のコロナ放電局所処理は、セルブロックに備わる複数個の単セルの全てに同時に施すことができた。この結果、放電のロット間バラツキが低減でき、処理後のセルを評価したところ、実施例1と同様に接触角のバラツキや酸素濃度のバラツキを低減できた。なお、上記流速は、1cc/分〜200cc/分の範囲で実施できる。
【0052】
また、図4に示したコロナ放電処理は他の形状のセルブロックに対しても可能である。図7に示すように、セル91の複数で測光面92を共用するセルブロック90では、測光面の親水化したい領域の外壁を陰極板218で挟むことで、セル内壁のコロナ放電処理面の高さを限定し、コロナ処理を行うことができる。測光面を親水化しておくことで、測光領域を光が透過し溶液を検出する際に、気泡が付着せず安定な測定を実施できる。電極配置、電極形状、電極間距離を先に述べた通りにすることで実施でき、同様の反応セルを作製できる。
【0053】
本実施例の反応セルは、自動分析装置用反応セルとして、気泡付着が起こらず、攪拌安定性と透明性を有しており、かつセル間のサンプル・試薬の相互汚染を防止できることを確認した。
<実施例5>コロナ放電処理による局所的親水化―その5―
実施例1と同様にコロナ放電処理によるセル内壁部の局所的親水化を施した。用いた棒状電極を図14に示す。円柱状の棒状電極80を使用した。なお、本実施例で使用する電極径は、実施例1と同様に大小の電極径を有する電極とした。なお、本実施例では、1種の電極径でストレート型を使用してもよい。実施例1と同様に適切な電極配置、適切な挿入位置、適切な電極間距離にした。さらに、セル内壁表面で処理を望まない領域には、セルと同じ素材の樹脂でできたマスク81を配置し、コロナ放電でできたプラズマがセル表面の所望の処理領域をはみ出さないようにした。その結果、実施例1と同様の効果があり、セル表面の閉口部側が親水性、開口部側が疎水性となり、親水性に明確な差がついた。同様のコロナ放電局所処理は、セルブロックに備わる複数個の単セルの全てに同時に施すことができた。この結果、放電のロット間バラツキが低減でき、処理後のセルを評価したところ、実施例1と同様に接触角のバラツキや酸素濃度のバラツキを低減できた。
【0054】
また、上記のマスクの位置に限らず、コロナ放電処理を施したくない部分を反応セルと同素材のマスクであらかじめ覆った後、コロナ放電処理をすることで部分限定的に処理することも可能である。
【0055】
また、図4に示したコロナ放電処理は他の形状のセルブロックに対しても可能である。図7に示すように、セル91の複数で測光面92を共用するセルブロック90では、測光面の親水化したい領域の外壁を陰極板218で挟むことで、セル内壁のコロナ放電処理面の高さを限定し、コロナ処理を行うことができる。測光面を親水化しておくことで、測光領域を光が透過し溶液を検出する際に、気泡が付着せず安定な測定を実施できる。電極配置、電極形状、電極間距離を先に述べた通りにすることで実施でき、同様の反応セルを作製できる。
【0056】
本実施例の反応セルは、自動分析装置用反応セルとして、気泡付着が起こらず、攪拌安定性と透明性を有しており、かつセル間のサンプル・試薬の相互汚染を防止できることを確認した。
【0057】
なお、本実施例5のようなマスクによる部分限定的な処理方法を実施例1〜4の電極形状の場合に適用しても良い。
【0058】
また、図15に示すように、上記実施形態に追加して、棒状電極80の一部を厚手の絶縁性樹脂でできたマスク82で覆うことで、放電領域を限定することも可能である。この棒状電極をマスクで覆う方法は、実施例1〜4においても使用でき、セル表面の部分処理に有効である。
<実施例6>自動分析装置における実施例
上記実施例1〜5で作製した反応セルを使用した自動分析の実施例を述べる。なお、本実施例では実施例1で作製した反応セルを使用した例を述べる。なお、実施例1〜5で作製した反応セルを1種または複数種を同時に使用しても良い。
【0059】
図16は、本発明による自動分析装置の構成例を示す図であり、次にその基本動作を述べる。1はサンプル収納部機構であり、この機構1には、一つ以上のサンプルセル25が配置されている。ここでは、ディスク状の機構部に搭載されたサンプル収納部機構であるサンプルディスク機構の例で説明するが、サンプル収納部機構の他の形態としては自動分析装置で一般的に用いられているサンプルラックまたはサンプルホルダー状の形態であってもよい。またここで言うサンプルとは、反応セルで反応させるために使用する被検査溶液のことを指し、採集検体原液でもよく、またそれを希釈や前処理等の加工処理をした溶液であってもよい。サンプルセル25内のサンプルは、サンプル供給用分注機構2のサンプルノズル27によって抽出され、所定の反応セルに注入される。5は試薬ディスク機構であり、この機構5は、多数の試薬容器6を備えている。また、機構5には、試薬供給用分注機構7が配置されており、試薬は、この機構7の試薬ノズル28によって、吸引され所定の反応セルに注入される。10は分光光度計、26は集光フィルタつき光源であり、分光光度計10と集光フィルタつき光源26の間に、測定対象を収容する反応ディスク3が配置される。この反応ディスク3の外周上には、例えば、親水性部分と疎水性部分を内壁部に有する120個の反応セル4が設置されている。なお、この親水性部分は反応セルの閉口部側に限定されているが、測光領域を十分に包含する面積を有している。一方、疎水性部分は反応セルの開口部側にあり、溶液の毛管現象による濡れ上がりを防止している。また、反応ディスク3の全体は、恒温槽9によって、所定の温度に保持されている。11は反応セル洗浄機構であり、洗浄剤容器13から洗浄剤は供給される。19はコンピュータ、23はインターフェース、18はLog変換器及びA/D変換器、17は試薬用ピペッタ、16は洗浄水ポンプ、15はサンプルピペッタである。また、20はプリンタ、21はCRT、22は記憶装置としてのフロッピー(登録商標)ディスクやハードディスク、24は操作パネルである。サンプルディスク機構は駆動部200により、試薬ディスク機構は駆動部201により、反応ディスクは駆動部202により、それぞれインターフェースを介して制御並びに駆動されている。また自動分析装置の各部はインターフェースを介してコンピュータにより制御される。
【0060】
上述の構成において、操作者は、操作パネル24を用いて分析依頼情報の入力を行う。操作者が入力した分析依頼情報は、マイクロコンピュータ19内のメモリに記憶される。サンプルセル25に入れられ、サンプルディスク収納部機構1の所定の位置にセットされた測定対象サンプルはマイクロコンピュータ19のメモリに記憶された分析依頼情報に従って、サンプルピペッタ15及びサンプル供給用分注機構2のサンプルノズル27によって、反応セルに所定量分注される。サンプルノズル27は水洗浄される。当該反応セルに試薬供給用分注機構7の試薬ノズル28によって、所定量の試薬が分注される。試薬ノズル28は水洗浄された後、次の反応セルのための試薬を分注する。サンプルと試薬の混合液は、撹拌機構8の攪拌棒29や超音波素子によって撹拌される。撹拌機構8は順次、次の反応セルの混合液を撹拌する。親水性部分と疎水性部分から成る反応セルを用いれば、攪拌によって巻きこまれた気泡がセル内壁表面の測光領域に吸着することがないので分析データに影響を与えることがない。
【0061】
