説明

自動分析装置

【課題】 簡単な構成で分析データの異常を検出することができる自動分析装置を提供する。
【解決手段】 電解質項目の第1試薬によりm倍に希釈された被検試料の混合液及びこの混合液を校正するための校正試料72bを測定して被検データ及び校正データを生成する電解質測定ユニット19と、電解質測定ユニット19により生成された校正データを用いて被検データから校正被検データを算出し、算出した校正被検データから分析データを生成する演算部31と、データ処理部30で生成された分析データを出力する出力部40とを備え、校正試料72bの電解質濃度を電解質項目の基準範囲外に含まれる基準範囲外値をmで除した希釈内部標準値に設定し、演算部31で生成された分析データが基準範囲外値を含む異常範囲内であるときに、その分析データが異常であると判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体中に含まれている成分を分析する自動分析装置に関わり、特にヒトから採取された血液や尿などの被検試料に含まれる成分を自動的に分析する自動分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動分析装置は被検試料に含まれる成分の生化学検査項目や免疫検査項目などを対象とし、ほとんどの項目は反応容器に分注した被検試料と分析を行う各項目に該当する試薬との混合液の反応によって生ずる色調などの変化を、光の透過量を測定することにより、被検試料中の様々な被測定物質の濃度や酵素の活性を測定する。
【0003】
一方、生化学検査項目の内のナトリウムイオン、カリウムイオン、塩素イオンなどの電解質の項目は、各電解質の活量に選択的に応答するイオン選択性電極の起電力を測定することにより、被検試料中の電解質の濃度を測定する。
【0004】
このイオン選択性電極を有する電解質測定ユニットを用いて測定する場合、イオン選択性電極の起電力が短時間で変動するため、被検試料測定毎又は複数の被検試料測定毎に、被検試料を校正するための内部標準として電解質濃度を基準範囲に対応する値に設定した校正試料を測定する。なお、基準範囲とは、性、年齢、生活習慣、被検試料採取条件を同じくする健康な基準固体を、統計学的に信頼性のある数だけ測定した測定値の中央値を含む95%が含まれる範囲のことであり、項目毎に求められる。
【0005】
そして、被検試料を希釈しないで測定する直接法の場合、校正試料に含まれる電解質濃度は基準範囲内である値に設定され、被検試料を希釈して測定する希釈法の場合、校正試料の電解質濃度は基準範囲内である値を、被検試料を希釈する希釈倍率で除した値に設定される。
【0006】
電解質測定ユニットを用いた測定では、試料容器に供給された校正試料が測定可能な量よりも少ない場合、又はその校正試料や被検試料をイオン選択性電極内に吸引する吸引ポンプが吸引動作をしても被検試料又は校正試料を吸引できない場合には、前に吸引した液が残ってしまいその残った液を測定してしまうことがある。
【0007】
これらの場合、被検試料の電解質濃度が基準範囲外であっても、内部標準の校正試料の起電力に対する被検試料の起電力の差がほとんどないので、校正試料とほぼ同じ基準範囲内の分析データが生成される。このため、装置異常、基準範囲外などのエラー情報が付加されない基準範囲内の分析データは正常と判断され再度測定されることもないので、分析データの異常に気付くことができない問題がある。
【0008】
例えば、試薬により10倍に希釈された被検試料の混合液を、ナトリウムイオンの基準範囲内である140mmol/Lを希釈倍率の10で除した14.0mmol/Lに設定された校正試料を用いて測定した時に、被検試料中のナトリウムイオン濃度が基準範囲外の155mmol/Lであっても、希釈された被検試料と校正試料の起電力差が0であると、被検試料中のナトリウムイオンの分析データは140mmol/L近傍の値として生成される。
【0009】
この問題を未然に防ぐために、試料容器に測定可能な量以上の校正試料が供給された時にその校正試料と接触する一対の液面検出電極とこの電極に接続された検出回路とを設け、試料容器に測定可能量以上の校正試料が供給されたか否かと、試料容器からイオン選択性電極内に校正試料が吸引されたか否かを検出するようにした方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2004−251799号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、試料容器に供給された校正試料を検出しようとすると、電極及び検出回路を設ける必要があり、電解質測定ユニットの構成を複雑にしてしまう問題がある。また、イオン選択性電極内に混合液を吸引できなかった場合に分析データの異常を検出できない問題が残る。
