説明

自動分析装置

【課題】
精度管理に用いられる不確かさの計測には装置の保守管理を含む装置の状態,試薬,標準液,コントロール検体などの複数の要因が組み合わされており、不確かさが臨床的許容値を上回った場合に、一般の検査技師がその要因を切り分け、経験値により判断することには時間と労力を要する。本発明ではこうした複雑化した不確かさの要因、特に品質が変化しやすく精度に影響を及ぼしやすい試薬と試料に着目してその要因を自動的に究明することにある。
【解決手段】
複数の濃度レベルをもつ管理試料を用いて測定し、その平均値や変動係数,標準偏差などの数値を算出する。n種類(n≧2)の濃度レベルの管理試料を測定した時に各管理試料の変動パターンは3n通りが考えられるため、これらを分類してパターンごとに特徴づけられた不確かさの要因を推定する方法を特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は血液,尿などの生体サンプルの定性・定量分析を行う自動分析装置に係り、特に精度管理機能を備えた自動分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
血液,尿などの生体サンプルの定性・定量分析を行う自動分析装置はサンプル中の測定対象成分と反応する試薬を混合し、試薬の色の変化、あるいは試薬に含まれる標識物質の発光量などを測定することで分析を行う。この場合、試薬の経時変化,光度計,光電子増倍管などの光学系の経時変化,分注,攪拌機構などの分注精度の変化などにより、測定値がばらつく可能性がある。このため、現在の自動分析装置では、予め量がわかっている標準試料(キャリブレータ)を用いて定期的に校正曲線を作成するとともに、測定された濃度が正しいかどうかを精度管理試料(コントロール検体)を用いて検証することで、測定の精度を管理している。このような精度管理は、検体の測定結果が正確であることを保証するために定期的に実行される。生化学自動分析装置などといった臨床検査機器類の精度管理は日々の検査においては、試薬や機械のトラブルなどに左右されることなく安定した正確なデータを取得するために必要不可欠である。このような精度管理は1つの装置内における1日のうちでの測定値の変動(日内変動),数日〜数ヶ月の間での測定値の変動(日差変動)の監視を行う内部精度管理と、どの病院で検査しても同じ測定結果が得られるよう、異なる検査施設で同一の標準試料を用いて測定し、検査施設による測定変動等を補正するための外部精度管理がある。
【0003】
精度管理の一手法としては、標準の物質を用いた正確さの評価が上げられる。すなわち濃度が既知であるまたは一定である標準の物質(標準液,コントロール検体などの管理試料)を用いてその測定機器による繰り返し測定を行う。そしてその平均値やばらつきの範囲などを判断して、測定工程が安定しているかどうかを監視する。
【0004】
その管理されたデータは一般的に、管理図(control chart)として表示されるが、この管理図は、統計的に求めた管理限界範囲を設定でき、測定工程が安定な状態にあるか、あるいは工程が安定な状態を保っているかを確認することができる統計的手法の1つである。
【0005】
このような形態で管理した測定値が管理限界範囲を超えた場合には、その原因を追究し、測定工程を安定な状態に回復させる必要がある。考えられる要因としては、測定に使用する標準液やコントロール検体または試薬が起因であったり、気温や湿度などの実験環境施設あるいは、測定機器本体(生化学分析装置の場合には、恒温槽温度の異常やランプの劣化等)が起因であったりと、さまざま考えられる。
【0006】
これに対して、従来の自動分析装置の精度管理の方法は管理図をプロットし、その管理図に試薬を交換した日や、ランプの交換日などの情報を記録部に記録し、精度管理値とともに表示することにより、管理値が外れた要因をユーザーの経験値により目視で判断するといった手段がある。最近では今までの精度管理に変わり、不確かさ(測定の結果に付随した合理的に測定量に結び付けられ得る、値のばらつきを特徴付けるパラメータ)を用いて数値の校正や確かさの確認を行うことが国際的な流れとして起こりつつある。精度管理に用いられる不確かさの定義や計算方法はISO15189(臨床検査室−質と適合能力に対する特定要求事項)の制定、日本規格協会の推進活動などにより広く知られるようになった。上記したような従来の技術は特許文献1〜4、及び非特許文献1〜2に記載されている。
【0007】
【特許文献1】特開平6−281656号公報
【特許文献2】特許第3420791号公報
【特許文献3】特開2000−266756号公報
【特許文献4】特開2000−187037号公報
【非特許文献1】日本臨床検査自動学会会誌 第32巻第一号 19−23:自動分析装置を用いた日常検査法の不確かさの算出方法に関する研究