反応セル4は恒温槽9により一定温度に保持されており、反応と測光容器の両方を兼ねる。反応の過程は集光フィルタつき光源26から光を供給し、一定時間ごとに反応セルの親水性部分が分光光度計10によって測光され、設定された1つまたは1つ以上の波長を用いて混合液の吸光度は測定される。測定の際、集光フィルタつき光源を用いることで、反応セルの親水性部分のみを選択的に光透過させることができる。
【0062】
反応セルの親水性部分は気泡付着が起こらないため、吸光測定のばらつきが少なく精度が高い。同様に反応セルの内壁部に親水性部分があるため、反応セルの測光面や底面に検出障害となる気泡が吸着しないので、反応セルに光を透過させる領域を底面近くに設定できる。したがって、反応セルに入れるサンプルや試薬の量を大幅に減らすことができ、ユーザのランニングコスト低減の観点から有用である。本発明の反応セルを使用することで、試薬とサンプル溶液を合わせた反応溶液量を従来の1/2またはそれ以下に低減して自動分析を実施できた。
【0063】
測定された吸光度は、Log変換器及びA/D変換器18、インターフェース23を介してコンピュータ19に取り込まれる。取り込まれた吸光度は濃度値に換算され、濃度値はフロッピー(登録商標)ディスクやハードディスク22に保存したり、プリンタ20に出力される。また、CRT21に検査データを表示させることもできる。測定が終了した反応セル4は反応セル洗浄機構(ノズルアーム)11により水洗浄される。洗浄の終了した反応セルは吸引ノズル12により水を吸引された後、次の分析に順次使用される。
【0064】
このように、親水性部分と疎水性部分を内壁部に有する反応セル4を搭載して自動分析を行った結果、毛管現象で検査液が反応セルの開口部まで登る現象は無かった。すなわち、隣接する反応セルの試薬と混ざり合う相互汚染やクロスコンタミネーションがおこらなかった。また、気泡吸着がないため、測定誤差が低減した。一方、反応セルの内壁を底から開口部まで親水化すると相互汚染やクロスコンタミネーションが起こった。
【0065】
なお、本実施例では、測光面内壁部の底面から所望の高さまでの部分を局所的に親水化した反応セルを用いて、反応溶液量を極小化した場合に自動分析を行った例を示したが、本発明は上記の親水化する領域の大きさや反応溶液量に限定されるものではない。また、測光領域の内壁部の親水性が高い反応セルであれば、気泡付着がなく、かつ相互汚染やクロスコンタミネーションが起こらずに安定な自動分析を実施できる。
【0066】
さらに、反応セル内に注水すると、セルの親水部分の親水性をより高めることができ、一層安定な分析が実施できる。なお、ここで注水に用いる水は純水でもよいが、純水に限らず親水性をさらに高める効果をもった添加剤を添加した溶液でもよい。また、同効果を得るためには、液状に限らず微粉末や霧状や気体状のものを用いてもよい。したがって、反応セルを水浸漬させた後、自動分析装置を使用するのが望ましい。
【0067】
上記のように本発明の電極を用いて、本発明の製造方法により作製した反応セルは、自動分析装置に搭載し、自動分析するのに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】セルブロックの斜視外観図。
【図2】分割セルの斜視外観図。
【図3】分割セルの斜視外観図。
【図4】コロナ放電局所処理の模式図。
【図5】コロナ放電局所処理の断面模式図。
【図6】コロナ放電局所処理後の分割セルの斜視外観図。
【図7】コロナ放電局所処理の模式図。
【図8】電極外観図。
【図9】電極断面図。
【図10】電極外観図。
【図11】電極断面図。
【図12】電極断面図。
【図13】コロナ放電局所処理の断面模式図。
【図14】コロナ放電局所処理の断面模式図。
【図15】コロナ放電局所処理の断面模式図。
【図16】自動分析装置の構成例を示す図。
【符号の説明】
【0069】
1…サンプル収納部機構、2…サンプル供給用分注機構、3…反応ディスク、4…反応セル、5…試薬ディスク機構、6…試薬容器、7…試薬供給用分注機構、8…撹拌機構、9…恒温槽、10…分光光度計、11…反応セル洗浄機構、12…吸引ノズル、13…洗浄剤容器、15…サンプルピペッタ、16…洗浄水ポンプ、17…試薬用ピペッタ、18…Log変換器及びA/D変換器、19…コンピュータ、20…プリンタ、21…CRT、22…フロッピー(登録商標)ディスクやハードディスク、23…インターフェース、24…操作パネル、25…サンプルセル、26…集光フィルタつき光源、27…サンプルノズル、28…試薬ノズル、29…撹拌棒、50…セルブロック、51…単セル、61…対向電極、62…対向電極、70…電極、80…電極、81…マスク、82…マスク、90…セルブロック、91…セル、92…測光面、101…長辺、102…短辺、103…高さ、111…非測光面外壁、112…非測光面内壁、113…測光面外壁、114…測光面内壁、115…底面、116…非測光面の半分の長さ、117…測光面の長さ、118…内壁高さ、119…境界線、120…コロナ放電処理部分、130…閉口部、140…開口部、150…単セル肉厚、160…領域、161…境界線、162…境界線、200…駆動部、201…駆動部、202…駆動部、211…コロナ放電源、212…配線、213…陽極、214…電極、216…配線、217…アース、218…陰極板、219…矢印、301…測光面、302…測光面、601…領域、602…領域、603…領域、604…領域、610…セル幅、611…距離、612…距離、613…距離、614…距離、621…距離、622…距離、631…距離、632…距離、641…深さ、642…ピッチ、651…深さ、652…ピッチ、653…深さ、654…ピッチ、701…吸引口、702…中空領域、703…矢印、704…領域、705…領域。
【技術分野】
【0001】
本発明は、生化学的な分析反応や免疫反応などの医療診断用の自動分析装置に用いる分光測光分析用反応セルの内壁表面の部分的改質方法、改質用電極及び該反応セルを搭載した自動分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医療診断用の臨床検査においては、血液や尿などの生体サンプル中のタンパク、糖、脂質、酵素、ホルモン、無機イオン、疾患マーカー等の生化学分析や免疫学的分析を行う。臨床検査では、複数の検査項目を信頼度高くかつ高速に処理する必要があるため、その大部分を自動分析装置で実行している。従来、自動分析装置としては、例えば、血清等のサンプルに所望の試薬を混合して反応させた反応液を分析対象とし、その吸光度を測定することで生化学分析を行う生化学分析装置が知られている。この種の生化学分析装置は、サンプル及び試薬を収納する容器、サンプル及び試薬を注入する反応セルを備え、サンプル及び試薬を反応セルに自動注入する機構と、反応セル内のサンプル及び試薬を混合する自動攪拌機構、反応中または反応が終了したサンプルの分光スペクトルを測定する機構、分光スペクトル測定を終了後の反応溶液を吸引・排出し反応セルを洗浄する自動洗浄機構等を備えて構成されている(例えば特許文献1)。
【0003】
自動分析装置の分野では、サンプル及び試薬の微量化が大きな技術的課題となっている。すなわち、分析項目数の増大に伴い、単項目に割くことのできるサンプル量が少量化し、サンプル自体が貴重で多量に準備できない場合もあり、従来は高度な分析とされていた微量サンプルの分析がルーチン的に行われるようになってきた。また、分析内容が高度化するにつれて、一般に試薬が高価となり、コスト面からも試薬微量化への要請がある。このようなサンプル及び試薬の微量化は、反応セルの小型化を進める強い動機でもある。また、反応セルの小型化や必要なサンプル及び試薬の少量化は、分析スループットの向上や低廃液化にも繋がる利点がある。
