説明

自動分析装置

【課題】測定項目毎に患者検体測定の一時停止の実施、非実施を指定することを可能とし、検査を中断することなく分析を行い、安定性の高い測定を効率的に行うことが可能な自動分析装置を実現する。
【解決手段】自動分析装置の操作部の画面100に、患者検体の測定を一時停止する成分物質を選択、指定する入力画面105を備える。入力画面105から入力した情報は分析パラメータ205の一部としてデータベースに保存される。分析計画時に、その入力値と検体の架設されたラックの種別情報305から測定を実施するか否かの判断を行い、登録された特定の成分物質の測定において、患者検体の測定をせず、校正物質及び精度管理物質のみを継続して分析するように分析計画を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液、尿などの生体試料の定性・定量分析を行う自動分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動分析装置において、一時停止機能(マスクと呼ぶ)を備えたものがある。
【0003】
これは、自動分析装置が、複数の分析ユニットを有する場合、安定した結果が得られなくなった特定の分析ユニットをマスクし、分注機構の調整や、反応機構の洗浄などのメンテナンスを行うものである。
【0004】
また、試薬が不足、または校正物質の測定結果が異常値を示した場合に、その成分物質をマスクし、その間に試薬を交換、または校正物質の再測定をして、測定結果が安定した後に、分析を再開するものが知られている。
【0005】
なお、複数の分析ユニットを備えた自動分析装置において、特定分析ユニットの電源を切断して保守作業をしながら、装置システム全体としては分析動作を継続することが可能な自動分析装置が、特許文献1に記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開2004−28933号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、例えば、上記分析ユニットのマスクを解除した直後は、マスク中に実施したメンテナンスによって、測定結果が不安定となる測定項目がある。
【0008】
そのような場合、患者検体の測定を行う前に、校正物質の測定や精度管理物質の測定を行い、測定結果が安定した後に、患者検体の分析を再開する方法をとっている。
【0009】
しかし、このような従来技術の方法では、全て分析ユニット又は全ての測定項目に対してマスクがかかってしまい、分析に長時間が必要となってしまう。
【0010】
本発明の目的は、測定項目毎に患者検体測定の一時停止の実施、非実施を指定することを可能とし、検査を中断することなく分析を行い、安定性の高い測定を効率的に行うことが可能な自動分析装置を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明は次のように構成される。
【0012】
生体試料に試薬を混合し、混合物を分析することにより生体試料の成分を測定する分析手段を有する自動分析装置において、患者検体の測定を一時停止する成分物質を選択、指定する入力手段を有し、特定の成分物質の測定において、患者検体の測定を一時的に停止し、校正物質及び精度管理物質のみを継続して分析する。
【0013】
患者検体の測定を一時停止する成分物質を選択、指定する入力手段は自動分析装置の操作画面上にて、自動分析装置にて測定可能な成分物質の内、どの成分物質を患者検体マスクするかを一覧リストから指定できるものである。
【0014】
自動分析装置が複数の分析ユニットを有し、同一の成分物質を複数の分析ユニットで測定可能な構成である場合は、その成分物質を共通でマスクすることも、特定の分析ユニット内の該成分物質のみをマスクすることも可能である。
【0015】
本発明において、自動分析装置は、検体の分析計画時に、まず、検体の種類が患者検体か否かを判断し、もし患者検体であった場合、その検体に対して依頼された測定項目の中に、上記入力手段によって指定された患者検体マスクの成分物質が含まれているかを判定し、もし含まれている場合には、それらの分析を計画しないように制御する。本判定は、検体の分析計画の度に行い、マスクが解除された後には即座に分析を再開する。
【0016】
このマスク解除は、マスク指定画面を使用して、再度選択することによりマスクを解除する方法の他に、操作画面上に患者検体マスクを解除する論理を登録できる機能を備え、患者検体マスク中に測定した校正物質や精度管理物質の測定値を使い、あらかじめ登録しておいた論理に従い、解除判定を行うように制御することも可能である。
【0017】
入力方法は閾値となる上下限値や標準偏差の値を利用する場合が一般的であるが、使用者により、論理式を自由にプログラミングできるようにすることで、より高精度な判断ができる。
