自動水栓装置
【課題】泡沫吐水を行う場合であっても、吐水口からの水流の周囲に沿って検知範囲を下流側に確実に延ばすことができる電波センサを用いた自動水栓装置を提供する。
【解決手段】電波放射口27から放射される電波の指向性を決定するための指向性決定手段を備え、指向性決定手段は、止水中よりも吐水中の方が、電波センサの検知範囲のうち、電波強度の高い領域が水流の周囲に沿って下流側に延びるように、電波と水流とを干渉させるように構成されており、水管20は、吐水口26から空気の泡を含む洗浄水を吐水するように構成されており、電波放射口27から放射された電波が、空気の泡を含む洗浄水の水流によって減衰されることを抑制するための減衰抑制手段を更に備えた。
【解決手段】電波放射口27から放射される電波の指向性を決定するための指向性決定手段を備え、指向性決定手段は、止水中よりも吐水中の方が、電波センサの検知範囲のうち、電波強度の高い領域が水流の周囲に沿って下流側に延びるように、電波と水流とを干渉させるように構成されており、水管20は、吐水口26から空気の泡を含む洗浄水を吐水するように構成されており、電波放射口27から放射された電波が、空気の泡を含む洗浄水の水流によって減衰されることを抑制するための減衰抑制手段を更に備えた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動水栓装置に関し、特に電波センサを用いて吐水・止水を自動的に行う自動水栓装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光電センサを用いて吐水・止水を自動的に行う自動水栓装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。このような自動水栓装置では、連通管の先端部分に光電センサが内蔵され、光電センサが、検知範囲内の使用者の手の存在を検出するように構成されている。
【0003】
このような自動水栓装置では、使用者が光電センサの検知範囲内に手を差し入れると、光電センサが手の存在を検知するので、吐水口からの吐水が開始される。一方、使用者が検知範囲から手を引き抜くと、光電センサが手の存在を検知しなくなるので、吐水口からの吐水が停止される。
【0004】
しかしながら、光電センサは、指向性が強く、検知範囲が狭い。このため、通常、光電センサは、吐水が確実に開始及び継続されるように、手を洗う洗浄ポイントに向けて配置される。ところが、このような構成では、洗浄ポイントに手が挿入された後に、吐水が開始され、さらに吐水弁の開閉に時間を要するので、吐水口からの吐水の開始タイミングが遅れる。この吐水タイミングの遅れは、商品上好ましくない。
【0005】
一方、光電センサの代わりに、検知範囲が広い電波センサ(マイクロ波センサ)を用いた自動水栓装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2に記載の自動水栓装置では、電波センサがシンク側に配置されており、電波センサから放射される電波ビームの方向が上方に向いて放射されるように設定されている。
【0006】
電波センサは光電センサよりも指向性が広く検知範囲が広い。したがって、電波センサを用いた自動水栓装置では、如何なる方向から手が吐水口に向けて進入してきても、手が吐水口に到達する前に手を検知することができ、応答性を高めることが可能となる。
【0007】
しかしながら、特許文献2の自動水栓装置では、電波センサがシンク側に配置されているので、吐水口付近の電波強度を高めようとすると、吐水口付近だけでなく、水栓装置の周囲でも電波強度が高まり、必要以上に検知範囲が広くなってしまう。これにより、電波センサをシンク側に配置した自動水栓装置では、手洗い中の石鹸の手もみ動作、手洗い終了後の水切り動作、シンクからの水跳ね等に反応して、誤吐水が生じ易いという問題があった。
【0008】
そこで、本出願人は、連通管内に水管と導波管を並設し、この導波管を通して電波センサから電波を吐水口部まで導く自動水栓装置を提案している(特許文献3参照)。この構成では、止水中は、吐水口に向けて如何なる方向から手が延びて来ても、吐水口付近に手が位置したタイミングで吐水が開始されるように、吐水口周辺に理想形状の検知範囲を設定することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平4−360923号公報
【特許文献2】特開2006−219891号公報
【特許文献3】特開2010−144497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献3の自動水栓装置では、止水中に吐水口周辺に広めの検知範囲を設定することができるが、吐水中も検知範囲が広いままであると、止水すべきときに吐水が継続されてしまうという問題が生じる。すなわち、吐水中においても広い検知範囲が設定されると、手洗い後に水滴を手から振り払う水切り動作や、シンクからの水跳ね等を誤検知して、吐水が開始又は継続されてしまう。
【0011】
このような誤検知を防止するために、水によって電波が減衰する性質を利用して、吐水された洗浄水によって電波を減衰させ、止水中よりも吐水中の検知範囲を小さくすることが考えられる。しかしながら、水による電波の減衰により単に検知範囲を小さくすると、検知すべき手洗い動作を検知できなくなる場合があり、これにより、手洗い中に誤止水が発生して、使い勝手が極端に低下してしまう。例えば、吐水口から比較的離れた下流の位置で手洗いをする場合や、電波を透過し易い樹脂製品(歯ブラシ、コップ等)を水流中で洗浄する場合に吐水が停止してしまう。
【0012】
本発明者は、研究を重ねた結果、吐水中において、洗浄水の水流に沿って適切に電波を放射させることにより、電波の到達距離が水流の周囲に沿って下流側に延びることを見出した。本発明者は、この知見と、水流による電波の減衰とを組み合わせることにより、止水中に比べて吐水中の検知範囲を全体的には小さくしつつ、検知範囲のうち、比較的電波強度の高い部分を水流の周囲に沿って延ばすことができた。これにより、吐水中において検知すべき手洗い動作を確実に検知しつつ、手洗い後の水切り動作等の検知すべきでない動作を検知しないようにすることができた。
【0013】
ところで、自動水栓装置には、節水のため、又は、水の飛び散り防止のため、水流中に空気の細かい泡を含む泡沫吐水を行うように構成されているものがある。
そして、本発明者は、上記構成に加えて泡沫吐水を組み合わせたところ、水流の周囲に沿って延びるべき電波強度の高い部分が延び難くなるという新たな課題を見出した。これは、空気を含む水流によって電波の減衰量が高まるためと考えられる。
【0014】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、電波センサを用いた自動水栓装置であって、泡沫吐水を行う場合であっても、吐水口からの水流の周囲に沿って検知範囲を下流側に確実に延ばすことができる自動水栓装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述した課題を解決するために、本発明は、支持体に基端部が固定され使用者側に向けて延在する連通管と吐水弁を備えた水栓本体と、連通管内に配置され、水栓本体の端部である吐水口部に形成された吐水口に洗浄水を供給する水管と、使用者の動作状態を検知するための電波センサと、電波センサの検出信号に基づいて吐水弁の開閉を切り替えて、吐水口からの洗浄水の吐水と止水を行う制御手段と、を備えた自動水栓装置において、連通管内面と水管との間に設けられた電波を通過させるための電波通過用経路と、水栓本体の基端部側に設けられ、電波通過用経路に電波を伝達するように配置された電波センサと、電波通過用経路に連通し、連通管内を通過してきた電波を外部に放出するために吐水口部に形成された電波放射口と、電波放射口から放射される電波の指向性を決定するための指向性決定手段と、を備え、指向性決定手段は、止水中においては、電波放射口から放射される電波を吐水口から吐水される洗浄水の吐水方向に沿うように指向させ、かつ、吐水中においては、電波放射口から放射された電波を吐水口から吐水された洗浄水の水流に対して連続的に干渉させ、これにより電波を減衰及び反射させるように構成されており、指向性決定手段は、止水中よりも吐水中の方が、電波センサの検知範囲が水流の周囲に沿って下流側に延びるように、電波と水流とを干渉させるように構成されており、水管は、吐水口から空気の泡を含む洗浄水を吐水するように構成されており、電波放射口から放射された電波が、空気の泡を含む洗浄水の水流によって減衰されることを抑制するための減衰抑制手段を更に備えたことを特徴としている。
【0016】
このように構成された本発明によれば、止水中には、吐水口部に設けられた電波放射口から洗浄水の吐水方向に沿うように電波を指向させるので、吐水口付近から吐水方向に沿って検知範囲を形成することができる。これにより、本発明では、手洗い動作後の水切り動作等の吐水を継続させたくない動作が誤検知されることを防止し、手洗い動作後の吐水継続を防止することができる。一方、吐水中には、洗浄水の水流によって電波を反射させることにより、洗浄水の水流の周囲に沿って電波の到達距離を延ばすことができる。したがって、吐水中は、洗浄水の水流の周りだけ検知範囲を延ばすことができる。これにより、本発明では、水流に沿った位置で行われる動作(例えば、吐水口から比較的離れた下流の位置での手洗い動作)を確実に検知し、手洗い中の誤止水を防止することができる。
【0017】
さらに本発明によれば、空気の泡を含む洗浄水の水流によって電波が減衰することを抑制するための減衰抑制手段を設けている。これにより、洗浄水が空気の泡を含む水流であっても、吐水中の検知範囲を水流の周囲に沿って下流側へ延ばすことができる。
このように、本発明は、空気の泡を含む洗浄水が吐水される場合であっても、水と電波との干渉を利用して、止水中及び吐水中に適した理想的な検知範囲を形成することができ、これにより、誤吐水及び誤止水のない、使い勝手のよい自動水栓装置を提供することができる。
【0018】
また、本発明において好ましくは、減衰抑制手段は、電波放射口よりも吐水口の方が洗浄水の吐水方向の下流側に配置された構成である。
このように構成された本発明においては、吐水口を電波放射口よりも下流側に配置することにより、電波強度の最も高い電波放射口近傍における電波と洗浄水との干渉を防止し、電波の減衰量を抑制及び調整することができる。これにより、水流の周囲に沿って下流側へ延びるように形成される検知範囲の長さが減衰によって短くなることを効果的に抑制することができる。
【0019】
上述した課題を解決するために、本発明は、シンクに向けて吐水可能なように請求項1に記載の自動水栓装置を基台に固定する工程と、電波センサの検知範囲を調整する工程と、を備え、調整工程は、洗浄水に含まれる空気の混入量を変更する工程、及び/又は、電波放射口に対して吐水口が下流側に突出する長さを変更する工程を含むことを特徴としている。
このように構成された本発明においては、洗浄水に含まれる空気の混入量によって吐水中における電波の減衰量を変更するか、電波放射口に対して吐水口が突出する長さを変更することによって、吐水中の検知範囲が水流に沿って延びる程度、及び、吐水中の検知範囲の吐水方向に対して直交する方向の大きさを変更して、吐水中の検知範囲を調整することができる。このように本発明では、電波センサの送信電波強度の切り替えや可動部材等による電波の放射方向の機械的な変更等の困難な調整を行うことなく、簡易な方法で、吐水中の検知範囲を調整することが可能となる。
また、具体的には、空気混入量変更工程において、電波センサの検知範囲を狭くする場合には、洗浄水に含まれる空気の混入量を増やせばよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、電波センサを用いた自動水栓装置において、泡沫吐水を行う場合であっても、吐水口からの水流の周囲に沿って検知範囲を下流側に確実に延ばすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態における止水中の自動水栓装置の全体構成図である。
【図2】本発明の実施形態における吐水中の自動水栓装置の全体構成図である。
【図3】本発明の実施形態における吐水キャップの断面図である。
【図4】本発明の実施形態における送受信アンテナを示す図である。
【図5】本発明の実施形態における自動水栓装置の連通管の入口部分の断面図である。
【図6】本発明の実施形態における検出信号の時間変化を示すグラフである。
【図7】本発明の実施形態における検出信号の時間変化の具体例を示すグラフである。
【図8】本発明の実施形態における自動水栓装置の吐水口付近の断面図である。
【図9】本発明の実施形態における自動水栓装置の連通管の先端部を示す図である。
【図10】本発明の実施形態の改変例における自動水栓装置の連通管の先端部を示す図である。
【図11】本発明の実施形態における止水中の電波強度分布を示す図である。
【図12】本発明の実施形態における吐水中の電波強度分布を示す図である。
【図13】本発明の実施形態における止水中の検出信号の時間変化を示すグラフである。
【図14】本発明の実施形態における吐水中の検出信号の時間変化を示すグラフである。
【図15】本発明の実施形態における空気混入量が50%の場合の電波強度分布を示す図である。
【図16】本発明の実施形態における空気混入量が100%の場合の電波強度分布を示す図である。
【図17】本発明の実施形態における自動水栓装置の突出距離を変更した場合の吐水口付近の断面図である。
【図18】図17の場合の電波強度分布を示す図である。
【図19】本発明の実施形態の改変例における自動水栓装置の吐水口付近の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、図1乃至図19を参照して、本発明の実施形態による自動水栓装置を説明する。
図1は、本実施形態の自動水栓装置1が、洗面台に取付けられた状態を示している。洗面台は、所定の凹部形状を有するシンク2と、基台3とを有している。シンク2の底面には、排水口2aが設けられている。
【0023】
