説明

自動分析装置

【課題】本発明は、開閉扉の開閉によって試薬保冷庫内の温度が高くなることを防ぎ、試薬の安定性の向上を狙うとともに、試薬保冷庫の内壁面での結露防止を考慮した自動分析装置を提供することを目的とする。
【解決手段】試薬保冷庫7の試薬カバー15に設けられた試薬出し入れ用の開口部15aに、開閉扉16が開放したときに外気と庫内冷気を遮断可能な空気層のエアーカーテンを生成するエアーカーテン装置17を設ける。開閉扉16の開放にともなって冷気送風ファン17cの作動で生成されるエアーカーテンで開口部15aを遮蔽することにより、冷気や外気の出入りを封ずる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液、尿等の生体サンプルの定量、定性分析を行なう自動分析に好適な試薬保冷庫を備えた自動分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
血液、尿等の生体サンプルの定量、定性分析を行なう自動分析装置では、生体サンプル中の測定対象成分と特異的に反応して物性の変化する試薬を生体サンプルと混合、反応させて分析をおこなう。
【0003】
医学の進歩に伴い測定対象成分の数は増加しており、それに合わせて使用する試薬の種類も非常に多くなっている。このような多くの試薬を分析ごとに試薬保管庫から取り出して設置し、使用後に元に戻すのは効率的でなく、一般的な自動分析装置では装置上に試薬保冷庫が設けられることが多い。
【0004】
試薬保冷庫の上部カバーには、試薬を出し入れするための開口部や、試薬を吸引するための孔が設けられているのが普通だが、これらの開口部から高温、多湿空気が保冷庫内に流入する可能性があるため、これを考慮しないと温度分布が不均一となる可能性がある。
【0005】
また、その開口部から侵入した高温多湿な外気が上部カバーの裏面に接触して露点以下になった場合、上部カバーの裏に結露し、生じた水滴が試薬ボトル内に滴下する可能性がある。
【0006】
特許文献1では、上部カバーの裏面を傾斜させることにより結露を一箇所にあつめ、結露が試薬容器に混入する技術が開示されている。
【0007】
特許文献2では、すべての試薬取り出し口から冷気を吹き出し構造とすることにより、高温多湿の外気を庫内に浸入させず、結露を防止する技術が開示されている
【特許文献1】特開平08−262030号公報
【特許文献2】特開2006−84366号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記従来の技術では、試薬保冷庫への試薬ボトルの出し入れの際に高温、多湿の外気が庫内に入ってくることを想定しているため、試薬保冷庫内の温度分布に差異が生じてしまう可能性がある。
【0009】
従って、試薬は結露の影響とともに、温度による影響を受けやすいという問題点があった。分析結果は試薬の温度に影響される可能性があるため、同一の試薬を用いた分析を行なっても試薬保冷庫の温度分布が偏っていては、分析結果の再現性が低下する懸念がある。
【0010】
そこで、本発明は上述した課題に対処し、開閉扉の開閉によって試薬保冷庫内の温度が高くなることを防ぎ、試薬の安定性の向上を狙うとともに、試薬保冷庫の内壁面での結露防止を考慮した自動分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、複数の試薬容器を設置する試薬収納部を有する試薬保冷庫が備わる自動分析装置において、試薬保冷庫には、前記試薬収納部に前記試薬容器を出し入れする容器出し入れ開口部と、前記容器出し入れ開口部に遮蔽用空気流層を生成するエアーカーテン装置を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、試薬保冷庫の開口部が遮蔽用空気流層のエアーカーテンエアーカーで遮蔽されるので試薬収納部への空気の出入りが阻止される。これにより、試薬収納部内の冷気流出が防止され試薬の安定性を高めることができる。さらに試薬収納部への湿度を含んだ外気の侵入が無いため、試薬収納部の内壁に外気の湿分による結露発生を防止することができ、安定した信頼性の高い分析測定が行われる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図1から図8を引用し、本発明の実施例について説明する。
【0014】
図1は、本発明の実施例に係る自動分析装置の概要を示す。
【0015】
自動分析装置は、試料ディスク1、反応容器4、試薬保冷装置11を有する。