【0018】
尚、これらの入力方法は上記の方法に限定されるものではなく、判定できる手段を提供できるものであれば、どのようなものであってもよい。
【0019】
また、自動分析操作部の操作部から入力する方法以外にも、各成分物質の分析条件や精度管理物質の測定条件の一部もしくは独立した情報として、外部の媒体(例えば、試薬や精度管理物質に添付されたバーコードやRFIDなどのID情報、フレキシブルなディスク、CDやDVDなどの記憶媒体、分析装置とRS232C、LAN、インターネットなどの通信手段を介してオンラインで接続したコンピュータなど)から提供し、それに従ってマスク解除の判定を行うことが可能である。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、測定項目毎に患者検体マスクの実施、非実施を指定することが可能となり、試薬交換時などに、通常の分析を停止することなく特定成分物質の測定状態の安定性を確認してから患者検体の測定を開始することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の実施形態の説明に先立って、使用される用語の定義を行なう。
【0022】
まず、患者検体とは、臨床検査技師による技術的検証により、その測定結果の妥当性を評価した後に、医学的診断に用いる為に、医師に対して報告が必要な検体のことであり、一般検体、至急検体、緊急検体などが含まれる。
【0023】
また、校正物質とは、試料中の未知濃度の物質を定量するための基準となる、濃度が正確に知られている溶液で、一般に、純度の高い特定の物質の必要量を正確に水、または有機溶媒などに溶解した、試薬組成と物質濃度が厳密に明確にされた標準試料のことである。
【0024】
自動分析装置では、この試料を一本または複数本測定することにより検量線を作成し、それに基づいて、それぞれの成分物質の濃度を測定する。使用者は、より正確性の高い測定結果を得る為に、自動分析装置にて、定期的にこの校正物質を測定して検量線を更新する。
【0025】
また、精度管理物質とは、分析の精度・正確性管理に用いる試料のことで、管理血清、プール血清、標準液、生理食塩水など目的に沿って多様な素材、組成のものが使用される。一種の試料で多項目分析に対応できる管理血清やプール血清が汎用される。
【0026】
この精度管理物質は、校正物質の測定後や、あらかじめ定義されたインターバル毎、また使用試薬が変更された際などに分析することにより装置の状態を監視するのに使用される。
【0027】
次に、本発明の実施形態について、添付図面を参照して説明する。
本発明の一実施形態における自動分析装置は複数の分析ユニット又は分析モジュールを備えており、検体の分析計画時に、まず検体の種類が患者検体か否かを判断する。
【0028】
そして、検体が、患者検体であった場合、その検体に対して依頼された測定項目の中に、後述する入力手段によって指定された患者検体マスクの成分物質が含まれているかを判定する。指定された患者検体マスクの成分物質が含まれている場合には、それらの分析を計画しないように制御する。指定されていない他の測定項目については、他の分析ユニットにより分析を行う。
【0029】
そして、患者検体マスク中に、校正物質の測定、精度管理物質の測定を行なう。校正物質、精度管理物質の測定結果により、患者検体マスクの解除条件が満足されると、患者検体マスクを解除して、分析を再開する。
【0030】
上記指定された患者検体マスク成分物質が含まれるか否かの判定は、検体の分析計画の度に行い、患者検体マスクが解除された後には、上述したように、即座に分析を再開するように制御する。
【0031】
これにより、複数の分析ユニットを備えた自動分析装置において、検査を中断することなく、分析を実行することができる。
【0032】
なお、本発明の実施形態においては、自動分析装置の操作部に、特定の成分物質に対して、患者検体マスク設定(患者検体一時停止機能設定)ができる画面を用意し、その入力に従った制御を行うものとした。
【0033】
図1は、本発明の一実施形態である自動分析装置の大まかなソフト構造例を示す図である。
【0034】
この図1に示した例では、プログラムを、U/I部100、DB部200、制御部300、分析部400という分類とする。
【0035】
U/I部100には、自動分析装置の構成画面である、依頼画面101、測定結果画面102、試薬画面103、精度管理画面104、ユーティリティ画面105などが含まれる。
【0036】
DB部(データベース部)200は、自動分析装置内で扱うデータを格納するデータベースを示し、一般検体結果201、試薬202、校正情報203、精度管理204、分析パラメータ205などに分けてデータ管理を行う。
【0037】
