説明

自動固相抽出装置

【課題】フィルタ付き容器から液体が真空吸引された状態を目視で確実に観察できる自動固相抽出装置を提供すること。
【解決手段】液体の吸引及び吐出動作が可能な分注ヘッドと、該分注ヘッドを移動させるための移送手段と、前記分注ヘッドの吸引及び吐出動作と前記移送手段による分注ヘッドの移動を制御するための制御手段を備え、該制御手段から入力された運転工程に従って動作する自動固相抽出装置において、予め任意の運転工程で装置の動作を一時停止させる一時停止設定機能を前記制御手段に設ける。より具体的には、内部を真空状態にしてフィルタ付き容器から液体を真空吸引する真空吸引手段を備え、予め設定された運転工程において装置が一時停止状態にあるとき、前記真空吸引手段を単独で運転させて前記フィルタ付き容器からの液体の真空吸引状態を目視にて確認する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品、農薬、水等に含まれる有機化学物質の分析の前処理操作としての固相抽出操作を自動的に行うための自動固相抽出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医薬品や農薬等の試料溶液に含まれる有機化学物質の分析法としては、例えば液体クロマトグラフィー分析が知られている。この分析には前処理操作としての固相抽出操作が必要であるが、この固相抽出操作は、固定相となる吸着剤を詰めた長形円筒の固相抽出管(カラム)に、その上方から試料溶液を滴下させて溶質を固定相に吸着させた後、溶剤を流して固定相に吸着されている溶質を分離して目的成分を溶かし出す操作である。
【0003】
而して、液体クロマトグラフィー分析においては、上記固相抽出操作を行った後、目的成分が含まれる溶液を液体クロマトグラフィーに掛けて成分分析が行われる。
【0004】
ところが、前処理操作としての固相抽出操作には一般的に長時間を要し、マニュアル操作では非効率であるため、近年、処理の効率化を図るためにこれらの前処理操作を自動的に行う自動固相抽出装置が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、溶液注入用多連続ニードルホルダを装着したヘッドを所定の試験管位置に移動させて流量制御ポンプを稼働させることにより、溶剤供給源から所定の溶剤を複数の固相抽出管に対して同時に注入して各固相抽出管の固定層の活性化処理を行うようにした自動固相抽出装置が提案されており、これによれば活性化処理時間を短縮して全体の処理時間を大幅に短縮することができる。
【0006】
【特許文献1】特開平8−164302号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の自動固相抽出装置では、固相抽出管(以下、フィルタ付き容器」と称する)から液体が確実に真空吸引されているか否かを検出することは不可能である。
【0008】
ところで、フィルタ付き容器は複数(例えば、96個)のウェルから成り、有機化学成分の濃度や種類によって真空吸引に要する時間が異なることが一般的に知られており、真空吸引の時間設定には十分な検討が必要である。
【0009】
又、固相抽出を行う際は、フィルタ付き容器に試薬を吐出してから真空吸引する作業を複数回行うのが一般的であるため、真空吸引されないでフィルタ付き容器のウェルに液体が残った状態であるにも拘らず、新たに別の試薬を注入してしまうとフィルタ付き容器から液が溢れるという不具合が発生してしまう。
【0010】
而して、上述のようにフィルタ付き容器からの液体の真空吸引が不十分であった場合、従来の自動固相抽出装置では、制御装置からの停止信号によって装置の運転を停止することによって前記不具合を回避することは容易であるが、実験者が装置を監視していなければならず、自動化のメリットが得られない。
【0011】
従って、本発明の目的とする処は、真空吸引作業が終了した時点で装置の運転を一時停止するよう予め設定可能とすることによって、フィルタ付き容器から液体が真空吸引された状態を目視で確実に観察できる自動固相抽出装置を提供することにある。
【0012】
