説明

自動分析装置

【課題】試薬保管庫内の温度は制御されているが、試薬容器そのものの温度は制御されていない。そのため、試薬温度の変化に伴う試薬の劣化を認識することができず、また、それを知る明確な手段がない。
【解決手段】試薬保管庫内に、試薬容器の温度を計測する機構を備え、任意のタイミングで試薬容器の温度を計測する。計測された温度は、装置の記憶媒体に試薬容器の情報と合わせて、もしくは、実際の検体の測定結果と合わせて保持する。これにより、その時点における試薬容器の温度を認識することが可能となり、試薬容器温度の異常による測定結果の原因究明に利用することを可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液,尿等の生体試料の定量,定性分析を行う自動分析装置に係り、特に試薬を収容する試薬容器を複数個保管可能な試薬保管庫を備えた自動分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の自動分析装置では、試薬保管庫内の温度を制御し、試薬の温度を一定に保つことにより試薬の品質を保持している。このような自動分析装置において、例えば試薬保管庫の保冷機構を夜間停止するような場合、停止している期間中に試薬が劣化する可能性があることから、特許文献1には、試薬の保存温度管理値を逸脱してからどれだけ時間がかかったかを計測し、閾値と比較することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−310643号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1記載の技術では、試薬保管庫内の温度を計測する温度計測手段を備え、それで測定された温度をもって試薬の温度管理状態を判断している。しかし、この技術では試薬保管庫から取り出された試薬容器が常温で放置されていても、それを検知することはできない。このため、試薬保冷庫内の温度は、きちんとした温度管理がなされているため、問題無いと判断して分析した場合であっても、実際は試薬が劣化しており、分析値が異常である可能性は排除できなかった。
【0005】
本発明の目的は、1つ1つの試薬容器の温度をそれぞれ計測することで測定結果にばらつきが現れた場合の原因究明を容易にし、また、温まった試薬を使用したことによる測定結果の誤報告を防ぐ自動分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明の構成は以下の通りである。
【0007】
試薬を収容する試薬容器を複数保持する試薬保持機構と、該試薬保持機構に保持された試薬容器のそれぞれの温度を計測可能な温度計測機構と、を備えた自動分析装置。
【0008】
試薬保持機構は、ディスクの円周上に複数個の試薬容器を並べて載置する試薬ディスクであり、目的の試薬容器から試薬を吸引する試薬吸引機構の吸引位置に試薬ディスクを回転させるものであっても良いし、固定された位置に試薬容器を並べ、試薬吸引機構が吸引する試薬の位置に移動する機構を持つものであっても良い。温度計測機構は、非接触で温度計測が可能な赤外線温度計測装置,放射熱計測装置,サーモグラフィのようなものが好ましいが、熱電対のような温度計と、該温度計を測定対象の試薬容器に接触するように移動させる機構を備えたものであっても良い。温度計測機構で測定された温度は、試薬容器毎に記録し、予め定めた基準温度と比較する機構があっても良い。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、1つ1つの試薬容器の温度をそれぞれ計測することで測定結果にばらつきが現れた場合の原因究明を容易にできる。また、温まった試薬を使用したことによる測定結果の誤報告を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施例における自動分析装置の構成図。
【図2】本発明の一実施例における設置されている試薬の温度を画面上に表示する例を示す図。
【図3】本発明の一実施例における測定に使用した試薬の温度を画面上に表示する例を示す図。
【図4】本発明の一実施例における試薬の温度の基準範囲および使用可否を画面で設定する例を示す図。
【図5】本発明の一実施例における温度基準範囲値設定から分析結果出力までの処理フロー図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を用いて本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0012】
図1は、本発明装置の一実施例の構成図であって、検体試料の複数分析項目を測光方式によって分析する多項目化学分析装置の全体構成を示す概略図である。
