説明

自動変速機

【課題】遠心バランス室が摩擦板と軸方向にオーバーラップして配設される自動変速機において、軸方向におけるコンパクト化を維持しつつ、燃費の悪化を抑制する。
【解決手段】第2ドラム27と第2ハブ37とを締結する第2摩擦板17と、第2摩擦板17よりも径方向内側に位置する第2締結油圧室67及び第2遠心バランス室77と、第2締結油圧室67と第2遠心バランス室77とを軸方向に仕切り、且つ、これらの室内の作動油の圧力差に基いて、第2摩擦板17を締結又は解放させる第2ピストン47と、を有し、第2遠心バランス室77が第2摩擦板17と軸方向にオーバーラップして配設される第2クラッチ7を備えた自動変速機1である。第2遠心バランス室77内の作動油を第2摩擦板17と軸方向にオーバーラップしない位置に排出するための、ボス部41に形成された軸方向に延びる第2油路9をさらに備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心バランス室が摩擦板と軸方向にオーバーラップして配設される自動変速機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、クラッチ(摩擦締結要素)を締結又は解放させるピストンの締結油圧室の圧力が設定値を超えて過度に上昇する等の不具合の発生を抑えるために、ピストンを挟んで締結油圧室の反対側に、遠心油圧相殺用の遠心バランス室を設け、かかる遠心バランス室に作動油を貯えることにより、締結油圧室だけでなく遠心バランス室においても同レベルの遠心油圧を発生させて、これら締結油圧室及び遠心バランス室に発生した遠心油圧を互いに打ち消し合わせるようにした自動変速機が知られている。
【0003】
かかる自動変速機では、遠心バランス室から余分な作動油を排出する必要があるところ、例えば、特許文献1には、クラッチピストンとの間に遠心キャンセル室(遠心バランス室)を形成する遠心キャンセルプレート(シールプレート)に、作動油を外部へ排出するための長孔(貫通孔)を形成した自動変速機のドラムクラッチが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−32636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1のものでは、長孔が(より正確には長孔が形成された遠心キャンセルプレートが)摩擦板と入力軸の軸方向にオーバーラップして配設されていることから、長孔を通って遠心キャンセル室から排出された多量の作動油が、摩擦板にかかってしまい、かかる摩擦板の回転抵抗となって燃費を悪化させるという問題がある。
【0006】
このような問題を解決するために、遠心キャンセル室から排出された作動油が摩擦板にかからないようにすべく、摩擦板と遠心キャンセル室とを、軸方向にオーバーラップしない位置に配置することが考えられるが、かかる配置構造では、自動変速機自体の軸方向長さが長くなってしまい、自動変速機に対するコンパクト化の要求を満足することが困難となる。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、遠心バランス室が摩擦板と軸方向にオーバーラップして配設される自動変速機において、軸方向におけるコンパクト化を維持しつつ、燃費の悪化を抑制する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る自動変速機では、遠心バランス室と摩擦板との位置関係を変えることなく、遠心バランス室内の作動油を、摩擦板にかからない位置に排出するようにしている。
【0009】
具体的には、第1の発明は、入力軸を介して入力される駆動源からの動力を伝達するために、ドラムとハブとを締結するための摩擦板と、当該摩擦板よりも径方向内側に位置する締結油圧室及び遠心バランス室と、当該締結油圧室と当該遠心バランス室とを軸方向に仕切り、且つ、これらの室内の作動油の圧力差に基いて、当該摩擦板を締結又は解放させるピストンと、を有し、上記遠心バランス室が上記摩擦板と軸方向にオーバーラップして配設される摩擦締結要素、を備えた自動変速機を対象としている。
【0010】