又、固相抽出に限らず、液体を吸引及び吐出する作業は一般的に行われているが、複数の液体を分注する場合、例えば1回目の試薬の分注量は100μl、2回目の試薬は5μl、3回目の試薬は1000μlといったように、分注量が各回で大きく異なる一連の操作が必要なときがある。一般的に1000μlの液体を一度に分注可能な分注ヘッドを用いて5μlの液体を分注した場合、分注器の精度を表す正確度と再現性は悪くなる。
【0013】
そこで、小容量分注用の分注ヘッドと大容量分注用の分注ヘッドをそれぞれ用意し、2本のロボットアームを用いて用途に応じて分注ヘッドを使い分けたり、容量の異なる2つの分注ヘッドを1本のロボットアームの先端に着脱することができる機構を設ける方法が実施されている。
【0014】
ところが、このような方法では、全ての工程を全自動で行うことができるものの、例えば一連の工程に1時間以上の時間を要するような場合であっても、小容量の分注ヘッドは僅か数分しか使われないこともあり、投資コストに見合うメリットが得られない。当然ながら、小容量用の分注ヘッド以外にも小容量用の分注チップや試薬等も準備する必要があり、装置は大型で高価なものになってしまう。
【0015】
又、逆に分注量が分注ヘッドの設定範囲の上限を大きく超える場合には、分注ヘッドによる分注作業を複数回繰り返す必要があり、その作業時間が長くなるという問題もあった。
【0016】
そこで、本発明の他の目的とする処は、分注ヘッドの設定範囲(例えば50〜1000μl )を外れる小容量(例えば5μl )或は大容量(例えば、5000μl)を分注させたい場合、装置の運転を一時停止させるように予め設定できるようにしておき、用手法(手作業)による1回の操作で小容量或は大容量の分注を行うことによって、小型化とコストダウンを図ることができる自動固相抽出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、液体の吸引及び吐出動作が可能な分注ヘッドと、該分注ヘッドを移動させるための移送手段と、前記分注ヘッドの吸引及び吐出動作と前記移送手段による分注ヘッドの移動を制御するための制御手段を備え、該制御手段から入力された運転工程に従って動作する自動固相抽出装置において、予め任意の運転工程で装置の動作を一時停止させる一時停止設定機能を前記制御手段に設けたことを特徴とする。
【0018】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、予め設定された運転工程において装置が一時停止状態にあることを知らせる機能を設けたことを特徴とする。
【0019】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の発明において、前記分注ヘッドに装着された分注チップに液体を吸引及び吐出させるための容器と、液体が吐出されるフィルタ付き容器と、内部を真空状態にして前記フィルタ付き容器から液体を真空吸引する真空吸引手段を備え、予め設定された運転工程において装置が一時停止状態にあるとき、前記真空吸引手段を単独で運転させて前記フィルタ付き容器からの液体の真空吸引状態を目視にて確認することを特徴とする。
【0020】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の発明において、装置が一時停止状態にあるときに前記真空吸引手段が単独で運転された時間に基づいて、真空吸引手段が前記フィルタ付き容器から液体を真空吸引する時間を変更可能としたことを特徴とする。
【0021】
請求項5記載の発明は、請求項1又は2記載の発明において、前記分注ヘッドに装着された分注チップに液体を吸引及び吐出させるための容器を備え、予め設定された運転工程において装置が一時停止状態にあるとき、用手法で液体を前記容器に分注することを特徴とする。
【0022】
請求項6記載の発明は、請求項1〜5の何れかに記載の発明において、装置が一時停止状態にあるときに前記制御手段から何らかの操作が行われなかった場合、一定時間経過後に一時停止状態以降の運転を継続することを特徴とする。
【0023】
請求項7記載の発明は、請求項6記載の発明において、前記一定時間を前記制御手段から設定可能であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
請求項1記載の発明によれば、予め任意の運転工程で装置の動作を一時停止させて自動運転を中断し、その間に人による操作が可能になるようにしたため、例えば液体の真空吸引状態の目視による確認や用手法による小容量の分注等が可能となる。
