説明

自動分析装置

【課題】詰まりによる試料の分注精度の低下を防ぐことができる自動分析装置を提供する。
【解決手段】サンプル分注プローブ16が試料を吸引するときの圧力を検出する圧力検出器19と、圧力検出器19で検出された圧力のデータを時間TIN間隔で収集する収集部31と、吸引時間T(m−1),Tmに収集された圧力データP(m−1),Pm及び各基準圧力データSNに基づいて時間T(m+1)に収集されることが予測される予測圧力データの許容限界R(m+1)を算出する予測部33とを備え、吸引時間T(m+1)に収集された圧力データP(m+1)が許容限界(m+1)内である場合にサンプル分注プローブ16の吸引が正常であると判定し、圧力データP(m+1)が許容限界(m+1)から外れている場合にサンプル分注プローブ16の吸引が異常であると判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、試料の分注における吸引の異常を検知することができる機能を備えた自動分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動分析装置は生化学検査項目や免疫検査項目等を対象とし、被検体から採取された試料と検査項目の試薬との反応によって生ずる色調や濁りの変化を、分光光度計や比濁計の測光部で光学的に測定することにより、検査項目成分の濃度や酵素の活性等で表される分析データを生成する。
【0003】
この自動分析装置では、試料毎に選択された検査項目の分析を行う。そして、サンプル分注プローブが試料容器に収容された試料を吸引して反応容器に吐出し、試薬分注プローブが試薬容器内の試薬を吸引して反応容器に吐出する。次いで、測光部が反応容器内に吐出された試料と試薬の混合液を測定する。
【0004】
ところで、各検査項目の分析では、試料として血液から分離された血清や血漿が用いられることが多い。この試料には血液成分から生成するフィブリン等のクロットが含まれていることがあり、クロットにより試料を吸引しているサンプル分注プローブに詰まりが起きたとき、試料の分注精度を低下させる原因となる。
【0005】
この問題を解決するために、サンプル分注プローブに試料の吸引及び吐出を行わせるシリンジとサンプル分注プローブの間の圧力を検出する圧力センサを設けることにより、サンプル分注プローブの詰まりを検知することができる自動分析装置が知られている。この自動分析装置では、サンプル分注プローブが試料を吸引しているときの圧力を検出し、検出した圧力値が閾値より低下したときにサンプル分注プローブの詰まりを検知する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−174731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、試料吸引の最終段階でサンプル分注プローブに詰まりが生じて、圧力センサの出力信号が閾値に達する前に吸引動作が終了し、サンプル分注プローブの詰まりを検知できないことがある。この場合、設定量に応じた量の試料を吸引できないため、反応容器内に吐出される試料の量が減少し、試料の分注精度が低下する問題がある。
【0008】
実施形態は、上記問題点を解決するためになされたもので、詰まりによる試料の分注精度の低下を防ぐことができる自動分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、実施形態の自動分析装置は、試料と試薬を反応容器に分注して、その混合液を測定する自動分析装置において、試料容器に収容された前記試料を吸引して前記反応容器に吐出する分注プローブと、前記分注プローブにより試料の吸引が行われるときの吸引の圧力を検出する検出器と、前記検出器により検出された圧力のデータを所定の時間間隔で収集する収集部と、前記収集部により第1の吸引時間に収集された第1の圧力データ、前記第1の吸引時間から前記所定の時間経過した第2の吸引時間に収集された第2の圧力データ、及び予め得られた前記分注プローブにより試料の吸引が正常に行われたときの基準