説明

自動標本作製装置

【課題】 少ない標本数でも染色液のむだがなく、塗抹から染色までを自動的に行うことができ、スライドガラスの取り扱いや制御に関して自由度が高い自動標本作製装置を提供する。
【解決手段】 標本用スライドガラスに血液の塗抹を施すための塗抹部と、標本用スライドガラスおよび染色液の収納が可能である収納部を備えた収納体を着脱可能にセットして搬送するための搬送部と、標本用スライドガラスを前記収納体に1枚ずつ収納するための収納操作部と、前記収納体に染色液を供給して塗抹済みスライドガラスに染色を施すための染色部とを備え、前記搬送部が、収納操作部によりスライドガラスが収納された収納体を染色部に搬送し、染色部で染色が施された染色済スライドガラスを収納した収納体を染色部から搬出する、自動標本作製装置に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スライドガラスに血液の塗抹を自動的に施して標本を作製し、血液の塗抹が施されたスライドガラスに染色を自動的に施して標本を作製する自動標本作製装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、標本用スライドガラスに血液の塗抹を自動的に施して標本を作製する自動標本作製装置としては、特許文献1に開示された、スライドガラスが複数枚積層された供給部と、この供給部からスライドガラスを1枚ずつ横方向へ移動させる移動部材と、この移動部材により移動されたスライドガラスを次工程へ搬送する搬送部と、処理の終わった複数のスライドガラスを収納しておく収納部とを備え、搬送部において、細管からの血液の滴下、引きガラスによる塗抹およびファンによる乾燥が行われるもの(装置A)が知られている。
【0003】
また、従来、血液の塗抹が施されたスライドガラスに染色を自動的に施して標本を作製する自動標本作製装置としては、特許文献2に開示された、血液の塗抹が施されたスライドガラスを染色槽に浸すことで血液を染色するために、スライドガラスを染色槽に送り込む機構と、この機構を制御する制御部とを備え、この制御部が、染色槽の染色液を使用した回数または染色した標本の枚数を記憶して、この数に応じて染色時間を変えるもの(装置B)や、特許文献3に開示された、塗抹標本をそれぞれ1枚ずつ入れて染色するための複数の容器(染色槽)を有し、それらの容器を固定したベルトを間欠的に1ステップずつ回転移送するもの(装置C)が知られている。
【0004】
【特許文献1】特開平3−94159号公報
【特許文献2】実開平3−70355号公報
【特許文献3】実開昭56−52244号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
装置Aにあっては、塗抹標本を効率よく、良好に作製することができるが、塗抹標本に染色を施そうとするときには別の染色装置によらなければならない。
【0006】
装置Bにあっては、塗抹が施されたスライドガラスを10〜50枚ほど染色用保持容器に収納して、染色液の入った染色槽に浸すことにより染色を施すものであり、染色液の使用頻度に応じて染色時間を長くすることで染色度合いを一定に保つことができるかも知れないが、数枚だけ染色する場合にも大量の染色液を要するという問題点がある。すなわち、装置Bに用いられるスライドガラス収納用容器(染色用保持容器)は、最大50枚ほどのスライドガラスを収納するような大きさであるため、数枚程度の少ない標本数の場合にも50枚ほどの標本数のときと同様に大量の染色液が必要になる、という不都合がある。また、装置Cにあっては、少ない標本数でも染色液のむだがないなどの利点を有しているが、染色用容器である染色槽がベルトに固定されているためスライドガラスの出し入れや移動操作などの取り扱いや制御に関して自由度が低いという問題点がある。
【0007】
さらに、装置Bおよび装置Cにあっては、すでに塗抹の施されたものに染色を施すように構成されているため、スライドガラスに塗抹を施す工程は別の装置によらなければならない。
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、少ない標本数でも染色液のむだがなく、塗抹から染色までを自動的に行うことができるうえ、スライドガラスの取り扱いや制御に関する自由度の高い自動標本作製装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、標本用スライドガラスに血液の塗抹を施すための塗抹部と、標本用スライドガラスおよび染色液の収納が可能である収納部を備えた収納体を着脱可能にセットして搬送するための搬送部と、標本用スライドガラスを前記収納体に1枚ずつ収納するための収納操作部と、前記収納体に染色液を供給して塗抹済みスライドガラスに染色を施すための染色部とを備え、前記搬送部が、収納操作部によりスライドガラスが収納された収納体を染色部に搬送し、染色部で染色が施された染色済スライドガラスを収納した収納体を染色部から搬出する、自動標本作製装置に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の自動標本作製装置によれば、塗抹部でスライドガラスに血液の塗抹を施し、収納操作部で塗抹済みスライドガラスを収納体に1枚ずつ挿入し、次いで染色部で収納体に染色液を供給して塗抹済みスライドガラスに染色を施すという一連の処理を自動的に行うことができるうえ、スライドガラスの取り扱いや制御に関する自由度を従来よりも高めることができ、さらに、搬送部が収納体を着脱可能にセットして搬送するように構成されていることで、少ない標本数でも染色液の無駄を生じることなく染色を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
標本用スライドガラスとしては、各種の大きさおよび材質からなり、フロスト部を有するものや有しないもの、フロスト部に色の付されたものや付されないものなどが適宜選択されて用いられる。その一例としては、縦76mm、横26mm、厚さ0.9〜1.2mmであってコーナーカットおよび縁磨きが施され、色付きのフロスト部を有し、そのフロスト部の長さが15〜20mmのものがある。
【0012】