【0025】
請求項2記載の発明によれば、実験者は予め設定された運転工程において装置が一時停止状態にあることを知ることができる。
【0026】
請求項3記載の発明によれば、予め設定された運転工程において装置を一時停止させた状態で、真空吸引手段を単独で運転させてフィルタ付き容器からの液体の真空吸引状態を目視にて確実に確認することができる。
【0027】
請求項4記載の発明によれば、フィルタ付き容器から液体を完全に真空吸引するに必要な真空吸引手段の運転時間を運転停止時の単独運転時間に基づいて設定し直すことができる。
【0028】
請求項5記載の発明によれば、例えば分注ヘッドの設定範囲を外れる小容量或は大容量を分注したい場合、装置を一時停止させて用手法で小容量或は大容量の分注を1回の操作で行うことができるため、装置の小型化及びコストダウンを図ることができる。
【0029】
請求項6記載の発明によれば、装置が一時停止状態にあるときに一定時間以上何らの操作が行われなかった場合には、一時停止状態以降の運転を継続するようにしたため、試薬の蒸発や活性度合いの低下等の不具合の発生を防ぐことができる。
【0030】
請求項7記載の発明によれば、装置を一時停止させておく最大時間(一定時間)を、扱う液体の種類等に応じて、制御手段によって任意に設定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0032】
図1は本発明に係る自動固相抽出装置の斜視図、図2は同自動固相抽出装置内の構成の詳細を示す斜視図である。
【0033】
図1に示す自動固相抽出装置1は、装置本体2と、不図示の真空ポンプが内蔵された真空コントローラ15と、これらを制御する制御装置3とで構成されている。ここで、制御装置3は、例えば汎用のパーソナル・コンピュータで構成され、LAN(Local Area Network)等の通信ケーブル4を介して装置本体2と真空コントローラ15に電気的に接続されている。
【0034】
又、装置本体2には、3次元空間を移動して位置決めが可能な移送手段であるロボット5と、このロボット5の先端に設けられた分注ヘッド6と、制御装置3に入力された条件に基づいて装置本体2を駆動する不図示の回路部が設けられている。ここで、ロボット5は、直交座標軸であるX軸−Y軸−Z軸に沿って3次元空間を移動可能であって、不図示のステッピングモータによって駆動され、所定の位置に位置決めされる。尚、ロボット5の駆動源としては、サーボモータ等、他の任意の手段を用いることができる。
【0035】
前記分注ヘッド6は、一列に並んで配置された複数の分注チップ8を着脱可能であって、これに分注チップ8を装着することによって液体の吸引及び吐出が可能となる。即ち、分注ヘッド6に例えば12本の分注チップ8を装着し、12連のシリンジ(図示せず)を1つのステッピングモータで駆動することによって、分注チップ8への液体の吸引動作及び分注チップ8からの液体の吐出動作が実行される。尚、シリンジ個々の間隔はフィルタ付き容器11のウェル間隔と同じ9mmピッチに設定されている。
【0036】
又、ロボット5に取り付けられた分注ヘッド6の可動範囲の下方には、2組の分注チップ容器9、4つのプレート容器群10、フィルタ付き容器11とこれを保持するキャリア12、真空容器13及び試薬の分注に使用されて不要となった分注チップ8を廃棄するための廃棄容器14が配置されている。
【0037】
上記各分注チップ容器9には、縦12本×横8本の計96本の分注チップ8がフィルタ付き容器11のウェル間隔と同じ9mmピッチで配置されている。又、4つのプレート容器群10には、試薬が入った試薬容器10a,10bと、標準溶液が入った標準溶液容器10c及び前処理としての固相抽出を行うために予めサンプルを調製するために使用されるサンプル容器10dが含まれている。尚、試薬容器10a,10b内は複数の槽に区画されており、これらの槽には複数の試薬が収容されている。又、標準溶液容器10c及びサンプル容器10d内は縦12個×横8個の計96個のウェルに区画されており、標準溶液容器10c内には複数の標準溶液が収容されており、サンプル容器10dには、固相抽出したい検体(サンプル)が予め収容されている。
【0038】
更に、前記フィルタ付き容器11は、真空容器13の上部に配置された前記キャリア12に着脱可能に装着されており、その上部左右には上向きに突出する凸部12a,12bが形成されている。尚、フィルタ付き容器11には、縦8個×横12個の計96個のウェルが格子状に形成されている。
