説明

自動分析装置

【課題】従来の自動分析装置は、被検物質の1回目の測定で測定結果が装置の測定限界を超えた場合、検体を希釈または増量して再測定を行っている。このため、再測定を行った場合、検体の測定に通常の2倍の時間がかかり、報告に緊急を要する検体の臨床判断を遅らせる要因となっている。
【解決手段】予め指定された特定検体の特定被検物質について、異なる検体量の組合せで分析を指示する手段と、その指示に従い、同一被検物質について異なる検体量で最初の検体量での測定結果を待つことなく続けて測定する機能を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動分析装置に係り、特に、結果の報告に緊急を要する患者検体の測定に使用する自動分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動分析装置は大きく生化学分析装置と免疫分析装置に分けられる。いずれも血液,尿,体液などの生体サンプル中の被検物質と被検物質と反応する試薬とを反応容器内で混合し、反応物質を生成することまでは同じであるが、生化学分析装置は反応により色が変わることを利用し、光を照射して吸光度を測定することにより前記被検物質の定量分析を行い、測定値を濃度に換算して出力する。一方で免疫分析装置は、蛍光を発する標識物質が試薬に含まれており、この標識物質を化学的あるいは電気的に発光させて、発光量を光電子増倍管等で測定する。
【0003】
測定には、個々の被検物質の特性により生化学分析で3〜10分ほど、免疫分析で20分程度の時間を要する。
【0004】
測定に際して、サンプルの濃度が予想より濃い、または薄い場合は、光度計または光電子増倍管の測定レンジを超える場合がある。その場合は、検体を希釈または増量して再度測定し、濃度換算時に希釈または増量分の液量の補正を行って結果を出力している。このような技術が例えば特許文献1,2に記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開平5−99930号公報
【特許文献2】特開2001−228158号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
通常の検体を測定する場合は、1回目の測定を行い、測定結果がレンジオーバーとなっていることが確認された後、再度測定を行う。しかし、手術などで緊急を要する患者検体を測定する場合には、初回の測定で吸光度が装置の測定限界を超え再測定を行うと測定時間が2倍の6〜20分を要する。これが報告に緊急を要する検体の臨床判断を遅らせる要因となっている。
【0007】
本発明の目的は、緊急を要する検体の測定においても迅速に測定結果を出力可能な自動分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
予め指定された特定検体の特定被検物質について、異なる検体量の組合せで分析を指示する手段と、その指示に従い、同一被検物質について異なる検体量で最初の検体量での測定結果を待つことなく続けて測定する機能を設ける。
【0009】
また、それぞれの検体量での測定結果を個々に確認できる手段と、どの検体量の結果を患者のデータとして採用するかを選択できる手段を設ける。
【発明の効果】
【0010】
初回の測定結果が出力されてから再測定を実施する場合と比較して、再測定に要する待ち時間(3〜10分ほど)を短縮することができ、より迅速な報告が可能となる。
【0011】
また、本機能を設けたことにより、精度管理用コントロール検体による同一被検物質の異なる検体量での同時測定が実施でき、データの正確性の検証を容易に実施することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明の実施例を添付図面に基づいて説明する。
【0013】
図1は、自動分析装置の原理的な全体構成概略図である。図1において101は操作部であり、操作部は、データを入力するためのキーボード102,マウス103,データを表示するための表示装置104,データを印刷するための印刷装置105,分析部と接続するためのインタフェース106、及び分析指示情報や測定結果を記憶するための記憶装置107等の周辺機器を有するコンピュータである。
【0014】
108は分析部であり、インタフェース106を介して操作部101と接続している。
【0015】
分析部において、109は反応ディスクであり、その同心円周上に反応容器110が複数個設置されている。111は試薬ディスクであり、その同心円周上に種々の試薬が入った試薬ボトル112が複数個設置されている。反応ディスク109の周囲には、検体分注プローブ113,攪拌装置114,洗浄装置115,光源116,多波長光度計117が、各々配置されている。反応ディスク109、及び試薬ディスク111の間には、試薬分注プローブ118が配置されている。また、検体分注プローブ113の回転円周上には、ラック搬送ベルト119が設置されている。ラック120は、ラック搬送ベルト119の上を移動する。検体を入れた検体容器121は、ラック120の中に複数個設置されている。
