説明

自動分析装置

【課題】自動分析装置において、微量な反応液に対しても安定で高S/Nな検出を可能とする。
【解決手段】発光物質114を含む反応液109からの光を光学窓102を介してホトマル111で検出し、その出力を処理して前記反応液109に含まれる発光物質114の量を分析する場合に、光学窓102とホトマル111との間に、前記光学窓に対面する入射口、前記検知器受光面と対面する出射口、及び前記入射口から入射した光を反射させて前記出射口へ伝播する反射面からなる光伝送光学系110を設けることにより、発光物質114からの光量の低下を抑制しつつフローセル101からの温度に由来するノイズの影響も低減することで、高S/Nの分析を実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液、尿等の生体サンプルの定性・定量測定を行うための自動分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動分析装置は、血液、尿等、生体サンプル中の目的成分の濃度または有無を測定するものである。用手法により検査技師が測定する方法に比べ、分析速度、分析精度が高いため、大病院、検査センターを中心に普及が進んでいる。特に、甲状腺関連物質や感染症関連物質等のサンプル中に低濃度で存在する成分の分析においては、微弱光を高S/N(シグナル・ノイズ比)で検出することが必要とされている。
【0003】
このような高感度な分析を可能とする技術として、例えば非特許文献1が知られている。この非特許文献1では、分析対象となる資料を温度調整されたフローセル(以後、セルと表記)内へ導入し発光させる。発光光はセル窓ガラス(光学窓)を介し光電子増倍管(ホトマル)で受光し電流信号に変換することで、ごく微量な試料のごく微弱な光を検出可能としている。このときの検出器をクーラーで囲み冷却することで、ノイズを低減し高S/Nな分析を可能としている。
【0004】
しかしながら、自動分析装置では最近、検査コスト抑制のためにフローセルに流す反応液量を微量化する傾向にあり、このような微量化する液量に対する高S/Nな分析技術が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】大澤善次郎著、ケミルミネッセンス 化学発光の基礎・応用事例「4.1 ケミルミネッセンス測定の原理と装置」 丸善株式会社(平成15年12月30日発行)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記非特許文献1では、検出器をクーラー等で囲み冷却することでノイズを低減しているわけであるが、このために検出器が光学窓から遠くなり、微量な発光に対する集光が不足することが判った。
【0007】
そこで、光学窓の厚みを薄くして検出器を光学窓に近接させることで、光量の漏れ・減衰を抑制して高S/Nを維持することも考えられる。しかし、検出器がフローセルに近接すると、フローセルの温度影響を受けて熱由来のノイズが増加する。フローセル温度は安定した分析のため一定に制御されているので、熱由来のノイズも抑制されるが、微量な発光に対する影響は避けることができず、高S/Nな分析を困難なものとしていた。
【0008】
本発明は、発光物質を含む反応液からの発光を検知して分析する自動分析装置において、その目的とするところは、発光物質からの光の検知感度を高めると同時にフローセルと検知器間の温度影響を低減し、微量な反応液に対しても安定で高S/Nな検出を可能とする自動分析装置を提供すること。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するための本発明の特徴は、発光物質を含む反応液からの光を光学窓を介して光検知器で検出し、この光検知器の出力を処理して前記反応液に含まれる発光物質の量を分析する自動分析装置において、前記光学窓と前記光検知器との間に、前記光学窓に対面する入射口、前記検知器受光面と対面する出射口、及び前記入射口から入射した光を反射させて前記出射口へ伝播する反射面からなる光伝送光学系を設けることにより、発光物質からの光量の低下を抑制しつつフローセルからの温度の影響も少ない光検知、更にはその分析を可能にしたところにある。
【0010】
上記特徴のほか、後述する実施の形態では前記目的を更に効果的に奏するための特徴を開示しているが、それらについては実施の態様の中で詳述する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高感度化、高安定化により微量な発光物質をも高S/Nの分析が可能となり、自動分析装置の信頼性、有用性を更に向上させることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1の実施例に係る自動分析装置の構成図
【図2】第1の実施例に係る光伝送光学系の断面図
【図3】媒質と光路の関係の説明図
【図4】第1の実施例に係る光路の説明図
【図5】第1の実施例による信号量の変化を示す図
【図6】第1の実施例による温度影響を示す図
【図7】本発明の第2の実施例に係る自動分析装置の構成図
【図8】第2の実施例に係る光伝送光学系の断面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図示する実施例を参照して説明する。尚、実施例では、光学窓から光検知器への光伝送光学系として円筒形状の例を挙げて説明するが、光の通路に反射面を形成するものであればその形状に限定されるものではない。
【実施例1】
【0014】