【0004】
ここで、一般的な自動分析装置に用いる反応セル(反応容器とも呼ばれる)はガラスまたは合成樹脂等で形成されるのが一般的である。例えば、特許文献2によると、反応セルの材質としては、吸水率が低く、透湿度が低く、全光線透過率が高く、屈折率が低く、成型収縮率の低い樹脂材料から選ばれる。具体的には、ポリシクロオレフィン、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂から選択される1種が好ましく例示される。また、特許文献2は、合成樹脂製反応セルに関する課題として、生体サンプルと試薬をセル内に流入する際に発生する気泡がセル内壁に付着して測定ができなくなる初期的な検出障害の低減を挙げている。この際、気泡付着の原因としてはセル内壁表面の濡れ性が低いことを挙げている。
【0005】
一般的な合成樹脂(プラスチック、高分子樹脂とも呼ばれる)表面の濡れ性を上げる、すなわち表面を親水化する有効な手段としては、酸素プラズマ処理、オゾン処理、オゾン水処理、コロナ放電処理、UV処理などが知られている。また、非特許文献1によると、高分子樹脂の一種であるポリエチレン表面をコロナ放電処理により酸化することで表面に過酸化物(パーオキサイド)を導入後、グラフトポリマーを形成することで表面改質が可能である。また、特許文献3は、オゾン処理によるプラスチック容器の酸化、親水化を報告している。
【0006】
【特許文献1】特許第1706358号公報
【特許文献2】特開2005−30763号公報
【特許文献3】特開2000−346765号公報
【非特許文献1】Journal of Polymer Science: Part A: Polymer Chemistry, Vol.26, 3309-3322.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
自動分析装置の分野では、サンプル及び試薬の微量化が一層進む趨勢にあり、また装置の小型化への要請も高まる一方である。このため従来問題視しなかった新たな課題として以下の2つの問題が浮上した。従来から用いていた反応セルの大きさは気泡に比べ十分大きかったため、気泡が光軸にかかっても実用的な範囲内では吸光度がばらつくことは少なく、トラブルとなることは極めて稀であったが、反応セル容量の微量化を進める実験の中で、気泡の影響が顕在化してくることが分かってきた。この問題の原因は、反応セルの素材に用いている透明樹脂の疎水性である。そこで、反応セルの内壁表面を親水化してみたところ気泡付着が起こらなくなることを確認した。
【0008】
しかし、反応セル内壁表面の親水処理を全面的に実行すると、第二の問題が浮上した。反応セルの内壁を底から一番上の開口部まで親水化すると、検査液が毛管現象で反応セルの縁まで登り、隣接する反応セルの試薬と混ざり合う相互汚染が起こり易くなるのである。
【0009】
また、前記と似た現象であるが、一度使用した反応セルは洗浄終了後順次使用されるが、反応セルの内面に残った反応液の成分が次の分析に混入し、測定データに悪影響する場合がある。この現象をクロスコンタミネーションと呼ぶ。反応液成分で反応セルの内面に残る可能性があるものは、脂質のほかタンパク質や無機イオンなど親水性のものもある。
【0010】
反応セルの小型化は相互汚染を助長する傾向にあり、将来はより大きな問題となると予想される。自動分析装置の小型化、サンプル・試薬の少量化という恒常的なトレンドに対処するためには、上記二つの問題を解決する必要がある。
また、自動分析の単位時間当たりの分析数(スループット)を向上するため、自動分析装置に使用する反応セルは自動分析装置上に多数装着されることが一般的である。従って、上記二つの問題を解決する際には、複数のセルを同時または逐次的に親水化処理できる必要がある。また、分析の正確性、再現性向上のため、反応セル表面の処理した領域の親水性が均一であり、かつ反応セル間の処理バラツキを抑制することが求められる。
【0011】
本発明は、これらの要請に応えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
これらの問題を解決するには、複数の反応セルの内壁を同時または逐次的に親水化する必要があるが、その親水化領域を、反応セルの底から分光分析に必要な高さまでに限定しなければならない。合成樹脂表面を親水化する有効な手段としては、酸素プラズマ処理、オゾン処理、オゾン水処理、コロナ放電処理、UV処理などの候補がある。しかし、これらはいずれも平面形状の物体を処理する目的に向いており、本特許の扱うような特殊な立体構造物(図1参照)の表面に対して一段で目的を達成するような簡単な方法は一般にはなかなか見当たらない。また領域を限定して処理することも容易ではない。例えば、特許文献3において、オゾン処理によるプラスチック容器の酸化、親水化が述べられているが、この方法では、プラスチック容器を部分限定的に酸化処理することはできず、プラスチック容器を部分限定的に親水化することはできない。また、本特許の扱うような特殊な立体構造物(図1参照)の表面は閉空間を形成しており、上記プラズマ処理などでは、閉空間内でプラズマ密度が一定せず、セル内壁表面に均一に処理することも容易ではない。
【0013】
そこで、発明者らは、二つの電極の間に対象物を挟んで放電処理するコロナ放電法の応用を思いついた。この方法では、合成樹脂からなる反応セルブロックを外側から取り囲む外部電極と、ユニットセルの一つ一つに挿入される棒状の内部電極との間でコロナ放電を発生させる(図4参照)。この際、セルの分光測光面の外側表裏には外部電極面が近接するので、対向する棒状電極との間で放電し、分光測光面の内壁両面にコロナ放電処理が掛かる。また外部電極をユニットセルのすき間や底面に設置することで、非測光面や底面にもコロナ放電処理を施せる。また必要に応じて、セル外壁の一部又は全部を処理することも可能である。今回は、反応セル内壁の測光面をコロナ放電処理の対象とした。
【0014】
コロナ放電処理は大気などの酸素を含んだ雰囲気中で行うため、合成樹脂表面には酸素原子が導入される。酸素原子は、水酸基、エーテル基、カルボニル基、カルボキシル基といった形態で合成樹脂表面に導入されるが、これらはみな親水性の官能基であるため、もともとの疎水性の高い合成樹脂表面の親水性が向上する。合成樹脂表面の親水性は水の接触角の低下によって測定されるが、上記の方法でコロナ放電処理したセルブロックの内壁は接触角が低下し、親水性が向上していることが判った。また、酸素原子の導入状態が、XPS(X線光電子スペクトル)の測定結果から確認できた。
【0015】
また、放電は内外の電極が対向する領域でのみ起こるので、処理領域を限定できる可能性がある。実際、セル内部に挿入する電極の配置と電極形状を適切化し、セル外部に配置する対向電極の高さを適切化することで、親水化領域は電極が対向する領域即ちコロナ放電の起こる領域だけに限定できることを確認した。即ち、コロナ放電処理によって、透明合成樹脂からなる反応セルの底から所定の高さまでの内壁表面だけを親水化処理することができる。コロナ放電は電極間の距離が近いと起こりやすい性質や、電極表面に突起構造があると放電が起こりやすいことを利用することで、面内に均一な親水性を持つセル表面を構築し、同時にセルロット間の均一性を高めることができる。
