説明

自動変速機の制御装置

【課題】車両が登坂路をパワーオン走行しながら減速中にダウンシフトする際、エンジン回転数とタービン回転数との差回転に起因して発生する変速ショックを抑制する。
【解決手段】ECU100は、パワーオン状態でダウンシフトの要求があると判定し(ステップST1:YES)、さらに、車両の加速度が基準加速度未満であると判定すると(ステップST2:YES)、車両の加速度および、エンジン回転数とタービン回転数との差回転数に応じて、解放側摩擦係合要素の解放動作の開始タイミングを遅延側に補正するとともに、解放側摩擦係合要素のスイープダウン指示油圧の低下率が小さくなるように補正する(ステップST3,ST4)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される自動変速機の制御装置に関する。特に、登坂路走行中に減速しつつパワーオンダウンシフトする際に発生する変速ショックの抑制を図った自動変速機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1〜4には、変速ショックを抑制するために、パワーオンダウンシフトに際して、摩擦係合要素に供給する油圧を補正する技術等が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−108168号公報
【特許文献2】特開2008−51299号公報
【特許文献3】特開2007−263206号公報
【特許文献4】特開2005−337410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両が登坂路をパワーオン走行しながら減速しているとき、車両が平坦路をパワーオン走行しているときと比較して、エンジン回転数がタービン回転数より高くなり差回転が生じ易い。そして、このエンジン回転数とタービン回転数との差回転数が大きい状態で、ダウンシフトすると、解放側となる摩擦係合要素の係合が解放される際に、差回転数に応じてタービン回転数が急上昇し易くなる。このため、変速時間が短くなり、変速ショックが発生することがある。
【0005】
特許文献1〜4に開示されている自動変速機の制御装置は、上記差回転に起因して発生する変速ショックを考慮して摩擦係合要素に供給する油圧の補正等を行うものではないため、特許文献1〜4に開示されている自動変速機の制御装置では、上記差回転に起因して発生する変速ショックを抑制することは困難である。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑みて創案されたものであり、車両が登坂路を走行中に減速しつつパワーオンダウンシフトする際に発生する変速ショックを抑制する自動変速機の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するための手段として、本発明の自動変速機の制御装置は、以下のように構成されている。
【0008】
すなわち、本発明の自動変速機の制御装置は、車両に搭載される自動変速機の摩擦係合要素に供給する油圧を制御するものを前提としており、パワーオンダウンシフトの要求があるか否かを判定するパワーオンダウンシフト判定手段と、前記車両の前後加速度を検出する加速度検出手段と、エンジン回転数とタービン回転数との差回転数を検出する差回転数検出手段と、前記パワーオンダウンシフト判定手段がパワーオンダウンシフトの要求があると判定したとき、前記加速度検出手段が検出する車両の前後加速度が基準加速度未満であれば、その車両の前後加速度および前記差回転数検出手段が検出する差回転数に応じて、解放側摩擦係合要素の解放動作の開始タイミングを遅延側に補正する遅延制御手段と、を備える。
【0009】
かかる構成を備える自動変速機の制御装置によれば、車両が登坂路走行中に減速しつつパワーオンダウンシフトする際、車両の前後加速度が基準加速度未満であれば、解放側摩擦係合要素の解放動作の開始タイミングが遅延される。これにより、タービン回転数が上昇し易い状態(摩擦係合要素の掛け替えが行われる際に、解放側および係合側の何れの摩擦係合要素のトルク容量も低くなる状態)となる時間が短くなるので、エンジン回転数とタービン回転数との差回転に起因するタービン回転数の急上昇が抑制される。その結果、変速ショックが抑制される。
