説明

自動分析装置

【課題】散乱光を検出する光検出器を備えた自動分析装置においてノイズ成分の影響を低減することで信頼性の高い分析結果が得られる自動分析装置を提供すること。
【解決手段】複数の光検出器で検出した散乱光の相関を濃度演算する前に算定し、相関の高い散乱光で濃度分析を行うことでノイズ成分の影響が少ない信頼性が高い濃度分析をすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象に光を照射して測定対象にて散乱する光を測定する自動分析装置に関わり、特に2つ以上の検出器を配置する自動分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
サンプル(試料、検体)に含まれる成分量を分析するサンプル分析装置として、光源からの光を、サンプル、又はサンプルと試薬とが混合した反応液に照射し、その結果得られる単一又は複数の波長の透過光量を測定し吸光度を算出して、Lambert−Beerの法則に従い、吸光度と濃度の関係から成分量を割り出す自動分析装置が広く用いられている。
【0003】
これらの装置においては、回転と停止を繰り返すセルディスクに、反応液を保持する多数のセルが円周状に並べられ、セルディスク回転中に、予め配置された透過光測定部により、約10分間、一定の時間間隔で吸光度の経時変化が測定される。
【0004】
自動分析装置は透過光量を測定するシステムを備える一方、反応液の反応には、基質と酵素との呈色反応と、抗原と抗体との凝集反応の大きく2種類の反応が用いられる。
【0005】
前者は生化学分析であり、検査項目としてLDH(乳酸脱水素酵素)、ALP(アルカリホスファターゼ)、AST(アスパラギン酸オキソグルタル酸アミノトンラフェナーゼ)などがある。後者は免疫分析であり、検査項目としてCRP(C反応性蛋白)、IgG(免疫グロブリン)、RF(リウマトイド因子)などがある。
【0006】
後者の免疫分析で測定される測定物質は血中濃度が低く高感度が要求される。これまでも、ラテックス粒子の表面に抗体を感作(結合)させた試薬を用い、サンプル中に含まれる成分を認識し凝集させる際に、反応液に光を投光し、ラテックス凝集塊に散乱されずに透過した光量を測定することでサンプル中に含まれる成分量を定量するラテックス免疫凝集法での高感度化が図られてきた。
【0007】
さらに自動分析装置としては、透過光量を測定するのではなく、散乱光量を測定することによる高感度化も試みられている。例えば、ダイアフラムを用いて透過光と散乱光とを分離し、吸光度と散乱光を同時に測定するシステム(特許文献1)や、凝集反応が進んだ結果形成される大きな凝集塊での反射散乱光計測による高濃度側での精度を高める構成(特許文献2)、反応容器前後に積分球を用いて前方散乱光と後方散乱光のそれぞれの平均光量を測定し、セル位置ずれによる濁度変化を補正する方法(特許文献3)等が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−307117号公報
【特許文献2】特願2006−180338号公報
【特許文献3】特願平9−153048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
散乱光を検出する検出器を用いた自動分析装置では、気泡などの異物が測定対象に混入した場合や反応容器に付いた傷、あるいは反応容器内に付着した場合にノイズ成分として測定結果に影響を与える。
【0010】
このノイズの影響を低減するため、検出器からの出力を一定時間積分することによりS/N比特性を改善する方法があるが、積分時間は測定対象の時間的変化により制約があるだけでなく、反応容器内に気泡などの異物が付着した場合はS/N比特性の改善効果を望めない。また、散乱光を積分し平均化処理を施すことでS/N比を低減する技術に関しては特許文献3に開示されている。
【0011】
しかしながら、測定対象物に対して光をあてて、その散乱した光を検出する散乱光度計においては、反応容器の傷や反応容器内に付着した気泡と測定対象物を区分けすることは原理的に困難である。
【0012】
また反応容器内に付着した気泡は反応容器内の特定の部位に付着することが多く、また反応容器に付いた傷も反応容器の特定部位にあることが多い。従って、特定の方向に散乱された光を濃度演算前に取り除くことが出来るならばノイズ成分の少ない散乱光の光検出信号を使って信頼性の高い結果を得られる。