【0011】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたもので、簡単な構成で分析データの異常を検出することができる自動分析装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、請求項1に係る本発明の自動分析装置は、被検試料とこの被検試料の測定項目に該当する試薬との混合液を測定する自動分析装置において、前記試薬により所定の倍率で希釈された前記混合液を測定して被検データを生成し、更にこの被検データを校正するための校正試料を測定して校正データを生成する測定手段と、前記測定手段により生成された前記校正データを用いて前記被検データから校正被検データを算出し、算出した校正被検データから予め作成された前記測定項目の検量線を用いて分析データを生成する分析データ生成手段とを備え、前記校正試料に含まれる前記測定項目の内の少なくとも1つの項目の成分の濃度を、この項目の基準範囲外に含まれる基準範囲外値を前記所定の倍率で除した希釈内部標準値に設定するようにしたことを特徴とする。
【0013】
また、請求項4に係る本発明の自動分析装置は、被検試料の測定項目を測定する自動分析装置において、前記被検試料を測定して被検データを生成し、更にこの被検データを校正するための校正試料を測定して校正データを生成する測定手段と、前記測定手段により生成された前記校正データを用いて前記被検データから校正被検データを算出し、算出した校正被検データから予め作成された検量線を用いて分析データを生成する分析データ生成手段とを備え、前記校正試料に含まれる前記測定項目の内の少なくとも1つの項目の成分の濃度を、この項目の基準範囲外に含まれる基準範囲外値に設定するようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、被検試料の測定項目とこの被検試料を校正するための校正試料に含まれる前記測定項目の内の少なくとも1つの項目の成分の濃度を、この項目の基準範囲外である基準範囲外値に対応する値に設定するだけの簡単な構成で、分析データの異常を検出することが可能となり、分析データの異常による誤診を防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明による自動分析装置の実施例を、図1乃至図5を参照して説明する。
【実施例】
【0016】
図1は、本発明の実施例に係る自動分析装置の構成を示したブロック図である。この自動分析装置100は、様々な項目の標準試料や被検試料毎に選択された項目の測定を行う分析部18と、分析部18の測定動作の制御を行う分析制御部20と、各項目の標準試料や被検試料などの測定により分析部18から出力される標準試料の標準データや被検試料の被検データを処理して各項目の検量線の作成や分析データの生成を行うデータ処理部30と、データ処理部30からの検量線や分析データを出力する出力部40と、各項目の標準試料や検量線などの分析条件の入力や、各種コマンド信号を入力する操作部50と、分析制御部20、データ処理部30、及び出力部40を統括して制御するシステム制御部60とを備えている。
【0017】
図2は、分析部18の斜視図である。この分析部18は、標準試料や被検試料に含まれる各項目の成分に対して選択的に反応する第1試薬やこの第1試薬と対の第2試薬が入った試薬ボトル7と、試薬ボトル7を収納する試薬ラック1と、第1試薬の入った試薬ボトル7を収納した試薬ラック1を収納する試薬庫2と、第2試薬の入った試薬ボトル7を収納した試薬ラック1を収納する試薬庫3と、円周上に複数の反応容器4を配置した反応ディスク5と、各項目の標準試料や被検試料などのサンプルを収容するサンプルカップ17と、サンプルを収容したサンプルカップ17をセットするディスクサンプラ6とを備えている。
【0018】
そして、1サイクル毎に、試薬庫2、試薬庫3、及びディスクサンプラ6は夫々回動し、反応ディスク5は回転して分析制御部20により制御された位置に停止する。
【0019】
