説明

自動変速機の変速制御装置

【目的】 シフト弁を有しない変速制御装置において、低速段エンジンブレーキ時にけるエンジンの過回転を防止可能な構成を提供する。
【構成】 1レンジで回路16,18に出力される圧力のうち、回路16の圧力はフォワードクラッチF/Cを作動させ、回路18の圧力は遮断弁23に至る。1レンジでコントローラ50はソレノイド24をONして遮断弁23を図示位置から切り換え、回路33をポート23aによりドレンして2速以上の変速段を禁止し、また回路18,34間を連通して回路18の圧力によりローリバースブレーキLR/Bを締結させる。よって第1速のエンジンブレーキが得られるが、コントローラ50は、センサ52で検出した車速VSPがエンジンの過回転を生ずる車速値の間、ソレノイド24の上記ONを行わせず、過回転を防止する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、自動変速機の低速段エンジンブレーキ状態で、エンジンが過回転するのを確実に防止するための変速制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】自動変速機は各種摩擦要素(摩擦クラッチや摩擦ブレーキ)の選択的油圧作動(締結)により対応変速段を選択し、作動する摩擦要素の変更により他の変速段への変速を行うよう構成する。
【0003】ところで変速に当たっては、本願出願人が開発使用中で、「NISSANマキシマ新型車解説書J30型系車変更点の紹介」1991年8月発行(FOO7671)に記載の自動変速機等に見られる如く、変速指令にシフト弁を応動させてマニュアル弁からの前進変速段選択圧を対応する走行用摩擦要素に振り分け、該走行用摩擦要素を作動させることにより所定の変速を行うようにするのが常套であった。
【0004】しかし、かようにシフト弁を介して変速を行うのでは、当該変速に当り作動されることとなった走行用摩擦要素の作動圧を変速ショック軽減用に適切に制御するための弁および回路や、該作動されることとなった走行用摩擦要素の作動タイミングを変速ショック軽減用に適切に制御するための弁および回路等が別途必要であり、自動変速機の変速制御油圧回路が複雑且つ高価になるのを免れ得なかった。
【0005】この問題解決のために従来、米国特許第4,935,872号明細書において、シフト弁を一切用いず、マニュアル弁を前進自動変速レンジにする間、このマニュアル弁から出力される前進変速段選択圧を、各走行用摩擦要素へ個々の調圧弁による調圧下に給排して、走行用摩擦要素を選択的に作動させることにより、所定変速段を選択することができるようにした自動変速機の変速制御装置が提案された。
【0006】かかる提案技術によれば、走行用摩擦要素の作動圧経時変化およびその立ち上がりタイミングを個々の調圧弁により任意に制御することができ、該調圧弁を適切に制御するだけで変速ショックを確実に軽減することが可能となり、変速ショック軽減用の弁や回路を別途に付加する必要がなくて、自動変速機の構成を簡単且つ安価なものにすることができる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかして、かかる変速制御システムを、前記「NISSANマキシマ新型車解説書J30型系車変更点の紹介」1991年8月発行(FOO7671)に記載された自動変速機の歯車変速機構に用いる時、以下の問題を生ずる。
【0008】即ちこの自動変速機では、低速段(第1速)での動力伝達をワンウェイクラッチ(ローワンウェイクラッチ)を介して行うようにし、低速段から高速段へのアップシフト変速が、当該ワンウェイクラッチのオーバーランにより完遂されるようにすることで、変速ショック対策がし易くなるようにしている。
【0009】しかして、上記のワンウェイクラッチは低速段でのエンジンブレーキを効かなくすることから、このエンジンブレーキが必要な場合のために、ワンウェイクラッチに並列的にエンジンブレーキ用摩擦要素を設け、これをエンジンブレーキ要求時に作動させてワンウェイクラッチの上記オーバーランを不能にする。