そして、上記遠心バランス室内の作動油を、上記摩擦板と軸方向にオーバーラップしない位置に排出するための排出手段をさらに備えていることを特徴とするものである。
【0011】
第1の発明によれば、遠心バランス室と摩擦板との位置関係を変えることなく、遠心バランス室内の作動油が、排出手段によって摩擦板と(入力軸の)軸方向にオーバーラップしない位置に、換言すると、摩擦板にかからない位置に排出される。したがって、遠心バランス室と摩擦板とを軸方向にオーバーラップして配設することによる、自動変速機の軸方向におけるコンパクト化を維持しつつ、燃費の悪化を抑制することができる。
【0012】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記排出手段は、上記遠心バランス室よりも径方向内側に配設されていることを特徴とするものである。
【0013】
第2の発明によれば、摩擦板よりも径方向内側に位置する遠心バランス室よりもさらに径方向内側に、排出手段が配設されていることから、当該遠心バランス室と軸方向に並ぶ締結油圧室、摩擦板及びピストン等の配置構造に影響を与えることなく、遠心バランス室内の作動油を、摩擦板と軸方向にオーバーラップしない位置に排出することができる。
【0014】
第3の発明は、上記第2の発明において、上記入力軸を内挿して支持する筒状部材をさらに備え、上記排出手段は、上記筒状部材に形成された軸方向に延びる油路を有しており、上記油路の軸方向における反駆動源側の端部は、上記遠心バランス室と連通している一方、上記油路の軸方向における駆動源側の端部は、上記摩擦板と軸方向にオーバーラップしない位置で径方向に延びるように設けられた排出油路と連通していることを特徴とするものである。
【0015】
第3の発明によれば、新たな部材等を追加することなく、自動変速機の既存の構成部材を用いて、遠心バランス室よりも径方向内側に配設される排出手段を、好適に実現することができる。
【0016】
第4の発明は、上記第3の発明において、上記排出油路は、変速機ケースの軸方向における駆動源側の端部を閉塞するフロントカバーに最も近い摩擦締結要素のドラムよりもさらに、軸方向における駆動源側に形成されていることを特徴とするものである。
【0017】
第4の発明によれば、遠心バランス室内の作動油は、排出油路を介して、変速機ケースの軸方向における駆動源側の端部を閉塞するフロントカバーに最も近い摩擦締結要素のドラムの外側に排出されるので、摩擦板のみならず、かかるドラムの内側に設けられた差回転を生じる部材間に回転抵抗が発生するのを抑えることができる。
【0018】
第5の発明は、上記第3の発明において、上記ピストンとの間に上記遠心バランス室が形成されるように、当該ピストンと軸方向に対向して配置されるシールプレートと、上記筒状部材に外嵌合され且つ上記入力軸と連結されるとともに、その外周部で上記シールプレートの内周部を支持するスリーブと、をさらに備え、上記筒状部材の軸方向における反駆動源側の端部には、当該筒状部材の端部と上記入力軸と上記スリーブとによって囲まれる、上記油路が連通する略環状の空間が形成されており、上記スリーブには、上記空間と上記遠心バランス室とを連通する、径方向に延びる貫通孔が形成されており、上記遠心バランス室から上記空間を経由して上記油路に流れる作動油が、上記摩擦板側へリークするのを抑えるために、上記スリーブと上記入力軸とが溶接されていることを特徴とするものである。
【0019】
第5の発明によれば、遠心バランス室からスリーブに形成された貫通孔を通り、筒状部材の端部と入力軸とスリーブとによって囲まれる空間を経由して油路に流れる作動油が、摩擦板側へリークするのを抑えて、燃費の悪化を確実に抑制することができる。
【0020】
第6の発明は、上記第1〜第5のいずれか1つの発明において、上記入力軸を車幅方向に向けた横置きの配置で、車両に搭載されていることを特徴とするものである。
【0021】