【0016】
試料ディスク1は、その円周上に試料の入った複数の試料容器2を配列している。試料ディスク1の回転で試料容器2をピペッティング位置に移動させ、試料分注プローブ3にて試料を反応容器4に必要量移し換えの分注が行われる。
【0017】
反応容器4は、恒温槽9、光度計10を附帯する。恒温槽9は反応容器4を一定温度に保つように温度制御され、反応容器4に分注される試料と試薬の化学反応を促進する。反応した試料の成分は光度計10で測定される。
【0018】
試薬保冷装置11は、試薬保冷庫7と、冷却機12を有する。試薬保冷庫7は試薬ディスク5を有する。試薬ディスク5はその円周上に試薬を収納した複数の試薬容器6が配列される。この試薬ディスク5が試薬容器6を収納する試薬収納部になる。
【0019】
試薬収納部に収納される試薬容器6の試薬が周囲環境により変性するのを防止するために低温に温度制御された試薬保冷庫7の中に収納される。試薬ディスク5は、モータなどの駆動部18で回転自在に支持されている。
【0020】
駆動部18は正逆に回転する。試薬ディスク5の回転により、試薬ボトル6をピペッティング位置に移動させ、試薬分注プローブ8にて先に試料を移し換えた反応容器4に必要量の試薬が移し換えの分注が行われる。
【0021】
自動分析装置に備わる試薬保冷装置11について、図2〜図8を引用して詳しく説明する。
【0022】
図2〜図4に示すように、試薬保冷装置11の冷却機12は冷媒が循環する凝縮器、放熱器、圧縮機、循環ファン等のヒートポンプ機構を備え、5℃〜10℃に冷却した冷気を試薬保冷庫7に供給する。
【0023】
試薬保冷庫7は、試薬を収納した複数の試薬ボトル6を円周上に配列できる回転可能な試薬ディスク5と、試薬ディスク5を収納する試薬ジャケット13と、試薬ジャケット13に取り付けられた内蓋14と、試薬ジャケット13の上部開放部を覆う試薬カバー15を有する。
【0024】
試薬ジャケット13、試薬カバー15は厚みが5cm〜10cmの断熱材で形成され、試薬保冷庫7の断熱を保っている。
【0025】
試薬保冷庫7の試薬カバー15には、試薬を出し入れするための開口部15aと、この開口部15aを開け閉めする開閉自在なる開閉扉16が設けられる。開閉扉16は試薬カバー15と同様、厚みのある断熱材で形成される。
【0026】
試薬分注プローブ8の出入り孔15bは試薬カバー15に設けられる。この出入り孔15bに試薬分注プローブ8を出し入れして試薬容器6より試薬を小出しに吸引して反応容器への分注が行われる。この出入り孔15bは、開口部15aに比べ、小さい開口であるので、開閉扉のような蓋は設けない。
【0027】
内蓋14は、図3、図4に示すように、試薬ボトル6を収納する試薬ディスク5と、試薬ディスク5の下側に設けられた内周と外周を隔絶する環状の仕切り壁14aを有する。内蓋14は冷気が循環する冷気循環部にもなる。
【0028】
冷気循環部は冷凍機12の冷気導入口13aから取り込まれた冷気が、内蓋14の角穴14bと内蓋14の丸穴14cを通過し、外周部の丸穴14dを通過し、最下段の外周側から冷気循環部の冷気取り出し口13bへ引き込まれる循環路の構造になっている。
【0029】
開閉扉16が閉じた状態にある時には、冷気導入口13aから取り込まれた冷気が、内蓋14の角穴14bと内蓋14の丸穴14cを通過し、外周部の丸穴14dを通過し、最下段の外周側から冷気循環部の冷気取り出し口13bへ引き込まれる。
【0030】
試薬ジャケット13には冷凍機12から送られる冷却媒体の冷気を試薬ジャケット13へ取り込む冷気導入口13aと試薬保冷庫7の中を循環した冷却媒体を冷凍機12に回収するための冷気取り出し口13bが設けてある。
【0031】
次に本発明の主要部であるエアーカーテン装置について、主に図4〜図8を引用して説明する。
【0032】
エアーカーテン装置17は、試薬保冷庫7の試薬カバー15に設けられる。すなわち、エアーカーテン装置17は、送風機17cと、送風機17cから送風される空気を噴出する空気噴出口17bと、送風機17cに吸引される空気が流入する空気吸入口17aと、噴出空気の流入スリット17dと、空気吸入口17aを開け閉めする遮蔽板19を有する。
【0033】
送風機17cは、図7に示す貫流ファン170が用いられる。貫流ファン170は外径が小さく、軸方向に長く、送風圧力が高いので幅の広いエアーカーテンの生成に好都合である。また、貫流ファン170は、小径で細長い形状をしているので、厚みが5cm〜10cmの薄い試薬カバー15内に収めることができる。