【0010】
また、本発明の自動変速機の制御装置は、車両に搭載される自動変速機の摩擦係合要素に供給する油圧を制御するものを前提としており、パワーオンダウンシフトの要求があるか否かを判定するパワーオンダウンシフト判定手段と、前記車両の前後加速度を検出する加速度検出手段と、エンジン回転数とタービン回転数との差回転数を検出する差回転数検出手段と、前記パワーオンダウンシフト判定手段がパワーオンダウンシフトの要求があると判定したとき、前記加速度検出手段が検出する車両の前後加速度が基準加速度未満であれば、その車両の前後加速度および前記差回転数検出手段が検出する差回転数に応じて、解放側摩擦係合要素のスイープダウン指示油圧の低下率が小さくなるように補正するスイープ制御手段と、を備える。
【0011】
かかる構成を備える自動変速機の制御装置によれば、車両が登坂路走行中に減速しつつパワーオンダウンシフトする際、車両の加速度が基準加速度未満であれば、解放側摩擦係合要素のスイープダウン指示油圧の低下率が小さくなるように補正され、解放側摩擦係合要素の解放動作が遅くなるので、エンジン回転数とタービン回転数との差回転に起因するタービン回転数の急上昇が抑制される。これにより、変速ショックが抑制される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の自動変速機の制御装置によれば、車両が登坂路走行中に減速しつつパワーオンダウンシフトする際に、エンジン回転数とタービン回転数との差回転に起因して発生する変速ショックが抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の自動変速機の制御装置が搭載された車両の一例を示す概略構成図である。
【図2】図1に示す自動変速機の作動表である。
【図3】ECU等の制御系の構成を示すブロック図である。
【図4】シフト装置のシフトレバー部分の構成を示す斜視図である。
【図5】変速制御に用いる変速マップを示す図である。
【図6】パワーオンダウンシフト時の油圧制御の手順を示すフローチャートである。
【図7】パワーオフダウンシフト時の油圧制御による具体例を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施形態に係る自動変速機の制御装置が搭載された車両の一例を示す概略構成図である。この車両には、エンジン1、トルクコンバータ2、自動変速機3、油圧制御回路300(図3参照)、ECU100などが搭載されている。
【0016】
−エンジン−
エンジン1の出力軸であるクランクシャフト11はトルクコンバータ2の入力軸に接続されている。クランクシャフト11の回転数(エンジン回転数)はエンジン回転数センサ201によって検出される。
【0017】
エンジン1に吸入される空気量は、電子制御式のスロットルバルブ12により調整される。スロットルバルブ12の開度(スロットル開度)はスロットル開度センサ202によって検出される。
【0018】
スロットルバルブ12のスロットル開度はECU100によって駆動制御される。具体的には、エンジン回転数センサ201によって検出されるエンジン回転数および運転者のアクセルペダル踏み込み量(アクセル開度)等のエンジン1の運転状態に応じた最適な吸入空気量(目標吸気量)が得られるようにスロットルバルブ12のスロットル開度を制御している。
【0019】
−トルクコンバータ−
トルクコンバータ2は、入力軸側のポンプインペラ21と、出力軸側のタービンランナ22と、トルク増幅機能を発現するステータ23と、ワンウェイクラッチ24とを備え、ポンプインペラ21とタービンランナ22との間で流体を介して動力伝達を行う。
【0020】
トルクコンバータ2には、入力側と出力側とを直結状態にするロックアップクラッチ25が設けられており、このロックアップクラッチ25を係合させることにより、ポンプインペラ21とタービンランナ22とが一体回転する。トルクコンバータ2のタービン回転数Ntは、タービン回転数センサ203によって検出される。トルクコンバータ2のロックアップクラッチ25の係合・解放は、油圧制御回路300およびECU100によって制御される。