第6の発明によれば、自動変速機の軸方向におけるコンパクト化が特に要求される、フロントエンジンフロントドライブ車において、燃費の悪化を抑制することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る自動変速機によれば、遠心バランス室が摩擦板と軸方向にオーバーラップして配設されるという、自動変速機の軸方向におけるコンパクト化に資する、遠心バランス室と摩擦板との位置関係を変えることなく、遠心バランス室内の作動油が、排出手段によって、摩擦板と軸方向にオーバーラップしない位置に排出されるので、自動変速機の軸方向におけるコンパクト化を維持しつつ、燃費の悪化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態に係る自動変速機のクラッチパックの、入力軸の軸線よりも上側の部分を示す縦断面図である。
【図2】フロントカバーを反トルクコンバータ側から見た背面図である。
【図3】フロントカバーの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0025】
図1は、本実施形態に係る自動変速機のクラッチパックの、入力軸の軸線よりも上側の部分を示す図である。この自動変速機1は、フロントエンジンフロントドライブ車等のエンジン横置き式自動車に搭載されていて、不図示のエンジン出力軸に取り付けられたトルクコンバータ(駆動源)11からの動力が入力軸13を介して入力される第1及び第2クラッチ5,7と、これらのクラッチ5,7の一方または両方から動力が入力される変速機構(図示せず)と、これら第1及び第2クラッチ5,7並びに変速機構を収納する変速機ケース31と、を備えている。なお、本実施形態においては、第1クラッチ5及び第2クラッチ7の構成要素とスリーブ23との組物を「クラッチパック3」と称している。また、以下の説明では、軸方向におけるトルクコンバータ側(駆動源側)を「フロント側」といい、軸方向における反トルクコンバータ側(反駆動源側)を「リヤ側」という。
【0026】
図1に示すように、第1クラッチ(摩擦締結要素)5は、多板クラッチであって、第1ドラム25及び第1ハブ35と、入力軸13を介して入力されるトルクコンバータ11からの動力を変速機構に伝達すべく、第1ドラム25と第1ハブ35とを締結するための複数の第1摩擦板15と、第1摩擦板15を締結又は解放するための第1ピストン45と、第1ピストン45を押圧するための作動油が供給される第1締結油圧室65及び第1遠心バランス室75と、第1ピストン45との間に第1遠心バランス室75が形成されるように、第1ピストン45と軸方向に対向して配置される第1シールプレート55と、を有している。
【0027】
同様に、第2クラッチ(摩擦締結要素)7も、多板クラッチであって、第2ドラム27及び第2ハブ37と、入力軸13を介して入力されるトルクコンバータ11からの動力を変速機構に伝達すべく、第2ドラム27と第2ハブ37とを締結するための複数の第2摩擦板17と、第2摩擦板17を締結又は解放するための第2ピストン47と、第2ピストン47を押圧するための作動油が供給される第2締結油圧室67及び第2遠心バランス室77と、第2ピストン47との間に第2遠心バランス室77が形成されるように、第2ピストン47と軸方向に対向して配置される第2シールプレート57と、を有している。
【0028】
複数の第1摩擦板15は、複数の第2摩擦板17と並列に、換言すると、複数の第2摩擦板17と入力軸13の軸方向にオーバーラップするように(入力軸13の径方向から見て、複数の第2摩擦板17と重なるように)、当該第2摩擦板17の径方向外側に配置されている。
【0029】
第1ドラム25は、複数の第1摩擦板15を当該第1摩擦板15の外周側で軸方向に移動可能に支持しており、第2クラッチ7の径方向外側及びフロント側を覆うように配置されていて、その内周側の端部25aが後述するスリーブ23に固定されている。一方、第1ハブ35は、複数の第1摩擦板15を当該第1摩擦板15の内周側で軸方向に移動可能に支持しており、第2クラッチ7のリヤ側を覆うように配置されていて、その内周側の端部35aがクラッチの出力部材33に連結されている。
【0030】
