説明

自動分析装置

【課題】分析処理に適切な吸光度を有する反応液を用いた分析結果を得ることができる自動分析装置を提供すること。
【解決手段】反応容器20が測光部18を1回通過する間に測光部18が測定した複数の反応液の吸光度の標準偏差を、反応容器20が測光部18を通過するごとに算出する標準偏差算出部34aと、標準偏差算出部34aが算出した複数の標準偏差の各々が均一に攪拌された反応液における複数の吸光度の標準偏差に基づいて定められる閾値より小さいか否かを判定する標準偏差判定部34bと、平均値算出部34cが算出した標準偏差判定部34bによって閾値より小さいと判定された標準偏差を有する複数の吸光度の平均値のいずれかを検体の分析を行う際の吸光度として決定する吸光度決定部34dと、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体と試薬とを反応容器に分注し、この反応容器内で生じる反応液の吸光度を測定することによって検体を分析する自動分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、検体と試薬とを反応容器に分注し、この反応容器内で生じる反応液の吸光度を測定することによって検体を分析する自動分析装置が知られている。この自動分析装置は、光源と受光部とを有する測光部を備えており、光源が反応液を収容した反応容器に光を照射した後、受光部が受光した反応容器内の反応液を透過した光量をもとに吸光度を算出することによって検体の分析を行っている。
【0003】
ところで、吸光度を算出する方法の一つとして、反応容器が測光部を通過するごとに、測光部が反応容器上における複数の測定ポイントに対して光を連続照射し、反応液を透過した光をそれぞれ受光し、受光した光を平均化することによって反応液の吸光度を算出する方法がある。この方法は、測定ポイントごとの光量のばらつきを防止し、吸光度を算出することができる。しかし、検体と試薬との混ざり具合が不十分な測定ポイント、あるいは反応液に異物などが混入している測定ポイントが存在する場合、この測定ポイントによって反応液を透過する光が遮断されるため、この測定ポイントの光量が低くなり、吸光度が本来の値よりも高い値として算出される場合があった。
【0004】
このため、複数の測定ポイント内で通常の化学反応の光量とは異なる突出した測定ポイントの光量を除外し、残りの測定ポイントの光量を平均化することによって吸光度を算出する自動分析装置が知られている(特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2007−198739号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の自動分析装置は、異常な光量を除外して残りの光量から吸光度を算出しているだけであるため、算出した吸光度から正確な分析結果が得られるとは限らなかった。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、反応液の吸光度を測定する複数の測定ポイントの中に異常な測定ポイントが存在している場合であっても正確な分析結果を得ることができる自動分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の自動分析装置は、検体と試薬とを反応容器に分注し、該反応容器内で反応した反応液を用いることによって前記検体の分析を行う自動分析装置において、複数の前記反応容器を円周方向に沿って保持し、該円周方向に沿って周回可能な反応テーブルと、前記反応容器が前記反応テーブルの周回に伴って所定の領域を1回通過する間に前記反応容器内の反応液の吸光度を複数回測定し、前記反応容器が前記所定の領域を通過するごとに行う測光手段と、前記反応容器が前記所定の領域を1回通過する間に前記測光手段が測定した複数の反応液の吸光度の標準偏差を、前記反応容器が前記所定の領域を通過するごとに算出する標準偏差算出手段と、前記標準偏差算出手段が算出した複数の標準偏差の各々が、均一に攪拌された反応液における複数の吸光度の標準偏差に基づいて定められる閾値より小さいか否かを判定する標準偏差判定手段と、前記標準偏差判定手段によって前記閾値より小さいと判定された標準偏差を有する前記複数の反応液の吸光度の平均値を算出する平均値算出手段と、前記平均値算出手段が算出した複数の平均値のいずれかを検体の分析を行う際の吸光度として決定する吸光度決定手段と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明にかかる自動分析装置は、上記の発明において、前記吸光度決定手段は、前記複数の標準偏差が経時的に減少し、かつ、前記閾値より小さい標準偏差の数が2以上である場合に吸光度の決定を行うことを特徴とする。
