説明

自動分析装置

【課題】反応容器を透過する透過光を測光し、反応容器ごとの最適な測光可能領域を算出することにより、高精度かつ安定した測光が可能な自動分析装置を提供する。
【解決手段】複数の反応容器105を有する反応ディスク104と、反応容器105を透過する透過光により反応容器105内の反応物質の成分濃度を測定するための機構系を有する自動分析装置において、反応容器105を透過した透過光の波形を基に、反応容器105における測光に適する測光可能領域を算出する算出部を有する。算出部は、反応容器105を透過した透過光の波形を基に算出した反応容器105における測光に適する測光可能領域より、その領域への測光のトリガーをかけるタイミング時間Tを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動分析装置に係り、反応容器ごとの最適な測光可能領域に測光のトリガーをかけて測定することのできる自動分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動分析装置は血液、尿、体液などの試料中の被検物質と被検物質に対応する試薬とを混合し、生じた反応物質に光を照射して吸光度や濁度、反射率などを測定することにより前記被検物質の定量分析を行う。試料と試薬を混合する反応容器は円盤形の反応ディスクに存在し、反応ディスクを回転させることで短時間に複数の反応容器を測定する。
測定時の反応容器の検出から測光を開始するタイミングは、全ての反応容器に対して同値であり、反応容器ごとの測光開始位置にばらつきがあった。また、このタイミングの調整に関しては、波形を観測し、手動で抵抗の値を変化させて調整する必要があった。
【0003】
測光タイミングを最適化する技術として、特許文献1には、反応容器に水を入れた状態で、測光タイミングを微小時間ずつ変化させて繰り返し測光し、全反応容器の最適な測光タイミングを決定する技術、また、特許文献2には、エンコーダを用いて、その信号に基づき各反応容器の測光開始位置を決定する技術が開示されている。
特許文献1に記載の技術では、反応容器ごとの最適な測光タイミングが算出できなく、また、水を入れて繰り返し測光する必要があるため、水の消費や、測光タイミング調整に時間を要してしまう。また、特許文献2に記載の技術は、高性能なエンコーダを使用するため、スリット検出器に比べてコストが高いという問題点がある。
【特許文献1】特開平6−167505公報
【特許文献2】特開2000−258433公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
臨床検査の自動化促進に伴い測定が高速化され、また測定対象試料の少量化、装置の省スペース化に伴い、反応容器が狭小化されてきている。さらに、反応容器の個々の形状や交換作業、検知板の個々の形状によっても誤差が生じることも起こりうる。このため、従来の方法では、反応容器検出から測定までの反応容器ごとの測光のトリガーをかけるタイミングのばらつきが生じる可能性がある。また、上記より反応容器ごとの吸光度の測定において、正確な位置・測光のトリガーをかけるタイミングに誤差が発生してしまうことがあると、安定した測定結果を得ることができない可能性がある。
【0005】
本発明は、高速ADC(アナログディジタル変換器)などを用いて、反応容器を透過する透過光を測光し、反応容器ごとの最適な測光可能領域を算出することにより、高精度かつ安定した測光が可能な自動分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、反応容器検出から測光のトリガーをかけるまでのタイミングを反応容器ごとに設定することにより、反応容器ごとの測定位置・結果にばらつきが生じないようにする。この際に、反応容器内には水等の液体を入れても入れなくても構わず、反応容器を回転させて測光し、高速ADCに反応容器を透過した透過光の波形を測定し、反応容器ごとの最適な測光可能位置を算出する。これより、反応容器個々の最適な測光位置への測光のトリガーをかけるタイミングをそれぞれ決定させ、反応容器ごとにそのタイミングを保持する。
【0007】
すなわち、本発明は、複数の反応容器を有する反応ディスクと、前記反応容器を透過する透過光により前記反応容器内の反応物質の成分濃度を測定するための機構系を有する自動分析装置において、前記反応容器を透過した透過光の波形を基に、該反応容器における測光に適する測光可能領域を算出する算出部を有する自動分析装置である。
【0008】
また、本発明は、前記算出部は、前記反応容器を透過した透過光の波形を基に算出した該反応容器における測光に適する測光可能領域への測光のトリガーをかけるタイミング時間を算出する自動分析装置である。
【0009】