第1締結油圧室65及び第1遠心バランス室75は、第2クラッチ7のフロント側に隣接するように、その内周側の端部55aがスリーブ23に支持された第1シールプレート55と、第1ドラム25との間に位置しているとともに、これらの室内の作動油の圧力差に基いて、複数の第2摩擦板17を締結又は解放させる第1ピストン45によって、軸方向に仕切られている。換言すると、第1クラッチ5では、第1ドラム25と第1ピストン45とによって区画された空間が第1締結油圧室65を構成するとともに、第1ピストン45と第1シールプレート55とによって区画された空間が第1遠心バランス室75を構成している。
【0031】
なお、スリーブ23に接する第1ピストン45の内周側の端部45a、及び、第1ピストン45の内周面に接する第1シールプレート55の外周側の端部55bには、第1締結油圧室65及び第1遠心バランス室75を油密にするためのリップシールが装着されている。また、第1遠心バランス室75内の符号85は、第1ピストン45と第1シールプレート55との間に装着されて、第1ピストン45を解放方向(フロント側)に付勢するリターンスプリングを示す。
【0032】
このように、第1クラッチ5は、第2クラッチ7のフロント側、リヤ側及び径方向外側を覆うように配置されており、これにより、第1ドラム25が、本発明で言うところの、変速機ケース31のフロント側の端部を閉塞するフロントカバー21に最も近い摩擦締結要素のドラムに相当する。
【0033】
一方、第2ドラム27は、複数の第2摩擦板17を当該第2摩擦板17の外周側で軸方向に移動可能に支持しており、径方向における第1ハブ35と当該第2摩擦板17との間に配置されていて、その内周側の端部27aがスリーブ23に固定されている。一方、第2ハブ37は、複数の第2摩擦板17を当該第2摩擦板17の内周側で軸方向に移動可能に支持しており、第1ハブ35のフロント側に配置されていて、その内周側の端部37aがクラッチの出力部材43に連結されている。
【0034】
第2締結油圧室67及び第2遠心バランス室77は、第2摩擦板17よりも径方向内側で、且つ、その内周側の端部57aがスリーブ23に支持された第2シールプレート57と、第2ドラム27との間に位置しているとともに、これらの室内の作動油の圧力差に基いて、複数の第2摩擦板17を締結又は解放させる第2ピストン47によって、軸方向に仕切られている。換言すると、第2クラッチ7では、第2ドラム27と第2ピストン47とによって区画された空間が第2締結油圧室67を構成するとともに、第2ピストン47と第2シールプレート57とによって区画された空間が第2遠心バランス室77を構成していて、第2遠心バランス室77が第2摩擦板17と軸方向にオーバーラップして(入力軸13の径方向から見て、複数の第2摩擦板17と重なるように)設けられている。
【0035】
なお、スリーブ23に接する第2ピストン47の内周側の端部47a、及び、第2ピストン47の内周面に接する第2シールプレート57の外周側の端部57bには、第2締結油圧室67及び第2遠心バランス室77を油密にするためのリップシールが装着されている。また、第2遠心バランス室77内の符号87は、第2ピストン47と第2シールプレート57との間に装着されて、第2ピストン47を解放方向(フロント側)に付勢するリターンスプリングを示す。
【0036】
以上のようなクラッチパック3の配置構造、すなわち、複数の第1摩擦板15の径方向内側に、複数の第2摩擦板17を配置するとともに、かかる複数の第2摩擦板17の径方向内側に、第2遠心バランス室77を配置する構造を採用することにより、本実施形態の自動変速機1では、その軸方向(車幅方向)におけるコンパクト化が図られている。
【0037】
第1及び第2ドラム25,27の内周側の端部25a,27aが固定されるとともに、第1及び第2シールプレート55,57をこれらの内周側の端部55a,57aで支持するスリーブ23は、フロントカバー21と一体形成され且つ当該フロントカバー21のリヤ側の面の中央部からリヤ側に向かって延びる、入力軸13を内挿して支持するボス部(筒状部材)41に、摺動回転可能に外嵌合されている。このスリーブ23には、ボス部41の先端(リヤ側の端面41a)よりもさらにリヤ側に延びている部分に、径方向内側に突出する環状の段部23aが形成されており、かかる段部23aが、入力軸13に形成された鍔部13aと溶接されている。このように、スリーブ23を介して第1及び第2ドラム25,27と入力軸13とが連結されることにより、トルクコンバータ11からの動力によって入力軸13が回転すると、これに伴って第1及び第2ドラム25,27が回転するようになっている。