本発明における収納体(標本用スライドガラスおよび染色液の収納が可能である収納部を備えてなるもの)は、スライドガラスを所定枚数、収納することが可能であり、かつ、染色液を収納することが可能である。このような収納体はたとえば、標本用スライドガラスおよび染色液の収納が可能である収納部と、この収納部に連なりかつ収納部を吊り下げ状に支持するための吊下支持部とを備えたスライドガラス収納用カセットとして、全体が偏平状であってプラスチック製の透明なものが用いられる。
【0013】
本発明における塗抹部はスライドガラスに血液の塗抹を施す。その塗抹方法は、ウェッジ法(載せガラス法)でもよく、スピナー法(遠心法)でもよい。塗抹部は好ましくは、スライドガラス供給用テーブルを回転可能に設け、そのテーブルにスライドガラス供給部を複数箇所設け、テーブルを回転駆動して複数のスライドガラス供給部から順次1枚ずつスライドガラスを供給して塗抹を施すように構成される。このような構成によれば、複数のスライドガラス供給部に異なる種類のスライドガラスをセットしておけば、複数種類のスライドガラスのうちの所望のものを選択して塗抹に供することが可能になる。
【0014】
搬送部は、スライドガラスの収納されていない収納体(標本用スライドガラスおよび染色液の収納が可能である収納部を備えてなるもの)またはスライドガラスの収納された収納体を、通常は複数個、いわゆる割り込み搬送などの場合は1個、着脱可能にセットして搬送する。ここで収納体は、スライドガラスおよび染色液を収納することのできる、それ自体公知のものを利用することができる。搬送はたとえば、所定間隔をおいて平行に配された2本1組のベルトを備えた間欠移動式ベルトコンベヤで行われる。
【0015】
収納操作部は、標本用スライドガラスを搬送部における収納体に1枚ずつ収納するための部分である。収納操作部は、塗抹済みスライドガラスを略水平に保持するスライドガラス保持部と、搬送部における収納体を1個ずつ一時停止させる停止機構と、この停止機構により一時停止した収納体を略水平位置まで可逆的に回動させる回動機構と、スライドガラス保持部により保持された塗抹済みスライドガラスを移送しかつ回動機構により略水平位置まで回動された同収納体へ挿入する移送・挿入機構とを備えたものである。
【0016】
染色部は、収納体に染色液を供給して、塗抹されたスライドガラスに染色を施すための部分である。染色工程としてはたとえば、メイグリュンワルド固定、メイグリュンワルド染色、ギムザ染色および水洗の各工程からなる。
【0017】
染色部は収納体に挿入可能なピペットを備えているのが好ましい。染色部がこのように構成されている場合には、ピペットを収納体に挿入して染色液や洗浄液などの供給・排出を簡単に行うことができる。このようなピペットは、各収納体が同ピペットの挿入可能なスペース(たとえば、スライドガラス・染色液収納用の主スペースと、この主スペースに隣設されかつ主スペースに連通する染色液供給・排出用の副スペースと)を備えたものである場合には、各収納体の前記スペースに挿入されて染色液や洗浄液などの供給・排出などのために用いられる。
【0018】
本発明に係る自動標本作製装置は、染色済みスライドガラスが収納されて前記染色部から送り出された前記収納体を保管しておくための保管部をさらに備えているのが好ましい。このような保管部をさらに備えているときには、染色済みスライドガラスが収納された収納体を保管部で一時的に保管しておくことが可能になるので、染色済みスライドガラスが収納された収納体のための特別な保管場所を設ける必要がない。保管部に所定個数の収納体がたまると、これらは保管部から取り出される。
【0019】
以下、本発明の1つの実施形態を図面に基づいて詳しく説明する。なお、これによって本発明が限定されるものではない。
【0020】
図1において、自動標本作製装置Dは、標本用スライドガラス10に血液の塗抹を施すための塗抹部1と、収納体としてのスライドガラス収納用カセット2と、2本一組であって前方へ移動するカセット送り込みベルト3aおよび1本であって左方へ移動するカセット横送りベルト3bからなりカセット2を1個もしくは複数個、着脱可能にセットして搬送するための搬送部3(3a,3b)と、塗抹済みのスライドガラス10を搬送部3のカセット横送りベルト3bにおけるカセット2に1枚ずつ収納するための収納操作部4と、カセット横送りベルト3bから送り込まれたカセット2に染色液を供給して塗抹済みスライドガラス10に染色を施すための染色部5と、染色済みスライドガラス10が収納されて染色部5から送り出されたカセット2を保管しておくための保管部6とを備えている。
【0021】
図2に示すように、塗抹部1は、スライドガラス供給用ターンテーブル11を正・逆間欠回転可能に設け、ターンテーブル11にスライドガラス供給孔11aを2箇所設け(「ポジション1」および「ポジション2」)、それらのスライドガラス供給孔11a・11aに、100枚のスライドガラス10を積み重ねて収納しておく直方体状のスライドガラス供給用カセット12を2つ嵌め込んだものである。各カセット12の最下部には取出口が設けられ、その取出口から最下部のスライドガラス10が1枚ずつ取り出されるようにされている。
【0022】
各カセット12に収納されるスライドガラスは、縦76mm、横26mm、厚さ1.0mmであってコーナーカットおよび縁磨きが施され、フロスト部を有し、そのフロスト部の長さが15mmのものである。図2における左側のカセット12にはフロスト部に白色の付されたスライドガラス10が収納され、右側のカセット12にはフロスト部に赤色の付されたスライドガラス10が収納されている。ここで、フロスト部を白色と赤色とに色分けしたのは、2種類のスライドガラス10を男/女、入院/外来、午前/午後、サンプラ/マニュアルなどに区別して使用するためである。
【0023】
カセット12からのスライドガラス10の取り出しと、取り出されたスライドガラス10の塗抹のための所定位置までの搬送と、さらに塗抹後のスライドガラス10に印字を施すための所定位置までの搬送とは、図3〜図5に示すようにして行われる。
【0024】
すなわち、図3において13はスライドガラス取出機構であり、これはターンテーブル11よりも下方に配されている。スライドガラス取出機構13は、エアシリンダ14により左右に往復移動されるピストンロッド15と、ピストンロッド15の左端およびその上方の支軸17に軸支された第1アーム16と、第1アーム16の上端に当接しかつ支軸18に軸支された第1レバー19と、ピストンロッド15の後方に配されたモータ20と、左右2つのプーリ21・22の間に水平に張設されモータ20により駆動されて左右に移動するベルト23と、ベルト23に取り付けられた支軸24およびその上方の支軸25に軸支された第2アーム26とを備えている。