【0010】ところで、このようにしてエンジンブレーキが効くようにする場合、車速が高いと、低速段であることから、エンジンが許容回転数以上まで車輪により逆駆動(過回転)され、エンジンの耐久性が損なわれる。この問題に鑑み上記文献に記載の変速制御油圧回路においては、シフト弁に、車速がエンジンの過回転を生じない回転数に低下するまで低速段への変速を行わせなくする機能を持たせていた。
【0011】しかし、前進段選択圧を各走行用摩擦要素へ個々の調圧弁による調圧下に給排して、走行用摩擦要素を選択的に作動させることにより、所定変速段を選択するようにした前記の変速制御装置を用いる場合、シフト弁がないために当該エンジンの過回転防止対策を施し得ない。
【0012】本発明は、シフト弁がない場合においても、即ちこれに頼ることなくエンジンブレーキ時におけるエンジンの過回転を防止し得るようにした変速制御装置を構築することで上述の問題を解消することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】この目的のため本発明は、マニュアル弁を前進自動変速レンジにする間、該マニュアル弁から出力される前進変速段選択圧を、各走行用摩擦要素へ個々の調圧弁による調圧下に給排して、走行用摩擦要素を選択的に作動させることにより、所定変速段を選択することができ、マニュアル弁を低速段エンジンブレーキレンジにする間、該マニュアル弁から出力される前進変速段選択圧およびエンジンブレーキレンジ圧のうち、前進変速段選択圧により対応する走行用摩擦要素を作動させて低速段を選択すると共に、エンジンブレーキレンジ圧によりエンジンブレーキ用摩擦要素を作動させて、該低速段でのエンジンブレーキが得られるようにした自動変速機において、前記低速段エンジンブレーキ状態にするとエンジンが過回転する車速域か否かを判別するエンジン過回転判別手段と、該手段からの信号に応答し、エンジンが過回転する車速域では、前記マニュアル弁からエンジンブレーキ用摩擦要素に至るエンジンブレーキレンジ圧回路を遮断する遮断弁とを設けたものである。
【0014】
【作用】自動変速機は、マニュアル弁を前進自動変速レンジにした状態で、このマニュアル弁から出力される前進変速段選択圧を、各走行用摩擦要素へ個々の調圧弁による調圧下に給排して、走行用摩擦要素を選択的に作動させることにより、所定変速段を選択する。そして、マニュアル弁を低速段エンジンブレーキレンジにした状態で、このマニュアル弁から出力される前進変速段選択圧およびエンジンブレーキレンジ圧のうち、前進変速段選択圧により対応する走行用摩擦要素を作動させて低速段を選択し、同時に、エンジンブレーキレンジ圧によりエンジンブレーキ用摩擦要素を作動させて、当該低速段でのエンジンブレーキを可能にする。
【0015】ところでエンジン過回転判別手段は、当該低速段でのエンジンブレーキ状態になるとエンジンが過回転する車速域か否かを判別し、この過回転を生ずる車速域で遮断弁は、エンジンブレーキレンジ圧回路を遮断し、マニュアル弁からエンジンブレーキ用摩擦要素へエンジンブレーキレンジ圧が供給されなくする。よって、当該車速域でエンジンブレーキ用摩擦要素が締結されることはなく、シフト弁がない変速制御装置であると雖もエンジンの過回転を防止することができる。
【0016】
【実施例】以下、本発明の実施例を図面に基づき詳細に説明する。図1は本発明変速制御装置を適用した自動変速機の動力伝達列及び各種摩擦要素の締結論理表を示す。この伝動列は本願出願人の発行になる前記文献に記載された自動変速機における歯車変速機構と同じもので、トルクコンバータ1を介しエンジンクランクシャフト(図示せず)からの回転動力を伝達される入力軸2及びこれに同軸に出力軸3を具え、これら入出力軸上に同軸に配した第1遊星歯車組4及び第2遊星歯車組5と、後述の各種摩擦要素とで構成する。
【0017】第1遊星歯車組4はサンギヤ4S、リングギヤ4R、これらに噛合するピニオン4P及びピニオン4Pを回転自在に支持するキャリア4Cよりなる通常の単純遊星歯車組とし、第2遊星歯車組5もサンギヤ5S、リングギヤ5R、ピニオン5P及びキャリア5Cよりなる単純遊星歯車組とする。