また、分析部18は、1サイクル毎に、試薬庫2,3の試薬ボトル7から第1及び第2試薬を吸引した後、反応容器4に吐出する第1及び第2試薬分注プローブ14,15と、ディスクサンプラ6のサンプルカップ17からサンプルを吸引した後、反応容器4に吐出する分注プローブ16とを備えている。
【0020】
そして第1試薬分注プローブ14、第2試薬分注プローブ15、及び分注プローブ16を回動及び上下移動可能に保持する第1試薬分注アーム8、第2試薬分注アーム9、及び分注アーム10を備えている。
【0021】
更に、1サイクル毎に、反応容器4内におけるサンプルと第1試薬との混合液や、サンプルと第1試薬と第2試薬との混合液を撹拌する撹拌ユニット11と、サンプルと第1試薬との混合液を反応容器4から吸引してナトリウムイオン、カリウムイオン、及び塩素の電解質項目を測定する電解質測定ユニット19と、サンプルと第1試薬との混合液や、サンプルと第1試薬と第2試薬との混合液を含む反応容器4を測光する測光ユニット13と、反応容器4内の測定を終えた混合液を吸引すると共に、反応容器4内を洗浄・乾燥する洗浄ユニット12とを備えている。
【0022】
電解質測定ユニット19は、反応容器4から電解質項目の標準試料や電解質項目が選択された被検試料の混合液を吸引し、この混合液を測定して標準データや被検データを生成した後、データ処理部30に出力する。
【0023】
測光ユニット13は、回転移動する反応容器4に光を照射して、標準試料や被検試料を含む混合液を透過した光を吸光度に変換した標準データや被検データを生成した後、データ処理部30に出力する。
【0024】
その後、混合液の測定を終了して洗浄ユニット12で洗浄・乾燥された反応容器4は、再び測定に使用される。
【0025】
分析制御部20は、試薬庫2、試薬庫3、及びディスクサンプラ6の夫々回動、反応ディスク5の回転、分注アーム10、第1試薬分注アーム8、第2試薬分注アーム9、及び撹拌ユニット11の夫々回動及び上下移動、洗浄ユニット12の上下移動、撹拌ユニット11の撹拌駆動などを行う機構及び各機構の制御部を備えている。
【0026】
また、サンプル分注プローブ16からサンプルを吸引及び吐出させる分注ポンプ、第1及び第2試薬分注プローブ14,15から第1及び第2試薬を吸引及び吐出させる各試薬ポンプ、洗浄ユニット12から反応容器4内洗浄用の洗浄液を供給及び吸引させるための洗浄ポンプ及び反応容器4内を乾燥させるための乾燥ポンプなどの各種ポンプ及び各種ポンプの制御部を備えている。
【0027】
更に、電解質測定ユニット19の各ユニットを制御する制御部を備えている。
【0028】
図1のデータ処理部30は、分析部18から出力された標準データや被検データから検量線の作成や分析データを生成する演算部31と、演算部31で作成及び生成された検量線及び分析データなどを保存する記憶部32とを備えている。
【0029】
演算部31は、分析部18の電解質測定ユニット19や測光ユニット13から出力された各項目の標準データから検量線を作成して記憶部32に保存すると共に出力部40に出力する。また、電解質測定ユニット19や測光ユニット13から出力された各項目の被検データに基づいて、その項目の検量線を記憶部32から読み出す。そして、読み出した検量線を用いてその項目の被検データから活性値や濃度値などの分析データを生成し、生成した分析データを記憶部32に保存すると共に出力部40に出力する。
【0030】
記憶部32は、ハードディスクなどを備え、演算部31から出力された検量線を項目毎に保存し、分析データを被検試料毎に保存する。
【0031】
出力部40は、データ処理部30から出力された検量線、分析データなどを印刷出力する印刷部41及び表示出力する表示部42を備えている。そして、印刷部41は、プリンタなどを備え、データ処理部30から出力された検量線、分析データなどを予め設定されたフォーマットに基づいて、プリンタ用紙に印刷出力する。表示部42は、CRTや液晶パネルなどのモニタを備え、各項目の標準試料や検量線などの分析条件を設定するための画面の表示や、データ処理部30から出力された検量線、分析データなどの表示を行う。
【0032】
操作部50は、キーボード、マウス、ボタン、タッチキーパネルなどの入力デバイスを備え、各項目の標準試料や検量線などの分析条件の設定、被検体の被検体IDや被検体名などの被検体情報の入力、被検体の被検試料毎の測定する項目の選択、各項目の標準試料測定操作、被検試料測定操作などの様々な操作が行われる。