【0038】
また、このように、スリーブ23がボス部41に外嵌合されるとともに入力軸13と連結されることによって、ボス部41のリヤ側の端部には、当該ボス部41の端面41aと入力軸13とスリーブ23とによって囲まれる、略環状の空間19が形成されている。換言すると、スリーブ23がボス部41に外嵌合されるとともに、スリーブ23の段部23aが入力軸13の鍔部13aと連結されることによって、ボス部41のリヤ側には、スリーブ23の段部23aの内周面と、入力軸13の鍔部13aのフロント側の面と、入力軸13の外周面と、ボス部41のリヤ側の端面41aとによって区画される略環状の空間19が形成されている。
【0039】
さらに、ボス部41内には、図2に示すように、軸方向に延びる、第2遠心バランス室77に作動油を供給するための第1油路29が形成されている。なお、ボス部41内には、第1油路29の他にも、第1締結油圧室65、第1遠心バランス室75及び第2締結油圧室67に作動油を供給するための油路も形成されているが、本実施形態ではその図示及び説明を省略する。
【0040】
第1油路29のフロント側の端部は、フロントカバー21の中央部から斜め下方に向かって延びるように当該フロントカバー21内に形成され、トルクコンバータ11を介してエンジンにより駆動されるオイルポンプ(図示せず)からの作動油が供給される供給油路49と連通している。一方、第1油路29のリヤ側の端部は、スリーブ23に形成された不図示の油路を介して第2遠心バランス室77と連通している。これにより、オイルポンプからの作動油は、供給油路49を流れた後、第1油路29内を流れて、第2遠心バランス室77に供給される。
【0041】
このように、第1油路29を介して第2遠心バランス室77に作動油を供給することにより、第2ピストン47がフロント側に押圧されて、第2クラッチ7の解放が行われるが、エンジンの運転中はオイルポンプから絶えず作動油が供給されることから、第2ピストン47をリヤ側に押圧する場合や、第2ピストン47の位置を維持する場合等には、余分な作動油を第2遠心バランス室77から排出する必要がある。しかしながら、第1クラッチ5とは異なり、第2クラッチ7では、上述の如く、第2摩擦板17と第2遠心バランス室77とが軸方向にオーバーラップしていることから、例えば、第2シールプレート57に長孔を形成し、かかる長孔から作動油を外部へ排出すると、排出された大量の作動油が第2摩擦板17にかかり、第2摩擦板17の回転抵抗となって燃費を悪化させるおそれがある。
【0042】
そこで、本実施形態の自動変速機1は、第2遠心バランス室77内の作動油を、第2摩擦板17と軸方向にオーバーラップしない(入力軸13の径方向から見て、複数の第2摩擦板17と重ならない)位置に排出するための、第2遠心バランス室77よりも径方向内側に配設された排出手段をさらに備えている。具体的には、この排出手段は、図1〜図3に示すように、ボス部41に形成された軸方向に延びる第2油路9を有している。かかる第2油路9は、そのリヤ側の端部が、第2遠心バランス室77と連通している一方、そのフロント側の端部が、第2摩擦板17と軸方向にオーバーラップしない位置で径方向に延びるように設けられた排出油路39と連通している。
【0043】
より詳しくは、第2油路9のリヤ側の端部は上記空間19に連通しているとともに、スリーブ23における段部23aが形成された部分には、当該空間19と第2遠心バランス室77とを連通する、径方向に延びる貫通孔23bが形成されている。これにより、第2油路9のリヤ側の端部は、空間19と貫通孔23bとを介して第2遠心バランス室77と連通している。一方、第2油路9のフロント側の端部は、フロントカバー21の中央部から斜め上方に向かって延びるように当該フロントカバー21内に形成された排出油路39と連通している。
【0044】