圧力データに基づいて、前記第2の吸引時間から前記所定の時間経過した第3の吸引時間に収集されることが予測される予測圧力データの許容限界を算出する予測部と、前記第3の吸引時間に収集された第3の圧力データが前記許容限界内である場合に前記分注プローブにおける前記試料の吸引が正常であると判定し、前記第3の圧力データが前記許容限界から外れている場合に前記分注プローブにおける前記試料の吸引が異常であると判定する判定部とを備えたことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施形態に係る自動分析装置の構成を示すブロック図。
【図2】実施形態に係る分析部の構成を示す斜視図。
【図3】実施形態に係るサンプル分注プローブ、シリンジ、圧力検出器、及び分注モニタ部の構成の一例を示す図。
【図4】実施形態に係る圧力データ記憶部に保存された基準圧力データの一例を示す図。
【図5】実施形態に係る自動分析装置における試料の分注動作を示すフローチャート。
【図6】実施形態に係る許容限界の算出の一例を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。
【0012】
図1は、実施形態に係る自動分析装置の構成を示したブロック図である。この自動分析装置100は、各検査項目の標準試料や被検試料等の各試料と各検査項目の分析に用いる試薬とを分注し、その混合液を測定して標準データや被検データを生成する分析部26と、分析部26の各ユニットを駆動して分注動作、測定動作等の制御を行う分析制御部27と、分析部26における試料の吸引の状態をモニタして異常を検知する分注モニタ部30とを備えている。
【0013】
また、自動分析装置100は、分析部26で生成された標準データや被検データを処理して検量データや分析データを生成するデータ処理部40と、データ処理部40で生成された検量データや分析データを出力する出力部50と、各種コマンド信号の入力等を行う操作部60と、分析制御部27、分注モニタ部30、データ処理部40、及び出力部50を統括して制御するシステム制御部70とを備えている。
【0014】
図2は、分析部26の構成を示した斜視図である。この分析部26は、各検査項目の標準試料や、血清又は血漿等の各試料を収容する試料容器17と、この試料容器17を保持する試料容器ホルダ5とを備えている。また、各試料に含まれる検査項目の成分と反応する1試薬系や2試薬系の第1試薬を収容する試薬容器6と、この試薬容器6を格納する試薬庫1と、試薬庫1に格納された試薬容器6を回動可能に保持する試薬ラック1aとを備えている。また、2試薬系の第1試薬と対をなす第2試薬を収容する試薬容器7と、この試薬容器7を格納する試薬庫2と、試薬庫2に格納された試薬容器7を回動可能に保持する試薬ラック2aとを備えている。また、円周上に配置された複数個の反応容器3を回転可能に保持する反応ディスク4を備えている。
【0015】
また、試料容器ホルダ5に保持された試料容器17内の試料を吸引して反応容器3内へ吐出する分注を行うサンプル分注プローブ16と、サンプル分注プローブ16に試料の吸引及び吐出を行わせるシリンジ18とを備えている。また、サンプル分注プローブ16とシリンジ18の間を連通している流路の圧力を検出する圧力検出器19と、試料容器ホルダ5に保持された試料容器17内の試料をこの試料とサンプル分注プローブ16との接触により検出する液面検出器16aと、サンプル分注プローブ16を回動及び上下移動可能に保持するサンプル分注アーム10と、サンプル分注プローブ16を洗浄する洗浄槽16bとを備えている。
【0016】
また、試薬ラック1aに保持された試薬容器6内の第1試薬を吸引して試料が吐出された反応容器3内に吐出する分注を行う第1試薬分注プローブ14と、第1試薬分注プローブ14を回動及び上下移動可能に保持する第1試薬分注アーム8と、第1試薬分注プローブ14を洗浄する洗浄槽14aと、反応容器3内に吐出された試料と第1試薬の混合液を撹拌する第1撹拌子20とを備えている。
【0017】