システム制御部60は、図示しないCPUと記憶回路を備え、操作部50から供給される操作者のコマンド信号、各項目の標準試料や検量線などの分析条件、被検体情報、被検試料毎の測定項目などの情報を記憶した後、これらの情報に基づいて、分析部18を構成する各ユニットを一定サイクルの所定のシーケンスで測定動作させる制御、或いは検量線の作成、分析データの生成と出力に関する制御などシステム全体の制御を行なう。
【0033】
次に、図1乃至図4を参照して、電解質測定ユニット19の構成の詳細を説明する。図3は、電解質測定ユニット19の構成を示した図である。以下、ナトリウムイオン、カリウムイオン、及び塩素イオンの各電解質の項目の測定の例を説明する。
【0034】
この電解質測定ユニット19は、各電解質項目の検量線を作成するための第1及び第2の標準試料L,Hや被検試料などのサンプルとこのサンプルをm倍に希釈するための第1試薬との混合液を校正するための校正試料72bを収容する校正試料ボトル72aと、混合液や校正試料72bに含まれる各電解質に選択的に起電力応答するイオンセンサユニット81とを備えている。
【0035】
また、校正試料ボトル72a内の校正試料72bを貯留するための校正部70と、分析部18の反応容器4内の混合液及び校正部70に貯留した校正試料72bをイオンセンサユニット81内に吸引すると共に排液タンク82aに排出する吸引ポンプ82と、イオンセンサユニット81の起電力を測定する信号処理部83とを備えている。
【0036】
イオンセンサユニット81は、各電解質に選択的に電位応答する3つのイオン選択性電極(ナトリウムイオン選択性電極、カリウムイオン選択性電極、及び塩素イオン選択性電極)と、一定の電位を保持する参照電極とにより構成される流通型複合電極81aと、この流通型複合電極81aの流通口の入り口側に接続され、混合液や校正試料72bを流通型複合電極81a内に吸引するための吸引ノズル81bとを備えている。そして、図示しないイオンセンサユニット移動機構により反応容器4と校正部70の間を移動する。
【0037】
流通型複合電極81aの各イオン選択性電極は、参照電極との間で、混合液や校正試料72b中の各電解質に選択的に起電力として応答する。
【0038】
そして、カチオンであるナトリウムイオンに対する起電力は、温度及び活量係数が一定となる条件でナトリウムイオン濃度CNaの対数ln(CNa)に正比例し、ネルンスト式から一次関数の定数である傾きSNa及び切片E0Naを用いて、起電力ENa=E0Na+SNa×ln(CNa)で表される。また、カチオンであるカリウムイオンに対する起電力は同様にして、カリウムイオン濃度CK、傾きSK、及び切片E0Kを用いて、起電力EK=E0K+SK×ln(CK)で表される。
【0039】
また、アニオンである塩素イオンに対する起電力は、温度及び活量係数が一定となる条件で塩素イオン濃度CCLの対数ln(CCL)に反比例し、ネルンスト式から一次関数の定数である傾きSCL及び切片E0CLを用いて、起電力ECL=E0CL―SCL×ln(CCL)で表される。
【0040】
そして、各起電力の傾きは、イオン選択性電極毎に異なるので、第1及び第2の標準試料L,Hの測定により求められる。また、切片は、イオン選択性電極毎に異なると共に変動しやすいので、サンプル測定毎又は複数のサンプル測定毎に、校正試料72bの測定によって校正される。
【0041】
校正部70は、校正試料72bを貯留する試料容器71と、この試料容器71内に校正試料72bを供給する校正試料ポンプ72と、不用になった校正試料72bを試料容器71内から吸引して試料容器71の外側に排出する排液ポンプ74とを備えている。校正試料ポンプ72及び排液ポンプ74は、分析制御部20により制御される。
【0042】
校正試料72bに含まれる測定対象である電解質項目の内の少なくとも1つの項目の成分濃度が、その項目の基準範囲外に含まれる基準範囲外値をm倍のmで除した希釈内部標準値に設定される。ここでは、ナトリウム項目のナトリウムイオンの濃度が、この項目の基準範囲外に含まれるナトリウム基準範囲外値CSNaをm倍のmで除したナトリウム希釈内部標準値(CSNa/m)に設定されている。またカリウムイオンの濃度が、この項目の基準範囲内であるカリウム基準範囲内値CSKをmで除したカリウム希釈内部標準値(CSK/m)に設定されている。更に塩素イオンの濃度がこの項目の基準範囲内である塩素基準範囲内値CSCLをm倍のmで除した塩素希釈内部標準値(CSCL/m)に設定されている。
【0043】
試料容器71に貯留された校正試料72bは、試料容器71に移動したイオンセンサユニット81の吸引ノズル81bから吸引される。