【0025】
2つの支軸17・18は、ベルト23よりも上方で水平に配されたガイドレール27にガイドされて左右に移動する第1スライダ28の一部である。また、支軸25は、ガイドレール27にガイドされて左右に移動する第2スライダ29の一部である。
【0026】
図3において、実線で示されたピストンロッド15がエアシリンダ14により2点鎖線の位置まで縮むと、第1アーム16が支軸17の周りに反時計回り方向へ回動して、2点鎖線で示すように直立する。すると、第1アーム16の上端により第1レバー19が支軸18の周りに時計回り方向へ回動して、2点鎖線で示すようにそのヘッド19aが押し上げられる。これにより、第1レバー19のヘッド19aが、ターンテーブル11に嵌め込まれた右側のカセット12の最下部に位置するスライドガラス10の下面に当接する。
【0027】
ピストンロッド15がさらに縮むと、第1アーム16および第1スライダ28を介して第1レバー19が右方向へ移動し、そのヘッド19aがそのスライドガラス10をカセット12の前記取出口から取り出して、図4の実線で示す第1所定位置(塗抹のための位置)まで持って来る。次に、ピストンロッド15が伸びると、第1アーム16が支軸17の周りに時計回り方向へ回動して、図4の2点鎖線で示す状態になる。すると、第1レバー19が支軸18の周りに反時計回り方向へ回動して、2点鎖線で示すようにそのヘッド19aが下がる。そして、ピストンロッド15がさらに伸びると、第1レバー19は、ヘッド19aが下がった状態で第1アーム16および第1スライダ28とともに左方へ移動する。
【0028】
一方、ベルト23の前面部分が左方へ移動して支軸24が図4の実線位置から2点鎖線位置まで移動すると、第2アーム26が支軸25の周りに時計回り方向へ回動して、そのヘッド26aが2点鎖線で示すように水平になる。そして、ベルト23の前面部分がさらに左方へ移動すると、第2アーム26は、ヘッド26aが水平になった状態で第2スライダ29とともに左方へ移動する。
【0029】
そして、第2アーム26が前記第1所定位置を通り過ぎた後にベルト23の移動がいったん止まる。このとき、第2アーム26は図5の実線位置にある。次いで、ベルト23はその前面部分が右方へ移動して支軸24が図5の2点鎖線位置まで移動する。すると、第2アーム26が支軸25の周りに反時計回り方向へ回動して、2点鎖線で示すようにヘッド26aの右端が第1所定位置にあるスライドガラス10の高さまで上がる。次に、ベルト23の前面部分がさらに右方へ移動することにより、第2アーム26は、ヘッド26aの右端が上がった状態で第2スライダ29とともに左方へ移動する。すると、第1所定位置にあるスライドガラス10は、第2アーム26のヘッド26aの右端により右方へ押されて、最終位置である第2所定位置(印字のための位置)まで運ばれる。
【0030】
次に、スライドガラス収納用カセット2の構造を、図6〜図11に基づいて説明する。
【0031】
カセット2はポリサルフォン製の黒色半透明の偏平状縦長容器であり、1枚のスライドガラス10および液体の収納が可能である1つの収納部31と、この収納部31の上部に連なりかつ収納部31を吊り下げ状に支持するための左右2つの吊下支持部32・33とを備えてなる。収納部31は、垂直な左側壁31a、垂直な右側壁31b、傾斜状の底壁31c、垂直な前壁31dおよび垂直な後壁31eを備えるとともに、これらの壁31a〜31eによって囲まれてなる空間を備えてなる。
【0032】
この空間は、スライドガラス10および液体の収納が可能である主スペース34と、主スペース34の左に隣設されかつ主スペース34に連通する液体(染色液や洗浄液など)供給・排出用の副スペース35とからなる。底壁31cは、主スペース34および副スペース35にわたって設けられかつ主スペース34から副スペース35へ向かって約10度の下り傾斜になっている。
【0033】
主スペース34と副スペース35とは、収納部31のスライドガラス収納口40の左側に設けられたスライドガラス収納用左上ガイド36と、この左上ガイド36の下方に設けられた左下ガイド37とにより、隔てられている。スライドガラス収納口35の右側には、右側の吊下支持部33に連なるスライドガラス収納用右上ガイド38が設けられている。右上ガイド38の下方には、左下ガイド37と同じ高さに右下ガイド39が設けられている。左上ガイド36、左下ガイド37、右上ガイド38および右下ガイド39は、スライドガラス10を収納部31内の右方側部に偏した位置である主スペース34に保持するための保持用部分として機能する。
【0034】
主スペース34の左下ガイド37と底壁31cとの間には、前壁31dおよび後壁31eに水平に渡されたポリサルフォン製のピン42が配されている。このピン42は、主スペース34に収納されたスライドガラス10の下端を底壁31cから離れた状態に保持する機能を持っている。
【0035】
左右2つの吊下支持部32・33の高さは、収納部31の高さの約20%にされている。左側の吊下支持部32と左上ガイド36との間は、染色液や洗浄液などを注入・吸引するピペットを挿入するためのピペット挿入口41にされている。ピペット挿入口41は下方ほど狭くされており、副スペース35に通じている。すなわち、左側の吊下支持部32には、水平からの傾斜角が約60度の下り傾斜部分32aが左上ガイド36に対向して設けられており、収納部31の左側壁31aの上部には、水平からの傾斜角が約75度の下り傾斜部分31fが左側の吊下支持部32の下り傾斜部分32aに連なって設けられている。これにより副スペース35は、下り傾斜部分31f付近において下方ほど狭くされている。
【0036】
収納部31の左側壁31aの上部における下り傾斜部分31fは、カセット2が所定状態以外にセットされるのを防止するための不正セット防止部分として機能する。所定状態とは、カセット2を搬送するための搬送部などに、カセット2が決められた向きで決められた位置にセットされる状態をいう。
【0037】
すなわち、図6に示すように、カセット2は、左側の吊下支持部32と垂直な左側壁31aとの間に下り傾斜部分31fが設けられているのに対し、右側壁31bは右側の吊下支持部33まで垂直になるように設けられている。換言すれば、カセット2の収納部31は左右非対称とされている。したがって、図12に示すように、垂直断面形状が凵状であって空のカセット2をセットするためのテーブル43の一方側壁43aに沿って、所定の垂直断面形状を持った逆向きセット防止部材44を配しておけば、カセット2を決められた向きに正しくセットすることができる。
