説明

自動分析装置

【課題】配管内部の流体を入れ替えた後であっても、高精度な分注性能を維持しつつ、分析処理能力にも影響の少ない自動分析装置を提供する。
【解決手段】サンプル分注動作では、分注ノズル洗浄後にサンプル分注量情報v(i)を取得し(ステップ31,32)、サンプル分注量v(i)>閾値V(ステップ33)の場合、流体の温度変化によるサンプル分注性能への悪影響は無いと判断し、サンプル分注量v(i)のサンプル分注動作を実施する(ステップ38〜40)。サンプル分注量v(i)≦V(ステップ33)の場合、分注ノズル洗浄終了からの経過時間tが流体温度の不安定な時間帯(T−T)と比較(ステップ34)して、時間帯を経過するとステップ38へ進み、サンプル分注動作を実施する(ステップ38〜40)。何れの条件(ステップ33,34)にも当てはまらない場合には、以上の動作を繰り返し、全てのサンプルについて分注動作を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動分析装置に係り、特にサンプルの分注システムを備えた自動分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
臨床検査用の自動分析装置では、分析に使用するサンプルを装置が備えるサンプル分注システムで吸引し、分析部に吐出して分析を行う。一般的にサンプル分注システムは、サンプルの吸引および吐出を行う分注ノズルを備え、さらに分注ノズルを任意の位置へ移動することが可能なサンプル分注機構と、流体の体積変化を制御するシリンジポンプを有する。また、シリンジポンプと分注ノズルは配管で接続され、配管内部にはイオン交換水などの流体が充填されている。シリンジポンプで配管内部の流体の体積を制御して、分注ノズルからサンプルの吸引および吐出を行う。
【0003】
従来のサンプル分注システムでは任意のサンプルを分注した後、さらに別のサンプルを吸引する場合にはサンプル間のコンタミネーションを防ぐため、分注ノズルの内部洗浄を行う。分注ノズルの内部洗浄を行う方法としては、例えば特許文献1に記載されているように配管内部の流体を利用する。サンプル分注システムの配管には高圧ポンプが接続されており、分注ノズル内部を洗浄する際には高圧ポンプから配管内部に流体を注入する。分注ノズル内部を洗浄した流体は所定の位置で分注ノズルから排出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−180641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここでサンプル分注性能を向上するには、サンプル分注システムの配管内部の流体温度を安定させることが重要となる。配管内部の流体の体積は流体温度に依存しており、温度が上昇すると体積は膨張し、逆に温度が下がると体積は収縮する。もしサンプル分注動作中に流体温度が変化すると配管内部の流体に体積変化が生じ、分注性能に悪影響を及ぼすことになる。この温度変化による流体の体積変化は極めて小さいが、サンプル吐出量が比較的小さい場合ではその影響が無視できないものとなる。
【0006】
配管内部の流体温度が不安定になる要因としては、配管内部の流体の一部または全部を入れ替える場合、例えば分注ノズルの内部洗浄動作が挙げられる。この動作では高圧ポンプからサンプル分注システムの配管内部に流体を注入するが、注入した流体の温度とサンプル分注システム周辺の温度との間に温度差がある場合、配管内部の流体温度が安定するまでに一定の時間を必要とする。そのため分注ノズルの内部洗浄動作終了から配管内部の流体温度が安定するまで時間帯では、高精度のサンプル分注が困難となる。
【0007】
本発明は斯かる配管内部の流体の一部または全部を入れ替えた場合の課題に鑑みて成されたもので、その主な目的は、配管内部の流体を入れ替えた後であっても、安定して高精度な分注性能を維持することのできる自動分析装置を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、上記主な目的に加えて分析処理能力との両立を図ること等にあるが、その詳細は発明の実施の形態で明らかにする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記主な目的を達成するための本発明の特徴は、サンプルの吸引および吐出を行う分注ノズルと、該分注ノズルを任意の位置へ移動するサンプル分注機構と、流体の体積変化量を制御するシリンジポンプと、前記分注ノズルと前記シリンジポンプを接続する配管と、前記シリンジポンプの体積変化を前記配管内部に伝達する流体を充填し、前記シリンジポンプで前記流体を制御することで前記分注ノズルからサンプルの吸引および吐出を行う自動分析装置において、前記配管内部の流体の一部または全部を入れ替えたとき、前記流体温度が不安定な時間帯のサンプル分注動作を制限する手段を備えることにより、流体温度が不安定な状態でのサンプル分注動作を防止したことにある。
【0010】