また、試薬ラック2aに保持された試薬容器7内の第2試薬を吸引して第1試薬が吐出された反応容器3内に吐出する分注を行う第2試薬分注プローブ15と、第2試薬分注プローブ15を回動及び上下移動可能に保持する第2試薬分注アーム9と、第2試薬分注プローブ15を洗浄する洗浄槽15aとを備えている。また、反応容器3内の試料、第1試薬、及び第2試薬の混合液を撹拌する第2撹拌子21と、反応容器3内の混合液に光を照射して光学的に測定する測光部13と、測光部13で測定を終了した反応容器3内を洗浄する反応容器洗浄ユニット12とを備えている。
【0018】
そして、測光部13は光を照射し、照射した光の光路を回転移動して横切る反応容器3内の標準試料や被検試料を含む混合液を透過した光を検査項目の波長毎に検出する。そして、検出した検出信号に基づいて、例えば吸光度データで表される標準データや被検データを生成し、生成した標準データや被検データをデータ処理部40に出力する。
【0019】
分析制御部27は、分析部26の各ユニットを駆動する機構を有する機構部28と、機構部28の各機構を制御して分析部26の各ユニットを作動させる制御部29とを備えている。そして、機構部28は、試料容器ホルダ5、試薬ラック1a、及び試薬ラック2aを夫々回動する機構、並びに反応ディスク4を回転する機構を備えている。また、サンプル分注アーム10、第1試薬分注アーム8、及び第2試薬分注アーム9を夫々回動及び上下移動する機構を備えている。また、反応容器洗浄ユニット12を上下移動する機構を備えている。また、シリンジ18を吸引及び吐出駆動する機構、及び洗浄槽16b,14a,15aを洗浄駆動する機構を備えている。
【0020】
制御部29は、機構部28の各機構を制御する制御回路を備え、分析部26の試料容器ホルダ5、試薬ラック1a、試薬ラック2a、反応ディスク4、サンプル分注アーム10、第1試薬分注アーム8、第2試薬分注アーム9、反応容器洗浄ユニット12、及びシリンジ18等の各ユニットや、洗浄槽16b,14a,15aの各ユニットを作動させる。
【0021】
そして、制御部29は、サンプル分注アーム10を回動駆動する機構部28の回動機構を制御して上死点の高さでサンプル分注プローブ16を移動し、試料容器ホルダ5及び反応ディスク4の各上停止位置や、洗浄槽16bの洗浄位置で停止させる。また、サンプル分注アーム10を上下駆動する機構部28の上下機構に下移動駆動パルスを供給して、サンプル分注プローブ16を各上停止位置から下に移動する。
【0022】
ここで、試料の分注における吸引では、サンプル分注プローブ16を試料容器ホルダ5の上停止位置から下へ移動し、試料容器ホルダ5に保持された試料容器17内の試料が液面検出器16aにより検出される試料検出位置よりも数mm下方の試料の吸引が可能な吸引位置で停止させる。また、試料の分注における吐出では、サンプル分注プローブ16を反応ディスク4の上停止位置から下に移動し、反応ディスク4に保持された反応容器3内へ試料の吐出が可能な吐出位置で停止させる。
【0023】
分注モニタ部30は、分析部26の圧力検出器19で検出された圧力データに基づいてサンプル分注プローブ16の試料の吸引の状態をモニタし、サンプル分注プローブ16における試料の吸引が正常であるか否かを判定する。そして、正常であると判定したとき、試料の吸引を継続させる。また、サンプル分注プローブ16に詰まり又は空吸いが起きて異常であると判定したとき、その詰まり又は空吸いの異常情報を分析制御部27の制御部29及びシステム制御部70へ出力する。
【0024】
図1に示したデータ処理部40は、分析部26の測光部13から出力された標準データや被検データを処理して各検査項目の検量データや分析データを生成する演算部41と、演算部41で生成された標準データや分析データを保存するデータ記憶部42とを備えている。
【0025】
演算部41は、測光部13から出力された標準データ及びこの標準データの標準試料に対して予め設定された標準値から、標準値と標準データの関係を表す検量データを検査項目毎に生成し、生成した検量データを出力部50に出力すると共にデータ記憶部42に保存する。
【0026】