【0038】
図12において45・46は、カセット2を吊下支持部32・33で垂直に吊り下げて搬送するための一対の搬送用ベルトである。また、32b・33bは、吊下支持部32・33の下面に設けられたガイド溝である。そして、カセット2が搬送用ベルト45・46に支持されて搬送される際にテーブル43の側壁43a・43bの上縁がガイド溝32・33に嵌まり込む。
【0039】
カセット2には図6および図8に示すように、2つの吊下支持部32・33のそれぞれに、前方および下方へ開口した凹所32c・33cが設けられている。これらの凹所32c・33cは、後記のカセット切り離し用ストッパが嵌まり込むためのものである。また、2つの吊下支持部32・33のそれぞれに、磁石に吸着される吸着部材101・102が埋め込まれている。これらの吸着部材101・102は、磁石と組み合わされてカセット2の位置決めを正しく行うためのものである。なお、左上ガイド36と左下ガイド37との間にさらに左中ガイドを設けてもよい。その場合には、主スペース34と副スペース35とが、左上ガイド36、左下ガイド37、左中ガイドにより仕切られるので、後述のスライドガラス10の乾燥効果をいっそう向上させることができる。
【0040】
次に、この自動標本作製装置Dの全体動作について、図13〜図15のフローチャートを参照しながら、同装置Dにおける各部のより詳しい構成とともに説明する。
【0041】
図13に示すように、血液試料が入った検体容器は、検体番号、日付、受付番号、氏名などを表示したバーコードラベルが貼られ、検体保持用ラックに装着されている。このラックはラック搬送装置により搬送され(「ラック搬送」)、自動標本作製装置Dの前で停止される。すると、検体容器に貼られたバーコードラベルのバーコードがバーコード読取器で読み取られる。次いで、ラック搬送装置から検体情報が受け取られ、オーダーの有無が確認される。ここで、オーダーがないときはラック搬送にもどり、前記ラックを搬送する。オーダーがあるときは検体容器の試料は攪拌された後、血液分注機構47のアーム47aに取り付けられたピペット47bにより吸引される。
【0042】
一方、スライドガラス10のカセット12からの取り出しと塗抹のための所定位置までの搬送とは、図3〜図5に示すようにして行われるが、さらに付け加えると図13のようになる。すなわち、ターンテーブル11の「ポジション1」または「ポジション2」の確認(ポジション確認)が行われ、その確認結果に応じてターンテーブル11の時計周り方向または反時計周り方向への回転が行われる(ターンテーブル11のポジショニング)。
【0043】
次いで、カセット12にスライドガラス10があるかないかの判断がなされ、スライドガラス10がないときは、「スライドガラス10をセットして下さい」とのエラーメッセージが表示される。スライドガラス10があるときは、カセット12からのスライドガラス10の取り出しが前記のような方法で行われる。この取り出しは30秒ごとに1枚の割合で行われる。
【0044】
取り出されたスライドガラス10には、ピペット47bにより吸引された試料が約5マイクロリットル滴下される。このピペット47bはその後、ピペット洗浄槽48で洗浄される。
【0045】
次いで、試料の滴下されたスライドガラス10は、塗抹部1の前記第1所定位置においてウェッジ法に基づく塗抹機構49によって塗抹に付される。すなわち、第1所定位置に配された引きガラス50がスライドガラス10に当接した状態でその長手方向に移動されて塗抹が行われる。塗抹が終わると引きガラス50は、油分やタンパク質を取り除くための洗浄液が入った引きガラス洗浄槽51に一定時間浸けられた後に引き上げられてノズルで洗浄される。
【0046】
その後、塗抹確認手段52により塗抹状態の良否の検知が行われる。すなわち、塗抹後のスライドガラス10がその上方および下方に配された一対の光素子(受光素子および発光素子)の間を通過する際に、スライドガラス10の略中央の3箇所(短辺に平行な1直線上にある)における光透過度が測定され、それらの光透過度に基づいて所定の判断が行われる。そして、図14に示すように、塗抹不良の場合はエラーメッセージが出され、塗抹良好の場合は前記第2所定位置においてドットインパクト式印字プリンタ53によりスライドガラス10に印字が施される。すなわち、前記バーコード読取器で読み取られた検体番号、日付、受付番号、氏名などがスライドガラス10のフロスト部に印字される。
【0047】
印字の終わったスライドガラス10は、図2に示すように、第2所定位置の右側に配された乾燥用ファン54と第2所定位置の前側における第3所定位置(後記の収納待機位置)の右側に配された乾燥用ファン55とにより、強制乾燥される。
【0048】
スライドガラス10は、第1所定位置から第2所定位置まで水平に左方向へ移動し、第2所定位置から第3所定位置まで水平に前方へ移動するが、このようなスライドガラス10の水平移動を検知するために、次のような手段が設けられている。すなわち、第1所定位置から第2所定位置までの間には、水平に配されるスライドガラス10の前方および後方に一対のスリット付き光透過センサが設けられ、第2所定位置から第3所定位置までの間には、水平に配されるスライドガラス10の左側方および右側方に一対のスリット付き光透過センサが設けられている。
【0049】
スライドガラス10の移動を検知するこれら2種の光透過センサにおける受光側のスリットの高さ寸法は、スライドガラス10の厚さ以下に設定されている。また発光側は、光量を得るためにパルス電流を用いるようになっている。これら2種の光透過センサにより、スライドガラス10の上方または下方に移動用機構などがあっても、水平移動するスライドガラス10の検知をすることが可能になる。
【0050】
図2において、搬送部3のカセット送り込みベルト3aに吊り下げ状に支持されて後方から前方(白矢印方向)へ搬送される空のカセット2は、カセット送り込みベルト3aの前端で、垂直状態のままカセット保持・移送部材56により保持される。すなわち、カセット保持・移送部材56は内外へ回動可能な左右一対の保持アーム56a・56aを有しており、これらの保持アーム56a・56aが外側から内側へ回動することによりカセット2の吊下支持部32・33を保持する。図6における32d・33dは、そのとき保持アーム56a・56aの係合爪が嵌まり込んで係合する係合孔である。カセット保持・移送部材56はまた、搬送部3の横送りベルト3bにおけるカセット2を1個ずつ一時停止させる停止機構を備えている。