【0021】
−自動変速機−
自動変速機3は、例えば図1に示すように、ダブルピニオン型の第1遊星歯車装置31、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置32およびシングルピニオン型の第3遊星歯車装置33を備えた遊星歯車式の変速機である。
【0022】
第1遊星歯車装置31のサンギヤS1はクラッチC3を介して入力軸30に選択的に連結される。また、サンギヤS1は、ワンウェイクラッチF2及びブレーキB3を介してハウジングに選択的に連結され、逆方向(入力軸30の回転と反対方向)の回転が阻止される。第1遊星歯車装置31のキャリアCA1は、ブレーキB1を介してハウジングに選択的に連結されるとともに、そのブレーキB1と並列に設けられたワンウェイクラッチF1により、常に逆方向の回転が阻止される。第1遊星歯車装置31のリングギヤR1は、第2遊星歯車装置32のリングギヤR2と一体的に連結されており、ブレーキB2を介してハウジングに選択的に連結される。
【0023】
第2遊星歯車装置32のサンギヤS2は、第3遊星歯車装置33のサンギヤS3と一体的に連結されており、クラッチC4を介して入力軸30に選択的に連結される。また、サンギヤS2は、ワンウェイクラッチF0及びクラッチC1を介して入力軸30に選択的に連結され、その入力軸30に対して相対的に逆方向へ回転することが阻止される。
【0024】
第2遊星歯車装置32のキャリアCA2は、第3遊星歯車装置33のリングギヤR3と一体的に連結されており、クラッチC2を介して入力軸30に選択的に連結されるとともに、ブレーキB4を介してハウジングに選択的に連結される。また、キャリアCA2は、ブレーキB4と並列に設けられたワンウェイクラッチF3によって、常に逆方向の回転が阻止される。そして、第3遊星歯車装置33のキャリアCA3は出力軸34に一体的に連結されている。出力軸34の回転数は、出力軸回転数センサ204によって検出される。
【0025】
以上の自動変速機3では、摩擦係合要素であるクラッチC1〜C4、ブレーキB1〜B4、ワンウェイクラッチF0〜F3などが、所定の状態に係合または解放されることによってギヤ段(変速段)が設定される。クラッチC1〜C4、ブレーキB1〜B4の係合・開放は油圧制御回路300(図3参照)によって制御される。
【0026】
油圧制御回路300には、リニアソレノイドバルブ、オンオフソレノイドバルブなどが設けられており、それらソレノイドバルブの励磁・非励磁を制御して油圧回路を切り替えることによって自動変速機3のクラッチC1〜C4、ブレーキB1〜B4の係合・開放を制御することができる。油圧制御回路300のリニアソレノイドバルブ及びオンオフソレノイドバルブの励磁・非励磁は、ECU100からのソレノイド制御信号(指示油圧信号)によって制御される。
【0027】
以上の自動変速機3のクラッチC1〜C4、ブレーキB1〜B4およびワンウェイクラッチF0〜F3の係合・解放状態を図2の作動表に示す。図2の作動表において「○」は「係合」を表し、「空欄」は「解放」を表している。また、「◎」は「エンジンブレーキ時の係合」を表し、「△」は「動力伝達に関係しない係合」を表している。
【0028】
この図2に示すように、例えば、車両の発進時に使用される1速(1st)時には、クラッチC1、ワンウェイクラッチF0、F3が係合する。また、例えば6速(6th)から5速(5th)へのダウンシフト時には、ブレーキB2を開放すると同時に、クラッチC2を係合する。
【0029】
一方、車両の運転席の近傍には図4に示すシフト装置4が配置されている。シフト装置4にはシフトレバー41が変位可能に設けられている。また、シフト装置4には、リバース(R)位置、ニュートラル(N)位置、ドライブ(D)位置およびシーケンシャル(S)位置が設定されており、ドライバが所望の変速位置へシフトレバー41を変位させることが可能となっている。これらリバース(R)位置、ニュートラル(N)位置、ドライブ(D)位置、シーケンシャル(S)位置(下記の「+」位置及び「−」位置も含む)の各変速位置は、シフトポジションセンサ206(図3参照)によって検出される。