【0016】
コロナ放電処理された表面の親水性は、処理によって導入された水酸基、エーテル基、カルボニル基、カルボキシル基に基づくが、処理条件を強化すると、さらに上位の酸化物である過酸化物(パーオキサイド)も生成することが判った。
【0017】
自動分析装置に使用する反応セルは多数装着されることが一般的であることは既に述べた。本発明により、複数のセルをコロナ放電により同時に又は逐次的に親水化処理でき、処理した領域の性質が均一であり、かつセル間の処理バラツキを少なくできた。なお、本発明は複数のセルまたは単数のセルいずれにも適用可能である。
【0018】
なおコロナ放電処理したセルは、外観上全く変化はなく、分光分析に必要な300nm−800nmの波長域の透明性も十分であり、光学特性にも何ら悪影響はない。
【0019】
以上のように、本発明によれば、自動分析装置用反応セルの内壁に安定した親水化処理を、領域を限定して実行することができる。また、本発明の電極と製造法によれば、コロナ放電の立ち上がりが均一であり、処理したセル表面の親水性の均一性や、処理したセルロット間の均一性も高い。また、セルを多数処理した後も、安定して均一に処理、製造できる。従って攪拌における気泡付着の問題を起こさず、セル間の相互汚染の問題も解決し、信頼性と再現性の高い臨床化学検査を実現する自動分析装置を提供できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、気泡吸着を嫌う分光測光面のセル閉口部に近い領域に限定してセル内壁の親水化処理を施すことができ、セル内壁のそれより開口部側の領域を疎水性のまま保持できる。また、セル表面の処理した領域の親水性や酸素濃度は領域内で均一に保たれ、かつ各ロット間の処理領域の親水性や酸素濃度のバラツキが少ない。このため、気泡吸着による分光透過率の変化が発生せず、測定データの精度や再現性が向上する。また、セル開口部領域の疎水性は、試薬やサンプルの濡れ上がりを防止するため、反応セル間のサンプルの相互汚染を防止し、データの信頼性を向上させる。これらの効果は、サンプル・試薬の微量化にも寄与し、自動分析装置のランニングコスト低減にも貢献する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
<実施例1>コロナ放電処理による局所的親水化―その1―
自動分析装置用反応セル(以下、“セル”と呼称する。)として、ポリシクロオレフィンを素材として射出成形によって作製した。ちなみにセル素材としては、ポリシクロオレフィン、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂から選択される1種であればかまわない。低吸水率、低透湿度、高い全光線透過率、低屈折率、低成型収縮率の観点からポリシクロオレフィンを選択することが望ましい。
【0022】
本実施例では4個の単セルを一体成形したセルブロックとして形成したものを用いた。図1に、セルブロックの斜視外観図を示す。成型したセルブロック50は、4個の単セル51からなる。セルブロック50の長辺101は60mm、短辺102は10mm、高さ103は40mmである。単セル51を自動分析装置に搭載した際には、サンプルと試薬の反応経過及び反応結果を分光スペクトルにより測定する。個々の単セルには、測定用の光が透過する2つの面(測光面)と測定用の光が透過しない非測光面がある。図2に、単セルを非測光面の長軸で2つに分割した断面図示す。単セルは、非測光面外壁部111、非測光面内壁部112、測光面外壁部113、測光面内壁部114、底面115からなる。この詳細を、図3に単セル断面斜視外観図として示す。単セルの内壁部の寸法は、非測光面の半分の長さ116が3mm、測光面の長さ117が4mm、高さ118が30mm、単セル肉厚150が1mmであり、閉口部130、開口部140を備えている。
【0023】
全ての単セル51内にエタノール500μlを注入して24時間放置し、エタノールを除去した後、真空デシケーターに入れ乾燥することで単セル内壁表面を清浄化した。次にコロナ放電局所処理を施した。なお、上記エタノールによる内壁表面の清浄化は行わずに、コロナ放電局所処理をしても良い。
【0024】
図4に、コロナ放電局所処理の模式図を示す。洗浄・乾燥したセルブロック50の4個の単セル51の測光面を陰極板218で挟み込んだ。陰極板は、配線216を介してアース217につながれている。
【0025】
陰極板の高さを調整することで、セル内壁のコロナ放電処理面の高さを限定することができる。また、陰極板とセルの間に誘電体や絶縁体を挿入しても良い。また、陰極板とセルは密着してもよいし、適切な距離離れていても良い。
【0026】
本実施例では各単セルの底面から14mmまでの内壁が処理されるように陰極板の高さを決めた。その後、各単セル51内部にコロナ放電棒状(円柱状)電極214をそれぞれの単セルの底面中心に向かって底面から1mmの高さまで入れた。コロナ放電棒状電極214の径は最大箇所で2mm、長さは50mmであり、陽極213と配線212を介してコロナ放電源211につながれている。コロナ放電電源としては、ナビタス社製ポリダインを使用した。ついで、大気中において電圧6kV印加によって、単セル内壁部の所望の高さにコロナ放電処理した。この時の電極周辺の構成を矢印219の方向から見た様子を図5に示す。コロナ放電処理される測光面の面内領域での親水性の均一性、及び同時処理されるセル間の均一性を保つために以下の構成により放電処理した。
【0027】
セル51内に棒状電極214を挿入した。棒状電極は金属製で、角柱状でも円柱状でも良い。本実施例ではステンレス製の円柱状電極を使用した。棒状電極214は電極径が大きい領域601と電極径が小さい領域602からなる。領域601と領域602の境界線と同じ高さになるよう、対向電極61と62の高さを調整した。セル底から対向電極上端の距離632とセル底から電極境界線までの距離631を等しくすることで、処理を望むセル内壁を処理した。本実施例では、距離631及び632を14mmとした。なお、領域601の電極エッジは、面取りをR0.5mm程度で施しても良い。
【0028】
一般に電極間距離が近くなるほど、コロナ放電エネルギーが高くなる法則を利用した。電極径が大きい領域の方が、電極径が小さい領域よりも対向電極に近いため、コロナ放電が起こりやすく放電エネルギーが高い。従って、対向電極との距離が近い領域601から対向電極に向かい優先的にコロナ放電が発生する。この際、上記に示したとおり、距離631と距離632が等しいので、放電を所望する領域を均一に処理できる。かつ曖昧に処理される領域を抑制でき、セル内壁表面でコロナ放電処理された領域と未処理の領域とが明瞭に差が付くと考えた。本実施例で使用した電極の領域601の電極径は2mmであり、領域602の電極径は1mmであり、領域601はセル幅610を超えないようにした。
【0029】
棒状電極をセル底部の中心になるように配置し、棒状電極とセル測光面301、302との距離613、距離614を等しくすることが、2面ある測光面の均一性及び再現性ある処理に重要である。また、セル測光面301と対向電極61の距離611、セル測光面302と対向電極62の距離612である時、距離611と612を等しくすることが、2面ある測光面の均一処理及び再現性ある処理に重要である。本実施例では距離611と612を等しくし、2mmとした。領域602とセルとの距離621、距離622を等しくした。