【0013】
そこで本発明の目的は、散乱光に含まれるノイズ、や光検出系の光が通る途中経路に散乱光の通過を妨げる障害が存在しても信頼性の高い分析の結果を得ることができる自動分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、測定対象からの散乱光量を多方向から測定し、測定方向の相互間で測定した散乱光量の相関係数を求め、基準相関係数より高い前記相関係数に該当する測定方向の散乱光量を前記測定対象の分析に使うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、測定対象の分析は相関係数の高い散乱光量でするので信頼性の高い測定結果を臨床サイドに提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施例に係る自動分析装置の全体構成を示すシステムブロック図である。
【図2】本発明の実施例に係るもので、測定対象からの散乱光を検出する光検出系のシステム構成図である。
【図3】本発明の実施例に係る光検出系の光検出器(θ1・θ2)が検出した散乱光の測定結果である。
【図4】本発明の実施例に係るもので、光検出系が検出した散乱光のシグナル成分とノイズ成分の関係を示す図である。
【図5】本発明の実施例に係るもので、透過光軸に対し傾き角度を異に設けた複数の光検出器(θ1・θ2)が検出した散乱光の相関図である。
【図6】本発明の実施例に係るもので、図5と同様に、複数の光検出器(θ1・θ3)が検出した散乱光の相関図である。
【図7】本発明の実施例に係るもので、図5と同様に、複数の光検出器(θ1・θ4)が検出した散乱光の相関図である。
【図8】本発明の実施例に係るもので、複数の光検出器(θ1・θ2)が検出した散乱光を規格化して平均化光量を示す図である。
【図9】本発明の実施例に係るもので、複数の光検出器が検出した散乱光のデータを処理する処理フローを示す図である。
【図10】本発明の実施例に係るもので、自動分析装置の表示装置に示した分析でのパラメータの設定画面である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の実施例を図に従って説明する。
【0018】
以下、図1〜図6を用いて、本発明の一実施形態による自動分析システムの構成及び動作について説明する。
【0019】
最初に、図1を用いて、本実施形態による自動分析システムの全体構成について説明する。図1は、本発明の実施形態による自動分析システムの全体構成を示すシステムブロック図である。
【0020】
図1に、自動分析装置の全体構成を示している。間欠回転可能に設けられた反応ディスク1には、透光性材料からなる多数の反応容器2が円周に沿って装着されている。反応容器2は、恒温槽3によって所定の温度(例えば37℃)に維持される。恒温槽3内の流体は、恒温維持装置4により温度調整される。
【0021】
サンプルディスク5上には、血液又は尿のような生体サンプルを収容した多数の検体容器6が載置される。可動アーム7に取り付けられたピペットノズル8は、サンプルディスク5の吸入位置に位置付けられた検体容器6から所定量のサンプルを吸入し、そのサンプルを反応ディスク1上の吐出位置にある反応容器2内に吐出する。
【0022】
試薬保冷庫9A,9B内にそれぞれ配置されている試薬ディスク上には、バーコードの如き試薬識別情報を表示したラベルが貼られた複数の試薬ボトル10A、10Bが載置される。これらの試薬ボトルには、分析装置によって分析され得る分析項目に対応する試薬液が収容されている。各試薬保冷庫9A、9Bに付属されたバーコード読み取り装置34A、34Bは、試薬登録時に、各試薬ボトルの外壁に表示されているバーコードを読み取る。読み取られた試薬情報は、試薬ディスク上のポジションと共に後述するメモリ11に登録される。
【0023】
各試薬分注機構12A、12Bにおける試薬用ピペットノズルは、反応ディスク1上の試薬受け入れ位置に位置付けられる検査項目に応じた試薬ボトルから試薬液を吸入し、該当する反応容器2内へ吐出する。
【0024】