また、測光部13から出力された被検データに対応する検査項目の検量データをデータ記憶部42から読み出す。そして、読み出した検量データを用いて測光部13より出力された被検データから、濃度値や活性値で表される分析データを生成する。そして、生成した分析データを出力部50に出力すると共にデータ記憶部42に保存する。
【0027】
データ記憶部42は、ハードディスク等のメモリデバイスを備え、演算部41から出力された検量データを検査項目毎に保存する。また、演算部41から出力された各検査項目の分析データを被検試料毎に保存する。
【0028】
出力部50は、データ処理部40の演算部41から出力された検量データや分析データを印刷出力する印刷部51及び表示出力する表示部52を備えている。そして、印刷部51は、プリンタなどを備え、演算部41から出力された検量データや分析データを予め設定されたフォーマットに従って、プリンタ用紙などに印刷する。
【0029】
表示部52は、CRTや液晶パネルなどのモニタを備え、演算部41から出力された検量データや分析データを表示する。また、自動分析装置100で分析可能な検査項目の分析パラメータである例えば分析部26の反応容器3内に吐出させる試料量及び試薬量等の設定を行う分析パラメータ設定画面等を表示する。また、システム制御部70から供給される分析モニタ部30より出力された詰まり又は空吸いの情報を表示する。
【0030】
操作部60は、キーボード、マウス、ボタン、タッチキーパネルなどの入力デバイスを備え、検査項目毎の分析パラメータ、試薬情報等を設定するための入力を行う。
【0031】
システム制御部70は、CPU及び記憶回路を備え、操作部60からの操作により入力された各検査項目の分析パラメータ等の入力情報を記憶回路に記憶した後、これらの入力情報に基づいて、分析制御部27、分注モニタ部30、データ処理部40、及び出力部50を統括してシステム全体を制御する。また、分析モニタ部30から出力される詰まり又は空吸いの情報を出力部50の表示部52に表示出力させる。
【0032】
次に、図2乃至図4を参照して、分析部26の試料の分注に関わるサンプル分注プローブ16、シリンジ18、及び圧力検出器19、並びに分注モニタ部30の構成について詳細に説明する。
【0033】
図3は、サンプル分注プローブ16、シリンジ18、圧力検出器19、及び分注モニタ部30の構成の一例を示した図である。このサンプル分注プローブ16は、一端に試料の吸引及び吸引を行う開口を有する。そして、他端部がシリンジ18との間を連通しているチューブ22の一端部に接続されている。
【0034】
シリンジ18は、一端部がチューブ22の他端部に接続されたシリンダ181と、シリンダ181の他端部に設けた開口に勘合するプランジャ182と、サンプル分注プローブ16、チューブ22、及びシリンダ181の各内部に充填されている例えば水等の液状の圧力伝達媒体を貯留するタンク183とにより構成される。また、タンク183に貯留された圧力伝達媒体をシリンダ181に供給するポンプ184と、シリンダ181とポンプ184の間を連通している流路を開閉する開閉弁185とにより構成される。
【0035】
そして、試料の分注における吸引では、分析制御部27の制御部29によりシリンダ181とポンプ184の間の流路が開閉弁185で閉鎖された状態で、機構部28がプランジャ182を矢印L1方向へ吸引駆動することにより、サンプル分注プローブ16に試料を吸引させる。また、試料の分注における吐出では、機構部28がプランジャ182を矢印L2方向へ吐出駆動することにより、サンプル分注プローブ16に吸引した試料を吐出させる。
【0036】
圧力検出器19は、圧力伝達媒体が充填されたチューブ22内の流路の圧力を大気の圧力を基準として測定するための圧力センサ191と、この圧力センサ191の信号を増幅するアンプ192と、アンプ192で増幅された信号をデジタル信号に変換するA/D変換器193とを備えている。そして、チューブ22内の圧力を測定することにより、サンプル分注プローブ16により試料の吸引が行われるときの圧力を検出した圧力データを分注モニタ部30へ出力する。