【0039】
又、分注ヘッド6の左右には、キャリア12の前記凸部12a,12bに当接できるような幅で下向きにフック6a,6bが取り付けられており、ロボット5を移動させてフック6a,6bを凸部12a,12bに係合させることによって、キャリア12を真空容器13の手前側13aと奥側13bに移動させることができる。このように、キャリア12を真空容器13に対して前後方向に移動させるが、固相抽出においては、フィルタ付き容器11から真空吸引される液が必要な場合と不要な場合とがある。そのため、本実施の形態では、真空容器13の手前側13aを不要な液を受ける側(Load側と称す)とし、奥側13bを必要な液を受ける側(Collect側と称す)としている。尚、Collect側13bには回収容器13cが設置されている。
【0040】
更に、ロボット5を移動させてフック6a,6bでキャリア12の凸部12a,12bを押し付けることによって、キャリア12に装着されたフィルタ付き容器11の下面と真空容器13のLoad側13a又はCollect側13bとで形成される空間を密閉し、前記真空コントローラ15を駆動制御して前記空間内を選択的に真空状態とすることによって、フィルタ付き容器11内の液体を真空容器13のLoad側13a又はCollect側13bに真空吸引する。
【0041】
ところで、本実施の形態に係る自動固相抽出装置1においては、運転中に装置本体2の内部に手等を入れることができないように装置本体2が安全カバー16で覆われており、万一、運転中に安全カバー16を開けた場合には、ロボット5に供給する電源を遮断して該ロボット5の移動を停止するよう構成されている。
【0042】
ここで、従来の自動固相抽出装置の運転例を図3に基づいて説明する。尚、従来の自動固相装置の基本構成は本発明に係る自動固相抽出装置1のそれと同じであるため、以下の説明では図1及び図2に示したものと同一要素には同一符号を用いて説明する。
[従来例]
図3は従来の具体的な運転工程例を示す図であり、本従来例は、運転の一時停止を行わない例であって、処理はStep1〜Step12の工程を順次経て実施される。
【0043】
先ず、自動固相抽出装置1を使用する実験者は、運転を開始する前に制御装置3を用いて予め運転工程を決定し、決定した運転工程から必要とする分注チップ8や試薬類を制御装置3の画面に表示される配置画面に従って配置しておく。
【0044】
図3に示すStep1では、標準溶液容器10cに予め入れられたMeOH(メタノール)溶媒を50μl吸引し、これをサンプル容器10dに吐出する処理がなされるが、その処理は下記の要領に従ってなされる。
【0045】
即ち、先ず、ロボット5を移動させ、分注チップ容器9に収容された分注チップ8の上側開口部に、分注ヘッド6の下部先端のノズル部を圧入することによって、分注ヘッド6に分注チップ8を装着する。その後、分注ヘッド6を上方へ移動させて分注チップ8の装着を完了する。
【0046】
次に、MeOH溶媒が収容された標準溶液容器10cの所定の列に分注ヘッド6を移動させ、これに装着された分注チップ8の先端がMeOH溶媒に漬かる位置まで該分注ヘッド6を下降させる。そして、不図示のシリンジを吸引方向にコントロールして分注ヘッド6に装着された分注チップ8の内部にMeOH溶媒を50μl吸引した後、分注ヘッド6を上方へ移動させてMeOH溶媒の吸引動作を完了する。
【0047】
次に、サンプル容器10dの指定されたエリアに分注ヘッド6を移動させ、シリンジを吐出方向にコントロールして分注チップ8内のMeOH溶媒をサンプル容器10dに吐出する。
【0048】
上記MeOH溶媒の吸引及び吐出作業を指定された回数だけ繰り返した後、分注ヘッド6を廃棄容器14の上方へと移動させ、不図示の分注チップ取り外し機構を駆動して不要となった分注チップ8を分注ヘッド6から取り外して廃棄容器14内に廃棄すことによってStep1の工程を終了する。
【0049】
Step2〜Step6の工程は、試薬が異なることによる吸引位置の違いや、分注量に違いがあるものの、分注チップ8の装着から試薬の吸引と吐出を経て分注チップ8の廃棄に至るまでの流れは前述Step1の流れと同様である。
【0050】