【0044】
校正試料ポンプ72は、校正試料ボトル72aから校正試料72bを吸引して吸引ポンプ82の吸引量よりも多い供給量V1以上の校正試料72bを試料容器71内に供給する。
【0045】
排液ポンプ74は、吸引ポンプ82の吸引動作後に試料容器71内に残った不用な校正試料72bを供給量V1よりも多い排出量V2の吸引量で試料容器71内から排出する。
【0046】
吸引ポンプ82は、分析制御部20により制御され、反応容器4内の混合液及び試料容器71内の校正試料72bをイオンセンサユニット81内に吸引すると共にイオンセンサユニット81内の校正試料72bや混合液を排液タンク82aに排出する。
【0047】
信号処理部83は、イオンセンサユニット81内に吸引された第1及び第2の標準試料L,Hの混合液、被検試料の混合液、及び校正試料72bに含まれる各電解質の起電力を測定し、測定した起電力の信号を増幅した後、デジタル信号に変換して第1及び第2の標準データ、被検データ、及び校正データを生成する。そして、生成した各データをデータ処理部30の演算部31に出力する。
【0048】
図4は、電解質項目のナトリウム項目の検量線の例を示した図である。このX,Y軸に表された例えばナトリウム項目の検量線DNaは、第1及び第2の標準試料L,Hの混合液の測定により生成される第1及び第2の標準データに基づいて、データ処理部30の演算部31で算出される関数により形成される。
【0049】
ナトリウム項目の基準範囲の下限を下限値CNLとし、上限を上限値CNHとすると、第1の標準試料Lに含まれるナトリウムイオンの濃度は下限値CNLよりも低い第1の標準値CLに設定され、また第2の標準試料Hに含まれるナトリウムイオンの濃度は上限値CNHよりも高い第2の標準値CHに設定され、システム制御部60の記憶回路に保存されている。
【0050】
また、ナトリウム項目のナトリウム基準範囲外値CSNaは、基準範囲外の例えば上限値CNHと第2の標準値CHの間に設定されている。なお、基準範囲は、性、年齢、生活習慣、被検試料採取条件を同じくする健康な被検体の被検試料を統計学的に信頼性のある数だけ項目毎に測定した分析データの中央値を含む95%が含まれる範囲のことである。
【0051】
次に、検量線DNaの作成について説明する。
分析部18の電解質測定ユニット19では、電解質項目の第1試薬によりm倍に希釈された第1の標準試料Lの混合液の測定により第1の標準データENaLを生成し、また第1の標準データENaLを校正するための校正試料72bの測定により校正データENaSLを生成する。また、電解質項目の第1試薬によりm倍に希釈された第2の標準試料Hの混合液の測定により第2の標準データENaHを生成し、また第2の標準データENaHを校正するための校正試料72bの測定により校正データENaSHを生成する。
【0052】
データ処理部30の演算部31では、電解質測定ユニット19からの第1の標準データENaLからこの校正データENaSLを差し引いて第1の校正標準データΔENaLSを算出する。また、電解質測定ユニット19からの第2の標準データENaHから校正データENaSHを差し引いて第2の校正標準データΔENaHSを算出する。
【0053】
そして、X軸を対数で表したX,Y軸上において、第1の標準値CL及び第1の校正標準データΔENaLSのPL座標(CL,ΔENaLS)と、第2の標準値CH及び第2の校正標準データΔENaHSのPH座標(CH,ΔENaHS)とを通る直線が、関数Y=ΔENaLS+SNa×(lnX−lnCL){SNa=(ΔENaHS―ΔENaLS)/ln(CH/CL)}により形成される検量線DNaとして表される。
【0054】
次に、分析データの生成について説明する。
被検試料Aiのナトリウム項目の分析データを生成するために、まず第1試薬によりm倍に希釈された被検試料Aiの混合液及びこの被検試料Aiの校正試料72bの測定により、被検データENai及びこの校正データENaiSを生成する。次いで、被検データENaiから校正データENaiSを差し引いて校正被検データΔENaiSを算出する。この算出した校正被検データΔENaiSを、関数Y=ΔENaLS+SNa×(lnX−lnCL)のYに代入してXの値を求めることにより、被検試料Aiのナトリウム項目の分析データCNai[=CL×exp{(ΔENaiS―ΔENaLS)/SNa}]を生成する。
【0055】