図1に示すように、本実施形態の自動水栓装置1は、基台(支持体)3に基端部が固定され使用者側Cに向けて延びる連通管(スパウト)10及び吐水弁30を備えた水栓本体1Aと、連通管10内に挿入された水管20及び同軸ケーブル60(電波通過用経路)と、使用者の存在又は使用の有無を含む使用者の動作状態を検出するための電波センサ40と、吐水弁30の開閉動作を制御する制御部50とを備えている。
【0024】
連通管10は、中空の管部材であり、例えば鋼材等の金属材料で形成されている。連通管10は、少なくともその内面が電波を反射する材料で形成されている。連通管10は、基台3から鉛直方向に延びた後、先端開口がシンク2の底面を向くように湾曲した形状を有している。連通管10の出口部分は、斜め下方向を向いている。
【0025】
水管20は、吐水弁30に連結され、水栓本体1Aの端部である吐水口部に形成された吐水口26へ洗浄水を供給する。水管20は、全体として可撓性を有する管状部材であり、先端部に取り付けられた吐水キャップ21と、フレキシブル管22から構成されている。吐水キャップ21の吐水口26から、洗浄水が斜め下方向の吐水方向Aに吐出され、これにより、洗浄水は受水部であるシンク2の底面に向けて供給される。
なお、本実施形態では洗浄水が吐水口26から斜め下方向に吐出されるように構成されているが、洗浄水が吐水口26からほぼ真下に向けて吐出されるように構成してもよい。
【0026】
フレキシブル管22は、可撓性を有する管状部材であり、少なくとも連通管10内において、フレキシブル管22の外面は、電波を反射する材料(例えば、金属材料)で形成されている。
フレキシブル管22は、その上流端に吐水弁30が直接的又は間接的に接続され、下流端に吐水キャップ21が接続されている。
【0027】
また、本実施形態では、フレキシブル管22を用いているが、可撓性及び電波透過性を有するチューブで、吐水キャップ21と吐水弁30とを連結してもよい。この場合、チューブの外面の全域に、電波を反射する金属材料等の反射部材(例えば、アルミニウム箔)を配置することが望ましい。
【0028】
吐水キャップ21は、洗浄水を整流して吐出する整流キャップである。しかしながら、吐水キャップ21は、空気の泡を含む洗浄水を吐出可能な泡沫キャップであってもよい。泡沫キャップは、公知であるので、ここでは概略の構成を説明する。泡沫キャップである場合の吐水キャップ21は、図3に示すように、円筒状の外筒部21aと、外筒部21aの内側に配設された内筒部21bと、外筒部21a内で内筒部21bの基端部に配置された減圧板21cを備えている。内筒部21bと外筒部21aの間には、空気通路21dが形成され、減圧板21cには、複数の小孔21eが形成されている。
【0029】
洗浄水は、減圧板21cに設けられた小孔21eを通過し内筒部21b内に進入すると、内筒部21bの傾斜面21fに当接する。このとき、空気通路21dから複数の空気孔21gを介して内筒部21b内に空気が引き込まれ、空気は、洗浄水中に細かい泡となって含まれる。このようにして空気の泡が含まれた洗浄水が、内筒部21bの出口である吐水口26から吐出される。
【0030】
吐水キャップ21は、このような構成により、予め設定された空気混入量(単位体積中の水量に対する空気量の割合)の空気を含む洗浄水を吐出することができる。
なお、図1及び図2に示された自動水栓装置1では、吐水キャップ21は整流キャップであるが、以下に述べるように、電波センサ40の検知範囲を設定するために、所定の混入量に設定された泡沫キャップを用いてもよい。
【0031】
また、吐水キャップ21は、電波の反射率を高めるために、少なくとも外周面が電波を透過するよりも反射する率が高い高電波反射率材料(例えば、金属)で形成されており、以下に説明する検知範囲を形成する指向性決定手段の一部を構成している。
【0032】
吐水弁30は、電磁弁であり、制御部50からの制御信号により、開閉動作を行うように構成されている。また、吐水弁30は、定流量弁であり、開動作時には一定流量の洗浄水が吐水口26に向けて供給される。
【0033】
同軸ケーブル60は、長手方向に延びる内部導体及び外部導体と、これらの間に配置された誘電体とを備えた断面円形の可撓性を有する長尺な部材である。同軸ケーブル60は、電波センサ40で使用する周波数に合わせて選択されている。同軸ケーブル60は、連通管10の基端部から先端部の吐水口部まで水管20と並設されて延びている。また、同軸ケーブル60の先端には送受信アンテナ48が取り付けられている。送受信アンテナ48は、吐水口26に近い連通管10の先端部内に配置されている。
【0034】
送受信アンテナ48は、図4(a)に示すようなパッチアンテナであり、プリント基板48aと、表面(アンテナ面)に形成された金属箔のパターン48bと、裏面(グランド面)に形成された金属箔のパターン(図示せず)を有する。同軸ケーブル60の内部導体60aは、パターン48bに接続されている。また、同軸ケーブル60の外部導体は、裏面(グランド面)に形成されたパターンへ直接又は他の導体を介して接続され、グランド面のパターンと同電位にされる。このような構成の送受信アンテナ48では、電波がパターン48bの形成されたアンテナ面側から放射される。
【0035】
なお、本実施形態では、アンテナ面が連通管10の内面を向くように送受信アンテナ48が配置されているが、これに限らず、アンテナ面が吐水方向Aを向くように配置してもよい。この場合、送受信アンテナ48からの出力電波を、直接的に吐水方向Aに向けることができるので、吐水方向Aへの指向性がより高められた電波ビームを放射させることができる。
【0036】
また、送受信アンテナ48をパッチアンテナとする代わりに、図4(b)に示すように、内部導体60aを所定長さ露出させ、その先端部位61を所定の長さに折り曲げてポールアンテナを形成してもよい。この場合、電波は、図4(b)に矢印で示すように、折り曲げた先端部位61の延びる方向と直交する向きに放射される。したがって、先端部位61が連通管10の径方向に対して直交するように折り曲げて送受信アンテナ48を形成すれば、電波を電波放射口27へ向けて放射することができると共に、連通管10と水管20の隙間の径方向寸法が小さくても送受信アンテナ48を配置することができる。
【0037】
また、図4(c)に示すように、プリント基板62aに図4(b)と同様な折り曲げ形状のパターン62bを形成して、ポールアンテナを形成してもよい。図4(b)の例では、複数の自動水栓装置1に対して、先端部位61の折り曲げ長さ及び角度を精度良く同一に形成することが難しいのでアンテナ精度のバラつきが大きくなるが、図4(c)の例では同一のポールアンテナ部品を製造して、同軸ケーブル60の内部導体60aを接続すればよいので、アンテナ精度のバラつきを小さくすることができる。
【0038】
なお、同軸ケーブル60から電波を放射するには、特別なアンテナを設けることなく、単に使用電波周波数に適合させた所定長さの内部導体60aのみ、又は誘電体と内部導体60aを露出させた構成であってもよい。しかしながら、電波のロスが少なく、良好な指向性を得るためには、図4(a)−(c)のようなアンテナを設けることが好ましい。
【0039】
電波センサ40は、水栓本体1A内に配置され、かつ、水栓本体1Aの基端部側に設けられている。本実施形態では、電波センサ40は、連通管10の基端部側に固定されている。電波センサ40は、マイクロ波ドップラーセンサである。使用周波数は、例えば約10GHz又は約24GHzである。図5に示すように、電波センサ40は、内部に局部発信器,混合器(検波器)等を有する電子部品であるセンサ本体部41と、送受信アンテナ42とを備えている。また、センサ本体部41には、電波の伝送通路である導波管44が接続され、導波管44には導波管同軸変換コネクタ45を介して同軸ケーブル60が接続されている。なお、導波管同軸変換コネクタ45を用いずに、同軸ケーブル60を導波管44に直接接続してもよい。
【0040】
電波センサ40は、センサ本体部41内の局部発振器で生成したマイクロ波(送信信号)を、送受信アンテナ42から送信波として放射する。この送信信号は、導波管44,コネクタ45,同軸ケーブル60を介して送受信アンテナ48へ伝送される。そして、送信信号は、送受信アンテナ48から電波として放射され、連通管10の吐水口部に設けられた電波放射口27からシンク2へ向けて放射される。
【0041】
また、外部へ放射された電波は、対象物(例えば、人の手)で反射し、反射波(受信信号)が電波放射口27から連通管10内へ入り、送受信アンテナ48で受信される。送受信アンテナ48で受信された受信信号は、同軸ケーブル60,コネクタ45,導波管44を介して電波センサ40へ伝送され、電波センサ40の送受信アンテナ42によって受信される。
【0042】
電波センサ40のセンサ本体部41は、混合器(検波器)が、受信信号と送信信号とを混合し、ドップラー信号を検出する。
対象物が静止している場合は、送信波(送信信号)と反射波(受信信号)の周波数が同一であるので、電波センサ40は対象物の有無を検出しにくい。しかしながら、対象物が動いている場合は、反射波の周波数が変化するため、混合器の出力に差分信号があらわれる。この差分信号により、電波センサ40は、対象物の有無及び移動方向(接近又は離反)を検出し、検出信号(図6参照)を制御部50へ出力する。検出信号は、対象物の移動速度に応じた周波数成分を有する速度信号であり、移動している対象物が存在することをあらわすものである。
【0043】
制御部50は、マイコン等で構成されており、電波センサ40から検出信号をフィルタ回路51を介して受け取る。制御部50は、図6に示すように、基準値(例えば0V)に対して、ある電圧閾値(絶対値)以上の信号値を有する検出信号を受け取ると、吐水弁30を開状態にする駆動信号を出力し、基準値に対して、ある電圧閾値(絶対値)未満の信号値を有する検出信号を受け取ると、吐水弁30を閉状態にする駆動信号を出力するようにプログラムされている。すなわち、制御部50は、電圧閾値に対する検出信号の信号値に基づいて後述する電波センサ40の検知範囲を決定している。これにより、対象物が検出されているときには、吐水弁30が開状態に保持され吐水状態となる。一方、対象物が検出されていないときは、吐水弁30が閉状態に保持され止水状態となる。
【0044】
フィルタ回路51は、所定の周波数範囲の検出信号のみを通過させるバンドパスフィルタを有する。このフィルタ回路51により、人の手の動きに対応する周波数範囲の検出信号のみが制御部50へ送られるので、誤検出を抑制することができる。
【0045】
図7に検出信号の具体例を示す。
図7(A)は吐水口26から洗浄水が吐水されている状態(洗浄水が妨げられずにシンク2の底面に到達している)、図7(B)は樹脂製のコップに水を溜めている状態、図7(C)は洗浄水の水流中で両手を洗っている状態に対応している。図7では、基準値が約2.5Vであり、閾値Tが基準値を中心とした範囲で示されている。
【0046】
制御部50は、止水中において検出信号の振幅が閾値T以上になると吐水を開始する制御を行い、吐水中に検出信号の振幅が閾値T未満になると吐水を停止する制御を行う。なお、本実施形態では、吐水開始のための閾値と吐水停止のための閾値(又は、吐水を継続させるための閾値)が同じ値であるが、吐水停止閾値(又は吐水継続閾値)を吐水開始閾値よりも小さい値に設定してもよい。
【0047】
図7(A)に示すように、洗浄水が妨げられずにシンク2の底面に到達する場合には、小さな振幅を有する検出信号が検知されるが、閾値Tは、この検出信号の振幅よりも大きな値に設定されている。これにより、制御部50は、手洗い終了後には、閾値Tよりも小さな検出信号に基づいて吐水を停止することができる。
また、図7(B),図7(C)に示すように、本実施形態では、コップに水を溜めるときや、洗浄水中で手洗いをしているときには、比較的大きな振幅を有する検出信号が検知されるように電波の指向性が調整されている。そして、閾値Tは、これらの検出信号の振幅よりも小さな値に設定されている。これにより、制御部50は、コップに水を溜めている動作中や、手洗い動作中には、閾値T以上の検出信号に基づいて吐水を継続させることができる。
【0048】
次に、本実施形態の自動水栓装置1の検知範囲の概略について説明する。本実施形態では、電波センサ40の検知範囲は、吐水口26からの洗浄水の吐水の有無のみに応じて変更されるように構成されている。
図1は、止水中の検知範囲a1を示している。検知範囲a1は、吐水口26付近から放射方向B1(吐水方向A)に沿って細長く延びるように形成される。また、コップからシンク2に流された水を検知しないように、検知範囲a1の下端は、シンク2の底面に到達しないように設定されている。
【0049】
一方、図2は、吐水中の検知範囲a2を示している。検知範囲a2は、検知範囲a1よりも全体的に大きさ(体積)が小さくなるが、洗浄水の水流Wの周囲に沿って検知範囲a1よりも下流側に延びている。詳しくは、検知範囲a2は、上流側の部分において、主に水流Wに対して使用者側Cとは反対側(水栓本体1Aの基端部側)の部分が縮小し、放射方向B2に沿って延びている。放射方向B2は、吐水方向Aよりも僅かに使用者側Cに向かっている。
【0050】
一方、検知範囲a2の下流側の部分では、水流Wに対して使用者側Cの部分及び使用者側Cとは反対側の部分が共に縮小するが、電波強度の高い領域が洗浄水の水流Wの周囲に沿って下流側に延びることにより、検知範囲a2の吐水方向Aの長さは検知範囲a1と同じか、より長くなっている(ただし、検知範囲a2は、シンク2の底面までは到達しないように設定されている)。したがって、検知範囲a2の下流側の部分は、水流Wの周囲近傍だけに形成される。
【0051】
このように、吐水中は、検知範囲a2が全体的に縮小されるが、下流側では水流Wの周囲のみに検知範囲a2が形成されるので、手洗い中は確実に吐水が継続され、手洗い終了後は、手から水滴を振り払う水切り動作やシンク2からの水跳ねが検知されず、良好なタイミングで吐水が停止される。
【0052】
次に、本実施形態の自動水栓装置1の連通管10の先端部の構造について説明する。連通管10の先端部の構造は、上記検知範囲を形成するための指向性決定手段を構成する。図8に示すように、連通管10の先端部位には導波管部15が形成されている。導波管部15は、連通管10,水管20(吐水キャップ21),遮蔽部材13によって囲まれた部位であり、吐水方向Aに沿って電波の伝播通路を形成している。