【0013】
試薬保管庫26の外側に、温度計33を具備する。
【0014】
温度計33は、非接触式の温度測定素子であり、一つの試薬容器のみの温度を計測することができる。この温度計としては、放射温度計と呼ばれるものが一般的であり、赤外線などを用いて非接触で温度を計測できる。
【0015】
図1において、試薬保管庫26には、複数の分析項目に対応した試薬容器12が設置される。
【0016】
試薬容器12を試薬保管庫26内に設置したら、温度計33により、試薬容器12の温度を計測する。設置後、定期的に温度を計測し、試薬情報と共に記憶媒体24に記憶される。
【0017】
図2に、本発明による温度を表示するための画面例を示す。一般的に自動分析装置の試薬管理画面では、試薬保管庫内に設置されている試薬容器ごとに、分析項目名,残量,製造ロット,製造通し番号,有効期限などが表示されている。本発明では、それらの情報に加えて、上記説明内で計測した、試薬容器12の温度を、試薬ごとに、計測した最低温度と最高温度と共に表示している。
【0018】
画面のリスト表示は、温度が基準範囲でない場合は色を変えたりするなどの手段を用いることで、オペレータに注意を促すことができる。
【0019】
設置後の試薬容器の温度が基準範囲より少しだけ外れている場合は、試薬劣化の可能性が少ないと考えられる。試薬保管庫の保冷機能により試薬容器の温度が基準範囲内に落ち着けば、問題なく分析に使用できる。このため、オペレータは、任意のタイミングで試薬容器の温度の再計測を行う。それにより、基準範囲内に温度が落ち着いたことを確認してから検体の測定を開始することが可能となる。
【実施例2】
【0020】
試薬分注位置に設置されている試薬容器の温度を計測できる位置に温度計33を具備した場合は、検体を測定するとき、試薬分注機構8で試薬を分注する直前に、試薬分注位置に移動した試薬容器を、温度計33により計測することができる。計測した温度は記憶媒体24に記憶し、検体の計測結果と合わせて画面へ表示する。
【0021】
図3に、検体の計測結果および、計測した温度を表示するための画面例を示す。一般的に自動分析装置の測定結果画面では、検体ごとに、分析項目名,測定結果,異常情報,使用した試薬の情報などが表示されている。本発明では、それらの情報に加えて、上記説明内で計測した試薬容器12の温度を、分注タイミングごとに表示している。また、異常情報として試薬容器温度異常を付加する。
【0022】
オペレータは、試薬温度を考慮して測定結果を判断することができる。
【実施例3】
【0023】
図1において、温度計33は定期的に試薬の温度を計測し、記憶媒体24に記憶する。画面からの指示にて、一度でも温度が基準範囲外を検知したことのある試薬を使用不可とすることもできる。
【0024】
図4に、温度の基準範囲を設定するための画面例を示す。本発明では、分析項目毎に基準範囲の下限値および上限値を設定でき、基準範囲外の温度を計測した試薬の使用可否を設定できる。
【0025】
図5の処理フロー図に従って、温度基準範囲値設定から分析結果出力までの概略を説明する。
【0026】
オペレータはあらかじめ、試薬温度の基準範囲および、温度が基準範囲外の場合の試薬使用可否を、図4に示す画面から設定する(501)。設定内容は、記憶媒体24に記憶される。
【0027】
使用する試薬容器12を試薬保管庫26内に設置する(502)。
【0028】
設置された試薬容器12に対する定期的な温度計測を行う(503)。
【0029】
分析を開始すると、検体を分注する直前で温度計測を行い(504)、定期的に計測している温度(503)と共に、温度が一度でも基準範囲外となったか判定する(506)。一度でも基準範囲外となった場合は、使用可否設定を判定(509)し、使用不可となっている場合は、分析はキャンセルする(510)。これにより、希少な検体を無駄に消費しなくて済むこととなる。使用可否設定が使用可となっている場合は分析を実施(511)し、検体の測定結果と共に、温度異常のアラームも図3に示す画面に出力する(512)。
【0030】
温度が基準範囲内であった場合(506)は、分析を実施(507)し、検体の測定結果を温度異常のアラーム無しで図3に示す画面に出力する(508)。
【符号の説明】
【0031】
1 検体容器
2 検体移動機構
3 マイクロコンピュータ
4 インターフェース
5 検体分注器
7,11 液面検知器
8 試薬分注器
9 反応容器移動機構
12 試薬容器
17 反応容器
18 CRT(表示装置)
21 キーボード
23 試薬ID読取り器
24 記憶媒体
25 メモリエリア
26 試薬保管庫
27 プリンタ
28 検体ID読取り器
33 試薬容器温度検知器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試薬を収容する試薬容器を複数保持する試薬保持機構と、