【0030】
以下、それら変速位置が選択される状況と、そのときの自動変速機3の動作態様について各変速位置(「N位置」、「R位置」、「D位置」「S位置」)ごとに説明する。
【0031】
「N位置」は、自動変速機3の入力軸30と出力軸34との連結を切断する際に選択される位置であり、シフトレバー41が「N位置」に操作されると、自動変速機3のクラッチC1〜C4、ブレーキB1〜B4及びワンウェイクラッチF0〜F3の全てが解放される(図2参照)。
【0032】
「R位置」は、車両を後退させる際に選択される位置であり、シフトレバー41がこのR位置に操作されると、自動変速機3は後進ギヤ段に切り換えられる。
【0033】
「D位置」は、車両を前進させる際に選択される位置であり、シフトレバー41がこのD位置に操作されると、車両の運転状態などに応じて、自動変速機3の複数の前進ギヤ段(前進6速)が自動的に変速制御される。
【0034】
「S位置」は、複数の前進ギヤ段(前進6速)の変速動作をドライバが手動によって行う際に選択される位置(マニュアル変速位置)であって、このS位置の前後に「−」位置及び「+」位置が設けられている。「+」位置は、マニュアルアップシフトのときにシフトレバー41が操作される位置であり、「−」位置は、マニュアルダウンシフトのときにシフトレバー41が操作される位置である。そして、シフトレバー41がS位置にあるときに、シフトレバー41がS位置を中立位置として「+」位置または「−」位置に操作されると、自動変速機3の前進ギヤ段がアップまたはダウンされる。具体的には、「+」位置への1回操作ごとにギヤ段が1段ずつアップ(例えば1st→2nd→・・→6th)される。一方、「−」位置への1回操作ごとにギヤ段が1段ずつダウン(例えば6th→5th→・・→1st)される。
【0035】
−ECU−
ECU100は、図3に示すように、CPU101、ROM102、RAM103、バックアップRAM104などを備えている。
【0036】
ROM102には、車両の基本的な運転に関する制御の他、車両の走行状態に応じて自動変速機3のギヤ段を設定する変速制御を実行するためのプログラムを含む各種プログラムなどが記憶されている。この変速制御の具体的な内容については後述する。
【0037】
CPU101は、ROM102に記憶された各種制御プログラムやマップに基づいて演算処理を実行する。また、RAM103はCPU101での演算結果や各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリであり、バックアップRAM104はエンジン1の停止時にその保存すべきデータ等を記憶する不揮発性のメモリである。
【0038】
これらCPU101、ROM102、RAM103およびバックアップRAM104はバス106を介して互いに接続されるとともに、インターフェース105と接続されている。
【0039】
ECU100のインターフェース105には、エンジン回転数センサ201、スロットル開度センサ202、タービン回転数センサ203、出力軸回転数センサ204、アクセルペダルの開度を検出するアクセル開度センサ205、シフトポジションセンサ206、ブレーキペダルセンサ207、車両の前後加速度を検出する車載加速度センサ208などが接続されており、これらの各センサからの信号がECU100に入力される。
【0040】
ECU100は、上記した各種センサの出力信号に基づいて、エンジン1のスロットルバルブ12の開度制御を含むエンジン1の各種制御を実行する。
【0041】
ECU100は、トルクコンバータ2にロックアップクラッチ制御信号を出力する。このロックアップクラッチ制御信号に基づいてロックアップクラッチ25の係合圧が制御される。また、ECU100は、自動変速機3の油圧制御回路300にソレノイド制御信号(油圧指令信号)を出力する。このソレノイド制御信号に基づいて、油圧制御回路300のリニアソレノイドバルブやオンオフソレノイドバルブなどが制御され、所定の変速ギヤ段(1速〜6速)を構成するように、クラッチC1〜C4、ブレーキB1〜B4、ワンウェイクラッチF0〜F3などが、所定の状態に係合または解放される。
【0042】