【0053】
遮蔽部材13は、電波を反射する金属材料で形成されており、連通管10の内面と遮蔽部材13との間に隙間がないように、連通管10の内面の形状と略一致するような略円形の外形を有する。遮蔽部材13は、連通管10の先端側を向く面が電波反射面13aとなっており、送受信アンテナ48から出力された電波を吐水方向Aに反射して、電波放射口27から放射される電波の強度を高めている。
【0054】
また、遮蔽部材13は、同軸ケーブル60及び水管20を通す孔が形成されており、それぞれの孔に同軸ケーブル60と水管20(本例では、吐水キャップ21の取付部23)が通され固定されている。同軸ケーブル60は、遮蔽部材13によって固定され、先端から前方に延びた内部導体60aが送受信アンテナ48に接続されている。
【0055】
また、図8に示すように、水管20(吐水キャップ21)は、連通管10よりも突出するように配置されている。すなわち、吐水口26が電波放射口27よりも突出距離Xだけ下流側に位置している。本実施形態では、距離Xは1.5mmに設定されている。本実施形態では、突出距離Xを適切に設定することにより、電波放射口27から放射された電波を、電波反射性の吐水キャップ21の表面に沿って、吐水方向Aに誘導することができる。この効果は、吐水中に特に顕著である。
【0056】
また、電波放射口27の近傍に最も電波強度が高い領域が形成されるが、吐水口26が電波放射口27よりも下流側に位置することにより、最も電波強度が高い領域での洗浄水と電波との干渉が回避され、吐水中における電波の大幅な減衰を抑制することができる。これにより、本実施形態では、適切に減衰量を抑制することによって、吐水中においても、適切な大きさの検知範囲a2を形成することができる。
【0057】
このように、水管20を連通管10よりも下流側に突出させた構造は、電波減衰抑制手段として機能する。空気の泡を含む洗浄水は電波の減衰量が大きいが、空気の泡を含む洗浄水を吐水口26から吐水させる場合であっても、電波減衰抑制手段によって、電波の減衰を抑制して、吐水中に所望の検知範囲(及び内側検知範囲)を形成することができる。
【0058】
また、図9に示すように、導波管部15において、水管20は、連通管10の内側面11に当接するように配置されている。図1から分かるように、連通管10の出口部分は、シンク2の底部に向かって斜め下方へ延びており、連通管10の出口部分が延びる方向に、自動水栓装置1を使用する際に使用者が立つ位置が設定されている。
【0059】
したがって、連通管10の出口部分において、水管20は、連通管10の内側面11の内(もしくは電波放射口27の内面の内)、使用者の存在する方向C(図8、図9参照)とは真逆方向に位置する内側面11の部分に当接されている。
【0060】
本実施形態では、水管20が連通管10の内部に配置された二重管構造により、図9に示すように、水管20と連通管10との間には、電波放射口27の実質的な電波放射部位である細長い電波放射用の窓が形成されており、電波は、この細長い窓から外部へ放射される。この窓の形状は、導波管部15の断面形状と一致する。また、この細長い窓は、水管20の延びる方向と直交している。
【0061】
本実施形態では、導波管部15を伝播する電波の電界成分又は偏波面(図9において矢印で示す)が、水管20の外周面と略直交するように、連通管10に対する水管20のサイズ、又は、電波放射口27に対する吐水口26のサイズが設定されている。すなわち、図9に示すように、細長い窓は、縦方向Lに対して横方向Hの長さが長く、方形導波管の断面形状を湾曲させたものとみなせる。このため、図9の電波モードは、例えば、方形導波管内のTE01モードに類似する。
【0062】
したがって、本実施形態では、吐水口26から吐水された洗浄水の水流Wに対して、電波の電界成分を直交状態で干渉させることができる。これにより、洗浄水の水流Wに電波が干渉すると、電波の減衰及び反射特性が高められ、吐水中の電波の指向性を設定し易くすることができる。特に、電界成分が直交状態で水流Wに干渉することにより、電波が水流Wの表面で反射され易くなる。本実施形態では、吐水口26付近で水流Wが電波強度の高い領域内を通過、又は、水流Wが電波強度の高い領域に隣接するので、水流Wの周囲に存在する電波強度の高い電波が、水流Wの表面で反射することにより、水流Wの表面に沿って下流側に伝播し易くなり、電波強度の高い領域が下流側に延びる。
【0063】
なお、本実施形態では、図9に示すように、細長い窓の横方向Hの中央部において縦方向Lの長さが大きく、両端部に向かうほど縦方向Lの長さが小さくなるように構成されている。これにより、より多くの電波強度の高い電波を、水流Wの側面のうち、使用者側Cの側面に干渉させることができ、電波強度の高い領域を水流Wの使用者側Cの側面に沿って長く延ばすことができる。
【0064】
本実施形態では、このような二重管構造により、電波ビームパターンが調整されている。すなわち、本実施形態では、送受信アンテナ48の採用に加えて、連通管10の先端から電波反射面13aまでの距離、送受信アンテナ48から電波反射面13aまで距離、突出距離X、連通管10に対する水管20のサイズ等を最適に設定することにより、電波放射口27から吐水方向Aに電波の指向性が高められた電波ビームが出力されるように、電波の指向性が設定されている。
【0065】
また、二重管構造により、突出距離Xや、連通管10に対する水管20のサイズを適切に設定することにより、吐水中において、電波放射口27近傍における電波強度の高い領域の大幅な減衰を抑制しつつ、水流Wに対する電波の反射特性を高めることができる。
【0066】
さらに、二重管構造により、吐水口26の周囲に電波放射口27の細長く延びる窓が配置されることにより、吐水中において、外形が略円形の電波放射口27から放射された電波が、吐水口26より下流側で洗浄水の水流Wの周囲に回り込み、水流Wの周囲で電波を水流Wに対して干渉(反射及び減衰)させることができる。さらに、本実施形態では、水流Wが吐水口2からシンク2の底面まで直線状に延びるように吐水されるので、電波を吐水方向Aに沿って水流Wの周囲に、より長く干渉させることができる。
【0067】
特に、本実施形態では、上記二重管構造により、水流Wの使用者側Cの側面と、水流の横方向の両側面で電波が干渉し易くなるので、使用者側C及び横方向に電波が反射され易い。このため、検知範囲a2は、検知範囲a1と比べて、全体的な大きさが小さくされるにもかかわらず、水流Wに対する使用者側C及び横方向の大きさを同程度か、むしろ拡大するように設定することも可能である。
なお、本明細書では、水流又は水栓装置の横方向とは、連通管10に正対した使用者の横方向を意味し、図1及び図2では紙面に垂直な方向であり、図11等では方向Dで示されている。
【0068】
一方、水管20が連通管10の内面のうち、下側(使用者側Cとは反対側)の内面に当接しているので、水流Wの下側の側面に対して干渉する電波は少ない。このため、水流Wの下側に向けて反射される電波は少なく、吐水中の検知範囲a2は下側に広がり難くなる。さらに、吐水中、水流Wは、止水中の検知範囲a1の中心部から使用者側Cと反対側にずれた位置を吐水方向Aに沿って通過するので、水流Wと電波が連続的に干渉し、検知範囲a1のうち、水流Wに対して使用者側Cとは反対側の領域が大きく減衰され易い。このため、本実施形態では、吐水中にシンク2からの水跳ねを誤検知して、吐水が継続されることを防止することができる。
【0069】
さらに、本実施形態では、吐水口26から吐水される、空気の泡を含んだ洗浄水によって、全体的な電波の減衰量を予め設定することができる。すなわち、空気混入量を大きく設定することにより電波の減衰量を大きくし、空気混入量を小さく設定することにより電波の減衰量を小さくすることができる。
【0070】
また、図9の構成に限らず、図10のように、細長い窓の両端部に電波を透過しない材料(例えば金属)で形成された電波制限部材17を配置してもよい。高い電波反射率を有する電波制限部材17の配置により、細長い窓は、方形導波管の断面形状に、より近似し、細長い窓の横方向Hの全体にわたって電界成分を水管20の外周面に対して略直交させることができ、さらに、洗浄水の水流Wに対しても電界成分が直交した状態で電波を干渉させることができる。
【0071】
また、電波制限部材17によって、導波管部15が狭められるので、導波管部15内及び吐水口26付近の電波強度を高めることができる。これにより、より電波強度が高められた電波と洗浄水の水流Wとの干渉により、検知範囲a2のうち、電波強度の高い領域を更に下流まで延ばすことができる。
さらに、電波制限部材17は、吐水方向Aから見て、導波管部15のうち、吐水口26の中心より下側(使用者側Cとは反対側)の部位に配置されており、これにより、電波放射口27の細長い窓は、吐水口26の中心より下側に形成されない。このため、電波放射口27から放射された電波は、洗浄水の水流Wによって、使用者側Cとは反対側に向かうことが抑制されるので、吐水中にシンク2からの水跳ねを検知し難くすることができる。
【0072】
次に、本実施形態の自動水栓装置1の指向性決定手段の作用について説明する。
図11は、止水中に電波放射口27から放射された電波の電波強度分布と、止水中の電波センサ40の検知範囲a1及び内側検知範囲a10を示している。図11(A)は吐水口26付近を側方から見た状態、図11(B)は吐水口26付近を上方から見た状態、図11(C)は吐水口26付近を吐水方向Aから見た状態を示している。以下の図面も同様である。検知範囲a1,a10は、止水中において、連通管10の電波放射口27から放射される電波ビームにより対象物を検知できる範囲を示している。
【0073】
本実施形態では、止水中において、電波放射口27から放射される電波ビームの空間的な放射パターンが、指向性決定手段により、放射方向B1に指向性を有するように設定されている。なお、本実施形態では、放射方向B1は吐水方向Aとほぼ一致している。
【0074】
したがって、止水中における検知範囲a1は、吐水方向Aに沿って延びる楕円球体のような細長い形状となるように設定されている(図11(A),(B)参照)。すなわち、検知範囲a1内において、等電波強度面が吐水方向Aに沿って延びる楕円球体のような細長い形状となる。また、電波ビームは、吐水口26の上方(使用者側C)及び下方(水栓本体1Aの基端部側)にも広がっており、特に上方に向けて広がっている(図11(A),(C)参照)。
【0075】
なお、本明細書では、等電波強度面は、電波ビームの等しい電波強度を有する空間点を繋いで形成される面である。また、本明細書では、細長い形状は、楕円球体のように、ある方向の長さが、この方向と直交する任意の方向の長さよりも長い形状を意味している。
【0076】
検知範囲a1は、このような等電波強度面の内、反射波により電波センサ40が有意に人の手の動きを検知できる最も外側の等電波強度面で画定される空間範囲である。使用者が手洗いのために、この検知範囲a1に手を差し入れると、電波センサ40が手の動きを検知し、検出信号を制御部50へ送信する。制御部50は、検出信号を受け取ると、吐水弁30へ駆動信号を送り、吐水弁30を開状態に切り替える。これにより、手が吐水口26付近に到達するのに合わせて、洗浄水が吐水口26からタイミング良く吐水される。
【0077】
従来、光電センサを用いた自動水栓装置では、検知範囲が狭かったため、使用者の手の接近に合わせてタイミング良く吐水を開始できなかった。しかしながら、本実施形態によれば、吐水方向Aに対して径方向に膨らむように検知範囲a1が設定されているので、如何なる方向から手が差し入れられても、吐水口26から吐水方向Aに延ばした延長線上に存在する洗浄ポイントに手が到達する前に、使用者の手の接近をより早く検知することができ、タイミング良く吐水を開始することが可能となる。
【0078】
また、単に連通管10の出口端部から電波が放射される場合には、電波ビームは球状に広がるので、吐水口26付近における使用者の水切り動作を検知してしまう。しかしながら、本実施形態では、止水中における検知範囲a1が、吐水方向Aに向けて楕円球体のような縦長に設定されているので、吐水口26からの距離が同じでも、洗浄ポイントの電波の放射強度を高くすることができる。よって、水切り動作が検知範囲a1の外側で行われることになるので、水切り動作中に、洗浄水が吐水されることを防止することができる。このように、本実施形態では、吐水させたい位置に存在する使用者の手を検知し易くすることができ、吐水してほしくない位置に存在する手を検知し難くすることができる。
【0079】
また、内側検知範囲a10は、手よりも低い電波反射率の検知物体を有意に検知するための空間範囲である。すなわち、歯ブラシやコップ等の樹脂製品は、電波を透過し易いため電波の反射率が低く、内側検知範囲a10内の高い電波強度の電波でなければ検知することができない。歯ブラシ等の洗浄動作では、吐水口26に近い位置に歯ブラシ等が差し入れられるので、この位置が内側検知範囲a10内であれば吐水を開始させることができる。一方、手洗い動作では、吐水口26から比較的離れた位置に手が差し入れられるので、この位置が検知範囲a1内であれば吐水を開始させることができる。
【0080】
図12は、吐水中の電波強度分布と、吐水中の電波センサ40の検知範囲a2及び内側検知範囲a20を示している。
本実施形態では、吐水中に、洗浄水の水流Wと検知範囲a1の電波とを干渉させて、電波の一部を減衰及び反射させることにより、検知範囲a2を設定している。本実施形態では、洗浄水の吐出の有無のみに応じて、止水中と吐水中の適切な検知範囲が自動的に切り替えられるように構成されている。電波の減衰は電波の放射強度を弱めて放射パターン(検知範囲)を全体的に小さくし、電波の反射は電波の放射パターンの全体的な形状を変化させる。これにより、検知範囲a2は、検知範囲a1と一部領域が重なるが、検知範囲a2の大きさは検知範囲a1よりも小さく、検知範囲a2の形状は検知範囲a1と異なる。
【0081】