【0010】
また、本発明にかかる自動分析装置は、上記の発明において、前記複数の標準偏差の経時変化をもとに異常の原因を特定する異常特定手段を備えたことを特徴とする。
【0011】
また、本発明にかかる自動分析装置は、上記の発明において、前記異常特定手段は、前記複数の標準偏差が経時的に減少し、かつ、前記閾値より小さい標準偏差が1以下である場合に前記反応容器の反応液が異常であると特定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明にかかる自動分析装置は、反応容器が反応テーブルの周回に伴って所定の領域を1回通過する間に測光部が測定した複数の反応液の吸光度の標準偏差を、反応容器が所定の領域を通過するごとに算出し、この算出した複数の標準偏差の各々が均一に攪拌された反応液における複数の吸光度の標準偏差に基づいて定められる閾値より小さいか否かを判定する。その後、閾値より小さいと判定された標準偏差を有する複数の反応液の吸光度の平均値を算出し、複数の平均値のいずれかを検体の分析を行う際の吸光度として決定するようにしているので、分析処理に適切な吸光度を有する反応液を用いた分析結果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の自動分析装置にかかる好適な実施の形態について説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一の部分には同一の符号を付している。
【0014】
図1は、この発明の実施の形態にかかる自動分析装置の概略構成を示す模式図である。図1に示すように、この発明の実施の形態にかかる自動分析装置1は、試薬と検体とを反応容器20に分注し、試薬と検体とを反応容器20内で反応させ、この反応液の吸光度を測定する測定機構2と、測定機構2を含む自動分析装置1全体の制御を行うとともに測定機構2における測定結果の分析を行う制御機構3とを備える。自動分析装置1は、これらの二つの機構が連携することによって複数の検体の分析を自動的に行う。
【0015】
まず、測定機構2について説明する。図1に示すように、測定機構2は、血液や尿等の検体を収容した複数の検体容器11aを保持する検体ラック11bを図中の矢印方向に順次移送する検体移送部11と、検体移送部11の所定の位置で静止している検体容器11aが収容する検体を反応容器20に分注する検体分注機構12と、複数の反応容器20を円周方向に沿って保持し、図中の矢印方向に周回することにより反応容器20を所定の位置まで移送する反応テーブル13と、反応容器20内に分注される試薬が収容された試薬容器15を複数収容する試薬庫14と、試薬庫14内の所定の位置で静止している試薬容器15が収容する試薬を反応容器20に分注する試薬分注機構16と、反応容器20に分注された検体と試薬とを攪拌する攪拌部17と、反応容器20に分注された液体の吸光度を測定する測光部18と、測光部18による測定が終了した反応容器20を洗浄する洗浄部19と、を備える。
【0016】
つぎに、制御機構3について説明する。制御機構3は、制御部31、入力部32、分析部33、決定部34、記憶部35、出力部36および送受信部37を備える。入力部32、分析部33、決定部34、記憶部35、出力部36および送受信部37は、制御部31に電気的に接続されている。
【0017】
制御部31は、CPU等によって実現され、自動分析装置1の各部の処理および動作を制御する。制御部31は、自動分析装置1の各構成部から入力される情報について所定の処理を行い、かつ、これらの各構成部に所定の処理を行った情報を出力する。
【0018】
入力部32は、キーボード、マウス、入出力機能を備えたタッチパネル等によって実現され、検体の分析に必要な諸情報や分析動作の指示情報等を外部から取得する。