反応容器2内に収容されたサンプルと試薬の混合物は、撹拌機構13A、13Bにより撹拌される。反応容器2の列は、光源14と散乱光度計15とによって挟まれた測光位置を通るように回転移動される。散乱光度計15は同軸光軸上に多波長吸光光度計を備えても良く、散乱光と透過光の両方を使って濃度演算を行っても良い。なお、光源14と散乱光度計15は光検出系を構成する。散乱光度計15内の光検出器の配置については、図2を使って後述する。
【0025】
さて、各反応容器2内におけるサンプルと試薬との反応液は、反応ディスク1の回転動作中に散乱光度計15の前を横切る度に測光される。サンプル毎に測定された散乱光のアナログ信号は、A/D変換器16に入力される。反応ディスク1の近傍に配置されている反応容器洗浄機構17は、使用済みの反応容器2の内部を洗浄することにより、反応容器の繰り返しの使用を可能にする。
【0026】
次に、図1の分析装置における制御系及び信号処理系について簡単に説明する。
【0027】
コンピュータ18は、インターフェース19を介して、サンプル分注制御部20、試薬分注制御部21、A/D変換器16に接続されている。コンピュータ18は、サンプル分注制御部20に対して指令を送り、サンプルの分注動作を制御する。また、コンピュータ18は、試薬分注制御部21に対して指令を送り、試薬の分注動作を制御する。
【0028】
A/D変換器16によってディジタル信号に変換された測光値は、コンピュータ18に取り込まれる。
インターフェース19には、印字するためのプリンタ22、記憶装置であるメモリ11や外部出力メディア23、操作指令等を入力するためのキーボード24、画面表示するためのCRTディスプレイ(表示装置)25が接続されている。表示装置としては、CRTディスプレイの他に液晶ディスプレイなどを採用できる。メモリ11は、例えばハードディスクメモリ又は外部メモリにより構成される。メモリ11には、各操作者のパスワード、各画面の表示レベル、分析パラメータ、分析項目依頼内容、キャリブレーション結果、分析結果等の情報が記憶される。
【0029】
次に、図1の自動分析装置におけるサンプルの分析動作を説明する。
【0030】
自動分析装置によって分析可能な項目に関する分析パラメータは、予めキーボード24の如き情報入力装置を介して入力されておリ、メモリ11に記憶されている。操作者は、後述する操作機能画面を用いて各サンプルに依頼されている検査項目を選択する。
【0031】
この際に、患者IDなどの情報もキーボード24から入力される。各サンプルに対して指示された検査項目を分析するために、ピペットノズル8は、分析パラメータにしたがって、検体容器6から反応容器2へ所定量のサンプルを分注する。
【0032】
サンプルを受け入れた反応容器は、反応ディスク1の回転によって移送され、試薬受け入れ位置に停止する。試薬分注機構12A、12Bのピペットノズルは、該当する検査項目の分析パラメータにしたがって、反応容器2に所定量の試薬液を分注する。サンプルと試薬の分注順序は、この例とは逆に、サンプルより試薬が先であってもよい。
【0033】
その後、撹拌機構13A、13Bにより、サンプルと試薬との撹拌が行われ、混合される。この反応容器2が、測光位置を横切る時、散乱光度計15により反応液の散乱光が測光される。測光された散乱光は、A/D変換器16により光量に比例した数値に変換され、インターフェース19を経由して、コンピュータ18に取り込まれる。
【0034】
この変換された数値を用い、検査項目毎に指定された分析法により予め測定しておいた検量線に基づき、濃度データに変換される。各検査項目の分析結果としての成分濃度データは、プリンタ22やCRT25の画面に出力される。
【0035】
以上の測定動作が実行される前に、操作者は、分析測定に必要な種々のパラメータの設定や試料の登録を、CRT25の操作画面を介して行う。また、操作者は、測定後の分析結果をCRT25上の操作画面により確認する。
【0036】
次に図2を用いて図1中の光源14および散乱光度計15の構成の詳細を説明する。
【0037】
図2は光源/反応容器/散乱光度計の全体構成を示すシステムブロック図である。
【0038】
光源201から入射した光は測定対象物が分注された反応容器202に入射される。測定対象物、反応容器202を含めて測定対象と云う。測定対象で散乱した散乱光は散乱光度計15で光検出される。