【0037】
分注モニタ部30は、分析部26のサンプル分注プローブ16が試料を吸引しているときにチューブ22内の圧力を検出した圧力検出器19から出力される圧力データを時間TIN間隔で収集する収集部31と、サンプル分注プローブ16により例えばクロットを含まない平均的な粘度を有する血清や血漿等の試料(基準試料)の吸引が正常に行われたときの吸引時間とこの時間に収集部31で収集された圧力データの関係を示す基準圧力データを試料量別に保存する圧力データ記憶部32とを備えている。
【0038】
また、分注モニタ部30は、収集部31の圧力データの収集に応じて次に収集される、サンプル分注プローブ16により試料の吸引が正常に行われていると想定したときに予測される圧力データ(予測圧力データ)の許容限界を算出する予測部33と、予測部33で算出された許容限界に基づいてサンプル分注プローブ16における試料の吸引が正常であるか否かを判定する判定部34を備えている。
【0039】
なお、圧力検出器19で検出される圧力データは、分析部26の試料の分注に関わるサンプル分注プローブ16の内径及び長さ、チューブ22の内径及び長さ、及びシリンジ18で試料を吸引させるときの吸引速度等をパラメータとして変動する。このため、分析部26に適用されるサンプル分注プローブ16、チューブ22、及び吸引速度の条件で得られた各試料量に対応する基準圧力データが予め圧力データ記憶部32に保存されている。
【0040】
以下、図1乃至図6を参照して、自動分析装置100における試料の分注動作の一例を説明する。そして、図4は、圧力データ記憶部32に保存された基準圧力データの一例を示す図である。また、図5は、自動分析装置100における試料の分注に動作を示すフローチャートである。また、図6は、許容限界の算出の一例を説明するための図である。
【0041】
図4において、基準圧力データSNは、サンプル分注プローブ16が例えば試料量VAに応じた量の試料の吸引を開始する直前の吸引時間T0と吸引を終了する吸引時間T(n+1)の間に圧力検出器19から連続して出力され、横軸を時間の単位とし縦軸を圧力の単位とする座標上に曲線Wで表される圧力データを、時間TIN間隔で収集することにより得られる。そして、曲線W上の(n+2)箇所の各座標C0乃至C(n+1)位置を示す吸引時間とこの時間に収集された基準圧力データにより構成される。
【0042】
そして、座標C0は吸引時間T0とこの時間に収集された基準圧力データPs0を示している。座標C1は吸引時間T0から時間TIN経過した吸引時間T1とこの時間に収集された基準圧力データPs1を示し、座標C2は吸引時間T1から時間TIN経過した吸引時間T2とこの時間に収集された基準圧力データPs2を示している。また、座標C3は吸引時間T2から時間TIN経過した吸引時間T3とこの時間に収集された基準圧力データPs3を示し、・・・、座標C(n−1)は吸引時間T(n−2)から時間TIN経過した吸引時間T(n−1)とこの時間に収集された基準圧力データPs(n−1)を示している。また、座標Cnは吸引時間T(n−1)から時間TIN経過した吸引時間Tnとこの時間に収集された基準圧力データPsnを示し、座標C(n+1)は吸引時間Tnから時間TIN経過した吸引時間T(n+1)とこの時間に収集された基準圧力データPs(n+1)を示している。
【0043】
また、圧力データ記憶部32に保存された基準圧力データSNには、各座標C1乃至C(n+1)の各圧力データPs1乃至Ps(n+1)に関連付けて、複数回の試料の吸引実験により求めた誤差として許容される各誤差(±Es1)乃至{±Es(n+1)}が含まれている。
【0044】
ここで、試料量VAに応じた量の試料を吸引しているサンプル分注プローブ16に詰まりが起きたときの圧力データの変化について説明する。例えば吸引時間Tnまでサンプル分注プローブ16における試料の吸引が正常であり、圧力検出器19から出力される圧力データが例えば曲線Wを描いて変化する。そして、吸引時間Tnの直後にサンプル分注プローブ16一端部が塞がれると、詰まりが起きたときと同様に、吸引間Tn直後の圧力データは曲線Wよりも下方へ例えば破線で示した曲線W1を描いても急激に低下することになる。この場合、吸引時間T(n+1)における圧力データは、圧力データP(n+1)の誤差{±Es(n+1)}の範囲よりも低い値を示すことになる。