次に、Step7においては、先ず、キャリア12が真空容器13のLoad側13aに移動せしめられる。ここで、キャリア12がLoad側13aにない場合、分注ヘッド6のフック6a,6bをキャリア12の凸部12a,12bに係合させてキャリア12をLoad側13aに移動させる。この場合、分注ヘッド6に分注チップ8を装着した状態では、フック6a,6bが凸部12a,12bに接触する前に分注チップ8がフィルタ付き容器11に衝突してしまうため、分注チップ8を装着する前にキャリア12の移動を行うようにしている。
【0051】
Step1の場合と同様に、ロボット5を移動させ、分注チップ容器9に収容された分注チップ8の上端開口部に、分注ヘッド6の下側先端のノズル部を圧入することによって、分注ヘッド6に分注チップ8を装着する。その後、分注ヘッド6を上方へ移動させて分注チップ8の装着を完了する。
【0052】
次に、分注する試薬MeOHが収容された試薬容器10a又は10bの列に分注ヘッド6を移動させ、分注チップ8の先端がMeOHに漬かる位置まで分注ヘッド6を下降させる。そして、不図示のシリンジを吸引方向にコントロールして分注ヘッド6に装着された分注チップ8の内部にMeOHを500μl吸引した後、分注ヘッド6を上方に移動させてMeOHの吸引動作を完了する。
【0053】
次に、Load側13aに移動しているキャリア12に装着されたフィルタ付き容器11の指定されたエリアに分注ヘッド6を移動させ、シリンジを吐出方向にコントロールして分注チップ8内のMeOHをフィルタ付き容器11に吐出する。
【0054】
上記MeOHの吸引及び吐出動作を指定された回数だけ繰り返した後、分注ヘッド6を廃棄容器14の上方へと移動させ、不図示の分注チップ取り外し機構を駆動して不要となった分注チップ8を分注チップ6から取り外して廃棄容器14内に廃棄する。
【0055】
次に、ロボット5を移動させてフック6a,6bで凸部12a,12bを下方へ押し付けることによって、Load側13aにあるキャリア12内に装着されたフィルタ付き容器11の下面と真空容器13のLoad側13aとで形成される空間を密閉する。そして、この状態から、真空コントローラ15内の真空ポンプを駆動し、密閉された前記空間内を真空状態(減圧状態)にしてフィルタ付き容器11内の液体を真空容器13のLoad側13aに真空吸引する。この状態を1分間保持した後、真空コントローラ15は真空ポンプの運転を停止し、分注ヘッド6を上方に移動させてStep7の工程を終了する。
【0056】
Step8〜Step12の工程は、吸引する位置(試薬容器10a又は10b、サンプル容器10d)や分注量及びフィルタ付き容器11の位置(即ち、キャリア12の位置)が異なるものの、キャリア12の移動、分注チップ8の装着、試薬の吸引と吐出、分注チップ8の廃棄、キャリア12の凸部12a,12bの押し付け、真空コントローラ15の制御に至るまでの流れは前記Step7の流れと同様である。
【0057】
そして最終的に、Step12でフィルタ付き容器11が載っているキャリア12をCollect側13b側に移動させ、真空容器13のCollect側13bで真空吸引し、真空吸引された液が固相抽出した結果として回収容器13cに回収され、この液を検出器(例えば、示差屈折検出器、紫外吸収検出器、紫外分光光度計、蛍光光度計)に掛けて成分を分析する。
【0058】
以上が自動固相抽出装置1の運転の流れである。
【0059】
次に、本発明に係る自動固相抽出装置1を用いた固相抽出操作の実施例について説明する。
【実施例1】
【0060】
前記従来においては、Step7でMeOH(メタノール)及びStep8でH2 O(水)をフィルタ付き容器11に分注しているが、この作業はフィルタ付き容器11を活性化するために必要な作業であって、この時点ではフィルタ付き容器11にサンプル(検体)は混入していないため、分注した溶液の密度には差がなく、フィルタ付き容器11から真空吸引することは容易であって、フィルタ付き容器11の各ウェル毎の吸引が終了するまでの時間のばらつきは殆どない。
【0061】
次に、Step9でサンプル容器10dからフィルタ付き容器11にサンプルを含む液体が分注されるが、このときの真空吸引は、サンプルの種類や濃度によっては真空吸引しにくい場合があり、特に注意する必要がある。
【0062】