【0039】
散乱光度計15は4つの光検出器(204、205、206、207)を有する。光検出器にはフォトダイオードを用いる。4つの光検出器(204、205、206、207)は入射光軸の延長線上に存在する透過光軸(角度0°)に対して傾きを異にして配置される。
【0040】
光検出器204の傾きはθ1である。θ1は、例えば、30°ないし20°の任意角度を選択できる。光検出器205の傾きはθ2で、θ1よりも大きな傾きである。θ2とθ1の角度差は例えば、30°ないし20°の任意角度を選択できる。
【0041】
光検出器206の傾きはθ3である。θ3は、例えば、−30°ないし−20°の任意角度を選択できる。
【0042】
光検出器207の傾きはθ4である。光検出器207の傾きはθ4で、θ3よりも大きな傾きである。θ3は、例えば、30°ないし20°の任意角度を選択できる。複数の光検出器の配置は入射光軸に対してZ軸方向に傾きを異にする配置であるが、X軸、Y軸方向、斜め方向に角度を変えて配置しても良い。また光検出器は離散的に配置する必要は無く連続的に配置しても良い。
【0043】
さて、入射した光は反応容器202内で測定対象物に衝突し散乱される。散乱した光は光検出器204(θ1)、光検出器205(θ2)、光検出器206(θ3)、光検出器207(θ1)に検出される。この検出に際し、反応容器から光検出器までの途中経路に、例えば、気泡や傷203があった場合には、透過光軸(0°)に対してθ4の位置にある光検出器207で受光する散乱光は影響を受けている。
【0044】
次に図3に示す出力信号の測定について述べる。
【0045】
この測定は光検出器204〜205で検出した散乱光の出力信号で測定対象物の反応過程の1例を示す。測定ポイント(横軸)、出力信号(縦軸)の関係で示した反応過程のグラフである。
【0046】
すなわち、この反応過程は、反応ディスクの円周上に配置された反応容器が光度計の前を一定時間毎に通過する際に測定対象を検知した測定開始から終了までの反応の進み具合を経時的に複数回、プロットしたものである。ここでは、測定ポイント19から測定ポイント34までの時間経過区分で反応過程を光検出器(204・205)の出力信号で示している。測定ポイントは光度計で検出された順番数で、測定ポイントの数が増すにつれ時間の経過が増加する。時間経過区分は任意の測定ポイントや任意の区分範囲で選択できる。
【0047】
一般的に散乱光は透過光軸に対する傾き角度が大きい方が光量は少なく、図3では光検出器204(θ1・傾き角度小)の出力値である光量が多く、光検出器205(θ2・傾き角度大)の出力値である光量が小さくなっている。
【0048】
次に図4に示す光検出器が検出するシグナルとノイズについて述べる。
【0049】
図4は光検出器で受光した信号成分のシグナル成分(本来の測定対象物からの散乱光)とノイズ成分(ランダムに生じる信号成分)の関係を模式的に表した図である。
【0050】
光検出器で受光した散乱光の信号量はシグナル成分とノイズ成分が足しあわされた信号量になる。シグナル成分は、例えば、理想的な状態では100±αで示す数値で表されるとすると、同一の測定対象物からの散乱光は、いずれの光検出器で散乱光の信号を取得しても100±αであるはずである。一方で、ノイズ成分はランダムに光検出器の受光する散乱光の信号に影響を与えることから正負の値を持ちうる。また、光検出器が異なれば、その配置や光検出器そのものの差の影響を受けている。
【0051】
またシグナル成分に関しても、図3に示す203にあるような反応容器に付着した気泡や傷など、特定方向に何らかの散乱光を妨げる要因があった場合には変動しうる。
【0052】
図4の(1)、(2)に示すグラフ、数値から理解できるように、光検出器(204・205)はS/N比が低く、光検出器(206・207)はS/N比が高く、光検出器(206・207)にはノイズの影響が多くあるものと考えられる。
【0053】
次に光検出器が検出する散乱光量の相関に関して述べる。
【0054】
図5は光検出器204(θ1)と光検出器205(θ2)が検出した散乱光量の相関を示す。図3に示す散乱光の出力信号〔光検出器204(θ1)・光検出器205(θ2)〕をもとに相関を算定する。
【0055】