そして、本発明は、前記反応容器個々に算出した測光のトリガーをかけるタイミング時間を、反応容器ごとに保持することができ、前記反応容器個々で測光に適する測光可能領域にトリガーをかけるタイミング時間を調整できる自動分析装置である。
【0010】
更に、本発明は、前記算出部は、前記反応容器内が空のときに、高速A/D変換器に取り込んだ反応容器を透過した透過光の波形を基に、反応容器の測光に適する測光可能領域、及びトリガーをかけるタイミング時間を算出できる自動分析装置である。
【0011】
また、本発明は、前記算出部は、前記反応容器を透過した透過光の波形を基に、前記反応容器の中心値を算出する自動分析装置である。
【0012】
そして、本発明は、前記算出部は、前記反応容器を透過した透過光の波形を基に、該反応容器内を透過した時の吸光度を検出し、該反応容器の中心値及び測光に適する測光可能領域を算出する自動分析装置である。
【0013】
更に、本発明は、前記算出部は、前記反応ディスクを透過した透過光の波形を基に、反応容器と隣りの反応容器との間を透過した時の吸光度を検出し、該反応容器の中心値及び測光に適する測光可能領域を算出できる自動分析装置である。
【0014】
また、本発明は、高速アナログディジタル変換器と、2重積分アナログディジタル変換器と、前記反応ディスクを透過した透過光の波形を取り込むよう、両アナログディジタル変換器の一方を選択する手段とを有する自動分析装置である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、反応容器ごとの最適な測光位置を算出でき、その位置への測光のトリガーをかける最適なタイミングを反応容器ごとに保持しておくことで、高精度かつ安定した測定をすることができる。また、従来のように、全反応容器共通の測光位置へのタイミング調整のために、抵抗を手動で操作して設定する必要もなくなる。さらに、反応容器内が空の場合でも、反応ディスクを回転させて測光し、高速ADCで透過光の波形を測定して反応容器ごとの測光に適する測光可能位置を算出することができる。これより、水等の液体が不要となり、全ての反応容器に対して、分注・洗浄する必要もなくなるため、ランニングコストの低減や、時間の大幅な短縮となる。よって、オペレーション開始ごとに上記の調整処理を行うことも可能であり、毎回高精度な測定結果が得られることが期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明を実施するための最良の形態を説明する。
以下、本発明の自動分析装置の実施例について、図面を用いて説明する。
図1は、自動分析装置の原理的な全体構成概略図である。まずは、自動分析装置の説明と測光の流れについての概要を説明する。図1において、操作部101から検体の分析測定項目を選択し、スタートボタンを押下して実行すると、インターフェース102より、分析部103に送信される。分析装置では、分析指示に従い、反応ディスク104を回転させ、反応容器105に順番に検体分注106、試薬分注109、攪拌112を行う。そして、光源113、多波長光度計114を用いて、通過する反応容器105の吸光度を測定し、濃度演算を行う。測定後の反応容器105は、洗浄機構115により洗浄される。分析部103は、検体の分析項目の濃度演算結果を、インターフェースを介して操作部101に送信することで、ユーザは依頼した検体の分析項目の濃度を知ることができる。
【0017】
次に、高速ADCを用いて、反応容器を透過した透過光の波形を測定することで、反応容器ごとの最適な測光可能領域にトリガーをかけるタイミングを設定することができる実施例について説明する。
【0018】
図2は自動分析装置の反応ディスクと検知器、反応容器の概要図である。図3は従来の方法で反応容器を通過した時の吸光度と検知板の検出タイミングでのクロックに関して表した図である。図4は図3において、最適な測光可能領域への測光タイミングにずれが生じた場合についての説明図である。
【0019】
現在の自動分析装置では、図2のように、反応ディスク201には、検知板202と反応容器203が1対1の関係で対応しており、同数セットされている。この検知板202が反応ディスク201の回転中に検出器204により検出されると、図3のように、検出器によるクロック波形が入り、設定されているタイミング時間(T1)を経過したタイミングで、AD変換スタートを行う。タイミング時間(T1)は、従来、全ての反応容器に対して、統一された同値のタイミング時間である。ここでの設定タイミング時間は、設計者が反応容器を透過した透過光の波形を観測しながら、抵抗値を変更して設定するため、ユーザは安易にこれを変更することができない。そのため、反応容器の形状の誤差、検知板の形状の誤差、また反応容器交換における取り付け位置の誤差等が生じた場合、図4のように、最適な測光可能領域からタイミングのずれが発生し、積算結果データの低下となり、吸光度測定結果の値が不安定となってしまう可能性がありうる。なお、図3において、波形301は反応容器内の吸光度であり、波形302は反応容器の側面の吸光度であり、波形303は反応容器と隣りの反応容器との間の空洞部の吸光度である。