【0018】次に変速制御を司る各種摩擦要素を説明する。キャリア4CはハイクラッチH/Cを介して入力軸2に適宜結合可能とし、サンギヤ4SはバンドブレーキB/Bにより適宜固定可能とする他、リバースクラッチR/Cにより入力軸2に適宜結合可能とする。キャリア4Cは更に多板式のローリバースブレーキLR/Bにより適宜固定可能にすると共に、ローワンウェイクラッチLO/Cを介して逆転(エンジンと逆方向の回転)を阻止する。リングギヤ4Rはキャリア5Cに一体結合して出力軸3に駆動結合し、サンギヤ5Sを入力軸2に結着する。リングギヤ5RはオーバーランクラッチOR/Cを介して適宜キャリア4Cに結合可能とする他、フォワードワンウェイクラッチFO/C及びフォワードクラッチF/Cを介してキャリア4Cに相関させる。フォワードワンウェイクラッチFO/CはフォワードクラッチF/Cの結合状態でリングギヤ5Rを逆転方向(エンジン回転と逆の方向)においてキャリア4Cに結合させるものとする。
【0019】ハイクラッチH/C、リバースクラッチR/C、ローリバースブレーキLR/B、オーバーランクラッチOR/C及びフォワードクラッチF/Cは夫々、油圧の供給により作動されて前記した適宜の結合及び固定を行うものであるが、バンドブレーキB/Bは特に図1R>1の表に示す如く2速サーボアプライ室2A、3速サーボレリーズ室3R及び4速サーボアプライ室4Aを有し、常態で開放され、室2Aのみへの圧力供給により締結され、室2Aに加え室3Rにも圧力を供給する時開放され、室2A,3Rに加え室4Aにも圧力を供給する時締結されるものとする。
【0020】図1の動力伝達列は、摩擦要素B/B,H/C,F/C,OR/C,LR/B,R/Cを同図の表中に示す如く種々の組合せで締結作動(○印で示す)させることにより、摩擦要素FO/C,LO/Cの適宜作動(係合)と相俟って、遊星歯車組4,5を構成する要素の回転状態を変え、これにより入力軸2の回転速度に対する出力軸3の回転速度比を変えて前進4速後退1速の変速段を得ることができる。なお、図1の表中△印も作動(油圧流入)を示すが、この△印はエンジンブレーキが必要な時に作動させるべきエンジンブレーキ用摩擦要素を示す。そして、△印の如くオーバーランクラッチOR/Cが作動されている間、これに並置したフォワードワンウェイクラッチFO/Cは解放不能に保たれてエンジンブレーキを可能にし、ローリバースブレーキLR/Bが作動している間これに並置したローワンウェイクラッチLO/Cが解放不能に保たれエンジンブレーキを可能にすること勿論である。
【0021】更に、図1の表中フォワードクラッチF/Cの点線丸印は、このクラッチが第4速で動力伝達に関与しないにもかかわらず、変速制御油圧回路の都合上締結のままにすることを示す。
【0022】図2は、上記歯車変速機構の変速制御油圧回路を示す。11はレギュレータ弁で、オイルポンプ12からの作動油を周知の作用により所定のライン圧に調圧し、これを自動変速機の全ての元圧として使用するよう回路13に出力する。この回路13からのライン圧はマニュアル弁14およびパイロット弁15等に供給する。
【0023】マニュアル弁14は運転者が希望する走行形態に応じ手動操作するもので、駐(停)車を希望してP(N)レンジにする時回路13のライン圧をどの出力回路にも供給せず、全てをドレンする。又マニュアル弁14は、前進自動変速走行を希望して前進自動変速(D)レンジにする時、図示の如く回路13のライン圧を回路16に前進変速段選択圧(Dレンジ圧)として出力し、他の出力回路を全てドレンし、第2速エンジンブレーキ走行を希望して2レンジにする時回路13のライン圧を回路17にも2レンジ圧として出力し、他の出力回路をドレンし、第1速エンジンブレーキ走行を希望してエンジンブレーキ(1)レンジにする時回路13のライン圧を回路18にもエンジンブレーキレンジ圧(1レンジ圧)として出力し、他の出力回路をドレンするものとする。但し、本例では2レンジ圧を必要としないため、回路17を閉塞しておく。更にマニュアル弁14は、後退走行を希望してRレンジにする時回路13のライン圧を回路19のみに後退変速段選択圧(Rレンジ圧)として出力し、他の出力回路を全てドレンするものとする。
