説明

自動分析装置

【課題】簡単な構成でありながら試薬保冷庫の試薬吸引口に発生した結露水が試薬分注プローブに付着することを防止できる自動分析装置を実現する。
【解決手段】自動分析装置における試薬保冷庫8の試薬吸引口22内部に複数の縦溝23が形成され。縦溝23は表面張力により大きな液滴を形成できない程度の溝形状である。外気が露点まで下がれば試薬吸引口22の内部に発生した結露は縦溝23の上に小さな水滴を形成し、縦溝23に発生した水滴同士で集合を繰り返すが大きな水滴を形成することがなく全体が濡れた状態になる。サンプリングノズルが試薬吸引口22を通過した際、水滴が付着する可能性を大幅に低下することができる。結露水は縦溝23に沿って徐々に試薬吸引口22の下部に流れ、試薬吸引口22の下部開口周囲面に吸水体24を配置し、この吸水体24に吸水させ、吸水された結露水を排出可能な場所で排出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液、尿などの生体サンプルに含まれる各種の成分の定性・定量分析する自動分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動分析装置には、分析のための試薬が入った試薬ボトルを収納する試薬保冷庫を有するものがある。この試薬保冷庫は、試薬容器を出し入れするための開放部分を備え、この開放部分には冷気が庫外に逃げ出すのを防止するため、カバーが設けられている。
【0003】
このカバーは、一般に試薬保冷庫の上壁部として構成され、カバーには試薬分注プローブが試薬容器から必要量の試薬を分取するため通過する際に必要な小さな切り欠きや孔(試薬吸入口)が設けられている。しかし、その試薬吸引口付近に高温多湿な外気が接触していると、試薬吸引口で露点以下になった場合に試薬吸引口に結露が発生し、時間経過により大きな水滴に成長してくる。
【0004】
試薬分注プローブが試薬を分取するために、試薬保冷庫も試薬吸引口を通過する際、水滴を付着させて試薬容器内の試薬に侵入した場合には、試薬の希釈や劣化を発生させる。また、試薬を分取した後に反応容器に試薬を分注する際、試薬と共に水滴の一部を反応容器に滴下し、分析精度の低下させる恐れがあった。
【0005】
この問題を解決するため、特許文献1に記載された発明では、保冷庫に二重構造をしたカバーを設け、このカバーの隙間に発熱体を施して加熱し、常に表面温度を30〜40℃に保つことで結露を防止する技術を開示している。
【0006】
また、特許文献2に記載の発明では、試薬保冷庫の上壁内面に傾斜を設け、試薬保冷庫上壁に結露した水滴を保冷庫の中央部付近に集合させ、試薬ボトル内に滴下するのを防止する技術を開示している。
【0007】
【特許文献1】特開昭56−140258号公報
【特許文献2】特開平8−262030号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に記載された発明では、二重構造をしたカバーの隙間に発熱体を施して加熱し、常に表面温度を30〜40℃に保つことで結露を防止しているが、カバーの構造が複雑であり、高価である。また、カバーの表面温度が高いために試薬保冷庫内の温度分布に、このカバーを設けない場合と差異が生じてしまい、保管する試薬が温度による影響を受け易くなり、安定性に欠けるという問題がある。
【0009】
また、特許文献2に記載の発明では、試薬保冷庫の上壁内面に傾斜を設け、試薬保冷庫上壁に結露した水滴が試薬ボトル内に滴下するのを防止するとしているが、カバーの構造が複雑、高価である。また、高温多湿の外気が保冷庫内に入ってくることを想定しているため、このカバーを設けない場合と、薬保冷庫内の温度分布に差異が生じてしまうという問題がある。
【0010】
本発明の目的は、簡単な構成でありながら、試薬保冷庫の試薬吸引口に発生した結露水が試薬分注プローブに付着することを防止できる試薬保冷庫を備えた自動分析装置を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明は次のように構成される。
【0012】