光検出器204(θ1)と光検出器205(θ2)が検出した散乱光量の回帰曲線より1次の回帰曲線(直線)を最小二乗法で算出している。この1次の回帰曲線(直線)が
相関関係を示す式で、y=1.6776x−0.5637である。さらに光検出器204(θ1)と光検出器205(θ2)が検出した散乱光量同士の相関関係を算出し、統計的に寄与率として知られているRと回帰直線の傾きと切片を算出する。寄与率R2は相関係数に相当する。傾きと切片は回帰直線の係数である。
【0056】
光検出器204(θ1)と光検出器205(θ2)が検出した散乱光量の相関係数は、0.9929で(1)に近く、高い相関関係にあることを示す。
【0057】
図6は光検出器204(θ1)と光検出器206(θ3)が検出した散乱光量の相関を示す。この光検出器204(θ1)と光検出器206(θ3)が検出した散乱光量に基づく相関係数(R)は0.9314である。光検出器204(θ1)と光検出器206(θ3)の相関関係は、光検出器204(θ1)と光検出器205(θ2)の相関関係よりも低いことが伺える。
【0058】
図7は光検出器204(θ1)と光検出器207(θ4)が検出した散乱光量の相関を示す。この光検出器204(θ1)と光検出器207(θ4)が検出した散乱光量に基づく相関係数(R)は0.8691である。光検出器204(θ1)と光検出器207(θ4)の相関関係は、光検出器204(θ1)と光検出器206(θ3)の相関関係よりもさらに低いことが伺える。
【0059】
このように、光検出器204(θ1)と光検出器207(θ4)および光検出器204(θ1)と光検出器206(θ3)の相関関係が光検出器204(θ1)と光検出器205(θ2)の相関関係より低くなるのは、散乱光に含まれるノイズ、や光検出系の光が通る途中経路に存在する気泡や傷などの障害がもたらす影響によるものと考えられる。
【0060】
こうしたノイズや気泡や傷などの影響が高い散乱光を除外し、その影響が少ない散乱光を検出する光検出器204(θ1)と光検出器205(θ2)の検出信号を選んでサンプルの濃度分析を行うことにより、信頼性の高い濃度分析の結果を得ることができ、信頼性の高い濃度分析の結果を臨床サイドに提供できる。
【0061】
なお、光検出器204(θ1)は相関関係を見る上で基準の光検出器にした。光検出器204(θ1)以外を基準の光検出器に選択することも可能であるが、基準にする光検出器は安定した散乱光の検出、ノイズや気泡や傷などの影響が生じにくいところに配置することが望ましい。このため、基準の光検出器は散乱光の安定した検出ができ、かつノイズや気泡や傷などの影響の生じない傾き角度を適宜選択して設定することが行われる。
【0062】
次に光検出器204(θ1)と光検出器205(θ2)が検出した出力結果(散乱光量)の規格化について、図8を引用して説明する。
【0063】
図8に示す出力結果の規格化は、横軸に測定ポイント、縦軸に平均化光量を示す。図8に示す測定ポイント、平均化光量は前述した図3の測定ポイント(横軸)、出力信号(縦軸)に対応する。
【0064】
図8に示す例では、θ1(光検出器204)方向の出力値とθ2(光検出器205)方向の出力結果を規格化する場合には、前述した回帰直線の係数(傾き/切片)を使い一方を他方(特定の光検出器側)の出力結果に規格化する。
【0065】
図8に示す例では、回帰直線としたが、2次、3次など複数の角度で取った散乱光量のデータの相関関係を示す式を算出して規格化出来れば良いので任意の式としても良い。また散乱光を光検出器で検出して取り込むタイミングは複数回あることが望ましい。
【0066】
このように相関関係が高い関係にある複数の光検出器が検出した散乱光量を規格化した平均化光量を予め測定しておいた検量線に照らして濃度分析することで、より精度の良い信頼性の高い分析結果を得ることができる。
【0067】
次に、図1〜図8を引用して説明した散乱光のデータを処理する処理フローに関し、図9を引用して説明する。
【0068】
まず、自動分析装置の濃度分析が開始される(ステップ301)。これに引き続き、複数の光検出器(204・205・206・207)で傾きが異なる多角度データ取得(散乱光の検出)が行われる(ステップ302)。
【0069】
ステップ302で、複数の光検出器(204・205・206・207)は測光ポイント19−34を含む広範囲に亘って時間経過で反応が変化する濃度のデータを散乱光量の