【0024】回路16のDレンジ圧は、ワンウェイオリフィス20を介してフォワードクラッチF/Cの作動に供し、この作動をワンウェイオリフィス20とアキュムレータ21とで緩やかに行わせることにより、フォワードクラッチF/Cの締結ショック、つまりN→Dセレクトショックを緩和する。
【0025】パイロット弁15は回路13からのライン圧を減圧して一定のパイロット圧となし、これを回路22により遮断弁23のON・OFFソレノイド24、切り換え弁25のON・OFFソレノイド26、調圧弁27のデューティソレノイド28、調圧弁29のデューティソレノイド30、調圧弁31のデューティソレノイド32に供給するものとする。
【0026】ソレノイド24,26,28,30,32はそれぞれ、OFF時、回路22からのパイロット圧をドレンして対応する弁23,25,27,29,31へ信号圧を印加せず、これら弁を常態のままにし、ON時、回路22からのパイロット圧を元圧として対応する弁23,25,27,29,31へ信号圧を印加するものとする。但しデューティソレノイド28,30,31は、駆動デューティに応じて回路22からのパイロット圧をドレンし、対応する弁27,29,31に印加する信号圧を駆動デューティに対応して加減し得るものとする。
【0027】遮断弁23は、ソレノイド24のOFF時、図示の常態となって回路16を回路33に通じ、回路18をドレンポート23aに通じ、回路34をドレンポート23bに通じ、ソレノイド弁24のON時、逆位置に切り換わって回路16を遮断し、回路33をドレンポート23aに通じ、回路18,33間を連通させるものとする。
【0028】回路33は調圧弁27,29,31の入力ポートに接続し、これら調圧弁はソレノイド28,30,32からのデューティ制御圧に応動し、回路33からの圧力を元圧として出力回路35,36,37の圧力を上昇させ、過剰圧をドレンポート27a,29a,31aより排除することにより、出力回路35,36,37の圧力をソレノイド28,30,32の駆動デューティに対応した値に調圧するものとする。
【0029】切り換え弁25は、ソレノイド26のOFF時、図示の常態位置となって回路35をドレンポート25aに通じ、回路38をドレンポート25bに通じ、回路16から分岐した回路39を回路40に通じるも、ソレノイド26のON時、逆位置に切り換わって回路38を回路35に通じ、回路40をドレンポート25bに通じるものとする。
【0030】回路38の圧力は、ワンウェイオリフィス41を介してバンドブレーキB/Bの4速サーボアプライ室4Aに供給してバンドブレーキB/Bの作動に供し、この作動をワンウェイオリフィス41とアキュムレータ42とで緩やかに行わせることにより、バンドブレーキB/Bの締結で行う変速時の変速ショックを緩和する。
【0031】回路36は、バンドブレーキB/Bの3速サーボレリーズ室3RおよびハイクラッチH/Cに接続し、回路37はバンドブレーキB/Bの2速サーボアプライ室2Aに接続する。回路40はオーバーランクラッチ減圧弁43を介してオーバーランクラッチOR/Cに接続し、回路40の圧力をオーバーランクラッチ減圧弁43により所定値に減圧してオーバーランクラッチOR/Cの作動に供するものとする。
【0032】回路34は1レンジ減圧弁44、シャトル弁45および回路46を介してローリバースブレーキLR/Bに接続し、回路34の圧力を1レンジ減圧弁44により所定値に減圧してローリバースブレーキLR/Bの作動に供するものとする。
【0033】最後に、回路19の圧力はワンウェイオリフィス47を介してリバースクラッチR/Cに供給して該リバースクラッチR/Cの作動に供し、この作動をワンウェイオリフィス47とアキュムレータ48とで緩やかに行わせることにより、リバースクラッチR/Cの締結ショック、つまりN→Rセレクトショックを緩和する。