【0045】
図5は、自動分析装置100における試料の分注に動作を示したフローチャートである。表示部52の分析パラメータ設定画面で試料量VAが設定された検査項目Aの分析を行うため、試料を収容した試料容器17が試料容器ホルダ5に保持されている。そして、操作部60から試料測定開始の操作が行われると、自動分析装置100は動作を開始する(ステップS1)。
【0046】
システム制御部70は、分析制御部27、分注モニタ部30、データ処理部40、及び出力部50に検査項目の分析を指示する。分析制御部27の制御部29は、機構部28を制御して分析部26の各分析ユニットを作動させる。分析部26のサンプル分注プローブ16は、制御部29の制御により動作を開始し、例えば洗浄槽16bのホームポジションから試料容器ホルダ5の上停止位置まで移動した後、下に移動して吸引位置で停止する。次いで、シリンジ18のプランジャ182がL1方向に吸引駆動されることにより、試料容器17内の試料を吸引する(ステップS2)。
【0047】
分注モニタ部30の収集部31は、サンプル分注プローブ16への試料の吸引に合わせて、吸引時間T(m−1)(m=1)に圧力検出器19から出力される圧力データP(m−1)を収集して予測部33に出力する。次いで、吸引時間Tmに圧力検出器19から出力される圧力データPmを収集して予測部33に出力する。
【0048】
予測部33は、検査項目Aの試料量VAに対応する基準圧力データSN及び各誤差(±Es1)乃至{±Es(n+1)}の内、基準圧力データPs(m−1)乃至Ps(m+1)及び誤差{±Es(m+1)}を圧力データ記憶部32から読み出す。そして、読み出した基準圧力データPs(m−1)乃至Ps(m+1)及び誤差{±Es(m+1)}、並びに収集部31で収集された圧力データP(m−1),Pmに基づいて、サンプル分注プローブ16により試料の吸引が正常に行われていると想定したときに吸引時間T(m+1)に収集されることが予測される予測圧力データの許容限界R(m+1)を算出する(ステップS3)。
【0049】
ここで、図6を参照して、許容限界R(m+1)の算出の一例を説明する。
図4に示した曲線Wの座標C(m−1)と座標Cmの間を補間する例えば一次関数の勾配Ms(m−1)と、座標Cmと座標C(m+1)の間を補間する一次関数の勾配Msmと、吸引時間T(m−1)に収集された圧力データP(m−1)の座標U(m−1)と吸引時間Tmに収集された圧力データPmの座標Umの間を補間する一次関数の勾配Mu(m−1)とを求める。
【0050】
そして、勾配Ms(m−1)に勾配Msmを乗じて勾配Mu(m−1)で除することにより、座標U(m−1)とサンプル分注プローブ16により吸引が正常に行われていると想定したときの吸引時間T(m+1)に収集される予測圧力データの座標U(m+1)の間を補間する一次関数の勾配Mumを求める。次いで、座標Um及び勾配Mumから吸引時間T(m+1)に収集される予測圧力データPr(m+1)を求め、予測圧力データPr(m+1)及び誤差{±Es(m+1)}から、圧力データ{Pr(m+1)+Es(m+1)}を上限とし、圧力データ{Pr(m+1)−Es(m+1)}を下限とする許容限界R(m+1)[R(m+1)={Pr(m+1)±Es(m+1)}]を算出する。
【0051】
このように、各基準圧力データSN及び各誤差(±Es1)乃至{±Es(n+1)}に基づいて、サンプル分注プローブ16により吸引が正常に行われていると想定したときの吸引時間T(m+1)における許容限界R(m+1)を算出することができる。
【0052】
収集部31は、吸引時間T(m+1)に圧力検出器19から出力される圧力データP(m+1)を収集して判定部34に出力する。判定部34は、許容限界R(m+1)及び圧力データP(m+1)に基づいて、サンプル分注プローブ16の吸引時間T(m+1)における試料の吸引が正常であるか否かを判定する。