【0019】
分析部33は、測光部18によって測定された吸光度の測定結果に基づいて検体の成分分析等を行う。
【0020】
決定部34は、測光部18によって測定された複数の吸光度のいずれかを検体の分析に用いる吸光度として決定する。決定部34は、標準偏差算出部34a、標準偏差判定部34b、平均値算出部34c、吸光度決定部34d、異常特定部34eおよび報知処理部34fを備える。標準偏差算出部34aは、反応容器20が測光部18を1回通過する間に測光部18が測定した複数の反応液の吸光度の標準偏差を、反応容器20が測光部18を通過するごとに算出する。標準偏差判定部34bは、標準偏差算出部34aが算出した複数の標準偏差の各々が、均一に攪拌された反応液における複数の吸光度の標準偏差に基づいて定められる閾値より小さいか否かを判定する。平均値算出部34cは、標準偏差判定部34bによって均一に攪拌された反応液における複数の吸光度の標準偏差に基づいて定められる閾値より小さいと判定された標準偏差を有する反応容器20が測光部18を1回通過する間に測光部18が測定した複数の反応液の吸光度の平均値を算出する。吸光度決定部34dは、平均値算出部34cが算出した複数の平均値のいずれかを検体の分析を行う際の吸光度として決定する。異常特定部34eは、標準偏差算出部34aが算出した反応容器20が測光部18を1回通過する間に測光部18が測定した複数の反応液の吸光度の標準偏差の経時変化をもとに異常の原因を特定する。報知処理部34fは、制御部31を介して異常特定部34eが特定した異常の原因を示す情報を出力部36に出力する。
【0021】
記憶部35は、情報を磁気的に記憶するハードディスクと、自動分析装置1が処理を実行する際に、この処理にかかる各種プログラムをハードディスクからロードして電気的に記憶するメモリとを用いて実現され、検体の分析結果等を含む諸情報を記憶する。記憶部35は、CD−ROM、DVD−ROM、PCカード等の記憶媒体に記憶された情報を読み取ることができる補助記憶装置を備えてもよい。
【0022】
出力部36は、ディスプレイ、プリンタおよびスピーカ等によって実現され、各種情報を出力する。
【0023】
送受信部37は、図示しない通信ネットワークを介して所定の形式にしたがって情報の送受信を行うインターフェースとしての機能を有する。
【0024】
以上のように構成された自動分析装置1では、反応テーブル13上で順次移送される複数の反応容器20に対して、試薬分注機構16が試薬庫14の試薬容器15から試薬を分注した後、検体分注機構12が検体吸引位置の検体容器11aから検体を分注する。その後、測光部18が試薬と検体とを反応させた状態の反応液の吸光度を測定し、この測定結果をもとに分析部33が分析することによって、検体の成分分析等が自動的に行われる。その後、洗浄部19が測光部18による測定が終了した後に搬送される反応容器20を搬送させながら洗浄する。
【0025】
つぎに、測光部18および反応容器20について説明する。図2は、測光部18の概略構成を示す模式図である。図3は、反応容器の斜視図である。測光部18は、図2に示すように、光源18a、受光部18bおよびA/Dコンバータ18cを備える。光源18aおよび受光部18bは、反応テーブル13が保持する反応容器20を挟んで向かい合う位置に配置される。光源18aは、反応テーブル13の内周側に配置される。受光部18bは、反応テーブル13の外周側に配置される。光源18aは、ハロゲンランプ等によって実現され、分析用の光を反応容器20に照射する。受光部18bは、凹面回折格子等の回折格子と、回折格子によって分光された光を測定項目によって決まるスペクトルごとに測定し、この光量に対応する信号を出力する受光素子アレイ、CCDセンサ、CMOSセンサ等の受光センサとを有している。A/Dコンバータ18cは、受光部18bから出力される信号をデジタル値に変換し、制御部31に出力する。
【0026】