【0034】回路19は更に、回路49を介してシャトル弁45の残りの入力ポートに接続し、このシャトル弁および回路46を経て回路19をローリバースブレーキLR/Bにも通じさせる。
【0035】ソレノイド24,26のON,OFF制御、およびソレノイド28,30,32のデューティ制御は夫々、エンジン過回転判別手段としてのコントローラ50によりこれらを実行し、これがためコントローラ50には、エンジンスロットル開度THを検出するスロットル開度センサ51からの信号、車速VSPを検出する車速センサ52からの信号、およびマニュアル弁14の選択レンジを検出するレンジセンサ53からの信号RNGを入力する。コントローラ50はこれら入力情報を基に、図3の論理表に沿った各ソレノイドの制御を介し選択レンジ毎に通常の変速を行うと共に、図4の制御プログラムにより本発明が狙いとするエンジン過回転防止作用を生起させるものとする。
【0036】上記実施例の作用を次に説明する。
Dレンジ前進自動変速を希望してマニュアル弁14をDレンジにすると、マニュアル弁14は回路13のライン圧を回路16に前進変速段選択圧として出力する。この圧力は一方でワンウェイオリフィス20を経てフォワードクラッチF/Cに達し、これを作動させるが、この際フォワードクラッチF/Cの締結はワンウェイオリフィス20およびアキュムレータ21により緩やかに行われ、締結ショックを緩和される。
【0037】ここでコントローラ50は、センサ51,52で検出したエンジンスロットル開度THおよび車速VSPから好適変速段を演算し、これが第1速である場合、図3に示すようにソレノイド24,26のみをONする。
【0038】ソレノイド24のONは遮断弁23を図示位置から逆位置に切り換え、回路16から遮断弁23に達する圧力をここで遮断すると共に、回路33をドレンポート23aに通じ、更に回路34を回路18に通じる。なお、回路18はマニュアル弁14のDレンジでドレンされているため、回路34もドレンされ、この回路でローリバースブレーキLR/Bが作動されることはない。また、回路33が上記の通りドレンされることで、回路33に係わるバンドブレーキB/Bの全室2A,3R,4AおよびハイクラッチH/Cもドレンされ、バンドブレーキB/BおよびハイクラッチH/Cが作動されることもない。
【0039】ソレノイド26のONは切り換え弁25を図示位置から逆位置に切り換え、回路35,38間を連通させると共に、回路40をドレンポート25bに通じ、かかる回路40のドレンはオーバーランクラッチOR/Cをして非作動状態に保つ。
【0040】なお、回路19はマニュアル弁14のDレンジでドレンされているため、この回路でリバースクラッチR/Cが作動されることもない。
【0041】以上により、図1の歯車変速機構はフォワードクラッチF/Cのみが作動されることとなり、フォワードワンウェイクラッチFO/CおよびローワンウェイクラッチLO/Cの係合と相俟って前進第1速を選択することができる。
【0042】コントローラ50は、センサ51,52で検出したエンジンスロットル開度THおよび車速VSPから好適変速段が第2速であると演算する場合、図3に示すようにソレノイド26を第1速の時と同じON状態にするも、ソレノイド24をOFFし、ソレノイド32を後述のデューティ制御下にONする。
【0043】ソレノイド24のOFFは遮断弁23を図示位置にし、回路16からの圧力を回路33に出力すると共に、回路34をドレンポート23bに通じてローリバースブレーキLR/Bを非作動状態に保つ。回路33への圧力は調圧弁27,29,31に達するが、コントローラ50がソレノイド28,30の駆動デューティを0%に保つため、回路35,36に圧力を出力することはなく、これら回路に係わるバンドブレーキB/Bの室4A,3RおよびハイクラッチH/Cに作動圧を供給しない。ところでコントローラ50は、ソレノイド32をONするに当り、その駆動デューティを0%から漸増させる。これにより回路37の圧力も漸増し、この圧力がバンドブレーキB/Bの2速サーボアプライ室2Aに至って、バンドブレーキB/Bを徐々に締結させる。