より詳しくは、吐水が開始されることにより、検知範囲a2は、検知範囲a1と比べると、上流側の部分が吐水方向Aと直交する方向において縮小すると共に(図12(A),(C)参照)、横方向Dにおいても縮小している(図12(B),(C)参照)。特に、水流Wよりも下側(使用者側Cとは反対側)の領域が、上側(使用者側C)の領域よりも減衰されている。これは、水流Wが、検知範囲a1の中心部から使用者側Cとは反対側にずれた位置を吐水方向Aに沿って通過することにより、検知範囲a1のうち、使用者側Cと反対側の領域が大きく減衰されたことによるものである。
【0082】
また、検知範囲a2は、検知範囲a1と比べて、下流側の部分が吐水方向Aにおいて下流側に延びている(図12(A),(B)参照)。本実施形態では、このように検知範囲a2を全体として水流Wに沿って下流側へ延ばすことができる。したがって、吐水中は、吐水口26から離れた位置で手洗いをしても、吐水を継続させることができる。
【0083】
更に、本実施形態では、歯ブラシ等の低い電波反射率の検知物体を検知可能な内側検知範囲a20を、水流Wの周囲に沿って下流側へ延ばすことができる。すなわち、検知範囲a2は、電波強度が低い領域のみが下流側へ延ばされるのではなく、電波強度の高い領域(内側検知範囲a20)も水流Wの周囲に沿って下流側へ延ばされる。したがって、吐水中は、吐水口26から比較的離れた位置で歯ブラシ等を洗浄しても、吐水を継続させることができる。
【0084】
図13は、止水中の検出信号の具体例を示している。
図13(A)は、吐水口26から吐水方向Aに20mm離れた位置P0(図11参照)で歯ブラシを左右に動かした状態の検出信号である(吐水は強制的に停止させている)。なお、図13及び図14では、基準値が0Vに設定されている。
位置P0は、内側検知範囲a10内に位置する。このため、位置P0で歯ブラシを動かすと、内側検知範囲a10内の高い電波強度の電波が歯ブラシで反射されるため、閾値T以上の振幅の検出信号が検出され、制御部50は吐水を開始及び継続する制御を行うことができる。
【0085】
一方、図13(B)は、吐水口26から吐水方向Aに50mm離れた位置P1(図11参照)で歯ブラシを左右に動かした状態の検出信号である。位置P1は、内側検知範囲a10の外側に位置する。このため、位置P1で歯ブラシを動かしても、比較的低い電波強度の電波しか歯ブラシで反射されないため、閾値Tより小さい振幅の検出信号が検出される。したがって、制御部50は吐水を停止した状態を保持する。
【0086】
また、図14は、吐水中の検出信号の具体例を示している。
図14(A)は、水流Wが妨げられることなくシンク2の底面に到達している状態の検出信号を示している(吐水は強制的に継続させている)。図14(A)に示すように、単に吐水している状態では、検出信号の振幅が閾値Tより小さくなるので、制御部50は吐水状態から止水状態に切り替える制御を行うことができる。
【0087】
一方、図14(B)は、図13と同様に、位置P1(図12参照)で水流W中において歯ブラシを左右に動かした状態の検出信号である。位置P1は、止水中には内側検知範囲a10の外側に位置するが、吐水中には内側検知範囲a20内に位置する。このため、位置P1で歯ブラシを動かすと、高い電波強度の電波が歯ブラシで反射されるため、閾値T以上の振幅の検出信号が検出され、制御部50は吐水を継続する制御を行うことができる。
【0088】
このように、本実施形態では、吐水中には、止水中よりも低電波反射率の検知物体(歯ブラシ等)を検知可能な検知範囲a20が水流Wの周囲に沿って下流側に延びる。このため、低電波反射率の検知物体を止水中の内側検知範囲a10に差し入れて吐水を開始させた後は、吐水口26から離れた位置P1まで、低電波反射率の検知物体を移動させて洗浄動作を行っても、吐水を継続させることができる。これにより、低電波反射率の検知物体の洗浄動作中に吐水が途切れることがなく、水栓装置の使い勝手を向上させることができる。
【0089】
次に、洗浄水中の空気混入量による検知範囲の調整について説明する。図12は、洗浄水中の空気混入量が0%に設定された例を示したが、図15は空気混入量が50%の例を示し、図16は空気混入量が100%の例を示している。なお、図15及び図16では、図12と同様に、突出距離Xは1.5mmに設定されている。
図15では、空気混入量50%の吐水中の検知範囲,内側検知範囲を、それぞれ検知範囲a250,検知範囲a2050で示し、図16では、空気混入量100%の吐水中の検知範囲,内側検知範囲を、それぞれ検知範囲a2100,検知範囲a20100で示している。
【0090】
図12、図15及び図16から分かるように、空気混入量の変化に伴って、水流Wによる電波の減衰量や電波の反射の程度が変化する。空気混入量が大きくなるにつれて、検知範囲は、全体的な大きさ(体積)が小さくなっており、特に、下流側の部分が吐水方向Aと直交する方向において小さくなっている。そして、空気混入量が多くなるにつれて、内側検知範囲が短くなっている。これは、空気の泡を含む洗浄水の水流の方が、電波を減衰し易いことを示している。
このように、本発明では、シンク2等の形状に合わせて、吐水キャップ21によって空気混入量を調整することにより、適切な大きさ及び吐水方向Aの長さを有する検知範囲、及び、内側検知範囲を予め設定することができる。
【0091】
次に、吐水キャップ21の突出距離Xによる検知範囲の調整について説明する。ここでは、空気混入量が50%の場合において、突出距離Xを変更させた例について説明する。図8は突出距離Xが1.5mm、図17(A)は突出距離Xが0mm、図17(B)は突出距離Xが4mmの例である。
図17(A)では、本体部の長さが短いタイプの吐水キャップ21を用いており、図17(B)では、水管20に対する吐水キャップ21の挿入距離を変更している。なお、図17(B)において、挿入距離の調整ではなく、本体部の長さが長いタイプの吐水キャップ21を用いて、突出距離を変更してもよい。
【0092】
図18(A)は図17(A)の場合の電波強度分布を示しており、図18(B)は図17(B)の場合の電波強度分布を示している。図18(A)では、突出距離Xが0mmの場合の検知範囲,内側検知範囲を、それぞれ検知範囲a20,検知範囲a200で示し、図18(B)では、突出距離Xが4mmの場合の検知範囲,内側検知範囲を、検知範囲a24,検知範囲a204で示している。
【0093】
図15(A),図18(A),図18(B)を見ると分かるように、突出距離Xが0mmの場合(図18(A))よりも、突出距離Xが1.5mm(図15(A))及び4mm(図18(B))の方が、検知範囲及び内側検知範囲が下流側に長く延びていることが分かる。更に、突出距離Xが1.5mmの場合が、最も検知範囲及び内側検知範囲が下流側に延びている。また、突出距離Xに応じて、吐水方向Aに対して直交する方向の検知範囲の広がりが変化する。
このように、本実施形態では、シンク2等の形状に合わせて、突出距離Xを最適な長さに調整することにより、最適な大きさ及び吐水方向Aの長さを有する検知範囲、及び、内側検知範囲を予め設定することができる。
【0094】
なお、本実施形態では、吐水キャップ21が電波反射率の高い金属の外表面を有しているため、電波を吐水キャップ21で効率的に反射させることができる。したがって、本実施形態では、電波反射率の低い材料で吐水キャップ21を形成した場合と比べて、同様の反射効果を得ることができる突出距離Xを短く設定することができる。
【0095】
しかしながら、自動水栓装置1では、デザイン性が最も重要な要素のうちの1つであり、水管20が連通管10よりも突出していることは、デザイン上好ましくない。このため、図19に示すように、連通管10の先端部に、電波透過性の材料(例えば、樹脂)で形成された閉塞部材29を配置することが望ましい。
【0096】
閉塞部材29は、水管20が連通管10から突出した状態が外部から見えないように、且つ、吐水口26を塞ぐことなく、連通管10と吐水キャップ21との間の隙間を埋めるように形成された円形の部材である。また、閉塞部材29は、吐水口26からの吐水を通過させるための孔29aを有している。孔29aは、吐水キャップ21の先端部を支持するように構成されており、吐水キャップ21の先端部は孔29aに嵌め込まれている。このような閉塞部材29により、連通管10よりも水管20が突出している状態が使用者の目に触れることを防止して、デザイン性を良好にすることができる。
【0097】
電波放射口27の細長い窓は閉塞部材29によって塞がれているが、閉塞部材29が電波透過性の材料で形成されているため、電波放射口27から放射される電波は、閉塞部材29を通過することができる。また、吐水口26から吐水される洗浄水は、閉塞部材29の孔29aを通過することができる。
【0098】
次に、本実施形態の自動水栓装置1の取付方法について説明する。
自動水栓装置1を洗面台に取り付けるため、先ず、自動水栓装置1から吐水される洗浄水がシンク2の底面の所定箇所に着水するように、自動水栓装置1を基台2に固定し、その後、自動水栓装置1の電波センサ40の検知範囲a1,a2及び内側検知範囲a10,a20を調整する。
【0099】
この調整工程では、吐水口26からシンク2の底面までの距離等を考慮して、適切な検知範囲及び内側検知範囲が形成されるように、空気混入量および/または突出距離Xを設定する。空気混入量の設定は、所定の吐水圧力において空気混入量が固定された吐水キャップを使用する場合は、異なる空気混入量設定値の複数の吐水キャップから、所望の設定値の空気混入量の吐水キャップ21を選択することによって行う。このように、吐水キャップ21を取り替えることにより、空気混入量を変更することができる。また、空気混入量の設定は、空気混入量を変更可能な吐水キャップを使用する場合は、その吐水キャップの空気混入量を変更することにより行う。
また、突出距離Xの設定は、吐水キャップ21の水管20に対する挿入距離の変更、又は、本体部の長さが異なる吐水キャップ21への変更により行うことができる。
なお、本実施形態では、電波センサ40の送信電波の出力強度は、固定されており、止水中と吐水中においても同一である。
【0100】
より具体的には、主に吐水中の検知範囲a2及び内側検知範囲a20を調整するため、複数の吐水キャップ21を順次に取り替えて、および/または、吐水キャップ21の突出距離Xを段階的に切り替える。これにより、形成される検知範囲a2及び内側検知範囲a20の吐水方向A及びこれと直交する方向の大きさを変更し、最適な空気混入量の吐水キャップ21及び突出距離Xを選択する。これにより、取り付けられる洗面台に最適な検知範囲及び内側検知範囲を設定することができる。
【0101】
なお、調整工程において、検知範囲及び内側検知範囲を狭くするには、空気混入量が大きい吐水キャップ21を選択し、検知範囲及び内側検知範囲を広くするには、空気混入量が小さい吐水キャップ21を選択する。また、調整工程において、検知範囲及び内側検知範囲を広くするには、これらの範囲が広くなる所定範囲内の値に突出距離Xを設定し、検知範囲及び内側検知範囲を狭くするには、所定範囲から離れた値に突出距離Xを設定する。
このように、本実施形態の自動水栓装置1では、種々の洗面台に応じて、取付時に、最適な検知範囲及び内側検知範囲を予め設定することができる。
【0102】
なお、上記実施形態では、吐水口部において、水管20が連通管10の内周面の最下部分(すなわち、使用者側Cと反対側の内周面)に当接しているが、これに限らず、水管20が内周面の最上部分(すなわち、使用者側Cの内周面)や他の部分に当接又は隣接した構成であってもよい。
【符号の説明】
【0103】
1 自動水栓装置
2 シンク
10 連通管
20 水管
26 吐水口
27 電波放射口
40 電波センサ
50 制御部
A 吐水方向
B1,B2 放射方向
a1,a2 検知範囲
【技術分野】
【0001】
本発明は自動水栓装置に関し、特に電波センサを用いて吐水・止水を自動的に行う自動水栓装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光電センサを用いて吐水・止水を自動的に行う自動水栓装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。このような自動水栓装置では、連通管の先端部分に光電センサが内蔵され、光電センサが、検知範囲内の使用者の手の存在を検出するように構成されている。
【0003】
このような自動水栓装置では、使用者が光電センサの検知範囲内に手を差し入れると、光電センサが手の存在を検知するので、吐水口からの吐水が開始される。一方、使用者が検知範囲から手を引き抜くと、光電センサが手の存在を検知しなくなるので、吐水口からの吐水が停止される。
【0004】
しかしながら、光電センサは、指向性が強く、検知範囲が狭い。このため、通常、光電センサは、吐水が確実に開始及び継続されるように、手を洗う洗浄ポイントに向けて配置される。ところが、このような構成では、洗浄ポイントに手が挿入された後に、吐水が開始され、さらに吐水弁の開閉に時間を要するので、吐水口からの吐水の開始タイミングが遅れる。この吐水タイミングの遅れは、商品上好ましくない。
【0005】
一方、光電センサの代わりに、検知範囲が広い電波センサ(マイクロ波センサ)を用いた自動水栓装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2に記載の自動水栓装置では、電波センサがシンク側に配置されており、電波センサから放射される電波ビームの方向が上方に向いて放射されるように設定されている。
【0006】
電波センサは光電センサよりも指向性が広く検知範囲が広い。したがって、電波センサを用いた自動水栓装置では、如何なる方向から手が吐水口に向けて進入してきても、手が吐水口に到達する前に手を検知することができ、応答性を高めることが可能となる。
【0007】
しかしながら、特許文献2の自動水栓装置では、電波センサがシンク側に配置されているので、吐水口付近の電波強度を高めようとすると、吐水口付近だけでなく、水栓装置の周囲でも電波強度が高まり、必要以上に検知範囲が広くなってしまう。これにより、電波センサをシンク側に配置した自動水栓装置では、手洗い中の石鹸の手もみ動作、手洗い終了後の水切り動作、シンクからの水跳ね等に反応して、誤吐水が生じ易いという問題があった。
【0008】