【非特許文献2】臨床化学 2007年 第36巻補冊1号 151−154:標準システムから伝達された日常検査値の不確かさ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の再現性や正確性を中心に管理する精度管理の場合や、近年注目されてきている不確かさに基づく精度管理の場合のいずれにおいても数値が大きく変動すれば精度管理上、何か問題があることは発見できた。しかしながら、不確かさとは技術的な信頼性を示す指標であり、不確かさが臨床的許容値を上回った場合に、装置が原因なのか試薬が原因なのかなどの詳しい要因究明については統一の見解がない。不確かさの計測には装置の保守管理を含む装置の状態,試薬,管理試料などの複数の要因が組み合わされており、一般の検査技師がその要因を切り分けることには時間と労力を要する。特に、実際の臨床現場におけるルーチンな検査の最中には簡単に判断できないことが多く、検査を一旦中止させて要因を取り除かなくてはならないため、結果報告が大幅に遅れてしまうか、精度が保持されていないまま検査を進めてしまう可能性があるといった問題点があった。先の背景技術でも述べたが、一定の精度を保つための技術や精度がずれた場合に警告するシステムなどについては研究が進められ、改善されてきた。しかしその要因の解明は検査技師の判断に委ねられており、厚生省が義務づける特定項目健康診断など、内部精度だけでなく、外部施設との精度や測定値の統一性が必要とされるようになると、統一の見解または統一した判定システムなどが重要になる。
【0009】
不確かさの要因のなかで特に試薬類については、ロットや保存状態などによって品質が変わりやすく管理試料が原因なのか測定試薬が原因なのかなどの原因究明が困難にもかかわらず、検査技師の経験値から判断するといった手段に頼らざるをえなかった。
【0010】
また近年、非特許文献1において、管理試料の濃度を変えてデータの不確かさを測定したところ中濃度、または高濃度の管理試料を測定した値は安定しているものの、低濃度の管理試料においてはその値のばらつきが大きくなることが報告された。すなわち、これは1濃度の管理試料で測定した結果がばらつきの範囲内であったとしても、実際の患者検体の測定時に目的の測定項目について存在量の低い検体の測定値が正確でない可能性があることを示唆している。
【0011】
本発明の目的は、こうした複雑化した不確かさの要因を検査技師の判断に頼ることなく、自動的に判定できる機能を備えた自動分析装置及び分析方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明に係わる自動分析装置は、次のように構成される。図1に示したとおり、自動分析装置の検出部101から出力された測定データを記憶し、標準液やコントロール検体などの濃度や種類を複数レベルで記憶・更新できるハードディスクなどの記憶部102と、出力された測定データから濃度・標準偏差・変動係数・日時等を測定ごとに計算する演算部103と、計算されたデータを記憶・更新していく記憶部102を備え、管理図や数値を表示する表示部104と、判定値(測定された値が異常かどうかを判断するための境界値)や検体の種類や濃度を設定するためのキーボードやCRTなどから構成される操作部105と、計算された数値と判定値とを比較し判断するため、ロジックは複数の分岐点を持ち、判定値と比較して異常の有無とその要因を判定できることを特徴とする。この判定部106から出た判定結果は表示部104に表示し、アラームを出すこととする。
【0013】
精度管理に使用する管理試料は複数の濃度レベルをもつ管理試料を用いて測定し、その平均値や変動係数,標準偏差などの数値を算出する。数値の変動は低下,安定,上昇の3パターンであり、n種類(n≧2)の濃度レベルの管理試料を測定した時には各管理試料の変動パターンは3n通りが考えられるため、これらを分類して3n通りのパターンごとに特徴づけられた不確かさの要因を推定する方法を特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
精度管理範囲を逸脱した場合に、その原因を追究し、正常な値を測定できる状態に回復するための手間と時間の大幅な節約になる。また検査技師の負担と人為的判断ミスを軽減し、個人差によって起こりうる原因の判定誤差を回避することができる。また、データを記憶装置に蓄積することにより、その設備ではどんなサイクルで、またはどのような原因で精度管理から外れることが多いかを分析することによって未然に精度のズレを防ぐことも期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を用いて本発明の実施の形態について説明する。
【実施例1】
【0016】
図1は本発明において構成される自動分析装置の最良の形態である。
【0017】