【0044】よって、図1の歯車変速機構はフォワードクラッチF/CおよびバンドブレーキB/Bの作動により、フォワードワンウェイクラッチFO/Cの係合と相俟って前進第2速を選択することができる。
【0045】コントローラ50は、センサ51,52で検出したエンジンスロットル開度THおよび車速VSPから好適変速段が第3速であると演算する場合、図3に示すように第2速の状態に付加して、ソレノイド30を後述のデューティ制御下にONする。ソレノイド30の駆動デューティは0%から漸増させ、これにより回路36の圧力も漸増される。この圧力がバンドブレーキB/Bの3速サーボレリーズ室3RおよびハイクラッチH/Cに至って、バンドブレーキB/Bを解放させると共に、ハイクラッチH/Cを締結させる。
【0046】よって、図1の歯車変速機構はフォワードクラッチF/CおよびハイクラッチH/Cの作動により、フォワードワンウェイクラッチFO/Cの係合と相俟って前進第3速を選択することができる。
【0047】コントローラ50は、センサ51,52で検出したエンジンスロットル開度THおよび車速VSPから好適変速段が第4速(オーバードライブ)であると演算する場合、図3に示すように第3速の状態に付加して、ソレノイド28を後述のデューティ制御下にONする。ソレノイド28の駆動デューティは0%から漸増させ、これにより回路35の圧力も漸増される。この圧力が切り換え弁25および回路38を介しバンドブレーキB/Bの4速サーボアプライ室4Aに至って、このバンドブレーキB/Bを再締結させる。ところでこの際、回路38のワンウェイオリフィス41およびアキュムレータ42はバンドブレーキB/Bの再締結を滑らかに行わせ、その締結ショックを緩和することができる。
【0048】よって、図1の歯車変速機構はバンドブレーキB/BおよびハイクラッチH/Cの作動により前進第4速を選択することができる。なお、この第4速でフォワードクラッチF/Cは、動力伝達に関与しないため、油圧回路の便宜上締結状態に保つこととした。
【0049】運転者が図示せざるOD(オーバードライブ)禁止スイッチにより第4速(オーバードライブ)を禁止する指令を発する場合、コントローラ50は図3に示すように第4速の状態からソレノイド28をOFFすると共に、ソレノイド26もOFFする。ソレノイド26のOFFにより切り換え弁25は図示の位置に切り換わり、回路38をドレンポート25bに通じてバンドブレーキB/Bの4速サーボアプライ室4Aをドレンすると共に、回路39,40間を通じて回路16の圧力をオーバーランクラッチOR/Cに供給する。4速サーボアプライ室4AのドレンはバンドブレーキB/Bの解放により、図1の歯車変速機構をして第3速にダウンシフト変速せしめ、オーバーランクラッチOR/Cへの圧力供給はこれを締結して、図1の歯車変速機構を第3速でのエンジンブレーキが可能な状態にする。
【0050】2レンジ第2速エンジンブレーキ走行を希望してマニュアル弁14を2レンジにすると、マニュアル弁14は回路13のライン圧を回路16に前進変速段選択圧として出力し、回路17にも回路13のライン圧を出力する。しかし、回路17への圧力は本例では何にも使用しないため、マニュアル弁14は変速制御油圧回路に対しDレンジの場合と同じように作用する。
【0051】一方、この2レンジでコントローラ50は図3に示すように、ソレノイド32のみをONし、前記したDレンジ第2速とは、ソレノイド26がOFFされる点で異なる。
【0052】ソレノイド32のONはバンドブレーキB/Bを締結させ、フォワードクラッチF/Cの締結とで、Dレンジ第2速時と同じく図1の変速歯車機構を第2速選択状態にする。
【0053】そして、ソレノイド26のOFFは切り換え弁25を図示の位置にし、回路39,40間を通じて回路16の圧力をオーバーランクラッチOR/Cに供給する。これにより上記OD禁止時と同じく、オーバーランクラッチOR/Cが締結され、図1の歯車変速機構を第2速でのエンジンブレーキが可能な状態にすることができる。