【0034】
空気吸入口17aは、試薬容器6が収納される試薬収納部の内方に向くように設けられる。空気噴出口17bと噴出空気の流入スリット17dは、開口部15aの内口縁部に互いに対向するように設けられる。
【0035】
試薬収納部内の冷気は、空気吸入口17aより吸い込まれ、送風機17cで送られて空気噴出口17bから噴出する。噴出される噴射流は開口部15aを横切るように流れ、流入スリット17dに流れ込み、試薬収納部内を経由して空気吸入口17aへと流れる。
【0036】
試薬保冷庫7の開口部15aは、上記噴射流により生成される遮蔽用空気流層のエアーカーテンで遮蔽閉鎖されるので、試薬収納部内への空気の出入りや冷気の外部流出が阻止される。
【0037】
また、エアーカーテン装置17は、遮蔽板19と開閉扉16を連係作動させる連係機構(連係手段)を備える。
【0038】
すなわち、図5に示すように、開閉扉16の回転軸16aに歯車16bを設け、遮蔽板19の回転軸19aに歯車19bを設け、両歯車16b.19bを噛み合わせて連係機構(連係手段)を構成する。
【0039】
連係機構(連係手段)で遮蔽板19と開閉扉16は連係されているので、開閉扉16を閉じると、遮蔽板19は図6(a)に示すように空気吸入口17aを閉じ、開閉扉16を開くと、遮蔽板19は図6(b)に示すように空気吸入口17aを開くように作動する。
【0040】
さらに、エアーカーテン装置17は、開閉扉16の開け閉めを検出する検出手段を有する。この検出手段は、図8に示すような開閉扉16の開け閉めによってオン・オフ作動するスイッチ180を有する。スイッチ180は、前記連係機構(連係手段)または開閉扉16に備えることが可能である。
【0041】
この検出手段のスイッチ180を含む制御回路により、エアーカーテン装置17の送風機17cの運転が制御される。開閉扉16が開放されると、スイッチ180がオンして送風機17cは運転され、開閉扉16が閉成されると、送風機17cは停止する。
【0042】
次に主に動作の面から説明する。
【0043】
試薬ジャケット13で覆われた試薬保冷庫7内には、冷凍機12で冷やされた冷却媒体の冷気が供給される。
【0044】
冷気は冷気導入口13aより試薬保冷庫7内に流入して試薬保冷庫7の中を循環し、冷気取り出し口13bから流出して冷凍機12に戻る。冷凍機12で再度、冷やされた冷気は試薬保冷庫7内に再度供給され、循環が繰り返される。
【0045】
この冷気の循環で、試薬保冷庫7内の試薬ディスク5に置かれて収納される試薬ボトル6の試薬は5℃〜10℃に保冷され、反応容器4の分注に提供される。
【0046】
こうした保冷のもとで、開閉扉16が閉じた状態にある時には、冷気導入口13aから取り込まれた冷気が、内蓋14の角穴14bと内蓋14の丸穴14cを通過し、外周部の丸穴14dを通過し、最下段の外周側から冷気循環部の冷気取り出し口13bへ引き込まれる。
【0047】
開閉扉16が開放された状態にある時には、試薬カバー15内に設置されたエアーカーテン装置17が作動する。すなわち、空気吸入口17aから取り込まれた冷気は送風機17cにより空気噴出口17bから吹き出し、流入スリット17dに吸い込まれるように循環する。この空気噴出口17bから吹き出して流入スリット17dに向かうエアーカーテンで、試薬保冷庫7の開口部15aは遮蔽閉鎖される。
【0048】
このように開閉扉16が開放されても、試薬保冷庫7の開口部15aがエアーカーテンで遮蔽閉鎖されるので、試薬保冷庫7内の冷気が流出せず、庫内の温度が安定化する。このため、試薬容器6の試薬は安定した性質の状態が保たれる。
【0049】
また、冷えた試薬保冷庫7内に湿度を含んだ外気の流入がないので、庫内に結露が生じない。結露水の滴下による試薬の濃度変化も起きないので、安定した測定値を得ることができる。
【0050】
上記実施例は、送風機17cで空気噴出口17bより冷気を吹き出すようにしているが、試薬保冷庫7内を循環する冷気の流れが十分に大きい場合(風速が強い)には、送風機17cを運転せずに循環する冷気の流れを利用して空気噴出口17bより吹き出すようにすることも可能である。
【0051】
上記実施例は、空気の冷却手段として冷凍機12を用いているが、冷凍機12に代えてペルチェー素子(電子冷却素子)を用いることも可能である。また、冷凍機12とペルチェー素子(電子冷却素子)を併用し、エアーカーテンの冷却にペルチェー素子(電子冷却素子)を使用することも可能である。
【0052】
さらにペルチェー素子(電子冷却素子)を併用する場合に、外気を電子冷却素子で冷却し、エアーカーテンに使用することも可能である。