反応容器20は、図3に示すように、容量が数nL〜数mL程度の微少な容器であり、側壁20a、側壁20bおよび底壁20cによって液体を保持する液体保持部20dが形成され、液体保持部20dの上部に開口部20eを有する。反応容器20は、測光部18の光源18aから照射される分析光BL(340〜800nm)に含まれる光の80%以上を透過する透明素材、たとえば、耐熱ガラスを含むガラス,環状オレフィンやポリスチレン等の合成樹脂が使用される。反応容器20は、側壁20bを反応テーブル13の半径方向に向けて配置される。また、反応容器20は、反応テーブル13の回転に伴って測光部18の光源が照射する分析光BLを通過する際に、分析光BLが透過する測光領域Amとして側壁20bの下部が利用される。
【0027】
図4は、反応容器20が光源18aと受光部18bとの間を通過するごとに、測光部18によって測定される吸光度の時間変化を示す図である。図4に示す曲線L1は、反応液を収容した反応容器20が光源18aと受光部18bとの間を通過するごとに、測光部18によって測定される吸光度の時間変化を示したものである。また、横軸は時間であり、縦軸は吸光度である。ここで、反応容器20が光源18aと受光部18bとの間を通過する時間を測光点Pn(n=0,1・・・,27)として示す。
【0028】
図4に示すように、測光部18は、第1試薬の分注後の反応容器20内の液体の吸光度を含め、検体の分注後および第2試薬の分注後を経て、1つの反応容器20あたり吸光度を全部で28回測定する。具体的には、測光点P0は第1試薬の分注直後の吸光度を示し、測光点P5は検体の分注直後の吸光度を示し、測光点P14は第2試薬の分注直後の吸光度を示す。分析部33は、反応容器20に第2試薬が分注された時点の吸光度から所定時間経過後の吸光度をもとに検体を分析する。具体的には、図4に示すように、測光点P14〜P27の吸光度をもとに単位時間あたりの吸光度の傾き、または吸光度の変化量をもとに検体を分析する。
【0029】
図5は、反応容器20が光源18aと受光部18bとの間を1回通過する間に測光部18が複数回測定する反応液Wの吸光度の時間変化を示す図である。図5に示す曲線L21,L22,L23,L24は、測光点P14,P21,P24,P27における時間変化をそれぞれ示しており、反応液Wの攪拌状態が良好な場合を例示している。なお、図5において、時間軸に記載されている時点tn(n=1,2,・・・,8)の間隔は全てΔtで一定である。
【0030】
図5に示すように、反応容器20内の反応液Wは、反応テーブル13の回転に伴って時点t1から時点t8までの間に測光部18を通過する。この間に測光部18が測定する吸光度は、側壁20aが通過するときに測光部18が測定する吸光度よりも低くなり、ほぼ一定値を有している。また、曲線L21〜L24が示すように、各測光点における吸光度の変化は、ほぼ一定の変化を示し、時間が進むにつれて吸光度の値が減少する。なお、反応容器20が測光部18を通過する時間t8−t1=7Δtは、反応テーブル13の回転の速さによって変わる。この反応テーブルの回転の速さは、A/Dコンバータ18cの能力に応じて定められる。
【0031】
図6は、反応液Wに検体と試薬とが混ざり合ってない部分S1が存在する時に反応容器20が光源18aと受光部18bとの間を1回通過する間に測光部18が複数回測定する反応液Wの吸光度の時間変化を示す図である。図6に示す曲線L31〜L34は、反応液Wに検体と試薬とが混ざり合ってない部分S1が存在する時に反応容器20が光源18aと受光部18bとの間を1回通過する間に測光部18が複数回測定する反応液Wの吸光度の時間変化を示す。
【0032】
図6に示すように、反応液Wの攪拌状態により検体と試薬とが混ざり合ってない部分S1が存在する場合には、検体と試薬とが混ざり合ってない部分S1が分析光BLを遮断または吸収するため、反応液Wを透過する光量が減少する。このため、曲線L31〜L34が示すように、反応容器20が光源18aと受光部18bとの間を1回通過する間に検体と試薬とが混ざり合ってない部分S1が存在する時間、具体的には、測光点P14における曲線L31の時間は時点t5−t7=2Δt程度であり、この時間の吸光度が高い値を示す。その後、反応容器20内の反応液Wは、反応テーブル13の移動と停止とによって攪拌されるので、測光点が進むにつれて、検体と試薬とが混ざり合ってない部分S1が減少することにより、反応容器20が光源18aと受光部18bとの間を通過するごとに検体と試薬とが混ざり合ってない時間も徐々に減少する。具体的には、測光点P14の曲線L31と測光点P27の曲線L34とを比較した場合には、曲線L31で検体と試薬とが混ざり合ってない時間は時点t5−t7=2Δt程度である。これに対して、曲線L34で検体と試薬とが混ざり合ってない時間は時点t6−t7=Δt程度と短くなっている。この場合、時間の経過とともに検体と試薬とが混ざり合っていない時間が短くなっているものの、反応液Wが均一に混ざりあっているわけではない。このため、反応液Wの攪拌状態が良好ではない。