さらに、ECU100は下記の「変速制御」及び「パワーオンダウンシフト時制御」を実行する。
【0043】
−変速制御−
まず、変速マップ(変速線図)について図5を参照して説明する。図5に示す変速マップは、車速およびスロットル開度をパラメータとし、それら車速およびアクセル開度に応じて、適正なギヤ段を求めるための複数の領域が設定されたマップであって、ECU100のROM102内に記憶されている。変速マップの各領域は複数の変速線(ギヤ段の切り換えライン)によって区画されている。
【0044】
なお、図5に示す変速マップにおいて、シフトアップ線(変速線)を実線で示し、シフトダウン線(変速線)を破線で示している。また、シフトアップ及びシフトダウンの各切り換え方向を図中に数字と矢印とを用いて示している。
【0045】
次に、変速制御の基本動作について説明する。
【0046】
ECU100は、出力軸回転数センサ204の出力信号から車速を算出するとともに、スロットル開度センサ202の出力信号からスロットル開度を算出し、それら車速及びスロットル開度に基づいて、図5の変速マップを参照して目標ギヤ段を算出し、その目標ギヤ段と現状ギヤ段とを比較して変速操作が必要であるか否かを判定する。
【0047】
その判定結果、変速の必要がない場合(目標ギヤ段と現状ギヤ段とが同じで、ギヤ段が適切に設定されている場合)には、現状ギヤ段を維持するソレノイド制御信号(油圧指令信号)を自動変速機3の油圧制御回路300に出力する。
【0048】
一方、目標ギヤ段と現状ギヤ段とが異なる場合には変速制御を行う。例えば、自動変速機3のギヤ段が「5速」の状態で走行している状況から、車両の走行状態が変化して、例えば図5に示す点Aから点Bに変化した場合、シフトダウン変速線[5→4]を跨ぐ変化となるので、変速マップから算出される目標ギヤ段が「4速」となり、その4速のギヤ段を設定するソレノイド制御信号(油圧指令信号)を自動変速機3の油圧制御回路300に出力して、5速のギヤ段から4速のギヤ段への変速(5→4ダウン変速)を行う。
【0049】
−パワーオンダウンシフト時制御−
以下、ECU100により実行されるパワーオンダウンシフト時制御について、図6のフローチャートに基づいて説明する。
【0050】
まず、ステップST1において、パワーオンダウンシフトの要求、つまり、パワーオン状態でダウンシフトの要求(例えば「2速」から「1速」への変速要求)があるか否かを判定する。ここで、肯定判定をした場合は、処理をステップST2に進め、否定判定をした場合はこのルーチンを一旦終了する。
【0051】
上記パワーオン状態であるか否かの判定は、車速およびスロットル開度をパラメータとした周知のパワーオン/オフ判定マップ(不図示)を参照して行われる。このパワーオン/オフ判定マップは、ECU100のROM102に記憶されている。また、ダウンシフトの要求は、シフトダウン変速線、例えば[2→1]、を跨ぐ変化が生じ、ECU100が目標ギヤ段と現状ギヤ段とを比較してダウンシフトが必要であると判定されると行われる。
【0052】
ステップST2において、車載加速度センサ208の出力信号に基づいて算出される車両の前後加速度が基準加速度未満であるか否かを判定する。ここで、肯定判定をした場合は、処理をステップST3に進め、否定判定をした場合は処理をステップST6に進める。
【0053】
上記基準加速度は、車両が勾配ゼロの平坦路を前進走行しているときの加速度を、アクセル開度およびエンジン回転数をパラメータとして予め変速段毎に設定されており、ECU100のROM102にマップ(不図示)として記憶されている。なお、このような基準加速度は、実験・計算等によって求められる。
【0054】
ステップST3において、エンジン回転数とタービン回転数との差回転数を算出する。そして、算出した差回転数と、車両の進行方向への加速度とをパラメータとして、ECU100のROM102に予め記憶された補正マップ(不図示)を参照して、自動変速機3の解放側摩擦係合要素の解放動作の開始タイミングの遅延時間の補正値を算出する。また、算出した差回転数と、車両の進行方向への加速度とをパラメータとして、上記補正マップを参照して、自動変速機3の解放側摩擦係合要素の指示油圧(トルク容量)を低下(漸減)させる解放スイープ制御におけるスイープダウン指示油圧の低下率(時間に対する低下率)の補正値を算出する。