【0053】
そして、圧力データP(m+1)が許容限界R(m+1)内である場合(ステップS4のはい)、サンプル分注プローブ16の時間T(m+1)における試料の吸引が正常であると判定し、ステップS5へ移行する。また、圧力データP(m+1)が許容限界R(m+1)から外れている場合(ステップS4のいいえ)、詰まり又は空吸いが起きてサンプル分注プローブ16の時間T(m+1)における試料の吸引が異常であると判定し、ステップS6へ移行する。
【0054】
ステップS4の「はい」の後に、mがn未満の整数である場合(ステップS5のいいえ)、mに1を加算してステップS3へ戻る。また、mがnに等しい整数である場合(ステップS5のはい)、判定部34は、サンプル分注プローブ16が試料の吸引を終了したと判断し、判定を終了する。そして、サンプル分注プローブ16は試料の吸引を終了し、吸引した試料を反応容器3内へ吐出する。試料が吐出された反応容器3内へ第1試薬、又は第1及び第2試薬が吐出された後、その混合液の測定により生成された分析データが表示部52に表示される。
【0055】
このように、許容限界R(m+1)及び吸引時間T(m+1)に収集された圧力データに基づいて、吸引時間T(m+1)のサンプル分注プローブ16における試料の吸引が正常であるか否かを判定することができる。これにより、試料の吸引が終了するまでサンプル分注プローブ16が試料を正常に吸引しているか否かを判定することが可能となり、試料吸引の最終段階におけるサンプル分注プローブ16の詰まりを検知することができる。
【0056】
ステップS4の「いいえ」の後に、判定部34は、圧力データP(m+1)が許容限界R(m+1)よりも低い値である場合の詰まりの異常情報、又は圧力データP(m+1)が許容限界R(m+1)よりも高い値である場合の空吸いの異常情報を制御部29及びシステム制御部70に出力する。制御部29は、判定部34から出力された詰まり又は空吸いの異常情報に基づいてサンプル分注プローブ16内への試料の吸引動作を停止させる。システム制御部70は、判定部34から出力された異常情報に基づいて表示部52に詰まり又は空吸いの異常情報を表示させる(ステップS6)。その後、ステップS7へ移行する。
【0057】
ステップS5の「いいえ」の後に表示部52に分析データが表示された後、又はステップS6で表示部52に詰まり又は空吸いの異常情報が表示された後、システム制御部70が分析制御部27、分注モニタ部30、データ処理部40、及び出力部50に検査項目の分析の停止を指示すると、自動分析装置100は動作を終了する(ステップS7)。
【0058】
このように、試料の吸引が終了するまでサンプル分注プローブ16が試料を正常に吸引しているか否かを判定することができる。これにより、試料吸引の最終段階におけるサンプル分注プローブ16の詰まりを検知することができる。
【0059】
以上述べた実施形態によれば、サンプル分注プローブ16が試料を吸引するときの圧力データを時間INT間隔で収集し、吸引時間T(m−1),Tmに収集した圧力データP(m−1),Pm、並びに予め求めた各基準圧力データSN及び各誤差(±Es1)乃至{±Es(n+1)}に基づいて、サンプル分注プローブ16により吸引が正常に行われていると想定したときの吸引時間T(m+1)に収集される予測圧力データの許容限界R(m+1)を算出することができる。
【0060】
そして、圧力データP(m+1)が許容限界R(m+1)内である場合、サンプル分注プローブ16の時間T(m+1)における試料の吸引が正常であると判定することができる。また、圧力データP(m+1)が許容限界R(m+1)から外れている場合、サンプル分注プローブ16の時間T(m+1)における吸引が異常であると判定し、サンプル分注プローブ16内への試料の吸引動作を停止させると共に表示部52に詰まり又は空吸いの異常情報を表示させることができる。
【0061】