図1は本発明の第1の実施例に係る自動分析装置の構成図である。フローセル101は、流路103と光学窓102とからなる。流路103へ容器108内の発光体を含む反応液109を、流体制御部118により制御されたポンプ107により供給口105から吸引し、流路103の一部を成している測光部104へ導入する。
【0015】
光学窓102は、石英ガラスや透明樹脂等、蛍光体112の発光波長が透過する性質で厚みは約2mm〜5mm程度であり流路103の内圧に耐えられる強度があればどのようなものでもよい。温度制御部117により測光部104にて反応液が一定温度となるようヒーター114で制御される。ヒーター114は、ペルチェ素子のような発熱・吸熱が可能な素子であればどのようなものでも代わりとして使用可能である。反応液の発光は試薬が混合することにより開始されてもよいし、他の条件で発光を開始させてもよいが、いずれにせよ発光開始から発光終了時までの間に測光部104で目的物質濃度に比例して蛍光が放射されるように、流体制御部118により流路103を介して測光部104へ反応液が導入される。
【0016】
測定部104に導入された反応液の中で、蛍光体112から放射された光線113は、流路103、光学窓102を透過し、光伝送光学系110の内面で反射され、ホトマル111に伝播され、ホトマルの感光面121にて光が電気信号に変換される。尚、ホトマル111の代わりとして、フォトダイオード(PD)等の光を電気信号に変換する素子でもよい。
【0017】
図2に実施例1における光伝送光学系110の断面図を示した。光伝送光学系110は本実施例では中空円筒形状であり、その内面120が反射面となっており、入射口122より入射した光線113を反射し、反対側の出射口123から光線113を出射する。出射された光線113を対向したホトマル111により受光する。説明のため光伝送光学系110の内面を反射面としたが、外側の面を反射面としてもよい。
【0018】
次に、フローセル中の反応液から光学窓を通して光伝送光学系へ伝播する光の光路について検討する。図3のように媒質1(屈折率n1)の任意の点(点0)を起点として発光し、媒質2(屈折率n2)を透過し、媒質3(屈折率n3)へ出射する光線を考える場合、スネルの法則により、以下の式が成立する。(ただし、説明を簡略化するため光線を二次元平面内で考えることとし、内角度θ1、θ2、θ3は、媒質境界面の法線に対する光線の入射角とする。)
n1*sinθ1 = n2*sinθ2 ・・・(1)
n2*sinθ2 = n3*sinθ3 ・・・(2)
ここで、発光側が空気で、光学窓がガラス、光伝送光学系が空気である場合には、点Oから光学窓へ角θ1=30°で入射する光線を考えるとθ2、θ3は表1で示す角度となる。
【0019】
【表1】

【0020】
しかし、本実施例におけるフローセル中には反応液が導入されており、発光側の媒質1は水に相当する屈折率1.3となることから、θ2、θ3は表2で示す角度となる。
【0021】
【表2】

【0022】
これらの関係を図4に示す。直線aは発光側が水の場合の光路、直線bが本実施例における反応液の場合の光路を示す。図示するように、ある点からの光線が同方向へ広がった場合、発光側が反応液であるフローセルでは、発光側が気体である場合と比較して光が中心軸から外部へ広がりやすく、散逸しやすい状態になることがわかる。そこで本実施例では、図1に示すように、光伝送光学系110の入射口122を光学窓102に接触させることで、反応液からの光を散逸することなく伝送するようにしている。
【0023】
他方、ホトマル111の受光部は、光伝送光学系110の出射口123より大きくし、低角で出射される光線をも受光できるようにすることで、光を散逸を防いでいる。例えば光伝送光学系110の形状が、外部直径約14mm、内部直径約13mmの中空円筒形状である場合、ホトマルの感受面は直径20mm程度とする。ミラー基材119は、ガラス、金属、アクリル、樹脂等の反射面120をなめらかでかつ安定に保持できるものであればどのようなものでもよい。また、反射面120は、AlやAu などの金属イオンのスパッタ、メッキ(反射率、約85%程度)や、反射フィルム(数百ミクロン程度、反射率95%以上)等の高反射率の反射材によって製作することが可能である。
【0024】
図5は本実施例による信号量の変化を示す図であり、光学窓103からホトマル111までの距離3.0mmを基準(信号量比1)に、ホトマル111を光学窓102から遠ざけた場合の信号量の変化を示す。本実施例では、光伝送光学系の入射口122を光学窓102に接触させているので、距離3.0mmまでにおける光の散逸がなく、
更にホトマル111を遠ざけた場合も、反射フィルム又は金属スパッタで形成した反射面の作用で、従来は信号量が40%に減少するのに対して、本実施例によれば信号量の増加が可能である。
【0025】
図6に光伝送光学系110の内面120を金属イオンスパッタとし、ホトマル111の位置を9.0mmとした時、フローセル101の測光部104の制御温度とホトマル111の感光面121の温度との関係を示す。従来はフローセルの制御温度に伴ってホトマルの温度上昇が確認されていたが、本実施例によればホトマル温度がほとんど変化しなかった。したがって本実施例によれば、ホトマル111と光学窓112との断熱効果が高まり、温度に由来するホトマル111のノイズ上昇や変動を抑えることが可能である。
【実施例2】
【0026】