以上のように排出手段を構成することにより、第2遠心バランス室77内の余分な作動油は、スリーブ23に形成された貫通孔23bを通った後、空間19を経由して第2油路9内へ流れる。ここで、従来の自動変速機では、スリーブ23の先端の内周面に形成されたスプラインと、入力軸13の対応する外周面に形成されたスプラインとを係合させることにより、スリーブ23と入力軸13とを連結することが多かったが、本実施形態の自動変速機1では、上述の如く、スリーブ23の段部23aと入力軸13の鍔部13aとを溶接することにより、これらの間の隙間をしっかりとシールしているので、第2遠心バランス室77から空間19を経由して第2油路9に流れる作動油が、第2摩擦板17側へリークするのを抑えることができる。
【0045】
そうして、第2油路9内をリヤ側からフロント側へ流れた作動油は、フロントカバー21に至ると、当該フロントカバー21内に形成された排出油路39内を流れて第1ドラム25の外側へ排出される。このように、第2摩擦板17と軸方向にオーバーラップしない位置に、より詳しくは、第1ドラム25よりもさらにフロント側に設けられた排出油路39から作動油を排出することにより、第2摩擦板17のみならず、例えば第1ハブ35と第1シールプレート55との間等、第1ドラム25の内側に設けられた差回転を生じる部材間に回転抵抗が発生するのを抑えることができる。
【0046】
なお、作動油は排出油路39を通って斜め上方に押し出されるが、供給油路49、第1油路29、第2遠心バランス室77、貫通孔23b、空間19、第2油路9、及び、排出油路39には絶えず作動油が満たされているので、作動油を吸い出すためのポンプ等を別途用いなくとも、オイルポンプの供給力のみによって、作動油を斜め上方に押し出すことができる。
【0047】
−効果−
本実施形態によれば、第2遠心バランス室77と第2摩擦板17との位置関係を変えることなく、第2遠心バランス室77内の作動油が、排出手段によって、第2摩擦板17と(入力軸13の)軸方向にオーバーラップしない位置に、換言すると、第2摩擦板17にかからない位置に排出される。これにより、自動変速機1の軸方向(車幅方向)におけるコンパクト化を維持しつつ、燃費の悪化を抑制することができる。
【0048】
また、第2摩擦板17よりも径方向内側に位置する第2遠心バランス室77よりもさらに径方向内側に排出手段が設けられていることから、当該第2遠心バランス室77と軸方向に並ぶ第2締結油圧室67、第2摩擦板17及び第2ピストン47等の配置構造に影響を与えることなく、第2遠心バランス室77内の作動油を、第2摩擦板17と軸方向にオーバーラップしない位置に排出することができる。
【0049】
さらに、第2遠心バランス室77内の作動油は、排出油路39を介して、変速機ケース31のフロント側の端部を閉塞するフロントカバー21に最も近い第1ドラム25の外側に排出されるので、第2摩擦板17のみならず、第1ドラム25の内側に設けられた差回転を生じる部材間に回転抵抗が発生するのを抑えることができる。
【0050】
また、スリーブ23の段部23aと入力軸13の鍔部13aとを溶接していることから、第2遠心バランス室77から空間19を経由して第2油路9に流れる作動油が、第2摩擦板17側へリークするのを抑えて、燃費の悪化を確実に抑制することができる。
【0051】
(その他の実施形態)
本発明は、実施形態に限定されず、その精神又は主要な特徴から逸脱することなく他の色々な形で実施することができる。
【0052】
上記実施形態では、第1ドラム25よりもさらにフロント側に設けられた排出油路39から作動油を排出するようにしたが、第2摩擦板17と軸方向にオーバーラップしない位置に作動油を排出するのであれば、排出油路39を第1ドラム25よりもリヤ側に設けてもよい。
【0053】
また、上記実施形態では、スリーブ23の段部23aと入力軸13の鍔部13aとを溶接するようにしたが、作動油が第2摩擦板17側へリークするのを抑えられるのであれば、これに限らず、例えば、スプライン係合させたスリーブ23と入力軸13との係合部をシールするようにしてもよい。
【0054】
さらに、上記実施形態では、駆動源をトルクコンバータとしたが、これに限らず、他の発進装置を駆動源としてもよい。
【0055】