そこで、本実施例では、図4に示す運転工程のように、制御装置3から予め運転を停止させたい工程に一時停止のStepを設定できるようにした。本実施例では、図4に示すように、Step9の「サンプル容器10d→Load側13aのフィルタ付き容器11に分注→真空吸引」の処理が終了後にStep9’として「一時停止」を設定している。
【0063】
このようにStep9’に「一時停止」を設定すると、自動固相抽出装置1はStep1〜Step9の「サンプル容器10dに→Load側13aのフィルタ付き容器11に分注→真空吸引」までの運転を行い、ロボット5が停止した状態を保持する。
【0064】
ところで、自動固相抽出装置1を一時停止状態のまま放置しておくことは、当然ながら時間の無駄である。又、自動固相抽出装置1が一時停止状態になるのを実験者が常に気にしていては自動化の意味が薄れてしまう。
【0065】
そこで、制御装置3には一時停止状態であることを示す画面を表示し、ブザー機能によって実験者に一時停止状態であることを知らせることとしている。尚、装置本体2に表示灯やブザーを設け、これらによって実験者に一時停止状態であることを知らせる方法を採用しても良い。
【0066】
図5に自動固相抽出装置1の一時停止状態から運転再開までの処理フローを示す。
【0067】
先ず、自動固相抽出装置1が一時停止状態にあるとき(ステップ51)、ロボット5は完全に停止しているために安全カバー16を開けてもエラーにはならず、又、ロボット5に供給する電源を遮断しているために安全に作業することができる。
【0068】
従って、実験者は、安全カバー16を開け(ステップ52)、フィルタ付き容器11から液体が真空吸引されているか否かを目視で確認することができる(ステップ53)。液体の真空吸引が良好になされている場合(ステップ53での判断結果がOKの場合)には、安全カバー16を閉め(ステップ54)、制御装置3からの指令によって運転を再開する(ステップ55)。本実施例では、運転再開後、Step10〜Step12の運転を行って処理を終了する。
【0069】
他方、目視で確認した結果、液体の真空吸引が不十分であると判断した場合(ステップ53での判断結果がNGの場合)には、真空コントローラ15を単独で運転して真空吸引を行い(ステップ56)、フィルタ付き容器11から液体が真空吸引されているか否かを再び目視で確認し(ステップ53)、液体の真空吸引が十分なされていることが確認されるまで真空吸引を継続する。尚、真空コントローラ15の運転は、安全カバー16を開けた状態のままでも可能であるよう設定されている。
【0070】
図6に真空コントローラ15の単独運転画面60のモデルを示す。
【0071】
実験者は、一時停止状態においてフィルタ付き容器11からの真空吸引が不十分であると判断した場合、制御装置3上で単独運転画面60を立ち上げ、Load61又はCollect62の何れかを選択する。図4に示すStep9’における一時停止状態の場合には、キャリア12の位置はLoad側13aであるため、Load61にチェックマークを付ける。安全カバー16が開いた状態ではロボット5は運転できないため、実験者がキャリア12の凸部12a,12bを手で下方に押し付けてLoad側13aにあるキャリア12に装着されたフィルタ付き容器11の下面と真空容器13のLoad側13aで形成される空間を密閉する。この状態で単独運転画面60のStartボタン63を押すことによって真空コントローラ15が真空ポンプを駆動し、フィルタ付き容器11から真空容器13のLoad側13aに液を真空吸引する。
【0072】
又、真空コントローラ15を運転している間はその運転時間を運転時間表示欄65に表示する。Stopボタン64を押すと、真空コントローラ15が真空ポンプの動作を停止させる。この状態でフィルタ付き容器11内の液が真空吸引されているか否かを確認し、真空吸引状態が不十分であれば前記と同様の操作を繰り返し、真空吸引状態が十分であると判断すれば安全カバー16を閉め(図5のステップ54)、制御装置3からの指令によって運転を再開する(ステップ55)。
【0073】
図6に示す単独運転画面60において、真空コントローラ15を制御した時間は運転時間表示欄65に表示されているため、この時間と図4に示すStep9で真空吸引した時間の和が、Step9での真空吸引に本来必要とされる時間になる。つまり、Step9の真空吸引時間1分に、単独運転画面60から真空吸引させた時間(図6においては、1分36秒)を足した2分36秒が真空吸引に必要な時間ということになる。