図7は本発明の第2の実施例を示す。フローセル201は、流路203と光学窓202とからなる。流路203へ容器208内の発光体を含む反応液209を、流体制御部218により制御されたポンプ207により供給口205から吸引し、流路203の一部を成している測光部204へ導入する。光学窓202は、石英ガラスや透明樹脂等、蛍光体212の発光波長が透過する性質で厚みは約2mm〜5mm程度であり流路203の内圧に耐えられる強度があればどのようなものでもよい。温度制御部217により測光部204にて反応液が一定温度となるようヒーター214で制御される。ヒーター214は、ペルチェ素子のような発熱・吸熱が可能な素子であればどのようなものでも代わりとして使用可能である。
【0027】
反応液の発光は試薬を混合することで開始されてもよいし、電圧の印加等で開始するようにしてもよく、いずれにせよ発光開始から発光終了時までの間に測光部204で目的物質濃度に比例して蛍光が放射されるよう流体制御部218により流路203を介して測光部へ導入される。反応液中、蛍光体212から放射された光線213は、流路203、光学窓202を透過し、光伝送光学系210によりその表面で反射され、ホトマル211に伝播され、ホトマルの感光面221にて光が電気信号に変換される。ホトマル211は、光を電子に変換し増倍させる光検出器であるが、多くは円柱構造をしており長細い形状をしている。そのためフローセルと垂直方向へホトマル211が張り出す格好となる。そこで、光伝送光学系210の中心軸を曲線状とし、入射口と出射口の中心軸を異なる方向に向けて配置することによって、システム全体のコンパクト化が実現可能となる。互いの軸のずれ角については90度以内が好ましい。
【0028】
図8に本実施例2における光伝送光学系210の断面図を示す。光伝送光学系210は中空形状であり、内面220は反射面となっており、入射口222から入射した光線213を反射し、反対側の出射口223から光線213を出射する。説明のため反射面を内面220としたが、光伝送光学系210の外面側でもよい。出射された光線213を対向したホトマル211により受光する。
【0029】
実施例1と同様に、光学窓と入射口222とは接触して配置することで光の散逸を防ぎ、ホトマル211の受光部は出射口223より大きくして低角で出射される光線をも受光するように構成する。
【0030】
ミラー基材219は、ガラス、金属、アクリル、樹脂等の反射面220をなめらかでかつ安定に保持できるものであればどのようなものでもよい。また、反射面220は、AlやAu などの金属イオンのスパッタ、メッキ(反射率、約85%程度)や、反射フィルム(数百ミクロン程度、反射率95%以上)等の高反射率の反射材によって製作することが可能である。反射フィルムにより曲面形成が困難な場合は、光伝送光学系210は屈折部ごとに複数部品に分けて製作してもよい。
【0031】
このように本実施例によれば、光伝送光学系210の中心軸224を曲線状にすることができるので、自動分析装置のシステム構成に合わせてコンパクト化することができ、この場合も高感度化、高安定化を損なうことなく、微量な反応液に対しても高S/Nの分析を行うことができる。
【符号の説明】
【0032】
101、201・・・フローセル
102、202・・・光学窓
103、203・・・流路
104、201・・・測光部
105、205・・・供給口
106、206・・・排出口
107、207・・・ポンプ
108、208・・・容器
109、209・・・反応液
110、210・・・光伝送光学系
111、211・・・ホトマル
112、212・・蛍光体
113、213・・・光線
114、214・・・ヒーター
119、219・・・ミラー基材
120、220・・・反射面(内面)
122、222・・・入射口
123、223・・・出射口
124、224・・・光伝送光学系の中心軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光物質を含む反応液を流す流路と、流路温度を制御する温度制御部と、前記発光物質からの光を流路外部へ放出する光学窓と、前記光学窓からの光を検知する光検知器とを備え、前記光検知器からのデータを処理して前記反応液に含まれる発光物質の量を分析する自動分析装置において、前記光学窓に対面する入射口、前記検知器受光面と対面する出射口、及び前記入射口から入射した光を反射させて前記出射口へ伝播する反射面からなる光伝送光学系を設けたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項2】
請求項1記載の自動分析装置において、前記光検知器の受光面の大きさは対面する前記出射口の大きさより大きくすることを特徴とする自動分析装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の自動分析装置において、前記光学窓と前記入射口とを接触して対面させることを特徴とする自動分析装置。
【請求項4】
請求項1記載の自動分析装置において、前記光伝送光学系の反射面中心軸、入射口中心軸、出射口中心軸を直線状に連通することを特徴とする自動分析装置。
【請求項5】
請求項1記載の自動分析装置において、前記光伝送光学系の反射面中心軸、入射口中心軸、出射口中心軸を曲線状に連通することを特徴とする自動分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−232132(P2011−232132A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−101799(P2010−101799)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】