【0030】
なお、距離611と612の差分が2mm以内であれば、2面ある測光面の均一処理に支障は無い。また、距離613と614の差分が1mm以内であれば、2面ある測光面の均一処理に支障は無いことを確認した。
この時、反応セルの底部外壁や非測光面の外壁に陰極板を設けておけば、反応セルの底面や非測光面にもコロナ放電処理できる。すなわち、陰極板を設置する位置により、コロナ放電処理位置を限定できる。本実施例では、対向電極218と219のみを配置した。
【0031】
図6に、上記方法でコロナ放電局所処理した後の単セルの断面斜視外観図を示す。セル51の測光面内壁部114のうち底面115から境界線119までの部分120にコロナ放電処理できた。この時、境界線119を境目として閉口部130側が親水性、開口部側が疎水性となり、親水性に明確な差がついた。この時、図に示された測光面の対向面の内壁部にも同様にコロナ放電局所処理できた。同様のコロナ放電局所処理は、セルブロックに備わる複数個の単セルの全てに同時に施すことができた。
【0032】
なお、陰極板を測光面のみならず非測光面や底面に設置することで、非測光面や底面にもコロナ放電処理を施すことができる。以下の実施例1〜6では、測光面のみをコロナ放電処理したセルを準備した例を示す。なお、測光面のうち、分光スペクトルを測定する際に光が透過する領域(測光部)に気泡が付着していなければ、検出障害を無くすことができる。
【0033】
表1に、セル内の測光面内壁表面に関して、セル底からの距離に応じた水の接触角を示す。なおコロナ放電処理時間は10秒であるが、適切化した結果1秒以上20秒以下であれば同様の結果である。
【0034】
【表1】
【0035】
接触角の測定には、協和界面科学製Drop Master 500を使用した。処理を施したセル表面にシリンジを利用して純水1μlを滴下し、着滴0.5秒後の静的接触角をθ/2法で測定した。測定には、処理を施したサンプルを6つ用意し、測光面内壁表面のセル底からの距離1mmから2mmおきに測定を行い、6つのサンプル間での平均値を求めた。
その結果、セル底からの距離が15mm以上の場合、コロナ放電処理前のセル表面と同様の結果であり、水との接触角は89度から91度であった。一方、処理を望んだ領域であるセル底からの距離が1mmから13mmの間では、コロナ放電処理をすることにより水との接触角は約40度へ低下した。このように、コロナ放電処理を選択的に施せることを確認した。すなわち、コロナ放電処理によりセル表面に領域を限定して親水性を付与することができる。セル底からの距離14mmを境に親水性に明確な差がついた。
【0036】
次に、コロナ放電処理表面の元素分析をXPS(X線光電子分光)によって実施した結果、表2に酸素原子存在比率(%)を示す。なお、酸素原子存在比率は以下酸素濃度とも記す。以下、測定には、SHIMADZU−CRATOS製X線光電子分光(XPS)装置を使用し、炭素と酸素と窒素の原子存在比率を比較するために、1400eV〜−20eVの範囲で、Pass Energyを20eVとしてワイドスキャンをおこなった。
【0037】
【表2】
【0038】
表2に示すように、セル底からの距離が15mm以上の場合、コロナ放電処理前のセル表面と同様、酸素の原子存在率は検出下限以下の0原子%であった。一方、処理を望んだ領域であるセル底からの距離が1mmから13mmの間では、酸素原子存在率は平均12原子%であった。コロナ放電処理によって酸素が導入され、ポリシクロオレフィンが酸化され、親水化されている。
【0039】
次に処理面内での均一性、処理したセルロット間での均一性について述べる。上記の方法で処理したセル10個それぞれの親水性領域(6箇所)を接触角測定した結果、セル底から14mmまでの接触角は平均で40度、標準偏差(σ)が1度であった。なお、親水性領域の接触角の平均値と標準偏差(σ)の合計が、85度以下であれば自動分析装置用反応セルとして十分な性質を有していることを確認した。同様にセル親水性領域の酸素濃度のバラツキについても、XPS測定の結果、平均値12原子%であり、標準偏差(σ)は約0.6原子%であった。
【0040】
表1に示した接触角の低減の観点からも、表2に示したXPSの酸素原子存在率の観点からも、処理を望んだ領域の親水性の均一性が高いことがわかる。処理したセルロット間の均一性についても確認できた。
【0041】
次に、コロナ放電処理したセルに純水150μlを注水した際の気泡付着の有無を調べた結果、気泡付着は起こらなかった。したがって、セル内壁部の一部にコロナ放電処理を施すことで、安定な親水化処理可能であることを確認できた。また、コロナ放電処理しなかった部分の接触角は90度のままであり、コロナ放電未処理のセル表面と同様であった。すなわち、反応セル内壁にコロナ放電処理を選択的に施すことができ、安定な親水性部分と疎水性部分を内壁部に有する反応セルを作製できた。
【0042】
次に、10秒間のコロナ放電処理したセルを室温放置した後のセル内に水を150μl注入した際の気泡付着の有無を調べた。表3に経過日数と日数経過後の気泡付着の有無を示す。
【0043】
【表3】
【0044】
経過日数0日、60日でセル内に水を150μl注入した際には、気泡付着が無く、経過日数が120日、180日でも気泡付着が無いことを確認した。従って、本発明により作製した反応セルは長期の保管後にも使用可能である。
【0045】
本実施例の反応セルは、自動分析装置用反応セルとして、気泡付着が起こらず、攪拌安定性と透明性を有しており、かつセル間のサンプル・試薬の相互汚染を防止できることを確認した。
【0046】
また、図4に示したコロナ放電処理は他の形状のセルブロックに対しても可能である。図7に示すように、セル91の複数で測光面92を共用するセルブロック90では、測光面の親水化したい領域の外壁を陰極板218で挟むことで、セル内壁のコロナ放電処理面の高さを限定し、コロナ処理を行うことができる。測光面を親水化しておくことで、測光領域を光が透過し溶液を検出する際に、気泡が付着せず安定な測定を実施できる。電極配置、電極形状、電極間距離を先に述べた通りに適正化することで実施でき、同様の反応セルを作製できる。
<実施例2>コロナ放電処理による局所的親水化―その2―
実施例1と同様にコロナ放電処理によるセル内壁部の局所的親水化を施した。用いた棒状電極214は、実施例1と同様に円柱状のものを使用し、領域602の電極径は実施例1と同様1mmとした。本実施例2では、電極径が大きい領域601を図8にしめすような山型領域603とする電極を使用することとした。一般にフラット構造よりも局所的に突起があるほうが、電界集中しやすくコロナ放電強度が強いので、処理するセルロット間で放電の立ち上がりタイミングがばらつかず、処理したセルの親水性がセルロット間でばらつかない。本実施例では溝深さ641を0.3mmとし、ピッチ(溝の間隔)642を0.5mmとすることとした。図8A―A’での断面線の一部を図9に示す。なお、この溝深さとピッチは上記に限定されず、色々な溝深さとピッチを組み合わせることができる。実施例1と同様な電極配置、挿入位置、電極間距離とすることで、セル表面の閉口部側が親水性、開口部側が疎水性となり、親水性に明確な差がついた。同様のコロナ放電局所処理は、セルブロックに備わる複数個の単セルの全てに同時に施すことができた。山型電極を使用したことで、放電のロット間バラツキが低減でき、処理後のセルを評価したところ、実施例1と同様に接触角のバラツキや酸素濃度のバラツキを低減できた。