【0074】
従って、以後は全く同じサンプルを用いて同じ運転工程に従って運転を行う場合には、Step9の真空吸引時間を1分ではなく、2分36秒(例えば余裕を見て3分)と設定しておけば、一時停止状態からの目視チェック(図5のステップ53)において真空吸引状態が不十分であると判断される可能性は低くなる。
【0075】
尚、本実施例では、図4に示すStep9の「サンプル容器10d→Load側13aのフィルタ付き容器11に分注→真空吸引」の処理の後にStep9’として一時停止を予め設定しているが、当然ながら一時停止を設定するポイントは任意であり、実験者が目視で確認しておきたい工程の後に一時停止を設定すれば良い。
【実施例2】
【0076】
予め任意の工程に一時停止を設定することによって以下に示すような使用方法も考えられる。
【0077】
図3に示す運転工程例のように、Step1〜Step5での分注量が50μlであるのに対し、Step6〜Step12での分注量は500μl以上となっている。本実施の形態に係る自動固相抽出装置1は、1つの分注ヘッド6と1種類の分注チップ8だけで50μl〜1000μlの分注が可能であるために問題はない。
【0078】
しかしながら、実験の内容によっては、数μlの液体も一連の作業として行わなければならない場合がある。例えば図7に示す運転工程例のような場合について説明する。
【0079】
図7に示す運転工程例が図3に示す運転工程例と異なる点は、Step5の内部標準液の分注量が5μlになっている点である。前述のように、本発明の実施の形態に係る自動固相抽出装置1での分注範囲は50μl〜1000μlであるため、本装置1では運転ができないことになってしまう。この場合、小容量と大容量の分注ヘッド6と分注チップ8をそれぞれ装置内部に組み込み、2つのロボット5に装着して制御を行うか、1つのロボット5に小容量と大容量の2種類の分注ヘッド6を着脱可能とする構造を採用する方法が考えられる。このような方法は何れも装置の大型化及び高コスト化を招くことは前述の通りである。
【0080】
そこで、上述のような場合には、図8に示す運転工程例のように、Step5を一時停止として設定しておけば良い。この場合、実験者は、Step5において自動固相抽出装置1が一時停止状態になると、安全カバー16を開け、用手法で内部標準液を5μlだけサンプル容器10dに分注し、安全カバー16を閉じて制御装置3から運転を再開することができる。
【0081】
尚、本実施例では、分注量が分注ヘッド6の設定範囲(50μl〜1000μl)の下限(50μl)を下回る小容量(5μl)を用手法(手作業)で分注する例について説明したが、逆に分注量が例えば5000μlと分注ヘッド6の設定範囲の上限(1000μl)を大きく超える場合にも、装置の運転を一時停止し、用手法(手作業)による1回の操作で大容量の分注を行うことができ、分注ヘッド6による分注作業を複数回繰り返す必要がなくなり、作業時間を短縮することができる。
【0082】
本実施例の一時停止機能は、図4に示す運転工程例や図8に示す運転工程例での一時停止状態において、実験者が制御装置3から何らかの操作を行えるようにすることを特徴としている。
【0083】
しかしながら、一時停止状態において何らかの作業が全く行われないで時間が経過してしまうと、試薬の蒸発や活性度合いの低下等の別の要因に伴う不具合を誘発してしまう。又、運転工程の中で時間が重要な要素となる薬物代謝試験のような用途に使用する場合、一時停止状態で必要以上に放置するとその試験工程自体が無駄になってしまうことが考えられる。
【0084】
そこで、一時停止状態のままで或る一定時間が経過したにも拘らず、何らかの操作が全く行われなかった場合は、一時停止以降の運転工程を自動的に継続して行うことも可能である。この場合、制御装置3から一時停止状態を設定する際、前記一定時間を設けるか否かを設定する手段を設け、一定時間を設ける場合には、その時間を設定可能とすることによって前記不具合の発生を防ぐことができる。即ち、装置を一時停止させておく最大時間(一定時間)を、扱う液体の種類等に応じて、制御装置3によって任意に設定することができる。尚、一定時間を設けない場合には、実験者が運転を継続させるまで一時停止状態を保持することになる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、創薬スクリーニング、バイオテクノロジー、医学分野等における化学成分分析に対して有用である。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明に係る自動固相抽出装置の斜視図である。