また、制御部300は、分析結果を報告する為の処理プログラムの集合群であり、例えば、測定依頼情報管理プログラム301、分析条件管理プログラム302、分析計画管理プログラム303、測定結果管理プログラム304、ラック管理プログラム305、試薬管理プログラム306などが存在する。
【0038】
分析部400は、一つ以上の分析ユニット401、402、403・・・の集合体であり、各分析ユニットは、生体試料と試薬とを混合して、測定値を出力する機能を有する。
【0039】
通常の処理フローは以下の通りである。
測定依頼情報は、依頼画面101にて入力される(あるいは図には示していないが、ホストコンピュータに登録された情報を受信する)ことにより、一般検体結果DB201に保存される。そして、検体が分析部400に到着したなどのタイミングで、測定依頼情報管理プログラム301から分析計画管理プログラム303に渡される。
【0040】
ここで、分析計画管理プログラム303は、ラック管理プログラム305からラック種別情報505を受け取り、その種別により分析計画を立てて、測定順序などを決定する。分析計画管理プログラム303により作成された分析依頼情報507は、分析ユニット401・・・に送られ分析動作が行われる。分析ユニット401・・・は、その依頼に従って分析動作を行い、測定結果506を測定結果管理プログラム304に送信し、一般検体結果データベース201に保存され、測定結果画面102にて閲覧可能な状態となる。
【0041】
本発明の一実施形態では、患者検体マスク情報504をユーティリティ画面105にて入力できるようにし、その入力値を分析パラメータデータベース205の一部として保存しておく。この情報は、分析条件管理プログラム302によって管理される。
【0042】
分析計画管理プログラム303は、分析計画時に、患者検体マスク情報504を分析条件管理プログラム302から受け取り、ラック管理プログラム305から受け取ったラック種別505が患者検体のものであった場合、各依頼分析項目が患者検体マスクに該当するかを判定し、患者検体マスクである場合は、分析依頼情報507にそれらを含まないように制御する。
【0043】
次に、図2を使って、患者検体マスクの入力例を示す。この図2に示す画面例では分析ユニット選択タブ11が画面上部にあり、使用者はマスク対象とする分析ユニットの種類をクリックする。
【0044】
図2中、符号12のリストボックスには、選択タブ11で選択された分析ユニットで測定可能な分析項目の一覧が表示され、現在のマスク状態が色を変えるなどの方法により識別可能である。
【0045】
この画面例において、通常のマスク、すなわち患者検体、校正物質および精度管理物質の区別無く、その分析項目の測定をマスクする場合には、目的の項目の行を選択し、リスト下部に配置されたT−Mask(項目マスク)ボタン14を押すことにより実行される。
【0046】
本発明の一実施形態における患者検体マスクを実施する為には、T−Maskボタン14とは別に設けたP−Mask(患者検体マスク)ボタン15を追加し、上記と同様に、目的の分析項目を選択してから、このボタンを押すことにより、患者検体マスクの指定がなされることとなる。
【0047】
上記方法によりシステム内に登録された測定項目毎のマスクを解除するには様々な方法が考えられる。
使用者がマニュアルで設定を解除する場合は、図2で選択した項目を再度選択し、T−Mask(項目マスク)ボタン14を再度押すことにより選択が解除される。
【0048】
なお、図2中、13はマスクボタン、16はキャンセルボタン、17はモジュールマスクボタン、18はOKボタンである。
【0049】
マニュアルでの解除以外の方法として、図3を使って、患者検体マスクの解除を自動的に行う為の論理入力の方法を示す。
【0050】
図3の画面例では、患者検体マスク中に実施された、精度管理結果の値を用いて、解除するか否かの判定を行うルールを3種類用意している。
【0051】
第1の種類である、Target Mean選択ラジオボタン1001を選択した場合、Target Mean下限値入力領域1004とTarget Mean上限値入力領域1005とが入力可能な状態となる。使用者は、この2つの領域に閾値となる値を入力する。図3の例では、下限値が10.0、上限値が20.0と定義されているので、この分析項目の精度管理物質の値がその範囲内に入っている場合には、自動的に患者検体マスクを解除し、後続する患者検体の該項目の測定を再開するように制御する。
【0052】
第2の種類である、Target SD 選択ラジオボタン1002を選択した場合には、Target SD限界値入力領域1006が入力可能状態になる。使用者は、Target SD限界値入力領域1006に、例えば、「2」を入力すると、同じく患者検体マスク中に測定した精度管理物質の値が±2SDの範囲に入っている場合に自動的にマスクを解除するように制御する。