ところで、校正試料ポンプ72や吸引ポンプ82などユニットの故障による動作不良が生じた場合、そのユニットに設けられた位置センサなどの検出により故障情報が出力部40に出力されるので、異常な分析データが生成されるのを未然に防ぐことができる。
【0056】
しかしながら、校正試料ボトル72aと校正試料ポンプ72の間、校正試料ポンプ72と試料容器71の間、及びイオンセンサユニット81と吸引ポンプ82の間を接続しているチューブ内に例えば水垢などの不用物が付着又は堆積することがある。また、被検試料がフィブリンを含んでいる血清である場合、吸引ノズル81b先端部又は内部にフィブリンが付着することがある。この不用物の付着や堆積により、試料容器71内に校正試料72bを供給できない問題や、イオンセンサユニット81内に校正試料72bや混合液を吸引できない問題が発生する。
【0057】
この問題が発生した場合、試料容器71内に供給された校正試料72bが測定可能な量よりも少ないと、イオンセンサユニット81内に校正試料72bを吸引しても以前に吸引した混合液が残り、校正試料72bの代わりにその混合液を測定してしまうことになる。また、イオンセンサユニット81内に校正試料72b又は被検試料Aiの混合液の一方の液を吸引できないと、以前に吸引した他方の液がイオンセンサユニット81内に残り、一方の液の代わりに他方の液を測定してしまうことになる。
【0058】
このように、一方の液の代わりに他方の液を測定してしまうと、ほぼ同じ液を続けて測定することになり、ナトリウム項目、カリウム項目、及び塩素項目の各校正被検データΔEiS(ΔENaiS,ΔEKiS,ΔECLiS)が0又は0付近の値になる。従って、各校正被検データΔEiSはこの各校正データEiS(ENaiS,EKiS,ECLiS)と同じ又はその付近のデータとして生成される。
【0059】
このため、ナトリウム項目の分析データCNaiはナトリウム基準範囲外値CSNa又はこの値の付近の値になる。またカリウム項目の分析データCKiはカリウム基準範囲内値CSK又はこの値の付近の値になる。更に塩素項目の分析データCCLiは塩素基準範囲内値CSCL又はこの値の付近の値になる。
【0060】
そして、被検試料Aiのナトリウム項目の分析データCNaiが予め設定されたナトリウム基準範囲外値CSNaを含む所定の異常範囲内である場合、基準範囲から外れる分析データの数が少ないこと、更に所定の異常範囲に入る分析データ数が少ないことから、その被検試料Aiのナトリウム項目、カリウム項目、及び塩素項目の全ての分析データCiが異常であると判定し、その各分析データに異常情報を付加して記憶部32に保存すると共に出力部40に出力する。
【0061】
このように、ナトリウム項目の分析データCNaiが予め設定した所定の異常範囲内である場合、この分析データCNaiと共に生成されるカリウム項目の分析データCKi及び塩素項目の分析データCCLiが異常であると判定し、出力部40にその異常情報を出力することができる。
【0062】
なお、校正試料に含まれる測定対象の項目の内、より多くの項目の成分濃度を基準範囲外値に対応する希釈内部標準値に設定することにより、基準範囲外値に対応する希釈内部標準値に設定した項目の分析データが同時に予め設定した異常範囲内である場合、前記測定対象の項目の分析データが異常であると、より正確に判定することができる。
【0063】
以下、図1乃至図5を参照して、実施例に係る自動分析装置100の動作を説明する。図5は、自動分析装置100の動作の一例を示したフローチャートである。自動分析装置100には、予め電解質項目の標準試料測定操作による第1及び第2の標準試料L,Hの測定により、作成された各電解質項目の検量線DNa,DK,DClがデータ処理部30の記憶部32に保存されている。
【0064】
操作部50から被検試料A1の被検体の被検体ID、被検体名などの被検体情報を入力し、被検試料A1に対して例えば電解質項目を選択入力する。そして、被検試料A1を収容したサンプルカップ17をディスクサンプラ6にセットした後に、操作部50から被検試料測定操作が行われると、自動分析装置100は動作を開始する(ステップS1)。
【0065】
システム制御部60は、分析制御部20、データ処理部30、及び出力部40に指示して、被検試料A1の電解質項目を測定するための動作をさせる。その指示に基づいて分析制御部20は、分析部18の各ユニットを制御して被検試料A1の各電解質項目の測定をさせる。
【0066】