【0051】
垂直状態で保持されたカセット2はカセット保持・移送部材56により左方向へ移送され、第3所定位置すなわち収納待機位置の前方で停止される。第3所定位置まで搬送されてきたスライドガラス10は、同位置で収納操作部4およびカセット保持・移送部材56の作動によりカセット2に収納される。以下、この収納方法について説明する。
【0052】
図16における左側は収納操作部4の前方部分を示し、右側は収納操作部4の後方部分を示す。図16において、収納操作部4は、前後へ水平にかつ互いに平行に伸びた状態に配設されスライドガラス10を水平に載置保持する2本一組のスライドガラス保持部7・8(図2参照)と、駆動源となる正・逆回転可能なモータ57と、前後2つのプーリ58・59と、これらのプーリ58・59の間に水平に張設されモータ57により駆動されて前後に移動するベルト60とを備えている。収納操作部4はさらに、ベルト60の上方に水平に配されたガイドレール61と、ガイドレール61にガイドされて前後に移動するスライダ62と、スライダ62の上面に取り付けられたアーム支持部材63と、アーム支持部材63の上部の前側における前方突出箇所に設けられた支軸64およびベルト60に設けられた支軸65に軸支された第1アーム66と、アーム支持部材63の上部の後側における上方突出箇所に設けられた支軸67に軸支された第2アーム68と、アーム支持部材63の前方でガイドレール61にスライド可能に取り付けられたカセット回動部材69と、アーム支持部材63とカセット回動部材69とを連結する連結棒70とを備えている。
【0053】
連結棒70は、アーム支持部材63に前後貫通状に設けられた挿入孔に遊嵌され、前端がカセット回動部材69の後面に固定され、後端に留金71が取り付けられている。連結棒70には、アーム支持部材63とカセット回動部材69との間に、両部材63・69を互いに離間させてアーム支持部材63の後面が留金71に当たるように付勢するコイルバネ72が嵌められている。
【0054】
第1アーム66は支軸64の周りに回動可能なものであり、上端前部には上方突出状に第1ヘッド73が設けられている。第1ヘッド73は2本のスライドガラス保持部7・8の間で出没可能なものである。第2アーム68は支軸67の周りに回動可能なものであり、後端上部には上方突出状に第2ヘッド74が設けられている。第2ヘッド74は2本のスライドガラス保持部7・8の間で出没可能なものである。第2アーム68は第1アーム66の回動に追従して回動するようにされている。
【0055】
カセット回動部材69の前端上部にはローラ75が取り付けられている。ローラ75は、カセット回動部材69が前方へ移動すると、垂直に配されたカセット2の後面に当接した後にカセット2の係合孔32d・33dを回動軸としてカセット2を前方へ回動させるものである。ローラ75の外径および取り付け高さは、カセット回動部材69およびローラ75によりカセット2が前方へ最大限に回動したときにカセット2が水平になるように設定されている。
【0056】
図16において実線は、収納操作部4が作動し始める前の各部材の位置(初期位置)を示す。図16において、モータ57が正回転してベルト60が矢印方向へ動き、支軸65が実線部分から2点鎖線部分まで動くと、第1アーム66が支軸64の周りに時計回り方向へ回動して、2点鎖線で示すように直立する。これにともなって、第1ヘッド73も支軸64の周りに時計回り方向へ回動して、2点鎖線で示すように第1ヘッド19aが持ち上げられる。
【0057】
すると、第1アーム66の上端後部により第2アーム68が支軸67の周りに反時計回り方向へ回動させられて2点鎖線で示すように水平となり、第2ヘッド74が持ち上げられる。
【0058】
ベルト60がさらに矢印方向へ動くと、直立した第1アーム66および水平となった第2アーム68とともにアーム支持部材63が前方へ移動する。これにともなって、第1ヘッド73が収納待機位置にあるスライドガラス10(第1スライドガラス10−1)の後端を押し、第2ヘッド74が第1スライドガラス10−1の直後にあるスライドガラス10(第2スライドガラス10−2)の後端を押し、それぞれのスライドガラス10−1・10−2を前方へ移動させる。
【0059】
このとき、アーム支持部材63が、コイルバネ72を介してカセット回動部材69を押しながらともに前方へ移動する。そして、垂直に配されたカセット2の後面にローラ75が当接する。
【0060】
次いで、図17に示すように、ローラ75はカセット2の係合孔32d・33dを回動軸としてカセット2を前方へ最大限に(角度にして90度)回動させる。水平になったカセット2には、そのスライドガラス収納口40から、第1ヘッド73により押された第1スライドガラス10−1が挿入される。このとき、アーム支持部材63とカセット回動部材69とは前方へ最大限移動する。図17における実線はそのときの各部材の位置(終期位置)を示す。
【0061】
図17の終期位置における第2スライドガラス10−2の位置は、図16の初期位置における第1スライドガラス10−1の位置に等しい。また、終期位置における第2スライドガラス10−2の直後には、第2スライドガラス10−2に続く第3スライドガラス10−3が搬送されて来ている。
【0062】
図17に示す終期位置から、モータ57が逆回転してベルト60が矢印方向へ動き、支軸65が実線部分から2点鎖線部分まで動くと、第1アーム66が支軸64の周りに反時計回り方向へ回動して、2点鎖線で示すように傾く。これにともなって、第1ヘッド73も支軸64の周りに反時計回り方向へ回動して、2点鎖線で示すように第1ヘッド19aが下がる。
【0063】
すると、第1アーム66の上端後部が持ち上げられて第2アーム68が支軸67の周りに時計回り方向へ回動し、2点鎖線で示すように第2ヘッド74が下がる。次いで、ベルト60がさらに矢印方向へ動くと、第1アーム66および第2アーム68とともにアーム支持部材63が後方へ移動し、その後面が連結棒70の留金71に当接する。アーム支持部材63がさらに後方へ移動すると、連結棒70を介してカセット回動部材69も後方へ移動して、初期位置にもどる。