【0053】
第3の種類である、Macro選択ラジオボタン1003を選択した場合には、マクロ式入力域1007が編集可能な状態となり、使用者により自由に論理式をプログラムすることができ、システムはその論理式に従い、自動的にマスクを解除するように制御する。
【0054】
そして、入力された値が正しければ、OKボタン1008を押すことによりその値が確定される。また、入力された値が正しくなければ、Cancelボタン1009を押すことにより、入力値はキャンセルされることになる。
【0055】
なお、上述した例は、本発明を自動分析装置に適用した場合の例であるが、自動分析装置以外の装置であっても、ある物質の成分を測定する装置において、装置のメンテナンス後や測定に使用する薬剤や試薬変更などの作業の前後で、測定条件が変化する可能性がある装置について、本発明は適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の一実施形態における処理フローを示す図である。
【図2】本発明の一実施形態における表示画面の一例を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態における患者検体マスクを解除する論理入力画面の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0057】
11 分析ユニット選択タブ
12 項目名リストボックス
13 Maskボタン
14 T−Mask(項目マスク)ボタン
15 P−Mask(患者検体マスク)ボタン
16 キャンセルボタン
17 モジュールマスクボタン
18 OKボタン
100 U/I部
101 依頼画面
102 測定結果画面
103 試薬画面
104 精度管理画面
105 ユーティリティ画面
200 DB部
201 一般検体結果DB
202 試薬DB
203 校正情報DB
204 精度管理DB
205 分析パラメータ
300 制御部
301 測定依頼情報管理プログラム
302 分析条件管理プログラム
303 分析計画管理プログラム
304 測定結果管理プログラム
305 ラック管理プログラム
306 薬管理プログラム
400 分析部
401 分析ユニット1
402 分析ユニット2
403 分析ユニット3
501 測定依頼情報
502 患者検体マスク情報
503 測定依頼情報
504 患者検体マスク情報
505 ラック種別
506 測定結果
507 分析依頼
1001 Target Mean 選択ラジオボタン
1002 Target SD 選択ラジオボタン
1003 Macro 選択ボタン
1004 Target Mean 下限値入力領域
1005 Target Mean 上限値入力領域
1006 Target SD限界値入力領域
1007 マクロ式入力域
1008 OKボタン
1009 キャンセルボタン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料に試薬を混合し、混合物を分析することにより生体試料の成分を測定する分析手段を有する自動分析装置において、
生体試料が患者検体の場合に、その患者検体の測定を一時停止する成分物質を選択、指定する入力手段と、
患者検体の測定項目に、上記選択指定された成分物質が存在する場合、その選択指定された成分物質の測定を一時的に停止し、この一時停止期間中に、検量線を作成するための、校正物質の測定と、装置の精度状態を管理するための精度管理物質の測定とを、上記分析手段に継続して実行させる動作制御部と、
を備えることを特徴とする自動分析装置。
【請求項2】
請求項1記載の自動分析装置において、測定を一時停止している成分物質を表示する表示手段と、患者検体の測定再開の条件を指示する測定再開指示手段とを備えることを特徴とする自動分析装置。
【請求項3】
請求項1記載の自動分析装置において、一時停止していた成分物質の測定開始は、校正物質の測定結果または精度管理物質の測定結果またはその両方の結果に基づいて上記制御部が判定することを特徴とする自動分析装置。
【請求項4】
請求項3記載の自動分析装置において、上記一時停止していた成分物質の測定開始を決定する為の判定論理を入力する手段を備え、その判定入力値に従って上記制御部は、上記一時停止を解除することを特徴とする自動分析装置。
【請求項5】
請求項3記載の自動分析装置において、上記一時停止していた成分物質の測定開始の判定論理が、成分物質の分析条件と共に外部の媒体により上記制御部に供給されることを特徴とする自動分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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