そこで、本出願人は、連通管内に水管と導波管を並設し、この導波管を通して電波センサから電波を吐水口部まで導く自動水栓装置を提案している(特許文献3参照)。この構成では、止水中は、吐水口に向けて如何なる方向から手が延びて来ても、吐水口付近に手が位置したタイミングで吐水が開始されるように、吐水口周辺に理想形状の検知範囲を設定することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平4−360923号公報
【特許文献2】特開2006−219891号公報
【特許文献3】特開2010−144497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献3の自動水栓装置では、止水中に吐水口周辺に広めの検知範囲を設定することができるが、吐水中も検知範囲が広いままであると、止水すべきときに吐水が継続されてしまうという問題が生じる。すなわち、吐水中においても広い検知範囲が設定されると、手洗い後に水滴を手から振り払う水切り動作や、シンクからの水跳ね等を誤検知して、吐水が開始又は継続されてしまう。
【0011】
このような誤検知を防止するために、水によって電波が減衰する性質を利用して、吐水された洗浄水によって電波を減衰させ、止水中よりも吐水中の検知範囲を小さくすることが考えられる。しかしながら、水による電波の減衰により単に検知範囲を小さくすると、検知すべき手洗い動作を検知できなくなる場合があり、これにより、手洗い中に誤止水が発生して、使い勝手が極端に低下してしまう。例えば、吐水口から比較的離れた下流の位置で手洗いをする場合や、電波を透過し易い樹脂製品(歯ブラシ、コップ等)を水流中で洗浄する場合に吐水が停止してしまう。
【0012】
本発明者は、研究を重ねた結果、吐水中において、洗浄水の水流に沿って適切に電波を放射させることにより、電波の到達距離が水流の周囲に沿って下流側に延びることを見出した。本発明者は、この知見と、水流による電波の減衰とを組み合わせることにより、止水中に比べて吐水中の検知範囲を全体的には小さくしつつ、検知範囲のうち、比較的電波強度の高い部分を水流の周囲に沿って延ばすことができた。これにより、吐水中において検知すべき手洗い動作を確実に検知しつつ、手洗い後の水切り動作等の検知すべきでない動作を検知しないようにすることができた。
【0013】
ところで、自動水栓装置には、節水のため、又は、水の飛び散り防止のため、水流中に空気の細かい泡を含む泡沫吐水を行うように構成されているものがある。
そして、本発明者は、上記構成に加えて泡沫吐水を組み合わせたところ、水流の周囲に沿って延びるべき電波強度の高い部分が延び難くなるという新たな課題を見出した。これは、空気を含む水流によって電波の減衰量が高まるためと考えられる。
【0014】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、電波センサを用いた自動水栓装置であって、泡沫吐水を行う場合であっても、吐水口からの水流の周囲に沿って検知範囲を下流側に確実に延ばすことができる自動水栓装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述した課題を解決するために、本発明は、支持体に基端部が固定され使用者側に向けて延在する連通管と吐水弁を備えた水栓本体と、連通管内に配置され、水栓本体の端部である吐水口部に形成された吐水口に洗浄水を供給する水管と、使用者の動作状態を検知するための電波センサと、電波センサの検出信号に基づいて吐水弁の開閉を切り替えて、吐水口からの洗浄水の吐水と止水を行う制御手段と、を備えた自動水栓装置において、連通管内面と水管との間に設けられた電波を通過させるための電波通過用経路と、水栓本体の基端部側に設けられ、電波通過用経路に電波を伝達するように配置された電波センサと、電波通過用経路に連通し、連通管内を通過してきた電波を外部に放出するために吐水口部に形成された電波放射口と、電波放射口から放射される電波の指向性を決定するための指向性決定手段と、を備え、指向性決定手段は、止水中においては、電波放射口から放射される電波を吐水口から吐水される洗浄水の吐水方向に沿うように指向させ、かつ、吐水中においては、電波放射口から放射された電波を吐水口から吐水された洗浄水の水流に対して連続的に干渉させ、これにより電波を減衰及び反射させるように構成されており、指向性決定手段は、止水中よりも吐水中の方が、電波センサの検知範囲が水流の周囲に沿って下流側に延びるように、電波と水流とを干渉させるように構成されており、水管は、吐水口から空気の泡を含む洗浄水を吐水するように構成されており、電波放射口から放射された電波が、空気の泡を含む洗浄水の水流によって減衰されることを抑制するための減衰抑制手段を更に備えたことを特徴としている。
【0016】
このように構成された本発明によれば、止水中には、吐水口部に設けられた電波放射口から洗浄水の吐水方向に沿うように電波を指向させるので、吐水口付近から吐水方向に沿って検知範囲を形成することができる。これにより、本発明では、手洗い動作後の水切り動作等の吐水を継続させたくない動作が誤検知されることを防止し、手洗い動作後の吐水継続を防止することができる。一方、吐水中には、洗浄水の水流によって電波を反射させることにより、洗浄水の水流の周囲に沿って電波の到達距離を延ばすことができる。したがって、吐水中は、洗浄水の水流の周りだけ検知範囲を延ばすことができる。これにより、本発明では、水流に沿った位置で行われる動作(例えば、吐水口から比較的離れた下流の位置での手洗い動作)を確実に検知し、手洗い中の誤止水を防止することができる。
【0017】
さらに本発明によれば、空気の泡を含む洗浄水の水流によって電波が減衰することを抑制するための減衰抑制手段を設けている。これにより、洗浄水が空気の泡を含む水流であっても、吐水中の検知範囲を水流の周囲に沿って下流側へ延ばすことができる。
このように、本発明は、空気の泡を含む洗浄水が吐水される場合であっても、水と電波との干渉を利用して、止水中及び吐水中に適した理想的な検知範囲を形成することができ、これにより、誤吐水及び誤止水のない、使い勝手のよい自動水栓装置を提供することができる。
【0018】
また、本発明において好ましくは、減衰抑制手段は、電波放射口よりも吐水口の方が洗浄水の吐水方向の下流側に配置された構成である。
このように構成された本発明においては、吐水口を電波放射口よりも下流側に配置することにより、電波強度の最も高い電波放射口近傍における電波と洗浄水との干渉を防止し、電波の減衰量を抑制及び調整することができる。これにより、水流の周囲に沿って下流側へ延びるように形成される検知範囲の長さが減衰によって短くなることを効果的に抑制することができる。
【0019】
上述した課題を解決するために、本発明は、シンクに向けて吐水可能なように請求項1に記載の自動水栓装置を基台に固定する工程と、電波センサの検知範囲を調整する工程と、を備え、調整工程は、洗浄水に含まれる空気の混入量を変更する工程、及び/又は、電波放射口に対して吐水口が下流側に突出する長さを変更する工程を含むことを特徴としている。
このように構成された本発明においては、洗浄水に含まれる空気の混入量によって吐水中における電波の減衰量を変更するか、電波放射口に対して吐水口が突出する長さを変更することによって、吐水中の検知範囲が水流に沿って延びる程度、及び、吐水中の検知範囲の吐水方向に対して直交する方向の大きさを変更して、吐水中の検知範囲を調整することができる。このように本発明では、電波センサの送信電波強度の切り替えや可動部材等による電波の放射方向の機械的な変更等の困難な調整を行うことなく、簡易な方法で、吐水中の検知範囲を調整することが可能となる。
また、具体的には、空気混入量変更工程において、電波センサの検知範囲を狭くする場合には、洗浄水に含まれる空気の混入量を増やせばよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、電波センサを用いた自動水栓装置において、泡沫吐水を行う場合であっても、吐水口からの水流の周囲に沿って検知範囲を下流側に確実に延ばすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態における止水中の自動水栓装置の全体構成図である。
【図2】本発明の実施形態における吐水中の自動水栓装置の全体構成図である。
【図3】本発明の実施形態における吐水キャップの断面図である。
【図4】本発明の実施形態における送受信アンテナを示す図である。
【図5】本発明の実施形態における自動水栓装置の連通管の入口部分の断面図である。
【図6】本発明の実施形態における検出信号の時間変化を示すグラフである。
【図7】本発明の実施形態における検出信号の時間変化の具体例を示すグラフである。
【図8】本発明の実施形態における自動水栓装置の吐水口付近の断面図である。
【図9】本発明の実施形態における自動水栓装置の連通管の先端部を示す図である。
【図10】本発明の実施形態の改変例における自動水栓装置の連通管の先端部を示す図である。
【図11】本発明の実施形態における止水中の電波強度分布を示す図である。
【図12】本発明の実施形態における吐水中の電波強度分布を示す図である。
【図13】本発明の実施形態における止水中の検出信号の時間変化を示すグラフである。
【図14】本発明の実施形態における吐水中の検出信号の時間変化を示すグラフである。
【図15】本発明の実施形態における空気混入量が50%の場合の電波強度分布を示す図である。
【図16】本発明の実施形態における空気混入量が100%の場合の電波強度分布を示す図である。
【図17】本発明の実施形態における自動水栓装置の突出距離を変更した場合の吐水口付近の断面図である。
【図18】図17の場合の電波強度分布を示す図である。
【図19】本発明の実施形態の改変例における自動水栓装置の吐水口付近の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、図1乃至図19を参照して、本発明の実施形態による自動水栓装置を説明する。
図1は、本実施形態の自動水栓装置1が、洗面台に取付けられた状態を示している。洗面台は、所定の凹部形状を有するシンク2と、基台3とを有している。シンク2の底面には、排水口2aが設けられている。
【0023】
図1に示すように、本実施形態の自動水栓装置1は、基台(支持体)3に基端部が固定され使用者側Cに向けて延びる連通管(スパウト)10及び吐水弁30を備えた水栓本体1Aと、連通管10内に挿入された水管20及び同軸ケーブル60(電波通過用経路)と、使用者の存在又は使用の有無を含む使用者の動作状態を検出するための電波センサ40と、吐水弁30の開閉動作を制御する制御部50とを備えている。
【0024】
連通管10は、中空の管部材であり、例えば鋼材等の金属材料で形成されている。連通管10は、少なくともその内面が電波を反射する材料で形成されている。連通管10は、基台3から鉛直方向に延びた後、先端開口がシンク2の底面を向くように湾曲した形状を有している。連通管10の出口部分は、斜め下方向を向いている。
【0025】
水管20は、吐水弁30に連結され、水栓本体1Aの端部である吐水口部に形成された吐水口26へ洗浄水を供給する。水管20は、全体として可撓性を有する管状部材であり、先端部に取り付けられた吐水キャップ21と、フレキシブル管22から構成されている。吐水キャップ21の吐水口26から、洗浄水が斜め下方向の吐水方向Aに吐出され、これにより、洗浄水は受水部であるシンク2の底面に向けて供給される。
なお、本実施形態では洗浄水が吐水口26から斜め下方向に吐出されるように構成されているが、洗浄水が吐水口26からほぼ真下に向けて吐出されるように構成してもよい。
【0026】
フレキシブル管22は、可撓性を有する管状部材であり、少なくとも連通管10内において、フレキシブル管22の外面は、電波を反射する材料(例えば、金属材料)で形成されている。
フレキシブル管22は、その上流端に吐水弁30が直接的又は間接的に接続され、下流端に吐水キャップ21が接続されている。
【0027】
また、本実施形態では、フレキシブル管22を用いているが、可撓性及び電波透過性を有するチューブで、吐水キャップ21と吐水弁30とを連結してもよい。この場合、チューブの外面の全域に、電波を反射する金属材料等の反射部材(例えば、アルミニウム箔)を配置することが望ましい。
【0028】
吐水キャップ21は、洗浄水を整流して吐出する整流キャップである。しかしながら、吐水キャップ21は、空気の泡を含む洗浄水を吐出可能な泡沫キャップであってもよい。泡沫キャップは、公知であるので、ここでは概略の構成を説明する。泡沫キャップである場合の吐水キャップ21は、図3に示すように、円筒状の外筒部21aと、外筒部21aの内側に配設された内筒部21bと、外筒部21a内で内筒部21bの基端部に配置された減圧板21cを備えている。内筒部21bと外筒部21aの間には、空気通路21dが形成され、減圧板21cには、複数の小孔21eが形成されている。
【0029】
洗浄水は、減圧板21cに設けられた小孔21eを通過し内筒部21b内に進入すると、内筒部21bの傾斜面21fに当接する。このとき、空気通路21dから複数の空気孔21gを介して内筒部21b内に空気が引き込まれ、空気は、洗浄水中に細かい泡となって含まれる。このようにして空気の泡が含まれた洗浄水が、内筒部21bの出口である吐水口26から吐出される。
【0030】
吐水キャップ21は、このような構成により、予め設定された空気混入量(単位体積中の水量に対する空気量の割合)の空気を含む洗浄水を吐出することができる。
なお、図1及び図2に示された自動水栓装置1では、吐水キャップ21は整流キャップであるが、以下に述べるように、電波センサ40の検知範囲を設定するために、所定の混入量に設定された泡沫キャップを用いてもよい。
【0031】
また、吐水キャップ21は、電波の反射率を高めるために、少なくとも外周面が電波を透過するよりも反射する率が高い高電波反射率材料(例えば、金属)で形成されており、以下に説明する検知範囲を形成する指向性決定手段の一部を構成している。
【0032】
吐水弁30は、電磁弁であり、制御部50からの制御信号により、開閉動作を行うように構成されている。また、吐水弁30は、定流量弁であり、開動作時には一定流量の洗浄水が吐水口26に向けて供給される。