精度管理を行うために、複数の管理試料の情報は測定項目等の情報を入力またはバーコードなどによって読み込ませた後、測定を開始する。この測定は毎日検査を開始する前・後や検査の途中に決められた検体数ごとや時間等によって組み込むことが可能である。検出部101から出力された測定データは、いったんコンピュータの記憶部に記録され、そのデータを演算部103で平均値や測定範囲・標準偏差・変動係数等を計算する。計算された数値は記憶部に蓄積し、以前に測定されたデータと統合し管理図を作成することができる。また、操作部より入力した判定値と演算部より算出された数値とを比較してばらつきの有無とその要因を判定できる判断するため判定部106により判定する。判定に必要な情報はこの判定部に備える。判定により得られた要因は表示部またはアラームとして告知することができる。
【0018】
図2に、精度管理測定から判定までのロジックをフローチャートにして示す。
【0019】
ステップ301ではコンピュータにつながるキーボードやCRTなどの操作部から、使用する試料の名前や種類,測定項目,任意の判定値などを設定し、記憶させる。次にステップ302により登録した精度管理試料を自動分析装置により測定を行う。管理試料の測定は毎日装置のキャリブレーションが終了した後、患者検体を測定する前や途中、後など、あるいは複数回測定する。得られた測定データはステップ303で検出部から出力させ、コンピュータに送信される。送信されたデータはステップ304で平均値や標準偏差などが計算される。ステップ305で先に任意で入力した判定値あるいはデフォルトで入力される判定値と計算によって得られた値とを比較する。比較の結果、計算値が判定値を超える試料を各項目ごとに判断し、判定値を超えない場合は正確さが保たれていると判断し、311の記憶部にデータを格納する。一方判定値を超えたデータがあった場合は、ステップ308で各項目ごとに、ばらつきの種類と数などのパターンを判定する。そしてさらにステップ309でその判定されたパターンから推察される不確かさの要因を選択する。ステップ310は判定された要因は管理図や、項目などのデータとともに表示部に表示する。検査の最中にこの測定を入れた場合はその表示画面を選択していない場合もあることから、アラームとして警告を出すのが好ましい。このようにして得られたデータはステップ312データベースなどの記憶部にデータを蓄積する。以上の流れで精度管理を行うものとする。
【0020】
1.精度管理試料
不確かさの測定に利用する管理試料は標準血清やプール血清,コントロール検体など試料中に含まれる測定項目の物質が一定以上存在しているものであればいかなるものでもよいが、ひとつの測定項目に対して複数の濃度レベルの管理試料を用意する。その濃度のレベルは試薬や装置の測定範囲内であれば良い。本実施例では3種類の濃度レベルの試料を用い、低レベル(以下Lと記述する)は正常な測定値の基準範囲の下限値付近、中レベルは(以下Mと記述する)基準範囲の上限値付近、高レベル(以下Hと記述する)基準範囲の2倍以上のものなど、一定の間隔が空いているものが特に好ましい。
【0021】
2.測定項目
測定項目については、自動分析装置で測定可能なものであればいかなるものでも良いが、測定方法が酵素法,免疫法それぞれ含まれることが好ましい。測定項目としては、主に総蛋白(TP),アルブミン(ALB),乳酸脱水素酵素(LD),アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST),アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT),アルカリ性ホスファターゼ(ALP),アミラーゼ(AMY),脾型アミラーゼ(P−AMY),ロイシンアミノペプチダーゼ(LAP),γ−グルタミルトランスペプチダーゼ(γGT),コリンエステラーゼ(CHE),クレアチンキナーゼ(CK),総コレステロール(T−Cho),中性脂肪(TG),HDL−コレステロールHDL−C),LDL−コレステロール(LDL−C),遊離脂肪酸(FEA),尿素窒素(UN),クレアチニン(CRE),尿酸(UA),グルコース(Glu),ヘモグロビンA1C(HbA1c),乳酸(LA),ピルビン酸(PA),総ビリルビン(T−BIL),直接ビリルビン(D−BIL),総蛋白(TP),カルシウム(Ca),ナトリウム(Na),無機リン(IP),血清鉄(Fe),不飽和鉄結合能(UIBC),クレアチンキナーゼ−MB(CK−MB),リン脂質(PL),C反応性蛋白(CRP),リウマチ因子(RF),免疫グロブリンG(IgG),免疫グロブリンA(IgA),免疫グロブリンM(IgM),補体第3成分(C3),補体第4成分(C4),抗ストレプトリジンO価(ASO)など約300種類以上知られている。中でも特に、尿酸(UA)やアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST),アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT),クレアチニン(CRE),γ−グルタミルトランスペプチダーゼ(γGT)などは低濃度領域がばらつきやすいことが知られており、本発明においてはこれらの項目を適用することがより好ましい。