【0064】
終期位置から初期位置にもどるとき、第1ヘッド19aと第2ヘッド74とは図17の2点鎖線で示すように下がった状態にあるので、第2スライドガラス10−2や第3スライドガラス10−3の邪魔になることがない。
【0065】
以上のようにして、第3所定位置まで搬送されてきたスライドガラス10が同位置で収納操作部4およびカセット保持・移送部材56の作動によりカセット2に収納される。スライドガラス10を収納したカセット2はカセット保持・移送部材56により垂直状態にされた後、カセット横送りベルト3bに載せられて左方向へ搬送され、プッシャ76の前で停止される。
【0066】
プッシャ76は、その前のカセット2を1つずつ押し出して、染色部5における2本一組のカセット搬送ベルト5aへ載せるようにされている。このプッシャ76によりカセット2は1つずつ染色部5へ送り込まれる。
【0067】
プッシャ76の右側にはカセット割り込み供給部材77が設けられている。そして、カセット横送りベルト3bに載せられて左方向へ搬送されるカセット2とは別に、染色に供するスライドガラスを収納した割り込み用カセットを所望によりカセット割り込み供給部材77に装填して、カセット横送りベルト3bに載せることができるようにされている。
【0068】
図14に示すように、スライドガラス10を収納し染色部5へ送り込まれたカセット2には、その内部へ染色用のメイグリュンワルド液(以下、「メイ液」と略称する)が約6ミリリットル分注される。これにより以下に説明する染色工程が始まる。
【0069】
すなわち、染色部5には、図1に示すように、第1〜第4吸排装置78・79・80・81が前方から後方へ順次備えられている。第1吸排装置78は、図18に示すように、駆動源となる正・逆回転可能なモータ82と、上下2つのプーリ83・84と、これらのプーリ83・84の間に垂直に張設されモータ82により駆動されて上下に移動するベルト85と、ベルト85に取り付けられた連結部材86と、上部プーリ83の左方に固定されかつ垂直なガイド溝を有するガイド部材87と、ガイド部材87を覆う状態で垂直に配されて連結部材86に取り付けられた筒状のカバー88と、カバー88の内部で垂直に配されてガイド部材87のガイド溝にスライド可能に嵌められたスライドロッド89と、スライドロッド89の上端およびカバー88の上端に左方突出状に取り付けられた水平なアーム90と、アーム90の左端寄り箇所に設けられたピペット孔に垂直に挿入された分注用の第1ピペット91とを備えている。
【0070】
プッシャ76により染色部5のカセット搬送ベルト5aに載せられたカセット2は、第1吸排装置78の左まで搬送された後、そこで一旦停止される。このとき、カセット2のピペット挿入口41は第1吸排装置78の第1ピペット91の直下に位置している。カセット2が第1吸排装置78の左で一旦停止すると、図18に示すモータ82が正回転してベルト85が矢印方向へ動き、ベルト85に一体化された連結部材86およびカバー88を介してスライドロッド89が矢印方向へ動く。これにともなってアーム90が2点鎖線の位置まで下がる。このとき、第1ピペット91はカセット2のピペット挿入口41に挿入されて2点鎖線の位置まで下がっている。
【0071】
そして、染色液供給用チューブ(図示略)を通して供給されたメイ液が第1ピペット91からカセット2の副スペース35へ約6ミリリットル分注される。分注されたメイ液はカセット2の主スペース34へも供給されて、主スペース34内におけるスライドガラス10の塗抹箇所を浸す。次いで、カセット2はカセット搬送ベルト5aにより第2吸排装置79の左まで搬送された後、そこで一旦停止される。
【0072】
第2吸排装置79は図19に示すような構成である。すなわち、第2吸排装置79は、第1吸排装置78の各構成部材に加えて、アーム90における、第1ピペット91の左に設けられたピペット孔に垂直に挿入された吸引用の第2ピペット92と、第1ピペット91の右に設けられたピペット孔に垂直に挿入された分注用の第3ピペット93とを備えている。第1〜第3ピペット91・92・93は1列に配されている。
【0073】
第2吸排装置79の左まで搬送され、そこで一旦停止されたカセット2のピペット挿入口41は第2吸排装置79の第1〜第3ピペット91・92・93の直下に位置している。
【0074】
カセット2が第2吸排装置79の左で一旦停止すると、第1吸排装置78の場合と同様にしてアーム90が2点鎖線の位置まで下がる。このとき、第1〜第3ピペット91・92・93はカセット2のピペット挿入口41に挿入されて2点鎖線の位置まで下がっている。
【0075】
この位置で、カセット2内のメイ液が第2吸排装置79の第2ピペット92によりすべて吸引され、液排出用チューブ(図示略)を通して排出される(メイ液排出)。図15に示すように、メイ液分注からメイ液排出までの時間、すなわちメイ固定処理の時間は、1〜5分の間で任意に設定することができるようにされている。
【0076】
なお、メイ液排出は、メイ液が第2ピペット92の外面に付着して第2ピペット92が汚れるのを防止するために、第2ピペット92が下降するのと同時に吸引・排出動作が行われるように制御される。すなわち、第2ピペット92の下降速度をvcm/s、第2ピペット92による吸引・排出量をVcm3 /s、ある時点におけるカセット2内のメイ液を上方から見たときのメイ液の面積(その時点におけるカセット2の内部断面積)をScm2 とすると、第2ピペット92がv≦V/Sを満たすような速度vで下降するように制御される。また、メイ液は毎回新しいものが使用されるが、ランニングコストを重視する場合などには2回または3回の再利用ができるようにしてもよい。
【0077】
メイ固定処理を終えた後、第2吸排装置79の染色液供給用チューブ(図示略)を通して供給されたメイ希釈液が第1ピペット91からカセット2の副スペース35へ約6ミリリットル分注される。分注されたメイ希釈液はカセット2の主スペース34へも供給されて、主スペース34内におけるスライドガラス10のメイ固定処理された箇所(塗抹箇所)を浸す。次いで、カセット2はカセット搬送ベルト5aにより第3吸排装置80の左まで搬送された後、そこで一旦停止される。
【0078】
第3吸排装置80は図19に示す第2吸排装置79と同一の構成である。カセット2が第3吸排装置80の左で一旦停止すると、第2吸排装置79の場合と同様にしてアーム90が2点鎖線の位置まで下がる。このとき、第1〜第3ピペット91・92・93はカセット2のピペット挿入口41に挿入されて2点鎖線の位置まで下がっている。