本発明の自動分析装置は、試薬を収納し、保冷する試薬保冷庫と、この試薬保冷庫に形成された試薬吸引口を介して試薬保冷庫内に挿入して試薬を吸引し、試薬吸引口を介して試薬保冷庫外に移動し、吸引した試薬を反応容器に吐出するサンプリングノズルを有する試薬分注機構を備え、試薬保冷庫に形成された試薬吸引口の内表面に液滴成長抑制手段が形成されている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、簡単な構成でありながら、試薬保冷庫の試薬吸引口に発生した結露水が試薬分注プローブに付着することを防止できる試薬保冷庫を備えた自動分析装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を添付図面を参照して説明する。
【0015】
図1は本発明が適用される自動分析装置の概略構成図である。各部の機能は公知のものであるため、詳細についての記述は省略する。
【0016】
図1において、分析部100は試料が満たされた試料容器と、試料容器を保持するためのサンプルディスクと、分析試験内容に対応した試薬を保持するための試薬ディスク1と、試料と試薬を反応させるための反応容器2と、反応容器2を保持するための反応テーブル3と、試料を反応容器2に分注するための試料分注機構4と、試薬を反応容器2に分注するための試薬分注機構5と、試料と試薬を撹拌混合するための撹拌機構6と、反応容器2を洗浄するための洗浄機構と、反応容器2内の反応液を吸光度測定するための光度計7とを備えている。
【0017】
試薬ディスク1は、試薬を長時間安定に保持するため、試薬保冷庫8内に収容されている。また、制御系200は、制御部9と、分析制御情報を記憶する情報記憶部10と、情報を表示するための表示部11と、情報記憶部10に情報を入力するための入力部12とを備え、から構成され、インターフェース13を介して分析部制御を行う。
【0018】
次に、図2〜図5を参照して、試薬保冷庫8内から試薬を吸引する動作について説明する。図2において、通常、試薬保冷庫8内は試薬を長時間安定に保持するため5〜15°Cに保冷されている。試薬保冷庫8内部に、高温多湿の外気が接触していると、外気の温度が下がり、露点以下になると結露が発生して水滴を生じる。更に、露点以下の状態が長時間継続すると大きな水滴に成長する。
【0019】
試薬保冷庫8内と外部とは温度影響を防止するために断熱材で熱的に遮断されているが、試薬を分取するための、試薬機構5に備えられてサンプリングノズル21が通過する試薬吸引口22だけは、断熱材で封止できない。このため、試薬吸引口22内部に外気が侵入すると、外気は露点以下となり、結露が発生し水滴を生じる。
【0020】
試薬分注機構5は試薬保冷庫8の試薬吸引口22の真上にサンプリングノズル21を移動させる。次に、サンプリングノズル21は試薬吸引口22を通過して試薬保冷庫8内の試薬容器に下降し、必要な試薬液量を分取する。その後、サンプリングノズル21は試薬吸引口22を通過して試薬吸引口22の真上に上昇する。そして、試薬分注機構5は検体が分取されている反応容器2の真上にサンプリングノズル21を移動させ、分取した試薬を所定量だけ吐出する。
【0021】
ここで、図3に示すように、試薬吸引口22に結露が発生している場合には、サンプリングノズル21に試薬吸引口22の水滴が付着し、図4に示すように、そのまま試薬容器に向かって下降するため、付着した水滴を試薬に混入させてしまう。
【0022】
これが何回も繰り返されることで試薬が希釈されてしまう。また、図5に示すように、サンプリングノズル21の試薬分取後の上昇時に、試薬吸引口22で水滴が付着すると、反応容器2に試薬を分注する際に、サンプリングノズル21に付着した水滴を試薬と共に滴下してしまうため、測定精度を低下させてしまう。
【0023】
試薬吸引口22を大きくすることでサンプリングノズル21への水滴の付着はなくなるが、試薬吸引口22や試薬保冷庫8内部の結露が増加するため、大きくすることはできない。
【0024】
図6は、本発明の一実施形態である自動分析装置における試薬保冷庫8の試薬吸引口22の概略構成を示す平面図(図6の(A))と断面図(図6の(B))である。
【0025】
図6において、自動分析装置における試薬保冷庫8の試薬吸引口22の内部に試薬保冷庫8の外面から内面に向けて複数の縦溝23が形成されている。
試薬吸引口22の内表面に形成された縦溝23は、表面張力により大きな液滴を形成できない程度の溝形状である。例えば、幅が1.5mm、深さが1mmの縦溝23が複数個、試薬吸引口22の内表面に形成されている。
【0026】
一般に、細かい溝の上では、見かけ上の表面張力が小さくなり、大きな液滴は形成できないことが知られている。外気が露点まで下がれば、試薬吸引口22の内部に発生した結露は縦溝23の上に小さな水滴を形成し、縦溝23に発生した水滴同士で集合を繰り返すが、大きな水滴を形成することがなく、全体が濡れた状態になる。