更には、前記他の目的を達成するために、サンプル吐出量の閾値を設定し、サンプル吐出量が流体の温度変化による配管内部の体積変化量と比較して問題とならない程度に大きい場合には、前記流体温度が不安定な時間帯であってもサンプル分注動作を実行する手段等を設けることで、分析処理能力への影響を軽減する等の構成を提案するが、その詳細は発明の実施の形態で明らかにする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、検体の吐出量が比較的小さい場合でも安定して高精度な分注性能を維持することができ、さらには分析処理能力との両立を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施例に係る自動分析装置の概略構成図である。
【図2】図1におけるサンプル分注システム部の構成例を示す図である。
【図3】サンプル分注システムにおける配管内部の流体温度に関する模式図である。
【図4】本発明の一実施例に係る装置の制御フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図示する一実施例を用いて説明する。なお、本実施例では配管内部の流体を入れ替える動作として分注ノズルの内部洗浄動作を例に挙げて説明するが、配管内部の他の流体入れ替え動作であっても同様に実施することができる。
【0014】
図1に本発明の一実施に係る自動分析装置の構成を示す。自動分析装置はサンプルと試薬が反応する反応容器1を環状に配列した反応ディスク2と、各種試薬を収納した試薬ボトル3を架設した試薬保冷庫4と、採血管などサンプルを収納したサンプル収納容器5を架設したサンプルディスク6を持つ。サンプルはサンプル分注機構7で吸引され、反応ディスク2上の反応容器1に分注される。
【0015】
試薬は第1試薬分注機構8または第2試薬分注機構9により試薬ボトル3から吸引され、前記サンプルを分注した反応容器1にそれぞれ分注し、サンプルと試薬を混合・反応させる。反応容器1内の反応液の吸光度を反応ディスク外周に設置した分光光度計10で測定し、さらに測定データを元に装置制御部20(図2)が検査結果を算出してオペレータに報告する。分析が終了した反応容器1は反応容器洗浄機構11により洗浄され、再利用される。
【0016】
図2にサンプル分注システム部の構成例を示す。サンプル分注機構12は、サンプルの吸引および吐出を行う分注ノズル13を支持するサンプリングアーム14を備え、分注ノズル13をサンプル収納容器5と反応容器1との間を往復する機能を有する。分注ノズル13は配管15を介してシリンジポンプ16と接続されており、配管内部にはイオン交換水が充填されている。なお、シリンジポンプ16は流体の体積変化を制御する機能を持ち、配管内部のイオン交換水を駆動して分注ノズル13からサンプルの吸引および吐出を行う。
【0017】
ここで、任意のサンプルを分注した後に別の異なるサンプルを吸引する場合には、サンプル間のコンタミネーションを回避するために分注ノズル13の内部洗浄動作を実施する。配管15には高圧ポンプ17が接続されており、分注ノズル13の内部洗浄動作を行う際には電磁弁18を開放し、高圧ポンプ17からイオン交換水を配管内部に注入する。注入したイオン交換水は分注ノズル内部を洗浄してドレイン19に排出される。これらの動作は自動分析装置の装置制御部20で制御される。
【0018】
図3はサンプル分注システムの配管内部の流体温度について、分注ノズルの内部洗浄動作前後における模式図を示す。分注ノズルの内部洗浄動作前(時刻T以前)では配管内部の流体温度Aは配管周辺の環境温度とほぼ等しく、安定した状態となっている。内部洗浄動作中(時刻T〜T)では配管内部に高圧ポンプから温度Cのイオン交換水が注入され、配管内部の流体温度が温度Bまで変化する。内部洗浄動作終了後(時刻T以降)、配管内部の流体温度は配管周辺からの熱影響を受け徐々に上昇し、時刻Tまでには再び流体温度Aに達して安定する。
【0019】
ここで時刻Tから時刻Tまでの時間帯では配管内部の流体温度が徐々に上昇するため、流体の体積も徐々に膨張する。もしこの時間帯でサンプル分注動作を実施した場合、例えば、サンプル吸引から吐出までに流体の温度が20℃から21℃へと変化するものとし、また配管内部の流体の総体積を1mLと仮定すると、配管内部の流体の体積膨張は約0.2uLになる。これは実際のサンプル吐出量が設定量よりも0.2uL多くなることを意味しており、安定したサンプル分注性能を確保するためにはこの温度変化を無視することが出来ず、流体温度を安定することが重要となる。
【0020】
そこで本実施例では、時刻Tから時刻Tまでの時間帯ではサンプル分注動作を行わない。ただし分析処理能力の低下を防ぐため、時刻Tから時刻Tまでの時間帯であっても、サンプルの吐出量が流体の温度変化による配管内部の体積変化と比較して問題とならない程度に大きい場合には、サンプル分注動作を行うようにするため、サンプル分注量の閾値Vによるサンプル分注動作の実施判断基準を設定する。
【0021】
また分注ノズルの内部洗浄動作から次の内部洗浄動作までの間に、サンプル吐出量の異なる複数回のサンプル分注を行う場合、時刻Tから時刻Tまでの時間帯ではサンプル吐出量が上記の閾値より大きくなるようにサンプル分注の順番を制御する。例えば、サンプル吐出量として、10μL、8μL、6μL、4μL、3μL、の5種類が設定され、また閾値を5μLとした場合、先ず10μL、8μL、6μLのサンプル分注を優先して行う。上記3回のサンプル分注を行っている間に時刻Tが経過しておれば、連続して4μL、3μL、のサンプル分注動作に移行することで、分注性能と分注処理能力とを両立することができる。