【0020】
これを回避するために、オペレーション開始時、または反応容器交換時やイニシャライズ処理時等、これに限定無く、定期的に反応容器ごとのAD変換開始の最適な設定タイミング時間を決定するのが好ましい。図5は本実施例において高速ADCを使用した自動分析装置の説明図であり、図6は、反応容器ごとに最適な測光可能領域にトリガーをかけるタイミング時間の説明図である。
【0021】
反応容器ごとに最適なトリガーをかけるタイミング時間の設定を実行すると、反応ディスクを回転させ、高速ADCを用いて、反応容器502を透過した透過光の波形を測定する。通常、フォトダイオード504からの電流をLOGAMP505で電圧に変換し、2重積分ADC506によりディジタル変換されるが、この場合には新たに追加した高速ADC507に切り替えてこの波形を測定する。ここは特に限定はせず、常に両方とも測定する方法でもよい。ここで、高速ADC507を用いて波形を測定する理由は、2重積分ADC506の場合では、解析に時間がかかるため、解析時間が早い高速ADC507を採用してトリガタイミング調整を行う。しかし、2重積分ADC506はノイズには強く、それに比べると高速ADC507はノイズに弱いため、分析の場合には従来通りこちらのデータを採用する。さらに、ここで取り込む波長数は、操作部よりユーザが選択した波長のみでもよいし、常に複数波長取得してもよい。
【0022】
そして、高速ADC507に取り込んだ、反応容器を透過した透過光の吸光度の波形から、反応容器ごとに中心値を算出する。図6の吸光度P1とP2は、光が反応容器の側面を透過した時の吸光度である。この2点より、吸光度の反応容器内を通過している際の時間(L1)が算出できる。この時間(L1)を1/2にすることにより、反応容器の中心値が求められる。しかし、この方法の場合だと、吸光度P1とP2は反応容器側面の吸光度のため、反応容器側面の傷や汚れ等より波形が乱れ、常に最適な測光可能領域を算出できない場合が起こりうることが予想され、これ以外にも次の方法を採用することができる。図6の吸光度S1とS2は、反応容器と反応容器との間で空洞となっている部分を透過したときの吸光度である。空洞には傷や汚れ等が発生し難く、そのため、このポイントは常に吸光度が安定して測定できるポイントである。このS1とS2の時間差分を、1/2にすることでも反応容器の中心値が求められる。さらに、この方法の場合だと、反応容器の傷、汚れ等に影響されないため、常に最適な測光可能領域を算出することができる。
【0023】
反応容器ごとの中心値を算出することにより、それぞれの最適な測光可能領域を算出することができる。なお、ここでは、反応容器の中心値の算出から最適な測光可能領域を算出することには限定されず、反応容器の透過光の波形から、最適な測光可能領域を算出することを目的とする。反応容器ごとの最適な測光可能領域を算出することにより、それぞれの検出器のクロック後から、最適な測光可能領域までの時間を算出することができ、反応容器個々のトリガーをかける最適なタイミング時間を算出することができる。
【0024】
ここで算出した測光のトリガーをかけるタイミング時間を、デフォルトの設定タイミングと比較し、妥当な値かどうかを判定する。もし閾値を超えた場合にはアラームを出力する。閾値を超えていなければ、この値をメモリ上の反応容器ごとの情報テーブル、またはレジスタ等に保持しておく。
【0025】
これらの算出方法ならば、反応容器に水等の液体を入れる入れないにかかわらずに最適な測光可能領域を算出できる。これにより、反応容器を空にして実施する際には、反応ディスクを回転するだけで、水の使用量や、分注、洗浄等の時間が大幅に削減でき、ランニングコストが減少する。また、検知板と反応容器が1対1である必要もなく、ある検知板からの検出のクロックより複数の反応容器を纏めてカウントし、反応容器それぞれが、自分のカウント数を保持しておく。これにより、検体の透過光を測光する際に、検知器を検出後、順番に反応容器ごとのカウント数でトリガーをかけてもよい。これも、検知器の数を減少させることより原価低減に繋がる。
【0026】
以上より、高速ADCを用いて反応容器を透過した透過光の波形を取り込み、反応容器ごとに最適な測定位置を算出して、測光可能領域へのトリガーをかけるタイミング時間を保持しておくことで、毎回高精度、かつ安定した測定を行うことが可能となる。なお、測光に最適な測光可能領域以外に、測光に適する測光可能領域とすることでも本発明は有効である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】自動分析装置の概要図である。