【0027】
このため、サンプリングノズル21が試薬吸引口22を通過した際に、サンプリングノズル21が試薬吸引口22の内表面に接触しない限り、水滴が付着する可能性を大幅に低下することができる。つまり、縦溝23は、液滴成長抑制手段として作用する。
【0028】
結露水は、縦溝23に沿って徐々に試薬吸引口22の下部に流れてくるが、試薬吸引口22の下部開口周囲面に吸水体24を配置し、この吸水体24に吸水させ、吸水された結露水を排出可能な場所で排出する。つまり、吸水体24を試薬吸引口22の下部開口周囲面から、試薬保冷庫8内に形成された排出口に至るまで延長して配置し、重力により排水する構成とする。
【0029】
以上のように、本発明の一実施形態によれば、試薬保冷庫8の試薬吸引口22の内表面に複数の縦溝23を形成したので、簡単な構成でありながら。サンプリングノズル21に結露した水滴が付着することを防止することができる。
【0030】
つまり、試薬保冷庫の試薬吸引口に大きな結露水が付着することがないので、結露水が試薬分注プローブに付着することを防止でき、試薬の薄まりや劣化、測定精度の低下を防止した自動分析装置を提供することができる。
【0031】
なお、縦溝23は、切削加工、レーザー加工等により、形成可能である。また、図6に示した縦溝構造ではなく、液滴成長抑制手段として、試薬吸引口22の内表面に細かな凹凸を形成してもよい。このような凹凸であっても、見掛け上の表面張力を小さくすることができるので、縦溝23と同じ効果を得ることができる。
【0032】
また、縦溝や凹凸を形成するのではなく、試薬吸引口の内表面に濡れ性の高いフィルムを貼り付けたり、コーティングをしたり、更に内壁表面を改質することで液滴成長抑制手段として同様な効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明が適用される自動分析装置の概略構成図である。
【図2】図1に示した自動分析装置における試薬保冷庫から試薬を吸引する動作の説明図である。
【図3】試薬吸引口に発生した結露の説明図である。
【図4】試薬吸引口に発生した結露による水滴が付着したサンプリングノズルの説明図である(下降時)。
【図5】試薬吸引口に発生した結露による水滴が付着したサンプリングノズルの説明図である(上昇時)。
【図6】本発明の一実施形態における自動分析装置の要部拡大図であり、内表面に縦溝を設けた試薬吸引口の概略構成図である。
【符号の説明】
【0034】
1・・・試薬ディスク、2・・・反応容器、3・・・反応テーブル、4・・・試料分注機構、5・・・試薬分注機構、6・・・撹拌機構、7・・・光度計、8・・・試薬保冷庫、9・・・制御部、10・・・情報記憶部、11・・・表示部、12・・・入力部、13・・・インターフェース、21・・・サンプリングノズル、22・・・試薬吸引口、23・・・縦溝、24・・・吸水体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試薬を収納し、保冷する試薬保冷庫と、この試薬保冷庫に形成された試薬吸引口を介して試薬保冷庫内に挿入して試薬を吸引し、試薬吸引口を介して試薬保冷庫外に移動し、吸引した試薬を反応容器に吐出するサンプリングノズルを有する試薬分注機構を備える自動分析装置において、
上記試薬保冷庫に形成された試薬吸引口の内表面に、液滴成長抑制手段が形成されていることを特徴とする自動分析装置。
【請求項2】
請求項1記載の自動分析装置において、上記液滴成長抑制手段は、上記試薬保冷庫の外部側から内部側に向かって延びる複数の縦溝であることを特徴とする自動分析装置。
【請求項3】
請求項1記載の自動分析装置において、上記液滴成長抑制手段は、上記試薬吸引口の内表面に形成された複数の微小な凹凸であることを特徴とする自動分析装置。
【請求項4】
請求項1記載の自動分析装置において、上記液滴成長抑制手段は、上記試薬吸引口の内表面に形成された濡れ性の高い構造体あることを特徴とする自動分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−60441(P2010−60441A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−226721(P2008−226721)
【出願日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】