変化として検出する。この広範囲の測光ポイントから指定区間データの取り出しをする(ステップ303)。
【0070】
この指定区間データの取り出しでは、濃度分析に必要な任意の区分範囲を選択して行う。時間経過で反応が変化する任意の測定ポイントを任意の区分範囲で選択できるので、濃度分析が適宜に、かつ適切に実施することができる。
【0071】
ステップ303で選択された複数の光検出器(204・205・206・207)が検出した散乱光量より高角度のデータの相関係数が求められる(ステップ304)。相関係数(寄与率・R)は、前述したように(1)に近い程、相関関係が高く、(0)に近い程、相関関係が低くなる。
【0072】
ステップ304での相関係数をもとに相関係数の高いデータの取り出しが行われる(ステップ305)。この取り出しで、複数の光検出器(204・205・206・207)が検出した散乱光量から相関係数の高い光検出器(204・205)の散乱光量が選択される。オペレータが予め入力した基準相関係数(閾値)より低い相関係数の散乱光量は除外し、相関係数の高い散乱光量のものを選択するようにしている。
【0073】
ここでは、基準相関係数は、低く値を見積もっても0.94程度である。もし、基準相関係数を0.9300に定めたとすると、光検出器206が検出する散乱光量も除外されずに相関係数の高い散乱光量として選択されることになる。基準相関係数の値はその濃度分析に求められている精度レベルに応じて適宜に設定することが望ましい。
【0074】
ステップ305で相関の低い角度データと判定されたものは濃度分析のデ―タとして使用しない(ステップ306)。逆に相関の高い角度データと判定されたものは、相関の高い角度データを基準角度の出力値への規格化処理が行われる(ステップ307)。規格化処理は前述したように相関係数(寄与率・R)を求める際に同時に算出した回帰直線の係数(傾き/切片)を使い、特定の光検出器の検出した散乱光量の値に規格化する。
【0075】
規格化された散乱光は平均化が行われ(ステップ308)、最後に平均化された散乱光量から濃度分析の演算を行い(ステップ309)、データ処理の終了に至る(ステップ310)。
【0076】
次に濃度分析を行うパラメータの設定に関して説明する。
【0077】
図10は濃度分析でのパラメータの設定画面を示す。このパラメータの設定画面はCRTディスプレイ(表示装置)25に表示される。
【0078】
上述したように濃度分析は、測定対象からの散乱光量を多方向(多角度)から測定して取得し、その取得した散乱光量のデータから信頼性のあるデータを取捨選択して、指定した角度の散乱光の値に規格化して行う。
【0079】
そこで、図10に示すように、複数角度(θ1、θ2、θ3、θ4)の選択画面(401)から散乱光の規格化のための基準角度(402)を分析パラメータの設定画面から選択する。これにより、任意の角度からの散乱光に対して他の角度からの散乱光を規格化することが出来る。
【0080】
また、反応過程のデータの中で相関関係を比較する区間に関しても比較を開始する比較を開始ポイント(403)とし、比較を終了する終了ポイント(404)として設定することで自動分析装置の分析条件設定画面から濃度分析の設定が出来る。この開始ポイント(403)と終了ポイント(404)の設定は、その濃度分析に求められている精度レベル、時間経過により変わるサンプルの反応過程など考慮して任意の時間経過区分で選択することが望ましい。
【0081】
なお、濃度分析条件の設定は、自動分析装置の設定画面から必ずしも設定する必要は無く、固定の条件であれば予め自動分析装置の記憶領域に記憶させたパラメータ値を使っても良い。
【符号の説明】
【0082】
1…反応ディスク、2…反応容器、3…恒温槽、4…恒温維持装置、5…サンプルディスク、6…検体容器、7…可動アーム、8…ピペットノズル、9A,9B…試薬保冷庫、12A,12B…試薬用ピペットノズル、15…散乱光度計、18…コンピュータ、19…インターフェース、204…光検出器(θ1)、205…光検出器(θ2)、206…光検出器(θ3)、207…光検出器(θ4)、201…光源、202…反応容器、203…気泡や傷。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象からの散乱光量を多方向から測定し、測定方向の相互間で測定した散乱光量の相関係数を求め、基準相関係数より高い前記相関係数に該当する測定方向の散乱光量を前記測定対象の分析に使うことを特徴とする自動分析装置。