【0055】
上記補正マップでは、上記差回転数や車両の減速度が大きいほど解放側摩擦係合要素の解放動作の開始タイミングの遅延時間が長くなるように補正値が設定されている。また、上記差回転数や車両の減速度が大きいほど解放スイープ制御におけるスイープダウン指示油圧の低下率が小さく(緩やかに)なるように補正値が設定されている。なお、車両が平坦路を走行中にパワーオンダウンシフトする場合と比較して、変速時間、タービン回転数のイナーシャ相の傾き等が同程度になるように、上記解放側摩擦係合要素の解放動作の開始タイミングの遅延時間の補正値と、上記スイープダウン指示油圧の低下率の補正値とが実験・計算等によって求められる。
【0056】
なお、既述したように、解放側摩擦係合要素への指示油圧の補正に伴って、係合側摩擦係合要素に供給する油圧の制御にも若干の遅延時間を設定することが必要となる場合がある。この遅延時間も変速ショックが小さくなるように実験・計算等によって求められる。
【0057】
ステップST4において、ステップST3で算出された補正値が適用される。そして、後記ステップST6で説明する通常の油圧制御が実行される場合と比較して、解放側摩擦係合要素の解放動作の開始タイミングが遅延し、また、解放側摩擦係合要素のスイープダウン指示油圧の低下率が小さくなるように、解放側摩擦係合要素の油圧制御が実行される。
【0058】
これにより、登坂路走行中にパワーオンダウンシフトを行うに際してエンジン回転数とタービン回転数との差回転数が大きくなっていても、その差回転に応じて、タービン回転数の急上昇(イナーシャ相の傾きが急になること)が抑制され、適切な変速時間にて変速を行うことができ、変速ショックも抑制される。すなわち、解放側摩擦係合要素の解放動作の開始タイミングが遅延することにより、タービン回転数が上昇し易い状態(摩擦係合要素の掛け替えが行われる際に、解放側および係合側の何れの摩擦係合要素のトルク容量も低くなる状態)となる時間が短くなるので、タービン回転数の急上昇が抑制される。また、解放側摩擦係合要素のスイープダウン指示油圧の低下率が小さくなることにより、解放側摩擦係合要素の解放動作が遅くなることによっても、タービン回転数の急上昇が抑制される。
【0059】
ステップST5において、変速終了の判断がなされると、このルーチンを一旦終了する。上記変速終了の判断は、例えば、出力軸回転数センサ204によって検出される出力軸回転数に低速側(ダウンシフト後)のギヤ比を乗じたものと、タービン回転数センサ203によって検出されるタービン回転数との差が予め定められた範囲内にあるか否かを判定することにより行われる。
【0060】
ステップST6においては、通常のパワーオンダウンシフト時の解放側摩擦係合要素の油圧制御が実行される。すなわち、解放側摩擦係合要素の解放動作の開始タイミングの遅延処理やスイープダウン指示油圧の低下率の補正は行われない。その後、処理はステップST5に進められる。
−パワーオンダウンシフト時制御の具体例−
以上の自動変速機の制御装置による具体的な油圧制御の一例を図7のタイムチャートに基づいて説明する。図7のタイムチャートは、車両が登坂路をパワーオン走行しながら減速しているときに、「2速」から「1速」へダウンシフトを行った場合を示している。図7では、経過時間を横軸に示している。また、車速、変速指示状態、解放側クラッチ(ブレーキ)への指示油圧、タービン回転数、および、車両の前後方向の加速度を縦軸に示している。図7に示す破線は、通常のパワーオンダウンシフト時の解放側クラッチ(ブレーキ)の油圧制御(以下「通常の油圧制御」ともいう。)が実行された場合を示している。
【0061】
なお、2速から1速へのダウンシフト時には、ブレーキB3が解放側摩擦係合要素となる。自動変速機3において、クラッチC1およびブレーキB3が係合状態になることにより「2速」が形成され、クラッチC1が係合状態になることにより「1速」が形成されるからである。
【0062】