【図2】本発明に係る自動固相抽出装置内の構成の詳細を示す斜視図である。
【図3】従来の自動固相抽出装置における固相抽出運転例を示す図である。
【図4】本発明に係る自動固相抽出装置の実施例1における固相抽出運転例を示す図である。
【図5】本発明に係る自動固相抽出装置の実施例1における一時停止状態から運転再開までの手順を示すフローチャートである。
【図6】真空コントローラの単独運転画面の表示例を示す図である。
【図7】本発明に係る自動固相抽出装置の実施例2における固相抽出運転例(微量分注が必要な場合)を示す図である。
【図8】本発明に係る自動固相抽出装置の実施例2における固相抽出運転例(微量分注を一時停止とする)を示す図である。
【符号の説明】
【0087】
1 自動固相抽出装置
2 自動固相抽出装置本体
3 制御装置(制御手段)
4 通信ケーブル
5 ロボット(移送手段)
6 分注ヘッド
8 分注チップ
9 分注チップ容器
10 プレート容器群
11 フィルタ付き容器
12 キャリア
13 真空容器
13a Load側真空容器
13b Collect側真空容器
13c 回収容器
14 廃棄容器
15 真空コントローラ
16 安全カバー
60 単独運転画面
61 Load選択
62 Collect選択
63 Startボタン
64 Stopボタン
65 運転時間表示欄

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体の吸引及び吐出動作が可能な分注ヘッドと、該分注ヘッドを移動させるための移送手段と、前記分注ヘッドの吸引及び吐出動作と前記移送手段による分注ヘッドの移動を制御するための制御手段を備え、該制御手段から入力された運転工程に従って動作する自動固相抽出装置において、
予め任意の運転工程で装置の動作を一時停止させる一時停止設定機能を前記制御手段に設けたことを特徴とする自動固相抽出装置。
【請求項2】
予め設定された運転工程において装置が一時停止状態にあることを知らせる機能を設けたことを特徴とする請求項1記載の自動固相抽出装置。
【請求項3】
前記分注ヘッドに装着された分注チップに液体を吸引及び吐出させるための容器と、液体が吐出されるフィルタ付き容器と、内部を真空状態にして前記フィルタ付き容器から液体を真空吸引する真空吸引手段を備え、予め設定された運転工程において装置が一時停止状態にあるとき、前記真空吸引手段を単独で運転させて前記フィルタ付き容器からの液体の真空吸引状態を目視にて確認することを特徴とする請求項1又は2記載の自動固相抽出装置。
【請求項4】
装置が一時停止状態にあるときに前記真空吸引手段が単独で運転された時間に基づいて、真空吸引手段が前記フィルタ付き容器から液体を真空吸引する時間を変更可能としたことを特徴とする請求項3記載の自動固相抽出装置。
【請求項5】
前記分注ヘッドに装着された分注チップに液体を吸引及び吐出させるための容器を備え、予め設定された運転工程において装置が一時停止状態にあるとき、用手法で液体を前記容器に分注することを特徴とする請求項1又は2記載の自動固相抽出装置。
【請求項6】
装置が一時停止状態にあるときに前記制御手段から何らかの操作が行われなかった場合、一定時間経過後に一時停止状態以降の運転を継続することを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の自動固相抽出装置。
【請求項7】
前記一定時間を前記制御手段から設定可能であることを特徴とする請求項6記載の自動固相抽出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−7083(P2006−7083A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−187380(P2004−187380)
【出願日】平成16年6月25日(2004.6.25)
【出願人】(000005094)日立工機株式会社 (1,861)
【Fターム(参考)】