【0079】
この位置で、カセット2内のメイ希釈液が第3吸排装置80の第2ピペット92によりすべて吸引され、液排出用チューブ(図示略)を通して排出される(メイ希釈液排出)。メイ希釈液排出は、メイ希釈液が第2ピペット92の外面に付着して第2ピペット92が汚れるのを防止するために、メイ液排出の場合と同様に(第2ピペット92がv≦V/Sを満たすような速度vで下降するように)制御される。また、メイ希釈液は毎回新しいものが使用されるが、ランニングコストを重視する場合などには2回または3回と再利用できるようにしてもよい。
【0080】
メイ希釈液分注からメイ希釈液排出までの時間、すなわちメイ染色処理の時間は、1〜5分の間で任意に設定することができるようにされている。
【0081】
なお、このメイ染色処理は、染色総処理時間の短縮やランニングコストの低減を図る場合などには省略され、代わりにスライドガラス10の洗浄が行われる。すなわち、図15に示すように、前記メイ液排出の終わったカセット2内へ、第2吸排装置79の第3ピペット93から洗浄用の水(たとえばイオン交換水)またはバッファ(たとえばリン酸緩衝液)を分注し、次いで第3吸排装置80の第2ピペット92でその水またはバッファを排出することにより、スライドガラス10の洗浄が行われる。また、メイ染色処理の後に、同様の洗浄処理が行われることもある。
【0082】
メイ染色処理あるいは洗浄処理が終わると、第3吸排装置80の染色液供給用チューブ(図示略)を通して供給された染色用ギムザ液が第1ピペット91からカセット2の副スペース35へ約6ミリリットル分注される。分注されたギムザ液はカセット2の主スペース34へも供給されて、主スペース34内におけるスライドガラス10のメイ染色処理または洗浄処理された箇所(塗抹箇所)を浸す。次いで、カセット2はカセット搬送ベルト5aにより第4吸排装置81の左まで搬送された後、そこで一旦停止される。
【0083】
第4吸排装置81は図20に示すような構成である。すなわち、第4吸排装置81は、第1〜第3吸排装置78・79・80とは異なり、アーム90に設けられたピペット孔に垂直に挿入された洗浄水分注用の第1ピペット94と、アーム90における、第1ピペット94の左に設けられたピペット孔に垂直に挿入されたオーバーフロー防止用の第2ピペット95と、アーム90における、第1ピペット94の右に設けられたピペット孔に垂直に挿入された液体吸引用の第3ピペット96とを備えている。第1〜第3ピペット94・95・96は1列に配されている。
【0084】
第1ピペット94は、その長さが第1〜第3吸排装置78・79・80の第1ピペット94とほぼ同じであるが、下端が左方へ曲げられている。これは、第1ピペット94から分注された洗浄水がカセット2内のスライドガラス10の右縁から前面および後面に当たるようにするためである。第2ピペット95は、第1ピペット94よりも短く、かつ直線状のものであり、カセット2内の洗浄水がオーバーフローするのを防止するために、一定レベルになったカセット2内の洗浄水を吸引する。第3ピペット96は、その長さが第1〜第3吸排装置78・79・80の第3ピペット93とほぼ同じであり、カセット2内の副スペース35へ挿入されるのを考慮して中間部が左方へ曲げられている。
【0085】
第4吸排装置81の左まで搬送され、そこで一旦停止されたカセット2のピペット挿入口41は第4吸排装置81の第1〜第3ピペット94・95・96の直下に位置している。
【0086】
カセット2が第4吸排装置61の左で一旦停止すると、第1吸排装置78の場合と同様にしてアーム90が2点鎖線の位置まで下がる。このとき、第1〜第3ピペット94・95・96はカセット2のピペット挿入口41に挿入されて2点鎖線の位置まで下がっている。
【0087】
この位置で、カセット2内のギムザ液が第3ピペット96によりすべて吸引され、液排出用チューブ(図示略)を通して排出される(ギムザ液排出)。図15に示すように、ギムザ液分注からギムザ液排出までの時間、すなわちギムザ染色処理の時間は、5〜20分の間で任意に設定することができるようにされている。
【0088】
なお、ギムザ液排出は、ギムザ液が第3ピペット96の外面に付着して第3ピペット96が汚れるのを防止するために、メイ希釈液排出の場合と同様に、(第3ピペット96がv≦V/Sを満たすような速度vで下降するように)制御される。また、ギムザ液は毎回新しいものが使用されるが、ランニングコストを重視する場合などには2回または3回の再利用ができるようにしてもよい。
【0089】
ギムザ染色処理を終えた後、第4吸排装置81の洗浄水供給用チューブ(図示略)を通して供給された洗浄水(たとえばイオン交換水)が第1ピペット94から分注される。分注された洗浄水はカセット2の主スペース34および副スペース35を満たし、スライドガラス10におけるギムザ染色処理された箇所(塗抹箇所)を洗浄する。次いで、主スペース34および副スペース35内の洗浄水は第3ピペット96で吸引され、液排出用チューブ(図示略)を通して排出される。このような洗浄水の分注および吸引・排出を4回繰り返して、水洗処理を終える。
【0090】
以上の第1〜第4吸排装置78・79・80・81のそれぞれの左方においてカセット2を一旦停止させるために、染色部5には一対のカセット停止用ストッパ(図示略)とカセット切り離し用ストッパ(図示略)とが前後に設けられている。これらのストッパは互いに逆動作する。すなわち、前方のもの(停止用ストッパ)がカセット搬送ベルト5aの上面よりも上方へ突出したときに後方のもの(切り離し用ストッパ)が同面よりも下方へ没入するようにされている。そして、切り離し用ストッパの上端は、突出した際に、カセット搬送ベルト5aに載せられて搬送されるカセット2の吊下支持部32・33における凹所32c・33cに嵌まり込むようになっている。
【0091】
水洗処理の終わったカセット2はカセット搬送ベルト5aにより第4吸排装置81の後方に配された乾燥用ファン97の左へ搬送され、そこで、カセット2内のスライドガラス10がファン97の作動により強制乾燥される。この乾燥時間は1〜15分の間で任意に設定することができるようにされている。このとき、乾燥風はカセット2のピペット挿入口41から副スペース35内に吹き込まれ、主スペース34を経てスライドガラス収納口40へと吹き出されるので、スライドガラス10が効率よく乾燥される。