【0033】
図7は、反応液Wに検体と試薬とが混ざり合ってない部分S1が存在する時に反応容器20が光源18aと受光部18bとの間を1回通過する間に測光部18が複数回測定する反応液Wの吸光度の時間変化を示す図である。図7に示す曲線L41およびL42は、反応液Wに検体と試薬とが混ざり合ってない部分S1が存在する時に反応容器20が光源18aと受光部18bとの間を1回通過する間に測光部18が複数回測定する反応液Wの吸光度の時間変化を示す。また、曲線L43およびL44は、反応液Wに検体と試薬とが混ざり合ってない部分S1が消失した後に反応容器20が光源18aと受光部18bとの間を1回通過する間に測光部18が複数回測定する反応液Wの吸光度の時間変化を示す。
【0034】
図7に示すように、反応容器20内の反応液Wは、反応テーブル13の移動と停止とによって攪拌されることにより、検体と試薬とが混ざり合ってない部分S1が減少し、測定の途中で検体と試薬とが混ざり合ってない部分S1が消失する。このため、曲線L43およびL44に示すように、反応容器20が光源18aと受光部18bとの間を通過するごとに、測光点における吸光度の変化は、ほほ一定の変化を示し、反応液Wの攪拌状態が良好となる。
【0035】
図8は、反応容器20の側壁20bに傷S2が存在する時に反応容器20が光源18aと受光部18bとの間を1回通過する間に測光部18が複数回測定する反応液Wの時間変化を示す図である。図8に示す曲線L51〜L54は、反応容器20の側壁20bに傷S2が存在する時に反応容器20が光源18aと受光部18bとの間を1回通過する間に測光部18が複数回測定した反応液Wの時間変化を示す。
【0036】
図8に示すように、反応容器20の側壁20bに傷S2が存在する場合には、この傷S2が分析光BLを反射または遮断するため、反応液Wを透過する光量が減少する。このため、曲線L51〜L54に示すように、反応容器20が光源18aと受光部18bとの間を通過する間に傷S2が存在する時間、具体的には、時点t6−t7=Δt程度であり、この時間の吸光度が高い値を示す。この場合、反応容器20の交換を行わない限り、傷S2が存在する時間が無くなることがなく、反応液Wの攪拌状態が良好であっても、吸光度が本来の値よりも高い値として測定される。
【0037】
上述したどの場合であっても時間とともに吸光度は変化するが、変化の仕方が異なる。すなわち、反応容器20が光源18aと受光部18bとの間を1回通過する間に測光部18が測定した複数の反応液Wの吸光度の標準偏差がそれぞれの場合で異なる。以下の説明においては、反応容器20が光源18aと受光部18bとの間を1回通過する間に測光部18が測定した複数の反応液Wの吸光度の標準偏差を、単に吸光度の標準偏差という。
【0038】
図9は、反応液Wの攪拌状態に応じた吸光度の標準偏差の時間変化を示す図である。図9において、曲線L61は、反応液Wの攪拌状態が良好な場合(図5に対応)における吸光度の標準偏差の時間変化を示す。曲線L62は、反応液Wの攪拌状態が測定の途中で良好となる場合(図7に対応)における吸光度の標準偏差の時間変化を示す。曲線L63は、反応液Wの攪拌状態が不良な場合(図6に対応)における吸光度の標準偏差の時間変化を示す。曲線L64は、反応容器20の側壁20bに傷S2が存在する場合(図8に対応)における吸光度の標準偏差の時間変化を示す。また、横軸は時間であり、縦軸は標準偏差である。
【0039】
図9に示すように、反応液Wの攪拌状態が良好な場合には、曲線L61に示すように、各測光点の全ての吸光度の標準偏差は、閾値LTより小さく、測光点P14〜P27まで一定値を維持する。反応液Wの攪拌状態が測定の途中で良好になる場合には、曲線L62が示すように、各測光点の吸光度の標準偏差は、経時的に減少するとともに、測定の途中で閾値LTより小さくなる。反応液Wの攪拌状態が不良な場合には、曲線L63が示すように、各測光点の吸光度の標準偏差は、閾値LTを超えたまま、経時的に減少する。反応容器20の側壁20bに傷S2が存在する場合には、曲線L64が示すように、各測光点の吸光度の標準偏差は、閾値LTを超えるとともに、一定値を維持する。なお、閾値LTは、均一に攪拌された反応液Wにおける複数の吸光度の標準偏差に基づいて設定される。