【0054】1レンジ第1速エンジンブレーキ走行を希望してマニュアル弁14を1レンジにすると、マニュアル弁14は回路13のライン圧を回路16に前進変速段選択圧として出力し、回路18にも回路13のライン圧を出力する。
【0055】一方、この1レンジでコントローラ50は図3に示すように、ソレノイド24のみをONし、前記したDレンジ第1速とは、ソレノイド26がOFFされる点で異なる。
【0056】ソレノイド24のONは遮断弁23を図示位置と逆の位置にし、回路16から遮断弁23に達する圧力をここで遮断すると共に、回路33をドレンポート23aに通じ、更に回路34を回路18に通じる。回路33のドレンは第2速以上の変速段を選択させなくし、従って図1の変速歯車機構を第1速選択状態にする。
【0057】また、回路18,34の連通は、当該1レンジで回路18が回路13のライン圧を出力されることから、この圧力によりローリバースブレーキLR/Bをして、これを締結させることとなる。この際ローリバースブレーキLR/Bが、その作動圧を1レンジ減圧弁44により適切に減圧されて、締結容量を適切にされることは言うまでもない。
【0058】なお、この1レンジでコントローラ50は図3に示すように、ソレノイド26をOFFするため、切り換え弁25が図示位置にあって、オーバーランクラッチOR/Cを締結する。
【0059】よって、図1の歯車変速機構はDレンジ第1速選択時と同じ状態になるのに加えて、ローリバースブレーキLR/BおよびオーバーランクラッチOR/Cが締結されることとなり、第1速でのエンジンブレーキを生起させることができる。
【0060】ところで、かかる1レンジへのセレクト時、コントローラ50はソレノイド24を上記の如くONするに際し、これを図4の制御プログラムに基づいて制御する。つまり、先ずステップ61で車速VSPおよび選択レンジRNGを読み込み、ステップ62で1レンジ選択中か否かをチェックし、またステップ63において車速VSPが第1速でエンジンの過回転を生ずる車速域の下限値Vs以上か否かをチェックする。
【0061】1レンジ以外では図4におけるソレノイド24の制御が不要であるから、制御をそのまま終了して、ソレノイド24のON,OFFを図3の論理表のままに行わせ、また1レンジでもVSP≧Vsならエンジンの過回転を生ずる車速域であることから、この場合も制御をそのまま終了して、ソレノイド24をOFFに保つ。これにより遮断弁23が図2に示す位置に保たれて、ローリバースブレーキLR/Bを作動させることがなく、図1の歯車変速機構をエンジンブレーキが効かない状態に保って、エンジンの過回転を回避することができる。
【0062】しかして、1レンジ選択時に車速VSPが設定車速Vs未満であれば、或は当初車速VSPが設定車速Vs以上でもその後に設定車速Vs未満に低下すれば、エンジンブレーキによっても、エンジンが過回転されることがないから、ステップ64でソレノイド24を直ちにONして、図1の歯車変速機構をエンジンブレーキが効く状態にする。
【0063】Rレンジ後退走行を希望してマニュアル弁14をRレンジにすると、マニュアル弁14は回路13のライン圧を回路19に後退変速段選択圧として出力する。この圧力は一方で、ワンウェイオリフィス47を経てリバースクラッチR/Cに達し、これを作動させるが、この際リバースクラッチR/Cの締結はワンウェイオリフィス47およびアキュムレータ48により緩やかに行われ、締結ショックを緩和される。回路19の圧力は他方で、回路49、シャトル弁45および回路46を経てローリバースブレーキLR/Bに達し、これを作動させる。
【0064】よって、図1の歯車変速機構はリバースクラッチR/CおよびローリバースブレーキLR/Bの作動により後退変速段を選択することができる。
【0065】なお、上述の例における調圧弁27およびデューティソレノイド28は、バンドブレーキB/Bの各室2A,3R,4A間において受圧面積の関係を適切に定める場合、これらを省略することができ、この場合回路35を回路33に直接接続する。