分析部18のサンプル分注プローブ16は、ディスクサンプラ6のサンプルカップ17から被検試料A1を吸引して反応容器4に吐出する。第1試薬分注プローブ14は、試薬庫2の試薬ボトル7から電解質項目の第1試薬を吸引して、被検試料A1の入った反応容器4に第1試薬を吐出する。撹拌ユニット11は、反応容器4内の第1試薬によりm倍に希釈された被検試料A1の混合液を撹拌する。
【0067】
電解質測定ユニット19の吸引ポンプ82は、反応容器4から被検試料A1の混合液をイオンセンサユニット81内に吸引する(ステップS2)。
【0068】
信号処理部83は、イオンセンサユニット81の各電解質項目に応じた起電力を測定した後、被検試料A1の各電解質項目の各被検データENa1,EK1,ECL1を生成してデータ処理部30の演算部31に出力する(ステップS3)。
【0069】
校正部70の校正試料ポンプ72は、校正試料ボトル72aから校正試料72bを吸引して試料容器71に供給する(ステップS4)。
【0070】
イオンセンサユニット81は、イオンセンサユニット移動機構により図3に示した矢印L1方向に水平移動した後、試料容器71内に下降する。吸引ポンプ82は、試料容器71からイオンセンサユニット81内に校正試料72bを吸引する(ステップS5)。
【0071】
信号処理部83は、イオンセンサユニット81の各電解質項目に応じた起電力を測定した後、校正試料72bの各電解質項目の各校正データENa1S,EK1S,ECL1Sを生成して演算部31に出力する(ステップS6)。
【0072】
演算部31は、信号処理部83から出力された各被検データENa1,EK1,ECL1から各校正データENa1S,EK1S,ECL1Sを差し引いて各校正被検データΔENa1S,ΔEK1S,ΔECL1Sを算出する。次いで、記憶部32から電解質項目の各検量線DNa,DK,DClを読み出し、読み出した各検量線DNa,DK,DCLを用いて各校正被検データΔENa1S,ΔEK1S,ΔECL1Sから各分析データCNa1,CK1,CCL1を生成する(ステップS7)。
【0073】
そして、生成した分析データCNa1が異常範囲内である場合(ステップS8のはい)、各分析データCNa1,CK1,CCL1が異常であると判定し、例えば「試料容器内に校正試料が供給量V1以上供給されていません。又はイオンセンサユニット内に液を吸引することができません。」などの異常情報を作成して各分析データCNa1,CK1,CCL1に付加する(ステップS9)。
【0074】
また、生成した分析データCNa1が異常範囲から外れている場合(ステップS8のいいえ)、各分析データCNa1,CK1,CCL1が正常であると判定して、ステップS10に移行する。
【0075】
ステップS8の「いいえ」又はステップS9の後に、演算部31は、異常情報を付加した被検試料A1の分析データCNa1,CK1,CCL1、又はステップS8のいいえで正常であると判定した被検試料A1の分析データCNa1,CK1,CCL1を記憶部32に保存すると共に、出力部40に出力する(ステップS10)。
【0076】
そして、異常情報を付加した被検試料A1の各分析データCNa1,CK1,CCL1、又は正常である被検試料A1の各分析データCNa1,CK1,CCL1が出力部40に出力された時点で、システム制御部60は分析制御部20、データ処理部30、及び出力部40に動作停止の指示をすることにより、自動分析装置100は動作を終了する(ステップS11)。
【0077】
そして、出力部40に被検試料A1の各分析データCNa1,CK1,CCL1と共に異常情報が出力された場合、操作者は、電解質測定ユニット19を点検した後、被検試料A1を再測定する。
【0078】
以上述べた本発明の実施例によれば、所定の倍率に希釈したサンプルを校正するための校正試料に含まれる測定対象の項目の内の少なくとも1つの項目の成分濃度を、その1つの項目の基準範囲外に含まれる基準範囲外値を前記所定の倍率で除した希釈内部標準値に設定する簡単な構成により、前記1つの項目の分析データが基準範囲外値を含む予め設定された異常範囲内である場合、前記測定対象の項目の分析データが異常であると判定することができる。
【0079】
また、異常であると判定した分析データに異常情報を付加して記憶部32に保存すると共に出力部40に異常情報を出力することができる。
【0080】
これにより、各分析ユニットの故障以外の装置の点検が可能となり、異常である分析データの発見が遅れることによる再測定の作業時間、手間、及び被検試料の浪費を低減することができる。また、分析データの異常による誤診を防ぐことができる。