【0040】
標準偏差算出部34aは、吸光度の標準偏差を、反応容器20が光源18aと受光部18bとの間を通過するごとに算出する。その後、標準偏差判定部34bは、標準偏差算出部34aが算出した測光点P14〜P27の吸光度の標準偏差が、閾値LTより小さいかか否かを判定し、平均値算出部34cが閾値LTより小さい吸光度の標準偏差を有する反応容器20が光源18aと受光部18bとの間を1回通過する間に測光部18が複数回測定した反応容器20内の反応液Wの吸光度の平均値を算出する。その後、吸光度決定部34dは、平均値算出部34cが算出した複数の平均値のいずれかを検体の分析を行う際の吸光度として決定する。具体的には、分析方法、分析項目、または試薬等により検体の分析を行う際の吸光度を決定する。また、異常特定部34eは、吸光度の標準偏差の経時変化をもとに異常の原因を特定する。具体的には、吸光度の標準偏差が閾値LTを超えるとともに、測光点P14〜27にかけて減少する場合には、反応液Wの攪拌状態が不良と特定し、吸光度の標準偏差が閾値LTを超えるとともに、測光点P14〜27にかけて一定値を維持する場合には、反応容器20が異常と特定するようにしている。
【0041】
ここで、図10に示すフローチャートを参照して、自動分析装置1が行う吸光度決定処理について説明する。なお、以下では、反応容器20に第2試薬分注後における一つの検体の吸光度決定処理を行う場合の一連の処理を説明する。
【0042】
まず、測光部18は、反応容器20が光源18aと受光部18bとの間を1回通過する間に反応容器20内の反応液Wの吸光度を複数回測定する測光処理を行う(ステップS101)。
【0043】
その後、標準偏差算出部34aは、制御部31を介して反応容器20が測光部18を1回通過する間に測光部18が測定した複数の反応液の吸光度を記憶部35から取得し(ステップS102)、吸光度の標準偏差を算出する(ステップS103)。
【0044】
その後、制御部31は、測光部18を通過する反応容器20に対して、測光部18による測光処理が所定回数であるか否かを判定する(ステップS104)。測光部18による測光処理が所定回数でない場合(ステップS104:No)、ステップS101へ移行する。一方、測光部18による測光処理が所定回数である場合(ステップS104:Yes)、ステップS105へ移行する。
【0045】
その後、標準偏差判定部34bは、標準偏差算出部34aが算出した複数の吸光度の標準偏差の各々が閾値LTより小さいか否かを判定する(ステップS105)。複数の吸光度の標準偏差の各々が閾値LTより小さい場合(ステップS105:Yes)、ステップS106へ移行する。一方、複数の吸光度の標準偏差の各々が閾値LTより小さくない場合(ステップS105:No)、ステップS107へ移行する。
【0046】
ステップS107において、異常特定部34eは、標準偏差算出部34aが算出した複数の吸光度の標準偏差が経時的に減少するか否かを判定する(ステップS107)。複数の吸光度の標準偏差が経時的に減少する場合(ステップS107:Yes)、ステップS108へ移行する。一方、複数の吸光度の標準偏差が経時的に減少しない場合(ステップS107:No)、ステップS109へ移行し、報知処理部34fは、制御部31を介して出力部36に反応容器20が異常である旨を示す情報を出力させ(ステップS109)、本処理を終了する。
【0047】
ステップS108において、異常特定部34eは、閾値LTより小さい吸光度の標準偏差の数が2以上であるか否かを判定する(ステップS108)。閾値LTより小さい吸光度の標準偏差の数が2以上である場合(ステップS108:Yes)、ステップS110へ移行する。一方、閾値LTより小さい吸光度の標準偏差の数が2未満である場合(ステップS108:No)、ステップS111へ移行する。
【0048】