【0022】
3.測定データの算出方法
データのばらつきを測定する場合は、同じ試料の測定回数は複数回であれば計測可能である。実際に、試薬の同時再現性を測定する場合には20回〜30回分の独立したデータが用いられているし、日内または日差の精度管理を行う場合にも測定する回数が多いほど、精度や向上するが、2回以上のデータがあれば計測は可能である。通常精度管理における不確かさを推定する場合には、独立した15回以上の測定値が推奨されているため、本実施例では15回分のデータを利用しての測定方法を明記する。精度を測定するための値は平均値や標準偏差などが利用できる。例えばSD値を用いて、15回のデータを母集団として精度管理を行う場合について図3に示す。最初の測定開始日から15日間は精度管理のデータの蓄積と判定値として用いるSD値の算出に利用する。各精度管理試料については同じ試料を複数回測定し、その平均値をその日の測定値とする。判定に用いる基準とする値と、比較する測定値の母集団を同じにするため、測定日のデータを含めた過去15日分のデータを利用する。ただし、判定値を上回ったデータが3濃度の測定値のうち1つでも存在した場合はその後のSD値に影響を及ぼすため、利用しないこととする。例えば17日目に得たデータが判定値を上回った場合、翌日18日目のSD値は3〜16日と、18日目の17日目のデータを除いた15日分のデータを用いて計算する。同じように翌々日の19日目には4〜16日と、18〜19日の計15日間のデータを用いてSD値を計算する。一日に数回精度管理測定を行うような場合には、過去15回分のデータを利用して計算することが好ましい。
【0023】
4.判定値の設定方法
測定するデータが毎日同じ値でまったく同じSD値になるということは極めてまれである。例えその値はごく僅かなものでも数値の変動は起こる。従って、SD値の変動があるのかないのかではなく、その変動の幅が通常のばらつきの範囲内なのか、問題のある変動幅なのかを見極めることが重要である。
【0024】
最も基本的で、最も多用されている管理限界範囲はバラツキ(標準偏差)の2倍〜3倍(シグマ)の値を使用したものである。バラツキの分布が正規分布の1シグマでは68%、2シグマであれば95%、3シグマであれば99%がこの管理限界の中に入る。実際の測定においてこの管理限界が厳しすぎると異常原因による数値の変動でない値までが範囲外となる可能性が高くなるだけで、通常の検査作業の妨げとなる。精度をどこまで要求するかは各施設,各項目ごとに異なるため、判定値の設定は検査技師が自由に設定できるものとする。判定値は管理試料の測定前にも測定後にも入力または変更が可能とする。
【0025】
適切な判定値を設定するにはまず、予備データをとる必要がある。測定工程が安定な状態にある時に濃度の一定した数種類の標準血清を毎日n本測定してK日間継続してデータを蓄積する。この間の管理試料や試薬のロットは同じが好ましい。このデータを用いて平均値,標準偏差,変動係数などを計算する。その値からX倍またはZ%などプラスマイナスした値を判定値とする。判定値に利用する値は固定値とするかあるいは精度測定を積み重ねるごとに母集団を増やして、値を変動値とすることも可能である。
【0026】
本実施例では最初に15日間、同項目を5回測定し、各日の平均値を計算する。測定した15日間の標準偏差を計算して、その2シグマ(SD×2)の値を判定値と設定する。
【0027】
5.表示方法
表示の方法については、測定されたデータあるいは計算されたデータを数値として羅列することも可能である。精度管理を行う管理図法には、例えばX−R管理図法,X bar−R管理図法,X bar−Rs−R管理図法,ツインプロット法,プラスマイナス管理図法,マルチ・ルール管理法,累積和法,散布図法などの公知の手法を利用することが可能である。例えば測定値の変化を見やすくするためには横軸に測定日、縦軸にCV値やSD値など精度管理試料の濃度に影響を受けない正規化した値をとった管理図を作成することがより好ましい。図4は、一般的な管理図の例であり、横軸201に日付、縦軸202にはSD値とる。各濃度の管理図は濃度ごとに単独で表示することも可能であり、より好ましくは同一画面上に重ねたり,並べたりして表示することも可能である。例えば、図4では高濃度レベルの試料(H)203,中濃度レベルの試料(M)204,低濃度レベルの試料(L)205の管理図を縦に並べて表示する。
【0028】
また、各濃度の管理図を並べてあるいは重ねて表示した場合のY軸の表示幅は算出された平均値やSD値などの数値を目盛通りに表示することも可能であるが、例えば各濃度の数値に依存することなく一定のスケール、例えば、設定した上限管理値・下限管理値の幅に調整して表示することにより各濃度の変動幅が比較し易くなり、より好ましい。