【0066】
【発明の効果】かくして本発明変速制御装置は請求項1に記載の如く、低速段(図示例では第1速)でのエンジンブレーキ時にエンジンが過回転されるような車速域では、これを判別する手段(図示例ではコントローラ50)からの信号に応動して、エンジンブレーキ用摩擦要素へ作動圧が供給されることのないようにする遮断弁(図示例では遮断弁23)を設けて構成したから、前進変速段選択圧を各走行用摩擦要素へ個々の調圧弁(図示例では調圧弁27,29,31)による調圧下に給排して、走行用摩擦要素を選択的に作動させることにより、シフト弁なしに所定変速段を選択し得るようにした変速制御装置を用いる場合でも、低速段でのエンジンブレーキ時にエンジンが過回転されるのを確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の変速制御装置を適用した自動変速機の動力伝達列を各種摩擦要素の締結論理表と共に示す説明図である。
【図2】同伝動列の変速制御油圧回路に適用した本発明変速制御装置の一実施例を示す油圧回路図である。
【図3】同変速制御油圧回路中におけるソレノイドのON,OFFと選択変速段との関係を示す論理表である。
【図4】同例におけるコントローラが1レンジ選択時において実行する遮断弁ソレノイドの制御プログラムを示すフローチャートである。
【符号の説明】
1 トルクコンバータ
2 入力軸
3 出力軸
4 第1遊星歯車組
5 第2遊星歯車組
F/C フォワードクラッチ(走行用摩擦要素)
B/B バンドブレーキ(走行用摩擦要素)
FO/C フォワードワンウェイクラッチ
H/C ハイクラッチ(走行用摩擦要素)
OR/C オーバーランクラッチ
R/C リバースクラッチ
LR/B ローリバースブレーキ(エンジンブレーキ用摩擦要素)
11 レギュレータ弁
12 オイルポンプ
14 マニュアル弁
15 パイロット弁
23 遮断弁
24 遮断弁ソレノイド
25 切り換え弁
26 切り換え弁ソレノイド
27 調圧弁
28 調圧弁デューティソレノイド
29 調圧弁
30 調圧弁デューティソレノイド
31 調圧弁
32 調圧弁デューティソレノイド
45 シャトル弁
50 コントローラ(エンジン過回転判別手段)
51 スロットル開度センサ
52 車速センサ
53 レンジセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 マニュアル弁を前進自動変速レンジにする間、該マニュアル弁から出力される前進変速段選択圧を、各走行用摩擦要素へ個々の調圧弁による調圧下に給排して、走行用摩擦要素を選択的に作動させることにより、所定変速段を選択することができ、マニュアル弁を低速段エンジンブレーキレンジにする間、該マニュアル弁から出力される前進変速段選択圧およびエンジンブレーキレンジ圧のうち、前進変速段選択圧により対応する走行用摩擦要素を作動させて低速段を選択すると共に、エンジンブレーキレンジ圧によりエンジンブレーキ用摩擦要素を作動させて、該低速段でのエンジンブレーキが得られるようにした自動変速機において、前記低速段エンジンブレーキ状態にするとエンジンが過回転する車速域か否かを判別するエンジン過回転判別手段と、該手段からの信号に応答し、エンジンが過回転する車速域では、前記マニュアル弁からエンジンブレーキ用摩擦要素に至るエンジンブレーキレンジ圧回路を遮断する遮断弁とを設けたことを特徴とする自動変速機の変速制御装置。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【図4】
image rotate


【公開番号】特開平6−323426
【公開日】平成6年(1994)11月25日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−111761
【出願日】平成5年(1993)5月13日
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)