【0047】
また、図4に示したコロナ放電処理は他の形状のセルブロックに対しても可能である。図7に示すように、セル91の複数で測光面92を共用するセルブロック90では、測光面の親水化したい領域の外壁を陰極板218で挟むことで、セル内壁のコロナ放電処理面の高さを限定し、コロナ処理を行うことができる。測光面を親水化しておくことで、測光領域を光が透過し溶液を検出する際に、気泡が付着せず安定な測定を実施できる。電極配置、電極形状、電極間距離を先に述べた通りにすることで実施でき、同様の反応セルを作製できる。
【0048】
本実施例の反応セルは、自動分析装置用反応セルとして、気泡付着が起こらず、攪拌安定性と透明性を有しており、かつセル間のサンプル・試薬の相互汚染を防止できることを確認した。
<実施例3>コロナ放電処理による局所的親水化―その3―
実施例1と同様にコロナ放電処理によるセル内壁部の局所的親水化を施した。用いた棒状電極214は、実施例1と同様に円柱状のものを使用し、領域602の電極径は実施例1と同様1mmとした。本実施例3では、電極径が大きい領域601を図10に示すようなあやめ型領域604を有する電極を使用することとした。一般にフラット構造よりも局所的に突起があるほうが、電界集中しやすくコロナ放電強度が強いので、処理するセルロット間で放電の立ち上がりタイミングがばらつかず、処理したセルの親水性がセルロット間でばらつかない。図9に示すような格子状又は網目状の刻み目は、一般にローレット加工により達成できるので、利用した。
【0049】
図10中のA−A’で示す線で断面の一部をあらわした場合の模式図を図11に示す。本実施例では溝深さ651を0.3mmとし、ピッチ(溝の間隔)652を0.5mmとすることとした。図9中のB−B’で示す線で断面の一部をあらわした場合の模式図を図12に示す。本実施例では溝深さ653を0.3mmとし、ピッチ(溝の間隔)654を0.5mmとすることとした。なお、この溝深さとピッチは上記に限定されるものではない。実施例1と同様な電極配置、挿入位置、電極間距離とすることで、セル表面の閉口部側が親水性、開口部側が疎水性となり、親水性に明確な差がついた。同様のコロナ放電局所処理は、セルブロックに備わる複数個の単セルの全てに同時に施すことができた。実施例2と同様に電極表面に突起を有するあやめ型電極を使用したことで、放電のロット間バラツキが低減でき、処理後のセルを評価したところ、実施例1と同様に接触角のバラツキや酸素濃度のバラツキを低減できた。
【0050】
また、図4に示したコロナ放電処理は他の形状のセルブロックに対しても可能である。図7に示すように、セル91の複数で測光面92を共用するセルブロック90では、測光面の親水化したい領域の外壁を陰極板218で挟むことで、セル内壁のコロナ放電処理面の高さを限定し、コロナ処理を行うことができる。測光面を親水化しておくことで、測光領域を光が透過し溶液を検出する際に、気泡が付着せず安定な測定を実施できる。電極配置、電極形状、電極間距離を先に述べた通りにすることで実施でき、同様の反応セルを作製できる。
【0051】
本実施例の反応セルは、自動分析装置用反応セルとして、気泡付着が起こらず、攪拌安定性と透明性を有しており、かつセル間のサンプル・試薬の相互汚染を防止できることを確認した。
<実施例4>コロナ放電処理による局所的親水化―その4―
実施例1と同様にコロナ放電処理によるセル内壁部の局所的親水化を施した。用いた棒状電極を図13に示す。円柱状の棒状電極70を使用し、径が0.1mmの中空領域702、吸引口701を備えている。なお、本実施例で使用する電極径は、実施例1と同様に大きい電極領域704と小さい電極領域705を有する電極とした。なお、本実施例では、中空領域と吸引口があれば、1種の電極径でストレート型を使用してもよい。実施例1と同様に適切な電極配置、適切な挿入位置、適切な電極間距離にした。さらに、放電時にダイヤフラムポンプを利用して、吸引口と中空領域を介して、空気を流速20cc/分で吸引することで、矢印703に示す方向で空気の流れを作り、コロナ放電でできたプラズマがセル表面の所望の処理領域をはみ出さないようにした。その結果、セル表面の閉口部側が親水性、開口部側が疎水性となり、親水性に明確な差がついた。同様のコロナ放電局所処理は、セルブロックに備わる複数個の単セルの全てに同時に施すことができた。この結果、放電のロット間バラツキが低減でき、処理後のセルを評価したところ、実施例1と同様に接触角のバラツキや酸素濃度のバラツキを低減できた。なお、上記流速は、1cc/分〜200cc/分の範囲で実施できる。
【0052】
また、図4に示したコロナ放電処理は他の形状のセルブロックに対しても可能である。図7に示すように、セル91の複数で測光面92を共用するセルブロック90では、測光面の親水化したい領域の外壁を陰極板218で挟むことで、セル内壁のコロナ放電処理面の高さを限定し、コロナ処理を行うことができる。測光面を親水化しておくことで、測光領域を光が透過し溶液を検出する際に、気泡が付着せず安定な測定を実施できる。電極配置、電極形状、電極間距離を先に述べた通りにすることで実施でき、同様の反応セルを作製できる。
【0053】
本実施例の反応セルは、自動分析装置用反応セルとして、気泡付着が起こらず、攪拌安定性と透明性を有しており、かつセル間のサンプル・試薬の相互汚染を防止できることを確認した。
<実施例5>コロナ放電処理による局所的親水化―その5―
実施例1と同様にコロナ放電処理によるセル内壁部の局所的親水化を施した。用いた棒状電極を図14に示す。円柱状の棒状電極80を使用した。なお、本実施例で使用する電極径は、実施例1と同様に大小の電極径を有する電極とした。なお、本実施例では、1種の電極径でストレート型を使用してもよい。実施例1と同様に適切な電極配置、適切な挿入位置、適切な電極間距離にした。さらに、セル内壁表面で処理を望まない領域には、セルと同じ素材の樹脂でできたマスク81を配置し、コロナ放電でできたプラズマがセル表面の所望の処理領域をはみ出さないようにした。その結果、実施例1と同様の効果があり、セル表面の閉口部側が親水性、開口部側が疎水性となり、親水性に明確な差がついた。同様のコロナ放電局所処理は、セルブロックに備わる複数個の単セルの全てに同時に施すことができた。この結果、放電のロット間バラツキが低減でき、処理後のセルを評価したところ、実施例1と同様に接触角のバラツキや酸素濃度のバラツキを低減できた。
【0054】
また、上記のマスクの位置に限らず、コロナ放電処理を施したくない部分を反応セルと同素材のマスクであらかじめ覆った後、コロナ放電処理をすることで部分限定的に処理することも可能である。
【0055】
また、図4に示したコロナ放電処理は他の形状のセルブロックに対しても可能である。図7に示すように、セル91の複数で測光面92を共用するセルブロック90では、測光面の親水化したい領域の外壁を陰極板218で挟むことで、セル内壁のコロナ放電処理面の高さを限定し、コロナ処理を行うことができる。測光面を親水化しておくことで、測光領域を光が透過し溶液を検出する際に、気泡が付着せず安定な測定を実施できる。電極配置、電極形状、電極間距離を先に述べた通りにすることで実施でき、同様の反応セルを作製できる。