【0081】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、例えばサンプル分注プローブ16によるサンプルの吐出が可能な位置に試料容器71を配置し、サンプル分注プローブ16から吐出されたサンプルを第1試薬で希釈せずにイオンセンサユニット81内に吸引して測定し、更にそのサンプルを校正するための校正試料に含まれる測定対象の項目の内の少なくとも1つの項目の成分濃度を、その1つの項目の基準範囲外に含まれる基準範囲外値に設定することにより、前記1つの項目の分析データが基準範囲外値を含む予め設定された異常範囲内である場合、前記測定対象の項目の分析データが異常であると判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の実施例による自動分析装置の構成を示す図。
【図2】本発明の実施例に係る分析部の構成を示す図。
【図3】本発明の実施例に係る電解質測定ユニットの構成の詳細を示す図。
【図4】本発明の実施例に係る検出部の校正の詳細を示す図。
【図5】本発明の実施例に係る自動分析装置の動作を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0083】
4 反応容器
18 分析部
19 電解質測定ユニット
20 分析制御部
30 データ処理部
31 演算部
32 記憶部
70 校正部
71 試料容器
72 校正試料ポンプ
72a 校正試料ボトル
72b 校正試料
74 排液ポンプ
81 イオンセンサユニット
81a 流通型複合電極
81b 吸引ノズル
82 吸引ポンプ
82a 排液タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検試料とこの被検試料の測定項目に該当する試薬との混合液を測定する自動分析装置において、
前記試薬により所定の倍率で希釈された前記混合液を測定して被検データを生成し、更にこの被検データを校正するための校正試料を測定して校正データを生成する測定手段と、
前記測定手段により生成された前記校正データを用いて前記被検データから校正被検データを算出し、算出した校正被検データから予め作成された前記測定項目の検量線を用いて分析データを生成する分析データ生成手段とを備え、
前記校正試料に含まれる前記測定項目の内の少なくとも1つの項目の成分の濃度を、この項目の基準範囲外に含まれる基準範囲外値を前記所定の倍率で除した希釈内部標準値に設定するようにしたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項2】
前記分析データ生成手段により生成された分析データを出力する出力手段を有し、
前記項目の分析データが前記基準範囲外値を含む所定の異常範囲内である場合、前記測定項目の分析データを異常であると判定し、その異常情報を前記出力手段に出力するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の自動分析装置。
【請求項3】
前記測定手段は、イオン選択性電極を用いて前記混合液及び前記校正液に含まれる電解質の濃度を測定するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の自動分析装置。
【請求項4】
被検試料の測定項目を測定する自動分析装置において、
前記被検試料を測定して被検データを生成し、更にこの被検データを校正するための校正試料を測定して校正データを生成する測定手段と、
前記測定手段により生成された前記校正データを用いて前記被検データから校正被検データを算出し、算出した校正被検データから予め作成された検量線を用いて分析データを生成する分析データ生成手段とを備え、
前記校正試料に含まれる前記測定項目の内の少なくとも1つの項目の成分の濃度を、この項目の基準範囲外に含まれる基準範囲外値に設定するようにしたことを特徴とする自動分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−76342(P2008−76342A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−258759(P2006−258759)
【出願日】平成18年9月25日(2006.9.25)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】