【0022】
図4は本発明の一実施例に係る装置制御部20の制御フローであり、以下この制御フローを用いて以上述べた動作を具体的に説明する。
【0023】
一般的に自動分析装置では、任意の一サンプルに対して複数項目の分析を実施し、また分析項目毎にそれぞれ異なるサンプル量のサンプル分注動作を実施する必要がある。ここで任意の一サンプルに対して総数Nの分析項目を設定した場合、N回のサンプル分注を実施するが、各分析項目のサンプル分注量をv(i)と表す。なおiはインデックス番号を表し、サンプル分注量はv(1)からv(N)まで設定される。
【0024】
サンプル分注動作では、最初に分注ノズル洗浄後にサンプル分注量情報v(i)を取得する(ステップ31,32)。サンプル分注量v(i)>閾値V(ステップ33)の場合、配管内部の流体の温度変化によるサンプル分注性能への悪影響は無いと判断し、サンプル分注量v(i)のサンプル分注動作を実施する(ステップ38〜40)。
【0025】
サンプル分注量v(i)≦V(ステップ33)の場合では、分注ノズル洗浄終了からの経過時間tが配管内部の流体温度の不安定な時間帯(T −T)と比較して、t>T −T(ステップ34)となる条件のみステップ38へ進み、サンプル分注動作を実施する(ステップ38〜40)。何れの条件(ステップ33,34)にも当てはまらない場合には、以上の動作を繰り返す(ステップ35,36)と共に、t≦T −Tとなるまで分注動作を待機する(ステップ37)。
【0026】
このようにして2つの条件(ステップ33,34)を満たし、全てのサンプル分注情報について分注動作を実行すると、次のサンプルの分注動作に移行する(ステップ40,41)。
【0027】
本実施例によれば、分注ノズルの内部洗浄動作終了し流体温度が安定するまでの時間帯ではサンプル分注動作を制限し、サンプル吐出量が流体の温度変化による配管内部の体積変化量と比較して問題とならない程度に大きい場合にはサンプル分注動作を行うようにすることで、安定した高精度な分注性能を維持しつつ、分析処理能力への影響も抑えることができる。さらに分注ノズルの内部洗浄動作から次の内部洗浄動作までの間に、サンプル吐出量の異なる複数回のサンプル分注を行う場合、分注ノズルの内部洗浄動作終了から配管内部の流体温度が安定するまでの時間帯では、サンプル吐出量が所定の閾値より大きいサンプル分注を優先的に実施することで、高精度な分注性能を維持しつつ連続したサンプル分注動作を実現することができる。
【0028】
また、本実施例では分注ノズルの内部洗浄動作を例に挙げて説明したが、配管内部の流体を入れ替える動作、例えば配管内部の流体中に気泡がある場合等に、この気泡を追い出すための流体入れ替え動作等であっても同様に適用し、実施できることは明らかである。
【符号の説明】
【0029】
1・・・反応容器
2・・・反応ディスク
3・・・試薬ボトル
4・・・試薬保冷庫
5・・・サンプル収納容器
6・・・サンプルディスク
7・・・サンプル分注機構
8・・・第1試薬分注機構
9・・・第2試薬分注機構
10・・・分光光度計
11・・・反応容器洗浄機構
12・・・サンプル分注機構
13・・・分注ノズル
14・・・サンプリングアーム
15・・・配管
16・・・シリンジポンプ
17・・・高圧ポンプ
18・・・電磁弁
19・・・ドレイン
20・・・装置制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプルの吸引および吐出を行う分注ノズルと、該分注ノズルを任意の位置へ移動するサンプル分注機構と、流体の体積変化量を制御するシリンジポンプと、前記分注ノズルと前記シリンジポンプを接続する配管と、前記シリンジポンプの体積変化を前記配管内部に伝達する流体を充填し、前記シリンジポンプで前記流体を制御することで前記分注ノズルからサンプルの吸引および吐出を行う自動分析装置において、前記配管内部の流体の一部または全部を入れ替えたとき、前記流体温度が不安定な時間帯のサンプル分注動作を制限する手段を備えることを特徴とする自動分析装置。
【請求項2】
請求項1記載の自動分析装置において、前記配管内部の流体の入れ替えは前記分注ノズルの洗浄水の入れ替えであって、当該洗浄水の入れ替えで分注ノズルの洗浄動作を行うことを特徴とする自動分析装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の自動分析装置において、任意のサンプル吐出量を閾値として設定し、サンプル吐出量が前記閾値より大きいとき、前記流体温度が不安定な時間帯であっても当該サンプルの分注動作を実行する手段を備えることを特徴とする自動分析装置。
【請求項4】
請求項1または2記載の自動分析装置において、任意のサンプル吐出量を閾値として設定し、前記配管内部の流体を入れ替えた後に吐出量の異なる複数回の分注動作を行うとき、前記流体温度が不安定な時間帯であっても、サンプル吐出量が前記閾値より大きいサンプル分注動作を優先的に実行する手段を備えることを特徴とする自動分析装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate