説明

自動変速機

【課題】複数のポンプを有する自動変速機において、第2のポンプの駆動・非駆動の切り替えを簡単な構成で行うことができる自動変速機を提供する。
【解決手段】内燃機関12からの駆動力に基づき駆動する第1のポンプOP1と、回転する駆動輪13からの駆動力に基づき駆動する第2のポンプOP2と、内燃機関12及び駆動輪13のうち少なくとも一方から伝達される駆動力に基づき回転自在であって且つ前後方向に移動自在なカウンタシャフト30と、2つのヘリカルギヤ対42A,42Bを有し、カウンタシャフト30に伝達するスラスト力の向きを切り替える切り替え機構と、カウンタシャフト30の前方への移動時にはカウンタシャフト30から第2のポンプOP2への駆動力の伝達を許容し、カウンタシャフト30の後方への移動時にはカウンタシャフト30から第2のポンプOP2への駆動力の伝達を遮断する係合機構34と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のポンプを備える自動変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の自動変速機として、例えば特許文献1に記載の自動変速機が提案されている。この特許文献1に記載の自動変速機は、車両を走行させるための車両の駆動源(例えば内燃機関)から伝達される駆動力に基づき作動する第1のポンプと、車両の駆動源とは異なる電動機から伝達される駆動力に基づき作動する第2のポンプとを備えている。なお、電動機は、第2のポンプ専用の駆動源である。
【0003】
そして、内燃機関の駆動時には、第1のポンプが駆動するため、該第1のポンプから油圧発生回路に作動油(液体)が供給される。その結果、油圧発生回路では、第1のポンプから供給される作動油によって、自動変速機の変速制御を行うために必要な油圧(液圧)、及び自動変速機を構成する各種潤滑必要部材(例えば、軸受、ギヤ及び摩擦係合要素)を潤滑させるために必要な潤滑油圧が調整されていた。
【0004】
一方、内燃機関の非駆動時には、電動機を駆動させることにより第2のポンプから油圧発生回路に作動油が供給される。その結果、油圧発生回路では、第2のポンプから供給される作動油によって、自動変速機を構成する各種潤滑必要部材を潤滑させるために必要な潤滑油圧などが調整されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−170888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、第2のポンプは、電動機からの駆動力に基づき作動する所謂電動式のポンプである。そのため、特許文献1に記載の自動変速機は、機械式のポンプを第2のポンプとして設ける場合と比較して電動機を設ける分、装置全体が大型化する問題があった。また、内燃機関の駆動状態を検出し、電動機の駆動タイミングを適切に制御する必要がある。そのため、自動変速機を制御する制御装置での制御が複雑化する問題もあった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、複数のポンプを備える自動変速機において、第2のポンプの駆動・非駆動の切り替えを簡単な構成で行うことができる自動変速機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、供給される液体に基づき駆動する変速機構部と、車両の駆動源から伝達される駆動力に基づき、液体を吐出する第1のポンプと、車両の駆動輪の回転によって発生する駆動力が伝達された場合に、該駆動力に基づき液体を吐出する第2のポンプと、前記車両の駆動源及び前記駆動輪のうち少なくとも一方から伝達される駆動力に基づき軸線を中心に回転自在であって、且つ該軸線に沿う方向に移動自在な回転部材と、前記変速機構部及び前記回転部材の間で動力伝達を行うヘリカルギヤ対及び前記回転部材及び前記駆動輪側のディファレンシャル機構との間で動力伝達を行うヘリカルギヤ対を有し、前記回転部材に伝達するスラスト力の向きを切り替える切り替え機構と、前記切り替え機構から伝達されるスラスト力によって、前記回転部材が第1の方向に移動した場合には該回転部材から前記第2のポンプへの駆動力の伝達を許容し、前記回転部材が前記第1の方向とは反対の第2の方向に移動した場合には該回転部材から前記第2のポンプへの駆動力の伝達を遮断する係合機構と、を備えることを要旨とする。
【0009】
上記構成によれば、回転部材は、切り替え機構から伝達されるスラスト力の向きによって、第1の方向に移動したり、該第1の方向とは反対の第2の方向に移動したりする。そして、第2のポンプは、駆動輪の回転時において回転部材が第1の方向に移動した場合には液体を吐出すべく駆動する一方、回転部材が第2の方向に移動した場合には駆動輪の回転又は停止に関係なく駆動しない。すなわち、回転部材が第1の方向に移動したり、第2の方向に移動したりすることにより、第2のポンプの駆動と非駆動とを適宜切り替えることができる。しかも、第2のポンプを電動式のポンプにする場合と比較して、第2のポンプ専用の電動機を設ける必要がない分、自動変速機の小型化に貢献できる。また、第2のポンプの切り替えを制御する必要がない分、自動変速機を制御する制御装置の制御負荷を低減させることができる。したがって、第2のポンプの駆動・非駆動の切り替えを簡単な構成で行うことができる。
【0010】
本発明において、前記係合機構は、前記車両の駆動源の非駆動時において前記駆動輪が車両を前進させる方向に回転する場合には、前記切り替え機構からのスラスト力によって前記回転部材が前記第1の方向に移動することにより、該回転部材から前記第2のポンプへの駆動力の伝達を許容することを要旨とする。
【0011】
上記構成によれば、駆動源の駆動時には、第1のポンプが駆動することにより、自動変速機内に液体が供給される。一方、例えば、車両の駆動源の非駆動時において駆動輪が車両を前進させる方向に回転する場合には、切り替え機構からのスラスト力によって回転部材が第1の方向に移動することにより、第2のポンプが駆動する。その結果、第1のポンプが駆動していなくても、自動変速機内に液体が第2のポンプによって供給される。そのため、車両の駆動源の停止時において車両を前進させる場合には、第2のポンプから吐出された液体によって、自動変速機を構成する潤滑必要部材(例えば、軸受、ギヤ及び摩擦係合要素)の焼き付きの抑制を図ることができる。
【0012】
本発明は、前記自動変速機の変速制御を行うための液圧を発生する第1発生回路及び前記自動変速機内の潤滑を行うための液圧を発生する第2発生回路を有する液圧調整回路と、前記第1のポンプから前記各発生回路への液体の供給を許容する第1液体供給機構と、前記第2のポンプから前記第1発生回路への液体の供給を規制する一方で、前記第2のポンプから前記第2発生回路への液体の供給を許容する第2液体供給機構と、をさらに備えることを要旨とする。
【0013】
車両の駆動源の停止時には、自動変速機の変速段を維持させたり、変更させたりする必要がない。そこで、本発明では、液体供給調整機構によって、第2のポンプから吐出される液体が第1発生回路に供給されることが規制されている。そのため、第2のポンプから吐出される液体を第1発生回路にも供給する場合と比較して、液体の吐出量を少なくしてもよい分、第2のポンプを小型化させることができる。
【0014】
本発明は、前記係合機構から前記第2のポンプへの動力伝達の接・断制御を行うクラッチ機構をさらに備えることを要旨とする。
上記構成によれば、第2のポンプを駆動させる必要がない場合には、クラッチ機構を介して該第2のポンプに駆動力が伝達されることを規制できる。そのため、第2のポンプの駆動が不必要なときにも該第2のポンプに駆動力が伝達される場合と比較して、第2のポンプの駆動に伴う負荷の増大を抑制できる。
【0015】
本発明は、前記第1のポンプから吐出される液体の一部を前記クラッチ機構に供給する液体供給部をさらに備え、前記クラッチ機構は、前記液体供給部を介して液体が供給される場合には前記回転部材側から前記第2のポンプへの動力伝達を遮断する一方、前記液体供給部を介して液体が供給されない場合には前記回転部材側から前記第2のポンプへの動力伝達を許容することを要旨とする。
【0016】
上記構成によれば、第1のポンプが駆動する場合には、該第1のポンプから供給される液体に基づき駆動するクラッチ機構によって、第2のポンプへの駆動力の伝達が遮断される。すなわち、車両の駆動源の駆動時には、第2のポンプが駆動しない。そのため、車両の駆動源の駆動時に第2のポンプが駆動することを抑制でき、ひいては車両の駆動源から発生する駆動力を効率良く駆動輪に伝達することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】第1の実施形態における自動変速機のスケルトン図。
【図2】(a)(b)はクラッチ機構及び第2のポンプの概略構成を示す断面図。
【図3】(a)(b)は係合機構の概略構成を示す断面図。
【図4】作動油の供給経路を模式的に示すブロック図。
【図5】駆動させるポンプを切り替える様子を説明するタイミングチャート。
【図6】別の実施形態における自動変速機のスケルトン図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を具体化した一実施形態について、図1〜図5に従って説明する。なお、本実施形態において、自動変速機を搭載する車両が前進する方向を「前側」というと共に、車両が後進する方向を「後側」というものとする。
【0019】
図1に示すように、本実施形態の自動変速機11は、車両の駆動源としての内燃機関(「エンジン」ともいう。)12で発生した駆動力を、車両の駆動輪13(例えば前輪)に伝達するための動力伝達経路上に配置されている。こうした自動変速機11は、該自動変速機11の前側に配置される内燃機関12の駆動に基づき回転するクランクシャフト14から駆動力(「トルク」ともいう。)が伝達される発進装置15と、自動変速機11の変速制御を行う変速機構部16とを備えている。また、自動変速機11は、発進装置15を介して伝達される内燃機関12からの駆動力に基づき駆動する第1のポンプOP1と、変速機構部16よりも動力伝達経路において駆動輪13側に配置される駆動力伝達機構17とをさらに備えている。そして、動力伝達経路において駆動力伝達機構17の駆動輪13側には、伝達された駆動力を各駆動輪13に分配制御するディファレンシャル機構18が設けられている。
【0020】
発進装置15は、ポンプインペラ20、ステータ21及びタービン22を有するトルクコンバータ19を備えている。ポンプインペラ20には、クランクシャフト14が動力伝達可能な状態で連結されると共に、タービン22には、変速機構部16の入力軸16aが動力伝達可能な状態で連結されている。そして、内燃機関12(即ち、クランクシャフト14)の回転に基づきポンプインペラ20が回転した場合に、該回転が発進装置15内の液体としての作動油を介してタービン22に伝達されることにより、内燃機関12で発生した駆動力が入力軸16aを介して変速機構部16に伝達される。また、発進装置15は、ロックアップクラッチ23を備えている。このロックアップクラッチ23が係合した場合には、該ロックアップクラッチ23を介してポンプインペラ20とタービン22が機械的に接続される。そのため、内燃機関12で発生した駆動力は、作動油を介することなく変速機構部16に直接伝達される。
【0021】
また、トルクコンバータ19のポンプインペラ20には、変速機構部16の入力軸16aの外径よりも大きな内径を有する略円筒形状の第1ポンプ駆動軸24が動力伝達可能な状態で連結されている。そして、第1ポンプ駆動軸24の後端側(図1では左端側)には、第1のポンプOP1(例えば、ギヤポンプ)が連結されている。そして、第1のポンプOP1は、第1ポンプ駆動軸24を介して内燃機関12で発生した駆動力が伝達された場合には、変速機構部16の重力方向における下方側に位置するオイルタンク25(図4参照)に貯留される作動油を吸入し、後述する油圧発生回路26(図4参照)に向けて吐出する。
【0022】
変速機構部16は、前側部位が発進装置15内に位置する入力軸16aと、駆動力を駆動力伝達機構17側に出力するためのリング状の出力ギヤ(ヘリカルギヤ)27とを備えている。また、変速機構部16には、複数のギヤ、クラッチ、ブレーキ及び軸受などの摩擦係合要素(図示略)が設けられている。そして、これら各摩擦係合要素のうち自動変速機11の変速制御時に作動する各摩擦係合要素(クラッチやブレーキなど)は、油圧発生回路26から作動油が供給されることにより、それぞれ作動する。すなわち、入力軸16aを介して変速機構部16に伝達された駆動力は、図示しない制御装置からの制御指令によって設定された変速段に応じた大きさに調整され、該調整された駆動力が、出力ギヤ27を介して駆動力伝達機構17に伝達される。
【0023】
駆動力伝達機構17は、変速機構部16の入力軸16aと略平行に配置される略円筒形状のカウンタシャフト(回転部材)30を備えている。このカウンタシャフト30は、図1において左右方向(「前後方向」ともいう。)に延びる軸線S1(図2参照)を中心に正逆両方向に回転可能であって、且つ前後方向に移動可能な状態で軸受31を介して図示しないケース本体に支持されている。すなわち、カウンタシャフト30は、該カウンタシャフト30にスラスト力が付与された場合、該スラスト力の向きに応じた方向に移動する。また、カウンタシャフト30は、車両を前進させるための駆動力が変速機構部16から伝達された場合には正方向に回転する一方、車両を後進させるための駆動力が変速機構部16から伝達された場合には正方向とは反対の逆方向に回転する。
【0024】
カウンタシャフト30の前後方向(長手方向)における中途位置には、変速機構部16の出力ギヤ27に噛合する入力ギヤ(ヘリカルギヤ)32が一体回転可能な状態で設けられている。すなわち、動力伝達経路上においてカウンタシャフト30と変速機構部16との間には、ヘリカルギヤ対42A(出力ギヤ27及び入力ギヤ32)が配置されている。また、カウンタシャフト30の前側には、該カウンタシャフト30に一体回転可能であって、且つ該カウンタシャフト30に対して前後方向に相対移動不能な状態で支持されるリング状の出力ギヤ(ヘリカルギヤ)33が設けられている。
【0025】
また、カウンタシャフト30の後端側には、該カウンタシャフト30の前後方向における位置によって、係合状態又は解放状態となる係合機構34と、該係合機構34の後側に配置されるクラッチ機構35とが設けられている。さらに、クラッチ機構35の後側には、カウンタシャフト30側からの駆動力が伝達された場合に駆動する第2のポンプOP2が設けられている。なお、係合機構34、クラッチ機構35及び第2のポンプOP2の構成については、後述するものとする。
【0026】
ディファレンシャル機構18は、駆動力伝達機構17の出力ギヤ33に噛合するヘリカルギヤとしてのリングギヤ40と、ディファレンシャルギヤ41とを備えている。すなわち、動力伝達経路上においてカウンタシャフト30とディファレンシャルギヤ41(駆動輪13側)との間には、ヘリカルギヤ対42B(出力ギヤ33及びリングギヤ40)が配置されている。そして、内燃機関12の駆動時には、ディファレンシャルギヤ41を介して出力された駆動力が駆動輪13に伝達されることにより、車両が走行する。一方、ディファレンシャル機構18は、内燃機関12の非駆動時において駆動輪13が回転する場合(例えば、車両の惰性走行時や牽引時)には、駆動輪13の回転に基づく駆動力によって駆動され、該駆動力を駆動力伝達機構17側に伝達する。
【0027】
なお、各駆動輪13は、図1ではカウンタシャフト30の延びる方向に沿って配置されているが、実際には、カウンタシャフト30の延びる方向、即ち前後方向と略直交する左右方向に沿ってそれぞれ配置されている。そして、ディファレンシャル機構18は、内燃機関12側から伝達された駆動力を、左右両側に配置される各駆動輪13に伝達する。
【0028】
本実施形態では、上記動力伝達経路においてカウンタシャフト30の一方側と他方側には、ヘリカルギヤ対42A,42Bがそれぞれ配置されている。そのため、カウンタシャフト30には、前方向(第1の方向であって、図1では破線矢印の示す方向)又は後方向(第2の方向であって、図1では実線矢印の示す方向)へのスラスト力が、2つのヘリカルギヤ対42A,42Bによって付与される。具体的には、内燃機関12の駆動時において、図示しないアクセルペダルがオフであって且つ車両の減速時(即ち、内燃機関12からの駆動力がカウンタシャフト30に伝達されないとき)に、カウンタシャフト30には、前方へのスラスト力が付与される。また、内燃機関12の駆動時において車両が後方に移動する場合に、カウンタシャフト30には、前方向へのスラスト力が付与される。また、内燃機関12の停止時において、車両を前方に移動させる方向に駆動輪13が回転する場合についても、カウンタシャフト30には、前方向へのスラスト力が付与される。このように前方へのスラスト力が付与された場合、カウンタシャフト30は、前方に移動する。その一方で、内燃機関12の駆動時において、車両を前方に向けて加速又は速度を維持させるような駆動力が変速機構部16からカウンタシャフト30に伝達される場合、カウンタシャフト30には、後方向へのスラスト力が付与され、結果として、カウンタシャフト30は、後方に移動する。したがって、本実施形態では、2つのヘリカルギヤ対42A,42Bによって、カウンタシャフト30に伝達するスラスト力の向きを切り替える切り替え機構が構成される。なお、本実施形態では、「内燃機関12の駆動時」とは、該内燃機関12に燃料が供給される場合を示す一方、「内燃機関12の停止時(又は非駆動時)」とは、該内燃機関12に燃料が供給されない場合を示す。
【0029】
次に、第2のポンプOP2について説明する。
図2(a)(b)に示すように、カウンタシャフト30の後方には、後側に開口する収容凹部50を有するポンプハウジング51と、該収容凹部50の開口を閉塞する閉塞部材52とが設けられている。ポンプハウジング51の底壁には、カウンタシャフト30の軸線S1を中心とした断面略円形状の挿通孔53が形成されている。そして、ポンプハウジング51は、挿通孔53内に挿通される第2ポンプ駆動軸54を回転自在な状態で支持している。すなわち、第2ポンプ駆動軸54の前側部位は、ポンプハウジング51外に位置する一方、第2ポンプ駆動軸54の後側部位は、ポンプハウジング51内(即ち、収容凹部50内)に位置している。
【0030】
第2のポンプOP2は、収容凹部50内に配置される所謂ギヤポンプである。こうした第2のポンプOP2は、第2ポンプ駆動軸54に嵌合状態で取り付けられる円環状のドライブギヤ55と、該ドライブギヤ55の外周側に配置された円環状のドリブンギヤ56とを備えている。ドライブギヤ55の外周側に設けられた複数の歯車(図示略)は、ドリブンギヤ56の内周側に設けられた複数の歯車(図示略)に噛合する。すなわち、第2のポンプOP2は、第2ポンプ駆動軸54を介して駆動力が伝達された場合にはドライブギヤ55が偏心した状態で回転し、オイルタンク25に貯留される作動油を吸入して該作動油を後述する油圧発生回路26(図4参照)に向けて吐出する。
【0031】
次に、クラッチ機構35について説明する。
図2(a)(b)に示すように、第2ポンプ駆動軸54とカウンタシャフト30との間には、該カウンタシャフト30の内径よりも小さい外径を有する略円筒形状の第1連結軸部材60(図3参照)と、該第1連結軸部材60の内径よりも小さい外径を有する略円柱形状の第2連結軸部材61とが設けられている。これら各連結軸部材60,61は、カウンタシャフト30の回転中心である軸線S1(図2では一点鎖線で示す。)を中心に回転自在である。第2連結軸部材61の前側部位は、第1連結軸部材60内に位置している。
【0032】
また、第1連結軸部材60内の後端には円環状の封止部材90が設けられており、該封止部材90の内周部には前記第2連結軸部材61が摺接している。また、第2連結軸部材61の前端にはフランジ部91が設けられており、該フランジ部91には、第1連結軸部材60の内周側に形成されたリブ92を収容する図示しない溝部が形成されている。すなわち、第2連結軸部材61は、第1連結軸部材60にスプライン嵌合されている。その結果、第2連結軸部材61は、第1連結軸部材60と一体回転可能であって、且つ該第1連結軸部材60を基準として前後方向に相対移動可能である。
【0033】
さらに、第1連結軸部材60内には、該第1連結軸部材60の内周面、第2連結軸部材61の外周面、封止部材90及びフランジ部91によって内部空間93が形成されている。また、第1連結軸部材60には、内部空間93と第1連結軸部材60外とを連通する連通孔94が形成されている。そして、内部空間93内には、油圧発生回路26の第3油圧調整回路77(図4参照)から連通孔94を介して作動油が供給される。
【0034】
クラッチ機構35は、第2ポンプ駆動軸54の前端に設けられる略円形状の第1摩擦係合部材62と、第2連結軸部材61の後端に設けられる略円形状の第2摩擦係合部材63とを備えている。この第2摩擦係合部材63は、第1摩擦係合部材62に対向した状態で配置されている。また、クラッチ機構35は、第2摩擦係合部材63を第1摩擦係合部材62に接近させる方向(この場合、前方向)に付勢する付勢部材64をさらに備えている。
【0035】
そして、内部空間93内に作動油が供給された場合には、該内部空間93内の作動油圧によって、第2摩擦係合部材63及び第2連結軸部材61に前方への押圧力が付与される。その結果、第2摩擦係合部材63は、付勢部材64から付与される付勢力に抗して前方に移動し、第1摩擦係合部材62から離間する、即ちクラッチ機構35は解放状態となる。一方、内部空間93内に作動油が供給されない場合には、第2摩擦係合部材63及び第2連結軸部材61に前方への押圧力が付与されない。その結果、第2摩擦係合部材は、付勢部材64からの付勢力によって後方に移動し、第1摩擦係合部材62に係合する、即ちクラッチ機構35は係合状態となる。その結果、第1連結軸部材60側からの駆動力が、クラッチ機構35を介して第2のポンプOP2に伝達され、該第2のポンプOP2が駆動する。
【0036】
次に、係合機構34について説明する。
図3(a)(b)に示すように、第1連結軸部材60の前側部位は、カウンタシャフト30内に位置している。第1連結軸部材60は、前後方向に移動不能な状態で、図示しない軸受などによって支持されている。すなわち、カウンタシャフト30と第1連結軸部材60との位置関係は、カウンタシャフト30が前後方向に移動した場合には変わる。
【0037】
係合機構34は、カウンタシャフト30の後端側であって該カウンタシャフト30の内周側に配置される円環状の係合部材70と、第1連結軸部材60の外周側に配置される円環状の被係合部材71とを備えている。そして、カウンタシャフト30が前方に移動した場合、係合部材70は、カウンタシャフト30と共に前方に移動し、被係合部材71に係合する。その結果、カウンタシャフト30から第1連結軸部材60に駆動力が伝達され、該第1連結軸部材60は、カウンタシャフト30と共に一体回転する。一方、カウンタシャフト30が後方に移動した場合、係合部材70は、カウンタシャフト30と共に後方に移動し、被係合部材71から離間する。その結果、第1連結軸部材60には、カウンタシャフト30から駆動力が伝達されなくなる。
【0038】
次に、本実施形態の自動変速機11の油圧発生回路の概略構成について説明する。
図4に示すように、液圧調整回路としての油圧発生回路26(図4にて破線で囲まれた部分)は、変速機構部16の重力方向における下側に配置されている。こうした油圧発生回路26は、第1発生回路としての第1油圧調整回路75と、第2発生回路としての第2油圧調整回路76と、液体供給部としての第3油圧調整回路77とを備えている。第1油圧調整回路75は、自動変速機11の変速制御を行うために必要な油圧を調整するための油圧回路であって、各種バルブ(図示略)及び図示しない制御装置からの制御指令に基づき作動するソレノイド弁(図示略)などを備えている。例えば自動変速機11の変速段を第1速にするための制御指令が入力された場合、第1油圧調整回路75は、変速段を第1速にするために必要なクラッチやブレーキが作動するように、該クラッチやブレーキに対して作動油を供給する、即ち該クラッチやブレーキに対する油圧をバルブなどにより調整する。
【0039】
第2油圧調整回路76は、自動変速機11を構成する各種潤滑必要部材(例えば、軸受、ギヤ及び摩擦係合要素)を潤滑させるために必要な潤滑油圧を調整するための油圧回路である。すなわち、第2油圧調整回路76から各種潤滑必要部材に対して作動油が供給されることにより、各種潤滑必要部材の発熱や摩耗が抑制される。
【0040】
第3油圧調整回路77は、クラッチ機構35を制御するために必要な油圧を調整するための油圧回路である。すなわち、第3油圧調整回路77は、内部空間93内に連通孔94を介して作動油を供給する。つまり、クラッチ機構35は、第3油圧調整回路77で調整された油圧に基づく押圧力によって作動する。
【0041】
油圧発生回路26と各ポンプOP1,OP2との間には、各油圧調整回路75〜77に作動油を供給するための供給流路80が設けられている。この供給流路80には、第1のポンプOP1から吐出された作動油が第2のポンプOP2内に流入することを規制する第1弁機構81(「逆流防止弁」ともいう。)が設けられている。また、供給流路80には、第2のポンプOP2から吐出された作動油が第1のポンプOP1、第1油圧調整回路75及び第3油圧調整回路77内に流入することを規制する第2弁機構82(「逆流防止弁」ともいう。)が設けられている。
【0042】
その結果、第1のポンプOP1の駆動時では、各油圧調整回路75〜77に作動油が供給される。また、第2のポンプOP2のみが駆動する場合では、第2油圧調整回路76に作動油が供給される一方で、第1油圧調整回路75及び第3油圧調整回路77に作動油が供給されない。したがって、本実施形態では、供給流路80及び第1弁機構81により、第1のポンプOP1から各油圧調整回路75〜77への作動油の供給を許容する第1液体供給機構が構成される。また、供給流路80及び第2弁機構82により、第2のポンプOP2から第1油圧調整回路75及び第3油圧調整回路77への作動油の供給を規制する一方で、第2のポンプOP2から第2油圧調整回路76への作動油の供給を許容する第2液体供給機構が構成される。
【0043】
次に、本実施形態の自動変速機11の作用について、図5に示すタイミングチャートに基づき説明する。なお、前提として、平坦路を車両が前方に走行する場合に、車両が減速し、その減速途中で内燃機関12が停止し、その後、車両が停止するものとする。
【0044】
さて、車両の前方への走行時(以下、単に「車両の走行時」と略記する。)には、運転手による図示しないアクセルペダルの操作量に応じた燃料が内燃機関12に供給される。この場合、自動変速機11において切り替え機構(2つのヘリカルギヤ対42A,42B)からは、カウンタシャフト30に対して、後方へのスラスト力が付与される。そのため、図5に示すように、カウンタシャフト30は、付与されるスラスト力の向き(後方)に基づき後方に移動する。その結果、係合機構34は、カウンタシャフト30から第1連結軸部材60への駆動力の伝達を遮断する。すなわち、カウンタシャフト30の後端に設けられた係合部材70は、第1連結軸部材60の前端に設けられた被係合部材71から離間している(図3(a)参照)。
【0045】
また、内燃機関12の駆動時には、第1のポンプOP1の駆動によって、油圧発生回路26の第3油圧調整回路77に作動油が供給される。すると、第3油圧調整回路77からは、調圧された作動油が内部空間93内に供給される。そのため、クラッチ機構35では、第2摩擦係合部材63及び第2連結軸部材61は、内部空間93内に発生する作動油圧に基づく押圧力が付与されることにより、付勢部材64からの付勢力に抗して前方に移動している(図2(a)参照)。したがって、第2のポンプOP2は、カウンタシャフト30側から駆動力が伝達されないため、駆動しない。
【0046】
ところで、運転手によるアクセルペダルの操作が解消されると、空気抵抗などの走行抵抗により車両は減速し始める(第1のタイミングt1)。このとき、内燃機関12側からカウンタシャフト30への駆動力の伝達から、カウンタシャフト30から内燃機関12側への駆動力の伝達に切り替わるため、2つのヘリカルギヤ対42A,42Bからカウンタシャフト30に伝達されるスラスト力の向きが変更される。その結果、カウンタシャフト30は、2つのヘリカルギヤ対42A,42Bから付与される前方へのスラスト力に基づき前方に移動する。すると、カウンタシャフト30の後端に設けられた係合部材70は、第1連結軸部材60の前端に設けられた被係合部材71に接近して係合する。すなわち、係合機構34は、カウンタシャフト30から第1連結軸部材60への駆動力の伝達を許容する(図3(b)参照)。そのため、カウンタシャフト30からの駆動力が係合機構34を介して伝達される第1連結軸部材60は、カウンタシャフト30と共に正方向に回転する。
【0047】
しかし、この場合であっても、内燃機関12が駆動しているため、内部空間93内には、第3油圧調整回路77から作動油が供給される。その結果、クラッチ機構35は、第2のポンプOP2への駆動力の伝達を遮断する(図2(a)参照)。すなわち、第2のポンプOP2は駆動しない。
【0048】
その後、車両の車体速度が所定の速度以下になると、車両の停止前に内燃機関12が停止する(第2のタイミングt2)。すると、内燃機関12で発生される駆動力が急激に小さくなり、結果として、内燃機関12で駆動力が発生しなくなる(即ち、いわゆるエンジンブレーキ状態となる)。すなわち、第2のタイミングt2以降では、第1のポンプOP1の駆動が停止し、各油圧調整回路75〜77には、第1のポンプOP1から作動油が供給されなくなる。
【0049】
すると、第1油圧調整回路75では、自動変速機11の変速段を制御するために必要な油圧が調圧されなくなる。そのため、変速機構部16の各クラッチ及び各ブレーキが全て解放される。また、第3油圧調整回路77から内部空間93内への作動油の供給も停止される。その結果、クラッチ機構35では、第2摩擦係合部材63は、付勢部材64からの付勢力によって後方に移動し、第1摩擦係合部材62に係合する。つまり、第2のポンプOP2への駆動力の伝達が、クラッチ機構35によって許容される(図2(b)参照)。
【0050】
また、第2のタイミングt2以降では、車両が惰性走行しているため、即ち駆動輪13が回転しているため、車両を前進させる方向に回転する駆動輪13で発生した駆動力が、ディファレンシャル機構18を介してカウンタシャフト30に伝達される。そのため、第2のポンプOP2には、駆動輪13で発生した駆動力が、カウンタシャフト30から係合機構34及びクラッチ機構35を介して伝達される(図3(b)参照)。
【0051】
すると、第2のポンプOP2からは、伝達される駆動力に基づき、作動油が油圧発生回路26側に供給される(第3のタイミングt3)。このとき、供給流路80には、第2弁機構82が設けられているため、第2のポンプOP2から供給される作動油が第1のポンプOP1内に流入することが抑制されると共に、第2のポンプOP2から供給される作動油が第1油圧調整回路75及び第3油圧調整回路77に流入されることが抑制される。すなわち、本実施形態では、第2のポンプOP2から供給される作動油は、各油圧調整回路75〜77のうち第2油圧調整回路76に流入する。
【0052】
すると、第2油圧調整回路76では、自動変速機11を構成する各種潤滑必要部材を潤滑させるために必要な潤滑油圧が調圧される。その結果、第2油圧調整回路76から各種潤滑必要部材に対して作動油が供給されることにより、各種潤滑必要部材の発熱や摩耗が抑制される。
【0053】
その後、駆動輪13の回転速度が非常に低速になる(即ち、車両が停止直前になる)と、第2のポンプOP2に伝達される駆動力も非常に小さくなる(第4のタイミングt4)。その結果、第2のポンプOP2に伝達される駆動力の低下に応じて、第2のポンプOP2からの作動油の単位時間あたりの吐出量が徐々に少なくなる。そして、駆動輪13が停止すると、即ち車両が停止すると、第2のポンプOP2には駆動力が伝達されなくなり、結果として、第2のポンプOP2が停止される。すると、自動変速機11内での潤滑用の作動油の流動が停止される。
【0054】
また、内燃機関12が停止した車両が前方に向けて牽引される場合であっても、駆動輪13が路面に接地するときには、駆動輪13の回転に基づく駆動力が、ディファレンシャル機構18及び出力ギヤ33を介してカウンタシャフト30に伝達される。このとき、カウンタシャフト30が2つのヘリカルギヤ対42A,42Bから付与されるスラスト力によって前方に移動するため、係合機構34は、第2のポンプOP2側への動力伝達を許容する。また、内部空間93内には第1のポンプOP1の駆動に基づいた作動油が第3油圧調整回路77から供給されないため、クラッチ機構35は、第2のポンプOP2への動力伝達を許容する。そのため、駆動輪13で発生した駆動力は、ディファレンシャル機構18、ヘリカルギヤ対42B、カウンタシャフト30、係合機構34及びクラッチ機構35を介して第2のポンプOP2に伝達される。すると、第2のポンプOP2が駆動し、自動変速機11内では、該自動変速機11を構成する各種潤滑必要部材を潤滑させるために作動油が循環する。
【0055】
したがって、本実施形態では、以下に示す効果を得ることができる。
(1)カウンタシャフト30は、2つのヘリカルギヤ対42A,42Bから伝達されるスラスト力の向きによって、前側に移動したり、後側に移動したりする。そして、第2のポンプOP2は、駆動輪13の回転時においてカウンタシャフト30が前側に移動した場合には作動油を吐出すべく駆動する一方、カウンタシャフト30が後側に移動した場合には駆動輪13の回転又は停止に関係なく駆動しない。すなわち、カウンタシャフト30が前側に移動したり、後側に移動したりすることにより、第2のポンプOP2の駆動と非駆動とを適宜切り替えることができる。しかも、第2のポンプOP2を電動式のポンプにする場合と比較して、第2のポンプ専用の電動機を設ける必要がない分、自動変速機11の小型化に貢献できる。また、第2のポンプOP2の駆動・非駆動の切り替えを制御する必要がない分、自動変速機11を制御する制御装置の制御負荷を低減させることができる。したがって、第2のポンプOP2の駆動・非駆動の切り替えを簡単な構成で行うことができる。
【0056】
(2)本実施形態では、内燃機関12の駆動時(即ち、内燃機関12に燃料が供給される場合)には、第1のポンプOP1が駆動することにより、自動変速機11内に作動油が供給される。一方、内燃機関12の非駆動時(即ち、内燃機関12への燃料の非供給時)において駆動輪13が車両を前進させる方向に回転する場合には、第2のポンプOP2が駆動することにより、自動変速機11内に作動油が供給される。そのため、内燃機関12の非駆動時において駆動輪13が車両を前進させる方向に回転する場合には、第2のポンプOP2から吐出された作動油によって、自動変速機11を構成する潤滑必要部材の焼き付きの抑制を図ることができる。
【0057】
なお、「内燃機関12の非駆動時において駆動輪13が車両を前進させる方向に回転する場合」とは、車両の前進中に内燃機関12が意図的又は非意図的に停止した場合、内燃機関12の停止中に車両を牽引する場合などが挙げられる。
【0058】
(3)内燃機関12の停止時には、自動変速機11の変速段を維持させたり、変更させたりする必要がない。そこで、本実施形態では、第1のポンプOP1が停止中であって且つ第2のポンプOP2が駆動中である場合には、第1油圧調整回路75への作動油の供給が規制される。そのため、第2のポンプOP2から吐出される作動油が第1油圧調整回路75に供給される場合と比較して、第2のポンプOP2の作動油の単位時間あたりの吐出量を少なくしてもよい分、第2のポンプOP2を小型化させることができる。また、自動変速機11全体を小型化させることができる。
【0059】
(4)また、本実施形態では、第2のポンプOP2は、カウンタシャフト30の軸線S1に沿う方向側に配置されている。すなわち、第2のポンプOP2のドライブギヤ55の回転軸は、カウンタシャフト30の回転軸でもある軸線S1と同軸である。そのため、第2のポンプOP2が軸線S1と交差する方向側に配置される場合と比較して、自動変速機11の幅方向(前後方向とは交差する方向)における小型化に貢献できる。
【0060】
(5)第2のポンプOP2を駆動させる必要がない場合、即ち第1のポンプOP1が駆動している場合には、クラッチ機構35によって、該第2のポンプOP2への駆動力の伝達が規制される。そのため、第2のポンプOP2の駆動が不必要なときにも該第2のポンプOP2に駆動力が伝達される場合と比較して、第2のポンプOP2の駆動に伴う自動変速機11の負荷の増大を抑制できる。すなわち、自動変速機11を搭載する車両の燃費向上に貢献できる。なお、第2のポンプOP2を駆動させる必要がない場合には、内燃機関12の駆動によって車両が後進する場合などが含まれる。
【0061】
(6)また、クラッチ機構35は、第1のポンプOP1が駆動する場合には該第1のポンプOP1から吐出された作動油の一部が供給されることにより、カウンタシャフト30側から第2のポンプOP2への駆動力の伝達を遮断する。そのため、例えばクラッチ機構35として電磁式のクラッチを用いる場合とは異なり、第2のポンプOP2の駆動又は停止を制御装置側で制御する必要がない。したがって、クラッチ機構35として電磁式のクラッチを用いる場合と比較して、自動変速機11の制御負荷を低減させることができる。
【0062】
(7)複数のギヤを組み合わせて、駆動源で発生した駆動力を被駆動部材に伝達する機構では、該機構の駆動時の静粛性を向上させる目的でヘリカルギヤを用いることがある。こうしたヘリカルギヤは、駆動時に、該ヘリカルギヤに連結される連結部材(本実施形態でいうカウンタシャフト30)に対してスラスト力を付与する。そのため、上記機構には、スラスト力が付与される連結部材の移動を抑制する構成が、一般的に、設けられる。
【0063】
しかしながら、本実施形態の自動変速機11では、スラスト力の付与に基づくカウンタシャフト30の移動を利用し、第2のポンプOP2の駆動又は停止が制御される。したがって、電気機器を用いることなく、第2のポンプOP2を適切なタイミングで駆動させることができる。
【0064】
なお、上記実施形態は、以下のような別の実施形態に変更してもよい。
・実施形態において、内燃機関12の停止時において車両が後退する場合でも、自動変速機11内で作動油を循環させるための構成を設けてもよい。例えば、図6に示すように、カウンタシャフト30の前側に、第3のポンプOP3を設け、カウンタシャフト30と第3のポンプOP3との間に、他の係合機構34A及び他のクラッチ機構35Aを設けてもよい。ただし、他の係合機構34Aは、係合機構34と略同一構成であることが好ましく、他のクラッチ機構35Aは、クラッチ機構35と略同一構成であることが好ましい。
【0065】
この場合、内燃機関12の駆動時には、他のクラッチ機構35は、カウンタシャフト30側から第3のポンプOP3側への駆動力の伝達を遮断する。また、2つのヘリカルギヤ対42A,42Bによって付与されるスラスト力によって、カウンタシャフト30が前方に移動する場合には、他の係合機構34Aは、カウンタシャフト30側から第3のポンプOP3側への駆動力の伝達を遮断する。一方、内燃機関12の停止時において、車両を後進させるべく駆動輪13が回転するときには、2つのヘリカルギヤ対42A,42Bによって付与されるスラスト力によって、カウンタシャフト30が後方に移動し、他の係合機構34Aは、カウンタシャフト30側から第3のポンプOP3側への駆動力の伝達を許容する。また、他のクラッチ機構35Aは、作動油が供給されなくなるため、カウンタシャフト30側から第3のポンプOP3側への駆動力の伝達を許容する。その結果、第3のポンプOP3は、車両を後方に移動させるべく回転する駆動輪13からの駆動力が伝達されることにより駆動する。
【0066】
このように構成した場合、内燃機関12の停止時において、車両を後進させるべく駆動輪13が回転するときに、第3のポンプOP3が駆動し、該第3のポンプOP3から吐出される作動油が自動変速機11内に供給される。したがって、自動変速機11を構成する各種潤滑必要部材の焼き付けを抑制できる。
【0067】
・実施形態において、第2のポンプOP2を、カウンタシャフト30の前側に配置してもよい。この場合、係合機構34及びクラッチ機構35を、カウンタシャフト30の前側に配置してもよい。このように構成すると、上記実施形態の場合と比較して、第2のポンプOP2を第1のポンプOP1に近い位置に配置できる分、第2のポンプOP2と油圧発生回路26とを連結する供給流路80を小型化できる。
【0068】
・実施形態において、第2のポンプOP2を、カウンタシャフト30の側方に配置してもよい。
・実施形態において、クラッチ機構35を省略してもよい。このように構成しても、内燃機関12の停止時において車両が前進する場合には、回転する駆動輪13で発生する駆動力が第2のポンプOP2に伝達されることにより、該第2のポンプOP2を駆動させることができる。
【0069】
・実施形態において、クラッチ機構35は、電磁式のクラッチであってもよい。この場合、内燃機関12の駆動を監視する制御装置は、内燃機関12が停止した場合には係合状態とする旨の制御指令をクラッチ機構35に出力する一方、内燃機関12の駆動時には解放状態とする旨の制御指令をクラッチ機構35に出力する。このように構成すると、内燃機関12の駆動時に第2のポンプOP2が駆動することを抑制できる。
【0070】
・実施形態において、係合機構34は、複数のギヤを有した構成でもよい。また、係合機構34は、カウンタシャフト30が前方に移動した場合に、該カウンタシャフト30の後端に設けられたキーが、第1連結軸部材60の後端に形成されたキー溝に嵌合する構成であってもよい。
【0071】
・実施形態において、自動変速機11を、車両の進行方向に対して内燃機関12の右側や左側に配置してもよい。この場合、カウンタシャフト30は、車両の左右方向に延びるように配置されることになる。
【0072】
・本発明の自動変速機を、有段式の自動変速機ではなく、無段式の自動変速機に具体化してもよい。
・実施形態において、車両の駆動源は、モータなどの電動機であってもよい。また、車両の駆動源は、内燃機関と電動機とを備えた構成であってもよい。なお、電動機の駆動時とは、該電動機に電力が供給されていることである。
【0073】
次に、上記実施形態及び別の実施形態から把握できる技術的思想を以下に追記する。
(イ)車両の駆動輪の回転によって発生する駆動力が伝達された場合に、該駆動力に基づき液圧を発生させる第3のポンプと、
前記回転部材が前記第1の方向に移動した場合には前記回転部材から前記第3のポンプへの駆動力の伝達を遮断する一方、前記回転部材が前記第2の方向に移動した場合には前記回転部材から前記第3のポンプへの駆動力の伝達を許容する他の係合機構と、をさらに備えることを特徴とする。
【符号の説明】
【0074】
11…自動変速機、12…車両の駆動源としての内燃機関、13…駆動輪、16…変速機構部、26…液圧調整回路としての油圧発生回路、30…回転部材としてのカウンタシャフト、34…係合機構、34A…他の係合機構、35…クラッチ機構、40…リングギヤ、42A,42B…切り替え機構を構成するヘリカルギヤ対、75…第1発生回路としての第1油圧調整回路、76…第2発生回路としての第2油圧調整回路、77…液体供給部としての第3油圧調整回路、81…第1液体供給機構としての第1弁機構、82…第2液体供給機構としての第2弁機構、OP1…第1のポンプ、OP2…第2のポンプ、OP3…第3のポンプ、S1…軸線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
供給される液体に基づき駆動する変速機構部と、
車両の駆動源から伝達される駆動力に基づき、液体を吐出する第1のポンプと、
車両の駆動輪の回転によって発生する駆動力が伝達された場合に、該駆動力に基づき液体を吐出する第2のポンプと、
前記車両の駆動源及び前記駆動輪のうち少なくとも一方から伝達される駆動力に基づき軸線を中心に回転自在であって、且つ該軸線に沿う方向に移動自在な回転部材と、
前記変速機構部及び前記回転部材の間で動力伝達を行うヘリカルギヤ対及び前記回転部材及び前記駆動輪側のディファレンシャル機構との間で動力伝達を行うヘリカルギヤ対を有し、前記回転部材に伝達するスラスト力の向きを切り替える切り替え機構と、
前記切り替え機構から伝達されるスラスト力によって、前記回転部材が第1の方向に移動した場合には該回転部材から前記第2のポンプへの駆動力の伝達を許容し、前記回転部材が前記第1の方向とは反対の第2の方向に移動した場合には該回転部材から前記第2のポンプへの駆動力の伝達を遮断する係合機構と、を備えることを特徴とする自動変速機。
【請求項2】
前記係合機構は、前記車両の駆動源の非駆動時において前記駆動輪が車両を前進させる方向に回転する場合には、前記切り替え機構からのスラスト力によって前記回転部材が前記第1の方向に移動することにより、該回転部材から前記第2のポンプへの駆動力の伝達を許容することを特徴とする請求項1に記載の自動変速機。
【請求項3】
前記自動変速機の変速制御を行うための液圧を発生する第1発生回路及び前記自動変速機内の潤滑を行うための液圧を発生する第2発生回路を有する液圧調整回路と、
前記第1のポンプから前記各発生回路への液体の供給を許容する第1液体供給機構と、
前記第2のポンプから前記第1発生回路への液体の供給を規制する一方で、前記第2のポンプから前記第2発生回路への液体の供給を許容する第2液体供給機構と、をさらに備えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の自動変速機。
【請求項4】
前記係合機構から前記第2のポンプへの動力伝達の接・断制御を行うクラッチ機構をさらに備えることを特徴とする請求項1〜請求項3のうち何れか一項に記載の自動変速機。
【請求項5】
前記第1のポンプから吐出される液体の一部を前記クラッチ機構に供給する液体供給部をさらに備え、
前記クラッチ機構は、前記液体供給部を介して液体が供給される場合には前記回転部材側から前記第2のポンプへの動力伝達を遮断する一方、前記液体供給部を介して液体が供給されない場合には前記回転部材側から前記第2のポンプへの動力伝達を許容することを特徴とする請求項4に記載の自動変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−214613(P2011−214613A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81274(P2010−81274)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】