これにより、試料の吸引が終了するまでサンプル分注プローブ16における試料の吸引が正常であるか否かを判定することが可能となり、試料吸引の最終段階における詰まりを検知してサンプル分注プローブ16内への試料の吸引を停止させることにより、試料の分注精度が低下するのを未然に防ぐことができる。
【0062】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0063】
3 反応容器
10 サンプル分注アーム
16 サンプル分注プローブ
17 試料容器
18 シリンジ
19 圧力検出器
22 チューブ
26 分析部
27 分析制御部
28 機構部
29 制御部
30 分注モニタ部
31 収集部
32 圧力データ記憶部
33 予測部
34 判定部
181 シリンダ
182 プランジャ
183 タンク
184 ポンプ
185 開閉弁
191 圧力センサ
192 アンプ
193 A/D変換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料と試薬を反応容器に分注して、その混合液を測定する自動分析装置において、
試料容器に収容された前記試料を吸引して前記反応容器に吐出する分注プローブと、
前記分注プローブにより試料の吸引が行われるときの吸引の圧力を検出する検出器と、
前記検出器により検出された圧力のデータを所定の時間間隔で収集する収集部と、
前記収集部により第1の吸引時間に収集された第1の圧力データ、前記第1の吸引時間から前記所定の時間経過した第2の吸引時間に収集された第2の圧力データ、及び予め得られた前記分注プローブにより試料の吸引が正常に行われたときの基準圧力データに基づいて、前記第2の吸引時間から前記所定の時間経過した第3の吸引時間に収集されることが予測される予測圧力データの許容限界を算出する予測部と、
前記第3の吸引時間に収集された第3の圧力データが前記許容限界内である場合に前記分注プローブにおける前記試料の吸引が正常であると判定し、前記第3の圧力データが前記許容限界から外れている場合に前記分注プローブにおける前記試料の吸引が異常であると判定する判定部とを
備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項2】
前記基準圧力データには、前記第1の吸引時間に収集された第1の基準圧力データ、前記第2の吸引時間に収集された第2の基準圧力データ、及び前記第3の吸引時間に収集された第3の基準圧力データ、並びに前記第3の基準圧力データの誤差データが含まれ、
前記予測圧力データは、前記第1の吸引時間と前記第1の基準圧力データを示す第1の基準座標と前記第2の吸引時間と前記第2の基準圧力データを示す第2の基準座標の間を補間する一次関数の第1の基準勾配、前記第3の吸引時間と前記第3の基準圧力データを示す第3の基準座標と前記第2の基準座標の間を補間する一次関数の第2の基準勾配、及び前記第1の吸引時間と前記第1の圧力データを示す第1の座標と前記第2の吸引時間と前記第2の圧力データを示す第2の座標の間を補間する一次関数の第1の勾配を求め、次いで前記第1の基準勾配に前記第2の基準勾配を乗じて前記第1の勾配で除することにより第2の勾配を求め、前記第2の座標及び前記第2の勾配から求められるデータであり、
前記許容限界は、前記予測圧力データ及び前記誤差データから算出される範囲であることを特徴とする請求項1に記載の自動分析装置。
【請求項3】
前記判定部は、前記第3の圧力データが前記許容限界から外れている場合、前記分注プローブによる吸引を停止させるようにしたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の自動分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−189514(P2012−189514A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−54762(P2011−54762)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】