【0016】
これらの機構動作はすべて、インタフェース122を介してコンピュータ123により制御されている。
【0017】
操作者は、操作部101の表示装置104と、キーボード102、または、マウス103を使って分析装置に分析指示を与える。分析指示は、記憶装置107に記憶されると共に、インタフェース106を介して分析部108に送信される。分析部108は受信した分析指示に従い、次のように分析動作を行う。
【0018】
検体分注プローブ113が、検体容器121の中に入った検体を所定量だけ反応容器
110に分注する。ひとつの検体容器121に対する分注を完了したら、次の検体容器
121が検体分注プローブ113の真下に来るようにラック搬送ベルト119がラック
120を移動する。ラック120上の検体容器121全ての分注を完了したら、ラック
120はラック搬送ベルト119により搬出する。検体を分注された反応容器110は反応ディスク109の回転動作により、反応ディスク109上を回転移動する。その間に反応容器110の中の検体に対し、試薬分注プローブ118による試薬ボトル112内の試薬の分注,攪拌装置114による反応液の攪拌,光源116、及び多波長光度計117による吸光度の測定が行われ、後に洗浄装置115によって分析の終了した反応容器110が洗浄される。測定された吸光度信号はA/Dコンバータ124を経由し、インタフェース122を介してコンピュータ123へ入る。この吸光度信号から、あらかじめ被検物質ごとに設定された分析法に基づき、標準液検体の場合は設定された濃度データから検量線データが算出され、患者検体及びコントロール検体の場合は標準液検体の測定で得られる検量線データから濃度データが算出される。これらのデータは測定結果として、検体の種類を記号化した情報を付加した後、インタフェース106を介して操作部101に送信される。
【0019】
操作部101は、受信した測定結果を記憶装置107に記憶すると共に、表示装置104、および印刷装置105に出力する。
【0020】
図2は、従来の技術と発明適用後の測定シーケンス比較図である。被検物質Aを再測定する場合を例として挙げた。従来の技術での測定シーケンス201では、1回目の測定結果出力202の後に2回目の検体分注203を行うため、再測定の測定結果出力結果204までの測定結果出力待ち時間205は、図に示すように1回当たりの測定結果出力待ち時間206の約2倍となる。これに対して、発明適用後の測定シーケンス207では、1回目の検体分注208の後に続けて2回目の検体分注209を行うため、再測定の測定結果出力結果210までの測定結果出力待ち時間211は、図に示すように1回当たりの測定結果出力待ち時間206とほぼ同じ時間まで短縮することができる。
【0021】
図3は、操作部101の分析指示画面である。本画面は、検体ごとの分析指示情報を登録するための画面である。被検物質依頼キー301には被検物質名が表示され、キーボード102またはマウス103によって選択することにより分析が指示された状態となる。また、検体量/希釈倍率302は被検物質を分析する際の検体量または希釈倍率を指定するための入力エリアであり、「標準」,「減量」,「増量」,「3倍希釈」,「5倍希釈」,・・・の中から1つを選択する方式となっている。操作者は、検体の属性情報である検体識別303,検体種別304,検体番号305,患者ID306,サンプルカップタイプ307を入力後、分析を行う被検物質の指示を、検体量/希釈倍率302、および被検物質依頼キー301の選択により行う。図3の例では、被検物質ASTが標準検体量と増量検体量の組合せで、被検物質ZTTが標準検体量と減量検体量と3倍希釈検体量の組合せでそれぞれ分析指示されていることを示している。操作者が最後に登録ボタン308を押下することで分析指示情報が確定し、記憶装置107に記憶され、検体分析時に分析部108に送信される。
【0022】
図4は、操作部101の測定結果画面である。本画面は、操作部101が分析部108から受信した測定結果を表示するための画面であり、検体リストボックス401と項目リストボックス402から構成される。操作者が検体リストボックス401から任意の検体を選択すると、選択された検体の各被検物質の測定結果が項目リストボックス402に表示される。項目リストボックス402は、被検物質名403,測定結果404,測定結果データアラーム405から構成される。一つの特定被検物質について異なる検体量の組合せで分析を行った場合、その測定結果は、項目リストボックス402の複数リストを使用して表示される。図4の例では、被検物質名ASTについては、1つ目の測定結果が
「34」、1つ目の測定結果のデータアラームが「H」、2つ目の測定結果が「24」、2つ目の測定結果のデータアラームが「なし」であることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】分析装置の全体構成概略図。