時間T(0)において、車両が登坂路をパワーオン走行しながら減速しているときに、「2速」から「1速」へのダウンシフトの変速指示があると(ST1:YES)、車両の加速度が基準加速度未満であれば(ST2:YES)、エンジン回転数とタービン回転数との差回転数、および、車両の減速度に応じて、ブレーキB3(解放側摩擦係合要素)の解放動作の開始タイミングの遅延時間の補正値と、その後のブレーキB3の解放スイープ制御におけるスイープダウン指示油圧の低下率の補正値が算出される(ST3)。
【0063】
そして、「通常の油圧制御」が実行される場合(図7中の破線参照。)と比較して、ブレーキB3の解放動作が遅延して時間T(1)より開始され、その後、時間T(1)〜時間T(4)におけるブレーキB3のスイープダウン指示油圧の低下率も、「通常の油圧制御」が実行される場合(図7中の破線参照。)と比較して小さくなる(緩やかになる)。
【0064】
この結果、時間T(0)から時間T(3)までの変速時間は、「通常の油圧制御」が実行される場合の変速時間(時間T(0)〜時間T(2))より長くなり、タービン回転数のイナーシャ相の傾きも緩やか(適切な傾き)となり、変速ショック(車両前後方向の加速度の変動)が抑制される。
【0065】
以上説明したように、本実施形態におけるパワーオンダウンシフト時制御によれば、登坂路走行中に減速しつつパワーオンダウンシフトする際に、既述の差回転数と車両減速度とに応じて解放側摩擦係合要素の解放動作の開始タイミングが遅延され、さらに解放側摩擦係合要素のスイープダウン指示油圧の低下率が小さくなるので、差回転に起因して発生する変速ショックが抑制される。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、例えば、自動車に搭載された自動変速機であって、クラッチツウクラッチ変速を行う自動変速機の制御装置に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0067】
3 自動変速機
100 ECU
201 エンジン回転数センサ
203 タービン回転数センサ
208 加速度センサ
B3 ブレーキ(解放側摩擦係合要素)
300 油圧制御回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載される自動変速機の摩擦係合要素に供給する油圧を制御する自動変速機の制御装置であって、
パワーオンダウンシフトの要求があるか否かを判定するパワーオンダウンシフト判定手段と、
前記車両の前後加速度を検出する加速度検出手段と、
エンジン回転数とタービン回転数との差回転数を検出する差回転数検出手段と、
前記パワーオンダウンシフト判定手段がパワーオンダウンシフトの要求があると判定したとき、前記加速度検出手段が検出する車両の前後加速度が基準加速度未満であれば、その車両の前後加速度および前記差回転数検出手段が検出する差回転数に応じて、解放側摩擦係合要素の解放動作の開始タイミングを遅延側に補正する遅延制御手段と、
を備えることを特徴とする自動変速機の制御装置。
【請求項2】
車両に搭載される自動変速機の摩擦係合要素に供給する油圧を制御する自動変速機の制御装置であって、
パワーオンダウンシフトの要求があるか否かを判定するパワーオンダウンシフト判定手段と、
前記車両の前後加速度を検出する加速度検出手段と、
エンジン回転数とタービン回転数との差回転数を検出する差回転数検出手段と、
前記パワーオンダウンシフト判定手段がパワーオンダウンシフトの要求があると判定したとき、前記加速度検出手段が検出する車両の前後加速度が基準加速度未満であれば、その車両の前後加速度および前記差回転数検出手段が検出する差回転数に応じて、解放側摩擦係合要素のスイープダウン指示油圧の低下率が小さくなるように補正するスイープ制御手段と、
を備えることを特徴とする自動変速機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−94665(P2011−94665A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−247615(P2009−247615)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】