【請求項2】
時間経過で変化する測定対象からの散乱光量を多方向から測定し、測定方向の相互間で測定した散乱光量の相関係数を求め、基準相関係数より高い前記相関係数に該当する測定方向の散乱光量を前記測定対象の分析に使うことを特徴とする自動分析装置。
【請求項3】
測定対象からの散乱光量を測定する自動分析装置において、
前記測定対象を透過する透過光軸に対し傾き角度を異にする複数の光検出器を備え、
各光検出器の相互間で検知した散乱光量の相関係数を求め、基準相関係数より高い前記相関係数に該当する光検出器の散乱光量を前記測定対象の分析に使うことを特徴とする自動分析装置。
【請求項4】
時間経過で変化する測定対象からの散乱光量を測定する自動分析装置において、
前記測定対象を透過する透過光軸に対し傾き角度を異にする複数の光検出器を備え、
各光検出器の相互間で検知した散乱光量の相関係数を求め、基準相関係数より高い前記相関係数に該当する光検出器の散乱光量を前記測定対象の分析に使うことを特徴とする自動分析装置。
【請求項5】
請求項3または4記載の自動分析装置にあって、
傾き角度が異なる前記複数の光検出器の傾き方向は、前記透過光軸に対して上下、左右、ないし斜めの何れかであることを特徴とする自動分析装置。
【請求項6】
請求項3または4記載の自動分析装置にあって、
前記複数の光検出器が前記透過光軸に対して同心円状に配置されていることを特徴とする自動分析装置。
【請求項7】
測定対象からの散乱光量を測定する自動分析装置において、
前記測定対象を透過する透過光軸に対し傾き角度を異にする複数の光検出器を備え、
検出した散乱光量の回帰曲線より各光検出器相互間での散乱光量の相関係数を求め、
基準相関係数値より低い相関係数の散乱光量を除く高い相関係数の前記散乱光量を使って前記測定対象の濃度分析をすることを特徴とする自動分析装置。
【請求項8】
時間経過で変化する測定対象からの散乱光量を測定する自動分析装置において、
前記測定対象を透過する透過光軸に対し傾き角度を異にする複数の光検出器を備え、
検出した散乱光量の回帰曲線から各光検出器相互間での散乱光量の相関係数を求め、
基準相関係数値より低い相関係数の散乱光量を除く高い相関係数の前記散乱光量を使って前記測定対象の濃度分析をすることを特徴とする自動分析装置。
【請求項9】
請求項7または8記載の自動分析装置において、
前記高い相関係数の前記散乱光量の相関係数を求めた際に算出した回帰直線の係数を使い特定の光検出器が検出した散乱光量の値を規格化処理することを特徴とする自動分析装置。
【請求項10】
請求項2、4または8記載の自動分析装置において、
前記散乱光量は測定された時間経過の範囲内を任意の時間経過区分で選択することができることを特徴とする自動分析装置。
【請求項11】
請求項7または8記載の自動分析装置において、
前記相関係数を求める際に前記散乱光量の回帰曲線を任意に選択することができることを特徴とする自動分析装置。
【請求項12】
請求項3または4記載の自動分析装置において、
前記複数の光検出器に基準とする光検出器を定め、
前記相関係数の求めは、基準の光検出器と他の光検出器との対で行い、
基準の光検出器は、前記傾き角度を任意に選択できることを特徴とする自動分析装置。
【請求項13】
請求項10〜12のいずれかに記載の自動分析装置において、
操作画面、設定画面を含む各種の画面を表示する表示装置を備え、
前記任意に選択するためのパラメータを前記設定画面上に表示することを特徴とする自動分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−7896(P2012−7896A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−141430(P2010−141430)
【出願日】平成22年6月22日(2010.6.22)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】