該試薬保持機構に保持された試薬容器のそれぞれの温度を計測可能な温度計測機構と、
を備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項2】
請求項1記載の自動分析装置において、
前記温度計測機構は、温度を計測する試薬容器に非接触で温度計測可能な機構であることを特徴とする自動分析装置。
【請求項3】
請求項1記載の自動分析装置において、
前記温度計測機構は、赤外線温度計測装置であることを特徴とする自動分析装置。
【請求項4】
請求項3記載の自動分析装置において、
前記試薬保持機構は、断熱材を用いた保冷機構を備え、該断熱材の一部に前記赤外線温度計測装置用の測定窓を備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項5】
請求項3記載の自動分析装置において、
前記試薬保持機構は、円周上に試薬容器を並べて載置し、かつ回転動作が可能な試薬ディスクであり、
前記温度計測機構は、少なくとも1つが、回転動作する試薬ディスク上の試薬容器に対し、その位置が固定されている、試薬ディスクの蓋部に設けられていることを特徴とする自動分析装置。
【請求項6】
請求項1記載の自動分析装置において、
前記試薬容器が前記試薬保持機構に設置されたことを検出する試薬設置検出機構を備え、
該試薬設置検出機構が試薬容器の設置を検出したことに基づいて、前記温度計測機構が設置された試薬容器の温度を計測するように制御する制御機構を備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項7】
請求項6記載の自動分析装置において、
前記試薬保持機構は、円周上に試薬容器を並べて載置し、かつ回転動作が可能な試薬ディスクであり、
前記温度計測機構は、少なくとも1つが、回転動作する試薬ディスク上の試薬容器に対し、その位置が固定されており、
前記試薬設置検出機構が検出した、設置された試薬容器が、前記温度計測機構で計測可能な位置に位置づけられるように、前記試薬ディスクを回転するように制御する制御機構を備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項8】
請求項6記載の自動分析装置において、
前記試薬保持機構は、円周上に試薬容器を並べて載置し、かつ回転動作が可能な試薬ディスクであり、
前記温度計測機構は、少なくとも1つが、回転動作する試薬ディスク上の試薬容器に対し、その位置が固定されており、
該試薬ディスクの回転に伴い、前記温度計測機構で計測可能な位置に位置づけられた試薬容器の温度を計測し、計測された温度を試薬容器毎に記憶する記憶機構を備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項9】
請求項6記載の自動分析装置において、
前記試薬保持機構は、円周上に試薬容器を並べて載置し、かつ回転動作が可能な試薬ディスクであり、該試薬ディスクに載置された試薬容器に収容された試薬を所定量吸引する試薬分注機構を備え、
前記温度計測機構は、少なくとも1つが、回転動作する試薬ディスク上の試薬容器に対し、その位置が固定されており、
前記試薬分注機構で試薬の分注を開始する時点の試薬容器の温度を前記温度計測機構で計測するように制御する制御機構を備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項10】
請求項1〜9の何れかに記載の自動分析装置において、
前記温度計測機構で計測された温度が予め定めた基準範囲内で無かった場合に、異常を通知する通知機構を備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項11】
請求項1〜9の何れかに記載の自動分析装置において、
前記温度計測機構で計測された温度が予め定めた基準範囲内で無かった場合に該試薬を用いた分析がされないように制御する制御機構を備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項12】
請求項1〜8の何れかに記載の自動分析装置において、
前記記憶媒体は、非接触で情報の読取り,書込みが可能なものであることを特徴とする自動分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−32189(P2012−32189A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−169964(P2010−169964)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】