【0056】
本実施例の反応セルは、自動分析装置用反応セルとして、気泡付着が起こらず、攪拌安定性と透明性を有しており、かつセル間のサンプル・試薬の相互汚染を防止できることを確認した。
【0057】
なお、本実施例5のようなマスクによる部分限定的な処理方法を実施例1〜4の電極形状の場合に適用しても良い。
【0058】
また、図15に示すように、上記実施形態に追加して、棒状電極80の一部を厚手の絶縁性樹脂でできたマスク82で覆うことで、放電領域を限定することも可能である。この棒状電極をマスクで覆う方法は、実施例1〜4においても使用でき、セル表面の部分処理に有効である。
<実施例6>自動分析装置における実施例
上記実施例1〜5で作製した反応セルを使用した自動分析の実施例を述べる。なお、本実施例では実施例1で作製した反応セルを使用した例を述べる。なお、実施例1〜5で作製した反応セルを1種または複数種を同時に使用しても良い。
【0059】
図16は、本発明による自動分析装置の構成例を示す図であり、次にその基本動作を述べる。1はサンプル収納部機構であり、この機構1には、一つ以上のサンプルセル25が配置されている。ここでは、ディスク状の機構部に搭載されたサンプル収納部機構であるサンプルディスク機構の例で説明するが、サンプル収納部機構の他の形態としては自動分析装置で一般的に用いられているサンプルラックまたはサンプルホルダー状の形態であってもよい。またここで言うサンプルとは、反応セルで反応させるために使用する被検査溶液のことを指し、採集検体原液でもよく、またそれを希釈や前処理等の加工処理をした溶液であってもよい。サンプルセル25内のサンプルは、サンプル供給用分注機構2のサンプルノズル27によって抽出され、所定の反応セルに注入される。5は試薬ディスク機構であり、この機構5は、多数の試薬容器6を備えている。また、機構5には、試薬供給用分注機構7が配置されており、試薬は、この機構7の試薬ノズル28によって、吸引され所定の反応セルに注入される。10は分光光度計、26は集光フィルタつき光源であり、分光光度計10と集光フィルタつき光源26の間に、測定対象を収容する反応ディスク3が配置される。この反応ディスク3の外周上には、例えば、親水性部分と疎水性部分を内壁部に有する120個の反応セル4が設置されている。なお、この親水性部分は反応セルの閉口部側に限定されているが、測光領域を十分に包含する面積を有している。一方、疎水性部分は反応セルの開口部側にあり、溶液の毛管現象による濡れ上がりを防止している。また、反応ディスク3の全体は、恒温槽9によって、所定の温度に保持されている。11は反応セル洗浄機構であり、洗浄剤容器13から洗浄剤は供給される。19はコンピュータ、23はインターフェース、18はLog変換器及びA/D変換器、17は試薬用ピペッタ、16は洗浄水ポンプ、15はサンプルピペッタである。また、20はプリンタ、21はCRT、22は記憶装置としてのフロッピー(登録商標)ディスクやハードディスク、24は操作パネルである。サンプルディスク機構は駆動部200により、試薬ディスク機構は駆動部201により、反応ディスクは駆動部202により、それぞれインターフェースを介して制御並びに駆動されている。また自動分析装置の各部はインターフェースを介してコンピュータにより制御される。
【0060】
上述の構成において、操作者は、操作パネル24を用いて分析依頼情報の入力を行う。操作者が入力した分析依頼情報は、マイクロコンピュータ19内のメモリに記憶される。サンプルセル25に入れられ、サンプルディスク収納部機構1の所定の位置にセットされた測定対象サンプルはマイクロコンピュータ19のメモリに記憶された分析依頼情報に従って、サンプルピペッタ15及びサンプル供給用分注機構2のサンプルノズル27によって、反応セルに所定量分注される。サンプルノズル27は水洗浄される。当該反応セルに試薬供給用分注機構7の試薬ノズル28によって、所定量の試薬が分注される。試薬ノズル28は水洗浄された後、次の反応セルのための試薬を分注する。サンプルと試薬の混合液は、撹拌機構8の攪拌棒29や超音波素子によって撹拌される。撹拌機構8は順次、次の反応セルの混合液を撹拌する。親水性部分と疎水性部分から成る反応セルを用いれば、攪拌によって巻きこまれた気泡がセル内壁表面の測光領域に吸着することがないので分析データに影響を与えることがない。
【0061】
反応セル4は恒温槽9により一定温度に保持されており、反応と測光容器の両方を兼ねる。反応の過程は集光フィルタつき光源26から光を供給し、一定時間ごとに反応セルの親水性部分が分光光度計10によって測光され、設定された1つまたは1つ以上の波長を用いて混合液の吸光度は測定される。測定の際、集光フィルタつき光源を用いることで、反応セルの親水性部分のみを選択的に光透過させることができる。
【0062】
反応セルの親水性部分は気泡付着が起こらないため、吸光測定のばらつきが少なく精度が高い。同様に反応セルの内壁部に親水性部分があるため、反応セルの測光面や底面に検出障害となる気泡が吸着しないので、反応セルに光を透過させる領域を底面近くに設定できる。したがって、反応セルに入れるサンプルや試薬の量を大幅に減らすことができ、ユーザのランニングコスト低減の観点から有用である。本発明の反応セルを使用することで、試薬とサンプル溶液を合わせた反応溶液量を従来の1/2またはそれ以下に低減して自動分析を実施できた。
【0063】
測定された吸光度は、Log変換器及びA/D変換器18、インターフェース23を介してコンピュータ19に取り込まれる。取り込まれた吸光度は濃度値に換算され、濃度値はフロッピー(登録商標)ディスクやハードディスク22に保存したり、プリンタ20に出力される。また、CRT21に検査データを表示させることもできる。測定が終了した反応セル4は反応セル洗浄機構(ノズルアーム)11により水洗浄される。洗浄の終了した反応セルは吸引ノズル12により水を吸引された後、次の分析に順次使用される。
【0064】
このように、親水性部分と疎水性部分を内壁部に有する反応セル4を搭載して自動分析を行った結果、毛管現象で検査液が反応セルの開口部まで登る現象は無かった。すなわち、隣接する反応セルの試薬と混ざり合う相互汚染やクロスコンタミネーションがおこらなかった。また、気泡吸着がないため、測定誤差が低減した。一方、反応セルの内壁を底から開口部まで親水化すると相互汚染やクロスコンタミネーションが起こった。
【0065】
なお、本実施例では、測光面内壁部の底面から所望の高さまでの部分を局所的に親水化した反応セルを用いて、反応溶液量を極小化した場合に自動分析を行った例を示したが、本発明は上記の親水化する領域の大きさや反応溶液量に限定されるものではない。また、測光領域の内壁部の親水性が高い反応セルであれば、気泡付着がなく、かつ相互汚染やクロスコンタミネーションが起こらずに安定な自動分析を実施できる。
【0066】
さらに、反応セル内に注水すると、セルの親水部分の親水性をより高めることができ、一層安定な分析が実施できる。なお、ここで注水に用いる水は純水でもよいが、純水に限らず親水性をさらに高める効果をもった添加剤を添加した溶液でもよい。また、同効果を得るためには、液状に限らず微粉末や霧状や気体状のものを用いてもよい。したがって、反応セルを水浸漬させた後、自動分析装置を使用するのが望ましい。