【0033】
同軸ケーブル60は、長手方向に延びる内部導体及び外部導体と、これらの間に配置された誘電体とを備えた断面円形の可撓性を有する長尺な部材である。同軸ケーブル60は、電波センサ40で使用する周波数に合わせて選択されている。同軸ケーブル60は、連通管10の基端部から先端部の吐水口部まで水管20と並設されて延びている。また、同軸ケーブル60の先端には送受信アンテナ48が取り付けられている。送受信アンテナ48は、吐水口26に近い連通管10の先端部内に配置されている。
【0034】
送受信アンテナ48は、図4(a)に示すようなパッチアンテナであり、プリント基板48aと、表面(アンテナ面)に形成された金属箔のパターン48bと、裏面(グランド面)に形成された金属箔のパターン(図示せず)を有する。同軸ケーブル60の内部導体60aは、パターン48bに接続されている。また、同軸ケーブル60の外部導体は、裏面(グランド面)に形成されたパターンへ直接又は他の導体を介して接続され、グランド面のパターンと同電位にされる。このような構成の送受信アンテナ48では、電波がパターン48bの形成されたアンテナ面側から放射される。
【0035】
なお、本実施形態では、アンテナ面が連通管10の内面を向くように送受信アンテナ48が配置されているが、これに限らず、アンテナ面が吐水方向Aを向くように配置してもよい。この場合、送受信アンテナ48からの出力電波を、直接的に吐水方向Aに向けることができるので、吐水方向Aへの指向性がより高められた電波ビームを放射させることができる。
【0036】
また、送受信アンテナ48をパッチアンテナとする代わりに、図4(b)に示すように、内部導体60aを所定長さ露出させ、その先端部位61を所定の長さに折り曲げてポールアンテナを形成してもよい。この場合、電波は、図4(b)に矢印で示すように、折り曲げた先端部位61の延びる方向と直交する向きに放射される。したがって、先端部位61が連通管10の径方向に対して直交するように折り曲げて送受信アンテナ48を形成すれば、電波を電波放射口27へ向けて放射することができると共に、連通管10と水管20の隙間の径方向寸法が小さくても送受信アンテナ48を配置することができる。
【0037】
また、図4(c)に示すように、プリント基板62aに図4(b)と同様な折り曲げ形状のパターン62bを形成して、ポールアンテナを形成してもよい。図4(b)の例では、複数の自動水栓装置1に対して、先端部位61の折り曲げ長さ及び角度を精度良く同一に形成することが難しいのでアンテナ精度のバラつきが大きくなるが、図4(c)の例では同一のポールアンテナ部品を製造して、同軸ケーブル60の内部導体60aを接続すればよいので、アンテナ精度のバラつきを小さくすることができる。
【0038】
なお、同軸ケーブル60から電波を放射するには、特別なアンテナを設けることなく、単に使用電波周波数に適合させた所定長さの内部導体60aのみ、又は誘電体と内部導体60aを露出させた構成であってもよい。しかしながら、電波のロスが少なく、良好な指向性を得るためには、図4(a)−(c)のようなアンテナを設けることが好ましい。
【0039】
電波センサ40は、水栓本体1A内に配置され、かつ、水栓本体1Aの基端部側に設けられている。本実施形態では、電波センサ40は、連通管10の基端部側に固定されている。電波センサ40は、マイクロ波ドップラーセンサである。使用周波数は、例えば約10GHz又は約24GHzである。図5に示すように、電波センサ40は、内部に局部発信器,混合器(検波器)等を有する電子部品であるセンサ本体部41と、送受信アンテナ42とを備えている。また、センサ本体部41には、電波の伝送通路である導波管44が接続され、導波管44には導波管同軸変換コネクタ45を介して同軸ケーブル60が接続されている。なお、導波管同軸変換コネクタ45を用いずに、同軸ケーブル60を導波管44に直接接続してもよい。
【0040】
電波センサ40は、センサ本体部41内の局部発振器で生成したマイクロ波(送信信号)を、送受信アンテナ42から送信波として放射する。この送信信号は、導波管44,コネクタ45,同軸ケーブル60を介して送受信アンテナ48へ伝送される。そして、送信信号は、送受信アンテナ48から電波として放射され、連通管10の吐水口部に設けられた電波放射口27からシンク2へ向けて放射される。
【0041】
また、外部へ放射された電波は、対象物(例えば、人の手)で反射し、反射波(受信信号)が電波放射口27から連通管10内へ入り、送受信アンテナ48で受信される。送受信アンテナ48で受信された受信信号は、同軸ケーブル60,コネクタ45,導波管44を介して電波センサ40へ伝送され、電波センサ40の送受信アンテナ42によって受信される。
【0042】
電波センサ40のセンサ本体部41は、混合器(検波器)が、受信信号と送信信号とを混合し、ドップラー信号を検出する。
対象物が静止している場合は、送信波(送信信号)と反射波(受信信号)の周波数が同一であるので、電波センサ40は対象物の有無を検出しにくい。しかしながら、対象物が動いている場合は、反射波の周波数が変化するため、混合器の出力に差分信号があらわれる。この差分信号により、電波センサ40は、対象物の有無及び移動方向(接近又は離反)を検出し、検出信号(図6参照)を制御部50へ出力する。検出信号は、対象物の移動速度に応じた周波数成分を有する速度信号であり、移動している対象物が存在することをあらわすものである。
【0043】
制御部50は、マイコン等で構成されており、電波センサ40から検出信号をフィルタ回路51を介して受け取る。制御部50は、図6に示すように、基準値(例えば0V)に対して、ある電圧閾値(絶対値)以上の信号値を有する検出信号を受け取ると、吐水弁30を開状態にする駆動信号を出力し、基準値に対して、ある電圧閾値(絶対値)未満の信号値を有する検出信号を受け取ると、吐水弁30を閉状態にする駆動信号を出力するようにプログラムされている。すなわち、制御部50は、電圧閾値に対する検出信号の信号値に基づいて後述する電波センサ40の検知範囲を決定している。これにより、対象物が検出されているときには、吐水弁30が開状態に保持され吐水状態となる。一方、対象物が検出されていないときは、吐水弁30が閉状態に保持され止水状態となる。
【0044】
フィルタ回路51は、所定の周波数範囲の検出信号のみを通過させるバンドパスフィルタを有する。このフィルタ回路51により、人の手の動きに対応する周波数範囲の検出信号のみが制御部50へ送られるので、誤検出を抑制することができる。
【0045】
図7に検出信号の具体例を示す。
図7(A)は吐水口26から洗浄水が吐水されている状態(洗浄水が妨げられずにシンク2の底面に到達している)、図7(B)は樹脂製のコップに水を溜めている状態、図7(C)は洗浄水の水流中で両手を洗っている状態に対応している。図7では、基準値が約2.5Vであり、閾値Tが基準値を中心とした範囲で示されている。
【0046】
制御部50は、止水中において検出信号の振幅が閾値T以上になると吐水を開始する制御を行い、吐水中に検出信号の振幅が閾値T未満になると吐水を停止する制御を行う。なお、本実施形態では、吐水開始のための閾値と吐水停止のための閾値(又は、吐水を継続させるための閾値)が同じ値であるが、吐水停止閾値(又は吐水継続閾値)を吐水開始閾値よりも小さい値に設定してもよい。
【0047】
図7(A)に示すように、洗浄水が妨げられずにシンク2の底面に到達する場合には、小さな振幅を有する検出信号が検知されるが、閾値Tは、この検出信号の振幅よりも大きな値に設定されている。これにより、制御部50は、手洗い終了後には、閾値Tよりも小さな検出信号に基づいて吐水を停止することができる。
また、図7(B),図7(C)に示すように、本実施形態では、コップに水を溜めるときや、洗浄水中で手洗いをしているときには、比較的大きな振幅を有する検出信号が検知されるように電波の指向性が調整されている。そして、閾値Tは、これらの検出信号の振幅よりも小さな値に設定されている。これにより、制御部50は、コップに水を溜めている動作中や、手洗い動作中には、閾値T以上の検出信号に基づいて吐水を継続させることができる。
【0048】
次に、本実施形態の自動水栓装置1の検知範囲の概略について説明する。本実施形態では、電波センサ40の検知範囲は、吐水口26からの洗浄水の吐水の有無のみに応じて変更されるように構成されている。
図1は、止水中の検知範囲a1を示している。検知範囲a1は、吐水口26付近から放射方向B1(吐水方向A)に沿って細長く延びるように形成される。また、コップからシンク2に流された水を検知しないように、検知範囲a1の下端は、シンク2の底面に到達しないように設定されている。
【0049】
一方、図2は、吐水中の検知範囲a2を示している。検知範囲a2は、検知範囲a1よりも全体的に大きさ(体積)が小さくなるが、洗浄水の水流Wの周囲に沿って検知範囲a1よりも下流側に延びている。詳しくは、検知範囲a2は、上流側の部分において、主に水流Wに対して使用者側Cとは反対側(水栓本体1Aの基端部側)の部分が縮小し、放射方向B2に沿って延びている。放射方向B2は、吐水方向Aよりも僅かに使用者側Cに向かっている。
【0050】
一方、検知範囲a2の下流側の部分では、水流Wに対して使用者側Cの部分及び使用者側Cとは反対側の部分が共に縮小するが、電波強度の高い領域が洗浄水の水流Wの周囲に沿って下流側に延びることにより、検知範囲a2の吐水方向Aの長さは検知範囲a1と同じか、より長くなっている(ただし、検知範囲a2は、シンク2の底面までは到達しないように設定されている)。したがって、検知範囲a2の下流側の部分は、水流Wの周囲近傍だけに形成される。
【0051】
このように、吐水中は、検知範囲a2が全体的に縮小されるが、下流側では水流Wの周囲のみに検知範囲a2が形成されるので、手洗い中は確実に吐水が継続され、手洗い終了後は、手から水滴を振り払う水切り動作やシンク2からの水跳ねが検知されず、良好なタイミングで吐水が停止される。
【0052】
次に、本実施形態の自動水栓装置1の連通管10の先端部の構造について説明する。連通管10の先端部の構造は、上記検知範囲を形成するための指向性決定手段を構成する。図8に示すように、連通管10の先端部位には導波管部15が形成されている。導波管部15は、連通管10,水管20(吐水キャップ21),遮蔽部材13によって囲まれた部位であり、吐水方向Aに沿って電波の伝播通路を形成している。
【0053】
遮蔽部材13は、電波を反射する金属材料で形成されており、連通管10の内面と遮蔽部材13との間に隙間がないように、連通管10の内面の形状と略一致するような略円形の外形を有する。遮蔽部材13は、連通管10の先端側を向く面が電波反射面13aとなっており、送受信アンテナ48から出力された電波を吐水方向Aに反射して、電波放射口27から放射される電波の強度を高めている。
【0054】
また、遮蔽部材13は、同軸ケーブル60及び水管20を通す孔が形成されており、それぞれの孔に同軸ケーブル60と水管20(本例では、吐水キャップ21の取付部23)が通され固定されている。同軸ケーブル60は、遮蔽部材13によって固定され、先端から前方に延びた内部導体60aが送受信アンテナ48に接続されている。
【0055】
また、図8に示すように、水管20(吐水キャップ21)は、連通管10よりも突出するように配置されている。すなわち、吐水口26が電波放射口27よりも突出距離Xだけ下流側に位置している。本実施形態では、距離Xは1.5mmに設定されている。本実施形態では、突出距離Xを適切に設定することにより、電波放射口27から放射された電波を、電波反射性の吐水キャップ21の表面に沿って、吐水方向Aに誘導することができる。この効果は、吐水中に特に顕著である。
【0056】
また、電波放射口27の近傍に最も電波強度が高い領域が形成されるが、吐水口26が電波放射口27よりも下流側に位置することにより、最も電波強度が高い領域での洗浄水と電波との干渉が回避され、吐水中における電波の大幅な減衰を抑制することができる。これにより、本実施形態では、適切に減衰量を抑制することによって、吐水中においても、適切な大きさの検知範囲a2を形成することができる。
【0057】
このように、水管20を連通管10よりも下流側に突出させた構造は、電波減衰抑制手段として機能する。空気の泡を含む洗浄水は電波の減衰量が大きいが、空気の泡を含む洗浄水を吐水口26から吐水させる場合であっても、電波減衰抑制手段によって、電波の減衰を抑制して、吐水中に所望の検知範囲(及び内側検知範囲)を形成することができる。
【0058】
また、図9に示すように、導波管部15において、水管20は、連通管10の内側面11に当接するように配置されている。図1から分かるように、連通管10の出口部分は、シンク2の底部に向かって斜め下方へ延びており、連通管10の出口部分が延びる方向に、自動水栓装置1を使用する際に使用者が立つ位置が設定されている。
【0059】
したがって、連通管10の出口部分において、水管20は、連通管10の内側面11の内(もしくは電波放射口27の内面の内)、使用者の存在する方向C(図8、図9参照)とは真逆方向に位置する内側面11の部分に当接されている。
【0060】
本実施形態では、水管20が連通管10の内部に配置された二重管構造により、図9に示すように、水管20と連通管10との間には、電波放射口27の実質的な電波放射部位である細長い電波放射用の窓が形成されており、電波は、この細長い窓から外部へ放射される。この窓の形状は、導波管部15の断面形状と一致する。また、この細長い窓は、水管20の延びる方向と直交している。
【0061】
本実施形態では、導波管部15を伝播する電波の電界成分又は偏波面(図9において矢印で示す)が、水管20の外周面と略直交するように、連通管10に対する水管20のサイズ、又は、電波放射口27に対する吐水口26のサイズが設定されている。すなわち、図9に示すように、細長い窓は、縦方向Lに対して横方向Hの長さが長く、方形導波管の断面形状を湾曲させたものとみなせる。このため、図9の電波モードは、例えば、方形導波管内のTE01モードに類似する。
【0062】