【図2】反応ディスクと検知器、反応容器の概要図である。
【図3】従来の方法で、全反応容器で同一のトリガー開始タイミングが設定されている場合の、反応容器を通過した時の吸光度と検知板の検出タイミングでのクロックに関して表した説明図である。
【図4】図3において、誤差により、最適な測光可能領域へのトリガー開始タイミングにずれのあった場合についての説明図である。
【図5】高速ADCを取り付けた自動分析装置の説明図である。
【図6】反応容器ごとに、最適な測光可能領域にトリガーをかけたときの、反応容器を通過した場合の吸光度と検知板の検出タイミングでのクロックに関する説明図である。
【符号の説明】
【0028】
101…操作部、102…インターフェース、103…分析部、104…反応ディスク、105…反応容器、106…検体分注プローブ、107…検体ディスク、108…検体容器、109…試薬分注プローブ、110…試薬ディスク、111…試薬ボトル、112…攪拌機構、113…光源、114…後分光多波長光度計、115…洗浄機構、201…反応ディスク、202…検知板、203…反応容器、204…検出器、301…反応容器内の吸光度、302…反応容器の側面の吸光度、303…反応容器と反応容器との間の空洞部の吸光度、501…光源、502…反応容器、503…凹面回折格子、504…フォトダイオード、505…LOGAMP、506…2重積分ADC、507…高速ADC、T1…従来の検出器のクロック出力後からAD変換開始までのディレイ時間(全反応容器統一値)、T2、T3…検出器のクロック出力後からAD変換開始までのディレイ時間(反応容器ごとに可変値(算出した反応容器ごとの最適な測光可能領域に入るまでの値))、L1、L2…反応容器内を通過する時間、P1、P2、P3、P4…反応容器の側面の吸光度、S1、S2…反応容器と隣りの反応容器との間の空洞部を通過した時の吸光度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の反応容器を有する反応ディスクと、前記反応容器を透過する透過光により前記反応容器内の反応物質の成分濃度を測定するための機構系を有する自動分析装置において、
前記反応容器を透過した透過光の波形を基に、該反応容器における測光に適する測光可能領域を算出する算出部を有することを特徴とした自動分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の自動分析装置において、
前記算出部は、前記反応容器を透過した透過光の波形を基に算出した該反応容器における測光に適する測光可能領域への測光のトリガーをかけるタイミング時間を算出することを特徴とした自動分析装置。
【請求項3】
請求項2に記載の自動分析装置において、
前記反応容器個々に算出した測光のトリガーをかけるタイミング時間を、反応容器ごとに保持することができ、前記反応容器個々で測光に適する測光可能領域にトリガーをかけるタイミング時間を調整できることを特徴とした自動分析装置。
【請求項4】
請求項3に記載の自動分析装置において、
前記算出部は、前記反応容器内が空のときに、高速A/D変換器に取り込んだ反応容器を透過した透過光の波形を基に、反応容器の測光に適する測光可能領域、及びトリガーをかけるタイミング時間を算出できることを特徴とした自動分析装置。
【請求項5】
請求項1に記載の自動分析装置において、
前記算出部は、前記反応容器を透過した透過光の波形を基に、前記反応容器の中心値を算出することを特徴とした自動分析装置。
【請求項6】
請求項5に記載の自動分析装置において、
前記算出部は、前記反応容器を透過した透過光の波形を基に、該反応容器内を透過した時の吸光度を検出し、該反応容器の中心値及び測光に適する測光可能領域を算出することを特徴とした自動分析装置。
【請求項7】
請求項5に記載の自動分析装置において、
前記算出部は、前記反応ディスクを透過した透過光の波形を基に、反応容器と隣りの反応容器との間を透過した時の吸光度を検出し、該反応容器の中心値及び測光に適する測光可能領域を算出できることを特徴とした自動分析装置。
【請求項8】
請求項1に記載の自動分析装置において、
高速アナログディジタル変換器と、2重積分アナログディジタル変換器と、前記反応ディスクを透過した透過光の波形を取り込むよう、両アナログディジタル変換器の一方を選択する手段とを有することを特徴とした自動分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−162719(P2009−162719A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−3086(P2008−3086)
【出願日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】