ステップS110において、異常特定部34eは、閾値LTより小さい吸光度の標準偏差を有する測光点が検体の分析に用いる測光点であるか否かを判定する(ステップS110)。閾値LTより小さい吸光度の標準偏差を有する測光点が検体の分析に用いる測光点である場合(ステップS110:Yes)、ステップS106へ移行する。一方、閾値LTより小さい吸光度の標準偏差を有する測光点が検体の分析に用いる測光点でない場合(ステップS110:No)、ステップS111へ移行し、報知処理部34fは、制御部31を介して出力部36に反応液Wが異常である旨を示す情報を出力させ(ステップS111)、本処理を終了する。
【0049】
ステップS106において、平均値算出部34cは、標準偏差判定部34bによって閾値LTより小さいと判定された吸光度の標準偏差を有する測光点における複数の反応液の吸光度の平均値を算出する(ステップS106)。
【0050】
その後、吸光度決定部34dは、平均値算出部34cが算出した複数の平均値を検体の分析に用いる吸光度として決定し(ステップS112)、本処理を終了する。
【0051】
この発明の実施の形態では、測光部18が、反応容器20が光源18aと受光部18bとの間を1回通過する間に反応容器20内の反応液Wの吸光度を複数回測定し、標準偏差算出部34aが吸光度の標準偏差を、反応容器20が光源18aと受光部18bとの間を通過するごとに算出し、標準偏差判定部34bが吸光度の標準偏差の各々が閾値LTより小さいか否かを判定する。その後、平均値算出部34cが閾値LTより小さいと判定された吸光度の標準偏差を有する複数の反応液Wの吸光度の平均値を算出し、吸光度決定部34dが複数の平均値のいずれかを検体の分析を行う際の吸光度として決定することによって、分析処理に適切な吸光度を有する反応液Wを用いた分析結果を得ることができる。さらに、異常特定部34eは、標準偏差の経時変化をもとに異常の原因を特定するようにしているので、再度、分析を行う際に傷S2が生じた反応容器20を用いることがないため、反応容器20の傷S2によって生じる分析結果の異常値が防止でき、結果的に一連の分析処理の処理効率低下を防止することができる。
【0052】
なお、上述した実施の形態では、閾値LTより小さい標準偏差の数が2以上の場合に、閾値LTより小さい標準偏差を有する反応容器20が光源18aと受光部18bとの間を1回通過する間に測光部18が複数回測定した反応液Wの吸光度の平均値のいずれかを検体の分析に用いる吸光度として決定していたが、分析方法、分析項目、または反応試薬等によって、閾値LT未満の数を可変とし、たとえば、閾値LTより小さい標準偏差の数が1以上であってもよい。
【0053】
また、上述した実施の形態では、第2試薬分注後に吸光度の標準偏差が閾値LTより小さいか否かを判定していたが、分析方法、分析項目、または反応試薬等により、判定を行う時間を調整し、たとえば、第1試薬分注後から判定を行ってもよい。
【0054】
さらに、上述した実施の形態では、反応容器20が光源18aと受光部18bとの間を1回通過する間に測光部18が複数回測定する反応容器20内の反応液Wの吸光度の平均値を、検体の分析に用いる吸光度として決定していたが、これに限らず、反応容器20が光源18aと受光部18bとの間を1回通過する間に測光部18が複数回測定する反応容器20内の反応液Wの吸光度の最大値、最小値、または複数の反応液の吸光度のいずれか一つの吸光度であってもよい。
【0055】
また、上述した実施の形態では、異常特定部34eは、閾値LTを超えて、吸光度の標準偏差が一定値を維持する場合に、反応容器20に傷S2が生じていると特定していたが、これに限らず、反応容器20に付着した汚れ、反応液Wに混入した気泡、または反応液Wに混入した異物と特定するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施の形態に係る自動分析装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る測光部の概略構成を示す模式図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る反応容器の斜視図である。
【図4】反応容器が光源と受光部との間を通過するごとに、測光部によって測定される吸光度の時間変化を示す図である。
【図5】反応容器が光源と受光部との間を1回通過する間に測光部が複数回測定する反応液の吸光度の時間変化を示す図である。