したがって、本実施形態では、吐水口26から吐水された洗浄水の水流Wに対して、電波の電界成分を直交状態で干渉させることができる。これにより、洗浄水の水流Wに電波が干渉すると、電波の減衰及び反射特性が高められ、吐水中の電波の指向性を設定し易くすることができる。特に、電界成分が直交状態で水流Wに干渉することにより、電波が水流Wの表面で反射され易くなる。本実施形態では、吐水口26付近で水流Wが電波強度の高い領域内を通過、又は、水流Wが電波強度の高い領域に隣接するので、水流Wの周囲に存在する電波強度の高い電波が、水流Wの表面で反射することにより、水流Wの表面に沿って下流側に伝播し易くなり、電波強度の高い領域が下流側に延びる。
【0063】
なお、本実施形態では、図9に示すように、細長い窓の横方向Hの中央部において縦方向Lの長さが大きく、両端部に向かうほど縦方向Lの長さが小さくなるように構成されている。これにより、より多くの電波強度の高い電波を、水流Wの側面のうち、使用者側Cの側面に干渉させることができ、電波強度の高い領域を水流Wの使用者側Cの側面に沿って長く延ばすことができる。
【0064】
本実施形態では、このような二重管構造により、電波ビームパターンが調整されている。すなわち、本実施形態では、送受信アンテナ48の採用に加えて、連通管10の先端から電波反射面13aまでの距離、送受信アンテナ48から電波反射面13aまで距離、突出距離X、連通管10に対する水管20のサイズ等を最適に設定することにより、電波放射口27から吐水方向Aに電波の指向性が高められた電波ビームが出力されるように、電波の指向性が設定されている。
【0065】
また、二重管構造により、突出距離Xや、連通管10に対する水管20のサイズを適切に設定することにより、吐水中において、電波放射口27近傍における電波強度の高い領域の大幅な減衰を抑制しつつ、水流Wに対する電波の反射特性を高めることができる。
【0066】
さらに、二重管構造により、吐水口26の周囲に電波放射口27の細長く延びる窓が配置されることにより、吐水中において、外形が略円形の電波放射口27から放射された電波が、吐水口26より下流側で洗浄水の水流Wの周囲に回り込み、水流Wの周囲で電波を水流Wに対して干渉(反射及び減衰)させることができる。さらに、本実施形態では、水流Wが吐水口2からシンク2の底面まで直線状に延びるように吐水されるので、電波を吐水方向Aに沿って水流Wの周囲に、より長く干渉させることができる。
【0067】
特に、本実施形態では、上記二重管構造により、水流Wの使用者側Cの側面と、水流の横方向の両側面で電波が干渉し易くなるので、使用者側C及び横方向に電波が反射され易い。このため、検知範囲a2は、検知範囲a1と比べて、全体的な大きさが小さくされるにもかかわらず、水流Wに対する使用者側C及び横方向の大きさを同程度か、むしろ拡大するように設定することも可能である。
なお、本明細書では、水流又は水栓装置の横方向とは、連通管10に正対した使用者の横方向を意味し、図1及び図2では紙面に垂直な方向であり、図11等では方向Dで示されている。
【0068】
一方、水管20が連通管10の内面のうち、下側(使用者側Cとは反対側)の内面に当接しているので、水流Wの下側の側面に対して干渉する電波は少ない。このため、水流Wの下側に向けて反射される電波は少なく、吐水中の検知範囲a2は下側に広がり難くなる。さらに、吐水中、水流Wは、止水中の検知範囲a1の中心部から使用者側Cと反対側にずれた位置を吐水方向Aに沿って通過するので、水流Wと電波が連続的に干渉し、検知範囲a1のうち、水流Wに対して使用者側Cとは反対側の領域が大きく減衰され易い。このため、本実施形態では、吐水中にシンク2からの水跳ねを誤検知して、吐水が継続されることを防止することができる。
【0069】
さらに、本実施形態では、吐水口26から吐水される、空気の泡を含んだ洗浄水によって、全体的な電波の減衰量を予め設定することができる。すなわち、空気混入量を大きく設定することにより電波の減衰量を大きくし、空気混入量を小さく設定することにより電波の減衰量を小さくすることができる。
【0070】
また、図9の構成に限らず、図10のように、細長い窓の両端部に電波を透過しない材料(例えば金属)で形成された電波制限部材17を配置してもよい。高い電波反射率を有する電波制限部材17の配置により、細長い窓は、方形導波管の断面形状に、より近似し、細長い窓の横方向Hの全体にわたって電界成分を水管20の外周面に対して略直交させることができ、さらに、洗浄水の水流Wに対しても電界成分が直交した状態で電波を干渉させることができる。
【0071】
また、電波制限部材17によって、導波管部15が狭められるので、導波管部15内及び吐水口26付近の電波強度を高めることができる。これにより、より電波強度が高められた電波と洗浄水の水流Wとの干渉により、検知範囲a2のうち、電波強度の高い領域を更に下流まで延ばすことができる。
さらに、電波制限部材17は、吐水方向Aから見て、導波管部15のうち、吐水口26の中心より下側(使用者側Cとは反対側)の部位に配置されており、これにより、電波放射口27の細長い窓は、吐水口26の中心より下側に形成されない。このため、電波放射口27から放射された電波は、洗浄水の水流Wによって、使用者側Cとは反対側に向かうことが抑制されるので、吐水中にシンク2からの水跳ねを検知し難くすることができる。
【0072】
次に、本実施形態の自動水栓装置1の指向性決定手段の作用について説明する。
図11は、止水中に電波放射口27から放射された電波の電波強度分布と、止水中の電波センサ40の検知範囲a1及び内側検知範囲a10を示している。図11(A)は吐水口26付近を側方から見た状態、図11(B)は吐水口26付近を上方から見た状態、図11(C)は吐水口26付近を吐水方向Aから見た状態を示している。以下の図面も同様である。検知範囲a1,a10は、止水中において、連通管10の電波放射口27から放射される電波ビームにより対象物を検知できる範囲を示している。
【0073】
本実施形態では、止水中において、電波放射口27から放射される電波ビームの空間的な放射パターンが、指向性決定手段により、放射方向B1に指向性を有するように設定されている。なお、本実施形態では、放射方向B1は吐水方向Aとほぼ一致している。
【0074】
したがって、止水中における検知範囲a1は、吐水方向Aに沿って延びる楕円球体のような細長い形状となるように設定されている(図11(A),(B)参照)。すなわち、検知範囲a1内において、等電波強度面が吐水方向Aに沿って延びる楕円球体のような細長い形状となる。また、電波ビームは、吐水口26の上方(使用者側C)及び下方(水栓本体1Aの基端部側)にも広がっており、特に上方に向けて広がっている(図11(A),(C)参照)。
【0075】
なお、本明細書では、等電波強度面は、電波ビームの等しい電波強度を有する空間点を繋いで形成される面である。また、本明細書では、細長い形状は、楕円球体のように、ある方向の長さが、この方向と直交する任意の方向の長さよりも長い形状を意味している。
【0076】
検知範囲a1は、このような等電波強度面の内、反射波により電波センサ40が有意に人の手の動きを検知できる最も外側の等電波強度面で画定される空間範囲である。使用者が手洗いのために、この検知範囲a1に手を差し入れると、電波センサ40が手の動きを検知し、検出信号を制御部50へ送信する。制御部50は、検出信号を受け取ると、吐水弁30へ駆動信号を送り、吐水弁30を開状態に切り替える。これにより、手が吐水口26付近に到達するのに合わせて、洗浄水が吐水口26からタイミング良く吐水される。
【0077】
従来、光電センサを用いた自動水栓装置では、検知範囲が狭かったため、使用者の手の接近に合わせてタイミング良く吐水を開始できなかった。しかしながら、本実施形態によれば、吐水方向Aに対して径方向に膨らむように検知範囲a1が設定されているので、如何なる方向から手が差し入れられても、吐水口26から吐水方向Aに延ばした延長線上に存在する洗浄ポイントに手が到達する前に、使用者の手の接近をより早く検知することができ、タイミング良く吐水を開始することが可能となる。
【0078】
また、単に連通管10の出口端部から電波が放射される場合には、電波ビームは球状に広がるので、吐水口26付近における使用者の水切り動作を検知してしまう。しかしながら、本実施形態では、止水中における検知範囲a1が、吐水方向Aに向けて楕円球体のような縦長に設定されているので、吐水口26からの距離が同じでも、洗浄ポイントの電波の放射強度を高くすることができる。よって、水切り動作が検知範囲a1の外側で行われることになるので、水切り動作中に、洗浄水が吐水されることを防止することができる。このように、本実施形態では、吐水させたい位置に存在する使用者の手を検知し易くすることができ、吐水してほしくない位置に存在する手を検知し難くすることができる。
【0079】
また、内側検知範囲a10は、手よりも低い電波反射率の検知物体を有意に検知するための空間範囲である。すなわち、歯ブラシやコップ等の樹脂製品は、電波を透過し易いため電波の反射率が低く、内側検知範囲a10内の高い電波強度の電波でなければ検知することができない。歯ブラシ等の洗浄動作では、吐水口26に近い位置に歯ブラシ等が差し入れられるので、この位置が内側検知範囲a10内であれば吐水を開始させることができる。一方、手洗い動作では、吐水口26から比較的離れた位置に手が差し入れられるので、この位置が検知範囲a1内であれば吐水を開始させることができる。
【0080】
図12は、吐水中の電波強度分布と、吐水中の電波センサ40の検知範囲a2及び内側検知範囲a20を示している。
本実施形態では、吐水中に、洗浄水の水流Wと検知範囲a1の電波とを干渉させて、電波の一部を減衰及び反射させることにより、検知範囲a2を設定している。本実施形態では、洗浄水の吐出の有無のみに応じて、止水中と吐水中の適切な検知範囲が自動的に切り替えられるように構成されている。電波の減衰は電波の放射強度を弱めて放射パターン(検知範囲)を全体的に小さくし、電波の反射は電波の放射パターンの全体的な形状を変化させる。これにより、検知範囲a2は、検知範囲a1と一部領域が重なるが、検知範囲a2の大きさは検知範囲a1よりも小さく、検知範囲a2の形状は検知範囲a1と異なる。
【0081】
より詳しくは、吐水が開始されることにより、検知範囲a2は、検知範囲a1と比べると、上流側の部分が吐水方向Aと直交する方向において縮小すると共に(図12(A),(C)参照)、横方向Dにおいても縮小している(図12(B),(C)参照)。特に、水流Wよりも下側(使用者側Cとは反対側)の領域が、上側(使用者側C)の領域よりも減衰されている。これは、水流Wが、検知範囲a1の中心部から使用者側Cとは反対側にずれた位置を吐水方向Aに沿って通過することにより、検知範囲a1のうち、使用者側Cと反対側の領域が大きく減衰されたことによるものである。
【0082】
また、検知範囲a2は、検知範囲a1と比べて、下流側の部分が吐水方向Aにおいて下流側に延びている(図12(A),(B)参照)。本実施形態では、このように検知範囲a2を全体として水流Wに沿って下流側へ延ばすことができる。したがって、吐水中は、吐水口26から離れた位置で手洗いをしても、吐水を継続させることができる。
【0083】
更に、本実施形態では、歯ブラシ等の低い電波反射率の検知物体を検知可能な内側検知範囲a20を、水流Wの周囲に沿って下流側へ延ばすことができる。すなわち、検知範囲a2は、電波強度が低い領域のみが下流側へ延ばされるのではなく、電波強度の高い領域(内側検知範囲a20)も水流Wの周囲に沿って下流側へ延ばされる。したがって、吐水中は、吐水口26から比較的離れた位置で歯ブラシ等を洗浄しても、吐水を継続させることができる。
【0084】
図13は、止水中の検出信号の具体例を示している。
図13(A)は、吐水口26から吐水方向Aに20mm離れた位置P0(図11参照)で歯ブラシを左右に動かした状態の検出信号である(吐水は強制的に停止させている)。なお、図13及び図14では、基準値が0Vに設定されている。
位置P0は、内側検知範囲a10内に位置する。このため、位置P0で歯ブラシを動かすと、内側検知範囲a10内の高い電波強度の電波が歯ブラシで反射されるため、閾値T以上の振幅の検出信号が検出され、制御部50は吐水を開始及び継続する制御を行うことができる。
【0085】
一方、図13(B)は、吐水口26から吐水方向Aに50mm離れた位置P1(図11参照)で歯ブラシを左右に動かした状態の検出信号である。位置P1は、内側検知範囲a10の外側に位置する。このため、位置P1で歯ブラシを動かしても、比較的低い電波強度の電波しか歯ブラシで反射されないため、閾値Tより小さい振幅の検出信号が検出される。したがって、制御部50は吐水を停止した状態を保持する。
【0086】
また、図14は、吐水中の検出信号の具体例を示している。
図14(A)は、水流Wが妨げられることなくシンク2の底面に到達している状態の検出信号を示している(吐水は強制的に継続させている)。図14(A)に示すように、単に吐水している状態では、検出信号の振幅が閾値Tより小さくなるので、制御部50は吐水状態から止水状態に切り替える制御を行うことができる。
【0087】
一方、図14(B)は、図13と同様に、位置P1(図12参照)で水流W中において歯ブラシを左右に動かした状態の検出信号である。位置P1は、止水中には内側検知範囲a10の外側に位置するが、吐水中には内側検知範囲a20内に位置する。このため、位置P1で歯ブラシを動かすと、高い電波強度の電波が歯ブラシで反射されるため、閾値T以上の振幅の検出信号が検出され、制御部50は吐水を継続する制御を行うことができる。
【0088】
このように、本実施形態では、吐水中には、止水中よりも低電波反射率の検知物体(歯ブラシ等)を検知可能な検知範囲a20が水流Wの周囲に沿って下流側に延びる。このため、低電波反射率の検知物体を止水中の内側検知範囲a10に差し入れて吐水を開始させた後は、吐水口26から離れた位置P1まで、低電波反射率の検知物体を移動させて洗浄動作を行っても、吐水を継続させることができる。これにより、低電波反射率の検知物体の洗浄動作中に吐水が途切れることがなく、水栓装置の使い勝手を向上させることができる。
【0089】