【0029】
この図の横軸の日付は週単位,月単位,年単位など一定の期間(例えば30日間など)とし、日々更新されていくものとする。また、この管理図の表示は使用者が指定した複数の項目についても同一画面で表示できるものとする。
【0030】
6.判定方法
日々の測定において、測定の値によって値の変動は比較する値と比べるとき、変化なし、減少する、または増大するという3パターンが考えられる。従ってn種類の管理試料を測定した場合には3のn乗(3n)の変動の組み合わせが考えられる。例えば3種類の精度管理試料で精度管理を行った場合には値の変動パターンの組み合わせは3の3乗=27通りである。平均値などの場合には、この27通りの組み合わせについて考察する必要がある。しかしながら測定範囲やSD値,CV値などの場合、データのばらつきが大きいほど数値が大きくなるため、値が低下するということはばらつきが小さくなったということであり、生化学分析装置における精度管理においてはSDの値が小さくなることは問題ではなくSD値が小さくなることと、変化がないことは安定性が保たれているという同じ意味としてとらえられる。SD値が増大するということがその測定工程の安定性が保たれていないという意味であり、着目しなければならない問題となるのである。従って、SD値の変動はSD値が増大するか、しないかの2パターンを考えればいいのでn種類(n≧2)の精度管理試料を用いた場合には2のn乗(2n)通りの組み合わせについて考えればよい。
【0031】
本実施例においては3種類の濃度レベルの精度管理試料を測定した場合について述べているため、SD値の変動パターンは2の3乗=8通りである。ただし、3濃度ともSD値に変化がない(または小さい)という状態は正常な測定を得られるということなので、不確かさの要因を示すためのSDの変動パターンは8−1=7通りとなる。この7通りのパターンを図5に示す。図5の枠で囲った日(6/16)のデータの変動に注目すると、3つのうち1つの値が大きくなる場合で、Hのみが大きくなる場合(図5のa),Mのみ(図5のb),Lのみ(図5のc)の場合の3パターンが考えられる。つぎに3つのうち2つの値が大きくなる場合で、これもHとMが大きくなる場合(図5のd)、MとLが大きくなる場合(図5のe)、HとLが大きくなる場合(図5のf)の3パターンが考えられる。そして3つすべての値が大きく外れてしまう場合(図5のg)がある。
【0032】
これら7パターンについてその要因を考察すると、3つのうち1つが外れてしまった場合(a,b,c)は各項目に特異的でなく、その濃度の精度管理試料に特異的であった場合は精度管理試料の劣化または不良の可能性が高い。
【0033】
次に3つのうちHとMが大きくなる場合(d)はばらつきが起こりやすい低濃度の値の精度が保たれているにもかかわらず、中濃度と高濃度が異常値となっているということは、試薬の直線性がないと考えられるため、測定試薬の劣化と推察できる。
【0034】
MとLが大きくなる場合(e)は高濃度の値には影響されないが中濃度以下が正しい測定値ではないということなので、精度管理試料に劣化が見られる可能性が高い。これは測定項目によって影響が出るものとそうでないものがあるが、例えば尿素(UN)などは空気中に存在するアンモニアが精度管理試料の中に取り込まれることによって、試料中のアンモニアの濃度が変化してしまう可能性がある。また、一般に濃度が低い標準液ほど品質は不安定であるため、3種類の精度管理試料の開封日が同じであっても濃度が低い精度管理試料のほうが使用寿命は短くなるものと推察される。
【0035】
HとLの値が大きくなる場合(f)には、中濃度の測定値は安定しているということから、検査前に測定する検量線が中濃度の値を軸に上・下に傾きが変化していると考えられ、その日作成した検量線が正しく引かれていない可能性が高いと推察できる。
【0036】
3つとも異常値となった場合(g)には、項目に特有であれば、その項目試薬の劣化が原因であるし、全ての項目で異常値であった場合は試薬以外例えばランプであったり、恒温槽の温度であったりと機械面の理由である可能性が高い。
【0037】
以上を踏まえると、3濃度の精度管理試料についてばらつきのパターンをこの7通りに分類できれば、ばらつきの要因を判定することができる。
【0038】
判定例(1)
計算によって日差のばらつきの要因を推察する場合、SD値に注目した場合ついて述べる。それぞれの精度管理試料について判定値を設定する。これは検査技師が設定画面から、任意に設定することができるものとする。例えば測定開始から15日目に算出されたSD値を基準とした場合、その2倍の数値(2SD)を判定値と設定する。日々の測定において表1に示したとおり、データが安定している場合にはH,M,L全てのSD値は判定値を超えない。