このように、上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0056】
以上説明したように、本発明は、遠心バランス室が摩擦板と軸方向にオーバーラップして配設される自動変速機等について有用である。
【符号の説明】
【0057】
1 自動変速機
5 第1クラッチ(摩擦締結要素)
7 第2クラッチ(摩擦締結要素)
9 第2油路(油路)(排出手段)
11 トルクコンバータ(駆動源)
13 入力軸
17 第2摩擦板(摩擦板)
19 空間
21 フロントカバー
23 スリーブ
23b 貫通孔
25 第1ドラム(ドラム)
27 第2ドラム(ドラム)
37 第2ハブ(ハブ)
39 排出油路
41 ボス部(筒状部材)
47 第2ピストン(ピストン)
57 第2シールプレート(シールプレート)
67 第2締結油圧室(締結油圧室)
77 第2遠心バランス室(遠心バランス室)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸を介して入力される駆動源からの動力を伝達するために、ドラムとハブとを締結するための摩擦板と、当該摩擦板よりも径方向内側に位置する締結油圧室及び遠心バランス室と、当該締結油圧室と当該遠心バランス室とを軸方向に仕切り、且つ、これらの室内の作動油の圧力差に基いて、当該摩擦板を締結又は解放させるピストンと、を有し、上記遠心バランス室が上記摩擦板と軸方向にオーバーラップして配設される摩擦締結要素、を備えた自動変速機であって、
上記遠心バランス室内の作動油を、上記摩擦板と軸方向にオーバーラップしない位置に排出するための排出手段をさらに備えていることを特徴とする自動変速機。
【請求項2】
請求項1記載の自動変速機において、
上記排出手段は、上記遠心バランス室よりも径方向内側に配設されていることを特徴とする自動変速機。
【請求項3】
請求項2記載の自動変速機において、
上記入力軸を内挿して支持する筒状部材をさらに備え、
上記排出手段は、上記筒状部材に形成された軸方向に延びる油路を有しており、
上記油路の軸方向における反駆動源側の端部は、上記遠心バランス室と連通している一方、上記油路の軸方向における駆動源側の端部は、上記摩擦板と軸方向にオーバーラップしない位置で径方向に延びるように設けられた排出油路と連通していることを特徴とする自動変速機。
【請求項4】
請求項3記載の自動変速機において、
上記排出油路は、変速機ケースの軸方向における駆動源側の端部を閉塞するフロントカバーに最も近い摩擦締結要素のドラムよりもさらに、軸方向における駆動源側に形成されていることを特徴とする自動変速機。
【請求項5】
請求項3記載の自動変速機において、
上記ピストンとの間に上記遠心バランス室が形成されるように、当該ピストンと軸方向に対向して配置されるシールプレートと、
上記筒状部材に外嵌合され且つ上記入力軸と連結されるとともに、その外周部で上記シールプレートの内周部を支持するスリーブと、をさらに備え、
上記筒状部材の軸方向における反駆動源側の端部には、当該筒状部材の端部と上記入力軸と上記スリーブとによって囲まれる、上記油路が連通する略環状の空間が形成されており、
上記スリーブには、上記空間と上記遠心バランス室とを連通する、径方向に延びる貫通孔が形成されており、
上記遠心バランス室から上記空間を経由して上記油路に流れる作動油が、上記摩擦板側へリークするのを抑えるために、上記スリーブと上記入力軸とが溶接されていることを特徴とする自動変速機。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つに記載の自動変速機において、
上記入力軸を車幅方向に向けた横置きの配置で、車両に搭載されていることを特徴とする自動変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−72440(P2013−72440A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−209490(P2011−209490)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】