【0053】
また、試薬分注プローブ8の出入り孔15bにエアーカーテンを利用することにより、出入り孔15bからの冷気流出を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施例に係るもので、自動分析装置の概略の説明図。
【図2】本発明の実施例に係るもので、試薬保冷装置の概略の説明図。
【図3】本発明の実施例に係るもので、試薬保冷装置の詳細外観図。
【図4】本発明の実施例に係るもので、試薬保冷装置の断面図。
【図5】本発明の実施例に係るもので、試薬保冷庫の試薬カバー、開口部、開閉扉、遮蔽板、および連係機構(連係手段)を示す斜視説明図。
【図6】本発明の実施例に係るもので、試薬保冷庫の試薬カバー、開口部、および遮蔽板の模式図。
【図7】本発明の実施例に係るもので、送風機の貫流ファンを示す図。
【図8】本発明の実施例に係るもので、エアーカーテン装置の送風機、および検出手段のスイッチを示す制御回路を示す図。
【符号の説明】
【0055】
1…試料ディスク、2…試料容器、3…試料分注プローブ、4…反応容器、5…試薬ディスク、6…試薬ボトル、7…試薬保冷庫、8…試薬分注プローブ、9…恒温槽、10…光度計、11…試薬保冷装置、12…冷凍機、13…試薬ジャケット、14…内蓋、15…試薬カバー、16…開閉扉、17…エアーカーテン装置、18…駆動部、19…遮蔽板、スイッチ180(検出手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の試薬容器を設置する試薬収納部を有する試薬保冷庫が備わる自動分析装置において、
試薬保冷庫は、前記試薬収納部に前記試薬容器を出し入れする容器出し入れ開口部と、前記容器出し入れ開口部に遮蔽用空気流層を生成するエアーカーテン装置を有することを特徴とする自動分析装置。
【請求項2】
試薬保冷庫と、前記試薬保冷庫に冷気を供給する冷却機を備え、
前記試薬保冷庫は、複数の試薬容器を設置する試薬収納部と、前記試薬収納部に隣接し、前記冷却機からの冷気を導入する冷気導入室と、前記冷却機に冷気を戻す冷気排出室をもつ冷気循環部と、前記冷気導入室から前記試薬収納部に冷気を導入する冷気導入口と前記試薬収納部から前記冷気排出室に冷気を排出する冷気排出口を有する自動分析装置において、
前記試薬保冷庫は、前記試薬収納部に前記試薬容器を出し入れする容器出し入れ開口部と、前記容器出し入れ開口部を開け閉めする開閉扉と、前記開閉扉の開閉状態を検出する検出手段と、前記容器出し入れ開口部に沿って遮蔽用空気流層を生成するエアーカーテン装置を有することを特徴とする自動分析装置。
【請求項3】
請求項2記載の自動分析装置において、
前記エアーカーテン装置は、送風機と、前記送風機から送風される空気を噴出する空気噴出口と、前記送風機に吸引される空気が流入する空気吸入口と、前記空気吸入口を開け閉めする遮蔽板を有し、
前記開閉扉が開くと前記遮蔽板が開き、前記開閉扉が閉じると前記遮蔽板が閉じるように連係作動させる連係手段を有することを特徴とする自動分析装置。
【請求項4】
請求項2記載の自動分析装置において、
前記エアーカーテン装置は、送風機と、前記送風機から送風される空気を噴出する空気噴出口と、前記送風機に吸引される空気が流入する空気吸入口と、前記空気吸入口より吸入した冷気を更に冷却、乾燥する冷却乾燥手段を有することを特徴とする自動分析装置。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれかに記載された自動分析装置において、
前記検出手段が前記開閉扉の開閉を検出して前記エアーカーテン装置の運転を制御することを特徴とする自動分析装置。
【請求項6】
請求項1または2記載の自動分析装置において、
前記試薬保冷庫は、前記試薬容器より試薬を小出しする試薬分注プローブの出入り孔を有し、この出入り孔に前記試薬収納部への空気の出入りを阻止する遮蔽用空気流層を生成することを特徴とする自動分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−139269(P2009−139269A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−316981(P2007−316981)
【出願日】平成19年12月7日(2007.12.7)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】