【0039】
【表1】

【0040】
しかしパターン(a)ではHのSD値が、パターン(b)ではMのSD値が、パターン(c)ではLのSD値が判定値を超える。またパターン(d)ではHとMのSD値が、パターン(e)ではMとLのSD値が、パターン(f)ではHとLのSD値が基準範囲を上回る。さらにパターン(g)においてはH,M,Lの全ての値が基準範囲を上回る。以上のようにそれぞれの変化のパターンによって判定値を超える精度管理試料の種類と数は異なる。この判定値を利用して、値を超えた場合のパターンの識別を行う。この識別は精度管理試料を測定する度に自動的に算出され、精度管理の画面に管理図とともに判定された要因を表示する。
【0041】
自動的に識別できれば、判定された要因については表2に示した判定リストを参照にしてアラームと共に表示させることが可能である。
【0042】
【表2】

【0043】
判定例(2)
試料の測定の結果は管理図として表示させる。管理図にはH,M,Lそれぞれに設定した判定値のラインを設け、3種類の精度管理試料が相関のある変化がある場合を目視で判断しやすい形とする。得られた管理図と同じ画面上に図3で示した管理図のパターンを併記させて、パターンがどれに当たるか、検査技師が目視により判定する。画面上で同じパターンの管理図をクリックまたはチェックすることで表2に示したような対応表から判定結果を示すことができる。チェックをするという行為により判定結果の登録が完了する。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明における自動分析装置の基本的な概略を示す構成図。
【図2】精度管理試料の測定からばらつきの要因判定までのフローチャート。
【図3】日々の精度管理に用いるSD値の算出方法の例。
【図4】精度管理図の一例。
【図5】管理図で示す管理試料のばらつきのパターン。 a)Hの値のみSD値が大きくなった場合 b)Mの値のみSD値が大きくなった場合 c)Lの値のみSD値が大きくなった場合 d)HとMのSD値が大きくなった場合 e)MとLのSD値が大きくなった場合 f)HとLのSD値が大きくなった場合 g)H,M,L全てのSD値が大きくなった場合
【符号の説明】
【0045】
101 分析装置のデータ検出部
102 記憶部
103 演算部
104 表示部
105 操作部
106 判定部
201 管理図横軸日付
202 管理図縦軸SD値
203 高濃度の試料の管理図
204 中濃度の試料の管理図
205 低濃度の試料の管理図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
濃度既知の管理試料の測定結果を記憶する記憶手段と、
該記憶手段に記憶された測定結果の少なくとも平均値,変動係数,標準偏差を算出する算出手段と、
該算出手段で算出された平均値,変動係数,標準偏差を測定した前記管理試料の濃度により分類する分類手段と、
該分類手段により分類された平均値,変動係数,標準偏差のパターンを登録する登録手段と、
を備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項2】
請求項1記載の自動分析装置において、
前記登録手段に登録されたパターン毎に測定の不確かさの要因を対応させる対応手段を備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項3】
請求項1記載の自動分析装置において、
前記管理試料の測定結果が、前記登録手段に登録されたいずれのパターンにも当てはまらない場合は、新しいパターンとして該登録手段に登録する機能を備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項4】
請求項1記載の自動分析装置において、
前記算出手段,分類手段,登録手段の少なくともいずれかは、自動分析装置と通信回線を介して接続されたホストコンピュータが備えていることを特徴とする自動分析システム。
【請求項5】
請求項2記載の自動分析装置において、
前記不確かさの要因を判定する判定値を設定する設定手段を備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項6】
請求項2記載の自動分析装置において、
管理試料の平均値,変動係数,標準偏差とそれに対応する不確かさの要因を表示する表示手段を備えたことを特徴とする自動分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−180616(P2009−180616A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−20039(P2008−20039)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】