次に、洗浄水中の空気混入量による検知範囲の調整について説明する。図12は、洗浄水中の空気混入量が0%に設定された例を示したが、図15は空気混入量が50%の例を示し、図16は空気混入量が100%の例を示している。なお、図15及び図16では、図12と同様に、突出距離Xは1.5mmに設定されている。
図15では、空気混入量50%の吐水中の検知範囲,内側検知範囲を、それぞれ検知範囲a250,検知範囲a2050で示し、図16では、空気混入量100%の吐水中の検知範囲,内側検知範囲を、それぞれ検知範囲a2100,検知範囲a20100で示している。
【0090】
図12、図15及び図16から分かるように、空気混入量の変化に伴って、水流Wによる電波の減衰量や電波の反射の程度が変化する。空気混入量が大きくなるにつれて、検知範囲は、全体的な大きさ(体積)が小さくなっており、特に、下流側の部分が吐水方向Aと直交する方向において小さくなっている。そして、空気混入量が多くなるにつれて、内側検知範囲が短くなっている。これは、空気の泡を含む洗浄水の水流の方が、電波を減衰し易いことを示している。
このように、本発明では、シンク2等の形状に合わせて、吐水キャップ21によって空気混入量を調整することにより、適切な大きさ及び吐水方向Aの長さを有する検知範囲、及び、内側検知範囲を予め設定することができる。
【0091】
次に、吐水キャップ21の突出距離Xによる検知範囲の調整について説明する。ここでは、空気混入量が50%の場合において、突出距離Xを変更させた例について説明する。図8は突出距離Xが1.5mm、図17(A)は突出距離Xが0mm、図17(B)は突出距離Xが4mmの例である。
図17(A)では、本体部の長さが短いタイプの吐水キャップ21を用いており、図17(B)では、水管20に対する吐水キャップ21の挿入距離を変更している。なお、図17(B)において、挿入距離の調整ではなく、本体部の長さが長いタイプの吐水キャップ21を用いて、突出距離を変更してもよい。
【0092】
図18(A)は図17(A)の場合の電波強度分布を示しており、図18(B)は図17(B)の場合の電波強度分布を示している。図18(A)では、突出距離Xが0mmの場合の検知範囲,内側検知範囲を、それぞれ検知範囲a20,検知範囲a200で示し、図18(B)では、突出距離Xが4mmの場合の検知範囲,内側検知範囲を、検知範囲a24,検知範囲a204で示している。
【0093】
図15(A),図18(A),図18(B)を見ると分かるように、突出距離Xが0mmの場合(図18(A))よりも、突出距離Xが1.5mm(図15(A))及び4mm(図18(B))の方が、検知範囲及び内側検知範囲が下流側に長く延びていることが分かる。更に、突出距離Xが1.5mmの場合が、最も検知範囲及び内側検知範囲が下流側に延びている。また、突出距離Xに応じて、吐水方向Aに対して直交する方向の検知範囲の広がりが変化する。
このように、本実施形態では、シンク2等の形状に合わせて、突出距離Xを最適な長さに調整することにより、最適な大きさ及び吐水方向Aの長さを有する検知範囲、及び、内側検知範囲を予め設定することができる。
【0094】
なお、本実施形態では、吐水キャップ21が電波反射率の高い金属の外表面を有しているため、電波を吐水キャップ21で効率的に反射させることができる。したがって、本実施形態では、電波反射率の低い材料で吐水キャップ21を形成した場合と比べて、同様の反射効果を得ることができる突出距離Xを短く設定することができる。
【0095】
しかしながら、自動水栓装置1では、デザイン性が最も重要な要素のうちの1つであり、水管20が連通管10よりも突出していることは、デザイン上好ましくない。このため、図19に示すように、連通管10の先端部に、電波透過性の材料(例えば、樹脂)で形成された閉塞部材29を配置することが望ましい。
【0096】
閉塞部材29は、水管20が連通管10から突出した状態が外部から見えないように、且つ、吐水口26を塞ぐことなく、連通管10と吐水キャップ21との間の隙間を埋めるように形成された円形の部材である。また、閉塞部材29は、吐水口26からの吐水を通過させるための孔29aを有している。孔29aは、吐水キャップ21の先端部を支持するように構成されており、吐水キャップ21の先端部は孔29aに嵌め込まれている。このような閉塞部材29により、連通管10よりも水管20が突出している状態が使用者の目に触れることを防止して、デザイン性を良好にすることができる。
【0097】
電波放射口27の細長い窓は閉塞部材29によって塞がれているが、閉塞部材29が電波透過性の材料で形成されているため、電波放射口27から放射される電波は、閉塞部材29を通過することができる。また、吐水口26から吐水される洗浄水は、閉塞部材29の孔29aを通過することができる。
【0098】
次に、本実施形態の自動水栓装置1の取付方法について説明する。
自動水栓装置1を洗面台に取り付けるため、先ず、自動水栓装置1から吐水される洗浄水がシンク2の底面の所定箇所に着水するように、自動水栓装置1を基台2に固定し、その後、自動水栓装置1の電波センサ40の検知範囲a1,a2及び内側検知範囲a10,a20を調整する。
【0099】
この調整工程では、吐水口26からシンク2の底面までの距離等を考慮して、適切な検知範囲及び内側検知範囲が形成されるように、空気混入量および/または突出距離Xを設定する。空気混入量の設定は、所定の吐水圧力において空気混入量が固定された吐水キャップを使用する場合は、異なる空気混入量設定値の複数の吐水キャップから、所望の設定値の空気混入量の吐水キャップ21を選択することによって行う。このように、吐水キャップ21を取り替えることにより、空気混入量を変更することができる。また、空気混入量の設定は、空気混入量を変更可能な吐水キャップを使用する場合は、その吐水キャップの空気混入量を変更することにより行う。
また、突出距離Xの設定は、吐水キャップ21の水管20に対する挿入距離の変更、又は、本体部の長さが異なる吐水キャップ21への変更により行うことができる。
なお、本実施形態では、電波センサ40の送信電波の出力強度は、固定されており、止水中と吐水中においても同一である。
【0100】
より具体的には、主に吐水中の検知範囲a2及び内側検知範囲a20を調整するため、複数の吐水キャップ21を順次に取り替えて、および/または、吐水キャップ21の突出距離Xを段階的に切り替える。これにより、形成される検知範囲a2及び内側検知範囲a20の吐水方向A及びこれと直交する方向の大きさを変更し、最適な空気混入量の吐水キャップ21及び突出距離Xを選択する。これにより、取り付けられる洗面台に最適な検知範囲及び内側検知範囲を設定することができる。
【0101】
なお、調整工程において、検知範囲及び内側検知範囲を狭くするには、空気混入量が大きい吐水キャップ21を選択し、検知範囲及び内側検知範囲を広くするには、空気混入量が小さい吐水キャップ21を選択する。また、調整工程において、検知範囲及び内側検知範囲を広くするには、これらの範囲が広くなる所定範囲内の値に突出距離Xを設定し、検知範囲及び内側検知範囲を狭くするには、所定範囲から離れた値に突出距離Xを設定する。
このように、本実施形態の自動水栓装置1では、種々の洗面台に応じて、取付時に、最適な検知範囲及び内側検知範囲を予め設定することができる。
【0102】
なお、上記実施形態では、吐水口部において、水管20が連通管10の内周面の最下部分(すなわち、使用者側Cと反対側の内周面)に当接しているが、これに限らず、水管20が内周面の最上部分(すなわち、使用者側Cの内周面)や他の部分に当接又は隣接した構成であってもよい。
【符号の説明】
【0103】
1 自動水栓装置
2 シンク
10 連通管
20 水管
26 吐水口
27 電波放射口
40 電波センサ
50 制御部
A 吐水方向
B1,B2 放射方向
a1,a2 検知範囲
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体に基端部が固定され使用者側に向けて延在する連通管と吐水弁を備えた水栓本体と、前記連通管内に配置され、前記水栓本体の端部である吐水口部に形成された吐水口に洗浄水を供給する水管と、使用者の動作状態を検知するための電波センサと、前記電波センサの検出信号に基づいて前記吐水弁の開閉を切り替えて、前記吐水口からの洗浄水の吐水と止水を行う制御手段と、を備えた自動水栓装置において、
前記連通管内面と前記水管との間に設けられた電波を通過させるための電波通過用経路と、
前記水栓本体の前記基端部側に設けられ、前記電波通過用経路に電波を伝達するように配置された前記電波センサと、
前記電波通過用経路に連通し、前記連通管内を通過してきた電波を外部に放出するために前記吐水口部に形成された電波放射口と、
前記電波放射口から放射される電波の指向性を決定するための指向性決定手段と、を備え、
前記指向性決定手段は、止水中においては、前記電波放射口から放射される電波を前記吐水口から吐水される洗浄水の吐水方向に沿うように指向させ、かつ、吐水中においては、前記電波放射口から放射された電波を前記吐水口から吐水された洗浄水の水流に対して連続的に干渉させ、これにより電波を減衰及び反射させるように構成されており、
前記指向性決定手段は、止水中よりも吐水中の方が、前記電波センサの検知範囲が前記水流の周囲に沿って下流側に延びるように、電波と前記水流とを干渉させるように構成されており、
前記水管は、前記吐水口から空気の泡を含む洗浄水を吐水するように構成されており、
前記電波放射口から放射された電波が、空気の泡を含む洗浄水の水流によって減衰されることを抑制するための減衰抑制手段を更に備えたことを特徴とする自動水栓装置。
【請求項2】
前記減衰抑制手段は、前記電波放射口よりも前記吐水口の方が洗浄水の吐水方向の下流側に配置された構成であることを特徴とする請求項1に記載の自動水栓装置。
【請求項3】
シンクに向けて吐水可能なように請求項1に記載の自動水栓装置を基台に固定する工程と、
前記電波センサの検知範囲を調整する工程と、を備え、
前記調整工程は、洗浄水に含まれる空気の混入量を変更する工程、及び/又は、前記電波放射口に対して前記吐水口が下流側に突出する長さを変更する工程を含むことを特徴とする自動水栓装置の取付方法。
【請求項4】
前記空気混入量変更工程において、前記電波センサの検知範囲を狭くする場合には、洗浄水に含まれる空気の混入量を増やすことを特徴とする請求項3に記載の自動水栓装置の取付方法。
【請求項1】
支持体に基端部が固定され使用者側に向けて延在する連通管と吐水弁を備えた水栓本体と、前記連通管内に配置され、前記水栓本体の端部である吐水口部に形成された吐水口に洗浄水を供給する水管と、使用者の動作状態を検知するための電波センサと、前記電波センサの検出信号に基づいて前記吐水弁の開閉を切り替えて、前記吐水口からの洗浄水の吐水と止水を行う制御手段と、を備えた自動水栓装置において、
前記連通管内面と前記水管との間に設けられた電波を通過させるための電波通過用経路と、
前記水栓本体の前記基端部側に設けられ、前記電波通過用経路に電波を伝達するように配置された前記電波センサと、
前記電波通過用経路に連通し、前記連通管内を通過してきた電波を外部に放出するために前記吐水口部に形成された電波放射口と、
前記電波放射口から放射される電波の指向性を決定するための指向性決定手段と、を備え、
前記指向性決定手段は、止水中においては、前記電波放射口から放射される電波を前記吐水口から吐水される洗浄水の吐水方向に沿うように指向させ、かつ、吐水中においては、前記電波放射口から放射された電波を前記吐水口から吐水された洗浄水の水流に対して連続的に干渉させ、これにより電波を減衰及び反射させるように構成されており、
前記指向性決定手段は、止水中よりも吐水中の方が、前記電波センサの検知範囲が前記水流の周囲に沿って下流側に延びるように、電波と前記水流とを干渉させるように構成されており、
前記水管は、前記吐水口から空気の泡を含む洗浄水を吐水するように構成されており、
前記電波放射口から放射された電波が、空気の泡を含む洗浄水の水流によって減衰されることを抑制するための減衰抑制手段を更に備えたことを特徴とする自動水栓装置。
【請求項2】
前記減衰抑制手段は、前記電波放射口よりも前記吐水口の方が洗浄水の吐水方向の下流側に配置された構成であることを特徴とする請求項1に記載の自動水栓装置。
【請求項3】
シンクに向けて吐水可能なように請求項1に記載の自動水栓装置を基台に固定する工程と、
前記電波センサの検知範囲を調整する工程と、を備え、
前記調整工程は、洗浄水に含まれる空気の混入量を変更する工程、及び/又は、前記電波放射口に対して前記吐水口が下流側に突出する長さを変更する工程を含むことを特徴とする自動水栓装置の取付方法。
【請求項4】
前記空気混入量変更工程において、前記電波センサの検知範囲を狭くする場合には、洗浄水に含まれる空気の混入量を増やすことを特徴とする請求項3に記載の自動水栓装置の取付方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
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【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
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【図10】
【図11】
【図12】
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【図14】
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【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2013−57201(P2013−57201A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−196156(P2011−196156)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】
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