【図2】従来の技術と発明適用後の測定シーケンス比較図。
【図3】分析指示画面。
【図4】測定結果画面。
【符号の説明】
【0024】
101…操作部、102…キーボード、103…マウス、104…表示装置、105…印刷装置、106,122…インタフェース、107…記憶装置、108…分析部、109…反応ディスク、110…反応容器、111…試薬ディスク、112…試薬ボトル、113…検体分注プローブ、114…攪拌装置、115…洗浄装置、116…光源、117…多波長光度計、118…試薬分注プローブ、119…ラック搬送ベルト、120…ラック、
121…検体容器、123…コンピュータ、124…A/Dコンバータ、201…従来の技術での測定シーケンス、202,204,210…測定結果出力タイミング、203,208,209…検体分注タイミング、205,211…測定結果出力待ち時間、206…1回当たりの測定結果出力待ち時間、207…発明適用後の測定シーケンス、301…被検物質依頼キー、302…検体量/希釈倍率、303…検体識別、304…検体種別、305…検体番号、306…患者ID、307…サンプルカップタイプ、308…登録ボタン、401…検体リストボックス、402…項目リストボックス、403…被検物質名、404…測定結果、405…測定結果データアラーム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定検体の特定分析項目を予め指定する検体指定手段と、
前記指定手段で指定された被検物質について実施する分析条件を2種以上指定可能な分析条件指定手段とを備え、
前記検体指定手段で指定された検体を分析する場合は、前記分析条件指定手段で指定された2種以上の分析を最初の測定結果を待つことなく並行して測定するように制御する制御手段と、
を備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の自動分析装置において、
前記検体指定手段,分析条件指定手段の少なくともいずれかは、操作部の入力画面上で指定できる機能を備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項3】
請求項1に記載の自動分析装置において、
前記検体指定手段,分析条件指定手段の少なくともいずれかは、HOSTコンピュータからの情報に基づいて指定できる機能を備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項4】
請求項1に記載の自動分析装置において、
結果の報告に緊急を要する緊急検体として指定する緊急検体指定手段を備え、
該緊急検体指定手段により緊急検体として指定されたことに伴い、前記検体指定手段,分析条件指定手段の少なくともいずれかを指示可能な表示を画面上に表示する機能を備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項5】
請求項1に記載の自動分析装置において、
緊急投入位置から検体が投入されたことに伴い、前記検体指定手段,分析条件指定手段の少なくともいずれかを指示可能な表示を画面上に表示する機能を備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項6】
請求項1に記載の自動分析装置において、
前記検体指定手段で精度管理用コントロール検体を指定可能な機能を備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項7】
請求項1に記載の自動分析装置において、
前記分析条件指定手段で指定する分析条件が検体の希釈割合であり、前記検体指定手段で指定された検体の分析項目毎に予め前記希釈割合を指定できる機能を備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項8】
請求項1に記載の自動分析装置において、
前記分析条件指定手段が、異なる検体量の組合せで、それぞれの検体量での測定回数を指定できる機能を備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項9】
請求項1に記載の自動分析装置において、
前記分析条件指定手段で指定された異なる検体量での測定結果の中から、どの検体量での測定結果を患者のデータとして採用するかを指定できる機能を有することを特徴とする自動分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−198991(P2007−198991A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−19961(P2006−19961)
【出願日】平成18年1月30日(2006.1.30)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】