【0067】
上記のように本発明の電極を用いて、本発明の製造方法により作製した反応セルは、自動分析装置に搭載し、自動分析するのに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】セルブロックの斜視外観図。
【図2】分割セルの斜視外観図。
【図3】分割セルの斜視外観図。
【図4】コロナ放電局所処理の模式図。
【図5】コロナ放電局所処理の断面模式図。
【図6】コロナ放電局所処理後の分割セルの斜視外観図。
【図7】コロナ放電局所処理の模式図。
【図8】電極外観図。
【図9】電極断面図。
【図10】電極外観図。
【図11】電極断面図。
【図12】電極断面図。
【図13】コロナ放電局所処理の断面模式図。
【図14】コロナ放電局所処理の断面模式図。
【図15】コロナ放電局所処理の断面模式図。
【図16】自動分析装置の構成例を示す図。
【符号の説明】
【0069】
1…サンプル収納部機構、2…サンプル供給用分注機構、3…反応ディスク、4…反応セル、5…試薬ディスク機構、6…試薬容器、7…試薬供給用分注機構、8…撹拌機構、9…恒温槽、10…分光光度計、11…反応セル洗浄機構、12…吸引ノズル、13…洗浄剤容器、15…サンプルピペッタ、16…洗浄水ポンプ、17…試薬用ピペッタ、18…Log変換器及びA/D変換器、19…コンピュータ、20…プリンタ、21…CRT、22…フロッピー(登録商標)ディスクやハードディスク、23…インターフェース、24…操作パネル、25…サンプルセル、26…集光フィルタつき光源、27…サンプルノズル、28…試薬ノズル、29…撹拌棒、50…セルブロック、51…単セル、61…対向電極、62…対向電極、70…電極、80…電極、81…マスク、82…マスク、90…セルブロック、91…セル、92…測光面、101…長辺、102…短辺、103…高さ、111…非測光面外壁、112…非測光面内壁、113…測光面外壁、114…測光面内壁、115…底面、116…非測光面の半分の長さ、117…測光面の長さ、118…内壁高さ、119…境界線、120…コロナ放電処理部分、130…閉口部、140…開口部、150…単セル肉厚、160…領域、161…境界線、162…境界線、200…駆動部、201…駆動部、202…駆動部、211…コロナ放電源、212…配線、213…陽極、214…電極、216…配線、217…アース、218…陰極板、219…矢印、301…測光面、302…測光面、601…領域、602…領域、603…領域、604…領域、610…セル幅、611…距離、612…距離、613…距離、614…距離、621…距離、622…距離、631…距離、632…距離、641…深さ、642…ピッチ、651…深さ、652…ピッチ、653…深さ、654…ピッチ、701…吸引口、702…中空領域、703…矢印、704…領域、705…領域。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルの内壁表面を親水化処理するための電極であって、当該セルの開口部付近を除く親水化処理すべき内壁表面に対向するセル外部に電極板が配置され、セル内部に電極棒が配置される放電用電極。
【請求項2】
請求項1に記載の電極であって、樹脂製セル外部に配置された電極板に対向する電極棒部分の径が、電極棒の他の部分よりも大きいことを特徴とする電極。
【請求項3】
請求項2に記載の電極棒であって、電極径の大きい部分に突起形状を有することを特徴とする電極。
【請求項4】
請求項1または2に記載の電極であって、中空領域を有することを特徴とする電極棒。
【請求項5】
樹脂製セルの製造方法において、樹脂製セルの内部に請求項1〜4に記載のいずれかの電極を挿入し、当該セルの開口部付近を除く親水化処理すべき内壁表面に対向するセル外部を電極板で覆う工程と、前記電極と前記電極板とでコロナ放電させる工程とを有し、前記板状電極板が覆っている領域に対向する内壁表面に親水性を付与することを特徴とする樹脂製セルの製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の樹脂製セルの製造方法であって、自動分析装置用セルの製造方法。
【請求項7】
樹脂製セルの製造方法において、当該セルの内部に請求項4に記載の電極を挿入し、当該セルの開口部付近を除く親水化処理すべき内壁表面に対向するセル外部に電極板で覆う工程と、前記電極と前記電極板とでコロナ放電させる工程とを有し、コロナ放電時に前記電極の中空部分から反応セル内部の雰囲気空気を吸引し、前記板状電極板が覆っている領域に対向する内壁表面に親水性を付与することを特徴とするセルの製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の樹脂製セルの製造方法であって、自動分析装置用セルの製造方法。
【請求項1】
セルの内壁表面を親水化処理するための電極であって、当該セルの開口部付近を除く親水化処理すべき内壁表面に対向するセル外部に電極板が配置され、セル内部に電極棒が配置される放電用電極。
【請求項2】
請求項1に記載の電極であって、樹脂製セル外部に配置された電極板に対向する電極棒部分の径が、電極棒の他の部分よりも大きいことを特徴とする電極。
【請求項3】
請求項2に記載の電極棒であって、電極径の大きい部分に突起形状を有することを特徴とする電極。
【請求項4】
請求項1または2に記載の電極であって、中空領域を有することを特徴とする電極棒。
【請求項5】
樹脂製セルの製造方法において、樹脂製セルの内部に請求項1〜4に記載のいずれかの電極を挿入し、当該セルの開口部付近を除く親水化処理すべき内壁表面に対向するセル外部を電極板で覆う工程と、前記電極と前記電極板とでコロナ放電させる工程とを有し、前記板状電極板が覆っている領域に対向する内壁表面に親水性を付与することを特徴とする樹脂製セルの製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の樹脂製セルの製造方法であって、自動分析装置用セルの製造方法。
【請求項7】
樹脂製セルの製造方法において、当該セルの内部に請求項4に記載の電極を挿入し、当該セルの開口部付近を除く親水化処理すべき内壁表面に対向するセル外部に電極板で覆う工程と、前記電極と前記電極板とでコロナ放電させる工程とを有し、コロナ放電時に前記電極の中空部分から反応セル内部の雰囲気空気を吸引し、前記板状電極板が覆っている領域に対向する内壁表面に親水性を付与することを特徴とするセルの製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の樹脂製セルの製造方法であって、自動分析装置用セルの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2008−309728(P2008−309728A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−159656(P2007−159656)
【出願日】平成19年6月18日(2007.6.18)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年6月18日(2007.6.18)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]