【0092】
乾燥の終わったスライドガラス10を収納したカセット2は、染色部5のカセット搬送ベルト5aからカセット送り出し・送り込み機構98へ送り出される。カセット送り出し・送り込み機構98は、染色部5および保管部6の後方にこれらを連結する状態に設けられており、カセット搬送ベルト5aから送り出されたカセット2を1つずつ左方向へ移動させた後、そのカセット2を保管部6における2本一組のカセット搬送ベルト6aへ送り込んで載せるように作動する。
【0093】
カセット送り出し・送り込み機構98により保管部6のカセット搬送ベルト6aに載せられたカセット2は、カセット搬送ベルト6aにより前方へ搬送される。そして、保管部6の前端まで搬送されてきたカセット2は保管部6の前壁6bに当たって停止する。なお、カセット搬送ベルト6aは常時、回転しており、後から順次搬送されてくるカセット2をその直前の停止したカセット2に当てるようにする。
【0094】
このようにして、保管部6のカセット搬送ベルト6aの上に所定個数のカセット2がたまっていく。所定個数たまったカセット2は保管部6から取り出される。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明の1実施形態に係る自動標本作製装置の全体構成を示す平面図。
【図2】図1の自動標本作製装置の部分構成を示す平面図。
【図3】図1の自動標本作製装置におけるスライドガラス取出機構によりスライドガラス供給用カセットからスライドガラスが取り出される前の状態を示す側面図。
【図4】図3のスライドガラス取出機構によりスライドガラス供給用カセットからスライドガラスが取り出された後の状態を示す側面図。
【図5】図3のスライドガラス取出機構によりスライドガラスが取り出されて印字のための位置まで搬送される状態を示す側面図。
【図6】図1の自動標本作製装置を構成するスライドガラス収納用カセットの背面図。
【図7】図6のカセットの平面図。
【図8】図6のカセットの下面図。
【図9】図6のカセットの側面図。
【図10】図6のP−P線に沿う断面図。
【図11】図6のQ−Q線に沿う断面図。
【図12】図6のカセットがテーブルに正しくセットされて搬送用ベルトにより搬送される状態を示す背面図。
【図13】図1の自動標本作製装置における、スライドガラスのセットから塗抹処理までの動作を示すフローチャート。
【図14】図1の自動標本作製装置における、塗抹後の検知からスライドガラスのカセットへの収納までの動作を示すフローチャート。
【図15】図1の自動標本作製装置における染色処理の全体動作を示すフローチャート。
【図16】図1の自動標本作製装置における収納操作部によりスライドガラスがカセットに収納される前の状態を示す側面図。
【図17】図16の収納操作部によりスライドガラスがカセットに収納された後の状態を示す側面図。
【図18】図1の自動標本作製装置における染色部の第1吸排装置を示す正面図。
【図19】図18の染色部の第2吸排装置および第3吸排装置を示す正面図。
【図20】図18の染色部の第4吸排装置を示す正面図。
【符号の説明】
【0096】
1 塗抹部
2 スライドガラス収納用カセット(収納体)
3 搬送部
3a カセット送り込みベルト
3b カセット横送りベルト
4 収納操作部
5 染色部
5a カセット搬送ベルト
6 保管部
6a カセット搬送ベルト
7 スライドガラス保持部
8 スライドガラス保持部
10 スライドガラス
11 ターンテーブル
12 スライドガラス供給用カセット
13 スライドガラス取出機構
31 収納部
31c 底壁
32 吊下支持部
33 吊下支持部
34 主スペース
35 副スペース
36 左上ガイド(保持用部分)
37 左下ガイド(保持用部分)
38 右上ガイド(保持用部分)
39 右下ガイド(保持用部分)
40 スライドガラス収納口
41 ピペット挿入口
44 逆向きセット防止部材(不正セット防止部分)
47 血液分注機構
48 ピペット洗浄槽
49 塗抹機構
56 カセット保持・移送部材(停止機構)
56a 保持アーム
66 第1アーム(移送・挿入機構)
68 第2アーム(移送・挿入機構)
69 カセット回動部材(回動機構)
73 第1ヘッド(移送・挿入機構)
74 第2ヘッド(移送・挿入機構)
75 ローラ(回動機構)
78 第1吸排装置
79 第2吸排装置
80 第3吸排装置
81 第4吸排装置
91 第1ピペット
92 第2ピペット
93 第3ピペット
94 第1ピペット
95 第2ピペット
96 第3ピペット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標本用スライドガラスに血液の塗抹を施すための塗抹部と、
標本用スライドガラスおよび染色液の収納が可能である収納部を備えた収納体を着脱可能にセットして搬送するための搬送部と、
標本用スライドガラスを前記収納体に1枚ずつ収納するための収納操作部と、
前記収納体に染色液を供給して塗抹済みスライドガラスに染色を施すための染色部とを備え、
前記搬送部が、収納操作部によりスライドガラスが収納された収納体を染色部に搬送し、染色部で染色が施された染色済スライドガラスを収納した収納体を染色部から搬出する、自動標本作製装置。
【請求項2】
空の収納体を保管する第1収納体保管部を備え、前記搬送部は収納体を第1収納体保管部から収納操作部に搬送する請求項1記載の自動標本作製装置。
【請求項3】
染色済スライドガラスを収納した収納体を保管する第2収納体保管部を備え、前記搬送部は、染色部で染色が施された染色済スライドガラスを収納した収納体を染色部から第2収納体保管部に搬送する請求項1または請求項2記載の自動標本作製装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2007−183293(P2007−183293A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−95719(P2007−95719)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【分割の表示】特願平7−75523の分割
【原出願日】平成7年3月31日(1995.3.31)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】