【図6】反応液に検体と試薬とが混ざって合ってない部分が存在する時に反応容器が光源と受光部との間を1回通過する間に測光部が複数回測定する反応液の吸光度の時間変化を示す図である。
【図7】反応液に検体と試薬とが混ざって合ってない部分が存在する時に反応容器が光源と受光部との間を1回通過する間に測光部が複数回測定する反応液の吸光度の時間変化を示す図である。
【図8】反応容器の側壁に傷が存在する時に反応容器が光源と受光部との間を1回通過する間に測光部が複数回測定する反応液の吸光度の時間変化を示す図である。
【図9】反応液の攪拌状態に応じた吸光度の標準偏差の時間変化を示す図である。
【図10】本発明の実施の形態に係る自動分析装置の制御部および決定部が行う吸光度決定処理の概要を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0057】
1 自動分析装置
2 測定機構
3 制御機構
11 検体移送部
11a 検体容器
11b 検体ラック
12 検体分注機構
13 反応テーブル
14 試薬庫
15 試薬容器
16 試薬分注機構
17 攪拌部
18 測光部
18a 光源
18b 受光部
18c A/Dコンバータ
19 洗浄部
20 反応容器
20a,20b 側壁
20c 底壁
20d 液体保持部
20e 開口部
31 制御部
32 入力部
33 分析部
34 決定部
34a 標準偏差算出部
34b 標準偏差判定部
34c 平均値算出部
34d 吸光度決定部
34e 異常特定部
34f 報知処理部
35 記憶部
36 出力部
37 送受信部
Am 測光領域
BL 分析光
W 反応液
S1 固形物
S2 傷

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体と試薬とを反応容器に分注し、該反応容器内で反応した反応液を用いることによって前記検体の分析を行う自動分析装置において、
複数の前記反応容器を円周方向に沿って保持し、該円周方向に沿って周回可能な反応テーブルと、
前記反応容器が前記反応テーブルの周回に伴って所定の領域を1回通過する間に前記反応容器内の反応液の吸光度を複数回測定し、前記反応容器が前記所定の領域を通過するごとに行う測光手段と、
前記反応容器が前記所定の領域を1回通過する間に前記測光手段が測定した複数の反応液の吸光度の標準偏差を、前記反応容器が前記所定の領域を通過するごとに算出する標準偏差算出手段と、
前記標準偏差算出手段が算出した複数の標準偏差の各々が、均一に攪拌された反応液における複数の吸光度の標準偏差に基づいて定められる閾値より小さいか否かを判定する標準偏差判定手段と、
前記標準偏差判定手段によって前記閾値より小さいと判定された標準偏差を有する前記複数の反応液の吸光度の平均値を算出する平均値算出手段と、
前記平均値算出手段が算出した複数の平均値のいずれかを検体の分析を行う際の吸光度として決定する吸光度決定手段と、
を備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項2】
前記吸光度決定手段は、前記複数の標準偏差が経時的に減少し、かつ、前記閾値より小さい標準偏差の数が2以上である場合に吸光度の決定を行うことを特徴とする請求項1に記載の自動分析装置。
【請求項3】
前記複数の標準偏差の経時変化をもとに異常の原因を特定する異常特定手段を備えたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の自動分析装置。
【請求項4】
前記異常特定手段は、前記複数の標準偏差が経時的に減少し、かつ、前記閾値より小さい標準偏差が1以下である場合に前記反応容器の反応液が異常であると特定することを特徴とする請求項3に記載の自動分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−160116(P2010−160116A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−3962(P2009−3962)
【出願日】平成21年1月9日(2009.1.9)
【出願人】(510005889)ベックマン・コールター・インコーポレーテッド (174)
【Fターム(参考)】